説明

スラストころ軸受

【課題】低コストで、かつ耐摩耗性に優れ、長寿命である斜板式コンプレッサ用スラストころ軸受を提供する。
【解決手段】スラストころ軸受11は、複数のころ14と、0.9wt%〜1.2wt%の炭素と、1.2wt%〜1.7wt%のクロムと、0.1wt%〜0.5wt%のマンガンと、0.15wt%〜0.35wt%のシリコンとを含有する高炭素鋼を冷間圧延して得られる表面粗さがRmax≦2μmのみがき帯鋼に熱処理を施して形成される軌道盤12,13を備える。軌道盤12,13は、厚み方向の一方側に第1の平坦面12eと傾斜部12fとを有し、他方側に第2の平坦面12gと縁部12hとを有する。そして、傾斜部12fの厚み方向深さをδ、第2の平坦面12gと縁部12hとの厚み方向高さの差をσとすると、|δ−20σ|<0.05mmを満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スラストころ軸受に関し、より具体的には、カーエアコンの斜板式コンプレッサに用いられるスラストころ軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カーエアコン等に用いられる斜板式コンプレッサの斜板を支持する軸受としては、例えば、特開2003−65226号公報(特許文献1)または特開2004−316930号公報(特許文献2)に記載されているような斜板式コンプレッサ用スラストころ軸受が用いられる。
【0003】
このスラストころ軸受は、8000(r/min)程度の高速で回転すると共に、軸受回転軸心からずれた位置(オフセット)にスラスト荷重が作用する。また、カーエアコンに用いられる潤滑剤は、冷媒と冷凍機油との混合物であって、潤滑性に乏しい。このように、斜板式コンプレッサ用スラストころ軸受は、極めて厳しい条件下で使用されている。
【0004】
上記構成のスラストころ軸受は、その本来の構造に由来して、正常回転時においてもころの内径側と外径側との間に差動滑りが生じる。この滑りは、転がり接触面の油膜形成に悪影響を及ぼし、軌道盤およびころの接触面に表面損傷を発生させる原因となる。
【0005】
この差動滑りの影響を小さくするためには、ころのころ長さを短くすればよいが、ころ長さを短くすると転がり接触面の接触面圧が上昇する。この接触面圧の上昇により、転がり疲労寿命の低下が問題となる。
【特許文献1】特開2003−65226号公報
【特許文献2】特開2004−316930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のスラストころ軸受では、冷媒と冷凍機油との混合物を潤滑剤として使用するので、コンプレッサの効率向上の要請から、冷凍機油の混合割合が減るなど、益々潤滑剤の潤滑性が低下する傾向にある。この様な希薄潤滑下で、差動滑りに起因する軌道盤またはころの表面損傷は増加傾向にある。
【0007】
近年の技術傾向として、省資源、省エネルギー、部品構造のコンパクト化がより一層進み、使用条件はより過酷になっている。このため、カーエアコン用のスラストころ軸受においても、低コストでさらに摩耗が少なく、かつ、剥離寿命を向上したものが要求される。
【0008】
そこで、この発明の目的は、低コストで、かつ耐摩耗性に優れ、長寿命な斜板式コンプレッサ用スラストころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るスラストころ軸受は、主軸に固定された斜板を主軸の周りに回転させることにより、ピストンを往復運動させる斜板式コンプレッサの主軸の回転運動およびピストンの往復運動に伴って発生するスラスト荷重を支持するために、多くが斜板に接する位置に配置される。このスラストころ軸受は、0.9wt%〜1.2wt%の炭素と、1.2wt%〜1.7wt%のクロムと、0.1wt%〜0.5wt%のマンガンと、0.15wt%〜0.35wt%のシリコンとを含有する高炭素鋼を冷間圧延して得られる表面粗さがRmax≦2μmのみがき帯鋼に熱処理を施して形成される軌道盤を備える。軌道盤は、厚み方向の一方側に第1の平坦面と、第1の平坦面の縁から厚み方向深さが次第に大きくなるように傾斜する傾斜部とを有し、他方側に第2の平坦面と、第2の平坦面の縁に第2の平坦面より厚み方向高さが高い縁部とを有する。そして、第1の平坦面の縁から径方向に最も離れて位置する傾斜部先端から、第1の平坦面に向かって、径方向に0.3mm離れた位置における傾斜部の厚み方向深さをδ、縁部から、第2の平坦面に向かって、径方向に0.3mm離れた位置における第2の平坦面と縁部との厚み方向高さの差をσとすると、|δ−20σ|<0.05mmを満たす。
【0010】
上記の化学成分の炭素鋼を使用することにより、軌道盤の機械的性質が向上する。具体的には、焼入性の改善、転動疲労寿命や耐荷重性の向上、摩擦や摩耗の低減、硬さの向上、およびプレス加工等による軌道盤の破損を防止することができる。特に、表面の窒素富化層における炭化物の面積率を上記の範囲内とすることにより、転動疲労寿命および摺動特性が向上する。
【0011】
