説明

タッチパネル及びその製造方法

【課題】本発明は、導電ポリマー膜と金属酸化膜との異種材料接触による不具合を回避させて、筆記耐久性と接触特性の向上を図り、タッチパネル特性を安定化した抵抗膜方式のタッチパネルを提供する。
【解決手段】本発明の抵抗膜方式のタッチパネルでは、下側基板としてのITO膜2を形成したガラス基板1と、上側基板としての透明導電ポリマー膜3を形成した透明樹脂シート4とがスペーサ5を介して対向配置される。ITO膜の上面に、導電ポリマー材による薄膜7が被着され、その上に、複数のドットスペーサ6が配置される。該薄膜は、透明導電ポリマー膜の形成時に用いられる導電ポリマー材分散溶液を希釈した薄い濃度の溶液をITO膜表面に塗布された後、加熱乾燥されて、被着される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押された位置による抵抗値変化を検出できる導電ポリマー膜を用いた抵抗膜方式のタッチパネル及びその製造方法に関し、特に、導電ポリマー膜と金属酸化膜との異種接触による不具合を回避させて、筆記耐久性と接触特性の向上を図ることができる抵抗膜方式のタッチパネル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タッチパネルは、例えば、表示装置としてのブラウン管や、パーソナルコンピュータに接続されているフラットパネルディスプレイなどの画面上に備えられ、ユーザがそのタッチパネルをペン、指などで筆記動作、或いは、押圧動作を行うことによって、表示装置の画面上から入力操作が実行されるようになっている。近年においては、このタッチパネルが、この入力操作の便利さから、様々な機器に広く使用されている。
【0003】
従来から使用されている抵抗膜方式のタッチパネルでは、一般に、透明電極膜を上面に有するガラス基板と、透明電極膜を下面に有する透明樹脂シートとが、スペーサを介して積層された構造になっている。
【0004】
具体的には、ITO膜による透明電極膜がガラス基板上に形成され、透明電極膜上には、互いに適当な間隔を置いて、複数のドットスペーサが配置されている。ガラス基板の周縁部分において、スペーサが配置され、ITO膜による透明電極膜が形成された透明樹脂シートが、スペーサを介して透明電極膜に重ねて設けられる。透明樹脂シートは、タッチパネルのカバーシートとなり、指又は入力ペンが押圧する接触面ともなっている。
【0005】
通常、タッチパネルは、矩形に形成されており、その4辺の端部に沿って、夫々の電極パターンが設けられている。ここで、透明電極膜に使用されているITO膜は、電力使用量及び位置検出精度が最適なものとなるように選択された抵抗率を有している。押圧された位置では、透明樹脂シートが撓み、透明電極膜が、当該位置におけるドットスペーサの間で、透明電極膜に接触される。このとき、X軸方向に対応する対向する2電極パターンに電圧が給電され、X軸方向の位置に対応した抵抗値を検出する。さらに、電圧の給電を、X軸方向の2電極パターンから、Y軸方向の2電極パターンに切り換えて給電し、Y軸方向の位置に対応した抵抗値を検出する。このようにして、抵抗膜方式のタッチパネルでは、押圧位置の位置座標が検出される。
【0006】
従来の抵抗膜方式のタッチパネルに採用されている透明電極膜としては、ITO膜のほかに、酸化錫等の金属酸化物系の膜が使用されているが、これらの膜は、通常、スパッタ、蒸着等の成膜プロセスを経て形成されており、例えば、数10nmの厚さで形成されている。
【0007】
一方、一般のタッチパネルにおいて、透明電極膜にITO膜などの金属酸化物系の膜が採用されていたが、透明電極膜として、金属酸化物系の膜の代わりに、導電性高分子膜を採用したタッチパネルが提案されている。例えば、この導電性高分子膜について、高分子フィルムを化学結合によって導電化処理を行って形成することが、或いは、ITOなどの微粒子を樹脂中に分散させて形成することが挙げられる。
【0008】
上述したように、従来から用いられているITOなどの金属酸化物系の薄膜は、スパッタ、蒸着等の真空プロセスを用いて形成されている。そのため、タッチパネルにおける透明電極膜の形成においても、大がかりな設備が必要になり、タッチパネルの量産性に乏しいという問題があった。
【0009】
