説明

ストラットマウント及びストラットマウント成形用金型

【課題】サスペンションのリバウンド時、弾性部材に当接するストッパプレートに、例えば、プレートの表裏面を貫通する孔が開けられていた場合、孔の弾性部材に対向する側の開口エッジ或いは開口エッジに残っているバリ等により、ストッパプレートが当接する弾性部材に傷が付き易く、更には、弾性部材に亀裂が入り易かった。
【解決手段】内筒部材12に、外側部材13の上部上方に露出するストッパゴム14に対向して位置し、搬送手段の係止部Fが入り込む係止用孔16が開けられたストッパプレート15を形成し、ストッパプレート15の裏面15aを覆うプレートゴム14aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の車輪を懸架するストラット式サスペンションのストラットを装着するストラットマウント、及びストラットマウントを形成するストラットマウント成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のストラット式サスペンションを構成するショックアブソーバのピストンロッドの上端部とボディ部材の間に配置されるストラットマウントが知られている。
ストラットマウントは、ショックアブソーバのピストンロッドの上端部が差し込まれ固定される内筒部材と、内筒部材を外側から取り囲み車体側に取り付け固定される外側部材と、内筒部材と外側部材の間に介在して両部材を結合する弾性部材とを有しており、外側部材の上部に露出する弾性部材の上方の、弾性部材に対向する位置には、サスペンション最大伸張時(リバウンド時)の過大変位を阻止するためのストッパプレートが設けられている。
【0003】
サスペンションのリバウンド時、ストッパプレートが、ストラット軸方向に沿う変位軌跡上に位置する弾性部材に当接することにより、ショックアブソーバと一体化した内筒部材のリバウンド方向における過大変位(即ち、それ以上の下方への移動)が規制される。
このような、リバウンド時の過大変位を阻止するためのストッパプレートを設けたものとして、例えば、インナ筒金具と、インナ筒金具の径方向外方に離間配置されたアウタ金具と、両金具の間に介装されたストッパゴム弾性体(弾性部材)により両金具が一体的に連結され、インナ筒金具に組み付けられたストッパ金具にフランジ状にストッパ部(ストッパプレート)を設けたアッパーサポート組付体(特許文献1参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−30664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、サスペンションのリバウンド時、弾性部材に当接するストッパプレートに、例えば、プレートの表裏面を貫通する孔が開けられていた場合、孔の弾性部材に対向する側の開口エッジ或いは開口エッジに残っているバリ等により、ストッパプレートが当接する弾性部材に傷が付き易く、更には、弾性部材に亀裂が入り易かった。
この発明の目的は、ストッパプレートに開けられた孔が、ストラット軸方向に沿う変位軌跡上に対向配置された弾性部材に直接当接するのを防いで、孔の弾性部材に対向する側の開口エッジ或いは開口エッジに残っているバリ等により弾性部材が傷付いて弾性部材に亀裂が入るのを防止することができるストラットマウント、及びストラットマウントを形成するストラットマウント成形用金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明に係るストラットマウントは、ショックアブソーバのピストンロッドの上端部が差し込まれ固定される内筒部材と、前記内筒部材を外側から取り囲み車体側に取り付け固定される外側部材と、前記内筒部材と前記外側部材の間に介在して両部材を結合する弾性部材とを有し、搬送手段による搬送を可能とするストラットマウントにおいて、前記内筒部材に、前記外側部材の上部上方に露出する前記弾性部材に対向して位置し、前記搬送手段の係止部が入り込む係止用孔が開けられたストッパプレートを形成し、前記ストッパプレートの弾性部材対向面を覆うストッパ弾性部材を有することを特徴としている。
【0007】
