説明

スパッタリング装置及び二重回転シャッタユニット並びにスパッタリング方法

【課題】 二重回転シャッタ機構を有するスパッタリング装置でクロスコンタミネーションの防止を図ることができるスパッタリング装置及び二重回転シャッタユニット並びにスパッタリング方法を提供する。
【解決手段】 二重回転シャッタ機構を構成する2枚のシャッタ板,のうち、ターゲット側に配設された第1のシャッタ板に形成された第1の開口部の周囲かつ第2のシャッタ板との間に円筒状の第2の防着シールドを取り付け、スパッタリングカソードと第1のシャッタ板との間には、ターゲットの前面領域の周囲を囲むように円筒状の第1の防着シールドが配設されることで、スパッタ物質が第1のシャッタ板と第2のシャッタ板の間、及び、第1のシャッタ板とスパッタリングカソードの間の隙間を通ることができなくなり、クロスコンタミネーションの発生を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の製造において有用な構造を有するスパッタリング装置及びスパッタリング方法並びに二重回転シャッタユニットに係り、特に、複数のターゲットを備えるスパッタリング装置及び該スパッタリング装置に取り付ける二重回転シャッタユニット並びにスパッタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング装置として、それぞれ独立に回転制御された2つのシャッタを組み合わせて構成された二重回転シャッタ機構を用いて、真空容器内に配置された複数のターゲットからスパッタするターゲットを選択するように構成されたスパッタリング装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のスパッタリング装置(多元スパッタ成膜装置)は、単一の真空容器内に配置された4つのターゲットと、独立に回転しかつ開口部が形成された2つのシャッタ板とを有する二重回転シャッタ機構とを備えている。この二重回転シャッタ機構によって、第1のシャッタ板に形成された開口部の位置と、第2のシャッタ板に形成された開口部の位置とを組み合わせてターゲットを選択し、選択されたターゲットに対して放電を継続して行う。以上のようにプリスパッタ工程と本スパッタ工程を行うことによって、基板に成膜することができる。
【0004】
このスパッタリング装置によれば、スパッタ対象として選択されたターゲットの上に他のターゲットの物質が堆積した箇所が存在しないように第1のシャッタ板の回転動作が制御され、これによりプリスパッタ時にターゲットの表面に他のターゲット物質が付着するのを防止できる。したがって、本スパッタ時にクロスコンタミネーションの発生を防止することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−256112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の2重回転シャッタ機構においても、スパッタ材料や放電条件によっては、クロスコンタミネーションが生じる可能性があった。例えば、スパッタする材料として回り込み量の大きい金(Au)などを選択した場合には、トレイホルダや近接のスパッタリングカソードにもAuが回り込んで膜を形成するおそれがあった。
【0007】
また、特許文献1のスパッタリング装置は、スパッタガス導入口がスパッタリングカソード(ターゲット)から遠い位置に配設されていたため、放電トリガー時にターゲット近傍のスパッタガス圧力が高くなりにくい。その結果として、放電しにくい若しくは低圧放電が安定しにくいという不都合があった。また、カソードの場所によって放電圧力に違いが出る可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであり、スパッタ物質の回り込みを防ぐことで、より確実にクロスコンタミネーションの防止を図ることができるスパッタリング装置及びこのようなスパッタリング装置に取り付ける二重回転シャッタユニット並びにスパッタリング方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の他の目的は、安定した放電と放電トリガーを得ることができるスパッタリング装置及びこのようなスパッタリング装置に取り付ける二重回転シャッタユニット並びにスパッタリング方法を提供することにある。
