説明

ダイソート用シートおよび接着剤層を有するチップの移送方法

【課題】裏面にタックを有する接着剤層を有するチップであっても、安定した状態で収容および移送できるダイソート用シートを提供すること、ならびに、ダイソート用シートにより接着剤層を有するチップを安定した状態で収容および移送できる方法を提供する。
【解決手段】ダイソート用シート10は、キャリアシートの外周部13に粘着剤層11が表出され、外周部13の内側である央部14に基材フィルム12が表出されてなる接着剤層61を有するチップ80の移送方法は、外周部13の粘着剤層11を介して枠体で固定されているダイソート用シート10を用意し、ピックアップされたチップ80の接着剤層61を、ダイソート用シート10に表出される基材フィルム12に仮着し、接着剤層61を介してチップ80が仮着されたダイソート用シート10を次工程に移送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイソート用シートおよび接着剤層を有するチップの移送方法に関する。より詳しくは、本発明は、接着剤層を有するチップを仮着するダイソート用シート、および該ダイソート用シートにより接着剤層を有するチップを移送する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程の一つに、所要の前処理を経て回路が形成された半導体ウェハを複数個のチップに切断分離するダイシング工程がある。この工程では、リングフレームと呼ばれる円形または方形の枠に、半導体ウェハ固定用のダイシングシートを貼着し、このダイシングシートに半導体ウェハを貼付し、回路毎にダイシングし、半導体チップとする。その後、ボンディングマシンによるエキスパンド工程に続いて、たとえばエポキシ樹脂等のダイボンド用接着剤をチップ用基板のパッド部に塗布して、半導体チップをチップ用基板に接着するダイボンディング工程が行われる。さらに、ワイヤボンディング工程や検査工程などを経て、最終的にモールディング工程で樹脂封止を行い、半導体装置が製造される。
【0003】
一方、個片化された半導体チップをダイボンドせずに、収容・搬送することもある。なお、この場合はアウトラインにてダイボンディング工程が行われる。
このような半導体チップの収容・搬送には、熱可塑性樹脂シートにポケット状凹部をエンボス加工により形成した、リール状のエンボスキャリアテープやチップトレイなどが用いられている。この凹部に半導体チップを収容後、カバーシートで被覆して、半導体チップを電子装置に組み込むまで保管・搬送する。このようなエンボスキャリアテープを用いる事によりダイシング工程後、良品のみを選り分けて出荷することができ、更に1枚の半導体ウェハから複数の工場への出荷も可能となる。
【0004】
しかしながら、半導体装置ではホコリ・汚れなどが不具合を起こす原因となるため、半導体チップが搬送された場所で、これを使用する前に水洗浄することもある。エンボスキャリアテープを用いたときは、再度ダイシングテープなどに固定し洗浄する必要があるため、大変非効率的である。
【0005】
これに対して、熱剥離テープや汎用ダイシングテープなどの粘着テープを用いて半導体チップをマウントし、半導体チップを収容・搬送するという手法も用いられている(特許文献1)。この場合は、粘着テープの粘着剤層に半導体チップが貼付され、保管・搬送される。
【0006】
このようなエンボスキャリアテープまたは汎用ダイシングテープなどを利用した半導体チップの収容・搬送方法は、上述したように、ダイボンディング工程前、すなわち、裏面に接着剤が塗布されていない半導体チップに対して用いられていた。
【0007】
これに対して、近年ダイボンディング時に接着剤の塗布作業を行なうのは極めて煩雑であるため、ウェハ固定用感圧接着剤とダイボンド用接着剤とを兼用する性能を有する接着剤層を備えたダイシングシートが開発されている(たとえば特許文献2参照)。この接着剤層は、ダイシング工程に先立ちウェハ裏面に貼付され、ウェハとともにチップサイズにダイシングされ、さらに、チップをピックアップすることによりチップの裏面に当該接着剤層を有する構造となる。
【特許文献1】特開2000−95291号公報
【特許文献2】特開平2−32181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この用途に用いられる接着剤としては、ダイシング工程でウェハ(チップ)を固定できるようにある程度のタック(付着性)を有している。このような裏面にタックを有する半導体チップをエンボスキャリアへ収容した場合、該タックにより半導体チップがエンボスキャリアへ付着する。このため、次工程で、凹部から半導体チップを取り出すことは困難であり、さらに取り出した場合も、チップ裏面の接着剤層が変形しているという問題があった。このような半導体チップを用いて製造された半導体装置では高い信頼性は得られない。
