説明

セルロースエステルフィルム及びセルロースエステルフィルムの製造方法

【課題】コントラスト性能の向上を図れ、マット効果に優れるとともにフィルム同士の貼り付きなどのブロッキングを防止でき、さらには押出工程でのフィルターの目詰まりを防止して生産性を向上させることのできるセルロースエステルフィルム及びセルロースエステルフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】溶融流延法によって製膜されるセルロースエステルフィルムであって、セルロースエステルを含む溶融混合物中のゲルフィラーの大きさが、0.5〜30μmで、50〜500個/gであり、50μm以上が0〜2個/10gである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフィルム及びセルロースエステルフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、セルロース樹脂を使用した光学フィルムに用いるマット剤として、無機微粒子の中でもシリカ系微粒子が多く使用されている(特許文献1、2、3参照)。
近年の液晶ディスプレイではコントラスト競争が激化しているが、コントラストを向上させる要因の一つにフィルムの透過率が挙げられる。マット剤はフィルムの巻き形状維持のために重要であるが、フィルムと組成が異なるため、屈折率差と粒径の大きさが散乱を引き起こし、透過率を下げ、コントラストを悪化させてしまう。
無機系微粒子の中でもシリカ系微粒子はセルロースエステルに近い屈折率を持っているが、無機系微粒子は物質固有の屈折率のためこれ以上屈折率を近づけることができない。そのため、シリカ微粒子の添加量を減らすことでコントラスト向上を図ってきたが、減らしすぎるとマット効果を発揮することができなくなるため、添加量減少によるコントラスト向上の効果は限界となっていた。
そこで、屈折率差を無くす方法として、有機系微粒子を使用することが知られている(特許文献4参照)。
一方、セルロースの作り方として、溶液製膜法が知られているが、溶融流延法という溶剤を使用しない環境を考えた製膜法が提案されている(特許文献5参照)。
有機系微粒子は、セルロースエステルとの屈折率差を無くす方向に調整しやすいが、溶融押出工程内の樹脂温度は200℃以上もの高温になるので、通常、未架橋の有機系微粒子では溶融温度に耐えられなくて溶解してしまうため、有機系微粒子では架橋した構造を持つものに限られてくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−11055号公報
【特許文献2】特開2001−2799号公報
【特許文献3】特開2001−114907号公報
【特許文献4】特開2007−254727号公報
【特許文献5】特開2000−352620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、架橋構造を持つものは架橋により硬くなるものが多く押出工程内のフィルターを通る際に目詰まりを発生しやすく、圧力が安定しなくなる。緩やかな架橋はコントロールが困難であり、架橋度に分布をもつため添加量が増加する。そのため、樹脂を一定量供給できなくなることから、膜厚変動が生じて製品にならないといった問題が生じてしまう。
さらに、目詰まりしたフィルターは交換が必要になるが、フィルターを交換するためには生産をストップさせなくてはならず、生産が止まってしまうことで生産効率が悪くなる。また、架橋した有機系微粒子はセルロースエステルとの相溶性が悪く、無機系微粒子以上に透過率を低下させ、コントラストを悪化させてしまう。
近年の高コントラスト競争時代において、透過率低下が大きな障害となるが、マット効果(フィルムに微細な凹凸を与えて滑りやすくする効果)やブロッキング防止効果(フィルム同士の貼り付きを防止する効果)の両立が要求されている。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、コントラスト性能の向上を図れ、マット効果に優れるとともにフィルム同士の貼り付きなどのブロッキングを防止でき、さらには押出工程でのフィルターの目詰まりを防止して生産性を向上させることのできるセルロースエステルフィルム及びセルロースエステルフィルムの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、 溶融流延法によって製膜されるセルロースエステルフィルムであって、
セルロースエステルフィルム中に、大きさが0.5〜30μmのゲルフィラーを、50〜500個/g有し、大きさが50μm以上のゲルフィラーを0〜2個/10g有することを特徴とするセルロースエステルフィルム
が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、セルロースエステルフィルム中に、大きさが0.5〜30μmのゲルフィラーを、50〜500個/g有し、大きさが50μm以上のゲルフィラーを0〜2個/10g有するセルロースエステルフィルムの製造方法であって、
セルロースエステルを含むペレットを70℃から95℃で4時間から6時間乾燥させる工程と、
前記乾燥後のペレットを溶融流延法によって製膜する工程と、を有することを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、セルロースエステルフィルム中に、大きさが0.5〜30μmのゲルフィラーを、50〜500個/g有し、、大きさが50μm以上のゲルフィラーの個数が0〜2個/10gとすることにより、ゲルフィラーはセルロースエステルフィルムと同組成であることから、屈折率をほぼ等しくすることができ、屈折率の差による光の散乱を防止することができる。その結果、コントラスト性能を向上させることができる。また、ゲルフィラーの微細な凹凸によって滑り性が良好となり、フィルム同士の貼り付きを防止することができる。さらに、ゲルフィラーは、有機系微粒子よりも柔らかいため、押出工程内でのフィルターの目詰まりも防止し、膜厚変動を起こしにくい上、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のセルロースエステルフィルムを製造するための製造装置の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、溶融流延法により製膜され、セルロースエステルフィルム中に大きさが0.5〜30μmのゲルフィラーを、50〜500個/g有し、大きさが50μm以上のゲルフィラーの個数が0〜2個/10gである。
ここで、ゲルフィラーとは、フィルムの材料となるセルロースエステルに由来するもので、セルロースエステルフィルムとほとんど同組成であるが、架橋構造を形成することで、溶融状態の組成物の中ではゲル状態となっているものを表す。但し、ゲル状であるのは溶融した状態の樹脂中のみであり、原料ペレットや製膜後のフィルム中では固形化している。
ゲルフィラーの大きさ及び個数は、次のようにしてカウントする。まず、サンプルフィルムをテトラヒドロフランに溶解させて5重量%溶液を作り、20時間程度放置して、清浄なフィルム部分を自然溶解させる。異物は溶けにくいため、ゲル状の各部分は溶け残る。その溶け残った溶液に含まれるゲルフィラーを、ベックマン・コールター社のコールター カウンター(Zシリーズ、Multisizer3)で大きさと個数をカウントする。大きさは、各粒子の投影面積を同じ面積の円に換算した際の直径とする。なお、ゲルと同じくらいの大きさの粒子を添加した場合は、事前にフィルムにする前の素材(押出機でゲルが発生する熱履歴が無い状態)のみで上記のように溶液にして異物(粒子)をコールターカウンターで個数をカウントしておく。その後フィルムの中のゲルフィラーと異物(粒子)の個数から、事前にカウントしておいた異物(粒子)の個数を差し引くことでゲルフィラーの個数を割り出す。
【0011】
本発明のセルロースエステルフィルムに含まれるゲルフィラーの大きさは、0.5μm〜30μmが好ましい。特に20μm〜30μmの個数はできる限りゼロに近い方が好ましい。
【0012】
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、主原料としてセルロースエステル(又は変性セルロースエステル)、可塑剤及びその他の添加剤が含まれている。以下、各材料について説明する。
【0013】
《変性セルロースエステル》
変性セルロースエステルは、下記一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を有するセルロースエステルである。以下、当該変性セルロースエステルについて説明する。
【化1】

[式中、AとBは、炭素数1〜12の2価の炭化水素基、又は、ヒドロキシル基で置換された炭素数1〜12の2価の炭化水素基を表す。ただし、AとBは、同じであっても異なっていてもよい。]
以下に、Aの具体例を挙げる。
A−1 −CHCH
A−2 −CHCHCH
A−3 −CH=CH−
【化2】

A−6 −CHC(CH
以下Bの具体例を挙げる。
B−1 −CHCH
B−2 −CHCHCHCH
【化3】

一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を少なくとも一つ有するセルロースエステルは、未置換のヒドロキシル基(水酸基)を有するセルロース、又はアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、フタリル基等のアシル基によってすでに一部のヒドロキシル基(水酸基)が置換されているセルロースエステルの存在下で、多塩基酸又はその無水物と多価アルコールとのエステル化反応、又はL−ラクチド、D−ラクチドの開環重合、L−乳酸、D−乳酸の自己縮合を行わせることによって得ることができる。
エステル化反応に用いる多塩基酸無水物として、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水フマル酸が挙げられるが特に限定されない。
エステル化反応に用いることができる多価アルコールとして、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられるが特に限定されない。
【0014】
エステル化反応に用いる触媒としては、無触媒で反応をすることもできるが、公知のルイス酸触媒などを用いることができる。使用できる触媒としてはスズ、亜鉛、チタン、ビスマス、ジルコニウム、ゲルマニウム、アンチモン、ナトリウム、カリウム、アルミニウムなどの金属およびその誘導体が挙げられ、特に誘導体については金属有機化合物、炭酸塩、酸化物、ハロゲン化物が好ましい。具体的にはオクチルスズ、塩化スズ、塩化亜鉛、塩化チタン、アルコキシチタン、酸化ゲルマニウム、酸化ジルコニウム、三酸化アンチモン、アルキルアルミニウムなどを例示することができる。また、触媒としてパラトルエンスルホン酸に代表される酸触媒を用いることもできる。また、カルボン酸とアルコールとの脱水反応を促進するためにカルボジイミド、ジメチルアミノピリジンなど公知の化合物を添加してもよい。
【0015】
係る反応は、セルロースエステルおよびその他の反応させる化合物を溶解させることが可能な有機溶媒中における反応によってもよいし、剪断力を付加しながら加熱攪拌が可能なバッチ式ニーダーを用いた反応によるものであってもよいし、一軸或いは二軸のエクストルーダーを用いた反応によるものであってもよい。