また、冷間圧延工程を経て製造された鋼板は、所望の寸法、表面の平滑性、および硬さを得ることができるので、軌道盤の製造工程中で寸法を調整する旋削工程や表面を平滑にする研削工程等を省略することができる。これにより、軌道盤の製造工程が簡素化されるので、スラストころ軸受の製造コストを低減することができる。さらに、熱処理によって得られた表面の窒素富化層が除去されることがない。
【0012】
さらに、傾斜部の厚み方向深さδが大きくなると、エッジ応力を下げることができるものの、全体としての接触面圧は増大する。一方、傾斜部の厚み方向深さδを小さくすると、全体の接触面圧を低減することができると共に、第2の平坦面と縁部との厚み方向高さの差σも小さくなる傾向がある。その結果、軌道盤に作用する荷重により、バックアップ面に軌道盤形状が倣う際、反対面端部に生じるカエリ(盛上り)の影響が小さくなる。その結果、軌道盤の変形を有効に防止することができる。
【0013】
好ましくは、傾斜部の厚み方向深さδは、0.15mm≦δ≦0.20mmを満たす。また、好ましくは、第2の平坦面と縁部との厚み方向高さの差σは、0.0075mm≦σ≦0.01mmを満たす。
【0014】
好ましくは、軌道盤の全域において、傾斜部の厚み方向深さδのばらつきは0.04mm以下である。また、好ましくは、軌道盤の全域において、縁部の厚み方向高さσのばらつきは、0.01mm以下である。
【0015】
好ましくは、軌道盤の表面の負荷長さ率tpは95%以上である。負荷長さ率tpを上記の範囲内とすることにより、潤滑性、油膜形成能力、耐焼付き性、および耐摩耗性が向上し、長寿命のスラスト軸受を得ることができる。
【0016】
好ましくは、軌道盤の表面における表面粗さパラメータRskは、−2<Rsk<0を満たす。Rsk<0の状態とは軌道盤の表面に凸形状部が存在していない状態である。すなわち、斜板式コンプレッサ用スラストころ軸受の接触面をそれぞれRsk<0とすれば、凸形状部同士の接触による応力集中を抑制することができる。一方、Rsk≦−2になると、凹み部の周囲に微小な凸部が発生し初期摩耗が生じやすくなる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、所定の化学成分の炭素鋼を冷間圧延して得られた鋼板を出発材料として軌道盤を製造することにより、軌道盤の機械的性質が向上すると共に、転動疲労寿命、耐荷重性、および摺動特性が向上し、摩擦や摩耗を低減した斜板式コンプレッサ用スラストころ軸受を得ることができる。
【0018】
また、軌道盤の表面および裏面の形状を上記の範囲内とすることにより、接触面圧を低下することができると共に、カエリ(盛上り)からの影響を極小化することができる。さらには、上記の斜板式コンプレッサ用スラストころ軸受を採用することにより、長寿命で信頼性の高い斜板式コンプレッサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図8〜図10を参照して、この発明に係る斜板式コンプレッサ用スラストころ軸受11(以下「スラストころ軸受11」という)を採用した斜板式コンプレッサ51,61,71を説明する。なお、図8は片斜板タイプの斜板式コンプレッサ51を示す図、図9は両斜板タイプの斜板式コンプレッサ61を示す図、図10は可変容量片斜板タイプの斜板式コンプレッサ71を示す図である。
【0020】
まず、図8を参照して、片斜板タイプの斜板式コンプレッサ51は、ケーシング52と、主軸57と、片面傾斜板58と、ピストン59とを主に備える。この斜板式コンプレッサ51は、例えば、カーエアコンの冷媒蒸気を圧縮するのに利用される。
【0021】
ケーシング22は、低圧室55および高圧室56を有するヘッドケース53と、ピストン59が往復運動するシリンダ54aを有するシリンダケース54とをボルトによって固定している。
【0022】
低圧室55は、ヘッドケース53に設けられた吸入ポート(図示省略)と、シリンダ54aに連通する吸入孔55aと、吸入孔55aから冷媒蒸気の逆流を防止する弁(図示省略)とを有する。そして、吸入ポートから吸入した冷媒蒸気を吸入孔55aを通じてシリンダ54aに供給する。
【0023】
一方、高圧室56は、ヘッドケース53に設けられた吐出ポート(図示省略)と、シリンダ54aに連通する吐出口56aと、吐出口56aから冷媒蒸気の逆流を防止する弁56bとを有する。そして、ピストン59によって圧縮されたシリンダ54a内部の冷媒蒸気が吐出口56aを通じて高圧室56に排出される。
【0024】
主軸57は、ラジアルころ軸受57aによってケーシング52に対して回転自在に支持されている。また、シリンダケース54の内部で片面傾斜板58を保持している。
【0025】
片面傾斜板58は、主軸57の回転軸線に直交する平面に対して所定角度傾いた状態で主軸57に固定連結されている。また、その円周上にはピストン59がロッドによって連結されている。
【0026】
ピストン59は、片面傾斜板58に連結されており、主軸57の回転に伴ってシリンダ54aの内部を軸線方向(図8中の上下方向)に往復運動する。また、シリンダ54aとピストン59と囲まれる領域には、冷媒蒸気を圧縮する圧縮室(図8では、圧縮室の容積は0となっている)が形成されている。
【0027】
上記構成の斜板式コンプレッサ51の動作を説明する。
【0028】
