説明

ダイシング装置のブレード潤滑機構及びブレード潤滑方法

【課題】極少量の液体で切削加工点に対する潤滑や冷却を効率よく行い、液体が高い粘性をもっていても途切れることなく安定して且つ、連続的にブレード周側面にピンポイントで供給しブレード周側面に該液体を薄く引き延ばすように供給することにより液体を蒸発させやすくして、気化熱による熱の発散を促すとともにブレード周側面とワークの摩擦点で起こる摩擦熱を取り除く。
【解決手段】所要の回転速度で回転するブレード5により、該ブレード5に対し相対移動するワークに個片化用の切削を施すとともにブレード5の周側面に潤滑用ないし冷却用の液体を供給する潤滑機構21を備えたダイシング装置のブレード潤滑機構において、前記潤滑機構21は、適宜の液体供給手段19から潤滑用ないし冷却用の液体供給を受け、該供給を受けた潤滑用ないし冷却用の液体を毛細管現象により前記ブレード5の周側面に移送させる毛細管構造部材20で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイシング装置のブレード潤滑機構及びブレード潤滑方法に関するものであり、特に、高速回転するブレードであっても、ワークと擦れるブレード周側面に潤滑用ないし冷却用の液体を的確に供給することが可能なダイシング装置のブレード潤滑機構及びブレード潤滑方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高速で回転するブレードによりワークにダイシング用の切削を施す場合、
切削点に冷却用の液体を供給しながら切削加工を行っていた。しかし、切削加工中にブレードとワークとの摩擦によって、ワーク上の機械強度の低い材料は剥がれてしまい、融点の低い材料は溶けてブレードに溶着する問題が生じていた。加工時の摩擦は、切削が進行する切削点で起きるものもあるが、主としてブレードの側面が被加工物と擦れることによって生じる摩擦熱が大きい要素を占める。こうした摩擦熱が発生すると、それにより、さらに切削点の被加工物が軟化し、それに伴ってブレードがワークに食いつくようになってワークが熱的に変形・変質する場合や、機械的強度が低い材料では材料自体が剥がれ出すなどの問題が生じていた。さらには、摩擦熱の問題はブレード自身の磨耗も促進することになり、ブレード寿命を短くしてしまう。
【0003】
こうした問題を回避するために、従来から冷却水をブレード面に供給する方法が多数開示されている。しかし、多量の水を供給する場合、以下のような問題が生じる。図7に示すように、ワーク24の切削時に大きな水の塊がブレード25に当たっても、高速で回転するブレード25の表面になじまず、全てが跳ね返される。たとえ、ブレード25表面に幾分かの水滴が付着しても、ブレード25は高速で回転しているため、直ぐに遠心力で吹き飛ばされてしまう。
【0004】
さらにブレードが熱を持つ場合、冷却水がブレード近傍で局所的に蒸発することから、見かけ上、水の表面張力が上昇するため連続的に冷却水を供給しているようでも、微視的には水滴が形成される場合がある。水滴が形成されると、結果として一定の塊となって重さを持つことになり、結局は遠心力で吹き飛ばされてしまう。
【0005】
一方、霧吹きのようにミスト状にして水を供給した場合は、ブレードが回転することによって生まれる風圧によって、ブレード表面まで到達せず、そのまま吹き飛ばされてしまう。したがって、冷却水をブレードの外側から単独で供給してブレード表面に効率的に作用させるためには、様々な問題が生じる。
【0006】
上記のような問題に関連する従来技術として、例えば、次のようなダイシング装置が知られている。この従来技術のダイシング装置には、切断刃を回転駆動させる切断装置と、被加工材を支持し前記切断装置に対して相対移動される支持テーブルと、装置本体に固定され切断加工中の被加工材に向けて洗浄水を噴射する第1の洗浄水噴射手段と、前記支持テーブルに固定され切断加工中の被加工材に向けて洗浄水を噴射する第2の洗浄水噴射手段とが備えられ、さらに前記切断装置には、前記切断刃の端面に向けて切削水を供給する切削水噴射手段と、前記切断刃の両側面に設けられ、前記切断刃による被加工材の切断部に向けて冷却水を供給する冷却水噴射手段とが設けられ、前記第1の洗浄水噴射手段から噴射される洗浄水の噴射方向及び前記第2の洗浄水噴射手段から噴射される洗浄水の噴射方向が、前記切断刃によって吹き飛ばされる切削水及び冷却水の吹き飛び方向に対して逆らわない方向に設定されている。
【0007】
そして、装置本体に固定されている第1の洗浄水噴射手段と支持テーブルに固定されている第2の洗浄水噴射手段により、切断加工中の被加工材の全面が洗浄水で覆われるのでウェハの乾燥を防ぐことができ、被加工材の汚染を防止することができる。また切断装置には切削水噴射手段と冷却水噴射手段とが設けられていることで被加工材の切断が良好に行える(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、ダイシング装置におけるブレードの潤滑機構に関連する他の従来技術として、例えば、次のようなダイシング装置が知られている。この従来技術は、回転するブレードでワークに溝入れ加工や切断加工を施すダイシング装置において、ブレード及びワークに冷却水を供給する冷却水ノズルが設けられ、該冷却水ノズルにはブレードを挟み込むように配置された複数対の噴射口が形成され、この噴射口は該噴射口からブレードに向けて噴射される冷却水の噴射方向が該ブレードの面に直交せず、ブレードの回転方向に対して順方向でブレードの面に対して所定角度を有して噴射するように形成されている。
【0009】
そして、ブレードに向けて噴射される冷却水の噴射方向が該ブレードの面に直交せず、ブレードの回転方向に対して順方向でブレードの面に対して所定角度を有して噴射するので、ブレードを取り付けたスピンドルの回転負荷抵抗の増加が抑制される(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
さらに、他の従来技術として、例えば、次のようなものが知られている。この従来技術は、ブレードの近傍に開口されたノズルから純水を流すことで、ダイシング時の摩擦熱を除去して潤滑性を高めており、切削屑を除去している。しかし、ブレードを冷却する上で、多量の純水を要することや供給された全ての純水が効果的にブレードの冷却や潤滑に寄与するものではないため非常に純水の無駄が多くなる。
【0011】
特に、ノズルで供給する場合、極少量の水をブレードに供給しようとしても、水やその他の液体でも表面張力が非常に大きいため水滴が形成されて、その結果断続的な供給となってしまい、効率よく極少量の液体をブレード表面に供給できない。特に、粘性の高い液体の場合、表面張力も付随的に大きくなることから、液滴も非常に大きくならざるを得ず、非常に大きい液滴が断続的に供給されるようになる。特に、大きい液滴がブレード表面に供給される場合、ブレードの高速回転による遠心力によって液滴ごと吹き飛ばされてしまうため、結果的に液体がブレード表面に付着せずに殆どの液体を無駄に供給している状態になる(例えば、特許文献3参照)。
【0012】
また、他の従来技術として、例えば、次のようなものが知られている。この従来技術は、スピンドルシャフトに軸方向穴と放射方向穴とがあり、冷却液噴射口から、遠心力によってブレードの先端に向けて連続的に冷却液が噴射されるとある。しかし、放射状に噴射される場合、ブレードの周方向に対しては必ずしも均一ではなく、放射方向に冷却液が多く流れる部分とそうではない部分のばらつきが生まれる。ブレードの周方向にむらなく均一に液体が供給されない場合、周方向に摩擦がばらつき、微小に振動することを誘発するため、結果的にその不均一な液体供給によってブレードの寿命を短くする懸念がある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−188974号公報
