説明

スピンコート方法及びスピンコーター

【課題】 中心に穴の開けられた円盤状ディスク基板の表面にレジストを均一に塗布するスピンコート方法を提供する。
【解決手段】 中心に貫通穴を有する円盤状ディスク基板を回転させながら、ノズルから成膜材料を吐出して、基板上面に塗布するためのスピンコート方法において、吐出量が変動する吐出初期段階では、前記ノズルの内径中心を前記ディスクの塗布境界となるべき位置よりも半径方向外方側の位置(初期吐出半径位置)に配置させて前記成膜材料を吐出し、その後、吐出量が安定した段階で前記ノズルの内径中心を前記初期吐出半径位置から前記塗布境界近傍(安定後吐出半径位置)に移動させて配置し前記成膜材料を更に吐出するスピンコート方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中心に穴の有る円盤状ディスクの表面にレジストなどを塗布するスピンコート方法に関する。更に詳細には、本発明は被転写体の表面に微細構造を形成するナノインプリント装置において、ディスクリートトラックメディアのように、中心に穴の有る円盤状ディスクの表面に微細構造を形成するアプリケーションに使用するために、レジストを均一にディスク表面に塗布するためのスピンコート方法及びスピンコーターに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータなどの各種情報機器の目覚ましい機能向上により、使用者が扱う情報量は増大の一途を辿り、ギガからテラ単位領域に達している。このような環境下において、これまでよりも一層記録密度の高い情報記憶・再生装置やメモリーなどの半導体装置に対する需要が益々増大している。
【0003】
記録密度を増大させるには、一層微細な加工技術が必要となる。露光プロセスを用いた従来の光リソグラフィー法は、一度に大面積を微細加工することができるが、光の波長以下の分解能を持たないため、自ずから光の波長以下(例えば、100nm以下)の微細構造の作製には適さない。光の波長以下の微細構造の加工技術として、電子線を用いた露光技術、X線を用いた露光技術及びイオン線を用いた露光技術などが存在する。しかし、電子線描画装置によるパターン形成は、i線、エキシマレーザ等の光源を使用した一括露光方式によるものと異なって、電子線で描画するパターンが多ければ多いほど、描画(露光)時間がかかる。従って、記録密度が増大するにつれて、微細パターンの形成に要する時間が長くなり、製造スループットが著しく低下する。一方、電子線描画装置によるパターン形成の高速化を図るために、各種形状のマスクを組み合わせてそれらに一括して電子線を照射する一括図形照射法の開発が進められているが、一括図形照射法を使用する電子線描画装置は大型化すると共に、マスクの位置を一層高精度に制御する機構が更に必要になり、描画装置自体のコストが高くなり、結果的に、媒体製造コストが高くなるなどの問題点がある。
【0004】
光の波長以下の微細構造の加工技術として、従来のような露光技術に代えて、プリント技術による方法が提案されている。例えば、特許文献1には、「ナノインプリントリソグラフィー(NIL)技術」に関する発明が記載されている。ナノインプリントリソグラフィー(NIL)技術は、前もって電子線露光技術等の光の波長以下の微細構造の加工技術を用いて、所定の微細構造パターンを形成した原版(モールド)をレジスト塗布被転写基板に加圧しながら押し当て、原版の微細構造パターンを被転写基板のレジスト層に転写する技術である。原版さえあれば、特別に高価な露光装置は必要無く、通常の印刷機レベルの装置でレプリカを量産できるので、電子線露光技術等に比較してスループットは飛躍的に向上し、製造コストも大幅に低減される。このような目的に使用される装置は、「微細構造転写装置」又は「インプリント装置」などと呼ばれている。
【0005】
ナノインプリントリソグラフィー(NIL)技術において、レジストとして熱可塑性樹脂を使用する場合、その材料のガラス転移温度(Tg)近傍又はそれ以上の温度に上げて加圧して転写する。この方式は熱転写方式と呼ばれる。熱転写方式は熱可塑性の樹脂であれば汎用の樹脂を広範に使用できる利点がある。これに対し、レジストとして感光性樹脂を使用する場合、紫外線などの光を曝露すると硬化する光硬化性樹脂により転写する。この方式は光転写方式と呼ばれる。
