説明

タンパク質光電変換素子およびスズ置換シトクロムc

【課題】光照射に対する安定性が極めて高く、光電変換機能を長期にわたって維持することができる新規なタンパク質およびこれを用いた長期安定利用可能なタンパク質光電変換素子を提供する。
【解決手段】ウマ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換してスズ置換ウマ心筋シトクロムcを得る。ウシ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換してスズ置換ウシ心筋シトクロムcを得る。スズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcからなるタンパク質22を電極21上に固定化してタンパク質固定化電極とする。このタンパク質固定化電極を用いてタンパク質光電変換素子を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タンパク質光電変換素子およびスズ置換シトクロムcに関し、例えば、スズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcなどやこれらを用いたタンパク質光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質はサイズが極めて小さい(2〜10nm)ながら、複雑な機能を発揮するため、半導体素子に代わる次世代の機能素子として期待されている。
従来、タンパク質を用いた光電変換素子として、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムc(ウマ心筋シトクロムcの補欠分子族ヘムの中心金属の鉄を亜鉛に置換したもの)を金電極に固定化したタンパク質固定化電極を用いたものが提案されている(特許文献1参照。)。そして、このタンパク質固定化電極から光電流が得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−220445号公報
【特許文献2】特開2009−21501号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】McLendon,G.and Smith,M.J.Biol.Chem.253,4004(1978)
【非特許文献2】Moza,B.and 2 others,Biochim.Biophys.Acta 1646,49(2003)
【非特許文献3】Vanderkooi,J.M.and 2 others,Eur.J.Biochem.64,381-387(1976)
【非特許文献4】Tokita,Y.and 4 others,J.Am.Chem.Soc.130,5302(2008)
【非特許文献5】Gouterman M.,Optical spectra and electronic structure of porphyrins and related rings, in "The Porphyrins" Vol.3,Dolphin,D.ed.,pp.1-156, Academic Press(1978)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1で提案された光電変換素子で用いられている亜鉛置換ウマ心筋シトクロムc中の補欠分子族である亜鉛ポルフィリンは光に対して不安定で、光照射により速やかに分解してしまうことが分かった。図39は亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの光照射による紫外可視吸収スペクトルの経時変化を測定した結果を示す。この測定に際しては、4μMの亜鉛置換ウマ心筋シトクロムc溶液(10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解)1mLをキュベットに入れ、波長420nmの光(強度1630μW)を暗室下、室温で照射した。30分毎に波長240〜700nmの紫外可視吸収スペクトルを測定した。図39中の矢印は、スペクトルの変化方向を示す。図39より、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcは、時間の経過とともに急速に光分解が進むことが分かる。このときの光分解速度定数kは114M-1-1であった。詳細は省略するが、亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcも同様に光照射により速やかに分解してしまう。
【0006】
この光分解を防止するために、これらの亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcを置く環境に対して酸素を遮断したり、ラジカルトラップ剤を添加したりすることも考えられるが、このような対策を施してもこの光分解を1/3程度に留めることができるに過ぎない。すなわち、図40は、アルゴン雰囲気下における亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの光照射による紫外可視吸収スペクトルの経時変化を測定した結果を示す。測定方法は上記の方法と同様である。ただし、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムc溶液を入れたキュベットはスクリューキャップで密閉し、脱酸素したアルゴンガスを15分通気した。このときの光分解速度定数kは37.5M-1-1であり、酸素を遮断しない場合に比べて約1/3に過ぎない。また、図41は、ラジカルトラップ剤を添加した状態で亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの光照射による紫外可視吸収スペクトルの経時変化を測定した結果を示す。測定方法は上記の方法と同様である。ただし、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムc溶液を入れたキュベットにラジカルトラップ剤として10mMアスコルビン酸ナトリウム(pH7.0)を添加し、キュベットは密閉していない。このときの光分解速度定数kは39.3M-1-1であり、酸素を遮断しない場合に比べて約1/3に過ぎない。
【0007】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、光照射に対する安定性が極めて高く、光電変換機能を長期にわたって維持することができる新規なタンパク質およびこれを用いた長期安定利用可能なタンパク質光電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、光照射に対する安定性が極めて高く、光電変換機能を長期にわたって維持することができる新規なタンパク質の合成に初めて成功した。具体的には、ウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換したスズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcを合成し、それらの光照射に対する安定性および長期にわたる光電変換機能の維持を確認した。同様の優れた特性は、哺乳類由来のシトクロムcであれば、ウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムc以外のものであっても得ることができる。さらに、ウマ心筋シトクロムc、ウシ心筋シトクロムcまたは哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質も同様の優れた特性を得ることができる。さらに、置換金属としてスズの代わりにスズおよび亜鉛以外の金属を用いた場合であっても、蛍光励起寿命が所定の時間内であれば、同様の優れた特性を有する金属置換シトクロムcあるいはタンパク質を得ることができる。
この発明は、本発明者らによる上記の検討に基づいて案出されたものである。
すなわち、上記課題を解決するために、この発明は、
ウマ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換したスズ置換ウマ心筋シトクロムcである。
また、この発明は、
ウシ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換したスズ置換ウシ心筋シトクロムcである。
【0009】
また、この発明は、
ウマ心筋シトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質である。
また、この発明は、
ウシ心筋シトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質である。
【0010】
また、この発明は、
哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換したスズ置換シトクロムcである。
また、この発明は、
哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質である。
また、この発明は、
スズ置換ウマ心筋シトクロムcを有するタンパク質光電変換素子である。
また、この発明は、
スズ置換ウシ心筋シトクロムcを有するタンパク質光電変換素子である。
【0011】
また、この発明は、
ウマ心筋シトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質を有するタンパク質光電変換素子である。
また、この発明は、
ウシ心筋シトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質を有するタンパク質光電変換素子である。
また、この発明は、
哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換したスズ置換シトクロムcを有するタンパク質光電変換素子である。
また、この発明は、
哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質を有するタンパク質光電変換素子である。
【0012】
また、この発明は、
