説明

ターボチャージャ

排気マニホールド(9)から排気ガス(8)の一部を抜き出して吸気管(4)へ再循環するEGRパイプ(11)を装備し且つ排気マニホールド(9)内を各気筒(7)の排気干渉が生じないように隔壁(14)で分割したエンジン(1)に搭載するためのターボチャージャ(2)に関し、タービンスクロール(15)内を排気マニホールド(9)の出口流路と連続するように隔壁(16)で分割し、該隔壁(16)により分割された流路(A)(B)のうちの再循環用排気ガス(8)の抜き出しを行う側が、再循環用排気ガス(8)の抜き出しを行わない側よりも流路断面積が小さくなるように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ターボチャージャに関するものである。
【背景技術】
従来より、自動車のエンジン等では、排気側から排気ガスの一部を抜き出して吸気側へと戻し、その吸気側に戻された排気ガスでエンジン内での燃料の燃焼を抑制させて燃焼温度を下げることによりNOxの発生を低減するようにした、いわゆる排気ガス再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)が行われている。
一般的に、この種の排気ガス再循環を行う場合には、排気マニホールドから排気管に亘る排気通路の適宜位置と、吸気管から吸気マニホールドに亘る吸気通路の適宜位置との間をEGRパイプにより接続し、該EGRパイプを通して排気ガスを再循環するようにしている。
尚、エンジンに再循環する排気ガスをEGRパイプの途中で冷却すると、排気ガスの温度が下がり且つその容積が小さくなることにより、エンジンの出力を余り低下させずに燃焼温度を低下して効果的に窒素酸化物の発生を低減させることができる為、エンジンに排気ガスを再循環するEGRパイプの途中に水冷式のEGRクーラを装備したものもある。
第1図は前述した排気ガス再循環を行い得るようにしたエンジンの一例を示すもので、ここに図示しているエンジン1には、ターボチャージャ2が備えられており、図示しないエアクリーナから導いた吸気3を吸気管4を通し前記ターボチャージャ2のコンプレッサ2aへ送り、該コンプレッサ2aで加圧された吸気3をインタクーラ5へと送って冷却し、該インタクーラ5から更に吸気マニホールド6へと吸気3を導いてエンジン1の各気筒7(第1図では直列6気筒の場合を例示している)に分配するようにしてある。
また、このエンジン1の各気筒7から排出された排気ガス8を排気マニホールド9を介し前記ターボチャージャ2のタービン2bへ送り、該タービン2bを駆動した排気ガス8を排気管10を介し車外へ排出するようにしてある。
そして、排気マニホールド9における各気筒7の並び方向の一端部と、吸気マニホールド6に接続されている吸気管4の一端部との間がEGRパイプ11により接続されており、排気マニホールド9から排気ガス8の一部を抜き出して吸気管4に導き得るようにしてある。
ここで、前記EGRパイプ11には、該EGRパイプ11を適宜に開閉するEGRバルブ12と、再循環される排気ガス8を冷却する為のEGRクーラ13とが装備されており、該EGRクーラ13では、図示しない冷却水と排気ガス8とを熱交換させることにより排気ガス8の温度を低下し得るようになっている。
尚、図中の14は排気マニホールド9内における前側三気筒分の排気流路と後側三気筒分の排気流路とを分割する隔壁を示し、該隔壁14により排気行程の一部が重複した気筒7同士の排気干渉を抑制してタービン2bに対し排気脈動を効率良く送り込めるようにしてある。
しかしながら、前述した如きターボチャージャ2付きのエンジン1においては、吸気側が過給されている為に排気側との圧力差が少なくなってしまい、高いEGR率を実現することが難しいという問題があり、特に高負荷領域では、ターボチャージャ2による過給圧が排気圧力より高くなってしまう領域が生じるので、排気マニホールド9から吸気管4へ向けて排気ガス8を再循環することができなくなる虞れがあった。
このように過給圧が排気圧力より高くなってしまった場合の対策としては、吸気絞りを実行して過給圧を下げることが考えられるが、高負荷領域等で過度な吸気絞りを行うと、新気量が大幅に不足して気筒内の燃焼不良や燃費の悪化を招き、しかも、ターボチャージャ2によるエンジン性能の向上も損なわれてしまう結果となる。
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、ターボチャージャを備えたエンジンにおいても高いEGR率を実現し、排気ガスの再循環によるNOx低減と、過給によるエンジン性能の向上とを両立し得るようにすることを目的としている。
【発明の開示】
本発明は、排気マニホールドから排気ガスの一部を抜き出して吸気管へ再循環するEGRパイプを装備し且つ排気マニホールド内を各気筒の排気干渉が生じないように隔壁で分割したエンジンに搭載するためのターボチャージャであって、
タービンスクロール内を排気マニホールドの出口流路と連続するように隔壁で分割し、該隔壁により分割された流路のうちの再循環用排気ガスの抜き出しを行う側が、再循環用排気ガスの抜き出しを行わない側よりも流路断面積が小さくなるように形成したことを特徴とするものである。
而して、このようにすれば、ターボチャージャのタービンスクロール内における再循環用排気ガスの抜き出しを行う側の流路における背圧が、再循環用排気ガスの抜き出しを行わない側の流路の背圧より高められる結果、吸気側が過給されていても排気側との十分な圧力差が確保されることになり、従来より高いEGR率が実現されることになる。
