説明

スパッタリングターゲットの製造方法、スパッタリングターゲットの洗浄方法、スパッタリングターゲット及びスパッタリング装置

【課題】突発的なパーティクルの発生を低減し、膜質及び薄膜製造効率の向上を実現することができるスパッタリングターゲットの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、マグネトロンスパッタリング装置用のスパッタリングターゲットの製造方法であって、ターゲット本体を準備し、前記ターゲット本体表面の非エロージョン領域をブラスト処理し、前記非エロージョン領域を超音波洗浄し、前記超音波洗浄した前記非エロージョン領域をエッチングし、または洗浄液でジェット洗浄し、前記非エロージョン領域を再度超音波洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ物の付着に起因して発生するパーティクルの発生を抑制できるスパッタリングターゲットの製造方法、スパッタリングターゲットの洗浄方法、スパッタリングターゲット及びスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高品質金属膜の成膜方法の1つにマグネトロンスパッタリング法がある。スパッタリング法は、概略的に、真空中でアルゴンガスのプラズマを生成し、カソード電極に固定したターゲットにアルゴン(Ar)イオンを衝突させ、ターゲットの表面から飛散したターゲットの構成原子を含むスパッタ粒子を成膜対象である基板上に堆積させる成膜方法である。マグネトロンスパッタリング法は、さらに、ターゲット表面に磁場を形成し、ターゲット付近に高密度プラズマを生成することで成膜速度の高速化を図る成膜方法である。
【0003】
一般に、ターゲットは、カソード電極であるバッキングプレートの上に接合される。マグネトロンスパッタリング法においては、バッキングプレートの裏側に、ターゲット表面に磁場を形成するための永久磁石又は電磁石が配置される。典型的には、磁石は、ターゲットの中心部分及び周辺部分に比べて、これら中間部分と周辺部分の中間部分の方が、磁場が大きくなるように配置される。この場合、スパッタ効率は、ターゲットの中間領域で高く、ターゲットの中心部分と周辺部分では小さい。スパッタ効率の高い領域は、スパッタ効率の低い領域に比べて大きな侵食作用を受ける。通常、スパッタ効率の高い領域はエロージョン領域(侵食領域)と呼ばれ、スパッタ効率の低い領域は非エロージョン領域(非侵食領域)と呼ばれている(特許文献1参照)。
【0004】
このマグネトロンスパッタリング法においては、エロージョン領域からのスパッタ粒子が基板の上に堆積することで、薄膜が形成される。一方、そのスパッタ粒子の一部はターゲット表面の非エロージョン領域にも堆積する。この場合、非エロージョン領域上の堆積物は、スパッタリングの進行に伴って厚みが増大し、自身の内部応力によってターゲット表面から剥離する。ターゲット表面から剥離した堆積物が基板上に形成される薄膜中に異物(パーティクル)として混入すると、重大な品質不良を招く場合がある。
【0005】
この問題の解決策として、ターゲットの非エロージョン領域をブラスト処理によって粗面化し、堆積物の密着度を高める方法が提案されている。例えば特許文献2には、ターゲット表面をブラスト処理して、連続生産可能バッチ数を増加させることが記載されている。また、特許文献3には、ターゲット表面をブラスト処理する際の、ブラスト材のより効果的な硬度、粒径について開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−90576号公報
【特許文献2】特開平4−301074号公報
【特許文献3】特開平7−316804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ターゲットの非エロージョン領域をブラスト処理するだけでは、ターゲット表面からの堆積物の剥離を抑制するには不十分であるという問題がある。
【0008】
すなわち、ターゲット表面へのブラスト処理により、ターゲット表面に付着した堆積物の剥離が抑えられて定常的なパーティクルの発生は低減されるが、ターゲット表面への堆積物の密着度は安定しておらず、しばしば突発的に多量のパーティクルが発生する場合が存在する。そして、この突発的に発生するパーティクルが膜質に重大な影響を与え、歩留まりを低下させるという問題が生じている。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、突発的なパーティクルの発生を低減し、膜質及び薄膜製造効率の向上を実現することができるスパッタリングターゲットの製造方法、スパッタリングターゲットの洗浄方法、スパッタリングターゲット及びスパッタリング装置を提供することを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するに当たり、本発明者らは鋭意検討した結果、突発的に発生する多量のパーティクルは、ターゲット表面に残留するブラスト材の上に付着した堆積物の剥離に原因があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、マグネトロンスパッタリング装置用のスパッタリングターゲットの製造方法であって、ターゲット本体を準備し、前記ターゲット本体表面の非エロージョン領域をブラスト処理し、前記非エロージョン領域を超音波洗浄し、前記超音波洗浄した前記非エロージョン領域をエッチングし、または洗浄液でジェット洗浄し、前記非エロージョン領域を再度超音波洗浄する。
【0012】