ウマ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄を亜鉛およびスズ以外の金属に置換し、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sである金属置換ウマ心筋シトクロムcである。
また、この発明は、
ウシ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄を亜鉛およびスズ以外の金属に置換し、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sである金属置換ウシ心筋シトクロムcである。
また、この発明は、
ウマ心筋シトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、亜鉛およびスズ以外の金属を含み、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sであるタンパク質である。
【0013】
また、この発明は、
ウシ心筋シトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、亜鉛およびスズ以外の金属を含み、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sであるタンパク質である。
【0014】
また、この発明は、
哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄を亜鉛およびスズ以外の金属に置換し、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sである金属置換シトクロムcである。
また、この発明は、
哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、亜鉛およびスズ以外の金属を含み、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sであるタンパク質である。
また、この発明は、
ウマ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄を亜鉛およびスズ以外の金属に置換し、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sである金属置換ウマ心筋シトクロムcを有するタンパク質光電変換素子。
また、この発明は、
ウシ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄を亜鉛およびスズ以外の金属に置換し、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sである金属置換ウシ心筋シトクロムcを有するタンパク質光電変換素子。
【0015】
また、この発明は、
ウマ心筋シトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、亜鉛およびスズ以外の金属を含み、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sであるタンパク質を有するタンパク質光電変換素子である。
【0016】
また、この発明は、
ウシ心筋シトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、亜鉛およびスズ以外の金属を含み、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sであるタンパク質を有するタンパク質光電変換素子である。
【0017】
また、この発明は、
哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄を亜鉛およびスズ以外の金属に置換し、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sである金属置換シトクロムcを有するタンパク質光電変換素子である。
また、この発明は、
哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、亜鉛およびスズ以外の金属を含み、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sであるタンパク質を有するタンパク質光電変換素子である。
【0018】
上記のタンパク質光電変換素子において、上記のスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、タンパク質、スズ置換シトクロムc、金属置換ウマ心筋シトクロムc、金属置換ウシ心筋シトクロムcおよび金属置換シトクロムcは、典型的には電極に固定化される。この電極の材料としては無機材料、有機材料のいずれを用いてもよく、必要に応じて選ばれる。これらのタンパク質光電変換素子は、上記のスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、タンパク質、スズ置換シトクロムc、金属置換ウマ心筋シトクロムc、金属置換ウシ心筋シトクロムcおよび金属置換シトクロムcが固定化される電極に加えて対極を有する。この対極は、この電極に対向するように設けられる。
【0019】
上述のように構成されたこの発明においては、上記のスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、タンパク質、スズ置換シトクロムc、金属置換ウマ心筋シトクロムc、金属置換ウシ心筋シトクロムcおよび金属置換シトクロムcは、光照射を行ってもほとんど光分解を起こさず、長期にわたって光電変換機能を維持することができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、上記のスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、タンパク質、スズ置換シトクロムc、金属置換ウマ心筋シトクロムc、金属置換ウシ心筋シトクロムcおよび金属置換シトクロムcは、光照射に対して極めて高い安定性を有する。そして、これらを用いて長期安定利用可能なタンパク質光電変換素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の第1の実施の形態によるスズ置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図2】この発明の第1の実施の形態によるスズ置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図3】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図4】亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図5】この発明の第1の実施の形態によるスズ置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図6】この発明の第1の実施の形態によるスズ置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図7】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図8】亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図9】この発明の第1の実施の形態によるスズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの光分解反応の二次反応式のフィッティングの一例を示す略線図である。
【図10】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの光分解反応の二次反応式のフィッティングの一例を示す略線図である。
【図11】この発明の第1の実施の形態において金属置換シトクロムcの光電流発生実験に用いたタンパク質固定化電極を示す平面図である。
【図12】図11に示すタンパク質固定化電極の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図13】図11に示すタンパク質固定化電極のSoret帯光電流値の平均値を示す略線図である。
【図14】各種の金属置換シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図15】各種の金属置換シトクロムcの蛍光スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図16】スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの波長409nmにおける吸光度に対する積分蛍光強度を示す略線図である。
【図17】スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの波長409nmにおける吸光度に対する積分蛍光強度を示す略線図である。
【図18】この発明の第2の実施の形態によるタンパク質光電変換素子を示す略線図である。
【図19】この発明の第2の実施の形態によるタンパク質光電変換素子の使用形態の第1の例を示す略線図である。
【図20】この発明の第2の実施の形態によるタンパク質光電変換素子の使用形態の第2の例を示す略線図である。
【図21】この発明の第2の実施の形態によるタンパク質光電変換素子の使用形態の第3の例を示す略線図である。
【図22】この発明の第3の実施の形態による非接液全固体型タンパク質光電変換素子を示す断面図である。
【図23】図22に示す非接液全固体型タンパク質光電変換素子の要部を拡大して示す断面図である。
【図24】この発明の第3の実施の形態による非接液全固体型タンパク質光電変換素子の動作を説明するための略線図である。
【図25】この発明の実施例による非接液全固体型タンパク質光電変換素子の製造方法を説明するための平面図である。
【図26】この発明の実施例による非接液全固体型タンパク質光電変換素子の製造方法を説明するための平面図である。
【図27】この発明の実施例による非接液全固体型タンパク質光電変換素子を示す断面図である。