まず、主軸57が回転すると、片面傾斜板58に取り付けられたピストン59がシリンダ54aの内部を往復運動する。ピストン59が圧縮室の容積を大きくする方向(図8中の下方向)に移動すると、吸入孔55aに設けられた弁が開放されて冷媒蒸気が低圧室55から吸入孔55aを通って圧縮室に移動する。このとき、吐出口56aに設けられた弁56bは閉鎖されて高圧室56内の冷媒蒸気が圧縮室に逆流するのを防止している。
【0029】
次に、ピストン59が圧縮室の容積を小さくする方向(図8中の上方向)に移動すると、ピストン59が圧縮室内の冷媒蒸気を圧縮すると共に、吐出口56aに設けられた弁56bが開放されて圧縮された冷媒蒸気が吐出口56aを通って高圧室56に移動する。このとき、吸入孔55aに設けられた弁は閉鎖されて圧縮室内の冷媒蒸気が低圧室55に逆流するのを防止している。
【0030】
上記構成の斜板式コンプレッサ51は、主軸52と一体回転する片面傾斜板58の回転によって、ピストン59が往復運動する。このとき、主軸57の回転運動およびピストン59の往復運動によってスラスト荷重が発生する。そこで、このスラスト荷重を支持することを目的として、片面傾斜板58に接する位置にスラストころ軸受11を配置する。
【0031】
また、斜板式コンプレッサの他の形態として、図9に示すような主軸67に固定した両面傾斜板68でピストン69を往復運動させる両斜板タイプの斜板式コンプレッサ61、または、図10に示すような主軸77に角度可変に取り付けた傾斜板78でピストン79を往復運動させる可変容量片斜板タイプのコンプレッサ71等がある。なお、基本構成は図8に示す斜板式コンプレッサ51と共通するので、詳しい説明は省略する。
【0032】
上記の斜板式コンプレッサ61,71についても、傾斜板68,78が、主軸67,77の回転運動およびピストン69,79の往復運動によってスラスト荷重を受けるので、傾斜板68,78は、スラストころ軸受11で支持される。
【0033】
次に、図1〜図6を参照して、この発明の一実施形態に係るスラストころ軸受11およびスラストころ軸受11の軌道盤12,13の製造方法を説明する。なお、図1はスラストころ軸受11を示す図、図2は軌道盤12,13の出発材料となるみがき鋼板の主な製造工程を示すフロー図、図3は軌道盤12,13の主な製造工程を示すフロー図、図4は図1のP部の拡大図、図5は図1のR部の拡大図、図6は図1のQ部の拡大図である。
【0034】
まず、図1を参照して、スラストころ軸受11は、複数のころ14と、複数のころ14を保持する保持器15と、複数のころ14を保持器15の厚み方向から挟持する一対の軌道盤12,13とを備える。なお、この実施形態における軌道盤12,13の厚み寸法は、3mm以下である。
【0035】
上記構成のスラストころ軸受11は、単純な形式で負荷容量や剛性を大きくすることができる等の種々の利点を有する一方で、軌道盤12,13ところ14との間に差動滑りが生じる。ころ14は、その長さ方向中央部で純転がりとなり、両端に近づくにつれて相対滑りが直線的に増加する。特に、ころ14はころ長さが長いので、ころ14の両端部における周速の差が大きくなり、他の軸受に比べて滑り量が大きくなる。
【0036】
このため、大きな差動滑りを生じる部分で軌道盤12,13の摩耗量が大きくなり、転走跡端部付近で表面起点型の剥離が生じる。特に、スラストころ軸受11は、ころ本数が多く、内部空間が狭いため、潤滑油が軌道面に行き渡りにくい。その結果、他の軸受に比べて潤滑不足による表面起点型の剥離が発生しやすい。
【0037】
また、上記構成のスラストころ軸受11に採用される軌道盤12,13には、主軸57,67,77の回転運動およびピストン58,68,78の往復運動によって大きなスラスト荷重が負荷される。さらに、ころ14が転動する軌道面には、所定の硬さや表面平滑性が求められる。
【0038】
そこで、図2を参照して、このような環境で使用される軌道盤12,13の出発材料となる鋼板の製造方法を説明する。まず素材として、0.9wt%〜1.2wt%の炭素(C)と、1.2wt%〜1.7wt%のクロム(Cr)と、0.1wt%〜0.5wt%のマンガン(Mn)と、0.15wt%〜0.35wt%のシリコン(Si)と、その他の不可避不純物および鉄(Fe)とを含む鋼片を用いる(S11)。また、鋼中の酸素濃度は0.0010wt%以下とする。
【0039】
炭素(C)は、軌道盤12,13に必要な強度を確保するのに必要不可欠の元素である。なお、軌道盤12,13の表面および芯部の硬さをHRC58以上とするためには0.9wt%以上の炭素が必要となる。一方、炭素含有量が1.2wt%を超えると、軌道盤12,13の表面に大型の炭化物が生成して転動疲労寿命および耐荷重性が低下すると共に、摩擦や摩耗が増大する。そこで、炭素含有量は0.9wt%〜1.2wt%の範囲内とするのが望ましい。なお、「HRC」は、ロックウェル硬さを示す。
【0040】
また、クロム(Cr)は、軌道盤12,13の焼入性や転動疲労寿命を改善し、炭化物による硬さを確保し、摩擦や摩耗を低減し、かつ耐荷重性を向上するのに必要不可欠な元素である。なお、所定の炭化物を得るためには1.2wt%以上のクロムが必要となる。一方、1.7wt%を超える量を添加しても著しい添加効果は認めらない。さらに、5.0wt%を超えると大型の炭化物を生成して転動疲労寿命や耐荷重性が低下すると共に、摩擦や摩耗が増大する。そこで、クロム含有量は1.2wt%〜1.7wt%の範囲内とするのが望ましい。