【0009】
また、上記半導体チップを別の汎用ダイシングテープに収容する場合は、このダイシングテープの粘着剤に半導体チップの接着剤層が固着してしまい、次工程でのピックアップが困難になるという問題があった。また、ピックアップする際に、ダイシングテープの粘着剤がチップ裏面の接着剤層に付着して汚染することがある。したがって、この場合も製造された半導体装置の信頼性は低下する。
【0010】
なお、上記のような問題は、半導体ウェハから得られるチップに限られず、例えば光学素子チップなどあらゆるチップ状物品においても懸念される。
したがって、本発明の目的は、裏面にタックを有する接着剤層を有するチップであっても、安定した状態で収容および移送できるダイソート用シート、ならびに、該ダイソート用シートにより接着剤層を有するチップを安定した状態で収容および移送できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意研究した結果、特定のダイソート用シートにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係るダイソート用シートは、
接着剤層を有するチップを仮着するダイソート用シートであって、
上記ダイソート用シートの外周部に粘着剤層が表出され、上記外周部の内側である央部に基材フィルムが表出されてなることを特徴とする。
【0012】
上記ダイソート用シートは、基材フィルムの外周部に粘着剤層を積層してなることが好ましい。
また、上記ダイソート用シートは、支持フィルム上に同形の粘着剤層を積層し、該粘着剤層の央部に基材フィルムを積層してなることが好ましい。
【0013】
本発明に係る接着剤層を有するチップの移送方法は、
基板の一方の面に、接着剤層と基材とからなるダイシング・ダイボンド兼用接着シートを貼付し、
上記基板をチップ毎に、上記接着剤層とともにフルカットダイシングを行い、
裏面に上記接着剤層を有するチップを上記基材からピックアップし、
別途、上記外周部の粘着剤層を介して枠体で固定されている上記ダイソート用シートを用意し、
上記ピックアップされたチップの接着剤層を、上記ダイソート用シートに表出される基材フィルムに仮着し、
上記接着剤層を介して上記チップが仮着されたダイソート用シートを次工程に移送すること
を特徴とする。
【0014】
上記接着剤層を有するチップの移送方法は、複数の上記ピックアップされたチップの接着剤層を、上記ダイソート用シートに表出される基材フィルムに互いに離間するように仮着することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のダイソート用シートを用いた、接着剤層を有するチップの移送方法によれば、接着剤層を有するチップであっても、安定した状態で収容および移送できる。収容および移送後の次工程において、ダイソート用シートに仮着したチップを再びピックアップする際も、チップの接着剤層は汚染されず、変形しない。このため、再びピックアップされたチップを用いれば、信頼性の高い半導体装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。
〔ダイソート用シート〕
本発明に係るダイソート用シートは、接着剤層を有するチップを移送等するために仮着するダイソート用シートであって、上記ダイソート用シートの外周部に粘着剤層が表出され、上記外周部の内側である央部に基材フィルムが表出されてなることを特徴とする。
【0017】
上記ダイソート用シートとして、具体的には、図1に斜視図、図2に断面図を示すように、基材フィルム12の外周部に粘着剤層11を積層してなるダイソート用シート10が好適に用いられる。このように、ダイソート用シート10の外周部13に粘着剤層11が表出され、上記外周部の内側である央部14に基材フィルム12が表出されている。
【0018】
基材フィルム12としては、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルムなどの樹脂フィルムが用いられる。
【0019】
基材フィルム12の厚さは、好ましくは10〜1000μm、より好ましくは20〜800μmである。
