説明

セルフレベリング性水硬性組成物

【課題】 優れた流動性と材料分離抵抗性とを併せ持ちながら、早期強度発現性に優れ、高い圧縮強度と良好な表面状態を有する硬化体が得られるセルフレベリング性水硬性組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる主成分と、硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、増粘剤及び保水剤を含むセルフレベリング性水硬性組成物であって、増粘剤はセルロース系水溶性ポリマーの増粘剤であり、保水剤はポリエーテル系水溶性ポリマーの保水剤であることを特徴とするセルフレベリング性水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた流動性と材料分離抵抗性と併せ持ちながら、早期強度発現性に優れ、良好な表面状態と高い圧縮強度の硬化体が得られるセルフレベリング性水硬性組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、住宅等の基礎コンクリートの天端などのレベル調整に用いることができるセルフレベリング性水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
流動性に優れて作業性がよく、材料分離が生じず、硬化後の表面(ショアー)硬度が優れた面精度の良好な低収縮のセルフレベリング材について、特許文献1にセメント、骨材及び混和材を主成分とし、硫酸アルミニウムがセメントと骨材との合計量に対して0.1〜0.45重量%含まれていることを特徴とするセルフレベリング性セメント組成物が開示されている。
また、特許文献2には、流動性、自己平滑性に優れ、特に硬化後の圧縮強度および下地との接着強度が極めて高い高強度セルフレベリング性セメント組成物として、ポルトランドセメントに対し、ブレーン比表面積が7000〜30000cm/gの石灰石粉、フライアッシュ及び高炉水砕スラグよりなる群から選択された1種以上の無機質高微粉砕粉末が5〜30重量%含まれてなる高強度セルフレベリング性セメント組成物が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−333150号公報
【特許文献2】特開平8−208285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、建築物用基礎コンクリート構造体を得るにあたり、良好な施工作業性性と、優れた硬化体特性とを兼ね備えたセルフレベリング性水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題に対して、本発明者らは優れた流動性と材料分離抵抗性とを併せ持ちながら、早期強度発現性に優れ、高い圧縮強度と良好な表面状態を有する硬化体が得られる水硬性材料について鋭意研究を行い、本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明の第一は、
ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる主成分と、硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、増粘剤及び保水剤を含むセルフレベリング性水硬性組成物であって、増粘剤はセルロース系水溶性ポリマーの増粘剤であり、保水剤はポリエーテル系水溶性ポリマーの保水剤であることを特徴とするセルフレベリング性水硬性組成物である。
本発明の第二は、
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルである。
本発明の第三は、
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物と水との配合物を硬化させて得られるモルタル硬化体である。
【0007】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物の好ましい態様を以下に示し、これら態様は複数組み合わせることが出来る。
1)ポルトランドセメント100質量部、細骨材100〜400質量部、混和材5〜150質量部及び膨張材3〜30質量部からなる主成分と、硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、増粘剤及び保水剤を含むセルフレベリング性水硬性組成物であって、硫酸アルミニウムは、セメントと細骨材との合計量(100質量%)に対して0.1〜0.7質量%であり、石灰石微粉末は、セメントと細骨材との合計量(100質量%)に対して11〜35質量%であること。
2)収縮低減剤は、主成分100質量部に対し0.1〜3質量部であること。
3)セルフレベリング性水硬性組成物は、さらに繊維を含み、主成分100質量部に対して繊維が0.01〜5質量部であること。
4)セルフレベリング性水硬性組成物は、さらに流動化剤と消泡剤とを含み、主成分100質量部に対して、流動化剤が0.01〜3質量部であり、消泡剤が0.01〜3質量部であること。
5)セルフレベリング性水硬性組成物は、さらに硫酸アルミニウムを除く他の凝結調整剤を含むこと。