【0041】
また、マンガン(Mn)は、鋼を製造する際の脱酸に用いられる元素であって、軌道盤12,13の出発材料としては必要不可欠の元素である。なお、鋼中の酸素を十分に除去するためには0.1wt%以上のマンガンが必要となる。一方、0.5wt%を超えると材料が脆くなり、プレス加工時に軌道盤12,13が破損する恐れがある。そこで、マンガンの含有量は0.1wt%〜0.5wt%の範囲内とするのが望ましい。
【0042】
また、シリコン(Si)は、鉄鋼材料に不可避の元素であり、含有量の下限値を0.15%としている。一方、0.35wt%を超えるとプレス加工時に軌道盤12,13が破損する恐れがある。そこで、シリコンの含有量は0.15wt%〜0.35wt%の範囲内とするのが望ましい。
【0043】
さらに、酸素は、鋼中で酸化物を形成して非金属介在物として疲労破壊の起点となるので、転動疲労寿命や耐荷重性が低下すると共に、摩擦や摩耗が増大する。そこで、鋼中の酸素濃度は0.0010wt%以下とするのが望ましい。
【0044】
次に、熱間圧延加工によって上記の素材から鋼板を得る(S12)。加熱状態で圧延することにより、巨大な鋳造組織が微細かつ良質な圧延組織となる。また、再結晶温度以上の温度領域で圧延することにより材料の加工硬化を防止することができるので、厚みを一気に薄くすることができる。
【0045】
なお、熱間圧延工程の後に圧延加工された鋼板を焼鈍しする工程をさらに追加してもよい。焼鈍しによって結晶粒が微細化されると共に、結晶の方向性が調整されるので、表面の精度および加工性が向上する。
【0046】
次に、防錆や鋼板の表面に付着した酸化被膜(スケール)の除去を目的として酸洗を行う(S13)。酸洗によって酸化被膜を除去しておくことにより、以降の工程における生産効率および製品品質を向上することができる。なお、酸洗液には、塩酸、硫酸、硝酸等があり、5wt%〜15wt%の希塩酸水を40℃〜50℃程度で使用することが多い。
【0047】
次に、冷間圧延加工によって、所定の寸法の鋼板を得ると共に、軌道盤12,13に必要な硬さや表面平滑性等の機械的性質を得る(S14)。常温で圧延を行うことにより、正確に所定の板厚を得ることができると共に、高い平滑性が得られる。また、再結晶温度未満の温度領域で圧延を行うことにより鋼板が加工硬化するので、鋼板の硬度が向上する。
【0048】
なお、軌道盤12,13の軌道面となる壁面は、ころ14の円滑な転動の観点からRmax≦1.6μmの表面粗さが要求される。後述するように、軌道盤12,13の形状加工後は、面粗さの山が取れる程度のバレル加工しかできないため、冷間圧延工程後の表面粗さはRmax≦2μmとするのが望ましい。さらに、プレス成形時の破損を防止する観点から、冷間圧延工程後の硬さはHv220以下とするのが望ましい。ここで、「Rmax」は最大高さを、「Hv」はビッカース硬さを示す。
【0049】
ここで、冷間圧延工程によって得られる鋼板の表面粗さ、硬さ、および板厚は、圧延ロールの表面粗さ、圧延ロールの撓み、圧延率(圧延前後の板厚の比)、圧延ロール間の隙間(ギャップ)および回転速度等の影響を受ける。したがって、所望の表面粗さ、硬さ、および板厚を得るためには、これらの要素を適切に設定する必要がある。
【0050】
また、上記の熱間圧延工程および冷間圧延工程は、それぞれ1回の圧延工程で所定の厚みを得ることとしてもよいが、粗圧延、中間圧延、および仕上圧延等、複数回に分けて所定の厚みを得ることとしてもよい。
【0051】
次に、図3を参照して、この発明の一実施形態に係る軌道盤12,13を製造する方法を説明する。なお、図3は軌道盤12,13の主な製造工程を示すフロー図である。まず、図2を参照して説明した鋼板(みがき鋼板)を出発材料として採用する(S21)。
【0052】
次に、プレス加工によって鋼板を軌道盤12,13の形状に成形する(S22)。上記の出発材料は、冷間圧延工程によって板厚や表面粗さ等が既に所望の状態になっているので、旋削加工等の工程を省略することが可能となる。その結果、製造工程を簡素化することができるので、スラストころ軸受11の製造コストを低減することが可能となる。なお、このプレス加工工程は、1度のプレス加工によって所望の形状としてもよいが、プレス加工を複数回行って所望の形状を得ることとしてもよい。また、プレス加工後にバリ取り加工を行ってもよい。
【0053】
次に、軌道盤12,13に必要な機械的性質を得るために、浸炭窒化処理と焼戻温度を230℃〜280℃とする高温焼戻とを含む熱処理を施す(S23)。浸炭窒化処理を行うことにより、軌道盤12,13の表面層に窒素富化層が形成される。この窒素富化層は、転動疲労寿命や耐荷重性の向上、および摩擦や摩耗の低減に有効である。なお、「表面層」とは、軌道盤12,13の表面から厚さ50μmの層を指すものとする。
【0054】
