説明

スパッタリング装置

【課題】ターゲットの周囲に飛行するスパッタリング粒子が捕獲されるスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】基板2を保持する基板ホルダー8を備えた成膜室3と、成膜室3に接続し筐体14に第1ターゲット12と第2ターゲット13とが対向して配置されるスパッタリング粒子放出部4と、を備え、第1ターゲット12及び第2ターゲット13の側面とスパッタリング粒子31を放出する放出面12aの外周部12c及び放出面13aの外周部を覆う防着カバー25を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置にかかわり、特に、対向ターゲットスパッタリング装置におけるスパッタリング粒子の不要部分へ付着を防止する防着カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶装置等に用いられる配向膜において、信頼性の向上のために無機物の配向膜が検討されている。無機物の配向膜(無機配向膜)を形成する対向ターゲット式のスパッタリング装置が特許文献1に開示されている。それによると、スパッタリング装置は基板が収容される成膜室とスパッタリング粒子放出部とを備えていた。そして、スパッタリング粒子放出部では真空槽内に所定の間隔を設けて一対のターゲットが対向配置されていた。ターゲットが対向する対向空間内にプラズマが形成され、スパッタリング粒子が放出される。この対向空間の側方に基板を配置し、対向空間から飛行するスパッタリング粒子を用いて基板に薄膜を形成していた。
【0003】
スパッタリング装置においてターゲットからスパッタリング粒子が放射される。そこで、ターゲットから放射されるスパッタリング粒子を規制する方法が特許文献2に開示されている。それによると、ターゲットの周囲を覆って防着板(以下、防着カバーと称す)が配置されていた。そして、スパッタリング粒子を放射させたくない方向に防着カバーが配置され、スパッタリング粒子が防着カバーに付着するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−286401号公報
【特許文献2】特開2006−134738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような対向ターゲット式のスパッタリング装置において、一方のターゲットから他方のターゲットに向けてスパッタリング粒子が放射される。そして、スパッタリング粒子の一部がターゲットと防着カバーとの間を通過してターゲットの周辺に付着する場合がある。そして、ターゲットの周辺でスパッタリング粒子が堆積した後、剥離して膜剥がれ破片が発生することがある。この膜剥がれ破片が成膜室に収容される基板に付着すると、基板に形成する膜の品質が低下し不良となる。そこで、ターゲットの周囲に飛行するスパッタリング粒子が捕獲されるスパッタリング装置が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
本適用例にかかるスパッタリング装置は、基板を保持する基板ホルダーを備えた成膜室と、前記成膜室に連通し筐体内に一対のターゲットが対向して配置されるスパッタリング粒子放出部と、を備える対向ターゲット方式のスパッタリング装置であって、前記ターゲットの側面と前記ターゲットがスパッタリング粒子を放出する放出面の外周部を覆う防着カバーを備えることを特徴とする。
【0008】
このスパッタリング装置によれば、筐体内に一対のターゲットが対向して配置されている。一方のターゲットが放出するスパッタリング粒子は他方のターゲットに向かって飛行する。そして、スパッタリング粒子が他方のターゲットまたは防着カバーに付着する。防着カバーは放出面の外周部を覆っている。従って、ターゲットに向かって飛行するスパッタリング粒子は放出面と防着カバーとの間に侵入し難くなっている。さらに、防着カバーはターゲットの側面を覆っている。従って、放出面と防着カバーとの間に進入したスパッタリング粒子はターゲットの側面を覆う防着カバーに付着する。その結果、ターゲットの周囲に飛行するスパッタリング粒子を防着カバーが捕獲することができる。
【0009】
[適用例2]
上記適用例にかかるスパッタリング装置において、前記ターゲットを支持する電極を備え、前記防着カバーと前記ターゲットまたは前記電極との距離は、前記成膜室またはスパッタリング粒子放出部の内部に堆積する膜の厚さより大きいことを特徴とする。
【0010】
このスパッタリング装置によれば、剥がれた膜が防着カバー、ターゲット、電極に付着しても、防着カバーとターゲットとの間及び防着カバーと電極との間で漏電が発生することを防止できる。
【0011】
[適用例3]