【0016】
一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位は、セルロースに対して0.5〜190質量%の範囲で適宜含有させることができる。
該セルロースエステルの置換度は、適宜選択することができるが、2.2〜3であることが、熱可塑性、熱加工性の点から好ましい。
一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を少なくとも一つ有するセルロースエステルにおいて、セルロースのヒドロキシル基(水酸基)部分の水素原子が脂肪族アシル基との脂肪酸エステルであるとき、脂肪族アシル基は炭素原子数が2〜20で具体的にはアセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ラウロイル、ステアロイル等が挙げられる。
【0017】
一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を少なくとも一つ有するセルロースエステルの重合度は、特に制限されず、例えば、粘度平均重合度で、70以上(例えば、80〜800)の範囲から選択でき、100〜500、好ましくは110〜400、さらに好ましくは120〜350程度であってもよい。
一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位は、当該部分の数平均分子量として、例えば、80〜10000、好ましくは100〜5000、さらに好ましくは200〜2000程度、特に300〜1500、通常1000未満であってもよい。なお、当該セルロースエステルが有する繰り返し単位のみの数平均分子量は、エステル化反応する前のセルロースエステルと反応後のセルロースエステルをポリスチレン換算したGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)データ又は、1H−NMRにより比較して求めた。
一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を、セルロースもしくはセルロースエステルに導入する際に副反応として、一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を有するオリゴマー、ポリエステルが生成することあるが、これらの化合物は可塑剤として作用することから精製により必ずしも完全に除去する必要はない。含有量としてはセルロースエステルに対して30質量%以下であれば、セルロースエステルの性質を大きく変化させることは少ない。可塑性の点から、好ましくは0.5〜20質量%である。これらのオリゴマー、ポリエステルの数平均分子量は、300〜10000であり、可塑性の点から好ましくは500〜8000である。
【0018】
また、特開2008−197561号公報に記載のグラフト共重合した変性グルカン誘導体(変性セルロース誘導体)も本発明の一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を有するセルロースもしくはセルロースエステルフィルムとして用いることが出来る。
【0019】
また、一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を有するセルロースエステルフィルムは、下記の特性を有することが好ましい。
透過率:80%以上
膜厚 :20〜90μm
0nm≦Ro≦330nm
−100nm≦Rt≦340nm
なお、Ro=(nx−ny)×d
Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、nxはセルロースエステルフィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を、nyは面内で遅相軸に直交する方向の屈折率を、nzは厚み方向の屈折率を、dはセルロースエステルフィルムの厚み(nm)をそれぞれ表す。屈折率の測定波長は590nmである。)
上記屈折率は、例えばKOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmで求めることができる。また含有溶媒量は、0.01質量%以下であることが好ましい。また、セルロースエステルフィルムは、長さ100m〜6000m、幅は1.2m以上が好ましく、更に好ましくは1.4〜4mである。基材フィルムの長さ及び幅を前記範囲とすることで、取り扱い性や生産性に優れる。
【0020】
一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を有するセルロースエステルを含有するフィルムは、輝点異物が少ないものであることが好ましい。輝点異物は、輝点の直径0.01mm以上が200個/cm以下であることが好ましく、さらに100個/cm以下であることが好ましく、50個/cm以下であることが好ましく、30個/cm以下であることが好ましく、10個/cm以下であることが好ましいが、皆無であることが最も好ましい。
また、0.005〜0.01mm以下の輝点についても200個/cm以下であることが好ましく、さらに100個/cm以下であることが好ましく、50個/cm以下であることが好ましく、30個/cm以下であることが好ましく、10個/cm以下であることが好ましいが、皆無であることが最も好ましい。
【0021】
《セルロースエステル》
本発明においては、前記変性セルロースエステルとは異なり、平均アシル基置換度2.0〜2.5個有するセルロースエステルを含有しても良い。
本発明に係るセルロースエステルとしては、光学フィルムの分野で従来使用されているセルロースエステルであれば特に制限されない。
当該樹脂を構成する化合物としては、例えば、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、又は、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどが使用可能であり、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネートが好ましい。2種類以上のセルロースエステルを組み合わせて用いてもよい。
【0022】
セルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、ケナフなどを挙げることが出来る。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することが出来る。
セルロースエステルは、セルロース原料をアシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いて合成する。アシル化剤が酸クロライド(CHCOCl、CCOCl、CCOCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行われる。具体的には特開平10−45804号公報に記載の方法で合成することが出来る。アシル基をセルロース分子の水酸基に反応させる。セルロース分子はグルコースユニットが多数連結したものからなっており、グルコースユニットに3個の水酸基がある。この3個の水酸基にアシル基が誘導された数を置換度という。例えば、セルローストリアセテートはグルコースユニットの3個の水酸基全てにアセチル基が結合している。
【0023】
本発明において用いられるセルロースエステルは、特に脆性の改善や透明性の観点から、アシル基の平均置換度が2.0〜2.5、炭素数が3〜7のアシル基の置換度が0〜1.2であることが好ましい。本発明のセルロースエステルの炭素数が3〜7のアシル基としては、特にプロピオニル基が好ましく用いられる。
セルロースエステルの、アシル基の平均置換度が2.0を下回る場合、即ち、セルロースエステル分子の2,3,6位のヒドロキシル基(水酸基)の残度が1.0を上回る場合には、変性セルロースエステルと十分に相溶せず光学フィルムとして用いる場合にヘイズが問題となる。また、アシル基の平均置換度が2.0以上であっても、炭素数が3〜7のアシル基の置換度が1.2を上回る場合は、やはり十分な相溶性が得られないか、脆性が低下することとなる。例えば、アシル基の平均置換度が2.0以上の場合であっても、炭素数2のアシル基、即ちアセチル基の置換度が低く、炭素数3〜7のアシル基の置換度が1.2を上回る場合は、相溶性が低下しヘイズが上昇する。
本発明のセルロースエステルのアシル置換度は、平均置換度が2.0〜2.5であり、炭素数が3〜7のアシル基の置換度が0〜1.2であれば問題ないが1.2以上となった場合、フィルムの弾性率が低下し、このフィルムを用いて作製した偏光板を高湿熱条件下に晒すと、収縮が大きくなってしまう。
【0024】
本発明において前記アシル基は、脂肪族アシル基であっても、芳香族アシル基であってもよい。脂肪族アシル基の場合は、直鎖であっても分岐していても良く、さらに置換基を有してもよい。本発明におけるアシル基の炭素数は、アシル基の置換基を包含するものである。
上記セルロースエステルが、芳香族アシル基を置換基として有する場合、芳香族環に置換する置換基Xの数は0〜5個であることが好ましい。この場合も、置換基を含めた炭素数が3〜7であるアシル基の置換度が0〜1.2となるように留意が必要である。
本発明におけるセルロースエステルとしては、特にセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートベンゾエート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、即ち、炭素原子数3又は4のアシル基を置換基として有するものが好ましい。
これらの中で特に好ましいセルロースエステルは、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースプロピオネートである。
なお、アセチル基の置換度や他のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により求めたものである。
【0025】
本発明におけるセルロースエステルの重量平均分子量(Mw)は、脆性の改善の観点から75000以上であり、75000〜300000の範囲であることが好ましく、100000〜240000の範囲内であることが更に好ましく、160000〜240000のものが特に好ましい。本発明では2種以上のセルロース樹脂を混合して用いることもできる。
【0026】
《粒子状物質》
微粒子としては、溶融時の耐熱性があれば無機化合物または有機化合物どちらでもよく、例えば、タルク、マイカ、ゼオライト、ケイソウ土、焼成珪成土、カオリン、セリサイト、ベントナイト、スメクタイト、クレー、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ワラストナイト、窒化ホウ素、炭化ホウ素、ホウ化チタン、炭酸マグネシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、アルミノ珪酸マグネシウム、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛、2酸化チタン、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭化ケイ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、ホワイトカーボンなどが挙げられる。
