説明

タイミングチェーンの伸び確認構造

【課題】タイミングチェーンの伸びを迅速に確認できると共に、テンショナ装置の円滑な動作を確保できるタイミングチェーンの伸び確認構造を提供する。
【解決手段】エンジンEは、タイミングトレーン機構1及びタイミングカバー2を備える。タイミングトレーン機構1は、駆動スプロケット11及び従動スプロケット12a,12bに掛け渡されたタイミングチェーン13と、タイミングチェーン13に所定の張力を付与するアーム部材14と、アーム部材14をタイミングチェーン13に向けて付勢する付勢力を発生させるテンショナ装置17とを有する。タイミングカバー2には、開口部2aが形成され、アーム部材14には、突起部16gが形成される。開口縁部2bと突起部16gとの位置関係は、タイミングチェーン13が交換を要する伸び量に達したときに、突起部16gの一部又は全体が開口部2aから隠れるように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジン等に使用されるタイミングチェーンの伸びを確認するためのタイミングチェーンの伸び確認構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の車両において、エンジンのクランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するために、無端状のタイミングチェーンが用いられている。このタイミングチェーンは、長期間の使用により伸びが発生し、所定の伸び量(緩み量)を超えると交換が必要になるが、タイミングチェーンが伸びているか否かを確認し、更にはタイミングチェーンが交換時期に達しているか否かを判断する作業は、熟練の作業者でないと多大な手間を要していた。
そこで、従来、タイミングチェーンの伸びを簡易に確認でき、タイミングチェーンの交換時期を容易に判断するための技術が多数開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、タイミングチェーンと、タイミングチェーンに摺接して所定の張力を付与する摺動部と、摺動部をタイミングチェーンに向けて付勢する付勢力を発生させるテンショナ装置とを備えたエンジンにおいて、前記テンショナ装置を、タイミングチェーンから所定間隔離間して配置され、内部に摺動穴を有する筐体と、摺動穴に摺動可能に配置されて一端に摺動部が固定されると共に、表面に凹設して形成された複数の目盛を有する杆体と、摺動穴に配置され、杆体を介して摺動部をタイミングチェーンに向けて付勢するスプリングとから構成することが開示されている。すなわち、特許文献1に記載のエンジンは、タイミングチェーンが長期間の使用により伸びると、スプリングの付勢力により杆体が摺動穴から外部へ突出して、杆体に形成された目盛が外部に露出するため、この目盛を目視することによりタイミングチェーンの伸びを確認できる構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭60−28208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記特許文献1に記載の技術では、複数の目盛が杆体の表面に凹設して形成されており、杆体の表面が凹凸面になっているため、杆体の表面と筐体の内周面(摺動穴の内壁)との間の摺動抵抗が増大してしまい、杆体の円滑な摺動動作を阻害する虞があった。
【0006】
また、前記特許文献1に記載の技術では、テンショナ装置のうち、筐体の摺動穴から突出する杆体の表面に目盛が形成されているため、必然的に目盛が小さくなってしまい、目盛を目視しづらくなることから、タイミングチェーンの伸びを確認する作業に時間を要する虞があった。
【0007】
本発明は、このような観点から創案されたものであり、タイミングチェーンの伸びを迅速に確認できると共に、テンショナ装置の円滑な動作を確保できるタイミングチェーンの伸び確認構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため本発明は、内燃機関に設けられたタイミングチェーンの伸びを確認するためのタイミングチェーンの伸び確認構造であって、駆動軸に設けられた駆動輪と、従動軸に設けられた従動輪と、前記駆動輪及び前記従動輪に掛け渡された無端状の前記タイミングチェーンと、前記タイミングチェーンに摺接して所定の張力を付与するアーム部材と、前記アーム部材を前記タイミングチェーンに向けて付勢する付勢力を発生させるテンショナ装置と、を有するタイミングトレーン機構と、前記タイミングトレーン機構を外側から覆うように設けられたタイミングカバーと、を備え、前記タイミングカバーには、前記タイミングトレーン機構の一部を視認可能な開口部が形成されており、前記アーム部材には、前記開口部から露出する位置に少なくとも1つのマークが形成されており、前記開口部の縁部と前記マークとの位置関係は、前記タイミングチェーンが交換を要する伸び量に達したときに、前記マークの一部又は全体が前記開口部から隠れるように設定されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、タイミングカバーには、タイミングトレーン機構の一部を視認可能な開口部が形成されており、アーム部材には、開口部から露出する位置にマークが形成されていることにより、タイミングチェーンが長期間の使用により伸びて、テンショナ装置の付勢力によりアーム部材が移動すると、アーム部材に形成されたマークと開口部(開口部の縁部)との相対的な位置関係が変化するため、開口部からマークを目視することによりタイミングチェーンの伸びを確認できる。すなわち、マークと開口部(開口縁部)との相対的な位置関係を目視することによりタイミングチェーンの伸びを確認できるため、テンショナ装置のうち、筐体の摺動穴から突出する杆体に形成された小さい目盛を目視することによりタイミングチェーンの伸びを確認する従来構造に比較して、タイミングチェーンの伸びを迅速に確認できる。
【0010】
また、本発明によれば、開口部の縁部(開口縁部)とマークとの位置関係は、タイミングチェーンが交換を要する伸び量に達したときに、マークの一部又は全体が開口部から隠れるように設定されていることにより、開口部からマークが目視できるか否かを確認することによりタイミングチェーンの交換時期を把握できるため、タイミングチェーンの交換時期の判断を容易に行える。
更に、本発明によれば、マークがアーム部材に形成されていることにより、テンショナ装置にマークを設ける必要がなくなるため、テンショナ装置の円滑な動作を確保できる。一方、アーム部材にマークを形成した場合であっても、マークと開口縁部との接触を回避して、アーム部材の円滑な動作も確保できる。
【0011】
また、前記アーム部材は、第1支軸に揺動自在に軸支され、前記タイミングチェーンに摺接して所定の張力を付与するメインアームと、第2支軸に揺動自在に軸支されて前記メインアームと前記テンショナ装置との間に設けられ、前記第2支軸から前記メインアームとの当接点までの離間距離が、前記第2支軸から前記テンショナ装置との当接点までの離間距離よりも大きく設定されるサブアームと、を有しており、前記マークは、前記サブアームに設けられているように構成するのが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、第2支軸からメインアームとの当接点までの離間距離が、第2支軸からテンショナ装置との当接点までの離間距離よりも大きく設定され、このように設定されたサブアームのレバー比によって、サブアームの振れ幅(揺動範囲)が小さくなるため、開口部の大きさを小さくできる。したがって、タイミングカバーに開口部を形成した場合であっても、タイミングカバーの剛性低下を軽減できる。
【0013】
また、前記開口部の縁部には、直線状に延在する直線部が設けられており、前記第2支軸は、前記直線部の延長線上に設けられているように構成するのが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、開口部の縁部(開口縁部)には、直線状に延在する直線部が設けられており、第2支軸は、直線部の延長線上に設けられていることにより、マークと開口縁部との相対的な位置関係が把握しやすくなるため、タイミングチェーンの伸び状態を精度良く確認できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、タイミングチェーンの伸びを迅速に確認できると共に、テンショナ装置の円滑な動作を確保できるタイミングチェーンの伸び確認構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係るタイミングチェーンの伸び確認構造を備えるエンジンの概略構成図であり、(a)は、側面図であり、(b)は、正面図である。
【図2】エンジンからタイミングカバーを外した状態を示す一部省略側面図である。
【図3】図2の部分拡大図である。
【図4】サブアームを示す斜視図である。