また、透明電極膜に従来から用いられているITOなどの金属酸化物系の薄膜は、可撓性がないため、曲げや衝撃に弱く、割れやすい性質がある。そのため、タッチパネルとして使用するときに、操作面をペン先や爪先のように硬くとがったもので強く筆記摺動すると、透明電極膜にひび割れ等の損傷を受け、タッチパネルとしての動作に不具合、例えば、位置検出精度の低下することなどが発生するという問題があった。
【0010】
ところで、この透明電極膜にひび割れ等の損傷が発生することを回避するものとして、タッチパネルの透明電極膜に、導電性高分子膜を採用することが知られている。このタッチパネルでは、上下基板ともに導電電極部分がストライプ状に形成され、この上基板の導電電極部分に、導電化処理がされた導電性高分子が形成されている。また、他のタッチパネルでは、透明電極膜として、ITO等の微粒子を樹脂中に分散させた導電性樹脂膜を使用し、複数の領域に分割された透明電極形成されている。
【0011】
これらのタッチパネルでは、透明電極膜の損傷発生を低減できても、透明電極膜が複数に分けられた形式のタッチパネルであるので、透明電極膜の形成に手間取り、コスト低減を図ることが困難であり、同時多点入力を簡単な方法で実現することも難しいという問題がある。
【0012】
そこで、以上の問題点を解決する抵抗膜方式のタッチパネルとして、そのタッチパネルにおける透明電極膜を、透明導電ポリマー材で形成することが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。この透明電極膜の形成においては、透明導電ポリマー材が分散された溶液を基板の一面に塗布させ乾燥することによって成膜するという仕方を採用しており、コスト低減を図り、量産化を可能とし、また、同時多点入力も簡単に実現できるタッチパネルとしている。
【0013】
また、抵抗膜方式のタッチパネルにおいて、基板に設けられた透明電極層上に導電樹脂層を形成し、表示素子の表示の視認を良好にした光透過性タッチパネルが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。この光透過性上タッチパネルでは、上基板の下面に形成された上導電層の下面及び下基板の上面に形成された下導電層の上面の少なくとも一方に、屈折率が1.5以下の導電樹脂層を形成して、光透過性タッチパネルを構成している。
【0014】
【特許文献1】特開2005−182737号公報
【特許文献2】特開2006−32256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、上述した従来の抵抗膜方式のタッチパネルでは、上下の基板上に形成された透明電極膜は、共にITO膜であるため、押圧された位置における電極膜同士の接触はオーミック特性を示し、押圧力の大きさに変化があっても、検出電位の安定性に影響を与えることはない。
【0016】
また、上述の提案された抵抗膜方式のタッチパネルにおいて、上下の基板上に形成された透明電極膜の各々の面上に、共に透明導電樹脂膜が形成されている場合にも、押圧された位置における導電樹脂膜同士の接触は、押圧力の大きさに変化があっても、検出電位の安定性に影響を与えることはない。
【0017】
一方、上述の提案された抵抗膜方式のタッチパネルのように、透明導電樹脂膜が、上下の基板上に形成された夫々の透明電極膜のうち、片方の電極膜上のみに形成されている場合には、押圧された位置においては、ITO膜と導電樹脂膜とが異種材料の接触状態となる。その押圧位置で、比較的強く、或いは、確実に押圧された場合には、検出電位の安定性にほとんど影響せずに、通常のタッチパネル動作が得られる。
【0018】
しかしながら、押圧時において異種材料の接触状態となる場合に、押圧力の程度によっては、その接触が不確実なものとなることがある。このとき、その接触部位において、両者の接合エネルギーの違いにより、ショットキーダイオードが形成されるなど、安定したオーミック接合を得られない。そのため、押圧時におけるこの接触状態は、検出電位の安定性に影響を与え、安定したタッチパネル動作を得られないという不具合が発生した。
【0019】
そこで、本発明は、押された位置による抵抗値変化を検出できる導電ポリマー膜を用いた抵抗膜方式のタッチパネルであって、導電ポリマー膜と金属酸化膜との異種接触による不具合を回避させて、筆記耐久性と接触特性の向上を図り、タッチパネル特性を安定化できる抵抗膜方式のタッチパネル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
