説明

ステンレス鋼製マスク部材からのNi膜除去方法

【課題】スパッタリングなどの薄膜パターン形成プロセスにおいてパターン形成のために使用されるステンレス鋼製のマスク部材の表面から、薄膜パターン形成過程で堆積されたNi膜を除去するにあたり、ステンレス鋼製マスク部材を侵食させることなく、Ni膜を効果的に除去し得る方法を提供する。
【解決手段】薄膜形成技術によって基材上に所定のパターンでNi膜を形成するために使用される、ステンレス鋼製のマスク部材について、その表面に形成されたNi膜を除去するにあたり、硫酸を15〜25wt%、硝酸を5〜15wt%含有する混酸水溶液を用いて、前記Ni膜を溶解、除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スパッタリングなどの薄膜形成技術によって圧電振動子等のパッケージの外面などに、所定のパターンでNi膜を被覆形成するにあたり、マスク部材としてステンレス鋼を用いた場合に、そのマスク部材表面に形成されたNi膜を除去するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、水晶などを用いた圧電振動子のガラスパッケージには、その外面にいわゆる外部電極を形成するのが通常であり、その場合、外部電極形成の過程で、スパッタリングなどの薄膜形成技術によってニッケル(Ni)膜を形成することがある。またこの種の薄膜形成技術では、ガラスパッケージなどの基材上に所定のパターンで膜を形成するため、反転パターン形状のマスク部材で基材表面を覆っておいてスパッタリングなどを行い、これによって所定のパターン形状の薄膜を形成することが一般的である。このような場合のマスク部材としては、従来から種々の材質のものが使用されているが、Niをスパッタリングする際の金属マスク(メタルマスク)の材料としては、耐熱性や耐食性、あるいはガラスなどの基材との熱膨張率差の調整のしやすさなどの観点から、例えば特許文献1に示されているように、SUS304、SUS430などのステンレス鋼が用いられることが多い。
【0003】
ところで、マスク部材を用いてスパッタリングなどの薄膜形成技術によって所定のパターンで薄膜を形成する際には、基材表面のみならず、マスク部材の表面も薄膜材料が堆積されてしまう。このようにマスク部材の表面に堆積された薄膜用材料の膜(マスク部材上の堆積膜)が成長すれば、マスク部材によるパターン形成精度が低下してしまう問題があり、この問題は、特に微細なパターンで薄膜を形成する場合には大きな悪影響を与える。
そこで一般には、ステンレス鋼などの金属からなるマスク部材を用いてスパッタリングなどにより基材上に所定のパターンで成膜する場合、スパッタリングなどの薄膜形成工程終了後に、マスク部材を基材から取り外して、マスク部材表面に堆積された膜を洗浄、除去し、次の使用に備えるようにしている。すなわちマスク部材を1回使用するたびごとに、そのマスク材表面からの堆積膜除去作業を行なうのが通常である。
【0004】
一方、前述のように、ガラスなどの基材上にNi膜をスパッタリングする際のマスク部材としては、ステンレス鋼を用いることが多いが、マスク部材上に堆積されたNi膜を除去するためには、従来は、エッチング剤としてハロゲン系の薬液、あるいは塩化鉄系の薬液を用い、Ni堆積膜が形成されたステンレス鋼製マスク部材をこれらの薬液中に浸漬させ、Ni堆積膜を溶解除去(エッチング)することが多かった。
なお、この発明で対象としているステンレス鋼製のマスク部材とは異なるが、主として銅や銅合金からなるマスク部材を対象として、そのマスク部材上のNi膜を除去するための薬液として、硫酸などの無機酸や有機酸などの各種の酸を含む混酸を用いることが、例えば特許文献2に示されており、また上記と同様に銅からなるマスク部材を対象として、そのマスク部材上のNi膜を除去するための薬液として、硫酸、過酸化水素水、ケトン化合物を含むものを用いることが、例えば特許文献3に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−221524号公報
【特許文献2】特開平9−228075号公報
