説明

タイヤ加硫用ブラダーの製造方法

【課題】使用時における界面剥離の発生を抑制したタイヤ加硫用ブラダーの製造方法を提供する。
【解決手段】未加硫のタイヤ加硫用ブラダーを金型内で加硫することにより加硫済みのタイヤ加硫用ブラダーを製造する方法である。金型内部の加硫圧力を1.0MPa以上10MPa以下とし、タイヤ加硫用ブラダーを構成するゴム配合物の架橋密度90%が達成されるまでの時間を3分以上とする。加硫時の金型温度を2段階以上で変化させるとともに、加硫開始時における第1の金型温度を、ゴム配合物の50%加硫温度とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ加硫用ブラダーの製造方法(以下、単に「ブラダー」および「製造方法」とも称する)に関し、詳しくは、タイヤ製造における加硫時に、タイヤを拡張するために使用されるタイヤ加硫用ブラダーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤの製造工程においては、タイヤの各構成部材を組み立てて生タイヤ(未加硫タイヤ)を成型する際に用いられるタイヤ成型用ブラダーと、加硫時に最終的な製品タイヤ形状を付与するために用いられるタイヤ加硫用ブラダーとの、大きく分けて2種類のブラダーが使用されている。
【0003】
このうちタイヤ加硫用ブラダーは、従来、高温高圧の一定の条件で加硫して作製されるものであり、耐熱性および伸びを確保するために一般にブチルゴム配合物が用いられ、(1)生タイヤの金型への押付けおよび型付けがよい、(2)空気・スチーム透過性が低い、(3)耐スチーム劣化性がよい、(4)耐熱性に優れる、等の特徴を有するものである。
【0004】
ブラダー製造に係る改良技術としては、例えば、特許文献1に、全体での加硫度のバラツキを小さくすることを目的として、加硫用金型による加硫工程が終了したブラダーを、加熱室内に入れてブラダー全体を略均一に加熱するブラダー加硫方法が開示されている。また、特許文献2には、肉厚部を有する未加硫のタイヤ加硫用ブラダーを加熱する複数の第1加熱部を内設した金型を使用してタイヤ加硫用ブラダーを加硫する際に、肉厚部に最も近接する第1加熱部の温度を残りの第1加熱部の温度より高くして加硫するタイヤ加硫用ブラダーの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6‐182775号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2004‐314398号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ブラダーの製造時においては、金型内にブラダー用の未加硫ゴム配合物を投入した後、ゴム流動にて金型内に未加硫ゴム配合物を充填せしめるが、この際に、金型内に乱流流動戻りが発生する場合がある。未加硫ゴムが金型に接触した際に接触界面で架橋点を生成して、これが乱流流動戻りによりブラダー内部に巻き込まれると、加硫が進行しても、この接触架橋点がブラダー内部で再架橋しないかまたは再架橋が部分的にしか進行しないことから、ブラダー内部に架橋されていないゴム部分が生じ、この架橋されていないゴム部分と架橋されたゴム部分との界面において、架橋接着不良が発生する。その結果、タイヤ加硫時にブラダーを使用した際に、この部分で界面剥離が発生するおそれがあった。
【0007】
これに対し、特許文献1に開示されているように、加硫後に一定温度で保温を行っても、最初の段階でゴムの加硫がある程度以上進んでいると、上記界面が形成されて、ブラダー内部での界面剥離が発生してしまうと考えられる。また、特許文献2に開示されているように、金型内部で部分的に温度を変化させても、上記界面剥離の問題について解消できるものではない。
【0008】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、使用時における界面剥離の発生を抑制したタイヤ加硫用ブラダーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、金型内部の加硫圧力を特定するとともに、ブラダーを構成する未加硫ゴムの架橋密度90%が達成されるまでの時間を所定時間以上とすることで、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のタイヤ加硫用ブラダーの製造方法は、未加硫のタイヤ加硫用ブラダーを金型内で加硫することにより加硫済みのタイヤ加硫用ブラダーを製造する方法において、