【特許文献2】特開2006−339372号公報
【特許文献3】特開平5−335412号公報
【特許文献4】特開平6−71653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に記載の従来技術においては、切削水噴射手段から切断刃の端面に向けて切削水を供給し、また冷却水噴射手段により切断刃の両側面から被加工材の切断部に向けて冷却水を供給するように構成されている。しかし、切削水噴射手段及び冷却水噴射手段による切削水及び冷却水は、高速回転している切断刃により跳ね返えされたり遠心力で吹き飛ばされるため、被加工材と擦れる切断刃の周側面に効率的に供給することは難しい。
【0015】
特許文献2に記載の従来技術においては、冷却水ノズルから噴射される冷却水の噴射方向がブレードの回転方向に対して順方向でブレードの面に対して所定角度を有して噴射するように構成されている。しかし、冷却水ノズルから噴射される冷却水は、上記と同様に、高速回転しているブレードにより跳ね返えされたり遠心力で吹き飛ばされるため、ワークと擦れるブレードの周側面に効率的に供給するという点では、上記と同様に難しい。
【0016】
特許文献3に記載の従来技術においては、ノズルからブレードの近傍に純水を流すことで、ダイシング時の摩擦熱を除去して潤滑性を高めるようにしている。しかし、ブレードを冷却する上で、多量の純水を要することや、ノズルから供給された純水は、前記と同様に、高速回転しているブレードにより跳ね返えされたり遠心力で吹き飛ばされるため、供給された全ての純水が効果的にブレードの冷却や潤滑に寄与するものではない。したがって非常に純水の無駄が多くなる。
【0017】
また、特許文献4に記載の従来技術においては、スピンドルシャフト上の冷却液噴射口から、遠心力によってブレードの先端に向けて連続的に冷却液を噴射するようにしている。しかし、この冷却液の噴射方式では、ブレードの周方向に均一に冷却液が供給されない場合が生じて周方向に摩擦がばらつき、ブレードが微小に振動することを誘発するため、ブレードの寿命を短くする懸念がある。
【0018】
そこで、高速回転しているブレードに対し供給した潤滑用ないし冷却用の液体が跳ね返されたり遠心力で吹き飛ばされることなく該液体をワークと擦れるブレード周側面に無駄なく確実に移送し、潤滑用ないし冷却用の液体をブレード周側面に薄く引き延ばして供給することにより極少量の液体で切削加工点に対する潤滑や冷却を効率よく行い、ブレード側面がスペース的に少し入り組んだ部分にあったとしてもノズルで供給する場合の吐出圧や液体にかかる重力などに影響されることなくブレード周側面まで確実に必要量の潤滑用ないし冷却用の液体を移送し、潤滑用ないし冷却用の液体が高い粘性をもっていても途切れることなく安定して且つ、連続的にブレード周側面にピンポイントで供給し、必要以上に無駄な潤滑用ないし冷却用の液体を用いることなくブレード周側面に該液体を効率的に薄く引き延ばすように供給することにより液体を蒸発させやすくして気化熱による熱の発散を促すとともにブレード周側面とワークの摩擦点で起こる摩擦熱を取り除き、さらにはブレードの長寿命化を図るために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、所要の回転速度で回転するブレードにより、該ブレードに対し相対移動するワークに個片化用の切削を施すとともに前記ブレードの周側面に潤滑用ないし冷却用の液体を供給する潤滑機構を備えたダイシング装置のブレード潤滑機構において、前記潤滑機構は、適宜の液体供給手段から潤滑用ないし冷却用の液体供給を受け、該供給を受けた潤滑用ないし冷却用の液体を毛細管現象により前記ブレードの周側面に移送させる毛細管構造部材で構成したダイシング装置のブレード潤滑機構を提供する。
【0020】
この構成によれば、液体供給手段から毛細管構造部材へ供給された潤滑用ないし冷却用の液体は、毛細管現象によって該毛細管構造部材内に均一に広がり、毛細管構造部材の先端でブレードの周側面へ塗りつけられるように移送する。即ち、固体から固体へ液体を界面張力を利用することによって移送し供給する機構となる。
【0021】
液体供給手段から毛細管構造部材へ液体を供給する方法は、断続的であってもよく、例えば滴下する形態で供給してもよい。毛細管構造部材へ潤滑用ないし冷却用の液体が供給されると、毛細管構造部材内で自動的に広がり、毛細管構造部材の先端からブレードの周側面に移し渡すように供給するときには、薄く引き延ばされてブレードの周側面へ連続的に供給される形態となる。
【0022】
このようにすることで、潤滑用ないし冷却用の液体は多量に使用せず極少量で切削加工点に対する潤滑や冷却が行われる。また、効率的に薄く引き延ばされることから、供給された液体の蒸発も促進され、蒸発による気化熱によってブレードに溜まる熱を取り除くことが可能となる。
【0023】
そして、使用する潤滑用ないし冷却用の液体が高い粘性をもつものであったとしても、毛細管現象によって毛細管構造部材内を均一に分散させ、毛細管構造部材という固体からブレードという固体へ液体を移送する際に、固体と液体の間に作用する界面張力を利用しながら、潤滑用ないし冷却用の液体を供給する点でスムーズで連続的且つ最小限に液体の供給を行うことができ、過剰に液体を必要とせず殆ど無駄のない液体供給が可能となる。なお、本明細書において、切削加工とは裁断用の切込み(ハーフカット)加工及び切断(フルカット)加工の両加工を指している。
【0024】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、上記毛細管構造部材は、上記ブレードの両周側面に対して設けたダイシング装置のブレード潤滑機構を提供する。
【0025】
この構成によれば、潤滑用ないし冷却用の液体をブレードの両周側面に対し、ブレードの両サイドから供給するためには、スピンドルカバーなどの様々な部材がブレードの周りを取り巻くために、従来であればノズルを少し離れた位置から切削位置に向けて該ノズルから出る水の吐出圧を調整するか、ブレードの上方にノズルを配設し、重力によって上方から垂れ流すかなど、スペース的な工夫が必要であった。これに対し、本発明では、潤滑機構に毛細管構造部材を使用することで、該毛細管構造部材を撓ませながら、その先端部をブレードの両サイドからブレードの両周側面にまで伸ばして配置することで、少し入り組んだ位置であったとしても、潤滑用ないし冷却用の液体を毛細管構造部材に沿って自由に移送し供給することが可能となる。こうした場合、液体はノズルで供給されるような吐出圧や重力などに影響されることなく、液体そのものの表面張力により、毛細管現象によって毛細管構造部材を伝いながら、さらに極少量の液体を高速回転するブレード両周側面の所定の部分に滑らかに移送し供給することが可能となる。
【0026】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、上記毛細管構造部材は、刷毛状部材、筆状部材もしくは発泡体部材のいずれかで構成したダイシング装置のブレード潤滑機構を提供する。
【0027】
この構成によれば、毛細管構造部材を具体的には、刷毛状部材、筆状部材もしくは発泡体部材のいずれかで構成することで、毛細管現象によって極少量の液体を高速回転するブレードの周側面に滑らかに移送し供給することが可能となる。また、上記のように、ブレード側面がスペース的に少し入り組んだ部分にあったとしても、該部材を撓ませながら、極軽い一定圧力で毛細管構造部材の先端をブレードに対して与えることができる。そして、その先端部をブレードの周側面にまで伸ばして配置することにより、潤滑用ないし冷却用の液体を該部材に沿ってブレードの周側面に確実に移送し供給することが可能となる。
