説明

スミア除去用組成物

【課題】従来のスミア除去剤の有する各種の問題点を解消し得る新規なスミア除去用組成物を提供する。
【解決手段】無機酸、過マンガン酸塩、並びにハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を含有する水溶液からなるスミア除去用組成物、並びに
スルーホールが形成されたプリント配線板を該スミア除去用組成物に接触させることを特徴とするスミア除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スミア除去用組成物、スミア除去方法、及び無電解めっきの前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、両面プリント配線板、多層プリント配線板等における各層は、絶縁樹脂を基材として、これに銅などの導電性金属による配線パターンを形成したものであり、各層の配線パターン間の電気的導通のために、通常、基板にドリルで穴あけをしてスルーホールを形成し、その内面にめっき皮膜を形成する方法が採用されている。
【0003】
しかしながら、この穴明け加工時に発熱で絶縁樹脂が溶融して、スルーホール内の回路導体端面に、スミアと称される溶融した絶縁樹脂の融着が生じることがある。このスミアは、スルーホールの導通信頼性に悪影響を与えるものであり、スルーホール内面へのめっき処理に先立って、スミアの除去処理が必要となる。
【0004】
一般的に行われているプリン配線板のめっき処理工程では、まず、スルーホールが形成されたプリント配線板に対して、膨潤処理を行った後、スミア除去処理を行うことが多い。この際、スミア除去剤としては、通常、過マンガン酸塩を含むアルカリ性水溶液が用いられており、これを用いてスミアを除去することによってスルーホール内面に回路導体の端面を露出させることができる。その後、基板に吸着したマンガンを還元するための中和処理を行い、更に、スルーホール内面の濡れ性向上、気泡除去、触媒の吸着性向上などを目的として、コンディショニングとして界面活性剤水溶液に浸漬する処理が行われる。次いで、スミア除去処理によって処理しきれなかったスミア残渣を完全に除去し、内層の露出した銅等の導体および最外層の導体をわずかに溶解するためにマイクロエッチング処理を行い、引き続き硫酸等を用いて酸洗いを行って導体端面を清浄な金属面として露出させる。その後、キャタリスト−アクセレーター処理等の方法で無電解めっき用触媒を基板に吸着させた後、無電解銅めっき等によって、スルーホールの内面に導電性を付与する(下記非特許文献1参照)。
【0005】
上記した処理方法では、通常、スミア除去処理としては、過マンガン酸塩を40〜60g/L程度含有するアルカリ性水溶液を用いて、処理温度80〜90℃程度で空気攪拌下に処理液中に被処理物を浸漬する方法が採用されている。しかしながら、この様な処理方法では、処理液中の過マンガン酸塩濃度が高いために環境負荷が大きく、廃液処理が困難である。しかも、処理液が強アルカリ性であるため、ポリイミドなどのアルカリ性に弱い基材については、素材が侵されるために密着性の良いめっき皮膜を形成することは困難である。また、処理温度が高く空気攪拌を行うために、ミストが発生し易く、作業環境が悪いという問題点もある。更に、清浄な導体表面を露出させるためにマイクロエッチング処理が必要であり、処理工程が長いという欠点もある。
【非特許文献1】高木清;「よくわかるプリント配線板のできるまで−第2版−」、日刊工業新聞社(2007)、pp.98
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされてものであり、その主な目的は、従来のスミア除去剤の有する各種の問題点を解消し得る新規なスミア除去用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、過マンガン塩に加えて、無機酸と特定の成分を含む酸性の水溶液からなるスミア除去用組成物は、上記した目的を達成し得るものであることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記のスミア除去用組成物、スミア除去方法及び無電解めっきの前処理方法を提供するものである。
1. 無機酸、過マンガン酸塩、並びにハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を含有する水溶液からなるスミア除去用組成物。
2. 無機酸の濃度が10〜1200g/L、過マンガン酸塩の濃度が0.01〜40g/L、ハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分の濃度が1〜200g/Lである上記項1に記載のスミア除去用組成物。
