説明

スルホン化芳香族ポリイミド及び該ポリイミドよりなる電解質膜

【解決手段】
主鎖にスルホン酸基が存在せず、主鎖を構成する芳香族環のうち、スルホン酸基が存在する側鎖が結合している芳香族環は、エーテル結合、スルフィド結合又はスルホニル結合を介してイミド環を形成する芳香族環に連なる構造を有するスルホン化ポリイミド及び該ポリイミドよりなる陽イオン交換体、並びに燃料電池用電解質膜。
【効果】
高温酸性環境下での耐久性が高く、機械的強度に優れたスルホン化ポリイミドであり、該ポリイミドは膜状としたとき、低湿度下でのプロトン伝導性が高く、且つ気体及び液体に対するバリヤー性が大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なスルホン化芳香族ポリイミドに係る。また該ポリイミドよりなる陽イオン交換体、特に電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジアミノ化合物は、ポリアミドやポリイミドなどの樹脂製造用の原料として用いられる。芳香族ポリイミドは、一般にオキシジアニリンのような芳香族ジアミンとピロメリット酸無水物のようなテトラカルボン酸二無水物との重縮合により得られ、ジアミン残基と酸無水物残基との間の電荷移動相互作用に基づく強い分子間相互作用のため、薄膜形成能に優れ、機械的強度、耐熱性、耐溶剤性そして化学的安定性に優れるので、スーパエンジニアリングプラスチックス、層間絶縁材料等の電子材料あるいは中空糸気体分離膜などで利用されている。これらの優れた特性は、イオン交換膜や燃料電池用の電解質膜においても必要なものであり、スルホン酸基(スルホ基ともいう)やリン酸基のようなイオン交換基を有するポリイミドは良好な燃料電池用電解質膜などとして期待される。しかし、ポリイミドは、酸性水溶液中でイミド環が加水分解し易い欠点があり、スルホン化ポリフェニレンやスルホン化ポリエーテルスルホンなどのその他のスルホン化芳香族炭化水素系高分子に比べて大きな弱点であり、その解決が重大な課題である。
【0003】
そこで1,4,5,8‐ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTDA)からの六員環イミド環を有するポリイミドがフタル酸無水物からの五員環イミド環より耐加水分解性に優れているとの提案がなされ(非特許文献1)、例えば、特許文献1では、NTDAと次記化学式(19)〜(21)で示されるスルホン化ジアミンおよび非スルホン化ジアミン(たとえば、オキシジアニリン)との共重合ポリイミド膜が燃料電池用の電解質膜として優れていると開示されている。しかし、これらのスルホン化ポリイミド膜の耐水性は十分なものではなく、特許文献2では、化学式(22)で示されるスルホン化ジアミンからのスルホン化共重合ポリイミド膜がさらに優れた耐水性を有することを開示している。これは、電子吸引性のスルホ基がアミノ基の結合しているフェニル環から離れたフェニル環に結合しているのでアミンの塩基性が高く、イミド環の耐加水分解性が増すためである(例えば、非特許文献2)と考えられる。
【0004】
【化14】

【0005】
【化15】

(DはO、S、CH、またはC(CF等、R〜Rは水素原子またはアルキル基、そして、Arはスルホ基を有する芳香環残基)
上記のスルホン化ポリイミドは、いずれもスルホ基が高分子主鎖に直接結合している場合である。パーフルオロスルホン酸系高分子電解質膜では、側鎖のフルオロエーテル末端にスルホ基が結合し、親水性のスルホ基部が疎水性の主鎖部からミクロ相分離し、親水性のイオンチャンネルを形成していると考えられている。同様の効果を期待してこれまでに、芳香族炭化水素系高分子の側鎖にスルホ基を導入した側鎖型のスルホン化芳香族炭化水素系高分子膜が報告されている。例えば、化学式(23)で示される4‐(4‐スルホフェノキシ)ベンゾイル基を有するポリ‐1,4‐フェニレン(非特許文献3)、化学式(24)で示される2‐スルホベンゾイル基を有するポリスルホン(非特許文献4)、化学式(25)で示されるω‐スルホアルキルスルホニル基を有するポリスルホン(非特許文献5)、化学式(26)で示されるω‐スルホアルキル基を有するポリスルホンなどの芳香族炭化水素系ポリマー(特許文献3)が挙げられる。
【0006】
【化16】

【0007】
【化17】

【0008】
【化18】

【0009】
【化19】

ポリイミドにおいても化学式(27)で示されるω‐スルホアルコキシ基を有するジアミン(非特許文献6、特許文献4)及び化学式(28)で示されるスルホフェノキシ基を有するジアミン(非特許文献7)の合成とそのポリイミドの合成と物性が報告されている。これらの側鎖型スルホン化ポリイミド膜はミクロ相分離構造を有し、比較的優れた高温耐水性を有することが明らかにされている。
【0010】
【化20】

【0011】
【化21】

その他に、側鎖にスルホ基を有するものとして、主鎖の芳香族環にアルキレンエーテル結合を介してスルホン化芳香族基を結合したポリイミド(特許文献5)や下記一般式(29)
【0012】
【化22】

(Rは、アルキレン、ハロゲン化アルキレン、アリーレン及びハロゲン化アリーレン、又はエーテル結合を含むもの)
に示される側鎖にスルホン酸基を有するポリイミドが示されている(特許文献6)。これらのイオン交換体のあるものは、比較的高温下での耐久性や耐加水分解性を有しているが、更なる耐加水分解性が望まれる。また、特許文献7においては、下記一般式(30)で示される側鎖スルホ基を有する広範な種類(ポリエーテル、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリスルホン等)の高分子電解質膜が示されている。
【0013】
【化23】