【0028】
請求項4記載の発明は、請求項1,2又は3記載の発明において、上記ブレードの両周側面における所要幅の環状領域には、それぞれ同心円状の複数の微小溝を形成したダイシング装置のブレード潤滑機構を提供する。
【0029】
この構成によれば、ブレードの周側面にブレード回転方向、即ちブレードの運動方向に沿って複数の微小溝が同心円状に形成されており、その複数の微小溝に沿って効率よく潤滑用ないし冷却用の液体が塗られる形で供給される。このため高速回転するブレードに対して該液体が跳ね返されることはなく、全ての液体が遠心力で吹き飛ばされることはない。
【0030】
複数の微小溝は同心円状に形成されているため、潤滑用ないし冷却用の液体は周方向に広がりやすくなり、ブレードの周方向において均一に液体が配分されるようになる。そして、同心円状の複数の微小溝に刷り込まれた潤滑用ないし冷却用の液体は、ブレードが高速回転することにより、遠心力によって周方向の均一性を保ちながら、徐々にブレードの外側に移動する。その際にブレード周側面に薄い潤滑皮膜が形成され、ブレード周側面とワークとの間の摩擦を大きく軽減する役割を果たす。結果的に低摩擦力でスムーズに切削加工が進むため、ワークが熱変形したり過剰な摩擦力によってワークが剥がれたりといったことはない。また、ブレードとワーク間の過剰な摩擦により、ブレードの磨耗が早期に進展することが防止される。
【0031】
請求項5記載の発明は、請求項1,2,3又は4記載の発明において、上記毛細管構造部材の先端部を上記ブレードの周側面にガイドする剛性材製のガイド部材を設けたダイシング装置のブレード潤滑機構を提供する。
【0032】
この構成によれば、毛細管構造部材の構成材としては、例えば、ポリエステル素材の線材や綿繊維などの軟らかい線状部材も好適に使用できる。軟らかい線状部材などを使用すれば、高速で回転するブレード側面に接触したとしてもブレード側面を過度に損傷させることはなく、またブレードを回転させるエアースピンドルに大きな負荷を与えることもない。そして、このような軟らかい線状部材を使用した毛細管構造部材であっても、該毛細管構造部材の先端部を剛性材製のガイド部材でブレードの周側面にガイドすることにより、毛細管構造部材内の隙間に存在する液体の重力等の影響を受けることなく、軟らかい線状部材からなる毛細管構造部材の先端部をブレードに接触させるようにガイドすることができて高速回転するブレードの周側面に潤滑用ないし冷却用の液体を確実に供給することが可能となる。
【0033】
請求項6記載の発明は、ワークを切断加工するダイシング装置のブレード潤滑機構において、前記ワークに対して相対的に移動しながら回転して前記ワークを切断する円形ブレードと、該円形ブレードの周側面に接触する毛細管構造部材と、該毛細管構造部材にブレード潤滑用の液体を供給する液体供給手段とを有し、切断加工中に前記毛細管構造部材を介して毛細管現象により前記ブレード周側面に潤滑用の液体を供給するダイシング装置のブレード潤滑機構を提供する。
【0034】
この構成によれば、ブレード周側面に潤滑用の液体を供給する供給媒体を毛細管構造部材にすると、該毛細管構造部材の中に微小な連通した空間が形成される。そして、その空間内を個液間に作用する界面張力で生まれる毛細管現象により、極少量の液体を高速回転するブレードの周側面に自動的且つ、滑らかに移送し供給することが可能となる。例えば、毛細管構造部材として刷毛状部材や筆状部材でも複数の線状部材を束ねて形成することで、その線状部材間に微小な連通した空間が形成され、毛細管現象によって潤滑用の液体を均一化するとともに、自動的に移送することが可能となる。毛細管現象によって微量の液体を移送する場合、重力の影響を殆ど受けずに液体を移送することが可能となるため、縦型の円形ブレードの側面部分であっても潤滑用の液体を重力方向にそのまま垂らすことなく、ブレード周側面に良好に塗布することが可能となる。
【0035】
そして、円形ブレードを用いたダイシング加工であっても、ブレード周側面に潤滑用の液体を薄く塗るだけで、その他ウェハ領域等に潤滑用の液体を供給せずに済む。またブレード周側面に供給された潤滑用の液体は非常に薄く塗られているため、すぐに気化して、ブレード側面の熱を気化熱として奪い去る。その結果、ブレード側面が発熱することはなく安定してダイシング加工ができる他、ウェハ表面、特に切断予定ライン(スクライブライン)以外のチップ内部に潤滑用の液体が触れことは全くない。そのため、殆どドライ加工を行うことができる。そうしたことから、ドライ加工として従来レーザ加工が用いられてきた低誘電率のLow−k材料などであっても、円形ブレードによって切断することが可能となる。
【0036】
請求項7記載の発明は、ワークに対し相対的に移動しながら所要の回転速度で縦方向に回転し、前記ワークに個片化用の切削を施すブレードの周側面に潤滑用ないし冷却用の液体を供給するダイシング装置のブレード潤滑方法において、毛細管構造部材の一端側で液体供給手段から受けた前記潤滑用ないし冷却用の液体を毛細管現象により当該毛細管構造部材の他端側に移送させ、該毛細管構造部材の他端側を、前記ブレードの周側面に接触させるかないしは当該毛細管構造部材に含まれた前記潤滑用ないし冷却用の液体が接触する程度に近接させて該潤滑用ないし冷却用の液体をブレードの周側面に供給するダイシング装置のブレード潤滑方法を提供する。
【0037】
この構成によれば、液体供給手段から毛細管構造部材の一端側へ供給された潤滑用ないし冷却用の液体は、毛細管現象によって該毛細管構造部材内に均一に広がり、毛細管構造部材の他端側に移送されてブレードの周側面へ塗りつけられるように供給される。このとき、毛細管構造部材の他端側は、ブレードの周側面に直接接触させなくともよい。固体である毛細管構造部材から、他方の固体であるブレード周側面へ、液滴が形成されない程度、即ち、固体と液体間に作用する界面張力によって、両方の個体間(毛細管構造部材とブレード周側面間)でスムーズに液体が受け渡しできる程度の距離まで近接している状態であればよい。この状態であれば毛細管構造部材の他端側に移送された潤滑用ないし冷却用の液体はブレードの周側面へ塗りつけられるように供給される。このようにすることで、潤滑用ないし冷却用の液体は多量に使用せず極少量で切削加工点に対する潤滑や冷却が行われる。また、効率的に薄く引き延ばされることから、供給された液体の蒸発も促進され、蒸発による気化熱によってブレードに溜まる熱を取り除くことが可能となる。
【0038】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、上記毛細管構造部材は、上記ブレードの両周側面に対して設けたダイシング装置のブレード潤滑方法を提供する。
【0039】
この構成によれば、潤滑用ないし冷却用の液体をブレードの両周側面に対し、ブレードの両サイドから供給するためには、スピンドルカバーなどの様々な部材がブレードの周りを取り巻くために、従来であればノズルを少し離れた位置から切削位置に向けて該ノズルから出る水の吐出圧を調整するか、ブレードの上方にノズルを配設し、重力によって上方から垂れ流すかなど、スペース的な工夫が必要である。これに対し、本発明では、潤滑用の液体を供給する供給媒体に毛細管構造部材を使用することで、該毛細管構造部材を撓ませながら、その先端部をブレードの両サイドからブレードの両周側面にまで伸ばして配置することで、少し入り組んだ位置であったとしても、潤滑用ないし冷却用の液体を毛細管構造部材に沿って自由に移送し供給することが可能となる。
