説明

ステントデリバリーシステム

【課題】バルーンカテーテルの性能に影響を与えず、簡便に加工可能で、且つステントへの悪影響を与えることが無くバルーンに装着可能で、狭窄部まで挿入する際にステントの脱落や移動を防止可能なステントデリバリーシステムを提供する。
【解決手段】バルーン拡張型ステント10と、これを治療部位にデリバリーするためのステントデリバリーカテーテルからなるステントデリバリーシステムであって、インナーチューブ3の外側であってバルーン1の内部に配置され、その近位端がバルーン内部に位置する保持チューブ7を有し、該保持チューブは、バルーン上にステントを収縮してクリンピングする際にステントが有するストラットの形状に合わせて塑性変形可能に径方向に対して柔軟であって、ステントの遠位端より遠位側でインナーチューブに対して固定されているステントデリバリーシステムを提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概括的に、医療用、例えば血管、食道、気管、尿道、胆管等に形成された狭窄部の拡張治療に使用されるステントの導入及び配置用のステントデリバリーシステムに関するものであり、特に、心臓冠動脈の狭窄部におけるステントの導入及び配置用のステントデリバリーシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステントは予め決定された寸法へ拡張されるときの機構により以下の2種類に大別される。1つは形状記憶合金等から構成されたステントであり、別途外力により拡張操作を行う必要のない自己拡張型ステント(self−expandable stent)である。もう1つは外力により拡張操作を行う必要のあるステントであり、一般的には、脈管、特に動脈及び静脈等を拡張するために使用される様なバルーンカテーテルにより拡張されるバルーン拡張型ステント(balloon−expandable stent)である。
【0003】
バルーン拡張型ステントは、ステントそのものに拡張機能はなく、ステントを所望の狭窄部へ留置するためには、バルーンカテーテルのバルーン部に装着されたステントを所望の狭窄部まで配置した後、バルーンを拡張し、バルーンの拡張力によりステントを塑性変形させることで狭窄部の内面に密着させる方法が一般的に実施されている。
【0004】
バルーン拡張型ステントを上記の方法で留置する場合、ステントがバルーン部に装着されたバルーンカテーテルを狭窄部まで挿入する必要があり、挿入時にステントがバルーン上で移動しバルーンカテーテルから脱落する危険性がある。また、バルーンカテーテルに一般的に使用されているバルーンは円筒形状に拡張する直管部の前後に円錐台状のテーパー部が形成された形状であり、前記直管部の外面にバルーン拡張型ステントが装着される。しかし、挿入時にステントがバルーン上で移動しバルーンカテーテルから脱落しないまでも、直管部の前後にステントが移動するような場合、ステントの一方の端部がバルーンのテーパー部の外面に位置することとなる。この部分のバルーンはテーパー形状にしか拡張しないためステントの拡張不足を生じ、狭窄部の再狭窄(Restenosis)を生じる可能性が極めて高くなる。
【0005】
非特許文献1および非特許文献2の臨床成績より、ステントのデザインとしては、厚みは薄い方が、より良い臨床成績を示すことが分かってきた。また、血管に接触する表面積は広いものが、より血栓等の剥離を抑えられると考えられている。このことから、より薄いステントを設計出来るようにするため、ステントの材質は、今までの主流であったステンレスから、より強度の強いコバルトクロム合金などの新規合金材料や複合材料が用いるようになってきている。また、ステントの表面積を稼ぐため、ステントを複雑に蛇行したデザインに設計するようになってきている。しかし、これらの設計変更により、ステント自身の弾性変形は以前より大きくなる傾向があり、ステントを安定的に収縮させることが難しくなってきている。また、一般的にステントの表面積を稼ごうとすると、ステントの収縮が困難となり、バルーンに対してクリンピングする際に収縮可能な径も大きくなってしまう。このため、ステントをバルーン上に装着させる際の難易度はさらに高いものとなってきている。
【0006】
以上の観点から、バルーン拡張型ステントの留置用に用いられるバルーンカテーテルに該ステントの脱落或いは移動を防止する先行技術が開示されている。
【0007】
特許文献1では、ステントをカプセル化する手段を有する血管内支持装置が開示されている。本先行技術ではバルーンが折畳まれた状態のステントの周りで広がるようにバルーンの加熱と加圧、及び冷却によりカプセル化が実現される。
【0008】
しかし、こうしたバルーンの加熱と加圧、及び冷却のプロセスによりバルーンに熱的および物理的なダメージが発生し、耐圧強度の低下の発生が懸念されるばかりか、工程の煩雑化が懸念される。また、近年では薬剤をコーティングしたステント(DES)が用いられることが増えており、加熱と加圧、および冷却による薬剤へのダメージが発生し、効用の低下の発生が懸念される。
