説明

セラミック配線基板の製造方法

【課題】グリーンシートに対して比較的狭い間隔で隣接する複数の貫通孔を精度良く高密度で形成できる工程を含むセラミック配線基板の製造方法を提供する。
【解決手段】複数の貫通孔h1〜h5が隣接して形成され、隣接する貫通孔h1,h2同士の間に残留するセラミック部分sの幅dが50μm以下であるセラミック配線基板の製造方法であって、少なくとも表面2側が耐熱性を有する部材4で構成される治具1の表面2にグリーンシートgを載置する工程と、該グリーンシートgの上方からグリーンシートgの厚み方向に沿って、炭酸ガスレーザLを照射して貫通孔h1を形成し、更に、該貫通孔h1に隣接する別の貫通孔h2が形成される予定の位置に炭酸ガスレーザLを照射して該別の貫通孔h2を形成することにより、グリーンシートgに複数の貫通孔h1〜h5を形成する工程と、を含み、上記部材4は、熱硬化性で且つ荷重撓み温度が200℃以上の樹脂からなる、セラミック配線基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の貫通孔を狭いピッチで精度良く確実に形成可能としたセラミック配線基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
追ってセラミック基板となるグリーンシートを貫通するビア導体を内側に形成するためのビアホールは、その細径化や高密度化に対応するため、レーザ加工により形成されている(例えば、特許文献1参照)。
ところで、上記レーザ加工は、例えば、アクリル樹脂板からなる治具の表面にグリーンシートを載置した状態で、該グリーンシートに対し複数回のレーザ照射を連続して行うことにより、複数のビアホールを形成している。
【0003】
しかしながら、隣接するビアホール同士間のセラミック部分の幅が狭くなると、アクリル樹脂板からなる前記治具がレーザ光の熱により溶融し始め、更にかかる溶融部分に隣接する前記グリーンシートのセラミック部分も溶け出すので、比較的狭い間隔で隣接する複数のビアホールを形成することは、困難な場合があった。これに伴って、複数のビア導体を高密度で配置したセラミック配線基板を確実に製造することも困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−307599号公報(第1〜18頁、図1〜18)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術で説明した問題点を解決し、グリーンシートに対して比較的狭い間隔で隣接する複数のビアホールなどの貫通孔を精度良く高密度で形成できる工程を含むセラミック配線基板の製造方法を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、ビアホールなどの貫通孔を形成すべきグリーンシートを載置する治具の少なくとも表面側を耐熱性の部材により構成する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明によるセラミック配線基板の製造方法(請求項1)は、複数の貫通孔が隣接して形成され、隣接する貫通孔同士の間に残留するセラミック部分の幅が50μm以下であるセラミック配線基板の製造方法であって、少なくとも表面側が耐熱性を有する部材で構成される治具の表面にグリーンシートを載置する工程と、該グリーンシートの上方から該グリーンシートの厚み方向に沿って、炭酸ガスレーザを照射して貫通孔を形成し、更に、かかる貫通孔に隣接する別の貫通孔が形成される予定の位置に炭酸ガスレーザを照射して当該別の貫通孔を形成することにより、上記グリーンシートに複数の貫通孔を形成する工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0007】
これによれば、複数の貫通孔を形成すべきグリーンシートを載置する治具は、少なくともその表面側が耐熱性を有する部材により構成されているので、かかる治具の表面に載置したグリーンシートに対し、炭酸ガスレーザを複数回連続的に照射しても、治具の表面側にレーザの熱が滞留せず、該治具およびこれに隣接するグリーンシートの裏面側が溶け出しにくくなる。その結果、隣接する貫通孔との間に残留するグリーンシート部分の幅を、50μm以下(最少は、例えば20μm程度)に狭くし得るので、複数のビア導体を高密度で配置したセラミック配線基板を精度良く確実に製造することが可能となる。
即ち、前記グリーンシートの焼成後に得られるセラミック層において、例えば、隣接する2つの貫通孔間のピッチが90μm、貫通孔ごとの半径が30μm、且つ上記2つの貫通孔間の距離が30μmである狭いピッチにより、複数のビア導体を高密度でセラミック層に精度良く形成したセラミック配線基板が提供可能となる。
