説明

ターボチャージャ

【課題】タービンハウジング出口における排気ガスの乱れを減少させることによって、タービン効率を向上させることができるターボチャージャを提供する。
【解決手段】本発明のターボチャージャ1は、タービンインペラ23を回転自在に支持する軸受けハウジング2と、タービンインペラ23に排気ガスを供給するタービンスクロール流路31が形成されたタービンハウジング3と、タービンスクロール流路31からタービンインペラ23に供給される排気ガスの流量を可変とする排気ノズル5とを備え、排気ノズル5は、タービンハウジング3側に設けられる第1排気導入壁51と第1排気導入壁51に対向して設けられる第2排気導入壁52との間に各々回転自在に設けられる複数のノズルベーン53を有する可変容量型のターボチャージャ1において、各ノズルベーン53を第1排気導入壁51に向けて付勢する付勢部7を有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから排出される排気ガスのエネルギーを利用してエンジンに供給される空気を過給するターボチャージャに関わり、特に可変容量型のターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、低回転域から高回転域までの広い範囲に亘りエンジンの性能向上を図ることができる可変容量型のターボチャージャが知られている。
ここで、特許文献1には、可変容量型のターボチャージャが開示されている。
【0003】
上記ターボチャージャは、タービンハウジングとコンプレッサハウジングとが軸受けハウジングを介して一体的に連結された構成となっており、タービンハウジング内に設けられたタービンインペラとコンプレッサハウジング内に設けられたコンプレッサインペラとが軸受けハウジング内に回転自在に設けられた回転軸により連結されている。
タービンハウジングには排気ガスの流入口が設けられ、上記流入口から流入した排気ガスはタービンハウジング内のタービンスクロール流路に導入される。軸受けハウジングのタービンハウジング側には、上記タービンスクロール流路に導入される排気ガスをタービンインペラに導くとともに、その流量を可変とする可変ノズルユニット(排気ノズル)が設けられている。
【0004】
可変ノズルユニットは、タービンハウジング側の排気導入壁であるシュラウドリング(第1排気導入壁)と軸受けハウジング側の排気導入壁であるノズルリング(第2排気導入壁)とを備えており、ノズルリングとシュラウドリングとは例えば周方向における3箇所に設けられた連結ピンを挟持することで所定の間隔を有する状態で連結されている。
ノズルリングとシュラウドリングとの間には、排気ガスの流量を調節するための複数のノズルベーンが環状に配置されている。ノズルベーンの両側面から突出するベーン軸(第1及び第2支持軸)がノズルリング及びシュラウドリングに形成された孔部にそれぞれ貫入しており、ノズルベーンはベーン軸を中心として回転自在に支持されている。
【0005】
可変ノズルユニットのシュラウドリングとタービンハウジングとの間には所定の隙間が設けられている。この隙間は本来不要であるが、タービンハウジングが冷間時と熱間時との間で熱変形を起こし、シュラウドリングとの相対的な位置関係が変わってしまうために設けられている。
上記隙間があると、タービンスクロール流路内の排気ガスが隙間を通ってタービンハウジングの出口側に漏出してしまうことから、この隙間を塞ぐためにシュラウドリングの内周縁部からタービンハウジング側に延設された略円筒状を呈する延設部の外周面と、この延設部の外周面に対向するタービンハウジングの内周面との間にシール用Cリングが配置されている。上記Cリングは弾性体で形成されており、その弾性力によりタービンハウジングの熱変形に追従することができる。
【特許文献1】特開2006−125588号公報(第14頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に示すシール用Cリング等を用いてシュラウドリングとタービンハウジングとの間の隙間からの排気ガスの漏出を防止しても、ターボチャージャのタービン効率を大幅に向上させることは困難であった。
そのため、本発明者らは、上記漏出の問題以外でタービン効率に影響を及ぼす要因について種々検討し試験を実施した。
【0007】
そして、特許文献1に示すシール用Cリングはシュラウドリングの延設部における外周面とタービンハウジングの内周面との間に設置されており、上記隙間とタービンスクロール流路とは互いに連通しているため、可変ノズルユニット内の圧力に比べ上記隙間内の圧力が大きくなり、上記隙間内の排気ガスがシュラウドリングに形成された孔部を通って可変ノズルユニット側に流入していることが判明した。
【0008】
