説明

セメント原料の製造方法

【課題】冷却後のスラグに二次的熱処理などのような特別な処理を施すことなく、製鋼スラグからセメント原料用スラグを低コストに製造する。
【解決手段】製鋼工程で発生したスラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO]が2以上の製鋼スラグの冷却過程において、1000℃から700℃までを10℃/分以上の平均冷却速度で冷却する。このように特定の高温域での冷却速度を制御し、最適化することにより、高温スラグ中に存在するCSをCSとCaOに分解させることなく冷却後まで維持することができ、このCSによりセメント原料として高いセメント活性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼工程で発生するスラグからセメント原料を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄プロセスの製鋼工程では、溶銑に含まれる燐や硫黄、炭素などを取り除き、微量元素の含有量を鋼の用途にあわせて調整することが行われる。そのための精錬処理では石灰や酸化鉄などの精錬剤が用いられ、副生成物として製鋼スラグが発生する。この製鋼スラグとしては、溶銑予備処理と呼ばれる脱珪、脱燐、脱硫の各精錬処理で発生する溶銑予備処理スラグと、脱炭精錬処理で発生する脱炭スラグとに大別される。これらの製鋼スラグは、路盤材、土工材、海洋土木材などを中心に利材化され、また、製鉄プロセス内での再利用も進められている。
【0003】
一方、製鋼スラグの用途の一つとして、セメント原料が考えられる。このような用途に関して、例えば、特許文献1では、セメント原料に適した製鋼スラグの処理方法が提案され、また特許文献2においても、製鋼スラグを用いたセメントの製造方法が提案されている。製鋼スラグをセメント原料として利用できれば、製鋼スラグに多量に含まれるCaOをセメントに有効利用でき、石灰石等の天然原料について省資源化を図ることができる。しかしながら、高炉スラグの場合には、他の原料と常温で混合するだけで混合セメントとして利用できるのに対し、製鋼スラグの場合には、他の原料と混合してからキルン焼成する必要があり、排出二酸化炭素の削減や省エネルギーといった社会的な要請に十分応えることができない。
【0004】
製鋼スラグをセメント原料として用いる場合に焼成が必要なのは、製鋼スラグに含まれるCaO含有鉱物が、セメントのような水和反応物としての高い活性を有していないためである。スラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO](以下、単に「塩基度」という)に注目した場合、一般に製鋼スラグは塩基度が1以上であり、特に塩基度が2以上のものは、2CaO・SiO(CS)や3CaO・SiO(CS)といったセメント反応を生じる成分が含まれることが期待される。ところが、多くの製鋼スラグには燐が含まれているため、スラグ中のCSはβ−CSとして安定した構造を持ち、このようなCSはセメントとしての反応活性がほとんど期待できない。また、CSは、溶融状態のスラグから冷却が進む過程でCSとCaOとに分解し、常温の製鋼スラグ中にはあまり含まれていない。
【0005】
このような理由から、製鋼スラグを常温で単純に粉砕・混合しても、セメント原料としての機能はあまり発現しない。また、特許文献3では、ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末、アパタイト化されたカルシウムを含む脱燐スラグの微粉末を常温混合したセメント組成物が示されているが、フッ素含有が必須であり、且つ脱燐スラグも事前処理することが望ましいなど、通常発生する製鋼スラグに別途処理を行う必要があり、経済的な方法ではない。
【特許文献1】特開2001−48605号公報
【特許文献2】米国特許第6491751号公報