【特許文献3】特開平6−322559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スパッタリングなどの薄膜形成工程において、所定のパターンで基材上にNi膜形成するためのマスク部材としてステンレス鋼を用い、そのマスク部材上に堆積されたNi膜をエッチング除去するための薬液として、前述のようなハロゲン系薬液、もしくは塩化鉄系薬液を用いた場合には、次のような問題がある。すなわち、これらの薬液中にステンレス鋼製のマスク部材を浸漬させれば、マスク部材上のNi膜が溶解されるばかりでなく、マスク部材自体も侵食されて、マスク部材が変形してしまう。このように侵食されて変形してしまったマスク部材は、パターン形成のためのマスクとしては使用できなくなってしまう。そこで従来は、ステンレス鋼製のマスク部材を使用してNi膜を成膜する場合は、スパッタリングなどの成膜工程終了後、マスク部材はそのまま廃棄せざるを得なかった。すなわち1回使用した後のステンレス鋼製のマスク部材は、その表面に堆積されたNi膜を除去して再使用することなく、廃棄してしまっているのが実情である。これは、一回の成膜のたびごとにマスク部材を新しいものと交換せざるを得ないことを意味する。したがって従来は、マスク部材に要するコストが大きく、それがパターン薄膜形成プロセスの全体的なコストを押し上げる大きな要因となっていた。すなわち、ステンレス鋼からなるマスク部材は、その原材料コストが高いばかりでなく、微細かつ高精度の加工を要するため、加工コストも高く、このようなステンレス鋼製マスク部材を再使用できないことは、パターン薄膜形成プロセスの全体的なコストを低減するための大きな障害となっていた。
【0007】
この発明は、以上のような事情に鑑みてなされたもので、スパッタリングなどを用いたパターン薄膜形成プロセスにおいてパターン形成のために使用されるステンレス鋼製のマスク部材の表面から、薄膜形成工程で堆積されたNi膜を除去するにあたり、ステンレス鋼製のマスク部材を侵食させることなく、Ni膜を効果的に除去し得る方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前述の課題を解決し得る方法について種々実験、検討を重ねた結果、ステンレス鋼製マスク部材表面のNi膜の洗浄、除去のための薬液としては、硫酸と硝酸との混酸、とりわけ硫酸を15〜25wt%、硝酸を5〜15wt%含有し、残部が実質的に水よりなる混酸を用いることが、ステンレス鋼製マスク部材の侵食を防止しつつNi膜を除去するために有効であることを見い出し、この発明をなすに至ったのである。
なお、ステンレス鋼ではなく、銅や銅合金からなるマスク部材上のNi膜を除去するための薬液として各所の混酸を用いることは、前記特許文献2、特許文献3などにより従来から知られているが、金属の種類が異なれば、同じ薬液を使用してもそれによる溶解作用、浸食作用は異なり、したがって前記特許文献2、特許文献3に示されている薬液をそのままステンレス鋼製のマスク部材に適用しても、それによって前述の課題を解決し得るか否かは、予測することは困難である。すなわちこの発明は、あくまでステンレス鋼からなるマスク部材について、前述の課題を解決しようとしているのである。
【0009】
したがってこの発明のステンレス鋼製マスク部材からのNi膜除去方法は、基本的には、薄膜形成技術によって基材上に所定のパターンでNi膜を形成するために使用される、ステンレス鋼製のマスク部材について、その表面に形成されたNi膜を除去するにあたり、硫酸を15〜25wt%、硝酸を5〜15wt%含有する混酸水溶液を用いて、前記Ni膜を溶解、除去することを特徴とするものである。
【0010】
ここで、前記混酸水溶液における硫酸と硝酸の合計濃度は、23〜40wt%の範囲内が好ましい。
【0011】
また上記の混酸水溶液を用いてNi膜を溶解、除去するにあたっては、Ni膜が形成されたステンレス鋼製のマスク部材を混酸水溶液の浴中に浸漬させても、あるいはマスク部材の表面に混酸水溶液をスプレー法により散布してもよい、
【発明の効果】
【0012】