さらに、ノズルベーンとノズルリング及びシュラウドリングとの間には、ノズルベーンを滑らかに回転させるためのクリアランスが予め設けられている。そのため、上記孔部を通る排気ガスの流れによりノズルベーンのベーン軸はノズルリング側に押され、ノズルベーンとシュラウドリングとの間に大きなクリアランスが生じていた。
【0009】
結果として、本発明者らは、上記孔部を通る排気ガスの流れが発生することやノズルベーンとシュラウドリングとの間に大きなクリアランスが生じることにより、排気ガスの排出口であるタービンハウジング出口における排気ガスの乱れが大きくなり、これによってタービン効率が低下するという知見を得た。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、タービンハウジング出口における排気ガスの乱れを減少させることによって、タービン効率を向上させることができるターボチャージャを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明のターボチャージャは、タービンインペラを回転自在に支持する軸受けハウジングと、タービンインペラに排気ガスを供給するタービンスクロール流路が形成されたタービンハウジングと、タービンスクロール流路からタービンインペラに供給される排気ガスの流量を可変とする排気ノズルとを備え、排気ノズルは、タービンハウジング側に設けられる第1排気導入壁と第1排気導入壁に対向して設けられる第2排気導入壁との間に各々回転自在に設けられる複数のノズルベーンを有する可変容量型のターボチャージャにおいて、各ノズルベーンを第1排気導入壁に向けて付勢する付勢部を有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、各ノズルベーンは付勢部により第1排気導入壁に向けて付勢されるため、各ノズルベーンは第1排気導入壁側に移動し、各ノズルベーンと第1排気導入壁との間のクリアランスを減少させることができる。
【0012】
また、本発明のターボチャージャは、付勢部が、長尺の板バネが所定の軸回りに縮径しつつ螺旋状に巻回された形状を呈するバネ部材を有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、バネ部材は螺旋の軸方向で弾性力を生じ、この弾性力を用いて各ノズルベーンを第1排気導入壁に向けて付勢することができる。また、本発明では、排気ガスの熱によりタービンハウジング、第1排気導入壁及び第2排気導入壁が熱変形したとしても、付勢部におけるバネ部材が伸縮することにより上記熱変形を吸収することができる。
【0013】
また、本発明のターボチャージャは、各ノズルベーンが、第1排気導入壁に形成された厚さ方向で貫通する孔部に貫入して軸支される第1支持軸と、第1支持軸の第2排気導入壁側に孔部より大径の第1鍔部とを有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、各ノズルベーンが第1排気導入壁側に移動することで、第1鍔部が第1排気導入壁に形成された孔部を覆い閉鎖することができる。
【0014】
また、本発明のターボチャージャは、各ノズルベーンが、第2排気導入壁に貫通して軸支される第2支持軸を有し、バネ部材は、略円筒状のリング部材を介して第2支持軸の軸受けハウジング側に設けられるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、バネ部材の弾性力をリング部材を介して第2支持軸に伝えるために、複数の各ノズルベーンを均一に付勢することができる。
【0015】
また、本発明のターボチャージャは、バネ部材における板バネの幅方向の長さが、リング部材における円筒部の軸方向の長さよりも短いという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、バネ部材が振動等によって一時的にリング部材から離間する側へ移動したとしても、バネ部材がリング部材から脱落することを防ぐことができる。
【0016】
また、本発明のターボチャージャは、リング部材が、バネ部材の軸方向と直交する第2鍔部を備え、バネ部材のタービンハウジング側の端部が第2鍔部に当接しているという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明のターボチャージャでは、バネ部材が振動等によって一時的にリング部材の径方向外側へ移動したとしても、バネ部材がリング部材から脱落することを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明によれば、ノズルベーンを第1排気導入壁側に変位させることができることから、タービンハウジング出口における排気ガスの乱れを減少させタービン効率を向上させることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係るターボチャージャを、図面を参照して説明する。
