説明

センサ付き転がり軸受装置

【課題】超音波センサに異常がある場合に、例えば、駆動力制御や制動力制御等を停止して、制御システムの信頼性を向上することができるセンサ付き転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】センサ付き転がり軸受装置は、内周に軌道が形成された外輪と、外周に軌道が形成された内輪と、外輪及び内輪の各々の軌道と接触して転動する転動体とを備える転がり軸受1と、外輪の軌道と転動体との接触部分へ超音波を発信するとともに、接触部分における超音波の反射波を受信する超音波センサ2とを備える。さらに、センサ付き転がり軸受装置は、超音波センサ2が受信した反射波に基づいて、転がり軸受1に作用する荷重を検出する荷重検出部4と、超音波センサ2が受信した反射波に基づいて、超音波センサ2が故障しているか否かを判断する信号処理部3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、駆動力制御や制動力制御等を行うために、超音波センサを用いて荷重を検出するセンサ付き転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の制御システムにおいて、発進時や加速時に駆動輪をスピンさせないための駆動力制御や、コーナリング時の横滑りを抑制するための制動力制御等が行われている。このような制御システムにおいて有効に使用できる情報である転がり軸受に作用する荷重を検出するために、荷重を検出するセンサ付き転がり軸受装置を用いた制御システムが知られている。
【0003】
上述のセンサ付き転がり軸受装置として、例えば、転がり軸受と、超音波センサとを備え、超音波のエコー(反射波)に基づいて、転がり軸受に作用する荷重を検出することが知られている。より具体的には、転がり軸受は、軌道が形成された軌道輪である外輪及び内輪と、軌道と接触して転動する転動体とを備え、超音波センサは、外輪の軌道と転動体との接触部分へ超音波を発信するとともに、接触部分における超音波の反射波を受信する。この反射波の振幅を示す値(エコー強度)は、外輪の軌道と転動体とが接触している面積を表すため、転動体ひいては転がり軸受に作用する荷重を検出することができる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−177932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、超音波センサに何らかの異常がある場合に、転がり軸受に作用する荷重を正確に検出することができない。その結果、例えば、センサ付き転がり軸受装置を用いた制御システムにおいて、検出された荷重を使用して行われる駆動力制御や制動力制御等を適切に行うことができず、駆動力制御や制動力制御等が不適切に行われる場合があるという問題があった。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、超音波センサに異常がある場合に、例えば、駆動力制御や制動力制御等を停止して、制御システムの信頼性を向上することができるセンサ付き転がり軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、内周に軌道が形成された外輪と、外周に軌道が形成された内輪と、外輪及び内輪の各々の軌道と接触して転動する転動体とを備える転がり軸受と、外輪の軌道と転動体との接触部分へ超音波を発信するとともに、接触部分における超音波の反射波を受信する超音波センサと、超音波センサが受信した反射波に基づいて、転がり軸受に作用する荷重を検出する荷重検出部と、超音波センサが受信した反射波に基づいて、超音波センサが故障しているか否かを判断する故障判断部とを備えることを特徴とする。
【0007】
同構成によれば、センサ付き転がり軸受装置は、超音波センサが受信した反射波に基づいて、超音波センサが故障しているか否かを判断する故障判断部を備えるため、超音波センサが故障したことを検知することができる。従って、超音波センサの故障を検知して、例えば、転がり軸受に作用する荷重を用いて行われる駆動力制御や制動力制御等を停止することができる。その結果、例えば、故障している超音波センサを用いた駆動力制御や制動力制御等が行われないため、このセンサ付き転がり軸受装置を用いた制御システムの信頼性を向上することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のセンサ付き転がり軸受装置であって、超音波センサは、外輪の軌道と転動体との接触部分へ超音波を複数回発信するとともに接触部分における超音波の反射波を複数回受信し、故障判断部は、超音波センサが複数回受信した反射波に基づいて、超音波センサが故障しているか否かを判断することを特徴とする。
【0009】
