説明

セラミック組成物及び該セラミック組成物を含む積層セラミック電子部品

【課題】 直流電界の印加による比誘電率の低下が抑制されるとともに,高い比誘電率を有するセラミック組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の一実施形態に係るセラミック組成物は、コアシェル構造を有するセラミック粒子を含む。一実施形態において,当該セラミック組成物は,反強誘電体から成るコアと、強誘電体又は常誘電体から成り前記コアを取り囲むシェルと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【相互参照】
【0001】
本出願は、米国特許仮出願第61/513,166号(2011年7月29日出願)及び米国特許出願第13/558,010号(2012年7月25日出願)に基づく優先権を主張し、その内容は参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、実質的に鉛を含有しない非鉛系セラミック組成物に関し、特に、アルカリ金属含有ニオブ酸化物系セラミック組成物に関する。また、本発明は、アルカリ金属含有ニオブ酸化物系セラミック組成物を含む積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0003】
積層圧電アクチュエータや積層セラミックコンデンサ等の多様な積層セラミック電子部品が知られている。典型的な積層セラミック電子部品は、内部電極が印刷された複数のセラミック層を積層して成る積層体と、該積層体の側面に設けられた外部電極とを備え、該外部電極から供給される直流電圧によって動作する。このセラミック層の材料としては,高い誘電率や優れた圧電特性を備えるセラミック組成物が望ましく、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Ti,Zr)O)が広く用いられている。しかし、近年では、環境への負荷を低減させるために、鉛を含有しない非鉛系セラミック組成物が着目されている。かかる非鉛系セラミック組成物の一例として、アルカリ金属含有ニオブ酸化物系セラミック組成物がある。例えば、特開2000−313664号公報(特許文献1)には、組成式がK1−xNaNbOで表されるアルカリ金属含有ニオブ酸化物系セラミック組成物が開示されている。アルカリ金属含有ニオブ酸化物系セラミック組成物は、その組成成分の組成比に応じて優れた圧電特性や誘電特性を示す。
【0004】
積層セラミック電子部品は、携帯電話等の小型の電子機器に用いられることが多いため、小型化と大容量化を両立することが求められる。積層セラミックコンデンサを大容量化するためには、内部電極の面積を大きくするか、セラミック層を薄くすればよい。しかしながら,前者の手法は、内部電極の面積に応じて積層セラミック電子部品の寸法が大きくなってしまう。したがって、積層セラミック電子部品の小型化と大容量化とを両立させるには、セラミック層を薄くする方法が望ましい。しかしながら、セラミック層が薄くなるほど、外部電極から印加された直流電圧によって当該セラミック層に生じる電界が大きくなる。したがって、セラミック層が強誘電体材料から成る場合には、発生した直流電界によって当該セラミック層における分極反転が阻害されてしまう。その結果、当該セラミック層の比誘電率及び抵抗率が低下し、当該セラミック層を含む積層セラミック電子部品の静電容量が使用時に低下してしまうという問題が生じる。
【発明の概要】
【0005】
このように,セラミック電子部品を大型化することなく大容量化するためには,直流電界が印加された場合の比誘電率の劣化が抑制されたセラミック組成物が望まれる。よって,本発明の様々な実施形態により、直流電界の印加による比誘電率の低下が抑制されるとともに,高い比誘電率を有するセラミック組成物が提供される。
【0006】
本発明の一実施形態に係るセラミック組成物は、コアシェル構造を有するセラミック粒子を含むセラミック組成物である。一実施形態において,当該セラミック粒子は,反強誘電体から成るコアと、強誘電体又は常誘電体から成り前記コアを取り囲むシェルと、を備える。かかるセラミック組成物に強い電界が発生すると,強誘電体から成るシェルの比誘電率は減少するが,反強誘電体から成るコアに強誘電体と同様の分極が現れてコアの誘電率が急激に増加する。反強誘電体と強誘電体は、電子回折図形により区別することができる。例えば,反強誘電体であるNaNbO3系化合物には、電子線回折図形において,擬立方晶構造の回折斑点の他に、[001]方向に、1/2周期と1/4周期の超格子反射が観察される(例えば,J.Chen et. al., Phys.stat.sol.(a)109,171(1988) やJ. Am. Ceram. Soc., 94, 2242-2247 (2011)参照)。
【0007】
セラミック粒子は,コアとシェルが直列接続されたものと考えることができるので,セラミック粒子全体の比誘電率は以下の式1のように表される。
【数1】



ただし、εtotalはセラミック粒子全体の比誘電率、εcoreはコアの比誘電率,εshellはシェルの比誘電率である。また,αcoreは,セラミック粒子全体の体積に占めるコアの体積の割合,αshellは,セラミック粒子全体の体積に占めるシェルの体積の割合を示す。なお,αshellcore=1となる。このように,強い電界によってシェルの比誘電率が減少する場合であっても,コアの誘電率が増加することにより,セラミック粒子全体の比誘電率の劣化を抑制するか、又は,セラミック粒子全体の比誘電率を増加させることができる。
【0008】