図1は、第1の実施形態に係るターボチャージャ1の全体構成を示す概略図、図2は、図1における可変ノズルユニット5周辺の拡大図、図3は、第1の実施形態における可変ノズルユニット5の構成要素であるノズルベーン53の斜視図、図4は、第1の実施形態における同期機構6の背面図、図5は、第1の実施形態におけるバネ部材71の概略図であり、(a)はバネ部材71の平面図、(b)は側面図である。なお、上記図面中の矢印Fは前方向を示す。
【0019】
まず、本実施形態におけるターボチャージャ1の全体構成を、図1を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態におけるターボチャージャ1は、不図示のエンジンから導かれる排気ガスのエネルギーを利用してエンジンに供給される空気を過給する可変容量型のターボチャージャである。
ターボチャージャ1は、軸受けハウジング2と、軸受けハウジング2の前側周縁部に締結ボルト2aにより接続されるタービンハウジング3と、軸受けハウジング2の後側周縁部に締結ボルト2bにより接続されるコンプレッサハウジング4とを備えている。
【0020】
軸受けハウジング2内には、前後方向で延びるタービン軸21がベアリング22を介して回転自在に支持されている。タービン軸21の前端部にはタービンインペラ23が一体的に連結され、後端部にはコンプレッサインペラ24が一体的に連結されている。なお、タービンインペラ23はタービンハウジング3内に設置され、コンプレッサインペラ24はコンプレッサハウジング4内に設置されている。
【0021】
タービンハウジング3内かつタービンインペラ23の径方向外側には、略環状を呈する可変ノズルユニット(排気ノズル)5が設置されている。
【0022】
タービンハウジング3は、タービンインペラ23の径方向外側に設けられるタービンスクロール流路31と、排気ガスの排気口であるタービンハウジング出口32とを有している。
タービンスクロール流路31は、タービンインペラ23を囲んで略環状に形成され、排気ガスを導入するための不図示のガス流入口と連通している。また、タービンスクロール流路31は、可変ノズルユニット5内のノズル流路5Aと連通している。なお、上記ガス流入口は不図示のエンジンにおける排気口に接続されている。
タービンハウジング出口32は、タービンハウジング3の前側に開口しており、タービンインペラ23の設置箇所を介してノズル流路5Aと連通している。また、タービンハウジング出口32は、不図示の排気ガス浄化装置に接続されている。
【0023】
コンプレッサハウジング4には、後側に開口し不図示のエアクリーナに接続される吸気口41が形成されている。また、軸受けハウジング2とコンプレッサハウジング4との間には、空気を圧縮して昇圧するディフューザ流路42がコンプレッサインペラ24の径方向外側で略環状に形成されている。また、ディフューザ流路42は、コンプレッサインペラ24の設置箇所を介して吸気口41と連通している。
さらに、コンプレッサハウジング4は、コンプレッサインペラ24の径方向外側で略環状に形成されるコンプレッサスクロール流路43を有しており、コンプレッサスクロール流路43は、ディフューザ流路42と連通している。なお、コンプレッサスクロール流路43は、不図示のエンジンにおける吸気口と連通している。
【0024】
次に、可変ノズルユニット5の構成を、図1ないし図3を参照して説明する。
図2に示すように、可変ノズルユニット5は、タービンハウジング3側に設置されるシュラウドリング(第1排気導入壁)51と、シュラウドリング51に対向して軸受けハウジング2側に設置されるノズルリング(第2排気導入壁)52と、シュラウドリング51とノズルリング52との間に保持される複数のノズルベーン53とを有している。なお、ノズル流路5Aは、シュラウドリング51とノズルリング52との間に形成されている。
【0025】
シュラウドリング51は、略リング状に形成された板状部材の内周縁部に、タービンハウジング出口32側に延出する略円筒状を呈する延設部51Eが接続された形状を呈している。また、シュラウドリング51には、上記板状部材の厚さ方向で貫通する複数の第1孔部(孔部)51aが形成されている。
【0026】
ノズルリング52は、略リング状に形成された板状部材であり、厚さ方向で貫通する複数の第2孔部52aが形成されている。
【0027】
図1に示すように、シュラウドリング51及びノズルリング52は、複数の連結ピン57を介して所定の間隔を形成するように連結されている。なお、連結ピン57は、シュラウドリング51に貫入し、ノズルリング52を貫通して後側に突出している。
ノズルリング52の後側には、取付リング58が連結ピン57を介して一体的に設けられており、取付リング58の外周縁部は、タービンハウジング3と軸受けハウジング2とにより挟持されて支持されている。すなわち、ノズルリング52は、取付リング58を介して軸受けハウジング2及びタービンハウジング3に支持されている。
