説明

ストレス適応形成を促進させる機能性飲食品

【課題】心身ストレスに対して、中枢神経を抑制することなく、安全性が高く、しかもストレスに対する優れた適応形成を促進することが可能な機能性飲食品を提供する。
【解決手段】アスコルビン酸とアスコルビン酸誘導体から選択された少なくとも1つと、βグルカンとを有効成分として含有させることにより、これら成分の相乗効果により、中枢神経を抑制することなく、安全で低コストでストレスに対する適応形成を促進させる効果のある機能性飲食品を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は機能性飲食品に関し、とくに、精神的又は肉体的ストレスによる反応低下を予防し、ストレスに対する適応形成を促進させる機能性飲食品に関する.
【背景技術】
【0002】
現代人を取り巻くライフスタイルにおいて、紫外線、電磁波、排ガス等による大気汚染、食品添加物、対人関係、仕事、癌などの病気やケガなどの環境変化により多種多様な身体的・精神的ストレスに曝されている。そのストレスに対して心身は適応形成をすることができず、様々な健康障害を受ける。すなわち、ストレス負荷時に、生体では自律神経の交感神経が活発となる。このとき、副腎にアドレナリンとノルアドレナリンのホルモンを放出させ、肉体も精神も昂進状態となる。その結果、脳の視床下部から副腎皮質刺激ホルモン出因子(CRF)が放出され、これにより下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌され、ACTHによって副腎皮質からコルチゾール(カタボリックホルモンとして知られる)が分泌される。これらのストレスホルモンは緊急事態のストレスを避けるのには有効であるが、生体がこのような慢性的なストレスを長期にわたって受けると、ストレスホルモンのレベルをモニターする視床下部のセンサーの感受性が低下するように調整される。すなわち、生体において、脳はストレスホルモンの増大を感知してそれに適応するために受容体の感受性を低下させるように機能する。このように受容体感受性が低下すると生体は慢性的なストレスホルモン漬けとなり、内臓や細胞及び生理的な免疫活性物質の消耗が増大する。このようにアドレナリン/コルチゾールが過剰に発生すると身体は適応形成が不可能となり、心臓発作、脳卒中、骨密度減少、免疫系の低下、体重の増加や減少、過食や食欲不振、記憶力の減退、不眠、潰瘍及び皮膚の老化の原因となる。身体的或いは精神的ストレスによって、種々の疾患が急増することについては研究論文でも報告されている(Siltamen,P.,Cli.Res.,16,142−155,1984)。
【0003】
このようなストレスによる適応形成の低下及びその予防策として、生体にベンゾジアン系の抗不安薬を投与して中枢神経系を抑制することで外界からのストレスを一時的に遮断することにより本人の立ち直りを促進することが提案されている。この薬品は安全性は高いものの、連続的な運用により多少の習慣性や副作用を伴う可能性があった。このようにストレスに対して抗不安薬を用いて中枢神経を抑制すると適正な判断や適応が困難となるため、本来の防御機構としての適応を阻害してしまうことに繋がる。この問題点の解決策として、カカオ豆由来抽出物を含有する機能性飲食品を生体に経口投与することでストレスに対する適応形成を改善することが提案されていた(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】 日本国特許第3594152号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ストレス負荷時には、体内で蓄積されていたアスコルビン酸が大量に消費され、アスコルビン酸の枯渇状態が生ずるため、ストレス負荷時に体内で生じた活性酸素を十分に消去することが困難となって前述したような種々の疾患が急増する。前記特許で提案されたカカオ豆由来抽出物を含有する機能性飲食品では、前述の問題点を解決できない。また、癌などの病気に罹って抗癌剤などの化学治療又は放射線治療を受けた際には体内に大量の活性酸素が生じ、このとき免疫細胞の中で、マクロファージは活性酸素を消去する作用をする。そのとき、マクロファージの周辺には元々、大量(マクロファージ周辺の血液の濃度の40倍)のアスコルビン酸が集中しているが、ストレス負荷時に前述したように大量のアスコルビン酸が大量消費されると、マクロファージの周辺のアスコルビン酸の濃度が枯渇状態となり、マクロファージの免疫機能が著しく低下して、益々、ストレス負荷時における生体の適応形成が低下して、前述したような種々の疾患が急増する。
