説明

ダイヤモンドワイヤーソー、ダイヤモンドワイヤーソーの製造方法

【課題】十分な硬度を有することで、使用時において切れ味が良好であると共に、断線し難いダイヤモンドワイヤーソー及び該ダイヤモンドワイヤーソーの製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】ダイヤモンド砥粒30を分散保持させた金属製芯線10の外表面全体をめっき層20で被覆したダイヤモンドワイヤーソー1であって、前記めっき層20が、タングステンを、例えば1〜60wt%含有するニッケルータングステン合金であることを特徴とするダイヤモンドワイヤーソーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドワイヤーソー及び該ダイヤモンドワイヤーソーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の半導体デバイスを製造するに際しては、単結晶、多結晶、或いはアモルファスのシリコン、水晶等からなる、例えば柱状の素材インゴットが、スライシング加工により所定の厚さ寸法の薄板(ウェハ)に切断加工される。このような高脆性材料を高精度且つ低価格で切断するための加工方法として、ワイヤーの外周面に砥粒、例えばダイヤモンド等の超砥粒を固着した固定砥粒型ワイヤーソーを用いることが試みられている。
そのようなものとして、下記特許文献1〜4がある。
下記特許文献1は、ワイヤーソー及びその製造方法に関する発明で、超砥粒がワイヤーに強固に固着して脱落することがなく、太さが一定で高い切断精度が得られるワイヤーソーが開示されている。
また下記特許文献2は、ワイヤーソーの製造方法及び製造装置に関する発明で、低密度の砥粒分布にした電着ワイヤーソーが開示されている。
また下記特許文献3は、ワイヤーソーおよびその製造方法に関する発明で、加工能率が高く且つ断線し難く、しかも製造効率が高いワイヤーソーが開示されている。
また下記特許文献4は、電着ワイヤ工具およびその製造方法に関する発明で、切れ味に優れる電着ワイヤ工具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−150314号公報
【特許文献2】特許第4157724号公報
【特許文献3】特開2004−50301号公報
【特許文献4】特開2006−181701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記特許文献1〜4に示すワイヤーソー及び電着ワイヤ工具は、何れもワイヤーをめっきする金属がNi、Cu等であるため、十分な硬度を有さず、使用時において切れ味が悪く、断線し易いという問題があった。
【0005】
そこで本発明は上記従来における問題点を解決し、十分な硬度を有することで、使用時において切れ味が良好であると共に、断線し難いダイヤモンドワイヤーソー及び該ダイヤモンドワイヤーソーの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のダイヤモンドワイヤーソーは、ダイヤモンド砥粒を分散保持させた金属製芯線の外表面全体をめっき層で被覆したダイヤモンドワイヤーソーであって、前記めっき層が、タングステンを含有するニッケル合金であることを第1の特徴としている。
【0007】
上記本発明の第1の特徴によれば、めっき層が、タングステンを含有するニッケル合金である構成としてあることから、ダイヤモンドワイヤーソーとして十分な硬度を有するものとすることができる。よって使用時において切れ味が良好であると共に、断線し難いダイヤモンドワイヤーソーとすることができる。
【0008】
また本発明のダイヤモンドワイヤーソーは、上記本発明の第1の特徴に加えて、ニッケル合金は、タングステンを1wt%〜60wt%含有するものであることを第2の特徴としている。
【0009】
上記本発明の第2の特徴によれば、上記本発明の第1の特徴による作用効果に加えて、ニッケル合金は、タングステンを1wt%〜60wt%含有する構成としてあることから、ダイヤモンドワイヤーソーを構成するめっき層を良好な皮膜とすることができる。
【0010】
また本発明のダイヤモンドワイヤーソーの製造方法は、金属製芯線の外表面にダイヤモンド砥粒が分散保持されたダイヤモンドワイヤーソーの製造方法であって、前記金属製芯線を、ニッケルとタングステンとを溶かせた溶液にダイヤモンド砥粒を分散させてなるニッケルータングステン浴を用いて電解めっきを行うダイヤモンド砥粒電着工程を有することを第3の特徴としている。
【0011】