【0028】
ノズルベーン53は、ノズルリング52とシュラウドリング51の間に周方向で等間隔に複数設けられており、タービンインペラ23の回転軸と平行な軸回りに各々回転自在である。
また、図3に示すように、各ノズルベーン53は、略矩形を呈する板状部材であり所定の一辺からその対辺に向かうに従って漸次厚みが減少するように形成されているノズルベーン本体54と、ノズルベーン本体54の上記一辺に直交する一側面から紙面上方に突出する第1ベーン軸(第1支持軸)55と、上記一側面に対向する側面から紙面下方に突出する第2ベーン軸(第2支持軸)56とを有している。
第1ベーン軸55は、シュラウドリング51の第1孔部51aに回転自在に貫入しており、第2ベーン軸56は、ノズルリング52の第2孔部52aに回転自在に貫通しノズルリング52の後側に突出している。
【0029】
ノズルベーン本体54と第1ベーン軸55との接続部には、ノズルリング52に対向する面を有する第1鍔部55Aが設けられ、ノズルベーン本体54と第2ベーン軸56との接続部には、シュラウドリング51に対向する面を有する第3鍔部56Aが設けられている。なお、第1鍔部55Aは、第1孔部51aのノズル流路5Aへの開口部よりも大径に形成されていることが好ましい。
【0030】
図2に示すように、タービンハウジング3とシュラウドリング51との間には、タービンハウジング3が熱変形を起こした場合にシュラウドリング51に対する相対移動を吸収するための隙間Sが形成されている。そして、隙間Sからの排気ガスの漏出を防止するために、シュラウドリング51における延設部51Eの外周面とタービンハウジング3の内周面との間には2枚のCリングからなるシール部S1が設けられている。
【0031】
次に、本実施形態における各ノズルベーン53を同期して回転させる同期機構6の構成を、図1及び図4を参照して説明する。
図1に示すように、可変ノズルユニット5の後側には、各ノズルベーン53を同期して回転させるための同期機構6が設けられている。
【0032】
同期機構6は、略リング状を呈しノズルリング52の後側に複数の連結ピン57を介して設けられるガイドリング61と、ガイドリング61の径方向外側に回転自在に設けられる可動リング62と、各ノズルベーン53を同期して回転させる複数の同期用伝達リンク63と、可動リング62を回転させる駆動用伝達リンク64と、軸受けハウジング2の前側下部でタービン軸21に平行な軸回りに回転自在に支持される駆動軸65とを備えている。
【0033】
図4に示すように、可動リング62の内周縁部には、各ノズルベーン53と対応する位置に同期用係合凹部62aが形成されている。同期用伝達リンク63の一端部は同期用係合凹部62aに係合し、他端部は各ノズルベーン53の第2ベーン軸56に一体的に連結されている。
また、可動リング62の内周縁部には、同期用係合凹部62aの他に駆動用係合凹部62bが形成されている。駆動用伝達リンク64の一端部は駆動用係合凹部62bに係合し、他端部は駆動軸65に一体的に連結している。
なお、図1に示すように、駆動軸65の駆動用伝達リンク64と接続されている側に対する他端側には駆動レバー66が一体的に連結され、駆動レバー66には不図示のシリンダ等のアクチュエータが連結されている。
【0034】
次に、本実施形態における同期機構6と軸受けハウジング2との間に設けられる付勢部7の構成を、図2及び図5を参照して説明する。
図2に示すように、同期機構6における同期用伝達リンク63にはノズルベーン53の第2ベーン軸56が貫通して一体的に接続されており、第2ベーン軸56の後側端面である軸端面56Bが軸受けハウジング2に対向している。
また、軸受けハウジング2の同期機構6に対向する面は溝部2cを有しており、溝部2cは、各々の軸端面56Bに対向する位置に形成され、タービン軸21の軸回りに環状を呈している。また、溝部2cは、前後方向と直交する垂直面を有している。
【0035】
各々の軸端面56Bと溝部2cとの間には、ノズルベーン53をシュラウドリング51に向けて付勢するための付勢部7が設けられており、付勢部7は、バネ部材71と、リング部材72とを有している。
【0036】
図5に示すように、バネ部材71は、いわゆるタケノコバネと称されるものであり、長尺の板バネがタービン軸21の軸回りに縮径しつつ螺旋状に巻回された形状を呈し、隣り合う径方向外側及び内側の板バネは互いに重なり合う部分を有している。
図2に示すように、バネ部材71は、その小径部においてリング部材72を介して第2ベーン軸56の軸端面56Bに設けられ、その大径部は溝部2cの上記垂直面に当接している。
