セラミックスおよびその製造方法
【課題】新規なセラミックスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】セラミックスの製造方法は、圧粉体を水熱処理し、前記水熱処理後の圧粉体を焼結する方法である。ここで、水熱処理温度が100〜370℃の範囲内にあることが好ましい。また、焼結温度が700〜1600℃の範囲内にあることが好ましい。生成したセラミックスは、密度が70〜100%の範囲内にあり、グレインサイズが0.01〜100μmの範囲内にある。また、配向セラミックスである場合は、配高度が50〜100%の範囲内にあり、圧電定数が10〜5000pC/Nの範囲内にある。
【解決手段】セラミックスの製造方法は、圧粉体を水熱処理し、前記水熱処理後の圧粉体を焼結する方法である。ここで、水熱処理温度が100〜370℃の範囲内にあることが好ましい。また、焼結温度が700〜1600℃の範囲内にあることが好ましい。生成したセラミックスは、密度が70〜100%の範囲内にあり、グレインサイズが0.01〜100μmの範囲内にある。また、配向セラミックスである場合は、配高度が50〜100%の範囲内にあり、圧電定数が10〜5000pC/Nの範囲内にある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なセラミックスに関する。
また、本発明は、前記セラミックスの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配向セラミックス、磁性セラミックス、半導性セラミックス、導電性セラミックスなどのセラミックスは、その特性が着目されている。
【0003】
配向性セラミックスの特性を向上させるため、いくつかの開発例が報告されている(例えば、特許文献1)。すなわち、特許文献1における、セラミックスの製造方法では、[110]方向に配向したチタン酸バリウム板状粒子をテンプレート粒子とし、無配向のチタン酸バリウム球状粒子をマトリックス粒子とし、前記テンプレート粒子と前記マトリックス粒子を所定の割合で配合し焼成して、セラミックスを作製する方法である。
【0004】
また、反応性テンプレート粒子法を用いて、BNKT配向セラミックスを作製したことが報告されている(例えば、非特許文献1)。圧電特性を評価した結果、配向セラミックスにすることで、圧電特性の向上を確認できた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−222528
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y. Seno and T. Tani, “TEM Observation for Textured BNKT Polucrystals”, Ferroelectrics, 224 (1999) p. 365-372.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1の方法で高い配向度を持つ配向セラミックスを作製するためには高温の焼結温度が必要で、その結果、グレインサイズが大きくなってしまうという問題がある。
【0008】
また、上述した非特許文献1の方法で高い配向度を持つ配向セラミックスを作製するためには高温の焼結温度が必要で、その結果、グレインサイズが大きくなってしまうという問題がある。
【0009】
そのため、このような課題を解決する、新規なセラミックスおよびその製造方法の開発が望まれている。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規なセラミックスを提供することを目的とする。
また、本発明は、前記セラミックスの新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明のセラミックスは、密度が70〜100%の範囲内にあり、グレインサイズが0.01〜100μmの範囲内にあるものである。
【0012】
ここで、限定されるわけではないが、配向セラミックスであり、配高度が50〜100%の範囲内にあり、圧電定数が10〜5000pC/Nの範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、チタン酸バリウムを含有することが好ましい。
【0013】
本発明のセラミックスの製造方法は、圧粉体を水熱処理し、前記水熱処理後の圧粉体を焼結する方法である。
【0014】
ここで、限定されるわけではないが、水熱処理温度が100〜370℃の範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、焼結温度が700〜1600℃の範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、セラミックスの密度が70〜100%の範囲内にあり、セラミックスのグレインサイズが0.01〜100μmの範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、セラミックスが配向セラミックスであり、セラミックスの配高度が50〜100%の範囲内にあり、セラミックスの圧電定数が10〜5000pC/Nの範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、セラミックスがチタン酸バリウムを含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0016】
本発明のセラミックスは、密度が70〜100%の範囲内にあり、グレインサイズが0.01〜100μmの範囲内にあるので、新規なセラミックスを提供することができる。
【0017】
本発明のセラミックスの製造方法は、圧粉体を水熱処理し、前記水熱処理後の圧粉体を焼結するので、セラミックスの新規な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】水熱処理の詳細を示す図である。
【図2】水熱法における配向度を示す図である。
【図3】水熱法における密度を示す図である。
【図4】水熱処理温度200℃、焼結温度1250℃におけるSEM観察像を示す図である。
【図5】水熱処理温度280℃、焼結温度1250℃におけるSEM観察像を示す図である。
【図6】水熱処理温度200℃、焼結温度1300℃におけるSEM観察像を示す図である。
