説明

タイヤ空気圧モニター装置

【課題】送信機の車輪位置を精度良く判定できるタイヤ空気圧モニター装置を提供する。
【解決手段】各車輪1FL、1FR、1RL、1RRに設けられ、検出された空気圧情報を無線信号にて送信する送信機2dと、各車輪と対応して車体側に設けられ、各車輪の回転位置を検出すると共に、通信線(CAN通信線7)へ所定の時間間隔で回転位置情報を出力する回転位置検出手段(車輪速センサ8FL,8FR,8RL,8RR、ABSCU6)と、送信機からの無線信号の受信情報(受信完了時刻)と、通信線を介して入力される車輪の回転位置情報とに基づいて、送信機の送信時(送信指令時刻)における回転位置を推定する回転位置推定手段と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の各タイヤの空気圧を監視するタイヤ空気圧モニター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各車輪のタイヤにそれぞれ取り付けられたタイヤ空気圧センサの送信機がどの車輪位置(車両に対するタイヤの取付け位置)にあるかを判定するタイヤ空気圧モニター装置が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−245982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
走行時には、送信機は車輪と共に回転すると共に、各車輪間で回転数に差が生じうる。よって、送信機の車輪位置を精度良く判定するためには、各車輪における送信機の回転位置(回転角度)を車体側で正確に検出することが好ましい。しかしながら、車体側で検出される車輪の回転位置情報が離散的に(所定の時間間隔をおいて散発的に)入力される場合、送信機の回転位置を車体側で正確に検出することが困難となり、送信機の車輪位置の判定精度が低下するおそれがある。本発明の目的は、送信機の車輪位置をより精度良く判定できるタイヤ空気圧モニター装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明では、送信機からの受信情報と、離散的に入力される車輪の回転位置情報とに基づいて、送信機の回転位置を推定する。
【発明の効果】
【0006】
よって、各車輪における送信機の回転位置を車体側で正確に検出することが可能となり、送信機の車輪位置をより精度良く判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】タイヤ空気圧モニター装置の構成図である。
【図2】TPMSセンサ2の構成図である。
【図3】TPMSデータの各フレームの送信方法を示す図である。
【図4】車輪位置判定制御を実施するためのTPMSCU4の制御ブロック図である。
【図5】TPMSセンサ2(送信機2d)の回転位置算出方法を示す図である。
【図6】TPMSセンサ2(送信機2d)の回転位置算出方法を示す図である。
【図7】分散特性値の算出方法を示す図である。
【図8】車輪位置判定制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】左前輪1FLのTPMSセンサ2FLの回転位置が最上点となったときの各車輪1FL,1FR,1RL,1RRの回転位置(ロータの歯数)とTPMSデータの受信回数との関係を示す図である。
【図10】各車輪1におけるNull点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するため形態を、図面に基づく実施例を用いて説明する。
〔実施例1〕
図1は、実施例1のタイヤ空気圧モニター装置の構成図である。図において、各符号の末尾のFLは左前輪、FRは右前輪、RLは左後輪、RRは右後輪に対応することを示す。以下の説明では、個別に説明する必要がない場合にはFL,FR,RL,RRの記載を省略する。
実施例1のタイヤ空気圧モニター装置は、TPMS(Tire Pressure Monitoring System)センサ2と、受信機3と、TPMSコントロールユニット(TPMSCU)4と、ディスプレイ5と、車輪速センサ(回転位置検出手段)8とを備える。TPMSセンサ2は各車輪1に装着され、受信機3、TPMSCU4、ディスプレイ5および車輪速センサ8は車体側に設けられている。
【0009】
TPMSセンサ2は、タイヤの空気バルブ(不図示)位置に取り付けられている。図2は、TPMSセンサ2の構成図である。TPMSセンサ2は、圧力センサ(タイヤ空気圧検出手段)2aと、加速度センサ(Gセンサ)2bと、センサコントロールユニット(センサCU)2cと、送信機2dと、ボタン電池2eとを備える。
圧力センサ2aは、タイヤの空気圧[kPa]を検出する。
Gセンサ2bは、タイヤに作用する遠心方向加速度[G]を検出する。
センサCU2cは、ボタン電池2eからの電力により動作し、圧力センサ2aにより検出されたタイヤの空気圧情報とセンサID(識別情報)とを含むTPMSデータを無線信号により送信機2dから送信する。実施例1では、センサIDを1〜4とする。
【0010】
センサCU2cは、Gセンサ2bにより検出された遠心方向加速度とあらかじめ設定された走行判定しきい値とを比較し、遠心方向加速度が走行判定しきい値未満の場合は車両停止と判定してTPMSデータの送信を停止する。一方、遠心方向加速度が走行判定しきい値以上の場合は車両が走行していると判定し、所定のタイミングでTPMSデータの送信を行う。
受信機3は、車両に1つ設けられており、各TPMSセンサ2から出力された無線信号を受信してデコードし、TPMSCU4へ出力する。
【0011】
TPMSCU4は、各TPMSデータを読み込み、TPMSデータのセンサIDから、不揮発性のメモリ4d(図3参照)に記憶した各センサIDと各車輪位置(FL,FR,RL,RR)との対応関係を参照して当該TPMSデータがどの車輪位置に対応するものであるのかを判定し、当該TPMSデータに含まれるタイヤの空気圧を対応する車輪位置の空気圧としてディスプレイ5に表示する。また、タイヤの空気圧が下限値を下回った場合には、表示色変更、点滅表示や警告音などによりドライバに空気圧の低下を知らせる。
【0012】