上記適用例にかかるスパッタリング装置において、前記防着カバーは、前記ターゲットの側面と対向する場所に、前記側面と交差する方向に前記スパッタリング粒子を吸着する吸着面を有することを特徴とする。
【0012】
このスパッタリング装置によれば、防着カバーはターゲットの側面と交差する方向に吸着面を有している。ターゲットの厚さが薄いときにもターゲットの側面と対向する場所の吸着面を広く配置することができる。吸着面が狭いときにはスパッタリング粒子が堆積して剥離するので膜剥がれ破片が発生し易くなる。本適用例では吸着面を広くすることができる為、吸着面から膜剥がれ破片を発生し難くすることができる。
【0013】
[適用例4]
上記適用例にかかるスパッタリング装置において、前記防着カバーは前記ターゲットが前記スパッタリング粒子を放出するエロージョン領域と対向する場所に開口部が形成されていることを特徴とする。
【0014】
このスパッタリング装置によれば、エロージョン領域からスパッタリング粒子が多く放出され、防着カバーにはスパッタリング粒子が通過する場所に開口部が形成されている。従って、放出されたスパッタリング粒子が対向するターゲットに向かって進行することを妨げることなくターゲットをカバーすることができる。
【0015】
[適用例5]
上記適用例にかかるスパッタリング装置において、前記一対のターゲットのうちのどちらか一方に配置される前記筐体の一部が前記ターゲットを含んで前記筐体外側より取り外し可能に形成され、前記防着カバーが前記筐体内側より取り外し可能に形成されていることを特徴とする。
【0016】
このスパッタリング装置によれば、スパッタリング粒子放出部における一対のターゲットのうち、片側のターゲットを配置する一部が筐体外部から取り外し可能に形成されている。ターゲット交換を行う場合、片側のターゲットを配置する筐体の一部を取り外す。取り外した後の筐体には穴が開放される。次に、この開放された穴を通して、防着カバーを取りはずして防着カバーを交換ができる。従って、防着カバーの交換作業が容易で、短時間にかつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態にかかわるスパッタリング装置の構成を示す概略図。
【図2】防着カバーを示す要部断面図。
【図3】第2の実施形態にかかわる防着カバーを示す要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。尚、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の寸法の割合を適宜変更している。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は本実施形態のスパッタリング装置の構成を示す概略図である。スパッタリング装置は、例えば、液晶装置の構成部材となる基板上に無機配向膜を成膜するときに用いられる。図1に示すように、スパッタリング装置1は、基板2を収容する成膜室3と、プラズマを生成してターゲットからスパッタリング粒子を放出するスパッタリング粒子放出部4とを備えている。成膜室3は一方向に長く形成されており、成膜室3の長手方向をX方向とする。水平面においてX方向と直交する方向をY方向とし、鉛直方向をZ方向とする。成膜室3及びスパッタリング粒子放出部4は内部が気密になるように形成され、それぞれの内部を減圧雰囲気で使用される。尚、スパッタリング粒子とは、スパッタリング現象により飛び出してくるターゲットの構成原子をいう。
【0020】
成膜室3及びスパッタリング粒子放出部4の室内圧力を制御する排気制御装置5が成膜室3に接続して設置されている。排気制御装置5は、所望の真空度を得るためのロータリーポンプ及びクライオポンプ等から構成されている。さらに、反応ガスとしての酸素ガス6を成膜室3に供給する反応ガス供給手段7が成膜室3と接続して設置されている。スパッタリング粒子放出部4が放出するスパッタリング粒子は成膜室3の室内に収容された基板2上に飛来する。そして、基板2上のスパッタリング粒子と酸素ガス6とが反応して無機配向膜を形成する。反応ガス供給手段7は−X方向に配置され、排気制御装置5は+X方向に配置されている。そして、反応ガス供給手段7から供給される酸素ガス6は成膜室3の−X方向側から+X方向側に流動する。このとき、酸素ガス6はスパッタリング粒子放出部4と基板2との間を経由して排気制御装置5側へ流動する。
【0021】
成膜室3には基板2を保持する基板ホルダー8が設置されている。そして、基板2の被処理面である成膜面2aがスパッタリング粒子放出部4を向いて水平方向となるように基板ホルダー8は基板2を保持する。この基板ホルダー8には基板ホルダー8を搬送する移動手段9が接続されている。移動手段9は直動機構を有し基板2を図中X方向に一定速度で搬送する。そして、スパッタリング粒子放出部4から放出されるスパッタリング粒子により基板2上に良質な無機配向膜が形成される。