また、基材フィルム12のチップを搭載する側の面の表面張力は、好ましくは40mN/m以下、より好ましくは35mN/m以下であることが望ましい。本発明のダイソート用シート10を使用するときは、基材フィルム上に、接着剤層が形成されたチップを該接着剤層を介して仮着する。上記表面張力を有する基材フィルムであれば、安定してチップを収容・移送できる。また、このような基材フィルムを用いると、半導体チップの接着剤層との剥離性が向上し、次工程での再ピックアップが行いやすくなる。さらに、基材フィルムが接着剤層を完全に覆っているため接着剤層が汚染されないこと、また剥離性が向上しているので剥離操作による接着剤層の変形が起きないことにより、信頼性の高い半導体装置が製造できる。
【0020】
表面張力が上記範囲にある基材フィルム12は、材質を適宜に選択して得られ、また、樹脂フィルムの表面にシリコーン樹脂等を塗布する離型処理によっても得られる。
粘着剤層11は、例えば図2に示すように、芯材フィルム11bの両面に粘着剤層11a、11cを設けた両面粘着シートで形成される。このような両面粘着シートは、粘着剤層11aでリングフレーム50に貼着し固定されるとともに、粘着剤層11cで基材フィルム12と接着一体化される。チップの収容、移送あるいはピックアップの操作で必要とされる接着力がそれぞれ異なるため、上記両面粘着シートを用いれば、それぞれ最適な接着力を有する粘着剤層(粘着剤層11a、11c)を選択できる利点がある。
【0021】
また、粘着剤層11は、本発明の移送方法に用いられるリングフレーム50に固定可能
な大きさを有する。リングフレーム50は、通常金属製またはプラスチック製の成形体であり、リングフレーム50の開口部51の内径寸法は、半導体チップを仮着するための、基材フィルムが表出した央部よりも幾分大きいことはいうまでもない(図6参照)。またリングフレーム50の外周の一部にはガイド用の平坦切欠部52が形成されている。なお、後述するように、本発明の移送方法において、このリングフレーム50は、下面がダイソート用シート10の粘着剤層11に貼付される(図10参照)。本明細書において、粘着剤層11に貼付される面を「ダイソート用シート接着予定面53」という。粘着剤層11の大きさの説明に戻ると、粘着剤層11の大きさは、粘着剤層11をリングフレーム50のダイソート用シート接着予定面53に固定できる程度の大きさであればよく、具体的には、開口部51の径よりも、粘着剤層11の外径が大きければよい。
【0022】
芯材フィルム11bとしては、基材フィルム12と同様の樹脂フィルムが使用可能であり、ポリエチレンテレフタレートフィルムのような比較的剛性の高いフィルムを用いれば、ダイソート用シート10の製造時の寸法安定性が良好となるため好ましい。
【0023】
芯材フィルム11bの厚さは、好ましくは10〜500μm、より好ましくは30〜200μmである。
粘着剤層11a、11cは、たとえば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、エマルジョン系粘着剤などから形成される。これらのうちで、アクリル系粘着剤が好ましい。粘着剤層11a、11cは同じ粘着剤で形成されていてもよいが、基材フィルム12に面する側の粘着剤層11cが強粘着性を有する粘着剤からなり、リングフレーム50に面する側の粘着剤層11aが再剥離性を示す粘着剤からなる構成が好ましい。
【0024】
粘着剤層11a、11cの厚さは、それぞれ好ましくは1〜100μm、より好ましくは3〜80μmである。
本発明のダイソート用シート10は、たとえば、以下のようにして製造される。
【0025】
まず、粘着剤層11を形成する両面粘着シートは、その両面にシリコーン系剥離剤等で処理が施された剥離フィルムが積層された形で準備しておく。粘着剤層11a、11cが異なる粘着剤からなる両面粘着シートを用いる場合は、軽剥離タイプの剥離フィルムは先に剥離されるので、基材フィルム12に積層する粘着剤層11cの表面に軽剥離タイプの剥離フィルムを積層し、リングフレーム50に貼付する粘着剤層11aの表面に重剥離タイプの剥離フィルムを積層しておく。このように、軽剥離タイプ・重剥離タイプのように剥離差を付けて構成すれば、ダイソート用シート10の作製時の作業性が向上できる。
【0026】
次に、粘着剤層11は基材フィルム12に積層される前に、打ち抜き等の手段で略円形に切断除去する。このとき、粘着剤層11および軽剥離タイプの剥離フィルムのみを打ち抜き、重剥離タイプの剥離フィルムは完全に打ち抜かないようにすれば、重剥離タイプの剥離フィルムが粘着剤層11のキャリアとなる。これにより、その後の加工もroll-to-rollで連続して行えるので好ましい。