各車輪速センサ8は、車輪1の1回転について所定数z(例えば、z=48)の車輪速パルスを発生するパルス発生器であり、車輪1と同期して回転する歯車状のロータと、車体側であってロータの外周に対向配置されたステータ(永久磁石およびコイル)とから構成される。ロータが回転すると、ロータの凹凸面がステータの周りに形成された磁界を横切ることによりその磁束密度が変化してコイルに起電力が生じ、この電圧変化を車輪速パルス信号としてABSCU6に出力する。
ABSCU6は、各車輪速センサ8からの車輪速パルスに基づいて、各車輪1の車輪速を検出し、ある車輪がロック傾向にある場合、図外のABSアクチュエータを作動させて当該車輪のホイルシリンダ圧を増減または保持してロック傾向を抑制するアンチスキッドブレーキ制御を実施する。ABSCU6は、所定の時間間隔ΔT0(例えば、20msecの周期)で車輪速パルスのカウント値をCAN通信線7に出力する。
【0013】
上記のように、TPMSCU4は、メモリ4dに記憶した各センサIDと各車輪位置との対応関係に基づいて、受信したTPMSデータがどの車輪のデータであるのかを判定する。よって、車両停止中にタイヤローテーションが行われた場合、メモリ4dに記憶された各センサIDと各車輪位置との対応関係が実際の対応関係と合致せず、TPMSデータがどの車輪のデータであるのかがわからなくなる。ここで、「タイヤローテーション」とは、タイヤのトレッド摩耗を均一にし、寿命(トレッドライフ)を延ばすため、タイヤの装着位置を複数の車輪間で変えることをいう。例えば、乗用車では、一般的に、左右のタイヤ位置をクロスして前後輪を入れ替える。
そこで、実施例1では、タイヤローテーション後の各センサIDと各車輪位置との対応関係をメモリ4dへの記憶更新により登録するために、タイヤローテーションが行われた可能性の有無を判断する。可能性がある場合、各TPMSセンサ2側ではTPMSデータの送信周期を変更し、TPMSCU4側ではTPMSデータの送信周期と各車輪速パルスとに基づいて各TPMSセンサ2がどの車輪のものであるのかを判定する。
【0014】
[定位置送信モード]
TPMSセンサ2のセンサCU2cは、走行開始直前の車両停止判定時間が所定時間T1(例えば、15分)以上である場合、タイヤローテーションが行われた可能性があると判断する。
センサCU2cは、走行開始直前の車両停止判定時間が所定時間T1未満である場合、一定間隔(例えば、1分間隔)でTPMSデータを送信する「通常モード」を実施する。一方、センサCU2cは、車両停止判定時間が所定時間T1以上である場合、通常モードの送信間隔よりも短い間隔(例えば、約16秒間隔)であって、一定の回転位置でTPMSデータを送信する「定位置送信モード」を実施する。
【0015】
センサCU2cは、定位置送信モードを、TPMSデータの送信回数が所定回数N1(例えば、40回)に達するまで実施する。センサCU2cは、送信回数が所定回数N1に達した場合、通常モードへ移行する。TPMSデータの送信回数が所定回数N1に達する前に車両停止と判定した場合、車両停止判定時間が所定時間T1(15分)未満であるときは送信回数が所定回数N1に達するまで車両停止前の定位置送信モードを継続し、車両停止判定時間が所定時間T1以上であるときは車両停止前の定位置送信モードの継続をキャンセルして新たに定位置送信モードを開始する。
【0016】
センサCU2cは、定位置送信モード中、Gセンサ2bにより検出された遠心方向加速度の重力加速度依存成分に基づいて、定位置送信モードにおけるTPMSデータの送信タイミングを決定する。TPMSセンサ2に作用する遠心方向加速度は、車輪1の加減速によって変化するが、その重力加速度依存成分は常に一定であり、最上点で+1[G]、最下点で-1[G]、最上点および最下点に対し90度の位置で0[G]となる波形を示す。すなわち、遠心方向加速度の重力加速度成分の大きさ、方向をモニターすることで、TPMSセンサ2の回転位置を把握できる。よって、例えば、重力加速度依存成分のピーク(+1[G])でTPMSデータを出力することで、最上点でTPMSデータを出力する。
【0017】
定位置送信モードでは、センサCU2cは、図3に示すように、TPMSデータの1回の送信につき、タイヤの空気圧情報とセンサIDとを含む同一内容のフレームを複数、具体的には3つのフレームを送信する。第1フレームを最上点で送信し、第2フレームを第1フレームの送信から第1の時間間隔ΔT1(例えば、100msec)後に送信し、第3フレームを第2フレームの送信から第2の時間間隔ΔT2(例えば、140msec)後に送信する。各フレームには、そのフレームが何番目のフレームであるか分るように、識別情報としてフレーム番号(1〜3)を付す。
【0018】
[オートラーニングモード]
TPMSCU4は、イグニッションスイッチのOFFからONまでの経過時間が所定時間T2(例えば、15分)以上である場合、タイヤローテーションが行われた可能性があると判断する。
TPMSCU4は、イグニッションスイッチのOFFからONまでの経過時間が所定時間T2未満である場合、各TPMSセンサ2から送信されたTPMSデータの空気圧情報に基づいて各車輪1のタイヤの空気圧を監視する「モニターモード」を実施する。一方、イグニッションスイッチのOFFからONまでの経過時間が所定時間T2以上である場合、各TPMSセンサ2の車輪位置を判定する「オートラーニングモード」を実施する。オートラーニングモードは、すべてのTPMSセンサ2の車輪位置を判定するまで、または、当該モードの開始から所定の累積走行時間(例えば、8分)が経過するまで実施する。すべてのTPMSセンサ2の車輪位置を判定した場合、または所定の累積走行時間が経過した場合、モニターモードへ移行する。
【0019】
なお、オートラーニングモード中であっても、TPMSデータに含まれる空気圧情報からタイヤの空気圧の監視は可能である。よって、オートラーニングモード中は現在メモリ4dに記憶されている各センサIDと各車輪位置との対応関係に基づいて空気圧の表示、空気圧低下の警告を行う。
TPMSCU4は、オートラーニングモード中、ABSコントロールユニット(ABSCU)6からCAN通信線7を介して車輪速パルスのカウント値を入力し、以下に示すような車輪位置判定制御を実施する。