6)セルフレベリング性水硬性組成物は、住宅基礎コンクリートの天端のレベル調整に用いられること。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる主成分と、硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、増粘剤及び保水剤とを用いることにより、材料分離抵抗性に優れた特性を有しつつ、良好な流動特性、特にモルタルの流動速度を高めることにより施工効率の向上をはかるとともに、図2に示すように複数箇所から施工したモルタルの合流箇所の均質性を向上させてモルタル硬化体物性の向上がはかれる。
また、モルタルの硬化特性も良好で、水平レベル精度の優れた硬化体表面と高い圧縮強度を有するモルタル硬化体を得ることができる。
特に、住宅基礎コンクリートの天端のレベル調整に、本発明のセルフレベリング性水硬性組成物を用いたモルタルを施工することによって、優れた施工作業性を得ることができ、平滑性が高く、高強度な住宅基礎コンクリート構造体を短工期で形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる主成分と、硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、水溶性のセルロース系増粘剤及び水溶性のポリエーテル系保水剤とを合わせて使用する。
【0010】
ポルトランドセメントは、JISに適合する普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどを使用でき、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなども使用できる。
【0011】
細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂、シリカ粉、粘土鉱物、廃FCC触媒などの無機質材などの細骨材を用いることができる。
細骨材の粒度としては、好ましくは2mm以下の粒径のもの、さらに好ましくは1mm以下の粒径のもの、より好ましくは0.7mm以下の粒径のもの、特に好ましくは0.6mm以下の粒径のものを好適に用いることができる。
細骨材の使用量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは100〜400質量部、さらに好ましくは120〜350質量部、より好ましくは140〜320質量部、特に好ましくは150〜300質量部の範囲であり、前記範囲内では流動性と材料分離抵抗性に優れたモルタル・スラリーが得られると共に、表面状態の優れ高強度の硬化物が得られることから好ましい。
【0012】
混和材としては、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末などのスラグ粉末などを挙げることができ、これらは単独でも2種以上併用しても用いることができる。特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができることから好適である。
混和材の粉末度(ブレーン比表面積)は、3,000〜5,000cm/gのものを好適に用いることができる。ブレーン比表面積が3,000cm/g未満の場合、モルタル・スラリーの材料分離抵抗性を高める効果が乏しくなり、また、混和材の水和反応性が乏しくなることから好ましくなく、5,000cm/gを超えるとモルタル・スラリーの粘性が高くなる傾向が顕著になって流動性を阻害することがあるため好ましくない。 混和材の使用量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは5〜150質量部、さらに好ましくは10〜120質量部、より好ましくは15〜90質量部、特に好ましくは20〜80質量部の範囲で使用することが適当であり、前記範囲で混和材を用いることによって表面性状及び圧縮強度に優れたモルタル硬化体を得ることができる。
【0013】
セルフレベリング性水硬性組成物は、主成分のひとつとして膨張材を使用する。
膨張材は、例えばエトリンガト系のカルシウムサルホアルミネートを主成分とする膨張材、酸化カルシウム、酸化アルミニウム及び三酸化イオウを主成分とする膨張材、生石灰などの石灰系膨張材、石膏などの石膏系膨張材などを挙げることができ、前記の膨張材のなかでも石膏系膨張材、特に石膏を含有するものを好適に用いることができる。
膨張材の使用量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは3〜30質量部、さらに好ましくは5〜25質量部、より好ましくは8〜20質量部、特に好ましくは10〜18質量部の範囲で使用すると、適正な膨張性を発現してモルタル硬化体の長さ変化を抑制できると同時に、過剰な膨張作用に起因するクラックの発生を防止できることから好ましい。
【0014】
膨張材として特に好適に用いられる石膏としては、無水、半水等の石膏がその種類を問わず、一種又は二種以上の混合物として使用できる。
また、石灰類としては、生石灰、消石灰、仮焼ドロマイト等が挙げられ、一種又は二種以上の混合物として使用できる。
【0015】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物では、ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる主成分とともに、硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、水溶性のセルロース系増粘剤及び水溶性のポリエーテル系保水剤を用いる。
【0016】
