タービン系熱交換器の補修方法
【課題】従来に比べて効率的に短時間で減肉部の補修を行うことができ、補修コスト及び定検工期の削減を図ることのできるタービン系熱交換器の補修方法を提供する。
【解決手段】高圧タービンからの排気中の湿分を除去したのち低圧タービンに送るための湿分分離器、復水あるいは給水をタービンからの抽気蒸気で加熱し蒸気発生器に送るための給水加熱器、タービンからの排気蒸気を凝縮し、凝縮した水を復水としてタービンサイクルに戻すための復水器、のうちのいずれかのタービン系熱交換器の炭素鋼製構成部材に発生した水蒸気流による減肉部を補修するタービン系熱交換器の補修方法であって、前記減肉部に対して、耐食性合金の溶射皮膜を形成することによって補修する。
【解決手段】高圧タービンからの排気中の湿分を除去したのち低圧タービンに送るための湿分分離器、復水あるいは給水をタービンからの抽気蒸気で加熱し蒸気発生器に送るための給水加熱器、タービンからの排気蒸気を凝縮し、凝縮した水を復水としてタービンサイクルに戻すための復水器、のうちのいずれかのタービン系熱交換器の炭素鋼製構成部材に発生した水蒸気流による減肉部を補修するタービン系熱交換器の補修方法であって、前記減肉部に対して、耐食性合金の溶射皮膜を形成することによって補修する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、原子力発電プラント等に配置される湿分分離器、復水器、給水加熱器等のタービン系熱交換器の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に原子力発電プラントは、蒸気発生器、高圧タービン、湿分分離器、低圧タービン、復水器、給水ポンプ、給水加熱器を順次経て、再び蒸気発生器へ戻る循環サイクルで構成されており、蒸気発生器で発生した蒸気によって高圧タービンおよび低圧タービンを駆動して発電機を作動させ、発電を行うようになっている。沸騰水型原子力発電プラント(BWR)においては、循環水を原子炉で沸騰させており、原子炉が蒸気発生器を兼ねている。
【0003】
湿分分離は、高圧タービンからの排気中の湿分を除去し、低圧タービンに送るための設備である。改良型BWRプラント(ABWR)では、タービン効率向上のため高圧タービンからの排気中の湿分を除去し、さらに加熱して、過熱状態としたのち低圧タービンに送るための湿分分離加熱器が設置されている。給水加熱器は、復水あるいは給水をタービンからの抽気蒸気で加熱し、タービン熱効率の向上を図るための設備である。復水器は、タービンからの排気蒸気を凝縮し、凝縮した水を復水としてタービンサイクルに戻すための設備である。
【0004】
現在、原子力向け湿分分離器、給水加熱器、復水器からなるタービン系熱交換器の構造部材および系統配管の大部分には、炭素鋼が用いられている。しかし、炭素鋼を用いたタービン系熱交換器では、高温高速水蒸気流による減肉が発生する。このため、定検時に減肉部のステンレス鋼肉盛溶接を行って補修しているが、ステンレス鋼肉盛溶接は施工時間がかかるため、補修コストや定検工期の増大が問題となっている。具体的には、ステンレス鋼肉盛溶接をφ1.0mmのフィラーワイヤで送り速度200mm/minで実施した場合、肉盛溶接速度は0.16cm3/minであり小さい。
【0005】
なお、炭素鋼部材の流動性腐食を低減する方法として、白金族金属の皮膜を形成し、流水中の水素量を制御する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法は、流動腐食の促進される150ppb以下の低酸素濃度の流水に暴露される炭素鋼部品の流動性腐食を低減する方法であって、湿分分離加熱器や給水加熱器が暴露される高温高速水蒸気流による減肉を防止する効果があるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2766435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように従来は、タービン系熱交換器の減肉部の補修に時間がかかり、補修コスト及び定検工期が増大するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記従来の事情に対処してなされたもので、従来に比べて効率的に短時間で減肉部の補修を行うことができ、補修コスト及び定検工期の削減を図ることのできるタービン系熱交換器の補修方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、高圧タービンからの排気中の湿分を除去したのち低圧タービンに送るための湿分分離器、復水あるいは給水をタービンからの抽気蒸気で加熱し蒸気発生器に送るための給水加熱器、タービンからの排気蒸気を凝縮し、凝縮した水を復水としてタービンサイクルに戻すための復水器、のうちのいずれかのタービン系熱交換器の炭素鋼製構成部材に発生した水蒸気流による減肉部を補修するタービン系熱交換器の補修方法であって、前記減肉部に対して、耐食性合金の溶射皮膜を形成することによって補修することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】湿分分離器の構成を示す模式図。
【図2】図1の湿分分離器のA−A断面図。
【図3】本発明の一実施形態に係る湿分分離器の補修方法を説明するための図。
【図4】給水加熱器の構成を示す模式図。
【図5】図4の給水加熱器のB−B断面図。
【図6】本発明の一実施形態に係る給水加熱器の補修方法を説明するための図。
【図7】復水器の構成を示す模式図。
【図8】図7の復水器のC−C断面図。
【図9】本発明の一実施形態に係る復水器の補修方法を説明するための図。
【図10】本発明の一実施形態に係る補修方法を説明するための流れ図。
【図11】他の実施形態に係る補修方法を説明するための流れ図。
【図12】溶射装置及びコールドスプレー装置の構成を示す模式図。
【図13】付着効率とコーティング速度との関係を示すグラフ。
【図14】耐エロージョン特性を評価した試験結果を示すグラフ。