(Xは単結合、電子吸引基または電子供与基、Rは単結合、‐(CH‐または‐(CF‐)
この中には、ポリイミドも含まれてはいるが、耐熱水性、ラジカル耐性に優れる好ましい繰り返し単位高分子としては、ポリイミドは除外されており、具体的な記載は全くなされていない。イミド環の加水分解性に問題があるからと考えられる。ポリフェニレン、ポリエーテル、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリスルホンなどの(特許文献7において好ましいものとして記載されている)高分子は、ポリイミドに比べて繰り返し単位の耐加水分解性には優れるが、分子間相互作用がポリイミドほど強くなく、薄膜形成能や耐溶剤性に劣る。このようなスルホン化高分子では、水は優れた溶剤であり、プロトン伝導性を高めるためスルホ基を多く導入しイオン交換容量を高くすると、膜が水に溶解もしくは著しく膨潤しやすく、またこれを抑えるため架橋構造を導入すると膜が乾燥時にもろくなるなどの欠点があり、その改善が必要とされている。
【0014】
ポリイミドの強い分子間相互作用に基づく優れた特性を活かし、強靱で可橈性に富むスルホン化ポリイミド薄膜で、かつイミド環の耐加水分解性を著しく向上させ、優れた高温耐水性を有する電解質膜の開発が必要とされている。これまでに開発されたスルホン化ポリイミド膜は、長期間使用すると、イミド環の加水分解が生じ、分子量が低下するため、膜は機械的特性を失うことがある。また、高温使用中、経時的にスルホ基の脱離を生じ、イオン交換容量の低下を来たし、性能が低下するという現象が見られることがある。これらの現象は、特に高温で顕著になる。これらのスルホン化ポリイミド膜の中には、80℃程度までの使用条件下では高分子電解質膜として有効に利用可能のものもあるが、更に高温、即ち100℃を超える温度下ではやはり経時的劣化を生じることが分かった。
【0015】
そこで、100℃以上の温度下で用いても、長期耐久性と機械的強度を有し、特に幅広い温度領域で使用可能であり、しかも低湿度下でのプロトン伝導性低下の少ない燃料電池用の電解質膜として使用に耐え得る高分子電解質膜の開発が望まれている。
【0016】
本発明者は敍上の課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、特定のジアミン化合物をモノマーとして用いた場合、極めて耐熱性の高いすなわち、100〜120℃の温度条件下でも高い機械的強度を保ち、しかも経時的劣化の少ない陽イオン交換膜、特に燃料電池用電解質膜に適するスルホン化ポリイミド膜を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明はスルホン酸基を側鎖に有する新規なポリイミドに関する。
【特許文献1】特表2000‐510511
【特許文献2】特開2003‐64181号公報
【特許文献3】特開2002‐110174号公報
【特許文献4】特開2004‐155998号公報
【特許文献5】特開2004‐35891号公報
【特許文献6】特開2004‐107484号公報
【特許文献7】特開2004‐256797号公報
【非特許文献1】ポリマー 第42巻 5097‐5105頁(2001)
【非特許文献2】ジャーナル メンブラン サイエンス 第230巻 111‐120頁(2004)
【非特許文献3】ソリッド ステート イオニクス 第147巻 189‐194頁(2002)
【非特許文献4】マクロモレキュラー ラピッド コミュニケーションズ 第23巻 896‐900頁(2002)
【非特許文献5】ジャーナル メンブラン サイエンス 第230巻 61‐70頁(2004)
【非特許文献6】ジャーナル マテリアルズ ケミストリー 第14巻1062‐1070頁(2004)
【非特許文献7】トランザクション マテリアルズ リサーチ ソサイアティ ジャパン 第29巻 2541−2546頁(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、上記技術背景に鑑み、高い機械的強度を有し、且つ、耐熱性、耐久性のあるポリイミド系陽イオン交換体、特に各種電気化学反応、なかでも燃料電池用等の電解質膜に用いた場合、優れた効果を期待できるポリイミド系イオン交換体を提供するにある。
【0019】
すなわち、本発明者らはその目的のため側鎖にスルホン酸基を有するポリイミド系陽イオン交換体及び該陽イオン交換体の一方の構成成分となる側鎖にスルホン酸基を有する特殊なジアミノ化合物をすでに提供した。本発明は、更に該特殊なジアミノ化合物よりなるポリイミド及び該ジアミノ化合物とスルホン酸基を有しないジアミノ化合物との共重縮合により、更に機械的強度も高く、高温下で耐久性のあるポリイミドを提供する。
【0020】
本発明の最大の特徴はジ(アミノアリールオキシ)、ジ(アミノアリールチオ)又はジ(アミノアリールスルホニル)芳香族カルボニル化合物を一成分として得られるスルホン化ポリイミドにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明はそれぞれ次に示す構成よりなる。
【0022】
〔1〕本発明は、下記式(1)に示される構造単位を分子中に有することを特徴とするスルホン化芳香族ポリイミド及び該ポリイミドよりなる電解質膜(以下単にスルホン化芳香族ポリイミドともいう)である。
【0023】
【化24】

但し、Arは4価の芳香族基、Arは次の(a)〜(d)に示される2価の基のうちいずれかの基。
【0024】
【化25】

(但し、Qは、‐O‐、‐S‐、‐CO‐、‐SO‐、‐CH‐、‐CF‐、‐C(CH‐、‐C(CF‐から選ばれる基)、Dは‐O‐、‐S‐又は‐SO‐から選ばれる基、Rは水素原子又は電子吸引性基、Xはスルホン酸基を有し、且つ更に置換基を有することある芳香族炭化水素基をそれぞれ表す。
【0025】
〔2〕本発明は、また上記発明〔1〕項におけるXが下記式(2)で示される(e)又は(f)のいずれかであることを特徴とするスルホン化芳香族ポリイミドである。
【0026】
【化26】

(但し、Yは水素原子、ハロゲン原子、スルホン酸基又は下記式(3)〜(16)に示す基のいずれか1つの基、pは0又は1の数〔但し、Yが水素原子又はハロゲン原子の時は1〕である。)
【0027】
【化27】

【0028】
【化28】

【0029】
【化29】

【0030】
【化30】

【0031】
【化31】

【0032】
【化32】

【0033】
【化33】

(但し、(3)〜(16)におけるnは1〜2の整数を表す、またTは‐O‐又は‐S‐を表す)。
【0034】
〔3〕更に本発明は、前記本発明〔1〕項に示されたXが下記式(17)で表される基であることを特徴とするスルホン化芳香族ポリイミドである。
【0035】
【化34】

(但し、Zは直接芳香族環が結合したもの、‐O‐、‐S‐、‐SO‐、‐CO‐、‐CH‐、‐CF‐、又は‐C(CF‐を表す。またmは1〜10、nは1〜2の整数を表す)。
【0036】
〔4〕本発明は、また前記本発明〔3〕項に示されたXがスルホン酸基の置換されたポリフェニレンオキサイド鎖又はポリフェニレンスルフィド鎖よりなることを特徴とするスルホン化芳香族ポリイミドである。
【0037】
〔5〕本発明は、下記式(1)及び(18)で示される構造単位を有することを特徴とする前記本発明〔1〕項乃至〔4〕項に記載したスルホン化芳香族ポリイミドである。
【0038】
【化35】

