説明

セラミック多層基板

【課題】はんだ接合した場合にはんだから受ける応力や、落下時に受ける応力への耐性の高い表面電極を備えた、信頼性の高いセラミック多層基板を提供する。
【解決手段】BaO、SiO2、Al23を主成分とするセラミック基板10と、セラミック基板の表面に設けられた表面電極2と、表面電極の周縁部2aを覆う被覆セラミック層3であって、BaO、SiO2、Al23を主成分とし、かつ、セラミック基板を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率が高く、BaOの含有率が低いセラミックからなる被覆セラミック層とを備えた構成とする。
被覆セラミック層を構成するセラミックは、セラミック基板を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率を5〜15wt%高くし、BaOの含有率を5〜15wt%低くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミック多層基板に関し、詳しくは、少なくとも一方の主面に表面電極が配設され、かつ、該表面電極の周縁部が被覆セラミック層により被覆された構造を有するセラミック多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の回路基板の1つに、内部電極(配線)やビアホールなどの内部導体を備えた基板の表面に配設された表面電極(導体パッド)の周縁部が、オーバーコート層により被覆されて、基板の内部に埋設されるように構成され、かつ、表面電極(導体パッド)の中央領域の露出面と、オーバーコート層の表面が同一平面上にある、すなわち、基板の表面電極(導体パッド)が配設された面が平坦に形成された回路基板が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
そして、特許文献1では、上述のオーバーコート層として、基板を構成する材料と同一材料を用いてよいことが記載されている(特許文献1の段落0024)。
【0004】
この特許文献1の回路基板においては、上述のように、表面電極(導体パッド)がオーバーコート層により被覆されて、基板の内部に埋設されるように構成されていることから、表面電極(導体パッド)の基板への密着強度を向上させることができるとされている。
【0005】
しかし、オーバーコート層を、基板を構成する材料(例えばセラミック材料)と同一材料(例えばセラミック材料)を用いて形成した場合、オーバーコート層の、基板への密着強度が向上するという効果は得られるものの、その後のめっき工程でめっき液による浸食が生じることにより、オーバーコート層と表面電極(導体パッド)の密着性を必ずしも十分に確保することができない場合がある。そのため、その後のめっき工程でめっき液による浸食が生じたり、はんだ接合した場合にはんだから受ける応力や、落下時に受ける応力に表面電極が十分に耐えることができなくなったりして、必ずしも十分な信頼性を備えたセラミック多層基板を得ることができないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002‐198637公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、表面電極の周縁部を被覆する被覆セラミック層と表面電極との密着強度が高く、めっき液の浸食を防止することが可能で、はんだ接合した場合にはんだから受ける応力や、落下時に受ける応力への耐性の高い表面電極を備えた、信頼性の高いセラミック多層基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のセラミック多層基板は、
BaO、SiO2、およびAl23を主成分とするセラミック基板と、
前記セラミック基板の表面に設けられた表面電極と、
前記表面電極の周縁部を覆う被覆セラミック層であって、BaO、SiO2、およびAl23を主成分とし、かつ、前記セラミック基板を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率が高く、BaOの含有率が低いセラミックからなる被覆セラミック層と
を具備することを特徴としている。
【0009】
また、本発明において、前記被覆セラミック層を構成するセラミックは、前記セラミック基板を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率が5〜15wt%高く、BaOの含有率が5〜15wt%低いことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセラミック多層基板は、BaO、SiO2、およびAl23を主成分とするセラミック基板の表面に設けられた表面電極の周縁部を覆う被覆セラミック層として、BaO、SiO2、およびAl23を主成分とし、かつ、セラミック基板を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率が高く、BaOの含有率が低いセラミックからなる被覆セラミック層を備えているので、表面電極の周縁部を被覆する被覆セラミック層の焼結性および被覆セラミック層のセラミック基板への結合力を確保しつつ、被覆セラミック層と表面電極との密着強度を向上させることが可能になる。