ここで、この表面の窒素富化層における窒素濃度は、0.1wt%〜0.9wt%の範囲内であることが望ましい。窒素濃度が0.1wt%未満となると上記の効果が低く、特に表面損傷寿命が低下する。一方、窒素濃度が0.9wt%を超えると、材料中にボイドと呼ばれる空孔を生じたり、残留オーステナイト量が多くなりすぎて硬度が低下し、短寿命となる。なお、窒素濃度は、例えば、EPMA(波長分散型X線マイクロアナライザ)で測定することができる。
【0055】
また、高温焼戻を行うことにより、耐高温特性が向上するばかりでなく、残留オーステナイトが焼戻マルテンサイトと結晶粒の微細な炭化物(粒径5μm以下)とに分解される。これにより、特に高荷重条件での転動疲労寿命や耐荷重性の向上、および摩擦や摩耗の低減に有効である。
【0056】
なお、残留オーステナイト量を10vol%以下とするためには焼戻温度を230℃以上とする必要がある。一方、焼戻温度が280℃以上になると、硬さHRC60以下となって軌道盤12,13に必要な硬さを維持できないおそれがある。そこで、230℃〜280℃の範囲内で高温焼戻を行うのが望ましい。なお、残留オーステナイト量は、X線回折によるマルテンサイトα(211)と、残留オーステナイトγ(220)の回折強度の比較で測定することができる。
【0057】
また、転動疲労寿命および摺動特性を向上させる観点からは、球状化炭化物は多い程望ましい。具体的には、表面の窒素富化層における球状化炭化物の面積率を10%〜25%の範囲内に設定する。面積率が10%未満になると、転動疲労寿命や摺動特性の向上効果はほとんど期待できない。一方、面積率が25%を超えると、炭化物の粗大化や凝集によって材料の靭性が劣化する。なお、球状化炭化物の面積率は、研削後の転動面の表層50μmにおける値であって、材料表面をピクリン酸アルコール溶液(ピクラル)を用いて腐食させた後、光学顕微鏡(400倍)で観察することができる。また、本明細書中の「球状化炭化物」とは、炭化物のみならず窒化物をも含むものとする。
【0058】
さらに、軌道盤12,13のみならず保持器15にも高温焼戻しを施すのが望ましい。これにより、保持器15の硬度をころ12よりも低くすることができるので、組込時にころ12の表面に凹みや傷が生じるのを防止することができる。
【0059】
最後に、熱処理によって軌道盤12,13の表面に生じた酸化被膜(スケール)を除去する(S24)。スケール除去加工としては、バレル処理やブラストクリーニング等の機械的方法と、前述した酸洗等の化学的方法がある。
【0060】
ここで、「バレル処理」とは、容器(バレル)に軌道盤12,13、コンパウンド、およびメディアを入れた状態で、容器を回転若しくは振動させる処理である。この方法によれば、スケールを除去することができると共に、軌道盤12,13のバリ取りや表面粗さの改善効果も期待できる。前述の通り軌道盤12,13の出発材料の表面粗さは、冷間圧延工程後の段階で既にRmax≦2μmとなっているので、独立した研削工程を設けなくとも軌道盤12,13に必要な表面粗さRmax≦1.6μmを得ることができる。
【0061】
また、上記工程を経て製造された軌道盤12,13の表面の負荷長さ率tp(以下「TP値」という)は95%以上、表面粗さパラメータRskは、−2<Rsk<0となっている。これにより、軌道盤12,13の表面にある程度の凹みを形成することができる。この凹みは油溜まりとして機能し、油膜強度、耐焼付き性、および耐摩耗性が向上する。
【0062】
Rsk<0の状態とは軌道盤の表面に凸形状部が存在していない状態である。すなわち、スラストころ軸受11の接触面をそれぞれRsk<0とすれば、凸形状部同士の接触による応力集中を抑制することができる。一方、Rsk≦−2になると、凹み部の周囲に微小な凸部が発生し初期摩耗が生じやすくなる。そこで、Rskの値を上記範囲内とすることにより、油膜形成能力、耐焼付き性、および耐摩耗性が向上し、長寿命の軌道盤12,13を得ることができる。
【0063】
なお、「負荷長さ率tp」は、JIS規格(Japanese Industrial Standards:B 0601−1994)で規定される表面粗さを示すパラメータである。また、負荷長さ率tpの切断レベルを0.3μm、最大高さRyに対する比を5%とする。「Rsk」は、JIS規格(B 0601)で規定される表面粗さを示すパラメータである。
【0064】
また、図4を参照して、軌道盤12の軌道盤中心を通る径方向母線形状は、径方向内側領域12bと、径方向中央領域12cと、径方向外側領域12dとに区分される。そして、径方向中央領域12cは、径方向内側領域12bおよび径方向外側領域12cと比較して、断面高さが相対的に低くなっており、その最大高低差は30μm以下に設定されている。なお、図4は縦方向を500倍、横方向を5倍に拡大した図である。また、図4の右側が図1のころ軸受11の中心側に対応し、図4の左側が図1のころ軸受の外周側に対応している。
【0065】
このように、軌道盤12の径方向中央領域12cの断面高さをその他の部分より低くすることにより、潤滑油の流れを阻害することなく、均一な油膜を形成することができる。その結果、潤滑性に優れたスラストころ軸受11を得ることができる。
【0066】