本発明では、ターゲット本体表面の非エロージョン領域(ブラスト処理領域)をブラスト処理した後、まず、超音波洗浄によってターゲット本体の表面を洗浄する。これにより、非エロージョン領域に残留するブラスト材のうち、ターゲット本体に対する付着力が比較的弱いブラスト材を除去することができる。
【0013】
ここで、「非エロージョン領域」は、本発明に係るスパッタリングターゲットの実使用時に現れるエロージョン領域以外の領域を意味する。以下の説明においても同様である。非エロージョン領域は、スパッタリングターゲットの上記エロージョン領域が属する表面部分だけに限らず、スパッタリングターゲットの側面も含まれてもよい。
【0014】
次に、超音波洗浄した非エロージョン領域をエッチング又はジェット洗浄する。この工程は、エッチング処理でブラスト材とターゲット本体の境界部分を少量溶融させることによって、又は、ジェット洗浄でブラスト材に物理的衝撃を与えることによって、非エロージョン領域に残留するブラスト材とターゲット本体の間の付着力を弱める。
【0015】
その後、非エロージョン領域を再度超音波洗浄する。これにより、ターゲット本体に対して付着力が弱められたブラスト材を容易に除去することが可能となる。
【0016】
以上の一連の処理により、ターゲット本体の非エロージョン領域に残留するブラスト材の除去効率が高まるので、清浄な表面状態の非エロージョン領域を有するスパッタリングターゲットを得ることができる。これにより、非エロージョン領域に残留するブラスト材に起因した突発的な多量のパーティクルの発生を抑制し、安定した薄膜形成プロセスと、高品質のスパッタ薄膜を形成することが可能となる。
【0017】
本発明において、前記ブラスト処理する工程は、前記非エロージョン領域の表面粗さ(算術平均表面粗さ:Ra)を1μm以上4μm以下に粗面化する。Raが1μm未満の場合はブラスト処理による効果がほとんどないからであり、Raが4μmを超える場合はターゲット表面の高低差が大きくなり過ぎて堆積物の密着度が低下するからである。
【0018】
本発明において、前記非エロージョン領域を超音波洗浄する工程は、18kHz以上19kHz以下の周波数の超音波を印加した洗浄液の噴流で前記非エロージョン領域を洗浄する。上記周波数の範囲の超音波を印加した洗浄液は、キャビテーション発生による洗浄効果が高いからである。
【0019】
また、本発明のスパッタリングターゲットの洗浄方法は、表面の少なくとも一部にブラスト処理が施されたスパッタリングターゲットの洗浄方法であって、前記スパッタリングターゲットのブラスト処理領域を超音波洗浄し、前記超音波洗浄した前記ブラスト処理領域をエッチングし、又は洗浄液でジェット洗浄し、前記ブラスト処理領域を再度超音波洗浄する。
【0020】
以上のようにして製造又は洗浄されたスパッタリングターゲットは、ターゲット本体と、前記ターゲット本体の表面の一部を構成し、スパッタによって侵食されるエロージョン領域と、前記ターゲット本体の表面の他の一部を構成し、表面粗さ(Ra)が1μm以上4μm以下であり、かつ、円相当直径10μm以上のブラスト材の個数が1平方センチメートル当たり4個以下である非エロージョン領域とを具備する。
【0021】
本発明のスパッタリングターゲットにおいては、ブラスト処理で粗面化された非エロージョン領域は清浄な表面状態を有している。これにより、非エロージョン領域に残留するブラスト材に起因した突発的な多量のパーティクルの発生を抑制し、安定した薄膜形成プロセスと、高品質のスパッタ薄膜を形成することが可能となる。
【0022】
本発明においては、ターゲット本体の構成材料は、金属元素又はそれを主成分とする合金からなる。金属元素としては、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、タンタル(Ta)、金(Au)、銀(Ag)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)が挙げられるが、これに限られない。
【0023】
一方、本発明のスパッタリング装置は、真空槽と、前記真空槽の内部に設置された基板支持台と、前記基板支持台に対向して配置され、ターゲット本体と、前記ターゲット本体の表面の一部を構成し、スパッタによって侵食されるエロージョン領域と、前記ターゲット本体の表面の他の一部を構成し、表面粗さ(Ra)が1μm以上4μm以下であり、かつ、円相当直径10μm以上のブラスト材の個数が1平方センチメートル当たり4個以下である非エロージョン領域とを有するスパッタリングターゲットと、前記スパッタリングターゲットの表面に磁場分布を形成する磁気回路とを具備する。
【0024】
本発明のスパッタリング装置においては、スパッタリングターゲットの非エロージョン領域は清浄な表面状態を有している。これにより、非エロージョン領域に残留するブラスト材に起因した突発的な多量のパーティクルの発生を抑制し、安定した薄膜形成プロセスと、高品質のスパッタ薄膜を形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
以上述べたように、本発明によれば、非エロージョン領域に残留するブラスト材に起因した突発的な多量のパーティクルの発生を抑制することができる。これにより、安定した薄膜形成プロセスと、高品質のスパッタ薄膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0027】