なお、バネ部材71の前後方向での自然長(何ら負荷をかけない場合の長さ)は、軸端面56Bと溝部2cの上記垂直面との前後方向における間隔よりも長く形成され、バネ部材71は前後方向で圧縮された状態で軸端面56Bと溝部2cの上記垂直面との間に設けられている。
【0037】
リング部材72は、略円筒状を呈する円筒部72Aの前側周縁部から径方向外側に向けて第2鍔部72Bが接続された形状を呈しており、円筒部72Aがバネ部材71の小径部における径方向内側に貫入し、バネ部材71の小径側先端部が第2鍔部72Bに当接している。
【0038】
続いて、本実施形態におけるターボチャージャ1の動作を説明する。
まず、ターボチャージャ1の排気ガスのエネルギーを利用してエンジンに供給される空気を過給する動作について説明する。
【0039】
エンジンの排気口から排出された排気ガスは、タービンハウジング3のガス流入口を通ってタービンスクロール流路31へ導入される。そして、排気ガスは、タービンスクロール流路31からノズル流路5Aに導入される。
この時、エンジンの回転数、すなわち、ノズル流路5Aに導入される排気ガスの流量に応じて同期機構6及び不図示のアクチュエータの作動により各ノズルベーン53を回転させ、ノズル流路5Aの開口面積を変化させる。この開口面積の変化によりノズル流路5Aを通る排気ガスの流量は調節され、結果として低回転域から高回転域までの広い範囲に亘りエンジンの性能向上を図ることができる。
ノズル流路5Aを通った排気ガスは、タービンインペラ23の設置箇所に導入され、タービンインペラ23を回転させる。その後、排気ガスはタービンハウジング出口32より排出される。
【0040】
タービンインペラ23は、タービン軸21を介してコンプレッサインペラ24と連結されているため、タービンインペラ23が回転することでコンプレッサインペラ24が回転する。
コンプレッサインペラ24の回転により、吸気口41から導入された空気がディフューザ流路42に供給される。空気は、ディフューザ流路42を通ることで圧縮され昇圧される。昇圧された空気は、コンプレッサスクロール流路43を通ってエンジンの吸気口に供給される。結果として、エンジンに空気を過給し、エンジンの出力を向上させることができる。
以上で、ターボチャージャ1の過給動作は終了する。
【0041】
次に、バネ部材71が、ノズルベーン53をシュラウドリング51に向けて付勢する動作について説明する。
バネ部材71は前後方向で圧縮された状態で軸端面56Bと溝部2cの前後方向と直交する垂直面との間に設けられている。そのため、バネ部材71がノズルベーン53の第2ベーン軸56をシュラウドリング51に向けて付勢しており、ノズルベーン53はシュラウドリング51側に移動する。結果として、ノズルベーン本体54とシュラウドリング51との間のクリアランスを減少させることができる。
【0042】
また、排気ガスの熱によりタービンハウジング3、シュラウドリング51及びノズルリング52が熱変形したとしても、付勢部7におけるバネ部材71が伸縮することにより上記熱変形を吸収することができる。
さらに、ノズルベーン本体54と第1ベーン軸55との接続部には第1鍔部55Aが設けられており、ノズルベーン53の移動に伴い、第1鍔部55Aがシュラウドリング51に形成された孔部51aを覆い閉鎖する。結果として、隙間Sからノズル流路5Aへ孔部51aを通って排気ガスが漏出することを防止することができる。
【0043】
ところで、バネ等の弾性部材は高温下に曝されると熱劣化を起こし、自然長が短くなる等の変化を起こす場合がある。そこで、付勢するに必要なバネの自然長に熱劣化による変化分をあらかじめ加えておくことが必要となる。しかし、熱劣化による変化分を加えた場合、バネ定数が高いバネにおいては、熱劣化を生じる前はバネの弾性力が強すぎるという弊害がある。
本実施形態におけるバネ部材71は、長尺の板バネが巻回された形状を呈しているため、例えば皿状のバネ等に比べバネ定数を低くすることができる。したがって、熱劣化を生じる前においてもバネ部材71のノズルベーン53を付勢する力は大きくなりすぎることがなく、ノズルベーン53の滑らかな回転を維持することができる。
また、本実施形態におけるバネ部材71は、径方向外側と内側の板バネが互いに重なり合う形状となっていることから、バネのすくみ代を大きく取ることができる。そのため、自然長に熱劣化による変化分を加えても、バネ部材71をターボチャージャ1内の限られた空間内に設置することができる。
【0044】
なお、バネ部材71は、リング部材72を介して第2ベーン軸56の軸端面56Bに支持されており、振動等によってバネ部材71がリング部材72から前後方向で離間する側に移動した場合や、リング部材72の径方向外側へ移動した場合でも、バネ部材71がリング部材72から脱落することを防止することができる。
【0045】
最後に、本実施形態におけるターボチャージャ1及び従来型ターボチャージャのタービン効率の比較試験について、図6ないし図10を参照して説明する。