【特許文献3】特開2005−29404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、冷却後のスラグに二次的熱処理などのような特別な処理を施すことなく、製鋼スラグからセメント原料を低コストに製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特別な処理を行うことなく製鋼スラグのセメント活性(セメントとしての反応活性)を高めることができる方法について詳細な検討を行った。まず、溶融状態の製鋼スラグからはCSや3CaO・P、3CaO・Alなどが析出してくると考えられ、その際、特にCSがCSとCaOとに分解する反応が重要であると考えられるが、これに関して、製鋼スラグを冷却するときの条件によって分解の状況が変化し、セメント原料としての特性が変化することが判った。そして、製鋼工程で発生した製鋼スラグの冷却過程において、特定の温度域の冷却条件を制御して最適化することにより、常温での製鋼スラグのセメント活性を効果的に高めることができることが判った。
【0008】
さらに、その冷却において、水を使用する(散水冷却する)ことによって高温酸化が起こり、セメントに適した組成になることが判った。また、冷却後のスラグを微粉砕したものを特定の粒度条件で選別することにより、さらには、微粉砕条件を最適化することにより、セメント反応に寄与しない金属鉄分を適切に分離・除去することができ、高品質のセメント原料を経済的に製造できるとともに、金属鉄分を適切に回収できることが判った。
【0009】
本発明は、以上のような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]製鋼工程で発生したスラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO]が2以上の製鋼スラグの冷却過程において、1000℃から700℃までを10℃/分以上の平均冷却速度で冷却することを特徴とするセメント原料の製造方法。
[2]上記[1]の製造方法において、製鋼スラグに散水することにより、1000℃から700℃までを10℃/分以上の平均冷却速度で冷却することを特徴とするセメント原料の製造方法。
【0010】
[3]上記[1]の製造方法において、内部に冷媒が通される回転可能な横型冷却ドラムを備え、その外周のドラム面に溶融スラグが接触することにより冷却され、冷却されたスラグがドラム面から剥離して排出されるようにした溶融スラグの冷却処理装置を用い、製鋼スラグを少なくとも1000℃から700℃までを10℃/分以上の平均冷却速度で冷却することを特徴とするセメント原料の製造方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの製造方法において、製鋼スラグが脱炭スラグであることを特徴とするセメント原料の製造方法。
【0011】
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの製造方法において、製鋼スラグを散水冷却することにより、スラグ中に含まれる酸化鉄の成分比率(質量比)をFeO/Fe≦2とすることを特徴とするセメント原料の製造方法。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの製造方法において、冷却した製鋼スラグを微粉砕した後、篩い分けして粒径45μm以下をセメント原料とすることを特徴とするセメント原料の製造方法。
[7]上記[1]〜[5]のいずれかの製造方法において、冷却した製鋼スラグを、スラグに含まれる酸化鉄の90mass%以上が粒径45μm以下となるように微粉砕した後、篩い分けして粒径45μm以下をセメント原料とし、粒径45μm超を地鉄として回収することを特徴とするセメント原料の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、冷却後のスラグに二次的熱処理などのような特別な処理を施すことなく、製鋼スラグからセメント原料を低コストに且つ安定的に製造することができる。
また、本発明において、製鋼スラグを散水冷却することにより、特定の温度域を適正な冷却速度で急冷することができるとともに、スラグ中のFeOを高温酸化させてFeに変化させることより、セメント原料として特に好適なスラグ組成にすることができる。
また、本発明において、横型冷却ドラムを備えた特定の冷却処理装置を用いて製鋼スラグを冷却することにより、溶融スラグを薄い状態でドラム面に接触させることにより、特定の温度域を適正な冷却速度で急冷することができる。
また、本発明において、製鋼スラグを散水冷却することによりスラグ中に含まれる酸化鉄の成分比率[FeO/Fe]を最適化することにより、セメント原料としてより好適なスラグ組成にすることができる。