【0006】
光転写方式のナノインプリント加工法では、特殊な光硬化型の樹脂を用いる必要があるが、熱転写方式と比較して、転写印刷版や被印刷部材の熱膨張による完成品の寸法誤差を小さくできる利点がある。また、装置上では、加熱機構の装備や、昇温、温度制御、冷却などの付属装置が不要であること、更に、インプリント(微細構造転写)装置全体としても、断熱などの熱歪み対策のための設計的な配慮が不要となるなどの利点がある。
【0007】
光転写方式のインプリント(微細構造転写)装置の一例は特許文献2に記載されている。この装置は、紫外線を透過できるスタンパを光硬化性樹脂(レジスト)の塗布されたディスクに押し当て、上部から紫外線(UV光)を照射し、レジストを硬化させた後、スタンパを剥離して、ディスク表面にレジスト微細構造を形成するように構成されている。スタンパの被転写基板押圧面には所定の微細構造パターンが形成されている。
【0008】
精度の高いレジスト微細構造を形成するためには、レジストを可能な限り均一な厚さでディスク表面に塗布しておく必要がある。ディスク表面へのレジストの塗布方法としては、ディップコート、スプレーコート、静電スプレーコート、ブラシコーター、ロールコーター、メニスカスコーター、インクジェット、ダイコート、スピンコートなど様々な方法があるが、塗布膜厚の均一性、再現性、量産性及び作業効率などの点からスピンコート方法が一般的である。
【0009】
スピンコート方法は、回転中のワークの中心にレジストを滴下又は吐出し、遠心力を利用してワーク全面にレジストを塗り広げて膜厚を均一化させる方法である。しかし、ディスクの場合、中心に穴が開いており、中心にレジストを吐出して塗り広げる方法が使用できない。このため、キャップなどで中心の穴を塞ぎ、キャップの中心にレジストを滴下又は吐出してディスク周縁部に塗り広げる方法が試された。この方法では、キャップとディスクの段差や隙間などの形状不連続部分が影響し、膜厚の均一性に劣るという欠点があった。別法として、内周穴にかからない半径位置でレジストを吐出し、外周へ塗り広げる方法もある。しかし、この方法の場合、レジスト吐出位置が一点でなく、円状であることから、レジスト吐出位置精度の影響を受け、特に内周部において膜厚の均一性に劣ることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5772905号公報(US005772905A)
【特許文献2】特開2008−12844号公報(P2008−12844A)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、中心に穴の開けられた円盤状ディスク基板の表面にレジストを均一に塗布するスピンコート方法を提供することである。
本発明の別の目的は、前記スピンコート方法を実施するのに使用されるスピンコーターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題は、中心に貫通穴を有する円盤状ディスク基板を回転させながら、ノズルから成膜材料を吐出して、基板上面に塗布するためのスピンコート方法において、吐出量が変動する吐出初期段階では、前記ノズルの内径中心を前記ディスクの塗布境界となるべき位置よりも半径方向外方側の位置(初期吐出半径位置)に配置させて前記成膜材料を吐出し、その後、吐出量が安定した段階で前記ノズルの内径中心を前記初期吐出半径位置から前記塗布境界近傍(安定後吐出半径位置)に移動させて配置し前記成膜材料を更に吐出するスピンコート方法により解決される。
【0013】
また、前記課題は、中心に貫通穴を有する円盤状ディスク基板を上端部にチャックする回転軸と、前記回転軸を回転させるためのモータと、前記円盤状ディスク基板の上面に成膜材料を吐出するためのノズルとを有するスピンコーターにおいて、前記ノズルは移動機構により支持されており、成膜材料の吐出量が変動する吐出初期段階から成膜材料の吐出量が安定する段階に応じて、前記ノズルの配置位置を変更することができるスピンコーターによっても解決される。
【発明の効果】
【0014】