一実施形態に係るセラミック組成物の組成は,組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表される。かかるセラミック組成物においては,Nbの価数が焼成時の還元雰囲気によって+5価から+4価に変化するため、酸素欠陥が生じやすく,この酸素欠陥によってセラミックス絶縁抵抗が低下するおそれがある。そこで,一実施形態に係るセラミック組成物は,シェルにおけるTaの含有比率がコアにおけるTaの含有比率よりも高くなるように構成される。Taの価数は+5価から変化しないので,シェルにおけるTaの含有比率を増加させることにより,シェルにおける酸素欠陥の発生を抑制することができ,その結果絶縁抵抗の劣化を防止及び/又は抑制することができる。コアシェル構造を有するセラミック粒子から成るセラミック組成物においては,セラミック組成物全体の絶縁抵抗はシェルの絶縁抵抗によって決定される。したがって,シェルにおけるTaの含有比率を増加させることにより,セラミック組成物全体の絶縁抵抗を改善することができる。
【0009】
一実施形態において,コアのBサイトにおけるNbとTaの含有比率は、(Na1−x)(NbTa1−y)Oにおけるyの値が0.8≦y≦1.0の範囲となるように定められる。また,他の実施例においては,コアのBサイトにおけるNbとTaの含有比率は、(Na1−x)(NbTa1−y)Oにおけるyの値が0.9≦y≦1.0の範囲となるように定められる。コアにおけるNbとTaの含有比率をこれらの範囲とすることにより,以下で詳述するように,コアは反強誘電性を示す。
【0010】
一方,一実施形態において,シェルのBサイトにおけるNbとTaの含有比率は、(Na1−x)(NbTa1−y)Oにおけるyの値が0.2≦y≦0.7の範囲となるように定められる。また,他の実施例においては,シェルのBサイトにおけるNbとTaの含有比率は、(Na1−x)(NbTa1−y)Oにおけるyの値が0.4≦y≦0.6の範囲となるように定められる。シェルにおけるNbとTaの含有比率をこれらの範囲とすることにより,以下で詳述するように,シェルは強誘電性を示す。また,シェルにおけるNbとTaの含有比率を前述の範囲とすることにより,当該シェルの相転移温度(Tc)は、200℃程度となる。これにより,本発明の実施形態に係るセラミック組成物のシェルは,約200℃付近でも高い誘電率を維持することができるので,SiCパワーデバイス等での使用に適している。
【0011】
本発明の一実施形態に係るセラミック組成物は、組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表されるアルカリ金属含有ニオブ酸化物系セラミック組成物を主成分とする。本発明の一実施形態においては、この主成分100モルに対して0.1モルから10.0モルの範囲のLiFを添加する。この主成分100モルに対してLi及びFをそれぞれ0.1モルから10.0モルの範囲で含むセラミック組成物は、LiFを添加しない場合と比較して高い絶縁抵抗率を有する。
【0012】
本発明の一実施形態において、上記主成分100モルにLiF換算で2.0モルから6.0モルの範囲のLi及びFをそれぞれ含有させることで、絶縁抵抗率の対数[log(Ω・cm)]が9.0以上であるアルカリ金属含有ニオブ酸化物系セラミック組成物が得られる。
【0013】
アルカリ金属含有ニオブ酸化物系セラミック組成物における絶縁抵抗率の改善は、次の理由によるものと考えられる。まず、組成式(Na1−x)(NbTa1−y)O(ただし、0≦x≦1.0、0.3<y≦1.0)で表される主成分に対して約850℃の低い融点を持つLiFを副成分として添加することで、焼結時にLiFが液相を形成して液相焼結が可能となり、LiFを添加しない場合と比較して組成物を緻密に焼結することができる。また、成型体の焼成中に揮発するNa及び/又はKの欠損をLiFのLiで置換することができるため、NaやKの欠損による絶縁抵抗率の劣化を抑制することができる。また、LiFを添加することにより、主成分中のNb及び/又はTaの一部がLiで置換され、このLiがアクセプタとして働くことで、還元性雰囲気下でも酸素空孔の生成を抑制することができる。さらに、還元性雰囲気焼成によって生成される酸素空孔をFが補完することで、格子欠陥の発生を抑制することができる。
【0014】
一般に、組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表されるセラミック組成物においては、NaやTaの含有量が少ないほど当該セラミック組成物の圧電歪定数(d33)が大きくなることが知られている(例えば、K.−H.Hellwege,O.Madelung Ed.,Landolt−Bornstein,Numerical Data and Functional Relationships in Science and Technology,Springer−Verlag,3巻,p288−291(1969年)(以下、「LB」という。)参照)。特に、x=0.5、y=1.0のときに非常に良好な圧電特性が得られ、x=0.6以上にNaの含有量を増やすと、徐々に圧電特性が下がることが明らかにされている。一方、Kの含有量を増加させる場合には、x=0まで良好な圧電特性が得られることが分かっている(Japanese Journal of Applied Physics 48 07GA05(2009)参照)。また、Nb及びTaの含有量と圧電特性との関係についても調査が行われており、0.6≦y≦1.0の範囲で高い圧電特性を有することが明らかになっている(例えば、特開2004−115293号公報、及び、Journal of The American Ceramic Society Vol.88 No.5 1190−1196(2005)参照)。かかる圧電特性は、主成分に本発明の範囲におけるLiFを添加した場合でも実質的に影響を受けないと考えられる。そこで、本発明の一実施形態においては、0≦x≦0.6、0.6≦y≦1.0を満たす主成分100モルに対して0.1モルから10.0モルの範囲のLi及びFを含有させた化合物を、酸素分圧が1.0×10−4〜1.0×10−14atmの還元性雰囲気中で焼成することにより、絶縁抵抗率が改善するとともに90pC/N以上の大きなd33を有する圧電性セラミック組成物が得られる。
【0015】