【0039】
【化36】

(但し、Ar、Ar、D、R及びXは、それぞれ発明〔1〕項乃至〔4〕項に同じ、また、Arは、スルホン酸基を有しない2価の芳香族基)
〔6〕本発明は、また前記発明〔5〕項における式(1)の構造単位対式(18)の構造単位の割合が10〜90対90〜10であることを特徴とするスルホン化芳香族ポリイミドである。
【0040】
〔7〕更に本発明は、上記発明〔5〕項又は〔6〕項に記載されたArのうち、2〜30%は、スルホン酸基を有しない3価の芳香族基で置換されており、架橋構造を形成してなることを特徴とするスルホン化芳香族ポリイミドである。
【0041】
〔8〕本発明は前記〔1〕項乃至〔7〕項の発明により得られるスルホン化芳香族ポリイミドよりなる陽イオン交換体である。
【0042】
〔9〕更に本発明は上記発明〔8〕項記載の陽イオン交換膜よりなる燃料電池用電解質膜でもある。
【発明の効果】
【0043】
本発明のジ(アミノアリールオキシ)、ジ(アミノアリールチオ)又はジ(アミノアリールスルホニル)芳香族カルボニル化合物を一方の成分とするポリイミドは、機械的強度が優れ、且つ主鎖を構成する芳香族環に直接スルホン酸基が結合しているポリイミド、エーテル結合又はアルキレン結合を介してアルキル基又は芳香族環にスルホン酸基が結合したポリイミド、或いはスルホン酸基を有する側鎖芳香環がカルボニル又はスルホニル基などの電子吸引性基を介してアミノフェニル基に直接結合したポリイミドなどに比べて、高温下での酸性水溶液中など過酷な条件下で用いた場合の加水分解による高分子鎖の切断及びスルホン酸基の脱離等経時的劣化が少なく、しかも低湿度下でのプロトン伝導性低下が少なく、燃料電池電解質膜として使用した場合、燃料の水素ガス等とメタノール等の液体に対して高いバリヤー性を併せ持つ優れた電解質膜とすることができる。すなわち、本発明のポリイミドの場合、主鎖を構成する部分に親水性の基であるスルホン酸基は存在せず、スルホン酸基を有する側鎖芳香環はカルボニル基を介して主鎖の一部を構成するフェニル環と結合しており、該フェニル環は、更にアリールオキシ基、アリールチオ基又はアリールスルホニル基を介してアミノ芳香環に結合しているため、疎水性のポリイミド高分子鎖が比較的フレキシブルであり、且つ親水性のスルホン酸基含有側鎖芳香環がイミド環から遠く離れた構造になっているので、疎水性の主鎖部と親水性の側鎖基部がミクロ相分離構造をとり易い。そのため、ポリイミド主鎖部の疎水性ドメインへ水収着量は少なく、電解質膜としての利用時に主鎖が加水分解を受け難くなるのである。更に、電子吸引性基であるカルボニル基を有する芳香環にスルホン酸基が結合されることにより、スルホン酸基の加水分解が起こり難いという特徴もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明は分子中に下記式(1)で表される構造単位を有することを必須とする。
【0045】
【化37】

式(1)中、Arは後述する4価の芳香族基であり、Arは次の(a)〜(d)に示される2価の基のうちいずれかの基である。
【0046】
【化38】

(但し、Qは、‐O‐、‐S‐、‐CO‐、‐SO‐、‐CH‐、‐CF‐、‐C(CH‐、‐C(CF‐から選ばれる基)、
更に、Dは‐O‐、‐S‐又は‐SO‐から選ばれる基、Rは水素原子又はニトロ基、ニトリル基、エステル基などの電子吸引性基である。 また、Xはスルホン酸基を有し、且つ置換基を有することある芳香族炭化水素基である。ここで、「スルホン酸基を有し」とは、芳香族基に直接結合する場合のみでなく、置換基を介してスルホン酸基が結合している場合をも意味するものである。
【0047】
なお、Xは電子吸引性基であるカルボニル基を介して結合していることもポリイミドからスルホン酸基を脱離し難くするので重要である。
【0048】
この置換基Xには、次に示す如く、陽イオン交換基であるスルホン酸基を結合した芳香族環が存在していなければならない。
【0049】
置換基Xとしては、次の式(2)で表される(e)又は(f)が好適に用いられる。
【0050】
【化39】

(但し、Yは水素原子、ハロゲン原子、スルホン酸基又は下記式(3)〜(16)に示す基のいずれか1つの基、pは0又は1の数〔但し、Yが水素原子又はハロゲン原子の時は1〕である。)
【0051】
【化40】

【0052】
【化41】

【0053】
【化42】

【0054】
【化43】

【0055】
【化44】

【0056】
【化45】

【0057】
【化46】

(これら(3)乃至(16)において、nは1又は2の整数である、またTは‐O‐又は‐S‐を表す)。
【0058】
また、得られるポリイミドのイオン交換容量を大きくする意味からXは次の式(17)で示される基とすることも望ましい。
【0059】
【化47】

(但し、mは2〜10の整数、nは1〜2の整数、zは直接結合、‐O‐、‐S‐、‐SO‐、‐CO‐、‐CH‐、‐CF‐又は‐C(CF‐を表す。)
また、式(17)で示されるzが酸素であるポリフェニレンオキサイド等、重合鎖が存在する場合、該重合鎖があまり長くなると、ポリイミド化する場合に支障を生じ、十分な重合度が得られないので、前記式(17)におけるmは10程度まで、好ましくは2〜8である。
【0060】
以上説明した式(1)の構造単位は下記式(19)で示されるジ(アミノアリールオキシ)、ジ(アミノアリールチオ)又はジ(アミノアリールスルホニル)芳香族カルボニル化合物と芳香族テトラカルボン酸二無水物などの芳香族カルボン酸誘導体との縮合により形成される。
【0061】
【化48】

(但し、Ar、R、D及びXは式(1)に同じ)
本発明における上記モノマーの製造方法は、特に限定されるものではないが、次のスキームの例などの方法で製造することができる。
【0062】
【化49】

