説明

ストリップ材処理装置

【課題】ストリップ材の温度を幅方向に均一化できるストリップ材処理装置を提供する。
【解決手段】ストリップ材処理装置1は、ヒータ14を有する循環ダクト15の下流側をストリップ材8の幅方向に区分してなり、ストリップ材8の幅方向に並んでストリップ材8に熱風を吹き付ける複数の熱風吹き付け手段18と、熱風吹き付け手段18の下流側で、ストリップ材8の幅方向の温度分布を計測する測温手段20と、測温手段20の検出結果に応じて、ストリップ材8の幅方向の温度差を低減するように、熱風吹き付け手段18毎に、ダンパ16の開度を調節することで吹き付ける熱風の風量を調節する熱風調節手段21とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はストリップ材処理装置に関する
【背景技術】
【0002】
特許文献1および2には、誘導加熱を利用したストリップ材の処理装置が記載されている。誘導加熱は、ストリップ材自身を発熱させる直接加熱方式であり、投入電力に応じて発熱量がリニアに変化するので温度制御のレスポンスが高い。また、誘導加熱は、単位面積当たりの加熱量を大きくできるため、処理装置を小さくできるというメリットがある。
【0003】
しかしながら、誘導加熱は、加熱コイルの形状や配置に応じて、発熱量にムラができるため、ストリップ材の温度が幅方向に不均一になるという欠点がある。ストリップ材の誘導加熱において、幅方向の温度差を低減するために、加熱コイルの形状や配置を工夫する試みがなされているが、ストリップ材の高度な熱処理には不十分である。
【0004】
このため、加熱の均一性に対する要求が高い場合、ストリップ材の熱処理に誘導加熱を用いるとしても、誘導加熱は、ストリップ材に与える熱量の一部を担うことができるに過ぎず、均一な加熱が可能な放射方式や強制対流方式等の間接加熱に依存する度合いが高く、装置の小型化には不満が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−15873号公報
【特許文献2】特開平10−180181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記問題点に鑑みて、誘導加熱によるストリップ材の幅方向の温度のばらつきを補償する装置を追加できれば、誘導加熱の寄与率を高めて、処理装置の小型化が可能となる。
【0007】
そこで、本発明は、ストリップ材の温度を幅方向に均一化できるストリップ材処理装置を提供することと課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明によるストリップ材処理装置は、ストリップ材の幅方向に並んで、それぞれ、前記ストリップ材に熱風を吹き付けることで前記ストリップ材を加熱する複数の熱風吹き付け手段と、前記熱風吹き付け手段の下流側で、前記ストリップ材の幅方向の温度分布を計測する測温手段と、前記測温手段の検出結果に応じて、前記ストリップ材の幅方向の温度差を低減するように、前記熱風吹き付け手段毎に、吹き付ける熱風の風量および温度の少なくともいずれかを調節する熱風調節手段とを有するものとする。
【0009】
この構成によれば、ストリップ材の幅方向に吹き付ける熱風の条件を変えて、ストリップ材の加熱量をそれぞれ制御できるので、ストリップ材の幅方向の温度のばらつきを矯正して温度を均一にできる。
【0010】
また、本発明のストリップ材処理装置において、前記熱風吹き付け手段は、前記ストリップ材の搬送方向に並んだ複数のノズルを有してもよい。
【0011】
この構成によれば、熱風の吹きつけを多段にすることで、加熱量を大きくでき、温度ムラの大きいストリップ材も均温化できる。
【0012】
また、本発明のストリップ材処理装置において、前記熱風吹き付け手段は、ヒータを有するダクトの前記ヒータの下流側を前記ストリップ材の幅方向に区分してなる区分ダクトからなり、前記熱風調節手段は、前記区分ダクトにそれぞれ配設されたダンパを備えてもよい。
【0013】
この構成によれば、熱風吹き付け手段が1つのヒータを共有することができる。また、熱風調節手段は、それぞれダンパの開度を調節するので、ヒータの電流を個別に制御する必要がない。
【0014】