【0022】
基板ホルダー8には保持した基板2を加熱するための図示しないヒーターが設けられている。さらに、基板ホルダー8には保持した基板2を冷却するための冷却部10が設けられている。冷却部10は冷媒循環部11と接続され、冷媒循環部11は冷却部10との間で冷媒を循環させることにより基板ホルダー8を冷却する。ヒーターが基板ホルダー8を加熱し、冷却部10が基板ホルダー8を冷却することにより、基板ホルダー8を所定の温度に維持できるように構成されている。
【0023】
さらに、成膜室3のX方向の片側または両側には図示しないロードロックチャンバーが設置されている。このロードロックチャンバーと成膜室3とは、チャンバー間を気密に閉塞するゲートバルブを介して接続されている。さらに、ロードロックチャンバーを真空雰囲気に調整する排気制御装置が配置されている。ゲートバルブの開閉とロードロックチャンバーの気圧を制御することにより成膜室3の真空度を保持した状態で基板2の搬入及び搬出が可能となっている。そして、基板2の成膜室3の搬入及び搬出の際に成膜室3を大気に解放せずに効率よく基板2の出し入れを行えるようにスパッタリング装置1が構成されている。
【0024】
スパッタリング粒子放出部4は対向配置される第1ターゲット12及び第2ターゲット13を有し、スパッタリング装置1は対向ターゲット型となっている。このスパッタリング粒子放出部4は直方体箱型状の筐体14を有し、筐体14は成膜室3との接続面のみ開放されている。そして、接続部15を介して成膜室3とスパッタリング粒子放出部4とが取り付けられている。
【0025】
スパッタリング粒子放出部4の筐体14の内部には第1ターゲット12と第2ターゲット13とが略平行に対向して配置されている。第1ターゲット12及び第2ターゲット13の平面方向をXa方向とする。そして、基板2の成膜面法線方向であるZ方向に対するXa方向の角度が所定の角度θとなるようにスパッタリング粒子放出部4が配置されている。この所定の角度θは特に限定されず基板2に形成する膜の表面形状に合わせて設定すれば良い。所定の角度θは予め予備実験をして設定するのが好ましい。
【0026】
本実施形態では成膜時の基板ホルダー8は−X方向の始点側から+X方向の終点側に向けて搬送される。第1ターゲット12と第2ターゲット13は基板ホルダー8の搬送の終点側に傾けて配置されている。そして、基板ホルダー8の搬送の始点に近い方に第1ターゲット12が設けられ、基板ホルダー8の搬送の終点に近い方に第2ターゲット13が設けられている。尚、第1ターゲット12及び第2ターゲット13は基板2上に形成する構成物質を含む材料から構成されている。例えば、基板2上に無機配向膜を形成するとき、第1ターゲット12及び第2ターゲット13は主にシリコンからなる材料にボロン、リン等がドープされた電気導通性の良い材料が用いられる。また、第1ターゲット12及び第2ターゲット13は、Y方向の幅が基板2の幅より長い板状のものが用いられている。そして、基板2の幅方向であるY方向において基板2全幅にスパッタリング粒子が飛行する。
【0027】
第1ターゲット12は一面が平面に形成された電極としてのバッキングプレート16に装着されている。バッキングプレート16は、取付ネジ19により筐体14の内部から絶縁板17に締結されている。この絶縁板17は取付ネジ19により筐体14の一面に内部から締結されている。筐体14とバッキングプレート16の間には絶縁板17が配置されているため、筐体14とバッキングプレート16との間には電流が流れないようになっている。バッキングプレート16は筐体14の一面に形成された穴14aを貫通して設置され、バッキングプレート16のプレート背面部16aが筐体14の外側に突出して配置されている。バッキングプレート16、絶縁板17、筐体14の各間にはOリング18が設置されているため、筐体14内は気密が保たれている。
【0028】
第2ターゲット13は一面が平面に形成された電極としてのバッキングプレート20に装着されている。バッキングプレート20は、取付ネジ19により筐体14の内部から絶縁板24に締結されている。この絶縁板24は取付ネジ19によりターゲット組付板23に内部から締結されている。ターゲット組付板23とバッキングプレート20の間には絶縁板24が配置されているため、ターゲット組付板23とバッキングプレート20との間には電流が流れないようになっている。
【0029】
