説明

センサ付き転がり軸受装置

【課題】タイヤの偏心を確実に且つ低コストで検出することができるセンサ付き転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通され、且つ、タイヤ側に固定される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される転動体と、前記固定軌道輪側に配設されたセンサ装置とを備えたセンサ付き転がり軸受装置。前記センサ装置は、前記固定軌道輪の周方向において互いに直交する位置に配設され、それぞれが前記タイヤの接地荷重を検出することができる2つのセンサを少なくとも備えており、当該2つのセンサから得られる出力の周期に基づいて前記タイヤの偏心を検出するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセンサ付き転がり軸受装置に関する。さらに詳しくは、車体側に固定される固定軌道輪(外輪)に、タイヤ接地荷重(タイヤ力)を検出するセンサが設けられているセンサ付き転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの偏心は、例えば、ホイールバランスの不良、タイヤ空気圧の減少、タイヤのアンバランスウェート(例えば、大型車の複輪の間に石が挟み込まれたような場合)などによりもたらされるが、偏心したタイヤで自動車を走行させると振動が発生し乗り心地が悪くなるととともに、走行安定性が損なわれてしまい、場合によっては、タイヤが疲労をしてバーストを引き起こす惧れがある。
【0003】
そこで、従来、かかる偏心を含むタイヤの異常を検出する技術が種々提案されている。例えば、特許文献1には、タイヤから伝達される力を検出するセンサをタイヤ内に配設して当該タイヤの異常を検出する装置が記載されている。また、特許文献2には、タイヤ膨張圧力やベルト縁部の温度などを計測し、予めマップとして準備しておいた損傷モデルと照合することで車両タイヤの監視又は診断を行なうシステムが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−203217号公報
【特許文献2】特表2005−528270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の装置では、センサの取付位置とタイヤの偏心位置との関係によっては、偏心に起因するタイヤ荷重の変動と、路面の乱れなどに起因するタイヤの垂直荷重の変動との区別がつかないことがあり、また、タイヤ内に設置されたセンサからの信号を車体側で受信するワイヤレスシステムとなることから、設備費が高くつくという問題がある。
一方、特許文献2記載のシステムは、温度変化によりタイヤの偏心を検出しているが、この温度は、外気温や車両の走行状態によっても変化するものであり、高精度に偏心を検出することは困難である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、タイヤの偏心を確実に且つ低コストで検出することができるセンサ付き転がり軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセンサ付き転がり軸受装置は、車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通され、且つ、タイヤ側に固定される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される転動体と、前記固定軌道輪側に配設されたセンサ装置と、を備えたセンサ付き転がり軸受装置であって、
前記センサ装置は、前記固定軌道輪の周方向において互いに直交する位置に配設され、それぞれが前記タイヤの接地荷重を検出することができる2つのセンサを少なくとも備えており、当該2つのセンサから得られる出力の周期に基づいて前記タイヤの偏心を検出するように構成されていることを特徴としている。
【0008】
本発明のセンサ付転がり軸受装置では、固定軌道輪の周方向において互いに直交する位置に配設された2つのセンサを少なくとも備えている。すなわち、例えば、固定軌道輪の上部ないしは頂部と、これと軸受中心を基準として直交する位置になる、固定軌道輪の前部又は後部とにセンサが配置されている。固定軌道輪の上部ないしは頂部に設置したセンサは、タイヤ力又はタイヤ接地荷重の3つの分力(タイヤの垂直荷重F、前後荷重F及び横荷重F)のうち、タイヤの上下方向の垂直荷重Fを検出することができ、また、固定軌道輪の前部又は後部に設置したセンサは、同じくタイヤの前後方向の前後荷重Fを検出することができる。
【0009】
