説明

ダウン症候群を有する成人において認知低下を阻害する方法

【課題】ダウン症候群を有する成人において認知低下を阻害すること。
【解決手段】本発明は、一般に、精神医学の分野に関係する。実際に、本発明は、コルチゾールのそのレセプターへの結合を阻害し得る薬剤を、ダウン症候群を有する成人における認知低下を阻害または逆転させる方法において使用し得るという発見に関連する。強力な特異的糖質コルチコイド受容体アンタゴニストであるミフェプリストンを、これらの方法において使用し得る。本発明はまた、糖質コルチコイド受容体アンタゴニスト、ならびに糖質コルチコイド受容体アンタゴニストの適応症、投与量および投与スケジュールを教える指示資料を含む、DS患者における認知低下を阻害または逆転するためのキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願に対する相互参照)
本願は、本明細書中でその全体として参考として援用される、2001年8月31日に提出されたUSSN60/316,653に対して優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、糖質コルチコイド受容体の生物学的作用を阻害し得る薬剤を、ダウン症候群を有する成人において認知低下を予防、逆転、または阻害する方法において使用し得るという発見に関連する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ダウン症候群(DS)は、精神遅滞の最もよくある遺伝的原因であり、そしておそらく精神遅滞と関連する最も早期に同定される状態である(非特許文献1)。DSは、3つの染色体異常のうち1つから生ずる。最もよくある(症例の95%)DSは、トリソミー21、すなわち、トリソミ−21ではない二倍体の細胞における余分な第21染色体の存在の結果である。トリソミー21は、通常、配偶子の減数分裂中に、第21染色体の不分離によって起こり、そして成人の子孫において全染色体数を47にする。DSはまた、第21染色体の断片が別の染色体、最も典型的には第14染色体に結合した場合に起きる、転座事象によって起こり得る(症例の約2−4%)。最も稀な形式のDSは(症例の約1−4%)、初期胚形成の間に、第21染色体の不分離によって起こる。そのような個人は、正常およびトリソミー細胞が存在するモザイクである。
【0004】
DSの個人の両方は、ほとんど常に認知機能に障害があり、ほとんどが40および60の間のIQを有しているが、正常範囲のIQスコアが可能である(非特許文献2におけるEpstein)。一般的に、有意な発達の遅滞が、乳児期および小児初期のDS小児において明らかである(Pulsifer、前出を参照のこと)。
【0005】
しかし、この初期の認知障害と重なって、DSを有する個人の加齢につれて、より重症の認知低下が現れ始める。DSを有する成人は、アルツハイマー病で観察されるものと同様の臨床的痴呆を発症するリスクが高い。臨床的痴呆は、40歳までに25−30%のDS個人において、そして60歳までに75%のDS個人において見られる(非特許文献3;非特許文献4)。他の個人は、著しい認知低下を示すが、臨床的痴呆の診断基準を満たさない(非特許文献5;非特許文献6)。DSを有する成人において報告された認知低下の発現は、記憶の喪失、名称失語、失行症および自立技術の低下を含む(非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9におけるHaxbyおよびShapiro)。現代の医学的治療によって、DSを有する個人の半数以上が、50代まで生存し、そして13.5%が68歳でまだ生存している(非特許文献10)。よって、DSを有する成人における認知低下の問題は深刻であり、そして増大している。
【0006】
DS個人の認知障害および低下の有効な治療は知られていない。DS個人において認知低下を治療する複数の試みが報告されたが、有意な成功を達成したものはなかった。Geldmacherら(非特許文献11)は、DS成人を選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)で治療したが、非認知行動的症状の改善のみを報告した。DSで観察される認知障害は、コリン作動性システムの機能不全と関連し得るという理論に基づいて、ドネペジル(donepezil)(非特許文献12)およびニコチン(非特許文献13)の小規模試験における有望な結果が報告された。しかし、無作為臨床試験はこれらの研究をまだ確認しておらず、そしてニコチンおよびドネペジルはどちらも治療薬として欠点を有する。グルタミン酸作動性神経伝達に作用する薬剤であり、認知機能を増強すると報告されたピラセタムが、DS小児において評価されたが、認知機能を増強しなかった(非特許文献14)。従って、DS成人で見られる認知低下を予防、阻害、または逆転させる有効な治療の必要性が存在する。
【0007】
ACTH(コルチコトロピン)に応答して分泌される糖質コルチコイドホルモンであるコルチゾールは、概日リズム変動を示し、そしてさらに多くの肉体的および心理的ストレスに対する応答において重要な要素である。年齢と共に、ある個人においてコルチゾール調節システムが過剰に活性化されるようになり、高コルチゾール血症(hypercortisolemia)を引き起こすことが提唱された。さらに、高レベルのコルチゾールが、特に、複雑な情報および記憶の処理および一時的な保存の中心であると考えられる脳の構造である海馬において神経毒性であると推定された(例えば、非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17;Maedaら、前出を参照のこと)。
【0008】
治療的レベルの外来性糖質コルチコイドによる治療を受けたヒト患者の研究は、糖質コルチコイドが、短期、可逆的記憶障害に役割を果たし得ることを示唆した(例えば、非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20を参照のこと)。さらに、慢性的に正常範囲の上限、すなわち概日値の最大値に対応するレベルまたはおおよそストレス時に見られるレベルであるコルチゾールの基礎レベルは、加齢において見られる認知作業の障害および海馬による記憶機能の喪失に寄与することが示唆された(例えば、非特許文献21;非特許文献22を参照のこと)。
【0009】
