説明

センサー、酸素分離装置、および固体酸化物燃料電池のためのゾルゲル由来の高性能触媒薄膜

電解質基板上にゾルゲル由来の触媒薄膜を形成する方法は、カソード前駆体ゾルおよび/または複合カソードスラリーを形成し、前記カソード前駆体ゾルまたはスラリーを前記電解質上に沈着させ、前記沈着した膜を乾燥してグリーン膜を形成し、前記グリーン膜を加熱してゾルゲル由来の触媒薄膜を形成する、各工程を有してなる。固体酸化物燃料電池などの電気化学セルは、ゾルゲル由来の触媒薄膜を含みうる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、「センサー、酸素分離装置、および固体酸化物燃料電池のためのゾルゲル由来の高性能触媒薄膜(Sol-Gel Derived High Performance Catalyst Thin Films for Sensors, Oxygen Separation Devices, and Solid Oxide Fuel Cells)」という発明の名称で2008年5月28日出願の米国特許出願第12/128,080号の優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は電気化学セルに関し、さらに具体的には、従来の電気化学セルと比較して、イットリア安定化酸化ジルコニウム電解質との組合せで、極めて高い酸素取り込み率およびセル性能を表す、ゾルゲル由来の触媒薄膜を含む電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0003】
電気化学セルは、固体酸化物燃料電池、センサー、電気化学的酸素分離装置、および水分解セルを含めたさまざまな用途に使用することができる。例えば、固体酸化物燃料電池(SOFC)は、水素、炭化水素、および化石燃料などの燃料に利用可能な化学エネルギーから電気エネルギーを生み出すことができる、無公害の発電源として注目を集めている。
【0004】
このような電気化学セルは、典型的には、酸素イオン電解質、酸化物のカソードおよびアノードを備えている。例えば、典型的なSOFCは、多孔質の空気電極(カソード)と多孔質の燃料電極(アノード)に挟まれた密度の高い酸素イオン伝導性の電解質を含む。作動中、電気エネルギーは、燃料を酸化剤と電気化学的に組み合わせることによって生産される。
【0005】
さらなる例として、酸素イオン電解質および酸化物電極を備えた電気化学センサーは、O2、CO、CO2およびNOxなどの気体の検出に使用することができる。電気化学センサーは、電極インピーダンス、電流電圧特性、または電圧変調に対する応答挙動の変化を利用し、標的ガスを特定および定量する。
【0006】
電気化学的酸化皮膜によるガスの分離は、低い印加電圧において高い酸素流量を伴うことが有利であり、これは、酸素の取り込みに対する低い抵抗を示す、高性能のカソードによって達成することができる。
【0007】
電解質性能は、高性能の電気化学セル、特に固体酸化物燃料電池の設計における重要な因子である。イットリア安定化酸化ジルコニウム(YSZ)は、その機械的、電気的、化学的および熱的特性の理由から、一般に用いられている電解質材料である。立方晶(8YSZ)の多形および正方晶(3YSZ)の多形の両方が用いられる。立方晶YSZは、より高いイオン伝導率およびより低い歪み耐性を提供するが、一方、正方晶YSZは、比較的低い(約30%)酸素イオン伝導率において、より高い強度を提供する。正方晶YSZは、その比較的高い歪み耐性に起因して、比較的薄い(〜20マイクロメートル)電解質シートとしてSOFC用途に有利に使用されうる。固体酸化物燃料電池は、典型的には、通常700〜1,000℃の昇温で動作させる。
【0008】
電極の選択も、電気化学セルの設計を成功させる大きな要因である。電気化学センサーのための電極材料は、例えば、さまざまな特性を示すことが好ましく、例として、高い検出信号強度、迅速な応答、および、吸着、吸収および酸化還元法を含みうる化学的相互作用を介した標的ガスに対する選択的応答が挙げられる。
【0009】
最も商業的かつプロトタイプのSOFCでは、アノードは、ニッケル−YSZサーメットでできているのに対し、カソードは、ドープまたは非ドープの、ランタンマンガナイト、ランタンフェライト、またはランタンコバルタイト、あるいはそれらの固溶体でできている。例えば、ランタンマンガナイトおよびランタンフェライトにストロンチウムをドープして、ストロンチウムをドープしたランタンマンガナイト(LSM)およびストロンチウムをドープしたランタンフェライト(LSF)を形成することができる。
【0010】