【図5】(a)は、図1(a)の部分拡大図であり、(b)は、(a)のI−I線断面図である。
【図6】メインアームとサブアームの当接点及びテンショナ装置とサブアームの当接点の位置関係を示す一部省略拡大側面図である。
【図7】突起部と開口縁部との位置関係を説明するための説明図であり、(a)は、タイミングチェーンが伸びる前の初期状態を示す図であり、(b)は、タイミングチェーンが伸びた後の劣化状態を示す図である。
【図8】タイミングチェーンの伸び確認構造の変形例を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。本実施形態では、本発明を自動車のエンジンに適用した場合を例にとって説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係るタイミングチェーン13の伸び確認構造を備えるエンジンEの概略構成図であり、(a)は、側面図であり、(b)は、正面図である。図2は、エンジンEからタイミングカバー2を外した状態を示す一部省略側面図であり、図3は、図2の部分拡大図である。なお、説明の便宜上、図3ではテンショナ装置17を断面で示している。
図1(a)及び(b)に示すように、自動車用のエンジン(内燃機関)Eは、下から順に、オイルパン3と、ロアブロック4と、シリンダブロック5と、シリンダヘッド6と、シリンダヘッドカバー7と、を積み重ねて構成されている。エンジンEの側面には、タイミングカバー2が設けられており、タイミングトレーン機構1を外側から覆っている。タイミングカバー2には、タイミングトレーン機構1の一部を視認可能な開口部2aが設けられている。
【0019】
図2に示すように、ロアブロック4とシリンダブロック5との間には、クランクシャフト41が回転自在に軸支されている。また、シリンダヘッド6とシリンダヘッドカバー7との間には、インテークカムシャフト(吸気カムシャフト)71及びエキゾーストカムシャフト(排気カムシャフト)72が回転自在に軸支されている。インテークカムシャフト71及びエキゾーストカムシャフト72は、互いに軸方向が平行となるように並設されている。
【0020】
なお、オイルパン3、ロアブロック4、シリンダブロック5、シリンダヘッド6及びシリンダヘッドカバー7は、エンジン本体として機能するものである。また、クランクシャフト41は、駆動軸として機能するものであり、インテークカムシャフト71及びエキゾーストカムシャフト72は、それぞれ従動軸として機能するものである。
【0021】
タイミングトレーン機構1は、図2に示すように、駆動スプロケット11と、一対の従動スプロケット12a,12bと、タイミングチェーン13と、アーム部材14と、テンショナ装置17と、を有している。
【0022】
駆動輪としての駆動スプロケット11は、図1及び図2に示すように、クランクシャフト41の一端部に連結されており、クランクシャフト41と一体的に回転可能に構成されている。
【0023】
従動輪としての一対の従動スプロケット12a,12bは、図1及び図2に示すように、それぞれ、インテークカムシャフト71及びエキゾーストカムシャフト72の一端部に連結されており、インテークカムシャフト71及びエキゾーストカムシャフト72と一体的に回転可能に構成されている。
【0024】
タイミングチェーン13は、図2に示すように、無端状のチェーンであり、駆動スプロケット11と一対の従動スプロケット12a,12bとに掛け渡されている。これにより、クランクシャフト41の回転が、タイミングチェーン13を介して、インテークカムシャフト71及びエキゾーストカムシャフト72にそれぞれ伝達されることとなる。
【0025】
駆動スプロケット11と他方の従動スプロケット12bとの間であって、直線状に延在するタイミングチェーン13の張り側の部位には、タイミングチェーン13に摺接する第1固定用チェーンガイド13aが複数のボルトB,Bで固定されている。また、一対の従動スプロケット12a,12bの上方には、タイミングチェーン13に摺接する第2固定用チェーンガイド13bが複数のボルトB,Bで固定されている。第1固定用チェーンガイド13a及び第2固定用チェーンガイド13bは、タイミングチェーン13に摺接してその振動を抑制している。
【0026】
アーム部材14は、タイミングチェーン13とテンショナ装置17との間に配置されており、タイミングチェーン13に摺接して所定の張力を付与する部材である。
アーム部材14は、それぞれ別体で構成されたメインアーム15と、サブアーム16と、を有している。