【図28】非接液全固体型タンパク質光電変換素子の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図29】非接液全固体型タンパク質光電変換素子のバックグラウンド電流−電圧特性の測定結果を示す略線図である。
【図30】非接液全固体型タンパク質光電変換素子の電流−電圧特性の測定結果を示す略線図である。
【図31】非接液全固体型タンパク質光電変換素子および液系タンパク質光電変換素子の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図32】非接液全固体型タンパク質光電変換素子および液系タンパク質光電変換素子の光電流アクションスペクトルの測定結果を光電流のピーク値が1となるように規格化して示す略線図である。
【図33】非接液全固体型タンパク質光電変換素子および液系タンパク質光電変換素子の光劣化曲線の測定結果を示す略線図である。
【図34】非接液全固体型タンパク質光電変換素子および液系タンパク質光電変換素子の光劣化曲線の測定結果を照射開始時の光電流のピーク値が1となるように規格化して示す略線図である。
【図35】液系タンパク質光電変換素子の周波数応答の測定結果を示す略線図である。
【図36】非接液全固体型タンパク質光電変換素子の周波数応答の測定結果を示す略線図である。
【図37】この発明の実施例による非接液全固体型タンパク質光電変換素子の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図38】この発明の実施例による非接液全固体型タンパク質光電変換素子の光劣化曲線の測定結果を示す略線図である。
【図39】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図40】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcのアルゴン雰囲気下における紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図41】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcのラジカルトラップ剤添加下における吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(スズ置換シトクロムc)
2.第2の実施の形態(タンパク質光電変換素子)
3.第3の実施の形態(非接液全固体型タンパク質光電変換素子)
4.第4の実施の形態(金属置換シトクロムc)
5.第5の実施の形態(タンパク質光電変換素子)
【0023】
〈1.第1の実施の形態〉
[スズ置換シトクロムc]
表1にウマ心筋シトクロムc(CYC HORSEと表示)およびウシ心筋シトクロムc(CYC BOVINと表示)のアミノ酸配列(一文字記号)を示す。表1に示すように、ウシ心筋シトクロムcとウマ心筋シトクロムcとは全104アミノ酸残基中、3残基だけが異なる。ウマ心筋シトクロムcのThr48、Lys61、Thr90が、ウシ心筋シトクロムcではSer48、Gly61、Gly90にそれぞれ置換されている。
【0024】
【表1】

【0025】
ウシ心筋シトクロムcは、ウマ心筋シトクロムcに比べて、熱、変性剤(グアニジン塩酸塩)に対するタンパク質部の安定性が高いことが知られている(非特許文献1、2)。表2にウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcの変性中点温度T1/2 および変性中点濃度[Gdn−HCl]1/2 を示す。変性中点温度T1/2 は系にある全タンパク質中、変性タンパク質の占める割合が半分(1/2)になるときの温度である。また、変性中点濃度[Gdn−HCl]1/2 は系にある全タンパク質中、変性タンパク質の占める割合が半分(1/2)になるときのグアニジン塩酸塩(Gdn−HCl)の濃度である。T1/2 および[Gdn−HCl]1/2 の数値が高いほど安定である。
【0026】
【表2】

【0027】
〈スズ置換シトクロムcの調製〉
スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcを次のようにして調製した。比較実験用に亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcも調製した。
ウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcとしては、ともにSigma社製のものを使用した。
以下においては、スズ置換ウマ心筋シトクロムcの調製方法を主に説明するが、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの調製方法も同様である。なお、ウマ心筋シトクロムcまたはウシ心筋シトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質も、ランダムミューテーション、化学修飾などの技術を適宜用いて同様に調製可能である。
【0028】
ウマ心筋シトクロムc粉末100mgに70%フッ酸/ピリジンを6mL加え、室温で10分インキュベートすることにより、ウマ心筋シトクロムcからヘムの中心金属の鉄を抜く。こうして鉄を抜いたウマ心筋シトクロムcに50mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.0)を9mL加えて、反応停止後、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー(カラム体積:150mL、樹脂:Sephadex G−50、展開溶媒:50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0))により、中心金属の抜けた金属フリーウマ心筋シトクロムcを得る。
【0029】
この金属フリーウマ心筋シトクロムc溶液を可能な限り濃縮し、これに氷酢酸を加えてpH2.5(±0.05)とする。こうして得られた溶液に塩化スズ粉末約25mgを加えて、遮光下、50℃で30分インキュベートする。この過程で塩化スズの代わりに酢酸亜鉛または塩化亜鉛を加えると亜鉛置換体が得られる。10分毎に紫外可視吸収スペクトルを測定し、タンパク質の波長280nmにおける吸収ピークとスズポルフィリン由来の波長408nmにおける吸収ピークとの比が一定になるまでインキュベーションを続ける。
【0030】
これ以降の操作は全て遮光下で行う。上記の最終的に得られた溶液に飽和二リン酸−水素ナトリウム溶液を加えてpHを中性(6.0<)にした後、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)への緩衝液交換を行う。その後、陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(カラム体積:40mL、樹脂:SP−Sephadex Fast Flow、溶出:10〜150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)の直線濃度勾配)により単量体の画分を回収する。こうしてスズ置換ウマ心筋シトクロムcが調製される。
【0031】
上記のようにして調製されたスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を図1〜図4に示す。以下においては、必要に応じて、スズ置換ウマ心筋シトクロムcをSnhhc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcをSnbvc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをZnhhc、亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcをZnbvcと略記する。図1〜図4に示すように、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcは波長280、346、423、550、584nmに吸収極大を持つのに対して、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcは波長280、409、540、578nmに吸収極大を持ち、δ帯(346nm付近)を持たない。
【0032】
〈金属置換シトクロムcの光照射分解実験〉
上記の4種類の金属置換シトクロムc、すなわちスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの光照射分解実験を以下のようにして行った。
約4μMの金属置換シトクロムc(10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解)1mLをキュベットに入れ、亜鉛置換体には波長420nm(強度1255μW)、スズ置換体には波長408nm(強度1132μW)の光を暗室中、室温で照射した。30分毎に波長240〜700nmの紫外可視吸収スペクトルを測定した。その結果を図5〜図8に示す。図7および図8中の矢印は、スペクトルの変化方向を示す。
【0033】
図7および図8より、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcは、時間の経過とともに急速に光分解が進むことが分かる。これに対して、図5および図6より、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcは、時間が経過した後のスペクトルは初期のスペクトルとほとんど重なっており、時間が経過しても光分解がほとんど起きていないことが分かる。図5〜図8に示す紫外可視吸収スペクトルにおけるSoret帯(亜鉛(Zn):423nm、スズ(Sn):409nm)の吸光度から、ミリモル吸光係数ε(Zn:243000M-1cm-1、Sn:267000M-1cm-1、数値は非特許文献3より引用)を用いて、濃度(M)を算出し、その逆数を時間(秒(s))に対してプロットし、その傾きから光分解速度定数kを算出した。スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの濃度の逆数(1/C)−時間(t)プロットを図9に、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの濃度の逆数(1/C)−時間(t)プロットを図10に示す。図9および図10において、直線は二次反応式(1/C=kt+1/C0 )のフィッティング曲線である。ここで、C0 は初期濃度である。この直線の傾きが光分解速度定数kとなる。図9および図10中に記載した直線を表す一次式においてはtをx、1/Cをyで表した。