同様に、組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表されるセラミック組成物においては、NbとTaの組成比を調整することにより、当該セラミック組成物のキュリー温度を調整できることが知られている。例えば、0≦x≦1.0、0.3<y<0.6となるように主成分の組成を調整することによって、キュリー温度を室温近傍に調整できる(LB参照)。この性質は、主成分に本発明の範囲におけるLiFを添加しても実質的に影響を受けないと考えられる。したがって、本発明の一実施形態においては、0≦x≦1.0、0.3<y<0.6を満たすように主成分の組成を調整することにより、キュリー温度における高い誘電率を利用した誘電体を作成することができる。
【0016】
同様に、組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表されるセラミック組成物においては、KやTaの含有量が少ないほど、当該セラミック組成物の焼結が容易となるとともに低い誘電損失を実現できることが知られている。本発明の一実施形態において、主成分を0.6<x≦1.0、0.6≦y≦1.0となるように主成分の組成を調整することによって、セラミック組成物の焼結がより容易になるとともにその誘電損失(tanδ)を低減することができる。
【0017】
上述したセラミック組成物を用いて様々な積層セラミック電子部品を作製することができる。セラミック組成物が優れた圧電特性を有する場合には、セラミック組成物を圧電性積層セラミック電子部品の材料として用いることができる。本発明の実施形態に係る主成分が組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表されるセラミック組成物は、0≦x≦0.6、0.6≦y≦1.0を満たす場合に圧電性積層セラミック電子部品に適した優れた圧電特性を有する。圧電性積層セラミック電子部品には、圧電アクチュエータ、圧電スピーカ、圧電マイク、圧電振動器、圧電発電器、超音波モータ、加速度センサ、及び圧電フィルタが含まれるがこれらには限られない。
【0018】
本発明の実施形態に係るセラミック組成物が高い誘電率を有する場合には、当該セラミック組成物を誘電性積層セラミック電子部品の材料として用いることができる。本発明の実施形態に係る主成分が組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表されるセラミック組成物は、0≦x≦1.0、0.3<y<0.6を満たす場合に、誘電性積層セラミック電子部品に適した高い誘電率を有する。誘電性積層セラミック電子部品には積層セラミックコンデンサが含まれるが、これには限られない。
【0019】
上述した以外の本発明の課題、構成,効果は,以下の詳細な説明及び添付図面等の記載から理解される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミック電子部品の断面図
【図2】本発明の一実施形態に係る積層セラミック電子部品のセラミック層に含まれるセラミック粒子を模式的に示す図
【図3】本発明の一実施例である試料番号3の透過電子顕微鏡写真
【図4】本発明の一実施例である試料番号3のエネルギー分散型X線分析(EDS)による分析結果を示すグラフ
【図5】本発明の一実施形態に係るセラミック粒子のコアの電子線回折図形
【図6】本発明の一実施形態に係るセラミック粒子のシェルの電子線回折図形
【図7】本発明の一実施形態に係る積層セラミック電子部品の誘電率の温度依存性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミック電子部品を示す断面図である。図示のとおり、本発明の一実施形態に係る積層セラミック電子部品は、各セラミック層101と内部電極102a〜102gとを交互に積層して形成される積層体と、該積層体の外表面(側面)に設けられた外部電極103a及び103bとを備える。内部電極102a〜102gは、主にNi、Cu等の卑金属から成る。内部電極102a〜102gは、卑金属に加えてPt、Pd、Au、Ag等の貴金属を含んでもよい。外部電極103aは、内部電極102a、102c、102e、102gとそれぞれ電気的に接続され、外部電極103bは、内部電極102b、102d、102fとそれぞれ電気的に接続されている。このように構成された成型体を焼成し、焼成後の成型体に分極処理を施すことにより、積層セラミック電子部品が得られる。セラミック層101が圧電性を有する場合には、外部電極103a、103b間に電圧を印加することにより、積層セラミック電子部品は、図中Z軸の方向に変位し、例えば圧電アクチュエータとして機能する。セラミック層101が高い誘電性を有する場合には、図1に示した積層セラミック電子部品を、積層セラミックコンデンサとして利用することも可能である。
【0022】
次に、図1の積層圧電セラミック電子部品の製造方法を説明する。まず、セラミック層101の主成分となるアルカリ金属含有ニオブ酸化物系セラミック組成物を合成するために、出発材料として、ナトリウム(Na)を含有する炭酸ナトリウム(NaCO)又は炭酸水素ナトリウム(NaHCO)Na化合物、カリウム(K)を含有する炭酸カリウム(KCO)又は炭酸水素カリウム(KHCO)等のK化合物、ニオブ(Nb)を含有する五酸化ニオブ(Nb)等のNb化合物、及びタンタル(Ta)を含有する五酸化タンタル(Ta)等のTa化合物を用意する。
【0023】