【図7】水熱処理温度280℃、焼結温度1300℃におけるSEM観察像を示す図である。
【図8】水熱法におけるグレインサイズを示す図である。
【図9】水熱法における圧電定数を示す図である。
【図10】水熱処理における粒子の再配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、セラミックスおよびその製造方法にかかる発明を実施するための形態について説明する。
【0020】
本発明のセラミックスは、密度が70〜100%の範囲内にあり、グレインサイズが0.01〜100μmの範囲内にあるものである。
本発明のセラミックスの製造方法は、圧粉体を水熱処理し、前記水熱処理後の圧粉体を焼結する方法である。
【0021】
セラミックスの製造方法について説明する。
【0022】
圧粉体は、配向した粒子、磁性粒子、半導性粒子、導電性粒子などを含んでいる。
【0023】
配向した粒子の材質としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、チタン酸鉛、チタン酸ビスマス、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸ストロンチウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸鉛、ジルコン酸ビスマス、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸リチウム、鉄酸ビスマスなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物を採用することができる。
【0024】
磁性粒子の材質としては、フェライト、酸化コバルト、酸化ニッケルなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物を採用することができる。
【0025】
半導性粒子の材質としては、酸化亜鉛、酸化スズ、ITOなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物を採用することができる。
【0026】
導電性粒子の材質としては、酸化亜鉛、酸化スズ、ITOなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物を採用することができる。
【0027】
配向した粒子としては、板状粒子を使用する。
板状粒子の平面方向の平均長さは、0.1〜10μmの範囲内にあることが好ましい。平面方向の平均長さが0.1μm以上であると、揃いやすいという利点がある。平面方向の平均長さが10μm以下であると、揃いやすいという利点がある。
【0028】
板状粒子の平均厚さは0.01〜1μmの範囲内にあることが好ましい。平均厚さが0.01μm以上であると、並びやすいという利点がある。平均厚さが1μm以下であると、並びやすいという利点がある。
【0029】
配向した粒子の形状は、上述の板状に限定されるものではない。このほか形状としては、針状、立方体状、多面体状など特定の面が出ている粒子などを採用することができる。
【0030】
上述の針状、立方体状、多面体状など特定の面が出ている粒子の平均粒径は0.1〜10μmの範囲内にあることが好ましい。平均粒径が0.1μm以上であると、揃いやすいという利点がある。平均粒径が10μm以下であると、揃いやすいという利点がある。
【0031】
配向した粒子以外の粒子の形状としては、板状、針状、立方体状、多面体状などの粒子を採用することができる。
【0032】
配向した粒子以外の粒子の平均粒径は0.1〜10μmの範囲内にあることが好ましい。平均粒径が0.1μm以上であると、並びやすいという利点がある。平均粒径が10μm以下であると、並びやすいという利点がある。
【0033】
配向した粒子の配向方向としては、[111]、[110]、[100]などを採用することができる。
【0034】
水熱処理温度は100〜370℃の範囲内にあることが好ましい。水熱処理温度が100℃以上であると、高圧の水蒸気により粒子が再配列できるという利点がある。水熱処理温度が370℃以下であると、高圧の水蒸気により粒子が再配列できるという利点がある。
【0035】
水熱処理時間は0.1〜1000時間の範囲内にあることが好ましい。水熱処理時間が0.1時間以上であると、高圧の水蒸気により粒子が再配列できるという利点がある。水熱処理時間が1000時間以下であると、高圧の水蒸気により粒子が再配列できるという利点がある。
【0036】
焼結温度は700〜1600℃の範囲内にあることが好ましい。焼結温度が700℃以上であると、緻密体を作製できるという利点がある。焼結温度が1600℃以下であると、緻密体を作製できるという利点がある。
【0037】
焼結時間は0.1〜100時間の範囲内にあることが好ましい。焼結時間が0.1時間以上であると、緻密体を作製できるという利点がある。焼結時間が100時間以下であると、緻密体を作製できるという利点がある。
【0038】
前記製造方法により作製されたセラミックスについて説明する。
【0039】
配向セラミックスの配高度は50〜100%の範囲内にあることが好ましい。配高度が50%以上であると、圧電特性が向上するという利点がある。配高度が100%以下であると、圧電特性が向上するという利点がある。
【0040】
配向セラミックスの密度は70〜100%の範囲内にあることが好ましい。密度が70%以上であると、圧電特性が向上するという利点がある。密度が100%以下であると、圧電特性が向上するという利点がある。
【0041】
配向セラミックスのグレインサイズは0.01〜100μmの範囲内にあることが好ましい。グレインサイズが0.01μm以上であると、圧電特性が向上するという利点がある。グレインサイズが100μm以下であると、圧電特性が向上するという利点がある。
【0042】
配向セラミックスの圧電定数は10〜5000pC/Nの範囲内にあることが好ましい。圧電定数が10pC/N以上であると、圧電特性を利用できるという利点がある。圧電定数が5000pC/N以下であると、圧電特性を利用できるという利点がある。
【0043】
配向セラミックスがチタン酸バリウムを含む場合、チタン酸バリウムのBa/Ti比は0.9〜1.1の範囲内にあることが好ましい。Ba/Ti比が0.9以上であると、圧電特性が向上するという利点がある。Ba/Ti比が1.1以下であると、圧電特性が向上するという利点がある。
