タンパク質を蛍光標識する方法
【課題】生体内分子を標識できる、タンパク質の蛍光標識方法の提供。
【解決手段】標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質を得ること、および該融合タンパク質と下記式(I)で表わされる化合物とを接触させることにより、対象タンパク質を蛍光標識することを含む、タンパク質の蛍光標識方法。
前記式(I)中、Xは、蛍光性基であり、Yは、消光性基であり、L1は、Xのためのリンカーであり、L2は、Yのためのリンカーであり、R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【解決手段】標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質を得ること、および該融合タンパク質と下記式(I)で表わされる化合物とを接触させることにより、対象タンパク質を蛍光標識することを含む、タンパク質の蛍光標識方法。
前記式(I)中、Xは、蛍光性基であり、Yは、消光性基であり、L1は、Xのためのリンカーであり、L2は、Yのためのリンカーであり、R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質を蛍光標識する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生物が生きた状態において、生物内のタンパク質などの生体分子の機能を観察するバイオイメージングが注目されている。この生体分子機能の観察は、生体分子を蛍光で標識し、生物内におけるその生体分子の局在や動きを可視化することにより汎用的に行われている。生体分子を蛍光で標識する方法としては、遺伝子工学的手法を用いて、蛍光タンパク質を目的とする生体分子(タンパク質)の末端に共発現させる方法が一般的である。この蛍光タンパク質は、分子サイズが大きく、また、組織透過性の高い近赤外光蛍光の観測が困難であるなどの不都合がある。そのため、蛍光タンパク質より分子サイズが小さく、かつ、蛍光特性に優れた有機小分子に注目が集まっている。有機小分子を目的タンパク質にラベルする技術として、HaloTag(登録商標)(プロメガ株式会社)(例えば非特許文献1参照)およびSNAP−tag(登録商標)(例えば非特許文献2参照)を用いたラベル化キットが商品化されている。これらのラベル化法は、酵素反応を利用して目的とする生体分子を蛍光で標識する。そのため、有機小分子を目的とする生体分子にラベル化する際の特異性は非常に高いが、生体分子に結合していない有機小分子由来の蛍光が、バックグラウンドシグナルとして観測されてしまう。このバックグラウンドシグナルを小さくするため、目的とする生体分子を有機小分子で蛍光標識した後、洗浄して、未反応の有機小分子を除去する必要がある。しかしながら、細胞内や生体内に存在する生体分子を洗浄するのは、一般的に困難であり、洗浄できない場合も多い。従って、細胞内や生体内での生体分子の機能を観察するには、上述のラベル化法は汎用的とはいえない。また、有機小分子と目的とする生体分子とを結びつける特定配列のペプチドを用いて、生体分子を蛍光で標識する方法も開発されているが、この方法は、ペプチドと有機小分子との特異性が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Qureshi,M.H., ら、J. Biol. Chem., 2001, 276, p.46422-8
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2004, 101, p.9955-9959
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、細胞内や生体内における生体分子(タンパク質)を蛍光で標識するために使用できる、タンパク質を蛍光標識する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、タンパク質を蛍光標識する方法であって、標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質を得ること、および前記融合タンパク質と下記式(I)で表わされる化合物またはその塩とを反応させることにより、前記対象タンパク質を蛍光標識することを含み、前記変異型βラクタマーゼは、前記式(I)で表わされる化合物のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記式(I)で表わされる化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なタンパク質である(以下、「第1の蛍光標識する方法」と呼ぶことがある)。
【0006】
【化1】
【0007】
前記式(I)中、Xは、蛍光性基であり、
Yは、消光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
L2は、Yのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタンパク質を蛍光標識する方法は、目的とするタンパク質を標識した場合にのみ、強い蛍光を示す。そのため、タンパク質を標識していない有機小分子を除去しなくとも、蛍光のバックグラウンドを最小限に抑えることができる。従って、精度の高い蛍光観察を行うことが可能である。また、未反応の有機小分子を除去する必要がないので、生体内での生体分子を観察する際に適する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1(a)は、E166NTEM−1をCAでラベル化した場合の蛍光画像(i)とゲル染色画像(ii)と、CAのみの場合の蛍光画像(iii)を、図1(b)は、E166NTEM−1をCCDでラベル化した場合の蛍光画像(i)とゲル染色画像(ii)と、CCDのみの場合の蛍光画像(iii)を示す。
【図2】図2(a)は、図2(a)は、WTTEM−1にCAを加えた場合の蛍光画像(左)とゲル染色画像(右)を、図2(b)は、WTTEM−1にCCDを加えた場合の蛍光画像(左)とゲル染色画像(右)を示す。
【図3】図3(a)は、WT(野生株)について得られた蛍光波長450nmにおける励起スペクトルを、図3(b)は励起波長410nmにおける蛍光スペクトルを示す。
【図4】図4(a)は、E166N TEM−1について得られた蛍光波長450nmにおける励起スペクトルを、図4(b)は励起波長410nmにおける蛍光スペクトルを示す。
【図5】図5はMBP−E166NTEM−1を哺乳類細胞破砕液中CCDでラベル化した場合の蛍光画像(左)とゲル染色画像(右)を示す。
【図6】図6は、MBP-E166N TEM−1を化合物CAでラベル化した場合の蛍光画像(左)、ゲル染色画像(右)を示す。
【図7】図7(a)は、Tb3+が配位した化合物csDAmの吸収スペクトル、図7(b)はEu3+が配位した化合物csDAmの吸収スペクトルを示す。図7(c)は図7(a)の拡大図、図7(d)は図7(b)の拡大図である。
【図8】図8(a)は、Tb3+が配位した化合物csDAmの励起スペクトル、図s(b)はEu3+が配位した化合物csDAmの励起スペクトルを示す。
【図9】図9(a)は、E166N TEM−1をTb3+が配位した化合物csDAmでラベル化した場合の定常状態蛍光測定による蛍光スペクトル、図9(b)は時間分解蛍光測定による蛍光スペクトルを示す。
【図10】図10(a)は、E166N TEM−1をEu3+が配位した化合物csDAmでラベル化した場合の定常状態蛍光測定による蛍光スペクトル、図10(b)は時間分解蛍光測定による蛍光スペクトルを示す。
【図11】図11(a)は、Tb3+が配位した化合物csDAmの蛍光寿命を示すスペクトル、図11(b)はEu3+が配位した化合物csDAmの蛍光寿命を示すスペクトルである。
【図12】図12は、E166NTEM−1をLnが配位した化合物csDAmでラベル化した場合の蛍光画像とゲル染色画像を示す。
【図13】図13は、WTTEM−にLnが配位した化合物csDAmを加えた場合の蛍光画像とゲル染色画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
βラクタマーゼのひとつ、TEM−1は、下記スキーム1に示すような反応を経て、ペニシリンなどのβラクタム系抗生物質を加水分解することが知られている。
【0011】
【化2】
【0012】
前記スキーム1に示すように、TEM−1は、その70位Serがラクタム環へ求核攻撃してアシル−酵素複合体を形成する。次いで、その複合体が加水分解され、βラクタム環の加水分解が生じる。加水分解においては、TEM−1の166位Gluにより促進されることが知られている。そして、この166位Gluを他のアミノ酸に変更した変異型βラクタマーゼは、アシル−酵素複合体の加水分解速度が大きく低下することが知られていた。例えば、166位GluをAsnに変更した変異型βラクタマーゼの場合、下記スキーム2に示すように、アシル−酵素中間体の加水分解が起こらない。そのため、このような変異型βラクタマーゼは、基質であるβラクタム環に不可逆的に結合する。
【0013】
【化3】
【0014】
本発明は、変異型βラクタマーゼとして例えば、この166位Gluを他のアミノ酸に変更した変異型βラクタマーゼと、式(I)で表わされる化合物(以下、「式(I)の化合物」と呼ぶ)またはその塩を用いることを特徴の一つとする。変異型βラクタマーゼとしては、天然型βラクタマーゼのアミノ酸の変異部位は限定されず、前記式(I)で表わされる化合物のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記式(I)で表わされる化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なタンパク質であればよい。なお、式(I)の化合物は、蛍光性基であるXと、消光性基であるYを、分子内構造に有する。そのため、式(I)の化合物は、蛍光性基を有するにもかかわらず、蛍光強度が極めて低い。
【0015】
本発明の第1の蛍光標識する方法においては、例えばこの変異型βラクタマーゼと標識対象タンパク質とを融合させた融合タンパク質を、式(I)の化合物と反応させる。そうすると、融合タンパク質の変異型βラクタマーゼは式(I)の化合物のβラクタム環を求核攻撃し、βラクタム環を開環させる(例えば、スキーム3参照)。生じたアシル−酵素中間体におけるビニル基を通じて電子移動が生じ、その結果、式(I)の化合物からYを遊離させる。なお、生じたアシル−酵素中間体は加水分解を受けることができず、すなわち、変異型βラクタマーゼと式(I)の化合物の開環した部分は共有結合したままである。この変異型βラクタマーゼと式(I)の化合物の複合体は、消光剤であるYを含まないため、式(I)の化合物に含まれている蛍光性Xが蛍光を発する。そうすると、変異型βラクタマーゼを介して標識対象タンパク質と結合した式(I)の化合物は、強い蛍光を発し、変異型βラクタマーゼを介して標識対象タンパク質と結合していない式(I)の化合物は蛍光強度が極めて低い。すなわち、式(I)の化合物は標識対象タンパク質と結合していないときには蛍光を発しないので、バックグラウンドシグナルが低い。その結果、式(I)の化合物で標識対象タンパク質(生体分子)を標識した後、洗浄しなくとも、バックグラウンドシグナルに邪魔されることなく、正確に標識対象タンパク質を検出することが可能なのである。
【0016】
【化4】
【0017】
変異型βラクタマーゼをコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列、配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列の1〜数個の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列であって、前記融合タンパク質において前記式(I)の化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、及び、配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、前記融合タンパク質において前記式(I)の化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、からなる群から選択される塩基配列が挙げられる。例えば、配列番号5の塩基配列は、166位グルタミン酸をアスパラギンに変更した変異型TEM−1の塩基配列である(Adachiら、The Journal of Biochemistry, 1991, 266, 3186-3191参照)。
【0018】
融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得るには、標識対象タンパク質をコードするポリヌクレオチド、変異型βラクタマーゼをコードするポリヌクレオチド等を用い、通常の方法に従い、そのようなプラスミド若しくはベクターを調製することができる。本発明において、ベクターは、ポリヌクレオチド、好ましくは、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを細胞内に導入するためのポリヌクレオチドをいい、プラスミドを含むものをいう。なお、ベクターは、プラスミドベクターであってもよく、ウイルスベクターであってもよい。融合タンパク質を発現可能とする配列は、当業者であれば、導入する細胞の種類に応じて適宜選択しうる。プラスミド及びベクターは、融合タンパク質の発現を調節する配列(例えば、発現誘導プロモーターや制御配列)を含んでもよい。
【0019】
細胞内で融合タンパク質を発現させるには、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたは、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを用いて、通常の方法に従って行うことができる。
【0020】
発現した融合タンパク質を単離するには、通常の方法に従って行うことができる。
【0021】
標識対象タンパク質および変異型βラクタマーゼの融合タンパク質は、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得ること、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得ること、細胞内で融合タンパク質を発現させること、又は、発現した融合タンパク質を単離することの1以上の工程を含む方法、または全ての工程を含む方法により得ることができる。すなわち、融合タンパク質を得ることは、該タンパク質を単離することのみならず、細胞内や生体内で発現させることを含む。
【0022】
本発明の第1の蛍光標識する方法において用いられる式(I)の化合物は、前記のように、Xが、蛍光性基であり、Yが、消光性基であり、L1が、Xのためのリンカーであり、L2が、Yのためのリンカーであり、R1が、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【0023】
【化5】
【0024】
本発明の化合物において、蛍光性基とは、可視光線、紫外線、X線等が照射され、そのエネルギーを吸収することにより電子が励起し、それが基底状態に戻る際に余分なエネルギーを電磁波として放出する性質を有する基を意味する。具体的には、蛍光性基とは、クマリン色素、キサンテン色素、シアニン色素、アクリジン、イソインドール、ダンシル色素、アミノフタル酸ヒドラジド、アミノフタルイミド、アミノナフタルイミド、アミノベンゾフラン、アミノキノリン、ジシアノヒドロキノン等から誘導される基あるいは発光性希土類錯体が挙げられ、クマリン色素、キサンテン色素から誘導される基および発光性希土類錯体が好ましい。
【0025】
前記発光性希土類錯体としては、例えば、以下の式(ii)および(xi)〜式(xxviii)で表わされる基と、希土類イオンとの錯体が挙げられる。前記希土類イオンとしては、Tb3+、Eu3+、Dy3+、Sm3+などが挙げられる。
【0026】
【化6】
【0027】
【化7】
【0028】
【化8】
【0029】
【化9】
【0030】
式(I)の化合物において、蛍光性を低下させる消光性基とは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、光誘起電子移動、常磁性の項間交差の増強、デクスター交換カップリングおよび暗色複合体の形成などの励起子カップリングを含むメカニズムにより、蛍光性基の蛍光を消す基である。具体的には、消光性基とは、
【0031】
【化10】
【0032】
ジメチルアミノアゾベンゼン、テトラメチルローダミン、QSYクエンチャー色素(Invitrogen社製)等が挙げられ、ジメチルアミノアゾベンゼンが好ましい。
【0033】
本発明の化合物において、XのためのリンカーL1とは、式(I)の化合物もしくは式(III)の化合物のセファロスポリン骨格とXとを結びつけるための基または式(II)の化合物のペニシリン骨格とXとを結び付けるための基である。具体的には、L1は、−(CH2)n1CONR2(CH2)n2−、−(CH2)n1NR2CO(CH2)n2−、−(CH2)n1NR3CONR2(CH2)n2−、−(CH2)n1NR3CSNR2(CH2)n2−、−(CH2)n1CONR3(CH2)n3CONR2(CH2)n2−,−(CH2)n1CONR3(CH2)n3(CHR4)n4CONR2(CH2)n2−、−(CH2)n1−、−(CH2)n1S(CH2)n2−、−(CH2)n1O(CH2)n2−、−(CH2)n1NR2(CH2)n2−、−(CH2)n1CO2(CH2)n2−等が挙げられ、−(CH2)n1CONR3(CH2)n3CONR2(CH2)n2−が好ましい。前記式中、n1、n2、n3、n4はそれぞれ、0または1〜5の整数であり、R2、R3およびR4は、それぞれ、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基である。このXのためのリンカーとは、本発明のタンパク質を蛍光標識する方法における条件下で、切断されないリンカーであれば、その構造は限定されない。
【0034】
式(I)の化合物において、YのためのリンカーL2とは、式(I)の化合物のセファロスポリン骨格とYとを結びつけるための基である。さらに、Yのためのリンカーとは、式(I)の化合物のβラクタム環が、変異型βラクタマーゼにより開環され、生じたアシル−酵素中間体におけるビニル基を通じて電子移動が生じ、その結果、Yを遊離させるようなリンカーが好ましい。具体的には、L2は、−CH2O(CH2)n1−、−CH2S(CH2)n1−、−CH2NR2(CH2)n1−、−CH2N+R22(CH2)n1−、−CH2OCONR2(CH2)n1−、−CH2OCO(CH2)n1−、−CH2CSNR2(CH2)n1−、−CH2SCSO(CH2)n1−、−CH=CH−、
【0035】
【化11】
【0036】
等が挙げられ、
【0037】
【化12】
【0038】
が好ましい。前記式中、n1、n2はそれぞれ、0または1〜5の整数であり、R2は、水素原子または低級アルキル基である。
【0039】
本発明の化合物において、セファロスポリン骨格、ペニシリン骨格、X、Y、L1およびL2は、1か所以上の不斉中心を有することもあり、それゆえ、式(I)の化合物、式(II)の化合物、式(III)の化合物はラセミ体または純粋な立体異性体として存在してもよい。さらに、X、Y、L1および/またはL2にアルケニル基を含有する場合、シス又はトランス異性体として存在しうる。いずれの場合にも、本発明はそれらの混合物及び各異性体を共に包含するものである。
【0040】
ただし、式(I)の化合物において、セファロスポリン骨格は、変異型βラクタマーゼに対して特異性が高まるため、下式に示す立体を有するのが好ましい。
【0041】
【化13】
【0042】
前記式中、L1、L2およびR1は、式(I)の化合物において定義したとおりである。
【0043】
本発明の化合物において、低級アルキル基とは、炭素数1〜6のものが挙げられる。具体的には、低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、sec−ペンチル基、t−ペンチル基、2−メチルブチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、および1−エチル−1−メチルプロピル基などの直鎖状または分岐状のアルキル基を挙げることができ、好適には炭素数1〜3のものが挙げられる。
【0044】
本発明の化合物において、低級アルキレン基とは、炭素数1〜6のものが挙げられる。具体的には、低級アルキル基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基などの直鎖状または分岐状のアルキル基を挙げることができ、好適には炭素数1〜3のものが挙げられる。
【0045】
本発明の化合物において、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基とは、例えば、t−ブトキシメチル、アセトキシメチル等が挙げられ、中でもアセトキシメチルが好ましい。
【0046】
本発明において、式(I)の化合物の塩、式(II)の化合物の塩および式(III)の化合物の塩は、酸または塩基との塩であってもよい。そのような塩としては、例えばナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などの無機塩基との塩、及びトリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンアミンなどの有機アミン塩、及び塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸などの無機酸塩、及びギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、マレイン酸、酒石酸などの有機カルボン酸塩、及びメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などのスルホン酸付加塩、及びアルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などの塩基性又は酸性アミノ酸といった塩基との塩又は酸付加塩が挙げられる。
【0047】
本発明において、式(I)の化合物、式(II)の化合物および式(III)の化合物は、溶媒和物の形をとることもありうるが、これも本発明の範囲に含まれる。溶媒和物としては、好ましくは、水和物及びエタノール和物が挙げられる。
【0048】
本発明の蛍光標識する方法において用いられる式(I)の化合物、式(II)の化合物および式(III)の化合物は、従来技術における公知文献を参考に自家製造してもよいし、市販で入手してもよい。
【0049】
本発明の蛍光標識する方法において用いられる、標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質を得ることは、例えば、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得ること、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得ること、細胞内で融合タンパク質を発現させること、又は、発現した融合タンパク質を単離することを含んでもよい。融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、標識対象タンパク質をコードするポリヌクレオチド、変異型βラクタマーゼをコードするポリヌクレオチド等を用い、通常の方法に従い、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを調製することができる。
【0050】
本発明の第1の蛍光標識する方法において、前記融合タンパク質と、式(I)の化合物とを反応させる工程は、融合タンパク質を発現する細胞内や生体内で行ってもよく、単離した融合タンパク質を用いてin vitroで行ってもよい。標識をin vitroで行う場合、例えば、緩衝液中(pH6.8〜7.4)で20〜37℃の温度で行ってもよい。
【0051】
本発明のタンパク質を蛍光標識する方法(第1の蛍光標識する方法)において、融合タンパク質における変異型βラクタマーゼのアミノ酸配列は、
(i)配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列、