【0006】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、従来の如く抗不安薬を用いることなく、安全で副作用のない、ストレス負荷時における生体の適応形成の低下を軽減する効果を有する機能性飲食品を提供するようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載された発明では、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体及びアスコルビン酸塩から選択された少なくとも一つの成分と、βグルカンとを有効成分として含有することにより、これら成分の相乗効果により、ストレスに対する適応形成を促進させる効力を示す機能性飲食品を提供することを特徴とする。
【0008】
このような機能性飲食品によれば、慢性的なストレス負荷時においてアスコルビン酸又はアスコルビン酸誘導体とβグルカンを同時に経口投与することで、そのストレス負荷時に生ずるアスコルビン酸の枯渇状態を防いで、マクロファージの活性度を高めることで、適応形成を効率的に促進することが可能となる。
【0009】
請求項2に記載された発明では、機能性飲食品が葉酸と、パントテン酸と、ナイアシンとB12からなるビタミンB群をさらに含有することを特徴とする。
【0010】
このような第2発明の機能性飲食品によれば、葉酸と、パントテン酸と、ナイアシンとB12からなるビタミンB群をさらに含有させることで、体内における正常な細胞分裂や造血作用を促して、生体の適応形成への悪影響を軽減してストレスに対しての適応形成をさらに効果的に促進することが可能となる。
【0011】
さらに、請求項3に記載された機能性飲食品がさらに、SOD及びSOD用食品から選ばれた少なくとも1種の活性酸素消去成分とを含むことを特徴とする。
【0012】
このように請求項3に記載された機能性飲食品によれば、最も活性酸素消去能に優れた活性酸素消去成分としてのSODを含むことで、ストレス負荷時に生ずる活性酸素を効果的に消去して、生体の適応形成への悪影響を軽減してストレスに対しての適応形成をさらに効果的に促進することが可能となる。
【0013】
このように請求項4に記載された機能性飲食品は、さらにGABAを含む、ストレスに対する適応形成を促進させる効力を示すことを特徴とする。
【0014】
このように請求項4に記載された機能性飲食品によれば、GABAをさらに含有することにより、ストレス負荷時に生ずるイライラや興奮を緩和して、活性酸素の発生を抑制することで、生体の適応形成への悪影響を軽減してストレスに対しての適応形成をさらに効果的に促進することが可能となる。
【0015】
さらに、請求項5に記載された機能性飲食品がさらに、グルタミン及びグルタミンペプチドから選択された少なくとも1つの成分を含む、ストレスに対する適応形成を促進させる効力を示すことを特徴とする。
【0016】
このように請求項5に記載された機能性飲食品によれば、ストレス負荷時に体内において枯渇状態になる免疫細胞のエネルギー源及び栄養源としてのグルタミン成分の枯渇状態を解消することで、免疫細胞の本来の活性を確保して、生体の適応形成への悪影響を軽減してストレスに対しての適応形成をさらに効果的に促進することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に用いる「βグルカン」なる用語は、主にグルコース単位から構成される多糖類を意味し、例えば1,3−グリコシド結合、1,4−グリコシド結合又は1,6−グリコシド結合の多糖類が挙げられる。代表的なβグルカンとしては、パン酵母由来βグルカン、大麦やオーツ麦等の穀物由来βグルカン、黒酵母由来βグルカン及びキノコ由来βグルカンが挙げられる。これらのβグルカンはβ1,3/1,6D−グルカンと称されるものであるが、これらに限定されない。例えば、α(1→4)及びβ(1→6)結合によって結合した長鎖を形成し、この長鎖にマンノースとガラクトースが分岐したガラクトマンノグルカン(Galactomannoglucan)(特開平11−318432号参照)に示された様なβグルカンも含まれる。
【0018】
本発明のストレスに対しての適応形成用の機能性飲食品に用いられるアスコルビン酸としては、アスコルビン酸誘導体及びアスコルビン酸カルシウムなどのアスコルビン酸塩が挙げられる。
【0019】
本発明のストレスに対しての適応形成用の機能性飲食品としては、上記成分だけでなく、葉酸と、パントテン酸と、ナイアシンとB12を含むビタミンB群を含有する。また、ビタミンB群にはB1,B2,B6等を含ませても良い。