【0027】
続いて、残りの軽剥離タイプの剥離フィルムと打ち抜かれた粘着剤層11の内側円形部分を剥離し除去しながら基材フィルム12に積層する。
次いで、粘着剤層11の切断除去された部分と略同心円状に、かつ貼付するリングフレーム50の径に合わせて粘着剤層11の外周を打ち抜く。このときも重剥離タイプの剥離フィルムのみは打ち抜かないようにしておくことが好ましい。すなわち、図1、2に示す構成において、予め基材フィルム12および粘着剤層11をリングフレーム50の径に合わせて外周も切断除去しておく。予めリングフレーム50と同形状にカットすることにより、リングフレーム50にダイソート用シート10を貼付する際、カッターでダイソート用シート10を切除する工程を行わずに済む。このようにしてダイソート用シート10が
得られる。
【0028】
また、後述する本発明の移送方法においては、図6に示すリングフレーム50に限定されず、従来用いられている種々の形状の枠体が用いられる。したがって、本発明のダイソート用シートも、図1、2に示す形状に限定されず、上記枠体に対応する形状であってもよい。たとえば、枠体が方形であるときは、ダイソート用シートも方形であってもよい。さらに、ダイソート用シート10の央部14すなわち除去された粘着剤層11の形状も任意に変更できる。
【0029】
また、上記粘着剤層は、芯材フィルムを有さない1層または2層の粘着剤からなるものであってもよい。芯材フィルムがない場合は、粘着剤層の厚みを薄くすることができるのでダイソート用シートの厚みの段差が小さく、ロール状態で保管した後の巻き跡がつきにくいという利点を有する。
【0030】
また、図3に示すように、図2に例示するダイソート用シート10とは逆に、基材フィルム22の下面に粘着剤層21が積層されたダイソート用シート20が用いられても良い。すなわち、ダイソート用シート20の下面側外周部23に粘着剤層21が表出し、上面側でその央部24に基材フィルム22が表出する(図3参照)。後述するように、この場合は、基材フィルム24の上面が半導体チップ80を仮着収容する面である(図11参照)。
【0031】
また、粘着剤層21は、芯材フィルム21bの両面に粘着剤層21a、21cを設けた両面粘着シートであり、ダイソート用シート10の場合と同様に、本発明の移送方法に用いられるリングフレーム50に固定可能な大きさを有する。芯材フィルム21bは上述した粘着剤層11bと同様であり、粘着剤層21a、21cは上述した粘着剤層11a、11cと同様である。
【0032】
ダイソート用シート20は、チップを仮着する面とリングフレームに固定するための粘着剤層が設けられる面が異なるため、粘着剤層21と基材フィルム22のキーイング(層間の密着力)やチップを仮着するために必要な表面物性を、それぞれ最適な状態に制御することが可能となる。
【0033】
また、上記ダイソート用シートとして、具体的には、図4に斜視図、図5に断面図を示すように、支持フィルム42b上に同形の粘着剤層42aを積層し、該粘着剤層の央部に基材フィルム41を積層してなるダイソート用シート40も好適に用いられる。このように、ダイソート用シート40の外周部43に粘着剤層42aが表出され、上記外周部の内側である央部44に基材フィルム41が表出されている。また、図5と同じ積層順であって、支持フィルム42bよりも粘着剤層42aおよび基材フィルム41が大径であり、粘着剤層42aが基材フィルムの41の下面側の外周部に表出した構成であってもよい。
【0034】
また、支持フィルム42bおよび粘着剤層42aとしては、汎用ダイシングテープ42を用いてもよいが、これに限られない。
基材フィルム41及び支持フィルム42bとしては、上記基材フィルム12と同様の樹脂フィルムから適宜選択できる。基材フィルム41の厚さは、好ましくは1〜200μm、より好ましくは5〜100μmであり、支持フィルム42bの厚さは、好ましくは10〜500μm、より好ましくは30〜300μmである。基材フィルム41のチップを搭載する側の面の好ましい表面張力の範囲は、上記基材フィルム12と同様である。
【0035】
粘着剤層42aとしては、上記粘着剤層11aと同様の粘着剤が用いられる。粘着剤層42aの厚さは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは3〜80μmである。