次に、上記の主成分の出発材料を所定量秤量する。具体的には、各出発材料は、組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表されるセラミック組成物の主成分を組成する各元素の組成が、本明細書で説明される所定の範囲となるように秤量される。次に、秤量された各出発材料を、部分安定化ジルコニア(PSZ)ボールを備えるボールミルに投入し、エタノール等の有機溶媒下で10〜60時間湿式攪拌し、攪拌後に有機溶媒を揮発乾燥させて攪拌原料を得る。次に、得られた攪拌原料を、700〜950℃の温度で1〜10時間仮焼成して仮焼物を得る。そして、この仮焼物をボールミルによって解砕し仮焼粉を得る。次に、この仮焼粉に対し所定量秤量された焼結助剤を加えたものを、PSZボールを備えたボールミルを用いてエタノール等の有機溶媒下で10〜60時間湿式攪拌した後、有機溶媒を揮発乾燥させて仮焼粉混合物を得る。この焼結助剤は,例えば,弗化リチウム(LiF)である。LiFは,焼結過程において液相を形成するため,焼結助剤として働く。LiFは,焼結過程において,(Na1−x)(NbTa1−y)Oの溶解及び再析出反応を促すので,コアシェル構造のような不均一構造の形成に寄与する。LiFは焼結助剤の一例であり,本発明においては,様々な種類の焼結助剤を用いることができる。次に、この仮焼粉混合物に有機バインダーと分散剤を加えたものを、純水又はエタノール等の有機溶媒を用いてボールミル中で湿式混合し、セラミックススラリーを得る。そして、このセラミックススラリーをドクターブレード法等を用いて成形加工することでセラミックスグリーンシートを得る。
【0024】
次に、このようにして得られたセラミックスグリーンシート上に、Ni、Cu等の卑金属を主成分とする導電性ペーストを用いて導電層パターンをスクリーン印刷する。次に、この伝導層パターンが形成されたセラミックスグリーンシートを交互に積層して積層体を形成し、この積層体の上面と下面に導電層パターンの形成されていないセラミックスグリーンシートを圧着することで、導電層パターンとセラミックスグリーンシートとが相互に積層されたセラミックス積層体を得る。
【0025】
次に、得られたセラミックス積層体を例えばアルミナ製のサヤに収容して、300℃〜500℃で脱バインダ処理を行った後に、1.0×10−4〜1.0×10−14atmの酸素分圧を有する還元性雰囲気中で、850℃から1400℃の温度で焼成を行うことで、セラミック焼結体を得ることができる。望ましくは、1.0×10−4〜1.0×10−10atmの酸素分圧を有する還元性雰囲気中で、950℃から1200℃の温度で焼成を行うことで、セラミック焼結体を得ることができる。本発明に係るセラミックス組成物は、ここで述べられた還元性雰囲気以外にも,大気雰囲気下での焼成により形成することができるし、セラミックス組成物自体が還元されない程度の強還元雰囲気下での焼成により形成することもできる。なお、焼成温度は、電極の化学的物性(例えば融点)及び酸化条件にも依存する。
【0026】
以上のようにして,コアシェル構造を有するセラミック組成物が得られる。セラミック組成物におけるコアシェル構造は,焼結助剤を用いなくとも実現可能である。例えば、まずコアとなるセラミック組成物の焼結体を作製し,次に,この焼結体の粉末に,Ta等のシェルを構成するための材料を添加し、このシェルを構成するための材料が添加された混合物を焼結させることにより,コアシェル構造を有するセラミック組成物が得られる。
【0027】
次に、このセラミックス焼結体の内部電極が露出した両端部にAg、Cu、Ni等を主成分とした導電性ペーストを塗布し、750℃から850℃で焼き付け処理を行うことで、積層体の外側面に一対の外部電極が形成される。外部電極は、様々な方法により形成することができ、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法等を用いて形成される。これにより、図1に示す積層セラミック電子部品が得られる。また、この一対の外部電極間に電圧を印加して分極処理を行うことで、積層圧電セラミック電子部品が得られる。
【0028】
図2は,本発明の一実施形態に係るセラミック組成物に含まれるセラミック粒子200を模式的に示す図である。図1のセラミック層101は,このセラミック粒子200を複数含んでいる。図示のとおり,セラミック粒子200は,コア201と,このコア201を取り囲むシェル203とを備える。また,コア201とシェル203との間には,傾斜組成層202が設けられている。傾斜組成層202の最内部は,コア201と同じ組成を有しており,最外部はシェル203と同じ組成を有している。そして,この最内部と最外部との間で,NbとTaの含有比率が漸次変化する。
【0029】
セラミック粒子200は,上述したように,一般式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表されるアルカリ金属含有ニオブ酸化物系セラミック組成物を主成分とする。一実施形態に係るコア201の組成は,(Na1−x)(NbTa1−y)Oにおけるyの値が0.8≦y≦1.0の範囲となるように定められる。また,他の実施例におけるコア201の組成は、(Na1−x)(NbTa1−y)Oにおけるyの値が0.9≦y≦1.0の範囲となるように定められる。かかる組成とすることにより,コア201は反強誘電性を示す。また,一実施形態に係るシェル203の組成は、(Na1−x)(NbTa1−y)Oにおけるyの値が0.2≦y≦0.7の範囲となるように定められる。他の実施例に係るシェル203の組成は、(Na1−x)(NbTa1−y)Oにおけるyの値が0.4≦y≦0.6の範囲となるように定められる。かかる組成とすることにより,シェルは203は強誘電性を示す。また,シェル203におけるNbとTaの含有比率を前述の範囲とすることにより,シェル203の相転移温度(Tc)は、200℃程度となる。これにより,セラミック粒子200のシェル203は,約200℃付近でも高い誘電率を維持することができる。したがって,かかるセラミック粒子を含むセラミック組成物は,200℃程度での使用が想定されるSiCパワーデバイス内の受動素子の材料として適している。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を説明する。この実施例は、本発明の説明のために提示されるのであって、本発明は以下で例示される実施例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1
実施例1においては、組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表される主成分においてx=1.0を満たす場合(つまり、主成分がNa(NbTa1−y)Oで表される場合)に,NbとTaの含有比率が異なる複数の試料を作製し、それらの誘電率や絶縁抵抗等の特性を評価した。
【0032】
まず,出発材料として、NaCO、Nb、Taをそれぞれ準備し,、準備した各材料を200℃程度の温度で充分に乾燥させた。次に、乾燥させた各出発材料を表1に試料番号1〜試料番号6として表されている6通りの割合で秤量した。次に、秤量された各出発材料を、エタノール溶媒下で24時間湿式混合した。そして、この混合物を乾燥した後、大気中にて900℃で3時間仮焼して仮焼物を得た。次に、得られた仮焼物の粉末100モルに対して5モルの弗化リチウム(LiF)を添加した。次に、このLiFを含む混合物を乾燥させてNbとTaの含有比率が異なる6種類のセラミック粉末を得た。
【表1】

【0033】
次に,これらの6種類のセラミック粉末を、円板形状に整形し、円板形状の圧粉体を得た。次に、これらの圧粉体を、1.0×10−10atmの酸素分圧を有する還元性雰囲気下で1200℃〜1300℃の温度で焼成し、円板形状の焼結体を得た。次に,この焼結体の表面を研磨して,厚みを0.2mmとした。このようにして得られた円板形状の焼結体の両側面に、スパッタ法により白金の電極を形成した。
【0034】
次に,このようにして作製された各試料について,当該試料に含まれる20個のセラミック粒子を任意に選択し,各セラミック粒子のコア及びシェルそれぞれにおけるTaの含有比率をエネルギー分散型X線分析(EDS)により分析した。このようにして,各試料について,コアとシェルの各々におけるTaの含有比率の値が20個ずつ得られた。次に,このようにして得られたコアにおけるTaの含有比率の平均値を各試料について算出した。また,同様に,シェルにおけるTaの含有比率の平均値を各試料について算出した。このようにして算出されたTaの含有比率の平均値を表2に示す。表2において,コア平均は,各試料のコアのセラミック粒子におけるTaの比率(組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oにおける(1−y)の値)を示し,シェル平均は,各試料のシェルのセラミック粒子におけるTaの比率を示す。
【0035】
このようにして作製された試料の各々を,機械的研磨により100μmまで薄片化させ,さらにイオンビーム法により数十nmの厚みまで局所的に薄片化させた。そして,この薄片化させた試料の各々を,市販の透過電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した。このTEMを用いた観察により,試料番号1〜試料番号6の焼結体は,コア−シェル構造を有することが確認できた。図3に、試料番号3の透過電子顕微鏡写真を示す。図3の写真から,試料3がコアシェル構造を有することが確認できた。また、図4は、エネルギー分散型X線分析(EDS)による試料番号3の組成の分析結果を示すグラフである。図4において,横軸は,粒子構造を横切る方向の位置を示し,縦軸は,試料3を構成する元素の比率の測定値を示す。図4から、試料3の焼結体がコアシェル構造を有し,そのコアはシェルよりもNbの含有比率が高く,そのシェルはコアよりもTaの含有比率が高いことが確認できた。また、図4から,コアとシェルとの境界付近においては,NbとTaの含有比率が緩やかに変化する傾斜組成層が存在することも確認された。
【0036】
次に,このようにして作成された試料番号1〜試料番号6の6種類の試料について,市販のLCRメータを用い、直流電界を印加していない状態において、25℃及び200℃の各々における比誘電率を測定した。この測定結果は,表2において,「誘電率(25℃)」及び「誘電率(200℃)」の欄にそれぞれ示されている。また、同じLCRメータに直流電界発生装置を接続し、この直流電界発生装置によって試料番号1〜試料番号6の試料の各々に40kV/cmの電界を印加し,この電界を印加された状態において各試料の200℃における比誘電率を測定した。これらの測定結果から、以下の式2に従って,40kV/cmの直流電界の印加による誘電率の変化を算定した。
【数2】

ここで、ε0は直流電界を印加していない状態での誘電率、ε40kV/cmは40kV/cmの直流電界を印加した際の誘電率である。
【0037】
表2における誘電率増減は,上述した式2に従って算出された,40kV/cmの直流電界の印加による誘電率の変化を示す。また、試料番号1〜試料番号6の各々について,25℃及び200℃における絶縁抵抗を2端子法により測定した。これらの測定結果を表2にまとめた。
【表2】

【0038】
コアシェル構造を有するセラミック粒子から成るセラミック組成物の絶縁抵抗は,シェルの絶縁抵抗によって決定される。表2に示されているように,試料2乃至試料6は,良好な絶縁特性を有する。したがって,シェル部におけるTaの比率(1−y)が0.2≦1−y≦1.0(すなわち,0≦y≦0.8)であれば良好な絶縁特性が得られる。上述したように,Taは,必ず+5価の価数をとるので,Taの含有比率が高まるほど酸素欠陥の生成を抑制することができ,その結果,絶縁抵抗を増加させることができる。ただし、Taの含有比率が高くなると、緻密化のために必要な焼成温度が高温化する。Taの含有比率が高い試料番号5及び試料番号6の絶縁抵抗が試料番号4に比べて減少しているのは、試料番号5及び試料番号6のセラミック焼結体が,上述した焼成温度において十分に緻密化しなかったためと考えられる。
【0039】
主成分が組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表されるセラミック組成物のキュリー温度は,Taが添加されると低温化かつ散漫化する。つまり、組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表されるセラミック組成物は,Taの添加によりリラクサーとなる(例えば,“New Lead Free Perovskites with a Diffuse Phase Transition: NaNbO3 Solid Solutions” I. P. Raevski, S. A. Prosandeev, Journal of Physics and Chemistry of Solids 63 (2002) 1939-1950参照)。組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表されるセラミック組成物のキュリー温度は,0.4≦y≦0.7の範囲では0℃〜200℃に存在する。