また、本発明において、冷却した製鋼スラグを微粉砕した後、篩い分けして所定粒径以下のものをセメント原料とすること、さらに好ましくは、冷却した製鋼スラグを特定の条件で微粉砕した後、篩い分けして所定粒径以下のものをセメント原料とすることにより、セメント原料としては不活性な金属鉄を適切に分離・回収できる一方で、高品質のセメント原料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、製鋼工程で発生したスラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO](以下、単に「塩基度」という)が2以上の製鋼スラグの冷却過程において、1000℃から700℃、好ましくは600℃までを、10℃/分以上、好ましくは15℃/分以上の平均冷却速度で冷却するものである。このような冷却速度は、放冷に較べて相当程度に大きい冷却速度であり、したがって、以下の説明では、上記冷却速度による冷却を急冷と呼ぶことがある。
なお、本発明において規定するスラグ温度(冷却速度を含む)は、スラグ厚さ方向中心温度である。このような厚さ方向中心温度を求めるには、例えば、スラグの種類、スラグ厚さ、冷却条件、周囲の雰囲気、温度などの要素を考慮してスラグ表面温度と厚さ方向中心温度との対応関係を予め求めておき、この対応関係に基づき、スラグ表面温度の測定値から厚さ方向中心温度を求めることができる。
【0014】
本発明の対象となる製鋼スラグとしては、脱燐スラグ、脱硫スラグなどの溶銑予備処理スラグや、転炉などの脱炭炉で発生する脱炭スラグなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、塩基度が2以上の製鋼スラグであれば種類を問わない。なお、これらのなかでも、脱炭スラグはCaO比率が高く且つCaOとSiOが主要成分として含まれるため、セメント原料として高い性能が期待できるので特に好ましい。
製鋼スラグの塩基度が2未満では、初期の結晶化の段階からCSが析出してしまい、高いセメント活性を確保することができない。但し、塩基度が5を超えると、free−CaOと呼ばれる遊離CaOが溶融状態の段階から多量に発生し、セメントとして利用する場合の体積安定性を確保することが難しくなるので、製鋼スラグの塩基度は5以下が好ましい。
【0015】
従来、製鋼工程で発生した製鋼スラグは、冷却ヤードにおいて放冷し、温度が相当程度下がった時点で散水がなされる。このような一般的な方法で製鋼スラグを冷却した場合、スラグの顕熱量が大きいため、なかなか冷却が進まない。本発明者らは、このようにスラグの冷却が進まない状況が、セメント活性に悪影響があるのではないかと考え、次のような試験・調査を行った。すなわち、塩基度4.0の製鋼スラグ(脱炭スラグ)に対して1450℃から散水冷却を行って様々な温度まで急冷し、その温度に保持した後、電気炉内で自然冷却することで、散水により急冷された温度(散水による急冷終了時のスラグ温度)とスラグの特性との関係を調査した。CSがCSとCaOに分解する現象は、X線などによる把握は難しいので、冷却後のスラグに蒸気エージングを施し、その際の粉化挙動(スラグ粉化率)で評価を行った。蒸気エージングを施した場合、CaOがCa(OH)になることによって体積膨張し、スラグが粉化する現象が観察されるからである。図1に、上記試験において散水冷却(平均冷却速度:15℃/分)による急冷終了時のスラグ温度と蒸気エージングを施した際のスラグ粉化率との関係を示す。これによれば、700℃まで急冷することによりスラグ粉化率が大きく低下し、600℃まで急冷すると粉化現象は見られなくなる。
【0016】
製鋼スラグ中のCSは1000℃を超える高温域では安定であるが、1000℃以下になるとCSとCaOに分解したほうが安定となると考えられる。しかしながら、分解反応である以上、活性化エネルギーおよび粒子内の成分の拡散が関与し、その結果、ある程度の温度エネルギーがないと、反応の進行は妨げられる。すなわち、1000℃以上から700℃以下まで、好ましくは600℃以下まで急冷してしまえば、上記の分解反応の進行を抑制することができ、スラグ中のCSを維持することができるものと考えられる。
急冷を開始する温度が1000℃未満では、冷却開始前に各粒子が成長し、粉化の原因となる遊離CaOの粒子も大きくなって粉化が進みやすくなったり、また、CSの分解が進行してしまうため、粉化率が高くなってしまう。
