説明

セルロースアシレートフィルムの製造方法

【課題】支持体の表面に汚れが発生するのを抑制しながら長時間連続してフィルムを製造する。
【解決手段】セルロースアシレート、溶剤等を攪拌混合してドープ27を調製する。ドープ27の中にマグネシウム塩を含む捕捉剤溶液47aを添加する。ここで、セルロースアシレートの質量M1とマグネシウムの質量M2との比であるM2/M1が、1×10−6以上1×10−3以下となるように捕捉剤溶液47aの添加量を調整する。マグネシウムイオンによりセルロースアシレート等に起因するカルシウムイオンと脂肪酸イオンとの結合を阻害し、脂肪酸マグネシウムを生成させる。これにより、プレートアウトの原因である脂肪酸カルシウム塩の生成が抑制される。濾過装置49でドープ27中の脂肪酸マグネシウム塩等を捕捉し、不溶解物を除去する。このドープ27を用いると、支持体の表面に不溶解物の析出によるプレートアウトの発生が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用途等に用いられるセルロースアシレートフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、電子機器の小型・薄型化を可能としながら良好な画像品質を提供することができる液晶ディスプレイ(LCD)の需要が拡大しており、その主要構成部品である光学フィルムの需要も拡大している。光学フィルムは、例えば、偏光板の保護フィルムや、光のズレを補正するための位相差フィルム、反射防止フィルム等が挙げられ、ポリマーや添加剤等からなるポリマーフィルムが主流とされる。中でも、セルロースアシレートを原料とするポリマーフィルムは、製造時の取り扱い性に優れると共に、良好な光学特性を有するため需要が高い。
【0003】
セルロースアシレートフィルムの製造には、溶液製膜方法が適する。溶液製膜方法とは、走行する支持体の上に、セルロースアシレートや溶剤、添加剤等を混合したドープを流延して流延膜を形成した後、この流延膜を支持体より剥ぎ取ってから乾燥させてフィルムとするポリマーフィルムの製造方法である。これによれば、セルロースアシレートが熱ダメージを受けるおそれが少ないので、ポリマーフィルムの製造方法として代表である溶融製膜方法で製造するよりも、透明度が高いフィルムを安定して製造することができる。
【0004】
ところで、溶液製膜方法により連続的に製膜していると、支持体として作用する金属製のドラムやバンドの表面が経時的に汚れてくる。このような現象はプレートアウトと呼ばれる。図4に示すように、ドープ2の中では、セルロースアシレートにもともと含まれていた脂肪酸R−COOH及びカルシウムCaのイオンである(R−COO)、Ca2+が作用して脂肪酸カルシウム(R−COO)Ca等の不溶解物が生成する。この不溶解物が支持体の表面に析出したものが汚れと考えられる。流延膜に汚れが付くと、流延膜やフィルムの平面性が低下してしまう。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1では、プレートアウトが発生した時には、一旦、製膜を停止し、溶剤を浸した布等で支持体の汚れを拭き取る方法が提案されている。また、例えば、特許文献2には、不活性な微粒子である濾過助剤を分散させたドープを濾材に通過させて濾材の上に多孔質層を形成させることで、不溶解物を捕捉し、不溶解物の少ないドープを流延させてプレートアウトの発生を抑制する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2003−001654号公報
【特許文献2】特開2004−107629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、支持体上にプレートアウトが発生した後での対策にすぎず、更に、製膜を一旦停止するので生産性が低下するという問題がある。特許文献2では、微細な不溶解物を捕捉するために孔径の小さい濾材を用いるので、濾圧の上昇や濾過時間が長引いて濾過効率が低下する等の問題を抱える。
【0007】
本発明は、生産性を低下させることなく、プレートアウトの発生を抑制しながら、透明度が高く、平面性に優れるフィルムを長時間連続して製造することができるセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法は、支持体の上に、セルロースアシレート及び溶剤を含むドープを流延して流延膜を形成した後、支持体より剥ぎ取った流延膜を乾燥手段により乾燥させてフィルムとするセルロースアシレートフィルムの製造方法において、セルロースアシレートの質量M1とマグネシウムの質量M2との比であるM2/M1が、1×10−6以上1.00×10−3以下となるようにドープにマグネシウム塩を添加し、セルロースアシレートに起因する脂肪酸イオンとマグネシウム塩から分離したマグネシウムイオンとを結合させて脂肪酸マグネシウム塩を生成させることにより、セルロースアシレートに起因するカルシウムイオンと脂肪酸イオンとが結合してなり、支持体の表面に汚れとして析出する脂肪酸カルシウム塩の生成を抑制することを特徴とする。
【0009】
マグネシウム塩は、硫酸マグネシウムであることが好ましい。濾過装置を用いてマグネシウム塩を添加した後のドープを濾過することにより、硫酸マグネシウムに起因する硫酸イオンとカルシウムイオンとが結合してなる硫酸カルシウムを含む不溶解物を捕捉することが好ましい。
【0010】
ドープに含まれるカルシウムの質量M3と質量M2との比であるM3/M2が、1×10−3以上10以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、プレートアウトの発生を抑制しながら、平面性に優れ、かつ透明度の高いセルロースアシレートフィルムを長時間連続して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係るセルロースアシレートフィルムの製造方法について、実施形態を示しながら説明する。図1は、本実施形態で用いるドープ製造設備10の概略図である。なお、ここに示す形態は本発明に係る一例であり、本発明を限定するものではない。
【0013】
溶剤タンク11には、ドープの原料とされる溶剤が貯留され、添加剤タンク12には、予め添加剤を溶剤と混合した添加剤溶液が貯留されている。また、ホッパ13には、セルロースアシレートが貯留されている。これらのタンクは、いずれも混合タンク15に接続されており、適宜適量の各種ドープ原料が混合タンク15に送り込まれる仕組みとなっている。溶剤タンク11及び添加剤タンク12からの原料の供給/停止は、バルブV1、V2の開閉により調整される。
【0014】