この発明に係るストラットマウント成形用金型は、この発明に係るストラットマウントを形成するストラットマウント成形用金型であって、前記ストッパプレートの係止用孔に入り込む栓部を有する型、及び前記外側部材の裏面側に前記ストッパゴムを回り込ませる凹部を有する型からなる、上下方向に開閉する一対の上下金型と、前記上下金型の開閉方向と交差する横方向へと移動し、前記係止部空間及び前記円環状空間を形成するコア部を有するスライドコアとを有し、前記上下金型のキャビティに成形用ゴム部材を注入充填してストラットマウントを成形することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係るストラットマウントによれば、内筒部材に、外側部材の上部上方に露出する弾性部材に対向して位置し、搬送手段の係止部が入り込む係止用孔が開けられたストッパプレートを形成し、ストッパプレートの弾性部材対向面を覆うストッパ弾性部材を有するので、ストッパプレートと弾性部材との間にストッパ弾性部材が介在し、ストッパプレートに開けられた孔が、ストラット軸方向に沿う変位軌跡上に対向配置された弾性部材に直接当接するのを防いで、孔の弾性部材に対向する側の開口エッジ或いは開口エッジに残っているバリ等により弾性部材が傷付いて弾性部材に亀裂が入るのを防止することができる。
【0009】
また、この発明に係る成形用金型によれば、ストッパプレートの係止用孔に入り込む栓部を有する型、及び外側部材の裏面側にストッパゴムを回り込ませる凹部を有する型からなる、上下方向に開閉する一対の上下金型と、上下金型の開閉方向と交差する横方向へと移動し、係止部空間及び円環状空間を形成するコア部を有するスライドコアとを有し、上下金型のキャビティに成形用ゴム部材を注入充填してストラットマウントを成形するので、この発明に係るストラットマウントを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の一実施の形態に係るストラットマウントを示し、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
【図2】図1のストッパプレートの係止用孔に搬送手段の係止部を係止させる状態を示す、ストッパプレートの裏面側から見た斜視説明図である。
【図3】図1のストラットマウントの他の例を示す、ストッパプレートの係止用孔が形成された部分を拡大した断面図である。
【図4】図1のストラットマウントを形成する際に用いる成形用金型を示す断面説明図である。
【0011】
以下、この発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1に示すストラットマウント10は、自動車のストラット式サスペンションを構成するショックアブソーバのピストンロッド11の上端部と、自動車の車体(図示しない)の間に配置されており、路面から自動車のボディに伝達される振動を減衰ないし低減する防振装置として機能する。
【0012】
図1及び図2に示すように、ストラットマウント10は、ショックアブソーバのピストンロッド11の上端部が差し込まれ固定される内筒部材12と、内筒部材12を外側から取り囲み車体側に取り付け固定される外側部材13と、内筒部材12と外側部材13の間に介在して両部材12,13を結合するストッパゴム(弾性部材)14とを有している。外側部材13の上部に露出するストッパゴム14の上方の、ストッパゴム14に対向する位置には、サスペンション最大伸張時(リバウンド時)の過大変位を阻止するためのストッパプレート15が設けられている。
【0013】
このストッパプレート15には、ストラットマウント10の車体への組み付け工程におけるストラットマウント10の搬送時、ストラットマウント10に搬送治具をセットする際に搬送治具の係止部Fを係止させるための係止用孔16(図3参照)が開けられている。係止用孔16は、ストッパプレート15の表裏面を貫通する丸孔又は長孔からなり、丸孔及び長孔の何れか一方或いは両方を、ストッパプレート15の周方向に沿って略等間隔に3箇所設けている(図1(a)参照)。
【0014】
内筒部材12は、上端開口部に外向きフランジ状のストッパプレート15を有する有底円筒状に形成されており、内筒部材12と一体化して形成された平面円環状のストッパプレート15は、裏面(弾性部材対向面)15a側をストッパゴム14に対向させている。内筒部材12の底面には、ピストンロッド11の上端部を差し込むロッド用開口12aが開けられている。