【0044】
配向セラミックス以外のセラミックスの密度は70〜100%の範囲内にあることが好ましい。密度が70%以上であると、圧電特性が向上するという利点がある。密度が100%以下であると、圧電特性が向上するという利点がある。
【0045】
配向セラミックス以外のセラミックスのグレインサイズは0.01〜100μmの範囲内にあることが好ましい。グレインサイズが0.01μm以上であると、圧電特性が向上するという利点がある。グレインサイズが100μm以下であると、圧電特性が向上するという利点がある。
【0046】
配向セラミックスの用途としては、電子部品、アクチュエータ、ブザー、圧電発電素子、超音波モータ、トランスデューサ、ジャイロ、センサなどを採用することができる。
【0047】
配向セラミックス以外のセラミックスの用途としては、電子部品、アクチュエータ、ブザー、圧電発電素子、超音波モータ、トランスデューサ、ジャイロ、センサなどを採用することができる。
【0048】
なお、本発明は上述の発明を実施するための形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0049】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0050】
<試料の作成>
【0051】
実施例
【0052】
本実施例では[110]方向に配向したチタン酸バリウム(BaTiO3、以下「BT」という。)の板状粒子を用いた。この配向粒子は、神島化学工業(株)から購入したものである。[110]配向板状粒子の平面方向の平均長さは5μmである。また、[110]配向板状粒子の平均厚さは0.1μmである。
【0053】
原料であるBTの秤量を行った。このBT粒子はBa/Ti比が0.970であるチタンリッチの状態にあるため、これに炭酸バリウム(宇部マテリアルズ社製)を秤量し加え、Ba/Ti=0.980となるよう調整した。
【0054】
次に、混合・拡散のためナロゲンポットに入れる。ナロゲンポットは広口タイプのフッ素加工されたものを使用する。ナロゲンポットには250mlの容器を使用した。まず、容器にバインダー溶液を加えた。バインダー溶液の内容は、可塑剤であるポリビニルブチラール(以下、「PVB」という。)と、エタノール、トルエン混合溶液になっている。また、最終的な粘度が約400cPになるようエタノール、トルエン混合溶液を適量加える。その後、超音波スターラーを5分間かけながらBTと炭酸バリウムを加え、この時点で軽く分散をさせる。その後、約250gのジルコニアボール(ボール径3mm)を加え、24時間ボールミルにかける。ボールがナロゲンポッドの3分の2程度引っ張られる状態が最適な速度となり、今回は80rpmに決定した。
【0055】
つぎにドクターブレード装置を使用した。ボールミル終了後、10分間水平なところに静置し、スラリーからある程度の空気を追い出し、その後真空にすることよって中の気泡をすべて追い出し、ドクターブレードにかける。シートの送り速度を30cm/minとし、ドクターブレードの刃の高さを、手前、奥、共に450μmとした。また、シートを引き終えた後に大型乾燥機によって80℃で、10分間乾燥させることにより、エタノールとトルエンを追い出した。これにより、厚さ約40μmの均一なシートを作製した。
【0056】
作製したシートを2cm×2cmに切り分け、温められた型に40枚積層後、熱プレス機によって95℃、10MPaで圧着し、10分間のキープを行った。そして出来上がった2cm×2cmの試料をカッターによって1cm×1cmに切り分ける。
【0057】
次に、脱バインダー操作を行うことによって、PVBを焼いて追い出す工程を行った。PVBの熱重量分析による測定を行ったところ約590℃で完全に熱分解されたことが確認されたため、脱バインダー温度プログラムを、室温〜150℃を1時間、150℃〜480℃を16時間半、480℃〜600℃を2時間昇温し、600℃で1時間のキープを行い、その後炉冷し室温まで下がるように設定した。
【0058】
つぎに水熱処理を行った。水熱処理は、図1に示すように、オートクレーブ3の容器に純水2を1/3程入れたものに脱バインダー後の圧粉体1を水上に固定した状態で行った。温度条件は昇温速度を120℃/minと、200℃と280℃で行い、保持は1時間とした。
【0059】
その後、100℃/hrで昇温し、1250℃と1300℃において5時間焼結を行い、その後炉冷した。
【0060】
比較例
【0061】
水熱処理を行わなかったこと以外は、実施例と同様である。
【0062】
<評価方法>
【0063】
(1)配向度測定
出来上がった焼結体の表面のX線測定を行った。測定したX線結果からLotgering法による配向度測定を行った。無配向のBTと配向したBTセラミックスのXRD測定結果より、以下の式を用いて算出した。
【0064】
【数1】
【0065】
また、表1に測定条件を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
(2)密度測定
アルキメデス法による密度測定を行った。理論密度を6.01g/cm3とし、測定した密度から相対密度を算出した。
【0068】
(3) 圧電定数測定
セラミックスの加工について説明する。今回は、1.5mm×4.0mm×0.4mmの振動子を作製した。両面の電極には銀を使用している。手順は、以下のとおりである。
まず、研磨をおこなう。シフトワックスにより試料台に固定した試料をセットし、グライディングディスクに荒いダイヤモンドスラリーを吹き付けながら回転させ、両面に荒削りを行う。次に、ディスクを銅に、ダイヤモンドスラリーも細かいものに変更し、両面研磨を行い試料の厚さを0.4mmにまで削る。次に銀ペーストをシルクスクリーンによって塗布する。片面を塗布した後、120℃の乾燥機に10分間放置し、銀の乾燥を行う。そして、逆側の面も同様の操作を行い、電気炉にて、650℃を1時間で昇温し、1時間保持した後、炉冷し、銀を焼き付けた。最後にダイヤモンドカッターにより切断を行う。まず、先程のシフトワックスをガラス板に塗り、試料を固定し、試料保護のため上からシフトワックスを塗る。この状態で切断を行い1.5mm×4.0mmにする。これにより1試料から3〜4つの振動子が出来上がる。
【0069】