ターゲット組付板23は筐体14に形成された穴14bを塞ぐように取付ネジ19により筐体14の外部から筐体14に締結されている。バッキングプレート20はターゲット組付板23に形成された穴23aを貫通して設置され、バッキングプレート20のプレート背面部20aが筐体14の外側に突出して配置されている。バッキングプレート20、絶縁板24、ターゲット組付板23、筐体14の各間にはOリング18が設置されることにより、筐体14内は気密が保たれている。
【0030】
第1ターゲット12と第2ターゲット13との間には防着カバー25が配置されている。防着カバー25は四角の断面を有しXa方向に長い筒状に形成され、−Xa方向の端に底25aが形成されている。そして、底25aがOリング18を介して取付ネジ19により筐体14に外側から締結されており、Oリング18により筐体14内の気密が保たれている。
【0031】
第1ターゲット12において第2ターゲット13側の面がスパッタリング粒子を放出する放出面12aである。同様に、第2ターゲット13において第1ターゲット12側の面がスパッタリング粒子を放出する放出面13aである。防着カバー25において第1ターゲット12及び第2ターゲット13と対向する場所には開口部25bが形成されている。そして、第1ターゲット12の放出面12a及び第2ターゲット13の放出面13aから放出されるスパッタリング粒子は開口部25bを通過して、第1ターゲット12と第2ターゲット13との間を移動することができる。
【0032】
第1ターゲット12から放出されるスパッタリング粒子の一部は第2ターゲット13に向かって進行し、第2ターゲット13上に堆積する。同様に、第2ターゲット13から放出されるスパッタリング粒子の一部は第1ターゲット12に向かって進行し、第1ターゲット12上に堆積する。一部のスパッタリング粒子は成膜室3に向かって進行する。防着カバー25の成膜室3側には開口部が形成されており、この開口部を放出開口部25cとする。第1ターゲット12及び第2ターゲット13から放出されるスパッタリング粒子の一部は放出開口部25cを通過して成膜室3に向かって飛行する。
【0033】
防着カバー25に到着するスパッタリング粒子は防着カバー25上に堆積する。筐体14内は防着カバー25に覆われているので、筐体14内では第1ターゲット12、第2ターゲット13、防着カバー25以外の場所にスパッタリング粒子が堆積し難くなっている。
【0034】
スパッタリング粒子放出部4はスパッタリングガス供給手段26を備えている。そして、スパッタリング粒子放出部4において成膜室3の反対側を底面部14cとするとき、スパッタリングガス供給手段26は放電用のアルゴンガスを底面部14cから流入させる。流入したスパッタリングガスは、筐体14の底面部14cから一対の対向する第1ターゲット12または第2ターゲット13を経て成膜室3に流れるように構成されている。
【0035】
バッキングプレート16及びバッキングプレート20は電極の機能を有し、これらには方形波または正弦波を出力する図示しない電源が接続されている。第1ターゲット12と第2ターゲット13とが向き合う空間をプラズマ生成領域とする。スパッタリングガスが供給された状態で電源からバッキングプレート16とバッキングプレート20との間に電圧を印加することにより、スパッタリング粒子放出部4はプラズマ生成領域にプラズマPzを発生させる。
【0036】
バッキングプレート16内には第1ターゲット12を冷却するための図示しない冷却部が設置されている。そして、プレート背面部16aには冷却部と接続して配管27が設けられ、配管27と接続して冷媒循環部28が設置されている。この冷媒循環部28は冷媒を循環させることにより冷却部を介して第1ターゲット12を冷却させる。同様に、バッキングプレート20内には第2ターゲット13を冷却するための図示しない冷却部が設置されている。そして、プレート背面部20aには冷却部と接続して配管29が設けられ、配管29と接続して冷媒循環部30が設置されている。この冷媒循環部30は冷媒を循環させることにより冷却部を介して第2ターゲット13を冷却させる。
【0037】
第1ターゲット12、第2ターゲット13を取り囲むように裏面側から図示しない磁界発生手段が配置されている。磁界発生手段は永久磁石、電磁石、またはこれらを組み合わせた磁石等から構成され、第1ターゲット12、第2ターゲット13を取り囲むZa方向に磁界を形成する。この磁界によってプラズマPzに含まれる電子やイオン状物質がプラズマ生成領域内に拘束される。つまり、磁界発生手段は電子やイオン状物質の拘束手段となっている。
【0038】
次に、スパッタリング装置1を用いて基板2上に無機配向膜を形成する方法を説明する。まず、スパッタリングガス供給手段26からアルゴンガスを導入する。次に、バッキングプレート16,20にパルス波形または正弦波波形の高電圧をかけることにより、第1ターゲット12、第2ターゲット13に挟まれる空間にプラズマPzを発生させる。プラズマ雰囲気中のアルゴンイオンを第1ターゲット12及び第2ターゲット13に衝突させることで、第1ターゲット12、第2ターゲット13から配向膜材料(シリコン)をスパッタリング粒子としてたたき出す。さらにプラズマPzに含まれるスパッタリング粒子のうち、プラズマPzから放出開口部25cへ飛行するスパッタリング粒子のみを成膜室3側へ放出する。
