説明

ステント

【課題】患部の閉塞を防止するのに必要な期間だけ一時的に食道管内に留置され、その後、容易に回収する。
【解決手段】体温より低い温度で略直線状に延び、体温において留置すべき体腔内径より大きな外径寸法の密着コイル状に形成される形状記憶合金製の線材からなる体腔内留置部4を備えるステント1を提供する。体温より低い温度に保持した状態で、口腔を介して挿入する際には、体腔内留置部4を略直線状に延びた状態として容易に体腔内の患部近傍まで挿入し、患部近傍に挿入されることで、体温まで温度が上昇することによって、体腔内留置部4を密着コイル状に変形させて、体腔を押し広げ、内径を確保し、食物等の通過を容易にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、早期食道癌の内視鏡的粘膜切除術によって広範囲に切り取られた部位が狭くなる場合に、バルーンやステントを用いて拡大させる食道内挿管法治療が行われている。ステントとしては、シリコーンゴムや金属によって構成されたものが用いられ、食道内径を拡大させた状態で食道内に留置されるのが一般的である(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−296559号公報
【特許文献2】特開平8−206227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、食道管は粘膜の分泌する粘液によって食物の通過を容易にし、蠕動運動によって食物を口から胃へと滑らかに運ぶので、ステントが留置されていると患者に違和感を与え、患者のQOLが低下するという不都合がある。すなわち、食道用のステントとしては、患部の閉塞を防止するのに必要な期間だけ一時的に食道管内に留置され、その後は回収することができる一時留置型のステントの開発が望まれている。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、患部の閉塞を防止するのに必要な期間だけ一時的に食道管内に留置され、その後、容易に回収することができるステントを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、体温より低い温度で略直線状に延び、体温において留置すべき体腔内径より大きな外径寸法の密着コイル状に形成される形状記憶材料製の線材を含む体腔内留置部を備えるステントを提供する。
【0007】
本発明によれば、体温より低い温度に保持した状態で、口腔を介して挿入する際には、形状記憶材料からなる線材が略直線状に延びているので、ガイドワイヤやガイドシース、あるいは内視鏡のチャネルを利用して容易に体腔内の患部近傍まで挿入することができる。そして、線材が患部近傍に挿入されると、体温まで温度が上昇するので、体腔内留置部が密着コイル状に変形する。この体腔内留置部は体腔内径より大きな外形寸法となるので、体腔内壁を半径方向外方に押圧して体腔を押し広げる。したがって、患部等体腔内方に隆起した部位に適用することで、体腔を押し広げて内径を確保し、食物等の通過を容易にすることができる。
【0008】
さらに、本発明によれば、体腔内留置部が密着コイル状に形成されるので、体腔内壁の組織が体腔内留置部に侵入することができない。したがって、体腔内留置部が体腔内壁に癒着してしまうことが防止され、一定期間の経過後に、体腔内壁を損傷することなく容易に回収することができる。
【0009】
上記発明においては、前記体腔内留置部の線材の表面が生体適合性のダブルネットワークゲルで被覆されていてもよい。
このようにすることで、体腔内留置部が密着コイル状に形成されたときに、線材間の隙間がダブルネットワークゲルによって閉塞される。これにより、線材間からの体腔内壁の組織の侵入をさらに確実に防止することができる。ダブルネットワークゲルは、耐摩耗性、弾性、破断強度、ねじれ強度に優れているので、体腔内留置部が略直線状の状態から密着コイル状に変形させられても、この変形に容易に追従して線材を被覆し続けることができる。ダブルネットワークゲルは、例えば、アクリルアミドのような生体非吸収性のゲルあるいはゼラチンとセルロースとを含むような生体吸収性のゲルを含んでいる。
【0010】
また、上記発明においては、前記体腔内留置部に一端が接続され、他端に歯または口腔部に係止される固定具が設けられた線状の固定部を備えていてもよい。
このようにすることで、線状の固定部の一端に設けられた固定具を歯または口腔部に係止することによって、体腔内留置部を下流側に脱落しないように保持することができる。密着コイル状に構成して癒着しにくくすることで回収しやすくなる代わりに固定力が得られないので、固定部によって脱落をより確実に防止することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記線材が、ガイドワイヤを挿通可能な管状に形成されていてもよい。