以上の課題を解決するために、本発明では、金属酸化膜による第1透明電極膜が一方の面に形成された第1基板と、導電ポリマー材による第2透明電極膜が前記第1透明電極膜に対向する面に形成された第2基板と、前記第1基板と第2基板とを所定間隔を置いて固定し、前記第1透明電極膜上に抵抗値変化の検出領域を形成するスペーサと、前記検出領域内に配置された複数のドットスペーサと、前記第1透明電極膜上に被着された前記導電ポリマー材よりなる透明薄膜と、を備えたタッチパネルとした。
【0021】
そして、前記透明薄膜は、前記第1透明電極膜上の前記検出領域内に被着されていることとし、さらには、定形又は不定形の島状部分を含むこととした。
【0022】
前記第1基板は、ガラス板又は透明樹脂シートで形成され、前記第2基板は、透明樹脂シートで形成されていることとした。
【0023】
また、本発明では、押された位置による抵抗値変化を検出できるタッチパネルが形成されるタッチパネル製造方法において、金属酸化物材料よりなる第1透明電極膜を第1基板の一方の面に形成した後に、該第1透明電極膜上に導電ポリマー材よりなる透明薄膜を被着し、前記導電ポリマー材よりなる第2透明電極膜を第2基板の内面に形成し、前記第1基板と前記第2基板とが、複数のドットスペーサを介して対向して配置されるようにした。
【0024】
前記透明薄膜は、溶媒に分散された前記導電ポリマー材が、前記第1透明電極膜の成膜後に塗布され、加熱乾燥されることにより被着されることとし、さらには、前記溶媒に分散された前記導電ポリマー材の濃度は、前記第2透明電極膜の形成時に塗布される前記導電ポリマー材の濃度より薄いこととした。
【0025】
前記透明薄膜は、前記第1透明電極膜上に配置されたマスクを介して塗布されることにより、該第1透明電極膜上に部分的に被着されることとし、前記透明薄膜は、定形又は不定形の複数の島状部分を有して被着され、さらには、定形又は不定形の複数の島状窓を有するマスクを介して塗布されることとした。
【0026】
前記タッチパネル製造方法において、前記透明薄膜は、前記複数のドットスペーサが前記第1透明電極膜上に配置された後に、該第1透明電極膜上に被着されることとした。
【0027】
また、前記タッチパネル製造方法において、前記第1透明電極は、ガラス板又は透明樹脂シートによる前記第1基板上に形成され、前記第2透明電極は、透明樹脂シートによる前記第2基板上に形成されることとした。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明では、第1基板の上面には、金属酸化膜による第1透明電極膜が形成され、その上方に配置される第2基板の下面には、導電ポリマー材による第2透明電極膜が該第1透明電極膜に対向して形成された抵抗膜方式のタッチパネルにおいて、該第2透明電極に使用された同じ導電ポリマー材よりなる透明薄膜が該第1透明電極膜上に被着されたので、第1透明電極膜の金属酸化膜と第2透明電極膜の導電ポリマー材との異種材料接触による不具合を回避させて、筆記耐久性と接触特性の向上を図り、タッチパネル特性を安定化できた。
【0029】
また、本発明の抵抗膜方式のタッチパネルにおいては、第1透明電極膜上に被着される導電ポリマー材による透明薄膜は、導電ポリマー材による第2透明電極膜の厚さに比べて極めて薄いため、金属酸化膜が形成された第1基板にガラス板を用いたタッチパネルとしての透過率に影響を与えることがないばかりでなく、面抵抗もほとんど変わることがなかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明による抵抗膜方式のタッチパネルに係る実施形態について、図を参照しながら説明するが、本実施形態の抵抗膜方式のタッチパネルについて説明する前に、本発明の特徴がより明確になるように、既に提案されている抵抗膜方式タッチパネルに関して、以下に、説明する。
【0031】
図4は、本実施形態による抵抗膜方式のタッチパネルの前提となる概略構成を示した断面図である。図4に示された抵抗膜方式のタッチパネルに係る基本的構成は、通常の抵抗膜方式のタッチパネルの構成と同様であるが、従来のタッチパネルでは、透明樹脂シートの下面に形成された透明電極膜が、ITO膜であるのに対し、透明導電ポリマー膜で形成されている点が、従来のものと異なっている。
【0032】
図4において、ガラス基板1には、ITO膜2による透明電極膜が形成されており、ITO膜上に、複数のドットスペーサ6を配置してある。上側基板は、可撓性のある透明樹脂シート4あり、例えば、PET、ポリカーボネート、シクロオレフイン等のフィルム材による。その上に、チオフェン系導電ポリマーによる透明電極膜が形成されている。チオフェン系導電ポリマーは、透明性が高く、膜厚500nm程度の場合では、光透過率が90%以上となる。この透明電極膜の形成には、チオフェン系導電ポリマーに限られず、このほかにも、透明導電ポリマーとして、ポリアニリン等、他の材料を使用しても良い。