また、本発明のストリップ材処理装置において、前記熱風吹き付け手段は、前記ストリップ材の両面に熱風を吹き付けて、その風圧によって前記ストリップ材を保持してもよい。
【0015】
この構成によれば、ストリップ材を案内する機能を有するので、ガイドローラなどの案内機構が不要である。
【0016】
また、本発明のストリップ材処理装置において、前記熱風吹き付け手段の上流側および前記熱風吹き付け手段と前記測温手段との間の少なくともいずれかに、前記ストリップ材を誘導加熱する誘導加熱コイルを有してもよい。
【0017】
この構成によれば、ストリップ材の搬送長さ当たりの出力が大きい誘導加熱を用いて装置を小型化しながら、誘導加熱による加熱ムラを矯正してストリップ材の均質な熱処理を達成できる。また、前記熱風吹き付け手段と前記測温手段との間に誘導加熱コイルを設けることで、ストリップ材をムラなく、1000℃を超えるような高温に加熱することもできる。
【0018】
また、本発明のストリップ材処理装置において、前記熱風吹き付け手段の下流側に、さらに、間接加熱によって前記ストリップ材を加熱する処理室を有してもよい。
【0019】
この構成によれば、温度ムラをなくしたストリップ材を、さらに間接加熱によって均一に加熱することで、処理温度に保持される時間のばらつきをなくすことができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、ストリップ材の幅方向に吹き付ける熱風の条件を変えて、ストリップ材の加熱量をそれぞれ制御することで、ストリップ材の幅方向の温度のばらつきを矯正して温度を均一にできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態のストリップ材処理装置の概略構成図。
【図2】図1のストリップ材処理装置の誘導加熱コイルおよび調温プレッシャパッドの斜視図。
【図3】図2の調温プレッシャパッドの制御の構成図。
【図4】図2の調温プレッシャパッドによる温度補償を例示する温度分布図。
【図5】本発明の第2実施形態のストリップ材処理装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明の第1実施形態であるストリップ材処理装置1の概要を示す。ストリップ材処理装置1は、出力3.0MWの誘導加熱コイル2を備える誘導加熱室3と、本発明に係る調温プレッシャパッド4を備える温度差補償室5と、出力0.5MWの抵抗発熱体6を備える間接加熱室7とを有する。ストリップ材8は、ガイドローラ9によって案内され、誘導加熱室3に供給され、温度差補償室5を通過し、間接加熱室7において最終目標温度まで加熱され、プレッシャパッド10によって案内されて、次工程に搬出される。
【0023】
ストリップ材処理装置1には、例えば、幅1250mm、厚さ0.3mmのステンレス鋼からなる常温のストリップ材8が、100m/minの速度で供給される。ストリップ材8は、誘導加熱室3において約630℃に加熱され、温度差補償室5において約640℃に加熱され、間接加熱室7において、最終目標温度である700℃まで加熱される。
【0024】
図2に、調温プレッシャパッド4および誘導加熱コイル2の詳細を示す。誘導加熱コイル2は、ストリップ材8の表裏に対称に配置した導体11と、導体11が発生する磁界を案内してストリップ材8に交磁させる複数の加熱コア12とを有する。
【0025】
調温プレッシャパッド4は、ストリップ材8の表裏に、それぞれ、最大風量700M/minのブロワ13および出力10万kcal/h(116kW)のヒータ14を備え温度差補償室5内の空気を加熱しながら循環させる循環ダクト15を有する。循環ダクト15は、ヒータ14の下流が、仕切り板によってストリップ材8の幅方向に5つに区分され、それぞれにダンパ16が設けられた5つの区分ダクト17を構成する。
【0026】
各区分ダクト17は、ストリップ材8に沿って延伸し、ストリップ材8に熱風を吹き付ける3つのノズル18を備える。各区分ダクト17のノズル18は、ストリップ材8の幅方向に並んで配置されている(熱風吹き付け手段)。調温プレッシャパッド4は、誘導加熱室3と間接加熱室7との間で、ストリップ材8に熱風を吹き付けることにより、その風圧によってストリップ材8を保持し、ストリップ材8のブレを防止する役割も果たす。