硫酸アルミニウムは、ポルトランドセメントと細骨材との合計量(100質量%)に対して好ましくは0.1〜0.7重量%、さらに好ましくは0.15〜0.6重量%、より好ましくは0.2〜0.5重量%、特に好ましくは0.25〜0.45重量%の範囲で使用することによって良好な強度発現の増進効果が得られ、この早期強度発現によって良好な硬化体の収縮低減効果が得られる。
硫酸アルミニウムは、その含有量が少なすぎると収縮低減効果の発現が不十分となり、また含有量が増すに従って収縮低減効果も大きくなるが、過剰に添加するとセメントの凝結促進効果が顕著になってモルタル・スラリーの流動性が低下するとともに、硬化体に微細なひび割れが生じることがあるため、硫酸アルミニウムは前記範囲で使用することが好適である。
【0017】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物では、収縮低減剤を特性を損なわない範囲で配合することにより、硬化時のクラックの発生を抑制して圧縮強度を向上させる効果がある。
収縮低減剤としては、公知の収縮低減剤を用いることができ、特に下記化学式(1)で表されるアルキレンオキシド重合物を化学構造の骨格に有するものなどを好適に用いることができる。
【0018】
【化1】

(但し式1中、R及びRは、互いに独立してアルキル基、フェニル基、シクロアルキル基、水素基などであり、Aは炭素数2〜3の1種のアルキレン基(エチレン基、プロピレン基)又はランダム若しくはブロック重合させた2種のアルキレン基であり、nは2〜20の整数である。)
収縮低減剤としては、例えばポリプロピレングリコール、ポリ(プロピレン・エチレン)グリコールなどのポリアルキレングリコール類、炭素数1〜6のアルコキシポリ(プロピレン・エチレン)グリコールなどの一般に公知のものを用いることができる。
セルフレベリング性水硬性組成物において収縮低減剤の使用量は、使用する主成分や副成分の配合割合によって適宜選択すればよく、例えば主成分100質量部に対して好ましくは0.1〜3質量部、さらに好ましくは0.15〜2質量部、より好ましくは0.18〜1質量部、特に好ましくは0.2〜0.8質量部を含むことが好ましい。
【0019】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物では、水硬性モルタルに優れた流動性、特に、優れた流動速度を付与すると共に、材料分離抵抗性を向上させ、さらには高い圧縮強度を有するモルタル硬化体を得るために石灰石微粉末を配合する。
本発明で使用する石灰石微粉末は、ポルトランドセメントと細骨材との合計量(100質量%)に対して好ましくは11〜35質量%、さらに好ましくは12〜33質量%、より好ましくは13〜31質量%、特に好ましくは14〜30質量%の範囲で使用することによって、良好な流動性と優れた材料分離抵抗性を持ったモルタル・スラリーと、良好な表面状態と優れた圧縮強度を有する硬化体とを得ることが出来る。
石灰石微粉末は、その使用量が少なすぎると良好な材料分離抵抗性が得られにくくなり、また硬化体強度の向上効果も不充分になることから好ましくない。逆に過剰に添加するとモルタル・スラリーの粘性が増加する傾向にあり、流動性が低下することから好ましくない。このため石灰石微粉末の使用量は前記の範囲で使用することが好ましい。
石灰石微粉末の粉末度(ブレーン比表面積)は、3,000〜5,000cm/gのものを好適に用いることができる。ブレーン比表面積が3,000cm/g未満の場合、モルタル・スラリーの材料分離抵抗性を高める効果が乏しくなることから好ましくなく、5,000cm/gを超えるとモルタル・スラリーの粘性が高くなる傾向が顕著になって流動性を阻害することがあるため好ましくない。
【0020】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物では、水硬性モルタルのセルフレベリング性と材料分離抵抗性とを高い次元でバランスさせ、さらに、水硬性モルタルが硬化する初期過程でのモルタル表面の乾燥を抑制してひび割れの発生を回避するために水溶性のセルロース系増粘剤と水溶性のポリエーテル系保水剤とを併せて使用する。
【0021】
増粘剤としては、セルロース系水溶性ポリマーを主成分とする増粘剤を好適に用いることができる。
増粘剤の具体例としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、グリオキザール付加ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体等の水溶性高分子等が挙げられる。
増粘剤を添加する効果としては、特に卓越した流動性を有する水硬性モルタルの材料分離抵抗性を高める効果が著しく、特定の保水剤と併用して用いることによって、モルタルの流動性状をほとんど損なうことなく材料分離を回避・抑制することができる。
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、主成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.02〜0.5質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、流動性の低下を招く恐れがあり好ましくない。
【0022】
保水剤としては、ポリエーテル系水溶性ポリマーを主成分とする保水剤を好適に用いることができる。
保水剤としては、セメント等の水硬性成分の粒子面への吸着特性を有しないポリエーテル系の水溶性ポリマーが、凝結遅延の影響を与えず、また、流動化剤の作用を妨げないことから好ましい。