SOFCの動作の間、気相(カソード側)からの酸素は、酸素イオンの形態で電解質に取り込まれる。酸素イオンは、カソードを介して電解質を通り抜け、アノードへと移動し、そこで水素などの燃料と反応する。このプロセスを経て生成する電子は、外部回路に利用可能になり、使用可能電力を提供する。
【0011】
カソードの選択に応じて、カソードにおける酸素の取り込みは、吸着、拡散、電離、電荷移動、および酸素欠陥とのやりとりなど、多数の異なるメカニズムを通じて生じうる。前述の各々はカソード抵抗の一因となり、したがって、異なるカソード材料では、酸素の取り込みのための律速段階が異なりうる。
【0012】
例えば、LSMは、混合イオン電子伝導体(MIEC)である。しかしながら、LSMは、比較的低いイオン伝導率を有する。結果として、LSMカソードを備えたセルでは、酸素の取り込みは、主に、電子伝導性のLSM、イオン伝導性の電解質、および気相の接触点である三相界面を介して生じる。三相界面サイトの数が限られていることから、LSM/YSZ複合カソードでさえ、三相界面における電荷移動は、高温において律速である。三相界面を越えて反応帯域を増大させるためには、カソードは電子のほかに酸素イオンも伝導することが好ましい。
【0013】
ランタンストロンチウムフェライト(LSF)は、混合イオン電子伝導体(MIEC)である。混合伝導体電極は、電極表面における気体から混合伝導体へのさらなる酸素の取り込みを可能にし、その結果、酸素イオンは混合伝導体を通じて電解質接触面へと輸送され、そこで、酸素は電解質内に取り込まれる。混合伝導体電極では、律速段階は、通常、電極−気体接触面における酸素の取り込み、および電極材料を通じた酸素イオンの拡散輸送である。
【0014】
LSM系(イオン伝導体)およびLSF系(混合伝導体)カソードの酸素の取り込みおよび/または輸送メカニズム、または、さらに一般的には、異なる伝導寄与を有する酸化物の酸素の取り込みおよび/または輸送メカニズムにおける差異にかかわらず、電解質/酸化物接触面(三相界面)の界面化学が、または電極酸化物自体が、酸素の全般的な交換速度において重要な役割を果たし、カソード分極に強い影響を与えうる。
【0015】
SOFCに加えて、ジルコニア系センサーおよび電気化学的酸素分離装置も、電解質、カソードおよび対電極を用いて同様に組み立てられる。セル電圧の印加は、セルを通じた酸素の往復移動を誘発する。YSZ電解質、カソードおよび対電極(またはアノード)から構成される単セル装置の動作電圧は、通常、電極の分極に起因して、理論的な開回路電圧と比較して低下する。
【0016】
SOFC、センサー、酸素分離装置などの電気化学セル用のカソードは、従来の粉末系の処理方法を用いて得られることが多く、ここで、酸化物粉末は、スクリーン印刷、ジェット印刷、ペイントブラッシング、スピニングなどの方法によって電解質に塗布される。塗布工程の後、粉末を高温で焼成して、多孔質のカソード構造を形成する。しかしながら、高い加熱温度の結果、粒子の大幅な成長が生じ、最初の粒径が非常に小さい場合でさえ、最終的には少なくとも数百ナノメートルの粒径に達することがある。
【0017】
粒子の成長に加えて、複合カソードの多相は、それらの接触点において、相互拡散および化学反応を受けうる。結果として外表面および内表面の両方が、不純物および固有成分の望ましくない析出による悪影響を受けうる。例として、ペロブスカイトでは酸化ストロンチウムの表面への析出が生じる場合があり、これは、カソードの酸素交換率に悪影響を有しうる。同じように、アルミナおよびシリカなどの不純物の析出は、より高い温度(特に900℃より高温)において徐々に生じる可能性があり、これは、不都合なほどに、酸素の交換速度を低下させうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
前述のことを考慮すると、電気化学セル、特に、従来の昇温過程に関連する望ましくない結果を回避する電気化学セルカソードを形成するための、費用効率のよい方法を提供することは、有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の1つの態様は、低コスト、低温のゾルゲル技術を使用する、高性能の触媒薄膜の形成に関する。本発明のさらなる態様は、ゾルゲル由来の薄膜を含む薄膜カソードを備えた電気化学セルに関する。ゾルゲル由来の高性能のカソードを備えた本発明の電気化学セルの好ましい用途としては、YSZ電解質に基づいたSOFC、センサー、電気化学的酸素分離膜、および水分解装置が挙げられる。
【0020】