これらの中でも、セルロースエステルと屈折率が近いので透明性(ヘイズ)に優れる2酸化珪素が特に好ましく用いられる。2酸化珪素の具体例としては、アエロジル200V、アエロジルR972V、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)、シーホスターKEP−10、シーホスターKEP−30、シーホスターKEP−50、シーホスターKE−P100(以上、株式会社日本触媒製)、サイロホービック100(富士シリシア製)、ニップシールE220A(日本シリカ工業製)、アドマファインSO(アドマテックス製)等の商品名を有する市販品などが好ましく使用できる。
粒子の形状としては、不定形、針状、扁平、球状等特に制限なく使用できるが、特に球状の粒子を用いると得られるフィルムの透明性が良好にできるので好ましい。粒子の大きさは、可視光の波長に近いと光が散乱し、透明性が悪くなるので、可視光の波長より小さいことが好ましく、さらに可視光の波長の1/2以下であることが好ましい。
粒子の大きさは、0.05μmから3.0μmの範囲であることが好ましい。
これらの粒子状物質は、単独でも二種以上併用しても使用できる。粒径や形状(例えば針状と球状など)の異なる粒子を併用することで高度に透明性と滑り性を両立させることもできる。これらの粒子状物質は光学フィルム全体の0.01〜5質量%含有させることができる。
なお、粒子の大きさとは、粒子が1次粒子の凝集体の場合は凝集体の大きさを意味する。また、粒子が球状でない場合は、その投影面積に相当する円の直径を意味する。
【0027】
《可塑剤》
本発明のセルロースエステルフィルムに可塑剤として知られる化合物を添加することは、本発明の効果を得る以外にも、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率の低減等のフィルムの改質の観点において好ましい。また、本発明で行う溶融流延法においては、用いるセルロースエステル単独のガラス転移温度よりも、可塑剤の添加によりフィルム構成材料の溶融温度を低下させる目的、または同じ加熱温度においてセルロースエステルよりも可塑剤を含むフィルム構成材料の粘度が低下できる点で好ましい。
【0028】
ここで、本発明において、フィルム構成材料の溶融温度とは、該材料が加熱され流動性が発現された状態において、材料が加熱された温度を意味する。
セルロースエステル単独では、ガラス転移温度よりも低いとフィルム化するための流動性は発現されない。しかしながらセルロースエステルは、ガラス転移温度以上において、熱の吸収により弾性率あるいは粘度が低下し、流動性が発現される。フィルム構成材料を溶融させるためには、添加する可塑剤がセルロースエステルのガラス転移温度よりも低い融点またはガラス転移温度を持つことが上記目的を満たすために好ましい。
【0029】
可塑剤としては、例えばリン酸エステル誘導体、カルボン酸エステル誘導体が好ましく用いられる。また、特開2003−12859号に記載の重量平均分子量が500〜10000であるエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー、芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマーまたはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマー等も好ましく用いられる。
【0030】
リン酸エステル誘導体としては、例えば、可塑剤としては、リン酸エステル系可塑剤、エチレングリコールエステル系可塑剤、グリセリンエステル系可塑剤、ジグリセリンエステル系可塑剤(脂肪酸エステル)、多価アルコールエステル系可塑剤、ジカルボン酸エステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリマー可塑剤等が挙げられる。この中でも多価アルコールエステル系可塑剤、ジカルボン酸エステル系可塑剤及び多価カルボン酸エステル系可塑剤が好ましい。また、可塑剤は液体であっても固体であってもよく、組成物の制約上無色であることが好ましい。熱的にはより高温において安定であることが好ましく、分解開始温度が150℃以上、さらに200℃以上が好ましい。添加量は前記のセルロースエステルフィルムに求められる諸性能のために調整でき、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択され、セルロースエステル樹脂100質量部に対して好ましくは1〜50質量%、より好ましくは3〜30質量%である。特に5〜15質量%が好ましい。
【0031】
以下、本発明に用いられる可塑剤についてさらに説明する。具体例はこれらに限定されるものではない。
多価アルコールエステル系の可塑剤:具体的には、特開2003−12823号公報の段落30〜33記載の多価アルコールエステル系可塑剤が挙げられる。
これらアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらに多価アルコール部も置換されていてもよく、多価アルコールの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
【0032】
ジカルボン酸エステル系の可塑剤:具体的には、ジドデシルマロネート(C1)、ジオクチルアジペート(C4)、ジブチルセバケート(C8)等のアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロペンチルサクシネート、ジシクロヘキシルアジーペート等のアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルサクシネート、ジ4−メチルフェニルグルタレート等のアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジヘキシル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、ジデシルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロヘキシル−1,2−シクロブタンジカルボキシレート、ジシクロプロピル−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニル−1,1−シクロプロピルジカルボキシレート、ジ2−ナフチル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロプロピルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルフタレート、ジ4−メチルフェニルフタレート等のアリールジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルコキシ基、シクロアルコキシ基は、同一でもあっても異なっていてもよく、また一置換でもよく、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。アルキル基、シクロアルキル基はミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらにフタル酸の芳香環も置換されていてよく、ダイマー、トリマー、テトラマー等の多量体でもよい。またフタル酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
【0033】
多価カルボン酸エステル系の可塑剤:具体的には、トリドデシルトリカルバレート、トリブチル−meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロヘキシルトリカルバレート、トリシクロプロピル−2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート、テトラ3−メチルフェニルテトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、テトラヘキシル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、テトラブチル−1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、テトラシクロプロピル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、トリシクロヘキシル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート、ヘキサ4−メチルフェニル−1,2,3,4,5,6−シクロヘキシルヘキサカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、トリドデシルベンゼン−1,2,4−トリカルボキシレート、テトラオクチルベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロペンチルベンゼン−1,3,5−トリカルボキシレート、テトラシクロヘキシルベンゼン−1,2,3,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤トリフェニルベンゼン−1,3,5−テトラカルトキシレート、ヘキサ4−メチルフェニルベンゼン−1,2,3,4,5,6−ヘキサカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルコキシ基、シクロアルコキシ基は、同一でもあっても異なっていてもよく、また一置換でもよく、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。アルキル基、シクロアルキル基はミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらにフタル酸の芳香環も置換されていてよく、ダイマー、トリマー、テトラマー等の多量体でもよい。またフタル酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
【0034】
ポリマー可塑剤:具体的には、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア等が挙げられる。数平均分子量は、1000〜500000程度が好ましく、特に好ましくは、5000〜200000である。1000以下では揮発性に問題が生じ、500000を超えると可塑化能力が低下し、セルロースエステル誘導体組成物の機械的性質に悪影響を及ぼす。これらポリマー可塑剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でもよい。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いてもよく、他の可塑剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤、滑り剤及び滑り剤等を含有させてもよい。
【0035】