保水剤は水への溶解性が高いことが好ましく、20℃の水に2%濃度で保水剤が溶解した水溶液粘度は、
好ましくは35000〜70000cpsの範囲、さらに好ましくは40000〜65000cpsの範囲、特に好ましくは45000〜60000cpsの範囲のものを用いることにより、水硬性モルタルを施工後、硬化が進行する初期段階でのモルタル表面の保水状態を良好に保つことができる。
保水剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、主成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.02〜0.5質量部含むことが好ましい。保水剤の添加量が多くなると、併用する増粘剤との相乗効果が顕著になり、流動性が低下する傾向が生じるため好ましくない。
【0023】
セルフレベリング性水硬性組成物は、必要に応じて繊維や樹脂粉末、流動化剤(減水剤)、消泡剤、凝結調整剤などを含むことができる。
【0024】
セルフレベリング性水硬性組成物は、硫酸アルミニウムを除く凝結調整剤を、必要に応じて配合することができ、凝結遅延を行う成分である凝結遅延剤と、凝結促進を行う成分である凝結促進剤とを、各々単独で、或いは併用して用いることができる。
セルフレベリング性水硬性組成物は、凝結調整剤の凝結促進剤及び/又は凝結遅延剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、流動性、可使時間、硬化性状などを調整することができ、20℃の場合では可使時間を数分程度から1時間程度まで任意の時間に調整することができる。
【0025】
凝結促進剤としては、公知の凝結促進剤を用いることが出来る。凝結促進剤の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸などの、無機リチウム塩や有機リチウム塩などのリチウム塩や、硫酸アルミニウムを除く金属硫酸塩を好適に用いることが出来る。特に硫酸カリウムは、硫酸アルミニウムとの併用により安定した凝結促進効果が得られ、また、入手容易性、価格の面からも特に好ましい。
硫酸カリウムを使用する場合のその使用量は、ポルトランドセメントと細骨材との合計量(100質量%)に対して好ましくは0.1〜0.9質量%、さらに好ましくは0.15〜0.8質量%、より好ましくは0.2〜0.75質量%、特に好ましくは0.25〜0.7質量%の範囲で使用することによって良好な強度発現の増進効果が得られることから好ましい。
凝結促進剤としては、特性を妨げない粒径を用いることが好ましく、粒径は50μm以下にするのが好ましい。
【0026】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることが出来る。凝結遅延剤の一例として、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウムなど有機酸などの、無機ナトリウム塩や有機ナトリウム塩などのナトリウム塩を用いることが出来る。
凝結遅延剤を使用する場合のその使用量は、ポルトランドセメントと細骨材との合計量(100質量%)に対して好ましくは0.1〜1.0質量%、さらに好ましくは0.2〜0.85質量%、より好ましくは0.25〜0.8質量%、特に好ましくは0.3〜0.75質量%の範囲で使用することによって良好な強度発現の増進効果が得られることから好ましい。
【0027】
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、オレフィン不飽和カルボン酸共重合体塩、リグニンスルホン酸塩、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系、ポリカルボン酸系等の流動化剤で市販のものが、その種類を問わず使用できる。
流動化剤(減水剤)は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ主成分100質量部に対し、0.001〜5質量部、さらに好ましくは0.01〜4質量部、より好ましくは0.03〜3質量部、特に好ましくは0.05〜2質量部であり、添加量が余り少ないと十分な効果が発現せず、また多すぎても添加量に見合った効果は期待できず単に不経済であるだけでなく、所要の流動性を得るための混練水量が増大し、同時に粘稠性も大きくなり、充填性が悪化する場合がある。
【0028】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物では、前記の増粘剤及び保水剤に加えて、消泡剤を併用して用いることが好ましく、主成分に含まれる細骨材の分離抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、セルフレベリング材としての特性を向上させることができる。
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質、石油精製由来の鉱物油系又は又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることが出来る。
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、主成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.02〜0.5質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内で良好な消泡効果が認められ、モルタル・スラリーの流動性と硬化体表面の仕上り性を良好に調整できることから好ましい。