この発明のステンレス鋼製マスク部材からのNi膜除去方法によれば、ステンレス鋼からなるマスク部材の表面に堆積されたNi膜を除去するに際して、マスク部材を侵食してしまうことなく、Ni膜を除去することが可能となり、そのためマスク部材の侵食による変形の発生を防止して、量産的な規模でもスパッタリングなどの薄膜形成工程で1回以上使用したマスク部材を、繰り返し再使用することが可能となり、ステンレス鋼製マスク部材に要するコストを大幅に低減し、パターン薄膜形成プロセスにおける全体的なコストをも大幅に低減することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明のステンレス鋼製マスク部材からのNi膜除去方法を実施している状況の一例を模式的に示す略解図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の方法において除去すべきNi膜とは、薄膜形成技術によって基材上に所定のパターンでNi膜を形成するために使用されたステンレス鋼製のマスク部材において、その薄膜形成工程で堆積されてしまったNi膜である。
【0015】
ここで薄膜形成技術とは、代表的にはスパッタリングがあるが、その他、真空蒸着、イオンプレーティングなどのPVD法、あるいは化学的気相成長法(CVD)などを含む。またマスク部材のステンレス鋼としては、例えばオーステナイト系ステンレス鋼として代表的なSUS304、あるいはフェライト系ステンレス鋼として代表的なSUS430が多いが、このほかのオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、さらにはマルテンサイト系ステンレス鋼など、マスク部材として使用可能なステンレス鋼であればよく、特に限定されるものではない。またNi膜とは、通常の各種電子部品における電極形成過程で所定のパターンで形成されるNi膜であれば、特に限定されるものではなく、純Ni膜のほか、Niを主体とするNi合金膜をも含むものとする。
【0016】
以下、この発明の方法を実施する形態の一例について、図1を参照して説明する。
図1の(A)において、符号1は、表面にNi膜2が堆積、形成されたマスク部材を示す。この発明を実施するにあたっては、硫酸を15〜25wt%、硝酸を5〜15wt%含有する混酸水溶液4を調製し、その混酸水溶液4を処理槽3内に注入しておく。
そして図1の(B)に示すように、処理槽3内の混酸水溶液4中にマスク部材1を浸漬させ、この混酸水溶液4による化学的溶解作用(エッチング作用)によって、図1の(C)に示すように、マスク部材1の表面のNi膜2を溶解、除去する。
【0017】
ここで、NI膜除去のためのエッチング液として、硫酸と硝酸の混酸水溶液を用い、しかもその混酸水溶液における硫酸濃度を15〜25wt%、硝酸濃度を5〜15wt%の範囲内に調整しておくことによって、マスク部材のステンレス鋼への侵食を防止しつつ、Ni膜のみを効果的に除去することができる。すなわち、一般にステンレス鋼は高濃度にCrを含有しているため、そのマスク部材のステンレス鋼の表面が硫酸と硝酸の混酸水溶液に接すれば、主として酸化力が強い硝酸による酸化作用によって、ステンレス鋼表面に不動態皮膜が形成され、この不動態皮膜が侵食阻止機能を発揮して、マスク部材が侵食されることが防止される。一方、Ni膜には、この発明で規定する程度の硝酸濃度では不動態がほとんど形成されず、硫酸と硝酸による化学的溶解作用(エッチング作用)によって、Ni膜が溶解され、除去される。
【0018】
上記の混酸水溶液における硝酸濃度が5wt%未満では、マスク部材のステンレス鋼の表面に不動態皮膜が十分に形成されず、そのため不動態皮膜を形成してマスク部材の侵食を阻止する効果が十分に得られない。一方硝酸濃度が15wt%を越える場合は、初期はNi膜の溶解除去作用が大きいが、次第にNi膜に不動態が形成されて溶解性が低下してしまい、その結果、完全にはNi膜を除去しきれなくなるか、または部分的に溶解された箇所と溶解されない箇所とがムラ状に生じてしまう(すなわちNi膜の溶解除去が不均一となる)。
また、上記の混酸水溶液における硫酸濃度が15wt%未満では、Ni膜の科学的溶解作用が低くなるとともに、硝酸による上述のようなNi膜に対する後期の不動態形成不動態作用が相対的に強くなって、Ni膜の溶解除去が不均一となる。一方、混酸水溶液における硫酸濃度が25wt%を超えれば、たとえ硝酸が添加されていても、マスク部材の侵食を防止することが困難となり、マスク部材が侵食されてしまう。
したがって以上から、ステンレス鋼製のマスク部材におけるNI膜溶解除去のためのエッチング液である硫酸と硝酸との混酸水溶液としては、硫酸濃度が15〜25wt%、硝酸濃度が5〜15wt%の範囲内にあるものを使用する必要がある。
【0019】