【0020】
本発明に用いる活性酸素消去成分としては、メロン由来SODやSOD用食品から選ばれた少なくとも1種の活性酸素消去用食品が挙げられる。
【0021】
本発明のストレスに対しての適応形成用の機能性飲食品に用いるGABAとは、グルタミン酸から生合成されるアミノ酸の一種で、γ−アミノ酪酸(Gamma−Amino Butyric Acid)からなる。GABAは主に生体の脳髄に存在し、中枢神経の神経伝達物質として関与しており、神経の主要な抑制性伝達物質として知られ、間脳の血流を活発にして脳細胞の代謝機能を高めるとともに、ストレスによる自律神経を緩和させることを目的として利用される。
【0022】
本発明のストレスに対しての適応形成用の機能性飲食品に用いられるグルタミンは体内における疾病・疲労などのストレス下で急増するグルタミンの消費量に対応したもので、免疫細胞・小腸細胞のエネルギー源として補給するために用いられる。グルタミンはグルタミンを豊富に含む小麦グルテンを発酵して得たグルタミンペプチドの形態ものを利用しても良い。
【0023】
本発明のストレスに対しての適応形成用の機能性飲食品の形態としては、特に限定するものではないが、粉末状、顆粒状、カプセル、錠剤に成形しても良い。また、その他の形態としては、食品素材、食品添加剤としても良く、或いは、シロップ剤、懸濁剤、ドリンク剤、流動食、清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、機能性調味料、ゲル状食品、プリン、ヨーグルト、菓子・ケーキ類、パン類、麺類、パスタ、チョコレート、キャンディ、チューインガム等の形態にしても良い。
【0024】
本発明のストレスに対しての適応形成用の機能性飲食品としては、βグルカンを10〜90重量%、好ましくは25〜50重量%と、10〜90重量%、好ましくは25〜50重量%のアスコルビン酸又はアスコルビン酸誘導体とを有効成分として含有する。さらに、機能性飲食品は5〜20重量%、好ましくは10〜15%の葉酸と、パントテン酸と、ナイアシンとB12からなるビタミンB群を含有する。さらに、機能性飲食品としては10〜90重量%、好ましくは25〜50重量%のSOD及びSOD用食品から選ばれた少なくとも1種の活性酸素消去成分とを有効成分として含有しても良い。なお、機能性飲食品としては10〜90重量%、好ましくは25〜50重量%のグルタミン及びグルタミンペプチドから選ばれた少なくとも1種のグルタミン成分を有効成分として含有しても良い。機能性飲食品の成人1人当たり1日の摂取量は10〜5000mg、好ましくは250〜3500mgの範囲である。一日あたりの摂取量が10mg未満であると十分なストレスに対しての適応形成が得られず、5000mgより多くても奏される効果はあまり変わらない。機能性飲食品の摂取量は被験者のストレス負荷状態などを考慮して前述の範囲で適宜決定することができる。
【0025】
本発明のストレスに対しての適応形成を効果的に促進する機能性飲食品は、成人1人当たり1日350mgを1〜3回に分けて摂取するのが好ましいが、夕食後に1日1050mgを一度に摂取しても良い
【0026】
本発明では、ストレス負荷時の適応形成の低下のパラメータとして、被験者負担の少ない唾液中の免疫グロブリンA(IgA)を測定した。これは、生体における免疫担当物質であり、外部からウイルス、細菌等の異物が進入した際、最初にこれら異物に対応して無毒化する免疫物質として機能するが、生体がストレスを受けた際、そのストレスによって低下する。そのため、IgA量の変化を測定することで生体のストレス状態を直接的に把握できるものとしてこの測定方式を採用した。
【0027】
本発明において唾液中のIgAの測定方法は特に限定されないが、安定で簡便な酵素免疫測定法(ELISA法)が好ましい。
【0028】
以下に本発明の試験例、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、その内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
ヒトによるストレス負荷試験