上記可塑剤の中でも熱溶融時に揮発成分を生成しないことが一般的には好ましい。具体的には特表平6−501040号に記載されている不揮発性リン酸エステルが挙げられ、例えばアリーレンビス(ジアリールホスフェート)エステルや上記例示化合物の中ではトリメチロールプロパントリベンゾエート等が好ましいがこれらに限定されるものではない。揮発成分が上記可塑剤の熱分解によるとき、上記可塑剤の熱分解温度Td(1.0)は、1.0質量%減少したときの温度と定義すると、フィルム形成材料の溶融温度よりも高いことが求められる。可塑剤は、上記目的のために、セルロースエステルに対する添加量が他のフィルム構成材料よりも多く、揮発成分の存在は得られるフィルムの品質に与える劣位となる影響が大きいためである。熱分解温度Td(1.0)は、市販の示差熱重量分析(TG−DTA)装置で測定することができる。
【0036】
《アクリル系重合体》
本発明のセルロースエステルフィルムは、アクリル系重合体を含有しても良い。なお、ここでアクリル系重合体にはメタクリル系重合体も含まれる。光学フィルムにおける樹脂のうち全量をアクリル系重合体としても良いし、他の樹脂と併用してもよく、その含有率は0〜100%の範囲で任意に選択できる。本発明ではセルロースエステルと併用することが最も好ましい。
【0037】
本発明に用いられるアクリル系重合体としては、セルロースエステルフィルムと併用した場合、機能として延伸方向に対して負の複屈折性を示すことが好ましく、特に構造が限定されるものではないが、エチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量が500以上1000000以下である重合体を、適宜選択したものであることが好ましい。
アクリル系重合体の適正な分子量範囲が上記の通りであるが、30質量%以上含有させる場合は、セルロースエステルとの相溶性の点から重量平均分子量が80000〜1000000であることが好ましい。
本発明のアクリル系重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。測定条件は以下の通りである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=2,800,000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0038】
アクリル系重合体は、後述するドープ液を構成する素材として直接添加、溶解するか、もしくはセルロースエステルを溶解する有機溶媒にあらかじめ溶解した後ドープ液に添加することができる。
〈ピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化合物〉
本発明の光学フィルムがセルロースエステルフィルムの場合は、ピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化合物を含むことを特徴とする。
エステル化の割合としては、ピラノース構造またはフラノース構造内に存在するOH基の70%以上であることが好ましい。
本発明においては、エステル化合物を総称して、糖エステル化合物とも称す。
【0039】
本発明のエステル化合物の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、あるいはアラビノース、ラクトース、スクローあるいはトース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノースあるいはケストース挙げられる。
この他、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられる。
これらの化合物の中で、特にピラノース構造とフラノース構造を両方有する化合物が好ましい。
例としてはスクロース、ケストース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオースなどが好ましく、さらに好ましくは、スクロースである。
具体的には、グルコースペンタアセテート、グルコースペンタプロピオネート、グルコースペンタブチレート、サッカロースオクタアセテート、サッカロースオクタベンゾエート等を好ましく挙げることができ、この内、サッカロースオクタアセテート、サッカロースオクタベンゾエートがより好ましく、サッカロースオクタベンゾエートが特に好ましい。
市販品としてはモノペットSB(第一工業製薬(株)製)等を使用することができる。
本発明のセルロースエステルフィルムは、位相差値の変動を抑制して、表示品位を安定化するために、本発明のエステル化合物を、セルロースエステルフィルムの1〜30質量%含むことが好ましく、特には、5〜30質量%含むことが好ましい。
【0040】
《高分子材料》
本発明のセルロースエステルフィルムは、セルロースエステル以外の高分子材料やオリゴマーを適宜選択して混合してもよい。前述の高分子材料やオリゴマーはセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上であることが好ましい。セルロースエステル以外の高分子材料やオリゴマーの少なくとも1種以上を混合する目的は、加熱溶融時の粘度制御やフィルム加工後のフィルム物性を向上するために行う意味を含んでいる。この場合は、上述のその他添加剤として含むことができる。
【0041】
《光安定剤》
光安定剤としては、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)化合物が挙げられ、これは既知の化合物であり、例えば、米国特許第4,619,956号明細書の第5〜11欄及び米国特許第4,839,405号明細書の第3〜5欄に記載されているように、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン化合物、またはそれらの酸付加塩もしくはそれらと金属化合物との錯体が含まれる。このような化合物には、下記一般式(4)で表される化合物が含まれる。
【化4】

上記一般式(4)中、R1及びR2は、Hまたは置換基である。ヒンダードアミン光安定剤化合物の具体例には、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−アリル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(4−t−ブチル−2−ブテニル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−エチル−4−サリチロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル−β(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1−ベンジル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルマレイネート(maleinate)、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アジペート、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1−アリル−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−4−イル)−フタレート、1−アセチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−アセテート、トリメリト酸−トリ−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)エステル、1−アクリロイル−4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ジブチル−マロン酸−ジ−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジベンジル−マロン酸−ジ−(1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジメチル−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オキシ)−シラン,トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフィット、トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフェート,N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアミン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアセトアミド、1−アセチル−4−(N−シクロヘキシルアセトアミド)−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン、4−ベンジルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジブチル−アジパミド、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジシクロヘキシル−(2−ヒドロキシプロピレン)、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−p−キシリレン−ジアミン、4−(ビス−2−ヒドロキシエチル)−アミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−メタクリルアミド−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、α−シアノ−β−メチル−β−[N−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)]−アミノ−アクリル酸メチルエステル。好ましいヒンダードアミン光安定剤の例には、以下のHALS−1及びHALS−2が含まれる。
【化5】

【0042】
これらのヒンダードアミン系耐光安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、またこれらヒンダードアミン系耐光安定剤と可塑剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤と併用しても、添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、セルロースエステル樹脂100質量部に対して好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.02〜15質量部、特に好ましくは0.05〜10質量部である。
【0043】
《紫外線吸収剤》
本発明のセルロースエステルフィルムは、紫外線吸収剤を含有することも好ましく、用いられる紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、2−ヒドロキシベンゾフェノン系又はサリチル酸フェニルエステル系のもの等が挙げられる。例えば、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のトリアゾール類、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類を例示することができる。