上記本発明の第3の特徴によれば、金属製芯線の外表面にダイヤモンド砥粒が分散保持されたダイヤモンドワイヤーソーの製造方法であって、前記金属製芯線を、ニッケルとタングステンとを溶かせた溶液にダイヤモンド砥粒を分散させてなるニッケルータングステン浴を用いて電解めっきを行うダイヤモンド砥粒電着工程を有する構成としてあることから、ダイヤモンド砥粒電着工程により、金属製芯線の外表面にタングステンを含有するニッケル合金からなるめっき層を構成することができると共に、該めっき層により金属製芯線の外表面にダイヤモンド砥粒を確実に分散保持させることができる。よってダイヤモンドワイヤーソーとして十分な硬度を有するものとすることができる。従って使用時において切れ味が良好であると共に、断線し難いダイヤモンドワイヤーソーを製造することができる。
【0012】
また本発明のダイヤモンドワイヤーソーの製造方法は、上記本発明の第3の特徴に加えて、ニッケルータングステン浴におけるニッケルとタングステンとの割合が、モル比で1対9〜9対1であることを第4の特徴としている。
【0013】
上記本発明の第4の特徴によれば、上記本発明の第3の特徴による作用効果に加えて、ニッケルータングステン浴におけるニッケルとタングステンとの割合が、モル比で1対9〜9対1である構成としてあることから、十分な硬度が得られるニッケルータングステンめっき皮膜を安定して得ることができる。
【0014】
また本発明のダイヤモンドワイヤーソーの製造方法は、上記本発明の第3又は第4の特徴に加えて、ダイヤモンド砥粒電着工程は、50℃〜75℃の浴温下で行うことを第5の特徴としている。
【0015】
上記本発明の第5の特徴によれば、上記本発明の第3又は第4の特徴による作用効果に加えて、ダイヤモンド砥粒電着工程は、50℃〜75℃の浴温下で行う構成としてあることから、めっき膜中の内部応力を効果的に低下させることができ、異常析出を防止することができる。よって製造効率の良いダイヤモンドワイヤーソーの製造方法とすることができる。
【0016】
また本発明のダイヤモンドワイヤーソーの製造方法は、上記本発明の第3〜第5の何れか1つの特徴に加えて、ニッケルータングステン浴における溶液は、クエン酸水素二アンモニウムと、ギ酸ナトリウムと、硫酸ニッケルと、タングステン酸ナトリウムとを溶解させた水溶液であることを第6の特徴としている。
【0017】
上記本発明の第6の特徴によれば、上記本発明の第3〜第5の何れか1つの特徴による作用効果に加えて、ニッケルータングステン浴における溶液は、クエン酸水素二アンモニウムと、ギ酸ナトリウムと、硫酸ニッケルと、タングステン酸ナトリウムとを溶解させた水溶液である構成としてあることから、めっき浴の安定性が高く、寿命が長いため、生産性に優れたダイヤモンドワイヤーソーの製造方法とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のダイヤモンドワイヤーソー及び該ダイヤモンドワイヤーソーの製造方法によれば、十分な硬度を有することで、使用時において切れ味が良好であると共に、断線し難いダイヤモンドワイヤーソー及び該ダイヤモンドワイヤーソーの製造方法とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るダイヤモンドワイヤーソーの一部を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るダイヤモンドワイヤーソーの断面図で、(a)はダイヤモンドワイヤーソーの軸と直角方向の全体断面図、(b)はダイヤモンドワイヤーソーの軸と直角方向の部分拡大断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るダイヤモンドワイヤーソーの製造工程を簡略化して示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るダイヤモンドワイヤーソーの製造工程におけるダイヤモンド砥粒電着工程を簡略化して示す図である。
【図5】タングステン40wt%のニッケルータングステン合金めっきの熱処理での硬化変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の図面を参照して、本発明の実施形態に係るダイヤモンドワイヤーソー及び該ダイヤモンドワイヤーソーの製造方法を説明し、本発明の理解に供する。しかし、以下の説明は本発明の実施形態であって、特許請求の範囲に記載の内容を限定するものではない。
【0021】
まず図1、図2を参照して、本発明の実施形態に係るダイヤモンドワイヤーソーを説明する。
【0022】