基礎コルチゾールレベルは、DSおよび非DS個人において同様である(非特許文献23;非特許文献24)。ACTHに応答する視床下部−下垂体−副腎皮質系の活性の障害が、DS個人において報告されたが(Murdochら、前出)、この発見の重要性は未知である。従って、本発明の前に、糖質コルチコイド受容体アンタゴニストが、DSを有する成人において、特に正常範囲に入るコルチゾールレベルを有する患者において、認知低下を予防または逆転させる有効な薬剤であり得るという証拠はなかった。コルチゾールの作用の多くは、I型(鉱質コルチコイド)受容体への結合によって媒介され、それは生理的なコルチゾールレベルにおいて、II型(糖質コルチコイド)受容体と比較して優先的に占有される。コルチゾールレベルが増加するにつれて、より多くの糖質コルチコイド受容体が占有され、そして活性化される。しかし、コルチゾールは代謝において必須の役割を果たしているので、コルチゾールによって媒介される全ての活性の阻害は致死的である。従って、II型糖質コルチコイド受容体機能を特異的に妨げるが、I型鉱質コルチコイド受容体機能には拮抗しないアンタゴニストが、本発明において特に有用である。RU486および同様のアンタゴニストが、このカテゴリーの受容体アンタゴニストの例である。
【0010】
本発明は、RU486のような糖質コルチコイド受容体アンタゴニストが、正常な、増加した、または減少したコルチゾールレベルを有するDS成人において、認知低下を予防または逆転させるのに有効な薬剤であることを決定した。従って、本発明は、DS患者において認知低下を改善するために、糖質コルチコイド受容体アンタゴニストを投与する方法を提供することによって、DS患者における認知低下の有効な予防的処置の必要性を満たす。
【非特許文献1】Pulsifer、J Int Neuropsychol Soc 2:159−76(1996)
【非特許文献2】Scriverら編、The Metabolic basis of inherited diseases、New York:MacGraw−Hill(1989)
【非特許文献3】LaiおよびWilliams、Arch Neuro 46:849−53(1989)
【非特許文献4】Johansonら、Dementia 2:159−168(1991)
【非特許文献5】Johannsenら、Dementia 7:221−5(1996)
【非特許文献6】Burtら、Am J Ment Retard 103:140−45(1998)
【非特許文献7】LottおよびLai、Annals Neurology 12:210−215(1982)
【非特許文献8】YoungおよびKramer、Mental Retard 29:75−9(1991)
【非特許文献9】NadelおよびEpstein編、Alzheimer’s disease and Down syndrome、New York:Wiley−Liss(1992)
【非特許文献10】BairdおよびSadovnick、Hum Genet 82:291−2(1989)
【非特許文献11】J Geriatr Psychiatry Neurol 10:99−104(1997)
【非特許文献12】Kishaniら、Lancet 353:1064(1999)
【非特許文献13】Seidlら、Lancet 356:1409−10(2000)
【非特許文献14】Lobaughら、Arch Pediatr Adolesc Med 155:442−8(2001)
【非特許文献15】Sapolskyら、Ann.NY Acad.Sci.746:294−304、1994
【非特許文献16】Silva、Annu.Rev.Genet.31:527−546、1997
【非特許文献17】de Leonら、J.Clin.Endocrinol&Metab.82:3251、1997
【非特許文献18】Wolkowitzら、Am.J.Psychiatry 147:1297−1303、1990
【非特許文献19】Keenanら、Neurology 47:1396−1402、1996
【非特許文献20】Newcornerら、Arch.Gen.Psychiatry 56:527−533、1999
【非特許文献21】Lupienら、J.Neurosci.14:2893−2903、1994
【非特許文献22】Lupienら、Nat.Neurosci.1:69−73、1998
【非特許文献23】Murdochら、J.Ment.Defic.Res.23:157−62(1979)
【非特許文献24】Ramunniら、J Endocrinol Invest 22S10:5708(1999)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下を提供する。
(項目1)
ダウン症候群を有する成人患者において認知低下を阻害または逆転させる方法であって、該方法は、該患者に認知低下を阻害または逆転させるのに有効な量の糖質コルチコイド受容体アンタゴニストを投与する工程を包含し、ただし、該患者は他に糖質コルチコイド受容体アンタゴニストによる治療を必要としない、方法。
(項目2)
項目1に記載の方法であって、ここで該糖質コルチコイド受容体アンタゴニストは、ステロイド骨格の11−ベータ位置に少なくとも1つのフェニル基を含む部分を有するステロイド骨格を含む、方法。
(項目3)
項目2に記載の方法であって、ここで該ステロイド骨格の11−ベータ位置におけるフェニル基を含む部分は、ジメチルアミノフェニル部分である、方法。
(項目4)
項目3に記載の方法であって、ここで該糖質コルチコイド受容体アンタゴニストは、ミフェプリストンである、方法。
(項目5)
項目3に記載の方法であって、ここで該糖質コルチコイド受容体アンタゴニストは、11β−(4−ジメチルアミノエトキシフェニル)−17α−プロピニル−17β−ヒドロキシ−4,9−エストラジエン−3−オンおよび17β−ヒドロキシ−17α−19−(4−メチルフェニル)アンドロスタ−4,9(11)−ジエン−3−オンからなる群から選択される、方法。
(項目6)
項目1に記載の方法であって、ここで該糖質コルチコイド受容体アンタゴニストは、4a(S)−ベンジル−2(R)−プロプ−1−イニル−1,2,3,4,4a,9,10,10a(R)−オクタヒドロ−フェナントレン−2,7−ジオールおよび4a(S)−ベンジル−2(R)−クロロエチニル−1,2,3,4,4a,9,10,10a(R)−オクタヒドロ−フェナントレン−2,7−ジオールからなる群から選択される、方法。
(項目7)
項目1に記載の方法であって、ここで該糖質コルチコイド受容体アンタゴニストは、(11b,17b)−11−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−17−ヒドロキシ−17−(1−プロピニル)エストラ−4,9−ジエン−3−オンである、方法。
(項目8)
項目1に記載の方法であって、ここで該糖質コルチコイド受容体アンタゴニストは、1日あたり体重1キログラムあたり約0.5から約20mgの間の1日投与量で投与される、方法。
(項目9)
項目8に記載の方法であって、ここで該糖質コルチコイド受容体アンタゴニストは、1日あたり体重1キログラムあたり約1から約10mgの間の1日投与量で投与される、方法。
(項目10)
項目9に記載の方法であって、ここで該糖質コルチコイド受容体アンタゴニストは、1日あたり体重1キログラムあたり約1から約4mgの間の1日投与量で投与される、方法。
(項目11)