【図15】減肉特性を評価した試験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係るタービン系熱交換器の補修方法を、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、湿分分離器100の構成を模式的に示した図であり、図2、3は、図1のA−A断面構成を示す縦断面図である。BWRプラントでは、湿分分離器100は、高さ約6m、長さ約15mの大きさであり、1プラントに2基程度設置されている。
【0013】
これらの図に示すように、湿分分離器100は、円筒形の容器状に形成された炭素鋼製の湿分分離器本体胴1を具備している。この湿分分離器本体胴1の下部には、長手方向に沿って複数箇所(本実施形態では2箇所)に蒸気入口2が設けられ、湿分分離器本体胴1の上部には、長手方向に沿って複数箇所(本実施形態では3箇所)に蒸気出口3が設けられている。また、湿分分離器本体胴1の略中央の下部には、ドレンタンク4が設けられている。
【0014】
図2に示すように、湿分分離器本体胴1の内部には、蒸気入口2の両側に位置するように、2つの湿分分離エレメント5が設けられており、これらの湿分分離エレメント5の間に、蒸気入口2から流れ込んだ蒸気を、湿分分離エレメント5側に向けてガイドするための蒸気方向分配用多孔板6が設けられている。
【0015】
上記構成の湿分分離器100では、図中矢印で示すように、高圧タービンから排気された蒸気が、2ヶ所の蒸気入口2から湿分分離器本体胴1内に流れ込み、蒸気方向分配用多孔板6を介して湿分分離エレメント5を通り、ここで蒸気の湿分を除去された後、3ヶ所の蒸気出口3から外部へ導出される。除去された湿分は、ドレンタンク4に流れ込む。
【0016】
一方、湿分分離エレメント5により左右に分岐した蒸気が、湿分分離器本体胴1および蒸気出口3周辺に衝突し、高温高速水蒸気流による減肉が発生し、減肉部7が形成される。
【0017】
このため定検時等に、減肉部7の補修を行う。本実施形態では、蒸気出口3から減肉部7にアクセスし、機械加工および表面処理(場合によっては炭素鋼肉盛溶接後に機械加工および表面処理)を行った後、図3に示すように、蒸気出口3からコーティングトーチ8を湿分分離器本体胴1内に入れ、減肉部7に対して、耐食性合金の溶射皮膜を形成して補修する。このような補修は、湿分分離器本体胴1以外の部分、例えば、湿分分離器100を構成する炭素鋼製配管や炭素鋼製補強材等の減肉部に対しても同様にして適用することができる。
【0018】
上記の炭素鋼としては、例えばSGV480等が用いられている。また、耐食性合金の溶射皮膜を形成するための耐食性合金としては、例えばオーステナイト系ステンレス鋼、Cr−Ni鋼、ニッケル基合金等を用いることができる。また、オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS316、SUS304L、SUS316L等を用いることができる。
【0019】
次に、図4、5、6を参照して、給水加熱器の構造と減肉部の補修方法について説明する。BWRプラントにおける給水加熱器は、高さ約3m、長さ約13mの大きさであり、1プラントに4基程度設置されている。
【0020】
図4は、給水加熱器200の構成を模式的に示した図であり、図5、6は、図4のB−B断面構成を示す縦断面図である。これらの図に示すように、給水加熱器200は、円筒形の容器状に形成された炭素鋼製の給水加熱器本体胴10を具備している。この給水加熱器本体胴10の長手方向の一方の端部には、復水あるいは給水を取り入れるための給水入口11と、給水を導出するための給水出口12が設けられている。また、給水加熱器本体胴10の上部には、タービンからの抽気蒸気を取り入れるための抽気蒸気入口13が設けられ、給水加熱器本体胴10の下部側面には、ドレン水を排出するためのドレン水出口14が設けられている。
【0021】
また、図5に示すように、給水加熱器本体胴10の内部には、伝熱管15が配設されており、この伝熱管15は、図4に示した給水入口11と、給水出口12に接続されている。また、伝熱管15と抽気蒸気入口13との間には、仕切り板16が配設されている。
【0022】
上記構成の給水加熱器200では、給水入口11から伝熱管15内に給水が供給され、この給水は、伝熱管15内を通って給水出口12から外部に導出される。また、給水加熱器本体胴10内には、抽気蒸気入口13から、タービンからの抽気蒸気が導入され、この抽気蒸気は伝熱管15内を通る給水を加熱した後、凝縮してドレン水としてドレン水出口14から導出されるようになっている。
【0023】
図5に矢印で示すように、抽気蒸気入口13から給水加熱器本体胴10内に入った加熱用蒸気は、仕切り板16で流れの方向を変え、伝熱管15の外面を通って伝熱管15内部の給水を加熱し、ドレン水出口14へ流れていく。このとき伝熱管15への蒸気の直撃を避けるために設けられた仕切り板16により、高温高速流の蒸気が給水加熱器本体胴10内面に強く衝突する。このため、タービンからの抽気蒸気入口13周辺では、高温高速水蒸気流による減肉が発生し、減肉部17が形成される。
【0024】
このため定検時等に、減肉部17の補修を行う。本実施形態では、抽気蒸気入口13から減肉部17にアクセスし、機械加工および表面処理(場合によっては炭素鋼肉盛溶接後に機械加工および表面処理)を行った後、図6に示すように、抽気蒸気入口13からコーティングトーチ8を給水加熱器本体胴10内に入れ、減肉部17に対して、耐食性合金の溶射皮膜を形成して補修する。このような補修は、給水加熱器本体胴10以外の部分、例えば、給水加熱器200を構成する炭素鋼製配管や炭素鋼製補強材等の減肉部に対しても同様にして適用することができる。
【0025】
次に、図7、8、9を参照して、復水器の構造と減肉部の補修方法について説明する。BWRプラントにおける復水器は、高さは約25m、長さ約23mの大きさであり、1プラントに4基程度設置されている。
【0026】
