説明

ステアリング装置用シール装置

【課題】ギヤボックスおよび車室の内部に泥水などが浸入するのを確実に防ぐステアリング装置用シール装置を提供する。
【解決手段】ギヤボックス1にピニオンシャフト4とダッシュパネル5の開口6とを覆ってシール装置3が設けられる。このシール装置3はギヤボックス1から開口域のダッシュパネル5外面にわたるように設けられる筒状本体7、ギヤボックス1の外周域に水密に設けられる第1パッキン8および本体7の上端とダッシュパネル5外面との間に水密に設けられる第2パッキン9を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は路面から跳ねた泥水などがステアリング装置のギャボックスおよび車室内に浸入するのを防ぐためのステアリング装置用シール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ステアリング装置はステアリングホイールからの操舵トルクと回転変位とをステアリングギヤで適切に変換し、リンク機構を介して車輪に力と変位とを伝達する重要な役割を担う。ステアリングギヤはリンク機構と共に車室外に配置されるので、車輌走行中、悪条件のもとにある路面の影響を直接受け易く、たとえば、雨天走行時には路面からの泥水がギヤボックス周囲に跳ね上がる。また、未舗装道路などにおいては路面からの土ほこりがギヤボックスの周りを覆う。この泥水などはステアリングシャフトまたは中間シャフトが車体を貫く箇所、たとえば、ダッシュパネルの開口のシール部が不十分であると、隙間を通って車室内に浸入する。
【0003】
このような浸水を防ぐために一端をギヤボックスに取付け、他端を開口を通して車室内に引き込み、ダッシュパネル内面に固定する筒状カバーまたはシール手段を採用したものが知れている(たとえば、特許文献1参照)。これは、図5に示すように、筒状カバー51がダッシュパネル52の開口53を包囲するように取付けられる。カバー51はダッシュパネル52の外側に位置する中間シャフト54およびジョイント55a、55bを覆っている。カバー51の下端フランジ56はギヤボックス57に取付けられ、上端フランジ58は開口53を通してダッシュパネル52の内部に臨ませて内面に取付けられる。なお、図中、符号59はステアリングシャフト60の下端を覆う円筒カバーを示している。
【特許文献1】実公昭62−173335号公報 (第2頁−第3頁、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した筒状カバー51は、組み立て時、フランジ58を開口53を通してダッシュパネル52の内側に臨ませ、フランジ58を円筒カバー59と共に複数本の締結部材を用いてダッシュパネル52内面に取付けられるが、経年的に起こる材料の劣化によりシール部に隙間が生じ、この隙間を通り抜けた泥水がカバー51および車室内に浸入することがある。このカバー51の内部に流入した泥水は、最悪の場合、ギヤボックス57内に到達し、ギヤ伝達機構を構成する部品に腐食を生じさせる。
【0005】
また、このカバー51によれば、組み立て時、一方のフランジ58をダッシュパネル52の内側に通した後、複数本の締結部材を用いてダッシュパネル内面に取付けねばならず、手間の掛かる作業を強いられる。
【0006】
本発明の目的はギヤボックスおよび車室の内部に泥水などが浸入するのを確実に防ぐようにしたステアリング装置用シール装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はギヤボックスから延びるピニオンシャフトとピニオンシャフトを車室内に通す、ダッシュパネルに形成された開口とを覆って設けられるステアリング装置用シール装置であって、ギヤボックスから開口周りのダッシュパネル外面にわたるように設けられた筒状本体と、本体内にあってギヤボックス外周域に水密に設けられた第1シール要素と、本体の上端とダッシュパネル外面との間に水密に設けられた第2シール要素とを備えるものである。
【0008】
本発明においてはシール装置がギヤボックス外周に水密に設けられる第1シール要素および筒状本体とダッシュパネル外面との間に水密に設けられる第2シール要素を備える。車輌走行中、路面からギヤボックスの周囲に跳ねた泥水がギヤボックスの内部に浸入しようとするが、ギヤボックス外周に装着した第1シール要素がこの浸水の流動を抑える。また、ダッシュパネル外面に跳ねた泥水が開口から車室の内部に浸入しようとするが、開口周囲に装着した第2シール要素がこの浸水の流れを抑える。これにより、ギヤボックスおよび車室内への泥水の浸入をくい止めることができる。