【0009】
特許文献2では、ステントよりも短く、かつ膨張手段及びステントの内部で、内シャフトに対して同軸に装着される少なくとも2つの装着支持体を備え、装着支持体が膨張手段及びステントを内側から支持し、拡張部位まで搬送される間ステントをカテーテル上の適位に維持するために搬送径にあるステント内側に固定用圧力を与える、脈管内で拡張可能なステントを搬送及び拡張する機構又は装着を開示している。
【0010】
このようにステント内側に支持体を装着することはステントの固定に有利である。しかし、支持体を装着した内シャフト部分は太くなった分だけ硬くなり、ステントのデリバリー性能に悪影響を与えることが懸念される。
【0011】
特許文献3では、ステント搬送システムの内部で使用する内側部材であって、内側部材は、近位部、遠位部および中間部を有しており、前記近位部および遠位部は、各々が第1の外径を有しており、前記中間部は、ステントに保持力を及ぼすために、第1の外径よりも大きい第2の外径を有している、ことを特徴とする内側部材を開示している。
【0012】
このように内側部材の中間部の外径を大きくすることはステントの固定に有利である。しかし、このような内側部材の一部の外径を大きくする加工は煩雑であり、また、外径を維持するために内側部材が硬くなり、ステントのデリバリー性能に悪影響を与えることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3408663号公報
【特許文献2】特許第3968444号公報
【特許文献3】特表2008−539957号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Criculation2001;103;2816−21
【非特許文献2】JACC2003;41;8;1283−8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、以上の問題に鑑み本発明が解決しようとする課題は、バルーンカテーテルの性能に大きな影響を与えず、簡便に加工可能で、且つステントへの悪影響を与えることが無くバルーンに装着可能で、ステントが装着されたバルーンカテーテルを狭窄部まで挿入する際にステントの脱落や移動を防止可能なステントデリバリーシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
かかる状況に鑑み本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、以下の構成とすることにより前記課題が解決されることを見出した。
【0017】
すなわち、バルーン拡張型ステントと、これを治療部位にデリバリーするためのステントデリバリーカテーテルからなるステントデリバリーシステムであって、該ステントデリバリーカテーテルは、アウターチューブと、アウターチューブの遠位側に接続されたバルーンと、バルーンの中を通るインナーチューブと、インナーチューブの外側であってバルーンの内部に配置され、その近位端がバルーン内部に位置する保持チューブを有し、該保持チューブは、バルーン上にステントを収縮してクリンピングする際にステントが有するストラットの形状に合わせて塑性変形可能に径方向に対して柔軟であって、ステントの遠位端より遠位側で、或いはステントの遠位端より遠位側のみで、インナーチューブに対して固定されていることを特徴とするステントデリバリーシステムを提供した。
【0018】
また、保持チューブがステントの遠位端から近位端にわたる全域の内側に配置されていることを特徴とする前記ステントデリバリーシステムを提供した。
【0019】
また、保持チューブがバルーンの遠位側、或いは遠位側のみでインナーチューブと固定されている、前記ステントデリバリーシステムを提供した。
【0020】
また、保持チューブがバルーンの遠位端部、或いは遠位端部のみでインナーチューブに固定されている、前記ステントデリバリーシステムを提供した。
【0021】
また、保持チューブがバルーンの遠位端部より近位側でインナーチューブと固定されている、前記ステントデリバリーシステムを提供した。
【0022】
また、保持チューブの材質の硬度がバルーンの材質の硬度以下、或いはインナーチューブの材質の硬度以下である、前記ステントデリバリーシステムを提供した。
【0023】
また、保持チューブの3点曲げ荷重がインナーチューブの3点曲げ荷重以下である、前記ステントデリバリーシステムを提供した。
【0024】
また、保持チューブに切れ目が入っている、前記ステントデリバリーシステムを提供した。
【0025】
また、その切れ目が、軸方向に対して垂直に入っている、軸方向に対して平行に入っている、軸方向に対して斜めに入っている、或いは軸方向に対して螺旋状に入っている、前記ステントデリバリーシステムを提供した。
【0026】