【0040】
請求項9記載の発明は、請求項7又は8記載の発明において、上記ブレードの両周側面における所要幅の環状領域には、それぞれ同心円状の複数の微小溝を形成したダイシング装置のブレード潤滑方法を提供する。
【0041】
この構成によれば、ブレードの周側面にブレード回転方向、即ちブレードの運動方向に沿って複数の微小溝が同心円状に形成されている。このため、ブレードの周側面へ塗りつけられるように供給された潤滑用ないし冷却用の液体は、周方向に広がりやすくなり、ブレードの周方向において均一に液体が配分されるようになる。そして、同心円状の複数の微小溝に刷り込まれた潤滑用ないし冷却用の液体は、ブレードが高速回転することにより、遠心力によって周方向の均一性を保ちながら、徐々にブレードの外側に移動する。その際にブレード周側面に薄い潤滑皮膜が形成され、ブレード周側面とワークとの間の摩擦を大きく軽減する役割を果たす。
【発明の効果】
【0042】
請求項1記載の発明は、潤滑用ないし冷却用の液体を毛細管構造部材の先端からブレードの周側面に塗りつけるように薄く引き延ばして連続的に供給することにより、極少量の液体で切削加工点に対する潤滑や冷却を行うことができ、潤滑用ないし冷却用の液体をブレード周側面に効率的に薄く引き延ばして供給することにより、供給された液体の蒸発を促進し蒸発による気化熱によりブレード周側面とワークの摩擦点で起こる摩擦熱を取り除き、使用する潤滑用ないし冷却用の液体が高い粘性をもつものであったとしても、毛細管現象によって毛細管構造部材内を均一に分散させ、毛細管構造部材という固体からブレードという固体へ液体を移送する際に、固体と液体の間に作用する界面張力を利用して潤滑用ないし冷却用の液体をスムーズで連続的且つ最小限にブレード周側面に供給することができるという利点がある。また、まさに加工に寄与する加工寄与部であるブレード先端では、過度な潤滑は切り込みを与える際の緩衝材として応力を分散させたり、ブレード先端がワーク表面で滑って有効な切り込みを与えることができなかったりなどするため、積極的な潤滑はかえって加工速度を低下させることになる。それに対して、ブレード側面部は加工に寄与しない部分である。そのため、ブレード側面部は極力潤滑性を向上させ、不要な摩擦による発熱をより一層軽減する必要がある。よって、加工に寄与せず、潤滑を必要とするブレード側面部に積極的に液体を塗り込みながら供給することが望ましい。
【0043】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えてさらに、潤滑用ないし冷却用の液体をブレードの両サイドから供給するようになるためブレードの両周側面がスペース的に少し入り組んだ部分にあったとしても毛細管構造部材を撓ませながら、その先端部をブレードの両サイドからブレードの両周側面にまで伸ばして配置することで、潤滑用ないし冷却用の液体は、ノズルで供給する場合の吐出圧や重力などに影響されることなく、液体そのものの表面張力により毛細管構造部材を伝いながら、必要量の液体を高速回転するブレード両周側面に滑らかに移送し供給することができるという利点がある。
【0044】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明の効果に加えてさらに、毛細管構造部材を具体的には、刷毛状部材、筆状部材もしくは発泡体部材のいずれかで構成することで、毛細管現象によって極少量の液体を高速回転するブレードの周側面に滑らかに移送し供給することができる。また、上記のように、ブレード側面がスペース的に少し入り組んだ部分にあったとしても、該部材を撓ませながら、その先端部をブレードの周側面にまで伸ばして配置することができるという利点がある。
【0045】
請求項4記載の発明は、請求項1,2又は3記載の発明の効果に加えてさらに、ブレードの周側面に複数の微小溝を同心円状に形成したことで、潤滑用ないし冷却用の液体が、その複数の微小溝に沿って効率よく塗られる形で供給されて高速回転するブレードに対し跳ね返されることなく、また遠心力で吹き飛ばされることなく該液体をワークと擦れるブレード周側面に無駄なく確実に移送し供給することができる。同心円状の複数の微小溝に刷り込まれた潤滑用ないし冷却用の液体は、ブレードが高速回転することにより、遠心力によって周方向の均一性を保ちながら、徐々にブレードの外側に移動し、ブレード周側面に薄い潤滑皮膜を形成することができる。この結果、低摩擦力でスムーズに切削加工を進めることができる。また、ブレードとワーク間の過剰な摩擦によりブレードの磨耗が早期に進展することが防止されてブレードの長寿命化を図ることができるという利点がある。
【0046】
請求項5記載の発明は、請求項1,2,3又は4記載の発明の効果に加えてさらに、軟らかい線状部材からなる毛細管構造部材であっても、その先端部をブレードに接触させるようにガイドすることができて高速回転するブレードの周側面に潤滑用ないし冷却用の液体を無駄なく確実に移送し供給することができるという利点がある。
【0047】
請求項6記載の発明は、ブレード周側面に潤滑用の液体を供給する供給媒体を毛細管構造部材としたことで、該毛細管構造部材の中に微小な連通した空間が形成され、その空間内を個液間に作用する界面張力で生まれる毛細管現象により、極少量の液体を高速回転するブレードの周側面に自動的且つ、滑らかに移送し供給することができる。そして、円形ブレードを用いたダイシング加工であっても、ブレード周側面に潤滑用の液体を薄く塗るだけで、その他ウェハ領域等に潤滑用の液体を供給せずに済む。したがって、ウェハ表面、特に切断予定ライン(スクライブライン)以外のチップ内部に潤滑用の液体が触れことは全くない。そのため、殆どドライ加工を行うことができる。そうしたことから、ドライ加工として従来レーザ加工が用いられてきた低誘電率のLow−k材料などであっても、円形ブレードによって切断することができるという利点がある。
【0048】
請求項7記載の発明は、液体供給手段から毛細管構造部材の一端側へ供給された潤滑用ないし冷却用の液体は、毛細管現象によって該毛細管構造部材内に均一に広がり、毛細管構造部材の他端側に移送されてブレードの周側面へ塗りつけられるように供給される。このとき、毛細管構造部材の他端側は、ブレードの周側面に直接接触させなくともよく、毛細管構造部材の他端側は当該毛細管構造部材に含まれた潤滑用ないし冷却用の液体が接触する程度に近接させておくことで該潤滑用ないし冷却用の液体は、ブレードの周側面へ塗りつけられるように供給される。このようにすることで、潤滑用ないし冷却用の液体は多量に使用せず極少量で切削加工点に対する潤滑や冷却を行うことができる。また、潤滑用ないし冷却用の液体は効率的に薄く引き延ばされることから、供給された液体の蒸発も促進され、蒸発による気化熱によってブレードに溜まる熱を取り除くことができるという利点がある。
【0049】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明の効果に加えてさらに、潤滑用ないし冷却用の液体をブレードの両サイドから供給するようになるためブレードの両周側面の周りをスピンドルカバーなどの様々な部材が取り巻いていても、毛細管構造部材を撓ませながらその先端部をブレードの両周側面にまで伸ばして配置することで、潤滑用ないし冷却用の液体を毛細管構造部材に沿って自由に移送し供給することができるという利点がある。
【0050】