各種ドープ原料を混合タンク15に送る順番、送り込む形態等は特に限定されるものではなく、例えば、送る順番は、各種ドープ原料を同時に送っても良いし、溶剤とポリマーとを混合させた混合物に添加剤を添加する形態でも良い。また、添加剤は必ずしも溶液とする必要はなく、使用する添加剤の形態に応じて適宜変更すれば良い。例えば、添加剤が常温で液体の場合には、そのままの状態で使用すれば良いし、添加剤が固体の場合には、ホッパ等を用いて添加させれば良い。
【0015】
ステンレス製である混合タンク15には、その外周を包み込むようにしてジャケット17が備えられている。温度を調整した伝熱媒体がジャケット17に供給され、その内部温度が−10〜55℃の範囲内で略一定とされる。また、混合タンク15には、モータ18、19により駆動する第1攪拌機20及び第2攪拌機22が取り付けられており、連続的に回転させて各種ドープ原料を攪拌混合させることにより混合液25が調製される。本実施形態では、第1攪拌機20としてアンカー翼を有するタイプを使用し、第2攪拌機22としてディゾルバータイプの偏芯型攪拌機を使用する。このように形態の異なる攪拌機を適宜選択して使用すると、混合タンク15に送り込まれた各種ドープ原料を効率良くかつ効果的に攪拌混合させることができる。
【0016】
混合液25は、ポンプP1により混合タンク15から加熱装置26へ送られる。加熱装置26は、混合液25が流れる菅と、この菅の内部温度を制御するためのジャケットを菅の外周に有する。菅には、内部を加圧するための加圧手段が備えられる。加熱装置26に送り込まれた混合液25は、0〜97℃の範囲内の略一定の温度となるように加熱されることで、溶剤に対する固形分の溶解度が高められる。ここで、混合液25を加圧手段により加圧すると溶解度をよりいっそう高めることができる。なお、加熱装置26による加熱とは、混合液25の温度を上昇させることであり、混合液25が室温以上の温度に加熱される必要はない。したがって、例えば、加熱装置15により−7℃の混合液17を0℃にする場合もある。
【0017】
本実施形態では、混合液25の溶解度を高める方法として加熱溶解方法を例に挙げたが、本方法に替えて、冷却溶解方法も好適に用いることができる。冷却溶解方法とは、冷却装置を使用して混合液25を−100〜−10℃の範囲で冷却させることにより溶解度を高める方法である。加熱溶解方法や冷却溶解方法は、各ドープ原料の性能や形態等に応じて適宜選択して実施すれば良い。また、これらの方法は、いずれか一方を行なう形態でも良いし、同時に行なっても良い。本発明において混合液或いはドープに関する溶解度とは、溶剤に対してセルロースアシレート等の固形分が溶解している度合いを意味する。
【0018】
溶解度が高められた混合液25は温調装置29へ送られ、略室温とされることでドープ27となる。本発明では、溶解度が高い混合液25をドープとする。したがって、本実施形態では、温調装置29より下流の液をドープ27と称しているが、加熱装置26を出た時点で既に溶解度が高い場合は、これをドープ27とみなすことができる。なお、ドープ27は、含有する固形分の全てが溶剤に溶解している必要はなく、溶剤に固形分が分散している形態でも良い。
【0019】
第1濾過装置30には、その内部に平均孔径が100μm以下の多孔質の濾紙が備えられている。第1濾過装置30に送られたドープ27は、濾紙により不溶解物が捕捉される。濾紙の孔径や材質は特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス等の金属フィルタや、セルロース系等の有機フィルタが好適に用いられる。濾紙の平均孔径を小さくするほど微細な不溶解物を捕捉することができるため好ましいが、濾過時間が長くなり濾過効率が低下するという問題が生じる。一方で、平均孔径が大きすぎるとドープ27に含まれる微細な不溶解物を捕捉することが困難となるため、濾紙の孔径は濾過時間等の濾過効率を考慮した上で、適宜選択する。
【0020】
濾過したドープ27の濃度が所望の値を満たす場合、ドープ27はストックタンク33へ送られ、ここに貯留される。ストックタンク33には、その外面を包み込むように設けられたジャケット34と、モータ35により回転される攪拌機36が取り付けられており、所定の温度に調整されたストックタンク33の内部でドープ27は常時攪拌される。これにより、流延に供するまで、ドープ27は固形分等が凝集して異物が生成するのを抑制されながら均一な状態が保持される。
【0021】
上記のように、混合液25から所望の濃度のドープ27を調製する方法では、所望とするドープ27の濃度が高いほど調製に要する時間が長くなるため、製造時間や製造コストの増大を引き起こす。そこで、本実施形態では、目的とする濃度よりも低濃度のドープ27を調製後、これを濃縮させることで、短時間のうちに所望とする高濃度のドープ27を調製する方法を採用し、以下に、詳細を説明する。
【0022】
先ず、所望の濃度よりも低濃度のドープ27を調製する。ドープ27の調製方法は、上述した一連の方法を用いれば良いので説明は略す。第1濾過装置30で濾過した後のドープ27は、バルブV3を調整することでフラッシュ装置40に送られる。フラッシュ装置40では、ドープ27に含まれる溶剤の一部を蒸発させて、ドープ27を濃縮する。これにより、短時間で高濃度のドープ27を得ることができる。濃縮に伴い、フラッシュ装置40内に生成した溶剤ガスは、凝縮器(図示しない)で凝縮液化した後に回収装置41で回収される。この後、溶剤ガスに含まれる水分などの不純物が再生装置42で除去される。この再生溶剤は、再びドープ原料として好適に用いることができる。
【0023】
濃縮したドープ27は、ポンプP2によりフラッシュ装置40から抜き出された後、第2濾過装置44へ送られる。第2濾過装置44には、多孔質の濾紙が備えられている。この濾紙は第1濾過装置30と同様のものを用いれば良く、特に限定はされない。ここで、ドープ27の温度は0〜200℃とすることが好ましい。また、第2濾過装置44による濾過流量は50L/時以上とすることが好ましい。これにより、各濾過装置に負担をかけるおそれが低減される。なお、第1濾過装置30も上記条件を満たすことが好ましい。第2濾過装置44で不溶解物が捕捉されたドープ27はストックタンク33へ送られ、流延に供するまで貯留される。
【0024】
フラッシュ装置40でドープ27を濃縮させる場合、濃縮後のドープ27には気泡が多く含まれているおそれがある。このようなドープ27を流延に供すると、流延膜の内部に空隙が形成され、フィルムの欠陥となるため好ましくない。そこで、フラッシュ装置40から抜き出した後のドープ27には泡抜き処理を施して気泡を除去することが好ましい。泡抜き処理の方法は特に限定されるものではなく、周知の方法を適用することができる。本実施形態では、フラッシュ装置40から抜き出した直後のドープ27に超音波を照射させて泡抜き処理を施す。
【0025】