【0011】
その結果、めっき液に対する耐浸食性が良好で、かつ、表面電極を例えば実装基板のランド電極にはんだ接合(はんだ付け実装)した場合にはんだから受ける応力や落下時に受ける衝撃力(応力)などへの耐性に優れた、信頼性の高いセラミック多層基板を提供することが可能になる。
【0012】
なお、セラミックペーストを焼結した後にアモルファス相を形成するSiO2とBaOのうち、SiO2間の結合力は大きく、BaO間の結合力は小さい。
【0013】
そのため、被覆セラミック層を構成するセラミックにおけるSiO2とBaOの組成比率を調整することにより、めっき液に対する耐浸食性を高めて、被覆セラミック層の強度の劣化を抑制することが可能になる。その結果、はんだ接合(はんだ付け実装)した場合にはんだから受ける応力や落下時に受ける衝撃力(応力)などへの耐性を高めることができる。
【0014】
本発明のセラミック多層基板は、このような知見の下、被覆セラミック層を構成するセラミック材料において、結合力の大きいSiO2の含有率をセラミック基板を構成するセラミックと比較して高くし、結合力の小さいBaOの含有率を、セラミック基板を構成するセラミックと比較して低くしたセラミック材料を用いるようにして、めっき液に対する耐浸食性を高めるようにして被覆セラミック層の強度の劣化を抑制するようにしたものである。この結果、はんだ接合(はんだ付け実装)した場合にはんだから受ける応力や落下時に受ける衝撃力(応力)などへの耐性を向上させることが可能になる。
【0015】
なお、本発明のセラミック多層基板を構成する被覆セラミック層は、例えば、セラミックペーストを塗布して焼き付ける方法などにより形成する方法が例示されるが、本発明において、被覆セラミック層を形成するための具体的な方法に特別の制約はない。
【0016】
また、本発明において、セラミック基板を構成する、BaO、SiO2、およびAl23を主成分とするセラミックは、低温焼成セラミック材料であり、このBaO、SiO2、およびAl23を主成分とするセラミック基板は、例えば、炭酸バリウムなどのバリウム化合物、シリカ(SiO2)粉末、アルミナ(Al23)粉末などの原料粉末にバインダーなどを配合してシート状に成形したセラミックグリーンシートを積層、圧着することにより積層体を形成し、これを焼成する方法などにより製造することができる。
【0017】
また、セラミック基板を構成するBaO、SiO2、およびAl23を主成分とするセラミック材料は、焼成工程で一部がガラス成分となり、1000℃以下で焼結させることが可能な、非ガラス系の低温焼成セラミック材料であることから、セラミック基板の構成材料として用いた場合、予めガラス成分を添加したセラミック材料を用いることなく、低温焼成を可能ならしめることができる点において有意義である。
【0018】
また、被覆セラミック層用のセラミックも、SiO2の含有率とBaOの含有率が上記セラミック基板を構成するセラミックとは異なるものの、BaO、SiO2、およびAl23を主成分とする非ガラス系の低温焼成セラミック材料であり、かかるセラミック材料を用いることにより、予めガラス成分を添加したセラミック材料を用いることなく、低温焼成を可能ならしめることができて有意義である。
【0019】
したがって、本発明によれば、セラミック基板および被覆セラミック層の構成材料として、予めガラス成分を添加したセラミック材料を用いることを必要とせず、低い温度で焼成を行うことが可能で、生産性に優れ、かつ、めっき液に対する耐浸食性を高めることができ、はんだ接合(はんだ付け実装)した場合のはんだから受ける応力や落下時に受ける衝撃力(応力)などへの耐性の高い、信頼性に優れたセラミック多層基板を提供することができる。
なお、本発明において、被覆セラミック層の厚みに特別の制約はないが、通常は2〜20μm程度とすることが望ましい。2μm未満であるとめっきに液よる浸食が進行することがあり、被覆セラミック層の強度が低下する可能性がある。また、20μmを超えると、1回の印刷により形成することが困難になり、基板がうねることがある。
【0020】
また、本発明において、被覆セラミック層を構成するセラミックとして、セラミック基板を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率が5〜15wt%高く、BaOの含有率が5〜15wt%低いセラミックを用いることにより、 セラミック基板を構成するセラミックとの共焼結性を含む焼結性を確保し、かつ、セラミック基板の特性に影響を与えることなく、めっき液による浸食性への耐性を高めて被覆セラミック層の強度の劣化を抑制することができる。その結果、はんだ接合した場合におけるはんだから受ける応力や、落下時に受ける応力への耐性を向上させることが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0021】