このようにすることで、線材内部の貫通孔にガイドワイヤを相通させて容易に体腔内部の所望の部位に導入することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、患部の閉塞を防止するのに必要な期間だけ一時的に食道管内に留置され、その後、容易に回収することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るステントの、(a)体温未満の場合、(b)体温以上の場合の形態をそれぞれ示す正面図である。
【図2】図1のステントの内部構造を説明するための部分的な斜視図である。
【図3】図1のステントを患者の食道の内腔確保に利用した状態を示す図である。
【図4】図1のステントの内部構造の変形例を説明するための部分的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係るステントについて、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るステント1は、図1に示されるように、柔軟な材質からなる線材により構成されていて、その一端に、患者の歯等の口腔部に固定される係止部2を備えた固定部3と、該固定部3に接続された体腔内留置部4とを備えている。
【0015】
固定部3は、例えば、ナイロンのような柔軟な材質により構成され、周囲の体腔内の組織形状や、それ自体にかかる張力に応じて任意の形態に変形可能である。
固定部3の係止部2は、患者の歯、例えば、臼歯に引っ掛けられるような環状に形成されている。係止部2の形態はこれに限られるものではなく、歯列矯正具が装着されている場合には、その歯列矯正具に固定される形態を有していてもよい。
【0016】
体腔内留置部4は、図1(a)に示されるように、体温より低い温度で略直線状に延び、図1(b)に示されるように、体温以上となると、留置すべき体腔内径より大きな外径寸法の密着コイル状に形成される形状記憶材料製の線材4aを、図2に示されるように、生体適合性材料からなるコーティング4bにより被覆して構成されている。
形状記憶材料としては、Ni−Ti合金、Cu−Al−Ni合金、Cu−Zn−Al合金等の金属や高剛性プラスチックのような樹脂を挙げることができる。
【0017】
コーティング4bに用いる生体適合性材料としては、例えば、アクリルアミドのような生体非吸収性のゲルあるいはゼラチンとセルロースとを含むような生体吸収性のゲルを含むダブルネットワークゲルを挙げることができる。
【0018】
このように構成された本実施形態に係るステント1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係るステント1を食道や気管等の体腔A内に挿入して内腔の確保や再狭窄の防止を図るには、まず、患者の体温より低い温度に保持されたガイドワイヤやガイドシース、あるいは内視鏡を体腔A内に挿入する。次いで、ステント1を、同じく患者の体温より低い温度に設定することにより、図1(a)に示されるような略直線状に延ばした状態としておき、ガイドワイヤあるいはガイドシースの内孔あるいは内視鏡の鉗子チャネルを介して、ステント1を体腔内に導入していく。
【0019】
ステント1は、ガイドワイヤやガイドシース、あるいは内視鏡の先端から体腔A内に放出させられると、その温度が体温まで上昇させられるので、図1(b)に示されるように体腔内留置部4が密着コイル状に変形する。この体腔内留置部4は、図3に示されるように、体腔A内径より大きな外形寸法となるように設定されているので、体腔A内壁を半径方向外方に押圧して体腔Aを押し広げる。したがって、本実施形態に係るステント1の体腔内留置部4を患部等の体腔Aの半径方向内方に隆起した部位に適用することで、体腔Aを押し広げて内腔を確保することができる。
【0020】
そして、体腔内留置部4の挿入が終了した時点で、ガイドワイヤ、ガイドシースあるいは内視鏡を体腔A内から抜去し、体腔内留置部4に接続されている固定部3の係止部2を患者の口腔内の、例えば、臼歯Bに固定する。係止部2は予め環状に形成されているので、臼歯Bに引っ掛けることにより容易に固定することができる。
【0021】
このように構成された本実施形態に係るステント1によれば、体温より低い状態にして略直線状の形態で挿入するので、ガイドワイヤ、ガイドシースあるいは内視鏡を用いて容易に挿入作業を行うことができる。また、本実施形態に係るステント1は、体腔A内に放出されるだけで、体腔内留置部4が密着コイル状に形成されるので、体腔A内の患部に簡易に留置して内腔を確保することができる。
【0022】
この場合において、本実施形態に係るステント1によれば、形状記憶材料からなる体腔内留置部4の線材4aを被覆しているコーティング4bを構成するダブルネットワークゲルは、耐摩耗性、弾性、耐破断性、捻れ強度に優れているので、略直線状であった体腔内留置部4を構成する線材4aが体腔A内において密着コイル状に変形しても、その変形に追従して柔軟に変形し、形状記憶材料からなる線材4aを被覆した状態を維持する。
【0023】