【0020】
[車輪位置判定制御]
図4は、車輪位置判定制御を実施するためのTPMSCU4の制御ブロック図である。TPMSCU4は、回転位置演算部4aと、分散演算部4bと、車輪位置判定部(車輪位置判定手段)4cと、メモリ4dとを備える。
回転位置演算部4aは、受信機3から出力されたデコード後のTPMSデータと、ABSCU6からCAN通信線7に出力された各車輪速パルスのカウント値を入力し、各TPMSセンサ2(送信機2d)の送信時(回転位置が最上点となったとき)における各車輪1の回転位置(ロータの歯数z)を演算する。ここで、「ロータの歯数」とは、車輪速センサ8がロータのどの歯をカウントしているかを示すものであり、車輪速パルスのカウント値をタイヤ1回転分のカウント値(1回転分の歯数z=48)で除算した余りで求めることができる。実施例1では、オートラーニングモードを開始してから最初に入力された車輪速パルスのカウント値を1回転分の歯数(=48)で除算した余りを基準歯数とし、以後は基準歯数からの車輪速パルスのカウント数(現在のカウント値-基準歯数)に基づいて歯数を決定する。
【0021】
図5は、回転位置演算部4aにて実行される、各車輪1におけるTPMSセンサ2(送信機2d)の回転位置の算出方法を示す図である。
回転位置演算部4aは、TPMSデータ(第1〜第3フレーム)を受信する都度、その受信時刻と内容(送信データ)を記憶する。また、CAN通信線7を介して車輪速パルスのカウント値の入力を受ける都度、その入力時刻とカウント値を記憶する。
【0022】
まず、第1フレームを受信した場合の算出方法を説明する。図5において、TPMSデータ(第1フレーム)の受信を開始する直前に車輪速パルスのカウント値(前回値)が入力された時刻をt1、TPMSセンサ2の回転位置が最上点となってTPMSデータ(第1フレーム)の送信が指令された時刻をt2、TPMSセンサ2が実際にTPMSデータ(第1フレーム)の送信を開始した時刻(TPMSCU4が受信を開始した時刻と同じとみなせる。)をt3、TPMSCU4がTPMSデータ(第1フレーム)の受信を完了した時刻をt4、TPMSデータ(第1フレーム)の受信を完了した直後に車輪速パルスのカウント値(今回値)が入力された時刻をt5とする。回転位置演算部4aは、時刻t1,t4,t5を記憶すると共に、時刻t4からTPMSデータ(第1フレーム)のデータ長(既定値としての送信時間Δt1であり、例えば、約10msec)を減算して時刻t3を算出する(t4 -Δt1 = t3)。また、時刻t3から送信時のタイムラグΔt0(予め実験等により求めることができる。)を減算して時刻t2を算出する(t3 -Δt0 = t2)。なお、時刻t4から時刻t2を算出するのではなく、時刻t3を直接検出・記憶して、この時刻t3から時刻t2を算出することとしてもよい。
よって、時刻t1でのロータの歯数をzt1、時刻t2での歯数をzt2、t5での歯数をzt5とすると、
(t2 - t1) / (t5 - t1) = (zt2 - zt1) / (zt5 - zt1)
が成立する。
zt2 - zt1 = (zt5 - zt1) × (t2 - t1) / (t5 - t1)
であるから、TPMSセンサ2の回転位置が最上点となって送信が指令された時刻t2の歯数zt2は、
zt2 = zt1 + (zt5 - zt1) × (t2 - t1) / (t5 - t1) ・・・(1)
により算出することができる。
なお、車輪速パルスのカウント値がTPMSデータの送信(受信)中に入力されるような場合(図6参照)もある。この場合も、TPMSデータを受信する直前に車輪速パルスのカウント値が入力された時刻t1とTPMSデータを受信した直後に車輪速パルスのカウント値が入力された時刻t5とに基づき、上記式(1)を用いて時刻t2の歯数zt2を算出することができる。
以上のように、回転位置演算部4aは、各車輪1について、送信機2dからの無線信号(送信データ)の受信情報(受信完了時刻t4)と、CAN通信線7を介して入力される車輪1の回転位置情報(入力時刻t1,t5、歯数zt1,zt5)とに基づいて、送信機2dの送信時(送信指令時刻t2)における回転位置(歯数zt2)を推定する。
【0023】
次に、第1フレームを受信せず、第2フレームを受信した場合の算出方法を説明する。第2フレームは第1フレームの送信から100msec後、すなわち車輪速パルスのカウント値が入力される周期ΔT0(20msec)の5回分の時間間隔ΔT1後に送信される。よって、上記式(1)において5周期(ΔT0×5)前のzt1, zt5を用いれば、TPMSセンサ2の回転位置が最上点となったとき(第1フレームの送信が指令された時刻t2)の車輪1の回転位置zt2を算出することができる。具体的には、第2フレームの受信を開始する直前に車輪速パルスのカウント値(前回値)が入力された時刻をt1'、第1フレームの送信指令時刻t2から100msec 経過して第2フレームの送信が指令された時刻をt2'、TPMSセンサ2が実際に第2フレームの送信を開始した時刻をt3'、TPMSCU4が第2フレームの受信を完了した時刻をt4'、第2フレームの受信が完了した直後に車輪速パルスのカウント値(今回値)が入力された時刻をt5'とする。回転位置演算部4aは、時刻t1',t4',t5'を記憶すると共に、フレーム番号から第2フレームを受信したと判定した場合、
t1= t1' - 100msec
t4= t4' - 100msec
t5= t5' - 100msec
により、仮に第1フレームが受信されたとした場合における時刻t1,t4,t5(図5参照)を算出する。また、回転位置演算部4aは、時刻t1での歯数zt1及びt5での歯数zt5を記憶している。さらに、
(t2 - t1)
= {t4 - (t4 - t3) - (t3 - t2) - t1}
= {t4' - (t4' - t3') - (t3' - t2') - t1'}
が成立する。すなわち、(t4' - t3') = (t4 - t3) であり、(t3' - t2') = (t3 - t2) である。よって、TPMSセンサ2の回転位置が最上点となった時刻t2の歯数zt2は、上記式(1)により算出できる。なお、第2フレームの送信指令時刻t2'における歯数を上記式(1)と同様の方法により算出した後、100msec分の歯数を減算することで、第1フレームの送信指令時刻t2における歯数zt2を算出することとしてもよい。