ノズルからディスク表面に成膜材料を吐出すると、吐出初期段階では吐出量の変動が大きく、塗布境界に“うねり”が生じてディスクの回転中心と同心円状の境界が得られず、境界での遠心力が不均一となり、結果的に塗布膜厚が不均一になっていた。本発明のスピンコート方法によれば、吐出初期段階ではノズルを塗布境界よりも外側に位置させ、吐出量の変動が収まり吐出が安定段階に入ったらノズルを移動させて塗布境界に配置するので、塗布境界はディスクの回転中心と同心円状になり、境界での遠心力が均一となり、均一な膜厚を有する塗布膜が得られる。
【0015】
従来のスピンコーターでは成膜材料吐出時のノズルの位置は固定されていたので、ディスクへの成膜材料の吐出初期段階の吐出量の変動には対応できなかった。これに対し、本発明のスピンコーターではノズルを移動機構に連動させて、吐出時のノズルの位置を吐出初期段階と吐出安定段階とで変更することができる。本発明のノズル位置変更機能を有するスピンコーターを使用することにより、均一な膜厚を有する塗布膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のスピンコート方法を実施するのに使用されるスピンコーターの一例の概要構成図である。
【図2】ハードディスク用記録媒体として広く一般的に使用されている円盤状ディスク基板の部分拡大平面図である。
【図3】本発明のスピンコート方法により、円盤状ディスク基板の上面にノズルでレジストを吐出する状態を説明する模式的断面図である。
【図4】スピンコート法によるレジスト吐出量の過度応答特性を示す特性図である。
【図5】本発明のスピンコート方法によらず、ノズルを塗布境界近傍の固定吐出半径位置に配置してスピンコートを行った場合の塗布境界の形成状態を説明する模式的平面図である。
【図6】本発明のスピンコート方法によりレジストを塗布した場合の塗布境界の形成状態を説明する模式的平面図である。
【図7】実施例1に従ってスピンコートされたディスク面の塗布厚ムラの光学的検査結果を示す測定図である。
【図8】比較例1に従ってスピンコートされたディスク面の塗布厚ムラの光学的検査結果を示す測定図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明のスピンコート方法の好ましい実施態様について詳細に説明する。図1は本発明のスピンコート方法を実施するのに使用されるスピンコーターの一例の概要構成図である。本発明のスピンコーター1は、円盤状ディスク基板3を回転させるためのモータ5を有する。モータ5は回転軸7を有する。モータ5はモータ取付台座9に取付られている。図示されているように、回転軸7はモータ5の外部に突出されており、円盤状ディスク基板3は、その中心穴が回転軸7の上端の凸部11に係合され、水平に支持される。図示されていないが、凸部11には円盤状ディスク基板3をチャッキングするための公知慣用の手段が配設されている。このディスクチャッキング手段により円盤状ディスク基板3を回転軸7に着脱可能に取り付けることができるばかりか、所定の速度で安定的に回転させることができる。必要に応じて、回転軸7には回転速度計13を配設することもできる。
【0018】
本発明のスピンコーター1の最大の特徴は、吐出時のディスペンサノズル15の位置を移動させることができることである。従来のスピンコーターでは吐出時のディスペンサノズルの位置は固定されており、移動させることはできなかった。従って、本発明のスピンコーター1では、ディスペンサノズル15を移動機構17に保持させている。この移動機構17によりディスペンサノズル15の位置を円盤状ディスク基板3の半径方向内方又は半径方向外方へ移動させることができる。移動機構17は、取付台座9に立設された適当な支柱19により支持されている。移動機構17としては、ボールスクリュー、ステッピングモータなど公知慣用の微小精密移動装置を使用することができる。
【0019】
図2は、ハードディスク用記録媒体として広く一般的に使用されている円盤状ディスク基板3の部分拡大平面図である。円盤状ディスク基板3はその中心(図中のx印)から所定の半径の貫通穴21を有する。これはハードディスクのモータなどの回転軸を挿入するためのものである。スピンコート法により回転中のディスク3に円状にレジストを吐出して塗り広げるとき、貫通穴21の外周縁23から所定の距離だけ半径方向外方寄り部分にはレジストなどの成膜材料を塗布していない。このレジスト非塗布領域25は、円盤状ディスク基板3を真空チャックしてハンドリングする際に使用される。非塗布領域25の塗布境界27は、塗り広げ遠心力の均一化のために回転中心(図中のx印)と同心円でなければならない。
