説明

タイヤの空気バリア性回復方法

【課題】エチレン−ビニルアルコール共重合体などの熱可塑性樹脂のフィルムをインナーライナーとして用いた空気入りタイヤの空気バリア性が使用により低下した後に、その空気バリア性を回復する方法を提供する。
【解決手段】使用により空気バリア性が低下したタイヤを100℃以上かつ熱可塑性樹脂組成物に含まれる最も高い融点を有する熱可塑性樹脂の融点より低い温度で熱処理をすることにより、空気バリア性を回復する。熱処理には、タイヤ加硫用ブラダーおよびタイヤ加硫用モールドのうち少なくともいずれか一方、ギヤーオーブン、ヒーター、または熱風を使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの空気バリア性回復方法に関する。より詳しくは、本発明は、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの熱可塑性樹脂のフィルムをインナーライナーとして用いた空気入りタイヤの空気バリア性が使用により低下したとき、その空気バリア性を回復する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのインナーライナーとして、エチレン−ビニルアルコール共重合体やポリアミド等の熱可塑性樹脂のフィルムを使用することが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−169907号公報
【特許文献2】特開平6−40207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、熱可塑性樹脂フィルムをインナーライナーとして使用した空気入りタイヤは、使用中に疲労により徐々に空気バリア性が低下するという問題がある。本発明は、使用により空気バリア性が低下した空気入りタイヤのインナーライナーの空気バリア性を回復する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、空気バリア性が低下した熱可塑性樹脂インナーライナーを熱処理することにより熱可塑性樹脂インナーライナーの空気バリア性を回復することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、1種または2種以上の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物をインナーライナーとして用いたタイヤの、使用により低下した空気バリア性を回復する方法であって、空気バリア性が低下したタイヤを100℃以上かつ前記熱可塑性樹脂組成物に含まれる最も高い融点を有する熱可塑性樹脂の融点より低い温度で熱処理をすることを特徴とするタイヤの空気バリア性を回復する方法である。
【0007】
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、融点の異なる2種以上の熱可塑性樹脂を含む。
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、熱可塑性樹脂中にエラストマーが分散した熱可塑性エラストマー組成物である。
前記熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれた少なくとも1種である。
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、エチレン−ビニルアルコール共重合体と、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれた少なくとも1種のナイロン成分とを含む。
前記エラストマーは、好ましくは、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、および無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種である。
【0008】
前記熱処理は、好ましくは、タイヤ加硫用ブラダーおよびタイヤ加硫用モールドのうち少なくともいずれか一方を使用した熱処理である。好ましくは、前記熱処理がタイヤのリトレッド工程を兼ねる。
前記熱処理は、好ましくは、ギヤーオーブンを使用した熱処理である。
前記熱処理は、好ましくは、ヒーターを使用した熱処理である。
前記熱処理は、好ましくは、熱風を使用した熱処理である。
【0009】
本発明は、また、前記の方法により空気バリア性を回復したタイヤである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの熱可塑性樹脂のフィルムをインナーライナーとして用いた空気入りタイヤを、実車走行等の使用に供することにより、インナーライナーの空気バリア性が低下したときに、簡便な方法で、その空気バリア性を回復することができ、それにより、熱可塑性樹脂フィルムをインナーライナーとして用いた空気入りタイヤの空気保持性能を回復し、ひいてはタイヤの寿命を延長することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
熱可塑性樹脂組成物のフィルムをインナーライナーとして用いた空気入りタイヤは、実車走行等の使用により、熱可塑性樹脂組成物のフィルムが疲労し、インナーライナーの空気バリア性が徐々に低下する。特に、エチレン−ビニルアルコール共重合体のフィルムは、使用前の空気バリア性に優れるが、使用による空気バリア性の低下が大きい。本発明は、使用により低下した空気バリア性を回復する方法に関する。
【0012】
本発明は、使用により空気バリア性が低下したタイヤを100℃以上かつ熱可塑性樹脂組成物に含まれる最も高い融点を有する熱可塑性樹脂の融点より低い温度で熱処理をすることを特徴とする。
【0013】
熱処理の温度は、100℃以上であり、好ましくは130℃以上であり、より好ましくは175℃以上である。熱処理の温度が低すぎると、空気バリア性の回復が不十分である。
【0014】