請求項9記載の発明は、請求項7又は8記載の発明の効果に加えてさらに、ブレードの両周側面にそれぞれ同心円状の複数の微小溝を形成したことで、ブレードの周側面へ塗りつけられるように供給された潤滑用ないし冷却用の液体は、周方向に一層広がりやすくなり、ブレードの周方向において均一に液体が配分されるようになる。そして、同心円状の複数の微小溝に刷り込まれた潤滑用ないし冷却用の液体は、ブレードが高速回転することにより、遠心力によって周方向の均一性を保ちながら、徐々にブレードの外側に移動し、ブレード周側面に薄い潤滑皮膜を形成することができる。この結果、ブレード周側面とワークとの間の摩擦を大きく軽減することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施例に係るダイシング装置のブレード潤滑機構の正面図。
【図2】液体供給手段の部分を破断して示す図1のブレード潤滑機構の側面図。
【図3】図1の実施例におけるブレード部分を示す図であり、(a)は正面図、(b)はブレード先端部分を拡大して示す断面図。
【図4】図1の実施例においてブレードに供給された潤滑用ないし冷却用の液体の挙動例を示す一部拡大断面図であり、(a)はブレード周側面の複数の微小溝部分を示す断面図、(b)は微小溝内に入り込んだ液体の様子を示す図、(c)はブレードの周側面に滞在する液体の様子を示す図。
【図5】図1の実施例に適用されるダイシング装置の平面図。
【図6】ブレード周側面への同心円状の複数の微小溝の加工方法例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図。
【図7】従来のブレード面への冷却水の供給方法において、冷却水がブレード面で跳ね返される様子を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明は、高速回転しているブレードに対し供給した潤滑用ないし冷却用の液体が跳ね返されたり遠心力で吹き飛ばされることなく該液体をワークと擦れるブレード周側面に無駄なく確実に移送し、潤滑用ないし冷却用の液体をブレード周側面に薄く引き延ばして供給することにより極少量の液体で切削加工点に対する潤滑や冷却を効率よく行い、ブレード側面がスペース的に少し入り組んだ部分にあったとしてもノズルで供給する場合の吐出圧や液体にかかる重力などに影響されることなくブレード周側面まで確実に必要量の潤滑用ないし冷却用の液体を移送し、潤滑用ないし冷却用の液体が高い粘性をもっていても途切れることなく安定して且つ、連続的にブレード周側面にピンポイントで供給し、必要以上に無駄な潤滑用ないし冷却用の液体を用いることなくブレード周側面に該液体を効率的に薄く引き延ばすように供給することにより液体を蒸発させやすくして気化熱による熱の発散を促すとともにブレード周側面とワークの摩擦点で起こる摩擦熱を取り除き、さらにはブレードの長寿命化を図るという目的を達成するために、所要の回転速度で回転するブレードにより、該ブレードに対し相対移動するワークに個片化用の切削を施すとともに前記ブレードの周側面に潤滑用ないし冷却用の液体を供給する潤滑機構を備えたブレード潤滑機構を有するダイシング装置において、前記潤滑機構は、適宜の液体供給手段から潤滑用ないし冷却用の液体供給を受け、該供給を受けた潤滑用ないし冷却用の液体を毛細管現象により前記ブレードの周側面に移送させる毛細管構造部材で構成することにより実現した。
【実施例1】
【0053】
以下、本発明の好適な実施例を図1乃至図6の(a)、(b)を参照して説明する。まず、本実施例に係るダイシング装置のブレード潤滑機構の構成を説明する。図5は本実施例に適用されるダイシング装置1を示している。同図において、ダイシング装置1の本体部である平面視方形に形成された方形匡体2は、その右前側隅部の直角二等辺三角形部分が切り欠けられ、ダイシング装置1の前面に対して45度の角度をなす斜辺縁部が形成されている。該斜辺縁部には開閉カバー付きの開口部3が設けられ、この開口部3から方形匡体2上にてワーク交換及びメンテナンス作業等が行われる。
【0054】
方形匡体2上には、ワークであるウェハW(以下、ワークをウェハWという)が載置される回転可能なワークテーブル4と、該ウェハWに個片化用の切削を施すブレード5,5と、ウェハWを載置したワークテーブル4をブレード5,5に対して相対的に移動させるワークテーブル送り機構6とが設けられている。後述するように、ブレード5,5の両周側面における所要幅の環状領域には、それぞれ同心円状の複数の微小溝が形成されている。ワークテーブル送り機構6は、方形匡体2の右前側隅部と左後側隅部とを結ぶ第1対角線上に設置されている。
【0055】
また、方形匡体2上にはスピンドル移動機構7が設置され、該スピンドル移動機構7はガイドレール8を備えている。スピンドル移動機構7は、方形匡体2の左前側隅部と右後側隅部とを結ぶ第2対角線上に設置されている。このため、スピンドル移動機構7は、ワークテーブル送り機構6に対して直交するように配置されている。したがって、スピンドル移動機構7のガイドレール8は、ワークテーブル送り機構6によるワーク送り方向に対して直角に交差している。
【0056】
ガイドレール8には、2つのスピンドル9,9が移動可能に支持され、該スピンドル9,9は同一軸線上にて互いに対向して配設されている。各スピンドル9,9には、ブレード5,5が回転可能に取り付けられている。ダイシング装置1のほぼ中央部、即ち、方形匡体2におけるスピンドル移動機構7とワークテーブル送り機構6とが直交する部分にはワーク切削加工部10が配設され、該ワーク切削加工部10においてブレード5,5によりウェハWに切削加工が施される。ワーク切削加工部10においては、ブレード5,5を保持するスピンドル9,9の移動距離を対角線の長さに応じて長くすることができるため、大口径のウェハWであってもこれを効率良く切削することができる。
【0057】
ダイシング装置1における右前側部分にはワーク交換部11が設けられ、該ワーク交換部11は、方形匡体2の右前側斜辺縁部に設けた開口部3に近接して配置されている。このワーク交換部11において、ワークテーブル4に載置されたウェハWを容易に交換することができる。図中の符号12は、ワーク切削加工部10から流れ出る切削水や洗浄水の廃液を受けるオイルパンであり、該オイルパン12はワークテーブル送り機構6を包囲するように形成されている。
【0058】
方形匡体2における左後側隅部には、排水口13を有する排水機構14と、排気口15を有する排気機構16とが配設されている。前記排水口13は、高速回転するブレード5,5でウェハWを切削する際に、該ブレード5,5の回転方向に沿って切削水や洗浄水が飛散する方向の延長線上に配置されている。また、前記排気口15は排水口13と対応するほぼ真上部に形成されている。なお、ダイシング装置1の所定位置には、操作・表示部、撮像手段、モニタテレビ、表示灯及びコントローラ(図示せず)等が設けられている。
【0059】
そして、上記のような構成のダイシング装置1により、次のようにしてウェハWの切削加工が行われる。まず、スピンドル9,9にブレード5,5を取り付けるとともに、ワークテーブル4にウェハWを載置固定する。次いで、ワークテーブル4をワークテーブル送り機構6により第1対角線方向に沿って方形匡体2のほぼ中央部に搬送させ、ワーク切削加工部10にウェハWを所定の移動速度で搬入させる。
【0060】
この後、ワーク切削加工部10の中心に向かってスピンドル9,9を移動させ、該スピンドル9,9に取り付けたブレード5,5を高速回転させながら、ウェハWの切削加工を行う。加工中、スピンドル9,9の先端部に設けた後述する潤滑機構及び洗浄用ノズル(図示せず)から潤滑用ないし冷却用の液体及び洗浄水をウェハWの加工ポイントにそれぞれ供給する。
【0061】