3. 硫酸及び塩酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の無機酸、少なくとも一種の過マンガン酸塩、並びに過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のハロゲンオキソ酸類を含有する水溶液である上記項1又は2に記載のスミア除去用組成物。
4. スルーホールが形成されたプリント配線板を上記項1〜3のいずれかに記載のスミア除去用組成物に接触させることを特徴とするスミア除去方法。
5. スルーホールが形成されたプリント配線板を上記項1〜3のいずれかに記載のスミア除去用組成物に接触させてスミアを除去する工程を含むプリント配線板に対する無電解めっきの前処理方法。
6. マイクロエッチング処理工程を含まない上記項5に記載の方法。
7. 上記項5又は6の方法で無電解めっきの前処理を行った後、めっき処理を行って得られる物品。
【0009】
以下、本発明のスミア除去用組成物及び該組成物を用いる処理方法について具体的に説明する。
【0010】
スミア除去用組成物
本発明のスミア除去用組成物は、無機酸、過マンガン酸塩、並びにハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を含有する水溶液からなるものである。
【0011】
これらの各成分の含有量については、例えば、無機酸を10〜1200g/L程度、過マンガン酸塩を0.01〜40g/L程度、並びにハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を1〜200g/L程度とすることが好ましい。
【0012】
本発明のスミア除去用組成物によれば、上記した特定の配合とすることにとによって、0.01〜40g/Lという比較的低い過マンガン酸塩濃度であっても十分なスミア除去性能を発揮できる。このため、処理液の廃液処理が容易であり、経済的に有利となる。また、ハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分が含まれることによって、単に、過マンガン酸塩と無機酸のみを含む処理液と比較して浴分解が生じ難く、長期間の連続したスミア除去処理が可能となる。
【0013】
また、酸性の処理液であることから、ポリイミドなどの耐アルカリ性の低い材料に対する処理も可能となり、処理対象物の範囲が非常に広くなる。更に、本発明のスミア除去用組成物は、スミアの除去性能に優れているために、マイクロエッチングを行うことなく、密着性に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、処理工程の短縮化が図れる。
【0014】
本発明のスミア除去用組成物における有効成分の中で、無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、炭酸、亜硫酸、亜硝酸、亜リン酸、亜ホウ酸、過酸化水素、過塩素酸等を用いることができる。特に硫酸、塩酸、硝酸、リン酸が好ましい。これらを一種または二種以上混合して用いることができる。無機酸の含有量は10〜1200g/L程度とすることが好ましく、20〜600g/L程度とすることがより好ましい。
【0015】
過マンガン酸塩としては、例えば、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等を用いることができ、一種単独または二種以上混合して使用できる。過マンガン酸塩の濃度は0.01〜40g/L程度とすることが好ましく、0.1〜10g/L程度とすることがより好ましい。
【0016】
ハロゲンオキソ酸の具体例としては、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、ハロゲン酸、過ハロゲン酸等を挙げることができる。ハロゲンオキソ酸塩としては、上記したハロゲンオキソ酸の水溶性塩を用いることができ、例えば、ハロゲンオキソ酸ナトリウム、ハロゲンオキソ酸カリウム等を用いることができる。過硫酸塩としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性の過硫酸塩を用いることができる。また、ビスマス酸塩としては、ビスマス酸ナトリウム、ビスマス酸カリウム等の水溶性のビスマス酸塩を用いることができる。ハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。特に、過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸等の過ハロゲン酸、該過ハロゲン酸の塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を用いることが好ましい。
【0017】
ハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分の含有量は、1〜200g/L程度とすることが好ましく、10〜100g/L程度とすることがより好ましい。
【0018】
本発明のスミア除去用組成物の好ましい具体例として、硫酸及び塩酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の無機酸、少なくとも一種の過マンガン酸塩、並びに過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のハロゲンオキソ酸類を含有する水溶液を挙げることができる。
【0019】
スミア除去処理方法
本発明の処理対象物は、スルーホールが形成されたプリント配線板である。配線板の種類については、特に限定はなく、例えば、片面プリント配線板、両面プリント配線板、多層プリント配線板等の各種のプリント配線板に適用でき、リジット配線板、フレキシブルプリント配線板、フレクスリジット配線板のいずれでもよい。
【0020】
また、プリント配線板の基材についても特に限定されず、例えば二官能性、多官能性エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン(BT)樹脂、樹脂コートされた銅(RCC)タイプの物質、エポキシ/ポリフェニレンオキサイド樹脂、これらの複合体が挙げられる。その他、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリスルホン(PPS)、ポリスルホン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリエステル(PE)(例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー、ポリウレタン、ポリエーテルイミド、およびその複合体等に対しても適用できる。
【0021】
本発明のスミア除去用組成物を用いるスミア除去方法は、基本的には、公知の処理方法と同様の方法でよい。
【0022】
通常は、被処理物であるスルーホールが形成されたプリント配線板に対して、膨潤処理を行った後、スミア除去処理を行えばよい。膨潤処理としては、常法に従って処理対処の樹脂を膨潤させることができる溶剤を用いれば良く、例えばエーテル系の溶剤が多く用いられる。膨潤処理を浸漬法で行う場合には、処理温度は20〜95℃程度、好ましくは25〜85℃程度とすればよく、処理時間は30分程度以下、好ましくは1〜10分程度とすればよい。
【0023】
本発明のスミア除去用組成物を用いてスミア除去処理を行うには、処理対象物であるプリント基板の被処理面を該スミア除去用組成物に接触させればよい。具体的な方法については、特に限定はなく、被処理面を該スミア除去用組成物に充分接触させることができる方法であればよい。例えば、デスミア除去用組成物を被処理物に噴霧する方法等も適用可能であるが、通常は、該スミア除去用組成物中に被処理物であるプリント配線板を浸漬する方法によれば、効率の良い処理が可能である。
【0024】
スミア除去処理の処理条件については、特に限定的ではなく、目的とするスミア除去処理の程度に応じて適宣決めればよい。例えば、スミア除去用組成物中に被処理物を浸漬してスミア除去処理を行う場合には、スミア除去用組成物の液温を25℃〜90℃程度、好ましくは30〜60℃とし、浸漬時間を1〜30分程度、好ましくは5〜15分程度とすればよい。
【0025】
中和処理
上記した方法でスミア除去処理を行った後、通常、中和処理を行う。中和処理は、スミア除去処理において基材表面に残留する過マンガン酸を還元除去する工程であり、常法に従って行えばよい。処理液としては、例えば、塩化スズ、硫酸スズ、塩化鉄、硫酸鉄等の還元作用を有する多価金属化合物;フルクトース、マルトース、ラクトース、フルクトース、マルトース、ラクトース等の糖類;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、ペリルアルデヒド等のアルデヒド化合物;アスコルビン酸、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、L-アスコルビン酸エーグルコシド等のアスコルビン酸類;ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、臭化水素酸ヒドラジン、二臭化水素ヒドラジン等のヒドラジン類;ギ酸、酢酸、酪酸、アクリル酸、パルミチン酸、オレイン酸、グリオキシル酸等のモノカルボン酸、これらの塩;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、レパルギル酸、セバシン酸、マレイン酸等のジカルボン酸、これらの塩;乳酸、酒石酸、クエン酸等の脂肪族ヒドロキシ酸、これらの塩;硫酸ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、リン酸ヒドロキシルアミン等のヒドロキシルアミン類;亜硫酸、チオ硫酸、硫化水素等の含硫黄化合物;ヨウ化銀、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム等の含ヨウ素化合物;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類等の還元性化合物を含む水溶液を用いることができる。