【0024】
次に、第1、第2フレームを受信せず、第3フレームを受信した場合の算出方法を説明する。第3フレームは第2フレームの送信から140msec後、すなわち車輪速パルスのカウント値が入力される周期ΔT0(20msec)の7回分(ΔT0×7)の時間間隔ΔT2後に送信される。よって、回転位置演算部4aは、フレーム番号から第3フレームを受信したと判定すると、上記式(1)において12(=5+7)周期(ΔT0×12)前のzt1, zt5を用い、第2フレームを受信した上記場合と同様にして、TPMSセンサ2の回転位置が最上点となったときの歯数zt2を算出する。
【0025】
なお、フレーム間の時間間隔ΔTは、車輪速パルスのカウント値の入力周期ΔT0(20msec)の倍数に限らず、任意の値を用いることができる。この場合も、TPMSセンサ2の回転位置が最上点となったとき(第1フレームの送信が指令された時刻t2)の歯数zt2を、送信機2dからの受信情報(第1フレーム以外のフレームの受信開始時刻ないし受信完了時刻)と、CAN通信線7を介して入力される回転位置情報(カウント値の入力時刻や歯数)とに基づいて算出することができる。実施例1では、フレーム間の時間間隔ΔT1,ΔT1をCAN通信線7からの入力周期ΔT0(20msec)の倍数(100msec ,140msec)としたため、演算を簡素化することができる。
【0026】
分散演算部4bは、回転位置演算部4aで演算された各車輪1の回転位置(歯数zt2)をセンサID毎にそれぞれ蓄積して回転位置データとし、センサID毎の各回転位置データのばらつき度合いを分散特性値として演算する。分散特性値の演算は、回転位置演算部4aにより同一センサIDの回転位置が算出される都度実施する。
図7は、分散特性値の算出方法を示す図である。実施例1では、2次元平面上に原点(0,0)を中心とした単位円(半径が1の円)を考え、各車輪1の回転位置θ[deg](= 2π× ロータの歯数 / 48)を、単位円の円周上の座標(cosθ,sinθ)に変換する。つまり、各車輪1の回転位置を、原点(0,0)を始点、座標(cosθ,sinθ)を終点とする長さ1のベクトルとみて、同じ回転位置データの各ベクトルの平均ベクトル(ave_cosθ,ave_sinθ)を求める。そして、平均ベクトルのスカラー量を回転位置データの分散特性値Xとして算出する。
(cosθ,sinθ) = (cos(2π×(zt2+1) /48),sin(2π×(zt2+1) /48))
よって、同一センサIDのTPMSデータの受信回数をn(nは正の整数)とすると、平均ベクトル(ave_cosθ,ave_sinθ)は、
(ave_cosθ,ave_sinθ) = ((Σ(cosθ))/n,(Σ(sinθ))/n)
となる。分散特性値Xは、
X = ave_cosθ2 + ave_sinθ2
で表すことができる。
車輪1の回転位置は周期性のある角度データである。平均ベクトルのスカラー量を分散特性値Xとして算出することで、周期性を回避して回転位置のばらつき度合いを求めることができる。
【0027】
車輪位置判定部4cは、分散演算部4bで演算された同一センサIDの各回転位置データの分散特性値Xを比較する。分散特性値Xの最高値が第1しきい値(例えば、0.57)よりも大きく、かつ、残り3つの分散特性値Xの値がすべて第2しきい値(例えば、0.37)未満となった場合、最高値の分散特性値Xと対応する回転位置データの車輪位置、すなわち、当該回転位置データを検出した車輪速センサ8の車輪位置を、当該回転位置データのセンサIDと対応するTPMSセンサ2の車輪位置と判定する。この判定をすべてのセンサIDで実施することで、各センサIDと各車輪位置との対応関係を求め、メモリ4dへの記憶更新により登録する。
単に分散特性値Xの最高値を選択するのではなく、最高値を第1しきい値(0.57)と比較することで、一定の判定精度を確保できる。さらに、最高値以外の分散特性値Xを第2しきい値(0.37)と比較することで、最高値と他の3値とに所定(0.2)以上の差があることを確認でき、判定精度をより高めることができる。このため、10回という少ない受信回数で判定精度の確保と判定時間の短縮化の両立を実現できる。
【0028】
[車輪位置判定制御処理]
図8は、実施例1の車輪位置判定制御処理の流れを示すフローチャートであり、以下、各ステップについて説明する。なお、以下の説明では、センサID=1の場合について説明するが、他のID(ID=2,3,4)についても並列して同様に車輪位置判定制御処理を行う。
ステップS1では、回転位置演算部4aにおいて、センサID=1のTPMSデータを受信する。第1〜第3フレームの少なくとも1つを受信すれば、TPMSデータを1回受信したものとする。
ステップS2では、回転位置演算部4aにおいて、受信データ(第1〜第3フレームのいずれか)の情報に基づき、各車輪1の回転位置を演算する。
【0029】
ステップS3では、分散演算部4bにおいて、各車輪1の回転位置データの分散特性値Xを演算する。
ステップS4では、センサID=1のTPMSデータを所定回数(例えば、10回)以上受信したか否かを判定し、YESの場合にはステップS5へ進み、NOの場合にはステップS1へ戻る。
ステップS5では、車輪位置判定部4cにおいて、分散特性値の最高値が第1しきい値0.57よりも大きく、かつ、残りの分散特性値の値が第2しきい値0.37未満であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS6へ進み、NOの場合にはステップS7へ進む。
【0030】
ステップS6では、車輪位置判定部4cにおいて、最高値の分散特性値と対応する回転位置データの車輪位置を、当該センサIDの車輪位置と判定し、オートラーニングモードを終了する。
ステップS7では、車輪位置判定部4cにおいて、オートラーニングモードを開始してから所定の累積走行時間(例えば、8分)が経過したか否かを判定する。NOの場合にはステップS1へ戻り、YESの場合にはオートラーニングモードを終了する。