ポンプP3により送出し量が調整されながら、ストックタンク33から配管45内にドープ27が送られる。この配管45内には、ポンプP4により添加量が調整されながら捕捉剤タンク47から捕捉剤溶液47aが送られる。捕捉剤溶液47aはマグネシウム塩をドープ原料である溶剤と混合した溶液である。捕捉剤溶液47aが添加されたドープ27は、スタティックミキサ48で十分に攪拌混合される。捕捉剤溶液47aの添加量は、ドープ27に含まれるセルロースアシレートの質量M1(単位;g )とマグネシウムの質量M2(単位;g )との比であるM2/M1が、1×10−6以上1×10−3以下となるように調整する。より好ましくはM2/M1が3×10−6以上10−4以下である。なお、マグネシウム塩としては、例えば、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、リン酸マグネシウム等が好適に用いられる。
【0026】
この後、マグネシウム塩が添加されたドープ27は、スタティックミキサ48の下流に配される濾過装置49に送られる。これにより、ドープ27中の硫酸カルシウム68や脂肪酸マグネシウム塩67が捕捉される。ここで、脂肪酸カルシウム塩69が生成している場合にも捕捉することができるので、いずれにせよ不溶解物の少ない高純度のドープ27が得られる。
【0027】
捕捉剤溶液47aの添加量は、ドープを調製するロットごとに使用されるセルロースアシレート量に基づき決定される。また、ポンプP4による捕捉剤溶液47aの送出量と配管45内に送り込むドープ27の流量とを調整することで、配管45内を流れるドープ27のうち、その一定量に対する捕捉剤溶液47aの添加される割合が均一とされる。なお、新規にドープを調製する場合、予め調製するドープ27の総量に応じてポンプP3による送出量から計算される流延後を予想し、現行のドープを全て流延させた後に、再度、捕捉剤溶液47aの添加量や流量等を算出する。
【0028】
図2は、マグネシウム塩として硫酸マグネシウムMgSOを添加させたドープ27の概略図である。なお、図の煩雑さを避けるため説明に要するイオン等の物質は少なく記載しているが、実際は多数存在する。
【0029】
ドープ27には、セルロースアシレートに元々含まれていた脂肪酸R−COOH及びカルシウムCaがイオン化した脂肪酸イオン(R−COO)やカルシウムイオンCa2+等、多数のイオンが存在する。ここに硫酸マグネシウムMgSOを添加して、マグネシウムイオンMg2+や硫酸イオンSO2−を存在させる。マグネシウムイオンMg2+の存在により、脂肪酸イオンR−COOとカルシウムイオンCa2+との結合が阻害され、脂肪酸マグネシウム塩(R−COO)Mgが生成する。すると、カルシウムイオンCa2+は硫酸イオンSO2−と結合して硫酸カルシウムCaSOが生成する。ここで、ドープ27に含まれるカルシウムCaの質量M3とマグネシウムMgの質量M2との割合であるM3/M2が、1×10−3以上10以下であることが好ましい。より好ましくは、M3/M2が5×10−3以上1以下である。ドープ27に含まれるカルシウム量やマグネシウム量は、対象となるドープ27の原子吸光度を測定することで容易に知ることができる。また、脂肪酸カルシウム塩(R−COO)Caと比べて脂肪酸マグネシウム塩(R−COO)Mgは結晶性が劣り溶解度が低下しないため、プレートアウトの原因にはならない。
【0030】
本実施形態のようにマグネシウム塩として硫酸マグネシウムを用いると、硫酸マグネシウムから生成する硫酸イオンとカルシウムイオンとを結合させて硫酸カルシウムが生成されるため、脂肪酸カルシウム塩の生成が十分に抑制される。硫酸イオン以外にも、炭酸イオン、高分子カルボン酸等を含む塩を用いると、カルシウムイオンと結合させることができるが、溶解度が落ちない脂肪酸マグネシウム塩を生成させることを併せて考慮すると、硫酸マグネシウムが最適である。
【0031】
なお、ドープ製造設備10を構成する各種装置及び部材は、耐食性や耐熱性に優れる等の利点からステンレス製の配管で接続されている。また、ドープ製造設備10に設置されるポンプやバルブの数や設置箇所は特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更される。
【0032】
次に、本発明に係る各種ドープ原料について、具体的に説明する。
【0033】
本発明では、ポリマーとしてセルロースエステルを使用する。セルロースエステルとしては、例えば、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアシレートブチレート等のセルロースの低級脂肪酸エステルが挙げられる。中でも、透明度の高さから、セルロースアシレートを用いることが好ましく、特に、トリアセチルセルロース(TAC)を用いることが好ましい。なお、本実施形態で用いるドープは、ポリマーとしてトリアセチルセルロース(TAC)を含むものとする。このようにTACを用いる場合には、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。
【0034】
上記のセルロースアシレートとしては、より透明度の高いフィルムを得るためにも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(a)〜(c)の全てを満足するものが好ましい。下記式中のA、Bは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わしており、具体的には、Aはアセチル基の置換度であり、Bは炭素数が3〜22のアシル基の置換度である。
(a) 2.5≦A+B≦3.0
(b) 0≦A≦3.0
(c) 0≦B≦2.9
【0035】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部又は全部を炭素数が2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合を意味する。なお、100%のエステル化の場合を置換度1とする。
【0036】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合である。
【0037】
セルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、2種類以上のアシル基が用いられていても良い。なお、2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0038】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。更に、DSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、33%以上であることが特に好ましい。更に、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましい。このようなセルロースアシレートを用いると、非常に溶解性に優れたドープを調製することができる。なお、上記のようなセルロースアシレートを用いる場合には、非塩素系溶剤を用いると、非常に優れた溶解性を有し、低粘度であり、かつ濾過性に優れるドープを調製することができる。