項目1に記載の方法であって、ここで該投与は1日1回である、方法。
(項目12)
項目1に記載の方法であって、ここで投与方式は経口である、方法。
(項目13)
項目1に記載の方法であって、ここで該患者は年齢が21−35歳の若い成人である、方法。
(項目14)
項目1に記載の方法であって、ここで該患者は年齢が21−35歳の若い成人であり、そして認知低下の試験証拠を有さない、方法。
(項目15)
項目1に記載の方法であって、ここで投与方式は経皮適用によるか、霧状の懸濁液によるか、またはエアロゾルスプレーによる、方法。
(項目16)
ダウン症候群を有する患者において認知低下を阻害または逆転させるキットであって、該キットは以下:
特異的糖質コルチコイド受容体アンタゴニスト;および
ダウン症候群を有する患者への、該糖質コルチコイド受容体アンタゴニストの適応症、投与量および投与スケジュールを教える指示資料
を含有する、キット。
(項目17)
項目16に記載のキットであって、さらに抗精神病薬物を含む、キット。
(項目18)
項目16に記載のキットであって、ここで該指示資料は、該糖質コルチコイド受容体アンタゴニストを1日あたり体重1キログラムあたり約0.5から約20mgの1日量で投与し得ることを示す、キット。
(項目19)
項目16に記載のキットであって、ここで該指示資料は、該糖質コルチコイド受容体アンタゴニストを、1日あたり体重1キログラムあたり約1から約10mgの1日量で投与し得ることを示す、キット。
(項目20)
項目16に記載のキットであって、ここで該指示資料は、該糖質コルチコイド受容体アンタゴニストを、1日あたり体重1キログラムあたり約1から約4mgの1日量で投与し得ることを示す、キット。
(項目21)
項目16に記載のキットであって、ここで該糖質コルチコイド受容体アンタゴニストはミフェプリストンである、キット。
(項目22)
項目16に記載のキットであって、ここで該ミフェプリストンは錠剤形態である、キット。
【0012】
(発明の要旨)
本発明は、ダウン症候群を有する成人において認知低下を阻害または逆転させる方法を提供する。その方法は、その患者が他に糖質コルチコイド受容体アンタゴニストによる治療を必要としないという条件付きで、治療的に有効な量の糖質コルチコイド受容体アンタゴニストを患者に投与する工程を包含する。
【0013】
本発明の別の実施態様において、その糖質コルチコイド受容体アンタゴニストは、ステロイド骨格の11−ベータ位置に少なくとも1つのフェニル基を含む部分を有するステロイド骨格を含む。ステロイド骨格の11−ベータ位置におけるフェニル基を含む部分は、ジメチルアミノフェニル部分であり得る。代替の実施態様において、糖質コルチコイド受容体アンタゴニストは、ミフェプリストンを含むか、または糖質コルチコイド受容体アンタゴニストは、RU009およびRU044からなる群から選択される。
【0014】
他の実施態様において、糖質コルチコイド受容体アンタゴニストは、4a(S)−ベンジル−2(R)−プロプ−1−イニル−1,2,3,4,4a,9,10,10a(R)−オクタヒドロ−フェナントレン−2,7−ジオール、4a(S)−ベンジル−2(R)−クロロエチニル−1,2,3,4,4a,9,10,10a(R)−オクタヒドロ−フェナントレン−2,7−ジオール、または(11b,17b)−11−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−17−ヒドロキシ−17−(1−プロピニル)エストラ−4,9−ジエン−3−オンである。
【0015】
他の実施態様において、糖質コルチコイド受容体アンタゴニストは、1日あたり体重1キログラムあたり約0.5から約20mgの間;1日あたり体重1キログラムあたり約1から約10mgの間;または1日あたり体重1キログラムあたり約1から約4mgの間の1日量で投与される。投与は、1日あたり1回であり得る。代替の実施態様において、糖質コルチコイド受容体アンタゴニストの投与様式は経口、または経皮適用によるか、霧状の懸濁液によるか、またはエアロゾルスプレーによる。
【0016】
本発明はまた、DSを有するヒトにおいて認知低下を阻害または逆転させるキットも提供し、そのキットは糖質コルチコイド受容体アンタゴニスト、および糖質コルチコイド受容体アンタゴニストの適応症、投与量および投与スケジュールを教える説明資料を含む。代替の実施態様において、その説明資料は、糖質コルチコイド受容体アンタゴニストを、1日あたり体重1キログラムあたり約0.5から約20mg、1日あたり体重1キログラムあたり約1から約10mg、または1日あたり体重1キログラムあたり約1から約4mgの1日量で投与し得ることを示す。その説明資料は、コルチゾールがDS患者における認知低下に寄与すること、および糖質コルチコイド受容体アンタゴニストを、そのような低下を予防または逆転させるために使用し得ることを示し得る。1つの実施態様において、キット中の糖質コルチコイド受容体アンタゴニストは、ミフェプリストンである。そのミフェプリストンは錠剤形式であり得る。
【0017】
本発明の性質および利点は、明細書の残りの部分および特許請求の範囲を参照することによって理解される。
【0018】
本明細書中で引用された全ての出版物、特許および特許出願は、本明細書において明確に、全ての目的のために参考として援用される。
【0019】
(定義)
用語「処置」は、症状の軽減;寛解;減少、または損傷、病理または状態を患者にとってより耐えられるものにすること;変性または減少の速度を遅くすること;変性の最終地点をより衰弱しないものにすること;患者の肉体的または精神的安寧を改善すること;あるいは、ある状況においては、痴呆の開始を予防することのようなあらゆる客観的または主観的パラメーターを含む、損傷、病理、または状態の治療または改善における成功のあらゆる徴候をいう。症状の処置または改善は、理学的検査、神経精神病学的検査、および/または精神医学的評価を含む、客観的または主観的パラメーターに基づき得る。例えば、本発明の方法は、記憶課題テストのパフォーマンスの改善、および/または認知低下の速度または程度の減速または予防によって、DS患者における認知低下を首尾よく処置する。
【0020】
「ダウン症候群」という用語は、ヒト第21染色体の部分的なまたは完全な異数性、または第21染色体遺伝子発現の調節不全によって起こる状態をいう。第21染色体のトリソミー、転座、またはモザイク現象が、ダウン症候群を引き起こす。
【0021】
用語「成人」は、18歳またはそれ以上の人をいう。
【0022】
用語「認知低下」は、具体的な事実(名前または物)を記憶する能力、または論理的問題を解決する能力の喪失をいう。
【0023】