上記した還元性化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。特に、塩化スズ、硫酸スズ、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、チオ硫酸等を用いることが好ましい。
【0026】
また、中和処理用の処理液には、無機酸も同時に混合することができる。例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、炭酸、亜硝酸、亜リン酸、亜ホウ酸、過酸化水素、過塩素酸、過酸化窒素等を用いることができる。これらの無機酸は一種単独又は二種以上混合して用いることができる。特に、硫酸、塩酸等を用いることが好ましい。還元性化合物に加えて、酸を含有することによって、基材表面に残留する過マンガン酸塩を還元除去すると同時に、導電体表面を酸によって活性化することができる。
【0027】
中和処理用の処理剤では、還元性化合物の濃度は0.5〜100g/L程度とすることが好ましく、無機酸の濃度は5〜500g/L程度とすることが好ましい。
【0028】
中和処理の方法については、特に限定的ではなく、被処理物と処理液とを十分に接触させることができる方法であればよい。通常は、処理液中に還元処理物を浸漬する方法によれば、効率の良い処理が可能である。この場合、例えば、処理液の液温を20〜60℃程度として、被処理物を1〜10分程度浸漬すればよい。
【0029】
無電解めっき用前処理工程
上記した方法でスミア除去処理を行い、中和処理を行った後、更に、常法に従って無電解めっき用の前処理を行う。通常は、コンディショニング処理、マイクロエッチング、酸処理、プリディップ等の各処理を常法に従って行えばよい。
【0030】
尚、本発明のスミア除去用組成物は、酸性の水溶液であり、これを用いてスミア除去処理を行う場合には、スミア除去と同時に銅等の導体表面がエッチングされて清浄な導体端面を露出させることができる。このため、本発明のスミア除去用組成物を用いることによって、マイクロエッチングを省略した場合であっても密着性の良好な無電解めっき皮膜を形成することができ、無電解めっきのための前処理工程を短縮することが可能となる。
【0031】
触媒付与方法
本発明のデスミア水溶液の組成物による処理を行った後、無電解めっき用触媒を付与する。この場合の触媒の種類としては、特に限定はなく、無電解めっき用触媒として知られている公知の各種触媒を用いることができる。例えば、銀、パラジウム、金、ルテニウム、銅、ニッケル及び白金からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を触媒物質として含む公知の触媒付与用の組成物を用いればよい。具体的な触媒付与用組成物の種類、触媒付与方法については、特に限定的ではなく、公知の組成物、公知の触媒付与方法から適宜選択すればよい。例えば、パラジウム触媒を付与する場合には、被めっき物をセンシタイザー溶液(塩化スズ(II)の塩酸溶液)に浸漬した後、アクチベーター溶液(塩化パラジウムの塩酸溶液)に浸漬する方法(センシタイザー−アクチベーター法)、スズ−パラジウム混合コロイド溶液に浸漬して触媒を付与した後、硫酸などの酸性溶液からなるアクセレーター溶液に浸漬して、過剰のスズイオンを溶解させて触媒活性を向上させる方法(キャタリスト-アクセレーター法)等を適宜適用できる。これらの方法の内で、特に、キャタリスト−アクセレーター法は、樹脂成形品に均一にめっき皮膜が析出しやすい点で好ましい方法である。
【0032】
触媒液に浸漬する場合の条件については特に限定的ではないが、通常、触媒液の温度を10〜50℃程度、好ましくは20〜40℃程度として、これに被めっき物を浸漬すればよい。
【0033】
浸漬時間については、無電解めっき液の種類などに応じて、適宜必要な浸漬時間を設定すればよい。通常は2〜10分間程度の範囲の浸漬時間とすればよい。
【0034】
無電解めっき
上記した方法で無電解めっき用触媒を付与した後、常法に従って、無電解めっきを行うことにより、均一で良好な外観の無電解めっき皮膜を形成することができる。
【0035】
無電解めっき液としては、公知の自己触媒型の無電解めっき液をいずれも使用できる。この様な無電解めっき液としては、例えば、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液等の他、Au、Ag、Pd、Rh等の貴金属の無電解めっき液を挙げることができる。通常、スルーホール内に導電性皮膜を形成する目的では無電解銅めっきを行うことが多い。