外側部材13は、平面視、略三角形状の板状体からなり、平面中央に、内筒部材12の外径より大きな内径を有し、板状体表裏面に対し略直交して突出する、外側部材13と一体化して形成された円筒部13aを有している。
【0015】
この外側部材13の円筒部13aの内部空間に、内筒部材12を挿入配置した状態で、円筒部13aと内筒部材12の間隙を埋めるようにストッパゴム14が充填されることにより、内筒部材12と、内筒部材12を外側から取り囲む外側部材13とが、ストッパゴム14により結合した状態になる。これにより、内筒部材12と、外側部材13と、両部材12,13を介在して結合するストッパゴム14とが一体化して、ストラットマウント10を形成する。
【0016】
ストッパゴム14は、円筒部13aの上端を覆って外側部材13の上部上方に露出すると共に、内筒部材12の上部外周面と、ストッパプレート15の、ストッパゴム14の露出最上部に対向する面である裏面15aとを連続して覆っている。つまり、ストッパプレート15の裏面15aは、ストッパゴム14の一部からなるプレートゴム(ストッパ弾性部材)14a、即ち、ストッパゴム14と一体化したプレートゴム14aにより覆われることになる。
ストッパゴム14の露出最上部は平坦面からなり、この平坦面と、露出最上部に対向して位置するストッパプレート15の裏面15aを覆うプレートゴム14aとの間に、矩形断面状の円環状空間sを設けている。
【0017】
このプレートゴム14aは、係止用孔16の、ストッパゴム14の露出最上部に対向する側の辺縁(エッジ)を露出させることなく、ストッパプレート15の裏面15aを覆うと共に、係止用孔16に入り込んだ係止部Fがプレートゴム14aの外側に露出するのを許容する係止部空間t(図2参照)を有している。即ち、プレートゴム14aは、ストッパプレート15とストッパゴム14との間に介在し係止用孔16に連通する係止部空間tを有している。
従って、外側部材13の上部上方に露出するストッパゴム14は、ストッパプレート15の裏面15aに直接接触することがなく、係止用孔16の辺縁(エッジ)とストッパゴム14の露出最上部とは、ストッパプレート15とストッパゴム14との間に介在するプレートゴム14aの厚み分離間することになる。
【0018】
このプレートゴム14aにより、外側部材13の上部上方に露出するストッパゴム14は、裏面15aを被覆するプレートゴム14aに対向することになり、裏面15aとの間には、辺縁を露出させること無く覆うプレートゴム14aが介在することになる。
【0019】
このため、ストッパゴム14に当接するストッパプレート15に係止用孔16が開けられていても、サスペンションのリバウンド時、ストッパプレート15の裏面15aが、ストラット軸方向に沿う変位軌跡上に対向配置されたストッパゴム14に直接当接するのを防いで、この係止用孔16のストッパゴム14に対向する側の開口エッジ或いは開口エッジに残っているバリ等により、ストッパゴム14に傷が付くのを防止することができ、更に、ストッパゴム14に亀裂が入ってしまうのを防止することができる。
この結果、例えば、ストラットマウント10に搬送治具をセットするための係止用孔16等の孔が、ストッパプレート15に開けられていても、ストッパゴム14の耐久性能に影響を与えることが無く、ストッパゴム14が本来備えている耐久性能を確実に確保することができる。
【0020】
なお、プレートゴム14aに設けられた係止部空間tを、係止用孔16を延長して係止用孔16の内径と同じ大きさの内径を確保し、係止用孔16に連通すると共に、係止部Fがストッパプレート15の裏面15aに直接接触することができるように、裏面15aからプレートゴム14aを取り除くことによりストッパプレート15の裏面15aを露出させて形成してもよい。これにより、係止用孔16に挿入した係止部Fが係止部空間tに達することにより、係止部空間t内で、L字状に形成された係止部Fの先端屈曲部f(図2参照)をストッパプレート15の裏面15aに直接接触させて、係止した状態にすることができる。
【0021】
また、係止部Fの形状は、L字状に限るものではなく、例えばJ字状等、係止用孔16に挿入し係止部空間t内でストッパプレート15の裏面15aに直接接触させることができる係止部を有するものであればよい。
