説明

セルロースアセテートプロピオネートフィルム、セルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造方法、光学補償シート、偏光板および液晶表示装置

【課題】本発明の目的は、架橋構造を有さない弾性率の高いセルロースアシレートフィルムを提供することにあり、さらには該フィルムを用いた光学補償シート、偏光板、および少なくともこれらのいずれかを備えた液晶表示装置を提供することである。
【解決手段】 下記式(A)で示されるセルロースアセテートプロピオネートの高分子鎖の絡み合い点密度νeが0.3〜2.0mol/dmであることを特徴とするセルロースアセテートプロピオネートフィルム。
νe=E’/3RT 式(A)
(Rは気体定数、E’は動的粘弾性測定でのゴム状平坦領域における貯蔵弾性率、Tはゴム状平坦領域温度)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械強度、寸法安定性に優れたセルロースアシレートフィルム、並びに該セルロースアシレートフィルムの製造方法に係り、特に、アセチル基の一部をプロピオニル基に置換したセルロースアセテートプロピオネートフィルム、該セルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造方法、これを用いた光学補償シート、偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルムは適度な水蒸気透過性を有し、かつ加工が容易であることから液晶表示装置用偏光板保護フィルムとして広く使用されている。中でも、セルローストリアセテートフィルムは従来から広く用いられており、延伸することでレターデーションを発現させ、光学補償機能を兼ね備えることも可能である。さらに、昨今ではアセチル基の一部をプロピオニル基に置換したセルロースアセテートプロピオネートフィルムも同様の目的で用いられている。しかし、セルロースアセテートプロピオネートフィルムはプロピオニル基の置換度を上げると機械強度が劣り、特に延伸してポリマーを配向させ、面内の異方性を高めたフィルムでは、延伸方向とは垂直な方向の弾性率が下がるため、寸法安定性が悪いという問題があり、その改良が強く望まれていた。
フィルムの機械強度を高める方法としては、化学結合により架橋構造を形成し弾性率を高めるという手法がある。特許文献1では熱架橋性有機化合物の存在下で製膜を行い、セルロースエステルフィルムの弾性率を高めて機械強度を上げている。
しかし、架橋したセルロースアシレートフィルムは、回収性が悪いという問題があった。
【特許文献1】特開2004−292558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、架橋構造を有さない弾性率の高いセルロースアセテートプロピオネートフィルムを提供することにあり、さらには該フィルムを用いた光学補償シート、偏光板、および少なくともこれらのいずれかを備えた液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は鋭意検討した結果、セルロースアセテートプロピオネートフィルムにおいて高分子鎖の絡み合い点密度を増加させると、化学架橋構造を形成しなくても弾性率、寸法安定性が良く、機械強度に優れることを見出し、本発明をなすに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
〔1〕下記式(A)で示されるセルロースアセテートプロピオネートフィルムの高分子鎖の絡み合い点密度νeが0.3〜2.0mol/dmであることを特徴とするセルロースアセテートプロピオネートフィルム。
νe=E’/3RT 式(A)
(Rは気体定数、E’は動的粘弾性測定でのゴム状平坦領域における貯蔵弾性率、Tはゴム状平坦領域温度)
〔2〕フィルム長手方向あるいはこれと略直交する方向のいずれか一方の弾性率が4.0〜6.0GPaであり、かつ他方の弾性率が5.0〜6.0GPaであることを特徴とする〔1〕に記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルム。
〔3〕架橋構造を有する化合物を含まないことを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルム。
〔4〕Reが下記式(B)の範囲を満たし、Rthが下記式(C)の範囲を満たすことを特徴とする〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルム。
30nm≦Re≦100nm 式(B)
70nm≦Rth≦300nm 式(C)
(式中、Reは波長590nmの光に対する25℃60%RHの該フィルムの面内レターデーション値であり、Rthは波長590nmの光に対する25℃60%RHの該フィルムの厚み方向のレターデーション値である。)
〔5〕セルロースアセテートプロピオネートと溶媒を含むドープをバンド上に流延後、残留溶媒含量が70%以下になるまでの間に、温度が25℃〜40℃、速度が1〜3m/sの乾燥風を当てて乾燥させることを特徴とするセルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造方法。
〔6〕流延時のドープの固形分濃度が23〜27%であることを特徴とする〔5〕に記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造方法。
〔7〕フィルムの流延幅が2000〜3000mmであることを特徴とする請求項5または6に記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造方法。
〔8〕有機溶媒のガス濃度が5〜30%の範囲にある雰囲気下において支持体上に流延して流延膜を形成し、乾燥する工程を含むことを特徴とする〔5〕〜〔7〕のいずれかに記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造方法。
〔9〕〔5〕〜〔8〕のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルム。
〔10〕〔1〕〜〔4〕又は〔9〕のいずれかに記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルムを含むことを特徴とする光学補償シート。
〔11〕偏光膜およびその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる偏光板であって、透明保護膜の少なくとも一方が、〔1〕〜〔4〕又は〔9〕のいずれかに記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルム又は〔10〕に記載の光学補償シートであることを特徴とする偏光板。
〔12〕液晶セルおよびその両側に配置された2枚の偏光板からなる液晶表示装置であって、少なくとも1枚の偏光板が〔11〕に記載の偏光板であることを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明のセルロースアセテートプロピオネートフィルムは弾性率が高く、機械強度、寸法安定性に優れ、該フィルムを用いた光学補償シート、偏光板、および少なくともこれらのいずれかを備えた液晶表示装置は極めて高い実用性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のセルロースアシレートフィルム(以下ではセルロースアセテートプロピオネートフィルムのことを単にセルロースアシレートフィルムと言うことがある)、セルロースアシレートフィルムの製造方法、光学補償シート、偏光板および液晶表示装置について詳細に説明する。
【0008】
本発明のセルロースアシレートフィルムは下記式(A)で示される高分子鎖の絡み合い点密度νeが0.3〜2.0mol/dmである。
νe=E’/3RT 式(A)
(Rは気体定数、E’は動的粘弾性測定でのゴム状平坦領域における貯蔵弾性率、Tはゴム状平坦領域温度)
【0009】
ここで式(A)の「絡み合い点密度」について説明する。
高分子は架橋を行うと、架橋網目を形成するが、架橋せずとも、「絡み合い」と呼ばれる網目構造を形成し、高分子間で強い相互作用を生じる。この相互作用点を「絡み合い点」、2つの絡み合い点間の分子量を「絡み合い点間分子量Me」と呼び、式(B)のような関係があることが知られている(大学院 高分子科学(講談社サイエンティフィック)p.353−370)。
’/3=ρRT/Me 式(B)
(Rは気体定数、E’は動的粘弾性測定でのゴム状平坦領域における貯蔵弾性率、Tはゴム状平坦領域温度、ρは単位体積あたりの質量)
また、単位体積当たりに存在する絡み合い点を「絡み合い点密度νe」と呼び、式(C)により表すことがきでる。
νe=ρ/Me (単位は、mol/dm) 式(C)
式(B)、式(C)より式(A)が導かれる。
νe=ρ/Me=E’/3RT 式(A)
【0010】
高分子鎖の絡み合いが密に生じているほど応力が生じても変形しにくくなり、弾性率が高くなる。弾性率は絡み合い点密度のみでなく、結晶化度、配向度にも依存するが、結晶化度や配向度は光学特性を大きく変化させるパラメータであるため、同時に制御することが困難である。そこで、本発明では光学特性に比較的影響を与えにくい、絡み合い点密度というパラメータを制御することで所望の光学特性を発現させながら高弾性率を実現し、機械強度、寸法安定性に優れたフィルムを作製することを可能とした。
【0011】
式(A)について説明する。
フィルム試料5mm×30mmを、25℃60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(DVA-225(アイティー計測制御株式会社製))で、つかみ間距離20mm、周波数1Hzで30℃から昇温速度2℃/分で測定する。縦軸に対数軸で貯蔵弾性率E’、横軸に線形軸で温度(K)をプロットし、ガラス転移領域と流動領域の間の、E’が一定値を示すゴム状平坦領域の開始温度をTRs、終了温度をTRfとした際に、T=(TRs+TRf)/2をゴム状平坦領域温度と定義する。Tにおける貯蔵弾性率E’を用いて式(A)から高分子鎖の絡み合い点密度νeを求めることができる。気体定数Rとしては8.314J/mol・Kの値が用いられる。
【0012】
セルロースアセテートプロピオネートの場合、高分子鎖の絡み合い点密度は0.3〜2.0mol/dmであるが、0.5〜1.6mol/dmが好ましく、0.65〜1.2mol/dmが最も好ましい。
セルロースアセテートプロピオネートの高分子鎖の絡み合い点密度が0.3mol/dm未満であると弾性率が低いため、機械強度が劣り、2.0より大きいと延伸の際の破断伸びが小さく、高倍率での延伸が不可能となる。
【0013】
絡み合い点密度は、乾燥速度を低下させ、高分子鎖の絡み合いを発達させながら徐々に乾燥させることで増加させることができる。乾燥速度を低下させるためには、乾燥風温度を下げ、乾燥風速度を低下させることが好ましい。
本発明のセルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造には本発明の製造方法を用いることが好ましい。
本発明のセルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造方法は、セルロースアセテートプロピオネートと溶媒を含むドープをバンド上に流延後、残留溶媒含量が70%以下になるまでの間に、温度が25℃〜40℃、速度が1〜3m/sの乾燥風を当てて乾燥させる製造方法である。
具体的には、少なくともセルロースアセテートプロピオネートと溶媒を含むドープを、表面温度が10℃以下のバンド上に流延後、剥ぎ取りを行う前の間に25℃〜40℃の風を1〜3m/sの条件で当て、残留溶媒量が70%以下になるまで乾燥させることが好ましい。
残留溶媒量とは、ドープの全固形分を100%として、それに対する残留溶媒の割合を計算した値である。
乾燥風温度は、25℃〜40℃が好ましく、28℃〜38℃がさらに好ましく、30℃〜35℃が最も好ましい。乾燥風速度は1〜3m/sが好ましく、1.2〜2.7m/sがさらに好ましく、1.3〜2.5m/sが最も好ましい。
乾燥風温度が25℃以下、または乾燥風速度が1m/s以下では乾燥速度が遅いため、生産性が悪く、さらに、絡み合いが極度に発達するため、応力がかかったときにフィルムが伸びず、破断伸度が下がる。乾燥風温度が40℃以上、または乾燥風速度が3m/s以上ではセルロースアシレートの高分子鎖の絡み合いの発達を妨げた状態で乾燥が進むため、弾性率が低くなる。
【0014】
また、流延フィルムの乾燥速度を低下させる方法としては、支持体(バンドもしくはドラム)上の雰囲気に含まれる有機溶媒ガス濃度を、5乃至30%の範囲、より好ましくは10乃至25%の範囲に、さらに好ましくは10乃至20%の範囲にすることで、絡み合い点密度を所望の値に制御することができる。
【0015】
従来の流延法では、流延膜の乾燥を早めるために、通常、新鮮風(有機溶媒濃度の低い空気)を給気して乾燥する。従って、乾燥の際に、支持体の周囲の有機溶媒ガス濃度は、1%以下の低濃度であることが普通であり、本発明のように高有機溶媒ガス濃度の雰囲気においてドープの流延をすることは無かった。