金型内部の加硫圧力を1.0MPa以上10MPa以下とし、前記タイヤ加硫用ブラダーを構成するゴム配合物の架橋密度90%が達成されるまでの時間を3分以上とすることを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、加硫時の金型温度を2段階以上で変化させるとともに、加硫開始時における第1の金型温度を、前記ゴム配合物の50%加硫温度とすることが好ましい。この場合、前記第1の金型温度の保持時間を3分以上とすることがより好ましく、前記第1の金型温度に続く第2の金型温度を、前記ゴム配合物の90%加硫温度とすることがより好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金型内部の加硫圧力を特定するとともに、未加硫ゴムの架橋密度90%が達成されるまでの時間を所定時間以上としたことで、金型内部でのゴム流動により、界面剥離の原因となる内部に入り込んだゴムを再架橋させることができ、使用時における内部での界面剥離の発生を抑制したタイヤ加硫用ブラダーを得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のタイヤ加硫用ブラダーの製造方法の一実施形態に係る説明図である。
【図2】従来のタイヤ加硫用ブラダーの製造方法に係る説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明は、未加硫のタイヤ加硫用ブラダーを金型内で加硫することにより加硫済みのタイヤ加硫用ブラダーを製造する方法の改良に係るものである。本発明においては、金型内部の加硫圧力を1.0MPa以上10MPa以下とするとともに、タイヤ加硫用ブラダーを構成するゴム配合物の架橋密度90%が達成されるまでの時間を3分以上とする。
【0015】
ブラダーを構成するゴム配合物の架橋密度90%が達成されるまでの時間を3分以上とすることで、金型内部でのゴムの流動が可能となって、金型界面で架橋されたゴム部分を、ブラダー内部で再架橋させることができる。これにより、ブラダー内部における架橋されていないゴム部分の発生を防止することができ、タイヤ加硫時における内部での界面剥離の発生を抑制したタイヤ加硫用ブラダーを得ることができるものである。本発明において、上記架橋密度90%が達成されるまでの時間は、3分以上とすることが必要であり、好ましくは5.0分〜15.0分とする。この時間が3分未満であると、金型内部でゴムが十分に流動できず、上記界面剥離の発生を防止することができない。一方、この時間が長すぎても、製品部の内側と外側との架橋密度差が大きくなり、製品使用時にブラダー片膨れが生ずるため好ましくない。
【0016】
また、本発明において、金型内部の加硫圧力を上記範囲とするのは、加硫圧力が1.0MPa未満であると、製品にエアーが発生し、かつ、釜閉まり不良が生じて所定のブラダーゲージが得られず、一方、10MPaを超えると、金型内へのゴム充填速度が著しく速くなり、乱流戻り領域が広くなって、界面剥離の核を多数発生してしまうためである。本発明において、加硫圧力は、好ましくは5MPa程度とする。
【0017】
図1に、本発明のタイヤ加硫用ブラダーの製造方法の一実施形態に係る説明図を示す。本発明において、上記架橋密度90%が達成されるまでの時間を3分以上とするための具体的方法としては、例えば、図示するように、加硫時の金型温度を2段階以上で変化させるとともに、加硫開始時における第1の金型温度を、タイヤ加硫用ブラダーを構成するゴム配合物の50%加硫温度T50とする方法が挙げられる。
【0018】
ブラダーの加硫を、図2に示す従来の製造方法のように、金型温度を一定に保持して行うのではなく、図1に示すように、金型温度を多段階にて変化させ、かつ、加硫開始時における金型温度を、ブラダーゴム配合物が再架橋可能な50%加硫温度T50(架橋密度50%形成)に設定して行うことで、上記架橋密度90%が達成されるまでの時間を容易に3分以上とすることができ、上述したように、金型内部でゴムを流動させて、タイヤ加硫時における内部での界面剥離の発生を抑制することが可能となる。また、従来の金型温度よりも若干低い温度、例えば、160℃〜180℃の一定温度で加硫することによっても、上記架橋密度90%が達成されるまでの時間を3分以上とすることは可能である。
【0019】
本発明においては、上記第1の金型温度T50の保持時間を、3分以上、特には5分以上、さらには7〜9分とすることが好ましい。第1の金型温度T50の保持時間を3分以上とすることで、上記ゴム部分の再架橋のための時間を確実に確保することができ、再架橋が確実に行われるものとすることができる。
【0020】
図1に示す実施形態においては、上記第1の金型温度T50にて一定時間保持した後、金型温度を上昇させて、架橋を完了させる。この場合、加硫時の金型温度を2段階以上で変化させるものであればよいので、第1の金型温度T50から、1段階以上昇温を行って加硫を進行させる。したがって、第1の金型温度T50に続く第2の金型温度は、2段階加硫の場合にはゴム配合物の100%加硫温度T100とするが、3段階加硫の場合には、好ましくは90%加硫温度T90とする。ここで、3段階以上のステップで加硫を行う場合において、第2の金型温度およびそれ以降の金型温度の保持時間については特に制限はなく、所望に応じ適宜設定することが可能である。例えば、1分以上、好適には7〜9分とすることができる。
【0021】
