説明

タイヤ用補強材の製造方法

【課題】コード同士が均一に並んだタイヤ用補強材を、打ち込み状態の不良や断線等の問題を生ずることなく、従来に比し安定的に製造するための技術を提供する。
【解決手段】複数本のスチールコードがゴム中に埋設されてなるタイヤ用補強材の製造方法である。スチールコード1をインサータ14に設けられた複数の孔を通じて配列させて未加硫ゴムにより被覆するタイヤ用補強材の製造方法である。スチールコード1を、所定本数の束を単位とした束コードとしてゴム中に埋設するにあたり、インサータ14として、束コードが通過可能な孔を有するものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用補強材の製造方法(以下、単に「製造方法」とも称する)に関し、詳しくは、スチールコードを所定に配列させて未加硫ゴム中に埋設するゴムコーティング工程の改良に係るタイヤ用補強材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ベルト等のタイヤ用補強材は、スチールコード等の補強コードを所定配列にてゴム中に埋設することにより製造される。このゴムコーティングの工程は、通常、補強コードをコムロールと呼ばれる櫛型のジグに通して配列させた後、未加硫ゴムで被覆することにより行われる。
【0003】
かかるタイヤ補強材の製造方法に関しては、例えば、特許文献1に、複数本の補強層用コードを引き出した後、所望の分布パターンに配列し、インシュレーション方式により未加硫ゴムで同時にコーティングして、コーティングされた補強層の外郭形状を所望の形状に成形する空気入りタイヤ用補強層の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、引き揃え配置した複数本のスチール素線(ベルトコード)を単位として、複数単位のコードを同一平面内に所定のピッチで相互に平行に配置し、それらのコードの軸線方向への変位下で、全てのコードに、それらの引き揃え配置の後直ちに、未加硫ゴムを、インシュレーション方式により、所要の外輪部形状で一体的にコーティングするベルトコードのゴムコーティング方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−15717号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2002−113793号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のゴムコーティング方法により、一般的な略均一の打ち込み状態を有するトリート(補強材)を製造することは可能である。しかしながらこの方法では困難であり、特に、複数本のコードを束にして用いるいわゆる束コードを安定して製造することは困難であり、一つの溝の中で補強コードが交差して、断線等の不具合の発生原因となる場合や、コードがばらけてしまい所望の性状を確保することが困難となる場合もあった。
【0005】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、コード同士が所望の打ち込み性状にて配列したタイヤ用補強材を、断線等の問題を生ずることなく、従来に比し安定的に製造するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、下記構成とすることにより上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のタイヤ用補強材の製造方法は、複数本のスチールコードがゴム中に埋設されてなるタイヤ用補強材の製造方法であって、該スチールコードをインサータに設けられた複数の孔を通じて配列させて未加硫ゴムにより被覆するタイヤ用補強材の製造方法において、
前記スチールコードを、所定本数の束を単位とした束コードとして前記ゴム中に埋設するにあたり、前記インサータとして、該束コードが通過可能な孔を有するものを用いることを特徴とするものである。
【0008】
本発明は、前記スチールコードとして無撚りコードを用いる場合に、より有効である。また、前記インサータの孔寸法は、前記束コード内でのスチールコードの配列方向およびそれに直交する方向の双方に、それぞれ各方向における該束コード断面の径aおよびcの2倍以内とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記構成としたことにより、コード同士が所望の打ち込み性状にて配列したタイヤ用補強材を、断線等の問題を生ずることなく、従来に比し安定的に製造することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適実施形態について詳細に説明する。
本発明は、複数本のスチールコードがゴム中に埋設されてなるタイヤ用補強材の製造方法であって、スチールコードをインサータに設けられた複数の孔を通じて配列させて未加硫ゴムにより被覆するものである。
【0011】
本発明においては、スチールコードを、所定本数の束を単位とした束コードとして前記ゴム中に埋設するにあたり、インサータとして、束コードが通過可能な孔を有するものを用いる点が重要である。束コードを、その断面形状より大きな一つの孔に通した上でゴムにより被覆することで、束コードを構成するスチールコード同士の密着性が増すとともにコード同士が均一に配列されるために、コード周りのゴム被覆性が向上して、トリート(補強材)中でも束にしたコード性状を良好に得ることができる。
【0012】
インサータの孔は、上記束コードが通過可能なものであればよいが、好適には、上記束コードの断面形状より大きくかつ、束コード内でのスチールコードの配列方向およびそれに直交する方向の双方に、それぞれ各方向における束コード断面の径a,cの2倍以内を満足する寸法とする(図2等参照)。インサータの孔寸法が束コードより小さいと通線ができなくなる一方、孔寸法があまりに大きいと、孔の中でスチールコードが自由に動いてしまうために、混線等が発生して設計値通りのトリートを得ることができなくなるおそれがある。
【0013】