図1は、本発明の実施形態によるマグネトロン方式のスパッタリング装置20の概略構成図である。本実施形態のスパッタリング装置20は、真空排気配管1及びガス配管2が設けられた真空槽3を有している。真空排気配管1には真空ポンプ(図示略)が接続されている。ガス配管2は、真空槽3の内部にプロセスガス(水素、酸素、又は窒素、アルゴン等の不活性ガス、反応ガス等)を導入する。真空槽3の内部には、スパッタリングカソード4と、これに対向する位置に半導体ウエハやガラス基板等の基板Sを支持するための支持台5が設置されている。真空槽3及び支持台5は、グラウンド電位に接続されている。
【0028】
スパッタリングカソード4は、スパッタリングターゲット(以下単に「ターゲット」ともいう。)6と、バッキングプレート7と、絶縁板8と、フレーム9と、アースシールド10とを有する。
【0029】
ターゲット6は、バッキングプレート7に接合されている。バッキングプレート7は、絶縁板8を介してフレーム9に固定されている。バッキングプレート7の内部には、ターゲット6を冷却するための冷却媒体が循環する循環通路(図示略)が形成されている。バッキングプレート7は、所定の高電圧のマイナス電位源又は高周波電力源が接続され、フレーム9は、真空槽3を介してグラウンド電位に接続されている。ターゲット6の周囲には、バッキングプレート7、絶縁板8及びフレーム9がスパッタされるのを防止するアースシールド10が設置されている。アースシールド10は、フレーム9に固定されている。
【0030】
バッキングプレート7のターゲット6とは反対側の面すなわち背面側には、ターゲット6の表面に磁場分布を形成するための磁気回路21が設置されている。この磁気回路21は、ヨーク11と、ヨーク11の上に配置されたリング状の永久磁石12aと、その中央に配置された棒状の永久磁石12bで構成されている。磁石12aと磁石12bは、バッキングプレート7に対し、互いに異なる極性の磁極を向けて配置されている。その結果、ターゲット6の表面に、図1に示すような磁力線Mが形成される。この例では、磁石12a及び12bが対向するターゲット6の中心部と周辺部の間の中間領域上に、ターゲット表面と平行な磁場が形成されることになる。
【0031】
以上のように構成されるスパッタリング装置10においては、所定の真空度にまで排気された真空槽3の内部にガス配管2を介してアルゴンガスが導入される。バッキングプレート7には所定のマイナス電位の高電圧又は高周波電力が印加されており、これによりターゲット6と支持台5の間にアルゴンプラズマが形成される。アルゴンイオンは高速でターゲット6の表面に衝突し、ターゲット6の構成材料の原子を含む粒子(スパッタ粒子)が放出される。ターゲット6の表面から放出されたスパッタ粒子は、対向する基板Sの表面に付着し、薄膜を形成する。
【0032】
また、ターゲット6の表面に平行な磁場成分で二次電子によるアルゴン原子の衝突頻度が高められる。これにより、プラズマ密度が向上し、ターゲット6のスパッタ効率が高められて、成膜速度の高速化を実現することができる。
【0033】
ターゲット6の表面におけるプラズマ密度の分布によって、ターゲット6の表面の中心部分及び周辺部分に比べて、これらの中間部分においてプラズマ密度が高くなる。プラズマ密度の高い領域は、プラズマ密度の低い領域に比べて、ターゲット6のスパッタリング効率が高い。このため、ターゲット6の表面には、図2に示すようにスパッタリング効率の高いエロージョン領域6aと、スパッタリング効率の低い非エロージョン領域6bが形成される。非エロージョン領域6bは、ターゲット6の表面の中心部及び周辺部に対応し、エロージョン領域6aはこれらの中間部分に対応する位置(図2の網掛け部分)に環状に形成される。
【0034】
このマグネトロンスパッタリング法においては、エロージョン領域6aからのスパッタ粒子が基板Sの上に堆積することで、薄膜が形成される。一方、そのスパッタ粒子の一部はターゲット表面の非エロージョン領域6bにも堆積する。この場合、非エロージョン領域6b上の堆積物は、スパッタリングの進行に伴って厚みが増大し、自身の内部応力によってターゲット表面から剥離する。ターゲット表面から剥離した堆積物は、基板S上に形成される薄膜中に異物(パーティクル)として混入すると、重大な品質不良を招く場合がある。
【0035】
この問題を防止するために、ターゲット6の非エロージョン領域をブラスト処理によって粗面化し、スパッタ粒子の堆積物の剥離を抑制する方法が効果的である。しかし、非エロージョン領域のブラスト処理によりパーティクルの発生頻度は低減できるものの、突発的なパーティクルの発生を抑えることができない。このことは、非エロージョン領域に残留するブラスト材の上に付着した堆積物の剥離に原因があるという本発明者らの知見に基づく。
【0036】
そこで本実施形態では、ターゲット表面に残留するブラスト材を極力排除して、突発的なパーティクルの発生を回避し、高品質の薄膜形成を実現するようにしている。以下、本発明の実施形態によるターゲットの製造方法について説明する。
【0037】
図3はターゲットの製造方法を説明する工程フロー図である。本実施形態のターゲットの製造方法は、ターゲット本体を準備する工程と、ターゲット本体表面の非エロージョン領域をブラスト処理する工程(ST1)と、ブラスト処理した非エロージョン領域を超音波洗浄する工程(ST2)と、超音波洗浄した非エロージョン領域をエッチングする工程(ST3)と、非エロージョン領域を再度超音波洗浄する工程(ST4)とを有する。
【0038】
[ターゲット本体の準備工程]
まず、所定の大きさ、厚みのターゲット本体を準備する。ターゲット本体の形状は円形、楕円形、長孔形、正方形、長方形などの任意の幾何学的形状のものを用いることができる。ターゲット本体は、金属元素又はそれを主成分とする合金の成形体または焼結体で構成される。金属元素としては、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、タンタル(Ta)、金(Au)、銀(Ag)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)が挙げられるが、これに限られない。
