説明

センターベアリングサポート

【課題】ダストシールを潤滑する潤滑用グリスを自己補給する機能を備え、しかも低温のグリスを補給することができ、もってグリスが早期に枯渇するのを抑制することができるセンターベアリングサポートを提供する。
【解決手段】ベロー部を備えるゴム状弾性体の内周側にベアリング保持環を設け、前記ベアリング保持環の内周側であって前記ベアリング保持環が保持するベアリングの前方にダストシールを設け、前記ベアリングおよびダストシール間の空間に潤滑用グリスを充填する。前記ベアリングおよびダストシール間の空間へ潤滑用グリスを補給すべく補給グリスを貯留する補給グリス貯留空間を設ける。前記補給グリス貯留空間は、前記ベアリング保持環または/および前記ベアリング保持環に組み付けられる環体によって、前記ダストシールの外周側であって前記ベアリングの前方に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等においてプロペラシャフトを回転自在にかつ弾性的に支持するセンターベアリングサポートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から図5に示すように、ベロー部51aを備えるゴム状弾性体51の内周側にベアリング保持環52を設け、このベアリング保持環52の内周側であってこのベアリング保持環52が保持するベアリング53の前方(車両フロント側すなわち車両前進走行方向の側)にダストシール54を設け、ベアリング53およびダストシール54間の空間55に潤滑用グリスGを充填する構成としたセンターベアリングサポートが知られている。ダストシール54は、ダストや泥水等の外部異物がベアリング53のほうへ侵入するのを抑制する(特許文献1参照)。
【0003】
上記構成のセンターベアリングサポートにおいて、シャフト56およびダストシール54間の摺動部にダスト等が噛み込んだ状態でシャフト56が回転すると異常発熱することがあり、その熱で内部のグリスGが熱膨張し、外部へ吐き出されることで、内部のグリスGが早期に枯渇し、潤滑性の低下や異音の発生などに結び付く要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−55925号公報(図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上の点に鑑みて、ダストシールを潤滑する潤滑用グリスを自己補給する機能を備え、しかも低温のグリスを補給することができ、もってグリスが早期に枯渇するのを抑制することができるセンターベアリングサポートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるセンターベアリングサポートは、ベロー部を備えるゴム状弾性体の内周側にベアリング保持環を設け、前記ベアリング保持環の内周側であって前記ベアリング保持環が保持するベアリングの前方にダストシールを設け、前記ベアリングおよびダストシール間の空間に潤滑用グリスを充填するセンターベアリングサポートにおいて、前記ベアリングおよびダストシール間の空間へ潤滑用グリスを補給すべく補給グリスを貯留する補給グリス貯留空間を設け、前記補給グリス貯留空間は、前記ベアリング保持環または/および前記ベアリング保持環に組み付けられる環体によって、前記ダストシールの外周側であって前記ベアリングの前方に設けられていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2によるセンターベアリングサポートは、上記した請求項1記載のセンターベアリングサポートにおいて、前記補給グリス貯留空間に貯留する補給グリスを、車両走行時に発生する風により空冷することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3によるセンターベアリングサポートは、上記した請求項1または2記載のセンターベアリングサポートにおいて、前記ベアリング保持環または前記環体は、前記ダストシールを嵌合保持する筒状部または円筒部を有し、前記筒状部または円筒部の外周側に前記補給グリス貯留空間を有し、前記筒状部または円筒部には、前記補給グリス貯留空間から前記ベアリングおよびダストシール間の空間へグリスを供給するためのグリス供給口が設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項4によるセンターベアリングサポートは、上記した請求項3記載のセンターベアリングサポートにおいて、前記筒状部または円筒部は、これに前記ベアリングが突き当てられることにより、前記ベアリング保持環に対する前記ベアリングの軸方向位置決め手段を兼ねることを特徴とする。