また、従来の製造工程によって製造された軌道盤のように、研削加工によって軌道面を完全な平坦面とした場合、取付誤差等によって接触部分にエッジ応力を生じるおそれがある。これは、軌道盤の内縁部および外縁部で特に顕著である。
【0067】
一方、軌道盤12の表面を図4のような形状としたスラストころ軸受11に荷重が作用すると、軌道盤12の軌道面が弾性変形して、径方向内側領域12bと径方向外側領域12dとの最大高さの差が数μm(1μm〜9μm)程度に縮小する。その結果、局所的な接触面圧の低減、特に最も高い位置(図4では、「径方向内側領域12b」を指す)での接触面圧を低減することができる。
【0068】
さらに、従来の製造工程によって製造された軌道盤は、熱処理によってうねりを生じる等、表面形状が不均一となっていた。これは、局所的な接触を助長させたり、潤滑油の流れを阻害したりするおそれがあった。しかし、図3に示したようなこの発明の一実施形態に係る製造工程によって製造された軌道盤12では、焼戻処理(S23)によって表面形状を均一な状態に矯正することができる。
【0069】
なお、少なくとも軌道盤12の一方側の表面、すなわちころ14と接触する軌道面12aを上記の表面形状とすればこの発明の効果を得ることができる。また、軌道盤13の表面も同様であるので、説明は省略する。
【0070】
また、図5を参照して、上記工程で製造された軌道盤12の表面には、厚み方向の一方側に第1の平坦面12eと、この第1の平坦面12eの縁から厚み方向深さが次第に大きくなるように傾斜する傾斜部12fとが形成されている。
【0071】
そして、第1の平坦面12eの縁から径方向に最も離れて位置する傾斜部先端を点Aとし、第1の平坦面12eに向かって点Aから径方向に0.3mm離れた位置を計測位置とすると、この計測位置における傾斜部12fの厚み方向深さδが、0.02mm≦δ≦0.3mm、さらに望ましくは、0.15mm≦δ≦0.20mmとなるように設定する。また、軌道盤12の全周において、計測位置における傾斜部12fの厚み方向深さδのばらつきは、0.04mm以下に設定する。
【0072】
上記数値範囲の最小値(0.02mm)は、想定される接触面圧のエッジ応力を最大接触面圧以下に緩和できる値である。一方、最大値(0.3mm)は、軌道盤12に作用する荷重により、バックアップ面に軌道盤形状が倣う際、反対面端部に生じるカエリ(盛上り)からの影響が及ばない値である。
【0073】
なお、図1に示すスラストころ軸受11における第1の平坦面12eとは、軌道盤12のころ14と接触する軌道面12aを指す。また、傾斜部12fは、軌道面12aの内縁部および外縁部に形成される。さらには、軌道盤12に孔が形成されている場合には、その外縁部にも傾斜部が形成される。なお、軌道盤13も同様の構成であるので、説明は省略する。
【0074】
さらに、図6を参照して、上記工程で製造された軌道盤12には、その厚み方向一方側に軌道面12aが形成され、他方側に軌道面12aに平行な第2の平坦面12gと、この第2の平坦面12gの縁に第2の平坦面12gより厚み方向高さの高い縁部12hとが形成される。
【0075】
そして、第2の平坦面12gと縁部12hとの厚み方向高さの差σ(「カエリ量」という)を0.02mm以下に設定する。特に、第2の平坦面12gに向かって縁部12hから径方向に0.3mm離れた位置を計測位置とすると、この計測位置における縁部12hの厚み方向高さの差σが0.0075mm≦σ≦0.01mm(約8μm)となるように設定するのが望ましい。さらに、軌道盤12の全域において、縁部12hの厚み方向高さのばらつきを0.01mm以下に設定する。
【0076】
プレス加工によって形成される軌道盤12において、縁部12hのカエリ量を0とするのは極めて困難である。しかし、このカエリ量が0.02mmより大きくなると、たわみによる取付け誤差の影響から、縁部12hのみが相手バックアップ面と接触する可能性が高くなる。この状態で荷重が負荷されると、軌道盤12が撓んで軌道面12aところ14との間のエッジ応力が増大し、回転不良やスラストころ軸受11の損傷の原因となる。そこで、上記の問題を解消するために、上記の数値範囲を満たすのが望ましい。
【0077】
なお、図1に示すスラストころ軸受11における縁部12hとは、軌道面12aと反対側の面の内縁部および外縁部を指す。また、軌道盤13も同様の構成であるので、説明は省略する。
【0078】
さらに、傾斜部12fの厚み方向深さδ、および第2の平坦面12gと縁部12hとの厚み方向高の差σとの関係を、|δ−20σ|<0.05mmを満たすように設定するのが望ましい。
【0079】
(δ−20σ)≧0.05mmとなると、十分なエッジ応力の緩和効果は期待できるものの、全体としての接触面圧が大きくなり過ぎる。一方、(20σ−δ)≧0.05mmとなると、接触面圧を小さくすることはできるが、カエリ(盛上り)からの影響が無視できなくなる。そこで、上記の範囲内とすることにより、軌道盤12に作用する荷重によってバックアップ面に軌道盤形状が倣う際、反対面端部に生じるカエリ(盛上り)からの軌道盤変形の影響を小さくすることができる。なお、軌道盤13も同様の構成であるので、説明は省略する。
【0080】
