説明

スロットル開度制御方法及びスロットル開度制御装置

【課題】電子ガバナ手段でスロットル開度を制御するエンジンシステムについて、コストの高騰を伴うことなくクラッチの接続時及び非接続時の双方で良好なエンジン運転性を確保できるようにする。
【解決手段】スロットル開度制御装置である電子制御ユニット1Aが、エンジン回転速度を含む検知データを用いて所定の算定方式でスロットル開度を決定し、電子制御スロットルモータ3に出力して運転状態に適したエンジン回転速度を維持するためのスロットル開度制御方法において、電子制御ユニット1Aがエンジン回転速度の変動状態を監視し、その変動レベルが予め定めた判定用基準値よりも大きい場合にクラッチ非接続状態と判定し、小さい場合にクラッチ接続状態と判定するものとして、スロットル開度を決定する際の算定方式をクラッチの接続状態と非接続状態との間でエンジン負荷状態に応じた異なるものに切り換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロット開度制御方法及びスロットル開度制御装置に関し、殊に、小型ビークル用エンジン等、比較的小型で簡易な構成のエンジンを配設したエンジンシステムにおいて、エンジン回転速度を検知しながらスロットル開閉手段に出力してスロットル開度を調整することにより、エンジン運転性を良好な状態に維持するためのスロットル開度制御方法、及びこの制御方法を実行するスロットル開度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スロットルバルブで吸入空気量が調整され気化器で燃料を供給される汎用エンジンのような小型少数気筒エンジンの分野においても、特開平4−116256号公報に記載されているように、スロットルバルブの開度を電動アクチュエータを介した電子ガバナ手段で制御することにより、エンジン回転速度を好ましいレベルに維持させる方式が普及している。
【0003】
図1は、後述する本発明の実施の形態と構成が共通する従来の電子ガバナ手段を搭載したエンジンシステムの配置図を示している。電子ガバナ手段は、アクセル開度センサ8からの入力信号によるアクセル開度データとクランク角センサ11からの入力信号によるエンジン回転速度データとを基に、所定の計算方式でそのときの最適なスロットル開度を決定し、スロットルバルブ4のアクチュエータとしての電子ガバナモータ3を操作してスロットル開度を制御するものであり、スロットル開度制御装置としての電子制御ユニット2Bと電子ガバナモータ3とで構成されている。
【0004】
例えば小型ビークル用エンジンの場合には、加速時はアクセル開度センサ8の出力値に相当するスロットル開度とされ、定常運転時はエンジン回転速度又は車速が一定になるようにスロットル開度が制御される。小型ビークルには、動力伝達機構に円心クラッチ及びCVTを採用しているものが多く、停止から加速する際に最初は無負荷であり、その後クラッチが繋がって加速していくのが通常である。
【0005】
図4は、このような電子ガバナ手段を搭載し動力伝達機構に円心クラッチとCVTを採用した小型ビークルにおいて、アクセルペダル全開時の車速、エンジン回転速度、スロットル開度の推移を表すグラフを示している。スロットルを開いた直後は、無負荷状態のためエンジン回転速度変化率は大きい(角度が急)が、クラッチが繋がった後のエンジン回転速度変化率は小さい(角度が緩やか)。即ち、エンジンの無負荷状態ではスロットル開度の変動によるエンジン回転速度の変動が敏感であるのに対し、クラッチが繋がっている状態では、慣性によりエンジン回転速度の変動は鈍感になる。
【0006】
そこで、クラッチが繋がっていない無負荷状態とクラッチが繋がっている状態との間で、スロットル開度を決定する際に用いる制御定数等を変更してより適したスロットル開度制御を実行することが好ましい。しかし、上述したような低コストのエンジンシステムでは車速センサ等を搭載していないのが通常であり、無負荷状態であるか否かの判定ができずに制御を切り分けることが不可能であるため、この両方の状態を両立できる妥協点での制御定数を設定せざるを得ず、適格なエンジン回転速度に制御しにくいものとなってその運転性を良好な状態に維持することが困難となりやすい。
【特許文献1】特開平4−116256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、電子ガバナ手段でスロットル開度を制御するエンジンシステムについて、コストの高騰を伴うことなくクラッチの接続時及び非接続時の双方で良好なエンジン運転性を確保できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明は、エンジンシステムに搭載されたスロットル開度制御装置が、エンジン回転速度データ及びアクセル開度データを含む検知データを用いて所定の算定方式によりスロットル開度を決定し、スロットルバルブ開閉手段に出力して運転状態に応じたエンジン回転速度を維持するためのスロットル開度制御方法において、前記スロットル開度制御装置がエンジン回転速度の変動状態を監視し、該エンジン回転速度の変動レベルが予め定めた判定用基準値よりも大きい場合にクラッチ非接続状態と判定するとともに前記判定用基準値よりも小さい場合にクラッチ接続状態と判定し、前記スロットル開度を決定する際の前記算定方式を前記判定したクラッチの接続状態と非接続状態との間でエンジン負荷状態に応じて異なるものに切り換えることを特徴とする。