【0010】
更にまた、本発明の請求項5によるセンターベアリングサポートは、上記した請求項1ないし4の何れかに記載のセンターベアリングサポートにおいて、前記補給グリス貯留空間には、当該空間内で移動して前記補給グリスを流動させやすくするための駒体が挿入されていることを特徴とする。
【0011】
上記構成を備える本発明のセンターベアリングサポートにおいては、ベアリングおよびダストシール間の空間(以下、「グリス溜まり」とも称する)へ潤滑用グリスを補給すべく補給グリスを貯留する補給グリス貯留空間(以下、単に「貯留空間」とも称する)が設けられているために、グリス溜まりに存在するグリスの量が減少すると、貯留空間からグリス溜まりへグリスを補給することが可能とされている。
【0012】
また、貯留空間がダストシールの外周側であってベアリングの前方に設けられているために、この貯留空間は車両走行時に発生する風に当たる位置に設けられている。したがって、貯留空間に貯留する補給グリスを車両走行時に発生する風によって空冷することが可能とされており、これによりダストシール近辺が摺動発熱していても低温状態のグリスを補給することができる。
【0013】
ダストシールの外周側であってベアリングの前方に貯留空間を設けるためにはベアリング保持環を利用することが考えられ、すなわちベアリング保持環を適宜折り曲げ加工することにより貯留空間を形成する。またベアリング保持環に別体の環体を組み付けて、この環体によりあるいはこの環体とベアリング保持環との組み合わせにより貯留空間を形成するようにしても良く、何れの場合にもベアリング保持環または環体に車両走行時の風が当たることにより、内部に貯留したグリスが空冷される。
【0014】
また、この場合、ベアリング保持環または環体は、その内周側にダストシールを嵌合保持する筒状部または円筒部を有することになり、この筒状部または円筒部の外周側に貯留空間が形成される。また筒状部または円筒部には、貯留空間からグリス溜まりへグリスを供給するためのグリス供給口が設けられ、この供給口を経由してグリスが供給される。
【0015】
筒状部または円筒部は、これにベアリングを突き当てることにより、ベアリング保持環に対するベアリングの軸方向位置決め手段を兼ねることができ、この場合には、ベアリング保持環にベアリング軸方向位置決め用の段差部を設ける必要がなくなる。またこの場合、筒状部または円筒部は、(1)ダストシールを保持する、(2)貯留空間を形成する、(3)ベアリングを位置決めする、と云った多彩な機能を発揮することになる。
【0016】
貯留空間からグリス溜まりへグリスを円滑に供給する手段を講じる必要がある場合には、圧力差や表面張力を利用したり、あるいはグリスが垂れてゆくように貯留空間の内面に傾斜を付けたりすることが考えられるが、このほか、貯留空間内に、当該空間内で移動してグリスを流動させやすくする駒体を挿入することが考えられる。この場合、駒体は、車両加速時・減速時の慣性や車両走行時の振動などによって空間内で移動することにより、グリスを掻き出したり押し出したりする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0018】
すなわち、本発明においては上記したように、グリス溜まりへ潤滑用グリスを補給すべく貯留空間が設けられているため、グリス溜まりに存在するグリスの量が減少すると、貯留空間からグリス溜まりへグリスが補給される。また貯留空間がダストシールの外周側であってベアリングの前方に設けられているため、貯留空間は車両走行時に発生する風に当たる位置に設けられている。したがって貯留空間に貯留する補給グリスを車両走行時に発生する風によって空冷することが可能とされており、これによりダストシール近辺が摺動発熱していても低温状態のグリスが補給される。したがって、本発明所期の目的どおり、ダストシールを潤滑する潤滑用グリスを自己補給する機能を備え、しかも低温のグリスを補給することができ、もってグリスが早期に枯渇するのを抑制することができるセンターベアリングサポートを提供することができる。
【0019】
また、ベアリング保持環または環体の筒状部または円筒部がベアリング保持環に対するベアリングの軸方向位置決め手段を兼ねる場合には、ベアリング保持環にベアリング位置決め用の段差部を設ける必要がなくなり、よってこの分、ベアリング保持環の形状を簡素化することができる。
【0020】
また、貯留空間内に駒体を挿入する場合には、グリスが流動しやすくなり、よって貯留空間からグリス溜まりへのグリスの供給を円滑化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施例に係るセンターベアリングサポートの半裁断面図