熱処理の温度は、熱可塑性樹脂組成物に含まれる最も高い融点を有する熱可塑性樹脂の融点(以下「t」ともいう。)より低く、好ましくはtより20℃以上低い温度であり、より好ましくはtより35℃以上低い温度である。たとえば、熱可塑性樹脂組成物に含まれる最も高い融点を有する熱可塑性樹脂が融点225℃のナイロン6である場合は、熱処理の温度は、225℃未満であり、好ましくは205℃以下であり、より好ましくは190℃以下である。熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂が1種類である場合は、その熱可塑性樹脂の融点より低い温度で熱処理する。熱処理の温度が高すぎると、インナーライナーが溶融等により破損するおそれがある。
【0015】
熱処理の時間は、特に限定されないが、好ましくは5〜60分であり、より好ましくは10〜20分である。
【0016】
熱処理の方法は、限定するものではないが、次の方法が使用できる。
1つの熱処理方法は、タイヤ加硫用ブラダーおよびタイヤ加硫用モールドのうち少なくともいずれか一方を使用する熱処理方法である。具体的には、使用により空気バリア性が低下したタイヤ(以下「劣化タイヤ」ともいう。)を、タイヤ加硫用ブラダーに装着し、またはタイヤ加硫用モールドに装着し、またはタイヤ加硫用ブラダーおよびタイヤ加硫用モールドに装着し、加熱する。この方法においては、タイヤのリトレッド工程を兼ねることができる。
【0017】
別の熱処理方法は、ギヤーオーブンを使用した熱処理方法である。具体的には、劣化タイヤを、ギヤーオーブンの中に入れて、加熱する。
【0018】
別の熱処理方法は、ヒーターを使用した熱処理方法である。具体的には、セラミックヒーター、赤外線ヒーター等のヒーターで、劣化タイヤの内面を加熱する。
【0019】
別の熱処理方法は、熱風を使用した熱処理である。具体的には、ヒートガン等の熱風で、劣化タイヤの内面を加熱する。
【0020】
本発明の空気バリア性回復方法を適用する対象となるタイヤは、1種または2種以上の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物をインナーライナーとして用いたタイヤである。
【0021】
熱可塑性樹脂組成物が融点の異なる2種以上の熱可塑性樹脂を含む場合、バリア性の低下した融点の低い熱可塑性樹脂を加熱によってバリア性を回復させ、なおかつ融点の高い熱可塑性樹脂によって熱可塑性樹脂組成物が溶融して破壊することを避けられる理由から、本発明の方法が好適に適用できる。
熱可塑性樹脂組成物が融点の異なる2種の熱可塑性樹脂を含む場合、熱処理の温度は、熱可塑性樹脂組成物に含まれる最も低い気体透過係数を有する熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上、好ましくはその融点以上であり、融点の高い熱可塑性樹脂の融点未満である。たとえば、熱可塑性樹脂組成物が融点158℃のエチレン−ビニルアルコール共重合体と融点225℃のナイロン6を含む場合、熱処理の温度は158℃以上225℃未満であることが好ましい。
【0022】
また、熱可塑性樹脂組成物が熱可塑性樹脂中にエラストマーが分散した熱可塑性エラストマー組成物である場合、熱可塑性樹脂がバリア性を発現し、なおかつ微分散したエラストマー成分が柔軟性を発現するため、タイヤのインナーライナーとして要求される、バリア性と耐久性を兼ね備えた材料となるため、本発明の方法が好適に適用できる。
【0023】
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を挙げることができる。ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66(N6/66)、ナイロン6/66/12(N6/66/12)、ナイロン6/66/610(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン6/6T、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体等が挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミド酸/ポリブチレートテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル等が挙げられる。ポリニトリル系樹脂としては、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体等が挙げられる。ポリメタクリレート系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル等が挙げられる。ポリビニル系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体等が挙げられる。セルロース系樹脂としては、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース等が挙げられる。フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。イミド系樹脂としては、芳香族ポリイミド(PI)等が挙げられる。ポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン(PS)等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。
なかでも、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、ナイロン6Tが、空気バリア性の点で、好ましい。
エチレン−ビニルアルコール共重合体は、使用前の空気バリア性が高いが、実車走行等で使用すると疲労により空気バリア性が低下するので、本発明の方法は、熱可塑性樹脂としてエチレン−ビニルアルコール共重合体を使用した場合に、特に好適に適用することができる。
【0024】