(ii)配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列の1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(I)で表わされる記化合物のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、及び、
(iii)配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(I)で表わされる化合物のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、からなる群から選択されるアミノ酸配列であるのが好ましい。
【0052】
本発明は、また、前記式(I)で表わされる化合物またはその塩を含む本発明の第1の蛍光標識する方法に用いるための組成物である。
【0053】
【化14】
【0054】
前記式(I)中、Xは、蛍光性基であり、
Yは、消光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
L2は、Yのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【0055】
本発明は、また、本発明の第1の蛍光標識する方法に用いるためのプラスミドまたはベクターであって、
前記プラスミドまたはベクターは、標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドをクローニングするため又は前記融合タンパク質を発現させるためのプラスミド又はベクターであり、
前記プラスミド又はベクターは、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列の1〜数個の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列であって、前記融合タンパク質において前記式(I)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、及び、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、前記融合タンパク質において前記式(I)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、からなる群から選択される塩基配列を含む。
【0056】
また、本発明は、前記式(I)で表わされる化合物またはその塩を含む本発明の方法に用いるための組成物と、本発明の方法に用いるためのプラスミドまたはベクターとを含むタンパク質の蛍光標識方法用キットである。
【0057】
本発明のタンパク質の蛍光標識方法用キットは、さらに、前記プラスミド又はベクターを導入するための宿主細胞、キットの取り扱い説明書を含むのが好ましい。
【0058】
本発明の第1の蛍光標識する方法において、前記式(I)中、Xが発光性希土類錯体である場合、蛍光標識された対象タンパク質を時間分解蛍光測定方法により検出するのが好ましい。このような式(I)の化合物は、Xが発光性希土類錯体であるため、発光する蛍光が長寿命である。そうすると、生体内で自家蛍光として観測される寿命が短い蛍光(リボフラビンやNADHなど内在性蛍光物質に由来する蛍光)を排除し、対象タンパク質を高いS/N比で高感度に検出することができる。
【0059】
本発明の第1の蛍光標識する方法、組成物、およびキットにおいて、Xがクマリンから誘導される下記式(i)に示す基:
【0060】
【化15】
【0061】
であり、Yが
【0062】
【化16】
【0063】
であり、L1が−(CH2)n1CONR3(CH2)n3CONR2(CH2)n2−であり、L2が、
【0064】
【化17】
【0065】
または−CH=CH−である式(I)の化合物が好ましく、
以下の式で表わされる化合物CCDがさらに好ましい。
【0066】
【化18】
【0067】
また、本発明は、一般式(I’)で表わされる化合物(以下、「式(I’)の化合物」と呼ぶ)またはその塩である。
【0068】
【化19】
【0069】
前記式(I)中、Xは、蛍光性基、好ましくはクマリン色素、キサンテン色素から誘導される基であり、
Yは、消光性基、好ましくはジメチルアミノアゾベンゼンであり、
L1は、Xのためのリンカー、好ましくは−(CH2)n1CONR3(CH2)n3CONR2(CH2)n2−であり、
L2’は、
【0070】
【化20】
【0071】
(前記式中、n1、n2はそれぞれ、0または1〜5の整数であり、
R2は、水素原子または低級アルキル基である)
または−CH=CH−
で表わされる、Yのためのリンカー、好ましくは
【0072】
【化21】
【0073】
であり、
R1は、Hまたは低級アルキル基である。
【0074】
式(I’)の化合物は、下記式で表わされる保護基で保護されたセファロスポリン誘導体を出発原料とし、従来技術における公知文献および化合物CCDの製造方法を参考にすることにより、製造することができる。
【0075】
【化22】
【0076】
前記式中、ProおよびPro’は、それぞれ、保護基を意味し、Halは、ハロゲン原子を意味する。
【0077】
また、本発明は、タンパク質を蛍光標識する方法であって、
標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質を得ること、および前記融合タンパク質と下記式(II)で表わされる化合物もしくは下記式(III)で表わされる化合物またはその塩とを反応させることにより、前記対象タンパク質を蛍光標識することを含み、前記変異型βラクタマーゼは、前記式(II)で表わされる化合物もしくは下記式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なタンパク質である、タンパク質の蛍光標識方法である(以下、「第2の蛍光標識する方法」と呼ぶことがある)。
【0078】
【化23】
【0079】
前記式(II)および式(III)中、
Xは、蛍光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基であり、
R4は、Hまたは低級アルキルである。
【0080】
前記のように、前記融合タンパク質と下記式(II)の化合物もしくは下記式(III)の化合物またはその塩とを反応させると、融合タンパク質の変異型β−ラクタマーゼは、式(II)の化合物または式(III)の化合物のβラクタム環を求核攻撃し、βラクタム環を開環させる。開環後、βラクタム間と式(II)の化合物または式(III)の化合物との付加体は加水分解されないため、変異型β−ラクタマーゼは式(II)の化合物または式(III)の化合物で蛍光標識されることになる。この方法によれば、変異型β−ラクタマーゼを選択的に蛍光標識できるという利点がある。β−ラクタマーゼは細菌酵素であり、哺乳類動物細胞中には存在しない。そのため、この方法によれば、哺乳類動物細胞中の内在性タンパク質をラベル化する恐れは無いという利点がある。
【0081】
前記第2の蛍光標識する方法において用いられる式(II)の化合物および式(III)の化合物は、前記のようにXが、蛍光性基であり、L1が、Xのためのリンカーであり、R1が、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基であり、R4が、Hまたは低級アルキルである。前記蛍光性基、Xのためのリンカー、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基および低級アルキル基については、式(I)の化合物について前記したとおりである。
【0082】
本発明の第2の蛍光標識する方法において用いられる、標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質を得ることは、例えば、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得ること、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得ること、細胞内で融合タンパク質を発現させること、又は、発現した融合タンパク質を単離することを含んでもよい。融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、標識対象タンパク質をコードするポリヌクレオチド、変異型βラクタマーゼをコードするポリヌクレオチド等を用い、通常の方法に従い、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを調製することができる。
【0083】
本発明の第2の蛍光標識する方法において、前記融合タンパク質と、式(II)の化合物または式(III)の化合物とを反応させる工程は、融合タンパク質を発現する細胞内や生体内で行ってもよく、単離した融合タンパク質を用いてin vitroで行ってもよい。標識をin vitroで行う場合、例えば、緩衝液中(pH6.8〜7.4)で20〜37℃の温度で行ってもよい。
【0084】
本発明の第2の蛍光標識する方法において、前記融合タンパク質における前記変異型βラクタマーゼのアミノ酸配列は、
(i)配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列、
(ii)配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列の1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物またはその塩のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、及び、
(iii)配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物またはその塩のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、からなる群から選択されるアミノ酸配列であるのが好ましい。
【0085】
本発明の第2の蛍光標識する方法は、変異型β−ラクタマーゼを利用する。β−ラクタマーゼは細菌酵素であり、哺乳類細胞中には存在しないため、内在性タンパク質をラベル化することは無い。従って、本発明のタンパク質を蛍光標識する方法は、内在性タンパク質ではなく対象タンパク質を選択的にラベル化することができる。
【0086】
本発明の第2の蛍光標識する方法において、前記式(II)および式(III)中、Xが発光性希土類錯体である場合、蛍光標識された対象タンパク質を時間分解蛍光測定方法により検出することが可能である。このような式(II)の化合物または式(III)の化合物は、Xが発光性希土類錯体であるため、発光する蛍光が長寿命である。そうすると、生体内で自家蛍光として観測される寿命が短い蛍光(リボフラビンやNADHなど内在性蛍光物質に由来する蛍光)を排除し、対象タンパク質を高いS/N比で高感度に検出することができる。
【0087】
本発明は、また、前記式(II)で表わされる化合物もしくは下記式(III)で表わされる化合物またはその塩を含む本発明の方法に用いるための組成物である。
【0088】
【化24】
【0089】
前記式(II)および式(III)中、
Xは、蛍光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基であり、
R4は、Hまたは低級アルキルである。
【0090】
本発明は、または、本発明の第2の蛍光標識する方法に用いるためのプラスミドまたはベクターであって、
前記プラスミドまたはベクターは、標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドをクローニングするため又は前記融合タンパク質を発現させるためのプラスミド又はベクターであり、
前記プラスミド又はベクターは、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列の1〜数個の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列であって、前記融合タンパク質において式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、及び、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、前記融合タンパク質において式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、からなる群から選択される塩基配列を含む。
【0091】
また、本発明は、前記式(II)で表わされる化合物もしくは下記式(III)で表わされる化合物またはその塩を含む本発明の方法に用いるための組成物と、本発明の方法に用いるためのプラスミドまたはベクターとを含むタンパク質の蛍光標識方法用キットである。
【0092】
本発明のタンパク質の蛍光標識方法用キットは、さらに、前記プラスミド又はベクターを導入するための宿主細胞、キットの取り扱い説明書を含むのが好ましい。
【0093】
本発明の第2の蛍光標識する方法、組成物、およびキットにおいて、一般式(II)で表わされる化合物としては、Xが下記式(i)に示す基または式(ii)に示す基と希土類イオンとの錯体:
【0094】
【化25】
【0095】
であり、L1が−(CH2)n1CONR3(CH2)n3CONR2(CH2)n2−または−(CH2)n1CONR3(CH2)n3(CHR4)n4CONR2(CH2)n2−(前記式中、n1、n2、n3、n4はそれぞれ、0または1〜5の整数であり、R2、R3およびR4は、それぞれ、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基である。)
であり、R1はHである化合物が好ましく、下記化合物CAおよび下記化合物csDAmに希土類イオンが錯体を形成した化合物がより好ましい。
【0096】
【化26】
【0097】
また、本発明は、一般式(II’)で表わされる化合物またはその塩である。
【0098】
【化27】
【0099】
前記式(II’)中、
X’は、発光性希土類錯体であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【0100】
一般式(II’)で表わされる化合物としては、Xが下記式(ii)に示す基と希土類イオンとの錯体:
【0101】
【化28】
【0102】
であり、L1が−(CH2)n1CONR3(CH2)n3CONR2(CH2)n2−または−(CH2)n1CONR3(CH2)n3(CHR4)n4CONR2(CH2)n2−(前記式中、n1、n2、n3、n4はそれぞれ、0または1〜5の整数であり、R2、R3およびR4は、それぞれ、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基である。)
であり、R1はHである化合物が好ましく、下記化合物csDAmに希土類イオンが錯体を形成した化合物がより好ましい。
【0103】
【化29】
【0104】
式(II)および式(II’)の化合物は、下記式で表わされる保護基で保護されたペニシリン誘導体を出発原料とし、従来技術における公知文献および化合物CAの製造方法を参考にすることにより、製造することができる。
【0105】
【化30】
【0106】
前記式中、L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【0107】
[実施例]
本明細書の記載において、以下の略語を使用する。
DMSO:ジメチルスルホキシド
HOBt:1−ヒドロキシベンゾトリアゾール
DMF:ジメチルホルムアミド
WSCD:水溶性カルボジイミド:1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド
Ar:アルゴン
TEA:トリエチルアミン
BOC:t−ブトキシオキシカルボニル
[化合物および機器]
化合物は、入手できる最も高いグレードのものであり、東京化成工業株式会社、和光純薬工業株式会社、およびシグマ−アルドリッチジャパン株式会社から購入して、さらなる精製を行わずに用いた。7−アミノ−3−クロロメチル−3−セフェム−4−カルボン酸 p−メトキシベンジル エステル 塩酸塩(ACLE・HCl)は、大塚化学株式会社から購入した。制限エンドヌクレアーゼおよびPrimeSTAR(登録商標)HS DNA ポリメラーゼは、タカラバイオ株式会社から購入した。カナマイシンおよび無機塩は、和光純薬工業株式会社またはナカライテスク株式会社から購入した。プラスミドDNAは、QIAprep Spin Miniprep kit(商品名)(株式会社キアゲン)を用いて単離した。
【0108】
XL10-Gold(ストラタジーン社)を特定部位の突然変異誘発実験の中間ホストとして用いた。E. coli BL21(DE3)(ノバジェン社)を標的遺伝子発現のホストとして用いた。ルリア−ベルターニ(Luria-Bertani)(LB)培地またはTerrific Broth (TB)を全ての菌株用成長培地として用いた。Bacto Agar (和光純薬工業株式会社)を固体培地の調製用に1.5%までの濃度で用いた。
【0109】
NMRスペクトルは、1H用には400MHzで、13NMR用には100.4MHzで、テトラメチルシランを内部標準として用い、JEOL JNM−AL400装置で測定した。質量スペクトル(FAB)は、JEOL JMS−700で測定した。ESI−TOF MSは、Waters LCT-Premier XE(日本ウォーターズ株式会社)で測定した。MALDI-TOF MSは、Applied Biosystems Voyager RP(アプライドバイオシステムズジャパン株式会社)で測定した。UV−可視吸収スペクトルは、紫外可視分光光度計UV1650PCスペクトロメーター(株式会社島津製作所)を用いて測定した。蛍光スペクトルは、日立分光蛍光光度計F−4500を用いて測定した。スリット幅は励起および放射の両方について2.5nmであった。光電子増倍管電圧は700Vであった。全てのプローブは蛍光測定前に(生化学用グレード、和光純薬工業株式会社)に溶解させた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーは、BW−300(富士シリシア化学株式会社)を用いて行った。
【0110】
[参考例:化合物CAの合成]
(1)化合物(11)の合成
【0111】
【化31】
【0112】
2,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド(3.0g,22mmol)およびジエチルマロネート(4.2g,26mmol)を無水EtOH(30mL)に溶解させ、ついでピペリジン(370mg,4.3mmol)を添加した。反応混合物を12時間還流加熱し、ついで氷浴中で冷却した。析出物を集め、冷EtOHで洗浄して化合物(11)を得た(2.5g,収率49%)。
【0113】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 1.29 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 4.28 (q, J = 6.9 Hz, 2H), 6.69 (d, J = 1.8 Hz, 1H), 6.85 (dd, J = 1.8, 8.7 Hz), 7.74 (d, J = 8.7 Hz. 1H), 8.67 (s, 1H), 11.1 (brs, 1H);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 15.2, 61.9, 102.9, 111.5, 113.1, 115.1, 133.1, 150.4, 157.5, 158.1, 164.0, 165.2;
HRMS (ESI+) m/z: 257.0406 (計算値[M+H]+: 257.0426)。
【0114】
(2)化合物(12)の合成
【0115】
【化32】
【0116】
化合物(11)(0.39g,1.6mmol)を2N NaOH水溶液(5mL)に溶解させ、室温で12時間攪拌した。その混合物を2N HCl水溶液で酸性にした。ついで析出物を集め、水で洗浄して化合物(12)を得た(0.29g,収率87%)。
【0117】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 6.74 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 6.84 (dd, J = 2.1, 8.7 Hz, 1H), 7.74 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 8.68 (s, 1H), 11.1 (brs, 1H), 12.8 (brs, 1H);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 102.4, 111.7, 113.6, 115.1, 133.1, 150.5, 158.1, 158.6, 165.0, 165.3;
HRMS (ESI+) m/z: 206.0215 (計算値[M+H]+: 206.0220)。
【0118】
(3)化合物(13)の合成
【0119】
【化33】
【0120】
化合物(12)(0.25g,1.2mmol)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(0.21g,1.8mmol)をDMF(5mL)に溶解させ、ついでWSCD・HCl(0.35g,1.8mmol)を0℃で添加した。その混合物を0℃で3時間Ar雰囲気下で攪拌した。反応混合物を酢酸エチルで希釈し、10%クエン酸水溶液、水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。蒸発させて化合物(13)を得た(0.24g,収率66%)。
【0121】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 2.91 (s, 4H), 6.77 (d, J = 1.8 Hz, 1H), 6.89 (dd, J = 1.8, 8.7 Hz, 1H), 7.87 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 9.00 (s, 1H), 11.4 (brs, 1H);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 102.4, 111.7, 113.6, 115.1, 133.1, 150.5, 158.1, 158.6, 165.0, 165.3;
HRMS (ESI+) m/z: 326.0263 (計算値[M+H]+: 326.0277)。
【0122】
(4)化合物CAの合成
【0123】
【化34】
【0124】
アンピシリン(0.35g,0.99mmol)をDMF(20mL)に溶解させ、ついでジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(1滴)および化合物(13)(0.20g,0.66mmol)をそこへ0℃で添加した。その混合物を10時間攪拌した。ついで10%クエン酸水溶液を添加し、その混合物を酢酸エチルで抽出した。有機相を10%クエン酸水溶液および水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。蒸発させて、化合物CA(クマリニルアンピシリン)を得た(0.31g,収率88%)。
【0125】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ1.41 (s, 3H), 1.55 (s, 3H), 4.21 (s, 1H), 5.40 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 5.56 (dd, J = 3.0 Hz, 7.7 Hz, 1H), 5.92 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 6.83 (s, 1H), 6.88 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.35 (m, 7H), 7.83 (d, J = 8.43 Hz, 2H), 9.38 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 9.62 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 11.1 (s, 1H), 13.4 (brs, 1H).