【0039】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿、パルプ綿のどちらから得られたものでも良い。
【0040】
セルロースアシレートの炭素数が2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステル等が挙げられる。更に、それぞれが置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等が挙げられる。中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等がより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0041】
なお、本発明で用いることができるセルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0042】
ドープ原料となる溶剤は、用いられるポリマーを溶解することができる有機化合物を用いることが好ましい。ただし、本発明においてドープとは、ポリマーを溶剤に溶解又は分散させることで得られる混合物を意味するため、ポリマーとの溶解性が低いような溶剤も用いることができる。好適に用いることができる溶剤としては、例えば、ベンゼンやトルエン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタンやクロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、メタノールやエタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコール等のアルコール、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン、酢酸メチルや酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル、テトラヒドロフランやメチルセロソルブ等のエーテル等が挙げられる。これらの溶剤の中から2種類以上の溶剤を選択し、混合した混合溶剤を用いても良い。中でもジクロロメタンを用いると溶解度に優れるドープを得ることが出来ると共に、短時間のうちに流延膜中の溶剤を揮発させてフィルムとすることができるので好ましい。
【0043】
上記のハロゲン化炭化水素としては、炭素原子数1〜7のものが好ましく用いられる。更に、ポリマーとの相溶性や、支持体から剥ぎ取る流延膜の剥ぎ取る易さの指標である剥ぎ取り性、フィルムの機械強度、光学特性等の観点から、ジクロロメタンに炭素数が1〜5のアルコールを1種ないしは、数種類混合させたものを用いることが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対して2〜25重量%が好ましく、5〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられ、中でも、メタノール、エタノール、n−ブタノール、或いはこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0044】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えるため、ジクロロメタンを用いない溶剤組成も提案されている。この目的に対しては、炭素数が4〜12のエーテル、炭素数が3〜12のケトン、炭素数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることが好ましい。これらの化合物は環状構造を有していても良いし、エーテル、ケトン及びエステルの官能基、すなわち、−O−、−CO−、及び−COO−のいずれかを2つ以上有する化合物も溶剤として用いることができる。その他にも、溶剤は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していても良い。なお、2種類以上の官能基を有する場合には、その炭素数がいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であれば良く、特に限定はされない。
【0045】
ドープには、目的に応じて可塑剤、紫外線吸収剤(UV剤)、劣化防止剤、滑り剤、剥離促進剤等の公知である各種添加剤を添加させても良い。例えば、可塑剤としては、トリフェニルフィスフェート、ビフェニルジフェニルフォスフェート等のリン酸エステル系可塑剤や、ジエチルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤、及びポリエステルポリウレタンエラストマー等の公知の各種可塑剤を用いることができる。
【0046】
また、ドープには、フィルム同士の接着を防止したり、屈折率を調整したりする目的で微粒子を添加させることが好ましい。この微粒子としては、二酸化ケイ素誘導体を用いることが好ましい。本発明における二酸化ケイ素誘導体とは、二酸化ケイ素や、三次元の網状構造を有するシリコーン樹脂も含まれる。このような二酸化ケイ素誘導体は、その表面がアルキル化処理されたものを用いることが好ましい。アルキル化処理のような疎水化処理が施されている微粒子は、溶剤に対する分散性に優れるため、微粒子同士が凝集することなくドープを調製し、更には、フィルムを製造することができるので、面状欠陥が少なく、透明度の高いフィルムを製造することが可能となる。
【0047】
上記の様に、表面にアルキル化処理された微粒子としては、例えば、表面にオクチル基が導入された二酸化ケイ素誘導体として市販されているアエロジルR805(日本アエロジル(株)製)等を用いることができる。なお、微粒子を添加させる効果を確保しつつ、透明度の高いフィルムを得るためにも、ドープの固形分に対する微粒子の含有量は0.2%以下となるようにすることが好ましい。更に、微粒子が光の通過を阻害させないように、その平均粒径は1.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3〜1.0μmであり、特に好ましくは、0.4〜0.8μmである。
【0048】
先に説明した通り、本発明では、透明度の高いポリマーフィルムを得るためにもポリマーとしてTACを利用してドープを調製することが好ましい。この場合、溶剤や添加剤等を混合した後のドープの全量に対して、TACを含有する割合が5〜40重量%であることが好ましい。より好ましくは、TACを含有する割合が15〜30重量%であり、特に好ましくは17〜25重量%である。また、主に可塑剤等の添加剤を含有させる割合は、ドープ中に含まれるポリマーやその他添加剤等を含めた固形分全体に対して、1〜20重量%とすることが好ましい。
【0049】