分極操作について説明する。分極処理とは、電極をつけたセラミックス片に高電界を印加して、強誘電体に圧電活性を与えるプロセスのことをいう。本実験では、キュリー温度以上で分極を行い、電界を印加したまま温度を下げることによって、立方晶状態から正方晶に相転移する際にドメインが多く入ることから、135℃で、各試料の飽和する限界付近の電界をかけ分極を行った。
【0070】
セラミックスの圧電特性について説明する。圧電定数のd定数とは、電圧をかけたときの歪みを表す量のことで、d33とは電圧を厚み方向にかけた際の、厚み方向の伸縮を指す。d33メータとは圧電体のd33値を簡易的に測定する装置を指す。原理としてはBerlincourt法という圧電性の正効果(振動→電荷)を利用しており、圧電体に300Hz程度の振動を圧電体の下部から一点に加え、圧電体表面に誘起される電荷から計算によってd33を表示する仕組みとなっている。この装置は圧電素子の形状寸法を問わず、1つの試料に対して1分程度で簡単に測定できる利点がある。
【0071】
(4) SEMによるセラミックス表面観察
銀電極を、#2000の紙やすりによって乾式研磨することにより除去し、焼結温度より50℃低い温度で1時間30分保持することによりヒートエッチングを行い、粒界を浮き出した。その後SEMによる表面観察を行った。
【0072】
(5) グレインサイズ測定
SEMの観察結果から複数個粒子のサイズを測定し、それらの平均を取って平均グレインサイズを算出した。
【0073】
<評価結果>
【0074】
実験結果と考察について説明する。
焼結温度1250℃、1300℃における、水熱処理温度に対する配向度の変化を図2に示す。焼結温度1250℃において、配向度の値は、水熱処理温度200℃で19.3%であり、水熱処理温度280℃で53.2%である。焼結温度1300℃において、配向度の値は、水熱処理温度200℃で70.4%であり、水熱処理温度280℃で85.3%である。この結果より、水熱処理温度が高温であれば配向度が向上しており、粒子の再配列は水熱処理温度の上昇によって効果が高くなっていることがわかる。
【0075】
また、焼結温度1250℃、1300℃における、水熱処理温度に対する密度の変化をそれぞれ図3に示す。焼結温度1250℃において、密度の値は、水熱処理を行わない場合は71.5%であるのに対して、水熱処理温度200℃で72.0%であり、水熱処理温度280℃で72.6%である。焼結温度1300℃において、密度の値は、水熱処理を行わない場合は95.0%であるのに対して、水熱処理温度200℃で97.0%であり、水熱処理温度280℃で97.4%である。この結果より、密度は水熱処理において向上した。
【0076】
そして、この時のSEM観察像を、図4〜7にそれぞれ示す。1250℃焼結体、1300℃焼結体において、水熱処理温度の増加とともに、グレインサイズは減少し、密度の向上が観察できた。
【0077】
図4〜7のSEM観察像から測定したグレインサイズを図8に示す。
焼結温度1250℃において、グレインサイズの値は、水熱処理温度200℃で1.38μmであり、水熱処理温度280℃で0.81μmである。
焼結温度1300℃において、グレインサイズの値は、水熱処理温度200℃で2.32μmであり、水熱処理温度280℃で1.81μmである。
これを見ると水熱処理温度が高温であるほうが、グレインサイズの値は小さくなっている。グレインサイズが小さくなることで、圧電特性が向上する。
【0078】
最後に、焼結温度1250℃、1300℃における、水熱処理温度に対する圧電定数の変化をそれぞれ図9に示す。焼結温度1250℃において、圧電定数の値は、水熱処理温度200℃で99pC/Nであり、水熱処理温度280℃で125pC/Nである。焼結温度1300℃において、圧電定数の値は、水熱処理温度200℃で372pC/Nであり、水熱処理温度280℃で517pC/Nである。この結果より水熱処理温度が高いほうが圧電定数は向上している。
ここで、水熱処理温度が280℃、焼結温度が1300℃の結果に注目し、この試料の各微構造と圧電特性を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
この結果を見ると、配向度は高く、密度が高く、グレインサイズが小さいセラミックスを作製でき、圧電定数もこれまでの実験で最高値の500pC/N以上となった。これより、理想とする微構造のBT配向セラミックスは、圧電定数が高くなることが分かり、このセラミックスを作製するためには水熱法が必要であることが分かった。
【0081】
このような結果になった理由として、水蒸気が圧粉体の気孔に入り込むことにより、圧粉体の粒子が回転し、隣り合った粒子がエネルギー的により安定な方位が揃う方向に再配列されたことが考えられる。この模式図を図10に示す。
【0082】
本実施例より、水熱法によって配向度が向上することがはじめて分かり、最も高い圧電定数を引き出す理想的な微構造のセラミックスの作製には水熱法が必要となることがわかった。また、水熱法によって作製されたBT配向セラミックスの圧電特性はこれまでの実験において最高値をとり、高い配向度、高い密度、小さなグレインサイズのセラミックスは圧電定数が最も高くなることが分かった。
【符号の説明】
【0083】
1‥‥圧粉体、2‥‥純水、3‥‥オートクレーブ、4‥‥水蒸気、5‥‥低配向度、6‥‥高配向度、7‥‥水熱処理、8‥‥圧力
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なセラミックスに関する。
また、本発明は、前記セラミックスの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配向セラミックス、磁性セラミックス、半導性セラミックス、導電性セラミックスなどのセラミックスは、その特性が着目されている。
【0003】
配向性セラミックスの特性を向上させるため、いくつかの開発例が報告されている(例えば、特許文献1)。すなわち、特許文献1における、セラミックスの製造方法では、[110]方向に配向したチタン酸バリウム板状粒子をテンプレート粒子とし、無配向のチタン酸バリウム球状粒子をマトリックス粒子とし、前記テンプレート粒子と前記マトリックス粒子を所定の割合で配合し焼成して、セラミックスを作製する方法である。
【0004】
また、反応性テンプレート粒子法を用いて、BNKT配向セラミックスを作製したことが報告されている(例えば、非特許文献1)。圧電特性を評価した結果、配向セラミックスにすることで、圧電特性の向上を確認できた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−222528