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、従来の二重回転シャッタ機構のシャッタ板上に防着シールドを設けることでターゲットのクロスコンタミネーションを防ぐとともに、スパッタガスのガス圧を安定化させることができるという新たな知見を得て本発明を完成させた。
【0011】
本発明にかかるスパッタリング装置は、真空容器内に設けられた複数のスパッタリングカソードと、
前記スパッタリングカソードに対向してそれぞれ独立に回転可能に配設され、かつ開口部がそれぞれ予め決められた位置に少なくとも1つが形成された第1のシャッタ板及び該第1のシャッタ板よりも前記スパッタリングカソードから遠い位置にある第2のシャッタ板を有する二重回転シャッタ機構と、
前記スパッタリングカソードと前記第1のシャッタ板の間に配設され、前記スパッタリングカソードの前記第1のシャッタ板側の前面領域の側面を囲む第1の防着シールドと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ターゲット前面のプラズマ発生領域からスパッタガスやスパッタ物質が移動する隙間を狭くすることができる。そのため、プリスパッタ及び本スパッタ中のスパッタ物質の周囲への回り込みを防ぎ、さらに、ターゲット前面のプラズマ発生領域でのスパッタガス圧力を安定化させることができる。したがって、ターゲット間のクロスコンタミネーションの防止を図るとともに、安定した放電と良好な着火性を有するスパッタリング装置及びこのようなスパッタリング装置に取り付ける二重回転シャッタユニット並びにスパッタリング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】スパッタリング装置の断面概略図である。
【図2】スパッタリングカソード周辺を拡大して示した説明図である。
【図3】スパッタリングカソード周辺を拡大して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は発明を具体化した一例であって本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
【0015】
図1〜図3は本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置(多元スパッタ成膜装置)について説明した図であり、図1はスパッタリング装置の断面概略図、図2はスパッタリングカソード周辺を拡大して示した説明図、図3はスパッタリングカソード周辺を拡大して示した斜視図である。なお、ここでは図面の煩雑化を防ぐため一部を除いて省略している。
【0016】
本発明のスパッタリング装置は、1つのスパッタ成膜チャンバ(真空容器)内に材質の異なる複数のターゲットとスパッタリングカソードとを備え、基板上に異なる材質の膜を順次に堆積して多層膜を形成するスパッタリング装置である。このスパッタリング装置1では、GMR素子やTMR素子からなる磁気ヘッドやMRAMなどの生産において必要とされる多層膜を、1つの真空容器内において基板上の最下層から最上層まで中断することなく連続的にスパッタ成膜することができ、磁性膜を効率よく堆積させることができる。
【0017】
以下、スパッタリング装置1の一実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態のスパッタリング装置1は、真空容器11と、基板ホルダ20と、二重回転シャッタ機構30と、スパッタ手段40と、スパッタガス供給手段(不図示)と、を主要な構成要素としている。なお、図1のスパッタリング装置1では、基板22が上側、スパッタ手段40が下側に配置されているが、基板22とスパッタ手段40の上下位置関係を入れ替えた配置としても本発明が適用可能であることはもちろんである。
【0018】
真空容器11は、公知のスパッタリング装置で通常用いられるようなステンレス製若しくはアルミニウム合金製で、ほぼ直方体形状をした気密な中空体である。真空容器11の側面には、基板22(基板搬送トレイ)の出し入れを行うためのロードロック室(不図示)がゲートバルブ(不図示)を介して接続されている。
【0019】
また、真空容器11の底面付近には排気口13が形成されている。排気口13には、ドライポンプやクライオポンプ、若しくはターボ分子ポンプなどの真空ポンプが接続され、処理容器11内を10−5〜10−7Pa程度まで排気することが可能である。
【0020】