【0033】
次に、図4に示された抵抗膜方式のタッチパネルの製造手順について、説明する。先ず、PET、ポリカーボネート、シクロオレフイン等、透明樹脂シートをワークサイズに切断し、そして、切断された透明樹脂シートの歪を除去するためにアニール処理を行う。
【0034】
その後、アニール処理された透明樹脂シート上に透明導電ポリマー膜の形成が行われる。具体的には、透明樹脂シート上の所定の領域に、スクリーン印刷によって、透明導電ポリマーが分散された溶液を塗布し、溶液によるパターンを形成し、この溶液を加熱乾操すると、透明導電ポリマー膜が透明樹脂シート上に成膜される。
【0035】
そして、透明導電ポリマー膜が表面に形成された透明樹脂シートの対向する端辺の夫々に、位置検出用の電圧を透明導電ポリマー膜に供給するための電極となる導電パターンを形成する。この導電パターンの形成には、従来から知られている銀(Ag)ペーストによるスクリーン印刷を使用することができる。
【0036】
次いで、形成された導電パターンのみを絶縁するために、絶縁レジスト膜がスクリーン印刷などにより形成される。これで、透明樹脂シートによるタッチパネルの上側基板が出来上がったことになる。
【0037】
下側基板は、この製造フローとは、並行して、別途の手順で製造される。下側基板では、ガラス基板上にITO膜が形成され、そのITO膜の上に、ドットスペーサ、電極となる導電パターンが形成され、そして、導電パターン上に絶縁レジスト膜が形成されている。上側基板が出来上がったところで、上側基板と下側基板とを、透明導電ポリマー膜とITO膜とが内側になるように対向させ、周囲を、スペーサとなる両面テープで貼り合わせ、そして、各基板に設けられた導電パターンにFPCを接続すると、タッチパネルが完成する。
【0038】
上述したタッチパネルの製造フローでは、透明樹脂シートをワークサイズに切断してから、透明導電ポリマー膜の形成を行ったが、ロール状のPETフィルムにマイクログラビア式コーティング装置を用いて連続的にチオフェン系導電ポリマー溶液を塗布することもできる。この場合には、該溶液の加熱乾操においても、連続的に処理される。
【0039】
実際に、この手法により、約0.1μmの膜厚の透明導電ポリマー膜を作成できる。この透明導電ポリマー膜の全光線透過率は、約92%であり、シート抵抗は、1〜2kΩ/cmであった。タッチパネルを作成する際には、上述の製造フローの手順とは異なることになるが、この透明導電ポリマー膜が形成された透明樹脂シートを所定のサイズに切断した後に、アニール処理し、その後、電極および配線パターンとなるAgペースト印刷を行う。一方、下側基板には、ITO付きガラス基板を用いており、従来のタッチパネルと同様の工程で作成し、上側基板の透明樹脂シートとガラス基板の周囲を両面テープで貼り合わせ、FPCによる引き出し線を接続することにより、タッチパネルが完成する。
【0040】
そこで、上述のような製造フローで作成された抵抗膜方式のタッチパネルを使用して、押圧する位置の接触圧力を異なる大きさにして、タッチパネルの電圧−電流(V−I)特性を測定した結果を、図5のグラフに示した。同図のグラフは、導電ポリマー膜とITO膜との接触状態を示しており、同図に示された曲線aは、接触圧力が5.0〔N〕の場合を、曲線bは、接触圧力が1.0〔N〕の場合を、曲線cは、接触圧力が0.3〔N〕の場合を、曲線dは、接触圧力が0.2〔N〕の場合を、曲線eは、接触圧力が0.1〔N〕の場合を、それぞれ示している。
【0041】
図5に示された複数の曲線によれば、曲線aの場合には、電圧(V)が変化すると、電流(I)も比例して変化しているのに対し、曲線bから曲線eにかけて、接触圧力が小さくなるほど、電圧(V)と電流(I)とが比例しなくなる様子が分かる。ここで、導電ポリマー膜とITO膜とが接触する場合と、ITO膜とITO膜とが接触する場合との接触状態を比較するため、各場合のV−I特性を図6に示した。同図には、接触圧力が0.1〔N〕であるときを例にして、導電ポリマー膜とITO膜とが接触された場合のV−I特性として、曲線f(図5では、曲線eに対応している)を示し、ITO膜同士が接触された場合のV−I特性として、曲線gを示してある。この曲線gによれば、ITO膜同士が接触する場合には、接触圧力が小さくても、そのV−I特性は線形であり、オーミック接合が行なわれていることがわかる。