また、切れ目の最大幅が0.05mm以上である、前記ステントデリバリーシステムを提供した。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、屈曲した体管であってもステントの脱落や移動を防止して患部(例えば狭窄部)までステントをデリバリーすることが可能であって、一方でバルーンカテーテルの性能に大きな影響を与えず、また簡便に加工可能で、更にステントへの悪影響が少ないステントデリバリーシステムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例におけるバルーンとその近位側部分の側面図である。
【図2】図1の一実施例において線8−8における断面概略図である。
【図3】図1の一実施例における軸方向の断面概略図である。
【図4】図1とは異なる一実施例における軸方向の断面概略図である。
【図5】図1、2とは異なる一実施例における軸方向の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明に係るステントデリバリーシステムの実施形態について説明する。
【0030】
まず、本発明のステントデリバリーシステムについて図面を用いて説明する。
【0031】
図1は本発明のステントデリバリーシステムの一実施例について、バルーンとその近位側部分の側面図を示したもので、バルーン1が、ステントデリバリーカテーテル先端部に接続され、該バルーン上にステント10が装着されている。ここで、該バルーン1は、流体連通可能にインフレーションルーメン6に接続されている。本例では、ステントデリバリーカテーテルは、アウターチューブ2と、インナーチューブ3と、X線不透過マーカー4と、ガイドワイヤールーメン5と、保護チューブ7(インナーチューブの外側であってバルーンの内部に配置され、その近位端がバルーン内部に位置している。)から構成される。バルーン1としては各種形状のものを使用することができるが、本例では、バルーン1は、医療用バルーン、特に生体内の狭窄部治療用のバルーンを利用したもので、円筒形状の直管部1Aと前記直管部の先端側に円錐台形状のテーパー部1Bを、前記直管部の後端側に円錐台形状のテーパー部1Cを有する形状である。また、ステントの均一拡張の点から、バルーンはこの様に直管部を有する構造であることが好ましい。尚、前記テーパー部1B及び1Cにおけるテーパー角度は制限されず、任意の角度を選択可能である。
【0032】
一方、ステント10は収縮された第1直径から、患部に移植可能な第2直径まで拡張可能であることが必要である。本例におけるステント10はバルーン拡張型ステントであって、ストラット11を有して構成され、バルーン1の外面に収縮状態で配設される時にストラット11間が狭くなる。ステント10の材質や製造方法は制限されず、任意に選択可能である。
【0033】
図1の例では、同軸二重管状にアウターチューブ2とインナーチューブ3が配設され、前記インナーチューブの内部にガイドワイヤルーメン5、前記アウターチューブ2の内面と前記インナーチューブ3の外面によって確定されるインフレーションルーメン6を有するコアキシャル(co−axial)型の構造を有しているが、これとは異なり、例えばガイドワイヤルーメン5とインフレーションルーメン6が平行に配設されたデュアルルーメンチューブによるバイアキシャル(bi−axial)型の構造とすることも可能である。また、本発明に趣旨に反さない範囲で上記に例示した以外の構造とすることも可能である。
【0034】
本発明に係るステントデリバリーカテーテルは、該カテーテルの先端側のみにガイドワイヤルーメン5を有する高速交換型カテーテル、或いは該カテーテルの全長にわたってガイドワイヤルーメン5を有するオーバー・ザ・ワイヤ型カテーテルのいずれの構造も取り得ることが可能である。
【0035】
図2は、図1の一実施例において線8−8における断面概略図を示したものであるが、この図に示されている様に、本発明のステントデリバリーシステムは、バルーン1とインナーチューブ3の間に、保持チューブ7を有している。保持チューブ7は、ステント10をバルーン1に収縮圧着させる際に、バルーン1と共に、変形するものが好ましく、ストラット11の形状に合わせて変形することで、ステント10とバルーン1の接触面積を増やすものが特に好ましい。この様な点から、本発明のステントデリバリーシステムにおける保持チューブ7は、バルーン上にステントを収縮してクリンピングする際にステントのストラットの形状に合わせて塑性変形可能に径方向に対して柔軟であることが望ましい。また、保持チューブ7は元の形状に戻ろうとすることで、ステントが必要以上に収縮されることを防ぎ、バルーン1をステント10に押し付ける力を提供するものが好ましい。また保持チューブ7とインナーチューブ3の間には、空間があることが好ましく、保持チューブがストラット11の形状に合わせて変形出来るだけの空間があることが特に好ましい。
【0036】