【0029】
繊維としては、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニルなどの樹脂成分からなる有機繊維、ステンレス繊維、アルミ繊維などの金属系繊維などを用いることが出来、これらは一種又は二種以上の混合物として使用できる。
特に繊維は、有機繊維が好ましく、繊維長は0.5〜15mm程度のものを用いることが好ましい。
セルフレベリング性水硬性組成物は、繊維を含むことにより、曲げ強度に優れ、クラックの起きにくい又は起きない硬化物を安定して得ることができる。
繊維は、主成分100質量部に対し、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.003〜1質量部、より好ましくは0.01〜0.5質量部、特に好ましくは0.03〜0.2質量部含むことが好ましい。
【0030】
樹脂粉末は、公知の建設用又は建材用の高分子エマルジョンより液体成分を除去した高分子粒子(再乳化樹脂粒子など)を用いることができ、例えばα、β−エチレン性不飽和単量体を乳化重合して得られる高分子エマルジョンの液体成分を除去して得られる高分子樹脂粒子などを挙げることができる。
樹脂粉末は、主成分100質量部に対し、好ましくは0.001〜10質量部、好ましくは0.005〜8質量部、好ましくは0.01〜5質量部、特に好ましくは0.05〜2質量部配合することができる。
【0031】
α、β−エチレン性不飽和単量体としては、公知のα、β−エチレン性不飽和単量体を挙げることができ、例えばアクリル酸及びこのエステルなどの誘導体、メタクリル酸及びこのエステルなどの誘導体、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン、酢酸ビニル、スチレンなどの芳香族ビニル類、塩化ビニル、バーサチック酸ビニルエステルなどの炭素数が9〜11の第3級脂肪酸ビニルエステル(R−COO−CH=CH、Rは炭素数が9〜11の第3級炭素である)などを挙げることができる。
【0032】
セルフレベリング性水硬性組成物は、水と配合して混練することにより、水硬性モルタルを製造することができ、用途に応じて水の配合量を適宜選択することにより、モルタルフローを調整した水硬性モルタルを製造することができる。
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物において、水の配合量は、主成分100質量部に対し、好ましくは10〜70質量部、さらに好ましくは20〜50質量部、より好ましくは25〜40質量部を加えて用いることが好ましい。
【0033】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、水と混合して調製した水硬性モルタルのフロー値(JASS・15M−103に記載の試験方法に準拠して測定)が、
好ましくは180〜270mm、
さらに好ましくは200〜260mm、
特に好ましくは210〜250mmに調整されていることが、施工の容易さ及び優れた流動性、特に卓越したモルタル流動速度を安定して発揮させて、水平レベル精度が高くスラリー同士の合流箇所の馴染み性が優れるという理由により好ましい。
【0034】
本発明で使用するセルフレベリング性水硬性組成物は、水と混合して調製した水硬性モルタルのSL測定器(図1)を使用したSL流動速度(L0)(秒/200mm)が、
好ましくは2〜9秒の範囲、
さらに好ましくは2.5〜8秒の範囲、
特に好ましくは3〜7秒の範囲に調整されていることが、施工の容易さ及び卓越したモルタル流動速度を安定して発揮させて、水平レベル精度が高くスラリー同士の合流箇所の馴染み性が優れるという理由により好ましい。
【0035】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、水と混合して調製した水硬性モルタルの硬化体圧縮強度が、材齢28日で
好ましくは27N/mm以上であること、
さらに好ましくは28N/mm以上であること、
特に好ましくは29N/mm以上であることが、コンクリート構造体として高い耐久性を確保できることから好ましい。
【0036】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、左官材、屋根材、床材、壁材、防水材などの用途で、流し込み用、こて塗り用及び吹き付け用のモルタルとして、さらに、土木構造物の補修や補強に用いる断面修復材やグラウト材などとして、土木、建築、建設分野に使用することができる。
特に、本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、コンクリートの表面仕上げや住宅基礎コンクリートの天端の表面仕上げ(レベル調整)等に優れた性能を発揮し、施工効率の向上や水平レベル精度が高く、高強度なモルタル硬化体の形成を通じて、信頼性の高いコンクリート構造体を提供できる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0038】
(モルタルのフロー評価)
フロー値は、JASS・15M−103に記載の試験方法に準拠して測定する。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ51mmの塩化ビニル製パイプ(内容積100ml)を置き練り混ぜたモルタルを充填した後、パイプを引き上げる。広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とする。
