説明

ダイボンディングペースト

【課題】半導体チップなどの素子をリードフレームに接着させるなどのために使用される、作業性及び接着性に優れ、かつ熱伝導性にも優れる銀粉末が高充填されたダイボンディングペーストを提供すること。
【解決手段】(A)常温で固形状のエポキシ樹脂、(B)常温で固形状のフェノール樹脂系硬化剤、及び(C)銀粉末を含み、かつ前記(C)銀粉末の比表面積(SA)が1.3m2/g以下で、タップ密度(TD)が4.0〜7.0g/cm3であり、該銀粉末の含有量が、ペースト硬化物量に基づき、90質量%以上のダイボンディングペーストである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイボンディングペースト、さらに詳しくは、半導体チップなどの素子をリードフレームに接着させるなどのために使用される、作業性及び接着性に優れ、かつ熱伝導性にも優れるダイボンディングペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置は半導体チップなどの素子をダイボンディング材によりリードフレームに接着して製造している。半導体チップ等の半導体素子は、高集積化および微細化に伴い集積密度が大きくなり、単位面積当たりの発熱量が増加する傾向にある。そのため、半導体素子が搭載された半導体装置においては、半導体素子から発生した熱を外部に効率的に放散する必要があり、ダイボンディング材の熱伝導性の向上が課題となっている。また、従来パワーデバイス用パッケージの素子接着ははんだ接合が主流であるが、環境問題から、はんだの脱鉛化の動きが盛んであり、それに伴い実装用途、ダイボンディング用途においては、はんだ代替え高熱伝導ペーストの要求が高まってきている。しかしながら、従来の導電性ペーストでは熱伝導率がはんだに比べて小さく、高熱伝導化が望まれている。
【0003】
導電性ペーストとしては、例えばエポキシ樹脂中にフレーク状の銀粉が分散されたものが知られている。銀粉の形状をフレーク状とすることにより、良好なチクソ性が得られる。しかしながら、樹脂ペーストは樹脂と銀粉とを含む組成物であるため、上記したようなはんだに比べて熱伝導性は低くなる。また、熱伝導性を向上させるために多くの銀粉を添加すると、粘度が高くなり塗布作業性が低下したり、硬化物が脆くリードフレームと素子の接着力が低くなる問題がある。
【0004】
ダイボンディングペーストとして、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤および(C)銀粉を必須成分として含有するダイボンディングペーストであって、前記(C)銀粉の比表面積(SA)が0.57m2/g以下、かつタップ密度(TD)が4.0〜7.0g/cm3であるダイボンディングペーストが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
このダイボンディングペーストは、作業性及び接着性は良好であるが、熱伝導性については、銀粉の充填量が、前記(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計量に基づき、好ましくは75重量%以上、実施例では80重量%前後であり、十分に満足し得るとはいえない。
【0005】
【特許文献1】特開2004−63374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、半導体チップなどの素子をリードフレームに接着させるなどのために使用される、作業性及び接着性に優れ、かつ熱伝導性にも優れる銀粉末が高充填されたダイボンディングペーストを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは作業性、接着性及び熱伝導性に優れる銀粉末が高充填されたダイボンディングペーストを開発すべく鋭意研究を重ねた結果、常温で固形状のエポキシ樹脂、常温で固形状のフェノール樹脂系硬化剤及び特定の性状を有する銀粉末を用いることにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)(A)常温で固形状のエポキシ樹脂、(B)常温で固形状のフェノール樹脂系硬化剤、及び(C)銀粉末を含み、かつ前記(C)銀粉末の表面積(SA)が1.3m2/g以下で、タップ密度(TD)が4.0〜7.0/cm3であり、該銀粉末の含有量が、ペースト硬化物量に基づき、90質量%以上であることを特徴とするダイボンディングペースト、及び
(2)(B)成分の常温で固形状のフェノール樹脂系硬化剤が、数平均分子量200以上のものである上記(1)に記載のダイボンディングペースト、を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、常温で固形状のエポキシ樹脂及び常温で固形状のフェノール樹脂系硬化剤からなる混合物に、特定の性状の銀粉末を高配合することにより、半導体チップなどの素子をリードフレームに接着させるなどのために使用される、作業性及び接着性に優れ、かつ熱伝導性にも優れるダイボンディングペーストを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のダイボンディングペーストは、(A)常温で固形状のエポキシ樹脂、(B)常温で固形状のフェノール樹脂系硬化剤、及び(C)銀粉末を含む導電性ペーストである。
本発明のダイボンディングペーストにおいて、(A)成分であるエポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有し、かつ常温(23℃)で固形状であれば、いかなるエポキシ樹脂も使用することができる。例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、特殊多官能型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの常温(23℃)で固形状のエポキシ樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、上記エポキシ樹脂であって、常温(23℃)で液状ものも、必要に応じ、前記固形状のエポキシ樹脂の一部を置き替えて併用することができる。この場合、エポキシ樹脂全量に基づき、50質量%以下の量が好ましい。