【0039】
[ブラスト処理工程(ST1)]
この工程では、ターゲット本体の非エロージョン領域に対応する領域(以下単に「非エロージョン領域」という。)がブラスト処理によって粗面化される。本実施形態では、ターゲット本体のエロージョン領域に対応する領域(以下単に「エロージョン領域」という。)があらかじめフォトレジスト等のレジスト材その他のマスク材によってマスキングされることによって、非エロージョン領域が選択的にブラスト処理される。以下、このブラスト処理された非エロージョン領域を「ブラスト処理領域」ともいう。ブラスト処理領域は、ターゲット6の表面に限らず、その側周面も含まれる。
【0040】
ブラスト処理工程の結果得られる被処理面の表面粗さ(算術平均表面粗さ:Ra)は、例えば、1μm以上4μm以下とされる。Raが1μm未満の場合はブラスト処理による効果がほとんどないからであり、Raが4μmを超える場合はターゲット表面の高低差が大きくなり過ぎて堆積物の密着度が低下するからである。表面粗さは、ブラスト材の粒径、照射圧力、処理時間などで調整される。ブラスト材は、ターゲットの材質と用途によって、SiC、ガラスビーズ、アルミナなどから選択される。
【0041】
ブラスト処理により、照射されたブラスト材の一部がブラスト処理領域に付着あるいは突き刺さる等して残留する。ブラスト処理後、ブラスト処理領域にエアを吹き付けることで除去できるブラスト材もあるが、付着強度の高いブラスト材はそのまま残留する。
【0042】
ブラスト処理領域に残留するブラスト材を除去する方法に超音波洗浄がある。しかし、この超音波洗浄のみでは、ブラスト処理領域に残留するブラスト材の除去効果が低いということが本発明者らの実験により判明している。すなわち、周波数30〜50kHzの超音波洗浄では、ブラスト処理領域の表面に付着あるいは固着しているブラスト材の除去効果は高いのに対して、ブラスト処理領域の表面内部へ突き刺さったブラスト材は除去できず、残留し続けることが確認された。そして、この残留しているブラスト材の上に堆積した膜は、ブラスト処理したターゲット本体の表面に直接堆積した膜に比べて容易に剥離し、これが突発的なパーティクルの発生原因になることを見出した。
【0043】
そこで、本実施形態では、以下のようにしてブラスト処理領域を洗浄し、ブラスト材の残留数が少なく、清浄度の高いスパッタリングターゲットを得るようにしている。
【0044】
[超音波洗浄工程(ST2)]
この工程は、ターゲット本体のブラスト処理領域を超音波洗浄する。この工程では、このブラスト処理領域を、超音波を印加した洗浄液の噴流で洗浄する。超音波の周波数は、キャビテーションの発生による洗浄効果が高い、18kHz以上19kHz以下の範囲とする。
【0045】
図4は、ターゲット本体の超音波洗浄工程において用いられる洗浄装置の概略構成を示している。この例では、洗浄槽13内の洗浄液14中にターゲット本体60を浸漬し、この洗浄槽13を超音波発振器17で振動させ、ポンプ15の駆動によって配管16を介して洗浄液14を循環させる。そして、洗浄槽13内へ圧送される洗浄液14の噴流でターゲット本体60のブラスト処理領域を洗浄する。
【0046】
この工程では、洗浄液14の噴流と、低周波数超音波洗浄におり発生するキャビテーションの衝撃波によって、ターゲット本体60のブラスト処理領域に付着又は固着している残留ブラスト材を除去し、ブラスト処理領域に突き刺さっている残留ブラスト材に対しては物理的衝撃を与えることが可能となる。
【0047】
[エッチング処理工程(ST3)]
次に、超音波洗浄したブラスト処理領域をエッチングする。エッチングはウェットエッチング法が用いられる。エッチング液は、ブラスト材やターゲット本体の構成材料等によって適宜選択され、適宜の酸又はアルカリ系水溶液が用いられる。処理方法は、浸漬法、塗布法等の方法が適用可能である。本実施形態では、弗硝酸水溶液中へターゲット本体を浸漬してブラスト処理領域をエッチングする。処理時間は特に限定されないが、ブラスト処理領域の所定の面粗さに大きな変化が生じない程度とする。エッチング後、水洗い又は湯洗いによって、ターゲット本体を洗浄する。
【0048】
この工程は、ターゲット本体表面に突き刺さっているブラスト材とターゲット本体の間の境界部を少量溶融させて、ターゲット本体に対するブラスト材の物理的嵌入を弱める。これにより、先の超音波洗浄工程で除去できなかった残留ブラスト材を除去し、又は、ターゲット本体に対するブラスト材の付着力を弱めることができる。
【0049】
また、エッチング処理の効果は、ブラスト処理領域へ高圧水を吹き付けることによっても同様の効果を得ることができる。したがって、上記エッチング処理工程に代えて、高圧洗浄液によるジェット洗浄工程を採用してもよい。この場合、具体的には、200〜300kgf/cm、水量20〜30L/minの高圧水が用いられる。
【0050】
[超音波洗浄工程(ST4)]
最後に、ブラスト処理領域を再び超音波洗浄する。この工程では、上述の1回目の超音波洗浄工程(ST2)と同様の処理条件を採用することができる。すなわち、図4に示した洗浄装置を用いて、周波数18kHz以上19kHz以下の超音波を印加した洗浄液の噴流を200〜300kPaの圧力でブラスト処理領域を洗浄する。
【0051】
この工程により、先のエッチング処理工程(又は高圧洗浄水によるジェット洗浄工程)によってターゲット本体表面に対する物理的嵌入力が緩和された残留ブラスト材が効率よく除去される。その結果、ブラスト処理領域に残留するブラスト材のほとんど全部を除去することができる。