【0044】
ここで、紫外線吸収剤のうちでも、分子量が400以上の紫外線吸収剤は、高沸点で揮発しにくく、高温成形時にも飛散しにくいため、比較的少量の添加で効果的に耐候性を改良することができる。
分子量が400以上の紫外線吸収剤としては、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2−ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等のベンゾトリアゾール系、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン系、さらには2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、1−[2−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の分子内にヒンダードフェノールとヒンダードアミンの構造を共に有するハイブリッド系のものが挙げられ、これらは単独で、あるいは2種以上を併用して使用することができる。これらのうちでも、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2−ベンゾトリアゾールや2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が特に好ましい。
【0045】
さらに、本発明のセルロースエステルフィルムには、帯電防止剤を加えて、セルロースエステルフィルムに帯電防止性能を与えることも可能である。
本発明のセルロースエステルフィルムには、リン系難燃剤を配合した難燃アクリル系樹脂組成物を用いても良い。
ここで用いられるリン系難燃剤としては、赤リン、トリアリールリン酸エステル、ジアリールリン酸エステル、モノアリールリン酸エステル、アリールホスホン酸化合物、アリールホスフィンオキシド化合物、縮合アリールリン酸エステル、ハロゲン化アルキルリン酸エステル、含ハロゲン縮合リン酸エステル、含ハロゲン縮合ホスホン酸エステル、含ハロゲン亜リン酸エステル等から選ばれる1種、あるいは2種以上の混合物を挙げることができる。
具体的な例としては、トリフェニルホスフェート、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド、フェニルホスホン酸、トリス(β−クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート等が挙げられる。
【0046】
本発明のセルロースエステルフィルムの厚さは、20μm以上であることが好ましい。より好ましくは30μm以上である。
厚さの上限は特に限定される物ではないが、溶液製膜法でフィルム化する場合は、塗布性、発泡、溶媒乾燥などの観点から、上限は250μm程度である。なお、フィルムの厚さは用途により適宜選定することができる。
本発明のセルロースエステルフィルムは、その全光線透過率が90%以上であることが好ましく、より好ましくは93%以上である。また、現実的な上限としては、99%程度である。かかる全光線透過率にて表される優れた透明性を達成するには、可視光を吸収する添加剤や共重合成分を導入しないようにすることや、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散や吸収を低減させることが有効である。
また、製膜時のフィルム接触部(冷却ロール、カレンダーロール、ドラム、ベルト、溶液製膜における塗布基材、搬送ロールなど)の表面粗さを小さくしてフィルム表面の表面粗さを小さくすることや、樹脂の屈折率を小さくすることによりフィルム表面の光の拡散や反射を低減させることが有効である。
本発明のセルロースエステルフィルムは、上記のような物性を満たしていれば、大型の液晶表示装置や屋外用途の液晶表示装置用の偏光板保護フィルムとして特に好ましく用いることができる。
【0047】
《酸捕捉剤》
酸捕捉剤としては、米国特許第4,137,201号明細書に記載されている酸捕捉剤としてのエポキシ化合物を含んでなるのが好ましい。このような酸捕捉剤としてのエポキシ化合物は当該技術分野において既知であり、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシド等の縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテル等、金属エポキシ化合物(例えば、塩化ビニルポリマー組成物において、及び塩化ビニルポリマー組成物と共に、従来から利用されているもの)、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(即ち、4,4′−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、2〜22この炭素原子の脂肪酸の4〜2個程度の炭素原子のアルキルのエステル(例えば、ブチルエポキシステアレート)等)、及び種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリド等(例えば、エポキシ化大豆油等の組成物によって代表され、例示され得る、エポキシ化植物油及び他の不飽和天然油(これらは時としてエポキシ化天然グリセリドまたは不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している))が含まれる。特に好ましいのは、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物 EPON 815c、及び下記一般式(6)で表される他のエポキシ化エーテルオリゴマー縮合生成物である。
【化6】

上記一般式(6)中、nは0〜12である。用いることができるさらに可能な酸捕捉剤としては、特開平5−194788号公報の段落87〜105に記載されているものが含まれる。
【0048】
《酸化防止剤》
本発明においては、成形加工時の熱分解性や熱着色性を改良するために、セルロースエステル等の樹脂混合物が酸化防止剤を含有することが好ましい。
本発明において、好ましい酸化防止剤は、リン系又はフェノール系酸化防止剤であり、リン系とフェノール系酸化防止剤を同時に組み合わせるとより好ましい。
【0049】
以下、本発明において好適に用いることができる酸化防止剤について説明する。
〈フェノール系酸化防止剤〉
本発明においては、下記一般式(AO1)で表されるフェノール系の酸化防止剤を使用することができる。
【化7】

一般式(AO1)中、R1、R2及びR3は、さらに置換されているか又は置換されて
いないアルキル置換基を表す。フェノール系酸化防止剤の具体例には、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−アセテート、n−オクタデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオ−ドデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシルβ(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミドN,N−ビス−[エチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノN,N−ビス−[エチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−l−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリトリトール−テトラキス−[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,1−トリメチロールエタン−トリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオール−ビス[(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリトリトール−テトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)が含まれる。上記タイプのフェノール系化合物は、例えば、Ciba Specialty Chemicalsから、“Irganox1076”及び“Irganox1010”という商品名で市販されている。
【0050】
〈リン系酸化防止剤〉
本発明において用いることができるリン系酸化防止剤としては、ホスファイト(phosphite)、ホスホナイト(phosphonite)、又は、ホスフィナイト(phosphinite)等のリン系化合物を使用することができる。
リン系酸化防止剤としては、従来既知の化合物を用いることができる。例えば、特開2002−138188号、特開2005−344044号段落番号0022〜0027、特開2004−182979号段落番号0023〜0039、特開平10−306175号、特開平1−254744号、特開平2−270892号、特開平5−202078号、特開平5−178870号、特表2004−504435号、特表2004−530759号、および特願2005−353229号公報の明細書中に記載されているものが好ましい。
好ましいリン系化合物としては、特許公報特開2008−257220の21項に記載のようなものが好ましく使用されるがこれらに限定されない。
【0051】
上記に加えて、本発明において用いることができるリン系化合物の具体例としては、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ[d,f][1.3.2]ジオキサホスフェピン、トリデシルホスファイト等のモノホスファイト系化合物;4,4′−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4′−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)等のジホスファイト系化合物;トリフェニルホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4′−ジイルビスホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4′−ジイルビスホスホナイト等のホスホナイト系化合物;トリフェニルホスフィナイト、2,6−ジメチルフェニルジフェニルホスフィナイト等のホスフィナイト系化合物;トリフェニルホスフィン、トリス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィン等のホスフィン系化合物;等が挙げられる。
上記タイプのリン系化合物は、例えば、住友化学株式会社から、“SumilizerGP”、株式会社ADEKAから“ADK STAB PEP−24G”、“ADK STAB PEP−36”及び“ADK STAB 3010”、“ ADK STAB 2112”、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社から“IRGAFOS P−EPQ”、 “IRGAFOS 168”、堺化学工業株式会社から“GSY−P101”という商品名で市販されている。
【0052】
〈その他の酸化防止剤〉