【0039】
スパッタリング粒子放出部4から飛来したスパッタリング粒子と、成膜室3を流通する酸素ガス6とを基板2上で反応させることにより、シリコン酸化物からなる配向膜を基板2上に形成する。そして、一方向に配向した柱状構造を有する無機配向膜が基板2上に形成される。
【0040】
スパッタリング装置1を使用するに従いターゲットが消耗し、防着カバー25にスパッタリング粒子が堆積するため、ターゲット及び防着カバー25の交換が定期的に行われる。ここではメンテナンス作業としてターゲット及び防着カバー25交換を行う場合について説明する。まず、作業者はバッキングプレート20から配管29を外す。続いて、作業者はターゲット組付板23を筐体14に固定している取付ネジ19を筐体14の外側からはずす。次に、作業者はターゲット組付板23を筐体14から取り外す。続いて、作業者は図示しない作業机上にターゲット組付板23を移動する。次に、作業者は作業机上にてバッキングプレート20に装着されている第2ターゲット13の交換を行う。
【0041】
次に、作業者は防着カバー25を筐体14に固定している取付ネジ19を筐体14の外側からはずす。次に、作業者は防着カバー25を筐体14からはずして筐体14の穴14bから取り出す。続いて、作業者はバッキングプレート16から配管27を外す。次に、作業者はバッキングプレート16を絶縁板17に固定している取付ネジ19をはずす。このとき、作業者は筐体14の穴14bから工具を筐体14内に差し込んで操作する。次に、作業者はバッキングプレート16を絶縁板17からはずして筐体14の穴14bから取り出す。続いて、作業者は図示しない作業机上にバッキングプレート16を移動する。次に、作業者は作業机上にてバッキングプレート16に装着されている第1ターゲット12の交換を行う。
【0042】
次に、作業者は筐体14の穴14bを通してバッキングプレート16を筐体14内に移動する。続いて、作業者はバッキングプレート16を絶縁板17に合わせた後、取付ネジ19にてバッキングプレート16を絶縁板17に締結する。続いて、作業者は設置する予定の防着カバー25を筐体14の穴14bを通して筐体14内に移動する。続いて、作業者は防着カバー25の底25aを筐体14の底面部14cに合わせた後、取付ネジ19にて防着カバー25を筐体14に固定する。
【0043】
次に、作業者はターゲット組付板23を筐体14の穴14bに合わせた後、取付ネジ19にてターゲット組付板23を筐体14に締結する。以上の作業にてターゲット及び防着カバー25の交換を終了する。
【0044】
図2は防着カバー25を示す要部断面図であり、図2(a)は図1におけるA−A’から見た図である。図2(a)に示すように防着カバー25の開口部25bはY方向に長い長方形に形成されている。そして、第1ターゲット12においてスパッタリング粒子を多く放出するエロージョン領域12bと対向する場所の防着カバー25には開口部25bが形成されている。スパッタリング粒子は開口部25bを通って防着カバー25の内部に放出される。
【0045】
防着カバー25の開口部25bは第1ターゲット12の外周部12cより内側に形成されている。従って、防着カバー25は第1ターゲット12の外周部12cを覆うように形成されている。防着カバー25において第2ターゲット13と対向する場所の開口部25bも第1ターゲット12と対向する場所の開口部25bと同様な形状に形成されている。そして、第2ターゲット13のエロージョン領域と対向する場所の防着カバー25には開口部25bが形成されている。さらに、防着カバー25は第2ターゲット13の外周部を覆うように形成されている。
【0046】
図2(b)は図1のターゲット近傍を拡大した図である。図2(b)に示すように、防着カバー25は第1ターゲット12の外周部12cと対向する場所を覆っている。さらに、第1ターゲット12の側面12dと対向する場所には防着カバー25から側面カバー部25dが突出して配置されている。側面カバー部25dは第1ターゲット12における4つの側面12dを覆うように配置されている。防着カバー25の表面は総てスパッタリング粒子31が吸着し易い処理がなされた吸着面となっている。
【0047】