【0027】
また、調温プレッシャパッド4は、中央の区分ダクト17内を通過する熱風の温度を計測する温度センサ19とを有する。また、調温プレッシャパッド4の下流側には、ノズル18から熱風を吹き付けられたストリップ材8の幅方向の温度分布を赤外線によって走査検出するスキャニングパイロメータ20(測温手段)が配設されている。
【0028】
図3に、調温プレッシャパッド4の制御に係る構成を示す。調温プレッシャパッド4は、スキャニングパイロメータ20が検出したストリップ材8の温度分布から各区分ダクト17のノズル18の中央に正対する位置の温度を抽出し、それぞれ抽出した温度が共通の目標温度になるように、各ダンパ16の開度を調節して各区分ダクト17の風量をそれぞれPID制御する5つの風量コントローラ21(熱風調節手段)を有する。図では、ストリップ材8の表側のみ示されているが、風量コントローラ21は、ストリップ材8の裏側の対応位置のダンパ16も表側と同一開度に調節する。
【0029】
また、調温プレッシャパッド4は、温度センサ19が検出した熱風の温度が、所定の温度(例えば690℃)になるように、ヒータ14の出力をPID制御する温度コントローラ22を有する。ヒータ14が共通であるので、各区分ダクト17を通過する熱風の温度は同じである。
【0030】
図4に、誘導加熱室3の出口におけるストリップ材8の幅方向の温度分布と、温度差補償室5の出口におけるストリップ材8の幅方向の温度分布とを示す。図示するように、誘導加熱室3において加熱されたストリップ材8は、幅方向の温度分布が、25箇所の測定点について最低620℃から最高638℃まで、最大18℃、標準偏差5.7℃のばらつきがある。このようなばらつきは、直接加熱方式である誘導加熱の特性上、不可避である。
【0031】
温度差補償室5の調温プレッシャパッド4は、各区分ダクト17の中央に正対する代表位置のストリップ材8の温度を目標温度である638℃にするように、風量コントローラ21によって各ダンパ16の開度を調節する。これにより、温度差補償室5の出口におけるストリップ材8の温度分布は、最低636℃から最高643℃まで、最大7℃、標準偏差1.8℃と、ばらつきが小さくなっている。
【0032】
このように、温度差補償室5で温度ムラを除去したストリップ材8を、間接加熱室7において、抵抗発熱体6の放射熱によってさらに均一に加熱し、最終目標温度である700℃まで昇温する。これにより、ストリップ材処理装置1では、最終目標温度に到達するまでの時間のムラも小さく、ストリップ材8を均一に熱処理することができる。
【0033】
本実施形態では、誘導加熱コイル2による加熱ムラを、調温プレッシャパッド4によって補償できるため、ストリップ材8を最終目標温度まで加熱するのに必要な熱量の多くを加熱ムラのある誘導加熱コイル2に負担させ、均一な加熱ができる抵抗発熱体6の負担割合を小さくすることができる。誘導加熱コイル2による誘導加熱は、抵抗発熱体6による放射加熱や強制対流方式等の他の間接加熱方式に比べて、ストリップ材8の単位面積当たりの加熱量を大きくできるので、ストリップ材処理装置1の全長を短くできる。
【0034】
本実施形態では、調温プレッシャパッド4のノズル18を3列設けてあるため、上記ストリップ材8の最大20℃程度の温度ムラを補償することができるが、補償すべき温度差に応じて、ノズル18の列数を変えてもよい。また、補償すべき温度差が大きければ、ヒータ14の容量も大きくする必要があることにも注意が必要である。
【0035】
さらに、本実施形態では、ダンパ16によってノズル18からストリップ材8に吹き付けられる熱風の風量を調節しているが、各区分ダクト17にそれぞれヒータを設けて、各区分ダクト17の熱風の温度を調節するようにしてもよい。
【0036】
また、本発明では、ストリップ材8の片面に吹き付ける熱風の風量または温度のみを調節してもよい。
【0037】
続いて、図5に、本発明の第2実施形態のストリップ材処理装置1の構成を示す。尚、本実施形態において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0038】