なお混酸水溶液における硫酸の濃度と硝酸の濃度との合計の濃度は、基本的には限定されないが、通常は23〜40wt%の範囲内とすることが好ましい。硫酸濃度と硝酸濃度との合計濃度が23wt%未満では、混酸水溶液全体としてNi膜に対する化学的溶解作用が小さくなり、NI膜溶解除去に要する時間が長時間となってしまうおそれがある。一方、硫酸濃度と硝酸濃度との合計濃度が40wt%を越えれば、ステンレス鋼からなるマスク部材の侵食が発生するおそれがある。
【0020】
なお以上の説明では、Ni膜を除去するにあたって、いわゆる浸漬法を適用して、Ni膜除去用(エッチング用)の混酸水溶液の浴中に、Ni膜を有するマスク部材を浸漬するものとしたが、場合によっては、混酸水溶液をマスク部材表面にスプレーしてもよく、このように浸漬法に代えてスプレー法を適用しても、混酸水溶液の硫酸濃度を15〜25wt%、硝酸濃度を5〜15wt%の範囲内としておけば、浸漬法の場合と同様な効果が得られる。
【0021】
また図1においては、ステンレス鋼製のマスク部材1の表面に直接Ni膜2が形成されているように示しているが、この発明の方法は、Ni膜2が直接マスク部材1の表面に形成されている場合に限らず、例えばステンレス鋼製のマスク部材1の表面にCrなどの異種金属の薄層が形成されて、その異種金属薄層の上にNi膜が形成されている場合において、その異種金属薄層上のNi膜を除去する場合にも適用できることはもちろんである。
【0022】
以下にこの発明の実施例を記す。なお以下の各実施例は、この発明の効果を示すためのものであり、これらの実施例に記載した条件がこの発明の技術的範囲を限定するものでないことはもちろんである。
【実施例1】
【0023】
先ずNi膜除去性試験を、次のように行なった。すなわち、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304からなる厚み1mmの方形板状(長さ30mm、幅40mm)のマスク部材を用意し、その片面に、予め、厚み0.5μmのNi膜を通常のスパッタリング法により形成しておいた。一方、硫酸、硝酸および水からなる混酸水溶液として、表1のNo.1〜No.15に示すような種々の硫酸濃度、硝酸濃度からなるものを用意した。そして前述のようにしてNi膜が形成されたマスク基材を、混酸水溶液浴中に浸漬させて、Ni膜を除去する実験を行なった。ここで、浸漬時の混酸水溶液の温度(浴温)は、25℃±5℃とし、浸漬時間は5分とした。5分浸漬後、マスク部材を混酸水溶液浴から取り出し、水で洗浄、乾燥させた後、目視および顕微鏡観察によりマスク部材表面のNi膜の除去状況を観察した。その結果を表1の「評価」の「Ni膜除去性」の欄に示す。なおここで、「Ni膜除去性」についての○印は、Ni膜が均一かつほぼ完全に除去された場合を示し、×印は、Ni膜が完全には除去されず、しかも除去状況も不均一で、ムラ状にNi膜が残存していた場合を示す。さらに△印は、除去状況は均一であるが、上記の浸漬時間ではNi膜を除去しきれなかった場合(すなわち完全除去のために5分を越える長時間を要する場合)を示す。
【0024】
次に混酸水溶液に対するマスク部材の耐侵食性を調べる実験(SUS耐侵食性試験)を行なった。すなわち、上記と同一のSUS304製のマスク部材について、表1のNo.1〜No.15に示す混酸水溶液浴中(浴温25℃±5℃)に24時間浸漬し、取り出して水洗、乾燥後、マスク部材の侵食状況を目視および顕微鏡観察により観察した。その結果を表1中の「評価」の「SUS耐侵食性」の欄に示す。なおここで、「SUS耐侵食性」についての○印は、SUS304製のマスク部材が全く侵食されていなかっか、またはわずかに侵食されてもその最大侵食幅が5μm以下と、実用上支障のない程度であった場合を示し、×印は、最大侵食幅が5μmを超えて侵食されてしまった場合を示す。
さらに総合評価として、上記の「Ni膜除去性」と「SUS耐侵食性」との両者が良好である場合を、総合評価良好(○印)と判断し、それ以外の場合のうち、少なくともいずれか一方の性能が劣っていた場合は総合評価不良(△印、×印)と判断して、これらの総合評価を図1中に示した。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から明らかなように、エッチング用の混酸水溶液における硫酸濃度が15wt%〜25%の範囲内でかつ硝酸濃度が15wt%〜25%の範囲内にある本発明例のNo.5〜No.9、No.12、No.13の場合には、いずれも「Ni膜除去性」と「SUS耐侵食性」との両者が良好であり、総合的にも良好であることが確認された。