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y. Seno and T. Tani, “TEM Observation for Textured BNKT Polucrystals”, Ferroelectrics, 224 (1999) p. 365-372.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1の方法で高い配向度を持つ配向セラミックスを作製するためには高温の焼結温度が必要で、その結果、グレインサイズが大きくなってしまうという問題がある。
【0008】
また、上述した非特許文献1の方法で高い配向度を持つ配向セラミックスを作製するためには高温の焼結温度が必要で、その結果、グレインサイズが大きくなってしまうという問題がある。
【0009】
そのため、このような課題を解決する、新規なセラミックスおよびその製造方法の開発が望まれている。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規なセラミックスを提供することを目的とする。
また、本発明は、前記セラミックスの新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明のセラミックスは、密度が70〜100%の範囲内にあり、グレインサイズが0.01〜100μmの範囲内にあるものである。
【0012】
ここで、限定されるわけではないが、配向セラミックスであり、配高度が50〜100%の範囲内にあり、圧電定数が10〜5000pC/Nの範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、チタン酸バリウムを含有することが好ましい。
【0013】
本発明のセラミックスの製造方法は、圧粉体を水熱処理し、前記水熱処理後の圧粉体を焼結する方法である。
【0014】
ここで、限定されるわけではないが、水熱処理温度が100〜370℃の範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、焼結温度が700〜1600℃の範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、セラミックスの密度が70〜100%の範囲内にあり、セラミックスのグレインサイズが0.01〜100μmの範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、セラミックスが配向セラミックスであり、セラミックスの配高度が50〜100%の範囲内にあり、セラミックスの圧電定数が10〜5000pC/Nの範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、セラミックスがチタン酸バリウムを含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0016】
本発明のセラミックスは、密度が70〜100%の範囲内にあり、グレインサイズが0.01〜100μmの範囲内にあるので、新規なセラミックスを提供することができる。
【0017】
本発明のセラミックスの製造方法は、圧粉体を水熱処理し、前記水熱処理後の圧粉体を焼結するので、セラミックスの新規な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】水熱処理の詳細を示す図である。
【図2】水熱法における配向度を示す図である。
【図3】水熱法における密度を示す図である。
【図4】水熱処理温度200℃、焼結温度1250℃におけるSEM観察像を示す図である。
【図5】水熱処理温度280℃、焼結温度1250℃におけるSEM観察像を示す図である。
【図6】水熱処理温度200℃、焼結温度1300℃におけるSEM観察像を示す図である。
【図7】水熱処理温度280℃、焼結温度1300℃におけるSEM観察像を示す図である。
【図8】水熱法におけるグレインサイズを示す図である。
【図9】水熱法における圧電定数を示す図である。
【図10】水熱処理における粒子の再配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、セラミックスおよびその製造方法にかかる発明を実施するための形態について説明する。
【0020】
本発明のセラミックスは、密度が70〜100%の範囲内にあり、グレインサイズが0.01〜100μmの範囲内にあるものである。
本発明のセラミックスの製造方法は、圧粉体を水熱処理し、前記水熱処理後の圧粉体を焼結する方法である。
【0021】
セラミックスの製造方法について説明する。
【0022】
圧粉体は、配向した粒子、磁性粒子、半導性粒子、導電性粒子などを含んでいる。
【0023】
配向した粒子の材質としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、チタン酸鉛、チタン酸ビスマス、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸ストロンチウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸鉛、ジルコン酸ビスマス、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸リチウム、鉄酸ビスマスなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物を採用することができる。
【0024】
磁性粒子の材質としては、フェライト、酸化コバルト、酸化ニッケルなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物を採用することができる。
【0025】
半導性粒子の材質としては、酸化亜鉛、酸化スズ、ITOなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物を採用することができる。
【0026】
導電性粒子の材質としては、酸化亜鉛、酸化スズ、ITOなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物を採用することができる。
【0027】
配向した粒子としては、板状粒子を使用する。