【0017】
また、平均冷却速度が10℃/分未満では、スラグのセメント活性を十分に高めることができない。図2は、塩基度3.7の製鋼スラグ(脱炭スラグ)の冷却過程において1000℃から600℃までを種々の平均冷却速度で冷却し(平均冷却速度10℃/分と15℃/分は散水冷却、平均冷却速度5℃/分は炉内で温度管理して冷却)、その後放冷した場合について、平均冷却速度とスラグ粉化率(図1と同様の蒸気エージングを施した際のスラグ粉化率)との関係を示したものである。これによれば、平均冷却速度が10℃/分以上でスラグ粉化率が顕著に低減し、特に15℃/分以上において粉化現象は殆ど見られなくなる。
以上の理由から本発明では、製鋼スラグの冷却過程において、1000℃から700℃、好ましくは600℃までを、10℃/分以上、好ましくは15℃/分以上の平均冷却速度で冷却する。
【0018】
製鋼工程で発生した製鋼スラグを、その冷却過程で10℃/分以上(好ましくは15℃/分以上)の平均冷却速度で冷却する方法は特に制限されないが、例えば、(イ)製鋼スラグに散水することにより冷却する方法、(ロ)内部に冷媒が通される回転可能な横型冷却ドラムを備え、その外周のドラム面に溶融スラグが接触することにより冷却され、冷却されたスラグがドラム面から剥離して排出されるようにした溶融スラグの冷却処理装置を用い、製鋼スラグを冷却する方法、などを適用できる。
上記(イ)の方法では散水された水の蒸発潜熱により大きな冷却速度が得られ、また、上記(ロ)の方法ではスラグが比較的薄い状態でドラム面に接触することにより冷却されるので、この場合も大きな冷却速度が得られる。
また、上記(ロ)の冷却方法には、例えば、下記のような冷却処理装置を用いた冷却形態がある。
【0019】
(a)単一の横型冷却ドラムと、この横型冷却ドラムに溶融スラグを供給する樋を備える冷却処理装置。
(b)対向する外周部分が上向きに回転する回転方向を有する、並列した1対の横型冷却ドラムを備え、この1対の横型冷却ドラムの上部外周面間に上方から溶融スラグが供給される冷却処理装置。
(c)間隙を有して並列し、対向する外周部分が下向きに回転する回転方向を有する1対の横型冷却ドラムを備え、この1対の冷却ドラムの上部外周面間に上方から溶融スラグが供給される冷却処理装置。
これら(a)〜(c)の冷却処理装置と、これによる冷却形態の詳細については、後に詳述する。
【0020】
また、散水冷却する場合でも、冷却するスラグの厚みを小さくすれば、それだけ冷却速度を高めることができ、この観点から、特にスラグの厚みを300mm以下にして散水冷却するのが効果的である。塩基度3.5の製鋼スラグ(脱炭スラグ)について、スラグ厚みを変えて本発明条件で散水冷却し、冷却が完了したスラグ(スラグ粉砕物)をセメント中に30mass%混合し(ポルトランドセメントの30mass%をスラグで置換)、この混合セメントによるモルタルの圧縮強度を調べた。図3に、散水冷却した際のスラグ厚さとモルタルの圧縮強度との関係を示すが、特にスラグ厚みが300mm以下で散水冷却した場合に、高いモルタル強度が得られることが判る。
【0021】
また、高温の製鋼スラグを散水冷却した場合、水の酸化能力が発現することが期待でき、それを促すように散水することも有効である。すなわち、スラグ中の成分のうち、酸化によって特性変化が期待されるものとしては、酸化鉄がある。酸化鉄は、製鋼スラグ中では通常FeOとして存在し、一部がFeとして存在している。製鋼スラグに常温または常温近くの温度で散水したとしてもスラグ中のFeOは殆ど酸化しないが、熱エネルギーをもった状態のスラグに散水して酸化を促すことにより、FeOをFeに変化させることができる。Feは遊離CaOを固定するのに有利な成分であり、セメントの水和反応物を構成する鉱物としても知られている。したがって、高温の製鋼スラグを散水冷却することでFeOを酸化させ、Feに変化させることにより、セメント原料としての性能を高めることができる。
【0022】