【実施例1】
【0126】
化合物CCDの合成
(1)化合物(1)の合成
【0127】
【化35】
【0128】
7−アミノ−3−クロロメチル−3−セフェム−4−カルボン酸p−メトキシベンジルエステル塩酸塩(ACLE・HCl)(1.0g,2.5mmol)、BOC−グリシン(480mg、2.7mmol)およびHOBt一水和物(760mg,4.9mmol)を、DMF(5mL)に溶解させ、その後トリエチルアミン(250mg,2.5mmol)およびWSCD・HCl(570mg,3.0mmol)を0℃で添加した。その混合物を0℃で6時間Ar雰囲気下で攪拌した。反応混合物を酢酸エチルで希釈し、飽和NaHCO3水溶液、10%クエン酸水溶液および水で洗浄し、その後、硫酸ナトリウムで乾燥した。蒸発させた後、残渣をヘキサン/酢酸エチル(1:1)で溶出してシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(1)を得た(1.25g,収率96%)。
【0129】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.46 (s, 9H), 3.48 (d, J = 18.4 Hz, 1H), 3.65 (d, J = 18.4 Hz, 1H), 3.81 (s, 3H), 3.83 (m, 2H), 4.43 (d, J = 12.0 Hz, 1H), 4.54 (d, J = 12.0 Hz, 1H), 4.97 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 5.23 (s, 2H), 5.84 (dd, J = 5.2 Hz, 8.8 Hz, 1H), 6.89 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.34 (d, J = 8.8 Hz, 2H);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 27.1, 28.2, 43.2, 44.1, 55.2, 57.5, 58.9, 68.2, 80.5, 113.9, 125.5, 126.2, 126.6, 130.6, 156.0, 159.9, 161.1, 164.6, 170.2, 171.2;
HRMS (FAB+) m/z: 526.1426 (計算値[M+H]+: 526.1415)。
【0130】
(2)化合物(2)の合成
【0131】
【化36】
【0132】
化合物(1)(560mg,1.1mmol)およびヨウ化ナトリウム(1.6g,11mmol)のアセトン中混合物を、室温で1時間攪拌した。反応混合物を減圧下に濃縮し、酢酸エチルで希釈した。有機相を水で洗浄し、その後硫酸ナトリウムで乾燥した。得られたヨウ素誘導体(淡オレンジ色の非晶質)を精製なしに次の反応に用いた。ヨウ素誘導体(400mg,0.65mmol)をDMFに溶解させ、次いでNaHCO3(80mg,0.95mmol)を添加した。そこへ、p−アミノチオフェノール(120mg,0.95mmol)のDMF溶液を滴下して加えた。得られた混合物を室温でAr雰囲気下、5時間攪拌した。その混合物を酢酸エチルで希釈し、飽和NaHCO3水溶液、10%クエン酸水溶液および水で洗浄し、その後硫酸ナトリウムで乾燥した。蒸発させた後、残渣をヘキサン/酢酸エチル(1:1)で溶出してシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(2)を得た(260mg,収率54%(2工程))。
【0133】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ1.46 (s, 9H), 3.33 (d, J = 18.0 Hz, 1H), 3.59 (d, J = 13.6 Hz, 1H), 3.67 (d, J = 18.0 Hz, 1H), 3.75 (brs, 2H), 3.81 (s, 3H), 3.84 (m, 2H), 4.17 (d, J = 13.6 Hz, 1H), 4.87 (d, J = 4.9 Hz, 1H), 4.98 (d, J = 11.7 Hz, 1H),5.07 (d, J = 11.7 Hz, 1H), 5.17 (brs, 1H), 5.84 (dd, J = 4.9 Hz, 8.8 Hz, 1H), 6.53 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 6.89 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.04 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.15 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.30 (d, J = 8.8 Hz, 2H);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 28.3, 28.6, 39.2, 44.3, 55.3, 57.5, 58.7, 67.6, 80.6, 113.9, 115.5, 120.6, 124.0, 127.0, 130.6, 130.7, 136.0, 147.1, 156.0, 159.8, 161.4, 164.4, 170.0;
HRMS (FAB+) m/z: 615.1940 (計算値[M+H]+: 615.1947)。
【0134】
(3)化合物(3)の合成
【0135】
【化37】
【0136】
化合物(2)(270mg,0.44mmol)および4−ジメチルアミノアゾベンゼン−4’−カルボン酸(130mg,0.48mmol)を、ピリジン(5mL)に溶解させ、ついでPOCl3(74mg,0.48mmol)を−20℃で5分間にわたって滴下して加えた。その混合物を−20℃で20分間、Ar雰囲気下で攪拌した。反応混合物を酢酸エチルで希釈し、飽和NaHCO3水溶液、10%クエン酸水溶液および水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。蒸発させた後、残渣をMeOH/CH2Cl2(0%→1%)で溶出してシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(3)を得た(76mg,収率20%)。
【0137】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.45 (s, 9H), 3.11 (s, 6H), 3.40 (d, J = 18.0 Hz, 1H ), 3.63 (d, J = 18.0 Hz, 1H), 3.80 (m, 3H), 4.15 (d, J = 13.3 Hz, 1H), 4.86 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 5.04 (d, J = 11.8 Hz, 1H), 5.08 (d, J = 11.8 Hz, 1H), 5.24 (brs, 1H), 5.71 (dd, J = 4.8 Hz, 9.0 Hz, 1H), 6.76 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 6.82 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.09 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 7.28 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.34 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.54 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.92 (m, 6H), 8.03 (brs, 1H);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 28.3, 28.3, 38.0, 40.3, 44.3, 55.2, 57.5, 58.8, 67.7, 80.6, 111.5, 113.9, 120.6, 122.4, 124.4, 125.5, 126.9, 128.1, 128.4, 129.4, 130.6, 134.3, 134.4, 138.1, 143.6, 152.9, 155.4, 156.0, 159.8, 161.4, 164.3, 165.2, 170.0;
HRMS (FAB+) m/z: 866.3000 (計算値[M+H]+: 866.3006)。
【0138】
(4)化合物(4)の合成
【0139】
【化38】
【0140】
化合物(3)(40mg,46μmol)を無水CH2Cl2(4mL)に溶解させ、チオアニソール(800μL)とトリフルオロ酢酸(TFA)(2.4mL)を0℃で添加した。その混合物を0℃で4時間攪拌し、ついで、冷ジエチルエーテル(15mL)へ加えた。析出物を集め、ジエチルエーテルで洗浄して化合物(4)(トリフルオロ酢酸塩)を得た(36mg,定量的)。
【0141】
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ3.12 (s, 6H), 3.55 (d, J = 17.6 Hz, 1H), 3.76 (m, 3H), 3.93 (d, J = 13.6 Hz, 1H), 4.33 (d, J = 13.6 Hz, 1H), 5.06 (d, J = 4.9 Hz, 1H), 5.72 (d, J = 4.9 Hz, 1H), 6.85 (d, J = 9.3 Hz, 2H), 7.45 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.70 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.88 (t, J = 9.3 Hz, 4H), 8.04 (d, J = 9.3 Hz, 2H);
13C NMR (100 MHz, DMF-d7) δ 28.4, 35.8, 40.2, 41.6, 58.4, 59.9, 112.3, 121.3, 121.4, 122.4, 125.9, 126.0, 129.5, 129.7, 132.2, 133.1, 135.9, 140.0, 143.9, 154.0, 155.5, 162.9, 163.8, 165.0, 165.8, 167.9;
HRMS (FAB+) m/z: 646.1915 (計算値[M+H]+: 646.1906)。
【0142】
(5)化合物CCDの合成
【0143】
【化39】
【0144】
化合物(4)(10mg,13μmol)をDMF(500μL)に溶解させ、その後、トリエチルアミン(TEA)(1滴)および化合物(13)(4.4mg,15μmol)を室温で添加した。その混合物を1時間攪拌し、ついで溶媒を蒸発させ、100mMのギ酸アンモニウム水溶液(15mL)を添加した。析出物を集め、100mMギ酸アンモニウム水溶液と水で洗浄して、化合物CCDを得た(10mg,収率91%)。
【0145】
1H NMR (400 MHz, DMF-d7) δ 3.13 (s, 6H), 3.61 (d, J = 18.1 Hz, 1H), 3.83 (d, J = 18.1 Hz, 1H), 4.02 (d, J = 13.2 Hz, 1H), 4.27 (d, J = 3.9 Hz, 2H), 4.34 (d, J = 13.2 Hz, 1H), 5.20 (d, J = 4.9 Hz, 1H), 5.83 (dd, J = 4.9 Hz, 8.8 Hz, 1H), 6.87 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 6.91 (d, J = 9.3 Hz, 2H), 6.97 (dd, J = 2.4 Hz, 8.8 Hz, 1H), 7.47 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.90 (m, 7H), 8.20 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 8.84 (s, 1H), 9.01 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 9.18 (t, J = 5.4 Hz, 1H), 10.5 (s, 1H), 11.5 (brs, 1H);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 27.3, 36.9, 39.8, 42.3, 57.7, 58.8, 101.8, 111.0, 111.6, 113.1, 114.4, 120.8, 121.6, 125.2, 128.9, 129.0 (two carbons), 129.6, 131.6, 132.1, 134.9, 138.4, 142.7, 148.3, 152.9, 154.3, 156.4, 160.9, 161.6, 163.0, 163.9, 164.2, 164.9, 169.2;
HRMS (FAB+) m/z: 834.2010 (計算値[M+H]+: 834.2016).
[プラスミドと点変異]
Omp-A WT(野生株)TEM-1ベクターS1(Thomas, V. L.; Golemi-Kotra, D.; Kim, C.; Vakulenko, S. B.; Mobashery, S.; Shoichet, B. K. Biochemistry. 2005, 44, 9330−9338参照)は、S. Mobashery 教授(Georgia Institute of Technology)から提供を受けた。Omp-A WT TEM-1における点変異は、QuikChange(登録商標) Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)を用い、製造者のプロコールに従い、配列番号9および10の変異原性プライマーを用いることで目的プラスミドpET−24a(+)−E166N TEM−1を得た。得られたpET−24a(+)−E166N TEM−1(TEM−1の166位のGluをAsnに置き換えた)を含む点変異二本鎖プラスミドDNAの配列決定は、Sequenase DNA sequencing kit (BigDye Terminator version 3.1; Applied Biosystems)と、製造者のプロトコールによるオーダーメードの内部プライマーを用いて行った。
【0146】
[変異型TEM−1 βラクタマーゼの精製]
20μg/mLのカナマイシンを追加したLB培地中の大腸菌E. coli BL21(DE3)において、E166N TEM−1を含む点変異二本鎖プラスミドを一晩、培養した。酵素精製のため、その培養物を、20μg/mLのカナマイシン、500mMのソルビトールおよび2.5mMのベタインを追加したTerrific Broth で100倍に希釈した。600nmで培養物の光学濃度が0.6に達するまで、37℃で振とう(260〜280rpm)して4〜5時間インキュベーションした後、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を最終濃度0.4mMまで添加し、その培養物を25℃で一晩攪拌した。細胞を遠心分離によりペレット化し、酵素を含む上澄み液をVivaspin(膜分子量カットオフ, 10,000; Vivascience)により濃縮して、10mMのTris−HCl緩衝液(pH 7.0)に置き換えた。濃縮したタンパク質を同じ緩衝液で平衡にしたDEAEセファデックスカラムにロードした。酵素をグラジェント溶出液(10〜100mMのTris−HCl 緩衝液)を用いて変異型TEM−1 βラクタマーゼを溶出させた。
【0147】
[タンパク質ラベルのSDS−PAGEによる検出]
WT(野生株)TEM−1 βラクタマーゼまたはE166N TEM−1 βラクタマーゼ(20μM)を25℃で、10mMのTris−HCl緩衝液(pH7.0)中の化合物CA(30μM)溶液または化合物CCD(30μM)溶液に添加した。30分後、蛍光ラベル化されたタンパク質と蛍光ラベル化されていないタンパク質を、SDS gel loading buffer (1%SDS、20%グリセロール、10%メルカプトエタノール、pH6.8)中に溶解させ、SDS−PAGEにより分離した。電気泳動の後、ゲルの蛍光画像を、UVランプにより365nmの蛍光下、デジタルカメラで撮影した。蛍光画像を撮影した後、ゲルをCoomassie Brilliant Blueで染色し、その後、染色したゲル画像を撮影した。得られた結果を、図1および図2に示す。図1(a)は、E166NTEM−1をCAでラベル化した場合の蛍光画像(i)とゲル染色画像(ii)を、図1(b)はE166NTEM−1をCCDでラベル化した場合の蛍光画像(i)とゲル染色画像(ii)を示す。また、化合物CA(30μM)または化合物CCD(30μM)のみを、SDS gel loading buffer (1%SDS、20%グリセロール、10%メルカプトエタノール、pH6.8)中に溶解させ、SDS−PAGEにより分離した。電気泳動の後、ゲルの蛍光画像を、UVランプにより365nmの蛍光下、デジタルカメラで撮影した。得られた蛍光画像は、化合物CAについては図1(a)(iii)に、化合物CCDについては図1(b)(iii)に示す。
【0148】
また、図2(a)は、WTTEM−1にCAを加えた場合の蛍光画像(左)とゲル染色画像(右)を、図2(b)は、WTTEM−1にCCDを加えた場合の蛍光画像(左)とゲル染色画像(右)を示す。
【0149】
図1に示すように、化合物CCDが存在する場合または化合物CAが存在する場合、E166NTEM−1がラベル化されていることが確認できた。また、E166NTEM−1を化合物CAでラベル化した場合、ラベル化タンパク質由来のバンド以外に、未反応プローブと緩衝液中で自動的に加水分解を受けたプローブ由来のバンドが確認できた。一方、E166NTEM−1を化合物CCDでラベル化した場合、ラベル化タンパク質以外の蛍光は殆ど確認できなかった。従って、CCDによるE166NTEM−1のラベル化はCAと比較して、未反応プローブなどのバックグラウンドが非常に小さいことが確認できた
図2に示すように、WTTEM−1に化合物CAとCCDを反応させた場合、両化合物ともWTTEM−1によって加水分解を受けることが確認できた。
【0150】
[蛍光分光]
蛍光プローブを全てジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解させて10mMストック溶液を調製した。プローブの相対的蛍光量子収率は、100 mM HEPES 緩衝液(pH7.4)中のサンプルの修正蛍光スペクトル下面積と、100 mMのH2SO4水溶液中キニン2硫酸塩の修正蛍光スペクトル下面積(文献Dawson, R. W.; Windsor, W. M. J. Phys. Chem. 1968, 72, 3251−3260によれば、量子収率は0.55である。)とから、推定した。得られた結果を表1に示す。
【0151】
【表1】
【0152】
[酵素アッセイ]
WT(野生株)およびE166N TEM−1の酵素アッセイを100mMのHEPES緩衝液(pH7.4)中で室温で行った。精製酵素の溶液(15μM、5μL)をHEPES緩衝液中のプローブ(1μM、500μL)に添加した。サンプルを410nmで励起させ、450nmでの蛍光強度を測定した。WT(野生株)について得られた450nmでの発光スペクトルを図3(a)に、410nmでの励起スペクトルを図3(b)に示す。E166N TEM−1について得られた450nmでの発光スペクトルを図4(a)に、410nmでの励起スペクトルを図4(b)に示す。
【0153】
図3に示すように、WT(野生株)βラクタマーゼと化合物CCDを反応させると、蛍光強度が時間と共に増強していた。一方、図4に示すように、E166N TEM−1βラクタマーゼと化合物CCDを反応させると、蛍光強度が時間と共に増強するが、WT(野生株)βラクタマーゼとの場合と比較して、増強の程度はかなり緩やかであった。従って、E166N TEM−1βラクタマーゼが、化合物CCDにより共有結合的に標識されているのに対し、WT(野生株)βラクタマーゼは、触媒的に加水分解反応が進行しているために、大きく蛍光が増強していることが確認できた。
【0154】
[MALDI−TOF MS分析]
CCDストック溶液(10mM、0.2μL)を、10 mM Tris−HCl緩衝液(pH7.0)中のE166N TEM−1溶液(15μM、19.8μL)に25℃で添加した。16時間後、未反応の化合物CCDをセファデックスG-50 quick spin column (DNA-グレード; GE Healthcare)を用いて除去した。その後、MS用サンプルを、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸をマトリックスとして調製した。得られた結果を表2に示す。
【0155】
【表2】
【0156】
表2に示すように、E166N TEM−1βラクタマーゼ自体の分子量および化合物CCDにより蛍光標識されたE166N TEM−1の分子量が確認できた。従って、これらの物質の構造が確認できた。
【0157】
[融合タンパク質MBP−E166N TEM−1の発現および精製]
MBPのDNA断片はpMAL−c2(New England Biolabs)からPCRにより増幅した後、NdeIとNheIによって制限酵素処理した。MBPDNA断片を同様の制限処理を施したpET−21b(+)とライゲーションさせることでプラスミドpET−21b(+)−MBPを得た。次にpET−24a(+)−E166N TEM−1からE166N TEM−1塩基配列をPCRによって増幅し、EcoRI、HindIIIによって制限酵素処理した。そして同様にEcoRI、HindIIIによって制限酵素処理を施したpET−21b(+)−MBPとライゲーションさせることで、目的プラスミドpET−21b(+)−MBP−E166N TEM−1を得た。pET−21b(+)−MBP−E166N TEM−1は、100μg/mLのアンピシリンを追加したLB培地中のE. coli BL21(DE3)中で、成長細胞培地(OD600=0.6〜1.0)へIPTG(100μM)添加した後、25℃で20時間発現させた。細胞を遠心分離により収穫し、カラム緩衝液(20mMのTris−HCl、200mMのNaCl、1mMのEDTA、pH7.4)中で再懸濁させ、超音波で溶解させた。溶解液をアミロース樹脂カラム(New England Biolabs)に載せ、融合タンパク質を溶出緩衝液(20mMのTris−HCl、200mMのNaCl、1mMのEDTA、10mMのマルトース、pH7.4)を用いて溶出させた。得られたMBP−E166NTEM−1(10μM)に哺乳類細胞破砕液とCCD(30μM)を加え25℃で、10mMのTris−HCl緩衝液(pH7.0)中で反応させた。45分後、蛍光ラベル化されたタンパク質と蛍光ラベル化されていないタンパク質を、SDS gel loading buffer (1%SDS、20%グリセロール、10%メルカプトエタノール、pH6.8)中に溶解させ、SDS−PAGEにより分離した。電気泳動の後、ゲルの蛍光画像を、UVランプにより365nmの蛍光下、デジタルカメラで撮影した。蛍光画像を撮影した後、ゲルをCoomassie Brilliant Blueで染色し、その後、染色したゲル画像を撮影した。得られた結果を、図5に示す。図5は、MBP−E166NTEM−1を哺乳類細胞破砕液中CCDでラベル化した場合の蛍光画像(左)とゲル染色画像(右)を示す。
【0158】
図5に示すように、融合タンパク質MBP−E166N TEM−1に哺乳類細胞破砕液を加え、CCDでラベル化を行ったところ、CCDは融合タンパク質のみを選択的にラベル化した。この結果からE166NTEM−1は他のタンパク質と融合しても、その機能を保っていること、また夾雑タンパク質と非特異的に反応しないことが確認できた。
【0159】
[化合物CAによる融合タンパク質MBP−E166N TEM−1のラベル化]