なお、溶剤、可塑剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤、滑り剤、剥離促進剤、光学異方性コントロール剤、レタデーション制御剤、染料、剥離剤等の各種添加剤及び微粒子については、特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、TACを利用したドープの製造方法であり、例えば、素材、原料、添加剤の溶解方法及び添加方法、濾過方法、脱泡等についても同様に、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0050】
本発明に係るポリマーフィルムの製造方法について、実施形態を示しながら具体的に説明する。図3は、本実施形態で用いられるフィルム製造設備50の概略図である。なお、本実施形態はあくまで本発明に係る一例であり、本発明を限定するものではない。
【0051】
ドープ製造設備10で調製されたドープ27は、配管を通じて流延室71内のフィードブロック73へ送られる。フィードブロック73の内部には、形成させる流延膜75の層構造に応じたドープ27の流路が設けられており、これでドープ27の配置が決定される。
【0052】
次に、ドープ27は流延ダイ76に送られる。流延ダイ76にはドープ27の吐出口が形成されており、この吐出口が流延ドラム77のほぼ真上にくるように流延ダイ76は設置されている。流延ダイ76の形状や材質、大きさ等は特に限定されるものではないが、コートハンガー型のものを用いるとドープ27の流延幅を略均一に保持することができるので好ましい。また、ドープ27の流延幅に対して1.1〜2.0倍程度の吐出口を有するものが好ましい。材質は、耐久性、耐熱性、等の観点から、析出硬化型のステンレス鋼を用いることが好ましく、ジクロロメタン、メタノール、水の混合溶液に3ヶ月浸漬させても気液界面に孔開きを生じることがないような耐腐食性を有するものが好ましい。電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と略同等の耐腐食性を有するものも好適に用いることができる。なお、耐熱性の観点からは、熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下であるものを用いることが好ましい。
【0053】
上記の吐出口の先端には、耐摩耗性向上等を目的として硬化膜が形成されていることが好ましい。硬化膜の形成方法は特に限定されるものではないが、例えば、セラミックスコーティングやハードクロムめっき、窒化処理等が挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削加工が可能であること、気孔率が低いこと、更には、脆性及び耐腐食性に優れること、流延ダイ76に対する密着度は高いが、ドープ27に対する密着度が低いこと等の条件を満たすものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)、Al、TiN、Cr等が挙げられ、中でも、WCを用いることが好ましい。なお、WCのコーティングは公知の溶射法により行うことができる。
【0054】
平面性に優れる流延膜75を形成するために、流延ダイ76におけるドープ27の接触面は、研磨される等して平滑化されているものが好ましい。また、流延ダイ76のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けてエッジ吸引風量を1〜100L/分としながら吸引することが好ましい。これにより、吐出させたドープ27の表面に凹凸を形成する原因となる風の流れを低減することができる。
【0055】
支持体として作用する流延ドラム77は、連続走行が可能な機能を有することが好ましい。流延ドラム77の内部には、冷却媒体供給装置78から供給される冷却媒体の流路が形成されており、流路に温度を調整した冷却媒体を供給し、循環又は通過させることで流延ドラム77の表面温度は−40℃以上30℃以下の範囲で略一定とされる。吐出口から所定の温度のドープ27を回転させた流延ドラム77の上に吐出させる。ここで、ドープ27の温度はフィードブロック73や流延ダイ76の内部温度を調整する等して−10〜55℃の範囲で略一定とされる。本実施形態のドープ27の温度は−5℃とされる。これにより、流延ドラム77の表面に流延させたドープ27を効率良くかつ効果的に冷却させて、ゲル状の流延膜75を短時間のうちに形成させることができる。
【0056】
本実施形態では支持体として流延ドラム77を使用するが、支持体の形態は特に限定されるものではなく、例えば、1機の駆動ローラを含む1対のローラに巻き掛けられ、無端で走行する流延バンドを支持体として好適に用いることができる。また、支持体の形態に係らず、その寸法や材質等は特に限定されるものではないが、ドープ27の流延幅に対して1.1〜2.0倍程度の幅を有するものが好ましく、耐腐食性や高強度を有する等の点からステンレス製であることが好ましい。更に、平面性に優れる流延膜を形成するため、その表面ができる限り研磨されていることが好ましい。
【0057】
吐出口の端に溶剤供給装置(図示しない)を取り付けて、所望の溶剤をビードの両端部や吐出口と外気との両気液界面に供給することが好ましい。溶剤はドープを溶解することができる溶剤が好ましく用いられ、例えば、ジクロロメタンを86.5重量部と、アセトンを13重量部と、n−ブタノールを0.5重量部とを混合した混合物が挙げられる。これにより、ドープ27が局所的に乾燥して固化することがないので、安定してビードを形成することができる。加えて、固化したドープ27が異物として流延膜75に混入するおそれが低減されるので、欠陥がなく、透明度の高いフィルム18を得ることができる。また、上記のような混合物を供給する際には、脈動率が5%以下のポンプを用いて、その供給量が吐出口の端部の片側ごとに0.1〜1.0mL/分の範囲となるように供給することが好ましい。
【0058】
流延ダイ76の流延ドラム77側に設置した減圧チャンバ79により、流延するドープ27の背面、すなわち流延ドラム77の上流側の圧力は(大気圧−2000Pa)以上(大気圧−10Pa)以下の範囲で略一定とされる。これにより、ドープ27は減圧状態である流延ドラム77の方へ引き寄せられるのでエアの巻き込みを抑制しながら流延膜75を形成させることができる。流延室71の内部温度は温調装置80により常時−10〜57℃の範囲で略一定に調整される。ドープ27や流延膜75から蒸発した溶剤ガスは、凝縮器(コンデンサ)82により凝縮液化させた後に回収装置83で回収される。この後、溶剤ガスは回収装置83に接続される再生装置(図示しない)に送られて不純物が取り除かれ、再生溶剤とされる。この再生溶剤をドープ調製用の溶剤として使用すると、原料コストの低減を図ることができる。
【0059】