塩基度3.5の製鋼スラグ(脱炭スラグ)について、本発明条件で散水冷却した際にFeOのFeへの酸化の進行度を変え、冷却が完了したスラグ(スラグの粉砕物)をセメント中に30mass%混合し(ポルトランドセメントの30mass%をスラグで置換)、この混合セメントによるモルタルの圧縮強度を調べた。図4に、冷却後のスラグ中の酸化鉄の成分比率[FeO/Fe](質量比)とモルタルの圧縮強度との関係を示すが、Feの割合が高くなるほどモルタル強度が上昇し、特にFeO/Fe≦2において高いモルタル強度が得られ、なかでもFeO/Fe≦1.6において最も高いモルタル強度が得られている。
このため本発明では、製鋼スラグを散水冷却することにより、スラグ中に含まれる酸化鉄の成分比率(質量比)をFeO/Fe≦2、好ましくはFeO/Fe≦1.6とすることが望ましい。
【0023】
本発明により製造されるセメント原料用スラグの粒度は特に制限はないが、混合セメントの一部として使用することなどを考慮した場合、一般のセメント原料(普通ポルトランドセメント、高炉水砕スラグ微粉末など)と同程度の粒度にすることが品質安定のために好ましい。その観点から、冷却した製鋼スラグを微粉砕した後、篩い分けして粒径45μm以下をセメント原料とすることが好ましい。ここで、粒径45μm以下とは、JIS R 8801で規定される篩のうち呼び寸法45μmの篩を用いて篩い分けした際の篩下のスラグの粒径である。
【0024】
また、製鋼スラグには、通常、金属鉄が1〜15mass%程度含まれている。現在のプロセスにおいても、大きな地金分(地金:金属鉄回収を目的としてスラグから分離されたものであって、金属鉄を主体として含むもの)は磁選によって取り除かれ、回収された地金分は製鉄プロセスで再利用されている。しかし、スラグ内に取り込まれた地金は、そのままスラグの一部として利用されている。本発明の製造方法において、冷却後のスラグを微粉砕した場合、金属鉄は通常の機械的微粉化では砕けず、粒鉄として残存する。本発明者らは、微粉砕した後のスラグを呼び寸法45μmの篩で篩い分けしたときに、金属鉄がどのように分離されるか調べたところ、その90mass%以上が篩上に残ることを確認した。したがって、冷却後のスラグを十分に微粉砕した後、呼び寸法45μmの篩で篩い分けすることにより、金属鉄を篩上スラグとして効率的に回収することができる。
【0025】
製鋼スラグ中の地金を製鉄プロセスで有効利用するためには、回収される地金に含まれる酸化鉄分をできるだけ低くすることが望ましい。このため、冷却した製鋼スラグを、スラグに含まれる酸化鉄の90mass%以上が粒径45μm以下となるように微粉砕した後、篩い分けして粒径45μm以下をセメント原料とすることが好ましく、これにより粒径45μm超を高品位の地金として回収することができる。
塩基度3.5の製鋼スラグ(脱炭スラグ)を本発明条件で冷却し、冷却後のスラグを粉砕時間を種々変えて微粉砕処理した後、呼び寸法45μmの篩で篩い分けし、篩上スラグの金属鉄含有率および篩下スラグへの酸化鉄移行率(スラグの全酸化鉄量に対する篩下スラグ中の酸化鉄量の割合)と粉砕時間との関係を調べた。その結果を図5に示す。これによれば、十分な粉砕時間をとってスラグを微粉砕することにより、篩下スラグに移行する酸化鉄量が増加する一方で、篩上スラグの金属鉄含有率が増加する。
篩下スラグに移行する酸化鉄量が90mass%以上となった場合、篩上スラグの金属鉄の含有率がほぼ65mass%となり、これを高品位の地金として回収することができる。
【0026】
次に、さきに述べた(a)〜(c)の各タイプの冷却処理装置とこれによる冷却形態の概略を、図6〜図8の実施形態を参照して説明する。
図6は、上記(a)のタイプの冷却処理装置の一実施形態を示す説明図である。この冷却処理装置は、外周のドラム面100に溶融スラグを付着させて冷却する、回転可能な単一の横型冷却ドラム1e(以下、単に「冷却ドラム」という。他の実施形態についても同様)と、この冷却ドラム1eに溶融スラグを供給する樋2を備えている。
【0027】
前記樋2は、冷却ドラム径方向の一方の側に配置され、その先端部が冷却ドラム1eのドラム面100に接するか若しくは近接するように設けられるとともに、樋2の先端部分とドラム面100とによりスラグ液溜まり部Aを形成し、冷却ドラム1eの回転に伴い、スラグ液溜まり部A内の溶融スラグSがドラム面100に付着して持ち出されるようにしてある。
前記冷却ドラム1eは、駆動装置(図示せず)により、その上部ドラム面が反樋方向に回転するように回転駆動する。
【0028】
