説明

セラミックス膜の製造方法、圧電素子の製造方法、液体噴射ヘッドの製造方法、及び液体噴射装置の製造方法

【課題】クラックの発生を抑制することができるセラミックス膜の製造方法、及び圧電素子の製造方法を提供する。
【解決手段】金属錯体を含むセラミックス膜形成用組成物を塗布してセラミックス前駆体膜を形成する塗布工程と、セラミックス前駆体膜を加熱により結晶化させてセラミックス膜を形成する結晶化工程と、を具備し、結晶化工程における膜厚の収縮率が27%以上45%以下となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学溶液法によりセラミックス膜を作製するセラミックス膜の製造方法、圧
電素子の製造方法、液体噴射ヘッドの製造方法、及び液体噴射装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等に代表される圧電セラミックス膜は、自発分極、高
誘電率、電気光学効果、圧電効果、焦電効果等を有しているため、圧電素子等の広範なデ
バイス開発に応用されている。また、このような圧電セラミックス薄膜の成膜方法として
は、例えば、MOD法、ゾル−ゲル法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ス
パッタリング法等が知られている(特許文献1等参照)。特に、MOD法及びゾル−ゲル
法などの化学溶液法は、圧電セラミックス膜を比較的低コストで且つ簡便に成膜すること
ができるという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−001038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、圧電セラミックス膜を化学溶液法により製造する場合、製造時や製造後
所定時間経過した際にクラックが発生しやすいという問題があった。
【0005】
なお、上述した問題は、圧電セラミックス膜を製造する際に限定されず、他のセラミッ
クス膜を製造する際においても同様に存在する。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑み、クラックの発生を抑制することができるセラミックス
膜の製造方法、圧電素子の製造方法、液体噴射ヘッドの製造方法、及び液体噴射装置の製
造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の態様は、金属錯体を含むセラミックス膜形成用組成物を塗
布してセラミックス前駆体膜を形成する塗布工程と、前記セラミックス前駆体膜を加熱に
より結晶化させてセラミックス膜を形成する結晶化工程と、を具備し、前記結晶化工程に
おける膜厚の収縮率が27%以上45%以下となるようにすることを特徴とするセラミッ
クス膜の製造方法にある。
かかる態様では、膜質が良好でクラックの発生を抑制したセラミックス膜を製造するこ
とができる。
【0008】
本発明の好適な実施態様としては、前記セラミックス膜が、少なくともPb、Zr、及
びTiを含む圧電材料からなるものが挙げられる。これによれば、圧電特性に優れたセラ
ミックス膜を形成することができるものとなる。
【0009】
前記セラミックス膜形成用組成物がポリエチレングリコールを含むようにするのが好ま
しい。これによれば、より容易に結晶化工程における膜厚の収縮率を27%以上45%以
下とすることができる。
【0010】
前記ポリエチレングリコールは平均分子量が200以上1000未満であるのが好まし
い。これによれば、より容易に結晶化工程における膜厚の収縮率を27%以上45%以下
とすることができる。
【0011】
本発明の他の態様は、圧電体層と前記圧電体層に設けられた電極とを備えた圧電素子の
製造方法であって、セラミックス膜を構成する金属錯体を含むセラミックス膜形成用組成
物を塗布してセラミックス前駆体膜を形成する塗布工程と、前記セラミックス前駆体膜を
加熱により結晶化させて、前記圧電体層を構成するセラミックス膜を形成する結晶化工程
と、を具備し、前記結晶化工程における膜厚の収縮率が27%以上45%以下となるよう
にすることを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる態様では、膜質が良好でクラックの発生を抑制した圧電体層を備えた圧電素子を
製造することができる。
【0012】
本発明の他の態様は、上記の圧電素子の製造方法により圧電素子を形成する工程を具備
することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、膜質が良好でクラックの発生を抑制した圧電体層を備えた圧電素子を
具備し、信頼性に優れた液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0013】
本発明の他の態様は、上記の液体噴射ヘッドの製造方法により液体噴射ヘッドを製造す
る工程を具備することを特徴とする液体噴射装置の製造方法にある。
かかる態様では、膜質が良好でクラックの発生を抑制した圧電体層を備えた圧電素子を
具備し、信頼性に優れた液体噴射装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1に係るセラミックス膜の製造方法を示す断面図。
【図2】実施形態2に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図3】実施形態2に係る記録ヘッドの平面図及び断面図。
【図4】実施形態2に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図5】実施形態2に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図6】PEGの平均分子量と結晶化工程における膜厚の収縮率の関係を示す図。
【図7】脱脂時間と結晶化工程における膜厚の収縮率の関係を示す図。
【図8】脱脂温度と結晶化工程における膜厚の収縮率の関係を示す図。
【図9】乾燥温度と結晶化工程における膜厚の収縮率の関係を示す図。
【図10】PEGの添加量と結晶化工程における膜厚の収縮率の関係を示す図。
【図11】実施例1の圧電体層の表面を金属顕微鏡により観察した写真である。
【図12】比較例2の圧電体層の表面を金属顕微鏡により観察した写真である。
【図13】実施例1の圧電体層の断面をSEM観察した写真である。