【0027】
メインアーム15は、所定の曲率半径で湾曲した長尺状の部材であり、例えば、樹脂材料や金属材料等で形成される。メインアーム15は、駆動スプロケット11と一方の従動スプロケット12aとの間であって、湾曲状に延在するタイミングチェーン13の緩み側の部位に摺接して配置されている。メインアーム15の上端部は、シリンダヘッド6に軸着された第1支軸8によって揺動自在に軸支されている。メインアーム15の下端部には、サブアーム16に当接する凸部15aが設けられている。
【0028】
図4は、サブアーム16を示す斜視図であり、図5(a)は、図1(a)の部分拡大図であり、(b)は、(a)のI−I線断面図である。図6は、メインアーム15とサブアーム16の当接点S1及びテンショナ装置17とサブアーム16の当接点S2の位置関係を示す一部省略拡大側面図である。
サブアーム16は、図3に示すように、略三角形状の部材であり、例えば、樹脂材料や金属材料等で形成される。サブアーム16は、メインアーム15の下端部側であって、当該メインアーム15を挟んでタイミングチェーン13と反対側に配置されている。
【0029】
サブアーム16の上端部には、図3及び図4に示すように、メインアーム15の凸部15aに当接してメインアーム15を押圧する第1当接部16aが設けられている。サブアーム16の下端部において、一方の角部16cには、テンショナ装置17のプランジャ17bに当接する第2当接部16bが設けられ、他方の角部16dには、断面視円形状の貫通孔16e(図4参照)が貫通して形成されている。この貫通孔16eには、シリンダブロック5に軸着された第2支軸9が挿入されており、サブアーム16は、第2支軸9を揺動中心として揺動自在に軸支されている。
【0030】
サブアーム16の表面には、図4に示すように、凹部16fが形成されると共に、タイミングカバー2の開口部2aに向けて突出する突起部(マーク体)16gが形成されている。マークとしての突起部16gは、円柱状を呈しており、第2当接部16bの近傍に設けられている。突起部16gは、図5(a)及び(b)に示すように、開口部2a及び開口縁部2bから図5(a)の紙面奥側に離間している。また、突起部16gは、タイミングチェーン13が伸びる前の初期状態において、開口部2aから露出して外部から視認可能な位置に設けられており、タイミングチェーン13の伸びを確認する目印となっている。すなわち、本実施形態では、タイミングチェーン13の伸びに応じてサブアーム16が揺動すると、突起部16gと開口縁部2bとの相対的な位置関係が変化するため、開口部2aから突起部16gを目視することによりタイミングチェーン13の伸びを確認できるように構成されている。
【0031】
なお、本実施形態では、タイミングチェーン13が交換を要する伸び量に達したときに、突起部16gの全体が開口部2aから隠れて外部から視認できないように設定されている。換言すると、突起部16gの全体が開口縁部2bに隠れて外部から視認できないことにより、タイミングチェーン13の交換時期が示されるように設定されている。
【0032】
図3に戻り、テンショナ装置17は、サブアーム16の下端側に配置されており、第2当接部16bに当接してサブアーム16を押圧することにより、メインアーム15をタイミングチェーン13に向けて付勢する付勢力を発生させる装置である。すなわち、本実施形態では、テンショナ装置17の付勢力によって、サブアーム16を介してメインアーム15をタイミングチェーン13に押し付けることにより、タイミングチェーン13の緩みを防止して所定の張力を付与するように構成されている。
【0033】
テンショナ装置17は、例えば、油圧式からなり、複数のボルトB,Bによってロアブロック4に固定されている。テンショナ装置17は、摺動穴17fが形成されたテンショナハウジング17aと、摺動穴17fに沿って摺動可能に設けられた有底円筒状のプランジャ17bと、ばね力によってテンショナハウジング17aから突出する方向にプランジャ17bを押圧するコイルスプリング17cと、摺動穴17f内に作動油を供給するチェックバルブ17dと、摺動穴17fに連通する排出孔17gから作動油を排出するリリーフバルブ17eと、を有している。
【0034】
チェックバルブ17dは、ばね部材17hのばね力によって着座部に着座するボール17iを有している。そして、図示しないオイルポンプから油路17jを介して供給された作動油が、ボール17iを押圧して着座部から離間させることにより、摺動穴17f内に作動油が充填される。