【0008】
本発明において隣接する貫通孔同士の間に残留するセラミック部分の幅を50μm以下としたのは、該幅が50μm超になると、従来のアクリル樹脂板の治具を用いても、該樹脂板がレーザの熱により溶けなくなる場合があるためである。
尚、前記グリーンシートは、アルミナやムライトなどの高温焼成セラミックの粉末、あるいは、低温焼成セラミックの一種であるガラス−セラミックとなるガラス成分およびセラミック粉末を、バインダ樹脂や溶剤などと共に含むシートである。該グリーンシートには、単層の場合のほか、複層のグリーンシートを積層する場合も含まれる。
また、前記治具は、その表面における適所に、上記グリーンシートを負圧により吸着して固定するための吸気孔を、複数個形成したものであっても良い。
【0009】
更に、前記炭酸ガスレーザの照射条件は、例えば、出力が7〜12Aで且つショット回数が3〜7回程度である。
また、前記各工程によって、グリーンシートに隣接して形成される2つ以上(複数)の貫通孔は、例えば、ビアホールあるいはスルーホールである。
更に、前記貫通孔を形成する工程の後に、複数の貫通孔(ビアホール)ごとに導電性ペーストを充填する工程、前記グリーンシートの表面および裏面の少なくとも一方に導電性ペーストを所定パターンで形成する工程、該グリーンシートを焼成する工程、該焼成により得られたセラミック層の表面および裏面の少なくとも一方に露出する導体の表面に電解金属メッキを複数回(NiメッキおよびAuメッキ)施す工程が順次施される。
そして、複数のグリーンシートを積層する形態の場合には、更に、該グリーンシートを積層し且つ圧着する工程が上記焼成工程の前に追加される。
【0010】
また、本発明には、前記治具の少なくとも表面側を構成する耐熱性の部材は、熱硬化性で且つ荷重撓み温度が200℃以上の樹脂、あるいは該荷重撓み温度と同等の耐熱性を有する金属からなる、セラミック配線基板の製造方法(請求項2)も含まれる。
これによれば、熱硬化性で且つ荷重撓み温度が200℃以上の樹脂、あるいは該荷重撓み温度と同等の耐熱性を有する金属からなる部材により前記治具、あるいは少なくとも該治具の表面側が構成されている。そのため、かかる治具の表面に載置したグリーンシートに対し、炭酸ガスレーザを複数回連続的に照射しても、治具の表面側にレーザの熱が滞留し難くなり、該治具およびこれに隣接する上記グリーンシートの裏面側が溶け出す事態を確実に抑制することが可能となる。
尚、前記樹脂は、例えば、次述する熱硬化性ポリイミドやフッ素樹脂(テフロン(登録商標))が含まれ、前記金属には、例えば、アルミニウム、亜鉛、銅、銀、これらの何れかをベースとする合金、銀ロウ、アルミロウなどが含まれる。
また、前記荷重撓み温度は、JIS K7191(ISO 75)により測定される温度(耐熱温度)である。
【0011】
更に、本発明には、前記樹脂は、熱硬化性ポリイミドあるいはフッ素樹脂である、セラミック配線基板の製造方法(請求項3)も含まれる。
これによれば、耐熱温度が800℃以上の熱硬化性ポリイミド、あるいは耐熱温度が約290℃のフッ素樹脂からなる部材により前記治具、あるいは少なくとも該治具の表面側が構成されている。そのため、かかる治具の表面に載置したグリーンシートに対し、炭酸ガスレーザを複数回連続的に照射しても、治具の表面側にレーザの熱が滞留し難くなり、該治具およびこれに隣接する上記グリーンシートの裏面側が溶け出す事態を一層確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の治具の表面にグリーンシートを載置する工程を示す概略図。
【図2】図1に続く治具の表面にグリーンシートを載置する工程を示す概略図。
【図3】上記グリーンシートに複数の貫通孔を形成する工程を示す概略図。
【図4】図3に続く上記複数の貫通孔を形成する工程を示す概略図。
【図5】図4に続く上記複数の貫通孔を形成する工程を示す概略図。
【図6】図5に続く上記複数の貫通孔を形成する工程を示す概略図。
【図7】上記工程により複数の貫通孔が形成されたグリーンシートの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
予め、アルミナ粉末に樹脂バインダおよび溶剤などを適量ずつ配合してセラミックスラリを作成し、該セラミックスラリをドクターブレード法によってシート化することによって、図1の上方に示すように、厚みが約200μmであり、且つ表面1gおよび裏面g2を有するグリーンシートgを製作した。