【0052】
なお、この超音波洗浄工程は、ターゲット本体の表面を覆うマスク材を除去した状態で実施してもよいし、マスク材を除去せずに実施してもよい。マスク材を除去した状態でこの超音波洗浄工程を実施する場合、マスク材は、エッチング工程(ST3)の後に除去される。
【0053】
上述のように、本実施形態によれば、ブラスト処理後、1回目の超音波洗浄、エッチング(又はジェット洗浄)及び2回目の超音波洗浄の組み合わせからなる多段階洗浄プロセスによって、ターゲット本体表面のブラスト処理領域に残留するブラスト材を効率よく除去することができる。
【0054】
以上のようにして、ターゲット本体60と、ターゲット本体60の表面の一部を構成し、スパッタによって侵食されるエロージョン領域6aと、ターゲット本体60の表面の他の一部を構成し、表面粗さ(Ra)が1μm以上4μm以下であり、かつ、円相当直径10μm以上のブラスト材の個数が1平方センチメートル当たり4個以下である非エロージョン領域とを具備するスパッタリングターゲット6が製造される。
【0055】
本実施形態のターゲット6は、非エロージョン領域6bの表面粗さが1μm以上4μm以下の範囲に形成されているので、スパッタ物との密着性を高めて当該スパッタ物の剥離を抑制することができる。また、円相当直径10μm以上のブラスト材の個数を1平方センチメートル当たり4個以下に抑えることが可能となるので、残留ブラスト材の上に付着したスパッタ物の剥離による突発的な多量のパーティクルの発生頻度を大幅に低減できる。これにより、安定した薄膜形成プロセスと、高品質のスパッタ薄膜を形成することが可能となる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0057】
(実施例1)
直径250mm、厚さ6mmのチタン(純度5N)製の円形のターゲット本体を準備した。そして、ターゲット本体の中心部の直径30mm以下の領域と、ターゲット本体の周辺部から5mm以内の領域と、ターゲット本体の側周部とをブラスト処理した。これらの領域以外の領域は、マスキングしてブラスト処理の影響を受けないようにした。
【0058】
ブラスト処理条件は、以下のとおりである。
・ ブラスト材:粒径100〜300μmのSiC粒子
・ ターゲット本体とノズル間の距離:150mm
・ エア圧力:4.5kg/cm
【0059】
ブラスト処理後、エアを吹き付けてターゲット本体表面(側周面を含む。)のブラスト材を除去した後、ターゲット本体を超音波洗浄した。この工程では、純水洗浄液をポンプ(250kPa)で循環させて噴流とし、同時に、19kHzの超音波洗浄を5分間行った。次に、超音波洗浄したターゲット本体を3%フッ酸10%硝酸水溶液に3分間浸漬した後、水洗い及び湯洗いを行ってターゲット本体に付着している酸を除去した。続いて、マスキングを外し、純水洗浄液をポンプ(250kPa)で循環させて噴流とし、同時に、19kHzの超音波洗浄を5分間行った後、ターゲット本体を洗浄槽から引き上げて乾燥処理した。
【0060】
次に、以上のような多段階洗浄処理を経て製造されたスパッタリングターゲットを以下の手順で評価した。
【0061】
まず、ターゲットのブラスト処理領域の表面粗さを測定機で測定した。その結果、表面粗さはRa=2.5μmであった。次に、ターゲットのブラスト処理領域を金属顕微鏡で観察し、残留ブラスト材の個数を計測した。その結果、円相当直径10μm以上の個数で1cm当たり平均1個だった。更に、当該ターゲットをバッキングプレートにボンディングしてスパッタカソードを構成した。そして、このスパッタカソードをマグネトロンスパッタリング装置に組み込んでスパッタリングテストを行い、膜中のパーティクルの発生状況を観察した。評価の結果を図5に示す。
【0062】
スパッタリング条件は以下のとおりである。
・ ガス及び圧力:Arガス、0.5Pa
・ 電力:7kW
・ 膜厚:500Å(オングストローム)
【0063】
スパッタ膜は5インチSiウエハ上に形成した。パーティクルは、膜中の0.2μm以上の大きさのものをカウントした。パーティクル数は、10、20、30、40、50、60、70、80、90及び100バッチの各々のカウント値の平均値とした。測定の結果、5インチウエハ上の平均パーティクル数は2個だった。また、平均値の2倍以上の数をカウントした突発的パーティクルの発生回数は0回だった。
【0064】
(実施例2)
ブラスト材のエア圧力を4.1kg/cmとした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=1.2μm、残留ブラスト材の平均個数は、1cm当たり1個、平均パーティクル数は2個、突発的パーティクルの発生回数は1回だった。
【0065】
(実施例3)
ブラスト材の粒径を200〜400μm、エア圧力を4.9kg/cm、エッチング時間を2分とした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=3.8μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり2個、平均パーティクル数は2個、突発的パーティクルの発生回数は1回だった。
【0066】
(実施例4)
ブラスト材の粒径を200〜400μm、エア圧力を4.7kg/cm、エッチング時間を2分とした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=3.5μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり3個、平均パーティクル数は1個、突発的パーティクルの発生回数は0回だった。