そして、体腔内留置部4は、体腔A内に挿入されて、線材どうしを相互に密着させた密着コイル状の形態をとるので、線材どうしが隙間なく密着させられる。特に、形状記憶材料からなる線材4aをダブルネットワークゲルからなるコーティング4bが被覆しているので、密着コイル状の形態をとったときに、コーティング4bどうしが密着して、微小隙間を埋め、体腔内留置部4が隙間のない円筒状に形成される。
【0024】
これにより、体腔A内壁の組織が体腔内留置部4内に侵入することを阻止することができる。すなわち、ステント1が体腔A内に留置されると、体腔A内壁の組織がステント1を取り込むように侵入しようとするが、体腔内留置部4が密着コイル状に構成されることで、線材間に隙間が形成されないので、組織の侵入を阻止することができる。
したがって、体腔内留置部4が体腔A内壁に癒着してしまうことを防止することができる。
【0025】
また、体腔内留置部4は、体腔A内に留置されて体腔Aを押し広げた状態において、体腔Aの蠕動運動によって下流側に落下する方向に力を受ける。本実施形態に係るステント1によれば、固定部3の係止部2が、患者の口腔内において臼歯Bに固定されているので、体腔内留置部4が蠕動運動等による力を受けても、体腔A内壁から脱落してしまうのを防止することができる。
【0026】
そして、体腔Aの再狭窄を防止するために必要とされる一定期間の経過後に、係止部2を臼歯Bから外して固定部3を引っ張ることにより、体腔内留置部4が張力によって引き延ばされる。この場合に、密着コイル状の体腔内留置部4に張力が作用すると、体腔内留置部4は密着状態を解除する方向に引き延ばされるとともに、その径寸法を収縮させられるので、体腔A内壁から容易に外れて回収される。
【0027】
この場合に、体腔A内壁の組織が体腔内留置部4に癒着していないので、張力をかけて体腔A内壁から切り離しても体腔A内壁を損傷することなく容易に回収することができるという利点がある。
【0028】
なお、本実施形態に係るステント1においては、ダブルネットワークゲルとしては、含水率70〜95%、破断歪み50〜90%であることが好ましい。また、固定部3および体腔内留置部4の表面にはヒアルロン酸等の癒着防止効果を有する薬剤が塗布されていてもよい。
【0029】
また、固定部3および体腔内留置部4を構成する線材の引張破断強度は1N以上であることが好ましい。また、固定部3の線材およびダブルネットワークゲルからなるコーティング4bによって被覆された体腔内留置部4の平均線径は、0.5〜5mmであることが好ましい。
また、固定部3と体腔内留置部4とは、フック、かしめあるいはボタン等によって相互に着脱可能に接続されていてもよい。
【0030】
また、ダブルネットワークゲルからなるコーティング4bによって形状記憶材料からなる線材4aを被覆することとしたが、この方法としては、全体的にコーティングする方法の他、ダブルネットワークゲルからなる線材を形状記憶材料からなる線材4aの表面に巻き付けることにより被覆する方法等の任意の方法を採用することができる。
【0031】
また、体腔A内への留置作業は、本実施形態に係るステント1を略直線状の形態にした状態で、カテーテル(図示略)の内孔内に挿入配置し、ステント1をガイドワイヤ的に利用してカテーテルごと体腔A内に挿入した状態で、カテーテルの先端から体腔A内に放出し、密着コイル状に形成することにしてもよい。
また、ステント1を構成する線材4aとして、図4に示されるように、内孔4cを有する中空の線材4aを用いる場合には、その線材4aの内孔4cにさらに細いガイドワイヤ5を挿入して体腔A内に挿入することにしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
A 体腔
B 臼歯(歯)
1 ステント
2 係止部(固定具)
3 固定部
4 体腔内留置部
4a 線材
4b コーティング(ダブルネットワークゲル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体温より低い温度で略直線状に延び、体温において留置すべき体腔内径より大きな外径寸法の密着コイル状に形成される形状記憶材料製の線材を含む体腔内留置部を備えるステント。
【請求項2】
前記体腔内留置部の線材の表面が生体適合性のダブルネットワークゲルで被覆されている請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記体腔内留置部に一端が接続され、他端に歯または口腔部に係止される固定具が設けられた線状の固定部を備える請求項1または請求項2に記載のステント。
【請求項4】
前記線材が、ガイドワイヤを挿通可能な管状に形成されている請求項1から請求項3のいずれかに記載のステント。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−10866(P2011−10866A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157635(P2009−157635)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】