すなわち、上記スキームの例におけるビフェニルにかえて、ベンゼンやナフタレン或いはその誘導体、ビフェニルエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ビフェニルスルホン、ジフェニルメチレンなどを用いれば、それぞれ対応するジ(アミノアリールオキシ)芳香族カルボニル化合物が得られるのである。また、アミノフェノール類にかえてアミノチオフェノール類を用いれば、対応するジ(アミノアリールチオ)芳香族カルボニル化合物が得られる。また、このスルフィド基を適当な条件下で適当な酸化剤を用いて、スルホニル基に酸化すれば対応するジ(アミノアリールスルホニル)芳香族カルボニル化合物が得られる。
【0063】
本発明においては、これらのジ(アミノアリールオキシ)、ジ(アミノアリールチオ)又はジ(アミノアリールスルホニル)芳香族カルボニル化合物をモノマーとして用いることにより、主鎖のイミド環からアリールオキシベンゾイル基、アリールチオベンゾイル基又はアリールスルホニルベンゾイル基を介して遠く離れた側鎖芳香環にのみスルホン酸基を有するポリイミドとなる。このため、本発明のスルホン化ポリイミドでは、主鎖を構成する芳香族環に直接スルホン酸基が結合しているポリイミド、エーテル結合又はアルキレン結合を介してアルキル基又は芳香族環にスルホン酸基が結合したポリイミド、或いはスルホン酸基を有する側鎖芳香環がカルボニル又はスルホニル基などの電子吸引性基を介してアミノフェニル基に直接結合したポリイミドなどに比べて、高温下での酸性水溶液中など過酷な条件下で用いた場合の加水分解による高分子鎖の切断及びスルホン酸基の脱離等経時的劣化が少ないのである。本発明者等は、その理由として主鎖を構成する部分に親水性の基であるスルホン酸基は存在せず、スルホン酸基を有する側鎖芳香環がカルボニル基を介して結合したフェニル環が更にアリールオキシ基、アリールチオ基又はアリールスルホニル基を介してアミノ芳香環に結合しており、疎水性のポリイミド高分子鎖が比較的フレキシブルであり、且つ親水性のスルホン酸基含有側鎖芳香環がイミド環から遠く離れた構造になっているので、疎水性の主鎖部と親水性の側鎖基部がミクロ相分離構造をとり易いため、ポリイミド主鎖部の疎水性ドメインへの水収着量は少なく、電解質膜としての利用時に主鎖の加水分解を受け難くしており、更に電子吸引性基のカルボニル基を有する芳香環にスルホン酸基が結合され、また一つの芳香環に複数のスルホン酸基が結合しており、スルホン酸基の加水分解が起こり難くしていると判断される。
【0064】
本発明においては、ポリイミドを構成するジアミノユニットが、式(19)のモノマーのみにより構成、すなわち、式(1)の構造単位のみで構成されるのも好ましい態様であるが、得られるポリイミド中の陽イオン交換容量を抑制する目的及び電解質膜などの隔膜とした場合の機械的強度の増強や吸水率を抑え、隔膜使用中の固定イオン濃度の低下を防ぐため等の目的で、下記式(18)に示される構造単位を共重縮合又はブレンドされていることも好ましい態様となる。
【0065】
【化50】

但し、Arは式(1)の場合と同じであり、Arは2価のスルホン酸基を有しない芳香族基、例えば、フェニレン基、ビフェニレン基、ビフェニルエーテル基、ビフェニルチオエーテル基、ビフェニルスルホニル基、ビフェニルカルボニル基、ビスフェノキシフェニルスルホン基などである。
【0066】
かかる式(18)の構造単位は、前記Arの2価の部分にアミノ基が結合したジアミン化合物を用いることにより、容易に得ることが出来る。それらの化合の例は後述する。
【0067】
本発明において、前記式(1)で示される構造単位と式(18)で示される構造単位との割合は、特に限定されないが、式(1)の構造単位は少なくとも10モル%は必要である。更には、30モル%以上存在させることが好ましい。また、90モル%もあれば、一般に十分である。
【0068】
そこで、一般には式(1)で示される構造単位対式(18)で示される構造単位の割合は10〜90対90〜10の範囲から選ばれる。
【0069】
また、前記Arのうち、2〜30モル%、好ましくは5〜10%を3価の芳香族基で置換することによりポリイミド中に架橋構造を形成させることができる。
【0070】
かかる3価の芳香族基を存在させる手段は、前記Arを形成させるモノマー、すなわちスルホン酸基を有しない芳香族ジアミンの一部を、スルホン酸基を有しない芳香族トリアミンで置換することによって得られる。
【0071】
また、式(1)で示される構造単位と式(18)で示される構造単位とは分子中に互いにランダムに存在しても良いし、またブロック状に偏在して存在してもよい。また架橋はポリイミド分子中にランダムに形成されてもよいし、化学式(18)で示されるスルホン酸基を含まないポリイミド鎖の部位だけに存在させることもできる。
【0072】
架橋構造を有するポリイミドは、吸水率を抑え、使用時の膜の膨潤、変形を抑えることができ、高いプロトン伝導度を保持し機械的強度等を増進するという利点がある。
【0073】
これらのスルホン酸基を有しない少なくとも一個の芳香環を有するジアミノ又はトリアミノ化合物のうち、ジアミノ化合物の例としては、4,4‘‐ジアミノジフェニルエーテル、4,4’‐ジアミノジフェニルスルホン、4,4‘‐ジアミノジフェニルスルフィド、ベンチジン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、1,5‐ナフタレンジアミン、2,6‐ナフタレンジアミン、ビス[4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス‐(4‐アミノフェノキシフェニル)スルフィド、ビス‐(4‐アミノフェノキシフェニル)ビフェニル、1,4‐ビス‐(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3‐ビス‐(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン、3,4’‐ジアミノジフェニルエーテル、4,4‘‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス{4‐{3‐アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、9,9‐ビス(4‐アミノフェニル)フルオレン、2,2‐ビス[4−(4‐アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2‐ビス[4‐(4‐アモノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2’‐ビス(トリフルオロメチル)‐ベンジジンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
また、トリアミン化合物としては、架橋反応を容易に行わせるために、同じ芳香環に2個のアミノ基が隣接して結合してないもの、特に同じ芳香環に2個以上の第1アミノ基を結合していないものが好ましく、例えば1,3,5‐トリ(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン、トリ(4−アミノフェニル)アミン、1,3,5‐トリアミノベンゼンなどが好適に使用される。
【0075】
これらトリアミン化合物は、式(19)に示すジアミノ化合物並びにスルホン酸基を有しないジアミンと混合して共重縮合に供することもできるし、また、テトラカルボン酸二無水物と式(19)の化合物及びスルホン酸基を有しないジアミンとの(共)縮重合において、カルボン酸無水物をジアミンに対して過剰に加えて、カルボン酸無水物末端のスルホン化ポリイミドオリゴーマーを合成し、その後にトリアミンを等当量加えて反応させることにより、スルホン化ポリイミドオリゴーマーがネットワーク状に連なった分岐架橋ポリイミド膜の作製に供することもできる。
【0076】
本発明において、ポリイミドを構成するためジアミン化合物と反応させるテトラカルボン酸化合物として、1,4,5,8‐ナフタレンテトラカルボン酸二無水物について説明したが、勿論、本発明においては、テトラカルボン酸成分としてジアミン化合物と反応して、イミドを形成するものであれば特に限定されない。
【0077】
すなわち、本発明のポリイミドにおいて、テトラカルボン酸成分としては、一般のポリイミド製造用モノマーとして使用されるものが何等制限されることなく使用できる。例えば、3,3‘,4,4’‐ビフェニルテトラカルボン酸、2,3‘,3,4’‐ビフェニルテトラカルボン酸、3,3‘,4,4’‐ペンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3‘,4,4’‐ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、ビス(3,4‐ジカルボキシフェニル)メタン、2,2‐ビス(3,4‐ジカルボキシフェニル)プロパン、ピロメリット酸、1,4,5,8‐ナフタレンテトラカルボン酸、3,4,9,10‐ペリレンテトラカルボン酸、4,4‘‐(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、m‐(ターフェニル)3,4,3“,4”‐テトラカルボン酸、1,6,7,12‐ペリレンテトラカルボン酸またはそれらの酸二無水物やエステル化物を挙げることができる。これらの中で、1,4,5,8‐ナフタレンテトラカルボン酸、又はその酸二無水物やエステル化物を用いると良好な耐水性を持った架橋スルホン化ポリイミドを得やすいので特に好ましい。
【0078】
以上の如き、ジアミノ化合物モノマー(場合によっては一部トリアミノ化合物を含む)とカルボン酸無水物との重縮合反応は、従来ポリイミドを合成する場合に用いられる手段が何等制限されることなく用いることができるが、次に、一般的スキームをホモ重縮合、ランダム共重縮合、ブロック共重縮合及び分岐架橋共重縮合の場合について示す。
【0079】
【化51】