基板ホルダ20は、その下面側に基板22を保持することができる台状の部材であり、不図示のチャックや基板搬送トレイを用いて基板22を保持することができる。基板ホルダ20は、真空容器11の上部に上下動及び回転制御可能に気密を保ちつつ支持された基板回転軸24に取り付けられている。基板回転軸24の上下の高さ調節機構及び回転制御機構は公知のものを用いることができ詳細は省略する。
【0021】
二重回転シャッタ機構30は、基板ホルダ20とスパッタ手段40の間に配置されている。二重回転シャッタ機構30は、回転軸を介して独立に回転制御可能なシャッタ板を上下方向に平行に2枚重ねた構造をしている。スパッタリングカソード42側(ターゲット43側)に配設されたシャッタ板が第1のシャッタ板32であり、基板ホルダ20側(基板22側)に配設されたシャッタ板が第2のシャッタ板34である。なお、ここで言う平行とは、実質的に平行な配置となるものを含むものとする。
【0022】
回転軸36は、外側に配設されたパイプ状部材(不図示)と、その内側の棒状部材(不図示)からなる二重構造を有しており、それぞれ独立に回転制御可能に構成されている。パイプ状部材は第1のシャッタ板32、棒状部材は第2のシャッタ板34にそれぞれ連結されている。回転軸36の回転制御機構は公知のものを用いることができ詳細は省略する。
【0023】
第1のシャッタ板32及び第2のシャッタ板34には、それぞれ所定部分に開口部32a、34aが形成されている。例えば、第1のシャッタ板32には、開口部(第1の開口部)32aが形成され、第2のシャッタ板34には、開口部(第2の開口部)34aが形成されている。それぞれの開口部(第1の開口部32a及び第2の開口部34a)は、少なくとも1つのターゲット上に位置合わせ可能に形成されており、大きさはターゲットの直径と同等若しくはやや大きい程度である。なお、上記の開口部32a、34aの位置や数は一例であり、これに限定されるものではない。
【0024】
第1の開口部32aおよび第2の開口部34aの縁部は、テーパ加工がそれぞれ施されていることが好ましい。テーパ加工を第1の開口部32aの縁部に施し、滑らかな湾曲形状にすることによって、その縁部へのスパッタ物質の付着量を軽減することができる。このため、第1の開口部32aの縁部に付着したスパッタ物質が剥離してターゲット43上に落下することにより生じる異常放電やコンタミネーションなどを防止することができる。
【0025】
また、第1のシャッタ板32には、形成された第1の開口部32aを囲むように防着シールド(第2の防着シールド37)を設けることが好ましい。
【0026】
この第2の防着シールド37は、下部側が内側若しくは外側に折れ曲がった断面略L字状に構成されており、この下部側が第1のシャッタ板32に取り付けられている。第2の防着シールド37の高さは任意であるが、第2のシャッタ板34に接触せず、かつ、ターゲット前面領域のスパッタガスの移動を抑制することができる程度の隙間になるような寸法に設定されている。なお、本実施形態においては、第2の防着シールド37と第2のシャッタ板34との隙間はシャッタの回転に干渉しない最小の距離として調整されている。
【0027】
また、第2の防着シールド37は、第1の開口部32aの縁部から所定距離離間して取り付けられている。具体的には、第2の防着シールド37は、スパッタリングカソード42からの磁場の影響を避けるため、スパッタリングカソード42と同等の直径を有するように構成されている。その大きさに応じて、第1の開口部32aの外周部(縁部)から第2の防着シールド37の内側部分まで距離が決定されることになる。スパッタリングカソード42からの磁場の影響としては、放電の不安定化などが挙げられる。
【0028】
一方で、第1の開口部32aの縁部から第2の防着シールド37の内側部分までの直近の距離は、第2の防着シールド37の高さよりも長く設定されることが望ましい。このような寸法に設定することで、第2の防着シールド37に付着した物質が剥離して、その一部が第1の開口部32a側に倒れた場合にも、第1の開口部32aの内側に落下する確率を大幅に低減できる。すなわち、剥離した物質がターゲット43上に付着することが原因で生じる異常放電やコンタミネーションなどを防止することができる。
【0029】
本実施形態では、上述のいずれの条件も満たして第2の防着シールド37が取り付けられている。
【0030】