【0042】
図6に示されるように、曲線fは、ショットキーダイオードと同様のV−I特性を示しており、接触圧力が小さいと、曲線gに比較して非線形なV−I特性になっている。従って、図5に示されたこれらの曲線aから曲線eによれば、導電ポリマー膜とITO膜による抵抗膜方式のタッチパネルにおいては、押圧時の接触圧力が十分に大きければ、オーミック接合がなされ、タッチパネルとしての動作特性が得られることが分かる。しかし、押圧時の接触圧力が低下すると、オーミック接合が得られなくなる。そのため、その接触圧力の程度によって、接合状態が変化し、検出電位の安定性に影響を与えることとなる。そこで、安定したタッチパネル動作を得られないという不具合が発生する。
【0043】
以上のことから、導電ポリマー膜とITO膜による抵抗膜方式のタッチパネルにおいては、押圧時の接触が異種材料の膜で行われることに起因して、接触圧力の仕方、程度によっては、検出電位の不安定性を招く場合があるという不具合が発生するので、本実施形態による抵抗膜方式のタッチパネルでは、押圧時の接触が、導電ポリマー膜とITO膜とで行われるのではなく、ITO膜上に導電ポリマー材による透明薄膜を被着しておき、押圧時には、導電ポリマー膜同士による同種接触となるようした。この透明薄膜の被着により、導電ポリマー膜と金属酸化膜との異種接触による不具合を回避することとした。
【0044】
そこで、図1に、本実施形態による抵抗膜方式のタッチパネルの概略構成を縦断面図で示した。図1に示された本実施形態による抵抗膜方式のタッチパネルの基本構成は、図4に示された抵抗膜方式のタッチパネルと同様であるが、ITO膜2の面上に、透明樹脂シート4の下面に形成された導電ポリマー膜3と同種の導電ポリマー材による透明薄膜が被着されることが特徴である。
【0045】
ここで、導電ポリマー材による層をITO膜の表面に形成したITO膜付ガラス板の透過率について、図2に示した。図2では、横軸は、導電ポリマー層の厚さ〔nm〕を、そして、縦軸は、全光線透過率〔%〕をそれぞれ表している。
【0046】
一般に、多層による透明体の透過率は、各層の吸収損と、各層の界面における反射損に依存しており、吸収損は、各層の物質に、そして、反射損は、その屈折率にそれぞれ依存している。ここで、界面を形成する一方の層の屈折率をn1、他方の層の屈折率をn2とすると、その界面における反射率は、〔(n1−n2)/(n1+n2)〕で表現することができる。
【0047】
例えば、導電ポリマー層は、屈折率が約1.5であり、スパッタリングで形成されたITO膜の屈折率約1.8より小さいため、導電ポリマー層がITO膜上に形成されると、透明導電膜の表面における反射率が下がり、実質的に透過率が向上する。一方、導電ポリマー層は、ITO膜より可視光に係る吸収率が大きく、層の厚さが厚くなると、吸収による損失が大きくなって、透過率が低下することになる。これらの総合結果として、導電ポリマー層の厚さに対する透過率の変化が、図2に現れている。
【0048】
この図2に示された透過率の変化から見ると、導電ポリマー層の厚さが30〜40nmまでの範囲においては、ITO膜の表面に導電ポリマー層を形成しても、全透過率は低下しないことが見出された。それだけでなく、ITO膜の表面に導電ポリマー層が極めて薄く形成される場合には、全光線透過率がITO膜の透過率より若干向上されていることが分かる。
【0049】
以上のことを考慮して、本実施形態の抵抗膜方式のタッチパネルにおけるITO膜2の表面に被着される導電ポリマー材による透明薄膜7の厚さについて、透明樹脂シート4の下面に形成された導電ポリマー材による透明電極膜3の厚さより薄くし、その厚さの範囲を、数nmから10nm以下とした。
【0050】
この透明薄膜7は、異種材料の接触による不安定性を回避するため、同種材料の接触を行わせるものであり、その接触状態を安定化する機能を奏する程度に、ITO膜2の、少なくとも抵抗値変化の検出領域において存在していれば十分である。従って、透明薄膜7は、極めて薄い連続膜であっても、また、島状の定形又は不定形の不連続膜であってもよい。島形状には、例えば、定形の場合であれは、円形のドット形状なども含まれる。
【0051】