前記のようにして得られたMBP−E166N TEM−1(10μM)に化合物CA(30μM)を加え25℃で、10mMのTris−HCl緩衝液(pH7.0)中で反応させた。45分後、蛍光ラベル化されたタンパク質と蛍光ラベル化されていないタンパク質を、SDS gel loading buffer (1%SDS、20%グリセロール、10%メルカプトエタノール、pH6.8)中に溶解させ、SDS−PAGEにより分離した。電気泳動の後、UVランプにより365nmの励起光照射下、ゲルの蛍光画像をデジタルカメラで撮影した。蛍光画像撮影後、ゲルをCoomassie Brilliant Blueで染色し、染色したゲル画像をデジタルカメラで撮影した。得られた結果を、図6に示す。図6は、MBP-E166N TEM−1を化合物CAでラベル化した場合の蛍光画像(左)、ゲル染色画像(右)を示す。
【0160】
図6に示すように、化合物CAは変異型βラクタマーゼを選択的に蛍光標識できることが確認できた。
【実施例2】
【0161】
[化合物csDAmの合成]
(1)7−アミノ−4−メチルキノリン−2(1H)−オン(化合物cs124)の合成
【0162】
【化40】
【0163】
1,3−フェニレンジアミン(3.22g、29.8mmol)およびエチルアセトアセテート(3.8mL,30.1mmol)を48時間130℃で還流加熱した。その混合物は徐々に固化した。エタノール(5mL)をその混合物に添加して粉砕し、ろ過して粗生成物を得た。メタノールを用いてその粗生成物を結晶化し、標題化合物を得た(2.52g、14.5mmol、収率48.5%、黄色針状結晶。
【0164】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ11.1 (s, 1H, 1), 7.33 (d, J = 8.3 Hz, 1H, 4), 6.44 (dd, J = 8.3 Hz, 2.0 Hz, 1H, 5), 6.36 (d, J = 2.0 Hz, 1H, 7), 5.93 (s, 1H, 2), 5.71 (s, 2H, 6, 2.27 (s, 3H, 3);
MS (ESI+) 計算値 C10H11N2O 175.08, 測定値175.08。
【0165】
(2)化合物(csDAm)の合成
【0166】
【化41】
【0167】
DTPA二無水物(1.04g、2.91mmol)およびトリエチルアミン(TEA、275mL)をDMF(275mL)中に溶解させ、そこへ、TEA(2mL)、化合物cs124(0.572g、3.29mmol)およびアンピシリン(Ampicillin、1.09g、3.13mmol)のDMF(50ml)溶液を滴下して加えた。その混合物から減圧下に溶媒を除去した。得られた生成物を逆相HPLCにより以下のようにして精製した:Inertsil(登録商標)ODS−3カラム(10×250mm)に溶液を載せ、330nmの波長で検出して、0.1% ギ酸を含有する15〜30%アセトニトリル/H2O勾配溶液を4.726mL/分の流速で30分で溶出した。生成物は、29.5分に溶出した。
【0168】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.79 (s, 1H, 5), 7.66 (d, J = 8.8 Hz, 1H, 3), 7.50 (d, J = 8.8 Hz, 1H, 4), 7.24~7.34 (m, 6H, 1,16,1718,19,20), 5.48 (s, 1H, 15), 5.46 (d, J = 3.6 Hz, 1H, 22) 5.36 (dd, J = 1.2 Hz, 3.8 Hz, 1H, 21), 4.28 (s, 1H, 25), 3.06~3.73 (m, 28H, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14), 2.42 (s, 3H, 2), 1.47 (s, 3H, 23), 1.39 (s, 3H, 24 );
MS (ESI+) 計算値C40H49N8O13S 881.31, 測定値 881.32,
計算値 C40H50N8O13S 441.16, 測定値 441.16。
【0169】
[化合物csDAmへ希土類イオンを配位させた化合物の製造と蛍光測定]
希土類イオンの配位は0.1M HEPES緩衝液(pH7.4)中で化合物csDAmとLn(NO3)3・6H2O(Ln=Tb,Eu)がそれぞれ最終濃度が10μMになるよう調整し、25℃で1時間ボルテックスした。測定にはボルテックス後、プローブの最終濃度が1μMになるよう希釈したものを用いた。LnがTb3+の場合に得られた吸収スペクトルを図7(a)に、LnがEu3+の場合に得られた吸収スペクトルを図7(b)に示す。図7(a)の拡大図を図7(c)に、図7(b)の拡大図を図7(d)に示す。図7(a)〜図7(d)に示すように、吸収スペクトルの330nm付近に化合物cs124の吸収が確認できる。従って、化合物csDAmへ希土類イオンが配位した化合物の生成が確認できた。
【0170】
また、LnがTb3+の場合に得られた励起スペクトルを図8(a)に、LnがEu3+の場合に得られた励起スペクトルを図8(b)に示す。図8(a)においてλEmは546nm、図8(b)においてλEmは615nmである。図8(a)に示すように、図7の吸収スペクトルと同様、330nm付近に極大値を有し、この吸収により化合物cs124により希土類イオンが励起されていることが確認できた。また、図8(b)に示すように、図7の吸収スペクトルと同様、321nm付近に極大値を有し、この吸収により化合物cs124により希土類イオンが励起されていることが確認できた。
【0171】
[時間分解蛍光スペクトル]
0.1M HEPES緩衝液(pH7.4)中で化合物csDAmとLn(NO3)3・6H2O(Ln=Tb,Eu)がそれぞれ最終濃度が10μMになるよう調整し、25℃で1時間ボルテックスした。測定にはボルテックス後、プローブの最終濃度が1μMになるよう希釈したものを用いた。サンプルを330nmで励起したときの、定常状態蛍光測定による蛍光スペクトルを図9(a)に、時間分解蛍光測定による蛍光スペクトルを図9(b)に示す。その際、Delay timeは60μs、Gate timeは2msで測定した。図9(a)に示すように、340〜450nm付近に化合物cs124由来のピークが、500〜620nm付近にテルビウムイオン由来のシャープなピークが確認できた。また、図9(b)に示すように、350〜450nm付近の化合物cs124由来のピークは消失し、希土類イオンであるテルビウムイオン由来のピークのみが観測されることが確認できた。なお、500〜620nm付近にテルビウムイオン由来のシャープなピークは、340〜450nm付近に化合物cs124由来のピークと比較して強度が著しく強い。これは、化合物cs124からユーロピウムへのエネルギー移動および発光効率が高いことに由来すると考えられる。
【0172】
また、Tb(NO3)3・6H2Oの代わりにEu(NO3)3・6H2Oを用いて、321nmで励起させて同様に蛍光スペクトルを測定した。定常状態蛍光測定による蛍光スペクトルを図10(a)に、時間分解蛍光測定による蛍光スペクトルを図10(b)に示す。その際、Delay timeは60μs、Gate timeは2msで測定した。図10(a)に示すように、340〜450nm付近に化合物cs124由来のピークが、500〜620nm付近にユーロピウムイオン由来のシャープなピークが確認できた。また、図10(b)に示すように、350〜450nm付近の化合物cs124由来のピークは消失し、希土類イオンであるユーロピウムイオン由来のピークのみが観測されることが確認できた。
【0173】
[蛍光寿命]
化合物csDAm(1mM、20μL)およびTb(NO3)3・6H2O(1mM、20μL)をそれぞれの最終濃度が0.5mMになるよう調整し、25℃で1時間ボルテックスした。測定にはボルテックス後、プローブの最終濃度が1μMになるよう希釈したものを用いた。サンプルを330nmで励起し、546nmでの蛍光寿命を測定した。その結果を図11(a)に示す。また、Tb(NO3)3・6H2Oの代わりにEu(NO3)3・6H2Oを用いて、321nmで励起し、615nmでの蛍光寿命を測定した。その結果を図11(b)に示す。図11(a)からLnがTbの場合の蛍光寿命が1.46ms、図11(b)からLnがEuの場合の蛍光寿命が0.587msであることが確認できた。すなわち、LnがTbまたはEuの場合、msオーダーの長い蛍光寿命を有することが確認できた。
【0174】
[タンパク質ラベルのSDS−PAGEによる検出]
WT(野生株)TEM−1 βラクタマーゼまたはE166N TEM−1 βラクタマーゼ、化合物csDAmおよびLn(NO3)3・6H2Oの最終濃度が、それぞれ27.5μM、55.0μMおよび18.3μMとなるように、10mMのTris−HCl緩衝液(pH7.0)中のWT(野生株)TEM−1 βラクタマーゼまたはE166N TEM−1 βラクタマーゼを25℃で、10mMのTris−HCl緩衝液(pH7.0)中の化合物csDAm溶液および10mMのTris−HCl緩衝液(pH7.0)中のLn(NO3)3・6H2O溶液に添加して反応溶液を作製した。反応溶液を25℃で60分間インキュベーションし、次いで、SDS gel loading buffer (1%SDS、20%グリセロール、10%メルカプトエタノール、pH6.8)中に溶解させ、SDS−PAGEにより分離した。電気泳動の後、ゲルの蛍光画像を、UVランプにより365nmの蛍光下、デジタルカメラで撮影した。蛍光画像を撮影した後、ゲルをCoomassie Brilliant Blueで染色し、その後、染色したゲル画像を撮影した。得られた結果を、図12および図13に示す。図12は、E166NTEM−1をLnで配位された化合物csDAmでラベル化した場合の蛍光画像(左の4レーン)とゲル染色画像(右の4レーン)を、図13はWT(野生株)TEM−1をLnで配位された化合物csDAmでラベル化した場合の蛍光画像(左の2レーン)とゲル染色画像(右の2レーン)を示す。
【0175】
図12における各レーン中のサンプルは以下の表3に示すように成分を混合して作製した。
【0176】
【表3】
【0177】
図13における各レーン中のサンプルは以下の表4に示すように成分を混合して作製した。
【0178】
【表4】
【0179】
図12に示すように、タグタンパク質となるβ−ラクタマーゼの分子量である29kDa付近に、レーン1ではTbイオン由来の緑色、レーン2ではEuイオン由来の赤色の蛍光が確認できた。このことから、Lnが配位した化合物csDAmがβ−ラクタマーゼにラベル化していることが確認できた。また、レーン1および2においては、15kDa付近にも緑色の蛍光が見られるが、これは遊離のTbが配位した化合物[csDAm−Tb]の蛍光であると考えられる。なお、Euが配位した化合物[csDAm−Eu]は蛍光強度がTbが配位した化合物[csDAm−Tb]に比べて弱いため、遊離のEuで配位した化合物[csDAm−Eu]由来の蛍光は見られない。
【0180】
図13に示すように、WTのβ-ラクタマーゼにはTbが配位した化合物[csDAm−Tb]およびEuが配位した化合物[csDAm−Eu]のいずれによってもラベル化されていないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明のタンパク質を蛍光標識する方法は、細胞イメージング等に適用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0182】
配列番号1 E166N TEM−1のアミノ酸配列
配列番号2 E166A TEM−1のアミノ酸配列
配列番号3 E166D TEM−1のアミノ酸配列
配列番号4 E166Q TEM−1のアミノ酸配列
配列番号5 E166D TEM−1のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号6 E166A TEM−1のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号7 E166D TEM−1のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号8 E166Q TEM−1のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号9 変異原性プライマー
配列番号10 変異原性プライマー
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質を蛍光標識する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生物が生きた状態において、生物内のタンパク質などの生体分子の機能を観察するバイオイメージングが注目されている。この生体分子機能の観察は、生体分子を蛍光で標識し、生物内におけるその生体分子の局在や動きを可視化することにより汎用的に行われている。生体分子を蛍光で標識する方法としては、遺伝子工学的手法を用いて、蛍光タンパク質を目的とする生体分子(タンパク質)の末端に共発現させる方法が一般的である。この蛍光タンパク質は、分子サイズが大きく、また、組織透過性の高い近赤外光蛍光の観測が困難であるなどの不都合がある。そのため、蛍光タンパク質より分子サイズが小さく、かつ、蛍光特性に優れた有機小分子に注目が集まっている。有機小分子を目的タンパク質にラベルする技術として、HaloTag(登録商標)(プロメガ株式会社)(例えば非特許文献1参照)およびSNAP−tag(登録商標)(例えば非特許文献2参照)を用いたラベル化キットが商品化されている。これらのラベル化法は、酵素反応を利用して目的とする生体分子を蛍光で標識する。そのため、有機小分子を目的とする生体分子にラベル化する際の特異性は非常に高いが、生体分子に結合していない有機小分子由来の蛍光が、バックグラウンドシグナルとして観測されてしまう。このバックグラウンドシグナルを小さくするため、目的とする生体分子を有機小分子で蛍光標識した後、洗浄して、未反応の有機小分子を除去する必要がある。しかしながら、細胞内や生体内に存在する生体分子を洗浄するのは、一般的に困難であり、洗浄できない場合も多い。従って、細胞内や生体内での生体分子の機能を観察するには、上述のラベル化法は汎用的とはいえない。また、有機小分子と目的とする生体分子とを結びつける特定配列のペプチドを用いて、生体分子を蛍光で標識する方法も開発されているが、この方法は、ペプチドと有機小分子との特異性が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Qureshi,M.H., ら、J. Biol. Chem., 2001, 276, p.46422-8
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2004, 101, p.9955-9959
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、細胞内や生体内における生体分子(タンパク質)を蛍光で標識するために使用できる、タンパク質を蛍光標識する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、タンパク質を蛍光標識する方法であって、標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質を得ること、および前記融合タンパク質と下記式(I)で表わされる化合物またはその塩とを反応させることにより、前記対象タンパク質を蛍光標識することを含み、前記変異型βラクタマーゼは、前記式(I)で表わされる化合物のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記式(I)で表わされる化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なタンパク質である(以下、「第1の蛍光標識する方法」と呼ぶことがある)。
【0006】
【化1】
【0007】
前記式(I)中、Xは、蛍光性基であり、
Yは、消光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
L2は、Yのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタンパク質を蛍光標識する方法は、目的とするタンパク質を標識した場合にのみ、強い蛍光を示す。そのため、タンパク質を標識していない有機小分子を除去しなくとも、蛍光のバックグラウンドを最小限に抑えることができる。従って、精度の高い蛍光観察を行うことが可能である。また、未反応の有機小分子を除去する必要がないので、生体内での生体分子を観察する際に適する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1(a)は、E166NTEM−1をCAでラベル化した場合の蛍光画像(i)とゲル染色画像(ii)と、CAのみの場合の蛍光画像(iii)を、図1(b)は、E166NTEM−1をCCDでラベル化した場合の蛍光画像(i)とゲル染色画像(ii)と、CCDのみの場合の蛍光画像(iii)を示す。
【図2】図2(a)は、図2(a)は、WTTEM−1にCAを加えた場合の蛍光画像(左)とゲル染色画像(右)を、図2(b)は、WTTEM−1にCCDを加えた場合の蛍光画像(左)とゲル染色画像(右)を示す。
【図3】図3(a)は、WT(野生株)について得られた蛍光波長450nmにおける励起スペクトルを、図3(b)は励起波長410nmにおける蛍光スペクトルを示す。
【図4】図4(a)は、E166N TEM−1について得られた蛍光波長450nmにおける励起スペクトルを、図4(b)は励起波長410nmにおける蛍光スペクトルを示す。
【図5】図5はMBP−E166NTEM−1を哺乳類細胞破砕液中CCDでラベル化した場合の蛍光画像(左)とゲル染色画像(右)を示す。
【図6】図6は、MBP-E166N TEM−1を化合物CAでラベル化した場合の蛍光画像(左)、ゲル染色画像(右)を示す。
【図7】図7(a)は、Tb3+が配位した化合物csDAmの吸収スペクトル、図7(b)はEu3+が配位した化合物csDAmの吸収スペクトルを示す。図7(c)は図7(a)の拡大図、図7(d)は図7(b)の拡大図である。
【図8】図8(a)は、Tb3+が配位した化合物csDAmの励起スペクトル、図s(b)はEu3+が配位した化合物csDAmの励起スペクトルを示す。
【図9】図9(a)は、E166N TEM−1をTb3+が配位した化合物csDAmでラベル化した場合の定常状態蛍光測定による蛍光スペクトル、図9(b)は時間分解蛍光測定による蛍光スペクトルを示す。
【図10】図10(a)は、E166N TEM−1をEu3+が配位した化合物csDAmでラベル化した場合の定常状態蛍光測定による蛍光スペクトル、図10(b)は時間分解蛍光測定による蛍光スペクトルを示す。
【図11】図11(a)は、Tb3+が配位した化合物csDAmの蛍光寿命を示すスペクトル、図11(b)はEu3+が配位した化合物csDAmの蛍光寿命を示すスペクトルである。
【図12】図12は、E166NTEM−1をLnが配位した化合物csDAmでラベル化した場合の蛍光画像とゲル染色画像を示す。
【図13】図13は、WTTEM−にLnが配位した化合物csDAmを加えた場合の蛍光画像とゲル染色画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
βラクタマーゼのひとつ、TEM−1は、下記スキーム1に示すような反応を経て、ペニシリンなどのβラクタム系抗生物質を加水分解することが知られている。
【0011】
【化2】
【0012】
前記スキーム1に示すように、TEM−1は、その70位Serがラクタム環へ求核攻撃してアシル−酵素複合体を形成する。次いで、その複合体が加水分解され、βラクタム環の加水分解が生じる。加水分解においては、TEM−1の166位Gluにより促進されることが知られている。そして、この166位Gluを他のアミノ酸に変更した変異型βラクタマーゼは、アシル−酵素複合体の加水分解速度が大きく低下することが知られていた。例えば、166位GluをAsnに変更した変異型βラクタマーゼの場合、下記スキーム2に示すように、アシル−酵素中間体の加水分解が起こらない。そのため、このような変異型βラクタマーゼは、基質であるβラクタム環に不可逆的に結合する。
【0013】
【化3】
【0014】
本発明は、変異型βラクタマーゼとして例えば、この166位Gluを他のアミノ酸に変更した変異型βラクタマーゼと、式(I)で表わされる化合物(以下、「式(I)の化合物」と呼ぶ)またはその塩を用いることを特徴の一つとする。変異型βラクタマーゼとしては、天然型βラクタマーゼのアミノ酸の変異部位は限定されず、前記式(I)で表わされる化合物のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記式(I)で表わされる化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なタンパク質であればよい。なお、式(I)の化合物は、蛍光性基であるXと、消光性基であるYを、分子内構造に有する。そのため、式(I)の化合物は、蛍光性基を有するにもかかわらず、蛍光強度が極めて低い。
【0015】
本発明の第1の蛍光標識する方法においては、例えばこの変異型βラクタマーゼと標識対象タンパク質とを融合させた融合タンパク質を、式(I)の化合物と反応させる。そうすると、融合タンパク質の変異型βラクタマーゼは式(I)の化合物のβラクタム環を求核攻撃し、βラクタム環を開環させる(例えば、スキーム3参照)。生じたアシル−酵素中間体におけるビニル基を通じて電子移動が生じ、その結果、式(I)の化合物からYを遊離させる。なお、生じたアシル−酵素中間体は加水分解を受けることができず、すなわち、変異型βラクタマーゼと式(I)の化合物の開環した部分は共有結合したままである。この変異型βラクタマーゼと式(I)の化合物の複合体は、消光剤であるYを含まないため、式(I)の化合物に含まれている蛍光性Xが蛍光を発する。そうすると、変異型βラクタマーゼを介して標識対象タンパク質と結合した式(I)の化合物は、強い蛍光を発し、変異型βラクタマーゼを介して標識対象タンパク質と結合していない式(I)の化合物は蛍光強度が極めて低い。すなわち、式(I)の化合物は標識対象タンパク質と結合していないときには蛍光を発しないので、バックグラウンドシグナルが低い。その結果、式(I)の化合物で標識対象タンパク質(生体分子)を標識した後、洗浄しなくとも、バックグラウンドシグナルに邪魔されることなく、正確に標識対象タンパク質を検出することが可能なのである。
【0016】
【化4】
【0017】
変異型βラクタマーゼをコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列、配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列の1〜数個の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列であって、前記融合タンパク質において前記式(I)の化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、及び、配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、前記融合タンパク質において前記式(I)の化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、からなる群から選択される塩基配列が挙げられる。例えば、配列番号5の塩基配列は、166位グルタミン酸をアスパラギンに変更した変異型TEM−1の塩基配列である(Adachiら、The Journal of Biochemistry, 1991, 266, 3186-3191参照)。
【0018】
融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得るには、標識対象タンパク質をコードするポリヌクレオチド、変異型βラクタマーゼをコードするポリヌクレオチド等を用い、通常の方法に従い、そのようなプラスミド若しくはベクターを調製することができる。本発明において、ベクターは、ポリヌクレオチド、好ましくは、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを細胞内に導入するためのポリヌクレオチドをいい、プラスミドを含むものをいう。なお、ベクターは、プラスミドベクターであってもよく、ウイルスベクターであってもよい。融合タンパク質を発現可能とする配列は、当業者であれば、導入する細胞の種類に応じて適宜選択しうる。プラスミド及びベクターは、融合タンパク質の発現を調節する配列(例えば、発現誘導プロモーターや制御配列)を含んでもよい。