また、ジラウリル−3,3′−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3′−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)等のイオウ系酸化防止剤、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート等の耐熱加工安定剤、特公平08−27508号記載の3,4−ジヒドロ−2H−1−ベンゾピラン系化合物、3,3′−スピロジクロマン系化合物、1,1−スピロインダン系化合物、モルホリン、チオモルホリン、チオモルホリンオキシド、チオモルホリンジオキシド、ピペラジン骨格を部分構造に有する化合物、特開平03−174150号記載のジアルコキシベンゼン系化合物等の酸素スカベンジャー等が挙げられる。これら酸化防止剤の部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、可塑剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
【0053】
次に、本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法として溶融流延法について説明する。
《溶融流延法》
セルロースエステルフィルムの製造方法は、例えば図1に示す製造装置によって製造することができる。製造装置は、少なくともセルロースエステル(あるいは変性セルロースエステル)、可塑剤及びその他の添加剤を混合溶融したペレットを、乾燥してゲルフィラーを含む溶融混合物とする乾燥装置(図示しない)と、ゲルフィラーを含む溶融混合物を加熱溶融した状態で押し出す押出機1と、押し出した溶融混合物を濾過して異物除去を行う濾過装置2と、再度混合するスタティックミキサー3と、流延ダイ4と、冷却固化してフィルムとする第1〜第3冷却ロール5、7、8と、フィルムを剥離する剥離ロール9と、剥離したフィルムを延伸する延伸装置12と、延伸後のフィルムにナーリングを施すナーリング装置14,15と、フィルムを巻取る巻取り装置16等、を備える。
【0054】
第1冷却ロール5上には、流延ダイ4から溶融状態で押し出されて冷却固化され、第2冷却ロール7及び第3冷却ロール8上でさらに冷却固化される。また、平面性を矯正するために溶融フィルムを第1冷却ロール5上面に挟圧するタッチロール6が設けられている。このタッチロール6は表面が弾性を有し、第1冷却ロール5との間でニップを形成している。
また、剥離ロール9によって剥離され冷却固化された未延伸のフィルム10はダンサーロール(フィルム張力調整ロール)11を経て延伸装置12に導かれる。延伸装置12では、フィルムの両端部を把持して幅方向に延伸することで、フィルム中の分子が配向される。延伸後、フィルムの端部をスリッター13により製品となる幅にスリットして裁ち落とした後、エンボスリング14及びバックロール15よりなるナーリング加工(エンボス加工)をフィルム両端部に施して、巻取り装置16で巻取られる。巻取り装置16によって巻取ることで、セルロースエステルフィルム(元巻き)中のハリツキや擦り傷の発生を防止できる。
ナーリング加工の方法は、凹凸のパターンを側面に有する金属リングを加熱や加圧により加工することができる。
なお、フィルム両端部のクリップの把持部分は通常、変形しており、フィルム製品として使用できないので、切除されて返材として再利用される。
【0055】
以下、溶融流延法について詳細に説明する。
〈溶融ペレット製造工程〉
溶融押出に用いるセルロースエステル、可塑剤及びその他の添加剤の混合物は、通常あらかじめ混錬してペレット化しておくことが好ましい。
ペレット化は、公知の方法でよく、例えば、乾燥光学フィルムを形成するポリマーや可塑剤、その他添加剤をフィーダーで押出機に供給し1軸や2軸の押出機を用いて混錬し、ダイからストランド状に押出し、水冷または空冷し、カッティングすることでできる。
原材料は、押出する前に乾燥しておくことが原材料の分解を防止する上で重要である。特に光学フィルムを形成するポリマーは吸湿しやすいので、除湿熱風乾燥機や真空乾燥機で70〜140℃で1時間以上乾燥し、水分率を500ppm以下、さらに100ppm以下にしておくことが好ましい。
添加剤は、押出機に供給する前に混合しておいてもよいし、それぞれ個別のフィーダーで供給してもよい。酸化防止剤等少量の添加剤は、均一に混合するため、事前に混合しておくことが好ましい。
酸化防止剤の混合は、固体同士で混合してもよいし、必要により、酸化防止剤を溶剤に溶解しておき、光学フィルムを形成するポリマーに含浸させて混合してもよく、あるいは噴霧して混合してもよい。
真空ナウターミキサなどが乾燥と混合を同時にできるので好ましい。また、フィーダー部やダイからの出口など空気と触れる場合は、除湿空気や除湿した窒素ガスなどの雰囲気下にすることが好ましい。
押出機は、せん断力を抑え、樹脂が劣化(分子量低下、着色、ゲル生成等)しないようにペレット化可能でなるべく低温で加工することが好ましい。例えば、2軸押出機の場合、深溝タイプのスクリューを用いて、同方向に回転させることが好ましい。混錬の均一性から、噛み合いタイプが好ましい。
以上のようにして得られたペレットを用いてフィルム製膜を行う。ペレット化せず、原材料の粉末をそのままフィーダーで押出機に供給し、そのままフィルム製膜することも可能である。
【0056】
〈ペレットの乾燥工程〉
後述の押出工程で使用する押出機のホッパー投入前に、上記作製したペレットを事前乾燥(以下、マイルド乾燥と言う)することによって、溶融混合物中にゲルを形成する。事前乾燥するホッパーの乾燥温度は70〜95℃とし、乾燥時間は4時間から6時間とする。乾燥温度を70〜95℃にしたのは、乾燥温度を95℃を超える高温にすると押出時に核の個数が多くなり易くなるためである。また、乾燥時間を4時間から6時間としたのは、6時間を超える長時間乾燥にすると、ゲルが成長して大きくなってしまうためである。
【0057】
なお、上述のように新規ペレットのみを乾燥させて、これを原料としてセルロースエステルフィルムを製造しても良いが、製造工程で排出される返材(例えば、フィルム両端部のクリップの把持部分で切除された部分)を新規ペレットとともに使用しても良い。
この場合、返材は、新規ペレットに対して0%を超え、80%以下であることが好ましく、特に、5%以上50%以下であるのが好ましく、さらには10%以上30%以下であるのが好ましい。すなわち、新規ペレットと返材の混合比率は90:10〜70:30とすることによって、適度にゲルフィラー個数を発生させることができる。
また、返材の乾燥温度を100℃として1時間から3時間乾燥し、新規ペレットを85℃で3時間乾燥することが好ましい。返材の乾燥温度をマイルド乾燥よりも高温にするのは、乾燥後の返材の水分量を30〜150ppm、新規ペレットを150〜500ppmとすることによって、ゲルフィラーの個数も適度に発生してマット効果を発揮できるためである。また、返材には、ゲルフィラーの核が既に含まれているため、乾燥時間を短縮してもゲルフィラーが適度に発生する。
【0058】
〈溶融混合物をダイから冷却ロールへ押し出す工程〉
上述のようにゲルフィラーを含む溶融混合物を1軸や2軸タイプの押出機を用いて、押し出す際の溶融温度Tmを200〜300℃程度とし、濾過装置により濾過し異物を除去した後、Tダイからフィルム状に流延し、冷却ロール上で固化し、弾性タッチロールと押圧しながら流延する。
供給ホッパーから押出機へ導入する際は真空下または減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。なお、Tmは、押出機のダイ出口部分の温度である。
ダイに傷や可塑剤の凝結物等の異物が付着するとスジ状の欠陥が発生する場合がある。このような欠陥のことをダイラインとも呼ぶが、ダイライン等の表面の欠陥を小さくするためには、押出機からダイまでの配管には樹脂の滞留部が極力少なくなるような構造にすることが好ましい。ダイの内部やリップにキズ等が極力無いものを用いることが好ましい。
押出機やダイなどの溶融樹脂と接触する内面は、表面粗さを小さくしたり、表面エネルギーの低い材質を用いるなどして、溶融樹脂が付着し難い表面加工が施されていることが好ましい。具体的には、ハードクロムメッキやセラミック溶射したものを表面粗さ0.2S以下となるように研磨したものが挙げられる。
冷却ロールには特に制限はないが、高剛性の金属ロールで内部に温度制御可能な熱媒体または冷媒体が流れるような構造を備えるロールであり、大きさは限定されないが、溶融押し出されたフィルムを冷却するのに十分な大きさであればよく、通常冷却ロールの直径は100mmから1m程度である。
冷却ロールの表面材質は、炭素鋼、ステンレス、アルミニウム、チタンなどが挙げられる。さらに表面の硬度をあげたり、樹脂との剥離性を改良するため、ハードクロムメッキや、ニッケルメッキ、非晶質クロムメッキなどや、セラミック溶射等の表面処理を施すことが好ましい。
冷却ロール表面の表面粗さは、Raで0.1μm以下とすることが好ましく、さらに0.05μm以下とすることが好ましい。ロール表面が平滑であるほど、得られるフィルムの表面も平滑にできるのである。もちろん表面加工した表面はさらに研磨し上述した表面粗さとすることが好ましい。
弾性タッチロールとしては、特開平03−124425号、特開平08−224772号、特開平07−100960号、特開平10−272676号、WO97−028950、特開平11−235747号、特開2002−36332号、特開2005−172940号や特開2005−280217号に記載されているような表面が薄膜金属スリーブ被覆シリコンゴムロールを使用することができる。
冷却ロールからフィルムを剥離する際は、張力を制御してフィルムの変形を防止することが好ましい。
【0059】
〈延伸工程〉
本発明では、上記のようにして得られたフィルムは冷却ロールに接する工程を通過後、さらに少なくとも1方向に1.01〜3.0倍延伸することが好ましい。延伸によりスジの鋭さが緩やかになり高度に矯正することができるのである。
好ましくは縦(フィルム搬送方向)、横(巾方向)両方向にそれぞれ1.1〜2.0倍延伸することが好ましい。
延伸する方法は、公知のロール延伸機やテンターなどを好ましく用いることができる。特に光学フィルムが、偏光板保護フィルムを兼ねる位相差フィルムの場合は、延伸方向を巾方向とすることで偏光フィルムとの積層がロール形態でできるので好ましい。
巾方向に延伸することで光学フィルムの遅相軸は巾方向になる。一方、偏光フィルムの透過軸も通常巾方向である。偏光フィルムの透過軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とが平行になるように積層した偏光板を液晶表示装置に組み込むことで、良好な視野角が得られるのである。
【0060】
本発明のセルロースエステルフィルムを光学補償機能を有するフィルムとして用いる場合は、所望のレターデーション特性が得られるように温度、倍率を選ぶことができる。
通常、延伸倍率は1.1〜3.0倍、好ましくは1.3〜2.0倍であり、延伸温度は、通常、フィルムを構成する樹脂のTg〜Tg+50℃、好ましくはTg〜Tg+40℃の温度範囲で行なわれる。
延伸は、幅手方向で制御された均一な温度分布下で行うことが好ましい。好ましくは±2℃以内、さらに好ましくは±1℃以内、特に好ましくは±0.5℃以内である。