タイヤの垂直荷重Fは、通常の走行状態でも多少変動することがあるが、タイヤの前後荷重Fは、ブレーキを踏まないかぎり、通常、変動はしない。そこで、前記2つのセンサの出力から垂直荷重F及び前後荷重Fを演算し、さらに周期演算回路によりF及びFの変動周期TFZ及びTFXを算出するとともに、2つの変動周期のズレΔTを算出する。また、車輪速から別途タイヤの回転周期Tを算出する。
【0010】
そして、ブレーキが踏まれていない状態において、タイヤが偏心しているか否かの診断を開始し、前記変動周期TFZ及びTFXがともに回転周期Tに等しく、それらの周期のズレΔTが回転周期の1/4であるときに、タイヤが偏心していると判断する。さらに、路面振動の影響が少なく、タイヤ偏心による荷重変動とみなすことができる前後荷重Fの変動量ΔF(振幅の大きさ)が所定の値を超えたときに、車両の走行に支障をきたす惧れがある異常状態であると判断し、ドライバーにアラームを発するように構成することができる。本発明によれば、前記異常状態を、人が感じない程度のものであっても感度良く検出することができ、重大なタイヤ損傷が発生する前にアラームをドライバーに発して、危険を未然に防ぐことができる。
【0011】
前記センサを超音波センサとすることができる。また、前記2つのセンサを、タイヤの垂直方向荷重を検出するセンサ、及びタイヤの前後方向荷重を検出するセンサとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセンサ付き転がり軸受装置によれば、タイヤの偏心を確実に且つ低コストで検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明のセンサ付き転がり軸受装置(以下、単に「軸受装置」ともいう)の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係る軸受装置Hの軸方向断面説明図である。なお、図1において、右側が車両アウタ側(車両の外側)であり、左側が車両インナ側(車両の内側)である。
【0014】
図1に示されるように、本実施の形態の軸受装置Hは、筒状の外輪1と、この外輪1の内部に回転自在に挿通されている内軸2と、この内軸2の車両インナ側端部に外嵌された内輪部材3と、前記外輪1に設けられたセンサ装置4と、周方向に並ぶ複数の玉からなる複列の転動体5、5とを備えたものであり、これらにより複列アンギュラ玉軸受部が構成されている。転動体5、5としての各列の玉は保持器6によって周方向に所定間隔で保持されている。
なお、本明細書において、軸受装置Hの中心線Cに沿った方向をY軸方向とし、これに直交する紙面貫通方向の水平方向をX軸方向とし、Y軸方向及びX軸方向に直交する鉛直方向をZ軸方向と定義している。従って、X軸方向は車輪の前後水平方向となり、Y軸方向は車輪の左右水平方向(軸方向)となり、Z軸方向は上下方向となる。
【0015】
本実施の形態の軸受装置Hにおいて、前記外輪1は車体側に固定される固定軌道輪とされている。他方、前記内軸2と内輪部材3とが車輪側の回転軌道輪とされており、この固定軌道輪と回転軌道輪との間において前記複列の転動体5、5が転動自在に介在されている。これにより、固定軌道輪と回転軌道輪とは互いに同軸状に配置され、固定軌道輪に対して回転軌道輪が車輪(図示せず)とともに回転自在となっている。
【0016】
回転軌道輪を構成する内軸2は、径方向外方へ延びるフランジ部7を車両アウタ側に有しており、このフランジ部7が車輪のタイヤホイールやブレーキディスクの取付部分となっている。このタイヤホイールなどは取付ボルト14によって当該フランジ部7に取り付けられる。内輪部材3は内軸2の車両インナ側に形成された段差部分に外嵌され、内軸2の車両インナ側端部に螺合したナット8によって内軸2に固定されている。そして、内軸2の外周面と内輪部材3の外周面とに、転動体5、5の内側軌道面9、9がそれぞれ形成されている。
【0017】
固定軌道輪を構成する外輪1は、転動体5、5の外側軌道面10、10が内周面に形成された円筒状の本体筒部11と、この本体筒部11の外周面から径方向外方へ伸びるフランジ部12とを有している。このフランジ部12は、車体側部材である懸架装置が有するナックル(図示せず)に固定され、これによって当該軸受装置Hが車体側に固定されるようになっている。
外輪1の車両アウタ側端部内周面と、これと対向する内軸2の外周面との間にはシール装置20が設けられており、また、外輪1の車両インナ側端部の内周面には、カバー21が圧入されている。
【0018】
前記センサ装置4は、外輪1と転動体5との間に作用する力を検出する超音波センサ41と、この超音波センサ41と図示しないリード線により接続されており当該超音波センサ41の出力を処理する処理手段(図示せず)とを備えている。