【0019】
細胞内で融合タンパク質を発現させるには、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたは、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを用いて、通常の方法に従って行うことができる。
【0020】
発現した融合タンパク質を単離するには、通常の方法に従って行うことができる。
【0021】
標識対象タンパク質および変異型βラクタマーゼの融合タンパク質は、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得ること、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得ること、細胞内で融合タンパク質を発現させること、又は、発現した融合タンパク質を単離することの1以上の工程を含む方法、または全ての工程を含む方法により得ることができる。すなわち、融合タンパク質を得ることは、該タンパク質を単離することのみならず、細胞内や生体内で発現させることを含む。
【0022】
本発明の第1の蛍光標識する方法において用いられる式(I)の化合物は、前記のように、Xが、蛍光性基であり、Yが、消光性基であり、L1が、Xのためのリンカーであり、L2が、Yのためのリンカーであり、R1が、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【0023】
【化5】
【0024】
本発明の化合物において、蛍光性基とは、可視光線、紫外線、X線等が照射され、そのエネルギーを吸収することにより電子が励起し、それが基底状態に戻る際に余分なエネルギーを電磁波として放出する性質を有する基を意味する。具体的には、蛍光性基とは、クマリン色素、キサンテン色素、シアニン色素、アクリジン、イソインドール、ダンシル色素、アミノフタル酸ヒドラジド、アミノフタルイミド、アミノナフタルイミド、アミノベンゾフラン、アミノキノリン、ジシアノヒドロキノン等から誘導される基あるいは発光性希土類錯体が挙げられ、クマリン色素、キサンテン色素から誘導される基および発光性希土類錯体が好ましい。
【0025】
前記発光性希土類錯体としては、例えば、以下の式(ii)および(xi)〜式(xxviii)で表わされる基と、希土類イオンとの錯体が挙げられる。前記希土類イオンとしては、Tb3+、Eu3+、Dy3+、Sm3+などが挙げられる。
【0026】
【化6】
【0027】
【化7】
【0028】
【化8】
【0029】
【化9】
【0030】
式(I)の化合物において、蛍光性を低下させる消光性基とは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、光誘起電子移動、常磁性の項間交差の増強、デクスター交換カップリングおよび暗色複合体の形成などの励起子カップリングを含むメカニズムにより、蛍光性基の蛍光を消す基である。具体的には、消光性基とは、
【0031】
【化10】
【0032】
ジメチルアミノアゾベンゼン、テトラメチルローダミン、QSYクエンチャー色素(Invitrogen社製)等が挙げられ、ジメチルアミノアゾベンゼンが好ましい。
【0033】
本発明の化合物において、XのためのリンカーL1とは、式(I)の化合物もしくは式(III)の化合物のセファロスポリン骨格とXとを結びつけるための基または式(II)の化合物のペニシリン骨格とXとを結び付けるための基である。具体的には、L1は、−(CH2)n1CONR2(CH2)n2−、−(CH2)n1NR2CO(CH2)n2−、−(CH2)n1NR3CONR2(CH2)n2−、−(CH2)n1NR3CSNR2(CH2)n2−、−(CH2)n1CONR3(CH2)n3CONR2(CH2)n2−,−(CH2)n1CONR3(CH2)n3(CHR4)n4CONR2(CH2)n2−、−(CH2)n1−、−(CH2)n1S(CH2)n2−、−(CH2)n1O(CH2)n2−、−(CH2)n1NR2(CH2)n2−、−(CH2)n1CO2(CH2)n2−等が挙げられ、−(CH2)n1CONR3(CH2)n3CONR2(CH2)n2−が好ましい。前記式中、n1、n2、n3、n4はそれぞれ、0または1〜5の整数であり、R2、R3およびR4は、それぞれ、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基である。このXのためのリンカーとは、本発明のタンパク質を蛍光標識する方法における条件下で、切断されないリンカーであれば、その構造は限定されない。
【0034】
式(I)の化合物において、YのためのリンカーL2とは、式(I)の化合物のセファロスポリン骨格とYとを結びつけるための基である。さらに、Yのためのリンカーとは、式(I)の化合物のβラクタム環が、変異型βラクタマーゼにより開環され、生じたアシル−酵素中間体におけるビニル基を通じて電子移動が生じ、その結果、Yを遊離させるようなリンカーが好ましい。具体的には、L2は、−CH2O(CH2)n1−、−CH2S(CH2)n1−、−CH2NR2(CH2)n1−、−CH2N+R22(CH2)n1−、−CH2OCONR2(CH2)n1−、−CH2OCO(CH2)n1−、−CH2CSNR2(CH2)n1−、−CH2SCSO(CH2)n1−、−CH=CH−、
【0035】
【化11】
【0036】
等が挙げられ、
【0037】
【化12】
【0038】
が好ましい。前記式中、n1、n2はそれぞれ、0または1〜5の整数であり、R2は、水素原子または低級アルキル基である。
【0039】
本発明の化合物において、セファロスポリン骨格、ペニシリン骨格、X、Y、L1およびL2は、1か所以上の不斉中心を有することもあり、それゆえ、式(I)の化合物、式(II)の化合物、式(III)の化合物はラセミ体または純粋な立体異性体として存在してもよい。さらに、X、Y、L1および/またはL2にアルケニル基を含有する場合、シス又はトランス異性体として存在しうる。いずれの場合にも、本発明はそれらの混合物及び各異性体を共に包含するものである。
【0040】
ただし、式(I)の化合物において、セファロスポリン骨格は、変異型βラクタマーゼに対して特異性が高まるため、下式に示す立体を有するのが好ましい。
【0041】
【化13】
【0042】
前記式中、L1、L2およびR1は、式(I)の化合物において定義したとおりである。
【0043】
本発明の化合物において、低級アルキル基とは、炭素数1〜6のものが挙げられる。具体的には、低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、sec−ペンチル基、t−ペンチル基、2−メチルブチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、および1−エチル−1−メチルプロピル基などの直鎖状または分岐状のアルキル基を挙げることができ、好適には炭素数1〜3のものが挙げられる。
【0044】
本発明の化合物において、低級アルキレン基とは、炭素数1〜6のものが挙げられる。具体的には、低級アルキル基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基などの直鎖状または分岐状のアルキル基を挙げることができ、好適には炭素数1〜3のものが挙げられる。
【0045】
本発明の化合物において、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基とは、例えば、t−ブトキシメチル、アセトキシメチル等が挙げられ、中でもアセトキシメチルが好ましい。
【0046】
本発明において、式(I)の化合物の塩、式(II)の化合物の塩および式(III)の化合物の塩は、酸または塩基との塩であってもよい。そのような塩としては、例えばナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などの無機塩基との塩、及びトリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンアミンなどの有機アミン塩、及び塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸などの無機酸塩、及びギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、マレイン酸、酒石酸などの有機カルボン酸塩、及びメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などのスルホン酸付加塩、及びアルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などの塩基性又は酸性アミノ酸といった塩基との塩又は酸付加塩が挙げられる。
【0047】
本発明において、式(I)の化合物、式(II)の化合物および式(III)の化合物は、溶媒和物の形をとることもありうるが、これも本発明の範囲に含まれる。溶媒和物としては、好ましくは、水和物及びエタノール和物が挙げられる。
【0048】
本発明の蛍光標識する方法において用いられる式(I)の化合物、式(II)の化合物および式(III)の化合物は、従来技術における公知文献を参考に自家製造してもよいし、市販で入手してもよい。
【0049】
本発明の蛍光標識する方法において用いられる、標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質を得ることは、例えば、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得ること、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得ること、細胞内で融合タンパク質を発現させること、又は、発現した融合タンパク質を単離することを含んでもよい。融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、標識対象タンパク質をコードするポリヌクレオチド、変異型βラクタマーゼをコードするポリヌクレオチド等を用い、通常の方法に従い、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを調製することができる。
【0050】
本発明の第1の蛍光標識する方法において、前記融合タンパク質と、式(I)の化合物とを反応させる工程は、融合タンパク質を発現する細胞内や生体内で行ってもよく、単離した融合タンパク質を用いてin vitroで行ってもよい。標識をin vitroで行う場合、例えば、緩衝液中(pH6.8〜7.4)で20〜37℃の温度で行ってもよい。
【0051】
本発明のタンパク質を蛍光標識する方法(第1の蛍光標識する方法)において、融合タンパク質における変異型βラクタマーゼのアミノ酸配列は、
(i)配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列、
(ii)配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列の1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(I)で表わされる記化合物のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、及び、
(iii)配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(I)で表わされる化合物のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、からなる群から選択されるアミノ酸配列であるのが好ましい。
【0052】
本発明は、また、前記式(I)で表わされる化合物またはその塩を含む本発明の第1の蛍光標識する方法に用いるための組成物である。
【0053】
【化14】
【0054】
前記式(I)中、Xは、蛍光性基であり、
Yは、消光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
L2は、Yのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【0055】
本発明は、また、本発明の第1の蛍光標識する方法に用いるためのプラスミドまたはベクターであって、
前記プラスミドまたはベクターは、標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドをクローニングするため又は前記融合タンパク質を発現させるためのプラスミド又はベクターであり、
前記プラスミド又はベクターは、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列の1〜数個の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列であって、前記融合タンパク質において前記式(I)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、及び、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、前記融合タンパク質において前記式(I)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、からなる群から選択される塩基配列を含む。
【0056】
また、本発明は、前記式(I)で表わされる化合物またはその塩を含む本発明の方法に用いるための組成物と、本発明の方法に用いるためのプラスミドまたはベクターとを含むタンパク質の蛍光標識方法用キットである。
【0057】
本発明のタンパク質の蛍光標識方法用キットは、さらに、前記プラスミド又はベクターを導入するための宿主細胞、キットの取り扱い説明書を含むのが好ましい。
【0058】
本発明の第1の蛍光標識する方法において、前記式(I)中、Xが発光性希土類錯体である場合、蛍光標識された対象タンパク質を時間分解蛍光測定方法により検出するのが好ましい。このような式(I)の化合物は、Xが発光性希土類錯体であるため、発光する蛍光が長寿命である。そうすると、生体内で自家蛍光として観測される寿命が短い蛍光(リボフラビンやNADHなど内在性蛍光物質に由来する蛍光)を排除し、対象タンパク質を高いS/N比で高感度に検出することができる。
【0059】
本発明の第1の蛍光標識する方法、組成物、およびキットにおいて、Xがクマリンから誘導される下記式(i)に示す基:
【0060】
【化15】
【0061】
であり、Yが
【0062】
【化16】
【0063】
であり、L1が−(CH2)n1CONR3(CH2)n3CONR2(CH2)n2−であり、L2が、
【0064】
【化17】
【0065】
または−CH=CH−である式(I)の化合物が好ましく、
以下の式で表わされる化合物CCDがさらに好ましい。
【0066】
【化18】
【0067】
また、本発明は、一般式(I’)で表わされる化合物(以下、「式(I’)の化合物」と呼ぶ)またはその塩である。
【0068】
【化19】
【0069】
前記式(I)中、Xは、蛍光性基、好ましくはクマリン色素、キサンテン色素から誘導される基であり、
Yは、消光性基、好ましくはジメチルアミノアゾベンゼンであり、
L1は、Xのためのリンカー、好ましくは−(CH2)n1CONR3(CH2)n3CONR2(CH2)n2−であり、
L2’は、
【0070】
【化20】
【0071】
(前記式中、n1、n2はそれぞれ、0または1〜5の整数であり、
R2は、水素原子または低級アルキル基である)
または−CH=CH−
で表わされる、Yのためのリンカー、好ましくは
【0072】
【化21】
【0073】
であり、
R1は、Hまたは低級アルキル基である。
【0074】
式(I’)の化合物は、下記式で表わされる保護基で保護されたセファロスポリン誘導体を出発原料とし、従来技術における公知文献および化合物CCDの製造方法を参考にすることにより、製造することができる。
【0075】
【化22】
【0076】
前記式中、ProおよびPro’は、それぞれ、保護基を意味し、Halは、ハロゲン原子を意味する。
【0077】
また、本発明は、タンパク質を蛍光標識する方法であって、
標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質を得ること、および前記融合タンパク質と下記式(II)で表わされる化合物もしくは下記式(III)で表わされる化合物またはその塩とを反応させることにより、前記対象タンパク質を蛍光標識することを含み、前記変異型βラクタマーゼは、前記式(II)で表わされる化合物もしくは下記式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なタンパク質である、タンパク質の蛍光標識方法である(以下、「第2の蛍光標識する方法」と呼ぶことがある)。
【0078】
【化23】
【0079】
前記式(II)および式(III)中、
Xは、蛍光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基であり、
R4は、Hまたは低級アルキルである。
【0080】
前記のように、前記融合タンパク質と下記式(II)の化合物もしくは下記式(III)の化合物またはその塩とを反応させると、融合タンパク質の変異型β−ラクタマーゼは、式(II)の化合物または式(III)の化合物のβラクタム環を求核攻撃し、βラクタム環を開環させる。開環後、βラクタム間と式(II)の化合物または式(III)の化合物との付加体は加水分解されないため、変異型β−ラクタマーゼは式(II)の化合物または式(III)の化合物で蛍光標識されることになる。この方法によれば、変異型β−ラクタマーゼを選択的に蛍光標識できるという利点がある。β−ラクタマーゼは細菌酵素であり、哺乳類動物細胞中には存在しない。そのため、この方法によれば、哺乳類動物細胞中の内在性タンパク質をラベル化する恐れは無いという利点がある。
【0081】
前記第2の蛍光標識する方法において用いられる式(II)の化合物および式(III)の化合物は、前記のようにXが、蛍光性基であり、L1が、Xのためのリンカーであり、R1が、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基であり、R4が、Hまたは低級アルキルである。前記蛍光性基、Xのためのリンカー、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基および低級アルキル基については、式(I)の化合物について前記したとおりである。
【0082】
本発明の第2の蛍光標識する方法において用いられる、標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質を得ることは、例えば、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得ること、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得ること、細胞内で融合タンパク質を発現させること、又は、発現した融合タンパク質を単離することを含んでもよい。融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、標識対象タンパク質をコードするポリヌクレオチド、変異型βラクタマーゼをコードするポリヌクレオチド等を用い、通常の方法に従い、融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを調製することができる。
【0083】
本発明の第2の蛍光標識する方法において、前記融合タンパク質と、式(II)の化合物または式(III)の化合物とを反応させる工程は、融合タンパク質を発現する細胞内や生体内で行ってもよく、単離した融合タンパク質を用いてin vitroで行ってもよい。標識をin vitroで行う場合、例えば、緩衝液中(pH6.8〜7.4)で20〜37℃の温度で行ってもよい。
【0084】
本発明の第2の蛍光標識する方法において、前記融合タンパク質における前記変異型βラクタマーゼのアミノ酸配列は、
(i)配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列、
(ii)配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列の1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物またはその塩のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、及び、
(iii)配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物またはその塩のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、からなる群から選択されるアミノ酸配列であるのが好ましい。
【0085】
本発明の第2の蛍光標識する方法は、変異型β−ラクタマーゼを利用する。β−ラクタマーゼは細菌酵素であり、哺乳類細胞中には存在しないため、内在性タンパク質をラベル化することは無い。従って、本発明のタンパク質を蛍光標識する方法は、内在性タンパク質ではなく対象タンパク質を選択的にラベル化することができる。
【0086】
本発明の第2の蛍光標識する方法において、前記式(II)および式(III)中、Xが発光性希土類錯体である場合、蛍光標識された対象タンパク質を時間分解蛍光測定方法により検出することが可能である。このような式(II)の化合物または式(III)の化合物は、Xが発光性希土類錯体であるため、発光する蛍光が長寿命である。そうすると、生体内で自家蛍光として観測される寿命が短い蛍光(リボフラビンやNADHなど内在性蛍光物質に由来する蛍光)を排除し、対象タンパク質を高いS/N比で高感度に検出することができる。
【0087】
本発明は、また、前記式(II)で表わされる化合物もしくは下記式(III)で表わされる化合物またはその塩を含む本発明の方法に用いるための組成物である。
【0088】
【化24】
【0089】
前記式(II)および式(III)中、
Xは、蛍光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基であり、
R4は、Hまたは低級アルキルである。
【0090】
本発明は、または、本発明の第2の蛍光標識する方法に用いるためのプラスミドまたはベクターであって、
前記プラスミドまたはベクターは、標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドをクローニングするため又は前記融合タンパク質を発現させるためのプラスミド又はベクターであり、
前記プラスミド又はベクターは、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列の1〜数個の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列であって、前記融合タンパク質において式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、及び、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、前記融合タンパク質において式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、からなる群から選択される塩基配列を含む。
【0091】
また、本発明は、前記式(II)で表わされる化合物もしくは下記式(III)で表わされる化合物またはその塩を含む本発明の方法に用いるための組成物と、本発明の方法に用いるためのプラスミドまたはベクターとを含むタンパク質の蛍光標識方法用キットである。
【0092】
本発明のタンパク質の蛍光標識方法用キットは、さらに、前記プラスミド又はベクターを導入するための宿主細胞、キットの取り扱い説明書を含むのが好ましい。
【0093】
本発明の第2の蛍光標識する方法、組成物、およびキットにおいて、一般式(II)で表わされる化合物としては、Xが下記式(i)に示す基または式(ii)に示す基と希土類イオンとの錯体:
【0094】
【化25】
【0095】