【0020】
図3は本発明のスピンコート方法により、円盤状ディスク基板3の上面にノズル15でレジストを吐出する状態を説明する模式的断面図である。本発明のスピンコート方法の特徴は、吐出初期は塗布境界27から外周寄りの位置(初期吐出半径)でノズル15からレジスト29を円盤状ディスク基板3の上面に吐出し、その後、ノズル15の半径方向内方外周を内周エッジ25の塗布境界27の直上位置(安定後吐出半径)に移動させ、この位置でレジスト29を更に吐出することである。これにより、内周エッジ25の塗布境界27は回転中心と同心円となり、塗布境界27における遠心力が均一になり、均一な膜厚を有するレジスト塗布膜が得られる。
【0021】
図4はスピンコート法によるレジスト吐出量の過度応答特性を示す特性図である。ノズル15から初期吐出されるレジスト29は、レジスト吐出圧力の過度的応答やレジストの表面張力によりノズル15の内径よりも大きな外径を有する液滴となって円盤状ディスク基板3の上面に吐出される。このため吐出初期はレジスト吐出量が最も大きく、その後吐出量が減少し、再び増加した後、安定した一定の吐出量になる。この特性図より、吐出開始から吐出量が安定するまで或る程度の時間経過が必要なことが理解できる。
【0022】
図5は、本発明のスピンコート方法によらず、ノズル15を塗布境界27近傍の固定吐出半径位置に配置してスピンコートを行った場合の塗布境界27の形成状態を説明する模式的平面図である。ノズル15を塗布境界27近傍の固定吐出半径位置に配置してスピンコートを行うと、吐出開始時の過度的な吐出量不安定の影響を受け、塗布境界27の輪郭線に、吐出量の変動を反映するように“うねり”が生じてしまい、同心円にはならない。塗布境界27の輪郭線が、この“うねり”部分を有したままスピンコートを継続すると、遠心力が不均一となり、ディスク面に塗布ムラが生じ、均一な膜厚を有するレジスト塗布膜を得ることができない。
【0023】
図6は本発明のスピンコート方法によりレジストを塗布した場合の塗布境界27の形成状態を説明する模式的平面図である。本発明のスピンコート方法によれば、吐出初期段階では、ノズル15の内径中心は塗布境界27となるべき位置よりも半径方向外方側の位置(初期吐出半径位置A)に偏位されている。このA位置でノズル15からレジスト29を円盤状ディスク基板3の上面に吐出しても、図4で説明したような吐出量の変動は生じている。しかし、本発明の方法では、レジスト吐出量が安定状態になった時点で、ノズル15の内径中心を塗布境界27近傍(安定後吐出半径位置B)に移動させ、この位置でレジスト29を更に吐出することである。これにより、塗布境界27は回転中心と完全な同心円になり、塗布境界27における遠心力が均一となり、均一な膜厚を有するレジスト塗布膜が得られる。初期吐出半径位置A付近において多く吐出されたレジストはその後のスピンコートにより均一に塗り広げられ、レジスト塗布膜の膜厚に不均一な箇所は生じない。
【0024】
本発明のスピンコート方法において、ノズル15の位置偏位量(A−B)は、使用するディスペンサノズル15、ノズル15の先端からディスク基板3の上面までの距離、レジスト29の粘度や吐出量などのファクターに応じて変化するが、一般的に、使用するノズル15の内径半径の1.5倍〜30倍程度である。ノズル15の位置偏位量(A−B)がノズル15の内径半径の1.5倍未満では、初期吐出半径位置Aが安定後吐出半径位置Bに近すぎるために吐出初期段階における吐出量の変動の影響を受けて塗布境界27の輪郭線に“うねり”が生じる可能性がある。一方、ノズル15の位置偏位量(A−B)がノズル15の内径半径の30倍超では、塗布境界27の輪郭線は回転中心と同心円にはなるが、ディスクへのレジスト塗布量の増大による成膜精度悪化やレジストコストの増加などの不都合が生じるので好ましくない。例えば、使用するノズル15の内径が0.2mmの場合、ノズル15の位置偏位量(A−B)は1mm程度が好ましい。
【0025】