用語「痴呆」は、その最も広い意味において、American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、第4版、Washington,D.C.、1994(「DMS−IV」)において定義されたような、精神医学的状態をいう。DMS−IVは、「痴呆」を、記憶の障害を含む複数の認知の欠損によって特徴付けられるとして定義し、そして推定される原因によって様々な痴呆を列挙している。DMS−IVは、そのような痴呆および関連する精神医学的障害の診断、分類および処置に関する、一般的に受け入れられる基準を述べている。
【0024】
用語「コルチゾール」は、ヒドロコルチゾンとも呼ばれる組成物のファミリーおよびそのあらゆる合成または天然アナログをいう。
【0025】
用語「糖質コルチコイド受容体」(「GR」)は、コルチゾール受容体とも呼ばれる細胞間受容体のファミリーをいい、それはコルチゾールおよび/またはコルチゾールアナログに特異的に結合する。その用語は、GRのアイソフォーム、組換えGR、および変異GRを含む。
【0026】
用語「ミフェプリストン」は、RU486またはRU38.486とも呼ばれる組成物のファミリー、または17−ベータ−ヒドロキシ−11−ベータ−(4−ジメチル−アミノフェニル)−17−アルファ−(1−プロピニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン)、または11−ベータ−(4ジメチルアミノフェニル)−17−ベータ−ヒドロキシ−17−アルファ−(1−プロピニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン)、またはそのアナログをいい、それは典型的には高親和性でGRに結合し、そしてあらゆるコルチゾールまたはコルチゾールアナログのGR受容体への結合によって開始される/媒介される生物学的効果を阻害する。RU−486の化学名は変化する;例えばRU486はまた、以下のように呼ばれた:11B−[p−(ジメチルアミノ)フェニル]
−17B−ヒドロキシ−17−(1−プロピニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン;11B−(4−ジメチル−アミノフェニル)−17B−ヒドロキシ−17A−(プロプ−1−イニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン;17B−ヒドロキシ−11B−(4−ジメチルアミノフェニル−1)−17A−(プロピニル−1)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン;17B−ヒドロキシ−11B−(4−ジメチルアミノフェニル−1)−17A−(プロピニル−1)−E;(11B,17B)−11−[4−ジメチルアミノ)−フェニル]−17−ヒドロキシ−17−(1−プロピニル)エストラ−4,9−ジエン−3−オン;および11B−[4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル]−17A−(プロプ−1−イニル)−D−4,9−エストラジエン−17B−オール−3−オン。
【0027】
用語「特異的糖質コルチコイド受容体アンタゴニスト」は、コルチゾールまたはコルチゾールアナログ、合成または天然のような、糖質コルチコイド受容体(GR)アゴニストのGRへの結合を部分的にまたは完全に阻害する(拮抗する)あらゆる組成物または化合物をいう。「特異的糖質コルチコイド受容体アンタゴニスト」はまた、GRのアゴニストへの結合に関連するあらゆる生物学的反応を阻害する、あらゆる組成物または化合物をいう。「特異的」によって、本発明者らは、少なくとも100倍、そして多くの場合1000倍の親和性で、鉱質コルチコイド受容体(MR)よりもGRに優先的に結合する薬物を意図する。
【0028】
「他に糖質コルチコイド受容体アンタゴニストによる処置が必要でない」患者は、糖質コルチコイド受容体アンタゴニストによって有効に処置可能であると当該分野で公知である状態に罹患していない患者である。糖質コルチコイド受容体アンタゴニストによって有効に処置可能であると当該分野で公知である状態は、クッシング病、薬物離脱症状、精神病、痴呆、ストレス障害、および精神病の大うつ病が挙げられる。
【0029】
(発明の詳細な説明)
本発明は、糖質コルチコイド誘導性の生物学的応答を阻害し得る薬剤が、ダウン症候群を有する個人において認知低下を治療するのに有効であるという驚くべき発見に関係する。標的患者は、年齢関係性の認知低下が始まっていないか、または若年成人として設定された基準線から悪化し始めただけの患者である。認知低下の治療において、本発明の方法は、好ましくは記憶の障害、および/または記憶機能のあらゆるさらなる低下の速度、または程度の低下を未然に防ぎ得る。1つの実施態様において、本発明の方法は、GRアンタゴニストとして作用する薬剤を使用し、コルチゾールとGRの相互作用をブロックして認知低下を処置または改善する。本発明の方法は、天然または合成の正常または増加したレベルのコルチゾールまたは他の糖質コルチコイドのいずれかに罹患するDS個人患者において、記憶の能力の改善、またはさらなる記憶の障害または認知機能の低下の予防または減速に有効である。
【0030】
コルチゾールは、細胞内糖質コルチコイド受容体(GR)に結合することによって作用する。ヒトにおいて、糖質コルチコイド受容体は、2つの形態:777アミノ酸のリガンド結合GR−アルファ;および最後の15個のアミノ酸のみが異なるGR−ベータアイソフォームで存在する。その2つの型のGRは、その特異的リガンドに関して高い親和性を有し、そして同じシグナル伝達経路を通して機能すると考えられる。
【0031】
高コルチゾール血症(hypercortisolemia)によって引き起こされる病理または機能不全を含む、コルチゾールの生物学的効果を、受容体アンタゴニストを用いてGRレベルで調節および制御し得る。いくつかの異なるクラスの薬剤が、GRアンタゴニストとして作用し得る、すなわちGR−アゴニスト結合(天然アゴニストはコルチゾールである)の生理的効果を阻害し得る。これらのアンタゴニストは、GRへの結合によって、アゴニストがGRに有効に結合し、そして/または活性化する能力をブロックする組成物を含む。公知のGRアンタゴニストの1つのファミリー、ミフェプリストンおよび関連化合物は、ヒトにおいて有効および強力な抗糖質コルチコイド薬剤である(Bertagna、J.Clin.Endocrinol.Metab.59:25、1984)。ミフェプリストンは、<10−9Mの解離定数Kの高親和性でGRに結合する(Cadepond、Annu.Rev.Med.48:129、1997)。従って、本発明の1つの実施態様において、ミフェプリストンおよび関連化合物を、DSを有する成人において認知低下を予防するために使用する。
【0032】