なお、本発明においては、被覆セラミック層を構成するセラミックのSiO2の含有率とセラミック基板を構成するセラミックのSiO2の含有率の差の絶対値と、被覆セラミック層を構成するセラミックのBaOの含有率とセラミック基板を構成するセラミックのBaOの含有率の差の絶対値を同じにした場合、より確実に効果を奏するが、SiO2の含有率の差の絶対値と、BaOの含有率の差の絶対値が一致しなくても、被覆セラミック層を構成するセラミックは、セラミック基板を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率が5〜15wt%高く、BaOの含有率が5〜15wt%低いという要件を満たせば、本発明の基本的な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例(実施例1)にかかるセラミック多層基板の構成を示す正面断面図である。
【図2】本発明の実施例1にかかるセラミック多層基板の製造方法を説明する図であって、(a)は表面電極パターンの周縁部をセラミックペーストに覆った状態を示す平面図、(b)は表面電極パターンの周縁部をセラミックペーストに覆った状態を示す正面断面図である。
【図3】本発明の実施例1にかかるセラミック多層基板の製造工程において、表面電極パターンの周縁部をセラミックペースト層に埋め込んだ状態を示す図である。
【図4】(a)〜(c)は本発明を実施するのに用いることが可能なセラミックグリーンシートの作製方法を示す図である。
【図5】本発明の他の実施例にかかるセラミック多層基板の構成を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0024】
[実施例にかかるセラミック多層基板の構成]
図1は、本発明の実施例にかかるセラミック多層基板20の構成を示す断面図である。
【0025】
このセラミック多層基板20を構成するセラミック基板10は、内部に配線やビアホールなどの内部導体1を備えている。そして、セラミック基板10の表面(上下両主面)には表面電極2が配設されているとともに、表面電極2の周縁部2aは、被覆セラミック層3により覆われている。すなわち、セラミック基板10の表面は、上述の表面電極2の露出部(中央部)2bを除いて、被覆セラミック層3により被覆されている。
【0026】
さらに、表面電極2の露出部2bの表面には、Niめっき膜、およびNiめっき膜を覆うAuめっき膜が形成されている。なお、図1においては、Niめっき膜およびAuめっき膜の図示を省略している。
【0027】
また、表面電極2の周縁部2aは、被覆セラミック層3により埋設されて、表面電極2の露出部2bと、被覆セラミック層3の表面とは同一平面に位置しており、セラミック多層基板20の両主面はいずれも平坦となっている。
【0028】
この実施例のセラミック多層基板20においては、上述のセラミック基板10を構成するセラミック材料として、BaO、SiO2、およびAl23を主成分とするセラミック材料が用いられており、被覆セラミック層3についても、セラミック材料として、BaO、SiO2、およびAl23を主成分とする材料が用いられている。
ただし、被覆セラミック層3を構成するセラミック材料としては、セラミック基板10を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率が高く、BaOの含有率が低いセラミック材料が用いられている。
なお、セラミック基板10を構成するセラミック用の原料としては、BaO、SiO2、およびAl23の割合が、BaO:30〜40wt%、SiO2:50〜60wt%、Al23:10〜20wt%のものを用いることが好ましい。
【0029】
上述のように構成されたこの実施例のセラミック多層基板20においては、被覆セラミック層3を構成するセラミック材料として、セラミック基板10を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率が高く、BaOの含有率が低いセラミック材料が用いられているので、被覆セラミック層3は、めっき液に対する耐浸食性が高くなり、強度の劣化も生じにくくなる。
その結果、表面電極を例えば実装基板のランド電極にはんだ接合(はんだ付け実装)した場合にはんだから受ける応力や落下時に受ける衝撃力(応力)などへの耐性が向上する。したがって、本発明によれば、信頼性の高いセラミック多層基板を提供することが可能になる。
【0030】
なお、この実施例のセラミック多層基板20は、その上下両主面に表面電極2を備えているが、例えば、一方主面側の表面電極2が実装基板のランド電極(図示せず)と接続するようにセラミック多層基板20を実装する場合、他方主面側の表面電極2には、表面実装部品を搭載することができる。なお、他方主面側の表面電極2に、表面実装部品を搭載しない場合には、他方主面側の表面電極は設けなくてもよい。
【0031】
[セラミック多層基板の製造]
次に、上述のセラミック多層基板の製造方法について説明する。
(1)まず、PETフィルムなどからなるキャリアフィルム上に、BaO、SiO2、およびAl23を主成分とするセラミックスラリーをコーティングし、乾燥することにより、厚みが10〜200μm程度のセラミックグリーンシートを作製する。