【発明の効果】
【0036】
上記した特徴を有する本発明のスミア除去用組成物によれば、下記の様な顕著な効果が奏される。
(1)本発明のスミア除去用組成物は、過マンガン酸塩濃度が低い場合であっても、良好なスミア除去性能を発揮でき、均一性に優れ、密着性も良好なめっき皮膜を形成できる。よって、本発明のスミア除去用組成物によれば、スミア除去用組成物の廃液処理が容易となる。
(2)本発明のスミア除去用組成物は、浴安定性が良好であり、長期間の連続稼働が可能である。
(3)本発明のスミア除去用組成物を用いることによって、マイクロエッチング処理を行わない場合にも良好なめっき皮膜を形成できる。よって、無電解めっきの処理工程が短縮される。
(4)酸性の処理液であり、ポリイミドなどのアルカリ性の処理液では処理が困難な材料についても、素材を侵すことなくスミア除去処理ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0038】
実施例1
ガラスエポキシ基板にスルーホールを形成したスルーホール基板(穴径0.8mm、板厚1.6mm、2.5×5cm)を被処理物として、次の工程で無電解めっきを行った。尚、各工程間には水洗を行った。
【0039】
1.膨潤処理
OPC-1050コンディショナー(商標名、奥野製薬工業(株)製)300ml/L及び NaOH15g/Lを含む水溶液からなる膨潤剤を処理液として用い、60℃の処理液中に10分間浸漬した。
2.スミア除去処理
過マンガン酸ナトリウム0.5g/L、98%硫酸500g/L及び過臭素酸ナトリウム20g/Lを含有する水溶液からなるスミア除去用組成物を処理液として用いて、60℃の処理液中に10分間浸漬した。
3.中和処理
OPC-1300ニュートライザー(商標名、奥野製薬工業(株)製)200ml/Lを含む水溶液中に45℃で3分間浸漬した。
4.コンディショニング処理
OPC-370コンディクリーンM(商標名、奥野製薬工業(株)製)100ml/lを含む水溶液中に65℃で5分間浸漬した。
5.マイクロエッチング
過硫酸アンモニウム150g/L及び98%硫酸10ml/Lを含有する水溶液中に室温で2分間浸漬した。
6.酸処理
98%硫酸の100ml/L水溶液中に室温で2分間浸漬した。
7.プリディップ処理
OPC-SAL M(商標名、奥野製薬工業(株)製)250ml/L水溶液中に室温で1分浸漬した。
8.触媒化
OPCキャタリスト80(商標名、奥野製薬工業(株)製)50ml/L、 OPC-SAL(商標名、奥野製薬工業(株)製)170g/L及び35%塩酸30ml/Lを含む水溶液からなる触媒付与液中に30℃で6分間浸漬した。
9.活性化
OPC-555アクセレーター(商標名、奥野製薬工業(株)製)170ml/Lを含有する水溶液からなる活性化液中に室温で6分間浸漬した。
10.無電解銅めっき
ATSアドカッパーIW-A(商標名、奥野製薬工業(株)製)50ml/L、ATSアドカッパーIW-M(商標名、奥野製薬工業(株)製)80ml/L、ATSアドカッパーC(商標名、奥野製薬工業(株)製)15ml/L,及び無電解銅RN(商標名、奥野製薬工業(株)製)3ml/Lを含む水溶液からなる無電解銅めっき液中に室温で20分間浸漬した。
【0040】
上記した方法によって無電解銅めっき皮膜を形成した後、下記の方法でスミア除去性能及びめっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表1に示す。
* スミア除去性能
スルーホールの断面観察を行い、めっき皮膜にふくれが認められるものについては、スミアが残存すると判定した。この方法によって100個のスルーホールについて観察して、スミアが残存するスルーホールの個数を計測した。
* めっき皮膜の密着性
上記した工程で無電解銅めっきを行った後、硫酸銅めっき液(商標名:トップルチナSF、奥野製薬工業(株)製)中で液温25℃、陰極電流密度2.5A/dm2で90分間通電して電気銅めっき皮膜を形成し、150℃の雰囲気中で60分間乾燥させた。乾燥後の試験片の銅めっき皮膜を、基材に対して90°方向に毎分50mmの速さで引っ張って荷重を測定し、単位幅あたりの荷重を引きはがし強度(kgf/cm)として、銅めっき皮膜と基材間の接着性を評価した。
【0041】
実施例2
実施例1で用いたスミア除去用組成物を65℃で2時間放置した後、実施例1と同様の工程でスルーホール基板に対して無電解めっき処理を行い、スミア除去性能とめっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0042】
実施例3