【0035】
ここで、図6を参照して、メインアーム15とサブアーム16の当接点S1及びテンショナ装置17とサブアーム16の当接点S2の位置関係を説明する。
図6に示すように、第2支軸9の軸心Oからサブアーム16とメインアーム15との当接点S1(第1当接部16aと凸部15aとの当接点S1)までの離間距離D1は、第2支軸9の軸心Oからサブアーム16とテンショナ装置17との当接点S2(第2当接部16bとプランジャ17bとの当接点S2)までの離間距離D2よりも大きく設定されている(D1>D2)。
【0036】
図1及び図5(a)に示すように、タイミングカバー2の下部側には、サブアーム16の突起部16g及びテンショナ装置17を視認可能な断面視略四角形状の開口部2aが貫通して形成されている。開口縁部2bは、図5(b)に示すように、他の部位に比較して肉厚となるように形成されている。ちなみに、タイミングカバー2には、開口部2aからの埃等の侵入を防止するため、当該開口部2aを外側から覆うカバー部材(図示省略)が設けられる。この場合、開口縁部2bは、カバー部材を取り付けるための取付部として機能し、カバー部材は、複数のボルトで開口縁部2bに固定される。
【0037】
本実施形態に係るタイミングチェーン13の伸び確認構造を備えたエンジンEは、基本的に以上のように構成されるものであり、次に、図1乃至図7を適宜参照して、その動作及び作用効果について説明する。なお、図7は、突起部16gと開口縁部2bとの位置関係を説明するための説明図であり、(a)は、タイミングチェーン13が伸びる前の初期状態を示す図であり、(b)は、タイミングチェーン13が伸びた後の劣化状態を示す図である。
【0038】
図7(a)に示すように、タイミングチェーン13が伸びる前の初期状態(タイミングチェーン13の交換を必要としない状態)では、サブアーム16に設けられた突起部16gは、開口部2aから目視できるように露出している。
【0039】
次に、長期間の使用によりタイミングチェーン13が伸びると(図7(b)参照)、その伸び量(緩み量)に応じてタイミングチェーン13の緩み側の部位の張力が減少し、タイミングチェーン13に対するメインアーム15の接触面圧が低下する。
このとき、コイルスプリング17cのばね力により、プランジャ17bがサブアーム16を押圧する方向に変位する(図3参照)。また、油路17jを介して供給された作動油が、ボール17iを押圧して着座部から離間させることによりチェックバルブ17dが弁開状態となり、作動油が摺動穴17fに充填される。そして、摺動穴17fに充填された作動油により、プランジャ17bが外部に突出する方向に押圧される。
【0040】
続いて、プランジャ17bによって押圧されたサブアーム16は、第2支軸9を揺動中心として時計回り方向に所定角度だけ揺動する(図7(b)参照)。
このとき、サブアーム16に設けられた突起部16gと開口縁部2bとの相対的な位置が変化する。そこで、タイミングチェーン13が交換を要する伸び量に達したときに、突起部16gの全体が開口縁部2bに隠れて外部から視認できないように突起部16gと開口縁部2bとの相対的な位置関係を設定することにより、開口部2aから突起部16gを目視できるか否かで、タイミングチェーン13の伸びを確認でき、ひいては、タイミングチェーン13が交換時期にあるか否かを確認できる。
【0041】
ちなみに、サブアーム16が揺動すると、当該サブアーム16がメインアーム15を押圧して、メインアーム15は、第1支軸8を揺動中心として反時計回り方向に所定角度だけ揺動する(図2、図7(b)参照)。これにより、タイミングチェーン13の緩み側の部位を押圧してタイミングチェーン13の張力を調節させることができるが、タイミングチェーン13の伸び量が所定値を超えた場合には、テンショナ装置17、サブアーム16及びメインアーム15の追従性が低下して、タイミングチェーン13の張力が減少する。その結果、タイミングチェーン13の動力伝達性能が低下するため、タイミングチェーン13の交換が必要となる。
【0042】
以上説明した本実施形態によれば、タイミングカバー2には、サブアーム16の突起部16g及びテンショナ装置17を視認可能な開口部2aが形成されており、サブアーム16には、開口部2aから露出する位置に突起部16gが形成されていることにより、タイミングチェーン13が長期間の使用により伸びて、テンショナ装置17の付勢力によりサブアーム16が揺動すると、サブアーム16に設けられた突起部16gと開口縁部2bとの相対的な位置関係が変化するため、開口部2aから突起部16gを目視することによりタイミングチェーン13の伸びを確認できる。