【0032】
(2)次に、セラミックグリーンシートに貫通孔(ビアホール)を形成する。貫通孔の形成には、金型で打ち抜く方法やレーザー加工による方法など、公知の種々の方法を適用することが可能である。
【0033】
(3)AgまたはCuを主成分とする金属粉、樹脂、および有機溶剤を混錬した電極ペーストを上記のビアホール内に充填した後、乾燥する。金属粉としてはAg+Pd、Ag+Pt等も用いることができる。また、セラミック多層基板の焼成温度以下(1000℃以下)で焼結する金属であれば他のものを用いることも可能である。
【0034】
(4)その後、セラミックグリーンシート上に、スクリーン印刷などの方法で、上述の電極ペーストを所望のパターンに印刷して、乾燥することにより電極パターンを形成する。
このとき、内部電極となる電極パターンを形成すべきセラミックグリーンシートには、所定の形状の内部電極パターンを形成し、表面電極となる電極パターンを形成すべきセラミックグリーンシートには、所定の形状の表面電極パターンを形成する。
【0035】
(5)それから、図2に示すように、焼成後に表面電極2となる表面電極パターン12を形成したセラミックグリーンシート11の、表面電極パターン12の露出部12b以外の領域、すなわち、表面電極パターン12の周縁部12a、および、その周囲のセラミックグリーンシート11の表面に、スクリーン印刷などの方法でセラミックペーストを印刷することによりセラミックペースト層(被覆セラミック層3となる層)13を形成する。セラミックペースト層は、例えば、焼成後の被覆セラミック層3の厚みが2〜20μmとなるような厚みで形成する。
【0036】
ここで、被覆セラミック層3を形成するためのセラミックペーストとして、BaO、SiO2、およびAl23を主成分とし、焼成後に形成される被覆セラミック層3を構成するセラミック中のSiO2の含有率がセラミック基板10用のセラミックグリーンシート11が焼成されることにより形成されるセラミック基板10を構成するセラミック中のSiO2の含有率よりも高く、BaOの含有率が、上記セラミック基板10を構成するセラミック中のBaOの含有率よりも低くなるような組成を有するセラミック原料をバインダーなどと混練してなるセラミックペーストを用いる。
特に好ましくは、被覆セラミック層3を構成するセラミック中のSiO2の含有率が、上記セラミック基板10を構成するセラミック中のSiO2の含有率よりも5〜15wt%高く、BaOの含有率が上記セラミック基板10を構成するセラミック中のBaOの含有率よりも5〜15wt%低くなるようなセラミック原料をバインダーなどと混練してなるセラミックペーストを用いる。
【0037】
(6)次に、上述のようにして作製した内部電極パターンを備えたセラミックグリーンシートと表面電極パターンを備えたセラミックグリーンシートを、所定の態様で積み重ねて、例えば、圧力100〜1500kg/cm2、温度40〜100℃の条件で圧着することにより、積層体を形成する。
【0038】
このとき、圧着されることにより、図3に示すように、表面電極パターン12の周縁部12aは、被覆セラミック層3となるセラミックペースト層13に埋め込まれるとともに、表面電極パターン12の露出部12bとセラミックペースト層13の表面とは面一となり、表面電極パターン12が配設された面は平坦となる。
これにより、上下両主面が平坦な積層体(焼成前のセラミック多層基板)が形成される。
【0039】
表面電極パターンと、表面電極パターンの周縁部を覆うように配設された被覆セラミック層(セラミックペースト層)を備えたセラミックグリーンシートは、例えば、図4(a)〜(c)に示す方法によって形成することも可能である。
【0040】
すなわち、この方法では、まず、図4(a)に示すように、支持フィルム31上に、貫通孔33aを備えた被覆セラミック層となるセラミックペースト層13を形成する。
【0041】
それから、図4(b)に示すように、貫通孔33aとその周囲に表面電極形成用の電極ペーストを塗布して表面電極パターン12を形成する。
【0042】
次に、図4(c)に示すように、表面電極パターン12が形成されたセラミックペースト層13および表面電極パターン12を覆うように、全面にセラミックペーストを塗布してセラミックグリーンシート(セラミックペースト層)11を形成する。
【0043】
これにより、図4(c)に示すように、表面電極パターン12と、表面電極パターン12の周縁部12aを覆い、中央の露出部12bのみを露出させるセラミックペースト層13を備えたセラミックグリーンシート11が得られる。なお、図4(c)では、セラミックグリーンシート11は、支持フィルム31に支持された状態にある。
【0044】
さらに、支持フィルム31上に、貫通孔33aを備えた被覆セラミック層となるセラミックペースト層13を形成する代わりに、所定の形状および寸法を有する開口を備えた、セラミックグリーンシートを敷く方法を採用することも可能である。
【0045】