本発明においては、前記(A)成分のエポキシ樹脂と共に、応力の緩和や密着性付与などの目的で、他の樹脂を併用することができる。この他の樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、キシレン樹脂等が挙げられ、これらは(A)成分のエポキシ樹脂100質量部に対して、0〜50質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0010】
本発明のダイボンディングペーストにおいて、(B)成分として用いられる硬化剤は、常温(23℃)で固形状のフェノール樹脂系硬化剤であって、数平均分子量200以上のものが好ましい。数平均分子量の上限については特に制限はないが、通常10000程度である。このような硬化剤としては、例えばノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型クレゾール樹脂、ビニルフェノールの重合物(ポリ−p−ビニルフェノール等)、ビスフェノール樹脂、フェノールビフェニレン樹脂等が挙げられる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
このフェノール樹脂系硬化剤の使用量は、前記(A)成分であるエポキシ樹脂のエポキシ基1.0当量当たり、水酸基が0.5〜1.5当量になるような量が好ましい。
【0011】
本発明のダイボンディングペーストにおける(C)成分の銀粉末は、比表面積(SA)が1.3m2/g以下で、かつタップ密度(TD)が4.0〜7.0g/cm3の特性を有する粉末である。
比表面積(SA)が1.3m2/g以下であれば、銀粉末の充填化率が良好で、ダイボンディングペーストの熱伝導性の向上が期待できると共に、ダイボンディングペーストは適度の粘度を有し、拡がり性の面でも良好となる。この比表面積の下限については特に制限はないが、通常0.2m2/g程度であり、好ましい比表面積は0.2〜0.7m2/gの範囲である。
一方、タップ密度が4.0m2/g以上であれば、ダイボンディングペーストの硬化物の熱伝導性が良好であり、また7.0m2/g以下であれば、ダイボンディングペーストのチクソ性が良好となり、該ペーストのディスペンス時における糸引きの発生が抑制される。
当該銀粉末のタップ密度が4.0〜7.0g/cm3であれば十分な効果が得られるが、このような範囲の中でもさらにタップ密度の大きいもの、すなわち7.0g/cm3に近いものの方がより特性の向上が可能となるため好ましい。
なお、上記比表面積(SA)は、B.E.T.Quantachrome Monosorbにて測定した、粉末の単位質量当たりの表面積(単位:m2/g)であり、また、タップ密度(TD)は、Tap−Pak Volummeterにて測定した、振動させた容器内の粉末の単位体積当たりの質量(単位:g/cm3)である。
【0012】
当該銀粉末の粒径に特に制限はなく、前記したような比表面積及びタップ密度を満たすものであれば様々な粒径の銀粉末を用いることができる。当該銀粉末の比表面積及びタップ密度を上記のような範囲とするには、例えば銀粉末の形状を制御することにより行うことができる。具体的には、銀粉末の形状を球状と鱗片状との中間程度の形状(扁平状)とすることにより、上記したような比表面積及びタップ密度を実現することが可能となる。
【0013】
本発明のダイボンディングペーストにおいては、(C)成分の銀粉末の含有量は、ペースト硬化物量に基づき、90質量%以上である。銀粉末の含有量が90質量%以上であれば、当該銀粉末の充填化率が高くなり、ダイボンディングペーストの熱伝導性が向上する。
また、ダイボンディングペースト硬化物の密着力の点から、当該銀粉末の含有量は、99質量%以下が好ましい。
本発明のダイボンディングペーストにおいては、前記(C)成分の銀粉末の一部を、他の導電性粉末と置き換えることができる。他の導電性粉末としては、例えばニッケル粉末、金粉末、銅粉末などが挙げられる。この場合、他の導電性粉末の含有量は、全導電性粉末中、20質量%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のダイボンディングペーストにおいては、前記した各成分以外に、イミダゾール類などの硬化促進剤、ダイボンディングペーストの粘度を調整するための溶剤、エポキシ基の開環重合性を有する反応性希釈剤、さらにはカップリング剤や酸無水物などの接着力向上剤、微細シリカ粉末、消泡剤、その他各種の添加剤を、ダイボンディングペーストの機能を妨げない範囲で配合することができる。
【0015】
前記溶剤としては、例えば酢酸セロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジアセトンアルコール等を挙げることができる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
反応性希釈剤としては、例えばn−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル等を挙げることができる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
カップリング剤としては、例えば3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤や、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコアルミネート系カップリング剤等を挙げることができる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明のダイボンディングペーストは、前記した(A)成分のエポキシ樹脂、(B)成分のフェノール樹脂系硬化剤、(C)成分の銀粉末及び必要に応じて用いられる硬化促進剤、溶剤、反応性希釈剤、カップリング剤などを加えて十分に混合したのち、さらにディスパース、ニーダー、3本ロールミルなどにより混練処理を行い、次いで脱泡することにより、容易に調製することができる。
