説明

ダイボンドペースト及び該ダイボンドペーストを用いた蛍光表示管

【課題】ICチップと陽極基板との間の絶縁不具合を防止し、且つ陽極基板からICチップが剥離したり、クラックすることなく確実に固着する。
【解決手段】ICチップ16を陽極基板11上に固着するダイボンドペースト23Aは、低融点ガラスフリットと、低温分解性樹脂を含むビークルと、セラミックスフィラー及び又は層状鉱物からなる低融点フリットガラスよりも熱膨張率が低い応力緩和材料とを主成分とする。そして、このダイボンドペースト23Aを焼成して得られる、低融点フリットガラスとセラミックスフィラー及び又は層状鉱物からなるダイボンド層23により、ICチップ16と陽極基板11とを固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICチップを容器内に実装した蛍光表示管に係り、特にICチップと陽極基板とを固着するダイボンドペースト及び該ダイボンドペーストを焼成して得られるダイボンド層を有する蛍光表示管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体チップ(以下、ICチップと略す)が外囲器の一部であるガラス製の陽極基板上にダイボンド層を介して固着される構造「チップ・イン・グラス(Chip in Glass )構造(以下CIG構造と略す)」を有する蛍光表示管が知られている。一般的なCIG構造の蛍光表示管は、図6に示すように、蛍光表示管1の配線導体13、陽極導体14及び蛍光体層15からなる陽極12が配設された陽極基板11である。この陽極基板11は、一般にガラス基板からなり、その表面には、ほぼ全面に亘って絶縁層25が形成されている。
【0003】
また、陽極基板11の端部には、ICチップ16がダイボンドペースト23Aを焼成して得られるダイボンド層23を介して固定されている。ICチップ16は、配線導体13の端部に接続する端子部17とボンディングワイヤ18により結線されている。さらに、陽極基板11上には、陽極12から一定間隔をおいて、グリッド20を陽極12に対面するように配設させ、グリッド20から一定間隔をおいて、フィラメント状陰極21が張架されている。
【0004】
これらの陽極12及びグリッド20は、配線導体13によりICチップ16と接続している。さらに、ICチップ16への入力端子としての外部リード19に接続されている。そして、陽極基板11上の電極を覆うように箱型の真空容器部22が設けられ、低融点フリットガラスを主成分とする封着材により封着されている
【0005】
このようなCIG構造の蛍光表示管において、ICチップ16を陽極基板11にボンデイングするには、ダイボンドペースト23Aを陽極基板1の上面或いはICチップ16の裏面に被着させ、位置決めをして基板1上に載置した後にダイボンドペースト23Aを焼成して固着していた。従って、ICチップ16と陽極基板1の間にはダイボンド層23が介在しており、ダイボンド層23は、ICチップ16のアースとして作用させる為に導電性を有している。
【0006】
なお、この種のダイボンドペーストとしては、例えば耐熱性のポリイミドペースト(下記特許文献1)、Ag粒子+酸化鉛を主成分とする低融点フリットガラス+有機バインダーからなるダイボンドペースト(下記特許文献2)、Ag粒子+TOGなどの有機金属からなる導電性粒子+ビークルからなるダイボンドペースト(下記特許文献3)などが公知である。
【特許文献1】実開昭61−24946号公報
【特許文献2】特開昭61−55847号公報
【特許文献3】特公平6−40552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、上記特許文献1〜3に開示されたダイボンドペーストには、導電性を有するAg粒子が含有されている。しかしながら、ダイボンドペーストは、ダイボンドペーストを塗布する際に周囲に飛散してしまう場合があり、この飛散したダイボンドペーストの焼成物が導電異物となって絶縁不具合が生じるという問題があった。
【0008】
また、ICチップの下にアノードやグリッドに供給する電圧を供給するための配線が敷設されているタイプの蛍光表示管の場合、ICチップをダイボンディングする際に配線とICチップとの間で導電性のダイボンド層によりピンホール絶縁不具合が生じるという問題もあった。
【0009】
さらに、塗布したダイボンドペースト上にICチップを固着すると、ダイボンドペーストがICチップの側面にはみ出ることがある。そして、ICチップの小型化、薄型化に伴い、ICチップの側面にあるICチップ内部の配線パットまではみ出したダイボンドペーストが回り込み、この回り込んだダイボンドペーストが焼成されたダイボンドペーストの焼成物により、絶縁不良が起こるという問題があった。