本発明の実施形態に係るダイヤモンドワイヤーソー1は、図1、図2に示すように、金属製芯線10の外表面全体を被覆するめっき層20でダイヤモンド砥粒30を分散保持させてなるダイヤモンドワイヤーソーである。
【0023】
前記金属製芯線10は、外表面11を電気めっきすることができ、一定の強度を有する金属製線であれば如何なるものであってもよい。例えばピアノ線等の鋼線、タングステン線、モリブデン線等を用いることができる。
【0024】
金属製芯線10の直径は、被削材の材質、形状等により適宜変更可能であるが、0.05mm〜0.30mmであることが望ましい。
【0025】
前記めっき層20は、図1、図2に示すように、金属製芯線10の外表面11を被覆すると共に、ダイヤモンド砥粒30を金属製芯線10に分散保持させるためのものである。
【0026】
このめっき層20は、タングステンを含有するニッケル合金で構成されている。このような構成とすることで、めっき層20をニッケルのみで構成する場合に比べて、ダイヤモンドワイヤーソー1の硬度を高めることができると共に、耐食性を向上させることができる。よって使用時において、切れ味が良好であると共に、断線し難いダイヤモンドワイヤーソー1とすることができる。
【0027】
ニッケル合金におけるタングステンの含有濃度は、1wt%〜60wt%であることが望ましい。1wt%未満では固溶効果が得られず、60wt%を超えると良好な皮膜が得られないからである。
なお一層好適には、10wt%〜40wt%であることが望ましい。
【0028】
めっき層20の厚さは、金属製芯線10の径方向におけるダイヤモンド砥粒30の差し渡し寸法に対して20%〜90%であることが望ましい。
なお一層好適には、25%〜80%であることが望ましく、更に好適には、30%〜70%であることが望ましい。
【0029】
前記ダイヤモンド砥粒30は、図2に示すように、外表面31がめっき層32で被覆された被覆砥粒であり、金属製芯線10の外表面を被覆するめっき層20に埋め込まれることで、めっき層20に分散保持されている。
【0030】
前記めっき層32は、ニッケルで構成されている。このような構成とすることで、ニッケルは、ピアノ線等の金属製芯線10と化学的親和性を有することから、金属製芯線10に対してめっき層20で物理的に保持されるだけでなく、化学的にも保持されることができる。よって金属製芯線10の外表面にダイヤモンド砥粒30を強固に保持させることができる。従って使用時におけるダイヤモンド砥粒30の脱落を防止することができる。また少量のめっき層20で金属製芯線10にダイヤモンド砥粒30を分散保持させることができ、製造効率の良いダイヤモンドワイヤーソー1とすることができる。
【0031】
ダイヤモンド砥粒30の平均粒径は、1μm〜60μmであることが望ましい。このような構成とすることで、砥粒径が十分に小さくされていることから、ダイヤモンド砥粒30が金属製芯線10から脱落し難く、加工能率の良いダイヤモンドワイヤーソー1とすることができる。
なお平均粒径が1μm未満では砥粒が小さ過ぎるので、加工能率が低下し、60μmを超えると砥粒が脱落し易くなる。
なお一層好適には、下限は2μm以上、更に好適には3μm以上であり、上限は50μm以下であることが望ましい。
【0032】
また金属製芯線10の外表面11におけるダイヤモンド砥粒30による被覆率は、1%〜35%であることが望ましい。このような構成とすることで、被覆率を十分に小さい範囲に留めることができ、ダイヤモンド砥粒30が分散保持されることに起因してダイヤモンドワイヤーソー1の弾性率が高くなり、しいては剛性が大きくなることが抑制される。
また切り粉の逃げる空間が十分な大きさで確保されるので、ガラスや水晶のような目詰まりの生じ易い材料の場合にも、目詰まりが抑制されて加工能率が一層高められる。
なお被覆率は、一層好適には、1%〜25%、更に好適には5%〜25%であることが望ましい。
【0033】
なお本実施形態においては、めっき層20を1層で形成する構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではなく、めっき層20を複数層で形成する構成としてもよい。
例えば、内側層をニッケルで、外側層をタングステンを含有するニッケル合金で形成する2層とすることができる。このような構成とすることで、十分な硬度を有すると共に、ダイヤモンド砥粒30の保持性が高いダイヤモンドワイヤーソーとすることができる。
【0034】
次に図3〜図5を参照して、本発明の実施形態に係るダイヤモンドワイヤーソーの製造方法を説明する。
【0035】