流延ドラム77の上で流延膜75の冷却をよりいっそう進行させることで、同様にゲル化を一段と進行させる。自己支持性を持つまでゲル化を進行させた流延膜75は、剥取ローラ85で支持されながら搬送方向に張力が付与されて流延ドラム77から剥ぎ取られる。剥取直後の流延膜75は、その残留溶剤量が10〜200重量%であることが好ましい。流延膜75は複数のパスローラが配置された渡り部86に送られる。渡り部86では、流延膜75は各パスローラで支持し搬送される間に、乾燥装置87から所望の温度の乾燥風が吹き付けられて乾燥が促進される。この乾燥風の温度は、20℃以上250℃以下の範囲で略一定とすることが好ましい。
【0060】
流延膜75はテンタ88に送られる。テンタ88では、その入口付近において流延膜75の両側端部に複数のピンが突き刺される。両側端部が固定された流延膜75は、予め、温調装置(図示しない)により120℃以上180℃以下の範囲で略一定となるように内部温度が調整されたテンタ88を搬送される間に乾燥が促進される。テンタ88の入口から出口に向かうに従い幅が拡がるようにレールが設置されているので、流延膜75はレールに従い搬送される間に幅方向に徐々に拡げられる。これにより、流延膜75は幅方向の分子配向が制御され、かつ乾燥が促進されてフィルム90となる。なお、レールによる拡張延伸を行なわずに収縮機で幅方向を延伸させても良い。テンタ88の出口付近では、ピンによるフィルム90の固定が解放される。また、本実施形態では、固定手段としてピンを有するピン型テンタを示したが、特に限定されるものではなく、例えば、固定手段として流延膜75の両側端部を把持するクリップを複数備えたクリップ型テンタを用いても良い。
【0061】
耳切装置92により、テンタ88から搬出されたフィルム90の両側端部が切断され、フィルム90の両側端部に生じたピンによる突き刺し傷が切除される。切断されたフィルム90の両側端部は、クラッシャ94に送り込まれチップとして粉砕される。なお、当該切除工程は省略することもできるが、欠陥の少ないフィルム90を得るためにも、流延室71から巻取室95までのいずれかで行うことが好ましい。
【0062】
フィルム90は多数のローラ96が配置されている乾燥室97に送られ、各ローラ96で支持し搬送される。この間、温調機(図示しない)によりフィルム90の膜面温度が60〜145℃の範囲内で略一定となるように調整される。これにより、熱ダメージを受けることなくフィルム90の乾燥が促進される。フィルム90の膜面温度は、フィルム90の搬送路上かつ表面近傍に設けた温度計(図示しない)により容易に知ることができる。また、乾燥室97では、フィルム90から揮発した溶剤ガスが吸着回収装置99で回収された後、溶剤成分が除去され、再度、乾燥室97に乾燥風として供給される。これにより、フィルム90の表面に溶剤ガスが付着せず、かつエネルギーコストの削減を図ることができる。なお、耳切装置92と乾燥室97との間に予備乾燥室(図示しない)を設けてフィルム90を予備乾燥すると、乾燥室97において発生するおそれのあるフィルム90の膜面温度の急激な上昇による形状変化を防止する効果が得られる。
【0063】
流延膜75やフィルム90の乾燥具合は、その残留溶剤量を目安として把握することができる。残留溶剤量は、残留溶剤量を測定したい対象物をサンプルとし、このサンプルの重量をx、サンプルを完全に乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出される乾量基準での値とする。複数の溶剤を同時に使用する場合には、それらの溶剤の総和から残留溶剤量を算出する。
【0064】
フィルム90は冷却室100に送られ略室温となるまで冷却される。冷却方法は特に限定されるものではなく、例えば、略室温とした冷却室100にフィルム90を放置して自然冷却させる方法でも良いし、冷却室100に送風機を取り付けて冷風を供給する方法でも良い。なお、乾燥室97と冷却室100との間に調湿室(図示しない)を設けてフィルム90を調湿した後に冷却すると、既にフィルム90の表面にしわが生じている場合でも、そのしわを効果的に伸ばす効果を得ることができるので好ましい。
【0065】
次に、強制除電装置103によりフィルム90の帯電圧が調整される。フィルム90の帯電圧は特に限定されるものではないが、−3kV以上+3kV以下の範囲で略一定とすることが好ましい。この後、ナーリング付与ローラ104によりフィルム90の両側端部にはエンボス加工によりナーリングが付与される。最後に、フィルム90は巻取室95に送られ、プレスローラ107で押し圧が付与され平面性が整えられながら巻取ローラ108で巻き取られる。フィルム90を巻き取る際の張力は、巻取り開始から終了までの間で徐々に変化させることが好ましい。これにより、しわやつれを発生させることなく巻き取ることが可能となる。
【0066】
以上により、平面性に優れ、不溶解物の少ないフィルム90を高速かつ安定して製造することができる。本発明によると、搬送方向に少なくとも100m以上であり、幅方向が1400〜1800mmであるフィルム90を連続的に製造することが可能である。ただし、本発明は、幅方向が1800mmよりも大きいフィルム90にも効果を発揮する。完成したフィルム90の膜厚は特に限定されるものではないが、20〜500μmであることが好ましい。より好ましくは30〜300μmであり、特に好ましくは35〜200μであるが、膜厚が15〜100μmのような薄いフィルム90の場合にも、本発明の効果を得ることができる。
【0067】
上記の説明では、1種類のドープを用いて単層のフィルムを製造する形態を示したが、本発明は複層構造の流延膜を形成する場合にも効果を発揮する。なお、複層構造の流延膜は所望数のドープを同時或いは逐次に流延する等の公知の方法を用いれば良く、特に限定されない。また、流延ダイ、減圧室、支持体等の構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶剤回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。なお、完成したフィルムの性能や、カールの度合い、厚み、及びこれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[1073]段落から[1087]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0068】
完成したフィルムの少なくとも一方の面に表面処理を施すと、偏光板等の光学部材との接着度を高めることができるので好ましい。表面処理としては、例えば、真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理等が挙げられ、これらの中から少なくとも1つの処理を行うことが好ましい。
【0069】