【図2】本発明の第二実施例に係るセンターベアリングサポートの半裁断面図
【図3】本発明の第三実施例に係るセンターベアリングサポートの半裁断面図
【図4】本発明の第四実施例に係るセンターベアリングサポートの半裁断面図
【図5】従来例に係るセンターベアリングサポートの半裁断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)本発明は、駆動系回転軸のシール部などに用いられるセンターベアリングサポートに関する。
(2)従来、駆動軸とオイルシールの間(潤滑部)にダストなどが噛み込んだままで駆動軸が回転すると異常発熱することがある。その熱で内部のグリス(潤滑油)が熱膨張し、外部へ吐き出されることで、内部のグリスが早期に枯渇し、潤滑性の低下、異音の発生などに結び付く要因となっている。
【0023】
(3)そこで、本発明では、以下の構成を採用する。
(3−1)オイルシール近傍に位置するグリス溜まりと繋がっているグリス溜まり(貯蔵部)を持ち、貯蔵部にあたる部分は走行時の風で空冷される構造。
(3−2)すなわち、オイルシール近傍に位置するグリス溜まりに加え、内環のフロント側にもグリス溜まり(貯蔵部)を設置する。
(3−3)貯蔵部はオイルシール近傍のグリス溜まりと繋がっている。
(3−4)貯蔵部は内環のフロント側、走行時に風が当たる部分に設置されており、空冷される。
(3−5)貯蔵部は、内環によって形成しても良く、また内環と別体の部品(別部品)によって形成しても良い。貯蔵部を別部品で形成する場合、別部品を内環の内周側に組み合わせ、内環に穴を設けて連通路を形成する。または別部品を内環の外周側に組み合わせ、打ち抜きの穴同士で連通路を形成する。別部品の材質としては、対グリス性、耐熱性、およびベアリング押さえとして機能する場合の強度などを考慮すると、内環と同じで、すなわち金属(SPCC等)の板材とするのが良い。
【0024】
(4)上記構成によれば、貯蔵部は走行時に空冷され、潤滑部での異常発熱が起こった際も、オイルシール近傍のグリス溜まりより受ける温度は低いため、流れ出る量は少なくて済み、早期の枯渇を免れる。
(5)また、比較例として貯蔵部をベアリング近傍に設けた場合には、すべてのグリスが回転体近傍に存在するため、異常発熱時は熱膨張が大きく、グリスが外へ吹き出しやすいが、本案では、貯蔵部が空冷されるため、異常発熱時、空冷されたグリスが残りやすい。
【0025】
(6)以下、補足として。
(6−1)外部異物がオイルシールのほうへ侵入しにくくするためには、オーバーハング(内環前縁)を延ばす、内環フロント側にゴムを廻し円周上の突起を設ける、内環にフロント側へ突起形状を設定する、オイルシール前段に別部品がせり出す形状にする、等が考えられる。
(6−2)貯蔵部内のグリスを円滑供給するためには、グリスが垂れていくように傾斜を付けると良い。また、以下の対策も考えられる。
(6−3)すなわち、構造上、貯蔵部のグリスがオイルシールへ自然と流れない場合には金属環を設定する。この金属環は、断面が円形または四角に面取りもしくはアールを施した形状で、貯蔵部を前後へスライドする構造となっている。車の加速時・減速時に金属環がスライドし、貯蔵部にあるグリスをオイルシール側へ掻き出す。
【実施例】
【0026】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0027】
第一実施例・・・
図1は、本発明の第一実施例に係るセンターベアリングサポート1の断面を示している。当該実施例に係るセンターベアリングサポート1は自動車等車両においてプロペラシャフト10を回転自在にかつ弾性的に支持するものであって、以下のように構成されている。
【0028】
すなわち先ず、当該センターベアリングサポート1を車体(図示せず)側に連結するための外環2が設けられており、この外環2の内周側にベロー部3aを備えるゴム状弾性体3を介して内環4が連結され、内環4の内周側にベアリング5が嵌合されるとともにベアリング5の後方(車両リア側すなわち車両後進走行方向の側、図では右方)に位置してベアリング押え環6が嵌合されている。内環4およびベアリング押え環6はこの両者4,6によってベアリング5を保持するベアリング保持環7を形成している。また内環4の内周側であってベアリング5の前方(車両フロント側すなわち車両前進走行方向の側、図では左方)に、ダストや泥水等の外部異物がベアリング5のほうへ侵入するのを抑制するダストシール(オイルシール)8が嵌合されており、ベアリング5およびダストシール8間の空間(グリス溜まり)9に潤滑用グリス(潤滑油ないし潤滑剤)Gが充填されている。ダストシール8は、シャフト10対し摺動自在に密接するシールリップを備える接触式のシールであって、このシャフト10およびダストシール8間の摺動部を潤滑するためにグリスGが充填されている。尚、外環2、内環4およびベアリング押え環6はそれぞれ、金属(SPCC等)の板材によって成形されている。