本発明の実施形態に係るダイヤモンドワイヤーソー1は、図3に示すように、金属製芯線10の供給源であるロール40から供給された金属製芯線10が、プーリ50を介して脱脂槽60、酸洗槽70、水洗槽80、めっき槽90、水洗槽100を通過し、ロール41に巻き取られることで製造される。
【0036】
前記プーリ50は、金属製芯線10の進行方向を変更させるためのもので、図3に示すように、脱脂槽60、酸洗槽70、水洗槽80、めっき槽90、水洗槽100の上方及び槽内に複数個設けられている。
【0037】
前記脱脂槽60は、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液が蓄えられた槽であり、この脱脂槽60を備えた脱脂工程により、金属製芯線10の表面に付着している油分等の汚れが除去される。
なお脱脂槽60に蓄えられる水溶液は、脱脂槽に通常用いられるものであれば、如何なるものであってもよい。
【0038】
前記酸洗槽70は、例えば塩酸(HCl)水溶液が蓄えられた槽であり、この酸洗槽70を備えた酸洗工程により、金属製芯線10の表面に付着している酸化物層(錆)が除去される。
なお酸洗槽70に蓄えられる水溶液は、酸洗槽に通常用いられるものであれば、如何なるものであってもよい。
【0039】
前記水洗槽80は、水道水、井戸水、純水が蓄えられた槽であり、この水洗槽80を備えた水洗工程により、金属製芯線10の表面に付着している薬液が希釈され、次工程であるダイヤモンド砥粒電着工程におけるめっき層に薬液が混入することを防止することができる。
【0040】
前記めっき槽90は、ニッケルとタングステンとを溶かせた溶液にダイヤモンド砥粒30を分散させてなるニッケルータングステン浴を用いて、金属製芯線10に電解めっきを行うダイヤモンド砥粒電着工程を担う槽である。
【0041】
以下、図4を参照して、ダイヤモンド砥粒電着工程を詳細に説明する。
【0042】
ダイヤモンド砥粒電着工程は、図4に示すように、後述するカチオン交換膜91cにより陽極室91とめっき室92とに分離した2槽構造のめっき槽90を用いて行う。
【0043】
前記陽極室91は、電源200の陽極に接続された不溶性陽極91aと、溶液91bと、カチオン交換膜91cとで構成されている。
【0044】
前記不溶性陽極91aは、ステンレス、白金等、不溶性陽極として通常用いられるものであれば如何なるものであってもよい。
【0045】
前記溶液91bは、塩酸、硝酸ならびにその塩を除くニッケル塩、硫酸等を用いることができる。塩酸、硝酸ならびにその塩は、不溶性陽極上で有害な塩素ガス、酸化窒素ガスを発生するため、用いることができない。
【0046】
前記カチオン交換膜91cは、不溶性陽極91aと後述するめっき溶液92cとの直接接触を防止すると共に、めっき溶液92c中にアニオンとして存在するクエン酸等の酸化分解を防止するための選択性膜である。
このようにカチオン交換膜91cにより陽極室91とめっき室92とに分離した2槽構造のめっき槽90を用いてダイヤモンド砥粒電着工程を行うことで、めっき溶液92cの安定性を向上させることができ、長期連続めっきを可能とすることができる。
なお不溶性陽極91aで発生した水素イオンは、カチオンであることから、通電流量に応じてカチオン交換膜91cを透過して、めっき室92に運ばれる。
【0047】
前記めっき室92は、電源200の陽極に接続されたニッケル陽極92a及びタングステン陽極92bと、めっき溶液92cとで構成されている。
【0048】
前記ニッケル陽極92aは、図4に示すように、板状をなし、めっき溶液92cにニッケルイオンを補給するためのものである。ニッケル陽極92aとしては、電解ニッケル、S−ニッケル等、公知のニッケルめっきに利用できる板を用いることができる。
なお本実施形態においては、ニッケル陽極92aは、板状とする構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではなく、チップ状のものを用いる構成としてもよい。チップ状を用いる場合は、チタン製のバスケットに入れて使用する。
またニッケル陽極92aの溶解状態はカチオンであるため、ニッケル陽極92aの配置は、めっき室92ではなく、陽極室91に配置する構成であってもよい。
【0049】
前記タングステン陽極92bは、図4に示すように、板状をなし、めっき溶液92cにタングステン成分を補給するためのものである。タングステン陽極92bとしては、金属タングステンを用いることができる。
なお本実施形態においては、タングステン陽極92bは、板状とする構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではなく、チップ状のものを用いる構成としてもよい。チップ状を用いる場合は、チタン製のバスケットに入れて使用する。