そして、EGRがより効率的に行えるようになることに伴いチューニングの幅が広がるので、今までEGRのために絞らざるを得なかった吸気量を増やすことも可能となり、気筒内の燃焼不良や燃費の悪化が回避されると共に、ターボチャージャによるエンジン性能の向上が図られることになる。
また、本発明においては、タービンスクロールの円周方向の二箇所にタング部を夫々形成し、排気流入口に近いタング部から遠いタング部に到るまでの排気流入範囲を一方の流路のみに対応したスロート部とし、排気流入口から遠いタング部から近いタング部に戻るまでの残りの排気流入範囲を他方の流路のみに対応したスロート部として形成することが好ましい。
このようにすれば、タービンスクロールのスロート部を円周方向に区分けして、その区分けしたスロート部の夫々に対し各流路を個別に開放させるようにしているので、スロート部のような幅の狭い狭隘空間を無理に隔壁で分割しなくても済み、しかも、各流路を流れる排気ガス同士を最後まで分けた状態のままタービンホイールに導入することができて排気干渉の低減効果を高く維持することが可能となる。
尚、タービンスクロールのスロート部に角度調整可能な多数のノズルベーンを装備した構成を採用すれば、各ノズルベーンの角度調整によりターボチャージャの実質的な効率を下げて過給圧を下げる手法を適宜に併用することが可能となり、ターボチャージャを備えたエンジンに関して、より一層高いEGR率の実現を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
第1図は排気ガスを再循環するエンジンの一例を示す概略図、第2図は本発明を実施する形態の一例を示す断面図、第3図は第2図のIII−III矢視の断面図、第4図は第2図のIV−IV矢視の断面図、第5図は第2図のV−V矢視の断面図、第6図は第2図のノズルベーンの角度調整機構の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施例を図示に基づいて説明する。
第2図〜第5図は本発明の一実施例を示すもので、先に第1図で説明したエンジン1に搭載するためのターボチャージャ2に関するものである。より具体的には、排気マニホールド9から排気ガス8の一部を抜き出して吸気管4へ再循環するEGRパイプ11を装備し且つ排気マニホールド9内を各気筒7の排気干渉が生じないように隔壁16で分割したエンジン1に搭載するためのものである(エンジン1側の構造については第1図を参照)。
そして、ここに図示してあるターボチャージャ2においては、タービンスクロール15内が排気マニホールド9の出口流路と連続するように隔壁16で分割されており、第3図に示す如く、この隔壁16により分割された流路のうちの再循環用排気ガス8の抜き出しを行わない側(EGRパイプ11に連通しない側)の流路Aが従来と同様の流路断面積で形成されている一方、再循環用の排気ガス8の抜き出しを行う側(EGRパイプ11に連通する側)の流路Bが従来より流路断面積を小さく絞り込んで形成されている。
ここで、流路Bの流路断面積を従来より絞り込んで形成するに際しては、排気マニホールド9の各出口流路との無理のない連続性が図られるように、該排気マニホールド9の各出口流路側についても同様の流路断面積の差をつけておくと良い。
また、第2図及び第4図、第5図に示す通り、このターボチャージャ2では、排気流入口17に近い従来と同じ位置にタング部18が形成されているだけでなく、このタング部18と直径方向に対峙するような位置にもタング部19が形成されており、排気流入口17に近いタング部18から遠いタング部19に到るまでの排気流入範囲が、第4図に示す如き流路断面積が大きい方の流路Aのみに対応したスロート部20aとなっており、排気流入口17から遠いタング部19から近いタング部18に戻るまでの残りの排気流入範囲が、第5図に示す如き流路断面積が小さい方の流路Bのみに対応したスロート部20bとなっている。
つまり、排気ガス8の旋回方向における前半のスロート部20aでは、流路断面積が大きい方の流路Aだけが開放され、流路断面積が小さい方の流路Bは、単に並走しているだけの状態となっており、前記流路断面積が大きい方の流路Aは、排気流入口17から遠いタング部19にて収束するようになっている。
そして、排気ガス8の旋回方向における後半のスロート部20bでは、流路断面積が小さい方の流路Bが前記流路Aに替わって開放されることになり、排気流入口17に近いタング部18にて収束するようになっている。
更に、タービンスクロール15のスロート部20a,20bには、角度調整可能な多数のノズルベーン21が装備されており、第6図に角度調整機構の一例を概略的に示している通り、タービンホイール22を取り囲むように配置された各ノズルベーン21は、ノズルリングプレート23にピン24を介し傾動自在に取り付けられており、これら各ノズルベーン21の角度が前記ノズルリングプレート23に対するリンクプレート25の円周方向への相対変位により連動して変更されるようになっていて、このリンクプレート25がアクチュエータ26によるレバー27の傾動操作でリンク28を介し回動操作されるようになっている。
而して、このように構成したターボチャージャ2を第1図の如きエンジン1に採用すれば、ターボチャージャ2のタービンスクロール15内における再循環用排気ガス8の抜き出しを行う側の流路における背圧が、再循環用排気ガス8の抜き出しを行わない側の流路の背圧より高められる結果、吸気側が過給されていても排気側との十分な圧力差が確保されることになり、従来より高いEGR率が実現されることになる。