【0016】
このような高い有機溶媒ガス濃度を実現する方法としては、支持体、あるいは支持体と流延機の両者を容器(ケーシング)に収容し、ドープを流延、乾燥した時にケーシングから排気される有機溶媒を含む気体を、ケーシング内に再給気する方法がある。
【0017】
ケーシングの給排気風量は、毎分あたり、ケーシング内の容積の0.5乃至10倍の範囲にあることが好ましく、1乃至8倍の範囲にあることがより好ましく、1.5乃至3倍の範囲にあることがさらに好ましい。
【0018】
本発明のフィルムの製造方法は通常より乾燥速度が遅いため、流延速度が低下するが、ドープの固形分濃度の増加、流延幅の拡大により生産性の向上を図ることができる。
【0019】
(ドープの固形分濃度)
乾燥速度を低下させ、絡み合い点密度を高めるためには、ドープの固形分濃度を通常の流延よりも高く設定し、乾燥に要する時間の短縮を図ることができる。ドープの固形分濃度は21〜29%が好ましく、23〜27%がさらに好ましい。ドープが通常よりも高濃度であるため、溶解が不十分である場合は冷却、加温の操作を繰り返すことで溶解状態を向上させることができる。溶解が充分であるかは目視により溶液の概観を観察し、判断することができる。
【0020】
(流延幅)
流延速度の低下を補うため、流延幅を通常よりも広くすることで単位時間あたりに製膜されるフィルム面積の拡大を図ることができる。流延幅は1800〜4000mmが好ましく、2000〜3000mmがさらに好ましい。
【0021】
本発明においてはフィルムの絡み合い点密度を上記の方法で制御することにより、弾性率を変化させることができる。フィルム長手方向あるいはこれと略直交する方向のいずれか一方の弾性率が4.0〜6.0GPaであり、かつ他方の弾性率が5.0〜6.0GPaであることが好ましい。さらに、フィルム長手方向あるいはこれと略直交する方向のいずれか一方の弾性率が4.3〜5.8GPaであり、かつ他方の弾性率が5.3〜5.8GPaであることがより好ましく、フィルム長手方向あるいはこれと略直交する方向のいずれか一方の弾性率が4.4〜4.7GPaであり、かつ他方の弾性率が5.5〜5.7GPaであることが最も好ましい。
弾性率が4.0より小さいと寸法安定性が問題となり、6.0より大きいと延伸の際の破断伸びが小さすぎるため、高倍率での延伸ができない。
具体的な測定方法としては、東洋ボールドウィン製万能引っ張り試験機STM T50BPを用い、23℃・70%雰囲気中、引っ張り速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めることができる。
フィルム長手方向あるいはこれと略直交する方向のいずれか一方の弾性率が4.0を上回ると機械強度に優れ、6.0を下回ると延伸の際の破断伸びが大きく、高倍率での延伸がし易い。
さらに、上記の弾性率測定方法において、破断するまでフィルムを引っ張り、伸びを測定することで破断伸びを求めることができる。
破断伸びは10%〜50%が好ましく、20%〜45%がさらに好ましく、25%〜40%が最も好ましい。
【0022】
[セルロースアシレート]
(セルロースアセテートプロピオネートの置換度)
次に上述のセルロースを原料に製造される本発明のセルロースアセテートプロピオネートについて記載する。本発明に用いられるセルロースアセテートプロピオネートはセルロースの水酸基がアシル化されたもので、その置換基はアシル基の炭素原子数が2のアセチル基から炭素原子数が22のものまでいずれも用いることができる。本発明に用いられるセルロースアシレートにおいて、セルロースの水酸基への置換度については特に限定されないが、セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素原子数3〜22の脂肪酸の結合度を測定し、計算によって置換度を得ることができる。測定方法としては、ASTMのD−817−91に準じて実施することが出来る。
【0023】
次に、本発明のセルロースアシレートフィルムとして好ましく用いられるセルロースアセテートプロピオネート(以下「セルロースアシレート」と称する場合がある。)について説明する。
【0024】
本発明に用いるセルロースアセテートプロピオネートは下記式(D)、(E)を満たすことが好ましい。
2.00≦X+Y≦3.00 (D)
1.20≦X≦2.80 (E)
式中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対するプロピオニル基の置換度を表す。本明細書でいう「置換度」とは、セルロースの2位、3位および6位のぞれぞれの水酸基の水素原子が置換されている割合の合計を意味する。2位、3位および6位の全ての水酸基の水素原子がアシル基で置換された場合は置換度が3となる。
【0025】
本発明で用いるセルロースアセテートプロピオネートは下記式(D’)および(E’)を満たすことがより好ましく、下記式(D’’)および(E’’)を満たすことがさらに好ましい。
2.20≦X+Y≦2.86 (D’)
1.30≦X≦2.70 (E’)
2.40≦X+Y≦2.80 (D’’)
1.40≦X≦2.60 (E’’)
【0026】
本発明のセルロースアシレートフィルムはアシル基の疎水性と水酸基の親水性を適度にバランスさせることにより、レターデーションの発現性と湿度依存性を両立させることができる。
【0027】
(原料)
セルロースアシレートを合成する際のセルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。
【0028】
(活性化)
セルロース原料はアシル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行っておくことが好ましい。活性化剤として好ましくは、酢酸、プロピオン酸、または酪酸であり、特に好ましくは酢酸である。活性化剤の添加量はセルロースに対し、好ましくは5質量%〜10000質量%であり、より好ましくは10質量%〜2000質量%、さらに好ましくは30質量%〜1000質量%である。添加方法は噴霧、滴下、浸漬などの方法から選択できる。活性化時間は20分〜72時間以下が好ましく、特に好ましくは20分〜12時間である。活性化温度は0℃〜90℃が好ましく、20℃〜60℃が特に好ましい。さらに活性化剤に硫酸などのアシル化の触媒を0.1質量%〜10質量%加えることもできる。
【0029】
(アシル化)
セルロースとカルボン酸の酸無水物とをブレンステッド酸またはルイス酸(「理化学辞典」第五版(2000年)参照)を触媒として反応させることで、セルロースの水酸基をアシル化することが好ましい。
【0030】
セルロース混合アシレートを得る方法は、アシル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法、2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法、カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を形成させてセルロースと反応させる方法、置換度が3に満たないセルロースアシレートを一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて、残存する水酸基をさらにアシル化する方法などを用いることができる。
【0031】
6位置換度の大きいセルロースアシレートの合成については、特開平11−5851号、特開2002−212338号、特開2002−338601号などの各公報に記載がある。
【0032】
(1)酸無水物
カルボン酸の酸無水物として、好ましくはカルボン酸としての炭素数が2〜22のものを用いることができる。特に好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物である。酸無水物はセルロースの水酸基に対して1.1〜50当量添加することが好ましく、1.2〜30当量添加することがより好ましく、1.5〜10当量添加することが特に好ましい。
【0033】
(2)触媒
アシル化触媒には、ブレンステッド酸またはルイス酸を使用することが好ましく、硫酸または過塩素酸がより好ましく、硫酸が特に好ましい。好ましい添加量は原料セルロースに対して0.1〜30質量%であり、より好ましくは1〜15質量%であり、特に好ましくは3〜12質量%である。
【0034】
(3)溶媒
アシル化溶媒としてカルボン酸が好ましく、さらに好ましくは、炭素数2〜7のカルボン酸であり、特に好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸である。これらの溶媒は混合して用いてもよい。
【0035】
(4)アシル化条件
アシル化剤は、セルロースに対して一度に添加してもよいし、分割して添加してもよい。また、アシル化剤に対してセルロースを一度に添加してもよいし、分割して添加してもよい。アシル化の反応熱による温度上昇の制御と分子量の調整のために、アシル化剤は予め冷却しておくことが好ましい。アシル化剤の温度は−50℃〜50℃が好ましく、より好ましくは−30℃〜40℃、特に好ましくは−20℃〜35℃である。反応の最低温度は−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましく、−20℃以上が特に好ましい。反応の最高温度は50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、35℃以下が特に好ましい。アシル化の反応時間は0.5時間〜24時間が好ましく、1時間〜12時間がより好ましく、1.5時間〜8時間が特に好ましい。
【0036】
(5)反応停止剤
アシル化反応の後に、反応停止剤を加えることが好ましい。反応停止剤は酸無水物を分解するものであればよく、水、アルコール(炭素数1〜3のもの)などが挙げられ、中でも水とカルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)との混合物がさらに好ましい。水とカルボン酸との組成は、水が好ましくは5質量%〜80質量%、さらに好ましくは10質量%〜60質量%、特に好ましくは15質量%〜50質量%である。
【0037】
(6)中和剤
アシル化反応の停止時あるいは停止後に中和剤を添加して、酸触媒を部分的あるいは完全に中和してもよい。中和剤の好ましい例としては、アンモニウム、有機4級アンモニウム、アルカリ金属、2族の金属、3〜12族金属、または13〜15族元素の、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩、水酸化物または酸化物などを挙げることができる。特に好ましくは、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウムの、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩または水酸化物である。中和剤は、粉末で加えても、水、有機溶媒あるいはこれらの混合溶媒に溶解して添加しても良い。
【0038】
(部分加水分解)
このようにして得られたセルロースアシレートは、全置換度がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、セルロースアシレートのアシル置換度を所望の程度まで減少させることが好ましい。この後、残存する酸触媒を前記の中和剤を用いて完全に中和し、部分加水分解を停止させることが好ましい。
【0039】
(ろ過)
セルロースアシレート中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去または削減する目的として、アシル化工程から再沈殿工程の間のいずれかにおいて、セルロースアシレートを含む反応溶液をろ過することが好ましい。ろ過に用いるフィルターの保留粒子径は、好ましくは0.1μm以上50μm以下であり、更に好ましくは、0.5μm以上40μm以下であり、特に好ましくは、1μm以上30μm以下である。フィルターの保留粒子径が0.1μmより小さいと、ろ過圧の上昇が著しく、実質的に工業的な生産が困難である。また、保留粒子径が40μmより大きいと、異物の除去が十分にできない場合がある。また、濾過は2回以上繰り返してもよい。
【0040】
(再沈殿)
セルロースアシレート溶液を、水もしくはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸など)水溶液と混合し再沈殿させる。再沈殿は連続式、バッチ式のいずれでもよい。
【0041】
(洗浄)
再沈殿後、洗浄処理することが好ましい。洗浄は水または温水を用い、pH、イオン濃度、電気伝導度、元素分析等で洗浄終了を確認することができる。
【0042】
(安定化)
洗浄後のセルロースアシレートは、安定性の向上のために、弱アルカリ(Na、K、Ca、Mg等の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物)の水溶液で処理することが好ましい。
【0043】