【図14】比較例1の圧電体層の断面をSEM観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
本発明のセラミックス膜の製造方法は、セラミックス膜を構成する金属錯体を含むセラ
ミックス膜形成用組成物を塗布してセラミックス前駆体膜を形成する塗布工程と、セラミ
ックス前駆体膜を加熱により結晶化させてセラミックス膜を形成する結晶化工程と、を具
備し、結晶化工程における膜厚の収縮率が27%以上45%以下となるようにするという
ものである。
【0016】
本願発明者は、結晶化工程における膜厚の収縮率が27%以上45%以下となるように
することにより、膜質が良好でクラックの発生を抑制したセラミックス膜を製造すること
ができることを知見し、本発明を完成させた。言い換えれば、本発明は、結晶化工程にお
ける膜厚の収縮率を所定の範囲内とすることにより、膜質が良好でクラックの発生を抑制
したセラミックス膜を製造することができるという知見に基づくものである。なお、結晶
化工程における膜厚の収縮率が27%未満となると、セラミックス膜に穴が発生してセラ
ミックス膜の密度が低くなり、膜質が低下してしまう。一方、結晶化工程における膜厚の
収縮率が45%より大きくなると、クラックが発生してしまう。
【0017】
ここで、膜厚の収縮率を所定の範囲内とする方法について説明する。膜厚の収縮率は、
例えば、セラミックス膜形成用組成物に所定の添加物を添加、セラミックス膜形成用組成
物を塗布する被対象物の大きさの変更、乾燥時間・乾燥温度の調整、脱脂時間・脱脂温度
の調整等により、調整することができる。すなわち、これらの要件を適宜変更することに
より、結晶化工程における膜厚の収縮率が27%以上45%以下となるようにすればよい

【0018】
以下、セラミックス膜の製造方法について、図1を参照して説明する。なお、図1は、
セラミックス膜の製造方法を示す断面図である。
セラミックス膜の形成工程にしたがって、順に説明する。
【0019】
まず、セラミックス膜を構成する金属錯体を含むセラミックス膜形成用組成物を形成す
る。このセラミックス膜形成用組成物は、CSD法(Chemical Solution Deposition)の
塗布溶液として用いられるものである。CSD法とは、詳細については後述するが、セラ
ミックス膜形成用組成物を塗布してセラミックス前駆体膜を形成する工程と、セラミック
ス前駆体膜を加熱することにより結晶化させてセラミックス膜を形成する工程と、を備え
るものであり、例えば、ゾル−ゲル法、MOD法等が挙げられる。
【0020】
このようなセラミックス膜形成用組成物は、所定の金属錯体混合物と、溶媒とを混合す
ることにより形成することができる。ここで、ポリエチレングリコール、グリコール系溶
剤、グリコールエーテル系溶剤、及びグリコールエステル系溶剤からなる群から選択され
る少なくとも1つの添加剤を添加することにより、結晶化工程における膜厚の収縮率を大
きくすることができる。
【0021】
添加剤としては、ポリエチレングリコール、グリコール系溶剤、グリコールエーテル系
溶剤、及びグリコールエステル系溶剤からなる群から少なくとも1つを添加すればよく、
勿論、これらは併用することができる。グリコール系溶剤としては、エチレングリコール
、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げら
れ、グリコールエーテル系溶剤としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ト
リエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル
等が挙げられ、グリコールエステル系溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエー
テルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられ、ポリエチレング
リコール(PEG)が特に好適に用いられる。
【0022】
上述した添加剤は、平均分子量が200以上1000未満であるのが好ましく、300
以上600以下であるのがより好ましい。添加剤の平均分子量を上げることにより、結晶
化工程における膜厚の収縮率を大きくすることができる。
【0023】
添加剤の添加量は、例えば、セラミックス膜形成用組成物における添加剤の濃度が3重
量%以上30重量%以下であるのが好ましい。添加剤の添加量を増加させることにより、
結晶化工程における膜厚の収縮率を大きくすることができる。
【0024】
本発明にかかる金属錯体混合物は、セラミックス膜を構成する金属を含む金属錯体の混
合物である。ここでいう「金属錯体混合物」とは、セラミックス膜を構成する金属のうち
一以上の金属を含む金属錯体の混合物を指す。
【0025】
ここで、セラミックス薄膜形成用組成物により形成されるセラミック膜は、例えば、チ
タン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシ
ウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等のセラミックス
薄膜が挙げられる。セラミックス薄膜の組成としては、例えば、PbTiO(PT)、
PbZrO(PZ)、Pb(ZrTi1−x)O(PZT)、Pb(Mg1/3
2/3)O−PbTiO(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O
PbTiO(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O−PbTiO(P
NN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O−PbTiO(PIN−PT)、P
b(Sc1/2Ta1/2)O−PbTiO(PST−PT)、Pb(Sc1/2
1/2)O−PbTiO(PSN−PT)、BiScO−PbTiO(BS−
PT)、BiYbO−PbTiO(BY−PT)等が挙げられ、チタン酸バリウム(
BaTiO)、チタン酸バリウムストロンチウム((Ba,Sr)TiO)、マグネ
シウム酸ニオブ酸鉛(PMN)とチタン酸鉛(PT)との固溶体等でもよい。また、鉄酸
ビスマス(BiFeO)、鉄酸アルミニウム酸ビスマス(Bi(Fe,Al)O)、
鉄酸マンガン酸ビスマス(Bi(Fe,Mn)O)等の鉄酸ビスマス系のペロブスカイ
ト型構造の複合酸化物、チタン酸ビスマスナトリウムカリウム((Bi,Na,K)Ti
)、チタン酸亜鉛酸ビスマスバリウムナトリウム((Bi,Na,Ba)(Zn,T
i)O)、チタン酸銅酸ビスマスバリウムナトリウム((Bi,Na,Ba)(Cu,
Ti)O)等のチタン酸ビスマス系のペロブスカイト型構造の複合酸化物、ニオブ酸カ
リウムナトリウム((K,Na)NbO、以下KNNとする)、ニオブ酸カリウムナト
リウムリチウム((K,Na,Li)NbO)、ニオブ酸タンタル酸カリウムナトリウ
ムリチウム((K,Na,Li)(Nb,Ta)O)等のニオブ酸カリウムナトリウム
系のペロブスカイト型構造の複合酸化物、鉄酸ランタン(LaFeO)、鉄酸プラセオ
ジム(PrFeO)、鉄酸ネオジム(NdFeO)、鉄酸ランタノイド系のペロブス
カイト型構造の複合酸化物、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸バリウムスト
ロンチウム((Ba,Sr)TiO)、チタン酸鉄酸ビスマスバリウム((Bi,Ba
)(Fe,Ti)O)等のチタン酸バリウム系とのペロブスカイト型構造の複合酸化物
であってもよい。また、上述したセラミックス膜に限定されるものではなく、絶縁膜や保
護膜等に使用されるSiO、AlO、ZrO、TiO、SrO、MgO等のセラ
ミックス膜が挙げられる。
【0026】
例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)薄膜を形成するためのPZT薄膜形成用組成
物の場合には、PZTを構成する金属、すなわち、鉛(Pb)、チタン(Ti)、ジルコ
ニウム(Zr)の各金属が所望のモル比となるように金属錯体を混合すればよい。かかる
金属錯体混合物は、溶媒に溶解・分散させる。
【0027】
有機金属錯体としては、例えば、金属アルコキシド、有機酸塩、βジケトン錯体などを
用いることができる。鉛(Pb)を含む有機金属錯体としては、例えば、酢酸鉛などが挙
げられる。ジルコニウム(Zr)を含む有機金属錯体としては、例えば、ジルコニウムア
セチルアセトナート、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムモノアセ
チルアセトナート、ジルコニウムビスアセチルアセトナート、ジルコニウムビスアセチル
アセトナート等が挙げられる。チタニウム(Ti)を含む有機金属錯体としては、例えば
、チタニウムイソプロポキシド等のチタニウムアルコキシドなどが挙げられる。
【0028】
また、溶媒は、金属錯体混合物を溶解又は分散させるものであり、カルボン酸、アルコ
ール等が挙げられる。アルコールとしては、例えば、ブタノール、メチルセロソルブ、ブ
チルセロソルブ、2−n−ブトキシアルコール、n−ペンチルアルコール、2−フェニル
エタノール、2−フェノキシエタノール、メトキシエタノール、エチレングリコールモノ
アセテート、トリエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール
、ネオペンチルグリコール、酢酸イソアミル等が挙げられる。また、カルボン酸としては
、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプリル酸、オクチル酸等を挙げることができる
。これらの溶媒は単独で用いても複数種用いてもよい。
【0029】
また、セラミックス膜形成用組成物は、さらにアミン類を含有してもよい。アミン類を
含有すると、各成分の分散安定性が良好になる。アミン類としては、アルカノールアミン
、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等を挙げることができる。これら
のアミン類は、単独で用いても複数種用いてもよい。
【0030】
上述した金属錯体混合物と溶媒との混合溶液は、金属モル濃度(金属錯体混合物の金属
の総量)が、例えば、0.1〜1.0molL−1となるようにする。
【0031】
次に、図1(a)に示すように、セラミックス膜形成用組成物を被対象物200上にス
ピンコート法、ディップコート法、インクジェット法等で塗布してセラミックス前駆体膜
211を形成する(塗布工程)。ここで、被対象物の大きさ、すなわち、セラミックス膜
形成用組成物を塗布する基板の大きさを大きくすることにより、結晶化工程における膜厚
の収縮率を小さくすることができる。
【0032】
次いで、このセラミックス前駆体膜211を所定温度(例えば130〜180℃)に加
熱して一定時間(例えば、2〜10分)乾燥させる(乾燥工程)。その後、乾燥したセラ
ミックス前駆体膜を所定温度(例えば300〜450℃)に加熱して一定時間(例えば、
2〜10分)保持することによって脱脂する(脱脂工程)。なお、ここで言う脱脂とは、
セラミックス前駆体膜211に含まれる有機成分を、例えば、NO、CO、HO等
として離脱させることである。乾燥工程や脱脂工程の雰囲気は限定されず、大気中でも不
活性ガス中でもよい。ここで、乾燥温度を上昇させることにより、結晶化工程における膜
厚の収縮率を小さくすることができる。また、脱脂温度を上昇させることにより、結晶化
工程における膜厚の収縮率を小さくすることができ、脱脂時間を長くすることにより、結
晶化工程における膜厚の収縮率を小さくすることができる。
【0033】
次に、セラミックス前駆体膜211を所定温度、例えば600〜750℃程度に加熱し
て一定時間保持することによって結晶化させ、図1(b)に示すようなセラミックス膜2
10を形成する(結晶化工程)。この結晶化工程においても、雰囲気は限定されず、大気
中でも不活性ガス中でもよい。
【0034】
なお、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外
線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealin
g)装置やホットプレート等が挙げられる。
【0035】
ここで、結晶化工程における膜厚の収縮率αは、結晶化前の膜厚H、結晶化後の膜厚
をHとした場合、α=100(H−H)/Hにより求めることができる。すなわ
ち、結晶化工程における膜厚の変化率を結晶化工程における膜厚の収縮率という。本実施
形態において「結晶化前の膜厚」とは、脱脂工程後の膜厚を指す。
【0036】