本実施形態のストリップ材処理装置1は、温度差補償室5と間接加熱室7との間に、さらに、誘導加熱コイル23によってストリップ材8を誘導加熱する第2誘導加熱室24を有する。また、本実施形態のスキャニングパイロメータ20は、誘導加熱コイル23の下流側でストリップ材8の温度分布を走査検出するように配設されている。
【0039】
本発明に係る調温プレッシャパッド4は、熱風を循環させてストリップ材8を加熱するものであるため、700℃を超えるような高温で使用すると熱伝達効率が低下する。よって、本実施形態では、調温プレッシャパッド4の下流側に第2誘導加熱室24を設け、予め、誘導加熱コイル23による加熱量が少ない部分の温度を高くしておくことで、ストリップ材8を1000℃以上の高温に、均一に加熱することを可能にしている。
【0040】
本実施形態では、ストリップ材8は、誘導加熱室3において平均約630℃まで加熱され、温度差補償室5において平均約640℃まで加熱され、第2誘導加熱室24において全体が略1040℃にまで加熱され、間接加熱室7において平均1100℃まで均一に加熱される。
【0041】
本発明では、熱風吹き付け手段(調温プレッシャパッド4のノズル18)を、測温手段(スキャニングパイロメータ20)の上流側の任意の位置に配設できる。つまり、上述の実施形態において、誘導加熱コイル2のさらに上流側に調温プレッシャパッド4を配置してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…ストリップ材処理装置
2…誘導加熱コイル
3…誘導加熱室
4…調温プレッシャパッド
5…温度差補償室
6…抵抗発熱体
7…間接加熱室
8…ストリップ材
13…ブロワ
14…ヒータ
15…循環ダクト
16…ダンパ
17…区分ダクト
18…ノズル(熱風吹き付け手段)
19…温度センサ
20…スキャニングパイロメータ(測温手段)
21…風量コントローラ(熱風調節手段)
23…誘導加熱コイル
24…第2誘導加熱室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストリップ材の幅方向に並んで、それぞれ、前記ストリップ材に熱風を吹き付けることで前記ストリップ材を加熱する複数の熱風吹き付け手段と、
前記熱風吹き付け手段の下流側で、前記ストリップ材の幅方向の温度分布を計測する測温手段と、
前記測温手段の検出結果に応じて、前記ストリップ材の幅方向の温度差を低減するように、前記熱風吹き付け手段毎に、吹き付ける熱風の風量および温度の少なくともいずれかを調節する熱風調節手段とを有することを特徴とするストリップ材処理装置。
【請求項2】
前記熱風吹き付け手段は、前記ストリップ材の搬送方向に並んだ複数のノズルを有することを特徴とする請求項1に記載のストリップ材処理装置。
【請求項3】
前記熱風吹き付け手段は、ヒータを有するダクトの前記ヒータの下流側を前記ストリップ材の幅方向に区分してなる区分ダクトからなり、
前記熱風調節手段は、前記区分ダクトにそれぞれ配設されたダンパを備えることを特徴とする請求項1または2に記載のストリップ材処理装置。
【請求項4】
前記熱風吹き付け手段は、前記ストリップ材の両面に熱風を吹き付けて、その風圧によって前記ストリップ材を保持することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のストリップ材処理装置。
【請求項5】
前記熱風吹き付け手段の上流側および前記熱風吹き付け手段と前記測温手段との間の少なくともいずれかに、前記ストリップ材を誘導加熱する誘導加熱コイルを有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のストリップ材処理装置。
【請求項6】
前記熱風吹き付け手段の下流側に、さらに、間接加熱によって前記ストリップ材を加熱する処理室を有することを特徴とする請求項5に記載のストリップ材処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−163634(P2010−163634A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4686(P2009−4686)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000211123)中外炉工業株式会社 (170)
【Fターム(参考)】