【0034】
二回の実験の平均から上記の4種類の金属置換シトクロムcの光分解速度定数kを求めた。その結果、光分解速度定数kは、スズ置換ウマ心筋シトクロムcは1.39±0.13M-1-1、スズ置換ウシ心筋シトクロムcは0.90±0.20M-1-1、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcは67.2±1.4M-1-1、亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcは56.1±1.0M-1-1であった。この結果から、スズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcともに、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcに比べて光分解速度が50〜60倍遅く、光照射に対して極めて安定であることが分かった。また、亜鉛置換体、スズ置換体ともに、ウマ心筋シトクロムcに比べてウシ心筋シトクロムcの方が光分解速度は1.2〜1.5倍遅く、光照射に対して安定であることも分かった。特に、スズ置換ウシ心筋シトクロムcは、特許文献1において用いられた亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcに比べ、光照射に対して75倍も安定である。
【0035】
〈金属置換シトクロムcの光電流発生実験〉
光電流発生実験に用いるタンパク質固定化電極を次のようにして作製した。
図11に示すように、大きさが15.0mm×25.0mmで厚さが1mmのガラス基板11上に所定形状のITO電極12を形成した。ITO電極12の各部の寸法は図11に示す通りである。ITO電極12の厚さは100nmである。このITO電極12は作用極となる。照射領域13の大きさは4.0mm×4.0mmである。この照射領域13におけるITO電極12上に50μMの金属置換シトクロムc溶液(10mM Tris−HCl(pH8.0)に溶解)10μLでドロップを作製し、4℃、二日間放置した。こうしてタンパク質固定化電極を作製した。
【0036】
このタンパク質固定化電極を0.25mMフェロシアン化カリウムを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)27mLに浸し、対極として白金メッシュ、参照極として銀/塩化銀電極を用い、特許文献1の図4に示す光電流測定装置を用いて、銀/塩化銀電極に対する電位を120mVとして波長380〜600nmの光電流アクションスペクトルを測定した。この測定に際しては、待機時間を900秒、測定時間を60秒、電流レンジを10nA、フィルターの周波数を30Hz、時間分解能を50msとした。4種類の金属置換シトクロムcのそれぞれにつき5枚、電極を作製して測定を行った。
【0037】
得られた光電流アクションスペクトルを図12に示す。光電流アクションスペクトルの極大は溶液吸収スペクトルと同様、408、540、578nmに見られた。図12より、Soret帯(408nm)とQ帯(540nm)との強度比が10:1であることから、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの光電流発生機構は、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcと同様にホールトランスファー(hole transfer)タイプであると考えられる(非特許文献4)。Soret帯における光電流値平均値グラフ(サンプル数=5)を図13に示す。図13より、ウマ、ウシともにスズ置換シトクロムcは亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcと同様の光電流(10nA)を発生することが分かった。
【0038】
〈金属置換シトクロムcの蛍光量子収率〉
金属置換シトクロムcの異なる濃度の希薄溶液を用意し、波長380〜440nmの紫外可視吸収スペクトル、波長500〜700nmの蛍光スペクトル(励起波長409nm)を測定した。その結果を図14および図15に示す。
図16および図17に示すように、波長409nmにおける吸光度を横軸(x軸)に、波長550〜670nm間の積分蛍光強度を縦軸(y軸)にとり、各データをプロットして直線近似曲線を描いた。こうして得られた直線の傾きが蛍光量子収率となる。図15に示す蛍光スペクトルにおいて波長550〜670nm間の面積を積分蛍光強度(任意単位(a.u.))とした。亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの直線の傾き、すなわち蛍光量子収率を1.0としたときの各金属置換シトクロムcの相対蛍光量子収率Φを算出した。その結果を表3に示す。表3から分かるように、スズ置換体の蛍光強度は、亜鉛置換体の蛍光強度のおよそ1/7〜1/8である。このスズ置換体における励起電子の寿命の短さが、光照射時のラジカル発生を抑え、安定化に寄与していると考えられる。
【0039】
【表3】

【0040】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcとも、光照射に対する安定性が亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcに比べて極めて高い。このため、スズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いることにより、長期安定利用可能な新規なタンパク質光電変換素子を実現することが可能となる。このタンパク質光電変換素子は光センサーや撮像素子などに用いることができる。また、これらのスズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcとも、光の吸収極大の波長が409nmであり、これは現在、高密度記録が可能な光ディスクシステムに用いられている半導体レーザの波長405nmに近い。このため、光ディスクの代わりに、例えば、スズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcを基板上に敷き詰めた媒体を用いることにより、新規なメモリを実現することが可能となる。さらに、これらのスズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの直径は約2nmと極めて小さいため、基板の単位面積あたりに搭載できる素子数を従来に比べて飛躍的に多くすることができる。このため、高精細な光センサーや撮像素子などの実現が可能となり、あるいは、大容量のメモリの実現が可能となる。
【0041】
〈2.第2の実施の形態〉
[タンパク質光電変換素子]
この第2の実施の形態においては、第1の実施の形態によるスズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いたタンパク質光電変換素子について説明する。
【0042】
図18に第1の実施の形態によるタンパク質光電変換素子を示し、特にタンパク質固定化電極を示す。
図18に示すように、このタンパク質光電変換素子においては、電極21上にスズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcからなるタンパク質22が固定化されている。このタンパク質22は、好適には、スズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcのスズポルフィリン側が電極21側を向くように固定されるが、これに限定されるものではない。
【0043】
図18においては一分子のタンパク質22が示されているが、電極21上に固定化するタンパク質22の数は必要に応じて決められ、一般的には複数のタンパク質22が単分子膜または多分子膜として固定化される。また、図18においては電極21は平坦な表面形状を有するように描かれているが、電極21の表面形状は任意であり、例えば凹面、凸面、凹凸面などのいずれであってよく、いずれの形状の面にも容易にタンパク質22を固定化することが可能である。
【0044】
電極21の材料としては、例えば、金、白金、銀などの金属、ITO(インジウム−スズ複合酸化物)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ネサガラス(SnO2 ガラス)などの金属酸化物あるいはガラスなどに代表される無機材料を用いることができる。この電極21の材料としては有機材料を用いることもできる。この有機材料は、例えば、導電性高分子(ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンスルフィドなど)、テトラチアフルバレン誘導体(TTF、TMTSF、BEDT−TTFなど)を含む電荷移動錯体(例えば、TTF−TCNQなど)などである。この電極21を通してタンパク質22に光を入射させる場合、この電極21は、好適には、このタンパク質22の光励起に用いられる光に対して透明に構成される。例えば、この電極21は、タンパク質22の光励起に用いられる光に対して透明な導電性材料、例えばITO、FTO、ネサガラスなどにより構成され、あるいは、光の透過が可能な極薄い金属膜などにより構成される。
【0045】