この発明によれば、軌道盤12,13の機械的性質が向上すると共に、転動疲労寿命、耐荷重性、潤滑性、油膜形成性、および耐焼付き性が向上し、摩擦や摩耗が低減される。その結果、長寿命で信頼性の高い斜板式コンプレッサ51,61,71を得ることができる。
【0081】
また、出発材料の製造工程(図2に示す工程)に冷間圧延工程を含めることによって、軌道盤12,13に必要な板厚、硬さ、および表面粗さ等を得ることができる。そうすると、軌道盤12,13の製造工程(図3に示す工程)において、旋削加工や研削加工の工程を省略することが可能となる。その結果、軌道盤12,13の製造工程が簡素化され、軌道盤12,13の製造コストを低減することができる。
【0082】
また、熱処理後の研削加工を省略したことにより、軌道盤12,13の表面層に形成された窒素富化層を除去してしまうことがない。その結果、転動疲労寿命や耐荷重性が向上すると共に、摩擦や摩耗を低減した軌道盤12,13を得ることができる。さらに、窒素富化層における窒素濃度、残留オーステナイト量、および球状化炭化物の面積率が軌道盤12,13の厚み方向の一方側壁面と他方側壁面とでほぼ均一となる。具体的には、窒素濃度の差が0.2wt%以内、残留オーステナイト量の差が2vol%以内、そして球状化炭化物の面積率の差が5%以内となる。
【0083】
なお、本明細書中「厚み方向の一方側壁面」または「厚み方向の他方側壁面」とは、軌道面または軌道面に対して厚み方向反対側の壁面を指すものとする。一方、「表面」とは、厚み方向一方側および他方側の壁面、外周面、および内周面等の軌道盤の表層面全体を指すものとする。
【0084】
次に、図7および表1を参照して、この発明の効果を確認するための試験について説明する。なお、図7は効果確認試験の試験装置41の正面図(左側)および側面図(右側)、表1は試験片44の組成および試験結果を示す。
【0085】
【表1】

【0086】
まず、図7を参照して、試験装置41は、片持ち梁42にエアスライダ43を介して取り付けられている試験片44と、試験片44の下面に当接し、回転軸45の回転に伴って回転する回転部材46と、試験片44に荷重を負荷するウエイト47と、荷重を測定するロードセル48とを備える。なお、試験片44と回転部材46との当接部分には、50N(最大接触面圧0.49GPa)の荷重が負荷されている。
【0087】
試験片44は、図2および図3の工程を経て製造される。具体的には、図3の熱処理工程で、浸炭窒化処理と280℃での焼戻処理とを施した実施例1、浸炭窒化処理と230℃での焼戻処理とを施した実施例2、浸炭窒化処理と180℃での焼戻処理とを施した比較例1、および普通熱処理と180℃での焼戻処理とを施した比較例2の4種類を各10個ずつ用意する。なお、各材料中の残留オーステナイト量(vol%)、窒素濃度(wt%)、および表面硬さ(HRC)は、表1に示す。
【0088】
また、試験片44の表面は、表面粗さRaが0.10μm〜0.15μmの平坦面である。一方、回転部材46の表面は、曲率半径が60mmの曲面であって、表面粗さRaが0.05μmに設定されている。そして、試験片44の回転部材46との接触部分の形状は、長径0.63mm、短径0.31mmの楕円形状(「接触楕円」という)である。
【0089】
さらに、回転部材46の下部は潤滑油に浸かっており、試験片44と回転部材46との当接部分を潤滑する。潤滑油としては、多目的油(VG68)を使用する。また、油膜パラメータΛは、約0.3に設定する。
【0090】
上記の試験条件の下、直径が40mmの回転軸45を0.05m/sの速度(回転速度:24r/min)で60分間回転させたときの摩耗体積比を算出した。結果を表1に示す。なお、表1中の各値は10個の試験片の平均値を示す。また、摩耗体積比は比較例2を基準とした値を示す。
【0091】
表1を参照して、試験片44中の残留オーステナイト量は、焼戻温度が高くなる程少なくなることが確認された。なお、比較例2の残留オーステナイト量が少ないのは、普通熱処理によるオーステナイト析出量が浸炭窒化処理と比較して少ないことに起因する。一方、表面硬さは、焼戻温度が高くなる程低くなった。これにより、焼戻は、230℃〜280℃の範囲内で、残留オーステナイト量を減少させる観点からは高温で、表面硬さを向上させる観点からは低温で焼戻処理を行うのが望ましい。
【0092】
また、窒素濃度は、浸炭窒化処理を施した各材料(実施例1,2、比較例1)が0.3wt%〜0.4wt%であったのに対し、普通熱処理を施した比較例2が0wt%であった。
【0093】
さらに、摩耗体積比は、浸炭窒化処理を施した各材料(実施例1,2、比較例1)が、普通熱処理を施した比較例2に対して低くなり、焼戻温度が高くなる程低くなった。これにより、浸炭窒化処理およびより高い温度での焼戻処理によって耐摩耗性が向上することが確認された。
【0094】
次に、この発明の効果を確認するための他の試験について説明する。試験に用いた軸受は、ころ径3mm、軌道盤内径60mm、軌道盤外径85mm、軌道盤厚さ1.5mmのころ軸受であって、TP値およびRsk値を変更した7種類のころ軸受(実施例3,4、比較例3〜7)である。
【0095】