一方、図1の下方に示すように、表面2側が耐熱性を有する部材4で構成され、裏面3側がアクリル樹脂のベース板5からなる上下2層構造の治具1を用意した。上記部材4は、例えば、熱硬化性ポリイミド(荷重撓み温度:800℃以上)あるいは、熱硬化性フッ素樹脂(荷重撓み温度:290℃)からなる。
先ず、図1中の白抜きの矢印で示すように、上記治具1の表面2に前記グリーンシートgを載置して拘束した。その結果、図2に示すように、治具1の表面2に該グリーンシートgが載置された。
【0014】
次に、図3に示すように、治具1に載置されたグリーンシートgの表面g1における所定の位置に対し、図示しないレーザートーチから炭酸ガスレーザLを該グリーンシートgの厚み方向に沿って照射した。かかるレーザLの照射条件は、例えば、出力:7.0〜24A、およびショット数:3〜7回とした。尚、図3中の符号6は、上記レーザLの集光用レンズである。
その結果、図4に示すように、内径が50〜70μmのビアホール(貫通孔)h1がグリーンシートgに形成された。この際、炭酸ガスレーザLから発生した熱は、治具1における表面2側を構成する耐熱性の前記部材4にも及んでいたが、軟化を含む溶融状態にならないと共に、上記熱を該部材4内に溜めず、部材4から外部へ放出することができた。その結果、ビアホールh1の内壁面とグリーンシートgの裏面g2とのコーナ付近のセラミック部分(s)は、溶け出していなかった。
【0015】
引き続いて、図5に示すように、前記グリーンシートgにおいて、前記ビアホールh1に隣接する位置に対し、前記同様の炭酸ガスレーザLを照射した。
その結果、図6に示すように、前記ビアホールh1に隣接した位置に前記同様な内径のビアホールh2が形成された。係るビアホールh1,h2の間に残留するセラミック部分sの幅dは、50μm以下であった。しかも、上記ビアホールh2の内面および前記ビアホールh1の内壁面と、グリーンシートgの裏面g2とのコーナ付近ごとのセラミック部分sは、何れも溶け出していなかった。
【0016】
更に、前記のような炭酸ガスレーザLの照射を、前記ビアホールh2に隣接したグリーンシートgの表面g1における所定の位置に順次連続的に行った。
その結果、図7に示すように、前記同様な内径のビアホールh1〜h5が前記グリーンシートgに隣接して形成されると共に、隣接するビアホールhn,hn+1間に残留するセラミック部分sごとの幅dが何れも50μm以下であった。しかも、上記ビアホールh1〜h5の内壁面ごとと、グリーンシートgの裏面g2とのコーナ付近ごとのセラミック部分sは、何れも溶け出していなかった。
これによって、グリーンシートgに複数のビアホールhn、およびこれらに導電性ペーストを充填したビア導体を高密度にして形成することができた。
【0017】
更に、前記ビア導体する工程の後は、前記グリーンシートgの表面g1および裏面g2、およびこれと同様のグリーンシートの表面および裏面の少なくとも一方に導電性ペーストを所定パターンで形成してパッドや配線層を形成する工程、該複数のグリーンシートを積層し且つ焼成する工程、該焼成により得られたセラミック積層体の表面および裏面の少なくとも一方に露出するパッドなどの導体の表面に対し電解金属メッキを複数回(NiメッキおよびAuメッキ)施す工程を順次施した。
その結果、複数のセラミック層における少なくとも1層において、複数のビア導体が高密度で形成されたセラミック配線基板を得ることができた。
尚、以上のようなセラミック配線基板の製造方法は、複数個の配線基板部分を形成可能な大判のグリーンシートを用いる多数個取りの形態で行っても良い。
【実施例】
【0018】
以下において、本発明の具体的な実施例について説明する。
アルミナ粉末に樹脂バインダおよび溶剤などを所定量ずつ配合してセラミックスラリとし、該セラミックスラリをドクターブレード法によってシート化することにより、厚みが200μmで且つ平面視の寸法が共通している20枚のグリーンシートgを用意した。
上記20枚のうち、実施例とした10枚のグリーンシートgは、表面2側を熱硬化性ポリイミド(耐熱性の部材)4で構成し、且つ裏面3側をアクリル樹脂で構成した実施例の治具1の表面2において、互いに引き離して載置した。一方、残り10グリーンシートgは、比較例とし、全体がアクリル樹脂で構成され且つ厚みが上記実施例の治具1と同じである比較例の治具の表面2において、互いに引き離して載置した。
【0019】