そして、供給された潤滑用ないし冷却用の液体を含む洗浄水は、オイルパン12により受けられる。この後、潤滑用ないし冷却用の液体を含む洗浄水は、オイルパン12の下流側に流れたのち、オイルパン12に接続した排水機構14の排水口13及び排水管(図示せず)を通過して外部に排出される。また、加工時に、潤滑用ないし冷却用の液体を含む洗浄水と共にミストがブレード5,5の回転方向に沿って飛散し、飛散したミストは、ワーク切削加工部10から方形匡体2の左後側隅部に向かって流れる。この後、ミストは、排気機構16の排気口15より排気管(図示せず)を通過して外部に排出される。
【0062】
このようにして、ウェハWに対する1つの切削ラインに沿う切削加工が終了すると、ブレード5,5は、次に加工する1ピッチ分だけ隣の切削ラインにインデックス送りされて位置決めされ、前記と同様の手順により、当該切削ラインに沿う切削加工が行われる。そして、前記切削加工が繰り返されることにより、所定数の切削ラインに沿う切削加工が全て終了すると、ワークテーブル4と共にウェハWを90度回転させて、前記と同様の加工手順により、前述した切削ラインと直交する方向の切削ラインに沿って切削加工が行われ、ウェハWには最終的にダイス状の切削が施される。
【0063】
次いで、上記ダイシング装置1に備えられたブレード5及び該ブレード5の周側面に潤滑用ないし冷却用の液体を供給する潤滑機構の構成を図1乃至図3の(a)、(b)を用いて説明する。ブレード5は切削加工に寄与する部分である研削部5aにダイヤ番手#240程度のダイヤモンド砥粒を電着させたものが用いられている。ブレード5の両周側面における前記研削部5aに隣接した所要幅の環状領域には、図1及び図3の(a)、(b)に示すように、それぞれ同心円状の複数の微小溝17が形成されている。該同心円状の複数の微小溝17は、例えば、約0.1mmの溝幅で0.2mmピッチ程度に形成されている。
【0064】
切削加工に寄与する上記研削部5aは、ウェハWに対する接触面積が小さく、絶えず破壊により切削加工が進行する。この研削部5aに対し切削加工に寄与しない周側面部分はウェハWとの接触面積が大きく不要な摩擦が大きい。そのため、ブレード5の両周側面は、積極的に潤滑が必要な部分であり、この部分に前記同心円状の複数の微小溝17が形成されている。
【0065】
同心円状の複数の微小溝17は、例えば、図6の(a)、(b)に示すように、ブレード5を回転させつつ該ブレード5のダイヤモンド砥粒よりも粗いダイヤ番手#60程度のドレッサ23をブレード5の両周側面に軽く当接させることで、ブレード5の両周側面における所要幅の環状領域に刻設することができる。
【0066】
また、図1及び図2に示すように、ブレード5は、前記スピンドル9側に固定されたフランジカバー18によって包囲されており、このフランジカバー18の部分に取り付けられた液体供給手段としての液体供給管19と、該液体供給管19から潤滑用ないし冷却用の液体供給を受け、この供給を受けた潤滑用ないし冷却用の液体を毛細管現象によりブレード5の両周側面に移送させる毛細管構造部材20とを備えた潤滑機構21が配設されている。
【0067】
毛細管構造部材20としては、刷毛状部材、筆状部材もしくは発泡体部材のいずれかが用いられている。即ち、空隙に小さい空間が連続的に存在する構造部材が用いられている。毛細管構造部材20は、図2に示すように、液体供給管19の下端部とブレード5の周側面との間でやや撓んで、その先端がブレード5の回転方向に沿うように両サイドからブレード5の両周側面に接触している。該毛細管構造部材20は、潤滑用ないし冷却用の液体を所要幅に刻設された複数の微小溝17内に均一に塗り入れるため、所要幅に形成されている。
【0068】
また、図2に示すように、液体供給管19の下端部には、毛細管構造部材20の先端部をブレード5の周側面にガイドする剛性材製のガイド部材22が設けられている。毛細管構造部材20としての前記刷毛状部材、筆状部材等の構成材としては、例えば、ポリエステル素材の線材や綿繊維などの軟らかい線状部材も好適に使用できる。軟らかい線状部材などを使用すれば、高速で回転するブレード5側面に接触したとしてもブレード5側面を過度に損傷させることはない。
【0069】
そして、このような軟らかい線状部材を使用した毛細管構造部材20であっても、該毛細管構造部材20の先端部を剛性材製のガイド部材22でブレード5の周側面にガイドすることにより、毛細管構造部材20内の隙間に存在する液体の重力等の影響を受けることなく、軟らかい線状部材からなる毛細管構造部材20の先端部をブレード5に接触させるようにガイドすることができて高速回転するブレード5の周側面に潤滑用ないし冷却用の液体を確実に供給することが可能となる。
【0070】
ブレード5の周側面に供給する潤滑用ないし冷却用の液体としては、界面活性剤が挙げられる。例えば、摩擦力を低減する界面活性剤としてはエタノールやイソプロピルアルコール(IPA)などがあるが、アルコール系を使用すると蒸気圧が高い液体であるため、蒸発することでブレード5に含まれる潜熱を気化熱として奪い去り、ブレード5の温度を大きく低下させることが可能となる。それとともに、ブレード5とウェハW間の摩擦力を低減するための潤滑剤としての効果もある。この他に粘性の高い液体を使用してもよい。
【0071】
潤滑用ないし冷却用の液体をブレード5の両周側面に対し、ブレード5の両サイドから供給するためには、スピンドルカバーなどの様々な部材がブレード5の周りを取り巻くために、従来であればノズルを少し離れた位置から切削位置に向けて該ノズルから出る水の吐出圧を調整するか、ブレードの上方にノズルを配設し、重力によって上方から垂れ流すかなど、スペース的な工夫が必要である。これに対し、本実施例では、潤滑機構21に毛細管構造部材20を使用することで、該毛細管構造部材20を撓ませながら、その先端部をブレード5の両サイドからブレード5の両周側面にまで伸ばして配置することで、少し入り組んだ位置であったとしても、先端部をブレード5の両周側面に接触させ、潤滑用ないし冷却用の液体を毛細管構造部材20に沿って移送し供給することが可能である。
【0072】
次に、上述のように構成されたダイシング装置のブレード潤滑機構の作用を説明する。液体供給管19から毛細管構造部材20へ供給された潤滑用ないし冷却用の液体は、毛細管現象によって該毛細管構造部材20内に均一に広がり、毛細管構造部材20の先端で複数の微小溝17部分に刷り込まれるように塗られる形でブレード5の周側面へ供給される。即ち、固体から固体へ液体を界面張力を利用することによって移送し供給する機構となる。
【0073】
液体供給管19から毛細管構造部材20へ液体を供給する方法は、断続的であってもよく、例えば滴下する形態で供給してもよい。毛細管構造部材20へ潤滑用ないし冷却用の液体が供給されると、毛細管構造部材20内で自動的に広がり、毛細管構造部材20の先端からブレード5の周側面における複数の微小溝17部分へ移し渡すように供給するときには、薄く引き延ばされてブレード5の周側面における複数の微小溝17部分へ連続的に供給される形態となる。
【0074】
複数の微小溝17部分に刷り込まれるように塗りこまれた潤滑用ないし冷却用の液体は高速回転するブレード5に対して跳ね返されることはなく、また遠心力が働いても直ぐに吹き飛ばされることなく、複数の微小溝17に沿ってブレード5の周側面へ均一に供給される。
【0075】
毛細管構造部材20としての筆状部材等の一本の太さをブレード5の周側面に刻まれた微小溝17の溝幅と対応させることによって毛細管構造部材20の先端が、ある確立でブレード5の周側面における微小溝17に入り込む。これによって毛細管構造部材20に浸み込んだ潤滑用ないし冷却用の液体が微小溝17の部分にピンポイントで供給されるようになる。固体に滲みついた液体は、固体の間の界面張力によって広がるため、液体の表面張力が見かけ上低下して水滴などの塊になりにくくなる。結果的には毛細管構造材20に浸み込んだ液体は、そのまま界面張力によって面積を広げられたまま、ブレード5の周側面に移送されることになる。