バルーン1はステント10の圧着による変形によって破損が起きないものであれば、特に形状、材質および構造等限定されない。バルーン1は、2枚以上のウイング(羽)形状に折り畳み可能であり、図2のようにインナーチューブ3に沿って巻きつけることで細長く折畳むことが可能であるものが好ましい。
【0037】
図3は、図1のステントデリバリーシステムにおける軸方向の断面概略図を示したものであるが、この図に示されている様に、本発明におけるステントデリバリーシステムは、保持チューブ7がステントの遠位端より遠位側でインナーチューブ3に対して固定されていることが好ましい。本発明はステントの脱離や移動を防止するものであるが、ステントの回収が困難な点で、特にバルーンカテーテルに対して先端側へのステントの脱落を防止する必要がある。これに対し、保持チューブ7がステントの遠位端より遠位側でインナーチューブ3に対して固定されていることで、バルーンカテーテルに対して先端側へのステントの脱落を防止することができる。尚、この例では、特に保持チューブがステントの遠位端より遠位側でのみインナーチューブに対して固定されており、保持チューブがインナーチューブを拘束することなく、バルーンカテーテルの性能に大きな影響を与えない。また、その保持チューブの固定位置より遠位側でバルーンの遠位端がインナーチューブに対して固定されている。この場合、保持チューブを除けば通常のバルーンカテーテルと同様の構造であり、確立されたバルーンカテーテルの製造方法(溶着方法、接着方法)で製造することが可能である。
【0038】
一方、柔軟性の観点から接続部は短いほど好ましいが、バルーン1の拡張収縮時の圧力によって保持チューブ7の接続が外れない程度の接続強度は必要であり、接続強度を担保できる接続部の長さに設定することが特に好ましい。また、接触面積を増やしてより確実にステントの脱落や移動を防止する点から、保持チューブ7がステント10の遠位端から近位端にわたる全域の内側に配置されていることが好ましい。一方で、保持チューブ7によってインフレーションルーメン6が塞がれて、バルーン1の収縮、拡張を妨げないように、保持チューブ7の長さは調整することが好ましい。また、バルーンより近位側部分のプロファイルを不用意に大きくして操作性を低下させない為に、更には保持チューブ7がインフレーションルーメン6を塞ぐことを防止する為に、保持チューブ7の近位端はバルーン内部に位置することが好ましい。また、ステント10をバルーン1に収縮してクリンピングする際にクリンピング位置を確認しやすい点から、更に保持チューブとX線不透過マーカが上下に重なると、周囲に比べその重なった位置の剛性が高くなり、或いはプロファイルが大きくなり操作性が低下する虞があることから、バルーン内にX線不透過マーカー4を2つ配置する際は、近位側のX線不透過マーカー4よりも、遠位側に保持チューブ7を配置することが好ましい。
【0039】
尚、保持チューブ7は、上述の通り、更にはステントデリバリー性能に悪影響を与えないために、柔軟であることが好ましいが、その観点から保持チューブ7を構成する材料の硬度は、バルーン1を構成する材料の硬度以下であることが好ましく、更にはインナーチューブ3を構成する材料の硬度以下であることが好ましい。特に、保持チューブ7を構成する材料のショアD硬度は、50以上、75以下であることが好ましい。また、保持チューブの3点曲げ荷重は、インナーチューブの3点曲げ荷重以下であることが好ましい。尚、ここに示した様に保持チューブ7を構成する材料には、比較的柔軟性の高い材料を用いることが好ましいが、以下に説明する様に、保持チューブ7の構造によって柔軟性を持たせることも可能である(この場合、保持チューブ7を構成する材料として比較的柔軟性の低い材料を用いることも可能である。即ち、保持チューブを構成する材料の硬度をインナーチューブを構成する材料の硬度以上とすることも好ましい。他方、材料的にも構造的にも柔軟性の高いものを採用することもできる。但し、ステントを収縮してクリンピングする際にストラットの形状に合わせて生じた塑性変形を保持可能とする為に、保持チューブが重力に対してその形状を保持できる範囲で柔軟に形成することが好ましい。)。
【0040】
また、同様の目的から、保持チューブ7に、切れ目を設けることで保持チューブ7の構造によって柔軟性を持たせることも好ましい(特にステントデリバリーカテーテルの軸方向に垂直、或いは軸に対して斜めに設けることが好ましい。)。尚、切れ目の隙間の最大幅が0.05mm以上であることが好ましい。一方、保持チューブ7の外径や内径は、必ずしも一定である必要は無く、ステントが必要以上に収縮されることを防げる外径と内径を有していれば、テーパー、段差、突起を含んでいても良い。
【0041】