第2ターゲット13から第1ターゲット12に向かって飛行するスパッタリング粒子31の一部分は第1ターゲット12側の開口部25bを通過する。そして、このスパッタリング粒子31は第1ターゲット12の放出面12aに着弾する。このスパッタリング粒子31の一部分は第1ターゲット12側の開口部25bを通過する。そして、放出面12aと平行に近い角度で進行するスパッタリング粒子31は側面カバー部25dに着弾する。そして、第2ターゲット13から第1ターゲット12に向かって飛行するスパッタリング粒子31は第1ターゲット12または防着カバー25に着弾する。従って、スパッタリング粒子31は第1ターゲット12と防着カバー25との間を通過し難いので、バッキングプレート16にスパッタリング粒子31が堆積し難くなっている。
【0048】
第1ターゲット12の放出面12aと防着カバー25との間で最も短い距離を放出面カバー間距離32とする。そして、第1ターゲット12の側面12dと側面カバー部25dとの間で最も短い距離を側面カバー間距離33とする。さらに、バッキングプレート16と防着カバー25の側面カバー部25dとの間で最も短い距離を電極カバー間距離34とする。成膜を続けていると、成膜室3及びスパッタリング粒子放出部4でスパッタリング粒子31が堆積して膜となり、それが剥がれることがある。特に対向ターゲットスパッタでは、反対側のターゲットから大量のスパッタリング粒子が放出されてくるためこの懸念が大きい。剥がれた膜片の大きさは一様ではないが、厚く堆積した膜が自己破壊しながら剥がれてくる場合には、堆積した膜の厚さと同程度もしくはそれ以下の大きさの破片が殆どである。対向ターゲットスパッタではこの膜厚が1mm以上となるまで防着カバーを継続使用することも多く、膜剥がれが発生しない場合はさらに膜厚2mm程度まで使用することも可能である。ここで、放出面カバー間距離32、側面カバー間距離33、電極カバー間距離34の各距離は堆積する膜の膜厚より大きく設定されている。従って、第1ターゲット12と防着カバー25との間に膜剥がれ破片が侵入するときにも、第1ターゲット12と防着カバー25とを架橋するようには破片が付着し難くなっている。同様に、バッキングプレート16と防着カバー25との間に膜剥がれ破片が侵入するときにも、バッキングプレート16と防着カバー25とを架橋するようには破片が付着し難くなっている。
【0049】
第2ターゲット13側の防着カバー25の形状は第1ターゲット12側の形状と同様の形状に形成されている。従って、スパッタリング粒子31は第2ターゲット13と防着カバー25との間を通過し難いので、バッキングプレート20にスパッタリング粒子31が堆積し難くなっている。そして、第2ターゲット13と防着カバー25とを架橋するようには膜剥がれ破片が付着し難くなっている。さらに、第2ターゲット13とバッキングプレート20とを架橋するようには膜剥がれ破片が付着し難くなっている。
【0050】
上述したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によれば、筐体14内に第1ターゲット12と第2ターゲット13とが対向して配置されている。一方のターゲットが放出するスパッタリング粒子31は他方のターゲットに向かって飛行する。そして、スパッタリング粒子31が他方のターゲット及び防着カバー25に付着する。第1ターゲット12側では防着カバー25は放出面12aの外周部12cを覆っている。従って、第1ターゲット12に向かって飛行するスパッタリング粒子31は放出面12aと防着カバー25との間に侵入し難くなっている。さらに、防着カバー25は第1ターゲット12の側面12dを覆っている。従って、放出面12aと防着カバー25との間に進入したスパッタリング粒子31は第1ターゲット12の側面12dを覆う防着カバー25に付着する。その結果、第1ターゲット12の周囲に飛行するスパッタリング粒子31を防着カバー25が捕獲することができる。この内容については、第2ターゲット13側の防着カバー25においても同様の効果が得られる。
【0051】
(2)本実施形態によれば、第1ターゲット12と防着カバー25とを架橋するように膜剥がれ破片が付着し難くなっている。さらに、第1ターゲット12とバッキングプレート16とを架橋するように膜剥がれ破片が付着し難くなっている。従って、膜剥がれ破片が防着カバー25、第1ターゲット12、バッキングプレート16に付着しても、防着カバー25と第1ターゲット12との間及び防着カバー25とバッキングプレート16との間で漏電することを防止することができる。
【0052】
(3)本実施形態によれば、防着カバー25はエロージョン領域12bと対向する場所に開口部25bが形成されている。つまり、防着カバー25にはスパッタリング粒子31が通過する場所に開口部25bが形成されている。従って、スパッタリング粒子31の放出を妨げることなく第1ターゲット12及び第2ターゲット13をカバーすることができる。
【0053】