【0039】
(モルタルのSL性評価)
図1に示すSL測定器を使用し、幅30mm×高さ30mm×長さ750mmのレールに、先端より長さ150mmのところに堰板を設け、混練直後のモルタルを所定量満たして成形する。成形直後に堰板を引き上げて、モルタルの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からモルタルの流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL0とし、堰板より200mm流れる時間を測定し、その測定時間をSL流動速度(L0)(秒/200mm)とする。
同様に成形後30分後に堰板を引き上げて、モルタルの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からモルタルの流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL30とし、堰板より200mm流れる時間を測定し、その測定時間をSL流動速度(L30)(秒/200mm)とする。
【0040】
(モルタルの材料分離抵抗性の評価)
図1に示すSL測定器を使用し、幅30mm×高さ30mm×長さ750mmのレールに、先端より長さ150mmのところに堰板を設け、混練直後のスラリーを所定量満たして成形する。成形直後に堰板を引き上げて、モルタルの流れの停止後に、モルタルの流れの先頭部について、細骨材とペーストの材料分離状態を触診により評価する。
【0041】
(モルタル硬化体の圧縮強度試験)
圧縮強度については、JIS・R5201に準拠して、温度20℃、湿度65%の環境下で測定する。
測定試料は、モルタル供試体成形用型(40×40×160mm)で成型、養生し、硬化させた材齢28日の供試体を用いる。
【0042】
(モルタル硬化体表面硬度の評価)
打設後、1日後に硬化した表面の硬度をスプリング式硬度計タイプD型(上島製作所社製)を用いて、任意の3〜5カ所の表面硬度を測定し、そのスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値を1日後の表面硬度とする。
【0043】
(硬化後の表面状態評価)
モルタルを、パレット(280×190×H15mm)に流し込み、温度5℃(実施例2)、20℃(比較例1及び2)、35℃(実施例3)、湿度65%の環境下の条件で養生して、得られた硬化物の表面を目視で観察して評価する。表面の粉化、凹凸及び初期表層クラックの3項目について評価を行う。
・粉化の評価 :(○:粉化が無し、×:粉化が認められるの2段階で行う。)
・表面の凹凸の評価:(○:凹凸が0、△:凹凸が1〜5個程度、×:凹凸が多数認められるの3段階で行う。)
・初期表層クラックの評価 :(○:クラックが0、△:クラックが1〜5個程度、×:クラックが多数認められるの3段階で行う。)
【0044】
(1)使用材料:以下の材料を使用した。
・ポルトランドセメント:三菱宇部セメント社製、早強セメント、ブレーン比表面積4,500cm/g。
・高炉スラグ : 川崎製鉄社製、リバメント、ブレーン比表面積4,400cm/g。
・細骨材(珪砂) : 東海サンド社製、浜岡砂(最大粒径:0.6mmのもの)。
・石灰石微粉末 : 炭酸カルシウム微粉末、有恒鉱業社製、TM−1号、ブレーン比表面積4,830cm/g。
・石膏 : 旭硝子社製、フッ酸無水石膏、ブレーン比表面積3,300cm/g。
・収縮低減剤 : 竹本油脂社製、ヒビダン。
・凝結促進剤A : 硫酸カリウム、上野製薬社製。
・凝結促進剤B : 硫酸アルミニウム、大明化学工業社製、S150。
・凝結遅延剤 : グルコン酸ナトリウム、富田製薬社製。
・樹脂粉末 : クラリアントポリマー社製、モビニールパウダーDM201P。
・繊維 : ポリエステル繊維、京都繊維資材社製、繊維長:2mm。
・流動化剤 : ポリカルボン酸系減水剤(市販品、建材用)。
・増粘剤 : 松本油脂社製、セルロース系水溶性ポリマー、マーポローズEMP30。
・保水剤 : 三井化学ポリウレタン社製、ポリエーテル系水溶性ポリマー、ビスコスター50K。
・消泡剤A : サンノプコ社製、SNデフォーマー88P。
・消泡剤B : ADEKA社製、アデカネートB115F。
【0045】
(比較例1〜2、実施例1〜3)
表1に記載の主成分と、表2に示す添加し混合してセルフレベリング性水硬性組成物を製造した。次いで水(0.26kg)を入れたポリエチレンビーカ(2.0リットル)内をミキサーで撹拌しながら、水/セルフレベリング性水硬性組成物比が0.26になるようにセルフレベリング性水硬性組成物(1kg)を投入し、3分間混練し、モルタルを得た。モルタルのフロー値、SL値及び流速を測定し、材料分離の傾向を評価した。
モルタルの硬化体については、材齢1日後の硬化体表面硬度を測定し、材齢28日後の圧縮強度及び表面状態の評価を行った。結果を表3に示す。(温度5℃(実施例2)、20℃(比較例1及び2)、35℃(実施例3)、湿度65%の環境下で養生)
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