また、上述した塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程や、塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及
び焼成工程を所望の膜厚等に応じて複数回繰り返すことにより、複数層からなるセラミッ
クス膜からなるものとしてもよい。
【0037】
本発明のセラミックス膜の製造方法は、上述したように、セラミックス膜形成用組成物
に所定の添加物を添加、セラミックス膜形成用組成物を塗布する被対象物の大きさの変更
、脱脂時間・脱脂温度の調整等することにより、結晶化工程における膜厚収縮率を27%
以上45%以下として、膜質が良好でクラックの発生を抑制したセラミックス膜を製造す
ることができる。
【0038】
(実施形態2)
実施形態2は、液体噴射ヘッドの製造方法の一例であるインクジェット式記録ヘッドの
製造方法である。
【0039】
図2は、実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの
概略構成を示す分解斜視図であり、図3は、インクジェット式記録ヘッドの平面図及びそ
のA−A’線断面図である。
【0040】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態ではシリコン単結晶基板からなり、
その一方の面には酸化膜からなる弾性膜50が形成されている。
【0041】
流路形成基板10には、一方の面とは反対側の面となる他方面側から異方性エッチング
することにより、圧力発生室12が形成されている。そして、複数の隔壁11によって区
画された圧力発生室12が同じ色のインクを吐出する複数のノズル開口21が並設される
方向に沿って並設されている。以降、この方向を圧力発生室12の並設方向、又は第1方
向と称し、これと直交する方向を第2方向と称する。また、流路形成基板10の圧力発生
室12の第2方向の一端部側には、インク供給路14と連通路15とが隔壁11によって
区画されている。また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液
体室)となるマニホールド100の一部を構成する連通部13が形成されている。すなわ
ち、流路形成基板10には、圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部
13からなる液体流路が設けられている。
【0042】
インク供給路14は、圧力発生室12の第2方向一端部側に連通し且つ圧力発生室12
より小さい断面積を有する。例えば、本実施形態では、インク供給路14は、マニホール
ド100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧
力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。なお、このように、本実施形態では、
流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞る
ことでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から
絞ることでインク供給路を形成してもよい。さらに、各連通路15は、インク供給路14
の圧力発生室12とは反対側に連通し、インク供給路14の幅方向(第1方向)より大き
い断面積を有する。本実施形態では、連通路15を圧力発生室12と同じ断面積で形成し
た。
【0043】
すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12と、インク供給路14と、連通路1
5とが複数の隔壁11により区画されて設けられている。また、流路形成基板10の圧力
発生室12の一方面は、振動板を構成する弾性膜50によって画成されている。
【0044】
一方、流路形成基板10の圧力発生室12等の液体流路が開口する一方面側には、各圧
力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設
されたノズルプレート20が、接着剤や熱用着フィルム等を介して接合されている。なお
、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレ
ス鋼等からなる。
【0045】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、二酸化シリコンか
らなり厚さが例えば、約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例
えば、酸化ジルコニウム(ZrO)等からなる絶縁体膜55が積層形成されている。
【0046】
また、絶縁体膜55上には、第1電極60と、第1電極60の上方に設けられて厚さが
3μm以下、好ましくは0.3〜1.5μmの薄膜である圧電体層70と、圧電体層70
の上方に設けられた第2電極80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している
。なお、ここで言う上方とは、直上だけでなく、間に他の部材が介在した状態も含むもの
である。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70、及び第2電極80、
を含む部分をいう。
【0047】
圧電素子300は、一般的には、何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極をそれ
ぞれ独立する個別電極とする。本実施形態では、圧電素子300の実質的な駆動部となる
各圧電体能動部320の個別電極として第1電極60を設け、複数の圧電体能動部320
に共通する共通電極として第2電極80を設けるようにした。ここで、両電極への電圧の
印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320といい、圧電体能動部320から
連続するが第1電極60と第2電極80に挟まれておらず、電圧駆動されない部分を圧電
体非能動部という。
【0048】
なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55、及び第1電極60が圧電素子30
0と共に変形する振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば
、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するよ
うにしてもよい。例えば、弾性膜50のみを振動板とした場合、絶縁体膜55を設けた場
合よりも剛性が低いため、変位量を大きくすることができる。
【0049】
本実施形態では、圧電素子300は、白金からなる第1電極60と、チタン酸ジルコン
酸鉛(PZT)からなる圧電体層70と、イリジウムからなる第2電極80とからなる。
本実施形態では、第1電極60が白金からなり、第2電極80がイリジウムからなるよう
にしたが、特にこれに限定されず、第1電極60及び第2電極80は、それぞれ、例えば
、ニッケル、銅、ニオブ、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、錫、オスミウム、イ
リジウム、白金、金、ビスマス、もしくはこれらの積層又は合金等の金属材料からなるよ
うにしてもよい。なお、勿論、第1電極60、第2電極80は、これ以外の導電性材料か
ら構成されていてもよい。
【0050】
ここで、圧電体層70は、実施形態1のセラミックス膜の製造方法により形成したもの
である。すなわち、圧電体層70は、セラミックス膜を構成する金属錯体を含むセラミッ
クス膜形成用組成物を塗布してセラミックス前駆体膜を形成する工程と、セラミックス前
駆体膜を加熱により結晶化させて、圧電体層70を構成するセラミックス膜を形成する結
晶化工程と、を具備し、結晶化工程における膜厚の収縮率が27%以上45%以下となる
ようにして形成したものである。これにより、圧電体層70は、膜質が良好でクラックの
発生が抑制されたものとなっている。本実施形態における圧電体層70は、厚さが1μm
のチタン酸ジルコン酸鉛からなるものとした。
【0051】
また、圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端
部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からな
るリード電極90が接続されている。
【0052】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、マニホールド100
の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介
して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ
方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成
基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホール
ド100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複
数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、
流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間
に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にマニホールドと各圧力発生室
12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0053】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻
害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32
は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封
されていても、密封されていなくてもよい。
【0054】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例え
ば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板
10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0055】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられて
いる。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔
33内に露出するように設けられている。
【0056】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路12
0が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路
(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボン
ディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続され
ている。
【0057】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプラ
イアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する
材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。
また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホール
ド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、
マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0058】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給
手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口
21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力
発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾
性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより
、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0059】
ここで、インクジェット式記録ヘッドの圧電素子の製造方法について、図4及び図5を
参照して説明する。なお、図4及び図5は、インクジェット式記録ヘッドの圧電素子の製
造方法を示す断面図である。
【0060】
まず、図4(a)に示すように、流路形成基板10が複数一体的に形成されるシリコン
ウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリ
コン(SiO)からなる二酸化シリコン膜51を形成する。次いで、図4(b)に示す
ように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、例えば、酸化ジルコニウムからなる
絶縁体膜55を形成する。
【0061】
次いで、図4(c)に示すように、白金からなる第1電極60を絶縁体膜55上に形成
する。第1電極60の形成方法は特に限定されないが、例えば、スパッタリング法、化学
蒸着法(CVD法)、物理蒸着法(PVD法)などが挙げられる。この第1電極60の材
料は、上述したように特に限定されないが、本実施形態のように圧電体層70としてチタ
ン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少な
い材料であることが望ましいため、第1電極60の材料としては白金、イリジウム等が好
適に用いられる。
【0062】
次に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70を流路形成基板用ウェ
ハー110の全面に形成する。なお、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを
塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を
得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成した。
【0063】
圧電体層70の具体的な作成手順を説明する。
【0064】
まず、一層のセラミックス膜72(圧電体膜)を形成する。具体的には、セラミックス
膜を構成する金属錯体を含むセラミックス膜形成用組成物を形成し、このセラミックス膜
形成用組成物を塗布してセラミックス前駆体膜を形成する工程と、セラミックス前駆体膜
を加熱により結晶化させて、前記圧電体層を構成するセラミックス膜を形成する結晶化工
程と、を具備し、結晶化工程における膜厚の収縮率が27%以上45%以下となるように
して、セラミックス膜を形成する。このセラミックス膜の製造方法については、実施形態
1と同様であるので、説明を省略する。
【0065】
次に、図5(a)に示すように、セラミックス膜72上に所定形状のレジスト(図示無
し)をマスクとして例えば電極60及びセラミックス膜72の1層目をそれらの側面が傾
斜するように同時にパターニングする。なお、第1電極60及び1層目のセラミックス膜
72のパターニングは、例えば、イオンミリング等のドライエッチングにより行うことが
できる。
【0066】
次いで、レジストを剥離した後、上述した塗布工程、乾燥工程、脱脂工程、及び焼成工
程を備えるセラミックス膜形成工程を複数回繰り返すことで、図5(b)に示すように、
複数層のセラミックス膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。なお、塗布工
程、乾燥工程、及び脱脂工程を複数回繰り返した後に焼成工程を行ってもよい。ちなみに
、本実施形態では、圧電体層70が複数層のセラミックス膜72で構成されたものについ
て説明したが、圧電体層70は1層のセラミックス膜72からなるものであってもよい。
【0067】
次に、複数層のセラミックス膜72からなる圧電体層70上に亘ってイリジウム(Ir
)からなる第2電極80を成膜した後、図5(c)に示すように、圧電体層70及び第2
電極80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成
する。圧電体層70及び第2電極80のパターニング方法としては、例えば、反応性イオ
ンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの圧電素子の製造
方法では、セラミックス膜を構成する金属錯体を含むセラミックス膜形成用組成物を形成
する工程と、セラミックス膜形成用組成物を塗布してセラミックス前駆体膜を形成する塗
布工程と、セラミックス前駆体膜を加熱により結晶化させて、圧電体層を構成するセラミ
ックス膜を形成する結晶化工程と、を具備し、結晶化工程における膜厚の収縮率が27%
以上45%以下となるようにすることにより、圧電体層のクラックの発生を抑制して、信
頼性の高い圧電素子300を製造することができる。これにより、信頼性の高い液体噴射
ヘッドを製造することができる。
【0069】
以下、本発明のセラミックス膜の製造方法を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0070】
(実施例1)
まず、シリコン基板の表面に熱酸化により二酸化シリコン膜を形成した。次に、二酸化
シリコン膜上に酸化ジルコニウム膜を形成した。次に、酸化ジルコニウム膜上に(111
)に配向した白金を100nm積層して第1電極60を形成した。なお、シリコン基板の
サイズは、3cm×3cmとした。
【0071】
次に、ゾル−ゲル法により圧電体層70を形成した。その手法は以下のとおりである。
不活性ガス中において、酢酸に、チタニウムテトライソプロポキシドを加えて撹拌した。
次いで、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドを加えて攪拌した後、平均分子量600の
ポリエチレングリコール(ポリエチレングリコール#600:関東化学株式会社製)を加
えてさらに攪拌した。これに、酢酸鉛三水和物を加えて攪拌し、これを80℃で30分間
攪拌した後、室温になるまで自然冷却して、実施例1のセラミックス膜形成用組成物を得
た。なお、セラミックス膜形成用組成物におけるポリエチレングリコールの濃度は、6重
量%であった。
【0072】
得られたセラミックス膜形成用組成物を第1電極60上にスピンコートにより塗布して