【0009】
円心クラッチのような動力伝達手段を採用しているエンジンシステムにおいては、加速時のクラッチ非接続状態ではエンジン回転速度の変動が大きく、クラッチ接続状態ではエンジン回転速度の変動が小さいことから、エンジン回転速度の変動状況からクラッチが繋がっているか否かを比較的容易に判定できるため、スロットル開度決定に際しこのエンジン負荷の異なる2つの状態に応じて各々適した算定方式に切り換えるというプログラム上の操作だけで、より的確なスロットル開度の制御を実現しやすいものとなる。
【0010】
また、この場合、算定方式の切り換えを制御定数の変更によるものとすれば、比較的簡易な処理手順で切り換えられるものとなり、さらに、その判定対象であるエンジン回転速度の変動レベルが、エンジン回転速度の単位時間当たりの変化量であるものとすれば、大きな処理負担を要することなく確実な判定が行えるものとなる。
【0011】
さらにまた、エンジンシステムに搭載されてエンジン回転速度検出手段及びアクセル開度検出手段に接続されるとともにスロットルバルブ開閉手段に接続され、上述したスロットル開度制御方法を実行するための制御プログラムが記憶手段に格納されて、エンジン回転速度の変動レベルが予め定めた判定用基準値よりも大きい場合にクラッチ非接続状態と判定し、変動レベルが判定用基準値よりも小さい場合にクラッチ接続状態と判定するものとして、スロットル開度を決定する際の算定方式をクラッチの接続状態と非接続状態との間でエンジン負荷状態に応じて異なるものに切り換える、ことを特徴とするスロットル開度制御装置とすれば、これをエンジンシステムに配設するだけで新たな部品の追加を要することなく、上述したスロットル開度制御方法を容易に実施することができる。
【発明の効果】
【0012】
異なる2つのエンジン負荷状態に応じてスロットル開度を決定するための算定方式を切り換えるものとした本発明によると、コストの高騰を伴うことなくクラッチの接続時及び非接続時の双方で良好なエンジン運転性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0014】
図1は本実施の形態のスロットル開度制御装置である電子制御ユニット2Aを配設したエンジンシステムの配置図を示すものであり、エンジン1は小型ビークル用などの比較的小型で簡易な構成のエンジンを想定している。その吸気通路の途中にはスロットルバルブ4が配設され、このスロットルバルブ4の開閉手段として、電子ガバナモータ3が電子制御ユニット2Aに接続された状態で配設されている。尚、この小型ビークルの図示しないエンジン動力伝達手段には円心クラッチ及びCVTが採用されているものとする。
【0015】
エンジン1のフライホイール12外周付近には、クランク角センサ11が配設されており、これに接続された電子制御ユニット2Aがエンジン回転速度を連続的に検知する。また、電子制御ユニット2Aには、アクセル開度センサ8が接続されているとともに、エンジン1の温度を検出する温度セン5サが接続されており、アクセル開度及びエンジン温度を連続的に検知するようになっている。
【0016】
このように、エンジン回転速度及びスロットル開度を連続的に検知している電子制御ユニット2Aは、これらの検知データを基に所定の制御定数を含む所定の算定方式でそのときの運転状態に適したスロットル開度を決定し、電子ガバナモータ3に出力することによりスロットルバルブ4を開閉操作して、フィードバック制御でスロットル開度を制御するようになっている。
【0017】
そして、このような制御手順で適確なエンジン回転速度を維持することにより、良好なエンジン運転状態の確保を図っている。尚、この電子制御ユニット2Aは、その他のエンジン制御機能を有しているが、そのスロットル開度制御機能と電子ガバナモータ3とで電子ガバナ手段を構成している。
【0018】
ところで、図4のグラフに示したように、円心クラッチとCVTを採用しているビークルの加速時において、無負荷運転時及びCVT変速比が大きい領域ではエンジン回転速度の変動が大きく、クラッチの接続時及びCVT変速比が小さい領域ではエンジン回転速度の変動が小さい。そこで、このようなエンジン回転速度変動の差を利用してクラッチが接続されているか否かを判定し、エンジン負荷状態に応じて制御方式を切り換えるようにした。
【0019】
図2は、エンジン回転速度の変動状態の違いによりスロットル開度制御方式の内容を切り換える電子制御ユニット2Aによる制御手順の一例を示すフローチャートである。スロットル開度制御が開始されると、電子制御ユニット2Aは、先ずエンジン回転速度Nを検知し(S1)、アクセル開度を検知して(S2)、これらの検知データを基に単位時間当たりのエンジン回転速度の変化量ΔNを連続的に算出する(S3)。