図4は、図3とは異なる一実施例における軸方向の断面概略図である。この例では、保持チューブ7がステントの遠位端より遠位側であって、更にバルーンの遠位側でインナーチューブ3と固定されている(特に、遠位側でのみインナーチューブ3と固定されている例である。)。このような構造の場合、保持チューブ7の接続部がカテーテルの遠位端近傍にあるため、その接続部がステントデリバリー性能へ悪影響を与えることが無く好ましい(特に、保持チューブ7の接続部が、ラッピングされて比較的径が大きくなるバルーン、或いはバルーンとインナーチューブ3の接続部と重なることが防止でき、保持チューブ7を配置することによるステントデリバリー性能へ悪影響を低減することができる。)。尚、この場合、バルーン1の遠位端は、保持チューブ7と接続されている。このような構造のため、保持チューブ7の、インナーチューブ3との接続部とバルーン1との接続部の間の部分は、機密性を保ち、バルーン1の拡張収縮時の圧力によって変形しない構造とすることが好ましい。
【0042】
図5は、更に図3、4と異なる一実施例における軸方向の断面概略図である。この例では、保持チューブ7がステントの遠位端より遠位側であって、特にバルーンの遠位端部でインナーチューブ3と固定されている(特に、バルーンの遠位端部でのみインナーチューブ3と固定されている例である。)。このような構造の場合、インナーチューブ3とバルーン1の接続部に保持チューブ7も接続されているため、インナーチューブ3とバルーン1と保持チューブ7を一度に接続することも可能で、製造時の工数を削減出来るため、好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に本発明を実験例を用いて説明するが、本発明は、これら実験例の特定の構造に限定されるものではない。尚、以下に示される3点曲げ荷重は、支点間距離12mmに設定して、サンプルの中央を1mm押し込んだ時の最大荷重を測定したものである。また、以下に示されるステント保持強度はASTM:F2394−04に示された冶具と方法に準拠して測定したものである。
【0044】
(参考例1)
保持チューブ(内径0.60mm:外径0.80mm、ショアD硬度55)の3点曲げ荷重は、0.097Nであった。
【0045】
(参考例2)
保持チューブ(内径0.76mm:外径0.83mm、ショアD硬度72、1mm間隔で軸方向に垂直に0.05mm幅の切れ目有り)の3点曲げ荷重は、0.057Nであった。
【0046】
(参考例3)
インナーチューブ(外径0.56mm:内径0.42mm、ショアD硬度70)と保持チューブ(内径0.60mm:外径0.80mm、硬度ショアD55)を組み合わせた3点曲げ荷重は、0.221Nであった。
【0047】
(参考例4)
インナーチューブ(外径0.56mm:内径0.42mm、ショアD硬度70)と保持チューブ(内径0.76mm:外径0.83mm、硬度ショアD72、1mm間隔で軸方向に垂直に0.05mm幅の切れ目有り)を組み合わせた3点曲げ荷重は、0.147Nであった。
【0048】
(参考例5)
インナーチューブ(外径0.56mm:内径0.42mm、ショアD硬度70)の3点曲げ荷重は、0.124Nであった。
【0049】
(参考例6)
インナーチューブ(外径0.68mm:内径0.50mm、ショアD硬度70)の3点曲げ荷重は、0.213Nであった。
【0050】
(参考例7)
インナーチューブ(外径0.56mm:内径0.42mm、ショアD硬度70)と保持チューブ(内径0.76mm:外径0.83mm、硬度ショアD72)を組み合わせた3点曲げ荷重は、0.380Nであった。
【0051】
(実施例1)
インナーチューブ(外径0.56mm:内径0.42mm、ショアD硬度70)と保持チューブ(内径0.60mm:外径0.80mm、硬度ショアD55)をバルーン遠位部でバルーンと共に溶着したバルーンカテーテル(φ3.0mm×13mm)のバルーンの直管部に、ステント(φ1.8mm×10mm)を配置し、ステントを1mm径まで縮径(クリンピング)した。ステント保持強度を測定した結果、1.33Nであった。バルーンを拡張したところ限界バルーン圧力でも割れなかった。
【0052】
(実施例2)
インナーチューブ(外径0.56mm:内径0.42mm、ショアD硬度70)と保持チューブ(内径0.76mm:外径0.83mm、硬度ショアD72、1mm間隔で軸方向に垂直に0.05mm幅の切れ目有り)をバルーン遠位部でバルーンと共に溶着したバルーンカテーテル(φ3.0mm×13mm)のバルーンの直管部に、ステント(φ1.8mm×10mm)を配置し、ステントを1mm径まで縮径(クリンピング)した。ステント保持強度を測定した結果、1.84Nであった。バルーンを拡張したところ限界バルーン圧力でも割れなかった。
【0053】
(比較例1)
保持チューブを設けない以外は実施例1、2と同一のバルーンカテーテルを作成し、更に同一の方法でステントを縮径(クリンピング)した。ステント保持強度を測定した結果、0.44Nであった。バルーンを拡張したところ限界バルーン圧力でも割れなかった。
【0054】
【表1】

【符号の説明】
【0055】
1 バルーン
1A 直管部
1B 先端側テーパー部
1C 後端側テーパー部