実施例1に記載した処理工程の内で、マイクロエッチング処理を行うことなく、それ以外は実施例1と同様にしてスミア除去性能及びめっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0043】
実施例4
実施例1に記載した処理工程において、スミア除去用組成物を、過マンガン酸ナトリウム0.5g/L、98%硫酸500g/L及び過塩素酸ナトリウム20g/Lを含有する水溶液に変更すること以外は、実施例1と同様にして無電解めっき処理を行い、スミア除去性能とめっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0044】
実施例5
実施例4で用いたスミア除去用組成物を65℃で2時間放置した後、実施例4と同様の工程でスルーホール基板に対して無電解めっき処理を行い、スミア除去性能とめっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0045】
実施例6
実施例4における処理工程の内で、マイクロエッチング処理を行うことなく、それ以外は実施例4と同様にしてスミア除去性能及びめっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0046】
実施例7
実施例1に記載した処理工程において、スミア除去用組成物を、過マンガン酸ナトリウム0.5g/L、98%硫酸500g/L及び過硫酸ナトリウム20g/Lを含有する水溶液に変更すること以外は、実施例1と同様にして無電解めっき処理を行い、スミア除去性能とめっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0047】
実施例8
実施例7で用いたスミア除去用組成物を65℃で2時間放置した後、実施例7と同様の工程でスルーホール基板に対して無電解めっき処理を行い、スミア除去性能とめっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0048】
実施例9
実施例7における処理工程の内で、マイクロエッチング処理を行うことなく、それ以外は実施例7と同様にしてスミア除去性能及びめっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0049】
実施例10
実施例1に記載した処理工程において、スミア除去用組成物を、過マンガン酸ナトリウム0.5g/L、98%硫酸500g/L及び過ヨウ素酸ナトリウム20g/Lを含有する水溶液に変更すること以外は、実施例1と同様にして無電解めっき処理を行い、スミア除去性能とめっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0050】
実施例11
実施例10で用いたスミア除去用組成物を65℃で2時間放置した後、実施例10と同様の工程でスルーホール基板に対して無電解めっき処理を行い、スミア除去性能とめっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0051】
実施例12
実施例10における処理工程の内で、マイクロエッチング処理を行うことなく、それ以外は実施例10と同様にしてスミア除去性能及びめっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0052】
実施例13
実施例1に記載した処理工程において、スミア除去用組成物を、過マンガン酸ナトリウム0.5g/L、98%硫酸500g/L及びビスマス酸ナトリウム20g/Lを含有する水溶液に変更すること以外は、実施例1と同様にして無電解めっき処理を行い、スミア除去性能とめっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0053】
実施例14
実施例13で用いたスミア除去用組成物を65℃で2時間放置した後、実施例13と同様の工程でスルーホール基板に対して無電解めっき処理を行い、スミア除去性能とめっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0054】
実施例15
実施例13における処理工程の内で、マイクロエッチング処理を行うことなく、それ以外は実施例13と同様にしてスミア除去性能及びめっき皮膜の密着性を評価した。
【0055】
比較例1〜3
スミア除去用組成物として、過マンガン酸ナトリウム40g/L及びNaOH20g/Lを含有する水溶液からなるアルカリ性の処理液を用いること以外は、実施例1〜3と同様の工程に従って無電解めっき処理を行い、スミア除去性能とめっき皮膜の密着性を評価した。実施例1〜3に対応する処理方法をそれぞれ比較例1〜3とする。結果を下記表1に示す。
【0056】
比較例4〜6