完成したフィルムをベースとし、その両面或いは一方の面に所望の機能性層を設けると、各種機能性フィルムとして用いることができる。機能性層としては、例えば、帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層、光学補償層等が挙げられる。例えば、反射防止層を設けると、光の反射を防止して高画質を提供することができる反射防止フィルムが得られる。なお、上記の機能性層や形成方法等に関しては、特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1072]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、本発明のポリマーフィルムの具体的用途に関しては、例えば、特開2005−104148号公報の[1088]段落から[1265]段落に記載される、TN型、STN型、VA型、OCB型、反射型等の液晶表示装置への利用等が挙げられる。
【0070】
以下、本発明について行なった実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、ここに示す例はあくまで本発明に係る一例であり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0071】
下記の原料を用いて、図1に示すドープ製造設備10によりドープ27を調製した。
〔ドープ原料〕
セルローストリアセテート 100重量部ジクロロメタン 320重量部メタノール 83重量部1−ブタノール 3重量部可塑剤A 7.6重量部可塑剤B 3.8重量部UV剤a 0.7重量部UV剤b 0.3重量部微粒子 0.05重量部
【0072】
上記のセルローストリアセテートは、置換度2.84、粘度平均重合度306、含水率0.2重量%、ジクロロメタン溶液中の6重量%の粘度 315mPa・s、平均粒子径1.5mm、標準偏差0.5mmの粉体であり、可塑剤Aは、トリフェニルフォスフェートであり、可塑剤Bは、ジフェニルフォスフェートであり、UV剤aは、2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールであり、UV剤bは、2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾールであり、クエン酸エステル化合物はクエン酸とモノエチルエステルとジエチルエステルとトリエチルエステルとの混合物であり、微粒子は平均粒径が15nm、モース硬度が約7の二酸化ケイ素である。また、ドープの調製時には、レタデーション制御剤(N−N−ジ−m−トルイル−N−P−メトキシフェニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン)をフィルムとしたときの全重量に対して4.0重量%となるように添加した。
【0073】
〔ドープの製造〕
溶剤タンク11及び添加剤タンク12から、バルブV1、V2をそれぞれ開けて、適量の溶剤及び添加剤溶液を混合タンク15へ送ると共に、ホッパ13からは適量のセルロースアシレートを混合タンク15へ送った。混合タンク15では、モータ18、19により、アンカー翼を備えた第1攪拌機20及びディゾルバータイプの第2攪拌機22を回転させて各種ドープ原料を混合し、混合液25を調製した。このとき、混合タンク15の内部温度は、温度を調整した伝熱媒体をジャケット17に送った後、循環させることで−10〜55℃の範囲内で略一定とした。
【0074】
混合タンク15からポンプP1により混合液17を抜き出して加熱装置26に送り、溶剤に対する固形分の溶解度を高めた後、温調装置29で略室温としてドープ27を得た。このドープ27を、平均孔径が100μm以下の多孔質濾紙を備える第1濾過装置30に送り、ドープ27に含まれるサイズの大きい異物を除去した後、バルブV3の開閉によりフラッシュ装置40へ送り、溶剤を蒸発させることで濃縮した。そして、濃縮したドープ27をポンプP2によりフラッシュ装置31から抜き出した後、第2濾過装置44で濾過し、流延に供するまでの間、ストックタンク33の中で攪拌しながら貯留した。
【0075】
ストックタンク33に貯留する適量のドープ27を配管45に送った後、捕捉剤タンク47から硫酸マグネシウムを含む捕捉剤溶液47aを送り、スタティックミキサ48で攪拌混合した。ここで、セルロースアシレートの質量M1とマグネシウムの質量M2との比であるM2/M1が200×10−6となるように捕捉剤溶液47aの添加量を調整した。
【0076】
〔フィルム製造〕
図3に示すフィルム製造設備50を用いて上記のドープ27からフィルム90を製造した。先ず、ドープ製造設備10からフィードブロック73を介して流延ダイ76に適量のドープ27を送った後、連続して回転させた流延ドラム77の上に、流延ダイ76の吐出口からドープ27を吐出して流延膜75を形成させた。流延時には、減圧チャンバ79により流延するドープ27の流延ドラム77側を減圧すると共に、ドープ27の吐出量は乾燥後のフィルム90の厚みが80μmとなるように調整した。
【0077】
流延ドラム77は、駆動装置(図示しない)により回転数を制御することができるステンレス製のドラムを用いて、伝熱媒体供給装置(図示しない)から冷媒を供給することにより表面温度を−10℃とし、製膜時の回転速度を100r/min.とした。また、流延ダイ76は、幅が1.8mのスリットからなる吐出口と内部温度を調整するためのジャケット(図示しない)とを有する形態を用いて、流延するドープ27の温度を36℃とした。フィードブロック73やドープ27の流路となる配管等は温度調整機能を有する形態を用いて、その内部温度を全て36℃に保温した。
【0078】
自己支持性を持つまで冷却ゲル化を進行させた流延膜75を剥取ローラ85で支持しながら流延ドラム77から剥ぎ取った。次に、流延膜75を渡り部86に送り、複数のパスローラで支持しながら搬送する間に、乾燥装置87から40℃に調整した乾燥風を供給して流延膜75の乾燥を促進させた。続けて、流延膜75を複数のピンを有するテンタ88に搬入し、複数のピンで流延膜75の両側端部を固定した後、流延膜75を幅方向に延伸しながら搬送する間に、乾燥装置(図示しない)から乾燥風を供給し乾燥させてフィルム90とした。
【0079】
テンタ88の出口から30秒以内に配するNT型カッタを備える耳切装置92を用いてフィルム90の両側端部から内側に向かって50mmの位置を切断した。切断したフィルム90の両側端部は、カッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ94に送って平均80mm程度のチップに粉砕した。
【0080】