孔の形状は、束コード形状にもよるが、円、楕円、正方形、長方形等の任意の形状とすることができ、特に制限されない。また、正方形や長方形等とする場合、角に丸みを持たせたり、孔の入口と出口とでテーパーを付けるなどの方法により、孔を作製する際の加工性や、トリート作製時の作業性を改善することができる。また、インサータにおける孔と孔との間の間隔は、均一、不均一、もしくは徐々に狭める、広げる等任意に決定することができる。
【0014】
なお、インサータの素材としては、ステンレス(SK材)、超硬等、任意のもので構わないが、工作材料として知られる硬度の高いものを用いる必要がある。
【0015】
本発明においては、束コードを、未加硫ゴムによる被覆するに先立って、上記特定の孔寸法を有するインサータを用いて配列させる点のみが重要であり、これにより製造条件の如何によらず、設計値通りにスチールコードの良好な打ち込み性状を得ることができるものである。ゴムコーティングの方法についても、従来一般的なカレンダーを用いた方式、および、インシュレーション方式のいずれを用いてもよく、特に制限されるものではない。
【0016】
図1に、本発明において使用可能なインシュレーション方式を用いたタイヤ用補強材の製造設備の一例の概略図を示す。図示する製造設備は、複数のボビン11から繰り出された複数本のスチールコード1を、ガイド板12を介してインシュレーション装置13内に導入して、未加硫ゴムによる被覆を行うものである。インシュレーション装置13には、スチールコード1の入口側にインサータ14が、出口側には口金15が、それぞれ配置されている。また、インシュレーション装置13の上部には、未加硫ゴムの挿入口16が設けられ、インサータ14と口金15との間で未加硫ゴムによるスチールコードの被覆が行われる。また、インシュレーション装置13の下流側には、所望に応じ巻取り装置17が配置されて、押出されたリボン状の補強材10が連続的に巻き取られる。
【0017】
本発明において、スチールコードとしては、フィラメントの単線からなる単線コード、複数本のフィラメントの撚り合わせからなる撚りコード、または撚らずに並列させた無撚りコードのいずれでもよい。さらに、単線コードの場合は直線であっても曲線部を有していてもよく、撚りコードの場合には単層撚りであっても複層撚りであってもよい。さらにまた、オープン撚り(コードを構成するフィラメントまたはストランド間に、少なくとも一箇所ゴムが侵入可能な隙間が存在するよう撚り合わされた構造)またはクローズ撚り等、従来から用いられているいかなる製法により得られたコード構造を有するものであってもよい。
【0018】
本発明におけるインサータの孔寸法は、具体的には例えば、図2〜図7に示すように設定することができる。図中、それぞれa:束コードの長径(束コード断面のスチールコードの配列方向の径)、b:孔の長径(スチールコードの配列方向の寸法)、c:束コードの短径(束コード断面のスチールコードの配列方向に直交する方向の径)、d:孔の短径(スチールコードの配列方向に直交する方向の寸法)を示す。したがって、本発明においては、いずれの場合においてもa<b<2.0a、かつ、c<d<2.0cを満足することが好ましい。
【0019】
このうち、図2は3本の単線コード21を並列に引き揃えてなる束コードの場合であり、図3は3本の単線コード22を山形に引き揃えてなる束コードの場合であり、図4は2本の単線コード23を配列方向に波型に型付けして引き揃えてなる束コードの場合である。また、図5は3本のフィラメント24を用いたスチールコード25を並列に引き揃えてなる束コードの場合であり、図6は3本のフィラメント26を用いたスチールコード27を山形に引き揃えてなる束コードの場合であり、図7は3本のフィラメント28を用いたスチールコード29の2本を配列方向に波型に型付けして引き揃えてなる束コードの場合である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に使用可能なインシュレーション方式を用いたタイヤ用補強材の製造設備の一例を示す概略図である。
【図2】インサータの孔寸法の具体例を示す断面図である。
【図3】インサータの孔寸法の他の具体例を示す断面図である。
【図4】インサータの孔寸法のさらに他の具体例を示す断面図である。
【図5】インサータの孔寸法のさらに他の具体例を示す断面図である。
【図6】インサータの孔寸法のさらに他の具体例を示す断面図である。
【図7】インサータの孔寸法のさらに他の具体例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 スチールコード
10 リボン状の補強材
11 ボビン
12 ガイド板
13 インシュレーション装置
14 インサータ
15 口金
16 未加硫ゴムの挿入口
17 巻取り装置
21〜23 単線コード
24,26,28 フィラメント
25,27,29 スチールコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のスチールコードがゴム中に埋設されてなるタイヤ用補強材の製造方法であって、該スチールコードをインサータに設けられた複数の孔を通じて配列させて未加硫ゴムにより被覆するタイヤ用補強材の製造方法において、
前記スチールコードを、所定本数の束を単位とした束コードとして前記ゴム中に埋設するにあたり、前記インサータとして、該束コードが通過可能な孔を有するものを用いることを特徴とするタイヤ用補強材の製造方法。
【請求項2】
前記スチールコードとして無撚りコードを用いる請求項1記載のタイヤ用補強材の製造方法。
【請求項3】
前記インサータの孔寸法を、前記束コード内でのスチールコードの配列方向およびそれに直交する方向の双方に、それぞれ各方向における該束コード断面の径aおよびcの2倍以内とする請求項1または2記載のタイヤ用補強材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−6520(P2009−6520A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168069(P2007−168069)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】