【0029】
また、グリス溜まり9へ潤滑用グリスを補給すべく補給グリスG’を貯留するための補給グリス貯留空間(貯留空間)11が設けられており、当該実施例ではこの貯留空間11が、ベアリング保持環7を構成する内環4によって、ダストシール8の外周側であってベアリング5の前方に設けられている。
【0030】
このため、内環4は以下の形状とされている。
【0031】
すなわち、ベアリング5の外周側に位置してベアリング5を嵌合保持する第一筒状部4aが設けられ、この第一筒状部4aの前端から前方へ向けて、そのままの径で延長部としての第二筒状部4bが一体成形されている。またこの第二筒状部4bの前端から径方向内方へ向けて端面部4cが一体成形され、端面部4cの内周端部から後方へ向けて第三筒状部4dが一体成形され、この第三筒状部4dの内周側にダストシール8が嵌合されている。第三筒状部4dの後端は径方向外方へ向けて折り曲げられるとともにベアリング5の外輪に当接している。また第一筒状部4aの後端に環状の段差部4eを介して比較的大径の第四筒状部4fが一体成形され、この第四筒状部4fの内周側にベアリング押え環6が嵌合されている。
【0032】
そして、この内環4に対しベアリング5を組み付けるに際しては、内環4の後方からベアリング5を挿入してベアリング5の外輪を第三筒状部4dの後端に突き当て、これにより内環4に対しベアリング5を軸方向に位置決めする。次いで、同じく内環4の後方からベアリング押え環6を挿入してこのベアリング押え環6をベアリング5の外輪に突き当て、以上により第三筒状部4dとベアリング押え環6との間にベアリング5の外輪を挟み込むことによってベアリング5を保持する。
【0033】
また、以上により、内環4の第二筒状部4b、端面部4cおよび第三筒状部4dならびにベアリング5の外輪によって囲まれる空間が形成されるので、この空間が貯留空間11とされ、この貯留空間11内に補給グリスG’が貯留されている。
【0034】
また、ダストシール8を嵌合した第三筒状部4dには、これを厚み方向に貫通する貫通穴がダストシール8の後方に位置して設けられ、この貫通穴が、貯留空間11からグリス溜まり9へグリスを供給するためのグリス供給口12とされている。
【0035】
上記構成を備えるセンターベアリングサポート1は、以上の構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0036】
すなわち、上記構成のセンターベアリングサポート1においては、グリス溜まり9へ潤滑用グリスを補給すべく補給グリスG’を貯留するための貯留空間11が設けられており、グリス溜まり9に存在するグリスGの量が減少するのに伴って、貯留空間11からグリス溜まり9へグリスG’を補給することが可能とされている。
【0037】
また、貯留空間11がダストシール8の外周側であってベアリング5の前方に設けられているために、この貯留空間11は車両走行時に発生する風wに直接当たる位置に設けられている。したがって貯留空間11に貯留する補給グリスG’を車両走行時に発生する風wによって空冷することが可能とされており、これによりダストシール8近辺が摺動発熱していても低温状態のグリスG’を補給することができ、低温状態のグリスG’は熱膨張しにくいものである。貯留空間11を囲む内環4の第二筒状部4b、端面部4cおよび第三筒状部4dはゴム状弾性体3に被覆されておらず、またこれらの材質は金属であるため、これらに風wが当たるとグリスG’は十分に冷却される。
【0038】
したがって以上により、本発明所期の目的どおり、ダストシール8を潤滑する潤滑用グリスを自己補給する機能を備え、しかも空冷されて低温のグリスを補給することができ、もってグリスが早期に枯渇するのを抑制することができる。
【0039】
また、ベアリング押え環6とともにベアリング保持環7を構成する内環4における第三筒状部4dが、この内環4ひいてはベアリング保持環7に対するベアリング5の軸方向位置決め手段を兼ねているために、内環4ひいてはベアリング保持環7に別途、ベアリング位置決め用の段差部(この段差部は第一筒状部4aと第二筒状部4bの間に設けられる。図3における符号4gの段差部、または図5における符号52aの段差部を参照されたい)を設ける必要がない。したがってこの段差部が省略される分、内環4ひいてはベアリング保持環7の形状を簡素化することができる。簡素化されるのはゴム状弾性体3を加硫接着する部位の近辺のため、加硫型の構造を簡素化することも可能となる。