また、粘着剤層42aは、表出する部分がリングフレーム50に固定可能な大きさを有する。すなわち、表出する部分の粘着剤層42aの大きさは、粘着剤層42aをリングフレーム50のダイソート用シート接着予定面53に固定できる程度の大きさであればよく、具体的には、開口部51の径よりも、粘着剤層42aの外径が大きければよい。また、半導体チップを仮着するための基材フィルム41は、リングフレーム50の開口部51の内径寸法よりも幾分小さい。
【0036】
このようなダイソート用シート40の製造方法としては、まず、支持フィルム42bと粘着剤層42aよりなる粘着シートを用意し、粘着剤層42a上に所定の形状にカットされた基材フィルム41を貼付する。次に、基材フィルム41及び粘着剤層42aの側の面を剥離フィルムで覆うように積層する。続いて、支持フィルム42b側より剥離フィルムまで打ち抜かないようにして支持フィルム42b及び粘着剤層42aを所定の外形に打ち抜き、作成される。
【0037】
また、支持フィルム42bと粘着剤層42aよりなる粘着シートの粘着剤層42a上に基材フィルム41を積層し、次に、粘着剤層42aが打ち抜かれないように基材フィルム41を所定の形状に打ち抜き外周部分を除去する。続いて、剥離フィルムの積層と外形の打ち抜きを上記と同様に行うことでダイソート用シート40を作製してもよい。
【0038】
〔接着剤層を有するチップの移送方法〕
以下、本発明の接着剤層を有するチップの移送方法を説明するが、基板として半導体ウェハを用いた場合、すなわち、接着剤層を有する半導体チップの移送方法について述べる。なお、本発明の移送方法には、半導体ウェハに限られず、ガラス基板などの基板を用いてもよい。また、ダイソート用シートとして図2に例示するダイソート用シート10を用いた場合について説明する。なお、本発明の接着剤層を有するチップの移送方法では、上述したいずれのダイソート用シートを用いてもよい。
【0039】
接着剤層を有する半導体チップの移送方法では、まず、半導体ウェハの裏面に、接着剤層と基材とからなるダイシング・ダイボンド兼用接着シートを貼付し、
上記半導体ウェハをチップ毎に、上記接着剤層とともにフルカットダイシングを行い、裏面に上記接着剤層を有する半導体チップを上記基材からピックアップする。
【0040】
具体的には、まず、図7に示すように、接着剤層61と基材62とからなるダイシング・ダイボンド兼用接着シート60を用意する。このダイシング・ダイボンド兼用接着シート60は、基材62上に接着剤層61が剥離可能に積層された構成であり、本発明に用いるまで、接着剤層61を保護するために接着剤層61の上面に剥離フィルムを積層しておいてもよい。剥離フィルムとしてはポリエチレンテレフタレート等のフィルムにシリコーン樹脂等の剥離剤で剥離処理を施した汎用の剥離フィルムが使用可能である。
【0041】
このようなダイシング・ダイボンド兼用接着シート60の製造方法は、特に限定されず、基材62上に、接着剤層61を構成する組成物を塗布乾燥することで製造してもよく、また接着剤層61を剥離フィルム上に設け、これを基材62に転写することで製造してもよい。また、接着剤層61の表面外周部には、リングフレームを固定するためのリングフレーム固定用粘着シートが設けられていてもよい。
【0042】
次いで、図8に示すように、ダイシング・ダイボンド兼用接着シート60をダイシング装置上に、リングフレーム50により固定し、半導体ウェハ70の一方の面をダイシング・ダイボンド兼用接着シート60の接着剤層61上に載置し、軽く押圧し、半導体ウェハ70を固定する。
【0043】
その後、接着剤層61がエネルギー線硬化性を有する場合には、基材62側からエネルギー線を照射し、接着剤層61の凝集力を上げ、接着剤層61と基材62との間の接着力を低下させておく。なお、エネルギー線照射は、ダイシングの後に行ってもよく、また下記のエキスパンド工程の後に行ってもよい。
【0044】
次いで、ダイシングソーなどの切断手段を用いて、図9に示すように、半導体ウェハ70を回路毎に切断し半導体チップ80を得る。この際の切断深さは、半導体ウェハ70の厚みと、接着剤層61の厚みとの合計およびダイシングソーの磨耗分を加味した深さにし、半導体ウェハ70とともに接着剤層61も切断する。
【0045】
次いで、必要に応じ、ダイシング・ダイボンド兼用接着シート60のエキスパンドを行うと、半導体チップ間隔が拡張し、半導体チップ80のピックアップをさらに容易に行えるようになる。この際、接着剤層61と基材62との間にずれが発生することになり、接着剤層61と基材62との間の接着力が減少し、半導体チップ80のピックアップ性が向上する。
【0046】