(乾燥)
50〜160℃でセルロースアシレートの含水率を2質量%以下にまで乾燥することが好ましい。
【0044】
本発明のセルロースアシレートの合成方法としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁の記載も適用できる。
【0045】
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの質量平均重合度は150〜700であり、好ましくは200〜600、さらに好ましくは200〜500である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)に記載されるように、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量分布測定などの方法により測定できる。さらに、平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報に詳細に記載されている。
【0046】
本発明で用いられるセルロースアシレートは、質量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、さらに好ましくは1.5〜5.0であり、特に好ましくは2.0〜4.5である。
【0047】
[セルロースアシレートフィルムの製造]
前記セルロースアシレートフィルムは、セルロースアシレートフィルムを通常作製する方法であればいずれの方法においても製造することができるが、特にソルベントキャスト法により製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造することができる。
有機溶媒は、炭素原子数が3乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトン、炭素原子数が3乃至12のエステルおよび炭素原子数が1乃至6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
炭素原子数が3乃至12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25乃至75モル%であることが好ましく、30乃至70モル%であることがより好ましく、35乃至65モル%であることがさらに好ましく、40乃至60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0048】
一般的な方法でセルロースアシレート溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10乃至40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10乃至30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0乃至40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアシレートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60乃至200℃であり、さらに好ましくは80乃至110℃である。
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0049】
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒中にもセルロースアシレートを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースアシレートを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。
冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースアシレートを撹拌しながら徐々に添加する。セルロースアシレートの量は、この混合物中に10乃至40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアシレートの量は、10乃至30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
次に、混合物を−100乃至−10℃(好ましくは−80乃至−10℃、さらに好ましくは−50乃至−20℃、最も好ましくは−50乃至−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30乃至−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、セルロースアシレートと有機溶媒の混合物は固化する。
【0050】
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を、冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
さらに、これを0乃至200℃(好ましくは0乃至150℃、さらに好ましくは0乃至120℃、最も好ましくは0乃至50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースアシレートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよし、温浴中で加温してもよい。加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
【0051】
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアシレート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量測定(DSC)によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保存する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアシレートの酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0052】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを製造することができる。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18乃至35質量%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
【0053】
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0054】
[添加剤]
セルロースアシレートフィルムには、機械的物性を改良するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。
【0055】
可塑剤の添加量は、セルロースアシレートの量の0.1乃至25質量%であることが好ましく、1乃至20質量%であることがさらに好ましく、3乃至15質量%であることが最も好ましい。
セルロースアシレートフィルムには、劣化防止剤(例えば酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−197073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、劣化防止剤添加による効果が発現し、フィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)を抑制する観点から、調製する溶液(ドープ)の0.01乃至1質量%であることが好ましく、0.01乃至0.2質量%であることがさらに好ましい。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0056】
(マット剤微粒子)
本発明のセルロースアシレートフィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0057】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm以上1.5μm以下が好ましく、0.4μm以上1.2μm以下がさらに好ましく、0.6μm以上1.1μm以下が最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0058】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0059】
本発明において2次平均粒子径の小さな粒子を有するセルロースアシレートフィルムを得るために、微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶剤と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ調製し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースアシレート溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースアシレートドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子が更に再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶剤に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行いこれを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化珪素微粒子を溶剤などと混合して分散するときの二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%が更に好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。最終的なセルロースアシレートのドープ溶液中でのマット剤の添加量は1mあたり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gが更に好ましく、0.08〜0.16gが最も好ましい。
【0060】
使用される溶剤は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0061】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)を用いて二層以上の流延を行いフィルム化することもできる。この場合、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを作製することが好ましい。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10〜40%の範囲となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。
【0062】
二層以上の複数のセルロースアシレート液を流延する場合、複数のセルロースアシレート溶液を流延することが可能で、支持体の進行方向に間隔をおいて設けられた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよい。例えば、特開昭61-158414号、特開平1-122419号、および、特開平11-198285号の各公報に記載の方法を用いることができる。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによってもフィルム化することもできる。例えば、特公昭60-27562号、特開昭61-94724号、特開昭61-94725号、特開昭61-104813号、特開昭61-158413号、および、特開平6-134933号の各公報に記載の方法を用いることができる。また、特開昭56-162617号公報に記載の高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高、低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押し出すセルロースアシレートフィルムの流延方法を用いることもできる。
【0063】
また、二個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成形したフィルムを剥ぎ取り、支持体面に接していた側に第二の流延を行うことにより、フィルムを作製することもできる。例えば、特公昭44-20235号公報に記載の方法を挙げることができる。
流延するセルロースアシレート溶液は同一の溶液を用いてもよいし、異なるセルロースアシレート溶液を用いてもよい。複数のセルロースアシレート層に機能をもたせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押し出せばよい。さらに本発明のセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、紫外線吸収層、偏光層など)と同時に流延することもできる。