本発明者らは、本実施形態におけるターボチャージャ1及び従来型ターボチャージャについて、図6に示すようにタービンインペラ23の上流側と下流側との圧力の比が略同一となるようにした条件において、タービンハウジング出口32における径方向位置での排気ガスの速度分布を数値解析により求め、その結果を図7に示した。
【0046】
図7に示すように、本実施形態におけるターボチャージャ1では、従来のターボチャージャに比して径方向での流速分布の偏差が少なく流速分布は径方向で平坦化している。このことは、本実施形態におけるターボチャージャ1は従来のターボチャージャに比べて、タービンハウジング出口32における排気ガスの乱れが小さいことを意味している。
【0047】
さらに、本実施形態におけるターボチャージャ1及び従来のターボチャージャについて、タービン効率を数値解析して比較したところ、図8に示すように、本実施形態におけるターボチャージャ1によれば従来のターボチャージャに比べてタービン効率が約10%向上することが判明した。
【0048】
また、本発明者らは、本実施形態におけるターボチャージャ1及び従来型ターボチャージャについて、それぞれ図6のように圧力比がほぼ同一になるようにした図9の条件において、3つの異なる回転数a,b,cについて、タービンの効率を実測によって求め、その結果を図10に示した。上記実測による場合も、数値解析による場合の結果と同様に、本実施形態におけるターボチャージャ1の方が従来のターボチャージャに対してタービン効率が約10%向上する結果が得られた。
【0049】
したがって、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、ノズルベーン53をシュラウドリング51側に変位させることができることから、タービンハウジング出口32における排気ガスの乱れを減少させタービン効率を向上させることができるという効果がある。
【0050】
〔第2実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係るターボチャージャを、図面を参照して説明する。
図11は、第2の実施形態に係るターボチャージャ1Aにおける可変ノズルユニット5周辺の拡大図である。なお、この図において、図2に示す第1の実施形態の構成要素と同一の要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0051】
図11に示すように、各々の軸端面56Bと溝部2cとの間には、ノズルベーン53をシュラウドリング51に向けて付勢するための付勢部7Aが設けられており、付勢部7Aは、バネ部材71と、第2リング部材73とを有している。
【0052】
バネ部材71は、その大径部において第2リング部材73を介して第2ベーン軸56の軸端面56Bに設けられ、その小径部は溝部2cの垂直面に当接している。
【0053】
第2リング部材73は、略円筒状を呈する円筒部73Aの前側周縁部から径方向内側に向けて第4鍔部73Bが接続された形状を呈しており、バネ部材71の大径部が円筒部73Aにおける径方向内側に貫入し、バネ部材71の大径側先端部が第4鍔部73Bに当接している。
【0054】
なお、バネ部材71が、ノズルベーン53をシュラウドリング51に向けて付勢する動作は第1の実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
また、バネ部材71は、第2リング部材73を介して第2ベーン軸56の軸端面56Bに支持されており、振動等によってバネ部材71が第2リング部材73から前後方向で離間する側に移動した場合や、第2リング部材73の径方向内側へ移動した場合でも、バネ部材71が第2リング部材73から脱落することを防止することができる。
【0055】
したがって、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、ノズルベーン53をシュラウドリング51側に変位させることができることから、タービンハウジング出口32における排気ガスの乱れを減少させタービン効率を向上させることができるという効果がある。
【0056】
なお、前述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲においてプロセス条件や設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0057】