本発明の電気化学セルの高い性能は、薄膜カソード表面における非常に高い酸素交換率、および、薄膜カソードを通じた迅速な拡散に基づいている。有利なことに、低い加熱温度およびゾルゲル前駆体のゆっくりとした分解は、小さい粒径(30〜100nm)を有し、内因物および不純物の析出の程度が低い、薄膜(<1マイクロメートル)を生成する。本発明の処理および結果として得られる微細構造は、高い酸素交換率を促進する。
【0021】
LSF系カソードまたはLSF/YSZ複合カソードなどの従来のスクリーン印刷したMIECカソードでは、カソード分極に対する2つの主な寄与、すなわち:(i)カソード表面における、気相からカソード材料への低い酸素取り込み率、および(ii)MIEC表面からカソード/電解質接触面への酸素イオンおよび電子のゆっくりとした拡散、がある。多孔質の膜であっても、従来のスクリーン印刷したカソードの特徴的な拡散長は、1〜2マイクロメートルの範囲である。
【0022】
しかしながら、マイクロメートルに満たない膜厚に対する電子および酸素イオンのバルクおよび粒子境界の拡散輸送に関与する、ゾルゲル由来の純粋なLSFまたはLSF/3YSZ複合材料薄膜カソードの場合には、拡散抵抗は、従来のカソードと比較して顕著に低減する。薄膜カソードは、温度サイクルの間のより低い熱質量およびより高い耐熱衝撃性に起因した、高速加熱という利点も提供する。
【0023】
ゾルゲル由来のカソード膜表面は、加熱温度の低さ、析出の低減、および化学表面活性の高さに起因して、より活性であることから、とりわけ、気相からゾルゲル由来のLSFカソードへの酸素の取り込みは、従来のスクリーン印刷したカソードよりも容易である。さらには、粒径が小さいことから、粒子を通じた輸送(粒子内)と比較して、粒子境界の輸送(粒子間)の寄与を顕著に強化することができる。
【0024】
スクリーン印刷したカソードと比較したゾルゲル由来のカソードのさらなる利点は、工程における柔軟性である。膜前駆体溶液は、形状表面および平面に塗布できることから、曲面または管またはハニカムの内面にカソードを形成することができる。
【0025】
従来の電気化学セルの形成方法と比較した本発明のこれらおよび他の態様および利点を以下にまとめる:
・低価格原料−薄膜前駆体材料は、容易に調達可能な金属硝酸塩、グリコール、および酸から得られる。
【0026】
・処理の容易性−前駆体ペースト/スラリーは容易に調達可能であり、電解質基板へのそれらの塗布は、噴霧、ブラッシング、またはスピニングなどの簡便な方法を用いて行うことができる。
【0027】
・処理の柔軟性−前駆体ゾルは、チャネル内部および/または多孔質基板上の曲面ならびに平面に塗布することができる。
【0028】
・低い加熱コスト−カソードは、低温で、前駆体ゾル/スラリーから形成することができる。
【0029】
・より高い耐熱衝撃性−カソードの薄膜寸法は、より低い内部応力を生じる。
【0030】
・セルの迅速な始動および停止−セルは、その低い熱質量および高い耐熱衝撃性の理由から、高温へと急激に加熱することができる。
【0031】
・装置性能の改善−より高いカソード活性は、カソードへのより速い酸素の取り込みを生じ、これがセルの性能に直接影響を与える。
【0032】
本発明の追加の特性および利点は、以下の詳細な説明に記載され、一部には、その説明から当業者には容易に明らかとなり、一部には、以下の詳細な説明、添付の特許請求の範囲、および添付の図面を含めた本明細書に記載の発明を実施することによって認識されるであろう。
【0033】
前述の概要および後述する詳細な説明は、本発明の実施の形態を提案し、特許請求の範囲に示す本発明の本質および特徴を理解する外観または枠組みを提供することが意図されていることが理解されるべきである。添付の図面は、本発明のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に取り込まれ、本明細書の一部を構成する。図面は、本発明のさまざまな実施の形態を例証し、記述と共に、本発明の原理および動作を説明する役割をなすものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】800℃で加熱したゾルゲル由来のLSFの粉末X線回折パターン
【図2】本発明に従って調製した乾燥LSFゲルのTGおよびDTGの結果のプロット。
【図3a】本発明に従ったゾルゲル由来のカソードの特徴的な微細構造を示すSEM顕微鏡写真。
【図3b】先行技術に従ってスクリーン印刷したLSF/3YSZカソードを示すSEM顕微鏡写真。
【図4a】本発明のゾルゲル由来の電極を備えた左右対称の単セル装置のインピーダンススペクトルのプロット。
【図4b】本発明のゾルゲル由来の電極を備えた左右対称の単セル装置のインピーダンススペクトルのプロット。