【0040】
第二実施例・・・
図2は、本発明の第二実施例に係るセンターベアリングサポート1の断面を示している。当該実施例に係るセンターベアリングサポート1においては、貯留空間11が、内環4とこの内環4の内周側に組み付けられた別体の環体15とによって形成されている。
【0041】
このため、内環4は以下の形状とされている。
【0042】
すなわち、ベアリング5の外周側に位置してベアリング5を嵌合保持する第一筒状部4aが設けられ、この第一筒状部4aの前端から前方へ向けて、そのままの径で延長部としての第二筒状部4bが一体成形され、この第二筒状部4bの内周側に別体の環体15が嵌合されている。第二筒状部4bの前端は径方向内方へ向けて折り曲げられている(オーバーハング)。また第一筒状部4aの後端に環状の段差部4eを介して比較的大径の第三筒状部4fが一体成形され、この第三筒状部4fの内周側にベアリング押え環6が嵌合されている。
【0043】
一方、環体15は、以下の形状とされている。
【0044】
すなわち、内環4の第二筒状部4bの内周側に位置してこの第二筒状部4bに嵌合される第一円筒部15aが設けられ、この第一円筒部15aの前端から径方向内方へ向けて端面部15bが一体成形され、端面部15bの内周端部から後方へ向けて第二円筒部15cが一体成形され、この第二円筒部15cの内周側にダストシール8が嵌合されている。第二円筒部15cの後端は径方向外方へ向けて折り曲げられるとともにベアリング5の外輪に当接している。尚、この環体15はこれも金属(SPCC等)の板材によって成形されている。
【0045】
そして、内環4に対し環体15およびベアリング5を組み付けるに際しては、内環4の後方から環体15を挿入してこの環体15を内環4の第二筒状部4bの前端折り曲げ片に突き当て、これにより先ず内環4に対し環体15を軸方向に位置決めする。次いで、同じく内環4の後方からベアリング5を挿入してベアリング5の外輪を環体15の第二円筒部15cの後端に突き当て、これにより内環4に対しベアリング5を軸方向に位置決めする。次いで、同じく内環4の後方からベアリング押え環6を挿入してこのベアリング押え環6をベアリング5の外輪に突き当て、以上により環体15の第二円筒部15cとベアリング押え環6との間にベアリング5の外輪を挟み込むことによってベアリング5を保持する。
【0046】
また、以上により、内環4の第二筒状部4b、環体15の第一円筒部15a、端面部15bおよび第二円筒部15cならびにベアリング5の外輪によって囲まれる空間が形成されるので、この空間が貯留空間11とされ、この貯留空間11内に補給グリスG’が貯留されている。
【0047】
また、ダストシール8を嵌合した環体15の第二円筒部15cには、これを厚み方向に貫通する貫通穴がダストシール8の後方に位置して設けられ、この貫通穴が、貯留空間11からグリス溜まり9へグリスを供給するためのグリス供給口12とされている。
【0048】
上記構成を備えるセンターベアリングサポート1は、以上の構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0049】
すなわち、上記構成のセンターベアリングサポート1においては、グリス溜まり9へ潤滑用グリスを補給すべく補給グリスG’を貯留するための貯留空間11が設けられており、グリス溜まり9に存在するグリスGの量が減少するのに伴って、貯留空間11からグリス溜まり9へグリスG’を補給することが可能とされている。
【0050】
また、貯留空間11がダストシール8の外周側であってベアリング5の前方に設けられているために、この貯留空間11は車両走行時に発生する風wに直接当たる位置に設けられている。したがって貯留空間11に貯留する補給グリスG’を車両走行時に発生する風wによって空冷することが可能とされており、これによりダストシール8近辺が摺動発熱していても低温状態のグリスG’を補給することができ、低温状態のグリスG’は熱膨張しにくいものである。貯留空間11を囲む内環4の第二筒状部4bおよび環体15はゴム状弾性体3に被覆されておらず、またこれらの材質は金属であるため、これらに風wが当たるとグリスG’は十分に冷却される。
【0051】
したがって以上により、本発明所期の目的どおり、ダストシール8を潤滑する潤滑用グリスを自己補給する機能を備え、しかも空冷されて低温のグリスを補給することができ、もってグリスが早期に枯渇するのを抑制することができる。
【0052】