このタンパク質光電変換素子は、電極21上にタンパク質22が固定化されたタンパク質固定化電極に加えて対極を有する。この対極は、タンパク質固定化電極に対して間隔を空けて対向するように設けられる。この対極の材料としては、例えば、金、アルミニウム、パラジウム、銀、クロムなどの金属、ITO(インジウム−スズ複合酸化物)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ネサガラス(SnO2 ガラス)などの金属酸化物あるいはガラスなどに代表される無機材料を用いることができる。この対極の材料としては、導電性高分子(ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンスルフィドなど)、テトラチアフルバレン誘導体(TTF、TMTSF、BEDT−TTFなど)を含む電荷移動錯体(例えば、TTF−TCNQなど)などを用いることもできる。電極21に固定化されたタンパク質22の全部またはほぼ全部に対極を通して光が照射されるようにするためには、この対極は、好適には、このタンパク質22の光励起に用いられる光に対して透明に構成される。例えば、この対極は、タンパク質22の光励起に用いられる光に対して透明な導電性材料、例えばITO、FTO、ネサガラスなどにより構成され、あるいは、光の透過が可能な極薄い金属膜などにより構成される。
【0046】
このタンパク質光電変換素子は、タンパク質22の光電変換機能および電子伝達機能を損なわない限り、溶液(電解質溶液または緩衝液)中、ドライな環境中のいずれでも動作させることが可能である。このタンパク質光電変換素子を電解質溶液または緩衝液中で動作させる場合には、典型的には、タンパク質固定化電極に対して間隔を空けて対向するように対極が設けられ、これらのタンパク質固定化電極および対極が電解質溶液または緩衝液中に浸漬される。電解質溶液の電解質(あるいはレドックス種)としてはタンパク質固定化電極で酸化反応が起こり、対極で還元反応が起こるもの、または、タンパク質固定化電極で還元反応が起こり、対極で酸化反応が起こるものが用いられる。具体的には、電解質(あるいはレドックス種)としては、例えば、K4 [Fe(CN)6 ]や[Co(NH3 6 ]Cl3 などが用いられる。このタンパク質光電変換素子をドライな環境中で動作させる場合には、典型的には、例えば、タンパク質22を吸着しない固体電解質、具体的には例えば寒天やポリアクリルアミドゲルなどの湿潤な固体電解質が、タンパク質固定化電極と対極との間に挟み込まれ、好適にはこの固体電解質の周囲にこの固体電解質の乾燥を防ぐための封止壁が設けられる。これらの場合においては、タンパク質固定化電極と対極との自然電極電位の差に基づいた極性で、タンパク質22からなる受光部で光を受光したときに光電流を得ることができる。
【0047】
[タンパク質光電変換素子の使用形態]
図19はこのタンパク質光電変換素子の使用形態の第1の例を示す。
図19に示すように、この第1の例では、電極21上にタンパク質22が固定化されたタンパク質固定化電極と対極23とが互いに対向して設けられる。これらのタンパク質固定化電極および対極23は、容器24中に入れられた電解質溶液25中に浸漬される。電解質溶液25は、タンパク質22の機能を損なわないものが用いられる。また、この電解質溶液25の電解質(あるいはレドックス種)は、タンパク質固定化電極で酸化反応が起こり、対極23で還元反応が起こるもの、または、タンパク質固定化電極で還元反応が起こり、対極23で酸化反応が起こるものが用いられる。
【0048】
このタンパク質光電変換素子により光電変換を行うには、バイアス電源26により参照電極27に対してタンパク質固定化電極にバイアス電圧を印加した状態で、タンパク質固定化電極のタンパク質22に光を照射する。この光は、タンパク質22の光励起が可能な光の単色光またはこの光の成分を有する光である。この場合、タンパク質固定化電極に印加するバイアス電圧、照射する光の強度および照射する光の波長のうちの少なくとも一つを調節することによって、素子内部を流れる光電流の大きさおよび/または極性を変化させることができる。光電流は端子28a、28bより外部に取り出される。
【0049】
図20はこのタンパク質光電変換素子の使用形態の第2の例を示す。
図20に示すように、この第2の例では、第1の例のようにバイアス電源26を用いてバイアス電圧を発生させるのではなく、タンパク質固定化電極および対極23が持つ自然電極電位の差をバイアス電圧として用いる。この場合、参照電極27は用いる必要がない。したがって、このタンパク質光電変換素子は、タンパク質固定化電極および対極23を用いる二電極系である。第2の例の上記以外のことは第1の例と同様である。
【0050】
図21はこのタンパク質光電変換素子の使用形態の第3の例を示す。第1および第2の例によるタンパク質光電変換素子が溶液中で動作させるものであるのに対し、このタンパク質光電変換素子はドライな環境中で動作させることができるものである。
図21に示すように、このタンパク質光電変換素子においては、タンパク質固定化電極と対極23との間に固体電解質29が挟み込まれている。さらに、この固体電解質29の周囲を取り巻くように、固体電解質29の乾燥を防ぐための封止壁30が設けられている。固体電解質29としては、タンパク質22の機能を損なわないものが用いられ、具体的には、タンパク質を吸着しない寒天やポリアクリルアミドゲルなどが用いられる。このタンパク質光電変換素子により光電変換を行うには、タンパク質固定化電極および対極23が持つ自然電極電位の差をバイアス電圧として用い、タンパク質固定化電極のタンパク質22に光を照射する。この光は、タンパク質22の光励起が可能な単色光またはこの光の成分を有する光である。この場合、タンパク質固定化電極および対極23が持つ自然電極電位の差、照射する光の強度および照射する光の波長のうちの少なくとも一つを調節することによって、素子内部を流れる光電流の大きさおよび/または極性を変化させることができる。第3の例の上記以外のことは第1の例と同様である。
【0051】
[タンパク質光電変換素子の製造方法]
このタンパク質光電変換素子の製造方法の一例について説明する。
まず、電極21をタンパク質22と緩衝液とを含む溶液に浸漬し、タンパク質22を電極21上に固定化する。こうしてタンパク質固定化電極が形成される。
次に、このタンパク質固定化電極と対極23とを用いて例えば図19、図20または図21に示すタンパク質光電変換素子を製造する。
【0052】
[タンパク質光電変換素子の動作]
このタンパク質光電変換素子のタンパク質22に波長409nm程度の単色光またはこの波長409nm程度の波長成分を含む光が入射すると、タンパク質22から光励起により電子が発生し、電子伝達により電極21に電子が移動する。そして、電極21と対極23とから外部に光電流が取り出される。
【0053】
以上のように、この第2の実施の形態によれば、高い光照射安定性を有するスズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcからなるタンパク質22を電極21上に固定化するようにしている。このため、タンパク質22が長時間の光照射によっても劣化することがなく、長期安定利用可能な新規なタンパク質光電変換素子を実現することができる。
【0054】
このタンパク質光電変換素子は、例えば光センサーあるいは撮像素子に用いることができ、必要に応じて光電流の増幅回路などを併せて用いることができる。光センサーは光信号の検出などの各種の用途に用いることができ、人工網膜などに応用することも可能である。
【0055】
このタンパク質光電変換素子は、光電変換を利用する各種の装置や機器などに用いることができ、具体的には、例えば、受光部を有する電子機器などに用いることができる。このような電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含むが、具体例を挙げると、デジタルカメラ、カメラ一体型VTR(ビデオテープレコーダ)などである。
【0056】
〈3.第3の実施の形態〉
[非接液全固体型タンパク質光電変換素子]
図22は第3の実施の形態による非接液全固体型タンパク質光電変換素子を示す。この非接液全固体型タンパク質光電変換素子においては固体タンパク質層を用いる。ここで、固体タンパク質層とは、水などの液体を含まずにタンパク質が集合して層状の固体をなすものを意味する。また、非接液全固体型タンパク質光電変換素子の「非接液」とは、タンパク質光電変換素子の内外が水などの液体と接触しない状態で使用されることを意味する。また、非接液全固体型タンパク質光電変換素子の「全固体型」とは、素子の全ての部位が水などの液体を含まないものであることを意味する。
【0057】
図22に示すように、この非接液全固体型タンパク質光電変換素子においては、電極41と電極42との間に、タンパク質からなる固体タンパク質層43が挟まれた構造を有する。固体タンパク質層43は電極41、42に対して固定化されている。固体タンパク質層43は典型的には電極41、42に対して直接固定化されるが、必要に応じて、固体タンパク質層43と電極41、42との間に水などの液体が含まれていない中間層を設けてもよい。この固体タンパク質層43には水などの液体が含まれていない。この固体タンパク質層43はタンパク質の単分子膜または多分子膜からなる。
【0058】
この固体タンパク質層43が多分子膜からなる場合の構造の一例を図23に示す。図23に示すように、固体タンパク質層43は、スズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcからなるタンパク質43aが二次元的に集合して形成された単分子膜がn層(nは2以上の整数)積層されたものからなる。図23ではn=3の場合が示されている。
【0059】
電極41、42の材料としては、電極21と同様な材料を用いることができる。電極41、42の間に挟まれた固体タンパク質層43の全部またはほぼ全部に光が照射されるようにするためには、好適には、これらの電極41、42の少なくとも一方を、固体タンパク質層43の光励起に用いられる光に対して透明に構成する。具体的には、これらの電極41、42を、この光励起に用いられる光に対して透明な導電材料、例えばITO、FTO、ネサガラスなどにより構成したり、光の透過が可能な極薄い金属膜などにより構成したりする。
【0060】
次に、この非接液全固体型タンパク質光電変換素子の製造方法について説明する。
まず、電極41、42の一方、例えば電極41上に、タンパク質43aを含む溶液、典型的にはタンパク質43aを水を含む緩衝液に溶解したタンパク質溶液を液滴下法、スピンコート法、ディップ法、スプレー法などにより付着させる。
次に、電極41上にタンパク質溶液を付着させたものを、室温またはより低い温度に保持することにより、付着させたタンパク質溶液中のタンパク質43aを電極41に固定化させる。
【0061】