そして、EGRがより効率的に行えるようになることに伴いチューニングの幅が広がるので、今までEGRのために絞らざるを得なかった吸気量を増やすことも可能となり、気筒内の燃焼不良や燃費の悪化が回避されると共に、ターボチャージャ2によるエンジン1性能の向上が図られることになる。
また、図示例においては、タービンスクロール15のスロート部を円周方向に区分けして、その区分けしたスロート部の夫々に対し各流路を個別に開放させるようにしているので、スロート部のような幅の狭い狭隘空間を無理に隔壁16で分割しなくても済み、しかも、各流路を流れる排気ガス8同士を最後まで分けた状態のままタービンホイールに導入することができて排気干渉の低減効果を高く維持することが可能となる。
即ち、タービンスクロール15のスロート部を隔壁16により幅方向に分割する形式では、ここに例示している如きタービンスクロール15のスロート部に角度調整可能な多数のノズルベーン21が装備されている場合に、いくら各ノズルベーン21の際まで隔壁16を近接させても、各ノズルベーン21が傾動することによりクリアランスが形成されてしまうことが避けられず、このクリアランスにより各流路間で排気ガス8が行き来して排気干渉の低減効果が損なわれる虞れがあるが、このような不具合を回避することが可能となる。
尚、タービンスクロール15のスロート部に角度調整可能な多数のノズルベーン21が装備されている場合に、各ノズルベーン21の開度を通常より大きく開くと、タービンにおける排気ガス8の旋速が下がってタービンの回転数が低下し、これによりコンプレッサ側における吸気量が減少するので、ターボチャージャ2としての効率が低下してコンプレッサ側での過給圧が低下し、しかも、回転数の低下したタービンに対する排気ガス8の通気抵抗が増してタービンより上流側の排気圧力が高められることになる。
つまり、このような角度調整可能な多数のノズルベーン21を装備した構成を併用すれば、ターボチャージャ2を備えたエンジン1に関して、より一層高いEGR率の実現を図ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
以上に述べた如く、本発明のターボチャージャによれば、次の如き優れた効果を発揮する。
(I)本発明の請求の範囲第1項に記載の発明によれば、吸気側が過給されていても過度な吸気絞りを行わずに排気側との十分な圧力差を確保することができるので、ターボチャージャを備えたエンジンにおいても高いEGR率を実現して良好なNOx低減効果を得ることができ、しかも、気筒内の燃焼不良や燃費の悪化を回避しながらターボチャージャによるエンジン性能の向上を図ることができる。
(II)本発明の請求の範囲第2項に記載の発明によれば、スロート部のような幅の狭い狭隘空間を無理に隔壁で分割しなくても済み、しかも、各流路を流れる排気ガス同士を最後まで分けた状態のままタービンホイールに導入することができて排気干渉の低減効果を高く維持することができる。
(III)本発明の請求の範囲第3項に記載の発明によれば、各ノズルベーンの角度調整によりターボチャージャの実質的な効率を下げて過給圧を下げる手法を適宜に併用できるので、ターボチャージャを備えたエンジンに関して、より一層高いEGR率の実現を図ることができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気マニホールドから排気ガスの一部を抜き出して吸気管へ再循環するEGRパイプを装備し且つ排気マニホールド内を各気筒の排気干渉が生じないように隔壁で分割したエンジンに搭載するためのターボチャージャであって、
タービンスクロール内を排気マニホールドの出口流路と連続するように隔壁で分割し、該隔壁により分割された流路のうちの再循環用排気ガスの抜き出しを行う側が、再循環用排気ガスの抜き出しを行わない側よりも流路断面積が小さくなるように形成したことを特徴とするターボチャージャ。
【請求項2】
タービンスクロールの円周方向の二箇所にタング部を夫々形成し、排気流入口に近いタング部から遠いタング部に到るまでの排気流入範囲を一方の流路のみに対応したスロート部とし、排気流入口から遠いタング部から近いタング部に戻るまでの残りの排気流入範囲を他方の流路のみに対応したスロート部として形成したことを特徴とする請求の範囲第1項に記載のターボチャージャ。
【請求項3】
タービンスクロールのスロート部に角度調整可能な多数のノズルベーンを装備したことを特徴とする請求の範囲第1項に記載のターボチャージャ。
【請求項4】
タービンスクロールのスロート部に角度調整可能な多数のノズルベーンを装備したことを特徴とする請求の範囲第2項に記載のターボチャージャ。

【国際公開番号】WO2005/010330
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【発行日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504584(P2005−504584)
【国際出願番号】PCT/JP2003/009588
【国際出願日】平成15年7月29日(2003.7.29)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【出願人】(506030022)ハネウェル ジャパン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】