スミア除去用組成物として、過マンガン酸ナトリウム10g/L及び98%硫酸500g/Lを含有する水溶液からなる酸性の処理液を用いること以外は、実施例1〜3と同様の工程に従って無電解めっき処理を行い、スミア除去性能とめっき皮膜の密着性を評価した。実施例1〜3に対応する処理方法をそれぞれ比較例4〜6とする。結果を下記表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
以上の結果から明らかなように、本発明のスミア除去用組成物を用いてスミア除去処理を行った場合には、スルーホール内へのスミアの残存が無く、しかも形成されるめっき皮膜の密着性は良好であった。また、スミア除去用組成物を加熱下に保存した後、同様の処理を行った場合(実施例2、5、8、11、14)においても、保存前(実施例1、4、7、10、13)と同様の結果となり、スミア除去用組成物の安定性が良好であることが確認できた。更に、マイクロエッチング工程を除いた場合(実施例3、6、9、12、15)においてもスミア除去性能及びめっき皮膜の密着性が良好であり、処理工程の短縮化が可能であることが確認できた。
【0059】
これに対して、アルカリ性の処理液を用いた比較例1〜3では、めっき皮膜の密着性が劣るものとなり、特に、マイクロエッチング工程を除いた比較例3では、スルーホール内にスミアの残存が認められた。
【0060】
また、過マンガン酸塩と硫酸からなるスミア除去用組成物を用いた場合には、保存安定性に劣るものとなり、加熱下に保存したスミア除去用組成物を用いた比較例5では、スミアの残存が多数認められ、めっき皮膜の密着性も大きく劣るものとなった。
【0061】
実施例16
被めっき物として、5×5cmのポリイミド製フィルムを用い、実施例1と同一のスミア除去用組成物を用いて、実施例1と同様の方法で無電解めっき処理を行い、引き続き電気銅めっきを行って、めっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表2に示す。
【0062】
比較例7
5×5cmのポリイミド製フィルムを被処理物として用い、過マンガン酸ナトリウム40g/L及びNaOH20g/Lを含有する水溶液からなるアルカリ性の処理液をスミア除去用組成物として用いること以外は、実施例1と同様の方法によって、無電解めっき処理を行い、引き続き電気銅めっきを行って、めっき皮膜の密着性を評価した。結果を下記表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
以上の結果から明らかなように、本発明のスミア除去用組成物を用いる場合には、ポリイミドフィルム上に密着性の良好なめっき皮膜を形成できたが、アルカリ性のスミア除去用組成物を用いた比較例7では、ポリイミドフィルムの表面が侵されたことにより、めっき皮膜の密着性が劣るものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸、過マンガン酸塩、並びにハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を含有する水溶液からなるスミア除去用組成物。
【請求項2】
無機酸の濃度が10〜1200g/L、過マンガン酸塩の濃度が0.01〜40g/L、ハロゲンオキソ酸、ハロゲンオキソ酸塩、過硫酸塩及びビスマス酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分の濃度が1〜200g/Lである請求項1に記載のスミア除去用組成物。
【請求項3】
硫酸及び塩酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の無機酸、少なくとも一種の過マンガン酸塩、並びに過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のハロゲンオキソ酸類を含有する水溶液である請求項1又は2に記載のスミア除去用組成物。
【請求項4】
スルーホールが形成されたプリント配線板を請求項1〜3のいずれかに記載のスミア除去用組成物に接触させることを特徴とするスミア除去方法。
【請求項5】
スルーホールが形成されたプリント配線板を請求項1〜3のいずれかに記載のスミア除去用組成物に接触させてスミアを除去する工程を含むプリント配線板に対する無電解めっきの前処理方法。
【請求項6】
マイクロエッチング処理工程を含まない請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項5又は6の方法で無電解めっきの前処理を行った後、めっき処理を行って得られる物品。

【公開番号】特開2009−94277(P2009−94277A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263361(P2007−263361)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】