【0064】
従来の単層液では、必要なフィルムの厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアシレート溶液を押し出すことが必要である。その場合セルロースアシレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良となったりして問題となることが多かった。この問題の解決方法として、複数のセルロースアシレート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押し出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアシレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができる。
【0065】
セルロースアシレートフィルムの好ましい延伸倍率は、一方向の延伸倍率が1.05〜1.8倍に延伸され、もう一方の延伸倍率が0.9〜1.5倍に延伸されたものが好ましく、一方向の延伸倍率が1.1〜1.6倍に延伸され、もう一方の延伸倍率が1.0〜1.4倍に延伸されたものが更に好ましく、一方向の延伸倍率が1.1〜1.5倍に延伸され、もう一方の延伸倍率が1.0〜1.3倍に延伸されたものが特に好ましい。延伸は縦延伸、横延伸を同時に行っても、別々に行ってもよく、ウェブを流延支持体から剥離する時から乾燥終了の間までに延伸することができる。縦横を同時に延伸する工程を有することが好ましい。これにより、光学的等方性に優れると共に、平面性の良好なセルロースアシレートフィルムを得ることが出来る。製膜工程のこれらの幅規制或いは横方向の延伸はテンターによって行うことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよく、2軸延伸テンターが特に好ましく用いられる。
延伸時の雰囲気温度は110℃以上150℃以下が好ましく、115℃以上140℃以下がさらに好ましく、120℃以上135℃以下が最も好ましい。
フィルムの幅手方向への延伸速度は、50%/min〜300%/minが好ましく、100%/min〜400%/minがさらに好ましく、100%/min〜300%/minが最も好ましい。
【0066】
本発明に用いるセルロースアシレートフィルムの製造に用いる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0067】
[セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度]
セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度の測定はJIS規格K7121記載の方法によりおこなうことができる。
本発明のセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度は80℃以上200℃以下が好ましく、100℃以上170℃以下がさらに好ましい。ガラス転移温度は可塑剤、溶剤等の低分子化合物を含有させることにより低下させることが可能である。
【0068】
[フィルムの厚み]
また、セルロースアシレートフィルムの厚み(乾燥膜厚)は、120μm以下であり、20〜100μmが好ましく、30〜90μmがより好ましい。
【0069】
[フィルムのレターデーション]
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は、それぞれ波長λにおける正面レターデーションおよび膜厚方向のレターデーションを表す。Re(λ)は“KOBRA 21ADH”{王子計測機器(株)製}において、波長λnmの光をフィルムの法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は、前記Re(λ)、面内の遅相軸(“KOBRA 21ADH”により判断される)を傾斜軸(回転軸)として、フィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の合計3つの方向で測定したレターデーション値と平均屈折率の仮定値と入力された膜厚値とを基に“KOBRA 21ADH”が算出する。
【0070】
ここで平均屈折率の仮定値は、「ポリマーハンドブック」(JOHN WILEY & SONS,Inc.)、および各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについては、アッベ屈折計で測定することができる。
【0071】
主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHによりn(製膜方向の屈折率)、n(幅方向の屈折率)、n(厚み方向の屈折率)を算出する。
【0072】
本発明のセルロースアシレートフィルムは液晶表示装置用の偏光板保護フィルムとして好ましく使用することができる。この場合セルロースアシレートフィルムの590nmにおける25℃60%RHのReは30〜100nmが好ましく、30〜90nmがさらに好ましく、40〜80nmが最も好ましい。また、25℃60%RHのRthは70nm〜300nmが好ましく、80nm〜270nmがさらに好ましく、90nm〜250nmが最も好ましい。
【0073】
[フィルムのRe、Rthの湿度依存性]
本発明のセルロースアシレートフィルムの面内のレターデーションReおよび膜厚方向のレターデーションRthはともに湿度による変化が小さいことが好ましい。25℃10%RHにおけるRe値と25℃80%RHにおけるRe値の差ΔRe(=Re10%RH−Re80%RH)が0〜30nmであることが好ましい。より好ましくは0〜20nmであり、さらに好ましくは0〜15nmである。また、25℃10%RHにおけるRth値と25℃80%RHにおけるRth値の差ΔRth(=Rth10%RH−Rth80%RH)が0〜50nmであることが好ましい。より好ましくは0〜40nmであり、さらに好ましくは0〜25nmである。
【0074】
[セルロースアシレートフィルムの含水率]
セルロースアシレートフィルムの含水率は一定温湿度における平衡含水率を測定することにより評価することができる。平衡含水率は一定温湿度に24時間放置した後、平衡に達した試料の水分量をカールフィッシャー法で測定し、水分量(g)を試料重量(g)で除して算出したものである。
本発明のセルロースアシレートフィルムの25℃80%RHにおける平衡含水率は6重量%以下が好ましく、4重量%以下がさらに好ましく、3.5重量%以下が最も好ましい。
【0075】
[透湿度]
透湿度はJIS Z 0208に記載の方法により、各試料の透湿度を測定し、面積1m2あたり24時間で蒸発する水分量(g)として算出する。
セルロースアシレートフィルムの透湿度は様々な方法により調節可能である。
セルロースアシレートフィルムに疎水性化合物を添加し、セルロースアシレートフィルムの含水率を低下させることにより透湿度を低下させることができる。また、透湿度は製膜時に搬送方向及び/あるいは幅方向に延伸し、セルロースアシレートの分子鎖の配向を密にすることによっても低下させることが可能である。
JIS Z 0208、条件Aの方法で測定した本発明のセルロースアシレートフィルムの透湿度は、20g/m以上250g/m以下が好ましく、40g/m以上225g/m以下がさらに好ましく、100g/m以上200g/m以下が最も好ましい。
【0076】
[寸法安定性]
本発明のセルロースアシレートフィルムの寸度安定性は、90℃、5%RHの条件下に24時間静置した場合(高温)の寸度変化率がいずれも0.10%以下であることが好ましい。
より好ましくは0.06%以下であり、さらに好ましくは0.03%以下である。
具体的な測定方法としては、セルロースアシレートフィルム試料30mm×120mmを2枚用意し、25℃、60%RHで24時間調湿し、自動ピンゲージ(新東科学(株))にて、両端に6mmφの穴を100mmの間隔で開け、パンチ間隔の原寸(L0)とした。1枚の試料を90℃、5%RHにて24時間処理した後のパンチ間隔の寸法(L1)を測定した。すべての間隔の測定において最小目盛り1/1000mmまで測定した。90℃、5%RH(高温)の寸度変化率={|L0−L1|/L0}×100、として寸度変化率を求めた。
セルロースアシレートフィルムの寸法変化は、主に熱によるフィルムの伸張または収縮が原因であるが、セルロースアシレートフィルムの弾性率が高いとき、寸法安定性は良好となる。
【0077】
[光弾性]
本発明のセルロースアシレートフィルムの光弾性係数は60×10-8cm/N以下が好ましく、20×10−8cm/Nがさらに好ましい。光弾性係数はエリプソメーターにより求めることができる。
【0078】
[フィルムのヘイズ]
本発明のセルロースアシレートフィルムのヘイズは0.01〜0.80%であることが好ましい。より好ましくは0.01〜0.60%であり、0.01〜0.30%であることがさらに好ましい。ヘイズが0.80%以上になるとパネルに貼り合わせたときに明るさが低下するため好ましくない。
ヘイズの測定は、本発明のセルロースアシレートフィルム試料40mm×80mmを、25℃、60%RHでヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)でJIS K−6714に従って測定した。
【0079】
(表面処理)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10−3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、更にまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)にて30頁〜32頁に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000Kev下で20〜500Kgyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500Kev下で20〜300Kgyの照射エネルギーが用いられる。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理でありセルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。
【0080】
アルカリ鹸化処理は、セルロースアシレートフィルムを鹸化液の槽に直接浸漬する方法または鹸化液をセルロースアシレートフィルム塗布する方法で実施することが好ましい。
塗布方法としては、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を挙げることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の透明支持体に対して塗布するために濡れ性が良く、また鹸化液溶媒によって透明支持体表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒以上5分以下が好ましく、5秒以上5分以下がさらに好ましく、20秒以上3分以下が特に好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。
【0081】
(反射防止層)
偏光板の、液晶セルと反対側に配置される透明保護膜には反射防止層などの機能性膜を設けることが好ましい。特に、本発明では透明保護膜上に少なくとも光散乱層と低屈折率層がこの順で積層した反射防止層または透明保護膜上に中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層がこの順で積層した反射防止層が好適に用いられる。以下にそれらの好ましい例を記載する。
【0082】
透明保護膜上に光散乱層と低屈折率層を設けた反射防止層の好ましい例について述べる。
本発明の光散乱層にはマット粒子が分散しており、光散乱層のマット粒子以外の部分の素材の屈折率は1.50〜2.00の範囲にあることが好ましく、低屈折率層の屈折率は1.35〜1.49の範囲にあることが好ましい。本発明においては光散乱層は、防眩性とハードコート性を兼ね備えており、1層でもよいし、複数層、例えば2層〜4層で構成されていてもよい。
【0083】
反射防止層は、その表面凹凸形状として、中心線平均粗さRaが0.08〜0.40μm、10点平均粗さRzがRaの10倍以下、平均山谷距離Smが1〜100μm、凹凸最深部からの凸部高さの標準偏差が0.5μm以下、中心線を基準とした平均山谷距離Smの標準偏差が20μm以下、傾斜角0〜5度の面が10%以上となるように設計することで、十分な防眩性と目視での均一なマット感が達成され、好ましい。
また、C光源下での反射光の色味がa*値−2〜2、b*値−3〜3、380nm〜780nmの範囲内での反射率の最小値と最大値の比0.5〜0.99であることで、反射光の色味がニュートラルとなり、好ましい。またC光源下での透過光のb*値を0〜3とすることで、表示装置に適用した際の白表示の黄色味が低減され、好ましい。