【図4c】本発明のゾルゲル由来の電極を備えた左右対称の単セル装置のインピーダンススペクトルのプロット。
【図4d】本発明のゾルゲル由来の電極を備えた左右対称の単セル装置のインピーダンススペクトルのプロット。
【図4e】比較のためのスクリーン印刷電極のインピーダンススペクトルのプロット。
【図5】本発明のゾルゲル由来の電極を備えた左右対称の単セル装置のインピーダンススペクトルのプロット。
【図6a】1/Tの関数としてのカソードの全抵抗の対数プロット。データは本発明に従ったカソードおよび比較用のスクリーン印刷LSF/3YSZカソードのものである。
【図6b】1/Tの関数としてのカソードの主抵抗の対数プロット。データは本発明に従ったカソードおよび比較用のスクリーン印刷LSF/3YSZカソードのものである。
【図7】約750℃における酸素ポンプセルのインピーダンススペクトルのプロット。プロットは、ゾルゲル由来のカソード(発明品)およびスクリーン印刷電極(比較品)のデータを含む。
【図8】空気中、約800℃における、本発明の酸素ポンプセルのインピーダンススペクトルのプロット。
【図9】本発明に従ったカソードを備えた異なる単セル装置についての空気中、750℃における印加電圧に対する電流密度のプロット。比較のために、スクリーン印刷LSM/3YSZサンプルの電流密度の測定値も示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、一般に、電気化学セル内に組み込むことができる薄膜など、ゾルゲル由来の触媒薄膜を形成するための方法に関する。本発明はまた、連続または不連続なゾルゲル由来の触媒薄膜を備えた電気化学セルのためのカソード組立体に関する。ゾルゲル由来の触媒薄膜は、約1マイクロメートル未満の平均厚さおよび約100nm未満の平均粒径を有するように、電解質基板上に形成されることが好ましい。
【0036】
1つの実施の形態によれば、ゾルゲル由来の触媒薄膜を形成する方法は、
(i)電解質基板上にゾルゲル膜を形成し、
(ii)前記ゾルゲル膜を乾燥してグリーン膜を形成し、
(iii)前記グリーン膜を加熱して前記基板上に触媒薄膜を形成する、各工程を有してなる。
【0037】
カソード前駆体ゾルを形成するための方法の1つは、改良Pechini法である。この合成に用いる原料は、金属硝酸塩、クエン酸、およびエチレン・グリコールを含む。クエン酸およびエチレン・グリコールは、この方法にとって好ましい重合または錯形成剤である。金属硝酸塩としては、好ましくは、ランタン、ストロンチウムおよび鉄の水溶性の硝酸塩が挙げられる。ランタン、ストロンチウムおよび鉄含有硝酸塩に加えて、アルカリ土類、希土類または他の遷移金属元素の塩を含めてもよい。
【0038】
好ましい方法によれば、分析用試薬グレードの金属硝酸塩を、攪拌下、60℃で脱イオン水に溶解する。硝酸塩が完全に溶解した後、クエン酸およびエチレン・グリコールを加える。約85℃に加熱時、および、水および他の揮発性材料の除去後、粘性の高分子ゾル(前駆体ゾル)が形成する。
【0039】
必要に応じて、前駆体ゾルをイットリウム安定化ジルコニア粉末と混合することによりカソード前駆体複合材料スラリーを合成するために、前駆体ゾルを使用することができる。ジルコニア粉末は、ゾルと混合する前に、超音波処理してエチレン・グリコール中に分散することが好ましい。次に、ゾルとジルコニア粉末の混合物を超音波処理することによって、均質な複合材料スラリーを得る。カソード前駆体ゾルまたは複合材料スラリーの粘度および/または濃度は、反応物質の初期濃度を変化させることによって、または、形成後、水および他の揮発性材料の除去のためにゾル/スラリーを加熱することによって、調節することができる。
【0040】
薄膜カソードは、密度の高い電解質の表面上にカソード前駆体ゾルまたは複合材料スラリーの層を沈着させることによって形成することができ、その後、コーティングした電解質を乾燥および加熱する。ゾルまたはスラリーの沈着前に、電解質の表面を活性化するため、電解質の表面を酸洗浄することが好ましい。カソード前駆体ゾルまたは複合材料スラリーの薄層は、スピン・コーティング、スプレー・コーティング、スクリーン印刷またはテープ成形などのさまざまなコーティング法で電解質の表面に塗布することができる。
【0041】