また、表面電極パターン12が形成されたセラミックペースト層13および表面電極パターン12を覆うように、全面にセラミックペーストを塗布してセラミックグリーンシート11を形成する代わりに、予めシート状に成形されたセラミックグリーンシートを積層するようにしてもよい。
【0046】
このようにして作製されるセラミックグリーンシート11を用いた場合にも、図1に示すような構造を有するセラミック多層基板を効率よく製造することができる。
【0047】
(7)それから、上記電極ペーストに用いた金属粉がAg系(貴金属系)であれば空気中、850℃前後の条件で、電極ペーストに用いた金属粉がCu系(卑金属系)であればN2中、950℃前後の条件で焼成する。
なお、焼成工程は、積層体の両主面あるいは一方主面に、積層体の焼成温度では実質的に焼結しない難焼結性材料を主成分とする収縮抑制層を配置して焼成を行う、いわゆる拘束焼成の方法を適用して実施することも可能である。
【0048】
(8)次に、上記(7)の焼成工程を経て形成された表面電極の露出部2に、無電解Niめっきと、無電解Auめっきとを順に実施して、表面電極の露出部を覆うNiめっき膜と、該Niめっき膜を覆うAuめっき膜を形成する。
【0049】
これにより、図1にその構成を示すような、表面電極2の周縁部2aが被覆セラミック層3により被覆され、かつ、表面電極2の露出部2bと被覆セラミック層3の表面とが面一で、表面電極3が配設された面全体が平坦な構造を有するセラミック多層基板20が得られる。
なお、得られたセラミック多層基板20の一方主面側の表面電極2上に、表面実装部品を実装することも可能である。
【0050】
[特性の評価]
セラミック基板を構成するセラミックと、被覆セラミック層を構成するセラミックにおけるSiO2含有率とBaO含有率の関係と、得られるセラミック多層基板の信頼性の関係とを調べるため、被覆セラミック層を構成するセラミック中のSiO2の含有率が、セラミック基板を構成するセラミックと比較して、2〜15wt%の範囲で高く、また、BaOの含有率が、セラミック基板を構成するセラミックと比較して、2〜15wt%の範囲で低い被覆セラミック層を備えたセラミック多層基板、すなわち、表1の試料番号1〜4のセラミック多層基板(図1に示す構造を有するセラミック多層基板 )を作製した。なお、セラミック基板は、原料として、BaO、SiO2、およびAl23を、BaO:33wt%、SiO2:53wt%、Al23:14wt%の割合で含むものを用いて作製した。
また、比較例として、被覆セラミック層を構成するセラミックと、セラミック基板を構成するセラミックにおけるSiO2およびBaOの含有率が同一である、表1の試料番号5のセラミック多層基板を作製した。
【0051】
そして、得られたセラミック多層基板を、1つの実装基板上に、リフローはんだ付けにより12個ずつ実装し、同じ方法でさらに4つの実装基板上にセラミック多層基板を12個ずつ実装した。すなわち、表1の試料番号1〜5の各セラミック多層基板のそれぞれを60個、5つの実装基板に実装して、落下試験用の実装基板を作製した。
【0052】
そして、セラミック多層基板が実装された実装基板を、1.5m、1.8m、2.0mの高さから落下させる落下試験を実施した。
そして、落下時に、実装基板から、セラミック多層基板が1つでも外れたものを不良と判定し、その個数をカウントした。
表1に、落下試験の結果を併せて示す。
【0053】
【表1】

【0054】
なお、表1の「被覆セラミック層中SiO2含有率−セラミック基板中SiO2含有率」は、被覆セラミック層を構成するセラミック中のSiO2の含有率(wt%)の値から、セラミック基板を構成するセラミック中のSiO2含有率(wt%)の値を差し引いた値である。
【0055】
また、表1の「被覆セラミック層中BaO含有率−セラミック基板中BaO含有率」は、被覆セラミック層を構成するセラミック中のBaOの含有率(wt%)の値から、セラミック基板を構成するセラミック中のBaOの含有率(wt%)の値を差し引いた値である。
また、表1の落下試験不良発生数は、試料番号1〜5の各試料60個当たりに発生した、不良個数を示している。
【0056】
表1より、被覆セラミック層を構成するセラミックと、セラミック基板を構成するセラミックとにおいて、SiO2およびBaOの含有率が同一である、試料番号5のセラミック多層基板の場合、落下試験における不良の発生率が高いことが確認された。
【0057】
これに対し、被覆セラミック層を構成するセラミックとして、セラミック基板を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率が2〜15wt%の範囲で高く、BaOの含有率が2〜15wt%の範囲で低い、本発明の実施例にかかる試料番号1〜4のセラミック多層基板の場合、落下試験における不良の発生率が低下することが確認された。また、上述の範囲においては、SiO2の含有率が高くなり、BaOの含有率が低くなるほど、落下試験における不良の発生率が低くなることが確認された。
また、被覆セラミック層を構成するセラミックとして、セラミック基板を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率が5〜15wt%の範囲で高く、BaOの含有率が5〜15wt%の範囲で低い、試料番号2〜4のセラミック多層基板の場合、落下試験における不良の発生率がより確実に低下することが確認された。