本発明の方法は、アゴニスト結合GRの生物学的効果を阻害するあらゆる手段の使用を含むので、DS患者において認知低下を処置するために使用し得る、実例となる化合物および組成物も示される。本発明の方法の実施において使用するために、GR−アゴニスト相互作用によって引き起こされる生物学的応答をブロックし得る、さらなる化合物および組成物を同定するために使用し得る慣用的手順も記載される。本発明は、医薬品としてこれらの化合物および組成物の投与を提供するので、本発明の方法を実施するために、GRアンタゴニスト薬剤レジメおよび処方を決定する慣用的手段を下記で述べる。
【0033】
(1.ダウン症候群を有する成人における、認知低下の診断)
(a.ダウン症候群患者の同定)
ダウン症候群の患者は、トリソミー21に関連する特徴的な身体的特徴のために、通常出生時に診断される。DSの身体的表現型は、小頭症、つり上がった目、広い首、および内側に曲がった第5指および手のひらを横切る唯一のシワ(猿線)を有する小さい手を含む。DS個人は、非DS集団より有意に背が低く、成人男性の平均身長は約5フィート、および女性は約4.5フィートである。
【0034】
神経心理学的に、DSを有する個人は、特に構音、音声学、および表現構文法において、不釣合いに障害を受けた会話および表現言語技術(CicchettiおよびBeeghly編、Children with Down Syndrome: A developmental perspective(302−328頁)New York、Cambridge University Press、1990におけるFowler)、および言葉の短期記憶における欠陥(MarcellおよびArmstrong、Am J Mental Deficiency 87:86−95(1982);Varnhagenら、Am J Mental Deficiency 91:398−405(1987))を示す。DS患者の画像化は、彼らは典型的には脳の大きさの減少(正常の約76%)、および脳回パターンの複雑性の減少を有することを示す(Coyleら、Brain Res Bull 16:773−87(1986);Wisniewski、Am J Med Genet 7:274−81(1990))。小さい前頭葉、小さい鰓蓋、狭い上側頭回、ならびに減少した海馬、小脳、および脳幹の容量が典型的である。
【0035】
DSの顕著な特徴は出生時に明らかであるが、認知および適応行動における有意な低下は、50歳以下のDS患者において、他の形態の精神遅滞を有する成人よりも一般的であるわけではない。対照的に、50歳以上のDSを有する個人は、より著しい認知低下を示す可能性が高い(Zigmanら、Am J Ment Retard 100:403−12(1996))。従って、本発明の1つの実施態様において、抗糖質コルチコイド治療が、認知低下の開始を未然に防ぐために、約50歳で開始するDS患者に提供される。しかし、認知低下の神経病理学的メカニズムは、認知低下の症状が明らかになる前に開始し得るので、GRアンタゴニスト治療を、より若い年齢で、例えば約45、40、35、または30歳で開始し得る。DS患者で観察される早期老化のタイムコース(すなわち、頭髪、皮膚の弾力性、運動技術、および骨格構造の変化;OliverおよびHolland、Psychological Medicine 16:307−12(1986)を参照のこと)を、DSを有する特定の個人に関して、いつGRアンタゴニスト治療を始めるべきかを判断するために使用し得る。
【0036】
DS患者において認知低下の開始を診断する、および本発明の方法を用いた治療の有効性を評価する、様々な手段が存在する。これらとしては、CDRを決定する精神医学的テストの適用、記憶テストの適用、および痴呆のための精神医学的テストの適用が挙げられる。これらのテストの結果を、下記で記載するような他の客観的テストと合わせて考え得る。これらの手段はまた、DSを有する患者において、記憶の改善、またはさらなる記憶の障害もしくは認知低下の低下または減少における、本発明の方法の有効性を評価するのに有用である。臨床医は、本発明の方法を実施する徴候としてのDSの存在を診断するために、科学文献および特許文献において定義された、あらゆる規定されたまたは経験的な基準のセットを使用し得るが、いくつかの実例となる診断ガイドラインおよび関連する症状および状態の例を、下記で記載する。主観的および客観的基準を使用して、特定のGRアンタゴニスト、医薬品処方、投与量、処置スケジュールまたはレジメの成功を測定および評価し得る。
【0037】
(b.テストの証拠による認知低下および機能の評価および診断)
DSを有する成人は、もし処置しなければ、多くの場合臨床的痴呆に進行し得るまたはしないかもしれない認知低下を発現する。よって、DSを有する成人における認知低下を、認知障害を評価するテストによって測定し得る。認知障害を、個人が認知障害に罹患しているかどうかを決定するための主観的診断または客観的テスト基準を用いる正式な精神医学的評価によって、診断し得る。本発明の方法を、好ましくはDS関連認知低下の過程の初期に(初期段階に)、そして最も好ましくは成人認知低下が起こる前に実施する。アルツハイマー病へ進行するリスクが高くあり得るDS患者、例えばアポリポタンパク質ε4の遺伝子型を有する患者の場合、これは特に重要である(例えば、Tierneyら、Neurology 45:149−154、1996を参照のこと)。
【0038】
認知機能を、心理学または精神医学の分野で周知および受け入れられている、多くの客観的テストまたは基準のいずれかを用いて診断および評価し得る。客観的テストを使用して、個人が記憶機能の障害または痴呆を患っているかどうかを決定し、そして特定のGRアンタゴニスト、医薬品処方、投与量、処置スケジュールまたはレジメの成功を測定および評価し得る。例えば、認知能力および記憶における変化を測定することは、認知低下を患うか、またはその危険性があるDS患者の診断および処置評価を助ける。当該分野で公知のあらゆるテストを使用し得る。
【0039】
Vineland適応行動尺度(VABS)は、認知機能および社会的適応を測定するテストのセットである(Sparrowら、Vineland Adaptive Behavior Scales−Interview Edition(Psychological Measure)、Circle Pines、MN:American Guidance Service、1984)。患者は、3つのサブスケールにおいて評価され(コミュニケーション、日常生活技術、および社会化)、そして適応行動複合スコアも受ける。VABSにおいて個人はコミュニケーション技術と比較して日常生活および社会化技術において有意な強さを示すが(Dykensら、Am J Ment Retard 98:580−7(1994))、VABSのスコアは多くの場合、DSのための可能な処置の治療的効果を評価するために使用される(例えば、Kishaniら、Lancet 353:1064(1999)を参照のこと)。VABS標準スコアのいずれかにおける減少は、DS関連認知低下の徴候であり得る;逆に、VABSサブスケールまたは適応行動複合スコアのいずれかにおける改善は、認知または適応機能の改善の徴候である。