1つの実施の形態によれば、コーティングした電解質を室温で乾燥し、2段階の熱サイクルで加熱した後、室温まで冷却して、結晶の触媒薄膜を形成する。例として、沈着したカソード層の室温乾燥後、コーティングした電解質を、30℃/時間の加熱速度で500℃まで加熱し、500℃で0.5時間保持し、さらに、60℃/時間の加熱速度で800℃まで加熱し、800℃で1時間保持した後、120℃/時間の冷却速度で室温まで冷却する。この加熱プロファイルは、熱サイクル1(ゆっくりとした加熱およびゆっくりとした分解)と定義される。さらなる実施の形態によれば、沈着したカソード層の室温乾燥後、コーティングした電解質を、1段階の熱サイクルにおいて、100℃/時間の加熱速度で直接800℃まで加熱し、800℃で1時間保持した後、室温まで冷却する。この加熱プロファイルは、熱サイクル2(急速加熱)と定義される。
【0042】
熱サイクル1を参照すると、好ましい初期温度は500℃であるが、初期温度は、約300℃〜700℃の範囲(例えば、300、350、400、450、500、550、600、650または700℃)でありうる。同様に、2段階熱サイクルにおける好ましい最終温度は800℃であるが、最終温度は、約300℃〜900℃の範囲(例えば、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850または900℃)でありうる。1段階の熱サイクルを使用する場合、好ましい温度は約300℃〜900℃である。熱サイクル1および熱サイクル2は、共に、加熱および冷却速度は、他の処理条件に応じて、10℃/時間〜200℃/時間の範囲であって差し支えなく、保持時間は0.1時間〜5時間の範囲であって構わない。
【0043】
カソード前駆体ゾルは、ランタンストロンチウムフェライト(LSF)を含むことが好ましい。ストロンチウムは、全化学量論の範囲にわたり、ランタンに代えて使用することができることから、LSF組成物は式:LaxSr1-xFeO3(0<x<1)に従って変化しうる。また、上述のように、追加の金属塩もゾルゲル合成に取り込むことができることから、追加のドーパントは、触媒(酸化物)膜に容易に取り込まれうる。
【実施例】
【0044】
本発明は、以下の実施例によってさらに明確になるであろう。
【0045】
以下のプロセスに従って、La0.8Sr0.2FeO3の組成を有する高分子ゾルを調製した。主要な前駆体は、分析的に純粋(99.9%、Alfa Aesar社製)な金属硝酸塩であった。上述のように、クエン酸およびエチレン・グリコールを重合/錯形成剤として使用した。
【0046】
最初に、150mlの脱イオン水を1000mlフラスコに入れ、60℃まで加熱した。硝酸ランタン・6水和物(0.08mol、34.64g)、硝酸ストロンチウム(0.02mol、2.48g)、および硝酸鉄(III)9水和物(0.10mol、40.4g)を、攪拌しつつ、加熱した脱イオン水中に溶解させた。添加した塩が完全に溶解した後、クエン酸(0.6mol、115.27g)(Alfa Aesar社製)およびエチレン・グリコール(0.9mol、55.84g)(Fisher社製)をフラスコに加えた。クエン酸の全金属イオンに対するモル比は3であり、エチレン・グリコールのクエン酸に対するモル比は1.5であった。水および他の揮発性物質を除去するため、混合物を85℃まで加熱した。粘性の液体LSF高分子ゾルの最終体積は約400mlであった。
【0047】
分析のため、LSF高分子ゾルを乾燥し、800℃まで加熱し、微粉末になるまで粉砕した。図1に示すように、XRD分析は、ゾルゲル由来のLSF粉末が純粋なペロブスカイト相であることを示唆した。粉末は、a=0.55677nm、b=0.55532nmおよびc=0.78459nmの格子定数を有する斜方晶系構造を有している。結晶サイズの計算値は約25nmであった。図2に示すように、熱重量分析は、314〜365℃の範囲にわたって発熱反応が生じたが、すべての反応は400〜450℃で完了したことを示唆した。TG−DTGの測定では、ゲルを、空気中、900℃に達するまで10℃/分の加熱速度で加熱した。全重量損失は、およそ85%であった。
【0048】
前述のLSF高分子ゾルを用いて、市販の3YSZ粉末(Tosoh Cop.社製)をLSFゾルと混合することにより、LSF/YSZ複合材料スラリーを調製した。均質に分散した複合材料スラリーを合成するため、YSZ粉末を最初にエチレン・グリコール中に分散した。例として、1gのYSZ粉末を10gのエチレン・グリコールに加え、10分間超音波処理することによって分散した。次に、分散したYSZ粉末をLSFゾルと混合した。
【0049】
さまざまなLSF/YSZ体積比を有する複合材料スラリーを調製することができる。例えば、LSF/YSZ比が2の複合材料スラリーは、0.446gの分散したYSZ粉末を3.457gのLSFゾルと混合することによって調製し、LSF/YSZ比が1の複合材料スラリーは、1.673gの分散したYSZ粉末を3.451gのLSFゾルと混合することによって調製した。均質な複合材料スラリーを形成するため、LSF/YSZ混合物のそれぞれを、さらに10分間超音波処理した。本発明に従った複合材料スラリーは、約0.1〜10(例えば、0.1、0.2、0.4、0.8、1、2、4、8または10)のLSF/YSZ比を有しうる。