なお、導電ポリマー材自体の導電率は、ITOのそれより低く、それ自体による導電性が乏しいので、導電ポリマー材が極めて薄ければ、検出領域内に配置されたドットスペーサを覆って被着されていても、タッチパネル動作に影響しない。つまり、ドットスペーサは、例えば、環境変化などで、上部基板が撓んだときなどに、下部基板に接触して、上下の透明電極膜同士が接触することを回避するための絶縁体であるが、この上部基板が撓んだときに、ドットスペーサ上に極めて薄い導電ポリマー材が存在していても、電位を検出(誤検出)するようなことはない。
【0052】
次に、以上において説明した本実施形態による抵抗膜方式のタッチパネルの製造手順について、図3に示したフロー図に従って説明する。図3では、図1に示された抵抗膜方式のタッチパネルに係る概略的製造工程のフローが示されている。同フローでは、上述したタッチパネルの製造フローと基本的な手順は同様であり、最初の段階において、上側基板における上側基板の形成と、下側基板におけるガラス基板の形成とに分かれており、別々の製造工程に従って製造される。
【0053】
図3のフローにおいて、先ず、上側基板の形成について、PET、ポリカーボネート、シクロオレフイン等の透明樹脂シートを、上側基板用に、ワークサイズに切断し(ステップS1)、そして、ワークサイズに切断された透明樹脂シートにおいて、アニール処理が行われる(ステップS2)。
【0054】
その後、透明樹脂シート4の片面の表面上に、透明導電ポリマー膜3が形成される(ステップS3)。このステップS3の透明導電ポリマー膜の形成工程では、透明樹脂シート4における所定の領域に、例えば、スクリーン印刷によって、透明導電ポリマー材が分散された溶液が塗布され(ステップS3−1)、そして、塗布された溶液が加熱乾操される(ステップS3−2)。これで、所定厚さの透明導電ポリマー膜が、透明樹脂シート4の片面に形成される。
【0055】
次いで、透明導電ポリマー膜3が透明樹脂シート4上に形成された後には、電極となる導電パターンが、例えば、印刷手法により形成される(ステップS4)。そして、形成された導電パターンの上に絶縁レジスト膜が形成され(ステップS5)、これで、透明樹脂シート4からなる上側基板が出来上がる。なお、これまでのステップにおいては、透明樹脂シートは、ワークサイズに切断された場合であったが、切断されてなくとも、ロールから引き出された連続樹脂シートに対して、ステップS2乃至S5の工程を連続処理するようにしてもよい。
【0056】
一方、下側ガラス基板の形成では、ガラス基板の片面にITO膜2を形成し(ステップS11)、形成されたITO膜の上に、導電ポリマー薄膜7が被着される(ステップS12)。このステップS12における導電ポリマー薄膜の被着においては、導電ポリマー材が分散された溶液がITO膜2に塗布され(ステップS12−1)、そして、塗布された溶液が加熱乾燥される(ステップS12−2)。これにより、導電ポリマー薄膜7がITO膜2の表面に被着される。ここで、導電ポリマー薄膜は、ITO膜の全表面上に被着されても、或いは、ITO膜の表面上であって、有効入力エリアである電位検出領域のみに被着されてもよい。
【0057】
なお、導電ポリマー薄膜7のITO膜2への被着の手順は、ステップS3における透明導電ポリマー膜3の形成の場合と基本的に同様であるが、透明導電ポリマー膜と導電ポリマー薄膜とでは、同じ導電ポリマー材を用いることが好ましく、導電ポリマー薄膜7の被着厚さを、透明導電ポリマー膜3の膜厚より薄くするため、導電ポリマー材が分散された溶液の濃度を低くした希釈溶液を用いるとよい。
【0058】
また、導電ポリマー薄膜の被着におけるステップS12−1の溶液塗布工程においては、所望の厚さが得られるように予め希釈された溶液を印刷手法でITO膜上に塗布することもできる。この塗布された溶液が加熱乾燥されると、その濃度又は塗布量によっては、連続した薄膜となり、或いは、不連続又は不定形状の島状による薄膜となる。また、その希釈溶液をITO膜表面に噴霧する手法によっても、導電ポリマー材による微細な島が分布する薄膜とすることもできる。さらには、微細な孔を有するマスクを用いて塗布することによっても、導電ポリマー薄膜を被着させることができる。
【0059】
次いで、導電ポリマー薄膜7がITO膜2の表面に被着されると、ドットスペーサ6が導電ポリマー薄膜7の上に印刷手法により形成される(ステップS13)。その後、ITO膜の額縁状の周縁部分に、絶縁レジスト膜を形成し(ステップS14)、電極となる導電パターンが、Agペーストのスクリーン印刷によって形成される(ステップS15)。
【0060】