【0010】
また、近年の銀の価格高騰によりAg粒子を含有するダイボンドペーストが高価になっているため、蛍光表示管の製造コストが嵩んでしまうという問題もあった。
【0011】
さらに、上記のように陽極基板はガラス基板であり、その熱膨張率は約85〜90×10-7/℃である。また、ICチップのベースはシリコン基板であるので、その熱膨張率は40×10-7/℃である。このように、両者の熱膨張率の差が大きいために、両者が強固に接着された後に冷却されていくと、ダイボンド層の硬化収縮応力により接着された陽極基板とICチップとの剥離や陽極基板、ICチップのクラックが発生してしまう場合があった。
【0012】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、ICチップと陽極基板との間の絶縁不具合を防止し、且つ陽極基板からICチップが剥離したり、クラックすることなく確実に固着することのできるダイボンドペースト及び該ダイボンドペーストを焼成して得られるダイボンド層を有する蛍光表示管を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するために、請求項1記載のダイボンドペーストは、外囲器内にICチップを固着するための蛍光表示管用のダイボンドペーストにおいて、
低融点ガラスフリットと、低温分解性樹脂を含むビークルと、前記低融点フリットガラスよりも熱膨張率が低いセラミックスフィラー及び又は層状鉱物からなる群より選択された1種以上の応力緩和材料とを主成分とすることを特徴とする。
【0014】
請求項2記載のダイボンドペーストは、請求項1記載のダイボンドペーストにおいて、 前記低温分解性樹脂は、150〜200℃で前記ICチップに対する固着強度を保ち、450〜500℃で分解揮散することを特徴とする。
【0015】
請求項3記載のダイボンドペーストは、請求項1記載のダイボンドペーストにおいて、 前記低温分解性樹脂は、エチルセルロース、ニトロセルロース、アクリル、ヒドロキシプロピルセルロースの群より選択された1種以上であることを特徴とする。
【0016】
請求項4記載のダイボンドペーストは、請求項1記載のダイボンドペーストにおいて、 前記セラミックスフィラーは、チタン酸鉛、ジルコン、コージェライト、アルミナ、ムライト、チタン酸アルミニウム、シリカ、βユークリプタイト、βスポジュメン、リン酸ジルコニウムの群より選択された1種以上であることを特徴とする。
【0017】
請求項5記載のダイボンドペーストは、請求項1記載のダイボンドペーストにおいて、 前記層状鉱物は、カオリナイト、タルク、セリサイト、マスコバイト、フロゴバイト、バイオタイトの群より選択された1種以上であることを特徴とする。
【0018】
請求項6記載の蛍光表示管は、真空外囲器を構成する陽極基板面上面にICチップを固着した蛍光表示管において、
前記真空外囲器内に前記ICチップを固定するための蛍光表示管用のダイボンド層は、低融点ガラスフリットと、前記低融点フリットガラスよりも熱膨張率が低いセラミックスフィラー及び又は層状鉱物からなる群より選択された1種以上の応力緩和材料とを主成分とすることを特徴とする。
【0019】
請求項7記載の蛍光表示管は、請求項6記載の蛍光表示管において、
前記セラミックスフィラーは、チタン酸鉛、ジルコン、コージェライト、アルミナ、ムライト、チタン酸アルミニウム、シリカ、βユークリプタイト、βスポジュメン、リン酸ジルコニウムの群より選択された1種以上であることを特徴とする。
【0020】
請求項8記載の蛍光表示管は、請求項6記載の蛍光表示管において、
前記層状鉱物は、カオリナイト、タルク、セリサイト、マスコバイト、フロゴバイト、バイオタイトの群より選択された1種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のダイボンドペーストによれば、低融点フリットガラス、ビークル、応力緩和材料を主成分とした絶縁性を有するペーストであるため、ICチップの実装工程の際にダイボンドペーストの周囲への飛散やICチップ側面にあるICチップ内部の配線パットまでダイボンドペーストが回り込んだ場合でも絶縁不具合の発生を防止することができる。
【0022】
また、ビークル中に添加する低温分解性樹脂は、乾燥工程時に陽極基板とICチップとを十分に固着し、VFD焼成工程時には分解揮散するため、残渣による蛍光表示管の特性劣化を招くことがなく、製品に対する信頼性が向上する。
【0023】