であり、L1が−(CH2)n1CONR3(CH2)n3CONR2(CH2)n2−または−(CH2)n1CONR3(CH2)n3(CHR4)n4CONR2(CH2)n2−(前記式中、n1、n2、n3、n4はそれぞれ、0または1〜5の整数であり、R2、R3およびR4は、それぞれ、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基である。)
であり、R1はHである化合物が好ましく、下記化合物CAおよび下記化合物csDAmに希土類イオンが錯体を形成した化合物がより好ましい。
【0096】
【化26】
【0097】
また、本発明は、一般式(II’)で表わされる化合物またはその塩である。
【0098】
【化27】
【0099】
前記式(II’)中、
X’は、発光性希土類錯体であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【0100】
一般式(II’)で表わされる化合物としては、Xが下記式(ii)に示す基と希土類イオンとの錯体:
【0101】
【化28】
【0102】
であり、L1が−(CH2)n1CONR3(CH2)n3CONR2(CH2)n2−または−(CH2)n1CONR3(CH2)n3(CHR4)n4CONR2(CH2)n2−(前記式中、n1、n2、n3、n4はそれぞれ、0または1〜5の整数であり、R2、R3およびR4は、それぞれ、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基である。)
であり、R1はHである化合物が好ましく、下記化合物csDAmに希土類イオンが錯体を形成した化合物がより好ましい。
【0103】
【化29】
【0104】
式(II)および式(II’)の化合物は、下記式で表わされる保護基で保護されたペニシリン誘導体を出発原料とし、従来技術における公知文献および化合物CAの製造方法を参考にすることにより、製造することができる。
【0105】
【化30】
【0106】
前記式中、L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【0107】
[実施例]
本明細書の記載において、以下の略語を使用する。
DMSO:ジメチルスルホキシド
HOBt:1−ヒドロキシベンゾトリアゾール
DMF:ジメチルホルムアミド
WSCD:水溶性カルボジイミド:1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド
Ar:アルゴン
TEA:トリエチルアミン
BOC:t−ブトキシオキシカルボニル
[化合物および機器]
化合物は、入手できる最も高いグレードのものであり、東京化成工業株式会社、和光純薬工業株式会社、およびシグマ−アルドリッチジャパン株式会社から購入して、さらなる精製を行わずに用いた。7−アミノ−3−クロロメチル−3−セフェム−4−カルボン酸 p−メトキシベンジル エステル 塩酸塩(ACLE・HCl)は、大塚化学株式会社から購入した。制限エンドヌクレアーゼおよびPrimeSTAR(登録商標)HS DNA ポリメラーゼは、タカラバイオ株式会社から購入した。カナマイシンおよび無機塩は、和光純薬工業株式会社またはナカライテスク株式会社から購入した。プラスミドDNAは、QIAprep Spin Miniprep kit(商品名)(株式会社キアゲン)を用いて単離した。
【0108】
XL10-Gold(ストラタジーン社)を特定部位の突然変異誘発実験の中間ホストとして用いた。E. coli BL21(DE3)(ノバジェン社)を標的遺伝子発現のホストとして用いた。ルリア−ベルターニ(Luria-Bertani)(LB)培地またはTerrific Broth (TB)を全ての菌株用成長培地として用いた。Bacto Agar (和光純薬工業株式会社)を固体培地の調製用に1.5%までの濃度で用いた。
【0109】
NMRスペクトルは、1H用には400MHzで、13NMR用には100.4MHzで、テトラメチルシランを内部標準として用い、JEOL JNM−AL400装置で測定した。質量スペクトル(FAB)は、JEOL JMS−700で測定した。ESI−TOF MSは、Waters LCT-Premier XE(日本ウォーターズ株式会社)で測定した。MALDI-TOF MSは、Applied Biosystems Voyager RP(アプライドバイオシステムズジャパン株式会社)で測定した。UV−可視吸収スペクトルは、紫外可視分光光度計UV1650PCスペクトロメーター(株式会社島津製作所)を用いて測定した。蛍光スペクトルは、日立分光蛍光光度計F−4500を用いて測定した。スリット幅は励起および放射の両方について2.5nmであった。光電子増倍管電圧は700Vであった。全てのプローブは蛍光測定前に(生化学用グレード、和光純薬工業株式会社)に溶解させた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーは、BW−300(富士シリシア化学株式会社)を用いて行った。
【0110】
[参考例:化合物CAの合成]
(1)化合物(11)の合成
【0111】
【化31】
【0112】
2,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド(3.0g,22mmol)およびジエチルマロネート(4.2g,26mmol)を無水EtOH(30mL)に溶解させ、ついでピペリジン(370mg,4.3mmol)を添加した。反応混合物を12時間還流加熱し、ついで氷浴中で冷却した。析出物を集め、冷EtOHで洗浄して化合物(11)を得た(2.5g,収率49%)。
【0113】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 1.29 (t, J = 6.9 Hz, 3H), 4.28 (q, J = 6.9 Hz, 2H), 6.69 (d, J = 1.8 Hz, 1H), 6.85 (dd, J = 1.8, 8.7 Hz), 7.74 (d, J = 8.7 Hz. 1H), 8.67 (s, 1H), 11.1 (brs, 1H);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 15.2, 61.9, 102.9, 111.5, 113.1, 115.1, 133.1, 150.4, 157.5, 158.1, 164.0, 165.2;
HRMS (ESI+) m/z: 257.0406 (計算値[M+H]+: 257.0426)。
【0114】
(2)化合物(12)の合成
【0115】
【化32】
【0116】
化合物(11)(0.39g,1.6mmol)を2N NaOH水溶液(5mL)に溶解させ、室温で12時間攪拌した。その混合物を2N HCl水溶液で酸性にした。ついで析出物を集め、水で洗浄して化合物(12)を得た(0.29g,収率87%)。
【0117】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 6.74 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 6.84 (dd, J = 2.1, 8.7 Hz, 1H), 7.74 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 8.68 (s, 1H), 11.1 (brs, 1H), 12.8 (brs, 1H);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 102.4, 111.7, 113.6, 115.1, 133.1, 150.5, 158.1, 158.6, 165.0, 165.3;
HRMS (ESI+) m/z: 206.0215 (計算値[M+H]+: 206.0220)。
【0118】
(3)化合物(13)の合成
【0119】
【化33】
【0120】
化合物(12)(0.25g,1.2mmol)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(0.21g,1.8mmol)をDMF(5mL)に溶解させ、ついでWSCD・HCl(0.35g,1.8mmol)を0℃で添加した。その混合物を0℃で3時間Ar雰囲気下で攪拌した。反応混合物を酢酸エチルで希釈し、10%クエン酸水溶液、水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。蒸発させて化合物(13)を得た(0.24g,収率66%)。
【0121】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 2.91 (s, 4H), 6.77 (d, J = 1.8 Hz, 1H), 6.89 (dd, J = 1.8, 8.7 Hz, 1H), 7.87 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 9.00 (s, 1H), 11.4 (brs, 1H);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 102.4, 111.7, 113.6, 115.1, 133.1, 150.5, 158.1, 158.6, 165.0, 165.3;
HRMS (ESI+) m/z: 326.0263 (計算値[M+H]+: 326.0277)。
【0122】
(4)化合物CAの合成
【0123】
【化34】
【0124】
アンピシリン(0.35g,0.99mmol)をDMF(20mL)に溶解させ、ついでジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(1滴)および化合物(13)(0.20g,0.66mmol)をそこへ0℃で添加した。その混合物を10時間攪拌した。ついで10%クエン酸水溶液を添加し、その混合物を酢酸エチルで抽出した。有機相を10%クエン酸水溶液および水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。蒸発させて、化合物CA(クマリニルアンピシリン)を得た(0.31g,収率88%)。
【0125】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ1.41 (s, 3H), 1.55 (s, 3H), 4.21 (s, 1H), 5.40 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 5.56 (dd, J = 3.0 Hz, 7.7 Hz, 1H), 5.92 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 6.83 (s, 1H), 6.88 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.35 (m, 7H), 7.83 (d, J = 8.43 Hz, 2H), 9.38 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 9.62 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 11.1 (s, 1H), 13.4 (brs, 1H).
【実施例1】
【0126】
化合物CCDの合成
(1)化合物(1)の合成
【0127】
【化35】
【0128】
7−アミノ−3−クロロメチル−3−セフェム−4−カルボン酸p−メトキシベンジルエステル塩酸塩(ACLE・HCl)(1.0g,2.5mmol)、BOC−グリシン(480mg、2.7mmol)およびHOBt一水和物(760mg,4.9mmol)を、DMF(5mL)に溶解させ、その後トリエチルアミン(250mg,2.5mmol)およびWSCD・HCl(570mg,3.0mmol)を0℃で添加した。その混合物を0℃で6時間Ar雰囲気下で攪拌した。反応混合物を酢酸エチルで希釈し、飽和NaHCO3水溶液、10%クエン酸水溶液および水で洗浄し、その後、硫酸ナトリウムで乾燥した。蒸発させた後、残渣をヘキサン/酢酸エチル(1:1)で溶出してシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(1)を得た(1.25g,収率96%)。
【0129】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.46 (s, 9H), 3.48 (d, J = 18.4 Hz, 1H), 3.65 (d, J = 18.4 Hz, 1H), 3.81 (s, 3H), 3.83 (m, 2H), 4.43 (d, J = 12.0 Hz, 1H), 4.54 (d, J = 12.0 Hz, 1H), 4.97 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 5.23 (s, 2H), 5.84 (dd, J = 5.2 Hz, 8.8 Hz, 1H), 6.89 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.34 (d, J = 8.8 Hz, 2H);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 27.1, 28.2, 43.2, 44.1, 55.2, 57.5, 58.9, 68.2, 80.5, 113.9, 125.5, 126.2, 126.6, 130.6, 156.0, 159.9, 161.1, 164.6, 170.2, 171.2;
HRMS (FAB+) m/z: 526.1426 (計算値[M+H]+: 526.1415)。
【0130】
(2)化合物(2)の合成
【0131】
【化36】
【0132】
化合物(1)(560mg,1.1mmol)およびヨウ化ナトリウム(1.6g,11mmol)のアセトン中混合物を、室温で1時間攪拌した。反応混合物を減圧下に濃縮し、酢酸エチルで希釈した。有機相を水で洗浄し、その後硫酸ナトリウムで乾燥した。得られたヨウ素誘導体(淡オレンジ色の非晶質)を精製なしに次の反応に用いた。ヨウ素誘導体(400mg,0.65mmol)をDMFに溶解させ、次いでNaHCO3(80mg,0.95mmol)を添加した。そこへ、p−アミノチオフェノール(120mg,0.95mmol)のDMF溶液を滴下して加えた。得られた混合物を室温でAr雰囲気下、5時間攪拌した。その混合物を酢酸エチルで希釈し、飽和NaHCO3水溶液、10%クエン酸水溶液および水で洗浄し、その後硫酸ナトリウムで乾燥した。蒸発させた後、残渣をヘキサン/酢酸エチル(1:1)で溶出してシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(2)を得た(260mg,収率54%(2工程))。
【0133】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ1.46 (s, 9H), 3.33 (d, J = 18.0 Hz, 1H), 3.59 (d, J = 13.6 Hz, 1H), 3.67 (d, J = 18.0 Hz, 1H), 3.75 (brs, 2H), 3.81 (s, 3H), 3.84 (m, 2H), 4.17 (d, J = 13.6 Hz, 1H), 4.87 (d, J = 4.9 Hz, 1H), 4.98 (d, J = 11.7 Hz, 1H),5.07 (d, J = 11.7 Hz, 1H), 5.17 (brs, 1H), 5.84 (dd, J = 4.9 Hz, 8.8 Hz, 1H), 6.53 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 6.89 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.04 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.15 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.30 (d, J = 8.8 Hz, 2H);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 28.3, 28.6, 39.2, 44.3, 55.3, 57.5, 58.7, 67.6, 80.6, 113.9, 115.5, 120.6, 124.0, 127.0, 130.6, 130.7, 136.0, 147.1, 156.0, 159.8, 161.4, 164.4, 170.0;
HRMS (FAB+) m/z: 615.1940 (計算値[M+H]+: 615.1947)。
【0134】
(3)化合物(3)の合成
【0135】
【化37】
【0136】
化合物(2)(270mg,0.44mmol)および4−ジメチルアミノアゾベンゼン−4’−カルボン酸(130mg,0.48mmol)を、ピリジン(5mL)に溶解させ、ついでPOCl3(74mg,0.48mmol)を−20℃で5分間にわたって滴下して加えた。その混合物を−20℃で20分間、Ar雰囲気下で攪拌した。反応混合物を酢酸エチルで希釈し、飽和NaHCO3水溶液、10%クエン酸水溶液および水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。蒸発させた後、残渣をMeOH/CH2Cl2(0%→1%)で溶出してシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(3)を得た(76mg,収率20%)。
【0137】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.45 (s, 9H), 3.11 (s, 6H), 3.40 (d, J = 18.0 Hz, 1H ), 3.63 (d, J = 18.0 Hz, 1H), 3.80 (m, 3H), 4.15 (d, J = 13.3 Hz, 1H), 4.86 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 5.04 (d, J = 11.8 Hz, 1H), 5.08 (d, J = 11.8 Hz, 1H), 5.24 (brs, 1H), 5.71 (dd, J = 4.8 Hz, 9.0 Hz, 1H), 6.76 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 6.82 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.09 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 7.28 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.34 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.54 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.92 (m, 6H), 8.03 (brs, 1H);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 28.3, 28.3, 38.0, 40.3, 44.3, 55.2, 57.5, 58.8, 67.7, 80.6, 111.5, 113.9, 120.6, 122.4, 124.4, 125.5, 126.9, 128.1, 128.4, 129.4, 130.6, 134.3, 134.4, 138.1, 143.6, 152.9, 155.4, 156.0, 159.8, 161.4, 164.3, 165.2, 170.0;
HRMS (FAB+) m/z: 866.3000 (計算値[M+H]+: 866.3006)。
【0138】
(4)化合物(4)の合成
【0139】
【化38】
【0140】
化合物(3)(40mg,46μmol)を無水CH2Cl2(4mL)に溶解させ、チオアニソール(800μL)とトリフルオロ酢酸(TFA)(2.4mL)を0℃で添加した。その混合物を0℃で4時間攪拌し、ついで、冷ジエチルエーテル(15mL)へ加えた。析出物を集め、ジエチルエーテルで洗浄して化合物(4)(トリフルオロ酢酸塩)を得た(36mg,定量的)。
【0141】
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ3.12 (s, 6H), 3.55 (d, J = 17.6 Hz, 1H), 3.76 (m, 3H), 3.93 (d, J = 13.6 Hz, 1H), 4.33 (d, J = 13.6 Hz, 1H), 5.06 (d, J = 4.9 Hz, 1H), 5.72 (d, J = 4.9 Hz, 1H), 6.85 (d, J = 9.3 Hz, 2H), 7.45 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.70 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.88 (t, J = 9.3 Hz, 4H), 8.04 (d, J = 9.3 Hz, 2H);
13C NMR (100 MHz, DMF-d7) δ 28.4, 35.8, 40.2, 41.6, 58.4, 59.9, 112.3, 121.3, 121.4, 122.4, 125.9, 126.0, 129.5, 129.7, 132.2, 133.1, 135.9, 140.0, 143.9, 154.0, 155.5, 162.9, 163.8, 165.0, 165.8, 167.9;
HRMS (FAB+) m/z: 646.1915 (計算値[M+H]+: 646.1906)。
【0142】
(5)化合物CCDの合成
【0143】
【化39】
【0144】
化合物(4)(10mg,13μmol)をDMF(500μL)に溶解させ、その後、トリエチルアミン(TEA)(1滴)および化合物(13)(4.4mg,15μmol)を室温で添加した。その混合物を1時間攪拌し、ついで溶媒を蒸発させ、100mMのギ酸アンモニウム水溶液(15mL)を添加した。析出物を集め、100mMギ酸アンモニウム水溶液と水で洗浄して、化合物CCDを得た(10mg,収率91%)。
【0145】
1H NMR (400 MHz, DMF-d7) δ 3.13 (s, 6H), 3.61 (d, J = 18.1 Hz, 1H), 3.83 (d, J = 18.1 Hz, 1H), 4.02 (d, J = 13.2 Hz, 1H), 4.27 (d, J = 3.9 Hz, 2H), 4.34 (d, J = 13.2 Hz, 1H), 5.20 (d, J = 4.9 Hz, 1H), 5.83 (dd, J = 4.9 Hz, 8.8 Hz, 1H), 6.87 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 6.91 (d, J = 9.3 Hz, 2H), 6.97 (dd, J = 2.4 Hz, 8.8 Hz, 1H), 7.47 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.90 (m, 7H), 8.20 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 8.84 (s, 1H), 9.01 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 9.18 (t, J = 5.4 Hz, 1H), 10.5 (s, 1H), 11.5 (brs, 1H);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 27.3, 36.9, 39.8, 42.3, 57.7, 58.8, 101.8, 111.0, 111.6, 113.1, 114.4, 120.8, 121.6, 125.2, 128.9, 129.0 (two carbons), 129.6, 131.6, 132.1, 134.9, 138.4, 142.7, 148.3, 152.9, 154.3, 156.4, 160.9, 161.6, 163.0, 163.9, 164.2, 164.9, 169.2;
HRMS (FAB+) m/z: 834.2010 (計算値[M+H]+: 834.2016).