同構成によれば、故障判断部は、超音波センサが複数回受信した反射波に基づいて、超音波センサが故障しているか否かを判断するため、外因等によって偶然、故障していない超音波センサが故障しているように動作した場合であっても、故障判断部は超音波センサが故障しているか否かを正確に判断することができる。従って、超音波センサの故障を正確に検知することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のセンサ付き転がり軸受装置であって、超音波センサを複数備え、故障判断部は、超音波センサが受信した反射波に基づいて、複数の超音波センサが故障しているか否かをそれぞれ判断し、荷重検出部は、複数の超音波センサのうち、故障判断部によって故障していないと判断された超音波センサが受信した反射波に基づいて、転がり軸受に作用する荷重を検出することを特徴とする。
【0011】
同構成によれば、荷重検出部は、複数の超音波センサのうち、故障判断部によって故障していないと判断された超音波センサが受信した反射波に基づいて、転がり軸受に作用する荷重を検出するため、超音波センサの故障を検知して、例えば、故障していない超音波センサを用いた駆動力制御や制動力制御等を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、超音波センサの故障を検知して、例えば、転がり軸受に作用する荷重を用いて行われる駆動力制御や制動力制御等を停止することができる。その結果、例えば、故障している超音波センサを用いた駆動力制御や制動力制御等が行われないため、このセンサ付き転がり軸受装置を用いた制御システムの信頼性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明に係る実施形態について、図1乃至図5を参照しながら説明する。なお、図中の矢印U及びSは、左右方向を示すとともに、矢印U,Sの各々は、車体側方向、車輪側方向を示している。また、図中の矢印X,Zの各々は、前後方向、上下方向を示している。
【0014】
本実施形態に係るセンサ付き転がり軸受装置(以下、単に「軸受装置」と言う場合がある。)は、自動車用のセンサ付きハブユニットとして使用されるものである。この軸受装置は、図1に示すように、転がり軸受1と、転がり軸受1に取り付けられた超音波センサ2と、超音波センサ2に接続された故障判断部としての信号処理部3と、信号処理部3に接続された荷重検出部4と、軸受装置の使用者(即ち、自動車のドライバー)へ所定の情報を報知する報知部5とを備えている。
【0015】
(転がり軸受の構成)
転がり軸受1は、図2に示すように、車体(不図示)に固定される固定側軌道輪である外輪11と、外輪11の内側において車輪(不図示)とともに回転する回転側軌道輪である内輪12と、外輪11と内輪12の間に設けられた複数の転動体である玉15,16とを備えている。なお、本実施形態においては、内輪12は、ハブ軸13と内輪部材14とから構成されている。
【0016】
外輪11は、その内周に2列(即ち、内列と外列)の軌道11u,11sが環状に形成されている円筒部11aと、円筒部11aの車体側に形成されるとともに、ボルト(不図示)を用いて車体に取り付けられるフランジ部11bとを有している。また、外輪11の円筒部11aには、超音波センサ2を取り付けることを目的として、めねじが切られためねじ部11cが形成されている。
【0017】
内輪12を構成するハブ軸13は、外輪11内に所定間隔を空けて設けられるとともに、外周に1列の軌道13sが環状に形成されている略円柱状の軸部13aと、軸部13aの車輪側外周に形成されるとともに、ボルト6を用いて車輪が取り付けられる円盤状のフランジ部13bとを有している。さらに、本実施形態においては、ハブ軸13は、軸部13aの車体側に形成されるとともに、おねじが切られたおねじ部13cを有している。
【0018】
内輪12を構成する内輪部材14は、環状に形成されるとともに、ハブ軸13と同様に、外輪11内に所定間隔を空けて設けられるとともに、外周に1列の軌道14uが環状に形成されている。この内輪部材14は、ハブ軸13の軸部13aの外周に嵌められるとともに、おねじ部13cに螺合されたナット7によって、ハブ軸13に固定されている。従って、内輪12(ハブ軸13と内輪部材14)は、車輪とともに回転する。
【0019】
複数の玉15は、外輪11と内輪部材14(内輪12)の間において、図3に示すように内輪部材14の円周方向に所定間隔を空けて設けられるとともに、外輪11に形成された軌道11uと内輪部材14に形成された軌道14uに接触している。従って、内輪12が回転することにより、玉15は、外輪11の軌道11uと内輪部材14の軌道14uにおいて円周方向に転道する。
【0020】
複数の玉16は、外輪11とハブ軸13(内輪12)の間において、図4に示すようにハブ軸13の軸部13aの円周方向に所定間隔を空けて設けられるとともに、外輪11に形成された軌道11sとハブ軸13に形成された軌道13sに接触している。従って、内輪12が回転することにより、玉16は、外輪11の軌道11sとハブ軸13の軌道13sにおいて円周方向に転道する。