さらに、低融点フリットガラスよりも熱膨張係数の低い応力緩和材料をペーストに添加しているため、ダイボンドペーストを焼成して得られるダイボンド層の硬化収縮応力により接着された陽極基板とICチップとの剥離、陽極基板やICチップのクラックが発生のない高品質な蛍光表示管を提供することができる。
【0024】
また、ダイボンドペースト中に応力緩和材料としてセラミックスフィラーに加えて層状鉱物を含有することで、ペースト中のガラス量を増すことが可能となる。従って、さらにダイボンド層によるICチップと陽極基板との固着強度を強めるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明に係る蛍光表示管におけるICチップ部分の部分拡大断面図であり、図2は本発明に係る蛍光表示管に使用するダイボンドペーストに含有される低温分解性樹脂の温度分解性を説明するためのグラフであり、図3は同ダイボンドペーストに含有される低温分解性樹脂による乾燥時の接合強度を説明するためのグラフであり、図4は同ダイボンドペーストに含有されるに応力緩和材料よる焼成時の固着強度を説明するためのグラフでありであり、図5は同ダイボンドペースト中における各成分の調合比による固着強度を説明するためのグラフである。
【0026】
まず、図1〜図6を参照しながら、本発明に係るダイボンドペースト及び該ペーストを用いた蛍光表示管の構成について説明する。本例のCIG構造を有する蛍光表示管は、図6に示すような従来より知られている一般的なCIGを有する蛍光表示管であるため、各部品や構成については同符号を用いてその説明を省略し、本発明に係るダイボンドペーストを用いて固着したICチップ周辺についてのみ説明する。
なお、本例の蛍光表示管は、図6に示した構成例について説明したが、CIG構造を有する蛍光表示管であればその構成などは特に限定されない。
【0027】
図1に示すように、ICチップ16周辺について詳しく説明すると、ICチップ16を陽極基板11にボンディングするには、ダイボンドペースト23Aを陽極基板11若しくはICチップ16の裏面に塗布し、位置決めをして基板上に載置させた後に乾燥工程やVFD焼成工程にて加熱することで、ダイボンドペースト23Aを焼成して固着している。すなわち、ICチップ16は、陽極基板11にダイボンド層23を介してボンディングされている。
【0028】
ここで、本例で使用するダイボンドペースト23Aについて説明する。本例のダイボンドペースト23Aは、蛍光表示管1を駆動するための駆動回路基板(不図示)やICチップ16などの実装部品を陽極基板11上にダイボンディングした際に、陽極基板11やICチップ16のクラックやICチップ16の剥離の発生を抑えつつ固着強度を確保するとともに、ICチップ16の下のクロス配線間におけるピンホール絶縁不具合を回避するべく絶縁性を有している。ダイボンドペースト23Aは、(A)低融点フリットガラス、(B)低温分解性樹脂を含むビークル(Vehicle )、(C)セラミックスフィラー及び又は層状鉱物からなる応力緩和材料を主成分とする。以下、ダイボンドペースト23Aの主成分である各成分について詳細に説明する。
【0029】
(A):低融点フリットガラスは、例えば軟化点が300℃〜500℃のガラス材料である。低融点フリットガラスは、VFD焼成工程時に融解し、ダイボンド層23となったときに陽極基板11とICチップ16との固着強度を保つための材料であり、例えばPbO−P2 5 系ガラスやSnO−B2 3 系ガラスなどが挙げられる。
【0030】
(B):ビークルは、乾燥時に陽極基板11とICチップ16とを接合するための有機バインダーである低温分解性樹脂と、この低温分解性樹脂を溶解して粘稠な液体にするためのソルベント(溶剤)からなる。ビークルは、低温分解性樹脂が10〜20wt%、ソルベントが80〜90wt%程度の配合比率で配合したものを攪拌しながら加熱溶解させて作製する。
【0031】
低温分解性樹脂は、乾燥工程時(150〜200℃)に陽極基板11とICチップ16との接合強度を保ち、VFD焼成工程時(450〜500℃前後)に有機成分が分解揮散する必要がある。このため、図2に示すように200℃以下の乾燥で300℃〜450℃前後で約99%分解するものが好適であり、例えばエチルセルロース、ニトロセルロース、アクリル、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
【0032】
この低温分解性樹脂は、ICチップ16載置後の乾燥工程時に陽極基板11とICチップ16との接合強度を保ちなが機能し、VFD焼成工程時にはほぼ完全に有機成分が分解される。そのため、CIG構造を有する蛍光表示管1において、従来より有機バインダーとして使用されているポリイミド樹脂やエポキシ樹脂のような残渣による特性劣化が発生する虞がない。なお、低温分解性樹脂は、上記群から選択される1種以上で構成されていればよい。