また、面光源上と本発明の反射防止フィルムの間に120μm×40μmの格子を挿入してフィルム上で輝度分布を測定した際の輝度分布の標準偏差が20以下であると、高精細パネルに本発明のフィルムを適用したときのギラツキが低減され、好ましい。
【0084】
本発明の反射防止層は、その光学特性として、鏡面反射率2.5%以下、透過率90%以上、60度光沢度70%以下とすることで、外光の反射を抑制でき、視認性が向上するため好ましい。特に鏡面反射率は1%以下がより好ましく、0.5%以下であることが最も好ましい。ヘイズが20%〜50%、内部ヘイズ/全ヘイズ値(比)が0.3〜1、光散乱層までのヘイズ値から低屈折率層を形成後のヘイズ値の低下が15%以内、くし幅0.5mmにおける透過像鮮明度が20%〜50%、垂直透過光/垂直から2度傾斜方向の透過率比が1.5〜5.0とすることで、高精細LCDパネル上でのギラツキ防止、文字等のボケの低減が達成され、好ましい。
【0085】
(低屈折率層)
本発明の反射防止フィルムの低屈折率層の屈折率は、1.20〜1.49であり、好ましくは1.30〜1.44の範囲にある。さらに、低屈折率層は下記数式(IX)を満たすことが低反射率化の点で好ましい。
数式(IX):(mλ/4)×0.7<n1d1<(mλ/4)×1.3
式中、mは正の奇数であり、n1は低屈折率層の屈折率であり、そして、d1は低屈折率層の膜厚(nm)である。また、λは波長であり、500〜550nmの範囲の値である。
【0086】
本発明の低屈折率層を形成する素材について以下に説明する。
本発明の低屈折率層には、低屈折率バインダーとして、含フッ素ポリマーを含む。フッ素ポリマーとしては動摩擦係数0.03〜0.20、水に対する接触角90〜120°、純水の滑落角が70°以下の熱または電離放射線により架橋する含フッ素ポリマーが好ましい。本発明の反射防止フィルムを画像表示装置に装着した時、市販の接着テープとの剥離力が低いほどシールやメモを貼り付けた後に剥がれ易くなり好ましく、500gf以下が好ましく、300gf以下がより好ましく、100gf以下が最も好ましい。また、微小硬度計で測定した表面硬度が高いほど、傷がつき難く、0.3GPa以上が好ましく、0.5GPa以上がより好ましい。
【0087】
低屈折率層に用いられる含フッ素ポリマーとしてはパーフルオロアルキル基含有シラン化合物(例えば(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン)の加水分解、脱水縮合物の他、含フッ素モノマー単位と架橋反応性付与のための構成単位を構成成分とする含フッ素共重合体が挙げられる。
【0088】
含フッ素モノマーの具体例としては、例えばフルオロオレフィン類(例えばフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、パーフルオロオクチルエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール等)、(メタ)アクリル酸の部分または完全フッ素化アルキルエステル誘導体類(例えばビスコート6FM(大阪有機化学製)やM−2020(ダイキン製)等)、完全または部分フッ素化ビニルエーテル類等が挙げられるが、好ましくはパーフルオロオレフィン類であり、屈折率、溶解性、透明性、入手性等の観点から特に好ましくはヘキサフルオロプロピレンである。
【0089】
架橋反応性付与のための構成単位としてはグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテルのように分子内にあらかじめ自己架橋性官能基を有するモノマーの重合によって得られる構成単位、カルボキシル基やヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基等を有するモノマー(例えば(メタ)アクリル酸、メチロール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアクリレート、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、マレイン酸、クロトン酸等)の重合によって得られる構成単位、これらの構成単位に高分子反応によって(メタ)アクリルロイル基等の架橋反応性基を導入した構成単位(例えばヒドロキシ基に対してアクリル酸クロリドを作用させる等の手法で導入できる)が挙げられる。
【0090】
また上記含フッ素モノマー単位、架橋反応性付与のための構成単位以外に溶剤への溶解性、皮膜の透明性等の観点から適宜フッ素原子を含有しないモノマーを共重合することもできる。併用可能なモノマー単位には特に限定はなく、例えばオレフィン類(エチレン、プロピレン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等)、アクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル)、メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、エチレングリコールジメタクリレート等)、スチレン誘導体(スチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等)、ビニルエーテル類(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、桂皮酸ビニル等)、アクリルアミド類(N−tert−ブチルアクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド等)、メタクリルアミド類、アクリロ二トリル誘導体等を挙げることができる。
【0091】
上記のポリマーに対しては特開平10−25388号および特開平10−147739号各公報に記載のごとく適宜硬化剤を併用しても良い。
【0092】
(光散乱層)
光散乱層は、表面散乱および/または内部散乱による光拡散性と、フィルムの耐擦傷性を向上するためのハードコート性をフィルムに寄与する目的で形成される。従って、ハードコート性を付与するためのバインダー、光拡散性を付与するためのマット粒子、および必要に応じて高屈折率化、架橋収縮防止、高強度化のための無機フィラーを含んで形成される。
【0093】
光散乱層の膜厚は、ハードコート性を付与する観点並びにカールの発生及び脆性の悪化の抑制の観点から、1〜10μmが好ましく、1.2〜6μmがより好ましい。
【0094】
散乱層のバインダーとしては、飽和炭化水素鎖またはポリエーテル鎖を主鎖として有するポリマーであることが好ましく、飽和炭化水素鎖を主鎖として有するポリマーであることがさらに好ましい。また、バインダーポリマーは架橋構造を有することが好ましい。飽和炭化水素鎖を主鎖として有するバインダーポリマーとしては、エチレン性不飽和モノマーの重合体が好ましい。飽和炭化水素鎖を主鎖として有し、かつ架橋構造を有するバインダーポリマーとしては、二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの(共)重合体が好ましい。バインダーポリマーを高屈折率にするには、このモノマーの構造中に芳香族環や、フッ素以外のハロゲン原子、硫黄原子、リン原子、及び窒素原子から選ばれた少なくとも1種の原子を含むものを選択することもできる。
【0095】
二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーとしては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート)、上記のエチレンオキサイド変性体、ビニルベンゼンおよびその誘導体(例、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン)、ビニルスルホン(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例、メチレンビスアクリルアミド)およびメタクリルアミドが挙げられる。上記モノマーは2種以上併用してもよい。
【0096】
高屈折率モノマーの具体例としては、ビス(4−メタクリロイルチオフェニル)スルフィド、ビニルナフタレン、ビニルフェニルスルフィド、4−メタクリロキシフェニル−4'−メトキシフェニルチオエーテル等が挙げられる。これらのモノマーも2種以上併用してもよい。
【0097】
これらのエチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射または加熱により行うことができる。
従って、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤、マット粒子および無機フィラーを含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後電離放射線または熱による重合反応により硬化して反射防止膜を形成することができる。これらの光ラジカル開始剤等は公知のものを使用することができる。
【0098】
ポリエーテルを主鎖として有するポリマーは、多官能エポシキシ化合物の開環重合体が好ましい。多官能エポシキ化合物の開環重合は、光酸発生剤あるいは熱酸発生剤の存在下、電離放射線の照射または加熱により行うことができる。
従って、多官能エポシキシ化合物、光酸発生剤あるいは熱酸発生剤、マット粒子および無機フィラーを含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後電離放射線または熱による重合反応により硬化して反射防止膜を形成することができる。
【0099】
二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの代わりにまたはそれに加えて、架橋性官能基を有するモノマーを用いてポリマー中に架橋性官能基を導入し、この架橋性官能基の反応により、架橋構造をバインダーポリマーに導入してもよい。
架橋性官能基の例には、イソシアナート基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基、アルデヒド基、カルボニル基、ヒドラジン基、カルボキシル基、メチロール基および活性メチレン基が含まれる。ビニルスルホン酸、酸無水物、シアノアクリレート誘導体、メラミン、エーテル化メチロール、エステルおよびウレタン、テトラメトキシシランのような金属アルコキシドも、架橋構造を導入するためのモノマーとして利用できる。ブロックイソシアナート基のように、分解反応の結果として架橋性を示す官能基を用いてもよい。すなわち、本発明において架橋性官能基は、すぐには反応を示すものではなくとも、分解した結果反応性を示すものであってもよい。
これら架橋性官能基を有するバインダーポリマーは塗布後、加熱することによって架橋構造を形成することができる。
【0100】
光散乱層には、防眩性付与の目的で、フィラー粒子より大きく、平均粒径が1〜10μm、好ましくは1.5〜7.0μmのマット粒子、例えば無機化合物の粒子または樹脂粒子が含有される。
上記マット粒子の具体例としては、例えばシリカ粒子、TiO2粒子等の無機化合物の粒子;アクリル粒子、架橋アクリル粒子、ポリスチレン粒子、架橋スチレン粒子、メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子等の樹脂粒子が好ましく挙げられる。なかでも架橋スチレン粒子、架橋アクリル粒子、架橋アクリルスチレン粒子、シリカ粒子が好ましい。マット粒子の形状は、球状あるいは不定形のいずれも使用できる。
【0101】
また、粒子径の異なる2種以上のマット粒子を併用して用いてもよい。より大きな粒子径のマット粒子で防眩性を付与し、より小さな粒子径のマット粒子で別の光学特性を付与することが可能である。
【0102】
さらに、上記マット粒子の粒子径分布としては単分散であることが最も好ましく、各粒子の粒子径は、それぞれ同一に近ければ近いほど良い。例えば平均粒子径よりも20%以上粒子径が大きな粒子を粗大粒子と規定した場合には、この粗大粒子の割合は全粒子数の1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以下であり、さらに好ましくは0.01%以下である。このような粒子径分布を持つマット粒子は通常の合成反応後に、分級によって得られ、分級の回数を上げることやその程度を強くすることにより、より好ましい分布のマット剤を得ることができる。
【0103】
上記マット粒子は、形成された光散乱層のマット粒子量が好ましくは10〜1000mg/m2、より好ましくは100〜700mg/m2となるように光散乱層に含有される。
マット粒子の粒度分布はコールターカウンター法により測定し、測定された分布を粒子数分布に換算する。
【0104】