前記のように、本発明のスピンコート方法では、ノズル15は初期吐出半径位置Aから安定後吐出半径位置Bに移動されるが、レジストの吐出開始から安定後吐出半径位置Bに移動開始させるまでの時間、すなわち吐出開始から吐出安定にまで要する時間は円盤状ディスク基板3の回転数、使用するディスペンサノズル15、レジスト29の粘度や吐出量などのファクターに応じて変化するが、一般的に、0.1秒間〜5秒間程度である。0.1秒間未満では吐出安定に達するには不十分である。一方、5秒間超の場合、吐出安定には十分過ぎ、徒に塗布作業時間が長引くだけでメリットはない。最適な吐出安定時間は、事前に塗布作業を何度か繰り返すことにより決定することができる。例えば、初期吐出半径位置Aにおける吐出時間(すなわち、A位置における停滞時間)を短くしたとき、塗布ムラが発生する時間を予備塗布試験により実測し、実際の塗布作業における、吐出開始から吐出安定にまでに要する時間として決定することができる。
【0026】
本発明のスピンコート方法を実施するために採用することが好ましいその他の条件は、(1)レジスト初期吐出時のディスク回転数、(2)レジスト吐出圧力及び(3)ノズル先端とディスク表面までの距離などである。前記(1)のレジスト初期吐出時のディスク回転数としては、300rpm〜2000rpmの範囲内であることが好ましい。レジスト初期吐出時のディスク回転数が300rpm未満の場合、レジストの広がり速度が遅く、レジスト液が滞留し、塗布境界27にうねりが生じる。一方、レジスト初期吐出時のディスク回転数が2000rpm超の場合、ディスク表面にレジストが塗れ付かないなどの欠点が生じる。また、前記(2)のレジスト吐出圧力としては、5kPa〜50kPaの範囲内であることが好ましい。レジスト吐出圧力が5kPa未満の場合、初期吐出における吐出量が更に不安定になる。一方、レジスト吐出圧力が50kPa超の場合、吐出量が増加するため、ノズル先端から出るレジスト吐出径が変動し、塗布境界27にうねりが生じる。更に、(3)のノズル先端とディスク表面までの距離としては、1mm〜5mmの範囲内であることが好ましい。ノズル先端とディスク表面までの距離が1mm未満の場合、ノズル先端に残るレジスト液滴がディスク表面に接触し、膜厚ムラが生じる。一方、ノズル先端とディスク表面までの距離が5mm超の場合、ディスク表面へのレジスト吐出位置が不安定となるため、塗布境界27にうねりが生じる。
【実施例1】
【0027】
内径12mmの中心穴を有する、直径50mmのシリコン製円盤状ディスク基板を準備し、基板表面をイソプロピルアルコールで洗浄し、乾燥させた後、図1に示されるようなスピンコート装置にセットした。ディスペンサノズルとして内径0.2mmのノズルを使用し、このノズルをステッピングモータで駆動される移動機構にセットした。レジスト溶液としては、東京都中央区に所在する東洋合成工業株式会社からPAK−01の商品名で市販されているスピンコート用レジスト溶液を使用した。ディスク基板の回転数1400rpm、レジスト溶液吐出圧力20kPa、ノズル先端からディスク表面までの距離3mmとしたとき、初期吐出の時、ディスク表面上でのレジスト溶液の広がりは最大直径3mmとなり、安定吐出の時は直径2mmとなるため、ノズルの内径中心を円盤状ディスク基板の回転中心から9mmの位置(初期吐出半径位置A)に配置し、円盤状ディスク基板を1400rpmの回転速度で回転させながら、ノズルからレジスト溶液を円盤状ディスク基板表面に吐出した。吐出開始から3秒間経過後に、ノズルの内径中心を円盤状ディスク基板の回転中心から8mmの位置(安定後吐出半径位置B)に移動させ、5000rpmの回転速度で回転させながら5秒間塗布し、乾燥し、厚さ60nmのレジスト膜を形成した。その後、得られたレジスト塗布膜の塗布厚ムラを、エリプソメトリ法を用いたウェハ基板の表面の異物、キズなどを測定する検査機OSA(Optical Surface Analyzer)を使用して光学的に測定した。測定結果を図7に示す。塗布境界の内周エッジから外周エッジにかけてレジスト膜が均一に塗布されていることが理解できる。
【0028】
比較例1