【0040】
コアシェル構造を有するセラミック粒子は,コアとシェルが直列接続されたものと考えることができるので,かかるセラミック粒子全体の比誘電率は,上述した式1のように表される。したがって,コアシェル構造を有するセラミック粒子全体の比誘電率は,高い誘電率を持つシェルの誘電率によりほぼ規定される。表3から、シェルにおけるNbの組成が0.2≦y≦0.7の範囲において、25℃及び200℃での比誘電率がいずれも600以上となり,良好な比誘電率が得られる。また、0.4≦y≦0.6の範囲においては,25℃及び200℃での比誘電率がいずれも1000以上となり,さらに良好な比誘電率が得られる。また,表3から、試料番号1乃至試料番号3については,直流電界印加時の誘電率の減少率が10%より小さい(又は増加している)ことが確認された。直流電界印加時の誘電率の減少率が小さいのは,コアが反強誘電体であるためと考えられる。表3から、コアのTaの比率が0.0≦(1−y)≦0.2の範囲(0.8≦y≦1.0の範囲)において,直流電界印加時の誘電率の減少率を十分に小さくできることが分かる。
【0041】
以上から、主成分が組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表されるセラミック組成物において,当該組成物を構成するセラミック粒子のコアの組成が0.8≦y≦1.0を満たし、当該セラミック粒子のシェルが0.2≦y≦0.7を満たす場合に、当該セラミック組成物は,少なくとも25℃から200℃の温度範囲において,直流電界の印加による比誘電率の低下が抑制されるとともに,高い比誘電率及び高い絶縁抵抗を有することが確認された。
【0042】
以上のようにして作製した試料番号1〜6をイオンミリングなどの手法で薄片化し、この薄片化した各試料の電子線回折図形を取得した。図5は,試料番号4のコアから取得した電子線回折図形を示し、図6は,同じ試料のシェルから取得した電子線回折図形である。図5に示すように,コアにおいては,1/2{h 0 l}周期と{h 0 1/4l}周期の超格子反射が観察された。これに対し,図6に示すように,シェルにおいては,1/2周期の超格子反射のみが観察された。このように、それぞれの超格子反射の周期から,コアは反強誘電体であり、シェルは常誘電体又は強誘電相であると判断できる。
【0043】
実施例2
実施例2においては、実施例1の試料番号3と同じ組成のセラミック組成物を用い、Ni内部電極を持つ積層セラミックコンデンサを作成した。そして,当該積層セラミックコンデンサの絶縁抵抗、比誘電率,及び当該比誘電率の直流電界依存性を評価した。
【0044】
まず,実施例1と同様の手法で,表3に記載された組成(実施例1の試料番号3と同じ組成)のセラミック粉末を得た。
【表3】

【0045】
次に,得られた仮焼物の粉末100モルに対して5モルの弗化リチウム(LiF)、PVAを主成分とする有機バインダー,分散剤、及び可塑剤を加え、エタノール及び2メトキシエタノールからなる有機溶媒下で,ボールミルを用いて湿式混合し、セラミックススラリーを得た。そして、このセラミックススラリーをドクターブレード法を用いて成形加工することでセラミックスグリーンシートを作製した。
【0046】
次に、このようにして得られたセラミックグリーンシート上に,Niを主成分とする導電性ペーストを用いて、内部電極層となる導電層パターンをスクリーン印刷した。次に,この導電層パターンが形成されたセラミックグリーンシートを交互に10層重ねて積層体を形成し、この積層体の上面と下面に導電層パターンの形成されていないセラミックグリーンシートを圧着することで、導電層パターンとセラミックグリーンシートとが相互に積層されたセラミック積層体を得た。
【0047】
次に,このようにして得られたセラミック積層体を300℃〜500℃で脱バインダ処理し、この脱バインダ処理後の積層体を,1200℃から1400℃の温度で、酸素分圧1.0×10−10atmの還元性雰囲気中にて焼成し,セラミック焼結体を得た。次に、このセラミック焼結体の内部電極が露出した部分にNiを主成分とする導電性ペーストを塗布し、750℃から850℃の温度で焼き付け処理を行い,セラミック焼結体の外側面に一対の外部電極を形成した。これにより,図1に示したものと同様の積層セラミック電子部品の試料を得た。
【0048】
次に,このようにして得られた積層セラミック電子部品について,市販のLCRメータを用い,直流電界を印加していない状態において、25℃及び200℃の各々において比誘電率を測定した。また、同じLCRメータに直流電界発生装置を接続し、この直流電界発生装置によって積層セラミック電子部品に40kV/cmの電界を印加し,この電界を印加した状態において200℃での比誘電率を測定した。これらの測定結果から、上述した式2に従って,40kV/cmの直流電界の印加による誘電率の変化を算定した。これらの測定結果を表4にまとめた。表4に示す測定結果から、上述の積層セラミックコンデンサは、実施例1における試料番号3の試料と同等の絶縁抵抗及び比誘電率を有することが確認できた。このように、実施例1において,直流電界の印加による比誘電率の低下が抑制されるとともに,高い比誘電率及び高い絶縁抵抗を有することが確認されたセラミック組成物を用いることにより,当該セラミック組成物の優れた電気的特性(特に比誘電率及び絶縁抵抗)を有する積層セラミックコンデンサを作製できることが確認できた。
【表4】

【0049】
実施例3