また、本実施形態では、冷却ドラム1eのドラム面100に付着した溶融スラグを圧延してドラム幅方向に展伸させるための圧延ロール3を有している。このような圧延ロール3を備えた冷却処理装置は、特に粘度が高い塩基度が2以上の溶融スラグの冷却処理に好適なものである。すなわち、転炉脱炭スラグなどのように塩基度が比較的高い溶融スラグは粘性が高く、このような粘性の高い溶融スラグを冷却ドラム式のスラグ冷却処理装置で冷却処理する場合、高粘性のために溶融スラグが冷却ドラム面に均一に付着しにくく、ドラム面全体を有効に使用した冷却処理を行うことができない。このため溶融スラグの冷却効率が低く、高い生産性が得られない。また、塩基度が高いスラグ(特に、塩基度≧3)は粉化しやすく、このようなスラグは溶融状態から急冷することにより、粉化しにくくすることができるが、従来のスラグ冷却処理装置で冷却処理した場合、高粘性のために厚みを薄くすることができず、十分な冷却速度が得られないため、冷却後の粉化を適切に抑制できない。このような課題に対して、本実施形態では、冷却ドラム1eのドラム面100に付着した溶融スラグを圧延してドラム幅方向に展伸させるための圧延ロール3を設けたものである。
前記圧延ロール3は、冷却ドラム1eの上部に冷却ドラム1eと平行に且つ冷却ドラム1eのドラム面100との間で所定の間隔を形成するようにして配置され、回転可能に支持されている。
【0029】
以上のような冷却処理装置を用いた溶融スラグの冷却処理では、樋2に供給された溶融スラグSはスラグ液溜まり部Aに流入し、ここで適当な時間滞留することで冷却された後、冷却ドラム1eのドラム面100に付着して持ち出され、ドラム面100に付着した状態で適度な凝固状態(例えば、半凝固状態または片面若しくは両面の表層のみが凝固した状態)まで冷却される。その際、ドラム面100に付着した溶融スラグSは、圧延ロール3で圧延されることでドラム幅方向に展伸される。冷却されたスラグは、所定のドラム回転位置において自重により冷却ドラム面から自然に剥離する。
【0030】
図7は、上記(b)のタイプの冷却処理装置の一実施形態を示す説明図である。
この冷却処理装置は、対向する外周部分が上向きに回転する回転方向を有する、並列した1対の冷却ドラム1a,1bを備え、この1対の冷却ドラム1a,1bの上部外周面間に上方から溶融スラグSが供給される。
前記冷却ドラム1a,1bは、駆動装置(図示せず)により上記の回転方向に回転駆動する。また、冷却ドラム1a,1bの上部には、図1の実施形態と同様の圧延ロール3a,3bが冷却ドラムと平行に設けられている。
【0031】
本実施形態の冷却処理装置では、対向する外周部分が上向きに回転する冷却ドラム1a,1bの上部外周面間(断面V溝状の凹部)に、スラグ樋4から溶融スラグSが供給され、スラグ液溜まりSaが形成される。溶融スラグSは、スラグ液溜まりSaで適当な時間滞留することで冷却された後、回転する冷却ドラム1a,1bの表面に付着することでスラグ液溜まりSaから持ち出される。この溶融スラグSは圧延ロール3で圧延されつつ、冷却ドラム面に付着した状態で適度な凝固状態(例えば、半凝固状態または表層のみ凝固した状態)まで冷却された後、所定のドラム回転位置において自重により冷却ドラム面から自然に剥離する。
【0032】
図8は、上記(c)のタイプの冷却処理装置の一実施形態を示す説明図である。
この冷却処理装置は、間隙を有して並列し、対向する外周部分が下向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ドラム1x,1yを備え、この1対の冷却ドラム1x,1yの上部外周面間に上方から溶融スラグSが供給される。前記冷却ドラム1x,1yは、駆動装置(図示せず)により上記の回転方向に回転駆動する。
本実施形態の冷却処理装置では、対向する外周部分が下向きに回転する冷却ドラム1x,1yの上部外周面間(断面V溝状の凹部)に、スラグ樋4から溶融スラグSが供給され、スラグ液溜まりSaが形成される。溶融スラグSは、スラグ液溜まりSaで適当な時間滞留することで冷却された後、間隙g内に流入して1対の冷却ドラム1x,1yで冷却されつつ圧延された後、冷却ドラム面から剥離して下方に排出される。
【実施例】
【0033】
表1に示すような塩基度、冷却条件、冷却後の酸化鉄の成分比率の製鋼スラグを微粉砕した後、篩い分けして粒径45μm以下をセメント原料として選別した。これを、普通ポルトランドセメントに30mass%の割合で混合し、その混合セメントをJIS R 5201で規定されるモルタル強度試験に供し、7日及び28日後の圧縮強度を調べた。その結果を表1に示す。なお、実際にコンクリートを使用するために重要な強度は、施工後28日以上経過した時の強度である。
