説明

スラスト軸受構造及びターボチャージャ

【課題】スラストカラーが高速で回転しても、潤滑剤を適切に供給できるスラスト軸受構造及びターボチャージャを提供する。
【解決手段】本発明のスラスト軸受構造32は、軸11に保持され軸11と共に回転するスラストカラー35と、軸方向でのスラストカラー35の両側に各々設けられる一対のスラスト軸受36、37とを有するスラスト軸受構造であって、スラストカラー35とスラスト軸受36、37との一方が、他方に対向する対向面36c、37bの外縁部側に設けられ且つ軸周り方向で延在する溝部36d、37cを有し、スラストカラー35とスラスト軸受36、37との他方が、一方に向けて突出して溝部36d、37cに挿入され且つ軸周り方向で延在する突部35d、35eを有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト軸受構造及びターボチャージャに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ターボチャージャ等において、回転軸の軸方向での移動を規制するスラスト軸受構造が用いられている。
ターボチャージャは回転翼であるタービンインペラを備え、このタービンインペラは回転軸の一端に接続されている。タービンインペラは、内燃機関の排気ガス等の流体が導入されることで回転し、且つ流体から軸方向で付勢される。そして、タービンインペラと接続されている回転軸も軸方向で付勢されるため、スラスト軸受構造を回転軸に設けることで、タービンインペラ及び回転軸の軸方向での移動を規制している。
【0003】
スラスト軸受構造は、回転軸に保持され共に回転するスラストカラーと、軸方向でのスラストカラーの両側に各々設けられる一対のスラスト軸受を有し、スラスト軸受は、ターボチャージャの外殻部材であるハウジングに設置されている。そのため、一対のスラスト軸受がスラストカラーを軸方向で支持しており、スラストカラー及び回転軸の軸方向での移動が規制される。また、スラストカラーとスラスト軸受との間には、スラストカラーを円滑に回転させるための潤滑剤が供給されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−331654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術には、以下のような課題が存在する。
現在、従来よりも高速でタービンインペラを回転させるターボチャージャが用いられつつある。このターボチャージャは、小型のタービンを用いてレスポンス性能等を向上させると共に、タービンインペラを高速回転させることで十分な圧縮性能をも有するものである。
【0006】
このようなターボチャージャでは、タービンインペラが高速回転するために、回転軸及びスラストカラーも高速で回転する。スラストカラーが高速で回転することで、スラストカラーとスラスト軸受との間に供給された潤滑剤が、遠心力により径方向外側に振り飛ばされる。そのため、スラストカラーとスラスト軸受との間の潤滑を必要とする箇所に、潤滑剤が供給されにくくなり、スラスト軸受の過度の摩耗や焼き付き等の不具合が発生する虞があった。
【0007】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、スラストカラーが高速で回転しても、潤滑剤を適切に供給できるスラスト軸受構造及びターボチャージャを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明のスラスト軸受構造は、軸に保持され軸と共に回転するスラストカラーと、軸方向でのスラストカラーの両側に各々設けられる一対のスラスト軸受とを有し、スラストカラーと一対のスラスト軸受との間を潤滑剤により潤滑するスラスト軸受構造であって、スラストカラーとスラスト軸受との一方が、他方に対向する対向面の外縁部側に設けられ且つ軸周り方向で延在する溝部を有し、スラストカラーとスラスト軸受との他方が、一方に向けて突出して溝部に挿入され且つ軸周り方向で延在する突部を有するという構成を採用する。
【0009】
このような構成を採用する本発明では、スラストカラー及びスラスト軸受の外縁部側において突部が溝部に挿入されており、潤滑剤はこの突部を迂回するようにして流動するため、潤滑剤に対する流動抵抗が上昇する。また、突部の延在方向は径方向と交差しているため、遠心力により径方向外側に向かう潤滑剤の流動が抑制される。
【0010】