車輪位置判定部4cは、所定の累積走行時間内にすべてのセンサIDについて車輪位置が判定できた場合は、各センサIDと各車輪位置との対応関係をメモリ4dへの記憶更新により登録する。一方、所定の累積走行時間内にすべてのセンサIDについて車輪位置が判定できなかった場合は、現在メモリ4dに記憶された各センサIDと各車輪位置との対応関係を継続して使用する。
【0031】
次に、作用を説明する。
各TPMSセンサ2は、走行開始直前の車両停止判定時間が15分以上である場合、タイヤローテーションが行われた可能性があると判定し、通常モードから定位置送信モードへ移行する。定位置送信モードにおいて、各TPMSセンサ2は、前回の送信時刻から16秒経過し、かつ、自身の回転位置が最上点となったときにTPMSデータを送信する。一方、TPMSCU4は、イグニッションスイッチのOFFからONまでの経過時間が15分以上である場合、モニターモードからオートラーニングモードへ移行する。オートラーニングモードにおいて、TPMSCU4は、各TPMSセンサ2からTPMSデータを受信する都度、車輪速パルスのカウント値の入力時刻、当該TPMSデータの受信完了時刻等から、当該TPMSセンサ2の回転位置が最上点となったときの各車輪1の回転位置(ロータの歯数)を演算する。TPMSCU4は、この演算を10回以上繰り返して回転位置データとして蓄積し、各回転位置データのうち最もばらつき度合いが小さな回転位置データに対応する車輪位置を当該TPMSセンサ2の車輪位置と判定する。
【0032】
ここで、TPMSデータの送信間隔を16秒+αとすることで、TPMSデータを10回以上受信するまでにある程度の累積走行距離を確保できる。よって、自輪と他輪の分散特性値Xに十分な差を出すことができ、車輪位置を精度良く判定できる。
TPMSセンサ2は、定位置送信モード時にTPMSデータを40回送信すると通常モードへ移行する。TPMSセンサ2は、TPMSデータの送信時に最もボタン電池2eの電力を消費する。よって、十分な累積走行時間が経過しても各車輪位置が判定できない場合は、定位置送信モードを終了して通常モードへ移行することで、ボタン電池2eの電池寿命の低下を抑制できる。
一方、TPMSCU4は、オートラーニングモード開始からの累積走行時間が8分を経過しても各センサIDと各車輪位置との対応関係を判定できない場合は、オートラーニングモードを終了してモニターモードへ移行する。累積走行時間が8分を経過したときにTPMSセンサ2から送信された総TPMSデータ数は30弱であり、TPMSセンサ2の定位置送信モード終了にほぼ同期してオートラーニングモードを終了できる。
【0033】
従来のタイヤ空気圧モニター装置のうち、受信機をTPMSセンサと同数設けて各受信機と近接配置し、受信した無線信号の電波強度(の差)に基づいて各TPMSセンサの車輪位置を判定するものが知られている。しかし、この装置では、センサ出力、受信機感度ばらつき、ハーネスアンテナ効果を考慮した受信機のレイアウトが必要となり、受信環境やレイアウトによって性能が左右されてしまう。また、4つの受信機が必要であるため、コストが高くなる。
これに対し、実施例1のタイヤ空気圧モニター装置では、電波強度(の差)を用いることなく各TPMSセンサ2の車輪位置を判別できる。よって、受信環境やレイアウトに依らず各TPMSセンサ2の車輪位置を判定できる。また、受信機3が1つで済むため、コストを低く抑えることができる。
【0034】
また、従来のタイヤ空気圧モニター装置のうち、各TPMSセンサに傾斜センサを設け、各TPMSセンサの車輪位置と傾斜角との関係を用いて各TPMSセンサの車輪位置を判定するものが知られている(例えば特許文献1)。しかし、この装置では、走行に応じて4輪の回転数差が生じることで、各TPMSセンサの車輪位置と傾斜角との対応関係が変化する。よって、各TPMSセンサの車輪位置を精度良く判定できない。すなわち、車両の走行時、各車輪1の回転数は、旋回時の内外輪差、車輪1のロックおよびスリップ、タイヤの空気圧差によって差が生じる。なお、直進走行中であっても、ドライバによる微少な修正舵や左右路面状態の違い等により、前後輪1FL,1FR間および左右輪1RL,1RR間に回転数差が生じることがわかっている。つまり、各車輪1の回転数は、走行に応じて差が生じる。
【0035】
これに対し、実施例1では、TPMSセンサ2と車輪速センサ8(のロータの歯)は一体に回転するため、あるTPMSセンサ2の出力周期に対し、同一輪の車輪速センサ8の出力周期は、走行距離や走行状態にかかわらず常に同期する。この点に着目し、実施例1では、車輪1側で検出したTPMSセンサ2の回転位置(TPMSセンサ2の出力)と、車体側で検出したTPMSセンサ2の回転位置(車輪速センサ8の出力)との対応関係によりTPMSセンサ2の車輪位置を判定する。具体的には、車輪1側のTPMSセンサ2は、Gセンサ2bにより検出された遠心方向加速度の重力加速度依存成分に基づいて車輪1の回転位置を検出し、その回転位置が所定の基準位置(実施例1では最上点)となったときにTPMSデータを送信する。車体側のTPMSCU4は、各TPMSセンサ2からTPMSデータを受信する都度、そのTPMSデータの送信時(すなわちそのTPMSセンサ2が基準位置=最上点となったとき)の各車輪1の回転位置(ロータの歯数zt2)を演算する。
走行中、あるTPMSセンサ2(例えばID=1)の送信に対応して演算される各車輪1の回転位置(ロータの歯数zt2)が、ある車輪1(例えば左前輪1FL)においてのみ一定範囲内に限定されているとする。この場合、この車輪1(左前輪1FL)において、車体側で検出されるTPMSセンサ2の回転位置(上記演算値zt2)と、車輪1側で検出されるTPMSセンサ2の回転位置(ID=1のTPMSセンサ2が送信を行う基準位置=最上点)とが一対一に対応していることになる。よって、上記の場合、上記TPMSセンサ2(ID=1)の車輪位置が上記車輪1(左前輪1FL)であると判定することができる。
【0036】