【0040】
DS患者における認知低下の1つの尺度は、臨床痴呆評価である(CDR;Hughesら、Brit.J.Psychiat.140:566−572、1982およびMorris、Neurology 43:2412−2414、1993を参照のこと)。CDRの決定において、患者は、典型的には6つの認知および行動カテゴリー:記憶、見当識、判断力と問題解決、社会問題、家庭、趣味、および介護状況のそれぞれにおいて評価される。その評価は、患者によって、または好ましくは患者を良く知る協力者によって提供される歴史的情報を含み得る。患者は、これらの領域のそれぞれにおいて評価され、そして全体の評価を決定する(0、0.5、1.0、2.0、または3.0)。0の評価は、正常と考えられる。1.0の評価は、穏和な痴呆に対応すると考えられる。0.5のCDRを有する患者は、穏和な一貫した健忘症、出来事の部分的な回想および「良性」健忘症によって特徴付けられる。その患者は、完全に適応しており、そして類似性および差異の決定および他の問題解決技術においても、そして共同体、家庭、または個人の世話に関する機能において、ほとんど障害を示さない。
【0041】
認知低下の別の顕著な特徴は、記憶課題テストの実行の障害である。記憶は、ウェクスラー記憶スケールまたは対関連(pair−associated memory task)のような、当該分野で公知のテストによって測定し得る。もしそのスコアがそのテストの教育および年齢で調整したカットオフより低ければ、患者はそのようなテストで実行の障害を示すと考えられる。認知低下は、典型的には遅延想起記憶機能の障害によって特徴付けられ、それは記憶課題テストの構成成分として具体的に扱われ得る。例えば、記憶機能の障害は、最大スコアが25である、ウェクスラー記憶スケール改訂版のロジカルメモリー(Logical Memory)IIサブスケール(遅延パラグラフ想起(Delayed Paragraph Recall))において、教育カットオフかまたはそれより低いスコアを取ることによって記録し得る。年齢および教育で調整したカットオフは、当該分野で公知の方法を用いて決定する(例えば、Ivnikら、Clinc.Neuropsychol 6(Suppl):1−30および49−82、1992;Ivnikら、J.Consult Clin.Psychol 3:1991;Ivnikら、Clin.Neuropsychol.10:262−276、1996を参照のこと)。これらのカットオフの例は:a)16年またはそれ以上の教育に関して8またはそれ未満;b)8−15年の教育に関して4またはそれ未満;およびc)0−7年の教育に関して2またはそれ未満である。カットオフ値を、例えば、その教育および年齢コホートの正常(norm)から1、好ましくは1.5またはそれ以上の標準偏差である値を選択することによって決定し得る。
【0042】
プラセボグループのメンバーと比較して本発明の方法を用いて治療した患者のパフォーマンスの間に、または同じ患者に与えられた連続するテストの間に、正常の方向に向って、統計学的に有意な差が存在するなら、本発明のコンテクスト内に記憶の「改善」が存在する。
【0043】
DSを有する成人における認知低下が重症である場合、患者は、DSM−IV−TRにおいて述べられたような、臨床的痴呆の基準を満たし得る。本発明の1つの利点は、DS患者における痴呆の予防である。痴呆は糖質コルチコイドアンタゴニストによって治療されることが以前に知られているので、痴呆を有するダウン症候群患者は、本発明の範囲外である。痴呆の1つの客観的テストは、Folstein、“‘Mini−mental state.’A practical method for grading the congnitive state of patients for the clinician”、J.Psychiatr.Res.12:189−198、1975によって記載されたような、いわゆるミニメンタルステート検査(MMSE)である。MMSEは、全体的な知性の低下の存在を評価する。Folstein“Differential diagnosis of dementia.The clinical process”Psychiatr Clin North Am.20:45−57、1997も参照のこと。MMSEは、アルツハイマー病および多発脳梗塞性痴呆において見られるような、痴呆の兆候および全体的な知性の低下を評価する、長く認められた手段である。例えば、Kaufer、J.Neuropsychiatry Clin.Neurosci.10:55−63、1998;Becke、Alzheimer Dis Assoc Disord.12:54−57、1998;Ellis、Arch.Neurol.55:360−365、1998;Magni、Int.Psychogeriatr.8:127−134、1996;Monsch、Acta Neurol.Scand.92:145−150、1995を参照のこと。MMSEは1から30までのスコアである。MMSEは、例えばいわゆるIQテストのように、基礎的な認知潜在能力を評価しない。代わりに、それは知的技術を試験する。「正常」知的能力を有する人は、MMSE客観テストにおいて「30」点を取る(しかし、30のMMSEスコアを有する人がまた、IQテストにおいて「正常」より低い点を取り得る)。よって、本発明の方法は、個人がMMSEで30点を取る場合に適切に適用される。テストの1回の適用において、「正常な」個人が30より低い点を取ることが可能であるので、テストにおける「正常」の指標は、テストを3回適用したうち少なくとも1回のテストにおいて30点であることと考えられる。
【0044】
痴呆を評価する別の手段は、アルツハイマー病評価尺度(ADAS−Cog)、または標準化アルツハイマー病評価尺度(SADAS)と呼ばれるバリエーションである。それは、アルツハイマー病および認知低下によって特徴付けられる関連障害の薬剤臨床試験において有効性の尺度としてよく使用される。SADASおよびADAS−Cogは、アルツハイマー病を診断するために設計されなかった。それらは痴呆の症状を特徴付けるのに有用であり、そして痴呆の進行の比較的敏感な指標である。(例えば、Doraiswamy、Neurology 48:1511−1517、1997;およびStandish、J.Am.Geriatr.Soc.44:712−716、1996を参照のこと。)