また、本発明のスラスト軸受構造は、突部の突出高さが、軸方向でのスラストカラーとスラスト軸受との間隔以上の大きさで形成されているという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、スラストカラーとスラスト軸受との間に形成され軸に直交する面に平行して拡がる隙間を、突部が塞ぐように突出している。よって、上記隙間内を径方向外側に向かって流動する潤滑剤が、突部の径方向内側の側面に必ず当たることから、潤滑剤に対する流動抵抗が上昇する。
【0011】
また、本発明のスラスト軸受構造は、溝部の深さが、突部の突出高さ以上の大きさで形成されているという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、振動等の影響を受けてスラストカラーとスラスト軸受とが接触する場合にも、この接触が生じる前に、溝部の底部に突部が接触することが防止される。
【0012】
また、本発明のスラスト軸受構造は、溝部及び突部が、径方向に関して隙間を空けてそれぞれ複数配設されているという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、溝部及び突部の組み合わせが複数設けられているため、潤滑剤に対する流動抵抗がさらに上昇する。
【0013】
また、本発明のターボチャージャは、請求項1から4のいずれか一項に記載のスラスト軸受構造を有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、スラストカラー及びスラスト軸受の外縁部側において突部が溝部に挿入されており、潤滑剤はこの突部を迂回するようにして流動するため、潤滑剤に対する流動抵抗が上昇する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明によれば、径方向外側に向かう潤滑剤の流動を抑制することができるため、スラストカラーが高速で回転しても、潤滑剤が遠心力により径方向外側に振り飛ばされることを防止できる。したがって、本発明によれば、スラストカラーとスラスト軸受との間の潤滑を必要とする箇所に、適切な量の潤滑剤を供給・保持できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ターボチャージャ100の全体構成図である。
【図2】図1におけるスラスト軸受部32の拡大図である。
【図3】図2におけるスラストカラー35の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のスラスト軸受構造及びターボチャージャに係る実施の形態を、図1から図3を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。また、各図面における矢印Fは前方向を示している。
【0017】
図1は、本実施形態に係るターボチャージャ100の全体構成図である。
ターボチャージャ100は、不図示の内燃機関から導かれる排気ガスの運動エネルギー等を利用して、外部から導入された空気を圧縮し、高圧となった空気を内燃機関に過給することで、内燃機関の性能を向上させるものである。ターボチャージャ100は、ロータ1と、タービンハウジング2と、軸受ハウジング3と、シールプレート4と、コンプレッサハウジング5とを有している。タービンハウジング2、軸受ハウジング3、シールプレート4及びコンプレッサハウジング5は、前方より順次配置され一体的に設けられている。
【0018】
ロータ1は、排気ガスの流動により回転するものであって、ロータ軸(軸)11と、タービンインペラ12と、コンプレッサインペラ13とを有している。
ロータ軸11は、前後方向で延在する回転軸であって、軸受ハウジング3に複数のラジアル軸受31を介して回転自在に軸支されている。また、ロータ軸11は、太さの異なる2つの軸、すなわち細軸部11a及び太軸部11b(共に図2参照)からなり、太軸部11bが前方側に配置されている。
【0019】
タービンインペラ12は、排気ガスの流動によって回転する回転翼であって、タービンハウジング2の内部に設置され、ロータ軸11の前端部に一体的に接続されている。
コンプレッサインペラ13は、回転して空気を吸引すると共に、吸引した空気を径方向外側に送り出す回転翼であって、コンプレッサハウジング5の内部に設置され、ロータ軸11の後端部に一体的に接続されている。
【0020】
タービンハウジング2は、排気ガスの運動エネルギー等をロータ1の回転運動に変換する箇所であって、タービンスクロール流路21と、タービン出口22とを有している。
タービンスクロール流路21は、内燃機関から排出された排気ガスが不図示のガス導入口を介して導入される流路であって、タービンインペラ12を囲んで略環状に形成されている。タービン出口22は、タービンハウジング2からの排気ガスの吐出口であって、前方に向かって開口し、不図示の排気ガス浄化装置に接続されている。なお、タービン出口22は、タービンインペラ12の設置箇所を介してタービンスクロール流路21と連通している。