【0067】
(実施例5)
ターゲット本体の材質をアルミニウム、ブラスト材のエア圧力を4.6kg/cmとした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=2.8μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり1個、平均パーティクル数は2個、突発的パーティクルの発生回数は0回だった。
【0068】
(実施例6)
ブラスト処理後、エッチング処理の代わりに、吐出圧力200kgf/cm、水量20L/minで高圧水洗浄を行った以外は、実施例1と同様な洗浄条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=2.1μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり3個、平均パーティクル数は3個、突発的パーティクルの発生回数は0回だった。
【0069】
(実施例7)
ブラスト材の粒径を200〜400μm、エア圧力を4.7kg/cm、高圧水洗浄液の吐出圧力を250kgf/cmとした以外は、実施例6と同様な洗浄条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=3.5μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり4個、平均パーティクル数は2個、突発的パーティクルの発生回数は0回だった。
【0070】
(実施例8)
ターゲット本体の材質を銅、ブラスト材のエア圧力を4.3kg/cm、エッチング時間を2分とした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=2.0μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり2個、平均パーティクル数は2個、突発的パーティクルの発生回数は0回だった。
【0071】
(実施例9)
ターゲット本体の材質をニッケル、ブラスト材の粒径を200〜400μm、エア圧力を4.3kg/cmとした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=3.0μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり2個、平均パーティクル数は2個、突発的パーティクルの発生回数は0回だった。
【0072】
(実施例10)
ターゲット本体の材質をコバルト、ブラスト材のエア圧力を4.3kg/cm、エッチング時間を2分とした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=2.3μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり1個、平均パーティクル数は2個、突発的パーティクルの発生回数は1回だった。
【0073】
(実施例11)
ターゲット本体の材質をタンタル、ブラスト材のエア圧力を4.3kg/cmとした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=2.5μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり3個、平均パーティクル数は2個、突発的パーティクルの発生回数は0回だった。
【0074】
(実施例12)
ターゲット本体の材質を金、ブラスト材のエア圧力を4.3kg/cm、ブラスト処理後、エッチング処理の代わりに、吐出圧力200kgf/cm、水量20L/minで高圧水洗浄を行った以外は、実施例1と同様な洗浄条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=2.5μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり2個、平均パーティクル数は2個、突発的パーティクルの発生回数は0回だった。
【0075】
(実施例13)
ターゲット本体の材質を銀、ブラスト処理後、エッチング処理の代わりに、吐出圧力200kgf/cm、水量20L/minで高圧水洗浄を行った以外は、実施例1と同様な洗浄条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=3.0μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり2個、平均パーティクル数は3個、突発的パーティクルの発生回数は0回だった。
【0076】
(実施例14)
ターゲット本体の材質をクロム、ブラスト材のエア圧力を4.3kg/cm、ブラスト処理後、エッチング処理の代わりに、吐出圧力200kgf/cm、水量20L/minで高圧水洗浄を行った以外は、実施例1と同様な洗浄条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=2.8μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり1個、平均パーティクル数は2個、突発的パーティクルの発生回数は1回だった。
【0077】
(実施例15)
ターゲット本体の材質をニオブ、ブラスト材のエア圧力を4.3kg/cm、ブラスト処理後、エッチング処理の代わりに、吐出圧力200kgf/cm、水量20L/minで高圧水洗浄を行った以外は、実施例1と同様な洗浄条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=2.5μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり1個、平均パーティクル数は1個、突発的パーティクルの発生回数は0回だった。