【0033】
低温分解性樹脂を溶解するソルベントとしては、粘性が高く、VFD焼成工程時に低温分解性樹脂と同様に有機成分の分解性が良いものが好適であり、例えばトリデカノール、ベンジルアルコール、テルピネオール、トデカノール、ブチルカルビトール、酢酸ベンジル、トリメチルノナノン、n−ヘキシルエーテルなどが挙げられる。
【0034】
(C):応力緩和材料は、陽極基板11の熱膨張率(α=85〜90×10-7/℃)とICチップ16の熱膨張率(α=40×10-7/℃)との差による応力緩和を行う材料である。すなわち、ガラス基板からなる陽極基板11はテンションに弱いため、固着剤であるダイボンド層23の熱膨張率をICチップ16に近づけることでICチップ16や陽極基板11のクラックや剥離を防止するために添加されている。
この応力緩和材料は、セラミックスフィラーや層状鉱物などの低融点フリットガラスよりも熱膨張率が低い材料であり、下記セラミックスフィラー、層状鉱物の各群から選択される1種以上で構成されていればよい。
【0035】
セラミックスフィラーとしては、例えばチタン酸鉛、ジルコン、コージェライト、アルミナ、ムライト、チタン酸アルミニウム、シリカ、βユークリプタイト、βスポジュメン、リン酸ジルコニウムなどが好適である。
また、層状鉱物としては、マイカ、カオリナイト、タルク、セリサイト、マスコバイト、フロゴバイト、バイオタイトなどで、平均粒径が5〜50μm程度(組み合わせる材料によって粒径は任意に選択される)のものが好適である。
【0036】
上記の各材料を主成分とするダイボンドペースト23Aは、図3に示すように、ダイボンドペースト23A中に添加される低温分解性樹脂(ここではエチルセルロース)の添加量の増加に比例して剪断強度であるシェア強度(g/mm2 )が向上することが確認される。しかしながら、ダイボンドペースト23A中の低温分解性樹脂の割合は、製品性能上シェア強度が50g/mm2 以上でディスペンス時のビークルの粘性や溶解度などの観点から鑑みると、1wt%(シェア強度:50g/mm2 )〜5wt%(シェア強度:150g/mm2 )程度添加することで、乾燥工程時にICチップ16が剥離することのない十分な固着強度を確保するのに好適なダイボンドペーストが作製される。
【0037】
また、図4は、VFD焼成工程後のダイボンド層23を構成する低融点フリットガラスと応力緩和材料の含有比率におけるシェア強度(g/mm2 )を示している。VFD焼成工程後のダイボンド層23は、低融点フリットガラス量の割合が大きいと、熱膨張率が大きくなり過ぎてICチップ16がクラックしてしまい、低融点フリットガラス量の割合が小さいと、ガラス量が少な過ぎることで固着強度が低下する。
【0038】
従って、ダイボンド層23中における低融点フリットガラス−応力緩和材料の含有比率は、低融点フリットガラス量が30〜55wt%(応力緩和材料が45〜70wt%)、好ましくは35〜50wt%(応力緩和材料が50〜65wt%)程度であれば製品品質上十分な固着強度を確保できるが、さらに好ましくは低融点フリットガラス−応力緩和材料(セラミックスフィラー)の場合は低融点フリットガラスが40wt%(応力緩和材料が60wt%)、低融点フリットガラス−応力緩和材料(セラミックスフィラー+層状鉱物)の場合は低融点フリットガラスが40wt%(応力緩和材料が60wt%)、低融点フリットガラス−応力緩和材料(層状鉱物)の場合は低融点フリットガラスが50wt%(応力緩和材料が50wt%)とする。
【0039】
また、ダイボンドペースト23AのVFD焼成工程後に得られるダイボンド層23は、低融点フリットガラスにて固着強度を確保している。図5に示すように、応力緩和材料としてセラミックスフィラー(ジルコン)のみを使用した場合(試作1、2)では、ダイボンドペースト23Aの固着強度を向上させるために低融点フリットガラス量を増加させると熱膨張係数が大きくなり、応力緩和ができずクラッックや剥離が発生してしまう。そこで、試作5〜試作7のように、応力緩和材料としてセラミックスフィラー(ジルコン)に加えてダイボンドペースト23A中に5wt%〜20wt%(好ましくは10〜20wt%)程度の層状鉱物(平均粒径が23μmのマイカ)を添加する。これにより、ダイボンド層23の応力を緩和することができるため、低融点フリットガラス量を増加することができ、セラミックスフィラー(ジルコン)のみの試作1、2に比べて約2倍以上の固着強度を得ることができる。
【0040】
なお、図5に示した固着強度の実験では、層状鉱物として平均粒径が23μmのマイカを用いた例で説明したが、上記列挙した層状鉱物(平均粒径が5〜50μm程度)のものを使用しても同様の効果が得られた。