このようにして半導体チップ80のピックアップを行うと、切断された接着剤層81を半導体チップ80裏面に固着残存させて基材62から剥離することができる。すなわち、裏面に接着剤層81を有する半導体チップ80がピックアップされる。
【0047】
次に、上記とは別に、上記外周部13の粘着剤層11を介してリングフレーム50で固定されているダイソート用シート10を用意する。
次に、上記ピックアップされた半導体チップ80の接着剤層81を、ダイソート用シート10の央部14に表出した基材フィルム12に仮着する(図10参照)。半導体チップの仮着は、通常のダイボンド装置を使用により行うことができる。接着剤層81はダイボンドが可能な程度にはタックを有しているので、半導体チップ80は、ダイソート用シート10に表出した基材フィルム12に脱落しない程度に接着(仮着)することができる。仮着の状態が不安定である場合は、仮着条件(温度、圧力など)を設定し直すことで安定な仮着状態にすることができる。このとき、本発明によれば、任意数量の半導体チップ80を仮着して収納できるため、所望の数量ごと、異なる場所に移送することができる。また、半導体チップ80は、ダイソート用シート10に表出した基材フィルム12に仮着されているため安定して収容・移送される。
【0048】
次に、接着剤層81を介して半導体チップ80が仮着されたダイソート用シート10を次工程に移送する。
次工程としては、ダイボンド工程などが挙げられる。本発明によれば、汎用ダイシングテープ等の粘着テープと異なりチップを収容する領域に粘着剤層を有しないため、裏面に接着剤層81が形成された半導体チップ80であっても、ダイボンド工程では、接着剤層81が変形することなく容易に再びピックアップできる。さらに、接着剤層81が粘着テープの粘着剤で汚染されないため、信頼性の高い半導体装置が製造できる。
【0049】
また、上記ダイソート用シートとして、ダイソート用シート10に限られず、ダイソート用シート20、40のいずれを用いてもよい。ダイソート用シート20を用いる場合は、図11に示すように、外周部23の粘着剤層21を介してリングフレーム50で固定しておく。次いで、ピックアップされた半導体チップ80をダイソート用シート20の央部24に表出される基材フィルム22に仮着し、次工程に移送する。また、ダイソート用シート40を用いる場合は、図12に示すように、外周部43の粘着剤層42aを介してリングフレーム50で固定しておく。次いで、ピックアップされた半導体チップ80をダイソート用シート40の央部44に表出される基材フィルム41に仮着し、次工程に移送する。
【0050】
また、半導体チップ80をダイソート用テープに仮着する前に、ダイシングされた半導体チップ80の動作を確認する検査工程を行ってもよい。この検査によって良品と判断された半導体チップ80のみを接着剤層81とともにピックアップし、ダイソート用テープに仮着、収容してもよい。これにより、良品のみを次工程で用いることができる。
【0051】
また、複数の上記ピックアップされた半導体チップ80の接着剤層81を、ダイソート用シート10に表出した基材フィルム12に、ピックアップ用装置のチップ検出用のカメラが個別のチップを認識可能となる程度に、互いに離間するように仮着してもよい。この場合は、次工程でチップを離間させるためのエキスパンド処理が不要となり、さらに容易に再ピックアップできる。離間する間隔は、チップサイズやカメラの精度、倍率にもよるが、50μm〜1mm程度とすることが好ましい。
【0052】
また、次工程として、ダイボンド工程などに先立って、保管、移送中に付着するゴミ(コンタミ)を除去するため、洗浄工程が行われてもよい。本発明においては、半導体チップ80はダイソート用シート10に仮着されているため、そのまま洗浄できる利点がある。
【0053】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
〔ダイソート用シートの製造〕
ブチルアクリレートを主成分としたアクリル共重合体(日本合成化学工業株式会社製、コーポニールN−3327)100重量部に対して、芳香族性ポリイソシアナート(日本ポリウレタン工業株式会社製コロネートL)2部、トルエン50部を加えて粘着剤溶液aを調製した。
【0055】
ブチルアクリレートを主成分としたアクリル共重合体(綜研化学株式会社製、SKダイン1811L)100重量部に対して、芳香族性ポリイソシアナート(綜研化学株式会社製、TD−75)5部、トルエン30部を加えて粘着剤溶液bを調製した。
【0056】