認知低下の存在の評価はまた、主観的診断および客観的テストの組み合せを利用し得る。例えば、家族歴ならびに、患者および他の個人によって提供された歴史を、認知低下の決定における構成成分として使用し得る。他のテストもまた、認知低下の診断において考慮し得る。1つの研究において(Petersenら、Arch.Neurol.56:303−308、1999)、患者は、行動神経学者によって観察され、その行動神経学者は患者および補強情報源からの医療歴を得て、そして精神状態の短期試験(Short Test of Mental Status)、Hachinski虚血スケール、および神経学的検査を含む、様々なテストを行なった。集められた他のデータは、独立した生活の記録(Record of Independent Living)、老人性うつ病スケール(Geriatric Depression Scale)、およびさらなる家族歴の情報、および化合物群、完全血球計測、ビタミンB12および葉酸レベル、および甲状腺刺激ホルモンレベルのような臨床検査を含んでいた。この研究において、診断的目的のために使用されたテストの最初のセットは、ウェクスラー成人知能検査−改訂版、ウェクスラー記憶スケール−改訂版、聴覚言語学習試験(Auditory verbal learning Test)および広範囲達成試験III(Wide−Range Achievement test−III)を含んでいた。研究目的のために使用された、試験の2番目のセットは、ミニメンタルステート検査、痴呆評価尺度、手がかりなしおよび手がかりありの選択的想起(Free and Cued Selective Reminding test)、ボストンネーミィングテスト(Boston Naming Test)、制御された口語関連試験(controlled Oral Word Association Test)およびカテゴリー流暢性手順(category fluency procedures)を含んでいた。
【0045】
(2.一般的な実験室手順)
本発明の方法を実施する場合、血液コルチゾール、薬剤代謝等のようなパラメーターをモニターすることを含む、多くの一般的な臨床検査を、GRアンタゴニストで治療されるDS患者の進行において援助するために使用し得る。全ての患者は、独特に薬剤を代謝し、そして反応するので、これらの手順は有用であり得る。それに加えて、各GRアンタゴニストは異なる薬物動態を有するので、そのようなモニタリングが重要であり得る。異なる患者およびAP薬物療法は、異なる投与量レジメおよび処方を必要とし得る。投与量レジメおよび処方を決定するそのような手順および手段は、科学文献および特許文献においてよく記載されている。少数の実例となる例を下記に述べる。
【0046】
(a.血液コルチゾールレベルの決定)
変化するレベルの血液コルチゾールがDSと関連していたが、本発明はまた、明らかに正常レベルの血液コルチゾールを有する患者に実施し得る。従って、血液コルチゾールをモニターし、そして基礎コルチゾールレベルを決定することは、DS患者における認知低下の予防において援助する有用な臨床検査である。個人が正常、低または高コルチゾール血症(hypercortisolemic)であるかどうかを決定するために使用し得る、広く様々な臨床検査が存在する。DS患者は、典型的には正常レベルのコルチゾールを有し、それは多くの場合朝には25μg/dlより低く、そして多くの場合午後には約15μg/dlまたはそれより低いが、その値は多くの場合、一般的に午後には5−15μg/dlであると考えられる正常範囲の高い方に属する。
【0047】
ラジオイムノアッセイのようなイムノアッセイを、それらは正確であり、実施するのが容易であり、そして比較的安価であるので、よく使用する。循環コルチゾールレベルは、副腎皮質機能の指標であるので、ACTH刺激、ACTH保留(reserve)、またはデキサメタゾン抑制(例えば、Greenwald、Am.J.Psychiatry 143:442−446、1986を参照のこと)のような、様々な刺激および抑制試験も、本発明の方法において補助的に使用される、診断、予後、または他の情報を提供し得る。
【0048】
キット形式で入手可能なそのようなアッセイの1つは、“Double Antibody Cortisol Kit”(Diagnostic Products Corporation、Los Angeles、CA)として入手可能なラジオイムノアッセイである(Acta Psychiatr.Scand.70:239−247、1984)。この試験は、125I標識コルチゾールが、臨床的試料からのコルチゾールと、抗体部位に関して競合する、競合的ラジオイムノアッセイである。この試験において、抗体の特異性およびあらゆる有意なタンパク質効果の欠如のために、血清および血漿試料は、前抽出または前希釈を必要としない。このアッセイは、下記の実施例2でさらに詳しく記載される。
【0049】
(b.血液/尿ミフェプリストンレベルの決定)
患者の代謝、クリアランス速度、毒性レベル等は、基礎となる一次または二次疾患状態、薬剤歴、年齢、一般的な医学的状態等における変動によって異なるので、GRアンタゴニストの血液および尿レベルを測定することが必要であり得る。そのようなモニタリングの手段は、科学文献および特許文献においてよく記載されている。本発明の1つの実施態様におけるように、ミフェプリストンが、DS患者における認知低下を予防するために投与され、血液および尿ミフェプリストンレベルを決定する、実例となる例を、下記の実施例で述べる。
【0050】
(c.他の実験室手順)
DS患者における認知低下のメカニズムは複雑であり得るので、診断、治療の有効性、予後、毒性等において補助するために、多くのさらなる臨床検査を、本発明の方法において補助的に使用し得る。例えば、診断および治療の評価を、空腹時血糖、経口グルコース投与後の血糖、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の血漿濃度、コルチコステロイド結合グロブリン、黄体形成ホルモン(LH)、テストステロン−エストラジオール結合グロブリン、レプチン、インスリン、および/または総テストステリンおよび遊離のテストステロンを含むがこれに限らない、糖質コルチコイド感受性である変動をモニタリングおよび測定することによって補い得る。
【0051】
アンタゴニストおよび代謝物の尿濃度を含む、GRアンタゴニスト代謝物の産生、血漿濃度およびクリアランス速度をモニタリングおよび測定する臨床検査も、本発明の方法の実施において有用であり得る。例えば、ミフェプリストンは2つの親水性、N−モノメチル化およびN−ジメチル化代謝物を有する。これらの代謝物の血漿および尿濃度(RU486に加えて)を、Kawai、Pharmacol.and Experimental Therapeutics 241:401−406、1987において記載されたように、例えば薄層クロマトグラフィーを用いて決定し得る。
【0052】
(3.DS患者において認知低下を阻害または逆転させる、糖質コルチコイド受容体アンタゴニスト)
本発明は、コルチゾールまたはコルチゾールアナログのGRへの結合に関連する生物学的応答をブロックし得るあらゆる組成物または化合物を利用して、DSを有する成人において認知低下を阻害または逆転させる方法を提供する。本発明の方法において利用されるGR活性のアンタゴニストは、科学文献および特許文献においてよく記載されている。少数の実例となる例を、下記で述べる。