図7は、復水器300の構成を模式的に示した図であり、図8、9は、図7のC−C断面構成を示す縦断面図である。これらの図に示すように、復水器300は、矩形の容器状に形成された下部本体胴20aと、この下部本体胴20aの上部に設けられた上部本体胴20bを具備している。図7に示すように、下部本体胴20aの両側端部には、水室21が配設されている。また、上部本体胴20bの上部には、蒸気入口22が配設されており、下部本体胴20aの下部には、復水出口23が配設されている。
【0027】
下部本体胴20aの内部には、冷却管束24が設けられており、冷却管束24の下部には、ホットウェル25が設けられている。また、上部本体胴20bには、上部本体胴トラス26が配設されており、下部本体胴20aの冷却管束24より下側部分には、下部本体補強管27が配設されている。さらに、冷却管束24の部分には、そらせ板28が配設されており、上部本体胴20bにはマンホール29が配設されている。
【0028】
上記構成の復水器300では、図8中に矢印で示すように、タービンから出る排気蒸気が、蒸気入口22から上部本体胴20bを経て下部本体胴20a内に流入し、内部に冷却水が流されている冷却管束24の管束中央に向かって流れ、冷却管束24と熱交換し、凝縮して復水となる。凝縮した復水は、そらせ板28を経て下方へ流れ、廻り込んだ蒸気と接触しホットウェル25に落下する。ホットウェル25に落下した復水は、復水出口23から給水加熱器へ送られ再び加熱されボイラに供給される。
【0029】
上部本体トラス26及び下部本体補強管27等の炭素鋼製補強部材は、タービンからの排気蒸気が接触衝突するため高温高速水蒸気流による減肉が発生し、減肉部30が形成される。このため定検時等に、減肉部30の補修を行う必要が生じる。本実施形態では、定検時にマンホール29から減肉部30にアクセスし、機械加工および表面処理(場合によっては炭素鋼肉盛溶接)を行った後、図9に示すように、例えばマンホール29からコーティングトーチ8を上部本体胴20b内に入れ減肉部30に対して、耐食性合金の溶射皮膜を形成して補修する。
【0030】
上記の減肉部30に対する補修は、上部本体トラス26および下部本体補強管27以外の下部本体胴20a及び上部本体胴20b内にある炭素鋼配管や補強材等の減肉部への適用も可能である。なお、上記補修方法は、BWRプラントのタービン系熱交換器の補修に限らず、火力プラントのタービン系熱交換器(給水加熱器、復水器等)の補修にも適用可能である。
【0031】
次に、図10を参照して実施形態に係る減肉部の補修方法について具体的に説明する。図10(a)に示すように、基材40には、その一部が高温高速水蒸気流によって減肉した減肉部41が発生している。このような場合、まず、図10(b)に示すように、グラインダー加工等の機械加工により、減肉部40を加工し、トレンチ形状のトレンチ部42を形成する。
【0032】
次に、図10(c)に示すように、トレンチ部42の開口端部を面取り加工して面取り部43を形成するとともに、トレンチ部41の内部をブラスト処理等により粗して粗面化する。この後、図10(d)に示すように、トレンチ部42内及びその周辺部に耐食性合金の溶射皮膜44を形成して補修する。
【0033】
このように、トレンチ部42の開口端部を面取り加工して面取り部43を形成することで耐食性合金の溶射皮膜44の密着強度を高めるとともに端部での欠陥発生を抑制することができる。また、耐食性合金の溶射皮膜44を形成する部分の表面を粗くすることで、耐食性合金の溶射皮膜44の密着強度を向上させることが可能となる。
【0034】
次に、図11を参照して、他の実施形態に係る減肉部の補修方法について具体的に説明する。この実施形態では、図11(a)に示すように、炭素鋼製の基材50に、その一部が高温高速水蒸気流によって減肉した減肉部51が発生しており、基材50が減肉により構造健全性を維持するための十分な肉厚を下回った場合の補修を行う際の手順について説明する。
【0035】
この場合まず、図11(b)に示すように、減肉部51に対して炭素鋼肉盛溶接により肉盛部52を形成する。次に、図11(c)に示すように、グラインダー加工等の機械加工により肉盛部52を平坦に加工し、この後、ブラスト処理により表面を粗し、祖面化する。
【0036】
次に、図11(d)に示すように、肉盛部52及びその周辺部に耐食性合金の溶射皮膜53を形成して補修する。
【0037】
上記の耐食性合金の溶射皮膜は、例えば、超高速フレーム溶射、或いは、コールドスプレー等によって形成することができる。超高速フレーム溶射は、半溶融の粒子を超音速のガスジェットで吹き付けて製膜する方法であり、形成された皮膜は高い密着性、高い粒子間結合力、低気孔率、高硬度を有する。コールドスプレーは固体の微粉末を高速で吹き付けて粉末の塑性変形を利用して製膜する方法であり、酸化が少ない緻密な皮膜の形成が可能であり表面応力が圧縮となる。
【0038】
図12に溶射装置、コールドスプレー装置の模式図と補修方法について示す。溶射装置、コールドスプレー装置の基本的な構成はコーティングトーチ8、粉末供給装置61、ガス加熱装置62、制御装置63、ガス供給装置64、電源65である。コーティングトーチ8から供給する粉末72の中には、基材70に付着せず未溶着となるものが発生する。このため、基材70に耐食性合金の溶射皮膜71を形成する際は、未溶着の粉末72が周囲に飛散しないように、シート等の養生材73による周囲の養生が必要であり、作業終了後に未溶着の粉末72を回収する必要がある。なお、図12においてTは、耐食性合金の溶射皮膜71の膜厚を示している。
【0039】
図13は、縦軸をコーティング速度、横軸を付着効率として、超高速フレーム溶射及びコールドスプレーのコーティング速度と、ステンレス鋼肉盛溶接の肉盛速度を試算した結果を示すものである。ステンレス鋼肉盛溶接の肉盛速度は、ワイヤー径をφ1.0mm、送り速度を200mm/minとすると、
(0.5×0.5×π)×200×10−3=0.16cm3/min
である。
【0040】