表1によれば、本発明例のセメント原料を使用したモルタルは、28日後の強度について、いずれも優れた圧縮強度が得られている。一方、比較例は7日後の強度は発現しているものの、その後の強度の伸びが小さく、十分な強度が発現していない。
【0034】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】製鋼スラグの冷却過程において、散水により急冷されたスラグ温度(散水による急冷終了時のスラグ温度)と蒸気エージングを施した際のスラグ粉化率との関係を示すグラフ
【図2】製鋼スラグの冷却過程における1000℃から600℃までの平均冷却速度と蒸気エージングを施した際のスラグ粉化率との関係を示すグラフ
【図3】散水冷却した際のスラグ厚さと、冷却後のスラグの粉砕物を配合した混合セメントによるモルタルの圧縮強度との関係を示すグラフ
【図4】散水冷却後のスラグ中の酸化鉄の成分比率[FeO/Fe](質量比)と、冷却後のスラグの粉砕物を配合した混合セメントによるモルタルの圧縮強度との関係を示すグラフ
【図5】製鋼スラグを本発明条件で冷却し、冷却後のスラグを粉砕時間を種々変えて微粉砕処理した後、篩い分けした際に、篩上スラグの金属鉄含有率および篩下スラグへの酸化鉄移行率と粉砕時間との関係を示すグラフ
【図6】本発明で使用可能な冷却処理装置の一実施形態を示す説明図
【図7】本発明で使用可能な冷却処理装置の他の実施形態を示す説明図
【図8】本発明で使用可能な冷却処理装置の他の実施形態を示す説明図
【符号の説明】
【0036】
1,1e,1a,1b,1x,1y 横型冷却ドラム
2 樋
3,3a,3b 圧延ロール
4 スラグ樋
A スラグ液溜まり部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼工程で発生したスラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO]が2以上の製鋼スラグの冷却過程において、1000℃から700℃までを10℃/分以上の平均冷却速度で冷却することを特徴とするセメント原料の製造方法。
【請求項2】
製鋼スラグに散水することにより、1000℃から700℃までを10℃/分以上の平均冷却速度で冷却することを特徴とする請求項1に記載のセメント原料の製造方法。
【請求項3】
内部に冷媒が通される回転可能な横型冷却ドラムを備え、その外周のドラム面に溶融スラグが接触することにより冷却され、冷却されたスラグがドラム面から剥離して排出されるようにした溶融スラグの冷却処理装置を用い、製鋼スラグを少なくとも1000℃から700℃までを10℃/分以上の平均冷却速度で冷却することを特徴とする請求項1に記載のセメント原料の製造方法。
【請求項4】
製鋼スラグが脱炭スラグであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセメント原料の製造方法。
【請求項5】
製鋼スラグを散水冷却することにより、スラグ中に含まれる酸化鉄の成分比率(質量比)をFeO/Fe≦2とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のセメント原料の製造方法。
【請求項6】
冷却した製鋼スラグを微粉砕した後、篩い分けして粒径45μm以下をセメント原料とすることを特徴とする請求項1〜5に記載のセメント原料の製造方法。
【請求項7】
冷却した製鋼スラグを、スラグに含まれる酸化鉄の90mass%以上が粒径45μm以下となるように微粉砕した後、篩い分けして粒径45μm以下をセメント原料とし、粒径45μm超を地金として回収することを特徴とする請求項1〜5に記載のセメント原料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−227488(P2009−227488A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72610(P2008−72610)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】