【0078】
(実施例16)
ターゲット本体の材質を白金、ブラスト材のエア圧力を4.3kg/cm、ブラスト処理後、エッチング処理の代わりに、吐出圧力200kgf/cm、水量20L/minで高圧水洗浄を行った以外は、実施例1と同様な洗浄条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=2.5μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり3個、平均パーティクル数は1個、突発的パーティクルの発生回数は0回だった。
【0079】
(実施例17)
ターゲット本体の材質をモリブデン、ブラスト材のエア圧力を4.3kg/cmとした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=2.3μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり2個、平均パーティクル数は1個、突発的パーティクルの発生回数は0回だった。
【0080】
(実施例18)
ターゲット本体の材質をタングステン、ブラスト材の粒径を200〜400μm、エア圧力を4.3kg/cmとした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図5に示す。表面粗さはRa=2.7μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり2個、平均パーティクル数は1個、突発的パーティクルの発生回数は0回だった。
【0081】
(比較例1)
ブラスト材の粒径を300〜500μm、エア圧力を5.3kg/cmとした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図6に示す。表面粗さはRa=4.8μm、残留ブラスト材の平均個数は、1cm当たり2個、平均パーティクル数は10個、突発的パーティクルの発生回数は4回だった。
【0082】
(比較例2)
ブラスト材の粒径を300〜500μm、エア圧力を4.6kg/cmとした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図6に示す。表面粗さはRa=4.5μm、残留ブラスト材の平均個数は、1cm当たり1個、平均パーティクル数は12個、突発的パーティクルの発生回数は4回だった。
【0083】
(比較例3)
ブラスト材のエア圧力を4.1kg/cm、エッチング時間を1分とした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図6に示す。表面粗さはRa=1.2μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり8個、平均パーティクル数は12個、突発的パーティクルの発生回数は3回だった。
【0084】
(比較例4)
ブラスト材の粒径を200〜400μm、ブラスト処理後、エッチング処理を行わずに、超音波洗浄のみを行った以外は、実施例1と同様な洗浄条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図6に示す。表面粗さはRa=3.5μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり15個、平均パーティクル数は15個、突発的パーティクルの発生回数は4回だった。
【0085】
(比較例5)
ブラスト処理をせずに、チタン製ターゲット本体を作製後、超音波洗浄のみを行った。超音波洗浄の処理条件は実施例1と同様な条件とした。評価結果を図6に示す。表面粗さはRa=0.5μm、残留ブラスト材の平均個数は1cm当たり0個、平均パーティクル数は13個、突発的パーティクルの発生回数は4回だった。
【0086】
(比較例6)
ブラスト材の粒径を200〜400μm、エア圧力を4.6kg/cm、ブラスト処理後の超音波洗浄及びエッチング処理後の超音波洗浄の印加超音波周波数をそれぞれ30kHzした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図6に示す。表面粗さはRa=3.2μm、残留ブラスト材の平均個数は、1cm当たり9個、平均パーティクル数は10個、突発的パーティクルの発生回数は4回だった。
【0087】
(比較例7)
ブラスト材のエア圧力を4.4kg/cm、ブラスト処理後の超音波洗浄の印加超音波周波数を30kHz、エッチング処理の代わりに、吐出圧力250kgf/cm、水量20L/minで高圧水洗浄を行い、高圧水洗浄後の超音波洗浄の印加超音波周波数を30kHzとした以外は、実施例1と同様な洗浄処理条件でスパッタリングターゲットを製造した。その後、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を図6に示す。表面粗さはRa=2.1μm、残留ブラスト材の平均個数は、1cm当たり9個、平均パーティクル数は10個、突発的パーティクルの発生回数は3回だった。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施形態によるスパッタリング装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態によるスパッタリングターゲットを概略的に示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態によるスパッタリングターゲットの製造方法又は洗浄方法を説明する工程フロー図である。