【0061】
上記の方法で作製したセルロースエステルフィルムのレターデーション調整や寸法変化率を小さくする目的で、フィルムを長手方向や幅手方向に収縮させてもよい。
長手方向に収縮するには、例えば、巾延伸を一時クリップアウトさせて長手方向に弛緩させる、または横延伸機の隣り合うクリップの間隔を徐々に狭くすることによりフィルムを収縮させるという方法がある。
本発明のセルロースエステルフィルムの面内レターデーション(Ro)、厚み方向レタデーション(Rt)は適宜調整することができるが、Roは0〜200nm、Rtは−150〜400nmが好ましい。
【0062】
なお、フィルムの遅相軸方向の屈折率Nx、進相軸方向の屈折率Ny、厚み方向の屈折率Nz、フィルムの膜厚をd(nm)とすると、
Ro=(Nx−Ny)×d
Rt={(Nx+Ny)/2−Nz}×d
として表される。(測定波長590nm)
レターデーションのバラツキは小さいほど好ましく、通常±10nm以内、好ましくは±5nm以下、より好ましくは±2nm以下である。
遅相軸方向の均一性も重要であり、フィルム巾方向に対して、角度が−5〜+5°であることが好ましく、さらに−1〜+1°の範囲にあることが好ましく、特に−0.5〜+0.5°の範囲にあることが好ましく、特に−0.1〜+0.1°の範囲にあることが好ましい。これらのばらつきは延伸条件を最適化することで達成できる。
【0063】
本発明のセルロースエステルフィルムは、隣接する山の頂点から谷の底点までの高さが300nm以上であり、傾きが300nm/mm以上の長手方向に連続するスジがないことが好ましい。
スジの形状は、表面粗さ計を用いて測定したもので、具体的には、ミツトヨ製SV−3
100S4を使用して、先端形状が円錐60°、先端曲率半径2μmの触針(ダイヤモンド針)に測定力0.75mNの加重をかけながら、測定速度1.0mm/secでフィルムの巾方向に走査し、Z軸(厚み方向)分解能0.001μmとして断面曲線を測定する。
この曲線から、スジの高さは、山の頂点から谷の底点までの垂直距離(H)を読み取る。スジの傾きは、山の頂点から谷の底点までの水平距離(L)を読み取り、垂直距離(H)を水平距離(L)で除して求める。
延伸後、延伸したフィルムを巻取り装置で巻取る。
【0064】
<清掃設備>
本発明で使用する製造装置には、ベルトおよびロールを自動的に清掃する装置を付加させることが好ましい。清掃装置については特に限定はないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール、粘着ロール、ふき取りロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、レーザーによる焼却装置、あるいはこれらの組み合わせなどがある。
清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0065】
《セルロースエステルフィルムの用途》
なお、本発明のセルロースエステルフィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の各種ディスプレイ、特に液晶ディスプレイに用いられる機能フィルムとして使用することができ、具体的には、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、視野角拡大等の光学補償フィルムに使用することができる。
【0066】
偏光板保護フィルムとして使用する場合には、偏光子の両面を本発明のセルロースエステルフィルムで挟んだ構造とする。このような構造をなす偏光板は一般的な方法で作製することができる。本発明のセルロースエステルフィルムをアルカリ鹸化処理し、処理したフィルムを、ヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。
本発明の偏光子としては、ポリビニルアルコール系偏光子であって、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。該偏光子の面上に、本発明のセルロースエステルフィルムの片面を貼り合わせて偏光板を形成する。好ましくは完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせる。
本発明の製造方法により製造される長尺状セルロースエステルフィルムは、長尺状の偏光子(偏光フィルム)とアルカリケン化処理を施して貼合することができるため、1500m、2500m、5000mとより長尺化する程偏光板製造の生産的効果が高まる。
【0067】
また、偏光板保護フィルム製造に際し、フィルムの延伸の前及び/または後で帯電防止層、ハードコート層、易滑性層、接着層、防眩層、バリアー層等の機能性層を塗設してもよい。この際、コロナ放電処理、プラズマ処理、薬液処理等の各種表面処理を必要に応じて施すことができる。
【0068】
〈液晶表示装置〉
上記偏光板は、MVA(Multi−domain Vertical Alignment)モード、PVA(Patterned Vertical Alignment)モード、CPA(Continuous Pinwheel Alignment)モード、OCB(Optical Compensated Bend)モード、IPS(In−Plane Switching)モード等に用いることができる。
液晶表示装置はカラー化および動画表示用の装置として応用され、本発明により表示品質が改良され、コントラストの改善や偏光板の耐性が向上したことにより、疲れにくく忠実な動画像表示が可能となる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
《セルロースエステルフィルムの作製》
(1)試料1
まず、下記のようなセルロースエステル及び各種添加剤の組成を用いて、溶融流延製膜のためのペレットを作製した。
〈溶融樹脂組成〉
セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.41、プロピオニル基置換度1.32、総置換度2.73、Mn=86,000、Mw/Mn=2.5)
92量部
ペンタエリスルトールトリベンゾエート 8質量
Irganox1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5質量部
アデカスタブ PEP−36 (ADEKA) 0.3質量部
Smilizer−GS(住友化学製) 0.3質量部
Tinuvin−928(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 2質量部
セルロースエステルを70℃、3時間減圧下で乾燥を行い室温まで冷却した後、添加剤を混合した。
以上の混合物を、2軸式押出し機を用いて230℃で溶融混合しペレット化した。なお、このペレットのガラス転移温度Tgは136℃であった。
次に、下記の方法により図1に示す製造装置を使用してセルロースエステルフィルム(試料1)を作製した。
【0070】
まず、作製したペレットを表1に示す乾燥温度及び乾燥時間に従って乾燥させてゲルフィラーを形成し、さらに、窒素雰囲気下、250℃にて溶融後、ギヤポンプを経由して濾過装置2により濾過し、流延ダイ4から第1冷却ロール5上に押出し、第1冷却ロール5とタッチロール6との間にフィルムを挟圧して成形した。
流延ダイ4のギャップの幅がフィルムの幅方向端部から30mm以内では0.5mm、その他の場所では1mmとなるようにヒートボルトを調整した。
タッチロール6としては、その内部にオイルを流し100〜130℃に制御した。
流延ダイ4から押し出された樹脂が第1冷却ロール5に接触する位置P1から第1冷却ロール5とタッチロール6とのニップの第1冷却ロール5回転方向上流端の位置P2までの、第1冷却ローラ5の周面に沿った長さLを20mmに設定した。
その後、タッチロール6を第1冷却ロール5から離間させ、第1冷却ロール5とタッチロール6とのニップに挟圧される直前の溶融部の温度Tを測定し、その結果温度Tは141℃であった。
なお、第1冷却ロール5とタッチロール6とのニップに挟圧される直前の溶融部の温度Tは、ニップ上流端P2よりもさらに1mm上流側の位置で、温度計(安立計器(株)製HA−200E)により測定した。
タッチロール6の第1冷却ロール5に対する線圧は14.7N/cmとした。
このフィルムを、ロール周速差を利用して縦方向に熱延伸した。加熱は赤外線ヒータによって行い、延伸倍率は1.5倍とした。さらに、テンターに導入し、巾方向に160℃で1.6倍延伸した後、巾方向に3%緩和しながら30℃まで冷却し、その後クリップから開放し、クリップ把持部を裁ち落とし、フィルム両端に幅10mm、高さ5μmのナーリング加工を施し、巻き取り張力220N/m、テーパー40%で巻芯に巻き取った。
なお、フィルムは、厚さが80μmとなるように、押出し量および引き取り速度を調整し、仕上がりのフィルム幅は、1500mm幅になるようにスリットし、巻き取った。
巻芯の大きさは、内径152mm、外径165〜180mm、長さ1550mmであった。
この巻芯母材として、エポキシ樹脂をガラス繊維、カーボン繊維に含浸させたプリプレグ樹脂を用いた。巻芯表面にはエポキシ導電性樹脂をコーティングし、表面を研磨して、表面粗さRaは0.3μmに仕上げた。なお、巻長は2500mとした。
【0071】
(2)試料2〜試料12
セルロースエステルの置換度や、乾燥温度及び乾燥時間等を表1の通りに変更した以外は、試料1のセルロースエステルフィルムと同様にしてセルロースエステルフィルム(試料2〜試料12)を得た。
【0072】
(3)試料13
〈変性セルロースエステルの合成〉
反応器に酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製、L−20、アシル基置換度2.417、プロピオニル置換度0.9)70部を加え、110℃、4時間、4Torrで減圧乾燥した。その後、乾燥窒素によりパージを行い、還流冷却管を取り付け、事前に乾燥、蒸留したε−カプロラクトン30部、シクロヘキサノン67部を加えて160℃に加熱、撹拌して酢酸セルロースを均一に溶解させた。この反応液にモノブチルスズトリオクチレート0.25部を添加し、160℃で2時間撹拌しながら加熱した。その後、反応液を室温まで冷却し反応を終結させ反応物を得た。さらに、クロロホルム90部に対して反応物10部を溶解後、大過剰のメタノール900部中にゆっくりと滴下し、沈殿した沈殿物を濾別することによって、ε−カプロラクトンの単独重合体を除去した。さらに、60℃にて5時間以上加熱乾燥し、ε−カプロラクトンが酢酸セルロースに反応したセルロースエステル1を得た。そして、1H−NMRにより得られたセルロースエステルの一次構造を分析した。その結果、グルコース単位1モルあたりに反応したε−カプロラクトンの平均モル数は0.86、平均置換度は0.12、平均重合度は7.4であった。
【0073】
続いて、上記変成セルロースエステル、下記セルロースエステル及び各種添加剤の組成を用いて、溶融流延製膜のためのペレットを作製した。
〈溶融樹脂組成〉
セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.6、プロピオニル基置換度1.2、Mn=86,000、Mw/Mn=2.5) 87量部
上記調製した変性セルロースエステル 5質量部
ペンタエリスルトールトリベンゾエート 8質量