【0021】
(超音波センサの構成)
超音波センサ2は、外周におねじが切られた筒状のケース2a内に振動子(超音波探触子)(不図示)が設けられたものであって、外輪11のめねじ部11cに振動子を含むケース2aを螺合することで、超音波センサ2が転がり軸受1に取り付けられている。また、めねじ部11cに螺合されたケース2aの回り止めを目的として、ケース2aにナット2bが螺合されている。
【0022】
以上のようにして転がり軸受1に固定されている各超音波センサ2は、振動子を励起して、軌道11uと玉15の接触部分または軌道11sと玉16の接触部分へ超音波を発信するとともに、接触部分における超音波の反射波であるエコーを受信する。そして、超音波センサ2によって受信されたエコーの振幅を示す値(以下、「エコー強度」という。)が、信号処理部3へ出力される。即ち、超音波センサ2は、軌道11uと玉15の接触部分(接触面)または軌道11sと玉16の接触部分(接触面)を被検査面としてエコー強度を検出するとともに、検出されたエコー強度を信号処理部3へ出力している。
【0023】
(信号処理部の構成)
信号処理部3は、超音波センサ2が受信したエコーに基づいて、超音波センサ2が故障しているか否かを判断するとともに、エコー強度を用いてエコー比を算出する。
【0024】
より具体的には、信号処理部3は、エコー強度が、所定値よりも小さいか否かを判断することによって、各超音波センサ2が故障しているか否かを判断する。例えば、超音波センサ2によって検出されたエコー強度が、接触部分へ発信した超音波の振幅を示す値の20%よりも小さければ、その超音波センサ2が故障していると判断する。即ち、超音波センサ2が検出したエコー強度が小さければ、外輪11の軌道(軌道11uまたは軌道11s)と転動体(玉15または玉16)の接触している面積が大きいことを示すが、エコー強度が20%よりも小さくなることは現実には起こりえない。従って、超音波センサ2によって検出されたエコー強度が、接触部分へ発信した超音波の振幅を示す値の20%よりも小さければ、その超音波センサ2が故障していると判断し、接触部分へ発信した超音波の振幅を示す値の20%以上であれば、その超音波センサ2は故障していないと判断する。そして、信号処理部3は、超音波センサ2が故障していると判断した場合、超音波センサ2が故障している旨の信号を、報知部5や、駆動力制御や制動力制御を行う制御システムの制御部(不図示)へ出力する。
【0025】
また、信号処理部3は、エコー強度に対して所定の処理を施すことにより、エコー比を算出する。例えば、信号処理部3は、エコー強度を増幅するとともに、増幅されたエコー強度に対して演算処理を行って、エコー比を算出する。エコー比(H)は、例えば、以下の数式(1)を演算することにより算出することができる。
[数1]
H=100×(H0−H1)/H0
ここで、上記数式(1)において、H0は、超音波センサ2が検出する最も大きいエコー強度であって、H1は、超音波センサ2が検出する最も小さいエコー強度である。即ち、超音波センサ2が検出するエコー強度は、軌道における転動体の位置によって異なり、H0は、超音波センサ2が超音波を発信する被検査面である接触部分において、外輪11の軌道と転動体が接触していない場合の、超音波センサ2が検出するエコー強度である。一方、H1は、超音波センサ2が超音波を発信する被検査面である接触部分において、外輪11の軌道と転動体が最も大きい面積で接触している場合の、超音波センサ2が検出するエコー強度である。そして、信号処理部3は、算出したエコー比を荷重検出部4へ出力する。
【0026】
以上のようにして各超音波センサ2が故障しているか否かを判断するとともに、エコー比を算出する信号処理部3は、算出したエコー比を荷重検出部4へ出力するとともに、超音波センサ2が故障していると判断した場合は、その旨の信号を報知部5へ出力する。
【0027】
(荷重検出部の構成)
荷重検出部4は、演算処理可能なECU(Electronic Control Unit)から構成され、超音波センサ2が受信したエコーに基づいて、転がり軸受1に作用する荷重を検出する。より具体的には、超音波センサ2を用いて信号処理部3によって算出されたエコー比に基づいて、転がり軸受1に作用する荷重を検出する。転がり軸受1に作用する前後方向、左右方向、および上下方向の荷重は、所定の連立方程式を解くことによって検出することができ、荷重検出部4は、例えば、少なくとも4つの超音波センサ2を用いて荷重を検出する。なお、本実施形態においては、転がり軸受1に作用する3方向(前後方向、左右方向、および上下方向)の荷重を検出するが、2方向(例えば、左右方向および上下方向)の荷重を検出してもよい。
【0028】
(報知部の構成)