超高速フレーム溶射の粉末供給速度を70g/minとすると、粉末が2%以上付着すれば、超高速フレーム溶射のコーティング速度は、肉盛溶接に比べて大きくなる。また、コールドスプレーの粉末供給速度を20g/minとすると、粉末が12%以上付着すれば、コールドスプレーのコーティング速度は、肉盛溶接に比べて大きくなる。一般的に超高速フレーム溶射、コールドスプレーともに付着効率は、少なくとも20%以上である。したがって、超高速フレーム溶射及びコールドスプレーのコーティング速度は、肉盛溶接に比べて大きい。したがって、本実施形態によれば、従来に比べて効率的に短時間で減肉部の補修を行うことができ、補修コスト及び定検工期の削減を図ることができる。
【0041】
図14は、縦軸は耐エロージョン性とし、各種材料の耐エロージョン特性を評価した試験結果を示すものである。なお、図14では、オーステナイト系ステンレス鋼を基準(基準値1)としてある。図14に示されるように、オーステナイト系ステンレス鋼と比較し、Cr−Ni鋼およびNi基合金は優れた耐エロージョン性を有していた。
【0042】
図15は、各種材料を高温高速水蒸気流に暴露して減肉特性を評価した試験結果を示すものであり、縦軸は高温高速水蒸気流による減肉速度を、炭素鋼SB450を1として規格化した値である。具体的な試験条件は次のとおりである。
蒸気温度:160℃
蒸気流速:50〜60m/sec
蒸気湿り度:10〜20%
試験時間:20日間
試験材料:炭素鋼SB450、クロムモリブデン鋼SCMV3、ステンレス鋼SUS304
【0043】
高温高速水蒸気流による減肉速度を材質間で比較すると、炭素鋼SB450が最も大きく、クロムモリブデン鋼SCMV3、ステンレス鋼SUS304の順に小さくなり、炭素鋼SB450の高温高速水蒸気流による減肉速度は0.083mm/年、SCMV3は0.047mm/年、SUS304は0.0012mm/年であった。実際の機器の蒸気流速は約30m/secであり、より流速が大きい実験条件の高温高速水蒸気流速度から、想定運転時間60年における減肉量を算出すると、SUS304は0.0012mm/年×60年=0.072mmである。したがって、ステンレス鋼SUS304を用い、想定運転時間60年の場合、耐食性合金の溶射皮膜の厚さ(T)は、0.072mm以上とすることが好ましい。一般的には、ステンレス鋼SUS304を用いた場合、
厚さ(T)≧0.0012mm/年×想定運転時間(年)
とすることが好ましい。
【0044】
また、さらに余裕を持たせるためには、上記のように算出された値に安全率を乗じた耐食性合金の溶射皮膜の厚さ(T)とすることが好ましく、例えば想定運転時間60年の場合、上記した0.072mmに安全率2を乗じ、0.01mmの位を切り上げると、0.2mmとなる。
【0045】
一方、耐食性合金の溶射皮膜の厚さ(T)を必要以上に厚くすると、溶射に必要な施工時間が過大になり、また、必要とされる材料の量も多くなるため、補修コストの増加を招く。このため、耐食性合金の溶射皮膜8の厚さ(T)の上限は、1mm以下程度とすることが好ましい。
【0046】
上記のSUS304のみでなく、他のオーステナイト系ステンレス鋼、例えば、SUS316、SUS304L、SUS316L等を用いても、高温高速水蒸気流による減肉部の補修を行うことができる。また、図15に示されるように、Cr−Ni鋼、Ni基合金はオーステナイト系ステンレス鋼より優れた耐エロージョン性を有していることから、Cr−Ni鋼、Ni基合金を用いて高温高速水蒸気流による減肉部の補修を行った場合、耐食性合金の溶射皮膜の厚さは、上記したSUS304の場合と同様な厚さとすれば十分である。なお、溶射方法として超高速フレーム溶射法及びコールドスプレー法の他、高速フレーム溶射法、プラズマ溶射法、アーク溶射法を用いてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1……気水分器本体胴、2……蒸気入口、3……蒸気出口、5……湿分分離エレメント、6……蒸気方向分配用多孔板、7……減肉部、8……コーティングトーチ、100……気水分器。
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、原子力発電プラント等に配置される湿分分離器、復水器、給水加熱器等のタービン系熱交換器の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に原子力発電プラントは、蒸気発生器、高圧タービン、湿分分離器、低圧タービン、復水器、給水ポンプ、給水加熱器を順次経て、再び蒸気発生器へ戻る循環サイクルで構成されており、蒸気発生器で発生した蒸気によって高圧タービンおよび低圧タービンを駆動して発電機を作動させ、発電を行うようになっている。沸騰水型原子力発電プラント(BWR)においては、循環水を原子炉で沸騰させており、原子炉が蒸気発生器を兼ねている。
【0003】
湿分分離は、高圧タービンからの排気中の湿分を除去し、低圧タービンに送るための設備である。改良型BWRプラント(ABWR)では、タービン効率向上のため高圧タービンからの排気中の湿分を除去し、さらに加熱して、過熱状態としたのち低圧タービンに送るための湿分分離加熱器が設置されている。給水加熱器は、復水あるいは給水をタービンからの抽気蒸気で加熱し、タービン熱効率の向上を図るための設備である。復水器は、タービンからの排気蒸気を凝縮し、凝縮した水を復水としてタービンサイクルに戻すための設備である。
【0004】
現在、原子力向け湿分分離器、給水加熱器、復水器からなるタービン系熱交換器の構造部材および系統配管の大部分には、炭素鋼が用いられている。しかし、炭素鋼を用いたタービン系熱交換器では、高温高速水蒸気流による減肉が発生する。このため、定検時に減肉部のステンレス鋼肉盛溶接を行って補修しているが、ステンレス鋼肉盛溶接は施工時間がかかるため、補修コストや定検工期の増大が問題となっている。具体的には、ステンレス鋼肉盛溶接をφ1.0mmのフィラーワイヤで送り速度200mm/minで実施した場合、肉盛溶接速度は0.16cm3/minであり小さい。
【0005】