このようにして得られた本発明のダイボンディングペーストは、前記したような特定の性状を有する、エポキシ樹脂、フェノール樹脂系硬化剤及び銀粉末を用いることにより、熱伝導性が向上し、半導体素子から発生した熱を、当該ダイボンディングペーストの硬化物を通してパッケージ外部に効率的に放散し、半導体素子自体の温度上昇を抑制することが可能となる。
【0018】
本発明のダイボンディングペーストをシリンジに充填し、ディスペンサを用いて基板上に吐出し、その硬化により半導体素子を接合することができる。さらにワイヤボンディングを行い、樹脂封止材で封止することにより、樹脂封止型の半導体装置を製造することができる。なお、本発明のダイボンディングペーストを硬化するにあたっては、通常100〜250℃で1時間から3時間の加熱を行うことが好ましい。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で用いた成分は以下のとおりである。
(1)固形エポキシ樹脂[クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)社製:EOCN4500、エポキシ当量200)
(2)液状エポキシ樹脂[ビスフェノールFグリシジルエーテル(ジャパンエポキシレジン(株)社製:YL983U、エポキシ当量170)]
(3)固形フェノール樹脂[ポリ−p−ビニルフェノール(丸善石油化学(株)社製:マルカリンカ−M、水酸基当量120、数平均分子量3000)]
(4)銀粉A(鱗片状、タップ密度4.2g/cm3、比表面積0.6m2/g)
(5)銀粉B(鱗片状、タップ密度6.4g/cm3、比表面積0.2m2/g)
(6)銀粉C(鱗片状、タップ密度7.8g/cm3、比表面積0.1m2/g)
(7)銀粉D(鱗片状、タップ密度2.0g/cm3、比表面積1.8m2/g)
(8)銀粉E(鱗片状、タップ密度3.2g/cm3、比表面積1.3m2/g)
(9)溶剤(ブチルカルビトールアセテート)
(10)硬化促進剤[イミダゾール(四国化成工業(株)社製:2MA−OK)]
(11)カップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
また、上記銀粉の比表面積(SA)及びタップ密度(TD)は、下記の方法により測定した値である。
<銀粉の比表面積(SA)>
B.E.T.Quantachrome Monosorbにて、粉末の単位質量当たりの表面積(単位:m2/g)を測定した。
<銀粉のタップ密度(TD)>
Tap−Pak Volummeterにて、振動させた容器内の粉末の単位体積当たりの質量を測定した(単位:g/cm3)。
【0020】
実施例1〜5及び比較例1〜5
表1及び表2に示す種類と量の各成分を十分に混合し、さらに3本ロールで混練してダイボンディングペーストを調製し、その特性(粘度、作業性)を、以下に示す方法で求めた。結果を表1及び表2に示す。
次に、前記で得られたダイボンディングペーストを用いて、半導体チップと基板とを接着硬化させ、硬化物特性(チップ接着強度、熱伝導率、吸水率)を、以下に示す方法で求めた。結果を表1及び表2に示す。
<ダイボンディングペーストの特性>
(1)粘度
E型粘度計(3°コーン、0.5rpm)を用い、温度25℃の粘度を測定した(単位:Pa・s)。
(2)作業性
(イ)糸引き性
ディスペンス糸引き性を、下記の判定基準で評価した。
○:糸引きなし
△:若干糸引きあり
(ロ)拡がり性
表面を銀メッキ処理した銅フレーム上にペーストを0.1mm3塗布し、すぐにプレパラート(18mm角ガラス板)をペーストの上に被せ、20gの加重を10秒間かけた際の、ペーストの広がり面積の直径を測定し、下記の判定基準で評価した。なお、評価測定は25℃の室内で行った。
○:7mm以上(良い)
△:5mm以下7mm未満
×:5mm未満(悪い)
<硬化物特性>
(3)チップ接着強度
チップ(4mm口)と基板(Cu/Agメッキリードフレーム)との接着強度を、温度:260℃、測定方法:ダイシェア強度の条件で測定した(単位:N)。
(4)熱伝導率
レーザーフラッシュ法にて測定した(単位:W/m・K)。
(5)吸水率
85℃、RH85%の環境下に168時間曝露後の質量変化率を測定し、吸水率とした(単位:質量%)。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
表1及び表2から分かるように、実施例のダイボンディングペーストは、比較例のものに比べて、熱伝導率が高い上、銀粉を高充填させても、糸引き性や拡がり性などの作業性が良好である。また、実施例のボンディングペーストは、良好なチップ接着強度を有し、吸水率も低い。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のダイボンディングペーストは、半導体チップなどの素子をリードフレームに接着させるためなどに使用され、熱伝導性及び接着性に優れると共に、作業性が良好であり、また、硬化物は低吸水率を有しており、吸湿信頼特性も向上させることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)常温で固形状のエポキシ樹脂、(B)常温で固形状のフェノール樹脂系硬化剤、及び(C)銀粉末を含み、かつ前記(C)銀粉末の比表面積(SA)が1.3m2/g以下で、タップ密度(TD)が4.0〜7.0g/cm3であり、該銀粉末の含有量が、ペースト硬化物量に基づき、90質量%以上であることを特徴とするダイボンディングペースト。
【請求項2】
(B)成分の常温で固形状のフェノール樹脂系硬化剤が、数平均分子量200以上のものである請求項1に記載のダイボンディングペースト。


【公開番号】特開2006−73811(P2006−73811A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255737(P2004−255737)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】