熱可塑性樹脂組成物は、より好ましくは、エチレン−ビニルアルコール共重合体と、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれた少なくとも1種のナイロン成分とを含むものである。エチレン−ビニルアルコール共重合体とナイロン成分とを含む熱可塑性樹脂組成物は、耐疲労性と空気バリア性の両立という点で、好ましい。
【0025】
熱可塑性樹脂組成物は熱可塑性樹脂中にエラストマーが分散した熱可塑性エラストマー組成物であってもよい。熱可塑性エラストマー組成物を構成する熱可塑性樹脂としては、前記の熱可塑性樹脂と同一のものを使用することができる。
【0026】
熱可塑性エラストマー組成物を構成するエラストマーとしては、ジエン系ゴムおよびその水添物、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴム、シリコーンゴム、含イオウゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。ジエン系ゴムおよびその水添物としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)(高シスBRおよび低シスBR)、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR等が挙げられる。オレフィン系ゴムとしては、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体(変性EEA)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等が挙げられる。含ハロゲンゴムとしては、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)や塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)等のハロゲン化ブチルゴム、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体(BIMS)、ハロゲン化イソブチレン−イソプレン共重合ゴム、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)等が挙げられる。シリコーンゴムとしては、メチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム等が挙げられる。含イオウゴムとしては、ポリスルフィドゴム等が挙げられる。フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコーン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等が挙げられる。
なかでも、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体が、熱可塑性樹脂との親和性や空気バリア性の観点から、好ましい。
【0027】
エラストマーには、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、軟化剤、老化防止剤、加工助剤などの、ゴム組成物に一般的に配合される配合剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で、配合してもよい。
【0028】
熱可塑性エラストマー組成物を構成するエラストマーと熱可塑性樹脂との組み合わせは、限定するものではないが、エチレンビニルアルコール共重合体に加えて、ハロゲン化ブチルゴムとポリアミド系樹脂、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体とポリアミド系樹脂、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合ゴムとポリアミド系樹脂、ブタジエンゴムとポリスチレン系樹脂、イソプレンゴムとポリスチレン系樹脂、水素添加ブタジエンゴムとポリスチレン系樹脂、エチレンプロピレンゴムとポリオレフィン系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴムとポリオレフィン系樹脂、非結晶ブタジエンゴムとシンジオタクチックポリ(1,2−ポリブタジエン)、非結晶イソプレンゴムとトランスポリ(1,4−イソプレン)、フッ素ゴムとフッ素樹脂等が挙げられるが、エチレンビニルアルコール共重合体と無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体とポリアミド系樹脂の組み合わせが好ましく、なかでも、エチレンビニルアルコール共重合体と無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体とナイロン6/66もしくはナイロン6またはナイロン6/66とナイロン6のブレンド樹脂との組み合わせが、耐疲労性と空気バリア性の両立という点で特に好ましい。
【0029】
熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂とエラストマーとを、たとえば2軸混練押出機等で、溶融混練し、マトリックス相を形成する熱可塑性樹脂中にエラストマーを分散相として分散させることにより、製造することができる。熱可塑性樹脂とエラストマーの質量比率は、限定するものではないが、好ましくは10/90〜90/10であり、より好ましくは35/65〜90/10である。
【0030】
熱可塑性樹脂組成物には、加工性、分散性、耐熱性、酸化防止性などの改善のために、充填剤、補強剤、加工助剤、安定剤、酸化防止剤などの、樹脂組成物に一般的に配合される配合剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で、配合してもよい。可塑剤は、空気バリア性および耐熱性の観点から、配合しない方がよいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、配合してもよい。