上記粘着剤溶液aをシリコーン処理された剥離フィルム(リンテック株式会社製、SP−PET3811(S))上に塗布し、乾燥(オーブンにて100℃1分間)した。このようにして厚み10μmの粘着剤層Aを作製した。また、上記粘着剤溶液bを用いて、上記と同様にして剥離フィルム上に厚み10μmの粘着剤層Bを作製した。
【0057】
次いで、芯材フィルムとしてエチレン−メタクリル酸共重合体フィルム(厚み90μm)を用い、この片面に粘着剤層Aを転写した。次いでもう一方の面に粘着剤層Bを転写し、両面粘着シートを得た。得られた両面粘着シートに対し、直径165mmの抜き加工(内側)を行った。
【0058】
基材フィルムとして低密度ポリエチレンフィルム(厚み100μm、表面張力31mN/m及び40mN/m)を用い、基材フィルムの低表面張力側の面に両面粘着シートの粘着剤層B側を貼付し、直径207mmの抜き加工(外側)を行った。このとき、内側の抜き加工で得られる円と外側の抜き加工で得られる円とが同心円となるようにして、図2のタイプのダイソート用シートを得た。
〔半導体チップの移送〕
接着剤層がタックを有するダイシング・ダイボンド兼用接着シート(リンテック製Ad
will LE5000)上に半導体ウェハ(ダミーウェハ、直径200mm)を貼付し、接着剤層ごとウェハをダイシングし、裏面に接着剤層を有する半導体チップ(5mm×5mmサイズ)を用意した。ダイボンド装置を用いて接着剤層付きの半導体チップをピックアップした。次いで、上記ダイソート用シートを外周部の粘着剤層を介してリングフレームで固定した。上記ピックアップされた半導体チップを上記ダイソート用シートに表出した基材フィルムに接着剤層を介して仮着した(図10参照)。合計100個の半導体チップを互いに300μm程度の間隔で離間するように格子状に配列して仮着した。
【0059】
この状態で、25℃で12時間保管した後、スピン洗浄機(ディスコ社製ウェハ研削装置、DFD651内ユニット)により回転数3000rpmで1分の水洗浄を行い、この時のチップ飛びの有無を確認した。続いて、ダイボンド装置を用いてダイソート用シートから10個の接着剤層付きの半導体チップのピックアップを4本ニードルによる突き上げにより行った。この時、吸着コレットが半導体チップを吸着保持できずダイソート用シートに残着したり、取りこぼしたものをピックアップ不良とし、この数を確認した。また、ダイソート用シートへの仮着からピックアップの間に発生するダイソート用シートのリングフレームからの脱落の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例2)
基材フィルムとしてエチレン−メタクリル酸メチル共重合体フィルム(厚み80μm、表面張力33mN/m及び40mN/m)を用いた以外は、実施例1と同様にしてダイソート用シートを得た。
【0061】
また、実施例1と同様にして、得られたダイソート用シートを用いて半導体チップの移送を行い、チップ飛びなどを評価した。結果を表1に示す。
(実施例3)
基材フィルムの高表面張力側の面に両面粘着シートを貼付した以外は、実施例1と同様にして図2のタイプのダイソート用シートを得た。
【0062】
また、実施例1と同様にして、得られたダイソート用シートを用いて半導体チップの移送を行い、チップ飛びなどを評価した。結果を表1に示す。
(実施例4)
上記粘着剤溶液aをシリコーン処理された剥離フィルム(リンテック株式会社製、SP−PET3811(S))上に塗布し、乾燥(オーブンにて100℃1分間)した。このようにして厚み10μmの粘着剤層Aを作製した。支持フィルムとしてエチレン−メタクリル酸共重合体フィルム(厚み90μm)を用い、この片面に粘着剤層Aを転写し、粘着テープを得た。
【0063】
基材フィルムとしてエチレン−メタクリル酸メチル共重合体フィルム(厚み100μm、表面張力33mN/m及び40mN/m)を用い、基材フィルムの高表面張力側の面に粘着テープの粘着剤層A面を貼合した。次に、基材フィルムのみをカットするように、直径165mmの抜き加工(内側)を行い外周部の除去を行った。さらに、露出した粘着剤層A及び基材フィルムの面に剥離フィルムを積層し、支持フィルム及び粘着剤層Aを直径207mmの抜き加工(外側)を行った。このとき、内側の抜き加工で得られる円と外側の抜き加工で得られる円とが同心円となるようにして、図5のタイプのダイソート用シートを得た。
【0064】
また、実施例1と同様にして、得られたダイソート用シートを用いて半導体チップの移送を行い(図11参照)、チップ飛びなどを評価した。結果を表1に示す。
(比較例1)
ダイソート用シートの代わりに再剥離粘着タイプの汎用ダイシングテープ(リンテック