【0009】
本発明の望ましい態様によれば、筒状本体はダッシュパネルの開口内を貫通、突出するボスを備える。このようなボスを備えることで、経年的に材料の劣化が進み、第2シール要素に生じた隙間から浸水が車室内に流入するような場合においても、浸水はボスを乗り越えられず、ギヤボックス内部への浸入をくい止めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明によるシール装置の一実施の形態について図面を参照して説明する。図1において、ラックピニオン式ギヤ伝達機構を有するギヤボックス1がサブフレーム2の上面に載置されている。このギヤボックス1に後記の筒状本体、第1および第2シール要素で構成されるシール装置3が設けられる。このシール装置3は、車輌走行中、路面から跳ね上がる泥水などがギヤボックス1および車室内に浸入するのを防ぐようにギヤ伝達機構のピニオンシャフト4およびこのピニオンシャフト4を車室内に通すためのダッシュパネル5に形成した開口6を覆っている。
【0011】
本実施の形態のシール装置3はギヤボックス1から開口6周りのダッシュパネル外面にわたるように設けられた筒状本体7、ギヤボックス外周域に水密に設けられた環状の第1パッキン8および本体7の上端とダッシュパネル5外面との間に水密に設けられた環状の第2パッキン9で構成される。
【0012】
本体7は吸水率の低い、たとえば、ポリカーボネートなどの硬質樹脂を用いて作られる。この本体7はダッシュパネル5内面から一定の高さを保って突出するボス10を備える。第1パッキン8は高弾性を有する、合成ゴムからなる。第2パッキン9は同様に弾性体の合成ゴムからなる。
【0013】
車室内に延びるピニオンシャフト4は図示しないステアリングシャフトと結ぶジョイント11と連結されている。
【0014】
図2(a)(b)に示すように、筒状本体7は下端に開口した唇状部12を備え、これは円筒状のギヤボックス1外径よりも僅かに小さい口径を有する。この唇状部12に隣接して第1パッキン8を装着するための環状溝13が設けられる。この唇状部12は、組み立て時、ギヤボックス1の外周部に当接される。一方、環状溝13がギヤボックス1の上面と対峙する位置に置かれる(図1参照)。
【0015】
さらに、本体7の上端には開口6内を貫通、突出する円形のボス10が設けられる。また、本体7にはボス10を取り囲み平面部14が形成される。このボス10は、組み立てではダッシュパネル5内面を超えて所定の位置に延在する。一方、平面部14はダッシュパネル5の外面と対峙する位置に置かれる(図1参照)。この本体7の中心にはピニオンシャフト4を通す中心孔15が形成される。
【0016】
本実施の形態は上記構成からなり、車輌走行中、降雨などで水が溜まった路面から泥水がギヤボックス1の周囲に、また、路面に近いダッシュパネル5の外面に跳ね上がる。このとき、ギヤボックス1の周囲に跳ねた泥水の一部がギヤボックス1の内部に浸入しようとする。しかし、ギヤボックス1外周域に水密に取付けた第1パッキン8によって泥水はそれよりも先へは流れることができず、ギヤボックス1内への泥水の浸入をくい止めることができる。また、跳ねた泥水が開口6を通って車室内に浸入しようとする。しかし、本体7とダッシュパネル5外面との間に水密に取付けた第2パッキン9によって泥水は開口6へは到達できず、車室内への泥水の浸入をくい止めることができる。
【0017】
さらに、シール装置3の供用中、たとえば、水密に取付けた第2パッキン9の材料の劣化が進み、一部に微量の隙間が生じることがある。走行中、路面に近いダッシュパネル5外面に泥水が跳ねると、泥水の一部がこの隙間を通り、開口6を通ってダッシュパネル5の内側に浸入し、そこから本体7の中心孔15内に流れようとする。しかし、ダッシュパネル5の開口6内を貫通、突出するボス10を乗り越えられず、泥水は中心孔15へは到達できない。これにより、ギヤボックス1内への泥水の浸入をくい止めることできる。
【0018】