【0041】
次に、本発明に係るCIG構造を有する蛍光表示管1を製造工程に沿って具体的に説明する。下記実施例は本発明を限定するものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0042】
〔実施例〕
まず、基板の内側表面に配線導体13及び陽極導体14でパターン形成されたガラス基板からなる陽極基板11を作製し、その表面のほぼ前面に亘って絶縁層25を形成した。そして陽極導体14上面に蛍光体層15を被着して、陽極12を作成した。また、陽極12から上方へ一定間隔をおいてグリッド20を配設し、さらに上方へ一定間隔をおいてフィラメント状陰極21を張設した。
【0043】
そして、蛍光体層15が形成された陽極基板11の端部に設けられたアース電極24又は陽極基板11上面若しくはICチップ16の裏面のうち少なくとも一方にダイボンドペースト23Aを塗布した。
【0044】
ダイボンドペースト23Aは、(A)低融点フリットガラス、(B)ビークル、(C)応力緩和材料を主成分とし、これらの材料を下記成分比(全体量を100wt%とした場合)で調合して作製した。
(A)PbO−B2 3 系低融点フリットガラス:31.1wt%
(B)ビークル(ビークル作製時の調合比は、低温分解性樹脂としてエチルセルロース15wt%+ソルベントとしてテルピネオール85wt%):37.8wt%
(C)応力緩和材料(セラミックスフィラー+層状鉱物):セラミックスフィラーとしてジルコン18.6wt%+層状鉱物としてマイカ12.5wt%(平均粒径:23μm)
【0045】
ダイボンドペースト23Aは、エチルセルロースとテルピネオールを攪拌してビークルを作製し、このビークルと低融点フリットガラス、応力緩和材料(ジルコン+マイカ)とを混練した。
【0046】
次に、ICチップ16を陽極基板11上に載置した後、約150〜200℃で乾燥した。このとき、ダイボンドペースト23A中の低融点フリットガラスはまだ融解しないが、ビークル中に添加された低温分解性樹脂によって陽極基板11とICチップ16とを接合する。
【0047】
そして、ICチップ16と陽極12及びグリッド20に配線導体13で接続している端子部17とボンディングワイヤ18で接続するとともに、外部リード19に配線導体13で接続されている端子部17ともボンディングワイヤ18で接続し、ボンディングワイヤ18に絶縁用の保護コート剤を塗布し、再び150℃〜200℃で乾燥した。乾燥後、450〜500℃前後で蛍光体とダイボンドペースト23Aを焼成した。このとき、有機成分であるビークル中の低温分解性樹脂及びソルベントは分解し、低融点フリットガラスが融解して絶縁性を有するダイボンド層23となり、陽極基板11とICチップ16とを固着する。
【0048】
そして、低融点フリットガラスを主成分とする封着材により陽極基板11上に箱型の真空容器部22を450〜500℃前後で封着結合した。その後、表示しない排気管若しくは排気穴より管内の気体を排気し高真空状態した後、排気管を封止して蛍光表示管1が完成した。
【0049】
なお、上記実施例では、応力緩和材料としてセラミックスフィラーと層状鉱物とを添加したダイボンドペースト23Aを使用した例で説明したが、応力緩和材料がセラミックスフィラーのみの場合、層状鉱物のみの場合であっても、上記実施例と同様にICチップ16の実装工程の際にダイボンドペースト23Aの周囲への飛散やICチップ16側面にあるICチップ16内部の配線パットまでダイボンドペースト23Aが回り込んだ場合でも、ダイボンドペースト23Aを焼成して得られるダイボンドペースト23Aの焼成物による絶縁不具合の発生を防止するとともに、陽極基板11とICチップとの剥離、陽極基板11やICチップのクラックが発生を防止することが実証された。
【0050】
このように、上述したダイボンドペースト23Aは、導電性を有する銀を使用せず、低融点フリットガラス、ビークル、応力緩和材料を主成分とした絶縁性を有するペーストであるため、ICチップ16の実装工程の際にダイボンドペースト23Aの周囲への飛散やICチップ16側面にあるICチップ16内部の配線パットまでダイボンドペースト23Aが回り込んだ場合でも、ダイボンドペースト23Aを焼成して得られるダイボンドペースト23Aの焼成物による絶縁不具合の発生を防止するとともに、蛍光表示管1の製造コストを安価にすることができる。
【0051】
また、ビークル中に添加する低温分解性樹脂は、乾燥工程時に陽極基板11とICチップ16とを十分に接合し、VFD焼成工程時には分解揮散するため、残渣による蛍光表示管の特性劣化を招くことがなく、製品に対する信頼性が向上する。