【0021】
軸受ハウジング3は、ロータ軸11を回転自在に軸支するものであって、複数のラジアル軸受31と、スラスト軸受部(スラスト軸受構造)32と、潤滑剤供給流路33と、潤滑剤排出用空間34とを有している。
ラジアル軸受31は、ロータ軸11をその軸周りで回転自在に軸支する軸受であって、軸受ハウジング3に複数設けられている。スラスト軸受部32は、ロータ軸11を軸方向すなわち前後方向で支持し、ロータ軸11の軸方向での移動を規制するものである。なお、スラスト軸受部32の詳細は後述する。
【0022】
潤滑剤供給流路33は、ラジアル軸受31やスラスト軸受部32等に対して潤滑剤を供給するための流路である。なお、潤滑剤としては、鉱物油や合成油等の潤滑油が一般的に用いられる。潤滑剤排出用空間34は、ラジアル軸受31及びスラスト軸受部32に供給され、各部分を潤滑した後の潤滑剤が排出される空間である。
【0023】
シールプレート4は、軸受ハウジング3内を流動する潤滑剤がコンプレッサハウジング5の内部へ浸入しないようにシールすると共に、コンプレッサハウジング5との間に外部から導入された空気を圧縮するための流路等を形成するものである。シールプレート4は、略円板状に形成され、その中央部をロータ軸11が前後方向で貫通している。
【0024】
コンプレッサハウジング5は、外部から導入された空気を圧縮する箇所であって、コンプレッサ入口51と、ディフューザ流路52と、コンプレッサスクロール流路53とを有している。
コンプレッサ入口51は、不図示のエアクリーナを介して外部から空気を導入するための導入口であって、コンプレッサハウジング5の後方に向かって開口している。
【0025】
ディフューザ流路52は、コンプレッサインペラ13の回転によって送り出された空気が導入される流路であって、コンプレッサインペラ13を囲んで略環状に形成されている。また、ディフューザ流路52は、シールプレート4とコンプレッサハウジング5との間に形成され、コンプレッサインペラ13の設置箇所を介してコンプレッサ入口51と連通している。
コンプレッサスクロール流路53は、ディフューザ流路52と連通し、コンプレッサインペラ13を囲んで略環状に形成されている。コンプレッサスクロール流路53には、不図示の空気吐出口が接続され、該空気吐出口は内燃機関の吸気口に接続されている。
【0026】
次に、本実施形態に係るスラスト軸受部32の詳細を、図2を参照して説明する。
図2は、図1におけるスラスト軸受部32の拡大図である。
スラスト軸受部32は、スラストカラー35と、前側スラスト軸受(スラスト軸受)36と、後側スラスト軸受(スラスト軸受)37とを有している。
【0027】
スラストカラー35は、略円板状の部材であって、その中心軸が前後方向と平行する向きで、ロータ軸11における細軸部11aと太軸部11bとの連結箇所に設けられている。スラストカラー35の中央部には、厚さ方向で貫通する孔部35aが形成され、孔部35aには細軸部11aが貫通している。
【0028】
ここで、細軸部11aには、略円筒状に形成された円筒部材14が設けられている。細軸部11a及び円筒部材14は、円筒部材14の内部に細軸部11aが圧入されて、一体的に接続されている。そして、スラストカラー35は、太軸部11bと円筒部材14とにより挟持されて、ロータ軸11に保持されている。よって、スラストカラー35は、ロータ軸11と共に回転できる構成となっている。なお、円筒部材14は、その後端側に略傘状の傘部を有しており(図1参照)、その外周面に付着した潤滑剤を回転と共に振り飛ばすための機能をも有している。
【0029】
スラストカラー35は、前側スラスト軸受36に対向する面である第1対向面35bと、後側スラスト軸受37に対向する面である第2対向面35cとを有している。第1対向面35b及び第2対向面35cは、前後方向に直交する所定の面と平行する平面状に形成されている。
第1対向面35bの外縁部側には、前方に向かって突出する第1突部(突部)35dが設けられており、第2対向面35cの外縁部側には、後方に向かって突出する第2突部(突部)35eが設けられている。第1突部35d及び第2突部35eは、共にロータ軸11の軸周り方向で延在し且つ連続して設けられている。
【0030】
前側スラスト軸受36は、略円板状の部材であって、その中心軸が前後方向と平行する向きで軸受ハウジング3に設けられている。また、前側スラスト軸受36は、軸受ハウジング3に形成された凹部に、その外周部が嵌合されて設置されている。