実施例1においては、主成分が組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oにおいてx=0.5、y=1を満たす場合(つまり、主成分がNa0.50.5NbOで表される場合)における当該主成分に対するLiの弗化リチウム(LiF)の添加量を決定すべく、主成分に対するLiFの添加量が異なる複数の試料を作製し、その特性を評価した。
【0050】
まず、Na0.50.5NbOの出発材料として、KCO、NaCO、Nb、Taを準備し、各材料を200℃程度の温度で充分に乾燥させた。次に、乾燥させた出発材料の各々を、組成がNa0.50.5NbOとなるように(つまり、x=0.5、y=1.0となるように)秤量した。次に、秤量された各出発材料を、ボールミルを用い、エタノール溶媒下で24時間湿式混合した。そして、この混合物を乾燥した後、900℃で3時間仮焼して仮焼物を得た。次に、この仮焼物をボールミルで粉砕し、仮焼物の粉末を得た。次に、得られた仮焼物の粉末100モルに対して表5に示した量のLiFをそれぞれ添加し、ボールミルを用いてエタノール溶媒下で24時間湿式混合した。次に、この混合物を乾燥させて、LiFの添加量が異なる6種類のセラミック粉末を得た。
【0051】
次に、これらの6種類のセラミック粉末を、一軸プレス機を用いて、直径約10mm、厚み約0.5mmの円板形状に整形し、円板形状の圧粉体を得た。次に、この圧粉体の各々の表面に、Niを主成分とする導電性ペーストを塗布した。次に、これらの導電性ペーストが塗布された圧粉体を、1.0×10−4〜1.0×10−14atmの酸素分圧を有する還元性雰囲気で950℃〜1200℃の温度で2時間焼成し、円板形状の焼結体を得た。このようにして得られた円板形状の焼結体の両側面に、スパッタ法により白金の電極を形成した。この白金の電極は、焼結体の表面に形成された導電性ペーストと電気的に接続されるように形成した。
【0052】
このようにして作成した6種類の試料(表5に試料1〜試料6として示す)について、ピコアンペアメータ(Hewlett-Packard社製、製品名「4140B」)を用いて外部電極間の直流電圧−電流特性を測定し、この測定値に基づいて、室温(25℃)における絶縁抵抗率の対数log(Ω・cm)を算出した。また、LCRメータ(Agilent Model社製、製品名「4284A」)を用い、室温における信号周波数1kHzの誘電率(ε)および誘電損失(tanδ)を算出した。また、各試料に150℃のシリコーンオイルバス中で3kV/mmの電界を15分間印加し、分極処理を行った。分極後の特性変動の影響を避けるため、分極処理を行った各試料を48時間以上静置した後、d33メータAcademia Sinica社製、製品名「ZJ-2」)を用いて、分極処理された各試料の33方向への圧電特性d33(pC/N)を測定した。これらの測定結果を表5に示す。試料1及び試料6は、本発明の範囲外であることを明確にするため、表5中の試料番号に※を付した。
【表5】

【0053】
表5に示されているとおり、LiFが添加されていない試料1においては、その誘電損失が37%と大きく、絶縁抵抗率の対数log(Ω・cm)が5.2と小さかった。また、分極時には3kV/mm以下の電界で絶縁破壊が起こり、分極処理を行うことができなかった。このように、LiFを添加しないNa0.50.5NbO組成物は、誘電損失が大きいためコンデンサとしての性能が劣っており、分極処理の過程で絶縁破壊が起こってしまうことから圧電セラミック電子部品として利用することができない。
【0054】
試料2は、主成分であるNa0.50.5NbO100モルに対してLiFを0.1モル添加して作製した試料である。つまり、試料2のセラミック組成物は、主成分であるNa0.50.5NbO100モルに対してLi及びFをLiFを0.1モル含む。表5に示すとおり、試料2は、絶縁抵抗率の対数log(Ω・cm)が7.5であり、試料1と比較して高い絶縁抵抗率を有することが確認された。また、試料2のd33は40pC/Nであり、良好な圧電特性を示すことが確認された。
【0055】
試料3、試料4、試料5は、主成分であるNa0.50.5NbO100モルに対してLiFをそれぞれ3.0モル、5.0モル、10.0モル添加して作製した試料である。試料3〜試料5は、絶縁抵抗率の対数であるlog(Ω・cm)がいずれも9.0以上であり、LiF未添加の試料1と比較して高い絶縁抵抗率を有することが確認できた。試料3、試料4、試料5のd33は、それぞれ99pC/N、138pC/N、85pC/Nであり、良好な圧電特性を有することが確認できた。特に、試料4のd33は、138pC/Nであり、PZTを主成分とする圧電セラミック電子部品と同等の圧電特性を有することが確認できた。
【0056】
試料6は、主成分であるNa0.50.5NbO100モルに対してLiFを15.0モル添加して作製した試料である。試料6は、緻密に焼結しなかったので、セラミック電子部品として利用することができない。
【0057】
以上の結果から、Na0.50.5NbO組成物は、主成分であるNa0.50.5NbO100モルに対して0.1モルから10.0モルのLiFを添加した場合(主成分であるNa0.50.5NbO100モルに対してLiF換算で0.1モルから10.0モルのLi及びFを含有させた場合)に、LiFを添加しない場合よりも良好な絶縁抵抗率を有することが確認できた。この絶縁抵抗率の改善は、上述のように、主成分のNa及び/又はKの欠損をLiで置換し、Nb及び/又はTaの一部を置換したLiがアクセプタとして機能し、Oの欠陥をFが補完することで実現される。したがって、組成式(Na1−x)(NbTa1−y)Oで表される主成分がx=0.5、y=1.0の関係を満たす場合のみならず、0≦x≦1.0、0.3<y≦1.0の範囲に亘って絶縁抵抗率を改善することができる。
【0058】