報知部5は、自動車のドライバーへ所定の情報を報知するためのものであって、例えば、文字や絵を表示するモニターや、音声を再生するスピーカーから構成されている。報知部5は、信号処理部3から超音波センサ2が故障している旨の信号が入力された場合に、超音波センサ2の1つが故障している旨をモニターに表示するとともに、スピーカーから音を発生させて報知する。
【0029】
(センサ付き転がり軸受装置の動作)
次に、超音波センサ2が故障しているか否かを判断する際の、本実施形態に係る軸受装置の動作について、図5を参照しながら説明する。図5は、駆動力制御や制動力制御を行う制御システムの制御部によって転がり軸受1に作用する荷重の検出開始を指令する旨の信号が軸受装置へ入力された場合の、1つの超音波センサ2に係る軸受装置の動作である。即ち、以下の動作は1つの超音波センサ2に対して行われる軸受装置の動作である。
【0030】
まず、振動子を励起して、軌道11uと玉15の接触部分または軌道11sと玉16の接触部分へ超音波を1回発信するとともに、接触部分における超音波の反射波であるエコーを受信することにより、1つの超音波センサ2が、エコー強度を検出する(ステップS1)。次いで、信号処理部3が、ステップS1において検出されたエコー強度を所定値と比較することにより、超音波センサ2が故障しているか否かを判断する(ステップS2)。即ち、超音波センサ2が受信したエコーに基づいて、そのエコーの振幅を示す値(エコー強度)が、接触部分へ発信した超音波の振幅を示す値の20%よりも小さければ、その超音波センサ2が故障していると判断し、接触部分へ発信した超音波の振幅を示す値の20%以上であれば、その超音波センサ2は故障していないと判断する。
【0031】
次いで、ステップS2において超音波センサ2が故障していると判断された場合、信号処理部3が、超音波センサ2が故障している旨の信号を報知部5へ出力するとともに、報知部5が、超音波センサ2が故障している旨の情報を自動車のドライバーへ報知する(ステップS3)。さらに、信号処理部3が、超音波センサ2が故障している旨の信号を駆動力制御や制動力制御を行う制御システムの制御部(不図示)へ出力するとともに、制御部が、駆動力制御や制動力制御を停止する(ステップS4)。
【0032】
一方、ステップS2において、超音波センサ2が故障していないと判断された場合、信号処理部3が、エコー比を算出して荷重検出部4へ出力するとともに、荷重検出部4が、そのエコー比と、他の超音波センサ2を用いて信号処理部3によって算出されたエコー比に基づいて、転がり軸受1に作用する荷重を検出する(ステップS5)。そして、検出された荷重を用いて駆動力制御や制動力制御が行われる。なお、軸受装置の動作開始時(即ち、上記動作が、1つめ、または2つめの超音波センサ2に係る軸受装置の動作である場合)は、ステップS5において、転がり軸受1に作用する荷重を検出するためのエコー比(即ち、3元連立方程式を解くための3つのエコー比)が算出できていないため、転がり軸受1に作用する荷重は検出しない。
【0033】
以上のような軸受装置の動作が、各超音波センサ2に対して行われることにより、各超音波センサ2が故障しているか否か判断されるとともに、1つの超音波センサ2が故障していると判断されるまで、転がり軸受1に作用する荷重を検出して駆動力制御や制動力制御が行われる。
【0034】
ここで、本実施形態においては、上述のごとく、軸受装置が、超音波センサ2が受信したエコーに基づいて、超音波センサ2が故障しているか否かを判断する信号処理部3を備えることに特徴がある。より具体的には、信号処理部3は、超音波センサ2によって受信されたエコーの振幅を示す値(エコー強度)が、所定値(例えば、超音波センサ2によって発信された超音波の振幅を示す値の20%)よりも小さければ、超音波センサ2が故障していると判断する。一方、信号処理部3は、超音波センサ2によって受信されたエコーの振幅を示す値(エコー強度)が、所定値(例えば、超音波センサ2によって発信された超音波の振幅を示す値の20%)以上であれば、超音波センサ2が故障していないと判断する。このため、超音波センサ2の故障を検知して、転がり軸受1に作用する荷重を用いて行われる駆動力制御や制動力制御を停止することができる。
【0035】
上記実施形態のセンサ付き転がり軸受装置によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)軸受装置は、超音波センサ2が受信したエコーに基づいて、超音波センサ2が故障しているか否かを判断する信号処理部3を備えるため、超音波センサ2の故障を検知して、転がり軸受1に作用する荷重を用いて行われる駆動力制御や制動力制御を停止することができる。その結果、故障している超音波センサ2を用いた駆動力制御や制動力制御が行われないため、このセンサ付き転がり軸受装置を用いたシステムの信頼性を向上することができる。
【0036】