そして、ステップS5と同様に、その導電パターンの表面を絶縁するための額縁状の絶縁レジスト膜が形成され(ステップS16)、下側ガラス基板が出来上がる。これで、上側基板と下側基板の両方が出来上がる。この後に、上側基板である透明樹脂シート4に形成された透明導電ポリマー膜3と、下側基板であるガラス基板1のITO膜2の表面に被着された導電ポリマー薄膜7とが対向して向き合うように、それらの周囲を、スペーサとなる両面テープで貼り合わせる(ステップS21)。
【0061】
次いで、ガラス基板の上面において、ITO膜2の周辺に、ダイオード群を搭載した後に(ステップS22)、ワークサイズであったガラス基板をスクライブして、最終的なタッチパネルとしての所定サイズにされる(ステップS23)。そして、形成された導電パターンによる電極にフレキシブル・印刷配線ケーブル(FPC)を接続すると、抵抗膜方式のタッチパネルが完成する(ステップS24)。このタッチパネルの完成品に対して試験が実行され、製品の出荷となる(ステップS25)。
【0062】
以上に説明した製造工程のフローに従えば、図1に示された本実施形態のように、下側基板であるガラス基板の上面に形成されたITO膜の表面に、上側基板である透明樹脂シートの下面に形成された透明導電ポリマー膜と同じ導電ポリマー材による透明薄膜が被着されるので、導電ポリマー膜と金属酸化膜との異種材料接触による不具合を回避させて、タッチパネル特性を安定化できる抵抗膜方式のタッチパネルを製造することができる。
【0063】
図3に示したタッチパネルの製造フローでは、下側ガラス基板の形成においては、ステップS13のドットスペーサ印刷の工程が、ステップS12の導電ポリマー薄膜被着工程の後で行われるため、図1に示されるように、ドットスペーサ6が導電ポリマー薄膜7の表面に形成される。
【0064】
ところで、導電ポリマー材が、検出領域内に配置されたドットスペーサを覆って被着された場合でも、電位を誤検出せず、タッチパネル動作に影響しないことについて述べたが、この場合のタッチパネルの製造は、図3に示した下側ガラス基板の形成において、ステップS12の工程とステップS13の工程の順を入れ換えることで実現できる。
【0065】
つまり、ステップS11で、ITO膜2がガラス基板1の上面に形成された後に、そのITO膜の表面上にステップS13のドットスペーサ印刷工程を行って、ドットスペーサ6をITO膜2の表面上に形成する。次いで、ステップS12の導電ポリマー薄膜被着工程を行うと、ドットスペーサの個々の上側表面を含めて、ITO膜の表面に導電ポリマー薄膜を被着することができる。
【0066】
〔具体例〕
上述の図3に示したタッチパネルの製造フローに従って製造された本実施形態による抵抗膜方式のタッチパネルの具体例について、以下に説明する。
【0067】
上側基板である透明樹脂シートに、188μmの厚さを有するハードコート付きPETを用いた。そのPETのハードコートされていない片面に、面抵抗が、約600Ω/cmの導電ポリマー膜を成膜した。下側基板であるガラス基板には、1.1mm厚さのものを用いて、その片面に、約400Ω/cm2のITO膜を成膜した後、希釈した導電ポリマー溶液を約100nmの厚さに塗布し、120度で数分加熱乾燥させた。この乾燥後の導電ポリマー薄膜としての最終膜厚は、約8nmであり、極めて薄い膜となった。
【0068】
この様に作成された上下側基板により本実施形態の抵抗膜方式のタッチパネル製造した。ITO膜表面に導電ポリマーを成膜しない従来技術による抵抗膜方式のタッチパネルでは、押圧力である入力荷重が、0.1〜2.5N程度にばらついており、部分的にその入力荷重が高めで、操作性がよくないのに対し、本実施形態の場合には、ITO膜上に導電ポリマー薄膜を設けたことにより、その入力荷重が安定し、0.07〜0.6Nの範囲にあって、軽い入力荷重で安定した操作が可能となった。
【0069】
また、上側基板と下側基板との間に電圧を印加した状態で、筆記試験を行ったところ、従来技術による抵抗膜方式のタッチパネルでは、30万文字筆記あたりで、筆記領域が変質して、入力荷重の異常な上昇が見られ、実質的な入力操作が困難な状態になったが、本実施形態による抵抗膜方式のタッチパネルでは、50万文字筆記後においても、問題なく入力操作を行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施形態による抵抗膜方式のタッチパネルの概略構成を説明する断面図である。
【図2】導電ポリマー膜をITO膜の表面に形成した場合におけるITO膜付きガラス基板の全光線透過率の変化を説明するグラフである。