このように、TPMSデータの送信周期に対する各車輪1の回転位置データのばらつき度合いを見ることで、各TPMSセンサ2の車輪位置を精度良く判定できる。図9は、左前輪1FLのTPMSセンサ2FLの回転位置が最上点となったときの各車輪1FL,1FR,1RL,1RRの回転位置(ロータの歯数)とTPMSデータの受信回数との関係を示す図である。(a)は左前輪1FLの車輪速センサ8FL、(b)は右前輪1FRの車輪速センサ8FR、(c)は左後輪1RLの車輪速センサ8RL、(d)は右後輪1RRの車輪速センサ8RRに対応する。図9から明らかなように、他輪(右前輪1FR,左後輪1RL,右後輪1RR)の車輪速センサ8FR,8RL,8RRから得られた車輪位置(歯数)はばらつき度合いが大きい。これに対し、自輪(左前輪1FL)の車輪速センサ8FLから得られた車輪位置はばらつき度合いが最小となり、TPMSセンサ2FLの出力周期と車輪速センサ8FLの出力周期とがほぼ同期している。
【0037】
なお、車輪1側で検出した回転位置(TPMSセンサ2の出力)と、車体側で検出した回転位置(車輪速センサ8の出力)との比較によりTPMSセンサ2の車輪位置を判定できればよい。よって、TPMSセンサ2の出力に対する各車輪1の車輪速センサ8の出力のばらつき度合いを見る方法は、実施例1のものに限られない。例えば、分散特性値Xを必ずしも用いなくてもよい。具体的には、あるTPMSセンサ2の出力(回転位置)と各車輪1の車輪速センサ8の出力(回転位置)との相対変化(相対回転位置の変化)を監視する。所定距離走行後に上記相対回転位置の変化が最も小さな回転位置を出力した車輪速センサ8があれば、この車輪速センサ8に対応する車輪位置を、当該TPMSセンサ2の車輪位置と判定することができる。実施例1では、分散特性値Xを用いて上記ばらつき度合いを見ることで、各TPMSセンサ2の車輪位置をより精度良く判定できる。
【0038】
なお、TPMSセンサ2のGセンサ2bとして、車輪1の遠心方向の加速度ではなく、例えば回転方向(遠心方向に対して垂直方向)の加速度を検出するGセンサを用いてもよい。また、TPMSセンサ2が送信(出力)を行う基準位置は最上点でなく、他の回転位置、例えば車輪1の最前点や最後点や最下点であってもよい。実施例1では、TPMSセンサ2の回転位置が最上点にあることを、Gセンサ2bにより検出される遠心方向加速度の重力加速度依存成分から算出する。Gセンサ2bは、既存のタイヤ空気圧モニター装置において、停車および走行判定に一般的に用いられているため、既存のTPMSセンサを流用でき、TPMSセンサ2側に新たなセンサを追加するコストを省くことができる。また、最上点を基準位置とすることで、TPMSセンサ2の回転位置が基準位置にあることをGセンサ2bによって容易に判別することができる。
さらに、実施例1では、TPMSCU4において、各車輪1の回転位置を、車輪速センサ8の出力(車輪速パルスのカウント値)から算出する。ABSユニットは、車両のほとんどに搭載されており、車輪速センサ8は、ABSユニットに必須の構成であるから、車両側に新たなセンサを追加するコストを省くことができる。
【0039】
しかし、既存のシステムを利用する場合、車輪速センサ8が出力する車輪速パルスは、ABSCU6からCAN通信線7を介して離散的なカウント値として、所定周期ΔT0でTPMSCU4に入力される。よって、TPMSセンサ2からTPMSCU4への送信タイミングと、TPMSCU4への車輪速パルスのカウント値の入力タイミングとが一致しないこととなる。図5に示すように、車輪速パルスのカウント値が入力される時刻t1,t5と、TPMSセンサ2の回転位置が基準位置(最上点)となってTPMSデータの送信が指令される時刻t2との間には、ずれ(タイムラグ)がある。このため、TPMSセンサ2の回転位置が基準位置(最上点)となったとき(すなわち当該TPMSセンサ2の送信時)の各車輪1の回転位置(ロータの歯数)を、車輪速センサ8の車輪速パルスのカウント値に基づき、正確に演算することができない。言換えると、車輪1側で検出したTPMSセンサ2の回転位置(最上点)と車体側で検出した車輪1の回転位置(ロータの歯番)とを対応付ける際、CAN通信線7から入力されるカウント値をそのまま車輪1の回転位置として利用すると、対応付けが不正確となる。よって、TPMSセンサ2の車輪位置の判定精度が低下するおそれがある。なお、ABSCU6からTPMSCU4へのカウント値の入力周期ΔT0を短くすれば、TPMSCU4へのカウント値の入力タイミングをTPMSセンサ2からTPMSCU4への送信タイミングに近づけ、判定精度を向上できるとも思われる。しかし、周期ΔT0を短くするためにはCAN通信線7を介した通信速度を格段に上げる必要があり、マイコン(CU)等のコストが高くなる。
【0040】
これに対し、実施例1では、TPMSCU4(回転位置演算部4a)は、TPMSセンサ2からの受信情報(受信完了時刻t4)と、所定周期ΔT0(20msec)でTPMSCU4に離散的に入力される車輪1の回転位置情報(入力時刻t1,t5、歯数zt1,zt5)とに基づいて、TPMSセンサ2の回転位置(歯数zt2)を推定する。具体的には、TPMSセンサ2の回転位置が基準位置(最上点)となった時刻t2の歯数zt2を、上記式(1)により算出する。
よって、車体側で車輪1の回転位置(車輪速パルスのカウント値)を離散的に検出する場合でも、各TPMSセンサ2の回転位置(TPMSセンサ2が基準位置(最上点)となったときの各車輪1の回転位置(歯数zt2))を精度良く推定することができる。このため、車体側で推定したTPMSセンサ2の送信時における車輪1の回転位置(ロータの歯数)と、車輪側で検出したTPMSセンサ2の送信時における車輪1の回転位置(最上点)とを精度良く対応づけることができる。したがって、既存のシステムを利用してコスト増大を抑制しつつ、TPMSセンサ2の車輪位置を精度良く推定することができる。
【0041】
なお、TPMSデータの送信開始時ではなく、受信完了時における車輪1の回転位置(ロータの歯数z)を演算することとしてもよい。すなわち、TPMSデータの送信時間Δt1 =(t4-t3)をゼロとみなして、下記式(2)により時刻t4における回転位置zt4を算出し、これをセンサID毎の各回転位置データのばらつき度合いを判定するために用いることとしてもよい。
zt4 = zt1 + (zt5 - zt1) × (t4 - t1) / (t5 - t1) ・・・(2)