次に、こうしてタンパク質溶液中のタンパク質43aを電極41に固定化させたものをこのタンパク質43aの変性温度より低い温度に加熱して乾燥させることにより、タンパク質溶液に含まれる液を全て蒸発させて除去する。
こうして、タンパク質43aのみが電極41に固定化され、固体タンパク質層43が形成される。この固体タンパク質層43の厚さは、電極41上に付着させるタンパク質溶液の量やタンパク質溶液の濃度などにより容易に制御することができる。
次に、この固体タンパク質層43上に電極42を形成する。この電極42は、スパッタリング法、真空蒸着法などにより導電材料を堆積させることにより形成することができる。
以上のようにして目的とする非接液全固体型タンパク質光電変換素子が製造される。
【0062】
次に、この非接液全固体型タンパク質光電変換素子の動作について説明する。
非接液全固体型タンパク質光電変換素子の電極41と電極42との間に電極42側が低電位となるように電圧(バイアス電圧)を印加しておく。ここでは、電極41が透明電極であるとする。この非接液全固体型タンパク質光電変換素子の固体タンパク質層43に光が入射しないときには、この固体タンパク質層43は絶縁性であり、電極41と電極42との間に電流は流れない。この状態が非接液全固体型タンパク質光電変換素子のオフ状態である。これに対して、図24に示すように、電極41を透過して固体タンパク質層43に光(hν)が入射すると、この固体タンパク質層43を構成するタンパク質43aが光励起され、その結果、この固体タンパク質層43が導電性となる。そして、電極42から電子(e)が固体タンパク質層43を通って電極41に流れ、電極41と電極42との間に光電流が流れる。この状態が非接液全固体型タンパク質光電変換素子のオン状態である。このように固体タンパク質層43は光導電体として振る舞い、この非接液全固体型タンパク質光電変換素子への光の入射の有無によりオン/オフ動作が可能である。
上述のように固体タンパク質層43が光導電体として振る舞うのは、非特許文献4および特許文献2に記載された分子内電子移動のメカニズムによるものと考えられる。すなわち、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aが光励起されたときに分子軌道間の電子の遷移が起き、その結果、この電子伝達タンパク質43aのある部位から他の部位に電子またはホール(hole)が移動する。そして、この電子またはホールの移動が固体タンパク質層13を構成する多数の電子伝達タンパク質13aで次々と起き、その結果、電極41と電極42との間に光電流が流れる。
【0063】
〈実施例〉
図25Aに示すように、ガラス基板51上に電極41として所定形状のITO電極52を形成した。ITO電極52の厚さは100nm、面積は1mm2 である。このITO電極52は作用極となる。
スズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcおよび比較用の亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをそれぞれTris−HCl緩衝液(pH8.0)に高濃度に溶解したタンパク質溶液(200μM)を調製した。
【0064】
次に、図25Bに示すように、ITO電極52の一端部52aの上に、上述のようにして調製されたタンパク質溶液を10μL滴下し、タンパク質液滴53をITO電極52に付着させた。
次に、室温で2時間、あるいは4℃で一昼夜置き、タンパク質液滴53中のスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcまたは亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをITO電極52に固定化させた。
【0065】
次に、この試料を30〜40℃の温度に保たれた乾燥機に入れて30〜60分乾燥させた。この乾燥によって、タンパク質液滴53に含まれる水などの液体を蒸発させて除去した。この結果、ITO電極52上にはスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcまたは亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcだけが残され、図26Aに示すように、固体タンパク質層43が形成される。この固体タンパク質層43の厚さは約1μmである。
【0066】
次に、図26Bに示すように、固体タンパク質層43と重なるように電極54を形成するとともに、ITO電極52の他端部52bと重なるように電極55を形成する。電極55は対極および作用極として用いられる。これらの電極54、55はAu膜またはAl膜により形成し、Au膜の厚さは20nm、Al膜の厚さは50nmである。これらの電極54、55は、例えば、これらの電極54、55を形成する領域以外の部分をマスクし、電極材料をスパッタリング法または真空蒸着法により堆積させることにより形成することができる。これらの電極54、55の平面形状は長方形または正方形とする。
こうして非接液全固体型タンパク質光電変換素子が製造される。この非接液全固体型タンパク質光電変換素子の断面構造を図27に示す。
【0067】
こうして非接液全固体型タンパク質光電変換素子を多数製造し、大気中において電極54、55間の抵抗を測定したところ、1kΩ〜30MΩの範囲と広範囲に分布していた。このように電極54、55間の抵抗が広範囲にわたっているのは、素子毎に固体タンパク質層43の厚さが異なっていたり、固体タンパク質層43を構成するタンパク質43aに種類が異なるものが含まれていたりすることなどによるものである。
【0068】
この非接液全固体型タンパク質光電変換素子の光電流アクションスペクトルを測定した。固体タンパク質層43を構成するタンパク質43aとしては、スズ置換ウシ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた。測定は、ポテンショスタットの作用極をITO電極52に接続された電極54に接続し、対極および参照極を電極55に接続して行った。電極54、55は厚さ20nmのAu膜からなる。固体タンパク質層43を構成するタンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた場合の0mVおよび−800mVの電位下でのアクションスペクトルの測定結果を図28に示す。また、固体タンパク質層43を構成するタンパク質43aとしてスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた場合の0mVの電位下でのアクションスペクトルの測定結果を図37に示す。図28および図37に示すように、固体タンパク質層43を構成するタンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた場合もスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた場合もアクションスペクトルを観測することができた。特に、図28に示すように、固体タンパク質層43を構成するタンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた場合には、正負両方向のアクションスペクトルを観測することができた。また、図28に示すように、−800mVという過電圧下でもアクションスペクトルを測定することができたが、これは新たな知見であり、極めて注目すべき結果である。
【0069】
図29は、固体タンパク質層43を構成するタンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた非接液全固体型タンパク質光電変換素子の電極54、55間に電圧(バイアス電圧)を印加したときの各電圧におけるバックグラウンド電流(光オフ時に流れる電流)の測定結果を示す。図29に示すように、電圧とバックグラウンド電流との関係を示す曲線は直線であり、これは固体タンパク質層43の伝導性が半導体と似ていることを示す。この直線の傾きより、電極54、55間の抵抗は約50MΩであることが分かる。
図30は固体タンパク質層43を構成するタンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた非接液全固体型タンパク質光電変換素子の電極54、55間に電圧を印加したときの各電圧における光電流(光オン時に流れる電流)の測定結果を示す。図30に示すように、電圧と光電流との関係を示す曲線もほぼ直線であり、これは固体タンパク質層43が光導電体として機能していることを示す。
【0070】
図31は、固体タンパク質層43を構成するタンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた非接液全固体型タンパク質光電変換素子と、後述の方法により作製した液系タンパク質光電変換素子との光電流アクションスペクトルの測定結果を示す。図31および以下の図32〜図34においては、上記の非接液全固体型タンパク質光電変換素子を「固体系」、液系タンパク質光電変換素子を「液系」と略記する。