すなわち、突起部16gと開口縁部2bとの相対的な位置関係を目視することによりタイミングチェーン13の伸びを確認できるため、テンショナ装置のうち、筐体の摺動穴から突出する杆体に形成された小さい目盛を目視することによりタイミングチェーンの伸びを確認する従来構造に比較して、タイミングチェーン13の伸びを迅速に確認できる。
【0043】
また、本実施形態によれば、突起部16gと開口縁部2bとの相対的な位置関係は、タイミングチェーン13が交換を要する伸び量に達したときに、突起部16gの全体が開口部2aから隠れて外部から視認できないように設定されていることにより、開口部2aから突起部16gが目視できるか否かを確認することによりタイミングチェーン13の交換時期を把握できるため、タイミングチェーン13の交換時期の判断を容易に行える。
【0044】
また、本実施形態によれば、タイミングカバー2に開口部2aを形成することにより、タイミングカバー2をエンジン本体に取り付けた状態で、タイミングチェーン13の伸びを確認し、ひいては、タイミングチェーン13が交換時期に達したか否かを判断できる。したがって、タイミングチェーン13の伸びの確認作業を行う度に、エンジン本体からタイミングカバー2を外す必要がないため、タイミングチェーン13の伸びを確認する際の作業効率が向上する。
【0045】
また、本実施形態によれば、タイミングカバー2に開口部2aを形成することにより、タイミングカバー2をエンジン本体に取り付けた状態で、当該開口部2aを通じてエンジン本体に対するテンショナ装置17の脱着作業を行うことができる。したがって、テンショナ装置17のメンテナンス作業を行う度に、エンジン本体からタイミングカバー2を外す必要がないため、テンショナ装置17のメンテナンス作業を行う際の作業効率が向上する。
【0046】
また、本実施形態によれば、突起部16gがサブアーム16に形成されていることにより、テンショナ装置17に突起部16g(マーク)を設ける必要がなくなるため、テンショナ装置17の円滑な動作を確保できる。
一方、サブアーム16に突起部16gを形成した場合であっても、突起部16gが開口縁部2bから離間しているため、突起部16gと開口縁部2bとの接触を回避して、サブアーム16の円滑な動作も確保できる。
【0047】
また、本実施形態によれば、第2支軸9の軸心Oからサブアーム16とメインアーム15との当接点S1(第1当接部16aと凸部15aとの当接点S1)までの離間距離D1は、第2支軸9の軸心Oからサブアーム16とテンショナ装置17との当接点S2(第2当接部16bとプランジャ17bとの当接点S2)までの離間距離D2よりも大きく設定され(D1>D2)、このように設定されたサブアーム16のレバー比によって、サブアーム16の振れ幅(揺動範囲)が小さくなるため、開口部2aの大きさを小さくできる。したがって、タイミングカバー2に開口部2aを形成した場合であっても、タイミングカバー2の剛性低下を軽減できる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0049】
本実施形態では、自動車用のエンジンEを例にとって説明したが、本発明に係る内燃機関は、船舶や汎用機等の自動車以外のエンジンに適用可能であるのは勿論である。
【0050】
本実施形態では、サブアーム16に突起部16gを設けたが、これに限定されるものではなく、メインアーム15の下部側に突起部(マーク)を設けてもよい。この場合、開口部2aの開口位置がメインアーム15の突起部に対応するように適宜変更される。
ちなみに、本実施形態のメインアーム15とサブアーム16は、図2における紙面手前側の形状に沿った金型(図示省略)と、紙面奥側の形状に沿った金型(図示省略)を用いて形成される。そこで、メインアーム15又はサブアーム16に紙面手前側に向かって突出するようにマーク(突起部)を一体的に形成することにより、メインアーム15又はサブアーム16の製造と同時にマークを形成できるため、別途杆体の表面に溝(目盛)を加工する作業が必要になる従来構造に比較して、マークを形成する作業を簡易に行うことができる。
【0051】
本実施形態では、突起部16gが円柱状に形成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、角柱状、円錘状、角錘状等に形成されてもよい。
【0052】