光散乱層には、層の屈折率を高めるために、上記のマット粒子に加えて、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、インジウム、亜鉛、錫、アンチモンのうちより選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなり、平均粒径が0.2μm以下、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.06μm以下である無機フィラーが含有されることが好ましい。
また逆に、マット粒子との屈折率差を大きくするために、高屈折率マット粒子を用いた光散乱層では層の屈折率を低目に保つためにケイ素の酸化物を用いることも好ましい。好ましい粒径は前述の無機フィラーと同じである。
光散乱層に用いられる無機フィラーの具体例としては、TiO2、ZrO2、Al23、In23、ZnO、SnO2、Sb23、ITOとSiO2等が挙げられる。TiO2およびZrO2が高屈折率化の点で特に好ましい。該無機フィラーは表面をシランカップリング処理またはチタンカップリング処理されることも好ましく、フィラー表面にバインダー種と反応できる官能基を有する表面処理剤が好ましく用いられる。
これらの無機フィラーの添加量は、光散乱層の全質量の10〜90%であることが好ましく、より好ましくは20〜80%であり、特に好ましくは30〜75%である。
なお、このようなフィラーは、粒径が光の波長よりも十分小さいために散乱が生じず、バインダーポリマーに該フィラーが分散した分散体は光学的に均一な物質として振舞う。
【0105】
光散乱層のバインダーおよび無機フィラーの混合物のバルクの屈折率は、1.48〜2.00であることが好ましく、より好ましくは1.50〜1.80である。屈折率を上記範囲とするには、バインダー及び無機フィラーの種類及び量割合を適宜選択すればよい。どのように選択するかは、予め実験的に容易に知ることができる。
【0106】
光散乱層は、特に塗布ムラ、乾燥ムラ、点欠陥等の面状均一性を確保するために、フッ素系、シリコーン系の何れかの界面活性剤、あるいはその両者を防眩層形成用の塗布組成物中に含有する。特にフッ素系の界面活性剤は、より少ない添加量において、本発明の反射防止フィルムの塗布ムラ、乾燥ムラ、点欠陥等の面状故障を改良する効果が現れるため、好ましく用いられる。面状均一性を高めつつ、高速塗布適性を持たせることにより生産性を高めることが目的である。
【0107】
次に透明保護膜上に中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層がこの順で積層した反射防止層について述べる。
基体上に少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)の順序の層構成から成る反射防止膜は、以下の関係を満足する屈折率を有する様に設計される。
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率
また、透明支持体と中屈折率層の間に、ハードコート層を設けてもよい。更には、中屈折率ハードコート層、高屈折率層及び低屈折率層からなってもよい(例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等参照)。また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等)等が挙げられる。反射防止膜のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。また膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0108】
(高屈折率層および中屈折率層)
反射防止膜の高い屈折率を有する層は、平均粒径100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子及びマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜から成る。
高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物が挙げられ、好ましくは屈折率1.9以上のものが挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。
このような超微粒子とするには、粒子表面が表面処理剤で処理されること(例えば、シランカップリング剤等:特開平11−295503号公報、同11−153703号公報、特開2000−9908、アニオン性化合物或は有機金属カップリング剤:特開2001−310432号公報等)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とすること(:特開2001−166104、特開2001−310432号公報等)、特定の分散剤併用(例、特開平11−153703号公報、米国特許第6210858号明細書、特開2002−2776069号公報等)等挙げられる。
【0109】
マトリックスを形成する材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が挙げられる。
更に、ラジカル重合性及び/またはカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個有する多官能性化合物含有組成物と、加水分解性基を有する有機金属化合物及びその部分縮合体を含有する組成物とから選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。例えば、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の組成物が挙げられる。
また、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001−293818号公報等に記載されている。
【0110】
高屈折率層の屈折率は、−般に1.70〜2.20である。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。
中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。また、厚さは5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。
【0111】
(低屈折率層)
低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層して成る。低屈折率層の屈折率は1.20〜1.55である。好ましくは1.30〜1.50である。
耐擦傷性、防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させる手段として表面への滑り性付与が有効で、従来公知のシリコーンの導入、フッ素の導入等から成る薄膜層の手段を適用できる。
含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましい。より好ましくは1.36〜1.47である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35〜80質量%の範囲で含む架橋性若しくは重合性の官能基を含む化合物が好ましい。
例えば、特開平9−222503号公報明細書段落番号[0018]〜[0026]、同11−38202号公報明細書段落番号[0019]〜[0030]、特開2001−40284号公報明細書段落番号[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報等に記載の化合物が挙げられる。
シリコーン化合物としてはポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基あるいは重合性官能基を含有して、膜中で橋かけ構造を有するものが好ましい。例えば、反応性シリコーン(例、サイラプレーン(チッソ(株)製等)、両末端にシラノール基含有のポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)等が挙げられる。
【0112】
架橋または重合性基を有する含フッ素及び/またはシロキサンのポリマーの架橋または重合反応は、重合開始剤、増感剤等を含有する最外層を形成するための塗布組成物を塗布と同時または塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。
また、シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基含有のシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化するゾルゲル硬化膜も好ましい。
例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物またはその部分加水分解縮合物(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報等記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ「パーフルオロアルキルエーテル」基を含有するシリル化合物(特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報記載の化合物等)等が挙げられる。
【0113】
低屈折率層は、上記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820号公報の段落番号[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。
低屈折率層が最外層の下層に位置する場合、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されても良い。安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。
低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがさらに好ましく、60〜120nmであることが最も好ましい。
【0114】
(反射防止層の他の層)
さらに、ハードコート層、前方散乱層、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0115】
(ハードコート層)
ハードコート層は、反射防止層を設けた透明保護膜に物理強度を付与するために、透明支持体の表面に設ける。特に、透明支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。ハードコート層は、光及び/または熱の硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成されることが好ましい。硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、また加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したと同様のものが挙げられる。ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、国際公開第00/46617号パンフレット等記載のものが挙げられる。
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層で記載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが好ましい。
ハードコート層は、平均粒径0.2〜10μmの粒子を含有させて防眩機能(アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。
ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜厚は、0.2〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7μmである。
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。また、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0116】
(帯電防止層)