耳切装置92と乾燥室94との間に予備乾燥室(図示しない)を設けて100℃の乾燥風を供給することによりフィルム90を予備加熱した後、乾燥室97へ搬入した。乾燥室97では、フィルム90の膜面温度が140℃となるように温度調整装置(図示しない)で内部温度を調整した乾燥室97内を、複数のローラ96に巻き掛けながらフィルム90を搬送する間に乾燥させた。乾燥室97によるフィルム90の乾燥時間は10分とした。フィルム90の膜面温度は、フィルム90の搬送路の真上かつ表面近傍に設けた温度計(図示しない)を用いて測定した。乾燥室97では、活性炭からなる吸着剤と乾燥窒素からなる脱着剤とを有する吸着回収装置99を用いて、フィルム90から揮発した溶剤ガスを回収した後、水分量が0.3重量%以下になるまで溶剤ガスの水分を除去した。
【0081】
乾燥室97と冷却室100との間に調湿室(図示しない)を設けて、フィルム90に対して、温度50℃、露点20℃のエアを供給した後、直接的に90℃、湿度70%のエアを吹き付けて調湿し、フィルム90に発生しているカールを矯正した。次に、フィルム90を冷却室100に送り、30℃以下になるまでフィルム90を徐々に冷却した後、強制除電装置103を用いてフィルム90の帯電圧を−3kv以上+3kV以下とした。そして、ナーリング付与ローラ104を用いてフィルム90の両側端部にナーリングの付与を行い表面に生じている凹凸を矯正した。なお、フィルム90にナーリングを付与する幅を10mmとし、凹凸の高さがフィルム90の平均厚みよりも平均して12μm高くなるようにナーリング付与ローラ104による押し圧を調整して、フィルム90にエンボス加工を行った。
【0082】
フィルム90を巻取室95に送り、プレスローラ107によりフィルム90に対して50N/mの押し圧を付与しながらφ169mmの巻取ローラ108で巻き取った。巻取り時には、フィルム90の巻き始めの張力を300N/mとし、巻き終わりの張力を200N/mとした。以上より、ロール状のフィルム90を得た。完成したフィルム90は膜厚が80μmであった。なお、全製膜工程を通じて、流延膜75やフィルム90の平均乾燥速度を20重量%/分とした。
【0083】
本発明の効果を評価するため、流延膜75を剥ぎ取ってから、再度、ドープ27が流延されるまでの流延ドラム77の周面を目視により観察し、確認された汚れの量からプレートアウトの発生の度合いを評価した。この時、汚れが全く観察されず、プレートアウトが発生していない場合を◎とし、若干の汚れは観察されるが製造上問題となるプレートアウトではないレベルを○、製造上問題はないが比較的プレートアウトが多く観察される場合を△、プレートアウトが多量に発生し製造上問題となる場合を×として4段階で評価した。その結果、実施例1では、プレートアウトは確認されず、製造上全く問題のないレベル(◎)であった。なお、下記の実施例及び比較例でも本評価方法によりプレートアウトの発生度合いを評価した。
【実施例2】
【0084】
硫酸マグネシウムが含まれる捕捉剤溶液47aを使用し、M2/M1が100×10−6となるように配管45内のドープ27に対して捕捉剤溶液47aを添加する以外は全て実施例1と同様にフィルム90を製造した。その結果、流延ドラム77の周面には若干のプレートアウトが確認されたが、製造上問題のないレベル(○)であった。
【実施例3】
【0085】
硫酸マグネシウムが含まれる捕捉剤溶液47aを使用し、M2/M1が50×10−6となるように配管45内のドープ27に対して捕捉剤溶液47aを添加する以外は全て実施例1と同様にフィルム90を製造した。その結果、流延ドラム77の周面にはプレートアウトが確認されたが、製造上問題のないレベル(△)であった。
【0086】
〔比較例1〕
捕捉剤溶液47aを入れずに調製したドープ27を、実施例1と同様にしてフィルム製造設備50により製膜した。その結果、流延ドラム77の周面には、製造上問題となるほどの多量のプレートアウトが発生した(×)。
【0087】
以上の結果から、マグネシウム塩を添加したドープを用いて製膜すると、連続して製膜しても支持体上でのプレートアウトの発生が抑制されることを確認した。中でも、マグネシウム塩として硫酸マグネシウムを添加させると、脂肪酸カルシウム塩の生成を抑制させる高い効果が得られることを確認した。また、マグネシウム塩を添加した後のドープを濾過することで不溶解物を効率良く、かつ効果的に捕捉して不溶解物が非常に少ないドープを得ることができ、このドープを用いることでプレートアウトの発生を抑制しながら連続して平面性に優れるフィルムを製造することができることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係わるドープ製造設備の概略図である。
【図2】本発明に係るドープの中を示すモデル図である。
【図3】本実施形態に用いるフィルム製造設備の概略図である。
【図4】従来のドープの中を示すモデル図である。
【符号の説明】
【0089】
10 フィルム製造設備
27 ドープ
47a 捕捉剤溶液
49 濾過装置
50 フィルム製造設備
75 流延膜
77 流延ドラム
90 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の上に、セルロースアシレート及び溶剤を含むドープを流延して流延膜を形成した後、前記支持体より剥ぎ取った流延膜を乾燥手段により乾燥させてフィルムとするセルロースアシレートフィルムの製造方法において、
前記セルロースアシレートの質量M1とマグネシウムの質量M2との比であるM2/M1が、1×10−6以上1.00×10−3以下となるように前記ドープにマグネシウム塩を添加し、
前記セルロースアシレートに起因する脂肪酸イオンと前記マグネシウム塩から分離したマグネシウムイオンとを結合させて脂肪酸マグネシウム塩を生成させることにより、前記セルロースアシレートに起因するカルシウムイオンと前記脂肪酸イオンとが結合してなり、前記支持体の表面に汚れとして析出する脂肪酸カルシウム塩の生成を抑制することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記マグネシウム塩は、硫酸マグネシウムであることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項3】
濾過装置を用いて前記マグネシウム塩を添加した後のドープを濾過することにより、前記硫酸マグネシウムに起因する硫酸イオンと前記カルシウムイオンとが結合してなる硫酸カルシウムを含む不溶解物を捕捉することを特徴とする請求項2に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ドープに含まれるカルシウムの質量M3と前記質量M2との比であるM3/M2が、1×10−3以上10以下であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−63403(P2008−63403A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241362(P2006−241362)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】