【0022】
プレートゴム14aに設けられる係止部空間tは、ストッパゴム14に対向する側が、プレートゴム14aにより覆われていてもよい。この場合、図3に示すように、ストッパプレート15の裏面15aとの間に若干薄くなった係止部空間tを確保しつつ、係止部空間tを覆うようにプレートゴム14aで係止用孔16に蓋をする。これにより、ストッパゴム14に対向するストッパプレート15の裏面15aは、係止用孔16を含む全域がプレートゴム14aにより覆われることになる。
次に、ストラットマウント10の形成方法を説明する。ストラットマウント10は、上下方向に開閉する一対の上下金型と、上下金型の開閉方向と交差する横方向へと移動するスライドコアを用いた、ストラットマウント成形用金型により形成する。
【0023】
図4(a)に示すように、プレートゴム14aに係止部空間tを設けたストラットマウント10を形成するに際しては、ストッパプレート15の係止用孔16に入り込む栓部17aを有する上型(或いは下型)17、及び外側部材13の裏面側にストッパゴム14を回り込ませる凹部を有する下型(或いは上型)18からなる、上下方向に開閉する一対の上下型に、予めストッパプレート15をセットした後、上下型の開閉方向と交差する横方向へと移動し、係止部空間t及び円環状空間sを形成するコア部を有するスライドコア19をセットする。その後、上下型17,18のキャビティにストッパゴム14及びプレートゴム14aの形成材料となる射出成形用ゴム部材を注入し、キャビティに射出成形用ゴム部材を充填して、加硫成型する。
【0024】
栓部17aにより、プレートゴム14aの成形時、プレートゴム14aに係止用孔16に連通する係止部空間tが開けられる。
これにより、ストッパプレート15の裏面15aが、係止用孔16に連通する係止部空間tを有して、プレートゴム14aに覆われると共に、外側部材13の上部上方に露出するストッパゴム14とプレートゴム14aとの間に円環状空間sを有するストラットマウント10が形成される。
【符号の説明】
【0025】
10 ストラットマウント
11 ピストンロッド
12 内筒部材
12a ロッド用開口
13 外側部材
13a 円筒部
14 ストッパゴム
14a プレートゴム
15 ストッパプレート
15a 裏面
16 係止用孔
17 上型
17a 栓部
18 下型
19 スライドコア
19a 突出部
F 係止部
f 先端屈曲部
s 円環状空間
t 係止部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショックアブソーバのピストンロッドの上端部が差し込まれ固定される内筒部材と、前記内筒部材を外側から取り囲み車体側に取り付け固定される外側部材と、前記内筒部材と前記外側部材の間に介在して両部材を結合する弾性部材とを有し、搬送手段による搬送を可能とするストラットマウントにおいて、
前記内筒部材に、前記外側部材の上部上方に露出する前記弾性部材に対向して位置し、前記搬送手段の係止部が入り込む係止用孔が開けられたストッパプレートを形成し、
前記ストッパプレートの弾性部材対向面を覆うストッパ弾性部材を有することを特徴とするストラットマウント。
【請求項2】
請求項1に記載のストラットマウントを形成するストラットマウント成形用金型であって、
前記ストッパプレートの係止用孔に入り込む栓部を有する型、及び前記外側部材の裏面側に前記ストッパゴムを回り込ませる凹部を有する型からなる、上下方向に開閉する一対の上下金型と、
前記上下金型の開閉方向と交差する横方向へと移動し、前記係止部空間及び前記円環状空間を形成するコア部を有するスライドコアとを有し、
前記上下金型のキャビティに成形用ゴム部材を注入充填してストラットマウントを成形することを特徴とするストラットマウント成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−207703(P2012−207703A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72670(P2011−72670)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】