帯電防止層を設ける場合には体積抵抗率が10-8(Ωcm-3)以下の導電性を付与することが好ましい。吸湿性物質や水溶性無機塩、ある種の界面活性剤、カチオンポリマー、アニオンポリマー、コロイダルシリカ等の使用により10-8(Ωcm-3)の体積抵抗率の付与は可能であるが、温湿度依存性が大きく、低湿では十分な導電性を確保できない問題がある。そのため、導電性層素材としては金属酸化物が好ましい。金属酸化物には着色しているものがあるが、これらの金属酸化物を導電性層素材として用いるとフィルム全体が着色してしまい好ましくない。着色のない金属酸化物を形成する金属としてZn、Ti、Sn、Al、In、Si、Mg、Ba、Mo、W、またはVをあげることができ、これを主成分とした金属酸化物を用いることが好ましい。具体的な例としては、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、In23、SiO2、MgO、BaO、MoO3、WO3、V25等、あるいはこれらの複合酸化物がよく、特にZnO、TiO2、及びSnO2が好ましい。異種原子を含む例としては、例えばZnOに対してはAl、In等の添加物、SnO2に対してはSb、Nb、ハロゲン元素等の添加、またTiO2に対してはNb、Ta等の添加が効果的である。更にまた、特公昭59−6235号公報に記載の如く、他の結晶性金属粒子あるいは繊維状物(例えば酸化チタン)に上記の金属酸化物を付着させた素材を使用しても良い。尚、体積抵抗値と表面抵抗値は別の物性値であり単純に比較することはできないが、体積抵抗値で10-8(Ωcm-3)以下の導電性を確保するためには、該導電層が概ね10-10(Ω/□)以下の表面抵抗値を有していればよく更に好ましくは10-8(Ω/□)である。導電層の表面抵抗値は帯電防止層を最表層としたときの値として測定されることが必要であり、本特許に記載の積層フィルムを形成する途中の段階で測定することができる。
【0117】
(偏光板)
偏光板は、偏光子およびその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる。一方の保護膜として、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いることができる。他方の保護膜は、通常のセルロースアセテートフィルムを用いてもよい。偏光子には、ヨウ素系偏光子、二色性染料を用いる染料系偏光子やポリエン系偏光子がある。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。本発明のセルロースアシレートフィルムを偏光板保護膜として用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られたセルロースアシレートフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号公報、特開平6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。保護膜処理面と偏光子を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護膜で構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
【0118】
本発明のセルロースアシレートフィルムの偏光子への貼り合せ方は、偏光子の透過軸と本発明のセルロースアシレートフィルムの遅相軸を一致させるように貼り合せることが好ましい。なお、偏光板クロスニコル下で作製した偏光板の評価を行なったところ、本発明のセルロースアシレートフィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸(透過軸と直交する軸)との直交精度が1°より大きいと、偏光板クロスニコル下での偏光度性能が低下して光抜けが生じることがわかった。この場合、液晶セルと組み合わせた場合に、十分な黒レベルやコントラストが得られないことになる。したがって、本発明のセルロースアシレートフィルムの主屈折率nxの方向と偏光板の透過軸の方向とは、そのずれが1°以内、好ましくは0.5°以内であることが好ましい。
【0119】
偏光板の単板透過率TT、平行透過率PT、直交透過率CTの測定にはUV3100PC(島津製作所社製)を用いた。測定では、380nm〜780nmの範囲で測定し、単板、平行、直交透過率ともに、10回測定の平均値を用いた。偏光板耐久性試験は(1)偏光板のみと(2)偏光板をガラスに粘着剤を介して貼り付けた、2種類の形態で次のように行った。偏光板のみの測定は、2つの偏光子の間に光学補償膜が挟まれるように組み合わせて直交、同じものを2つ用意し測定した。ガラス貼り付け状態のものはガラスの上に偏光板を光学補償膜がガラス側にくるように貼り付けたサンプル(約5cm×5cm)を2つ作成する。単板透過率測定ではこのサンプルのフィルムの側を光源に向けてセットして測定する。2つのサンプルをそれぞれ測定し、その平均値を単板の透過率とする。偏光性能の好ましい範囲としては単板透過率TT、平行透過率PT、直交透過率CTの順でそれぞれ、40.0≦TT≦45.0、30.0≦PT≦40.0、CT≦2.0であり、より好ましい範囲としては41.0≦TT≦44.5、34≦PT≦39.0、CT≦1.3(単位はいずれも%)である。また偏光板耐久性試験ではその変化量はより小さいほうが好ましい。
また、本発明の偏光板は、60℃95%RHに500時間静置させたときの直交単板透過率の変化量ΔCT(%)、偏光度変化量ΔPが下記式(j)、(k)の少なくとも1つ以上を満たしている。
(j)−6.0≦ΔCT≦6.0
(k)−10.0≦ΔP≦0.0
ここで、変化量とは試験後測定値から試験前測定値を差し引いた値である。
この要件を満たすことによって偏光板の使用中あるいは保管中の安定性が確保される。
【0120】
本発明のセルロースアシレートフィルム、該フィルムからなる光学補償シート、該フィルムを用いた偏光板は、様々な表示モードの液晶セル、液晶表示装置に用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。
【0121】
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置である。OCBモードの液晶セルは、米国特許第4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速いとの利点がある。
【0122】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(シャープ技報第80号11頁)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(月刊ディスプレイ5月号14頁(1999年))が含まれる。
VAモードの液晶表示装置は、液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を担持している。本発明の透過型液晶表示装置の一つの態様では、本発明の光学補償シートは、液晶セルと一方の偏光板との間に、一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に二枚配置する。
【0123】
本発明の透過型液晶表示装置の別の態様では、液晶セルと偏光子との間に配置される偏光板の透明保護膜として、本発明のセルロースアシレートフィルムからなる光学補償シートが用いられる。一方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)透明保護膜のみに上記の光学補償シートを用いてもよいし、あるいは双方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)二枚の透明保護膜に、上記の光学補償シートを用いてもよい。一方の偏光板のみに上記光学補償シートを使用する場合は、液晶セルのバックライト側偏光板の液晶セル側保護膜として使用するのが特に好ましい。液晶セルへの張り合わせは、本発明のセルロースアシレートフィルムはVAセル側にすることが好ましい。保護膜は通常のセルロースアシレートフィルムでも良く、本発明のセルロースアシレートフィルムより薄いことが好ましい。たとえば、40〜80μmが好ましく、市販のKC4UX2M(コニカオプト株式会社製40μm)、KC5UX(コニカオプト株式会社製60μm)、TD80(富士写真フイルム製80μm)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0124】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
【0125】
(フィルム1の作製)
<セルロースアシレート溶液Aの調製>
セルロースアシレートおよび下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液Aを調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート溶液Aの組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アセチル化度1.7、プロピオニル化度0.8の
セルロースアセテートプロピオネート
100.0質量部
トリフェニルフォスフェート(可塑剤) 6.0質量部
ビフェニルフォスフェート(可塑剤) 3.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 302.0質量部
メタノール(第2溶媒) 45.0質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0126】
<マット剤溶液Aの調製>
下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を溶解し、マット剤溶液Aを調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤溶液Aの組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子(AEROSIL R972、
日本アエロジル(株)製) 2.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 75.0質量部
メタノール(第2溶媒) 12.7質量部
セルロースアシレート溶液A 0.3質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0127】
上記マット剤溶液Aの1.3質量部を濾過後にセルロースアシレート溶液Aを92.7質量部加えて、インラインミキサーを用いて混合し、バンド流延機を用いて流延し、直後に乾燥風温度30℃、乾燥風速度1.4m/sで残留溶媒含量40%まで乾燥し、フィルムを剥ぎ取った。乾燥風は有機溶剤濃度が1%以下の新鮮風とした。130℃の雰囲気温度で残留溶媒含量15%のフィルムをテンターを用いて延伸倍率1.30倍、延伸速度150%/分で横延伸したのち、130℃で30秒間保持した。その後、クリップを外して120℃で40分間乾燥させ、フィルム1を製造した。作製されたフィルム1の残留溶媒量は0.1%であり、膜厚は80μmであった。
【0128】
(フィルム2〜9の作製) セルロースアシレートの置換度、可塑剤投入量、乾燥風速度温度、乾燥風速度、延伸倍率を表1の内容に変更した以外はフィルム1と同様にしてフィルム2〜9を作製した。
【0129】
フィルム1〜9の製造方法は通常より除乾であるため、流延速度が低下するという問題が生じる。そこで下記の2点により生産性向上を図った。
【0130】
(ドープの固形分濃度)
ドープの固形分濃度を24%とし、乾燥に要する時間の短縮を図った。溶解が不十分である場合は冷却、加温の操作を繰り返した。溶解が充分であるかは目視により溶液の概観を観察し、判断した。
【0131】
(流延幅)
流延速度の低下を補うため、流延幅を2500mmとし、単位時間あたりに製膜されるフィルム面積の拡大を図った。
【0132】
上記で作製したフィルム1〜9の25℃60%における絡み合い点密度、弾性率、寸法安定性、Re、Rthを下記の通り評価した。
【0133】
(絡み合い点密度)
フィルム試料5mm×30mmを、25℃60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA-225(アイティー計測制御株式会社製))で、つかみ間距離20mm、周波数1Hzで30℃から昇温速度2℃/分で測定する。縦軸に対数軸で貯蔵弾性率E’、横軸に線形軸で温度(K)をプロットし、ガラス転移領域と流動領域の間の、E’が一定値を示すゴム状平坦領域の開始温度をTRs、終了温度をTRfとした際に、T=(TRs+TRf)/2をゴム状平坦領域温度と定義する。Tにおける貯蔵弾性率E’を用いて下記式からポリマーの絡み合い点密度νeを求めた(Rは気体定数)。
νe=E’/3RT
【0134】
(弾性率)
東洋ボールドウィン製万能引っ張り試験機STM T 50BPを用い、23℃、70%雰囲気中、引っ張り速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。
具体的な測定方法としては、東洋ボールドウィン製万能引っ張り試験機STM T50BPを用い、23℃・70%雰囲気中、引っ張り速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めることができる。さらに、上記の条件で破断するまでフィルムを引っ張り、伸びを測定することで破断伸びを求めた。
破断伸びの評価は、40%以上を◎、20%〜40%未満を○、10〜20%未満を△、10%未満を×とした。
弾性率が高いと、フィルムに応力がかかった際の歪みが小さいため、機械強度に優れ、破断伸びが高いと、フィルムに応力がかかった際に破断が生じにくく、機械強度に優れている。
【0135】
(寸法安定性)