(4)本実施形態によれば、第2ターゲット13を配置するターゲット組付板23が筐体14の外部から取り外し可能に形成されている。ターゲット交換を行う場合、第2ターゲット13を配置するターゲット組付板23を取り外し、この開放された穴14bを通して、バッキングプレート16及び防着カバー25を取りはずすことにより、ターゲットの交換ができる。取り外したターゲット組付板23及びバッキングプレート16は作業机上でターゲット交換ができる。従って、第1ターゲット12、第2ターゲット13及び防着カバー25の交換作業が容易で、短時間にかつ確実に行うことができる。
【0054】
(第2の実施形態)
次に、スパッタリング装置の一実施形態について図3の防着カバーを示す要部断面図を用いて説明する。本実施形態が第1の実施形態と異なるところは、防着カバー25の形状が異なる点にある。尚、第1の実施形態と同じ点については説明を省略する。
【0055】
すなわち、本実施形態では、図3に示すように、スパッタリング装置37は、バッキングプレート16に装着された第1ターゲット12を備えている。バッキングプレート16と対向する場所には防着カバー38が配置されている。防着カバー38の表面は総てスパッタリング粒子31が吸着し易い処理がなされた吸着面となっている。防着カバー38は外周カバー部38aを備え、外周カバー部38aは第1ターゲット12の外周部12cと対向する場所を覆っている。そして、外周カバー部38aはエロージョン領域12bと対向する場所に開口部38bが形成され、第1ターゲット12から放出されるスパッタリング粒子31が第2ターゲット13に向かって通過するのを妨げないようになっている。
【0056】
第1ターゲット12の側面12dと対向する場所には側面12dと平行な面を有する第1側面カバー部38cが配置されている。さらに、第1ターゲット12の側面12dと対向する場所には側面12dと直交する方向に吸着面を有する第2側面カバー部38dが配置されている。第1側面カバー部38c及び第2側面カバー部38dは第1ターゲット12における4つの側面12dを覆うように配置されている。
【0057】
第2ターゲット13から第1ターゲット12に向かって飛行するスパッタリング粒子31の一部分は第1ターゲット12側の開口部38bを通過する。そして、このスパッタリング粒子31は第1ターゲット12の放出面12aに着弾する。このスパッタリング粒子31の一部分は第1ターゲット12側の開口部38bを通過する。そして、放出面12aと平行に近い角度で進行するスパッタリング粒子31は第1側面カバー部38cまたは第2側面カバー部38dに着弾する。そして、第2ターゲット13から第1ターゲット12に向かって飛行するスパッタリング粒子31は第1ターゲット12または防着カバー38に着弾する。従って、バッキングプレート16にスパッタリング粒子31が堆積し難くなっている。
【0058】
第1ターゲット12の放出面12aと外周カバー部38aとの間で最も短い距離を放出面カバー間距離39とする。そして、第1ターゲット12の側面12dと第2側面カバー部38dとの間で最も短い距離を側面カバー間距離40とする。さらに、バッキングプレート16と第2側面カバー部38dとの間で最も短い距離を電極カバー間距離41とする。放出面カバー間距離39、側面カバー間距離40、電極カバー間距離41の各距離は堆積する膜の膜厚より大きく設定されている。従って、第1ターゲット12と防着カバー38との間に膜剥がれ破片が侵入するときにも、第1ターゲット12と防着カバー38とを架橋するように膜剥がれ破片が付着し難くなっている。同様に、バッキングプレート16と防着カバー38との間に膜剥がれ破片が侵入するときにも、バッキングプレート16と防着カバー38とを架橋するように膜剥がれ破片が付着し難くなっている。
【0059】
防着カバー38において第2ターゲット13側の形状も第1ターゲット12側と同様の形状に形成されている。従って、第2ターゲット13と防着カバー38とを架橋するように膜剥がれ破片が付着し難くなっている。さらに、バッキングプレート20と防着カバー38とを架橋するように膜剥がれ破片が付着し難くなっている。
【0060】
第2ターゲット13側の防着カバー38の形状は第1ターゲット12側の形状と同様の形状に形成されている。従って、スパッタリング粒子31は第2ターゲット13と防着カバー38との間を通過し難いので、バッキングプレート20にスパッタリング粒子31が堆積し難くなっている。そして、第2ターゲット13と防着カバー38とを架橋するように膜剥がれ破片が付着し難くなっている。さらに、第2ターゲット13とバッキングプレート20とを架橋するように膜剥がれ破片が付着し難くなっている。
【0061】