前側スラスト軸受36は、その中央部に厚さ方向で貫通する第2孔部36aを有しており、第2孔部36aには太軸部11bが貫通している。なお、第2孔部36aの内径は太軸部11bの径よりも大きく形成されており、太軸部11bと第2孔部36aとの間には隙間36bが形成されている。この隙間36bは、スラストカラー35と前側スラスト軸受36との間に潤滑剤を供給する流路として用いられる。
【0031】
前側スラスト軸受36は、スラストカラー35に対向する面である第3対向面(対向面)36cを有している。第3対向面36cは、前後方向に直交する所定の面と平行する平面状に形成されている。なお、第3対向面36cは、図示しないが、略扇形の複数の面がロータ軸11の軸周り方向で間隔を空けて配設された構成となっている。
第3対向面36cの外縁部側には、後方に臨む第1溝部(溝部)36dが形成されている。第1溝部36dは、ロータ軸11の軸周り方向で延在し且つ連続して設けられている。また、第1溝部36dには、第1突部35dが挿入されている。
【0032】
後側スラスト軸受37は、略円板状の部材であって、その中心軸が前後方向と平行する向きで、軸受ハウジング3に不図示のボルト等を用いて設置されている。
後側スラスト軸受37は、その中央部に厚さ方向で貫通する第3孔部37aを有しており、第3孔部37aには円筒部材14が貫通している。なお、第3孔部37aの内径は円筒部材14の外径よりも大きく形成されており、円筒部材14と第3孔部37aとの間には所定の隙間が形成されている。
【0033】
後側スラスト軸受37は、スラストカラー35に対向する面である第4対向面(対向面)37bを有している。第4対向面37bは、前後方向に直交する所定の面と平行する平面状に形成されている。なお、第4対向面37bは、図示しないが、略扇形の複数の面がロータ軸11の軸周り方向で間隔を空けて配設された構成となっている。
第4対向面37bの外縁部側には、前方に臨む第2溝部(溝部)37cが形成されている。第2溝部37cは、ロータ軸11の軸周り方向で延在し且つ連続して設けられている。また、第2溝部37cには、第2突部35eが挿入されている。
【0034】
また、後側スラスト軸受37は、潤滑剤供給流路33と連通する液溜り部37dを有している。この液溜り部37dには流路37eの一端が接続され、流路37eの他端は、第2対向面35cと第4対向面37bとの間の隙間に開口している。そのため、流路37eは、スラストカラー35と後側スラスト軸受37との間に潤滑剤を供給する流路として用いられる。
第2溝部37cの鉛直方向下側には、前方に開口する潤滑剤排出用凹部37fが形成されている。第2溝部37c内の潤滑剤は、潤滑剤排出用凹部37fに一時的に貯留された後に、潤滑剤排出用空間34へ排出される。
【0035】
続いて、本実施形態に係るターボチャージャ100の動作を説明する。
まず、内燃機関から排出される排気ガスの流動によって、タービンインペラ12が回転する。
内燃機関の作動と共に排出された排気ガスが、不図示のガス導入口を介してタービンスクロール流路21に導入される。タービンスクロール流路21に導入された排気ガスは、タービンインペラ12周りを旋回して流動し、タービンインペラ12へ旋回しつつ導入される。排気ガスの導入によって、タービンインペラ12は回転する。また、排気ガスは、タービンインペラ12の形状に沿って流動することで、その流動方向が前方に向かうように調整される。そして、排気ガスはタービン出口22から排出され、不図示の排気ガス浄化装置によって浄化される。
【0036】
次に、タービンインペラ12の回転に伴い、コンプレッサハウジング5において空気が圧縮される。
タービンインペラ12が回転することで、ロータ軸11を介して接続されたコンプレッサインペラ13が回転する。コンプレッサインペラ13が回転することで、コンプレッサ入口51を介して外部から導入された空気が吸引されると共に、吸引された空気がコンプレッサインペラ13の径方向外側に設けられたディフューザ流路52に送り出される。空気はディフューザ流路52内を流動すると共に圧縮され、高圧となった空気はコンプレッサスクロール流路53に導入される。
【0037】
コンプレッサスクロール流路53に導入された空気は、不図示の空気吐出口を介して内燃機関に導入される。内燃機関に高圧となった空気が過給されることで、内燃機関の性能を向上させることができる。
以上で、ターボチャージャ100の動作が終了する。
【0038】
次に、本実施形態に係るスラスト軸受部32の動作を説明する。