【0050】
本発明に従ったゾルゲル由来のカソードは、本質的に、ランタンストロンチウムフェライト、または、ランタンストロンチウムフェライトおよびイットリア安定化ジルコニアの混合物(例えば、ランタンストロンチウムフェライトおよびイットリア安定化ジルコニアの均質な混合物)から構成されうる。純粋なLSFゾルおよび前述のLSF/YSZ複合材料スラリーの両方を使用して、YSZ電解質上にカソードを形成した。以下の記載はLSF系カソードの形成を開示するが、LSF/YSZ複合カソードは、LSF/YSZの濃縮スラリーを使用して同一の手順により調製した。
【0051】
本明細書に開示される本発明の両構造の電解質基板として、薄い3YSZシート(おおよその厚さ20マイクロメートル)を使用し、比較用には、スクリーン印刷カソードを備えた装置を使用した。東ソー株式会社製の3YSZ粉末(TZ−3Y)を電解質用の原料として使用した。3YSZ粉末を、粉砕媒体、凝集剤、可塑剤、および結合剤と混合することにより、成形可能な混合物を得た。得られたスリップを、支持層から放出された支持膜上でグリーンテープの形状に鋳造し、空気中、箱形炉内のセッター上で加熱した。電解質の標準的な熱サイクルには、グリーンテープを1430℃の最高温度まで加熱し、2時間保持することが含まれ、それによって、十分に高密な、20マイクロメートルの厚さの、柔軟な、正方晶YSZのシートを得た。
【0052】
表面の活性化およびゾルの結合促進のため、冷却前に、電解質表面をHFで酸洗浄した。LSFゾルを、流動させるのに十分な流動性になるまで加熱し、中心に分散した後、基板の片面全体に塗布した。典型的には、1滴のLSFゾルで、約10mm×10mmの領域が塗布された。コーティングした電解質基板を、周囲温度で一晩、乾燥した。
【0053】
乾燥後、コーティング電解質基板をマッフル炉に入れ、30℃/時間のランプ速度で500℃まで加熱した。サンプルを500℃で0.5時間維持し、その後、60℃/時間のランプ速度で800℃まで加熱した。サンプルを800℃で1時間維持し、その後、120℃/時間の速度で室温まで冷却した(熱サイクル1)。
【0054】
あらかじめ酸洗浄した2インチ(5.08cm)×1インチ(2.54cm)の3YSZ電解質シートをコーティングすることによって、電気化学試験用のサンプルを得た。濃縮LSFゾルをYSZプレートの片面の中心に分散し、その後、電解質全体に塗布した。典型的には、1滴のLSFゾルで、約15mm×10mmの領域全体が塗布された。コーティング基板を周囲温度で一晩乾燥し、次いでLSFコーティングを電解質の反対側で繰り返した。活性電極領域として画成される、電解質の両面におけるコーティング領域の重なりは、約10mm×10mmであった。
【0055】
乾燥後、コーティングした電解質基板を、熱サイクル1または熱サイクル2に従って加熱した。銀/パラジウム系電流コレクタを酸化物層上にスクリーン印刷し、800℃で2時間加熱した。例として、電流コレクタのインクは、60体積%の金属(90重量%のAg:10重量%のPd)および40体積%の3YSZを含みうる。電流コレクタの厚さは、典型的には20〜30マイクロメートルであり、非常に高い孔隙率および大きい孔隙径を有していた。
【0056】
ゾルゲル由来のカソードの性能を試験およびモニタするため、比較用のカソード/カソード単セル装置を使用した。単セル装置では、3YSZ電解質の薄いシートを3YSZ電解質の両面にスクリーン印刷(DeHaartスクリーンプリンター)した2つの左右対称の電極の間に挟み、加熱した。比較用の電極は、スクリーン印刷したLSF/YSZ(40:60)酸化物層およびAg(Pd)/YSZ電流コレクタ層を備えている。
【0057】
図3aは、本発明に従ったゾルゲル由来のカソードの特徴的な微細構造および寸法を示すSEM顕微鏡写真であり、図3bは従来のスクリーン印刷したLSF/3YSZカソードの特徴的な微細構造を示すSEM顕微鏡写真である。ゾルゲル由来のカソードの狭い拡散距離の利点は、寸法の差異から明白である。図3aに示すように、ゾルゲル由来の膜の粒径は約100nmであるが、膜は約30nmの最小厚さを有し、これは、典型的にはスクリーン印刷によって達成することができる電極厚み(典型的には1マイクロメートル以上)より顕著に小さい(図3b参照)。
【0058】