、セラミックス前駆体膜を形成した(塗布工程)。次に140℃で5分間加熱(乾燥工程
)し、375℃で5分間加熱(脱脂工程)した後、700℃で焼成しセラミックス前駆体
膜を結晶化させてセラミックス膜を形成し(結晶化工程)、セラミックス膜から構成され
る圧電体層70を形成した。かかる圧電体層70は、厚さ約1000nmのチタン酸ジル
コン酸鉛からなりペロブスカイト構造を有するものであった。
【0073】
(実施例2)
平均分子量600のポリエチレングリコールの代わりに、平均分子量300のポリエチ
レングリコール(ポリエチレングリコール#300:関東化学株式会社製)を用いた以外
は、実施例1と同様にした。
【0074】
(実施例3)
平均分子量600のポリエチレングリコールの代わりに、平均分子量400のポリエチ
レングリコール(ポリエチレングリコール#400:関東化学株式会社製)を用いた以外
は、実施例1と同様にして圧電体層70を形成した。
【0075】
(実施例4)
脱脂温度を350℃にし、平均分子量600のポリエチレングリコールを入れなかった
以外は、実施例1と同様にして圧電体層70を形成した。
【0076】
(実施例5)
脱脂温度を425℃にした以外は、実施例1と同様にして圧電体層70を形成した。
【0077】
(実施例6)
脱脂温度を350℃にした以外は、実施例1と同様にして圧電体層70を形成した。
【0078】
(実施例7)
平均分子量400のポリエチレングリコールの濃度を3重量%とした以外は、実施例3
と同様にして圧電体層70を形成した。
【0079】
(実施例8)
平均分子量400のポリエチレングリコールの濃度を12重量%とした以外は、実施例
3と同様にして圧電体層70を形成した。
【0080】
(実施例9)
平均分子量400のポリエチレングリコールの濃度を18重量%とした以外は、実施例
3と同様にして圧電体層70を形成した。
【0081】
(実施例10)
基板のサイズをφ10cmとした以外は、実施例3と同様にして圧電体層70を形成し
た。
【0082】
(実施例11)
基板のサイズをφ10cmとした以外は、実施例1と同様にして圧電体層70を形成し
た。
【0083】
(実施例12)
脱脂工程の加熱を375℃で3分とした以外は、実施例11と同様にして圧電体層70
を形成した。
【0084】
(実施例13)
脱脂工程の加熱を400℃で3分とした以外は、実施例11と同様にして圧電体層70
を形成した。
【0085】
(実施例14)
脱脂工程の加熱を350℃で5分とした以外は、実施例11と同様にして圧電体層70
を形成した。
【0086】
(実施例15)
脱脂工程の加熱を400℃で5分とした以外は、実施例11と同様にして圧電体層70
を形成した。
【0087】
(実施例16)
脱脂工程の加熱を425℃で5分とした以外は、実施例11と同様にして圧電体層70
を形成した。
【0088】
(実施例17)
脱脂工程の加熱を375℃で7分とした以外は、実施例11と同様にして圧電体層70
を形成した。
【0089】
(実施例18)
脱脂工程の加熱を400℃で7分とした以外は、実施例11と同様にして圧電体層70
を形成した。
【0090】
(実施例19)
乾燥工程の加熱を120℃で5分間とした以外は、実施例11と同様にして圧電体層7
0を形成した。
【0091】
(実施例20)
乾燥工程の加熱を160℃で5分間とした以外は、実施例11と同様にして圧電体層7
0を形成した。
【0092】
(実施例21)
乾燥工程の加熱を180℃で5分間とした以外は、実施例11と同様にして圧電体層7
0を形成した。
【0093】
(比較例1)
平均分子量600のポリエチレングリコールを用いなかった以外は、実施例1と同様に
して圧電体層70を形成した。
【0094】
(比較例2)
平均分子量600のポリエチレングリコールの代わりに、平均分子量1000のポリエ
チレングリコールを用いた以外は、実施例1と同様にして圧電体層70を形成した。
【0095】
(比較例3)
平均分子量600のポリエチレングリコールを用いなかった以外は、実施例5と同様に
して圧電体層70を形成した。
【0096】
(比較例4)
脱脂工程の加熱を200℃で5分とした以外は、実施例11と同様にして圧電体層70
を形成した。
【0097】
(比較例5)
脱脂工程の加熱を500℃で5分とした以外は、実施例11と同様にして圧電体層70
を形成した。
【0098】
(実施例22)
以下に示すセラミックス膜形成用組成物を用い、乾燥工程の加熱を160℃で3分、脱
脂工程の加熱を375℃で3分とした以外は、実施例10と同様にして圧電体層70を形
成した。
【0099】
セラミックス膜形成用組成物の製造方法は以下のとおりである。不活性ガス中において
、酢酸鉛三水和物、チタニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムアセチルアセトナ
ートを主原料とし、ブチルセロソルブを溶媒とし、ジエタノールアミンを安定剤とし、平
均分子量400のポリエチレングリコール(ポリエチレングリコール#400:関東化学
株式会社製)を混合して、これを80℃で30分間攪拌した後、室温になるまで自然冷却
して、実施例22のセラミックス膜形成用組成物を得た。なお、セラミックス膜形成用組
成物におけるポリエチレングリコールの濃度は、6重量%であった。
【0100】
(試験例1)
各実施例及び各比較例の結晶化工程における膜厚の収縮率(図中「結晶化に伴う膜厚収
縮率」と表記する)を求めた。結果を表1〜2及び図6〜図9に示す。図6は、ポリエチ
レングリコール(PEG)の平均分子量と結晶化工程における膜厚の収縮率の関係を示す
図であり、図7は、脱脂時間と結晶化工程における膜厚の収縮率の関係を示す図であり、
図8は、脱脂温度と結晶化工程における膜厚の収縮率との関係を示す図であり、図9は、
乾燥温度と結晶化工程における膜厚の収縮率の関係を示す図であり、図10は、PEGの
添加量(PEGの濃度[重量%])と結晶化工程における膜厚の収縮率の関係を示す図で
ある。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
図6に示すように、セラミックス膜形成用組成物に添加するポリエチレングリコールの
平均分子量が大きくなるほど、結晶化工程における膜厚の収縮率が上昇することが確認さ
れた。また、基板のサイズが大きくなると、結晶化工程における膜厚の収縮率が低下する
ことが確認された。
【0104】