【0080】
【化52】

【0081】
【化53】

【0082】
【化54】

(これらの反応式において、TEAはトリエチルアミン、PhCOOHは安息香酸、NTDAは1,4,5,8‐ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、Arは芳香環を有する2価の基をそれぞれ表す。)
以下に実施例を示す。
【0083】
以下の実施例に示したHNMRのデータは、溶媒として重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO‐d)を用いて、日本電子JEOL EX‐270により測定した。また、本発明における評価方法は以下のとおりである。
【0084】
[熱重量分析]
熱重量分析は、セイコー電子(株)製TG‐MS分析計(TG‐MSシステム220)により、He気流下5℃/minの昇温速度で行い、200〜300℃でのスルホン酸基またはスルホプロポキシ基の分解の開始温度Tdを求めた。
【0085】
[吸水率、Water uptake]
膜サンプル約80mgを乾燥して乾燥重量Wdを測定した後、30℃で2〜4時間水に浸漬した。膜サンプルを水から取り出し、手早く表面に付着した水をティシュペーパーでふき取り、膨潤時の膜重量Wsを測定した。吸水率(Water uptake; WU)を次式から求めた。
WU=(Ws‐Wd)/Wd×100%
[耐水性]
膜厚30〜40μmの膜サンプルを130℃加圧下熱水に48時間浸漬した後、膜形状・強度の観点から、次の3段階で評価した。〈1〉:膜形状を保持していない。〈2〉:ピンセットで膜を取り出し、そのまま120度に折り曲げると膜は破断した。〈3〉:120度に折り曲げても膜は破断しなかった。また、加圧水浸漬処理した膜を風乾後、50℃水中でプロトン伝導度を測定し、プロトン伝導度の観点から、次の3段階で評価した。(1):処理によりプロトン伝導度は20%以上低下した。(2):5〜20%低下した。(3):実験誤差(±5%)範囲内で変化しなかった。[プロトン伝導度]
プロトン伝導度測定セルに膜シート(1.0cm×0.5cm)と4枚の白金黒電極板をとりつけ、温度制御した水中また温度・湿度制御したチャンバー内にセットし、日置電気(株)製のLCRメーター(HIOKI3552‐80)を用いて、100Hzから100kHzの周波数範囲で複素インピーダンス法により電気抵抗Rを測定し、プロトン伝導度σを次式から計算した。
s=d/(t R)
ここで、dは2電極間距離(0.5cm)、tとwは、室温で70%RHにおける膜シートの厚さと幅である。水中でのプロトン伝導度の計算には、水中でのtとw値を用いた。
[メタノール透過係数]
液々透過測定セルの供給側セル(容量350ml)と透過側セル(容量100ml)の間にフッ素ゴムのシール板を介して膜シートをはさみつける。膜の供給側に30wt%メタノール水溶液を入れ、透過側に蒸留水を入れ、ガスクロマトグラフを用いて、任意の時間間隔での供給側と透過側の液組成を測定し、メタノール透過係数Pを求めた。なおPの計算には膨潤膜厚を用いた。
【0086】
なお、以下の実施例において用いる略語は次のとおり。
NTDA:1,4,5,8、−ナフタレンテトラカルボン酸
TEA:トリエチルアミン
BAPSB:2,4‐ビス(4‐アミノフェノキシ)‐3’‐スルホベンゾフェノン
DMSO:ジメチルスルホキシド
NMP:N−メチルピロリドン
BAPSSPB:2,5−ビス(4−アミノフェノキシ)3’−スルホ−4’−(4−スルホフェニル)ベンゾフェノン
3,3’−BSPB:3,3’‐ビス(3‐スルホプロポキシ)ベンジジン
BAPPS:4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)フェニルスルホン
BAPB:4,4’‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ビフェニル
TAPB:1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン
BAPBDS:4,4’‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ビフェニル3,3’−ジスルホン酸
【実施例1】
【0087】
スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPSB
(1)2,4−ビス(4−アミノフェノキシ)−3‘−スルホベンゾフェノン(BAPSB)の合成。
(ア)2,4−ジクロロ−3‘−スルホベンゾフェノン(Na塩)の合成
十分乾燥した100mlの三つ口フラスコにAlCl7.5gとベンゼン15mlを窒素気流下で加え、この混合物を0℃に冷却した後、その温度に保ち、2,4−ジクロロベンゾイルクロリド5.24g(0.025モル)を5mlのベンゼンに溶かした溶液を滴下して加えた。その間攪拌しながら0℃に保った。滴下後、該混合物を室温下で10時間攪拌した。反応溶液を約100gの氷水(数滴の塩酸を加えたもの)に注ぎ入れた。2相が現れ、水相から有機相を分離し、有機相を蒸発乾固して2,4−ジクロロベンゾフェノン6.1gを得た。収率97%。
【0088】
マグネチックスターラーを装備した100mlの三つ口フラスコに2,4−ジクロロベンゾフェノン6.0g(0.024モル)を入れ、アイスバスで冷却した後、6.0mlの濃硫酸を攪拌しながらゆっくりと添加した。2,4−ジクロロベンゾフェノンが完全に溶解した後、6.0mlの発煙硫酸(60%)を滴下して加えた。発煙硫酸を添加した後、該混合物を70℃に加熱し8時間攪拌を続けた。室温まで冷却後、80gの氷水にゆっくり注ぎ入れ、水酸化ナトリウム溶液で中性にし、固体を濾別した。濾液を蒸発乾固し、80mlのジメチルスルホキシド(DMSO)を加え、固体中の有機成分を抽出した。固体を濾別後、DMSO相を蒸発乾固し、7.2gの固体生成物を得た。収率85%。
(イ)BAPSBの合成
マグネチックスターラーを装備した100mlの四つ口フラスコに2,4−ジクロロ−3‘−スルホベンゾフェノン(Na塩)3.53g(0.010モル)、4−アミノフェノール3.27g(0.030モル)そして30mlのNMPを窒素雰囲気下で加えた。溶解後、2.6gのKCOと15mlのトルエンを加え、窒素気流下130℃で4時間攪拌加熱した。生成した水はトルエンとの共沸混合物として反応系外に除去した。さらに、反応混合液を160℃で20時間攪拌した。この反応混合液を、室温まで冷却後、300mlの冷水中に加え、次いで濃塩酸を、液のpHが約1になるまでゆっくり加えた。得られた固体沈殿物を濾別し乾燥して、3.10gの固体生成物を得た。収率65%。このものはHNMR(270MHz,トリエチルアミン含有DMSO‐d)によりδ:5.0(‐NH),6.25(1H),6.5‐6.7(8H),6.8(1H),7.4‐7.8(5H)のピークを示した。またFT‐IRによりBAPSB(化55)であることが確認された。
【0089】
【化55】