ここで、第1の開口部32aの縁部から第2の防着シールド37の内側部分までの距離をさらに長く設定しても効果は変わらないが、第2の防着シールド37の高さの2倍程度までとすることが望ましい。これは、第1のシャッタ板の他の開口部の周囲に設けられた隣接する第2の防着シールドとの接触を避けるためである。本実施形態においては、第2の防着シールドの高さは13mmであるのに対して、第1の開口部32aの縁部から第2の防着シールド37の内側部分まで距離は16mmとして構成されている。
【0031】
スパッタ手段40は、真空容器11の底面の所定位置に設置された複数のスパッタリングカソード42と、スパッタ成膜に使用される物質を有するターゲット43と、を主要な構成要素として備えている。ターゲット43は、それぞれのスパッタリングカソード42の上面に配置されたバッキングプレート44上に固定されている。
【0032】
本実施形態においては、4つのスパッタリングカソード42を備えており、それぞれのスパッタリングカソード42には、異なるスパッタ物質を備えたターゲット43が設置されている。また、スパッタリングカソード42としては、バッキングプレート44の裏側に回転するマグネット47を備えるマグネトロン電極が使用されている。
【0033】
図2に示されているように、各スパッタリングカソード42は、側面の周囲を略円筒形状の筒状部材45によって囲まれ、さらに、バッキングプレート44側の外周部分をリング状のカソードシールド46に覆われている。スパッタリングカソード42にターゲット43が取り付けられた状態では、ターゲット43の外周側を囲むように、ターゲット43の上側面とほぼ段差がないようにカソードシールド46が配置される。各スパッタリングカソード42と各筒状部材45、及び、各スパッタリングカソード42と各カソードシールド46の間には、それぞれ所定の隙間が形成されている。なお、本実施形態における筒状部材45は、円筒形状であるが、スパッタリングカソードの周囲を囲む形状であれば上記形状に限られない。
【0034】
任意の一つのスパッタリングカソード42の実施形態について以下に説明する。筒状部材45は、所定の隙間を有してスパッタリングカソード42を覆うように配置された略円筒形状のステンレス製の部材である。上端部側はカソードシールド46の外周側の縁部(外縁部分)に連結され、下端部側はスパッタリングカソード42の側面、若しくは真空容器11の底面に固定されて保持されている。筒状部材の内側面とスパッタリングカソード42の側面との隙間は、シャッタの回転に干渉しない最小の距離として調整されている。
【0035】
なお、筒状部材45の下端部側は全周に亘り、スパッタリングカソード42の側面、若しくは真空容器11の底面に気密を保って固定されることが望ましい。
【0036】
カソードシールド46は、ターゲット43と平行に配設された略リング状のステンレス製の部材であり、ターゲット43の外周部分を一定距離の隙間を有して囲うように配設されている。カソードシールド46の外側の縁部(外縁)は全周に亘り、筒状部材45の上端部に接して気密に取り付けられている。カソードシールド46の内周側の縁部(内縁部分)とターゲット43の側面との隙間は、任意の距離とすることができるが、ターゲット43の外周部分とは全周に亘って一定の距離を保って配設されることが望ましい。なお、上述した平行には、実質的な平行を含むものとし、一定距離には実質的に一定な距離を含むものとする。
【0037】
後述するが、スパッタリングカソード42と筒状部材45の間、及び、スパッタリングカソード42とカソードシールド46の間に形成された隙間は、スパッタガスの導入路及びガス噴出口54としての機能を有している。
【0038】
本実施形態においては、カソードシールド46は、ターゲット43上面とほぼ面一に配設されているが、ターゲット43よりもやや上方、若しくはターゲット43の外縁部分の上部を覆うように配設することもできる。
【0039】
また、特徴として、カソードシールド46の上側(第1のシャッタ板32側)には、第1の防着シールド38が取り付けられている。第1の防着シールド38は、カソードシールド46と第1のシャッタ板32との間に配置されている。第1の防着シールド38は、下部側が内側若しくは外側に折れ曲がった断面略L字状に構成されており、この下部側がカソードシールド46に取り付けられている。第1の防着シールド38の高さは任意であるが、第1のシャッタ板32に接触せず、かつ、ターゲット43の前面領域からのスパッタガスの移動を抑制することができる程度の隙間になるような寸法に設定されている。