【0050】
前記めっき溶液92cは、ニッケルとタングステンとを硫酸ニッケル等の水溶液に溶解させると共に、図示しないダイヤモンド砥粒30を分散させてなるニッケルータングステン浴である。より具体的には、クエン酸水素二アンモニウムと、ギ酸ナトリウムと、硫酸ニッケルと、タングステン酸ナトリウムとで構成されている。
このような構成とすることで、めっき浴の安定性が高く、寿命が長いため、生産性に優れたダイヤモンドワイヤーソーの製造方法とすることができる。
ここで、ニッケルータングステン浴におけるニッケルとタングステンとの割合は、モル比で1対9対〜9対1対である。このような構成とすることで、十分な硬度が得られるニッケルータングステンめっき皮膜を安定して得ることができる。
【0051】
このようなめっき溶液92cを用いて、図4に示すように、金属製芯線10をめっき溶液92cに浸漬し、金属製芯線10に電源200の負極を接続し、不溶性陽極91a、ニッケル陽極92a、タングステン陽極92bに電源200の陽極を接続して、電流密度及びめっき時間を適宜選択して電解めっきを行うことで、金属製芯線10の外表面11にめっき層20が形成されると共に、ダイヤモンド砥粒30が分散保持される。
【0052】
前記水洗槽100は、水道水、井戸水、純水が蓄えられた槽であり、この水洗槽100を備えた水洗工程により、外表面11にダイヤモンド砥粒30が分散保持された金属製芯線10が水洗された後、図示しない熱処理工程により熱処理が行われ、ダイヤモンドワイヤーソー1が製造される。
【0053】
なおダイヤモンド砥粒電着工程は、本実施形態のものに限るものではない。
例えば水洗槽80とめっき槽90との間に、ニッケルを溶かせた溶液にダイヤモンド砥粒30を分散させてなるニッケル浴を用いて、電解めっきを行う槽を設ける構成とすることができる。なお、この場合は、めっき槽90のめっき溶液92c中にダイヤモンド砥粒30は分散させない。
【0054】
このような構成とすることで、ニッケル浴を用いた電解めっきにより、ダイヤモンド砥粒30が金属製芯線10の外表面に仮固定される。その後ニッケルータングステン浴を用いた電解めっきにより、ダイヤモンド砥粒30が金属製芯線10の外表面に本固定される。
よってニッケルータングステン浴を用いためっきは、電流効率が低く、また適用電流密度の上限も低いため、ニッケル浴を用いためっきに比べ、同じ厚みを形成するのに時間を要するところ、ニッケル浴でダイヤモンド砥粒30を金属製芯線10の外表面に仮固定することで、めっき時間を短縮することができる。従って製造効率の良いダイヤモンドワイヤーソーを製造することができる。
【実施例1】
【0055】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例により何ら限定されるものではない。
図3、図4に示す工程により、ダイヤモンドワイヤーソー1を製造した。
直径0.14mmの長尺ピアノ線を、送り速度10m/minで連続的に脱脂槽60、酸洗槽70、水洗槽80に浸漬して脱脂処理を行った後、カチオン交換膜91cにより陽極室91とめっき室92とに分離した2槽構造のめっき槽90で電解めっきを行うダイヤモンド砥粒電着工程を行った。
ここで、めっき槽90におけるめっき浴の処方は、クエン酸水素二アンモニウム0.4mol、ギ酸ナトリウム0.2mol、硫酸ニッケル0.2mol、タングステン酸ナトリウム0.2molである。
まためっき条件は、浴温65℃、電流密度10A/dm、時間7.5分、pH6.0、標準電流効率55%である。
まためっき浴に分散させるダイヤモンド砥粒30は、外表面がニッケルで被覆されたニッケルめっきダイヤモンド砥粒を用いた。ニッケルめっき量は、ダイヤモンド砥粒に対して30wt%であり、ダイヤモンド砥粒30の平均粒径は、13.4μmである。このようなダイヤモンド砥粒30をめっき室92に0.25g/L投入した。
ダイヤモンド砥粒電着工程を行った後、電着を完了した金属製芯線10を水洗槽100で水洗し、更に600度で熱処理を行い、硬度1000HV(ビッカース硬度)のダイヤモンドワイヤーソーを得た。このダイヤモンドワイヤーソーにおける表面のタングステンの割合は、40wt%であった。
参考資料として、タングステン40wt%のニッケルータングステン合金めっきの熱処理での硬化変化を図5に示す。
【実施例2】
【0056】
図3、図4に示す工程により、ダイヤモンドワイヤーソーを製造した。