(2)スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPSBの合成
乾燥した100mlの四口フラスコ中で1.904g(4.0ミリモル)のBAPSBと2.1mlのトリエチルアミン(TEA)を16mlのm−クレゾールに加えて溶かし、次いで、1.072g(4.0ミリモル)の1,4,5,8‐ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTDA)および0.68gの安息香酸を加え、窒素ガス雰囲気下で混合物を80℃で4時間そして180℃で10時間攪拌し、10mlのNMPを添加してさらに180℃で10時間攪拌した。重合反応液を80℃まで冷却後、10mlのNMPを加え希釈後、多量のアセトンに投入し、析出した固体を濾別し、アセトン洗浄後乾燥した。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%;35℃)は1.5dl/gであった。生成物をDMSOに溶解し、ガラス板上に流延し、80℃で10時間乾燥して、TEA塩型のスルホン化ポリイミド膜を得た。これをメタノールに2日間浸漬し、次いで0.5M硫酸溶液に2日間浸漬しプロトン交換した後、水洗し150℃で10時間真空乾燥してプロトン型のスルホン化ポリイミドNTDA‐BAPSB(化56)膜を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。
【0090】
【化56】

【実施例2】
【0091】
スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPSSPB
(1)2,5−ビス(4−アミノフェノキシ)3‘−スルホ−4’−(4−スルホフェニル)ベンゾフェノン (BAPSSPB)の合成
(ア)2,5−ジクロロ−3‘−スルホ−4’−(4−スルホフェニル)ベンゾフェノン(Na塩)の合成
十分乾燥した100mlの三つ口フラスコにAlCl5.28gとビフェニル5.55g(0.036モル)そして20mlの1,2‐ジクロロエタンを窒素気流下で加え溶かし、この混合物を0℃に冷却した後、その温度に保ち、2,5−ジクロロベンゾイルクロライド7.54g(0.036モル)を20mlの1,2−ジクロロエタンに溶かした溶液を滴下して加えた。その間攪拌しながら0℃に保った。滴下後、該混合物を室温下で10時間攪拌した。反応溶液を約100gの氷水(数滴の塩酸を加えたもの)に注ぎ入れ、次いで200mlのベンゼンを加え、水相から有機相を分離し、有機相を蒸発乾固して2,5−ジクロロ−4‘−フェニルベンゾフェノン10.60gを得た。収率90%。
【0092】
マグネチックスターラーを装備した100ml三つ口フラスコに2,5−ジクロロ−4‘−フェニルベンゾフェノン8.18g(0.025モル)を入れ、アイスバスで冷却した後、8.0mlの濃硫酸を攪拌しながらゆっくりと添加した。2,5−ジクロロ−4‘−フェニルベンゾフェノンを完全に溶解させ後、8.0mlの発煙硫酸(60%)を滴下して加えた。発煙硫酸を添加した後、該混合物を90℃にゆっくり加熱し10時間攪拌を続けた。室温まで冷却後、100gの氷水にゆっくり注ぎ入れ、水酸化ナトリウム溶液で中性にし、固体を濾別した。濾液を乾固し、80mlのジメチルスルホキシド(DMSO)を加え、固体中の有機成分を抽出した。固体を濾別後、DMSO相を濃縮乾固し11.29gの固体生成物を得た。収率85%。
(イ)BAPSSPBの合成
マグネチックスターラーを装備した100mlの四つ口フラスコに2,5−ジクロロ−3‘−スルホ−4’−(4−スルホフェニル)ベンゾフェノン(Na塩)4.25g(0.008モル)と30mlのNMPを窒素雰囲気下で加えた。溶解後、4−アミノフェノール2.62g(0.024モル)とKCO2.07g(0.015モル)と15mlのトルエンを加え、窒素気流下130℃で4時間攪拌加熱した。生成した水はトルエンとの共沸混合物として反応系外に除去した。そらに、反応混合液を160℃で20時間攪拌した。この反応混合液を、室温まで冷却後、300mlの冷水中に加え、次いで濃塩酸を、液のpHが約1になるまでゆっくり加えた。得られた固体沈殿物を濾別し乾燥して、2.53gの固体生成物を得た。収率50%。このものはHNMR(270MHz,トリエチルアミン含有DMSO‐d)によりδ:5.0(‐NH),6.4‐6.6(8H),6.7‐6.8(2H),7.6‐8.4(8H)のピークを示した。またFT‐IRによりBAPSSPB(化57)であることが確認された。
【0093】
【化57】