【0040】
第1の防着シールド38の直径は、第1のシャッタ板32に形成された第1の開口部32aに合わせた大きさに設定されることが望ましい。これは、第1のシャッタ板32にスパッタ物質が付着する面積を最小にするためである。
【0041】
なお、上述の第1の防着シールド38は、第1のシャッタ板32の下面に取り付けられてもよい。さらに、筒状部材45を第1のシャッタ板32側に延設することで、第1の防着シールド38に相当する部材を形成してもよい。いずれの場合にも、上述した、カソードシールド46の上側に第1の防着シールド38を取り付けた構成とほぼ同様の効果を奏する。
【0042】
スパッタガス供給手段(不図示)は、スパッタガスの供給源としてのガスボンベ(不図示)と、スパッタガスを誘導する配管(不図示)と、ガス噴出口54と、から少なくとも構成されている。なお、配管には不図示のバルブや流量調節器などが備えられている。ガスボンベから供給されたスパッタガスは、配管内を通って真空容器11内に誘導され、ガス噴出口54から噴出される。
【0043】
ここで、図2に示されているように、本実施形態におけるガス噴出口54は、上述したターゲット43とカソードシールド46との隙間として構成されている。また、配管はスパッタリングカソード42と筒状部材45との隙間にスパッタガスを導入するガス注入口52に接続されている。すなわち、スパッタガスは配管を通って、ガス注入口52からスパッタリングカソード42と筒状部材45との隙間に導入され、次に、ターゲット43とカソードシールド46の隙間(ガス噴出口54)からターゲット43前面の領域(プラズマ発生領域)に導入される。
【0044】
スパッタガスが、スパッタリングカソード42と筒状部材45との隙間に導入されることで、ターゲット43とカソードシールド46との隙間(ガス噴出口54)に供給されるガス圧を安定させることができる。すなわち、スパッタガス圧の揺らぎやガスの導入される位置による差をより小さくすることができる。これは、放電すべき箇所に選択的にガスを導入しており、また、ガス噴出口54がリング状のため、円形のターゲットに効率的にガスが行き渡るためである。
【0045】
なお、スパッタリングカソード42と筒状部材45との隙間を、ターゲット43とカソードシールド46との隙間よりも大きくすることで、スパッタガス圧をより安定させることができる。これは、スパッタガスを一旦貯蔵することで緩衝作用が大きくなるためである。
【0046】
以上説明したように、スパッタガスを、ターゲット43とカソードシールド46との隙間(ガス噴出口54)を通してターゲット43前面に導入することで、ターゲット43外縁の全周からターゲット43前面の領域に向かってリング状に満遍なくスパッタガスを供給し、この領域のスパッタガス圧を安定化させることができる。さらに、第1の防着シールド38及び第2の防着シールド37によって、スパッタガスがターゲット43前面の領域から流出する量を規制することができる。このため、ターゲット43の前面領域でのスパッタガス圧力を、ターゲット43から離れた真空容器11内のスパッタガス圧よりも高くすることができる。したがって、より安定した放電と放電トリガー(着火性)を有するスパッタリング装置1を提供することができる。ここで、ターゲット43の前面領域、及び、スパッタリングカソード42のシャッタ板側前面領域とは、ターゲット43の基板22側のプラズマが発生する領域を示すものとする。
【0047】
なお、第2の防着シールド37が取り付けられた第1のシャッタ板32と第2のシャッタ板34とを予め組み付けてユニット化した状態で二重回転シャッタユニット(二重回転シャッタ30)を構成すると好適である。ユニット化により、スパッタリング装置1に組み付ける際に、第1のシャッタ板32と第2のシャッタ板34との隙間量の調整など位置決めを容易に行うことができる。すなわち、メンテナンス性や組み付け精度の向上を図ることができる。
【0048】
これより、本実施形態のスパッタリング装置1の動作及び効果について説明する。
【0049】
まず、プリスパッタは、プリスパッタを行うターゲット43の位置に、第1のシャッタ板32に設けられた第1の開口部32aを合わせ、第2のシャッタ板34に設けられた第2の開口部34aとは合わせない状態で行う。すなわち、ターゲット43の前面領域は、第1の防着シールド38と、第2の防着シールド37と、第2のシャッタ板34とによって囲まれている。ターゲット43の外周部のガス噴出口54からスパッタガスが導入されるため、ターゲット43の前面領域でスパッタガス圧力が上昇しやすく、着火及び放電が容易となる。