[プラスミドと点変異]
Omp-A WT(野生株)TEM-1ベクターS1(Thomas, V. L.; Golemi-Kotra, D.; Kim, C.; Vakulenko, S. B.; Mobashery, S.; Shoichet, B. K. Biochemistry. 2005, 44, 9330−9338参照)は、S. Mobashery 教授(Georgia Institute of Technology)から提供を受けた。Omp-A WT TEM-1における点変異は、QuikChange(登録商標) Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)を用い、製造者のプロコールに従い、配列番号9および10の変異原性プライマーを用いることで目的プラスミドpET−24a(+)−E166N TEM−1を得た。得られたpET−24a(+)−E166N TEM−1(TEM−1の166位のGluをAsnに置き換えた)を含む点変異二本鎖プラスミドDNAの配列決定は、Sequenase DNA sequencing kit (BigDye Terminator version 3.1; Applied Biosystems)と、製造者のプロトコールによるオーダーメードの内部プライマーを用いて行った。
【0146】
[変異型TEM−1 βラクタマーゼの精製]
20μg/mLのカナマイシンを追加したLB培地中の大腸菌E. coli BL21(DE3)において、E166N TEM−1を含む点変異二本鎖プラスミドを一晩、培養した。酵素精製のため、その培養物を、20μg/mLのカナマイシン、500mMのソルビトールおよび2.5mMのベタインを追加したTerrific Broth で100倍に希釈した。600nmで培養物の光学濃度が0.6に達するまで、37℃で振とう(260〜280rpm)して4〜5時間インキュベーションした後、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を最終濃度0.4mMまで添加し、その培養物を25℃で一晩攪拌した。細胞を遠心分離によりペレット化し、酵素を含む上澄み液をVivaspin(膜分子量カットオフ, 10,000; Vivascience)により濃縮して、10mMのTris−HCl緩衝液(pH 7.0)に置き換えた。濃縮したタンパク質を同じ緩衝液で平衡にしたDEAEセファデックスカラムにロードした。酵素をグラジェント溶出液(10〜100mMのTris−HCl 緩衝液)を用いて変異型TEM−1 βラクタマーゼを溶出させた。
【0147】
[タンパク質ラベルのSDS−PAGEによる検出]
WT(野生株)TEM−1 βラクタマーゼまたはE166N TEM−1 βラクタマーゼ(20μM)を25℃で、10mMのTris−HCl緩衝液(pH7.0)中の化合物CA(30μM)溶液または化合物CCD(30μM)溶液に添加した。30分後、蛍光ラベル化されたタンパク質と蛍光ラベル化されていないタンパク質を、SDS gel loading buffer (1%SDS、20%グリセロール、10%メルカプトエタノール、pH6.8)中に溶解させ、SDS−PAGEにより分離した。電気泳動の後、ゲルの蛍光画像を、UVランプにより365nmの蛍光下、デジタルカメラで撮影した。蛍光画像を撮影した後、ゲルをCoomassie Brilliant Blueで染色し、その後、染色したゲル画像を撮影した。得られた結果を、図1および図2に示す。図1(a)は、E166NTEM−1をCAでラベル化した場合の蛍光画像(i)とゲル染色画像(ii)を、図1(b)はE166NTEM−1をCCDでラベル化した場合の蛍光画像(i)とゲル染色画像(ii)を示す。また、化合物CA(30μM)または化合物CCD(30μM)のみを、SDS gel loading buffer (1%SDS、20%グリセロール、10%メルカプトエタノール、pH6.8)中に溶解させ、SDS−PAGEにより分離した。電気泳動の後、ゲルの蛍光画像を、UVランプにより365nmの蛍光下、デジタルカメラで撮影した。得られた蛍光画像は、化合物CAについては図1(a)(iii)に、化合物CCDについては図1(b)(iii)に示す。
【0148】
また、図2(a)は、WTTEM−1にCAを加えた場合の蛍光画像(左)とゲル染色画像(右)を、図2(b)は、WTTEM−1にCCDを加えた場合の蛍光画像(左)とゲル染色画像(右)を示す。
【0149】
図1に示すように、化合物CCDが存在する場合または化合物CAが存在する場合、E166NTEM−1がラベル化されていることが確認できた。また、E166NTEM−1を化合物CAでラベル化した場合、ラベル化タンパク質由来のバンド以外に、未反応プローブと緩衝液中で自動的に加水分解を受けたプローブ由来のバンドが確認できた。一方、E166NTEM−1を化合物CCDでラベル化した場合、ラベル化タンパク質以外の蛍光は殆ど確認できなかった。従って、CCDによるE166NTEM−1のラベル化はCAと比較して、未反応プローブなどのバックグラウンドが非常に小さいことが確認できた
図2に示すように、WTTEM−1に化合物CAとCCDを反応させた場合、両化合物ともWTTEM−1によって加水分解を受けることが確認できた。
【0150】
[蛍光分光]
蛍光プローブを全てジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解させて10mMストック溶液を調製した。プローブの相対的蛍光量子収率は、100 mM HEPES 緩衝液(pH7.4)中のサンプルの修正蛍光スペクトル下面積と、100 mMのH2SO4水溶液中キニン2硫酸塩の修正蛍光スペクトル下面積(文献Dawson, R. W.; Windsor, W. M. J. Phys. Chem. 1968, 72, 3251−3260によれば、量子収率は0.55である。)とから、推定した。得られた結果を表1に示す。
【0151】
【表1】
【0152】
[酵素アッセイ]
WT(野生株)およびE166N TEM−1の酵素アッセイを100mMのHEPES緩衝液(pH7.4)中で室温で行った。精製酵素の溶液(15μM、5μL)をHEPES緩衝液中のプローブ(1μM、500μL)に添加した。サンプルを410nmで励起させ、450nmでの蛍光強度を測定した。WT(野生株)について得られた450nmでの発光スペクトルを図3(a)に、410nmでの励起スペクトルを図3(b)に示す。E166N TEM−1について得られた450nmでの発光スペクトルを図4(a)に、410nmでの励起スペクトルを図4(b)に示す。
【0153】
図3に示すように、WT(野生株)βラクタマーゼと化合物CCDを反応させると、蛍光強度が時間と共に増強していた。一方、図4に示すように、E166N TEM−1βラクタマーゼと化合物CCDを反応させると、蛍光強度が時間と共に増強するが、WT(野生株)βラクタマーゼとの場合と比較して、増強の程度はかなり緩やかであった。従って、E166N TEM−1βラクタマーゼが、化合物CCDにより共有結合的に標識されているのに対し、WT(野生株)βラクタマーゼは、触媒的に加水分解反応が進行しているために、大きく蛍光が増強していることが確認できた。
【0154】
[MALDI−TOF MS分析]
CCDストック溶液(10mM、0.2μL)を、10 mM Tris−HCl緩衝液(pH7.0)中のE166N TEM−1溶液(15μM、19.8μL)に25℃で添加した。16時間後、未反応の化合物CCDをセファデックスG-50 quick spin column (DNA-グレード; GE Healthcare)を用いて除去した。その後、MS用サンプルを、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸をマトリックスとして調製した。得られた結果を表2に示す。
【0155】
【表2】
【0156】
表2に示すように、E166N TEM−1βラクタマーゼ自体の分子量および化合物CCDにより蛍光標識されたE166N TEM−1の分子量が確認できた。従って、これらの物質の構造が確認できた。
【0157】
[融合タンパク質MBP−E166N TEM−1の発現および精製]
MBPのDNA断片はpMAL−c2(New England Biolabs)からPCRにより増幅した後、NdeIとNheIによって制限酵素処理した。MBPDNA断片を同様の制限処理を施したpET−21b(+)とライゲーションさせることでプラスミドpET−21b(+)−MBPを得た。次にpET−24a(+)−E166N TEM−1からE166N TEM−1塩基配列をPCRによって増幅し、EcoRI、HindIIIによって制限酵素処理した。そして同様にEcoRI、HindIIIによって制限酵素処理を施したpET−21b(+)−MBPとライゲーションさせることで、目的プラスミドpET−21b(+)−MBP−E166N TEM−1を得た。pET−21b(+)−MBP−E166N TEM−1は、100μg/mLのアンピシリンを追加したLB培地中のE. coli BL21(DE3)中で、成長細胞培地(OD600=0.6〜1.0)へIPTG(100μM)添加した後、25℃で20時間発現させた。細胞を遠心分離により収穫し、カラム緩衝液(20mMのTris−HCl、200mMのNaCl、1mMのEDTA、pH7.4)中で再懸濁させ、超音波で溶解させた。溶解液をアミロース樹脂カラム(New England Biolabs)に載せ、融合タンパク質を溶出緩衝液(20mMのTris−HCl、200mMのNaCl、1mMのEDTA、10mMのマルトース、pH7.4)を用いて溶出させた。得られたMBP−E166NTEM−1(10μM)に哺乳類細胞破砕液とCCD(30μM)を加え25℃で、10mMのTris−HCl緩衝液(pH7.0)中で反応させた。45分後、蛍光ラベル化されたタンパク質と蛍光ラベル化されていないタンパク質を、SDS gel loading buffer (1%SDS、20%グリセロール、10%メルカプトエタノール、pH6.8)中に溶解させ、SDS−PAGEにより分離した。電気泳動の後、ゲルの蛍光画像を、UVランプにより365nmの蛍光下、デジタルカメラで撮影した。蛍光画像を撮影した後、ゲルをCoomassie Brilliant Blueで染色し、その後、染色したゲル画像を撮影した。得られた結果を、図5に示す。図5は、MBP−E166NTEM−1を哺乳類細胞破砕液中CCDでラベル化した場合の蛍光画像(左)とゲル染色画像(右)を示す。
【0158】
図5に示すように、融合タンパク質MBP−E166N TEM−1に哺乳類細胞破砕液を加え、CCDでラベル化を行ったところ、CCDは融合タンパク質のみを選択的にラベル化した。この結果からE166NTEM−1は他のタンパク質と融合しても、その機能を保っていること、また夾雑タンパク質と非特異的に反応しないことが確認できた。
【0159】
[化合物CAによる融合タンパク質MBP−E166N TEM−1のラベル化]
前記のようにして得られたMBP−E166N TEM−1(10μM)に化合物CA(30μM)を加え25℃で、10mMのTris−HCl緩衝液(pH7.0)中で反応させた。45分後、蛍光ラベル化されたタンパク質と蛍光ラベル化されていないタンパク質を、SDS gel loading buffer (1%SDS、20%グリセロール、10%メルカプトエタノール、pH6.8)中に溶解させ、SDS−PAGEにより分離した。電気泳動の後、UVランプにより365nmの励起光照射下、ゲルの蛍光画像をデジタルカメラで撮影した。蛍光画像撮影後、ゲルをCoomassie Brilliant Blueで染色し、染色したゲル画像をデジタルカメラで撮影した。得られた結果を、図6に示す。図6は、MBP-E166N TEM−1を化合物CAでラベル化した場合の蛍光画像(左)、ゲル染色画像(右)を示す。
【0160】
図6に示すように、化合物CAは変異型βラクタマーゼを選択的に蛍光標識できることが確認できた。
【実施例2】
【0161】
[化合物csDAmの合成]
(1)7−アミノ−4−メチルキノリン−2(1H)−オン(化合物cs124)の合成
【0162】
【化40】
【0163】
1,3−フェニレンジアミン(3.22g、29.8mmol)およびエチルアセトアセテート(3.8mL,30.1mmol)を48時間130℃で還流加熱した。その混合物は徐々に固化した。エタノール(5mL)をその混合物に添加して粉砕し、ろ過して粗生成物を得た。メタノールを用いてその粗生成物を結晶化し、標題化合物を得た(2.52g、14.5mmol、収率48.5%、黄色針状結晶。
【0164】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ11.1 (s, 1H, 1), 7.33 (d, J = 8.3 Hz, 1H, 4), 6.44 (dd, J = 8.3 Hz, 2.0 Hz, 1H, 5), 6.36 (d, J = 2.0 Hz, 1H, 7), 5.93 (s, 1H, 2), 5.71 (s, 2H, 6, 2.27 (s, 3H, 3);
MS (ESI+) 計算値 C10H11N2O 175.08, 測定値175.08。
【0165】
(2)化合物(csDAm)の合成
【0166】
【化41】
【0167】
DTPA二無水物(1.04g、2.91mmol)およびトリエチルアミン(TEA、275mL)をDMF(275mL)中に溶解させ、そこへ、TEA(2mL)、化合物cs124(0.572g、3.29mmol)およびアンピシリン(Ampicillin、1.09g、3.13mmol)のDMF(50ml)溶液を滴下して加えた。その混合物から減圧下に溶媒を除去した。得られた生成物を逆相HPLCにより以下のようにして精製した:Inertsil(登録商標)ODS−3カラム(10×250mm)に溶液を載せ、330nmの波長で検出して、0.1% ギ酸を含有する15〜30%アセトニトリル/H2O勾配溶液を4.726mL/分の流速で30分で溶出した。生成物は、29.5分に溶出した。
【0168】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.79 (s, 1H, 5), 7.66 (d, J = 8.8 Hz, 1H, 3), 7.50 (d, J = 8.8 Hz, 1H, 4), 7.24~7.34 (m, 6H, 1,16,1718,19,20), 5.48 (s, 1H, 15), 5.46 (d, J = 3.6 Hz, 1H, 22) 5.36 (dd, J = 1.2 Hz, 3.8 Hz, 1H, 21), 4.28 (s, 1H, 25), 3.06~3.73 (m, 28H, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14), 2.42 (s, 3H, 2), 1.47 (s, 3H, 23), 1.39 (s, 3H, 24 );
MS (ESI+) 計算値C40H49N8O13S 881.31, 測定値 881.32,
計算値 C40H50N8O13S 441.16, 測定値 441.16。
【0169】
[化合物csDAmへ希土類イオンを配位させた化合物の製造と蛍光測定]
希土類イオンの配位は0.1M HEPES緩衝液(pH7.4)中で化合物csDAmとLn(NO3)3・6H2O(Ln=Tb,Eu)がそれぞれ最終濃度が10μMになるよう調整し、25℃で1時間ボルテックスした。測定にはボルテックス後、プローブの最終濃度が1μMになるよう希釈したものを用いた。LnがTb3+の場合に得られた吸収スペクトルを図7(a)に、LnがEu3+の場合に得られた吸収スペクトルを図7(b)に示す。図7(a)の拡大図を図7(c)に、図7(b)の拡大図を図7(d)に示す。図7(a)〜図7(d)に示すように、吸収スペクトルの330nm付近に化合物cs124の吸収が確認できる。従って、化合物csDAmへ希土類イオンが配位した化合物の生成が確認できた。
【0170】
また、LnがTb3+の場合に得られた励起スペクトルを図8(a)に、LnがEu3+の場合に得られた励起スペクトルを図8(b)に示す。図8(a)においてλEmは546nm、図8(b)においてλEmは615nmである。図8(a)に示すように、図7の吸収スペクトルと同様、330nm付近に極大値を有し、この吸収により化合物cs124により希土類イオンが励起されていることが確認できた。また、図8(b)に示すように、図7の吸収スペクトルと同様、321nm付近に極大値を有し、この吸収により化合物cs124により希土類イオンが励起されていることが確認できた。
【0171】
[時間分解蛍光スペクトル]
0.1M HEPES緩衝液(pH7.4)中で化合物csDAmとLn(NO3)3・6H2O(Ln=Tb,Eu)がそれぞれ最終濃度が10μMになるよう調整し、25℃で1時間ボルテックスした。測定にはボルテックス後、プローブの最終濃度が1μMになるよう希釈したものを用いた。サンプルを330nmで励起したときの、定常状態蛍光測定による蛍光スペクトルを図9(a)に、時間分解蛍光測定による蛍光スペクトルを図9(b)に示す。その際、Delay timeは60μs、Gate timeは2msで測定した。図9(a)に示すように、340〜450nm付近に化合物cs124由来のピークが、500〜620nm付近にテルビウムイオン由来のシャープなピークが確認できた。また、図9(b)に示すように、350〜450nm付近の化合物cs124由来のピークは消失し、希土類イオンであるテルビウムイオン由来のピークのみが観測されることが確認できた。なお、500〜620nm付近にテルビウムイオン由来のシャープなピークは、340〜450nm付近に化合物cs124由来のピークと比較して強度が著しく強い。これは、化合物cs124からユーロピウムへのエネルギー移動および発光効率が高いことに由来すると考えられる。
【0172】
また、Tb(NO3)3・6H2Oの代わりにEu(NO3)3・6H2Oを用いて、321nmで励起させて同様に蛍光スペクトルを測定した。定常状態蛍光測定による蛍光スペクトルを図10(a)に、時間分解蛍光測定による蛍光スペクトルを図10(b)に示す。その際、Delay timeは60μs、Gate timeは2msで測定した。図10(a)に示すように、340〜450nm付近に化合物cs124由来のピークが、500〜620nm付近にユーロピウムイオン由来のシャープなピークが確認できた。また、図10(b)に示すように、350〜450nm付近の化合物cs124由来のピークは消失し、希土類イオンであるユーロピウムイオン由来のピークのみが観測されることが確認できた。
【0173】
[蛍光寿命]
化合物csDAm(1mM、20μL)およびTb(NO3)3・6H2O(1mM、20μL)をそれぞれの最終濃度が0.5mMになるよう調整し、25℃で1時間ボルテックスした。測定にはボルテックス後、プローブの最終濃度が1μMになるよう希釈したものを用いた。サンプルを330nmで励起し、546nmでの蛍光寿命を測定した。その結果を図11(a)に示す。また、Tb(NO3)3・6H2Oの代わりにEu(NO3)3・6H2Oを用いて、321nmで励起し、615nmでの蛍光寿命を測定した。その結果を図11(b)に示す。図11(a)からLnがTbの場合の蛍光寿命が1.46ms、図11(b)からLnがEuの場合の蛍光寿命が0.587msであることが確認できた。すなわち、LnがTbまたはEuの場合、msオーダーの長い蛍光寿命を有することが確認できた。
【0174】
[タンパク質ラベルのSDS−PAGEによる検出]
WT(野生株)TEM−1 βラクタマーゼまたはE166N TEM−1 βラクタマーゼ、化合物csDAmおよびLn(NO3)3・6H2Oの最終濃度が、それぞれ27.5μM、55.0μMおよび18.3μMとなるように、10mMのTris−HCl緩衝液(pH7.0)中のWT(野生株)TEM−1 βラクタマーゼまたはE166N TEM−1 βラクタマーゼを25℃で、10mMのTris−HCl緩衝液(pH7.0)中の化合物csDAm溶液および10mMのTris−HCl緩衝液(pH7.0)中のLn(NO3)3・6H2O溶液に添加して反応溶液を作製した。反応溶液を25℃で60分間インキュベーションし、次いで、SDS gel loading buffer (1%SDS、20%グリセロール、10%メルカプトエタノール、pH6.8)中に溶解させ、SDS−PAGEにより分離した。電気泳動の後、ゲルの蛍光画像を、UVランプにより365nmの蛍光下、デジタルカメラで撮影した。蛍光画像を撮影した後、ゲルをCoomassie Brilliant Blueで染色し、その後、染色したゲル画像を撮影した。得られた結果を、図12および図13に示す。図12は、E166NTEM−1をLnで配位された化合物csDAmでラベル化した場合の蛍光画像(左の4レーン)とゲル染色画像(右の4レーン)を、図13はWT(野生株)TEM−1をLnで配位された化合物csDAmでラベル化した場合の蛍光画像(左の2レーン)とゲル染色画像(右の2レーン)を示す。
【0175】
図12における各レーン中のサンプルは以下の表3に示すように成分を混合して作製した。
【0176】
【表3】
【0177】
図13における各レーン中のサンプルは以下の表4に示すように成分を混合して作製した。
【0178】
【表4】
【0179】
図12に示すように、タグタンパク質となるβ−ラクタマーゼの分子量である29kDa付近に、レーン1ではTbイオン由来の緑色、レーン2ではEuイオン由来の赤色の蛍光が確認できた。このことから、Lnが配位した化合物csDAmがβ−ラクタマーゼにラベル化していることが確認できた。また、レーン1および2においては、15kDa付近にも緑色の蛍光が見られるが、これは遊離のTbが配位した化合物[csDAm−Tb]の蛍光であると考えられる。なお、Euが配位した化合物[csDAm−Eu]は蛍光強度がTbが配位した化合物[csDAm−Tb]に比べて弱いため、遊離のEuで配位した化合物[csDAm−Eu]由来の蛍光は見られない。
【0180】
図13に示すように、WTのβ-ラクタマーゼにはTbが配位した化合物[csDAm−Tb]およびEuが配位した化合物[csDAm−Eu]のいずれによってもラベル化されていないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明のタンパク質を蛍光標識する方法は、細胞イメージング等に適用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0182】