実施例1では、TPMSデータの送信時間Δt1を考慮して、式(1)により回転位置zt2を算出する。よって、各TPMSセンサ2の回転位置が基準位置(最上点)となったときの各車輪1の回転位置(歯数)を実際に即してより精度良く演算することができる。
【0042】
また、TPMSデータの送信指令時ではなく、実際の送信開始時における車輪1の回転位置(ロータの歯数z)を演算することとしてもよい。すなわち、TPMSセンサ2の送信遅れ(タイムラグΔt0)をゼロとみなして、下記式(3)により時刻t3における回転位置zt3を算出し、これをセンサID毎の各回転位置データのばらつき度合いを判定するために用いることとしてもよい。
zt3 = zt1 + (zt5 - zt1) × (t3 - t1) / (t5 - t1) ・・・(3)
実施例1では、TPMSセンサ2の送信指令から実際の送信までのタイムラグΔt0(= t3-t2)による誤差を考慮し、式(1)により回転位置zt2を算出して送信遅れ分Δt0を補正する。よって、各TPMSセンサ2の回転位置が実際に基準位置(最上点)となったときの各車輪1の回転位置(歯数)をより精度良く演算することができる。なお、タイムラグΔt0の情報は、TPMSセンサ2から送信されるデータと共にTPMSCU4(回転位置演算部4a)に入力してもよいし、TPMSCU4に予め記憶しておいてもよい。
【0043】
実施例1で、TPMSセンサ2(送信機2d)は、基準位置(最上点)で送信する。ここで、図10で一例を示すように、車輪1における送信機2dの回転位置(回転角度)には、受信機3が受信する電波強度が最低となるポイントないし領域(Null点)が(場合によっては複数)存在する。送信機2dがデータを送信する基準位置(最上点)がNull点の近傍に位置すると、送信されたデータを受信機3が受信することが困難となる。よって、TPMSセンサ2(送信機2d)の送信時における車輪1の回転位置を車体側で特定することができない場合がある。このため、オートラーニングモードにおいてTPMSセンサ2の車輪位置を精度良く推定することができなかったり、推定完了までの時間が延びたりするおそれがある。ここで、受信確率を向上させるため、TPMSセンサ2のデータを重複し、同一内容の複数のフレームとして送信機2dから送信することが考えられる。しかし、複数のフレームは異なる回転位置で送信されることとなる。このため、単にデータを重複しただけでは、受信確率が向上したとしても、受信されるフレームがどの回転位置で送信されたものであるか分らなくなるという不都合がある。
【0044】
これに対し、実施例1では、TPMSセンサ2は、TPMSセンサ2の送信データを重複して第1〜第3フレームとすると共に、回転位置演算部4aは、第1〜第3フレームのうち受信されたものの受信情報に基づいて、送信機2dの送信時における回転位置を推定する。具体的には、図3に示すように、TPMSセンサ2は、TPMSデータの1回の送信につき、同一内容の第1〜第3フレームを、所定の時間間隔ΔT1(100msec),ΔT2(140msec)で、かつ送信順番を示すフレーム番号(1〜3)をそれぞれ付して送信する。第1フレームを基準位置(最上点)で送信する。この第1フレームの送信時におけるTPMSセンサ2の回転位置(最上点)を、車輪位置判定のための基準位置とする。回転位置演算部4aは、第1フレームが受信されなかった場合でも、第2または第3フレームが受信されたときは、上記時間間隔ΔT1,ΔT2とフレーム番号(2,3)とに基づき、TPMSセンサ2が基準位置(最上点)となった時刻(TPMSセンサ2が第1フレームを出力した時刻)t2の歯数zt2を、上記式(1)により算出する。
このように、TPMSセンサ2のデータを重複し、複数のフレームとする。よって、例えば第1フレームの送信位置(最上点)がNull点の近傍に位置する場合でも、他のフレーム(第2,第3フレーム)を受信できるため、受信確率を向上できる。また、各フレームが回転位置情報(フレーム番号)を含むことで、基準位置(歯数zt2)を、受信されたフレーム(第2フレームや第3フレーム)に基づき演算することができる。すなわち、車輪位置判定の基準となる回転位置(基準位置)を、受信した任意のフレームに基づき特定できるようにした。よって、TPMSセンサ2の車輪位置をより精度良く推定し、早期にオートラーニングモードを完了することができる。
【0045】
なお、フレームの数は3に限らず、他の数(例えば4等)でもよい。また、実施例1では各フレームを所定の時間間隔ΔT1,ΔT2で送信することとしたが、所定の角度間隔(例えば90度)で送信することとしてもよい。この場合も、各フレームが送信された回転位置をフレーム番号により特定することができる。
また、実施例1では受信されたフレームに基づき基準位置(第1フレームの送信位置である最上点)を演算することとしたが、基準位置を用いず、フレーム毎に、TPMSセンサ2の回転位置と車体側で検出した車輪1の回転位置(ロータの歯番)とを対応付けることとしてもよい。例えば、各フレームの送信時における送信機2dの(Gセンサ2bの検出値に基づき演算される)回転位置情報を各フレームにそれぞれ付す。そうすれば、受信されたフレームに含まれる上記回転位置情報と、車体側で(例えば上記式(1)を用いて)演算される各フレームの送信時における送信機2dの回転位置(歯数)との対応関係に基づき、TPMSセンサ2の車輪位置を判定することができる。言換えると、TPMSセンサ2のセンサCU2cは、車両停止判定時間が所定時間T1以上である場合、通常モードの送信間隔よりも短い間隔(例えば、約16秒間隔)であって、任意の回転位置でTPMSデータを送信することとしてもよい。
【0046】
次に、効果を説明する。