【0052】
さらに、低融点フリットガラスよりも熱膨張率の低い応力緩和材料をダイボンドペースト23Aに添加しているため、ダイボンド層23の硬化収縮応力により接着された陽極基板11とICチップ16との剥離、陽極基板11やICチップ16のクラックが発生を防止することができる。
【0053】
また、ダイボンドペースト23A中に応力緩和材料としてセラミックスフィラーに加えて層状鉱物を含有することで、ペースト中のガラス量を増すことが可能となるため、さらにダイボンド層23によるICチップ16と陽極基板11との固着強度を強めることができる。
【0054】
以上、本願発明における最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術等はすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る蛍光表示管におけるICチップ部分の部分拡大断面図である。
【図2】本発明に係る蛍光表示管に使用するダイボンドペーストに含有される低温分解性樹脂の温度分解性を説明するためのグラフである。
【図3】同ダイボンドペーストに含有される低温分解性樹脂による乾燥時の接合強度を説明するためのグラフである。
【図4】同ダイボンドペーストに含有されるに応力緩和材料よる焼成時の固着強度を説明するためのグラフである。
【図5】同ダイボンドペースト中における各成分の調合比による固着強度を説明するためのグラフである。
【図6】一般的な蛍光表示管の構成を説明するための概略斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
1 蛍光表示管
16 ICチップ
23 ダイボンド層
23A ダイボンドペースト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外囲器内にICチップを固着するための蛍光表示管用のダイボンドペーストにおいて、
低融点ガラスフリットと、低温分解性樹脂を含むビークルと、前記低融点フリットガラスよりも熱膨張率が低いセラミックスフィラー及び又は層状鉱物からなる群より選択された1種以上の応力緩和材料とを主成分とすることを特徴とするダイボンドペースト。
【請求項2】
前記低温分解性樹脂は、150〜200℃で前記ICチップに対する固着強度を保ち、450〜500℃で分解揮散することを特徴とする請求項1記載のダイボンドペースト。
【請求項3】
前記低温分解性樹脂は、エチルセルロース、ニトロセルロース、アクリル、ヒドロキシプロピルセルロースの群より選択された1種以上であることを特徴とする請求項1記載のダイボンドペースト。
【請求項4】
前記セラミックスフィラーは、チタン酸鉛、ジルコン、コージェライト、アルミナ、ムライト、チタン酸アルミニウム、シリカ、βユークリプタイト、βスポジュメン、リン酸ジルコニウムの群より選択された1種以上であることを特徴とする請求項1記載のダイボンドペースト。
【請求項5】
前記層状鉱物は、カオリナイト、タルク、セリサイト、マスコバイト、フロゴバイト、バイオタイトの群より選択された1種以上であることを特徴とする請求項1記載のダイボンドペースト。
【請求項6】
真空外囲器を構成する陽極基板面上面にICチップを固着した蛍光表示管において、
前記真空外囲器内に前記ICチップを固定するための蛍光表示管用のダイボンド層は、低融点ガラスフリットと、前記低融点フリットガラスよりも熱膨張率が低いセラミックスフィラー及び又は層状鉱物からなる群より選択された1種以上の応力緩和材料とを主成分とすることを特徴とする蛍光表示管。
【請求項7】
請求項6記載の蛍光表示管において、前記セラミックスフィラーは、チタン酸鉛、ジルコン、コージェライト、アルミナ、ムライト、チタン酸アルミニウム、シリカ、βユークリプタイト、βスポジュメン、リン酸ジルコニウムの群より選択された1種以上であることを特徴とする蛍光表示管。
【請求項8】
請求項6記載の蛍光表示管において、前記層状鉱物は、カオリナイト、タルク、セリサイト、マスコバイト、フロゴバイト、バイオタイトの群より選択された1種以上であることを特徴とする蛍光表示管。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−105138(P2009−105138A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274003(P2007−274003)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000201814)双葉電子工業株式会社 (201)
【Fターム(参考)】