(2)軸受装置は、信号処理部3によって超音波センサ2が故障していると判断された場合、超音波センサ2が故障している旨を報知する報知部5を備える。このため、軸受装置の使用者である自動車のドライバーが、超音波センサ2が故障していることを知ることができる。
【0037】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の設計変更をすることが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。例えば、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0038】
・上記実施形態においては、超音波センサ2は超音波を1回発信するとともにエコーを1回受信して、その1回受信したエコーに基づいて、超音波センサ2が故障しているか否かを判断していたが、超音波を複数回発信するとともにエコーを複数回受信し、複数回受信したエコーに基づいて、超音波センサ2が故障しているか否かを判断してもよい。より具体的には、ステップS1において、超音波センサ2は超音波を複数回(例えば、10回)発信するとともに、接触部分における超音波の反射波であるエコーを10回受信することにより、1つの超音波センサ2が、10個のエコー強度を検出する。次いで、ステップS2において、信号処理部3が、ステップS1において検出された10個のエコー強度を所定値と比較することにより、超音波センサ2が故障しているか否かを判断する。この場合、故障判断部である信号処理部3は、超音波センサ2が10回受信したエコーに基づいて、10個のエコーの振幅を示す値(エコー強度)のうち、2個以上のエコー強度が、接触部分へ発信した超音波の振幅を示す値の20%よりも小さければ、その超音波センサ2が故障していると判断する。一方、信号処理部3は、10個のエコーの振幅を示す値(エコー強度)のうち、2個未満(即ち、0個または1個)のエコー強度が、接触部分へ発信した超音波の振幅を示す値の20%よりも小さければ、その超音波センサ2が故障していないと判断する。
【0039】
このような構成によれば、信号処理部3は、超音波センサ2が複数回受信したエコーに基づいて、超音波センサ2が故障しているか否かを判断するため、外因等によって偶然、故障していない超音波センサ2が故障しているように動作した場合であっても、信号処理部3は超音波センサ2が故障しているか否かを正確に判断することができる。従って、超音波センサ2の故障を正確に検知することができる。
【0040】
・また、上記実施形態においては、1つの超音波センサ2が故障していると判断された場合、ステップS4において、制御部が駆動力制御や制動力制御を停止していたが、故障していない超音波センサ2を用いて転がり軸受1に作用する荷重を検出することによって、駆動力制御や制動力制御を行ってもよい。より具体的には、超音波センサ2は8つであって、この8つのうち少なくとも4つが故障していなければ転がり軸受1に作用する3方向の荷重を検出することができる。そこで、信号処理部3は、超音波センサ2が受信したエコーに基づいて、8つの超音波センサ2が故障しているか否かをそれぞれ判断して、荷重検出部4は、8つの超音波センサ2のうち、信号処理部3によって故障していないと判断された少なくとも4つの超音波センサ2が受信した反射波に基づいて、転がり軸受1に作用する荷重を検出してもよい。この場合の、超音波センサ2が故障しているか否かを判断する際の、軸受装置の動作について、図6を参照しながら説明する。
【0041】
まず、ステップS1と同様に、1つの超音波センサ2が、エコー強度を検出する(ステップS11)。次いで、ステップS2と同様に、信号処理部3が、ステップS11において検出されたエコー強度を所定値と比較することにより、超音波センサ2が故障しているか否かを判断する(ステップS12)。
【0042】
次いで、ステップS12において超音波センサ2が故障していると判断された場合、ステップS3と同様に、超音波センサ2が故障している旨の情報を自動車のドライバーへ報知する(ステップS13)。そして、超音波センサ2の1つが故障していると判断された場合であっても、正常に転がり軸受1に作用する荷重を検出できるか否かを判断する(ステップS14)。この場合、8つの超音波センサ2のうち少なくとも4つの超音波センサ2が、信号処理部3によって故障していない(即ち、正常に動作している)と判断されていれば、正常に転がり軸受1に作用する荷重を検出できると判断する。一方、8つの超音波センサ2のうち5つ以上の超音波センサ2が、信号処理部3によって故障していると判断されていれば、正常に転がり軸受1に作用する荷重を検出できないと判断する。次いで、ステップS14において正常に転がり軸受1に作用する荷重を検出できないと判断された場合、ステップS4と同様に、信号処理部3が、超音波センサ2が故障している旨の信号を制御システムの制御部へ出力するとともに、制御部が、駆動力制御や制動力制御を停止する(ステップS15)。