また、試験は、60℃〜80℃の雰囲気中で、1000kgfの荷重を負荷した状態で、5000(r/min)で回転させたときの寿命比を比較例5を基準として測定した。さらに、潤滑油としては、多目的油VG2(油膜パラメータ0.1)を用いた。試験に用いたころ軸受のTP値、Rsk値、および試験結果を表2に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
表2を参照して、TP値が大きくなる程、また、Rsk値が小さくなる程、軸受寿命が延伸されることが確認された。また、TP値が同一であれば、Rsk値が小さい程、軸受寿命は長くなる(実施例4、比較例3)。同様に、Rsk値が同一であれば、TP値が大きい程、軸受寿命は長くなる(実施例4、比較例4)。
【0098】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
この発明は、斜板式コンプレッサ用スラストころ軸受の軌道盤等の製造に有利に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】この発明の一実施形態に係る斜板式コンプレッサ用スラストころ軸受を示す図である。
【図2】軌道盤を製造する主な工程を示すフロー図である。
【図3】鋼板から軌道盤を製造する主な工程を示すフロー図である。
【図4】図1のP部の拡大図である。
【図5】図1のR部の拡大図である。
【図6】図1のQ部の拡大図である。
【図7】この発明の効果を確認するための試験装置を示す図である。
【図8】片斜板タイプの斜板式コンプレッサを示す図である。
【図9】両斜板タイプの斜板式コンプレッサを示す図である。
【図10】可変容量片斜板タイプの斜板式コンプレッサを示す図である。
【符号の説明】
【0101】
11 スラストころ軸受、12,13 軌道盤、12a,13a 軌道面、12b 径方向内側領域、12c 径方向中央領域、12d 径方向外側領域、12e,12g 平坦面、12f 傾斜面、12h 縁部、14 ころ、15 保持器、51,61,71 斜板式コンプレッサ、52 ケーシング、53 ヘッドケース、54 シリンダケース、54a シリンダ、55 低圧室、55a 吸入孔、56 高圧室、56a 吐出口、56b 弁、57,67,77 主軸、57a ラジアルころ軸受、58,68,78 斜板、58,68,78 ピストン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸に固定された斜板を前記主軸の周りに回転させることにより、ピストンを往復運動させる斜板式コンプレッサの前記主軸の回転運動および前記ピストンの往復運動に伴って発生するスラスト荷重を支持するために配置されるスラストころ軸受であって、
前記スラストころ軸受は、0.9wt%〜1.2wt%の炭素と、1.2wt%〜1.7wt%のクロムと、0.1wt%〜0.5wt%のマンガンと、0.15wt%〜0.35wt%のシリコンとを含有する高炭素鋼を冷間圧延して得られる表面粗さがRmax≦2μmのみがき帯鋼に熱処理を施して形成される軌道盤を備え、
前記軌道盤は、ころと接触する厚み方向の一方側に第1の平坦面と、前記第1の平坦面の縁から厚み方向深さが次第に大きくなるように傾斜する傾斜部とを有し、他方側に第2の平坦面と、前記第2の平坦面の縁に前記第2の平坦面より厚み方向高さが高い縁部とを有し、
前記第1の平坦面の縁から径方向に最も離れて位置する傾斜部先端から、前記第1の平坦面に向かって、径方向に0.3mm離れた位置における前記傾斜部の厚み方向深さをδ、前記縁部から、前記第2の平坦面に向かって、径方向に0.3mm離れた位置における前記第2の平坦面と前記縁部との厚み方向高さの差をσとすると、
|δ−20σ|<0.05mmを満たす、スラストころ軸受。
【請求項2】
前記傾斜部の厚み方向深さδは、0.15mm≦δ≦0.20mmを満たす、請求項1に記載のスラストころ軸受。
【請求項3】
前記第2の平坦面と前記縁部との厚み方向高さの差σは、0.0075mm≦σ≦0.01mmを満たす、請求項1または2に記載のスラストころ軸受。
【請求項4】
前記軌道盤の全域において、前記傾斜部の厚み方向深さδのばらつきは、0.04mm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のスラストころ軸受。
【請求項5】
前記軌道盤の全域において、前記縁部の厚み方向高さσのばらつきは、0.01mm以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のスラストころ軸受。
【請求項6】
前記軌道盤の表面の負荷長さ率tpは、95%以上である、請求項1〜5のいずれかに記載のスラストころ軸受。
【請求項7】
前記軌道盤の表面における表面粗さパラメータRskは、−2<Rsk<0を満たす、請求項1〜6に記載のスラストころ軸受。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−168066(P2009−168066A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4450(P2008−4450)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】