社製Adwill G−19)を用いた以外は、実施例1と同様にして半導体チップの移送を行った。
【0065】
また、実施例1と同様にして、チップ飛びなどを評価した。結果を表1に示す。
(比較例2)
ダイソート用シートの代わりに、紫外線硬化粘着タイプの汎用ダイシングテープ(リンテック社製Adwill D−175)をリングフレームに貼付した後紫外線照射して粘着剤層を硬化したものを用いた。
【0066】
また、実施例1と同様にして、この紫外線照射後の汎用ダイシングテープを用いて半導体チップの移送を行い、チップ飛びなどを評価した。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、本発明のダイソート用シートの斜視図である。
【図2】図2は、図1のX−X線断面図である。
【図3】図3は、本発明のダイソート用シートの断面図である。
【図4】図4は、本発明のダイソート用シートの斜視図である。
【図5】図5は、図4のY−Y線断面図である。
【図6】図6は、リングフレームの斜視図である。
【図7】図7は、本発明の接着剤層を有するチップの移送方法を説明するための図である。
【図8】図8は、本発明の接着剤層を有するチップの移送方法を説明するための図である。
【図9】図9は、本発明の接着剤層を有するチップの移送方法を説明するための図である。
【図10】図10は、本発明の接着剤層を有するチップの移送方法を説明するための図である。
【図11】図11は、本発明の接着剤層を有するチップの移送方法を説明するための図である。
【図12】図12は、本発明の接着剤層を有するチップの移送方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0069】
10: ダイソート用シート
11: 粘着剤層
11a: 粘着剤層
11b: 芯材フィルム
11c: 粘着剤層
12: 基材フィルム
13: 外周部
14: 央部
20: ダイソート用シート
21: 粘着剤層
21a: 粘着剤層
21b: 芯材フィルム
21c: 粘着剤層
22: 基材フィルム
23: 外周部
24: 央部
40: ダイソート用シート
41: 基材フィルム
42a: 粘着剤層
42b: 支持フィルム
42: 汎用ダイシングシート
43: 外周部
44: 央部
50: リングフレーム
51: 開口部
52: 平坦切欠部
53: ダイソート用シート接着予定面
60: ダイシング・ダイボンド兼用接着シート
61: 接着剤層
62: 基材
70: 半導体ウェハ
80: 半導体チップ
81: 切断された接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤層を有するチップを仮着するダイソート用シートであって、
前記ダイソート用シートの外周部に粘着剤層が表出され、前記外周部の内側である央部に基材フィルムが表出されてなることを特徴とするダイソート用シート。
【請求項2】
基材フィルムの外周部に粘着剤層を積層してなる請求項1に記載のダイソート用シート。
【請求項3】
支持フィルム上に同形の粘着剤層を積層し、該粘着剤層の央部に基材フィルムを積層してなる請求項1に記載のダイソート用シート。
【請求項4】
基板の一方の面に、接着剤層と基材とからなるダイシング・ダイボンド兼用接着シートを貼付し、
前記基板をチップ毎に、前記接着剤層とともにフルカットダイシングを行い、
裏面に前記接着剤層を有するチップを前記基材からピックアップし、
別途、前記外周部の粘着剤層を介して枠体で固定されている請求項1〜3のいずれかに記載のダイソート用シートを用意し、
前記ピックアップされたチップの接着剤層を、前記ダイソート用シートに表出される基材フィルムに仮着し、
前記接着剤層を介して前記チップが仮着されたダイソート用シートを次工程に移送すること
を特徴とする接着剤層を有するチップの移送方法。
【請求項5】
複数の前記ピックアップされたチップの接着剤層を、前記ダイソート用シートに表出される基材フィルムに互いに離間するように仮着することを特徴とする請求項4に記載の接着剤層を有するチップの移送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−100755(P2008−100755A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286651(P2006−286651)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】