板状粒子の平面方向の平均長さは、0.1〜10μmの範囲内にあることが好ましい。平面方向の平均長さが0.1μm以上であると、揃いやすいという利点がある。平面方向の平均長さが10μm以下であると、揃いやすいという利点がある。
【0028】
板状粒子の平均厚さは0.01〜1μmの範囲内にあることが好ましい。平均厚さが0.01μm以上であると、並びやすいという利点がある。平均厚さが1μm以下であると、並びやすいという利点がある。
【0029】
配向した粒子の形状は、上述の板状に限定されるものではない。このほか形状としては、針状、立方体状、多面体状など特定の面が出ている粒子などを採用することができる。
【0030】
上述の針状、立方体状、多面体状など特定の面が出ている粒子の平均粒径は0.1〜10μmの範囲内にあることが好ましい。平均粒径が0.1μm以上であると、揃いやすいという利点がある。平均粒径が10μm以下であると、揃いやすいという利点がある。
【0031】
配向した粒子以外の粒子の形状としては、板状、針状、立方体状、多面体状などの粒子を採用することができる。
【0032】
配向した粒子以外の粒子の平均粒径は0.1〜10μmの範囲内にあることが好ましい。平均粒径が0.1μm以上であると、並びやすいという利点がある。平均粒径が10μm以下であると、並びやすいという利点がある。
【0033】
配向した粒子の配向方向としては、[111]、[110]、[100]などを採用することができる。
【0034】
水熱処理温度は100〜370℃の範囲内にあることが好ましい。水熱処理温度が100℃以上であると、高圧の水蒸気により粒子が再配列できるという利点がある。水熱処理温度が370℃以下であると、高圧の水蒸気により粒子が再配列できるという利点がある。
【0035】
水熱処理時間は0.1〜1000時間の範囲内にあることが好ましい。水熱処理時間が0.1時間以上であると、高圧の水蒸気により粒子が再配列できるという利点がある。水熱処理時間が1000時間以下であると、高圧の水蒸気により粒子が再配列できるという利点がある。
【0036】
焼結温度は700〜1600℃の範囲内にあることが好ましい。焼結温度が700℃以上であると、緻密体を作製できるという利点がある。焼結温度が1600℃以下であると、緻密体を作製できるという利点がある。
【0037】
焼結時間は0.1〜100時間の範囲内にあることが好ましい。焼結時間が0.1時間以上であると、緻密体を作製できるという利点がある。焼結時間が100時間以下であると、緻密体を作製できるという利点がある。
【0038】
前記製造方法により作製されたセラミックスについて説明する。
【0039】
配向セラミックスの配高度は50〜100%の範囲内にあることが好ましい。配高度が50%以上であると、圧電特性が向上するという利点がある。配高度が100%以下であると、圧電特性が向上するという利点がある。
【0040】
配向セラミックスの密度は70〜100%の範囲内にあることが好ましい。密度が70%以上であると、圧電特性が向上するという利点がある。密度が100%以下であると、圧電特性が向上するという利点がある。
【0041】
配向セラミックスのグレインサイズは0.01〜100μmの範囲内にあることが好ましい。グレインサイズが0.01μm以上であると、圧電特性が向上するという利点がある。グレインサイズが100μm以下であると、圧電特性が向上するという利点がある。
【0042】
配向セラミックスの圧電定数は10〜5000pC/Nの範囲内にあることが好ましい。圧電定数が10pC/N以上であると、圧電特性を利用できるという利点がある。圧電定数が5000pC/N以下であると、圧電特性を利用できるという利点がある。
【0043】
配向セラミックスがチタン酸バリウムを含む場合、チタン酸バリウムのBa/Ti比は0.9〜1.1の範囲内にあることが好ましい。Ba/Ti比が0.9以上であると、圧電特性が向上するという利点がある。Ba/Ti比が1.1以下であると、圧電特性が向上するという利点がある。
【0044】
配向セラミックス以外のセラミックスの密度は70〜100%の範囲内にあることが好ましい。密度が70%以上であると、圧電特性が向上するという利点がある。密度が100%以下であると、圧電特性が向上するという利点がある。
【0045】
配向セラミックス以外のセラミックスのグレインサイズは0.01〜100μmの範囲内にあることが好ましい。グレインサイズが0.01μm以上であると、圧電特性が向上するという利点がある。グレインサイズが100μm以下であると、圧電特性が向上するという利点がある。
【0046】
配向セラミックスの用途としては、電子部品、アクチュエータ、ブザー、圧電発電素子、超音波モータ、トランスデューサ、ジャイロ、センサなどを採用することができる。
【0047】
配向セラミックス以外のセラミックスの用途としては、電子部品、アクチュエータ、ブザー、圧電発電素子、超音波モータ、トランスデューサ、ジャイロ、センサなどを採用することができる。
【0048】
なお、本発明は上述の発明を実施するための形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0049】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0050】
<試料の作成>
【0051】
実施例
【0052】
本実施例では[110]方向に配向したチタン酸バリウム(BaTiO3、以下「BT」という。)の板状粒子を用いた。この配向粒子は、神島化学工業(株)から購入したものである。[110]配向板状粒子の平面方向の平均長さは5μmである。また、[110]配向板状粒子の平均厚さは0.1μmである。
【0053】
原料であるBTの秤量を行った。このBT粒子はBa/Ti比が0.970であるチタンリッチの状態にあるため、これに炭酸バリウム(宇部マテリアルズ社製)を秤量し加え、Ba/Ti=0.980となるよう調整した。
【0054】
次に、混合・拡散のためナロゲンポットに入れる。ナロゲンポットは広口タイプのフッ素加工されたものを使用する。ナロゲンポットには250mlの容器を使用した。まず、容器にバインダー溶液を加えた。バインダー溶液の内容は、可塑剤であるポリビニルブチラール(以下、「PVB」という。)と、エタノール、トルエン混合溶液になっている。また、最終的な粘度が約400cPになるようエタノール、トルエン混合溶液を適量加える。その後、超音波スターラーを5分間かけながらBTと炭酸バリウムを加え、この時点で軽く分散をさせる。その後、約250gのジルコニアボール(ボール径3mm)を加え、24時間ボールミルにかける。ボールがナロゲンポッドの3分の2程度引っ張られる状態が最適な速度となり、今回は80rpmに決定した。