上述の通り、タービンハウジング2内に導入された排気ガスの流動方向は、タービンインペラ12の形状に沿って流動することで前方に向かうように調整される。そのため、タービンインペラ12すなわちロータ1は、反作用として排気ガスから後ろ向きの付勢力を受ける。もっとも、ロータ1のロータ軸11にはスラスト軸受部32が設けられているため、スラスト軸受部32がロータ軸11を前後方向に関して支持しており、ロータ軸11の前後方向での移動を規制することができる。
【0039】
より詳細には、スラストカラー35がロータ軸11に保持されており、スラストカラー35はロータ軸11と共に回転する。また、ロータ軸11の軸方向(前後方向)でのスラストカラー35の両側に、前側スラスト軸受36及び後側スラスト軸受37が各々設けられている。そのため、ロータ軸11がその軸方向で所定の向きに付勢されたときにも、両スラスト軸受36、37がスラストカラー35を支持し、スラストカラー35及びロータ軸11の軸方向での移動を規制することができる。
【0040】
また、スラストカラー35はロータ軸11と共に回転するのに対し、両スラスト軸受36、37は、軸受ハウジング3に固定されているため回転しない。よって、第1対向面35bと第3対向面36cとが互いに摺動し、又は第2対向面35cと第4対向面37bとが互いに摺動する場合がある。
ここで、隙間36bは、ラジアル軸受31の設置箇所を介して潤滑剤供給流路33と連通しているため、第1対向面35bと第3対向面36cとの間に潤滑剤を供給することができる。また、流路37eは、液溜り部37dを介して潤滑剤供給流路33と連通しているため、第2対向面35cと第4対向面37bとの間に潤滑剤を供給することができる。したがって、潤滑剤によって上記摺動箇所を潤滑することができ、第1対向面35bと第3対向面36cとが互いに摺動し、又は第2対向面35cと第4対向面37bとが互いに摺動することで生じる過度の摩耗や焼き付き等の不具合を防止することができる。
【0041】
さらに、ロータ1が高速で回転した場合の、スラスト軸受部32の動作について説明する。
ロータ1が高速で回転できるように設計されたターボチャージャ100では、ロータ軸11に保持されたスラストカラー35も高速で回転する。そのため、第1対向面35bと第3対向面36cとの間、及び第2対向面35cと第4対向面37bとの間に供給された潤滑剤は、スラストカラー35の回転による遠心力によって、径方向外側に向かって振り飛ばされやすくなる。
【0042】
ここで、第1対向面35bの外縁部側には第1突部35dが設けられ、第3対向面36cの外縁部側には第1溝部36dが設けられている。そのため、第1対向面35bと第3対向面36cとの間を径方向外側に向かって流動する潤滑剤は、第1突部35dを迂回するようにして流動するため、潤滑剤に対する流動抵抗が上昇する。また、第1突部35dはロータ軸11の軸周り方向で延在しているため、第1突部35dは径方向と交差しており、径方向外側に向かう潤滑剤の流動が抑制される。
よって、第1対向面35b及び第3対向面36cの外縁部側では潤滑剤の流れが滞り、第1対向面35bと第3対向面36cとの間に適切な量の潤滑剤を供給・保持することができる。したがって、ロータ1が高速で回転した場合の、スラストカラー35及び前側スラスト軸受36の過度の摩耗や焼き付き等を防止することができる。
【0043】
一方、第2対向面35cの外縁部側には第2突部35eが設けられ、第4対向面37bの外縁部側には第2溝部37cが設けられている。よって、上述した第1対向面35b及び第3対向面36cと同様に、第2対向面35c及び第4対向面37bの外縁部側では潤滑剤の流れが滞り、第2対向面35cと第4対向面37bとの間に適切な量の潤滑剤を供給・保持することができる。したがって、ロータ1が高速で回転した場合の、スラストカラー35及び後側スラスト軸受37の過度の摩耗や焼き付き等を防止することができる。
【0044】
したがって、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、径方向外側に向かう潤滑剤の流動を抑制することができるため、スラストカラー35が高速で回転しても、潤滑剤が遠心力により径方向外側に振り飛ばされることを防止できる。したがって、本実施形態によれば、スラストカラー35と両スラスト軸受36、37との間の潤滑を必要とする箇所に、適切な量の潤滑剤を供給・保持できるという効果がある。
【0045】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0046】
例えば、上記実施形態では、スラストカラー35に第1突部35d及び第2突部35eが設けられ、両スラスト軸受36、37に第1溝部36d及び第2溝部37cがそれぞれ形成されているが、これに限定されるものではなく、スラストカラー35に溝部が形成され、両スラスト軸受36、37に突部が設けられていてもよい。