なお、炭素鋼部材の流動性腐食を低減する方法として、白金族金属の皮膜を形成し、流水中の水素量を制御する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法は、流動腐食の促進される150ppb以下の低酸素濃度の流水に暴露される炭素鋼部品の流動性腐食を低減する方法であって、湿分分離加熱器や給水加熱器が暴露される高温高速水蒸気流による減肉を防止する効果があるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2766435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように従来は、タービン系熱交換器の減肉部の補修に時間がかかり、補修コスト及び定検工期が増大するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記従来の事情に対処してなされたもので、従来に比べて効率的に短時間で減肉部の補修を行うことができ、補修コスト及び定検工期の削減を図ることのできるタービン系熱交換器の補修方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、高圧タービンからの排気中の湿分を除去したのち低圧タービンに送るための湿分分離器、復水あるいは給水をタービンからの抽気蒸気で加熱し蒸気発生器に送るための給水加熱器、タービンからの排気蒸気を凝縮し、凝縮した水を復水としてタービンサイクルに戻すための復水器、のうちのいずれかのタービン系熱交換器の炭素鋼製構成部材に発生した水蒸気流による減肉部を補修するタービン系熱交換器の補修方法であって、前記減肉部に対して、耐食性合金の溶射皮膜を形成することによって補修することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】湿分分離器の構成を示す模式図。
【図2】図1の湿分分離器のA−A断面図。
【図3】本発明の一実施形態に係る湿分分離器の補修方法を説明するための図。
【図4】給水加熱器の構成を示す模式図。
【図5】図4の給水加熱器のB−B断面図。
【図6】本発明の一実施形態に係る給水加熱器の補修方法を説明するための図。
【図7】復水器の構成を示す模式図。
【図8】図7の復水器のC−C断面図。
【図9】本発明の一実施形態に係る復水器の補修方法を説明するための図。
【図10】本発明の一実施形態に係る補修方法を説明するための流れ図。
【図11】他の実施形態に係る補修方法を説明するための流れ図。
【図12】溶射装置及びコールドスプレー装置の構成を示す模式図。
【図13】付着効率とコーティング速度との関係を示すグラフ。
【図14】耐エロージョン特性を評価した試験結果を示すグラフ。
【図15】減肉特性を評価した試験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係るタービン系熱交換器の補修方法を、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、湿分分離器100の構成を模式的に示した図であり、図2、3は、図1のA−A断面構成を示す縦断面図である。BWRプラントでは、湿分分離器100は、高さ約6m、長さ約15mの大きさであり、1プラントに2基程度設置されている。
【0013】
これらの図に示すように、湿分分離器100は、円筒形の容器状に形成された炭素鋼製の湿分分離器本体胴1を具備している。この湿分分離器本体胴1の下部には、長手方向に沿って複数箇所(本実施形態では2箇所)に蒸気入口2が設けられ、湿分分離器本体胴1の上部には、長手方向に沿って複数箇所(本実施形態では3箇所)に蒸気出口3が設けられている。また、湿分分離器本体胴1の略中央の下部には、ドレンタンク4が設けられている。
【0014】
図2に示すように、湿分分離器本体胴1の内部には、蒸気入口2の両側に位置するように、2つの湿分分離エレメント5が設けられており、これらの湿分分離エレメント5の間に、蒸気入口2から流れ込んだ蒸気を、湿分分離エレメント5側に向けてガイドするための蒸気方向分配用多孔板6が設けられている。
【0015】
上記構成の湿分分離器100では、図中矢印で示すように、高圧タービンから排気された蒸気が、2ヶ所の蒸気入口2から湿分分離器本体胴1内に流れ込み、蒸気方向分配用多孔板6を介して湿分分離エレメント5を通り、ここで蒸気の湿分を除去された後、3ヶ所の蒸気出口3から外部へ導出される。除去された湿分は、ドレンタンク4に流れ込む。
【0016】
一方、湿分分離エレメント5により左右に分岐した蒸気が、湿分分離器本体胴1および蒸気出口3周辺に衝突し、高温高速水蒸気流による減肉が発生し、減肉部7が形成される。
【0017】
このため定検時等に、減肉部7の補修を行う。本実施形態では、蒸気出口3から減肉部7にアクセスし、機械加工および表面処理(場合によっては炭素鋼肉盛溶接後に機械加工および表面処理)を行った後、図3に示すように、蒸気出口3からコーティングトーチ8を湿分分離器本体胴1内に入れ、減肉部7に対して、耐食性合金の溶射皮膜を形成して補修する。このような補修は、湿分分離器本体胴1以外の部分、例えば、湿分分離器100を構成する炭素鋼製配管や炭素鋼製補強材等の減肉部に対しても同様にして適用することができる。
【0018】
上記の炭素鋼としては、例えばSGV480等が用いられている。また、耐食性合金の溶射皮膜を形成するための耐食性合金としては、例えばオーステナイト系ステンレス鋼、Cr−Ni鋼、ニッケル基合金等を用いることができる。また、オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS316、SUS304L、SUS316L等を用いることができる。
【0019】
次に、図4、5、6を参照して、給水加熱器の構造と減肉部の補修方法について説明する。BWRプラントにおける給水加熱器は、高さ約3m、長さ約13mの大きさであり、1プラントに4基程度設置されている。
【0020】