【0055】
つぎにドクターブレード装置を使用した。ボールミル終了後、10分間水平なところに静置し、スラリーからある程度の空気を追い出し、その後真空にすることよって中の気泡をすべて追い出し、ドクターブレードにかける。シートの送り速度を30cm/minとし、ドクターブレードの刃の高さを、手前、奥、共に450μmとした。また、シートを引き終えた後に大型乾燥機によって80℃で、10分間乾燥させることにより、エタノールとトルエンを追い出した。これにより、厚さ約40μmの均一なシートを作製した。
【0056】
作製したシートを2cm×2cmに切り分け、温められた型に40枚積層後、熱プレス機によって95℃、10MPaで圧着し、10分間のキープを行った。そして出来上がった2cm×2cmの試料をカッターによって1cm×1cmに切り分ける。
【0057】
次に、脱バインダー操作を行うことによって、PVBを焼いて追い出す工程を行った。PVBの熱重量分析による測定を行ったところ約590℃で完全に熱分解されたことが確認されたため、脱バインダー温度プログラムを、室温〜150℃を1時間、150℃〜480℃を16時間半、480℃〜600℃を2時間昇温し、600℃で1時間のキープを行い、その後炉冷し室温まで下がるように設定した。
【0058】
つぎに水熱処理を行った。水熱処理は、図1に示すように、オートクレーブ3の容器に純水2を1/3程入れたものに脱バインダー後の圧粉体1を水上に固定した状態で行った。温度条件は昇温速度を120℃/minと、200℃と280℃で行い、保持は1時間とした。
【0059】
その後、100℃/hrで昇温し、1250℃と1300℃において5時間焼結を行い、その後炉冷した。
【0060】
比較例
【0061】
水熱処理を行わなかったこと以外は、実施例と同様である。
【0062】
<評価方法>
【0063】
(1)配向度測定
出来上がった焼結体の表面のX線測定を行った。測定したX線結果からLotgering法による配向度測定を行った。無配向のBTと配向したBTセラミックスのXRD測定結果より、以下の式を用いて算出した。
【0064】
【数1】
【0065】
また、表1に測定条件を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
(2)密度測定
アルキメデス法による密度測定を行った。理論密度を6.01g/cm3とし、測定した密度から相対密度を算出した。
【0068】
(3) 圧電定数測定
セラミックスの加工について説明する。今回は、1.5mm×4.0mm×0.4mmの振動子を作製した。両面の電極には銀を使用している。手順は、以下のとおりである。
まず、研磨をおこなう。シフトワックスにより試料台に固定した試料をセットし、グライディングディスクに荒いダイヤモンドスラリーを吹き付けながら回転させ、両面に荒削りを行う。次に、ディスクを銅に、ダイヤモンドスラリーも細かいものに変更し、両面研磨を行い試料の厚さを0.4mmにまで削る。次に銀ペーストをシルクスクリーンによって塗布する。片面を塗布した後、120℃の乾燥機に10分間放置し、銀の乾燥を行う。そして、逆側の面も同様の操作を行い、電気炉にて、650℃を1時間で昇温し、1時間保持した後、炉冷し、銀を焼き付けた。最後にダイヤモンドカッターにより切断を行う。まず、先程のシフトワックスをガラス板に塗り、試料を固定し、試料保護のため上からシフトワックスを塗る。この状態で切断を行い1.5mm×4.0mmにする。これにより1試料から3〜4つの振動子が出来上がる。
【0069】
分極操作について説明する。分極処理とは、電極をつけたセラミックス片に高電界を印加して、強誘電体に圧電活性を与えるプロセスのことをいう。本実験では、キュリー温度以上で分極を行い、電界を印加したまま温度を下げることによって、立方晶状態から正方晶に相転移する際にドメインが多く入ることから、135℃で、各試料の飽和する限界付近の電界をかけ分極を行った。
【0070】
セラミックスの圧電特性について説明する。圧電定数のd定数とは、電圧をかけたときの歪みを表す量のことで、d33とは電圧を厚み方向にかけた際の、厚み方向の伸縮を指す。d33メータとは圧電体のd33値を簡易的に測定する装置を指す。原理としてはBerlincourt法という圧電性の正効果(振動→電荷)を利用しており、圧電体に300Hz程度の振動を圧電体の下部から一点に加え、圧電体表面に誘起される電荷から計算によってd33を表示する仕組みとなっている。この装置は圧電素子の形状寸法を問わず、1つの試料に対して1分程度で簡単に測定できる利点がある。
【0071】
(4) SEMによるセラミックス表面観察
銀電極を、#2000の紙やすりによって乾式研磨することにより除去し、焼結温度より50℃低い温度で1時間30分保持することによりヒートエッチングを行い、粒界を浮き出した。その後SEMによる表面観察を行った。
【0072】
(5) グレインサイズ測定
SEMの観察結果から複数個粒子のサイズを測定し、それらの平均を取って平均グレインサイズを算出した。
【0073】
<評価結果>
【0074】
実験結果と考察について説明する。
焼結温度1250℃、1300℃における、水熱処理温度に対する配向度の変化を図2に示す。焼結温度1250℃において、配向度の値は、水熱処理温度200℃で19.3%であり、水熱処理温度280℃で53.2%である。焼結温度1300℃において、配向度の値は、水熱処理温度200℃で70.4%であり、水熱処理温度280℃で85.3%である。この結果より、水熱処理温度が高温であれば配向度が向上しており、粒子の再配列は水熱処理温度の上昇によって効果が高くなっていることがわかる。
【0075】
また、焼結温度1250℃、1300℃における、水熱処理温度に対する密度の変化をそれぞれ図3に示す。焼結温度1250℃において、密度の値は、水熱処理を行わない場合は71.5%であるのに対して、水熱処理温度200℃で72.0%であり、水熱処理温度280℃で72.6%である。焼結温度1300℃において、密度の値は、水熱処理を行わない場合は95.0%であるのに対して、水熱処理温度200℃で97.0%であり、水熱処理温度280℃で97.4%である。この結果より、密度は水熱処理において向上した。