【0047】
また、上記実施形態における各突部と各溝部との関係を、図3に示す関係としてもよい。
図3は、図2におけるスラストカラー35の拡大図である。
まず、第1突部35dの突出高さXを、第1対向面35bと第3対向面36cとの間隔Y以上の大きさとしてもよい。このような関係とすることで、第1対向面35bと第3対向面36cとの間を径方向外側に向かって流動する潤滑剤が、第1突部35dの径方向内側の側面に必ず当たることから、潤滑剤に対する流動抵抗が上昇する。
なお、第2突部35eの突出高さXを、第2対向面35cと第4対向面37bとの間隔Y以上の大きさとしてもよい。このような関係とすることで、第2対向面35cと第4対向面37bとの間を径方向外側に向かって流動する潤滑剤に対する流動抵抗が同様に上昇する。
【0048】
次に、第1溝部36dの深さZを、突出高さX以上の大きさとしてもよい。このような関係とすることで、振動等の影響を受けてスラストカラー35と前側スラスト軸受36とが互いに接触する場合にも、第1対向面35bと第3対向面36cとが必ず接触する。すなわち、第1突部35dが第1溝部36dの底部と接触することが防止され、第1突部35dの摩耗や破損等を防止することができる。
なお、第2溝部37cの深さZを、突出高さX以上の大きさとしてもよい。このような関係とすることで、第2突部35eの摩耗や破損等を防止することができる。
【0049】
また、上記実施形態では、スラストカラー35と前側スラスト軸受36との間に、第1突部35d及び第1溝部36dが1つずつ設けられているが、これに限定されるものではなく、径方向に関して突部及び溝部が隙間を空けてそれぞれ複数設けられていてもよい。このような構成とすることで、潤滑剤に対する流動抵抗をさらに上昇させることができる。
なお、スラストカラー35と後側スラスト軸受37との間に、同様に径方向に関して突部及び溝部が隙間を空けてそれぞれ複数設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0050】
11…ロータ軸(軸)、32…スラスト軸受部(スラスト軸受構造)、35…スラストカラー、35d…第1突部(突部)、35e…第2突部(突部)、36…前側スラスト軸受(スラスト軸受)、36c…第3対向面(対向面)、36d…第1溝部(溝部)、37…後側スラスト軸受(スラスト軸受)、37b…第4対向面(対向面)、37c…第2溝部(溝部)、100…ターボチャージャ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸に保持され前記軸と共に回転するスラストカラーと、軸方向での前記スラストカラーの両側に各々設けられる一対のスラスト軸受とを有し、前記スラストカラーと前記一対のスラスト軸受との間を潤滑剤により潤滑するスラスト軸受構造であって、
前記スラストカラーと前記スラスト軸受との一方が、他方に対向する対向面の外縁部側に設けられ且つ軸周り方向で延在する溝部を有し、
前記スラストカラーと前記スラスト軸受との他方が、一方に向けて突出して前記溝部に挿入され且つ前記軸周り方向で延在する突部を有することを特徴とするスラスト軸受構造。
【請求項2】
請求項1に記載のスラスト軸受構造において、
前記突部の突出高さが、前記軸方向での前記スラストカラーと前記スラスト軸受との間隔以上の大きさで形成されていることを特徴とするスラスト軸受構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスラスト軸受構造において、
前記溝部の深さが、前記突部の突出高さ以上の大きさで形成されていることを特徴とするスラスト軸受構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のスラスト軸受構造において、
前記溝部及び前記突部は、径方向に関して隙間を空けてそれぞれ複数配設されていることを特徴とするスラスト軸受構造。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のスラスト軸受構造を有することを特徴とするターボチャージャ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−12570(P2011−12570A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155591(P2009−155591)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】