図4は、給水加熱器200の構成を模式的に示した図であり、図5、6は、図4のB−B断面構成を示す縦断面図である。これらの図に示すように、給水加熱器200は、円筒形の容器状に形成された炭素鋼製の給水加熱器本体胴10を具備している。この給水加熱器本体胴10の長手方向の一方の端部には、復水あるいは給水を取り入れるための給水入口11と、給水を導出するための給水出口12が設けられている。また、給水加熱器本体胴10の上部には、タービンからの抽気蒸気を取り入れるための抽気蒸気入口13が設けられ、給水加熱器本体胴10の下部側面には、ドレン水を排出するためのドレン水出口14が設けられている。
【0021】
また、図5に示すように、給水加熱器本体胴10の内部には、伝熱管15が配設されており、この伝熱管15は、図4に示した給水入口11と、給水出口12に接続されている。また、伝熱管15と抽気蒸気入口13との間には、仕切り板16が配設されている。
【0022】
上記構成の給水加熱器200では、給水入口11から伝熱管15内に給水が供給され、この給水は、伝熱管15内を通って給水出口12から外部に導出される。また、給水加熱器本体胴10内には、抽気蒸気入口13から、タービンからの抽気蒸気が導入され、この抽気蒸気は伝熱管15内を通る給水を加熱した後、凝縮してドレン水としてドレン水出口14から導出されるようになっている。
【0023】
図5に矢印で示すように、抽気蒸気入口13から給水加熱器本体胴10内に入った加熱用蒸気は、仕切り板16で流れの方向を変え、伝熱管15の外面を通って伝熱管15内部の給水を加熱し、ドレン水出口14へ流れていく。このとき伝熱管15への蒸気の直撃を避けるために設けられた仕切り板16により、高温高速流の蒸気が給水加熱器本体胴10内面に強く衝突する。このため、タービンからの抽気蒸気入口13周辺では、高温高速水蒸気流による減肉が発生し、減肉部17が形成される。
【0024】
このため定検時等に、減肉部17の補修を行う。本実施形態では、抽気蒸気入口13から減肉部17にアクセスし、機械加工および表面処理(場合によっては炭素鋼肉盛溶接後に機械加工および表面処理)を行った後、図6に示すように、抽気蒸気入口13からコーティングトーチ8を給水加熱器本体胴10内に入れ、減肉部17に対して、耐食性合金の溶射皮膜を形成して補修する。このような補修は、給水加熱器本体胴10以外の部分、例えば、給水加熱器200を構成する炭素鋼製配管や炭素鋼製補強材等の減肉部に対しても同様にして適用することができる。
【0025】
次に、図7、8、9を参照して、復水器の構造と減肉部の補修方法について説明する。BWRプラントにおける復水器は、高さは約25m、長さ約23mの大きさであり、1プラントに4基程度設置されている。
【0026】
図7は、復水器300の構成を模式的に示した図であり、図8、9は、図7のC−C断面構成を示す縦断面図である。これらの図に示すように、復水器300は、矩形の容器状に形成された下部本体胴20aと、この下部本体胴20aの上部に設けられた上部本体胴20bを具備している。図7に示すように、下部本体胴20aの両側端部には、水室21が配設されている。また、上部本体胴20bの上部には、蒸気入口22が配設されており、下部本体胴20aの下部には、復水出口23が配設されている。
【0027】
下部本体胴20aの内部には、冷却管束24が設けられており、冷却管束24の下部には、ホットウェル25が設けられている。また、上部本体胴20bには、上部本体胴トラス26が配設されており、下部本体胴20aの冷却管束24より下側部分には、下部本体補強管27が配設されている。さらに、冷却管束24の部分には、そらせ板28が配設されており、上部本体胴20bにはマンホール29が配設されている。
【0028】
上記構成の復水器300では、図8中に矢印で示すように、タービンから出る排気蒸気が、蒸気入口22から上部本体胴20bを経て下部本体胴20a内に流入し、内部に冷却水が流されている冷却管束24の管束中央に向かって流れ、冷却管束24と熱交換し、凝縮して復水となる。凝縮した復水は、そらせ板28を経て下方へ流れ、廻り込んだ蒸気と接触しホットウェル25に落下する。ホットウェル25に落下した復水は、復水出口23から給水加熱器へ送られ再び加熱されボイラに供給される。
【0029】
上部本体トラス26及び下部本体補強管27等の炭素鋼製補強部材は、タービンからの排気蒸気が接触衝突するため高温高速水蒸気流による減肉が発生し、減肉部30が形成される。このため定検時等に、減肉部30の補修を行う必要が生じる。本実施形態では、定検時にマンホール29から減肉部30にアクセスし、機械加工および表面処理(場合によっては炭素鋼肉盛溶接)を行った後、図9に示すように、例えばマンホール29からコーティングトーチ8を上部本体胴20b内に入れ減肉部30に対して、耐食性合金の溶射皮膜を形成して補修する。
【0030】
上記の減肉部30に対する補修は、上部本体トラス26および下部本体補強管27以外の下部本体胴20a及び上部本体胴20b内にある炭素鋼配管や補強材等の減肉部への適用も可能である。なお、上記補修方法は、BWRプラントのタービン系熱交換器の補修に限らず、火力プラントのタービン系熱交換器(給水加熱器、復水器等)の補修にも適用可能である。
【0031】
次に、図10を参照して実施形態に係る減肉部の補修方法について具体的に説明する。図10(a)に示すように、基材40には、その一部が高温高速水蒸気流によって減肉した減肉部41が発生している。このような場合、まず、図10(b)に示すように、グラインダー加工等の機械加工により、減肉部40を加工し、トレンチ形状のトレンチ部42を形成する。
【0032】
次に、図10(c)に示すように、トレンチ部42の開口端部を面取り加工して面取り部43を形成するとともに、トレンチ部41の内部をブラスト処理等により粗して粗面化する。この後、図10(d)に示すように、トレンチ部42内及びその周辺部に耐食性合金の溶射皮膜44を形成して補修する。
【0033】
このように、トレンチ部42の開口端部を面取り加工して面取り部43を形成することで耐食性合金の溶射皮膜44の密着強度を高めるとともに端部での欠陥発生を抑制することができる。また、耐食性合金の溶射皮膜44を形成する部分の表面を粗くすることで、耐食性合金の溶射皮膜44の密着強度を向上させることが可能となる。
【0034】