上述したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によれば、防着カバー38は第1ターゲット12の側面12dと直交する方向に吸着面を有する第2側面カバー部38dを備えている。第1ターゲット12の厚さが薄いときにも第1ターゲット12の側面12dと対向する場所の吸着面を広くすることができる。吸着面が狭いときにはスパッタリング粒子31が堆積して剥離するので膜剥がれ破片が発生し易くなる。本実施形態では吸着面が第1ターゲット12の側面12dと直交する方向に第2側面カバー部38dが設置されるので、吸着面を広くすることができる。その結果、膜剥がれ破片を発生し難くすることができる。
【0062】
尚、本実施形態は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更や改良を加えることも可能である。変形例を以下に述べる。
(変形例1)
前記第1の実施形態では、スパッタリング粒子としてのシリコンを、酸素ガスと反応させることでシリコン酸化物を基板2上に成膜する場合について説明しているが、ターゲットとして例えばシリコン酸化物(SiOx)やアルミニウム酸化物(AlOy等)等を用い、シリコン酸化物やアルミニウム酸化物からなる無機配向膜を基板2上に形成することができる。尚、この変形例は前記第2の実施形態にも適用可能である。
【0063】
(変形例2)
前記第1の実施形態では、基板2の成膜面の法線方向であるZ方向に対するXa方向の角度が所定の角度θとなるようにスパッタリング粒子放出部4が配置された。この所定の角度θは特に限定されない、例えば、所定の角度θを0度にしても良い。このとき、スパッタリング装置1は基板2の成膜面2aと直交する方向からスパッタリング粒子31を着弾させることができる。所定の角度θを変更することにより膜の特性を変えることができる。尚、この変形例は前記第2の実施形態にも適用可能である。
【0064】
(変形例3)
前記第2の実施形態では、第2側面カバー部38dは側面12dと直交するように配置された。第2側面カバー部38dは側面12dに対して斜めに配置されていても良い。スパッタリング粒子31が付着する吸着面の面積を広く設けられれば良い。
【符号の説明】
【0065】
1,37…スパッタリング装置、2…基板、3…成膜室、4…スパッタリング粒子放出部、8…基板ホルダー、12…第1ターゲット、12a…放出面、12b…エロージョン領域、12c…外周部、12d…側面、13…第2ターゲット、14…筐体、16,20…電極としてのバッキングプレート、25b,38b…開口部、25,38…防着カバー、31…スパッタリング粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持する基板ホルダーを備えた成膜室と、前記成膜室に連通し筐体内に一対のターゲットが対向して配置されるスパッタリング粒子放出部と、を備える対向ターゲット方式のスパッタリング装置であって、
前記ターゲットの側面と前記ターゲットがスパッタリング粒子を放出する放出面の外周部を覆う防着カバーを備えることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタリング装置であって、
前記ターゲットを支持する電極を備え、
前記防着カバーと前記ターゲットまたは前記電極との距離は、前記成膜室または前記スパッタリング粒子放出部の内部に堆積する膜の厚さより大きいことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載のスパッタリング装置であって、
前記防着カバーは、前記ターゲットの側面と対向する場所に、前記側面と交差する方向に前記スパッタリング粒子を吸着する吸着面を有することを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項4】
請求項3に記載のスパッタリング装置であって、
前記防着カバーは前記ターゲットが前記スパッタリング粒子を放出するエロージョン領域と対向する場所に開口部が形成されていることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項5】
請求項4に記載のスパッタリング装置であって、
前記一対のターゲットのうちのどちらか一方に配置される前記筐体の一部が前記ターゲットを含んで前記筐体外側より取り外し可能に形成され、前記防着カバーが前記筐体内側より取り外し可能に形成されていることを特徴とするスパッタリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−74480(P2011−74480A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230257(P2009−230257)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】