【0076】
図4(a)に示すように、ブレード5の周側面には微小溝17が刻設されている。毛細管構造部材20を構成する線状・糸状の部材は、その微小溝17に入り込むように適度に撓ませられている。撓ませられた線状・糸状の部材は曲げ応力により一定圧力で自動的に低い微小溝17内に入り込み、その入り込んだ線状・糸状の部材により奥まった溝内であっても確実に液体を搬送し、その微小溝17内に供給することができる。また、微小溝17が切られていることにより、その微小溝17から線状・糸状の部材は大きくそれることはなく、微小溝17に沿って塗りこむようになる。
【0077】
なお、その微小溝17は、形状的にぎざぎざであってもよいが、この場合、液体に対する一定のガイドを設ける目的であるため、表面のコーティング等により濡れ性を交互に変化させた形であってもよい。
【0078】
また、微小溝17内に刷り込まれた液体は、図4(b)に示すように、溝周囲に囲まれて液体eが存在することになり、たとえ遠心力が働いたとしても接触する表面積が広いため、大きい界面張力が作用し、直ぐに吹き飛ばされることはない。そして、図4(c)に示すように、周方向の液体e同士が結びついて、必ず一定の液膜が形成されることになる。それにより、ブレード5が熱を持った際に、液体eが蒸発することによって、効果的に気化熱によってブレード5の熱を奪い去り、ブレード5の熱が上昇することなく、低い温度のままで切削加工が進行する。
【0079】
上記のように、潤滑用ないし冷却用の液体は多量に使用せず極少量で切削加工点に対する潤滑や冷却が行われる。また、低摩擦力でスムーズに切削加工が進むため、ワークであるウェハWが熱変形したり過剰な摩擦力によってウェハWが剥がれたりといったことはない。また、ブレード5とウェハW間の過剰な摩擦により、ブレード5の磨耗が早期に進展することが防止される。
【0080】
そして、使用する潤滑用ないし冷却用の液体が高い粘性をもつものであったとしても、毛細管現象によって毛細管構造部材20内を均一に分散させ、毛細管構造部材20という固体からブレード5という固体へ液体を移送する際に、固体と液体の間に作用する界面張力を利用しながら、潤滑用ないし冷却用の液体を供給する点でスムーズで連続的且つ最小限に液体の供給を行うことができ、過剰に液体を必要とせず殆ど無駄のない液体供給が可能となる。
【0081】
上述したように、本実施例に係るブレード潤滑機構を有するダイシング装置においては、潤滑用ないし冷却用の液体を毛細管構造部材20の先端からブレード5の周側面に塗りつけるように薄く引き延ばして連続的に供給することにより、極少量の液体で切削加工点に対する潤滑や冷却を行うことができる。
【0082】
潤滑用ないし冷却用の液体をブレード5周側面に効率的に薄く引き延ばして供給することにより、供給された液体の蒸発を促進し蒸発による気化熱によりブレード5周側面とウェハWの摩擦点で起こる摩擦熱を取り除くことができる。
【0083】
使用する潤滑用ないし冷却用の液体が高い粘性をもつものであったとしても、毛細管現象によって毛細管構造部材20内を均一に分散させ、毛細管構造部材20という固体からブレードという固体へ液体を移送する際に、固体と液体の間に作用する界面張力を利用して潤滑用ないし冷却用の液体をスムーズで連続的且つ最小限にブレード5周側面に供給することができる。
【0084】
ブレード5の両周側面がスペース的に少し入り組んだ部分にあったとしても毛細管構造部材20を撓ませながら、その先端部をブレード5の両サイドからブレード5の両周側面にまで伸ばして配置することで、潤滑用ないし冷却用の液体は、ノズルで供給する場合の吐出圧や重力などに影響されることなく、液体そのものの表面張力により毛細管構造部材20を伝いながら、必要量の液体を高速回転するブレード5両周側面に滑らかに移送し供給することができる。
【0085】
毛細管構造部材20を具体的には、刷毛状部材、筆状部材もしくは発泡体部材のいずれかで構成することで、毛細管現象によって極少量の液体を高速回転するブレード5の周側面に滑らかに移送し供給することができる。
【0086】
毛細管構造部材20にすると、毛細管構造部材20の中に微小な連通した空間が形成される。極少量の液体は、その空間内を個液間に作用する界面張力で生まれる毛細管現象により、自動的に空間内の液体を移送することが可能となる。例えば、刷毛状部材や筆状部材でも複数の線状部材を束ねて形成することで、その線状部材間に微小な連通した空間が形成され、毛細管現象によって液体を均一化するとともに、自動的に移送することが可能となる。
【0087】
毛細管現象によって微量の液体を移送する場合、重力の影響を殆ど受けずに液体を移送することが可能となるため、本実施例に係るダイシング装置のブレード潤滑機構においては、縦型ブレード5の側面部分であっても潤滑液を重力方向にそのまま垂らすことなく、ブレード5側面に良好に塗布することが可能となる。
【0088】
こうした刷毛状部材、筆状部材としては、例えば、ポリエステル素材の線材や綿などの繊維なども好適に使用できる。また、一般の筆で使用される毛の部材であってもかまわない。軟らかい線状部材などを使用すれば、高速で回転するブレード側面に接触したとしてもブレード側面を過度に損傷させることはなく、またブレード5を回転させるエアースピンドルに大きな負荷を与えることもない。
【0089】
しかし一方、縦方向に回転するブレード5の側面に液体を供給する場合、例えば線状部材等でできた隙間に存在する液体にかかる重力や、高速に回転するブレード5の影響で、確実にブレード側面に供給できない場合がある。こうしたことから、ブレード5方向にガイドする剛性のあるガイド部材22で、軟らかい線状部材をブレード5近くまで案内し、軟らかい線状部材の先端付近をブレード5に接触させるようにするのが望ましい。
【0090】
線状部材の代わりにPVAスポンジ等の毛細管構造部材20なども好適に使用されるが、こうした発泡性の部材も軟質であるため、剛性のある基材でブレード付近まで案内し、毛細管構造部材20の先端部のみをブレードと接触させればよい。なお、ここで接触としているが、別に接触させなくともよい。個体である毛細管構造部材20から、他方の固体であるブレード5側面へ、液滴が形成されない程度、即ち、固体と液体間に作用する界面張力によって、両方の個体間(ここでは、毛細管構造部材とブレード間)でスムーズに液体(潤滑液)が受け渡しできる程度の距離まで近接している状態であってもよい。
【0091】
一方、通常ブレードダイサーは、引用文献にあるとおり、多くの水を供給しながら加工するため、一般にウェット加工とされている。しかし、最近ではLow−k材料などのポーラスな低誘電率の膜材料では、水をかけながら加工する。ウェット加工の場合、膜が水を吸収するために膜の特性が変化(Low−k材料の場合は誘電率が変化)するといった問題がある。そのため、Low−k材料などでは、通常ウェット加工はできず、即ちブレードを利用した加工はできず、レーザーなどを用いたドライ加工が必要とされていた。
【0092】
本実施例に係るダイシング装置のブレード潤滑機構によれば、ブレード5を用いたダイシング加工であっても、ブレード側面に液体を薄く塗るだけで、その他ウェハ領域等に液体を供給せずに済む。またブレード5側面に供給された液体も非常に薄く塗られているために、すぐに気化して、ブレード5側面の熱を気化熱として奪い去る。その結果、ブレード5側面が発熱することはなく安定して加工ができる他、ウェハW表面、特に切断予定ライン(スクライブライン)以外のチップ内部に液体が触れことは全くない。そのため、殆どドライ加工を行うことができる。