また、ベアリング押え環6とともにベアリング保持環7を構成する内環4に嵌合された環体15の第二円筒部15cが、内環4ひいてはベアリング保持環7に対するベアリング5の軸方向位置決め手段を兼ねているために、内環4ひいてはベアリング保持環7に別途、ベアリング位置決め用の段差部(この段差部は内環4の第一筒状部4aと第二筒状部4bの間に設けられる。図3における符号4gの段差部、または図5における符号52aの段差部を参照されたい)を設ける必要がない。したがってこの段差部が省略される分、内環4ひいてはベアリング保持環7の形状を簡素化することができる。簡素化されるのはゴム状弾性体3を加硫接着する部位の近辺のため、加硫型の構造を簡素化することも可能となる。
【0053】
尚、この第二実施例におけるその他の構成は、上記第一実施例と同じであるため、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0054】
第三実施例・・・
図3は、本発明の第三実施例に係るセンターベアリングサポート1の断面を示している。当該実施例に係るセンターベアリングサポート1においては、貯留空間11が、内環4とこの内環4の外周側に組み付けられた別体の環体16によって形成されている。
【0055】
このため、内環4は以下の形状とされている。
【0056】
すなわち、ベアリング5の外周側に位置してベアリング5を嵌合保持する第一筒状部4aが設けられ、この第一筒状部4aの前端に環状の段差部4gを介して比較的小径の第二筒状部4bが一体成形され、この第二筒状部4bの外周側に別体の環体16が嵌合されている。第二筒状部4bの前端は径方向内方へ向けて折り曲げられている(オーバーハング)。また第一筒状部4aの後端に環状の段差部4eを介して比較的大径の第三筒状部4fが一体成形され、この第三筒状部4fの内周側にベアリング押え環6が嵌合されている。
【0057】
一方、環体16は、以下の形状とされている。
【0058】
すなわち、内環4の第二筒状部4bの外周側に位置してこの第二筒状部4bに嵌合される第一円筒部16aが設けられ、この第一円筒部16aの前端から径方向外方へ向けて端面部16bが一体成形され、端面部16bの外周端部から後方へ向けて第二円筒部16cが一体成形され、この第二円筒部16cの後端は径方向内方へ向けて折り曲げられるとともに内環4の段差部4gに当接している。尚、この環体16はこれも金属(SPCC等)の板材によって成形されている。
【0059】
以上により、内環4の段差部4g、環体16の第一円筒部16a、端面部16bおよび第二円筒部16cによって囲まれる空間が形成されるので、この空間が貯留空間11とされ、この貯留空間11内に補給グリスG’が貯留されている。
【0060】
また、ダストシール8を嵌合した内環4の第二筒状部4bおよびその外周側に嵌合された環体16の第一円筒部16aには、これらを厚み方向に貫通する貫通穴がダストシール8の後方に位置して設けられ、この貫通穴が、貯留空間11からグリス溜まり9へグリスを供給するためのグリス供給口12とされている。
【0061】
上記構成を備えるセンターベアリングサポート1は、以上の構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0062】
すなわち、上記構成のセンターベアリングサポート1においては、グリス溜まり9へ潤滑用グリスを補給すべく補給グリスG’を貯留するための貯留空間11が設けられており、グリス溜まり9に存在するグリスGの量が減少するのに伴って、貯留空間11からグリス溜まり9へグリスG’を補給することが可能とされている。
【0063】
また、貯留空間11がダストシール8の外周側であってベアリング5の前方に設けられているために、この貯留空間11は車両走行時に発生する風wに直接当たる位置に設けられている。したがって貯留空間11に貯留する補給グリスG’を車両走行時に発生する風wによって空冷することが可能とされており、これによりダストシール8近辺が摺動発熱していても低温状態のグリスG’を補給することができ、低温状態のグリスG’は熱膨張しにくいものである。貯留空間11を囲む内環4の段差部4gおよび環体16はゴム状弾性体3に被覆されておらず、またこれらの材質は金属であるため、これらに風wが当たるとグリスG’は十分に冷却される。
【0064】
したがって以上により、本発明所期の目的どおり、ダストシール8を潤滑する潤滑用グリスを自己補給する機能を備え、しかも空冷されて低温のグリスを補給することができ、もってグリスが早期に枯渇するのを抑制することができる。
【0065】
尚、この第三実施例においては、ベアリング5の外輪が内環4の段差部4gに突き当てられることにより内環4ひいてはベアリング保持環7に対しベアリング5が軸方向に位置決めされる。
【0066】