液系タンパク質光電変換素子は次のようにして作製した。まず、ガラス基板上に形成されたITO膜の表面の所定部位をテープまたは樹脂でマスクする。次に、マスクされていない部分のITO膜を12M HCl(50℃)を用いて90秒ウエットエッチングすることにより除去する。次に、このガラス基板を水で洗浄した後、マスクを除去し、さらに空気流中で乾燥させる。次に、このガラス基板に対して1%Alconox(登録商標)水溶液中で30分の超音波処理を行い、引き続いてイソプロパノール中で15分の超音波処理を行い、さらに水中で15分の超音波処理を2回行う。次に、このガラス基板を0.01M NaOH中に3分間浸漬した後、空気または窒素流で乾燥させる。この後、このガラス基板に対して約60℃で15分紫外線(UV)−オゾン表面処理を行う。以上のようにしてITO電極を形成した。このITO電極は作用極となる。次に、第1の方法では、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをTris−HCl緩衝液(pH8.0)に溶解したタンパク質溶液(50μM)により上述のようにして形成されたITO電極をリンスする。次に、こうしてタンパク質溶液によりリンスしたITO電極を4℃で一晩保持した後、水でリンスし、空気または窒素流で乾燥させる。第2の方法では、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをTris−HCl緩衝液(pH8.0)に溶解したタンパク質溶液(50μM)により上述のようにして形成されたITO電極をリンスする。あるいは、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解したタンパク質溶液(5μM)により上述のようにして形成されたITO電極をリンスする。次に、こうしてタンパク質溶液によりリンスしたITO電極を真空中で乾燥させる。この後、このITO電極を水でリンスし、空気または窒素流で乾燥させる。以上のようにしてITO電極上にタンパク質が固定化されたタンパク質固定化電極が形成される。次に、このタンパク質固定化電極のタンパク質側を対向電極として別途作製した清浄なITO電極と所定の距離離して対向させ、これらのタンパク質固定化電極およびITO電極の外周部を樹脂により封止する。対向電極としてのITO電極には、これらのタンパク質固定化電極およびITO電極の間の空間と連通するピンホールを空気の出入り口として形成しておく。次に、こうしてタンパク質固定化電極およびITO電極の外周部を樹脂により封止したものを容器中に入れられた電解質溶液中に浸漬する。電解質溶液としては、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中に0.25mMのフェロシアン化カリウムを溶解したものを用いた。次に、この容器を真空中に保持し、タンパク質固定化電極およびITO電極の間の空間中の空気を上記のピンホールから外部に排出する。次に、この容器を大気圧に戻し、タンパク質固定化電極およびITO電極の間の空間に電解質溶液を満たす。この後、上記のピンホールを樹脂で封止する。以上により、液系タンパク質光電変換素子が作製される。
図32は、図31に示す非接液全固体型タンパク質光電変換素子および液系タンパク質光電変換素子のスペクトルを波長420nm付近にあるピークの光電流密度が1となるように規格化したものである。図31に示すように、両スペクトルは、光電流密度に差はあるものの、波長423nm付近のソーレー(Soret)帯および波長550nm、583nm付近のQ帯のピーク波長が同一であることから、いずれも亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcに由来する光電流が得られていることが分かる。亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcからなる固体タンパク質層43を用いた非接液全固体型タンパク質光電変換素子においてこのように亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcに由来する光電流が得られることは、本発明者らにより初めて見出されたことであり、従来の常識を覆す驚くべき結果である。
【0071】
図33は、上記の非接液全固体型タンパク質光電変換素子と、液系タンパク質光電変換素子とについての光劣化曲線(光の照射時間に対する光電流密度の減少を示す曲線)の測定結果を示す。測定は、波長405.5nmのレーザ光を0.2mW/mm2 の強度でこれらの非接液全固体型タンパク質光電変換素子および液系タンパク質光電変換素子に照射しながら光電流密度を測定することにより行った。レーザ光の照射強度を0.2mW/mm2 と高くしたのは、光劣化速度を速くし、試験時間を短縮するためである。図34は図33に示す非接液全固体型タンパク質光電変換素子および液系タンパク質光電変換素子の光劣化曲線を照射時間が0のときの光電流密度が1となるように規格化したものである。
【0072】
図34に示す光劣化曲線を下記の関数でフィッティングした。
f(x)=a×exp(b×x)+c×exp(d×x)
この関数f(x)の係数a、b、c、dは下記の通りである。各係数の後の括弧内の数値は95%信頼区間を示す。
【0073】
液系タンパク質光電変換素子
a=5.204×10-9(5.029×10-9,5.378×10-9
b=−0.00412(−0.00441,−0.003831)
c=1.799×10-10 (2.062×10-11 ,3.392×10-10
d=−0.0004618(−0.0008978,−2.58×10-5
【0074】
非接液全固体型タンパク質光電変換素子
a=5.067×10-11 (4.883×10-11 ,5.251×10-11
b=−0.0009805(−0.001036,−0.0009249)
c=4.785×10-11 (4.58×10-11 ,4.99×10-11
d=−0.0001298(−0.0001374,−0.0001222)
【0075】
ここで、これらの非接液全固体型タンパク質光電変換素子および液系タンパク質光電変換素子の寿命tを
t=[a/(a+c)](−1/b)+[c/(a+c)](−1/d)
と定義する。この定義によると、液系タンパク質光電変換素子の寿命は306秒であるのに対し、非接液全固体型タンパク質光電変換素子の寿命は4266秒である。従って、非接液全固体型タンパク質光電変換素子の寿命は液系タンパク質光電変換素子の寿命の少なくとも14倍以上長いことが分かる。
【0076】
なお、図33に示す液系タンパク質光電変換素子の光劣化曲線には鋸歯状の波形が見られるが、これは電解質溶液中に発生する酸素を除去するために測定を中断しなければならなかったためであり、酸素を除去する操作後に光電流は少し上昇する。
【0077】
次に、非接液全固体型タンパク質光電変換素子および液系タンパク質光電変換素子の周波数応答を測定した結果について説明する。
図35は液系タンパク質光電変換素子の周波数応答の測定結果、図36は非接液全固体型タンパク質光電変換素子の周波数応答の測定結果を示す。図35および図36より、液系タンパク質光電変換素子の3dB帯域幅(光電流値が最大光電流値の50%となる周波数)は30Hzより低いのに対し、非接液全固体型タンパク質光電変換素子の3dB帯域幅は400Hz以上であった。このことから、非接液全固体型タンパク質光電変換素子の応答速度は液系タンパク質光電変換素子の応答速度の少なくとも13倍以上も速いことが分かる。
図38は、固体タンパク質層43を構成するタンパク質43aとしてスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた非接液全固体型タンパク質光電変換素子と、スズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた液系タンパク質光電変換素子とについて光劣化曲線を測定し、これらの光劣化曲線を照射時間が0のときの光電流密度が1となるように規格化したものである。この液系タンパク質光電変換素子の作製方法は、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの代わりにスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いることを除いて、上記と同様である。非接液全固体型タンパク質光電変換素子としては、スズ置換ウシ心筋シトクロムcの単分子膜を有するものとスズ置換ウシ心筋シトクロムcの多分子膜を有するものとを作製した。測定は、波長405.5nmのレーザ光を0.2mW/mm2 の強度でこれらの非接液全固体型タンパク質光電変換素子および液系タンパク質光電変換素子に照射しながら光電流密度を測定することにより行った。レーザ光の照射強度を0.2mW/mm2 と高くしたのは、光劣化速度を速くし、試験時間を短縮するためである。
図38に示す光劣化曲線を下記の関数でフィッティングした。
f(x)=a×exp(b×x)+c×exp(d×x)
この関数f(x)の係数a、b、c、dは下記の通りである。
液系タンパク質光電変換素子
a=1.72×10-8
b=−0.00462
c=3.51×10-9
d=−0.000668
非接液全固体型タンパク質光電変換素子(単分子膜)
a=0.4515
b=−0.002599
c=0.3444
d=−0.0001963
非接液全固体型タンパク質光電変換素子(多分子膜)
a=0.5992
b=−0.002991
c=0.2371
d=−0.0001513
ここで、これらの非接液全固体型タンパク質光電変換素子および液系タンパク質光電変換素子の光劣化の平均時定数は次の通りである。
液系タンパク質光電変換素子 :2.54×102
非接液全固体型タンパク質光電変換素子(単分子膜):2.71×103
非接液全固体型タンパク質光電変換素子(多分子膜):2.73×103
上述と同様に、これらの非接液全固体型タンパク質光電変換素子および液系タンパク質光電変換素子の寿命tを
t=[a/(a+c)](−1/b)+[c/(a+c)](−1/d)
と定義する。この定義によると、液系タンパク質光電変換素子の寿命は434秒であるのに対し、非接液全固体型タンパク質光電変換素子(単分子膜)の寿命は2423秒、非接液全固体型タンパク質光電変換素子(多分子膜)の寿命は2113秒である。従って、非接液全固体型タンパク質光電変換素子の寿命は液系タンパク質光電変換素子の寿命の少なくとも約5倍以上長いことが分かる。
【0078】
この第3の実施の形態による非接液全固体型タンパク質光電変換素子によれば、次のような種々の利点を得ることができる。すなわち、この非接液全固体型タンパク質光電変換素子は、素子の内部に水が存在せず、しかも水に接触させないでも動作が可能であるため、従来の半導体を用いた光電変換素子に代わる光電変換素子として電子機器に搭載することが可能となる。また、この非接液全固体型タンパク質光電変換素子は、内部に水が存在しないため、水の存在に起因するタンパク質の熱変性、ラジカルダメージ、腐敗などを防止することができ、安定性が高く、耐久性が優れている。また、この非接液全固体型タンパク質光電変換素子は、素子の内外に水が存在しないため、感電のおそれがなく、強度の確保も容易である。
【0079】