超音波センサ41は、図1に示される外輪1の最上部(頂部)及び最下部(底部)のほかに、外輪1の上下の中間部の前側及び後側にもそれぞれ設けられている。換言すれば、外輪1の周方向において90°間隔で配設されており、周方向において隣接するセンサは、各センサと軸心とを結ぶ線分が互いに直交する関係になっている。なお、超音波センサ41の配置及び個数は、これに限定されるものではなく、外輪1の周方向において互いに直交する位置に配設される2つのセンサを少なくとも備えておれば、他の配置及び個数であってもよい。
【0019】
前記超音波センサ41は、外周面に雄ねじ部が形成された筒状のケース及び当該ケース内に配設された振動子を有しており、転動体5と外側軌道面10との接触面に垂直の方向から臨まされている。外輪1には、有底の雌ねじ部が形成されており、前記ケースのねじ込み量が調整できるようになっている。ケースの先端面と雌ねじ部の底面との間には、超音波センサ41の先端面を保護するためのゴム製クッションシート42が介在させられている。また、ケースの雄ねじ部の基端側部分には、当該ケースの回り止めのためのナットが螺合されている。
【0020】
前記超音波センサ41は、転動体5と外側軌道面10との接触部22に向けて送受信面から超音波を発信し、かつ当該接触部20で反射した反射波を送受信面で受信することで、転動体5に作用する力を以下に示すエコー比として検知する。
エコー比=100×(H0−H1)/H0
H0:転動体5が超音波センサ41から半ピッチ離れて位置するときのエコー強度
H1:転動体5が超音波センサ41の直下に位置するときのエコー強度
このエコー比は、転動体5に作用する力と比例関係を有しており、この関係を利用して当該エコー比から転動体5に作用する力を求めることができる。転動体5に作用する力が大きくなると、転動体5と外側軌道面10との接触面積が大きくなってエコー強度が小さくなる。従って、転動体5に作用する力が大きい場合には大きいエコー比が出力される。
【0021】
走行する車両の速度変化や姿勢変化に伴ってタイヤに作用する荷重が変動すると、この荷重の変動に応じて内軸2に対する外力が変わり、転動体5に作用する力の大きさが変化する。また、タイヤに作用する荷重のうち前後方向、左右方向、及び垂直方向の成分ごとに内軸2に対する力の加わり方が異なる。そのため、各方向の成分ごとに、各超音波センサ41が検知する転動体5に作用する力への影響度が異なっている。
【0022】
従って、タイヤに前後方向の荷重が作用した際の転動体5に作用する力及びこれに対応する各超音波センサ41で出力されるエコー比、左右方向の荷重が作用した際の転動体5に作用する力及びこれに対応する各超音波センサ41で出力されるエコー比、及び垂直方向の荷重が作用した際の転動体5に作用する力及びこれに対応する超音波センサ41で出力されるエコー比を求めておくことにより、各超音波センサ41で得られたエコー比によりタイヤに作用している荷重の三方向の成分を求めることができる。なお、センサ装置4の処理手段には、前記のエコー比を求める式や同エコー比から各超音波センサ41の位置に対応する転動体5に作用する力を求める式、転動体5に作用する力からタイヤに作用する前後荷重、左右荷重、及び垂直荷重を求める式等が記憶された記憶部、これらの式を演算する演算部等が設けられている。
【0023】
本発明の特徴は、前述したタイヤの接地荷重を検出することができるセンサの周期に基づいて、当該タイヤの偏心を検出し得るようにしたことである。図2はタイヤの偏心の概念を示す図であり、固定側軌道輪である外輪1の軸心に対して、タイヤ、すなわち当該タイヤが装着される回転軌道輪である内軸2及び内輪部材3(以下、内軸2で代表させる)が偏心していると、当該内軸2の回転位置に応じて、内軸2が転動体5に及ぼす力は変動する。
【0024】
図3は、タイヤの垂直荷重及び前後荷重の検出例を示しており、横軸は測定時間、縦軸は荷重である。図3において、mは垂直荷重Fの変動を、nは前後荷重Fの変動を示している。タイヤが偏心している場合、当該偏心に起因するタイヤ荷重の変動の周期は、タイヤの回転周期Tと一致する。また、タイヤが図2において白矢印で示される方向に回転している場合、F方向センサとF方向センサとは、外輪1の周方向において90°ずれた位置関係にあることから、垂直荷重Fの変動周期と前後荷重Fの変動周期は、1/4周期だけずれた関係になる。具体的には、垂直荷重Fのピークから1/4周期だけずれて前後荷重Fのピークが検出される。
【0025】
タイヤの垂直荷重Fは、通常の走行状態でも多少変動することがあるが、タイヤの前後荷重Fは、ブレーキを踏まないかぎり、通常、変動はしない。したがって、例えば、固定軌道輪の上部ないしは頂部と、これと軸受中心を基準として直交する位置になる、固定軌道輪の前部又は後部とにセンサを配置した場合に、図3に示されるような、1/4周期ずれた2種類の荷重変動が検出されると、タイヤが偏心しているものと判断することができる。