また、試料4の誘電率の温度依存性をLCRメータを用いて測定した。測定周波数は1kHzとした。図2は、試料4の誘電率の温度依存性の測定結果と、LiFを添加せず大気雰囲気で焼成したNa0.50.5NbO組成物の誘電率の温度依存性の測定結果とを示す。図2において、試料4の誘電率の温度依存性を表すグラフはSample 1で表され、LiFを添加せず大気雰囲気で焼成したNa0.50.5NbO組成物の誘電率の温度依存性を表すグラフはSample 2で表されている。図示のとおり、試料4は、大気雰囲気で焼成したNa0.50.5NbO組成物と比較して高いキュリー温度を有し、圧電性セラミック組成物として好ましい特性を有することが確認できた。このように、主成分であるNa0.50.5NbO100モルに対して5.0モルのLiFを添加したセラミック組成物が圧電性セラミック組成物として特に優れた特性を有することが確認された。
【0059】
実施例4
実施例2においては、一般式Na1−xNbTa1−y表される主成分100モルに、LiFを5.0モル添加した試料を作製し、作製した各試料の特性を評価した。表6は、作製した試料(試料7〜試料16)の成分組成を示す。試料7及び試料8は本発明の範囲外であるため、表6中の試料番号に※を付した。
【表6】

【0060】
実施例1と同様の方法で、表6に示す組成を有するセラミック焼結体の試料7〜試料16を作製した。そして、試料7〜試料16の各々について、実施例1と同様の方法で、誘電率(ε)、誘電損失(tanδ)、絶縁抵抗率の対数log(Ω・cm)、及び33方向の圧電特性(d33)を評価した。各試料についての評価結果を表7に示す。
【表7】

【0061】
表7に示すとおり、いずれの試料においても、9.5以上の高い絶縁抵抗率の対数log(Ω・cm)が得られた。試料7及び試料8は、Taを大量に含んでいるため、室温で常誘電体となり、d33を測定することができなかった。また、試料7の誘電率εは620、試料8の誘電率εは890といずれも低いため、積層コンデンサとしての利用も困難であることが確認された。
【0062】
試料9は、分極処理を施しても圧電活性とならなかったため、試料9も室温にて常誘電体であり、圧電セラミック電子部品には適さないことが確認された。一方、資料9の誘電率εは1560と大きいため、セラミックスコンデンサ等の誘電性セラミック電子部品として有用である。
【0063】
試料10及び試料11の絶縁抵抗率の対数であるlog(Ω・cm)は、それぞれ10.6、10.1であり、試料10及び試料11はいずれも高い絶縁抵抗率を有することが確認された。また、試料10及び試料11のd33は、それぞれ83pC/N、91pC/Nであり、試料10及び試料11はいずれも高いd33を有することが確認された。このように、試料10及び試料11はいずれも圧電性セラミック電子部品として優れた特性を有している。
【0064】
表7に示すとおり、試料12〜試料15は、いずれも9.0以上の高い絶縁抵抗率を有している。また、試料12〜試料15はいずれも1000以上の高い誘電率εsを有しているので、試料12〜試料15はいずれも、セラミックスコンデンサ等の誘電性セラミック電子部品としても用いることができる。
【0065】
試料16は、x=1.0、y=1.0を満たす組成物Na1−xNbTa1−y、すなわちNaNbOと表される組成物を主成分とする。NaNbO単体は反強誘電体であるため圧電活性を有しないが、LiFを含有させることにより、表7に示すようにd33が46pC/Nとなり、圧電活性を有するようになった。この圧電活性は、NaNbOにLiが固溶することにより得られると考えられる。また、表3に示すとおり、試料16の誘電率εは120であるから、試料16の33方向の圧電出力定数(g33)を算出すると43.3×10−3(V/m)となる。このように、試料16は高い出力定数を有するので、圧電性セラミック電子部品として有用である。
【符号の説明】
【0066】
101:圧電セラミック層
102:内部電極
103:外部電極
200:セラミック粒子
201:コア
202:傾斜組成層
203:シェル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反強誘電体から成るコアと、
強誘電体又は常誘電体から成り、前記コアを取り囲むシェルと、
を備えるセラミック粒子を含むセラミック組成物。
【請求項2】
前記セラミック粒子が,組成式(Na1−x)(NbTa1−y)O(ただし、0≦x≦1.0、0.3<y≦1.0)で表される主成分100モルに対して、Li及びFをLiF換算でそれぞれ0.1モルから10.0モルの範囲で含む、
請求項1に記載のセラミック組成物。
【請求項3】
前記コアが、NaNbOを主成分とする、請求項1に記載のセラミック組成物。
【請求項4】
前記シェルにおけるTaの含有比率が前記コアにおけるTaの含有比率よりも高い,請求項1に記載のセラミック組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のセラミック組成物から成る少なくとも一つのセラミック層と、前記セラミック層の両主面に設けられた一組の内部電極層と、を備える積層体と、
前記積層体の表面に設けられ、前記一組の内部電極層と接続された外部電極と、
を備え、
前記一組の内部電極は卑金属から成る積層セラミック電子部品。
【請求項6】
前記内部電極が、Ni又はCuの少なくとも一つを含む請求項5に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項7】
前記外部電極が、少なくとも、Ag、Ni、Cuから成る群より選択される少なくとも一つの金属を含む請求項5に記載の積層セラミック電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−35746(P2013−35746A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−167790(P2012−167790)
【出願日】平成24年7月27日(2012.7.27)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【出願人】(599034952)ペン.ステート.リサーチ.ファウンデーション (3)
【Fターム(参考)】