ゾルゲル由来のカソードは、平均厚さが約100nm〜1マイクロメートル(例えば、100、200、400、600、800または1000nm)の範囲でありうる。ゾルゲル由来のカソードの平均厚さは、約1マイクロメートル未満であることが好ましく、約500nm未満がさらに好ましく、約100nm未満が最も好ましい。ゾルゲル由来のカソードは、約30〜100マイクロメートルの範囲の大きさの結晶粒子を有する、連続または不連続の膜であって差し支えない。不連続の膜では、より薄い領域、および/または電解質基板が曝露される領域を含んでいて構わない。本発明の実施の形態によれば、ゾルゲル由来のカソードの平均結晶粒径は約100マイクロメートル未満であり、約50マイクロメートル未満が好ましい。
【0059】
電気化学的試験は、Solartronインピーダンス分析器を使用して、空気中、低酸素分圧で、300℃〜800℃の温度範囲にわたり行った。左右対称の2つの電極について、4ワイヤーの設定でカソードインピーダンスを測定した。Solartronシステム(1260周波数応答分析器/1287電気化学的接触面)を使用してインピーダンスデータを得た。
【0060】
セルは、連続した気体流の下、管状炉のアルミナ保護管内で試験した。活性電極領域は1cm2であった。周波数は300000Hzから10mHzまで変化させた。作用電極と参照電極の間の印加振幅は30mVであった。最高周波数から最低周波数までスキャンしながら、10周波数あたり10地点を測定した。バルク、粒子境界および電極のインピーダンスへの寄与は、各観察アークについて、並列抵抗器および定位相要素を備えた等価回路によって適合させた。定位相要素は、抑制アークを備えた実システムをより上手く表すことから、これらの相要素を単純なコンデンサの代わりにモデル化に使用した。
【0061】
異なるゾルゲル由来のカソードについてのカソード特性の概要を表1に示す。表1に示す本発明のデータは、約20マイクロメートルの厚さの3YSZ電解質シート、基板の両面の左右対称の酸化物の薄膜、および電流収集のための粗いAg(Pd)/3YSZ層を有する、カソードポンプセルのサンプルのものである。6マイクロメートルの厚さのスクリーン印刷LSF/3YSZ(1:1)カソードについての比較結果も示す。ゾルゲル由来のカソードサンプルの主なカソード抵抗は、スクリーン印刷したサンプルの主なカソード抵抗より顕著に小さい。表1から選択したデータを図4〜9にプロットし、以下、論述する。
【0062】
スクリーン印刷したカソードに対するゾルゲル由来のカソードの利点の例証に加えて、データは、ゾルゲル前駆体の分解の低さが、性能を増強することも実証している。有利なことに、出願人は、グリーン前駆体膜の比較的低い温度への低温加熱により、触媒活性が改善された触媒膜(ゾルゲル由来のカソード)を生じることを見出した。理論に縛られることは望まないが、より高い活性の結果として、薄膜構造(1マイクロメートル未満、好ましくは0.5マイクロメートル未満の厚さ)、小さい粒径(直径〜30nmから100nm)、低い内因物質および不純物の析出、および個々の粒子の表面曲率の増大が生じると考えられる。この結果は、従来のカソード膜形成法に使用される、より急激な加熱速度および、より高い温度条件では達成することはできない。
【表1−1】

【表1−2】

【0063】
図4は、左右対称の単セル装置のインピーダンススペクトルを示している。データは、本発明のゾルゲル由来のカソード(図4A〜4D)および標準的なスクリーン印刷したLSF/3YSZおよびLSM/3YSZセル(図4E)から得た比較結果を含む。データは、空気中、750℃で動作させた、電解質の各面に1cm2のカソード活性領域を有するセルについて示されている。図4A〜4Dは、それぞれ、表1のカソード材料に対応している。図4Eでは、上の曲線はLSM/3YSZのものであり、下の曲線はLSF/3YSZのものである。図5は、本発明に従った単セル装置(LSF:3YSZ(1:1))のインピーダンスの温度発展を示している。
【0064】
図6aは、本発明に従ったゾルゲル由来の触媒薄膜のカソードの全抵抗の温度依存性を示している。比較のために、スクリーン印刷したLSF/3YSZカソードのデータを示す。ゾルゲル前駆体の熱分解の間のゆっくりとした加熱の利点が明確に分かる。図6bは、本発明に従ったゾルゲル由来の触媒薄膜についてのカソードの主抵抗の温度依存性を示している。図6aと同様、スクリーン印刷したLSF/3YSZカソードのデータを比較のために示す。図6aおよび6bでは、プロットした記号、すなわち白三角(△)、十字(+)、白ダイヤモンド(◇)、白丸(○)、および黒ダイヤモンド(◆)は、それぞれ、表1のカソード材料に対応している。
【0065】