ノズルの内径中心を円盤状ディスク基板の回転中心から8mmの位置(安定後吐出半径位置B)に初めから配置してレジスト塗布を行ったこと以外は、前記の実施例1に記載した条件に従ってスピンコートを行った。得られたディスク基板のレジスト塗布膜の塗布厚ムラを光学的に測定した。測定結果を図8に示す。塗布境界の内周エッジから外周エッジにかけて何本もの放射状のスジが生じており、レジスト膜が均一に塗布されていないことが理解できる。
【0029】
比較例2
吐出開始から0.09秒経過後に、ノズルの内径中心を、円盤状ディスク基板の回転中心から9mmの位置(初期吐出半径位置A)から円盤状ディスク基板の回転中心から8mmの位置(安定後吐出半径位置B)に移動させたこと以外は、前記の実施例1に記載した条件に従ってスピンコートを行った。得られたディスク基板のレジスト塗布膜の塗布厚ムラを光学的に測定した。図8に示されたものと同様な放射状のスジが生じており、レジスト膜が均一に塗布されていないことが確認された。位置偏位量が十分であっても、吐出安定に要する時間が短かすぎる場合には本発明の所期の効果は得られない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上、本発明のスピンコート方法及びスピンコート装置の好ましい実施態様について詳細に説明してきたが、本発明は開示された実施態様のみに限定されない。本発明のスピンコート方法及びスピンコート装置は開示されたナノインプリントだけでなく、その他の磁気記録媒体、光記録媒体など広範な記録媒体を作製するためのレジスト塗布に使用できる。また、スピンコートで塗布するものはレジストに限定されず、その他の成膜材料(例えば、層間絶縁膜、平坦化膜、配向膜及び保護膜等の形成材料)も本発明のスピンコート方法及びスピンコート装置により塗布することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 本発明のスピンコーター
3 円盤状ディスク基板
5 モータ
7 回転軸
9 モータ取付台座
11 回転軸凸部
13 回転速度計
15 ディスペンサノズル
17 移動機構
19 支柱
21 貫通穴
23 貫通穴の外周縁
25 非塗布領域
27 塗布境界
29 レジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に貫通穴を有する円盤状ディスク基板を回転させながら、ノズルから成膜材料を吐出して、基板上面に塗布するためのスピンコート方法において、吐出量が変動する吐出初期段階では、前記ノズルの内径中心を前記ディスクの塗布境界となるべき位置よりも半径方向外方側の位置(初期吐出半径位置)に配置させて前記成膜材料を吐出し、その後、吐出量が安定した段階で前記ノズルの内径中心を前記初期吐出半径位置から前記塗布境界近傍(安定後吐出半径位置)に移動させて配置し前記成膜材料を更に吐出するスピンコート方法。
【請求項2】
前記初期吐出半径位置から前記安定後吐出半径位置までの位置偏位量は使用するノズルの内径半径の1.5倍〜30倍の範囲内である請求項1記載のスピンコート方法。
【請求項3】
前記吐出開始から吐出安定にまで要する時間は0.1秒間〜5秒間の範囲内である請求項1又は2記載のスピンコート方法。
【請求項4】
成膜材料の初期吐出時のディスク回転数は、300rpm〜2000rpmの範囲内であり、ノズルからの成膜材料の吐出圧力は、5kPa〜50kPaの範囲内であり、ノズル先端とディスク表面までの距離は、1mm〜5mmの範囲内である請求項1〜3のいずれかに記載のスピンコート方法。
【請求項5】
中心に貫通穴を有する円盤状ディスク基板を上端部にチャックする回転軸と、前記回転軸を回転させるためのモータと、前記円盤状ディスク基板の上面に成膜材料を吐出するためのノズルとを有するスピンコーターにおいて、前記ノズルは移動機構により支持されており、成膜材料の吐出量が変動する吐出初期段階から成膜材料の吐出量が安定する段階に応じて、前記ノズルの配置位置を変更することができるスピンコーター。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−161340(P2011−161340A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25119(P2010−25119)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】