具体的には例えば、ブラダーゴムとしてブチルゴム配合物を用いた場合には、金型温度は140〜240℃の範囲で設定することができ、1ステップ目の第1の金型温度T50は140〜180℃、2ステップ目以降の金型温度は160〜240℃の範囲で設定することが好ましい。この場合、例えば、90%加硫温度T90は180℃程度であり、100%加硫温度T100は200℃程度である。
【0022】
本発明においては、ブラダー製造時の加硫圧力および加硫温度につき上記条件を満足するものであればよく、これにより本発明の初期の効果を得ることができ、それ以外の、具体的なブラダーゴム配合物の配合内容や、ブラダー形状、金型構造等については、特に制限されるものではない。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<従来例>
ブラダー用ゴムとしてブチル架橋系ゴム配合物を用いて、タイヤ加硫用ブラダーの製造を行った。未加硫のブチルゴム配合物を金型内にゴム流動により充填し、かかるブチルゴム配合物の100%加硫温度T100(200℃)において、12分間加硫を行って、加硫済みのタイヤ加硫用ブラダーを製造した。金型内部の加硫圧力は5.0MPaとした。
【0024】
<実施例1>
加硫時の金型温度を2段階で変化させて、加硫開始時における第1の金型温度としての上記ブチルゴム配合物の50%加硫温度T50(140℃)で7分間保持して加硫を行った後、第2の金型温度としての上記ブチルゴム配合物の100%加硫温度T100(200℃)で架橋密度が100%に達するまで加硫した以外は従来例と同様にして、加硫済みのタイヤ加硫用ブラダーを製造した。
【0025】
<実施例2>
加硫時の金型温度を3段階で変化させて、加硫開始時における第1の金型温度としての上記ブチルゴム配合物の50%加硫温度T50(140℃)で5分間保持して加硫を行った後、第2の金型温度としての上記ブチルゴム配合物の90%加硫温度T90(180℃)で5分間保持して加硫を行い、さらに、第3の金型温度としての上記ブチルゴム配合物の100%加硫温度T100(200℃)で9分間保持して加硫を行った以外は従来例と同様にして、加硫済みのタイヤ加硫用ブラダーを製造した。
【0026】
<比較例1>
架橋密度90%が達成されるまでの時間を1.5分とした以外は従来例と同様にして、加硫済みのタイヤ加硫用ブラダーを製造した。
【0027】
<実施例3>
190℃の一定温度で加硫を行い、架橋密度90%が達成されるまでの時間を3分とし、架橋密度100%が達成されるまでの時間を20分とした以外は従来例と同様にして、加硫済みのタイヤ加硫用ブラダーを製造した。
【0028】
<比較例2>
架橋密度90%が達成されるまでの時間を10分とし、架橋密度100%が達成されるまでの時間を20分とし、金型内部の加硫圧力を0.1MPaとした以外は実施例1と同様にして、加硫済みのタイヤ加硫用ブラダーを製造した。
【0029】
得られた各実施例および比較例のブラダーにつき、タイヤ製造に供した際の界面剥離の有無、および、製品ゲージにつき評価を行った。ブラダーの界面剥離は、タイヤを1回加硫した後に、ブラダーの状態を確認することにより評価しその結果を、下記表1中に示す。
【0030】
【表1】

*1)ゴム加硫速度T100:100%加硫温度T100に相当する架橋密度100%が達成されるまでの時間を示す。
*2)換算T90:90%加硫温度T90に相当する架橋密度90%が達成されるまでの時間を示す。
【0031】
上記表中に示すように、本発明に係る加硫圧力および加硫温度の条件を満足する各実施例のブラダーにおいては、界面剥離の発生がなく、かつ、製品ゲージが規格内に収まっていることが確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫のタイヤ加硫用ブラダーを金型内で加硫することにより加硫済みのタイヤ加硫用ブラダーを製造する方法において、
金型内部の加硫圧力を1.0MPa以上10MPa以下とし、前記タイヤ加硫用ブラダーを構成するゴム配合物の架橋密度90%が達成されるまでの時間を3分以上とすることを特徴とするタイヤ加硫用ブラダーの製造方法。
【請求項2】
加硫時の金型温度を2段階以上で変化させるとともに、加硫開始時における第1の金型温度を、前記ゴム配合物の50%加硫温度とする請求項1記載のタイヤ加硫用ブラダーの製造方法。
【請求項3】
前記第1の金型温度の保持時間を3分以上とする請求項2記載のタイヤ加硫用ブラダーの製造方法。
【請求項4】
前記第1の金型温度に続く第2の金型温度を、前記ゴム配合物の90%加硫温度とする請求項2または3記載のタイヤ加硫用ブラダーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−255562(P2011−255562A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130861(P2010−130861)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】