次に、図11を参照して、他の実施形態に係る減肉部の補修方法について具体的に説明する。この実施形態では、図11(a)に示すように、炭素鋼製の基材50に、その一部が高温高速水蒸気流によって減肉した減肉部51が発生しており、基材50が減肉により構造健全性を維持するための十分な肉厚を下回った場合の補修を行う際の手順について説明する。
【0035】
この場合まず、図11(b)に示すように、減肉部51に対して炭素鋼肉盛溶接により肉盛部52を形成する。次に、図11(c)に示すように、グラインダー加工等の機械加工により肉盛部52を平坦に加工し、この後、ブラスト処理により表面を粗し、祖面化する。
【0036】
次に、図11(d)に示すように、肉盛部52及びその周辺部に耐食性合金の溶射皮膜53を形成して補修する。
【0037】
上記の耐食性合金の溶射皮膜は、例えば、超高速フレーム溶射、或いは、コールドスプレー等によって形成することができる。超高速フレーム溶射は、半溶融の粒子を超音速のガスジェットで吹き付けて製膜する方法であり、形成された皮膜は高い密着性、高い粒子間結合力、低気孔率、高硬度を有する。コールドスプレーは固体の微粉末を高速で吹き付けて粉末の塑性変形を利用して製膜する方法であり、酸化が少ない緻密な皮膜の形成が可能であり表面応力が圧縮となる。
【0038】
図12に溶射装置、コールドスプレー装置の模式図と補修方法について示す。溶射装置、コールドスプレー装置の基本的な構成はコーティングトーチ8、粉末供給装置61、ガス加熱装置62、制御装置63、ガス供給装置64、電源65である。コーティングトーチ8から供給する粉末72の中には、基材70に付着せず未溶着となるものが発生する。このため、基材70に耐食性合金の溶射皮膜71を形成する際は、未溶着の粉末72が周囲に飛散しないように、シート等の養生材73による周囲の養生が必要であり、作業終了後に未溶着の粉末72を回収する必要がある。なお、図12においてTは、耐食性合金の溶射皮膜71の膜厚を示している。
【0039】
図13は、縦軸をコーティング速度、横軸を付着効率として、超高速フレーム溶射及びコールドスプレーのコーティング速度と、ステンレス鋼肉盛溶接の肉盛速度を試算した結果を示すものである。ステンレス鋼肉盛溶接の肉盛速度は、ワイヤー径をφ1.0mm、送り速度を200mm/minとすると、
(0.5×0.5×π)×200×10−3=0.16cm3/min
である。
【0040】
超高速フレーム溶射の粉末供給速度を70g/minとすると、粉末が2%以上付着すれば、超高速フレーム溶射のコーティング速度は、肉盛溶接に比べて大きくなる。また、コールドスプレーの粉末供給速度を20g/minとすると、粉末が12%以上付着すれば、コールドスプレーのコーティング速度は、肉盛溶接に比べて大きくなる。一般的に超高速フレーム溶射、コールドスプレーともに付着効率は、少なくとも20%以上である。したがって、超高速フレーム溶射及びコールドスプレーのコーティング速度は、肉盛溶接に比べて大きい。したがって、本実施形態によれば、従来に比べて効率的に短時間で減肉部の補修を行うことができ、補修コスト及び定検工期の削減を図ることができる。
【0041】
図14は、縦軸は耐エロージョン性とし、各種材料の耐エロージョン特性を評価した試験結果を示すものである。なお、図14では、オーステナイト系ステンレス鋼を基準(基準値1)としてある。図14に示されるように、オーステナイト系ステンレス鋼と比較し、Cr−Ni鋼およびNi基合金は優れた耐エロージョン性を有していた。
【0042】
図15は、各種材料を高温高速水蒸気流に暴露して減肉特性を評価した試験結果を示すものであり、縦軸は高温高速水蒸気流による減肉速度を、炭素鋼SB450を1として規格化した値である。具体的な試験条件は次のとおりである。
蒸気温度:160℃
蒸気流速:50〜60m/sec
蒸気湿り度:10〜20%
試験時間:20日間
試験材料:炭素鋼SB450、クロムモリブデン鋼SCMV3、ステンレス鋼SUS304
【0043】
高温高速水蒸気流による減肉速度を材質間で比較すると、炭素鋼SB450が最も大きく、クロムモリブデン鋼SCMV3、ステンレス鋼SUS304の順に小さくなり、炭素鋼SB450の高温高速水蒸気流による減肉速度は0.083mm/年、SCMV3は0.047mm/年、SUS304は0.0012mm/年であった。実際の機器の蒸気流速は約30m/secであり、より流速が大きい実験条件の高温高速水蒸気流速度から、想定運転時間60年における減肉量を算出すると、SUS304は0.0012mm/年×60年=0.072mmである。したがって、ステンレス鋼SUS304を用い、想定運転時間60年の場合、耐食性合金の溶射皮膜の厚さ(T)は、0.072mm以上とすることが好ましい。一般的には、ステンレス鋼SUS304を用いた場合、
厚さ(T)≧0.0012mm/年×想定運転時間(年)
とすることが好ましい。
【0044】
また、さらに余裕を持たせるためには、上記のように算出された値に安全率を乗じた耐食性合金の溶射皮膜の厚さ(T)とすることが好ましく、例えば想定運転時間60年の場合、上記した0.072mmに安全率2を乗じ、0.01mmの位を切り上げると、0.2mmとなる。
【0045】
一方、耐食性合金の溶射皮膜の厚さ(T)を必要以上に厚くすると、溶射に必要な施工時間が過大になり、また、必要とされる材料の量も多くなるため、補修コストの増加を招く。このため、耐食性合金の溶射皮膜8の厚さ(T)の上限は、1mm以下程度とすることが好ましい。
【0046】