1)比較例1と比較例2とを対比すると、セルフレベリング性水硬性組成物に含まれるポルトランドセメント量が増加し、炭酸カルシウム微粉末がセメント量の50%程度配合された比較例2は、極めて優れたスラリー流動速度(L0)を示し、モルタルの材料分離抵抗性が改善されると共に、圧縮強度が大幅に向上した。しかしながら、比較例1では問題がなかった硬化体表面の初期表層クラックが、比較例2では微細ながらも多数発生した。
2)比較例2の配合で用いた増粘剤について、増粘剤と保水剤とを併用する配合に変更した実施例1では、優れたスラリー流動速度(L0)、材料分離抵抗性及び高い圧縮強度を保持しながら、初期表層クラックの発生が解消されていた。
3)炭酸カルシウム微粉末を配合し、さらに増粘剤と保水剤とを併用した実施例2及び実施例3では、評価温度が5℃及び35℃においても、実施例1の場合と同様に、極めて優れたスラリー流動速度(L0)、良好な材料分離抵抗性及び高い圧縮強度が得られていた。
【0049】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる主成分と、硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、増粘剤及び保水剤とを用いることにより、優れたスラリー流動速度、材料分離抵抗性及び高圧縮強度を保持しながら、良好な表面状態を有する硬化体を得ることができる。
特に、スラリーの流速が大きい場合、施工時の効率を向上させるのみならず、複数箇所から施工したモルタル・スラリーが合流する箇所でのモルタル・スラリーの均質化に好影響を及ぼし、硬化体表面の仕上りが良くなるばかりでなく、硬化体強度のバラツキをも大幅に改善する効果がある。
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物を住宅基礎コンクリートの天端のレベル調整用途に用いることにより、優れた施工作業性を得ることができ、平滑性が高く、高強度な住宅基礎コンクリート構造体を短工期で形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】SL測定器を用いて、セルフレベリング性評価の概略を示す図である。
【図2】水硬性モルタルを流し込み施工した際のモルタル合流箇所を模式的に示す斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる主成分と、
硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、増粘剤及び保水剤を含むセルフレベリング性水硬性組成物であって、
増粘剤はセルロース系水溶性ポリマーの増粘剤であり、
保水剤はポリエーテル系水溶性ポリマーの保水剤であること
を特徴とするセルフレベリング性水硬性組成物。
【請求項2】
ポルトランドセメント100質量部、細骨材100〜400質量部、混和材5〜150質量部及び膨張材3〜30質量部からなる主成分と、
硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、増粘剤及び保水剤を含むセルフレベリング性水硬性組成物であって、
硫酸アルミニウムは、セメントと細骨材との合計量(100質量%)に対して0.1〜0.7質量%であり、
石灰石微粉末は、セメントと細骨材との合計量(100質量%)に対して11〜35質量%であること
を特徴とする請求項1に記載のセルフレベリング性水硬性組成物。
【請求項3】
収縮低減剤は、主成分100質量部に対し0.1〜3質量部であること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセルフレベリング性水硬性組成物。
【請求項4】
セルフレベリング性水硬性組成物は、さらに繊維を含み、
主成分100質量部に対して繊維が0.01〜5質量部であること
を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルフレベリング性水硬性組成物。
【請求項5】
セルフレベリング性水硬性組成物は、さらに流動化剤と消泡剤とを含み、
主成分100質量部に対して、流動化剤が0.01〜3質量部であり、消泡剤が0.01〜3質量部であること
を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルフレベリング性水硬性組成物。
【請求項6】
セルフレベリング性水硬性組成物は、さらに硫酸アルミニウムを除く他の凝結調整剤を含むこと
を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルフレベリング性水硬性組成物。
【請求項7】
セルフレベリング性水硬性組成物は、住宅基礎コンクリートの天端のレベル調整に用いられること
を特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルフレベリング性水硬性組成物。
【請求項8】
請求項1〜7に記載のセルフレベリング性水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタル。
【請求項9】
請求項1〜7に記載のセルフレベリング性水硬性組成物と水との配合物を硬化させて得られるモルタル硬化体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−247666(P2008−247666A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90707(P2007−90707)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】