(2)NTDA‐BAPSSPBの合成
乾燥した100mlの四口フラスコ中で2.528g(4.0ミリモル)のBAPSSPBと1.4mlのTEAを16mlのm−クレゾールに加えて溶かし、次いで、1.072g(4.0ミリモル)のNTDAおよび0.68gの安息香酸を加え、窒素ガス雰囲気下で混合物を80℃で4時間そして180℃で10時間攪拌し、10mlのNMPを添加してさらに180℃で10時間攪拌した。重合反応液を80℃まで冷却後、10mlのNMPを加え希釈後、多量のアセトンに投入し、析出した固体を濾別し、アセトン洗浄後乾燥した。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%;35℃)は2.5dl/gであった。生成物をDMSOに溶解し、ガラス板上に流延し、80℃で10時間乾燥して、TEA塩型のスルホン化ポリイミド膜を得た。これをメタノールに2日間浸漬し、次いで0.5M硫酸溶液に2日間浸漬しプロトン交換した後、水洗し150℃で10時間真空乾燥してプロトン型のスルホン化ポリイミドNTDA‐BAPSSB膜を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。プロトン伝導度の温度依存性を図1に示す。
【実施例3】
【0094】
ランダム共重合スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPSSPB/BAPPS(3/1)‐r
スルホン化ジアミンとして実施例2で合成したBAPSSPBを用い、非スルホン酸ジアミンとして4,4‘‐ビス(3‐アミノフェノキシ)フェニルスルホン(BAPPS)を用いた。乾燥した100mlの四口フラスコ中で1.898g(3.0ミリモル)のBAPSSPBと1.1mlのTEAを20mlのm−クレゾールに加えて溶かし、次いで、0.433g(1.0ミリモル)のBAPPSを添加して溶かした後、1.072g(4.0ミリモル)のNTDA及び0.68gの安息香酸を加え、窒素ガス雰囲気下で混合物を80℃で4時間そして180℃で20時間攪拌し、10mlのm‐クレゾールを添加してさらに180℃で10時間攪拌した。重合反応液を80℃まで冷却後、10mlのm‐クレゾールを加え希釈後、多量のアセトンに投入し、析出した固体を濾別し、アセトン洗浄後乾燥した。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%;35℃)は2.0dl/gであった。生成物をDMSOに溶解し、ガラス板上に流延し、80℃で10時間乾燥して、TEA塩型の共重合スルホン化ポリイミド膜を得た。これをメタノールに2日間浸漬し、次いで0.5M硫酸溶液に2日間浸漬しプロトン交換した後、水洗し150℃で10時間真空乾燥してプロトン型のランダム共重合スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPSSPB/BAPPS(3/1)‐r膜を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。プロトン伝導度の温度依存性を図1に示す。
【実施例4】
【0095】
シークエンス化共重合スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPSSPB/BAPPS(2/1)‐s
スルホン化ジアミンとして実施例2で合成したBAPSSPBを用い、非スルホン酸ジアミンとしてBAPPSを用いた。乾燥した100mlの四口フラスコ中で1.898g(3.0ミリモル)のBAPSSPBと1.2mlのTEAを10mlのm−クレゾールに加えて溶かし、次いで0.965g(3.6ミリモル)のNTDAおよび0.62gの安息香酸を加え、窒素ガス雰囲気下で混合物を80℃で4時間そして180℃で5時間攪拌した。溶液を室温まで冷却し、0.650g(1.5ミリモル)のBAPPS、0.241g(0.9ミリモル)のNTDA、0.153gの安息香酸そして10mlのm‐クレゾールを順次加え、80℃で4時間、180℃で20時間攪拌した。重合反応液を80℃まで冷却後、10mlのm‐クレゾールを加え希釈後、多量のアセトンに投入し、析出した固体を濾別し、アセトン洗浄後乾燥した。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%;35℃)は2.2dl/gであった。生成物をDMSOに溶解し、ガラス板上に流延し、80℃で10時間乾燥して、TEA塩型の共重合スルホン化ポリイミド膜を得た。これをメタノールに2日間浸漬し、次いで0.5M硫酸溶液に2日間浸漬しプロトン交換した後、水洗し150℃で10時間真空乾燥してプロトン型のシークエンス化共重合スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPSSPB/BAPPS(2/1)‐s膜を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。
【実施例5】
【0096】
分岐架橋スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPSSPB/TAPB(5/4)
(1)1,3,5‐トリス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン(TAPB)の合成
49.6g(0.35mol)の4‐フルオロニトロベンゼン、12.6g(0.1mol)の1,3,5‐トリヒドロキシベンゼンおよび20.7g(0.15mol)の炭酸カリウムをDMSO200mlとトルエン50mlの混合溶液に加え、窒素気流下で加熱した。140℃で4時間トルエンを還流させながら、生成した水を除去した。トルエンを除去しながら175℃まで昇温し、16時間加熱した。反応液を冷却後、多量のメタノールに投入して、析出した固体生成物を水洗後乾燥した。
【0097】
得られた固体30g、塩化鉄(III)60mgおよび白金担持炭素2gを2‐メトキシエタノール110mlに加え、混合液を90℃に昇温し、ヒドラジン一水和物18.9gを2時間かけて滴下した。反応液を110℃で2時間加熱後、室温まで冷却し、ろ過した。濾液に濃塩酸20mlを添加し、固体を析出させた。固体を濾別し、乾燥してTAPBの黄色固体を得た。
(2)分岐架橋スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPSSPB/TAPB(5/4)の合成
スルホン化ジアミンとして実施例2で合成したBAPSSPBを用いた。乾燥した100mlの四口フラスコ中で2.528g(4.0ミリモル)のBAPSSPBと1.4mlのTEAを20mlのm−クレゾールに加えて溶かし、次いで1.34g(5.0ミリモル)のNTDAおよび0.85gの安息香酸を加え、窒素ガス雰囲気下で混合物を80℃で4時間そして180℃で20時間攪拌した。溶液を室温まで冷却し、0.340g(0.67ミリモル)のTAPBと20mlのNMPを加え、60℃で4時間攪拌した。得られた溶液をガラス板上に流延し、80℃、95℃、110℃でそれぞれ1時間、130℃で8時間、さらに200℃で10時間加熱乾燥して、TEA塩型の分岐架橋スルホン化ポリイミド膜を得た。これをメタノールに2日間浸漬し、次いで0.5M硫酸溶液に2日間浸漬しプロトン交換した後、水洗し150℃で10時間真空乾燥してプロトン型の分岐架橋スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPSSPB/TAPB(5/4)膜を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。
【比較例1】
【0098】
ランダム共重合スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPBDS/BAPB(2/1)‐r
特開2003‐68326に記載されている方法で、4,4’−ビス(4‐アミノフェノキシ)ビフェニル‐3,3’‐ジスルホン酸(BAPBDS)を合成した。スルホン化ジアミンとしてBAPBDSを用い、非スルホン酸ジアミンとして4,4’‐ビス(3‐アミノフェノキシ)フェニルスルホン(BAPPS)を用いた。乾燥した100mlの四口フラスコ中で1.056g(2.0ミリモル)のBAPBDSと0.68mlのTEAを12mlのm−クレゾールに加えて溶かし、次いで、0.368g(1.0ミリモル)のBAPBを添加して溶かした後、0.804g(3.0ミリモル)のNTDAおよび0.51gの安息香酸を加え、窒素ガス雰囲気下で混合物を80℃で4時間そして180℃で20時間攪拌した。重合反応液を80℃まで冷却後、20mlのm-クレゾールを加え希釈後、多量のアセトンに投入し、析出した固体を濾別し、アセトン洗浄後乾燥した。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:m‐クレゾール;0.5wt%;35℃)は2.8dl/gであった。生成物をm‐クレゾールに溶解し、ガラス板上に流延し、120℃で10時間乾燥して、TEA塩型の共重合スルホン化ポリイミド膜を得た。これをメタノールに2日間浸漬し、次いで0.5M硫酸溶液に2日間浸漬しプロトン交換した後、水洗し150℃で10時間真空乾燥してプロトン型のランダム共重合スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPBDS/BAPB(2/1)‐r膜を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。プロトン伝導度の温度依存性を図1に示す。
【比較例2】
【0099】
ランダム共重合スルホン化ポリイミドNTDA‐3,3’‐BSPB/BAPPS(2/1)‐r
特開2004‐155998に記載されている方法で、3,3’‐ビス(3‐スルホプロポキシ)ベンジジン(3,3’‐BSPB)を合成した。スルホン化ジアミンとして3,3’‐BSPBを0.96g(2.0ミリモル)用い、非スルホン酸ジアミンとしてBAPPSを0.433g(1.0ミリモル)用いる以外、比較例1と同様にして、ランダム共重合スルホン化ポリイミドNTDA‐3,3’‐BSPB/BAPPS(2/1)‐r膜を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。プロトン伝導度の温度依存性を図1に示す。
【比較例3】
【0100】
パーフルオロスルホン酸系の電解質膜
パーフルオロスルホン酸系の電解質膜(D社製、厚み50μm)を用いた。この膜の特性評価結果を表1に示す。
評価結果まとめ
(1)実施例2のホモスルホン化ポリイミド膜は、比較的高いIECをもち、比較的高いWUを有するが、膜強度の観点での優れた高温耐水性をもつ。また、実施例3の共重合スルホン化ポリイミド膜は、比較例1の主鎖型共重合スルホン化ポリイミド膜とほぼ同じIECをもつが、膜強度の観点での高温耐水性は、比較例1より優れている。本特許でのスルホン化ポリイミド膜は、ミクロ相分離構造をとっており、比較的高いIECでも、膜強度の観点での優れた高温耐水性をもつ。この点で、比較例1の主鎖型スルホン化ポリイミド膜より優れている。
【0101】
(2)実施例1〜5のように、スルホン酸基の分解温度が290〜295℃と比較例2のスルホアルコキシ基をもつ側鎖型スルホン化ポリイミド膜に比べて30〜40℃高く、また、プロトン伝導度の観点からの高温耐水性にも優れる。これは、本特許でのスルホン化ポリイミド膜では、高温水中でのスルホン酸基の脱離が起こりにくいことを示しており、比較例2の側鎖型スルホン化ポリイミド膜よりこの点で優れている。
【0102】
(3)比較例1と2にくらべて、本特許でのスルホン化ポリイミド膜は、高いプロトン伝導度を有し、特に、低い湿度でのプロトン伝導度の低下が、比較例のスルホン化ポリイミドに比べて小さい。(表1と図1)
(4)本特許でのスルホン化ポリイミド膜は100℃以上の高温でもプロトン伝導度は低下せず、高いプロトン伝導度を有する。(図2)
(5)以上の結果より、本特許でのスルホン化ポリイミド膜は、高温PEFC用の高分子電解質膜として好適である。
【0103】
(6)本特許でのスルホン化ポリイミド膜は、比較例3のパーフルオロスルホン酸系膜に比べて、メタノール透過係数が非常に低く、メタノール透過係数に対するプロトン伝導度の比φ(φ=σ/P)が4倍以上大きく、直接メタノール型燃料電池用の高分子電解質膜として好適である。
【0104】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、プロトン伝導性が高く、耐熱性が高く、機械的強度が大きい固体電解質であるポリイミドで、陽イオン交換体として、また各種電解用隔膜等とした場合、ガス及び液体に対するバリヤー性が大きく、特に燃料電池用電解質膜として優れた性質を有する。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】は、プロトン伝導度の温度依存性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)に示される構造単位を分子中に有することを特徴とするスルホン化芳香族ポリイミド。
【化1】