上記のSUS304のみでなく、他のオーステナイト系ステンレス鋼、例えば、SUS316、SUS304L、SUS316L等を用いても、高温高速水蒸気流による減肉部の補修を行うことができる。また、図15に示されるように、Cr−Ni鋼、Ni基合金はオーステナイト系ステンレス鋼より優れた耐エロージョン性を有していることから、Cr−Ni鋼、Ni基合金を用いて高温高速水蒸気流による減肉部の補修を行った場合、耐食性合金の溶射皮膜の厚さは、上記したSUS304の場合と同様な厚さとすれば十分である。なお、溶射方法として超高速フレーム溶射法及びコールドスプレー法の他、高速フレーム溶射法、プラズマ溶射法、アーク溶射法を用いてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1……気水分器本体胴、2……蒸気入口、3……蒸気出口、5……湿分分離エレメント、6……蒸気方向分配用多孔板、7……減肉部、8……コーティングトーチ、100……気水分器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧タービンからの排気中の湿分を除去したのち低圧タービンに送るための湿分分離器、復水あるいは給水をタービンからの抽気蒸気で加熱し蒸気発生器に送るための給水加熱器、タービンからの排気蒸気を凝縮し、凝縮した水を復水としてタービンサイクルに戻すための復水器、のうちのいずれかのタービン系熱交換器の炭素鋼製構成部材に発生した水蒸気流による減肉部を補修するタービン系熱交換器の補修方法であって、
前記減肉部に対して、耐食性合金の溶射皮膜を形成することによって補修することを特徴とするタービン系熱交換器の補修方法。
【請求項2】
請求項1記載のタービン系熱交換器の補修方法であって、
前記耐食性合金の溶射皮膜を、
フレーム溶射又はコールドスプレーのいずれかで形成することを特徴とするタービン系熱交換器の補修方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のタービン系熱交換器の補修方法であって、
前記耐食性合金は、Cr−Ni鋼、ニッケル基合金、オーステナイト系ステンレス鋼のいずれかであることを特徴とするタービン系熱交換器の補修方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載のタービン系熱交換器の補修方法であって、
前記減肉部に機械加工を施してトレンチ形状のトレンチ部を形成する工程と、
前記トレンチ部の端部を面取り加工する面取り工程と、
前記トレンチ部の表面を粗面化する粗面化工程と、
を行った後、前記耐食性合金の溶射皮膜を形成することを特徴とするタービン系熱交換器の補修方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載のタービン系熱交換器の補修方法であって、
前記減肉部に対して、炭素鋼を溶接した後、前記耐食性合金の溶射皮膜を形成することを特徴とするタービン系熱交換器の補修方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載のタービン系熱交換器の補修方法であって、
前記耐食性合金は、SUS304、SUS316、SUS304L、SUS316Lのいずれかのオーステナイト系ステンレス鋼であることを特徴とするタービン系熱交換器の補修方法。
【請求項7】
請求項6記載のタービン系熱交換器の補修方法であって、
オーステナイト系ステンレス鋼からなる前記耐食性合金の溶射皮膜の厚さT(mm)が、
T(mm)≧0.0012mm/年×想定運転時間(年)
とされていることを特徴とするタービン系熱交換器の補修方法。
【請求項1】
高圧タービンからの排気中の湿分を除去したのち低圧タービンに送るための湿分分離器、復水あるいは給水をタービンからの抽気蒸気で加熱し蒸気発生器に送るための給水加熱器、タービンからの排気蒸気を凝縮し、凝縮した水を復水としてタービンサイクルに戻すための復水器、のうちのいずれかのタービン系熱交換器の炭素鋼製構成部材に発生した水蒸気流による減肉部を補修するタービン系熱交換器の補修方法であって、
前記減肉部に対して、耐食性合金の溶射皮膜を形成することによって補修することを特徴とするタービン系熱交換器の補修方法。
【請求項2】
請求項1記載のタービン系熱交換器の補修方法であって、
前記耐食性合金の溶射皮膜を、
フレーム溶射又はコールドスプレーのいずれかで形成することを特徴とするタービン系熱交換器の補修方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のタービン系熱交換器の補修方法であって、
前記耐食性合金は、Cr−Ni鋼、ニッケル基合金、オーステナイト系ステンレス鋼のいずれかであることを特徴とするタービン系熱交換器の補修方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載のタービン系熱交換器の補修方法であって、
前記減肉部に機械加工を施してトレンチ形状のトレンチ部を形成する工程と、
前記トレンチ部の端部を面取り加工する面取り工程と、
前記トレンチ部の表面を粗面化する粗面化工程と、
を行った後、前記耐食性合金の溶射皮膜を形成することを特徴とするタービン系熱交換器の補修方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載のタービン系熱交換器の補修方法であって、
前記減肉部に対して、炭素鋼を溶接した後、前記耐食性合金の溶射皮膜を形成することを特徴とするタービン系熱交換器の補修方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載のタービン系熱交換器の補修方法であって、
前記耐食性合金は、SUS304、SUS316、SUS304L、SUS316Lのいずれかのオーステナイト系ステンレス鋼であることを特徴とするタービン系熱交換器の補修方法。
【請求項7】
請求項6記載のタービン系熱交換器の補修方法であって、
オーステナイト系ステンレス鋼からなる前記耐食性合金の溶射皮膜の厚さT(mm)が、
T(mm)≧0.0012mm/年×想定運転時間(年)
とされていることを特徴とするタービン系熱交換器の補修方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−219850(P2011−219850A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93451(P2010−93451)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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