【0058】
また、表1には示していないが、被覆セラミック層を構成するセラミックのSiO2の含有率がセラミック基板を構成するセラミックのそれよりも15wt%以上高くなると、被覆セラミック層がガラスリッチになり、表面電極に均一にめっき膜が形成されなくなる傾向が認められた。
【0059】
また、被覆セラミック層を構成するセラミックのBaOの含有率がセラミック基板を構成するセラミックのそれよりも15wt%以上低くなると、被覆セラミック層が焼結しにくくなる傾向があることが確認された。
【0060】
以上の結果から、本発明においては、被覆セラミック層を構成するセラミックが、BaO、SiO2、およびAl23を主成分とし、かつ、セラミック基板を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率が高く、BaOの含有率が低いセラミックであることが望ましく、さらには、被覆セラミック層を構成するセラミックが、BaO、SiO2、およびAl23を主成分とし、かつ、セラミック基板を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率が5〜15wt%高く、BaOの含有率が5〜15wt%低いセラミックを用いることが望ましい。
【0061】
なお、上記実施例では、表面電極2の周縁部2aが被覆セラミック層3により被覆され、かつ、表面電極2の露出部2bと被覆セラミック層3の表面とが面一で、表面電極3が配設された面全体が平坦な構造を有するセラミック多層基板20を例にとって説明したが、図5に示すような構造を有するセラミック多層基板20aとすることも可能である。
【0062】
すなわち、図5のセラミック多層基板20aは、セラミック基板10の表面に表面電極2が形成されているとともに、表面電極2の周縁部2aを覆うように、被覆セラミック層3が表面電極2の周縁部2aからその周囲のセラミック基板10の表面にわたって形成され、表面電極2はその厚み分だけセラミック基板10の表面から突出し、さらに、被覆セラミック層3の表面電極2の周縁部2aを覆う部分は、表面電極2の厚みと被覆セラミック層3の厚みの合計分だけセラミック基板10の表面から突出した構造を有している。
【0063】
なお、このセラミック多層基板20aは、例えば、表面電極2を形成するための電極ペーストを塗布し、さらに、被覆セラミック層3を形成するためのセラミックペーストを塗布した後、電極ペーストおよびセラミックペーストが塗布された領域を含む領域を圧着する工程を経ない方法でセラミック多層基板を製造した場合に得られる構成のものである。
【0064】
本発明はさらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、表面電極の構成材料、具体的な形状、配設個数や配設態様、被覆セラミック層の厚みや配設態様、被覆セラミック層を構成するセラミックの具体的な組成、セラミック基板を構成するセラミック層の積層数や内部導体の配設態様、セラミック基板を構成するセラミックの具体的な組成などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 内部導体
2 表面電極
2a 表面電極の周縁部
2b 表面電極の中央部(露出部)
3 被覆セラミック層
10 セラミック基板
11 セラミックグリーンシート
12 表面電極パターン
12a 表面電極パターンの周縁部
12b 表面電極パターンの露出部
13 セラミックペースト層
20 セラミック多層基板
20a 他の実施例にかかるセラミック多層基板
31 支持フィルム
33a 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaO、SiO2、およびAl23を主成分とするセラミック基板と、
前記セラミック基板の表面に設けられた表面電極と、
前記表面電極の周縁部を覆う被覆セラミック層であって、BaO、SiO2、およびAl23を主成分とし、かつ、前記セラミック基板を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率が高く、BaOの含有率が低いセラミックからなる被覆セラミック層と
を具備することを特徴とするセラミック多層基板。
【請求項2】
前記被覆セラミック層を構成するセラミックは、前記セラミック基板を構成するセラミックと比較して、SiO2の含有率が5〜15wt%高く、BaOの含有率が5〜15wt%低いことを特徴とする請求項1記載のセラミック多層基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−186269(P2012−186269A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47490(P2011−47490)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】