2 アウターチューブ
3 インナーチューブ
4 X線不透過マーカー
5 ガイドワイヤルーメン
6 インフレーションルーメン
7 保持チューブ
10 ステント
11 ストラット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルーン拡張型ステントと、これを治療部位にデリバリーするためのステントデリバリーカテーテルからなるステントデリバリーシステムであって、
該ステントデリバリーカテーテルは、アウターチューブと、アウターチューブの遠位側に接続されたバルーンと、バルーンの中を通るインナーチューブと、インナーチューブの外側であってバルーンの内部に配置され、その近位端がバルーン内部に位置する保持チューブを有し、
該保持チューブは、バルーン上にステントを収縮してクリンピングする際にステントが有するストラットの形状に合わせて塑性変形可能に径方向に対して柔軟であって、ステントの遠位端より遠位側でインナーチューブに対して固定されていることを特徴とするステントデリバリーシステム。
【請求項2】
保持チューブがステントの遠位端から近位端にわたる全域の内側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項3】
保持チューブがステントの遠位端より遠位側でのみインナーチューブに対して固定されていることを特徴とする請求項1または2の何れか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項4】
保持チューブがバルーンの遠位側でインナーチューブと固定されている、請求項1から3の何れか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項5】
保持チューブがバルーンの遠位側でのみインナーチューブと固定されていることを特徴とする請求項4に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項6】
保持チューブがバルーンの遠位端部でインナーチューブに固定されている、請求項1から3の何れか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項7】
保持チューブがバルーンの遠位端部でのみインナーチューブに固定されていることを特徴とする請求項6に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項8】
保持チューブがバルーンの遠位端部より近位側でインナーチューブと固定されている、請求項1から3の何れか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項9】
保持チューブの材質の硬度がバルーンの材質の硬度以下である、請求項1から8の何れか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項10】
保持チューブの材質の硬度がインナーチューブの材質の硬度以下である、請求項1から9の何れか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項11】
保持チューブの3点曲げ荷重がインナーチューブの3点曲げ荷重以下である、請求項1から10の何れか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項12】
保持チューブに切れ目が入っている、請求項1から11の何れか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項13】
切れ目が軸方向に対して垂直に入っている、請求項12に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項14】
切れ目が軸方向に対して平行に入っている、請求項12に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項15】
切れ目が軸方向に対して斜めに入っている、請求項12に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項16】
切れ目が軸方向に対して螺旋状に入っている、請求項12に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項17】
切れ目の最大幅が0.05mm以上である、請求項12から16の何れか1項に記載のステントデリバリーシステム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−61063(P2012−61063A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206155(P2010−206155)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】