【0026】
つぎに図4に示されるフローチャートを参照しつつ、タイヤ偏心の判定フローの例を説明する。
まず、車両を走行させ、前述した超音波センサ41を用いて軸受装置Hにおける転動体5に作用する力の計測を行ない(ステップS1)、さらにその結果に基づいてタイヤの垂直荷重F及び前後荷重Fを演算する(ステップS2)。
ついで、周期演算回路により垂直荷重F及び前後荷重Fの変動周期TFZ及びTFXを算出するとともに、2つの変動周期のズレΔT(=TFX−TFZ)を算出する。また、タイヤの前後荷重Fの変動量ΔF、すなわち変動曲線の振幅を算出する(ステップS3)。
【0027】
つぎに、車輪速センサにより車輪速を読込み、得られる車輪速からタイヤの回転周期Tを算出する(ステップS4)。車両のブレーキが踏まれているか否かを判断し(ステップS5)、ブレーキが踏まれていない(ブレーキoff)場合、先に算出した垂直荷重Fの変動周期TFZ及び前後荷重Fの変動周期TFXがタイヤの回転周期Tに等しいか否かの判断を行う(ステップS6)。ブレーキが踏まれていると、路面との摩擦によりタイヤに前後荷重が作用し、その影響で、偏心による前後荷重の変動を正しく検出することができなくなる。
垂直荷重Fの変動周期TFZ及び前後荷重Fの変動周期TFXがタイヤの回転周期Tに等しい場合には、ついで、変動周期TFZ及びTFXのズレΔT(=TFX−TFZ)がタイヤの回転周期Tの1/4であるか否かの判断を行う(ステップS7)。ついで、ステップS8において、タイヤの前後荷重Fの変動量ΔFが予め求めておいた閾値Fよりも大きいと判断されると、タイヤが偏心していると判定する(ステップS9)。そして、タイヤが偏心している場合、当該タイヤの偏心をブザーやランプなどの警報手段によりドライバーに知らせる(ステップS10)。
【0028】
前記閾値Fは、車両の走行性や安全性を考慮して、タイヤの種類やサイズ毎に予め実験により求めることができる。また、複数の閾値を設定し、偏心の程度に応じてドライバーへの警報のレベルを変えることもできる。さらに、種々の車両速度で前記実験を行なうことにより、車両速度に応じて前記閾値の設定を変えることができる。高速走行では低速走行に比べてタイヤ偏心の影響が大きいことから、高速走行の場合は閾値を小さくして、より小さな偏心であっても早めにドラーバーに警報を発するようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の軸受装置の一実施の形態の軸方向断面説明図である。
【図2】タイヤの偏心の概念図である。
【図3】タイヤの垂直荷重及び前後荷重の検出例を示す図である。
【図4】タイヤの偏心を判定するフローチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 外輪
2 内軸
3 内輪部材
4 センサ装置
5 転動体
10 外側軌道面
41 超音波センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通され、且つ、タイヤ側に固定される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される転動体と、前記固定軌道輪側に配設されたセンサ装置と、を備えたセンサ付き転がり軸受装置であって、
前記センサ装置は、前記固定軌道輪の周方向において互いに直交する位置に配設され、それぞれが前記タイヤの接地荷重を検出することができる2つのセンサを少なくとも備えており、当該2つのセンサから得られる出力の周期に基づいて前記タイヤの偏心を検出するように構成されていることを特徴とするセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項2】
前記センサが超音波センサである請求項1に記載のセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項3】
前記2つのセンサが、タイヤの垂直方向荷重を検出するセンサ、及びタイヤの前後方向荷重を検出するセンサである請求項1〜2のいずれかに記載のセンサ付き転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−116241(P2008−116241A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297637(P2006−297637)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】