図7に示すように、いずれの脱脂温度でも脱脂時間が長くなると、結晶化工程における
膜厚の収縮率が低下することが確認された。
【0105】
図8に示すように、脱脂温度が上昇すると、結晶化工程における膜厚の収縮率が低下す
ることが確認された。
【0106】
図9に示すように、乾燥温度が上昇すると、結晶化工程における膜厚の収縮率が低下す
ることが確認された。
【0107】
図10に示すように、ポリエチレングリコールの添加量(ポリエチレングリコールの濃
度)が上昇すると、結晶化工程における膜厚の収縮率が上昇する傾向があることが確認さ
れた。
【0108】
以上より、セラミックス膜形成用組成物に所定の添加物の添加及びその添加濃度、セラ
ミックス膜形成用組成物を塗布する被対象物の大きさの変更、乾燥時間・乾燥温度の調整
、脱脂時間・脱脂温度の調整等により、結晶化工程における膜厚の収縮率を調整すること
ができることが確認された。
【0109】
(試験例2)
製造後14日経過した実施例1〜22及び比較例1〜5の圧電体層(セラミックス膜)
の表面を500倍の金属顕微鏡により観察した。この結果、実施例1〜22、比較例1、
比較例3及び比較例5は、クラックが観察されなかった。これに対し、比較例2及び4で
は、クラックの発生が確認された。結果の一例として、実施例1の結果を図11、比較例
2の結果を図12に示す。
【0110】
以上より、結晶化工程における膜厚の収縮率が45%以下の場合は、クラックの発生が
抑制されることが確認された。また、結晶化工程における膜厚の収縮率が45%を超える
場合は、クラックが発生することが確認された。
【0111】
(試験例3)
実施例1〜22及び比較例1〜5について、断面を30,000倍の走査電子顕微鏡(
SEM)により観察した。結果の一例として実施例1の結果を図13に、比較例1の結果
を図14に示す。これより、実施例1〜22並びに比較例2及び4は膜質が良好であるの
に対し、結晶化工程における膜厚の収縮率が27%未満である比較例1、比較例3及び比
較例5では膜に複数の穴が確認され、膜質が不良であることが確認された。
【0112】
これより、結晶化工程における膜厚の収縮率を27%以上となるようにして形成した圧
電体層は、膜質が良好なものとすることができることが確認された。
【0113】
以上より、結晶化工程における膜厚の収縮率を27%以上45%以下とすることにより
、膜質が良好でクラックの発生を抑制したセラミックス膜を製造することができることが
確認された。
【0114】
(他の実施形態)
本発明のセラミックス膜の製造方法は、強誘電体デバイス、焦電体デバイス、圧電体デ
バイス、及び光学フィルターのセラミックス膜を形成するのに好適に用いることができる
。強誘電体デバイスとしては、強誘電体メモリー(FeRAM)、強誘電体トランジスタ
ー(FeFET)、SAWデバイス等が挙げられ、焦電体デバイスとしては、感熱センサ
ー、焦電センサー、温度センサー、赤外線検出器、温度−電気変換器等が挙げられ、圧電
体デバイスとしては、液体吐出装置、超音波モーター、超音波センサー、加速度センサー
、圧力センサー、圧力−電気変換器、マイクロホン、発音体、各種振動子、発信子、マイ
クロ液体ポンプ等が挙げられ、光学フィルターとしては、赤外線等の有害光線の遮断フィ
ルター、量子ドット形成によるフォトニック結晶効果を使用した光学フィルター、薄膜の
光干渉を利用した光学フィルターが挙げられる。
【符号の説明】
【0115】
1 インクジェット式記録ヘッド、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 1
3 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、
30 保護基板、 40 コンプライアンス基板、 60 第1電極、 61 密着層、
70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 211 セラミックス前
駆体膜、 72,210 セラミックス膜、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属錯体を含むセラミックス膜形成用組成物を塗布してセラミックス前駆体膜を形成す
る塗布工程と、
前記セラミックス前駆体膜を加熱により結晶化させてセラミックス膜を形成する結晶化
工程と、を具備したセラミックス膜の製造方法であって、
前記結晶化工程における膜厚の収縮率が、27%以上45%以下であることを特徴とす
るセラミックス膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミックス膜の製造方法において、前記セラミックス膜は、少なく
ともPb、Zr、及びTiを含む圧電材料からなることを特徴とするセラミックス膜の製
造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセラミックス膜の製造方法において、前記セラミックス膜形成
用組成物がポリエチレングリコールを含むことを特徴とするセラミックス膜の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のセラミックス膜の製造方法において、前記ポリエチレングリコールは
平均分子量が200以上1000未満であることを特徴とするセラミックス膜の製造方法

【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載のセラミックス膜の製造方法によりセラミックス膜を
形成する工程を具備することを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の圧電素子の製造方法により圧電素子を形成する工程を具備することを
特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の液体噴射ヘッドの製造方法により液体噴射ヘッドを製造する工程を具
備することを特徴とする液体噴射装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−243837(P2012−243837A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110102(P2011−110102)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】