【0020】
次に、算出したエンジン回転速度の変化量ΔNが、予め定めた判定用基準値よりも大きいか否かを判定し(S4)、大きい場合はクラッチがエンジン無負荷状態と判定して無負荷時のスロットルバルブ開度の制御定数を算出し(S5)、小さい場合はエンジン無負荷状態ではないと判定して、クラッチON時のスロットルバルブ開度の制御定数を算出する(S6)。尚、この判定用基準値及び各制御定数は、予め実験等により最適な値を求めて設定しておく。
【0021】
このような手順により、クラッチ接続を状態検出するための高価な部品の追加を必要とすることもなく、エンジン無負荷時とクラッチON時との間でスロットル開度を決定するための算定方式(制御定数)を容易に切り換えることができ、エンジン無負荷時のスムースなエンジン回転速度の立ち上がりとクラッチON時の良好な運転性の両立ができる。
【0022】
図3は、本実施の形態のスロットル開度制御方法を採用した場合の、エンジン加速時性能を表すグラフを示すものであり、前述したように、従来例による制御では、エンジン無負荷時にエンジン回転速度が高くなり過ぎないように、クラッチが繋がっている状態でスロットル開度を大きくすることが困難であったのに対し、本実施の形態のクラッチ接続状態の判定による制御の切り分けを行う制御方法によれば、クラッチが繋がった後でもスロットルバルブを全開にできることから、エンジンの加速性が極めて良好である。
【0023】
尚、前述した実施の形態において、スロットルバルブ4及び電子制御スロットルモータ3を配設したスロットル装置と、スロットル開度制御装置である電子制御ユニット1Aとが、別体として配設された場合を説明したが、これらが一体となった1部品である制御装置内蔵型の電子ガバナ装置であっても良いことは言うまでもない。
【0024】
以上、述べたように、電子ガバナ手段でスロットル開度を制御するエンジンシステムについて、本発明により、コストの高騰を伴うことなくクラッチの接続時及び非接続時の双方で良好なエンジン運転性を確保することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明における実施の形態を示す配置図。
【図2】図1のスロットル開度制御装置による制御手順を示すフローチャート。
【図3】図1のスロットル開度制御装置による制御結果を示すグラフ。
【図4】従来のスロットル開度制御装置による制御結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0026】
1 エンジン、2A 電子制御ユニット、3 電子制御スロットルモータ、4 スロットルバルブ、8 アクセル開度センサ、11 クランク角センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンシステムに搭載されたスロットル開度制御装置が、エンジン回転速度データ及びアクセル開度データを含む検知データを用いて所定の算定方式によりスロットル開度を決定し、スロットルバルブ開閉手段に出力して運転状態に応じたエンジン回転速度を維持するためのスロットル開度制御方法において、前記スロットル開度制御装置がエンジン回転速度の変動状態を監視し、該エンジン回転速度の変動レベルが予め定めた判定用基準値よりも大きい場合にクラッチ非接続状態と判定するとともに前記判定用基準値よりも小さい場合にクラッチ接続状態と判定し、前記スロットル開度を決定する際の前記算定方式を前記判定したクラッチの接続状態と非接続状態との間でエンジン負荷状態に応じて異なるものに切り換えることを特徴とするスロットル開度制御方法。
【請求項2】
前記算定方式の切り換えが、制御定数の変更によることを特徴とする請求項1に記載したスロットル開度制御方法。
【請求項3】
前記エンジン回転速度の変動レベルが、前記エンジン回転速度の単位時間当たりの変化量であることを特徴とする請求項1または2に記載したスロットル開度制御方法。
【請求項4】
前記エンジンシステムに搭載されてエンジン回転速度検出手段及びアクセル開度検出手段に接続されるとともに前記スロットルバルブ開閉手段に接続され、請求項1,2または3に記載したスロットル開度制御方法を実行するための制御プログラムが記憶手段に格納されており、エンジン回転速度の変動レベルが前記判定用基準値よりも大きい場合にクラッチ非接続状態と判定し、前記変動レベルが前記判定用基準値よりも小さい場合にクラッチ接続状態と判定し、前記スロットル開度を決定する際の算定方式を、クラッチの接続状態と非接続状態との間でエンジン負荷状態に応じて異なるものに切り換えることを特徴とするスロットル開度制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−257173(P2009−257173A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106558(P2008−106558)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)
【Fターム(参考)】