実施例1のタイヤ空気圧モニター装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 各タイヤの空気圧を監視するタイヤ空気圧モニター装置であって、各車輪1のタイヤに装着され、タイヤの空気圧を検出するタイヤ空気圧検出手段(圧力センサ2a)と、各車輪1に設けられ、検出された空気圧情報を無線信号にて送信し、この無線信号に各送信機2d固有の識別情報(センサID)を含める送信機2dと、車体側に設けられ、無線信号を受信する受信機3と、各車輪1と対応して車体側に設けられ、各車輪1の回転位置(車輪速パルス)を検出すると共に、通信線(CAN通信線7)へ所定の時間間隔ΔT0(周期20msec)で回転位置情報(車輪速パルスのカウント値)を出力する回転位置検出手段(車輪速センサ8、ABSCU6)と、送信機2dからの無線信号の受信情報(受信開始時刻t3または受信完了時刻t4)と、通信線(CAN通信線7)を介して入力される車輪1の回転位置情報(入力時刻t1,t5、歯数zt1,zt5)とに基づいて、送信機2dの送信時(送信指令時刻t2)における回転位置(歯数zt2)を推定する回転位置推定手段(回転位置演算部4a)と、推定された回転位置(歯数zt2)と無線信号に含まれる識別情報(センサID)とに基づき、送信機2dが設けられた車輪1の位置(FL〜RR)を判定する車輪位置判定手段(車輪位置判定部4c)と、を備えた。
よって、各車輪1について、送信機2dの送信時における回転位置(歯数zt2)を車体側でより正確に検出することが可能となり、TPMSセンサ2(送信機2d)の車輪位置をより精度良く判定することができる。
【0047】
(2) 具体的には、回転位置推定手段(回転位置演算部4a)は、送信機2dからの無線信号の受信開始(時刻t3)直前と受信完了(時刻t4)直後にそれぞれ通信線(CAN通信線7)を介して入力される車輪1の回転位置(歯数zt1,zt5)と、この車輪1の回転位置の入力時刻t1,t5と、上記受信開始時刻t3または受信完了時刻t4とに基づいて、送信機2dの送信時(送信指令時刻t2)における回転位置(歯数zt2)を推定する。
よって、送信機2dの送信時における回転位置(歯数zt2)を車体側でより正確に検出することが可能となり、TPMSセンサ2(送信機2d)の車輪位置をより精度良く判定することができる。
【0048】
(3) 送信機2dは、無線信号を重複して複数のフレーム(第1〜第3フレーム)として送信し、回転位置推定手段(回転位置演算部4a)は、複数のフレームのうち受信されたものの受信情報(例えば第2フレームの受信完了時刻t4' およびフレーム番号)に基づいて、送信機2dの送信時(送信指令時刻t2)における回転位置(歯数zt2)を推定する。
よって、Null点を回避して受信確率を向上しつつ、TPMSセンサ2(送信機2d)の車輪位置をより精度良く推定し、より早期にオートラーニングモードを完了することができる。
【0049】
(4) 回転位置推定手段(回転位置演算部4a)は、無線信号の受信情報に含まれる送信機2dの送信遅れΔt0(= t3-t2)を補正する。
よって、送信機2dの送信時における回転位置(歯数zt2)を車体側でより正確に検出することができ、TPMSセンサ2(送信機2d)の車輪位置をより精度良く判定することができる。
【0050】
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づく実施例により説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、実施例では、回転位置検出手段として車輪速センサを用いた例を示したが、駆動源としてインホイールモータを備えた車両では、モータのレゾルバを用いて回転角度を検出してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 車輪
2a 圧力センサ(タイヤ空気圧検出手段)
2d 送信機
3 受信機
4a 回転位置演算部(回転位置推定手段)
4c 車輪位置判定部(車輪位置判定手段)
6 ABSCU(回転位置検出手段)
7 CAN通信線(通信線)
8 車輪速センサ(回転位置検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各タイヤの空気圧を監視するタイヤ空気圧モニター装置であって、
各車輪のタイヤに装着され、該タイヤの空気圧を検出するタイヤ空気圧検出手段と、
各車輪に設けられ、前記空気圧情報を無線信号にて送信し、該無線信号に各送信機固有の識別情報を含める送信機と、
車体側に設けられ、前記無線信号を受信する受信機と、
各車輪と対応して車体側に設けられ、各車輪の回転位置を検出すると共に、通信線へ所定の時間間隔で前記車輪の回転位置情報を出力する回転位置検出手段と、
前記送信機からの前記無線信号の受信情報と、前記通信線を介して入力される前記車輪の回転位置情報とに基づいて、前記送信機の送信時における回転位置を推定する回転位置推定手段と、
前記推定された回転位置と前記無線信号に含まれる前記識別情報とに基づき、前記送信機が設けられた車輪の位置を判定する車輪位置判定手段と、を備えた
ことを特徴とするタイヤ空気圧モニター装置。
【請求項2】
請求項1に記載のタイヤ空気圧モニター装置において、
前記回転位置推定手段は、前記送信機からの前記無線信号の受信開始直前と受信完了直後にそれぞれ前記通信線を介して入力される前記車輪の回転位置と、該車輪の回転位置の入力時刻と、前記受信開始時刻または前記受信完了時刻とに基づいて、前記送信機の送信時における回転位置を推定する
ことを特徴とするタイヤ空気圧モニター装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のタイヤ空気圧モニター装置において、
前記送信機は、前記無線信号を重複して複数のフレームとして送信し、
前記回転位置推定手段は、前記複数のフレームのうち受信されたものの受信情報に基づいて、前記送信機の送信時における回転位置を推定する
ことを特徴とするタイヤ空気圧モニター装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のタイヤ空気圧モニター装置において、
前記回転位置推定手段は、前記無線信号の受信情報に含まれる前記送信機の送信遅れを補正することを特徴とするタイヤ空気圧モニター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−240468(P2012−240468A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110001(P2011−110001)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】