【0050】
このプリスパッタによりスパッタされた物質は、第1の防着シールド38と第2の防着シールド37によって、隣接するターゲット43への回り込みを防止される。したがって、ターゲット43間のクロスコンタミネーションの防止を図ることができる。なお、プリスパッタ時に、一つのターゲット43の上側には第2のシャッタ板34の同一位置が配置されるように制御される。すなわち、プリスパッタ時、それぞれのターゲットには、第2のシャッタ板34の予め決められたそれぞれの領域が対向して配設される。プリスパッタ時に、それぞれのターゲット43の上側に位置した第2のシャッタ板34の下面には、それぞれのターゲットに取り付けられた物質が付着するため、コンタミネーションを避けるためである。
【0051】
次に、本スパッタは、スパッタ(本スパッタ)を行うターゲット43の位置に、第1のシャッタ板32に設けられた第1の開口部32aと、第2のシャッタ板34に設けられた第2の開口部34aの位置をいずれも合わせた状態で行う。すなわち、ターゲット43の前面領域は、第1の防着シールド38と、第2の防着シールド37によって側面方向は囲まれるが、基板22側は開口された状態となっている。ここでも、ターゲット43の外周部のガス噴射口54からスパッタガスが導入されるため、ターゲット43の前面領域でスパッタガス圧力が上昇しやすく、着火及び放電(特に低圧放電)が容易となっている。
【0052】
また、本スパッタによりスパッタされた物質も、第1の防着シールド38と第2の防着シールド37によって、隣接するターゲット43への回り込みが防止されているため、ターゲット43間のクロスコンタミネーションが生じることがない。
【0053】
なお、複数のターゲット43を同時にスパッタする場合は、第1のシャッタ板32及び第2のシャッタ板34に形成された開口部の配置と数を変更することで、上述の状態になるように対応することができる。
【0054】
上述のように、本実施形態のスパッタリング装置1によれば、第1のシャッタ板32若しくはカソードシールド46に設けられた、第1の防着シールド38及び第2の防着シールド37の少なくともどちらかによって、ターゲット43前面のプラズマが発生する領域からスパッタガスやスパッタ物質が移動する隙間を狭くすることができる。
【0055】
そのため、プリスパッタ及び本スパッタ中のスパッタ物質の周囲への回り込みを防ぎ、さらに、ターゲット43の前面領域でのスパッタガス圧力を安定化させることができる。したがって、回り込み量の多い物質(Auなど)をスパッタした場合であってもターゲット43間のクロスコンタミネーションを防止するとともに、安定した放電と良好な着火性を得ることが可能である。
【0056】
また、ターゲット43の外周部分と略リング状のカソードシールド46との隙間を通ってスパッタガスがターゲット43前面の領域に導入されるように構成されることで、ターゲット43前面の領域に満遍なくスパッタガスを供給しつつ、スパッタガス圧を安定化させることができる。さらに、ターゲット43前面の領域でのスパッタガス圧力を、ターゲット43から離れた真空容器11内のスパッタガス圧よりも高くすることができる。特にガス供給口(ガス噴出口54)がターゲット43に近いことで、一時的な高圧力が必要なトリガー時に、高いスパッタガス圧を得られる。また低圧から高圧まで、幅広いスパッタガス圧力の範囲で常に安定した放電を得ることができる。したがって、より安定した放電と良好な着火性を得ることが可能である。
【0057】
本実施形態のスパッタリング装置1は、二重回転シャッタ機構30を備えることで、個々のスパッタリングカソード43に個別にシャッタを設ける構造(個別シャッタ構造)よりも小型化かつ低コスト化を実現することができる。個別シャッタ構造のようにシャッタオープンした時に、シャッタ板を逃がす場所が不要であり、また、シャッタ毎に回転導入機構を設ける必要がないためである。
【0058】
また、本実施形態では第1のシャッタ板と第2のシャッタ板にそれぞれ防着シールドが設けられているが、本発明の効果は第1のシャッタ板のみに防着シールドを設ける場合でも十分に得ることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に設けられた複数のスパッタリングカソードと、