Irganox1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5質量部
アデカスタブ PEP−36 (ADEKA) 0.3質量部
Smilizer−GS(住友化学製) 0.3質量部
Tinuvin−928(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 2質量部
上記試料1と同様に、セルロースエステル及び変性セルロースエステルを70℃、3時間減圧下で乾燥を行い室温まで冷却した後、添加剤を混合した。
以上の混合物を、2軸式押出し機を用いて230℃で溶融混合しペレット化した。なお、このペレットのガラス転移温度Tgは136℃であった。
その後、表1の乾燥温度及び乾燥時間に従って、上記試料1と同様の方法によりセルロースエステルフィルム(試料13)を作製した。
【0074】
(4)試料14〜試料16
溶融流延法ではなく、従来の溶液製膜法によってセルロースエステルフィルム(試料14〜試料16)を作製した。試料の組成は、セルロースエステルの置換度を表1に記載のように変更した以外は、試料1と同様の組成とした。
具体的には、溶解釜において、セルロースエステル、可塑剤等各種添加剤、並びに溶剤を混合して、セルロースエステルフィルムのドープを調製した。さらに、このセルロースエステルフィルムのドープを、溶液流延製膜装置の流延ダイにより支持体上に流延し(キャスト工程)、加熱して溶剤の一部を除去(支持体上乾燥工程)した後、支持体から剥離し、剥離したフィルムを乾燥(フィルム乾燥工程)して、セルロースエステルフィルムを得た。

また、試料15では、ペレットの材料に粒子状物質(マット剤)としてシリカ系のシーホスターKE−P30((株)日本触媒)を0.5質量部添加した。試料16では、試料13と同様の変性セルロースエステルを使用した。
【0075】
(5)試料17〜試料19
試料17〜試料19では、ペレットの材料にマット剤としてシリカ系の シーホスターKE−P30((株)日本触媒)を
0.5質量部、アクリル系のファインスフェアMG−151(日本ペイント(株))を0.5質量部添加した以外は、上記試料1と同様にセルロ
ースエステルフィルムを作製した。
【0076】
《評価》
得られたセルロースエステルフィルム(試料1〜試料19)について、以下の各項目について評価を行った。
〈ゲルフィラー数カウント〉
セルロースエステルフィルムのサンプルをテトラヒドロフランに溶解させて5重量%溶液を作る。そこで、20時間程度放置し、正常なフィルム部分を自然溶解させる。
異物は溶けにくい為、ゲル状の核部分はとけ残るので、その溶液をベックマン・コールター社のコールターカウンター(Zシリーズ、Multisizer3)で大きさと個数をカウントする。ゲルと同じくらいの大きさの粒子を添加した場合は事前にフィルムにする前の素材(押出機でゲルが発生する熱履歴が無い状態)のみで上記のように溶液にして異物(粒子)をコールターカウンターで個数をカウントしておいた。
その後フィルムの中のゲルフィラーと異物(粒子)の個数から、事前に測っておいた異物(粒子)を差し引くことでゲルフィラーの個数を割り出す。表1に、0.5〜30μm/gのゲルフィラー数、50μm/10g以上のゲルフィラー数を示した。尚、ゲルフィラーの大きさは、各フィラーの投影面積を同面積の円に換算した際の直径(μm)とした。
【0077】
〈ブロッキング〉
上記のようにして作成したセルロースエステルフィルム(試料1〜試料19)を各々2600m巻取り、巻き状態から巻きの変形が無いかを目視評価する。
○ :巻きの変形がまったく無し
○△:巻きの変形がほとんど無し
△ :巻がやや変形している
△×:巻きの変形がはっきりわかる
× :巻きに大きな変形が見られる
表1に、目視評価の結果を示した。
【0078】
〈滑り性〉
動摩擦係数の値により滑り性を評価した。
23℃55%RHの雰囲気下で24時間以上保存した各試料の動摩擦係数を、同雰囲気下においてJIS−K−7125−ISO8295に記載の方法に準じて測定した。
各フィルムの表裏面が接触するように切り出し、200gの重りを載せ、フィルム試料の移動速度100mm/分、接触面積80mm×200mmの条件で重りを水平に引っ張り、重りが移動中の平均荷重(F)を測定し、下記式より動摩擦係数(μ)を求めた。
動摩擦係数(μ)=F(g)/重りの重さ(g)
動摩擦係数(μ)の合格ライン:μ≦1.2
【0079】
〈正面コントラスト〉
(a)偏光板作成
厚さ、120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光子を得た。
次いで、下記工程1〜5に従って偏光子と、作製したセルロースエステルフィルム(試料1〜試料19)と、裏面側にはコニカミノルタタックKC4UY(コニカミノルタオプト(株)製セルロースエステルフィルム)を光学補償フィルムとして貼り合わせて偏光板を作製した。
工程1:60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、次いで水洗し乾燥して、偏光子と貼合する側を鹸化したセルロースエステルフィルムを得た。
工程2:前記偏光子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
工程3:工程2で偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で処理したセルロースエステルフィルムの上にのせて配置した。
工程4:工程3で積層したセルロースエステルフィルムと偏光子と裏面側セルロースエステルフィルムを圧力20〜30N/cm2、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
工程5:80℃の乾燥機中に工程4で作製した偏光子とセルロースエステルフィルムとコニカミノルタタックKC4UYとを貼り合わせた試料を2分間乾燥し、偏光板(試料1〜試料19)を作製した。
【0080】
(b)液晶表示装置の作製
視野角測定を行う液晶パネルを以下のようにして作製し、液晶表示装置としての特性を評価した。SONY製40型ディスプレイKLV−40V2500の予め貼合されていた両面の偏光板を剥がして、上記作製した偏光板(試料1〜試料19)をそれぞれ液晶セルのガラス面の両面に貼合した。その際、その偏光板の貼合の向きは、本発明のセルロースエステルフィルムの面が、液晶セル側となるように、かつ、予め貼合されていた偏光板と同一の方向に吸収軸が向くように行い、液晶表示装置(試料1〜試料19)を各々作製した。
この液晶表示装置について色味変動および正面コントラストについて評価した。
【0081】
(c)正面コントラスト
23℃55%RHの環境で、各々の液晶表示装置のバックライトを1週間連続点灯した後、測定を行った。測定にはELDIM社製EZ−Contrast160Dを用いて、液晶表示装置で白表示と黒表示の表示画面の法線方向からの輝度を測定し、その比を正面コントラストとした。
正面コントラスト=(表示装置の法線方向から測定した白表示の輝度)/(表示装置の法線方向から測定した黒表示の輝度)
【0082】
〈生産性〉
押出工程のフィルターは目詰まりするとフィルター出口圧力が上昇する。一定流涎時の圧力から圧力上昇が生じた場合、目的の膜厚からの変動が大きく製品として成り立たなくなるので、フィルター交換が必要になってくる。交換時には製膜ラインをストップさせて行うため、交換にかかる時間分と膜厚変動を生じた時間分がロスタイムになってしまう。
それ故に、極力フィルターの交換や膜厚変動は無い方が好ましく、時間や材料のロスを抑えて生産量をあげられるほか、生産にかかる費用を抑えることが出来る。本特許ではこのことを生産性と表記する。
生産性の評価
1昼夜工場を運転時のフィルター交換頻度と膜厚変動
・ :フィルター交換が無い、及び膜厚変動がまったく無い。
○△:フィルター交換が無い、及び膜厚変動が起こりにくい。
△ :フィルター交換が1回、及び膜厚変動を生じやすい。
△×:フィルター交換が2回、及び膜厚変動を生じやすい。
× :フィルター交換が3回以上、及び頻繁に膜厚変動を起こす。
【0083】
【表1】

以上のように表1の結果から、本発明のセルロースエステルフィルムで作製した偏光板
は滑り性、ブロッキング効果、正面コントラストに優れ、目詰まりが起こりにくく生産性が良好な偏光板であることが明らかである。
【0084】
[実施例2]
上記試料1のセルロースエステルフィルムの作製に使用した新規ペレットに、返材を混合して、上記試料1と同様の溶融流延法によりセルロースエステルフィルム(試料21〜試料26)を作製した。その後、実施例1の偏光板(試料1〜試料19)と同様に偏光板(試料21〜試料26)を作製した。なお、新規ペレットと返材の水分量及び混合比率等は表2に示す通りとする。
そして、実施例1と同様に、ゲルフィラー数、滑り性、ブロッキング、正面コントラストの各項目について評価を行い、その結果を表2に示した。
【0085】
【表2】

以上のように表2の結果から、返材を混合させた場合の方が返材を使用しない場合に比して、50μm/10g以上のゲルフィラー数を減少させることができる。
【符号の説明】
【0086】
1 押出機
2 濾過装置
3 スタティックミキサー
4 流延ダイ
5 第1冷却ロール
6 タッチロール
7 第2冷却ロール
8 第3冷却ロール
9 剥離ロール
10 未延伸のフィルム
11 ダンサーロール
12 延伸装置
13 スリッター
14 エンボスリング
15 バックロール
16 巻取り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融流延法によって製膜されるセルロースエステルフィルムであって、
セルロースエステルフィルム中に、大きさが0.5〜30μmのゲルフィラーを、50〜500個/g有し、大きさが50μm以上のゲルフィラーを0〜2個/10g有することを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【請求項2】
セルロースエステルフィルム中に、大きさが0.5〜30μmのゲルフィラーを、50〜500個/g有し、大きさが50μm以上のゲルフィラーを0〜2個/10g有するセルロースエステルフィルムの製造方法であって、
セルロースエステルを含むペレットを70℃から95℃で4時間から6時間乾燥させる工程と、
前記乾燥後のペレットを溶融流延法によって製膜する工程と、を有することを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ペレットに、別のセルロースエステルフィルムの一部を 返材として混合することを特徴とする請求項2に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ペレットと、前記返材との混合比率が90:10〜70:30で、
前記ペレットの水分量よりも前記返材の水分量が少ないことを特徴とする請求項3に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−234706(P2010−234706A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86448(P2009−86448)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】