また、この非接液全固体型タンパク質光電変換素子においては、固体タンパク質層43は電極41、42に対し、リンカー分子などを介することなく直接固定化されていることにより、リンカー分子などを介して固定化される場合に比べて大きな光電流を得ることができる。さらに、固体タンパク質層43が電極41、42に対して直接固定化されていることに加えて、固体タンパク質層43は極薄く形成することができるので、電極41と電極22との間の距離を極めて短くすることができる。このため、この非接液全固体型タンパク質光電変換素子は薄型に構成することができ、しかも電極41、42を透明化することにより、この非接液全固体型タンパク質光電変換素子を多層積層して使用することができる。さらに、この非接液全固体型タンパク質光電変換素子においては、固体タンパク質層43を構成するタンパク質43aのサイズは2nm程度と極めて小さいので、例えば固体タンパク質層43のどの位置に光が入射したかを極めて精密に検出することが可能である。このため、高精細の光センサーあるいは撮像素子を実現することができる。
【0080】
さらに、タンパク質43aの光導電効果は「一光子−多電子発生」によるものと推測される。ところが、液系タンパク質光電変換素子においては、電極間に存在する溶液の抵抗(溶液抵抗)が高いため、この「一光子−多電子発生」が妨げられていたと考えられる。これに対し、この非接液全固体型タンパク質光電変換素子では、この溶液抵抗が存在しないため、この「一光子−多電子発生」が可能となり、光電変換効率の大幅な向上を図ることができ、より大きな光電流を得ることができる。
【0081】
この非接液全固体型タンパク質光電変換素子は、光スイッチ素子、光センサー、撮像素子などを実現することができる。上述のようにこの非接液全固体型タンパク質光電変換素子は周波数応答が速いため、高速スイッチングが可能な光スイッチ素子、高速応答の光センサー、高速で動く物体の撮像が可能な撮像素子などを実現することができる。そして、この非接液全固体型タンパク質光電変換素子を光スイッチ素子、光センサー、撮像素子などに用いることにより優れた電子機器を実現することができる。
【0082】
〈4.第4の実施の形態〉
[金属置換シトクロムc]
この第4の実施の形態においては、ウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズおよび亜鉛以外の金属に置換した金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcについて説明する。
これらの金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcに用いられる金属の例を表4に示す。この金属を中心金属として含むポルフィリンは蛍光を発することが知られている(非特許文献5)。表4において、各元素記号の下に記載されている数値は金属オクタエチルポルフィリンで測定したりん光寿命を示す。
【0083】
【表4】

【0084】
表4よりスズ(Sn)のりん光寿命は30msであるが、りん光寿命がこれと同等またはこれより短い金属は、光照射によりタンパク質やポルフィリンにダメージを与えないと考えられる。表4よりこれらの金属は、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、ニオブ(Nb)、バリウム(Ba)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、トリウム(Th)、鉛(Pb)などである。
【0085】
そこで、ウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄をこれらの金属に置換する。この置換には第1の実施の形態で述べたものと同様の方法を用いることができる。
こうして得られる金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcは光照射に対して、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcと同等に安定であり、光分解がほとんど起こらない。
【0086】
ここで、金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcに必要とされる蛍光励起寿命の範囲について説明する。
亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの分子内ホールトランスファー速度(非特許文献4)は次の通りである。分子軌道(MO)の番号として非特許文献4に準じた分子軌道番号を用いると、MO3272−MO3271間の遷移では1.5×1011-1、MO3268−MO3270間の遷移では2.0×1010-1である。そこで、分子内ホールトランスファー速度の下限を後者の2.0×1010-1とする。
【0087】
スズ置換ウマ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命(非特許文献3)は8.0×10-10 sである。亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命は3.2×10-10 sである。
スズ置換ウマ心筋シトクロムcの電子励起1回の間の分子内ホールトランスファー回数は、MO3272−MO3271間の遷移では(1.5×1011-1)×(8.0×10-10 s)=120回、MO3268−MO3270間の遷移では(2.0×1010-1)×(8.0×10-10 s)=16回である。そこで、電子励起1回の間の分子内ホールトランスファー回数の下限を後者の16回とする。
この場合、ホールトランスファーを最低一回起こすのに必要な蛍光励起寿命は8.0×10-10 s/16=5.0×10-11 sである。
【0088】
以上より、光照射により、タンパク質部あるいはポルフィリンにダメージを与えず、かつホールトランスファーが起こるために必要な金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命(τ)の範囲は5.0×10-11 s(最低一回ホールトランスファーを起こすのに必要な蛍光励起寿命)<τ≦8.0×10-10 s(スズ置換ウマ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命)である。
この第4の実施の形態による金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcによれば、第1の実施の形態によるスズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcと同様な利点を得ることができる。
【0089】
〈5.第5の実施の形態〉
[タンパク質光電変換素子]
この第5の実施の形態においては、第2の実施の形態におけるタンパク質22として、第4の実施の形態による金属置換ウマ心筋シトクロムcまたは金属置換ウシ心筋シトクロムcを用いる。その他のことは第2の実施の形態と同様である。
この第5の実施の形態によれば、第2の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0090】
以上、この発明の実施の形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施の形態において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0091】
11…ガラス基板、12…ITO電極、13…照射領域、21…電極、22…タンパク質、23…対極、24…容器、25…電解質溶液、26…バイアス電源、27…参照電極、29…固体電解質、30…封止壁、41、42…電極、43…固体タンパク質層、43a…タンパク質、51…ガラス基板、52…ITO電極、53…タンパク質液滴、54、55…電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換したスズ置換シトクロムc、または、哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質を有するタンパク質光電変換素子。
【請求項2】
上記哺乳類由来のシトクロムcがウマ心筋シトクロムcである請求項1記載のタンパク質光電変換素子。
【請求項3】
上記哺乳類由来のシトクロムcがウシ心筋シトクロムcである請求項1記載のタンパク質光電変換素子。
【請求項4】
哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換したスズ置換シトクロムc。
【請求項5】
上記哺乳類由来のシトクロムcがウマ心筋シトクロムcである請求項4記載のスズ置換シトクロムc。
【請求項6】
上記哺乳類由来のシトクロムcがウシ心筋シトクロムcである請求項4記載のスズ置換シトクロムc。
【請求項7】
哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄を亜鉛およびスズ以外の金属に置換し、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sである金属置換シトクロムc、または、哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、亜鉛およびスズ以外の金属を含み、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sであるタンパク質を有するタンパク質光電変換素子。
【請求項8】
上記哺乳類由来のシトクロムcがウマ心筋シトクロムcである請求項7記載のタンパク質光電変換素子。
【請求項9】
上記哺乳類由来のシトクロムcがウシ心筋シトクロムcである請求項7記載のタンパク質光電変換素子。
【請求項10】
上記亜鉛およびスズ以外の金属がベリリウム、ストロンチウム、ニオブ、バリウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、カドミウム、アンチモン、トリウムまたは鉛である請求項7記載のタンパク質光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【公開番号】特開2011−49435(P2011−49435A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197975(P2009−197975)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】