【0031】
熱可塑性樹脂組成物のフィルムからなるインナーライナーの空気バリア性が実車走行後に低下する機構は定かではないが、タイヤの実車走行等に伴う負荷により、熱可塑性樹脂組成物のフィルムが疲労し、熱可塑性樹脂の結晶性が低下する、または局部的な分子鎖パッキングの緩和が起こり、自由体積の増加やミクロボイド形成のため、空気バリア性が低下すると推定される。熱処理により空気バリア性が回復する機構も定かではないが、熱可塑性樹脂の結晶性の低下が原因の場合には、熱処理により結晶の再配列または再結晶化が起こり、空気バリア性が回復すると推定される。また、自由体積の増加やミクロボイドの形成が原因の場合には、熱処理により分子鎖の再パッキングが生じ、自由体積の減少やミクロボイド修復され、空気バリア性が回復すると推定される。特に、エチレン−ビニルアルコール共重合体は、空気バリア性が高いが、結晶性があり、分子内の極性基による分子鎖のパッキングも高いため、疲労の影響を受けやすいと考えられる。したがって、エチレン−ビニルアルコール共重合体を含むインナーライナーを用いた空気入りタイヤの場合に本発明は特に効果的に適用できると考えられる。また、エチレン−ビニルアルコール共重合体とナイロン成分とを含むインナーライナーを用いた空気入りタイヤの場合は、疲労により、ナイロン成分よりもエチレン−ビニルアルコール共重合体に欠陥が多く形成される。そこで、エチレン−ビニルアルコール共重合体のガラス転移温度以上、好ましくは融点以上、ナイロン成分の融点未満の温度で熱処理すると、ナイロン成分がインナーライナーの形状を保持するので、インナーライナーを溶融破損させずに、エチレン−ビニルアルコール共重合体に形成された欠陥を修復することができ、空気バリア性を特に効果的に回復することができると考えられる。ただし、本発明の範囲は、ここに説明した機構によって、限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
(1)インナーライナー用熱可塑性樹脂組成物の調製
表1に示す配合において、各原材料ペレットを2軸混練機((株)日本製鋼所製TEX44)に投入し、230℃にて溶融混練を行った。混練された原材料は押出機から連続してストランド状に排出し、水冷却カッターで切断することにより、ペレット状のインナーライナー用熱可塑性樹脂組成物IL−1およびIL−2を得た。
【0033】
【表1】

【0034】
なお、インナーライナー用熱可塑性樹脂組成物の調製に用いた原材料は、次のとおりである。
EVOH: 日本合成化学工業株式会社製「ソアノール」(登録商標)H4815B(融点:158℃、ガラス転移温度:48℃)
ナイロン6: 宇部興産株式会社製「UBEナイロン」1030B(融点:225℃)
ナイロン6/66共重合体: 宇部興産株式会社製「UBEナイロン」5033B(融点:196℃)
マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体: 三井化学株式会社製「タフマー」(登録商標)MP−0620(非晶性)
【0035】
(2)粘接着剤組成物の調製
表2に示す配合において、各原材料ペレットを2軸混練機((株)日本製鋼所製TEX44)に投入し、120℃にて溶融混練を行った。混練された原材料は押出機から連続してストランド状に排出し、水冷却カッターで切断することにより、ペレット状の粘接着剤組成物を得た。
【0036】
【表2】

【0037】
なお、粘接着剤組成物の調製に用いた原材料は、次のとおりである。
エポキシ化SBS: ダイセル化学工業株式会社製エポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマー「エポフレンド」AT501
酸化亜鉛: 正同化学工業株式会社製「亜鉛華3号」
ステアリン酸: 日油株式会社製ビーズステアリン酸YR
加硫促進剤: 大内新興化学工業株式会社製「ノクセラー」TOT−N
粘着性付与樹脂: ヤスハラケミカル株式会社製YSレジンD105
【0038】
(3)インナーライナー用フィルムの作製
表1に示すインナーライナー用熱可塑性樹脂組成物と表2に示す粘接着剤組成物とを、インフレーション成型装置にて230℃で粘接着剤組成物層を外側とする2層のチューブ状に押し出し、インフレーション成型後ピンチロールで折りたたみそのまま巻き取った。前記のチューブ状フィルムは粘接着剤組成物層の厚みは20μmとし、熱可塑性樹脂組成物層の厚みは20μmとなるように押し出した。
【0039】
(4)タイヤの作製
前記(3)で作製した熱可塑性樹脂組成物層と粘接着剤組成物層からなる2層フィルムを、熱可塑性樹脂組成物層側を内側にしてタイヤ成形用ドラム上に配置した。その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとした。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って、加熱加硫することにより195/65R15サイズのタイヤを作製した。
【0040】
(5)実車走行
前記(4)で作製した195/65R15サイズのタイヤを、リム15×6JJ、内圧200kPaとして、排気量1800ccのFF乗用車に装着し、市街地を30,000km走行した。
【0041】
(6)熱処理
比較例1および3は、実車走行後のタイヤに対して、熱処理を行わなかったものである。
実施例1〜3、8〜11、14、比較例2、4においては、実車走行後のタイヤに対して、タイヤ内面に離型剤をスプレーにて塗布し、一般的なタイヤ加硫用モールドおよびブラダーを備えた加硫機を使用し、表3および表4に示す条件にて熱処理を行った。
実施例4および12においては、タイヤ加硫用モールドおよびブラダーを備えた加硫機による熱処理の際に、一般的なタイヤのリトレッド手法に従い、タイヤ踏面にキャップコンパウンドを巻き、リトレッドも兼ねて、表3および表4に示す条件にて熱処理を行った。