前記スパッタリングカソードに対向してそれぞれ独立に回転可能に配設され、かつ開口部がそれぞれ予め決められた位置に少なくとも1つが形成された第1のシャッタ板及び該第1のシャッタ板よりも前記スパッタリングカソードから遠い位置にある第2のシャッタ板を有する二重回転シャッタ機構と、
前記スパッタリングカソードと前記第1のシャッタ板の間に配設され、前記スパッタリングカソードの前記第1のシャッタ板側の前面領域の側面を囲む第1の防着シールドと、を備えることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記第1のシャッタ板の前記第2のシャッタ板側には、該第1のシャッタ板の開口部の周囲を囲む第2の防着シールドが取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記第2の防着シールドは、前記スパッタリングカソードと等しい直径を有するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記スパッタリングカソードは、
ターゲットの外周部分を予め決められた間隔の隙間を有して囲うように配設されたカソードシールドと、前記カソードシールドに連結されかつ前記スパッタリングカソードの側面周囲を予め決められた隙間を有して囲む筒状部材と、を備え、
前記スパッタリングカソードと前記筒状部材との隙間及び前記ターゲットと前記カソードシールドとの隙間を通って、スパッタガスがターゲット前面に導入可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記第1の防着シールドは、前記カソードシールドの前記第1のシャッタ板側に取り付けられることを特徴とする請求項4に記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記第1のシャッタ板の開口部の縁部にテーパ加工が施されていることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
二重回転シャッタユニットであって、
真空容器内に設けられたスパッタリングカソードに対向してそれぞれ独立に回転可能に配設され、かつ開口部がそれぞれ予め決められた位置に少なくとも1つは形成された第1のシャッタ板及び該第1のシャッタ板よりも前記スパッタリングカソードから遠い位置にある第2のシャッタ板を有し、
前記第1のシャッタ板の前記第2のシャッタ板側には、該第1のシャッタ板の開口部の周囲を囲む第2の防着シールドが取り付けられていることを特徴とする二重回転シャッタユニット。
【請求項8】
真空容器内に設けられた複数のスパッタリングカソードと、前記スパッタリングカソードに対向してそれぞれ独立に回転可能に配設され、かつ開口部がそれぞれ予め決められた位置に少なくとも1つが形成された第1のシャッタ板及び該第1のシャッタ板よりも前記スパッタリングカソードから遠い位置にある第2のシャッタ板を有する二重回転シャッタ機構とを有し、前記スパッタリングカソードと前記第1のシャッタ板の間に、前記スパッタリングカソードの前記第1のシャッタ板側の前面領域の側面を囲む第1の防着シールドが設けられており、かつ前記第1のシャッタ板の前記第2のシャッタ板側には、それらのシャッタ板間の開口部の周囲を囲む第2の防着シールドが設けられているスパッタリング装置で実行されるスパッタリング方法であって、
前記スパッタリングカソードの前記第1のシャッタ板側の前面領域に、前記第1のシャッタ板の開口部を位置させる一方で、前記第2のシャッタ板の開口部は位置させない構成でスパッタガスを導入しながら放電を行うプリスパッタ工程と、
前記シャッタ板側の前面領域に、前記第1のシャッタ板の開口部を位置させかつ前記第2のシャッタ板の開口部も位置させる構成でスパッタガスを導入しながら放電を行う本スパッタ工程と、
を有することを特徴とするスパッタリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−209463(P2010−209463A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25216(P2010−25216)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】