本実施形態では、突起部16gの全体が開口縁部2bに隠れて外部から視認できないことにより、タイミングチェーン13の交換時期が示されるように設定したが、これに限定されるものではなく、突起部16gの一部が開口縁部2bに隠れて外部から視認できないことにより、タイミングチェーン13の交換時期が示されるように設定されてもよい。
【0053】
本実施形態では、単一の突起部16gを用いてタイミングチェーン13の伸びを確認したが、これに限定されるものではなく、複数の突起部16gを用いてタイミングチェーン13の伸びを確認してもよい。この場合、複数の突起部16gを互いに間隔を空けて設けることにより、タイミングチェーン13の伸び量(緩み量)を示す目盛として用いることができるため、タイミングチェーン13の伸び量を正確に把握できる。
【0054】
また、図8に示すように、開口縁部2bの一部において、直線状に延在する直線部2dを設けてもよい。なお、図8は、タイミングチェーン13の伸び確認構造の変形例を示す部分拡大図である。
直線部2dは、開口縁部2b(詳しくは開口縁部2bの内側面2c)のうち、突起部16gに近接する部位に設けられている。また、第2支軸9は、直線部2dの延長線T上に設けられている。このようにすると、突起部16gと開口縁部2bとの相対的な位置関係が把握しやすくなるため、タイミングチェーン13の伸び状態を精度良く確認できる。
【符号の説明】
【0055】
E エンジン(内燃機関)
1 タイミングトレーン機構
11 駆動スプロケット(駆動輪)
12a,12b 従動スプロケット(従動輪)
13 タイミングチェーン
14 アーム部材
15 メインアーム
15a 凸部
16 サブアーム
16a 第1当接部
16b 第2当接部
16g 突起部(マーク)
17 テンショナ装置
2 タイミングカバー
2a 開口部
2b 開口縁部
2c 内側面
2d 直線部
41 クランクシャフト(駆動軸)
71 インテークカムシャフト(従動軸)
72 エキゾーストカムシャフト(従動軸)
8 第1支軸
9 第2支軸
O 軸心
S1 当接点
S2 当接点
D1 離間距離
D2 離間距離
T 延長線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に設けられたタイミングチェーンの伸びを確認するためのタイミングチェーンの伸び確認構造であって、
駆動軸に設けられた駆動輪と、従動軸に設けられた従動輪と、前記駆動輪及び前記従動輪に掛け渡された無端状の前記タイミングチェーンと、前記タイミングチェーンに摺接して所定の張力を付与するアーム部材と、前記アーム部材を前記タイミングチェーンに向けて付勢する付勢力を発生させるテンショナ装置と、を有するタイミングトレーン機構と、
前記タイミングトレーン機構を外側から覆うように設けられたタイミングカバーと、
を備え、
前記タイミングカバーには、前記タイミングトレーン機構の一部を視認可能な開口部が形成されており、
前記アーム部材には、前記開口部から露出する位置に少なくとも1つのマークが形成されており、
前記開口部の縁部と前記マークとの位置関係は、前記タイミングチェーンが交換を要する伸び量に達したときに、前記マークの一部又は全体が前記開口部から隠れるように設定されていることを特徴とするタイミングチェーンの伸び確認構造。
【請求項2】
前記アーム部材は、
第1支軸に揺動自在に軸支され、前記タイミングチェーンに摺接して所定の張力を付与するメインアームと、
第2支軸に揺動自在に軸支されて前記メインアームと前記テンショナ装置との間に設けられ、前記第2支軸から前記メインアームとの当接点までの離間距離が、前記第2支軸から前記テンショナ装置との当接点までの離間距離よりも大きく設定されるサブアームと、
を有しており、
前記マークは、前記サブアームに設けられていることを特徴とする請求項1に記載のタイミングチェーンの伸び確認構造。
【請求項3】
前記開口部の縁部には、直線状に延在する直線部が設けられており、
前記第2支軸は、前記直線部の延長線上に設けられていることを特徴とする請求項2に記載のタイミングチェーンの伸び確認構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−246851(P2012−246851A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119752(P2011−119752)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】