例えば、上記実施形態では、付勢部7はタケノコ状を呈するバネ部材71を有しているが、本発明はかかる構成に限定されるものではなく、例えば前後方向で伸縮する蛇腹状の略円筒状を呈する部材を有していてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、リング部材72及び第2リング部材73が用いられているが、本発明はかかる構成に限定されるものではなく、リング部材72及び第2リング部材73を用いることなくバネ部材71が直接に第2ベーン軸56の軸端面56Bをシュラウドリング51に向けて付勢する構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】第1の実施形態に係るターボチャージャ1の全体構成を示す概略図である。
【図2】図1における可変ノズルユニット5周辺の拡大図である。
【図3】第1の実施形態における可変ノズルユニット5の構成要素であるノズルベーン53の斜視図である。
【図4】第1の実施形態における同期機構6の背面図である。
【図5】第1の実施形態におけるバネ部材71の概略図である。
【図6】第1の実施形態のターボチャージャ1及び従来型ターボチャージャを数値解析により比較するためにタービンインペラの上流側と下流側との圧力比を略同一とした状態を示す概略図である
【図7】第1の実施形態のターボチャージャ1及び従来型ターボチャージャにおけるタービンハウジング出口32での径方向位置における排気ガスの速度分布の数値解析の結果を比較して示した概略図である。
【図8】第1の実施形態のターボチャージャ1及び従来型ターボチャージャにおけるタービンの効率の数値解析の結果を比較して示した概略図である。
【図9】第1の実施形態のターボチャージャ1及び従来型ターボチャージャを実測により比較するためにタービンインペラの上流側と下流側との圧力比を略同一とした状態を示す概略図である。
【図10】第1の実施形態のターボチャージャ1及び従来型ターボチャージャにおけるタービンの効率の実測の結果を比較して示した概略図である。
【図11】第2の実施形態に係るターボチャージャ1Aにおける可変ノズルユニット5周辺の拡大図である。
【符号の説明】
【0060】
1(1A)…ターボチャージャ、2…軸受けハウジング、3…タービンハウジング、5…可変ノズルユニット(排気ノズル)、23…タービンインペラ、31…タービンスクロール流路、51…シュラウドリング(第1排気導入壁)、51a…第1孔部(孔部)、52…ノズルリング(第2排気導入壁)、53…ノズルベーン、55…第1ベーン軸(第1支持軸)、55A…第1鍔部、56…第2ベーン軸(第2支持軸)、7…付勢部、71…バネ部材、72…リング部材、72B…第2鍔部、73…第2リング部材(リング部材)、73B…第4鍔部(第2鍔部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンインペラを回転自在に支持する軸受けハウジングと、前記タービンインペラに排気ガスを供給するタービンスクロール流路が形成されたタービンハウジングと、前記タービンスクロール流路から前記タービンインペラに供給される前記排気ガスの流量を可変とする排気ノズルとを備え、前記排気ノズルは、前記タービンハウジング側に設けられる第1排気導入壁と前記第1排気導入壁に対向して設けられる第2排気導入壁との間に各々回転自在に設けられる複数のノズルベーンを有する可変容量型のターボチャージャにおいて、
前記各ノズルベーンを前記第1排気導入壁に向けて付勢する付勢部を有することを特徴とするターボチャージャ。
【請求項2】
前記付勢部は、長尺の板バネが所定の軸回りに縮径しつつ螺旋状に巻回された形状を呈するバネ部材を有することを特徴とする請求項1に記載のターボチャージャ。
【請求項3】
前記各ノズルベーンは、前記第1排気導入壁に形成された厚さ方向で貫通する孔部に貫入して軸支される第1支持軸と、前記第1支持軸の前記第2排気導入壁側に前記孔部より大径の第1鍔部とを有することを特徴とする請求項1または2に記載のターボチャージャ。
【請求項4】
前記各ノズルベーンは、前記第2排気導入壁に貫通して軸支される第2支持軸を有し、
前記バネ部材は、略円筒状のリング部材を介して前記第2支持軸の前記軸受けハウジング側に設けられることを特徴とする請求項2または3に記載のターボチャージャ。
【請求項5】
前記バネ部材における前記板バネの幅方向の長さが、前記リング部材における円筒部の軸方向の長さよりも短いことを特徴とする請求項4に記載のターボチャージャ。
【請求項6】
前記リング部材は、前記バネ部材の軸方向と直交する第2鍔部を備え、前記バネ部材の前記タービンハウジング側の端部が前記第2鍔部に当接していることを特徴とする請求項5に記載のターボチャージャ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−90715(P2010−90715A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258380(P2008−258380)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】