【図4】本発明の実施形態におけるターゲット本体の超音波洗浄装置の概略構成図である。
【図5】本発明の実施例の実験結果を示す図表である。
【図6】本発明の比較例の実験結果を示す図表である。
【符号の説明】
【0089】
1・・・真空排気配管
2・・・ガス配管
3・・・真空槽
4・・・スパッタリングカソード
5・・・支持台
6・・・ターゲット(スパッタリングターゲット)
6a・・・エロージョン領域
6b・・・非エロージョン領域
7・・・バッキングプレート
8・・・絶縁板
9・・・フレーム
10・・・アースシールド
11・・・ヨーク
12a、12b・・・磁石
13・・・洗浄槽
14・・・洗浄液
15・・・ポンプ
16・・・配管
17・・・超音波発振器
20・・・スパッタリング装置
60・・・ターゲット本体
S・・・基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネトロンスパッタリング装置用のスパッタリングターゲットの製造方法であって、
ターゲット本体を準備し、
前記ターゲット本体表面の非エロージョン領域をブラスト処理し、
前記非エロージョン領域を超音波洗浄し、
前記超音波洗浄した前記非エロージョン領域をエッチングし、又は洗浄液でジェット洗浄し、
前記非エロージョン領域を再度超音波洗浄する
スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタリングターゲットの製造方法であって、
前記ブラスト処理する工程は、前記非エロージョン領域を表面粗さ(Ra)1μm以上4μm以下に粗面化する
スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のスパッタリングターゲットの製造方法であって、
前記非エロージョン領域を超音波洗浄する工程は、18kHz以上19kHz以下の周波数の超音波を印加した洗浄液の噴流で前記非エロージョン領域を洗浄する
スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のスパッタリングターゲットの製造方法であって、
前記噴流の圧力を200kPa以上300kPa以下とする
スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
表面の少なくとも一部にブラスト処理が施されたスパッタリングターゲットの洗浄方法であって、
前記スパッタリングターゲットのブラスト処理領域を超音波洗浄し、
前記超音波洗浄した前記ブラスト処理領域をエッチングし、又は洗浄液でジェット洗浄し、
前記ブラスト処理領域を再度超音波洗浄する
スパッタリングターゲットの洗浄方法。
【請求項6】
請求項5に記載のスパッタリングターゲットの洗浄方法であって、
前記ブラスト処理領域を超音波洗浄する工程は、18kHz以上19kHz以下の超音波を印加した洗浄液の噴流で前記ブラスト処理領域を洗浄する
スパッタリングターゲットの洗浄方法。
【請求項7】
請求項6に記載のスパッタリングターゲットの洗浄方法であって、
前記噴流の圧力を200kPa以上300kPa以下とする
スパッタリングターゲットの洗浄方法。
【請求項8】
マグネトロンスパッタリング装置用のスパッタリングターゲットであって、
ターゲット本体と、
前記ターゲット本体の表面の一部を構成し、スパッタによって侵食されるエロージョン領域と、
前記ターゲット本体の表面の他の一部を構成し、表面粗さ(Ra)が1μm以上4μm以下であり、かつ、円相当直径10μm以上のブラスト材の個数が1平方センチメートル当たり4個以下である非エロージョン領域と
を具備するスパッタリングターゲット。
【請求項9】
請求項8に記載のスパッタリングターゲットであって、
前記非エロージョン領域は、前記ターゲット本体の側面を含む
スパッタリングターゲット。
【請求項10】
請求項8に記載のスパッタリングターゲットであって、
前記ターゲット本体は、金属元素またはそれを主成分とする合金からなる
スパッタリングターゲット。
【請求項11】
請求項10に記載のスパッタリングターゲットであって、
前記金属元素は、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、タンタル、金、銀、クロム、ニオブ、白金、モリブデン又はタングステンである
スパッタリングターゲット。
【請求項12】
真空槽と、
前記真空槽の内部に設置された基板支持台と、
前記基板支持台に対向して配置され、ターゲット本体と、前記ターゲット本体の表面の一部を構成し、スパッタによって侵食されるエロージョン領域と、前記ターゲット本体の表面の他の一部を構成し、表面粗さ(Ra)が1μm以上4μm以下であり、かつ、円相当直径10μm以上のブラスト材の個数が1平方センチメートル当たり4個以下である非エロージョン領域とを有するスパッタリングターゲットと、
前記スパッタリングターゲットの表面に磁場分布を形成する磁気回路と
を具備するスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−191323(P2009−191323A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34206(P2008−34206)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000192372)アルバックマテリアル株式会社 (21)
【Fターム(参考)】