【0076】
そして、この時のSEM観察像を、図4〜7にそれぞれ示す。1250℃焼結体、1300℃焼結体において、水熱処理温度の増加とともに、グレインサイズは減少し、密度の向上が観察できた。
【0077】
図4〜7のSEM観察像から測定したグレインサイズを図8に示す。
焼結温度1250℃において、グレインサイズの値は、水熱処理温度200℃で1.38μmであり、水熱処理温度280℃で0.81μmである。
焼結温度1300℃において、グレインサイズの値は、水熱処理温度200℃で2.32μmであり、水熱処理温度280℃で1.81μmである。
これを見ると水熱処理温度が高温であるほうが、グレインサイズの値は小さくなっている。グレインサイズが小さくなることで、圧電特性が向上する。
【0078】
最後に、焼結温度1250℃、1300℃における、水熱処理温度に対する圧電定数の変化をそれぞれ図9に示す。焼結温度1250℃において、圧電定数の値は、水熱処理温度200℃で99pC/Nであり、水熱処理温度280℃で125pC/Nである。焼結温度1300℃において、圧電定数の値は、水熱処理温度200℃で372pC/Nであり、水熱処理温度280℃で517pC/Nである。この結果より水熱処理温度が高いほうが圧電定数は向上している。
ここで、水熱処理温度が280℃、焼結温度が1300℃の結果に注目し、この試料の各微構造と圧電特性を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
この結果を見ると、配向度は高く、密度が高く、グレインサイズが小さいセラミックスを作製でき、圧電定数もこれまでの実験で最高値の500pC/N以上となった。これより、理想とする微構造のBT配向セラミックスは、圧電定数が高くなることが分かり、このセラミックスを作製するためには水熱法が必要であることが分かった。
【0081】
このような結果になった理由として、水蒸気が圧粉体の気孔に入り込むことにより、圧粉体の粒子が回転し、隣り合った粒子がエネルギー的により安定な方位が揃う方向に再配列されたことが考えられる。この模式図を図10に示す。
【0082】
本実施例より、水熱法によって配向度が向上することがはじめて分かり、最も高い圧電定数を引き出す理想的な微構造のセラミックスの作製には水熱法が必要となることがわかった。また、水熱法によって作製されたBT配向セラミックスの圧電特性はこれまでの実験において最高値をとり、高い配向度、高い密度、小さなグレインサイズのセラミックスは圧電定数が最も高くなることが分かった。
【符号の説明】
【0083】
1‥‥圧粉体、2‥‥純水、3‥‥オートクレーブ、4‥‥水蒸気、5‥‥低配向度、6‥‥高配向度、7‥‥水熱処理、8‥‥圧力
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が70〜100%の範囲内にあり、
グレインサイズが0.01〜100μmの範囲内にある
セラミックス。
【請求項2】
配向セラミックスであり、
配高度が50〜100%の範囲内にあり、
圧電定数が10〜5000pC/Nの範囲内にある
請求項1記載のセラミックス。
【請求項3】
チタン酸バリウムを含有する
請求項2記載のセラミックス。
【請求項4】
圧粉体を水熱処理し、
前記水熱処理後の圧粉体を焼結する
セラミックスの製造方法。
【請求項5】
水熱処理温度が100〜370℃の範囲内にある
請求項4記載のセラミックスの製造方法。
【請求項6】
焼結温度が700〜1600℃の範囲内にある
請求項4記載のセラミックスの製造方法。
【請求項7】
セラミックスの密度が70〜100%の範囲内にあり、
セラミックスのグレインサイズが0.01〜100μmの範囲内にある
請求項6記載のセラミックスの製造方法。
【請求項8】
セラミックスが配向セラミックスであり、
セラミックスの配高度が50〜100%の範囲内にあり、
セラミックスの圧電定数が10〜5000pC/Nの範囲内にある
請求項7記載のセラミックスの製造方法。
【請求項9】
セラミックスがチタン酸バリウムを含有する
請求項8記載のセラミックスの製造方法。
【請求項1】
密度が70〜100%の範囲内にあり、
グレインサイズが0.01〜100μmの範囲内にある
セラミックス。
【請求項2】
配向セラミックスであり、
配高度が50〜100%の範囲内にあり、
圧電定数が10〜5000pC/Nの範囲内にある
請求項1記載のセラミックス。
【請求項3】
チタン酸バリウムを含有する
請求項2記載のセラミックス。
【請求項4】
圧粉体を水熱処理し、
前記水熱処理後の圧粉体を焼結する
セラミックスの製造方法。
【請求項5】
水熱処理温度が100〜370℃の範囲内にある
請求項4記載のセラミックスの製造方法。
【請求項6】
焼結温度が700〜1600℃の範囲内にある
請求項4記載のセラミックスの製造方法。
【請求項7】
セラミックスの密度が70〜100%の範囲内にあり、
セラミックスのグレインサイズが0.01〜100μmの範囲内にある
請求項6記載のセラミックスの製造方法。
【請求項8】
セラミックスが配向セラミックスであり、
セラミックスの配高度が50〜100%の範囲内にあり、
セラミックスの圧電定数が10〜5000pC/Nの範囲内にある
請求項7記載のセラミックスの製造方法。
【請求項9】
セラミックスがチタン酸バリウムを含有する
請求項8記載のセラミックスの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−193049(P2012−193049A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56041(P2011−56041)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【出願人】(591193679)林化学工業株式会社 (7)
【出願人】(390036722)神島化学工業株式会社 (54)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【出願人】(591193679)林化学工業株式会社 (7)
【出願人】(390036722)神島化学工業株式会社 (54)
【Fターム(参考)】
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