【0027】
これに対して、硝酸濃度が15wt%を越え、硫酸濃度が15wt%未満の比較例のNo.1〜No.4の場合には、いずれもNi膜除去性が劣り、5分間の浸漬時間ではNi膜を完全には除去できないばかりか、Ni膜除去状況にムラが発生してしまった。一方、硫酸濃度が25wt%を越え、硝酸濃度が15wt%未満の比較例のNo.10、No.11の場合には、いずれもSUS耐侵食性が不良で、SUS304製のマスク部材が侵食されてしまいまたこれらのうちNo.11の場合は、Ni膜の除去は可能であるものの、除去に長時間を要してしまうことが判明した。さらに比較例のNo.14は、硫酸濃度が15wt%未満、硝酸濃度が5wt%未満の例であり、この場合、No.11と同様に、Ni膜の除去は可能であるものの、除去に長時間を要してしまうことが判明した。また比較例のNo.15は、硫酸濃度が25wt%を越え、硝酸濃度が15wt%を越えている例であり、この場合、SUS耐侵食性が劣り、SUS304製のマスク部材が侵食されてしまうことが判明した。
【0028】
したがってこれらの実験結果から、エッチング用の混酸水溶液における硫酸濃度を15wt%〜25%の範囲内とすると同時に硝酸濃度を15wt%〜25%の範囲内とすることによって、Ni膜除去性とSUS耐侵食性との両者をともに満足させ得ることが明らかである。
【実施例2】
【0029】
マスク部材のステンレス鋼を、実施例1の場合とは異なるフェライト系のSUS430に変更して、実施例1のNo.1〜No.15と同様に、混酸水溶液の硝酸濃度および硫酸濃度を変化させ、実施例1と同様なNi膜除去性試験およびSUS耐侵食性を行なった。その結果、実施例1について表1に示したものと実質的に同一の結果が得られることが確認された
【実施例3】
【0030】
前記実施例1におけるNi膜除去性試験では、浸漬法によりNi膜の除去を行なったが、本実施例3では、混酸水溶液を、スプレー法によりマスク部材に対して散布することによって、Ni膜除去性試験を実施した。その他は実施例1と同様であり、混酸水溶液の硝酸濃度および硫酸濃度も、実施例1No.1〜No.15と同様に変化させた。その結果、実施例1について表1に示したものと実質的に同一の結果が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0031】
1・・・マスク部材、 2・・・Ni膜、3・・・処理槽、 4・・・混酸水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜形成技術によって基材上に所定のパターンでNi膜を形成するために使用されるステンレス鋼製のマスク部材について、その表面に形成されたNi膜を除去するにあたり、
硫酸を15〜25wt%、硝酸を5〜15wt%含有する混酸水溶液を用いて、前記Ni膜を溶解、除去することを特徴とする、ステンレス鋼製マスク部材からのNi膜除去方法。
【請求項2】
請求項1に記載のステンレス鋼製マスク部材からのNi膜除去方法において、
前記混酸水溶液における硫酸と硝酸の合計濃度を、23〜40wt%の範囲内としたことを特徴とする、ステンレス鋼製マスク部材からのNi膜除去方法。
【請求項3】
請求項1、請求項2のうちのいずれかの請求項に記載のステンレス鋼製マスク部材からのNi膜除去方法において、
Ni膜が形成されたステンレス鋼製の前記マスク部材を、前記混酸水溶液の浴中に浸漬させることを特徴とする、ステンレス鋼製マスク部材からのNi膜除去方法。
【請求項4】
請求項1、請求項2のうちのいずれかの請求項に記載のステンレス鋼製マスク部材からのNi膜除去方法において、
Ni膜が形成されたステンレス鋼製の前記マスク部材の表面に、前記混酸水溶液をスプレー法により散布することを特徴とする、ステンレス鋼製マスク部材からのNi膜除去方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−237043(P2012−237043A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107606(P2011−107606)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】