一方、このようなシール装置3によれば、車体の外側でダッシュパネル5の外面に押し付ける方法でシール装置3を簡単に取付けることができる。したがって、ステアリング装置用カバーないしシール手段を組み付けるのに要する時間を短縮することが可能で、大幅な省力を達成することができる。
【0019】
なお、本実施の形態ではダッシュパネル5の外面に直接パッキンを配置するものを説明したが、ダッシュパネル5と第2パッキン9との間にシート材を挟むようにしてもよい。
【0020】
このように本実施の形態のシール装置3によれば、路面から跳ねた泥水などがギヤボックス1および車室の内部に浸入するのを防ぐことができる。また、万一、第2パッキン9の劣化などによって泥水が車室内に浸入しても、ギヤボックス1内部への泥水の浸入をくい止めることができる。
【0021】
本発明の異なる実施の形態について図3を参照して説明する。本実施の形態のシール装置3は筒状本体16を有する。この筒状本体16以外の構成は上記実施の形態のものと同一である。図4(a)(b)に示すように、本体16の上端には開口6内を貫通、突出する円形のボス17が設けられる。このボス17には外周面に突出した鍔部18が設けられる。この鍔部18は浸水の流れを止める障害物として全周に渡って形成される。組み立て時、ボス17はダッシュパネル5内面を超えて所定に位置に延在するように組み付ける(図3参照)。
【0022】
本実施の形態においては路面から跳ねた泥水が開口6を通り抜け、ダッシュパネル5の内側に流入して中心孔15に流れようとする。しかし、この浸水はボス17の外周面に突出した鍔部18に阻まれてそこから先へは流れず、中心孔15内に流入することができない。これにより、ギヤボックス1内への泥水の浸入をくい止めることができる。
【0023】
このように本実施の形態のシール装置3によれば、路面から跳ねた泥水などがギヤボックス1の内部に浸入するのをより確実に防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のシール装置は車輌操舵に用いられるステアリング装置に装着し、泥水などがギヤボックスおよび車室内に浸入するのを防ぐのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明によるステアリング装置用シール装置の一実施の形態を示す構成図である。
【図2】図1に示される筒状本体を示すもので、(a)は本体の平面図、(b)は(a)のX−X線に沿う断面図である。
【図3】本発明のシール装置の他の実施の形態を示す構成図である。
【図4】図3に示される筒状本体を示すもので、(a)は本体の平面図、(b)は(a)のY−Y線に沿う断面図である。
【図5】従来のステアリング装置用カバーの一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0026】
1… ギヤボックス
3… シール装置
4… ピニオンシャフト
5… ダッシュパネル
7、16… 筒状本体
8… 第1パッキン
9… 第2パッキン
10、17… ボス
18… 鍔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤボックスから延びるピニオンシャフトと前記ピニオンシャフトを車室内に通す、ダッシュパネルに形成された開口とを覆って設けられるステアリング装置用シール装置であって、前記ギヤボックスから前記開口周りのダッシュパネル外面にわたるように設けられた筒状本体と、前記本体内にあって前記ギヤボックス外周域に水密に設けられた第1シール要素と、前記本体の上端と前記ダッシュパネル外面との間に水密に設けられた第2シール要素とを備えるステアリング装置用シール装置。
【請求項2】
前記本体に前記ダッシュパネル開口内を貫通、突出するボスを備えたことを特徴とする請求項1記載のステアリング装置用シール装置。
【請求項3】
前記ボスの外周面に突出した鍔部を設けたことを特徴とする請求項2記載のステアリング装置用シール装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−1504(P2006−1504A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182549(P2004−182549)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】