ストレス負荷試験を実施するに当たって、機能性飲食品として、大豆パウダーを充填したダミーのカプセルを試料(1)として準備した。200mgの純度91.3%のパン酵母由来β1,3/1,6−D−グルカン(当社製「ベータキング」)と150mgのアスコルビン酸誘導体(三共ライフテック社製)を配合した内容量350mgのカプセルを試料(2)として準備した。さらに、200mgの純度91.3%のパン酵母由来β1,3/1,6−D−グルカンと、100mgのアスコルビン酸誘導体と、葉酸と、パントテン酸と、ナイアシン及びB12(「VBマルチコート」日本油脂製)からなる50mgのビタミンB群とを配合した内容量350mgのカプセルを試料(3)として準備した。また、200mgの純度91.3%のパン酵母由来β1,3/1,6−D−グルカンと、100mgのアスコルビン酸誘導体と、50mgのSOD(商品名:STIMEOS、コンビ(株)社製)を配合した内容量350mgのカプセルを試料(4)として準備した。さらに、200mgの純度91.3%のパン酵母由来β1,3/1,6−D−グルカンと、100mgのアスコルビン酸誘導体と、50mgのGABA(協和発酵(株)製)を配合した内容量350mgのカプセルを試料(5)として準備した。また、200mgの純度91.3%のパン酵母由来β1,3/1,6−D−グルカンと、50mgのアスコルビン酸誘導体と、100mgのグルタミン(協和発酵(株)製)を配合した内容量350mgのカプセルを試料(6)として準備した。
【0030】
20代から50代の健康な男女からなるヒトボランティア18名を3名づつ6つのグループに分けてそれぞれ試料(1)〜(6)を朝晩1カプセルづつ1日2カプセルづつ摂取してもらった。それぞれ1日当たり、2カプセルづつを摂取して1週間後に、各グループに1時間の単純(単純数字計算)作業を実施してもらい、精神的疲労によるストレスが発生したものとして想定し、作業開始前、20分後、40分後、60分後に唾液を採取し、唾液中のIgA量の変動をELISA法によって測定した。
【0031】
試料(1)を摂取した状態で単純作業を実施した場合をControlとし、試料(2)を摂取したグループをA群、試料(3)を摂取したグループをB群、試料(4)を摂取したグループをC群、試料(5)を摂取したグループをD群とし、試料(6)を摂取したグループをE群とした。各グループに単純作業を実施し、唾液中のIgA量の変動をELISA法によって測定した。その結果を下記表に示す
【0032】
【表】

【0033】
(ストレス負荷試験に対する効果の確認)
上記表から明らかなように、Control群では作業開始前と比較してIgA量の低下が確認された。A群〜E群では本発明の飲料品(2)〜(6)の摂取により単純作業のストレス負荷を受けた状態でもIgA量の低下が抑制され、ストレスに対する適応形成の著しい改善が認められた。このように、本発明の機能性飲食品がストレス負荷に対して優れた適応形成改善効果を有することが明らかとなった。
【産業上の利用の可能性】
【0034】
以上のように、本発明の機能性飲食品によれば、ストレス発生時における免疫能の低下に伴う鬱状態を改善することでストレスに対する重要な防御機構である適応形成効果を促進し、外界からのストレスを積極的に認知して対処させる効果が期待でき、また、日常的に連用しても安全性が高く、副作用もなく、産業上の利用価値は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体及びアスコルビン酸塩から選択された少なくとも一つの成分と、βグルカンとを有効成分として含有することにより、ストレスに対する適応形成を促進させる効力を示すことを特徴とする機能性飲食品。
【請求項2】
請求項1において、さらに、葉酸と、パントテン酸と、ナイアシンとB12からなるビタミンB群を含む、ストレスに対する適応形成を促進させる効力を示すことを特徴とする機能性飲食品。
【請求項3】
請求項1において、さらに、SOD及びSOD用食品から選ばれた少なくとも1種の活性酸素消去成分とを含む、ストレスに対する適応形成を促進させる効力を示すことを特徴とする機能性飲食品。
【請求項4】
請求項1において、さらに、GABAを含む、ストレスに対する適応形成を促進させる効力を示すことを特徴とする機能性飲食品。
【請求項5】
請求項1において、さらに、グルタミン及びグルタミンペプチドから選択された少なくとも1つの成分を含む、ストレスに対する適応形成を促進させる効力を示すことを特徴とする機能性飲食品。

【公開番号】特開2007−190002(P2007−190002A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34416(P2006−34416)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(598053927)エルソン株式会社 (6)
【Fターム(参考)】