【0043】
一方、ステップS12において超音波センサ2が故障していないと判断された場合、または、ステップS14において正常に転がり軸受1に作用する荷重を検出できると判断された場合、ステップS5と同様に、信号処理部3がエコー比を荷重検出部4へ出力するとともに、荷重検出部4が転がり軸受1に作用する荷重を検出する(ステップS16)。そして、検出された荷重を用いて駆動力制御や制動力制御が行われる。
【0044】
このような構成によれば、荷重検出部4は、8つの超音波センサ2のうち、信号処理部3によって故障していないと判断された超音波センサ2が受信したエコーに基づいて、転がり軸受1に作用する荷重を検出するため、超音波センサ2の故障を検知して、故障していない超音波センサ2を用いた駆動力制御や制動力制御を行うことができる。
【0045】
・上記実施形態においては、おねじ部13cに螺合されるナット7を用いて、内輪部材14をハブ軸13に固定したが、おねじ部13cを形成せずに(即ち、ナット7を用いずに)、ハブ軸13の軸部13aの車体側端部を塑性変形させて、内輪部材14をハブ軸13に固定してもよい。
【0046】
・上記実施形態においては、軸受装置は8つの超音波センサ2(図3に示す軌道11uと玉15の接触部分へ超音波を発信する4つの超音波センサ2と、図4に示す軌道11sと玉16の接触部分へ超音波を発信する4つの超音波センサ2)を備えているが、これらの超音波センサ2の個数や配置は適宜変更してもよい。また、超音波センサ2と外輪11の間に、超音波センサ2の先端部を保護するゴム製のクッションシートや、めねじ部11cへの水の浸入を防止する環状のシール部材を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係るセンサ付き転がり軸受装置を示すブロック図。
【図2】転がり軸受と超音波センサを説明するための概略構成図。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4】図2のB−B断面図。
【図5】本発明の実施形態に係るセンサ付き転がり軸受装置の動作を示すフローチャート。
【図6】本発明の実施形態に係るセンサ付き転がり軸受装置の動作の別例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0048】
1…転がり軸受、11…外輪、11u,11s…軌道、12…内輪、13…ハブ軸、13s…軌道、14…内輪部材、14u…軌道、15,16…玉(転動体)、2…超音波センサ、3…信号処理部(故障判断部)、4…荷重検出部、5…報知部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に軌道が形成された外輪と、外周に軌道が形成された内輪と、前記外輪及び内輪の各々の軌道と接触して転動する転動体とを備える転がり軸受と、
前記外輪の軌道と前記転動体との接触部分へ超音波を発信するとともに、前記接触部分における前記超音波の反射波を受信する超音波センサと、
前記超音波センサが受信した前記反射波に基づいて、前記転がり軸受に作用する荷重を検出する荷重検出部と、
前記超音波センサが受信した前記反射波に基づいて、前記超音波センサが故障しているか否かを判断する故障判断部と
を備えることを特徴とするセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項2】
前記超音波センサは、前記外輪の軌道と前記転動体との前記接触部分へ前記超音波を複数回発信するとともに前記接触部分における前記超音波の前記反射波を複数回受信し、
前記故障判断部は、前記超音波センサが複数回受信した前記反射波に基づいて、前記超音波センサが故障しているか否かを判断する
ことを特徴とする請求項1に記載のセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項3】
前記超音波センサを複数備え、
前記故障判断部は、前記超音波センサが受信した前記反射波に基づいて、複数の前記超音波センサが故障しているか否かをそれぞれ判断し、
前記荷重検出部は、複数の前記超音波センサのうち、前記故障判断部によって故障していないと判断された前記超音波センサが受信した前記反射波に基づいて、前記転がり軸受に作用する荷重を検出する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセンサ付き転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−52668(P2009−52668A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220052(P2007−220052)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】