但し、Arは4価の芳香族基、Arは次の(a)〜(d)に示される2価の基のうちいずれかの基。
【化2】

(但し、Qは、‐O‐、‐S‐、‐CO‐、‐SO‐、‐CH‐、‐CF‐、‐C(CH‐、‐C(CF‐から選ばれる基)、Dは‐O‐、‐S‐又は‐SO‐から選ばれる基、Rは、水素原子又は電子吸引性基、Xはスルホン酸基を有し、且つ更に置換基を有することある芳香族炭化水素基。
【請求項2】
Xが下記式(2)で示される(e)又は(f)のいずれかである請求項1記載のスルホン化芳香族ポリイミド。
【化3】

(但し、Yは水素原子、ハロゲン原子、スルホン酸基又は下記式(3)〜(16)に示す基のいずれか1つの基、pは0又は1の数〔但し、Yが水素原子又はハロゲン原子の時は1〕である。)
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

(但し(3)〜(16)におけるnは1〜2の整数を表す、またTは‐O‐又は‐S‐を表す。)
【請求項3】
Xが下記式(17)で示される基である請求項1に記載のスルホン化芳香族ポリイミド。
【化11】

(但しZは直接芳香族環が結合したもの、‐O‐、‐S‐、‐SO‐、‐CO‐、‐CH‐、‐CF‐、又は‐C(CF‐、を表す。またmは1〜10、nは1〜2の整数を表す。)
【請求項4】
Xがスルホン酸基の置換されたポリフェニレンオキサイド鎖又はポリフェニレンスルフィド鎖よりなる請求項1に記載のスルホン化芳香族ポリイミド。
【請求項5】
下記式(1)及び(18)で示される構造単位を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のスルホン化芳香族ポリイミド。
【化12】

【化13】

但し、Ar、Ar、D、R及びXは請求項1に同じ、Arはスルホン酸基を有しない2価の芳香族基、
【請求項6】
式(1)の構造単位対式(18)の構造単位の割合が10〜90対90〜10である請求項5記載のスルホン化芳香族ポリイミド。
【請求項7】
Arのうち、2〜30%はスルホン酸基を有しない3価の芳香族基で置換され、架橋構造を形成してなることを特徴とする請求項5又は6記載のスルホン化芳香族ポリイミド。
【請求項8】
請求項1乃至7のうちいずれかの請求項に記載のスルホン化芳香族ポリイミドよりなる陽イオン交換体。
【請求項9】
請求項8記載の陽イオン交換体よりなる燃料電池用電解質膜。

【図1】
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【公開番号】特開2006−152009(P2006−152009A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334205(P2004−334205)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】