次に、実施例10枚のグリーンシートgと、比較例の10枚のグリーンシートgとに対し、平面視で内径が50μmである縦横8個ずつ合計64個のビアホールhnを、隣接するビアホールhn,hn+1間に残留するセラミック部分sの幅が40μm(50μm以下)となるように、炭酸ガスレーザLをそれぞれ連続的に照射した。この際、該レーザLの照射条件は、何れも出力:10Aおよびショット回数:5回にして共通とした。
実施例10枚および比較例10枚のグリーンシートgの裏面g2側における縦横10個ずつ合計64個のビアホールhnを目視で観察することにより、隣接するビアホールhn,hn+1の間に残留するセラミック部分sに溶け出した跡の有無を観察した。
【0020】
その結果、実施例の10枚のグリーンシートgでは、何れのグリーンシートgにおいても、溶け出したセラミック部分sの跡が1箇所も見つからなかった。
一方、比較例の10枚のグリーンシートgでは、全てのグリーンシートgにおいて、少なくとも1箇所以上のセラミック部分sの跡が見つかった。
以上の結果は、実施例では、耐熱性の前記部材4によって表面2側が構成された実施例の治具1を用いて、グリーンシートgごとに64箇所を炭酸ガスレーザL照射したので、該レーザLの熱が上記部材4に溜まらずに放出され、且つ外部材4およびこれに隣接していたグリーンシートgのセラミック部分sに溶け出しが生じなかった、ものと推測される。
一方、比較例では、全体がアクリル樹脂からなる比較例の治具を用いて、グリーンシートgごとに64箇所を炭酸ガスレーザL照射したので、該レーザLの熱が上記治具に滞留し、これに伴って該治具の表面2側と、これに隣接していたグリーンシートgのセラミック部分sとに溶け出しが生じた、ものと推測される。
以上のような実施例によって、本発明による効果が裏付けられた。
【0021】
本発明は、以上において説明した形態に限定されるものではない。
例えば、前記グリーンシートは、ムライトや窒化アルミニウムの粉末、あるいはガラス−セラミックとなるガラス成分およびセラミック粉末に、バインダ樹脂や溶剤など適量ずつ配合したものでも良い。
また、前記レーザによりグリーンシートに形成する貫通孔は、内周面に沿って導電性ペーストがパイプ状に形成されるスルーホールであっても良い。
更に、前記治具は、前記耐熱性の部材だけで構成されたものとしても良い。
加えて、前記貫通孔は、その内周面に軸方向に沿って通常程度のテーパが付されていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によれば、グリーンシートに対して比較的狭い間隔で隣接する複数のビアホールなどの貫通孔を精度良く高密度で形成できる工程を含むセラミック配線基板の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0023】
1……………治具
2……………表面
4……………部材
g……………グリーンシート
h1〜h5…ビアホール(貫通孔)
L……………炭酸ガスレーザ
s……………セラミック部分
d……………セラミック部分の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔が隣接して形成され、隣接する貫通孔同士の間に残留するセラミック部分の幅が50μm以下であるセラミック配線基板の製造方法であって、
少なくとも表面側が耐熱性を有する部材で構成される治具の表面にグリーンシートを載置する工程と、
上記グリーンシートの上方から該グリーンシートの厚み方向に沿って、炭酸ガスレーザを照射して貫通孔を形成し、更に、かかる貫通孔に隣接する別の貫通孔が形成される予定の位置に炭酸ガスレーザを照射して当該別の貫通孔を形成することにより、上記グリーンシートに複数の貫通孔を形成する工程と、を含む、
ことを特徴とするセラミック配線基板の製造方法。
【請求項2】
前記治具の少なくとも表面側を構成する耐熱性の部材は、熱硬化性で且つ荷重撓み温度が200℃以上の樹脂、あるいは該荷重撓み温度と同等の耐熱性を有する金属からなる、
ことを特徴とする請求項1に記載のセラミック配線基板の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂は、熱硬化性ポリイミドあるいはフッ素樹脂である、
ことを特徴とする請求項2に記載のセラミック配線基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−38093(P2013−38093A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170146(P2011−170146)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】