フィルム試料30mm×120mmを用意し、25℃、60%RHで24時間調湿し、自動ピンゲージ(新東科学(株))にて、両端に6mmφの穴を100mmの間隔で開け、パンチ間隔の原寸(L0)とした。次に試料を90℃、5%RHにて24時間処理した後のパンチ間隔の寸法(L1)を測定した。すべての間隔の測定において最小目盛り1/1000mmまで測定した。90℃、5%RH(高温)の寸度変化率={|L0−L1|/L0}×100、として寸度変化率を求めた。
評価は、寸度変化率が0.03%未満を◎、0.03〜0.06%未満を○、0.06%〜0.10%未満は△、0.10%以上を×とした。
【0136】
(Re、Rth)
25℃60%RHでの590nmにおけるフィルムのRe、Rthを“KOBRA 21ADH”{王子計測機器(株)製}を用いて測定した。
【0137】
〔比較例1〕
(フィルム10の作製)
<セルロースアシレート溶液Bの調製>
セルロースアシレートおよび下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液Bを調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート溶液Bの組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アセチル化度1.9、プロピオニル化度0.7の
セルロースアセテートプロピオネート
100.0質量部
トリフェニルフォスフェート(可塑剤) 6.0質量部
ビフェニルフォスフェート(可塑剤) 3.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 402.0質量部
メタノール(第2溶媒) 60.0質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0138】
実施例1に記載のマット剤溶液Aの1.3質量部を濾過後にセルロースアシレート溶液Bを92.7質量部加えて、インラインミキサーを用いて混合し、バンド流延機を用いて流延し、直後に乾燥風温度50℃、乾燥風速度1.4m/sで残留溶媒含量40%まで乾燥し、フィルムを剥ぎ取った。乾燥風は有機溶剤濃度が1%以下の新鮮風とした。130℃の雰囲気温度で残留溶媒含量15%のフィルムをテンターを用いて延伸倍率1.30倍、延伸速度150%/分で横延伸したのち、130℃で30秒間保持した。その後、クリップを外して120℃で40分間乾燥させ、フィルム10を製造した。作製されたフィルム10の残留溶媒量は0.1%であり、膜厚は80μmであった。
【0139】
(フィルム11〜16の作製) セルロースアシレートの置換度、可塑剤投入量、乾燥風速度温度、乾燥風速度、延伸倍率を表1の内容に変更した以外はフィルム10と同様にしてフィルム11〜16を作製した。
【0140】
上記で作製したフィルム10〜16の25℃60%における絡み合い点密度、弾性率、寸法安定性、Re、Rthを〔実施例1〕と同様に評価した。
【0141】
〔実施例2〕
(フィルム17の作製)
<セルロースアシレート溶液Cの調製>
セルロースアシレートおよび下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液Cを調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート溶液Cの組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アセチル化度1.9、プロピオニル化度0.7の
セルロースアセテートプロピオネート
100.0質量部
トリフェニルフォスフェート(可塑剤) 6.0質量部
ビフェニルフォスフェート(可塑剤) 3.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 302.0質量部
メタノール(第2溶媒) 45.0質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0142】
実施例1に記載のマット剤溶液Aの1.3質量部を濾過後にセルロースアシレート溶液Cを92.7質量部加えて、インラインミキサーを用いて混合し、バンド流延機を用いて流延した。バンド流延機は、ケーシング内に入れて密封した。ケーシングに給気口と排気口を設置して互いに接続した。吸気口と排気口の間に送風機を設置して、ケーシング内の雰囲気を循環した。この送風機により、風量比(1分間に循環させる風量/ケーシングの容積)を調節し、2とした。また、ケーシング内における有機溶媒のガス濃度は、この循環系の内部に設置したコンデンサーにより調節し、20%とした。循環風温度は38℃とした。残留溶媒含量40%まで乾燥し、フィルムを剥ぎ取った。130℃の雰囲気温度で残留溶媒含量15%のフィルムをテンターを用いて延伸倍率1.30倍、延伸速度150%/分で横延伸したのち、130℃で30秒間保持した。その後、クリップを外して120℃で40分間乾燥させ、フィルム17を製造した。作製されたフィルム20の残留溶媒量は0.1%であり、膜厚は80μmであった。
【0143】
(フィルム18の作製) ケーシング内の風量比(1分間に循環させる風量/ケーシングの容積)を4、有機溶媒のガス濃度を10%とした以外はフィルム17と同様にしてフィルム18を作製した。
【0144】
フィルム17、18の製造方法は通常より除乾であるため、流延速度が低下するという問題が生じる。そこで下記の2点により生産性向上を図った。
【0145】
(ドープの固形分濃度)
ドープの固形分濃度を24%とし、乾燥に要する時間の短縮を図った。溶解が不十分である場合は冷却、加温の操作を繰り返した。溶解が充分であるかは目視により溶液の概観を観察し、判断した。
【0146】
(流延幅)
流延速度の低下を補うため、流延幅を2500mmとし、単位時間あたりに製膜されるフィルム面積の拡大を図った。
【0147】
上記で作製したフィルム17、18の25℃60%における絡み合い点密度、弾性率、寸法安定性、Re、Rthを〔実施例1〕と同様に評価した。
【0148】
【表1】

【0149】
【表2】

【0150】
表2中、MDはフィルム長手方向を表し、TDはこれと略直交する方向を表す。
【0151】
表2から明らかなように、本発明のフィルム1〜9、17、18は、フィルム10〜15と比較してポリマー鎖の絡み合い点密度が高い。これに伴い、本発明のフィルムでは、ポリマー鎖の絡み合いが密に生じているため、応力が生じても変形しにくくなり、弾性率が高くなっている。弾性率は絡み合い点密度のみでなく、結晶化度、配向度にも依存するが、結晶化度や配向度は光学特性を大きく変化させるパラメータであるため、同時に制御することが困難である。そこで、本発明では光学特性に比較的影響を与えにくい、絡み合い点密度というパラメータを制御することで所望の光学特性を発現させながら高弾性率を実現し、機械強度、寸法安定性に優れたフィルムを作製することを可能とした。
比較例のフィルム16は、弾性率は高いが、破断伸びの点で悪いため、機械強度は問題レベルであった。
【0152】
〔実施例3〕
(鹸化処理)
実施例1で作製したフィルム1を、1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に、55℃で3分間浸漬した。室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。このようにして、フィルム1の表面をケン化した。
【0153】
(偏光板の作製)
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光膜を作製した。次に、作製したフィルム1を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて偏光膜の片側に貼り付けた。フィルム1の遅相軸および偏光膜の透過軸が平行になるように配置した。
市販のセルローストリアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士写真フイルム(株)製)をフィルム1と同様にケン化処理し、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、上記偏光膜の反対側に貼り付けた。このようにして、偏光板1を作製した。
フィルム1のかわりにフィルム2〜9、17、18を用いた以外は偏光板1と同様にして偏光板2〜9、17、18を作製した。
【0154】
〔実施例4〕
(液晶表示装置の作製)
市販のVAモード液晶テレビLC-37GE2(シャープ(株)製)の液晶セルのバックライト側の偏光板を剥がし、粘着剤を介して、上記で作製した偏光板1をフィルム1が液晶セル側となるように貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸が上下方向であったため、バックライト側の偏光板の透過軸は左右方向とし、クロスニコル配置とした。このようにして液晶表示装置1を作製した。
【0155】
〔実施例5〕
偏光板1のかわりに偏光板2〜9、17、18を用いた以外は実施例4と同様にして液晶表示装置2〜9、17、18を作製した。
【0156】
(液晶表示装置の評価)
本発明の液晶表示装置1〜9、17、18はいずれも色味、視野角、コントラストに優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)で示されるセルロースアセテートプロピオネートの高分子鎖の絡み合い点密度νeが0.3〜2.0mol/dmであることを特徴とするセルロースアセテートプロピオネートフィルム。
νe=E’/3RT 式(A)
(Rは気体定数、E’は動的粘弾性測定でのゴム状平坦領域における貯蔵弾性率、Tはゴム状平坦領域温度)
【請求項2】
フィルム長手方向あるいはこれと略直交する方向のいずれか一方の弾性率が4.0〜6.0GPaであり、かつ他方の弾性率が5.0〜6.0GPaであることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルム。
【請求項3】
架橋構造を有する化合物を含まないことを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルム。
【請求項4】
Reが下記式(B)の範囲を満たし、Rthが下記式(C)の範囲を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルム。
30nm≦Re≦100nm 式(B)
70nm≦Rth≦300nm 式(C)
(式中、Reは波長590nmの光に対する25℃60%RHの該フィルムの面内レターデーション値であり、Rthは波長590nmの光に対する25℃60%RHの該フィルムの厚み方向のレターデーション値である。)
【請求項5】
セルロースアセテートプロピオネートと溶媒を含むドープをバンド上に流延後、残留溶媒含量が70%以下になるまでの間に、温度が25℃〜40℃、速度が1〜3m/sの乾燥風を当てて乾燥させることを特徴とするセルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造方法。
【請求項6】
流延時のドープの固形分濃度が23〜27%であることを特徴とする請求項5に記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造方法。
【請求項7】
フィルムの流延幅が2000〜3000mmであることを特徴とする請求項5または6に記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造方法。
【請求項8】
有機溶媒のガス濃度が5〜30%の範囲にある雰囲気下において支持体上に流延して流延膜を形成し、乾燥する工程を含むことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルム。
【請求項10】
請求項1〜4又は9のいずれかに記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルムを含むことを特徴とする光学補償シート。
【請求項11】
偏光膜およびその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる偏光板であって、透明保護膜の少なくとも一方が、請求項1〜4又は9のいずれかに記載のセルロースアセテートプロピオネートフィルム又は請求項10に記載の光学補償シートであることを特徴とする偏光板。
【請求項12】
液晶セルおよびその両側に配置された2枚の偏光板からなる液晶表示装置であって、少なくとも1枚の偏光板が請求項11に記載の偏光板であることを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2008−260919(P2008−260919A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61262(P2008−61262)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】