実施例5および13においては、ギヤーオーブンを使用し、表3および表4に示す条件にて熱処理を行った。
実施例6においては、タイヤ内面をセラミックヒーターにて加熱することで熱処理を行った。このとき、タイヤ内表面の温度が所望の温度になるようにヒーターの出力を適宜調節し、表3および表4に示す条件にて熱処理を行った。
実施例7においては、タイヤ内面をヒートガンの熱風にて加熱することで熱処理を行った。このとき、タイヤ内表面の温度が所望の温度になるように熱風の温度を適宜調節し、表3および表4に示す条件にて熱処理を行った。
【0042】
(7)空気漏れ試験
実車走行後に熱処理したタイヤと実車走行前のタイヤの内圧低下率の差を、実車走行前のタイヤ内圧低下率に対する百分率で表し、その値を空気漏れ変化率とした。
空気漏れ変化率(%)=(実車走行後に熱処理したタイヤの内圧低下率−実車走行前のタイヤの内圧低下率)/実車走行前のタイヤの内圧低下率×100
【0043】
空気漏れ変化率(%)の値が小さいほど、バリア性の低下が少ない、すなわち熱処理によってバリア性の低下が回復したことを意味する。熱処理未実施のもの(比較例1、比較例3)を基準として、それよりも空気漏れ変化率(%)が小さくなっていれば熱処理の効果があったものと判断する。
【0044】
なお、内圧低下率は次の方法により測定した。
各試験タイヤを正規リムに装着し、初期圧力250kPa、室温21℃、無負荷条件にて3か月間放置し、3時間毎に内圧を測定し、測定内圧P、初期圧力P、経過日数tとして、次式で回帰してα値を求めた。
/P=exp(−αt)
得られたα値を用いて、t=30(日)を代入し、β=〔1−exp(−αt)〕×100からβ値を求め、そのβ値を1か月当たりの内圧低下率(%/月)とした。
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の方法は、熱可塑性樹脂組成物をインナーライナーとして用いたタイヤが、使用により空気バリア性が低下したときに、その空気バリア性を回復するために使用することができる。したがって、本発明の方法は、熱可塑性樹脂組成物をインナーライナーとして用いた空気入りタイヤの寿命延長に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種または2種以上の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物をインナーライナーとして用いたタイヤの、使用により低下した空気バリア性を回復する方法であって、空気バリア性が低下したタイヤを100℃以上かつ前記熱可塑性樹脂組成物に含まれる最も高い融点を有する熱可塑性樹脂の融点より低い温度で熱処理をすることを特徴とするタイヤの空気バリア性を回復する方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物が、融点の異なる2種以上の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載のタイヤの空気バリア性を回復する方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物が熱可塑性樹脂中にエラストマーが分散した熱可塑性エラストマー組成物であることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤの空気バリア性を回復する方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤの空気バリア性を回復する方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物が、エチレン−ビニルアルコール共重合体と、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれた少なくとも1種のナイロン成分とを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤの空気バリア性を回復する方法。
【請求項6】
前記エラストマーが、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、および無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載のタイヤの空気バリア性を回復する方法。
【請求項7】
前記熱処理がタイヤ加硫用ブラダーおよびタイヤ加硫用モールドのうち少なくともいずれか一方を使用した熱処理であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のタイヤの空気バリア性を回復する方法。
【請求項8】
前記熱処理がタイヤのリトレッド工程を兼ねることを特徴とする請求項7に記載のタイヤの空気バリア性を回復する方法。
【請求項9】
前記熱処理がギヤーオーブンを使用した熱処理であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のタイヤの空気バリア性を回復する方法。
【請求項10】
前記熱処理がヒーターを使用した熱処理であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のタイヤの空気バリア性を回復する方法。
【請求項11】
前記熱処理が熱風を使用した熱処理であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のタイヤの空気バリア性を回復する方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法により空気バリア性を回復したタイヤ。

【公開番号】特開2012−40831(P2012−40831A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186030(P2010−186030)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】