図7は、空気中、750℃における本発明のゾルゲル由来のカソードおよび比較用のスクリーン印刷カソードを含む、単セル装置(酸素ポンプセル)のインピーダンススペクトルのプロットである。最良のゾルゲル由来のカソードでは、カソード抵抗は電解質の抵抗の10分の1であるのに対し、従来のLSM/3YSZスクリーン印刷カソードでは、カソード抵抗は電解質の抵抗の5倍である。図7では、プロット記号の白丸(○)、白逆三角形(▽)、白ダイヤモンド(◇)、および白四角(□)は、それぞれ、表1の本発明のカソード材料に対応し、プロット記号の白四角(□)および黒丸(●)は、それぞれ、比較のためのスクリーン印刷したLSM/3YSZおよびLSF/3YSZに対応している。
【0066】
図8は、空気中、約800℃における本発明のカソードを備えた単セル装置のインピーダンススペクトルのプロットである。白四角(□)は、1:1のLSF:3YSZを表し、黒四角(■)は2:1のLSF:3YSZを表す。この温度では、カソードインピーダンスは電解質の抵抗と比較して無視できるほど小さく、カソードは分極抵抗ゼロの理想的な電極と見なすことができる。
【0067】
図9は、空気中、750℃における、本発明に従った異なるカソードを備えた単セル装置の印加電圧に対する電流密度のプロットである。白い逆三角形(▽)、白四角(□)、白丸(○)、および黒丸(●)は、それぞれ、表1の本発明のカソード材料に対応している。比較のため、スクリーン印刷したLSM/3YSZカソード(白いダイヤモンド型、◇)を備えたセルの電流密度の測定をに示す。
【0068】
本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明には、さまざまな変更および変形をなすことができることは、当業者には明白であろう。当業者には本発明の精神および本質を取り込んだ、開示される実施の形態の変更、組合せ、サブコンビネーションおよびバリエーションが想起されるであろうことから、本発明は、添付のおよび特許請求の範囲およびそれらの等価物の範囲内にあるすべてを包含すると解釈されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾルゲル由来の触媒薄膜を形成する方法であって、該方法が、
電解質基板上にゾルゲル膜を形成し、
前記ゾルゲル膜を乾燥してグリーン膜を形成し、
前記グリーン膜を加熱して前記基板上に触媒薄膜を形成する、
各工程を有してなる、方法。
【請求項2】
前記ゾルゲル膜の形成工程が、
硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、および硝酸鉄の水溶液を形成し、
クエン酸およびエチレン・グリコールからなる群より選択される少なくとも1つの重合剤または錯形成剤を前記水溶液に加えて前駆体溶液を形成し、
前記前駆体溶液を加熱して高分子ゾルを形成する、
各工程を有してなることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記形成工程が、さらに、
イットリア安定化酸化ジルコニウム粉末を前記前駆体溶液と混合して混合物を形成し、
前記混合物を加熱して複合材料スラリーを形成する、
各工程を有してなることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記加熱工程が、
前記グリーン膜を第1の温度まで第1の加熱速度で加熱し、
前記グリーン膜を第1の温度よりも高い第2の温度まで、第2の加熱速度で加熱して前記触媒薄膜を形成する、
各工程を有してなることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
電解質基板上に形成される連続的または不連続的なゾルゲル由来の触媒薄膜を備えた、電気化学セルのためのカソード組立体であって、
前記ゾルゲル由来の触媒薄膜が、約1マイクロメートル未満の平均厚さおよび約100nm未満の平均粒径を有する、カソード組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図4e】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−524946(P2011−524946A)
【公表日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511601(P2011−511601)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2009/003001
【国際公開番号】WO2009/151528
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】