【図3】本実施形態の抵抗膜方式のタッチパネルに係る製造手順を説明するフロー図である。
【図4】提案された抵抗膜方式のタッチパネルの概略構成を説明する断面図である。
【図5】導電ポリマー膜とガラス基板上に形成されたITO膜とを接触圧力を変えて接触させたときのV−I特性を説明するグラフである。
【図6】導電ポリマー膜とITO膜の接触の場合と、ITO膜同士の接触の場合とにおけるV−I特性比較を説明するグラフである。
【符号の説明】
【0071】
1 ガラス基板
2 ITO膜
3 導電ポリマー膜
4 透明樹脂シート
5 スペーサ
6 ドットスペーサ
7 導電ポリマー薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化膜による第1透明電極膜が一方の面に形成された第1基板と、
導電ポリマー材による第2透明電極膜が前記第1透明電極膜に対向する面に形成された第2基板と、
前記第1基板と第2基板とを所定間隔を置いて固定し、前記第1透明電極膜上に抵抗値変化の検出領域を形成するスペーサと、
前記検出領域内に配置された複数のドットスペーサと、
前記第1透明電極膜上に被着された前記導電ポリマー材よりなる透明薄膜と、を備えたことを特徴とするタッチパネル。
【請求項2】
前記透明薄膜は、前記第1透明電極膜上の前記検出領域内に被着されていることを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル。
【請求項3】
前記透明薄膜は、定形又は不定形の島状部分を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のタッチパネル。
【請求項4】
前記第1基板は、ガラス板又は透明樹脂シートで形成され、
前記第2基板は、透明樹脂シートで形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のタッチパネル。
【請求項5】
金属酸化物材料よりなる第1透明電極膜を第1基板の一方の面に形成した後に、該第1透明電極膜上に導電ポリマー材よりなる透明薄膜を被着し、
前記導電ポリマー材よりなる第2透明電極膜を第2基板の内面に形成し、
前記第1基板と前記第2基板とが、複数のドットスペーサを介して対向して配置されることにより、押された位置による抵抗値変化を検出できるタッチパネルが形成されるタッチパネル製造方法。
【請求項6】
前記透明薄膜は、溶媒に分散された前記導電ポリマー材が、前記第1透明電極膜の成膜後に塗布され、加熱乾燥されることにより被着されることを特徴とする請求項5に記載のタッチパネル製造方法。
【請求項7】
前記溶媒に分散された前記導電ポリマー材の濃度は、前記第2透明電極膜の形成時に塗布される前記導電ポリマー材の濃度より薄いことを特徴とする請求項6に記載のタッチパネル製造方法。
【請求項8】
前記透明薄膜は、前記第1透明電極膜上に配置されたマスクを介して塗布されることにより、該第1透明電極膜上に部分的に被着されることを特徴とする請求項6に記載のタッチパネル製造方法。
【請求項9】
前記透明薄膜は、定形又は不定形の複数の島状部分を有して被着されることを特徴とする請求項5乃至8のいずれか一項に記載のタッチパネル製造方法。
【請求項10】
前記透明薄膜は、定形又は不定形の複数の島状窓を有するマスクを介して塗布されることを特徴とする請求項9に記載のタッチパネル製造方法。
【請求項11】
前記透明薄膜は、前記複数のドットスペーサが前記第1透明電極膜上に配置された後に、該第1透明電極膜上に被着されることを特徴とする請求項5乃至10のいずれか一項に記載のタッチパネル製造方法。
【請求項12】
前記第1透明電極は、ガラス板又は透明樹脂シートによる前記第1基板上に形成され、
前記第2透明電極は、透明樹脂シートによる前記第2基板上に形成されることを特徴とする請求項5乃至11のいずれか一項に記載のタッチパネル製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−135291(P2008−135291A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320595(P2006−320595)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(501398606)富士通コンポーネント株式会社 (848)
【Fターム(参考)】