配列番号1 E166N TEM−1のアミノ酸配列
配列番号2 E166A TEM−1のアミノ酸配列
配列番号3 E166D TEM−1のアミノ酸配列
配列番号4 E166Q TEM−1のアミノ酸配列
配列番号5 E166D TEM−1のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号6 E166A TEM−1のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号7 E166D TEM−1のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号8 E166Q TEM−1のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号9 変異原性プライマー
配列番号10 変異原性プライマー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を蛍光標識する方法であって、
標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質を得ること、および前記融合タンパク質と下記式(I)で表わされる化合物またはその塩とを反応させることにより、前記対象タンパク質を蛍光標識することを含み、
前記変異型βラクタマーゼは、前記式(I)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記式(I)で表わされる化合物またはその塩のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なタンパク質である、タンパク質の蛍光標識方法。
【化42】
前記式(I)中、Xは、蛍光性基であり、
Yは、消光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
L2は、Yのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【請求項2】
前記融合タンパク質における前記変異型βラクタマーゼのアミノ酸配列が、
配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列、
配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列の1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(I)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物またはその塩のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、及び、
配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(I)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物またはその塩のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、からなる群から選択されるアミノ酸配列である、請求項1記載のタンパク質の蛍光標識方法。
【請求項3】
前記融合タンパク質を得ることが、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得ること、前記融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得ること、細胞内で前記融合タンパク質を発現させること、又は、発現した前記融合タンパク質を単離することを含む、請求項1又は2記載のタンパク質の蛍光標識方法。
【請求項4】
前記式(I)で表わされる化合物またはその塩を含む請求項1〜3のいずれかの方法に用いるための組成物。
【化43】
前記式(I)中、Xは、蛍光性基であり、
Yは、消光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
L2は、Yのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかの方法に用いるためのプラスミドまたはベクターであって、
前記プラスミドまたはベクターは、標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドをクローニングするため又は前記融合タンパク質を発現させるためのプラスミド又はベクターであり、
前記プラスミド又はベクターは、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列の1〜数個の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列であって、前記融合タンパク質において式(I)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、及び、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、前記融合タンパク質において式(I)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、からなる群から選択される塩基配列を含むプラスミドまたはベクター。
【化44】
前記式(I)中、Xは、蛍光性基であり、
Yは、消光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
L2は、Yのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【請求項6】
請求項4に記載の組成物と、請求項5に記載のプラスミドまたはベクターとを含むタンパク質の蛍光標識方法用キット。
【請求項7】
一般式(I’)で表わされる化合物またはその塩。
【化45】
前記式(I)中、Xは、蛍光性基であり、
Yは、消光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
L2’は、
【化46】
または−CH=CH−
で表わされる、Yのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【請求項8】
タンパク質を蛍光標識する方法であって、
標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質を得ること、および前記融合タンパク質と下記式(II)で表わされる化合物もしくは下記式(III)で表わされる化合物またはその塩とを反応させることにより、前記対象タンパク質を蛍光標識することを含み、
前記変異型βラクタマーゼは、前記式(II)で表わされる化合物もしくは下記式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なタンパク質である、タンパク質の蛍光標識方法。
【化47】
前記式(II)および式(III)中、
Xは、蛍光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基であり、
R4は、Hまたは低級アルキルである。
【請求項9】
前記融合タンパク質における前記変異型βラクタマーゼのアミノ酸配列が、
配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列、
配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列の1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物またはその塩のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、及び、
配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物またはその塩のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、からなる群から選択されるアミノ酸配列である、請求項8記載のタンパク質の蛍光標識方法。
【請求項10】
前記融合タンパク質を得ることが、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得ること、前記融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得ること、細胞内で前記融合タンパク質を発現させること、又は、発現した前記融合タンパク質を単離することを含む、請求項8又は9に記載のタンパク質の蛍光標識方法。
【請求項11】
前記式(II)で表わされる化合物もしくは下記式(III)で表わされる化合物またはその塩を含む請求項8〜10のいずれかの方法に用いるための組成物。
【化48】
前記式(II)および式(III)中、
Xは、蛍光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基であり、
R4は、Hまたは低級アルキルである。
【請求項12】
請求項8〜10のいずれかの方法に用いるためのプラスミドまたはベクターであって、
前記プラスミドまたはベクターは、標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドをクローニングするため又は前記融合タンパク質を発現させるためのプラスミド又はベクターであり、
前記プラスミド又はベクターは、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列の1〜数個の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列であって、前記融合タンパク質において式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、及び、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、前記融合タンパク質において式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、からなる群から選択される塩基配列を含むプラスミドまたはベクター。
【化49】
前記式(II)および式(III)中、
Xは、蛍光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基であり、
R4は、Hまたは低級アルキルである。
【請求項13】
請求項11に記載の組成物と、請求項12に記載のプラスミドまたはベクターとを含むタンパク質の蛍光標識方法用キット。
【請求項14】
一般式(II’)で表わされる化合物またはその塩。
【化50】
前記式(II’)中、
X’は、発光性希土類錯体であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【請求項1】
タンパク質を蛍光標識する方法であって、
標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質を得ること、および前記融合タンパク質と下記式(I)で表わされる化合物またはその塩とを反応させることにより、前記対象タンパク質を蛍光標識することを含み、
前記変異型βラクタマーゼは、前記式(I)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記式(I)で表わされる化合物またはその塩のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なタンパク質である、タンパク質の蛍光標識方法。
【化42】
前記式(I)中、Xは、蛍光性基であり、
Yは、消光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
L2は、Yのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【請求項2】
前記融合タンパク質における前記変異型βラクタマーゼのアミノ酸配列が、
配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列、
配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列の1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(I)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物またはその塩のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、及び、
配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(I)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物またはその塩のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、からなる群から選択されるアミノ酸配列である、請求項1記載のタンパク質の蛍光標識方法。
【請求項3】
前記融合タンパク質を得ることが、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得ること、前記融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得ること、細胞内で前記融合タンパク質を発現させること、又は、発現した前記融合タンパク質を単離することを含む、請求項1又は2記載のタンパク質の蛍光標識方法。
【請求項4】
前記式(I)で表わされる化合物またはその塩を含む請求項1〜3のいずれかの方法に用いるための組成物。
【化43】
前記式(I)中、Xは、蛍光性基であり、
Yは、消光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
L2は、Yのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかの方法に用いるためのプラスミドまたはベクターであって、
前記プラスミドまたはベクターは、標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドをクローニングするため又は前記融合タンパク質を発現させるためのプラスミド又はベクターであり、
前記プラスミド又はベクターは、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列の1〜数個の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列であって、前記融合タンパク質において式(I)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、及び、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、前記融合タンパク質において式(I)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、からなる群から選択される塩基配列を含むプラスミドまたはベクター。
【化44】
前記式(I)中、Xは、蛍光性基であり、
Yは、消光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
L2は、Yのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【請求項6】
請求項4に記載の組成物と、請求項5に記載のプラスミドまたはベクターとを含むタンパク質の蛍光標識方法用キット。
【請求項7】
一般式(I’)で表わされる化合物またはその塩。
【化45】
前記式(I)中、Xは、蛍光性基であり、
Yは、消光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
L2’は、
【化46】
または−CH=CH−
で表わされる、Yのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【請求項8】
タンパク質を蛍光標識する方法であって、
標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質を得ること、および前記融合タンパク質と下記式(II)で表わされる化合物もしくは下記式(III)で表わされる化合物またはその塩とを反応させることにより、前記対象タンパク質を蛍光標識することを含み、
前記変異型βラクタマーゼは、前記式(II)で表わされる化合物もしくは下記式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なタンパク質である、タンパク質の蛍光標識方法。
【化47】
前記式(II)および式(III)中、
Xは、蛍光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基であり、
R4は、Hまたは低級アルキルである。
【請求項9】
前記融合タンパク質における前記変異型βラクタマーゼのアミノ酸配列が、
配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列、
配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列の1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物またはその塩のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、及び、
配列表の配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記融合タンパク質において上記式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物またはその塩のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列、からなる群から選択されるアミノ酸配列である、請求項8記載のタンパク質の蛍光標識方法。
【請求項10】
前記融合タンパク質を得ることが、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得ること、前記融合タンパク質を発現可能なプラスミド若しくはベクターを得ること、細胞内で前記融合タンパク質を発現させること、又は、発現した前記融合タンパク質を単離することを含む、請求項8又は9に記載のタンパク質の蛍光標識方法。
【請求項11】
前記式(II)で表わされる化合物もしくは下記式(III)で表わされる化合物またはその塩を含む請求項8〜10のいずれかの方法に用いるための組成物。
【化48】
前記式(II)および式(III)中、
Xは、蛍光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基であり、
R4は、Hまたは低級アルキルである。
【請求項12】
請求項8〜10のいずれかの方法に用いるためのプラスミドまたはベクターであって、
前記プラスミドまたはベクターは、標識対象タンパク質と変異型βラクタマーゼとの融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドをクローニングするため又は前記融合タンパク質を発現させるためのプラスミド又はベクターであり、
前記プラスミド又はベクターは、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列の1〜数個の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列であって、前記融合タンパク質において式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、及び、
配列表の配列番号5〜8のいずれかの塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、前記融合タンパク質において式(II)で表わされる化合物もしくは式(III)で表わされる化合物またはその塩のβ−ラクタム環を開環させ、その結果、前記化合物のYを遊離させ、かつ、前記化合物またはその塩のβラクタム環が開環した部分と共有結合可能なアミノ酸配列をコードする塩基配列、からなる群から選択される塩基配列を含むプラスミドまたはベクター。
【化49】
前記式(II)および式(III)中、
Xは、蛍光性基であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基であり、
R4は、Hまたは低級アルキルである。
【請求項13】
請求項11に記載の組成物と、請求項12に記載のプラスミドまたはベクターとを含むタンパク質の蛍光標識方法用キット。
【請求項14】
一般式(II’)で表わされる化合物またはその塩。
【化50】
前記式(II’)中、
X’は、発光性希土類錯体であり、
L1は、Xのためのリンカーであり、
R1は、H、低級アルキルカルボニルオキシで置換された低級アルキレン基または低級アルキル基である。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−119382(P2010−119382A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195535(P2009−195535)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、平成20年度科学技術総合研究委託事業による委託研究「科学技術連携施策群の効果的・効率的な推進 生体内分子を可視化するナノセンサ分子開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、平成20年度科学技術総合研究委託事業による委託研究「科学技術連携施策群の効果的・効率的な推進 生体内分子を可視化するナノセンサ分子開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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