【0093】
そうしたことから、本実施例に係るダイシング装置のブレード潤滑機構を利用することで、ドライ加工として従来レーザ加工が用いられてきたLow−k材料などであっても、ブレードによって切断することができる。
【0094】
次に、機械加工においてドライ加工とする場合、切断材料がシリコンなどのように硬脆性材料であって金属材料のような導電性はない部材で、切断するブレードも絶縁性の材料である場合、加工中に絶縁体同士が擦れあうために、時としてブレード5本体に静電気が溜まり、切断加工を進める中で、ウェハW表面とブレード5間で放電して、ウェハW内のチップを駄目にする場合や、静電気によってウェハWをワークテーブル4から取り外しできなくなったりする場合がある。
【0095】
こうした場合であっても、本実施例に係るダイシング装置のブレード潤滑機構において、ブレード5に液体を供給する線状部材としてカーボンファイバーなどを使用するとよい。カーボンファイバーを束ねてブレード側面に接触させて、そのカーボンファイバーに潤滑用の液体を染み込ませてブレード5側面に液体を供給してもよい。カーボンファイバーの場合、電気伝導度が良いため、ブレード5が切断加工時の擦れによって帯電したとしても、直ぐさまカーボンファイバーを伝って、除電され、ブレード5に静電気が溜まることはない。
【0096】
カーボンファイバー以外でも導電性の軟らかい部材を使用することで、ブレード5に溜まる静電気を効率よく取り去りつつも、潤滑性の液体を効率よくブレード5側面に供給することが可能となる。
【0097】
ブレード5の周側面に複数の微小溝17を同心円状に形成したことで、潤滑用ないし冷却用の液体が、その複数の微小溝17に沿って効率よく塗られる形で供給されて高速回転するブレード5に対し跳ね返されることなく、また遠心力で吹き飛ばされることなく該液体をワークであるウェハWと擦れるブレード5周側面に無駄なく確実に移送し供給することができる。
【0098】
同心円状の複数の微小溝17に刷り込まれた潤滑用ないし冷却用の液体は、ブレード5が高速回転することにより、遠心力によって周方向の均一性を保ちながら、徐々にブレード5の外側に移動し、ブレード5周側面に薄い潤滑皮膜を形成することができる。この結果、低摩擦力でスムーズに切削加工を進めることができてワークであるウェハWが熱変形したり過剰な摩擦力によってウェハW上の被加工物が剥がれたりすることはない。したがって、ウェハW上にLow−k材などの機械的強度が低い低誘電率の材料ないしは、それらの複合的な材料が存在しても安定して切削加工をすることができる
ブレード5とウェハW間の過剰な摩擦によりブレード5の磨耗が早期に進展することが防止されてブレード5の長寿命化を図ることができる。
【0099】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0100】
潤滑用ないし冷却用の液体をブレード周側面に薄く引き延ばして供給することにより極少量の液体で切削加工点に対する潤滑や冷却を効率よく行い、潤滑用ないし冷却用の液体が高い粘性をもっていても途切れることなく安定して且つ、連続的にブレード周側面にピンポイントで供給し、必要以上に無駄な潤滑用ないし冷却用の液体を用いることなくブレード周側面に該液体を効率的に薄く引き延ばすように供給することにより液体を蒸発させやすくして気化熱による熱の発散を促すとともにブレード周側面とワークの摩擦点で起こる摩擦熱を取り除くことが不可欠な実装基板等の切断加工にも広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0101】
1 ダイシング装置
2 方形匡体
3 開口部
4 ワークテーブル
5 ブレード
6 ワークテーブル送り機構
7 スピンドル移動機構
8 ガイドレール
9 スピンドル
10 ワーク切削加工部
11 ワーク交換部
12 オイルパン
13 排水口
14 排水機構
15 排気口
16 排気機構
17 微小溝
18 フランジカバー
19 液体供給管(液体供給手段)
20 毛細管構造部材
21 潤滑機構
22 ガイド部材
23 ドレッサ
W ウェハ(ワーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所要の回転速度で回転するブレードにより、該ブレードに対し相対移動するワークに個片化用の切削を施すとともに前記ブレードの周側面に潤滑用ないし冷却用の液体を供給する潤滑機構を備えたダイシング装置のブレード潤滑機構において、
前記潤滑機構は、適宜の液体供給手段から潤滑用ないし冷却用の液体供給を受け、該供給を受けた潤滑用ないし冷却用の液体を毛細管現象により前記ブレードの周側面に移送させる毛細管構造部材で構成したことを特徴とするダイシング装置のブレード潤滑機構。
【請求項2】
上記毛細管構造部材は、上記ブレードの両周側面に対して設けたことを特徴とする請求項1記載のダイシング装置のブレード潤滑機構。
【請求項3】
上記毛細管構造部材は、刷毛状部材、筆状部材もしくは発泡体部材のいずれかで構成したことを特徴とする請求項1又は2記載のダイシング装置のブレード潤滑機構。
【請求項4】
上記ブレードの両周側面における所要幅の環状領域には、それぞれ同心円状の複数の微小溝を形成したことを特徴とする請求項1,2又は3記載のダイシング装置のブレード潤滑機構。
【請求項5】
上記毛細管構造部材の先端部を上記ブレードの周側面にガイドする剛性材製のガイド部材を設けたことを特徴とする請求項1,2,3又は4記載のダイシング装置のブレード潤滑機構。
【請求項6】
ワークを切断加工するダイシング装置のブレード潤滑機構において、
前記ワークに対して相対的に移動しながら回転して前記ワークを切断する円形ブレードと、該円形ブレードの周側面に接触する毛細管構造部材と、該毛細管構造部材にブレード潤滑用の液体を供給する液体供給手段とを有し、切断加工中に前記毛細管構造部材を介して毛細管現象により前記ブレード周側面に潤滑用の液体を供給することを特徴とするダイシング装置のブレード潤滑機構。
【請求項7】
ワークに対し相対的に移動しながら所要の回転速度で縦方向に回転し、前記ワークに個片化用の切削を施すブレードの周側面に潤滑用ないし冷却用の液体を供給するダイシング装置のブレード潤滑方法において、
毛細管構造部材の一端側で液体供給手段から受けた前記潤滑用ないし冷却用の液体を毛細管現象により当該毛細管構造部材の他端側に移送させ、該毛細管構造部材の他端側を、前記ブレードの周側面に接触させるかないしは当該毛細管構造部材に含まれた前記潤滑用ないし冷却用の液体が接触する程度に近接させて該潤滑用ないし冷却用の液体をブレードの周側面に供給することを特徴とするダイシング装置のブレード潤滑方法。
【請求項8】
上記毛細管構造部材は、上記ブレードの両周側面に対して設けたことを特徴とする請求項7記載のダイシング装置のブレード潤滑方法。
【請求項9】
上記ブレードの両周側面における所要幅の環状領域には、それぞれ同心円状の複数の微小溝を形成したことを特徴とする請求項7又は8記載のダイシング装置のブレード潤滑方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−84811(P2013−84811A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224281(P2011−224281)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【Fターム(参考)】