また、この第三実施例におけるその他の構成は、上記第一実施例と同じであるため、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0067】
第四実施例・・・
上記各実施例において、貯留空間11からグリス溜まり9へグリスを円滑に供給する手段を講じる必要があるときには、圧力差や表面張力を利用したり、あるいはグリスが垂れてゆくように貯留空間11の内面に傾斜を付けたりすることが考えられるが、このほか、貯留空間11内に、当該空間11内で移動してグリスG’を流動させやすくする駒体を挿入することが考えられる。駒体は車両の加速時または減速時の慣性や車両走行時の振動などによって貯留空間11内で移動するもので、移動時にグリスG’を掻き出したり押し出したりする。
【0068】
この点につき、図4に示すセンターベアリングサポート1においては、上記第一実施例に係る構成の貯留空間11の内部に駒体(移動体)17が挿入されており、駒体17は金属製のリング(金属環)によって構成され、この駒体17が車両の加速時または減速時の慣性や車両走行時の振動などによって貯留空間11内で移動することにより、グリスG’を掻き出したり押し出したりする。したがってグリスG’が流動しやすくなり、貯留空間11からグリス溜まり9へのグリスG’の供給を円滑化することができる。
【0069】
尚、この例では、第一実施例に係る構成の貯留空間11の内部に駒体17を挿入したが、第二実施例に係る構成の貯留空間11の内部または第三実施例に係る構成の貯留空間11の内部に駒体17を挿入するようにしても良い。
【符号の説明】
【0070】
1 センターベアリングサポート
2 外環
3 ゴム状弾性体
3a ベロー部
4 内環
4a,4b,4d,4f 筒状部
4c,15b,16b 端面部
4e,4g 段差部
5 ベアリング
6 ベアリング押え環
7 ベアリング保持環
8 ダストシール
9 空間(グリス溜まり)
10 シャフト
11 補給グリス貯留空間(貯留空間)
12 グリス供給口
15,16 環体
15a,15c,16a,16c 円筒部
17 駒体
G,G’ グリス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベロー部を備えるゴム状弾性体の内周側にベアリング保持環を設け、前記ベアリング保持環の内周側であって前記ベアリング保持環が保持するベアリングの前方にダストシールを設け、前記ベアリングおよびダストシール間の空間に潤滑用グリスを充填するセンターベアリングサポートにおいて、
前記ベアリングおよびダストシール間の空間へ潤滑用グリスを補給すべく補給グリスを貯留する補給グリス貯留空間を設け、
前記補給グリス貯留空間は、前記ベアリング保持環または/および前記ベアリング保持環に組み付けられる環体によって、前記ダストシールの外周側であって前記ベアリングの前方に設けられていることを特徴とするセンターベアリングサポート。
【請求項2】
請求項1記載のセンターベアリングサポートにおいて、
前記補給グリス貯留空間に貯留する補給グリスを、車両走行時に発生する風により空冷することを特徴とするセンターベアリングサポート。
【請求項3】
請求項1または2記載のセンターベアリングサポートにおいて、
前記ベアリング保持環または前記環体は、前記ダストシールを嵌合保持する筒状部または円筒部を有し、前記筒状部または円筒部の外周側に前記補給グリス貯留空間を有し、
前記筒状部または円筒部には、前記補給グリス貯留空間から前記ベアリングおよびダストシール間の空間へグリスを供給するためのグリス供給口が設けられていることを特徴とするセンターベアリングサポート。
【請求項4】
請求項3記載のセンターベアリングサポートにおいて、
前記筒状部または円筒部は、これに前記ベアリングが突き当てられることにより、前記ベアリング保持環に対する前記ベアリングの軸方向位置決め手段を兼ねることを特徴とするセンターベアリングサポート。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れかに記載のセンターベアリングサポートにおいて、
前記補給グリス貯留空間には、当該空間内で移動して前記補給グリスを流動させやすくするための駒体が挿入されていることを特徴とするセンターベアリングサポート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−219020(P2011−219020A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92155(P2010−92155)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】