直径0.14mmの長尺ピアノ線を、送り速度10m/minで連続的に脱脂槽60、酸洗槽70、水洗槽80に浸漬して脱脂処理を行った後、図示しないめっき槽で、ニッケルを溶かせた溶液に、ダイヤモンド砥粒30を分散させてなるニッケル浴を用いて電解めっきを行った。
ここで、ニッケル浴の処方は、硫酸ニッケル6水和物240g/L、塩化ニッケル6水和物45g/L、ホウ酸30g/Lである。
まためっき条件は、浴温50℃、電流密度20A/dm、時間1分、pH4.0である。
またニッケル浴に分散させるダイヤモンド砥粒30は、外表面がニッケルで被覆されたニッケルめっきダイヤモンド砥粒を用いた。ニッケルめっき量は、ダイヤモンド砥粒に対して30wt%であり、ダイヤモンド砥粒30の平均粒径は、13.4μmである。このようなダイヤモンド砥粒30をニッケルを溶かせた溶液に0.25g/L投入した。
この結果、ニッケルータングステン浴を用いた電解めっき3.5分と同じ厚みのニッケルめっきを形成できた。
その後カチオン交換膜91cにより陽極室91とめっき室92とに分離した2槽構造のめっき槽90で、ニッケルータングステン浴を用いて電解めっきを行った。
ここで、めっき槽90におけるめっき浴の処方は、クエン酸水素二アンモニウム0.4mol、ギ酸ナトリウム0.2mol、硫酸ニッケル0.2mol、タングステン酸ナトリウム0.2molである。
まためっき条件は、浴温65℃、電流密度10A/dm、時間3.75分、pH6.0、標準電流効率55%である。
その後、金属製芯線10を水洗槽100で水洗し、更に600度で熱処理を行った。
この結果、実施例1に示すダイヤモンドワイヤーソーと同程度の硬度950HVを有するダイヤモンドワイヤーソーを得た。
このダイヤモンドワイヤーソーにおける表面のタングステンの割合は、38wt%であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明はシリコンインゴット等の高脆性材料を切断するためのワイヤー工具として利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 ダイヤモンドワイヤーソー
10 金属製芯線
11 外表面
20 めっき層
30 ダイヤモンド砥粒
31 外表面
32 めっき層
40 ロール
41 ロール
50 プーリ
60 脱脂槽
70 酸洗槽
80 水洗槽
90 めっき槽
91 陽極室
91a 不溶性陽極
91b 溶液
91c カチオン交換膜
92 めっき室
92a ニッケル陽極
92b タングステン陽極
92c めっき溶液
100 水洗槽
200 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド砥粒を分散保持させた金属製芯線の外表面全体をめっき層で被覆したダイヤモンドワイヤーソーであって、前記めっき層が、タングステンを含有するニッケル合金であることを特徴とするダイヤモンドワイヤーソー。
【請求項2】
ニッケル合金は、タングステンを1wt%〜60wt%含有するものであることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンドワイヤーソー。
【請求項3】
金属製芯線の外表面にダイヤモンド砥粒が分散保持されたダイヤモンドワイヤーソーの製造方法であって、前記金属製芯線を、ニッケルとタングステンとを溶かせた溶液にダイヤモンド砥粒を分散させてなるニッケルータングステン浴を用いて電解めっきを行うダイヤモンド砥粒電着工程を有することを特徴とするダイヤモンドワイヤーソーの製造方法。
【請求項4】
ニッケルータングステン浴におけるニッケルとタングステンとの割合が、モル比で1対9〜9対1であることを特徴とする請求項3に記載のダイヤモンドワイヤーソーの製造方法。
【請求項5】
ダイヤモンド砥粒電着工程は、50℃〜75℃の浴温下で行うことを特徴とする請求項3又は4に記載のダイヤモンドワイヤーソーの製造方法。
【請求項6】
ニッケルータングステン浴における溶液は、クエン酸水素二アンモニウムと、ギ酸ナトリウムと、硫酸ニッケルと、タングステン酸ナトリウムとを溶解させた水溶液であることを特徴とする請求項3〜5の何れか1項に記載のダイヤモンドワイヤーソーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−201541(P2010−201541A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48354(P2009−48354)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【Fターム(参考)】