【0053】
(a.GRアンタゴニストとしての、ステロイド性抗糖質コルチコイド)
ステロイド性糖質コルチコイドアンタゴニストを、本発明の様々な実施態様において、認知低下を阻害または逆転させるために投与する。ステロイド性抗糖質コルチコイドを、糖質コルチコイドアゴニストの基本構造、すなわち様々な形式のステロイドバックボーンの修飾によって得ることができる。コルチゾールの構造を、様々な方法で修飾し得る。糖質コルチコイドアンタゴニストを作成するための、コルチゾールステロイドバックボーンの構造的修飾の、2つの最も良く知られた種類は、11ベータ水酸基の修飾および17ベータ側鎖の修飾を含む(例えば、Lefebvre、J.Steroid Biochem.33:557−563、1989を参照のこと)。
【0054】
ステロイド性GRアンタゴニストの例は、米国特許第5,929,058号において記載されたようなアンドロゲン型ステロイド化合物、ならびに米国特許第4,296,206;4,386,085;4,447,424;4,477,445;4,519,946;4,540,686;4,547,493;4,634,695;4,634,696;4,753,932;4,774,236;4,808,710;4,814,327;4,829,060;4,861,763;4,912,097;4,921,638;4,943,566;4,954,490;4,978,657;5,006,518;5,043,332;5,064,822;5,073,548;5,089,488;5,089,635;5,093,507;5,095,010;5,095,129;5,132,299;5,166,146;5,166,199;5,173,405;5,276,023;5,380,839;5,348,729;5,426,102;5,439,913;5,616,458;および5,696,127号において記載された化合物が挙げられる。そのようなステロイド性GRアンタゴニストは、コルテキソロン、デキサメタゾン−オキセタノン、19−ノルデオキシコルチコステロン、19−ノルプロゲステロン、コルチゾール−21−メシレート、デキサメタゾン−21−メシレート、11β−(4−ジメチルアミノエトキシフェニル)−17α−プロピニル−17β−ヒドロキシ−4,9−エストラジエン−3−オン(RU009)、および17β−ヒドロキシ−17α−19−(4−メチルフェニル)アンドロスタ−4,9(11)−ジエン−3−オン(RU044)が挙げられる。
【0055】
(i)11−ベータ水酸基の除去または置換)
11−ベータ水酸基の除去または置換を含む、修飾ステロイドバックボーンを有する糖質コルチコイドアゴニストを、本発明の1つの実施態様において投与する。この種類は、コルテキソロン、プロゲステロン、およびテストステロン誘導体を含む天然抗糖質コルチコイド、およびミフェプリストン(Lefebvreら、前出)のような合成組成物を含む。本発明の好ましい実施態様は、これらの化合物はプロゲステロン受容体(PR)結合活性を欠いているので、全ての11−ベータ−アリールステロイドバックボーン誘導体を含む(Agarwal、FEBS 217:221−226、1987)。別の好ましい実施態様は、11−ベータフェニル−アミノジメチルステロイドバックボーン誘導体、すなわちミフェプリストンを含み、それは有効な抗糖質コルチコイド剤および抗プロゲステロン薬剤の両方である。これらの組成物は、可逆的に結合するステロイド受容体アンタゴニストとして作用する。例えば、11−ベータフェニル−アミノジメチルステロイドに結合した場合、ステロイド受容体は、GRの場合にはコルチゾールのような、その天然リガンドに結合できないコンフォメーションに維持される(Cadepond、1997、前出)。
【0056】
合成11−ベータフェニル−アミノジメチルステロイドは、RU486、または17−ベータ−ヒドロキシ−11−ベータ−(4−ジメチル−アミノフェニル)17−アルファ−(1−プロピニル)エストラ−4,9−ジエン−3−オン)としても知られる、ミフェプリストンを含む。ミフェプリストンは、プロゲステロンおよび糖質コルチコイド(GR)受容体両方の強力なアンタゴニストであることが示されている。GRアンタゴニスト効果を有することが示された、別の11−ベータフェニル−アミノジメチルステロイドとしては、RU009(RU39.009)、11−ベータ−(4−ジメチル−アミノエトキシフェニル)−17−アルファ−(プロピニル−17ベータ−ヒドロキシ−4,9−エストラジエン−3−オン)が挙げられる(Bocquel、J.Steroid Biochem.Molec.Biol.45:205−215、1993を参照のこと)。RU486に関連する別のGRアンタゴニストは、RU044(RU43.044)、17−ベータ−ヒドロキシ−17−アルファ−19−(4−メチル−フェニル)−アンドロスタ−4,9(11)−ジエン−3−オン)である(Bocquel、1993、前出)。Teutsch、Steroids 38:651−665、1981;米国特許第4,386,085および4,912,097号も参照のこと。
【0057】
1つの実施態様は、非可逆的な抗糖質コルチコイドである基本糖質コルチコイドステロイド構造を含む組成物を含む。そのような化合物は、コルチゾール−21−メシレート(4−プレグネン−11−ベータ,17−アルファ,21−トリオール−3,20−ジオン−21−メタン−スルホン酸塩)、およびデキサメタゾン−21−メシレート(16−メチル−9アルファ−フルオロ−1,4−プレグナジエン−11ベータ,17−アルファ,21−トリオール3,20−ジオン−21−メタン−スルホネート)を含む、コルチゾールのアルファ−ケト−メタンスルホネート誘導体を含む。Simons、J.Steroid Biochem.24:25−32、1986;Mercier、J.Steroid Biochem.25:11−20、1986;米国特許第4,296,206号を参照のこと。
【0058】
(ii)17−ベータ側鎖基の修飾)
17−ベータ側鎖の様々な構造的修飾によって得ることができるステロイド性抗糖質コルチコイドも、本発明の方法において使用する。この種類は、デキサメタゾン−オキセタノン、デキサメタゾンの様々な17,21−アセトニド誘導体および17−ベータ−カルボキサミド誘導体のような、合成抗糖質コルチコイドを含む(Lefebvre、1989、前出;Rousseau、Nature 279:158−160、1979)。
【0059】
(iii)他のステロイドバックボーン修飾)
本発明の様々な実施態様において使用されるGRアンタゴニストは、GR−アゴニスト相互作用によって起こる生物学的応答に影響を与える、あらゆるステロイドバックボーン修飾を含む。ステロイドバックボーンアンタゴニストは、19−ノルデオキシコルチコステロンおよび19−ノルプロゲステロンのような、C−19メチル基を欠く副腎ステロイドのような、コルチゾールのあらゆる天然または合成バリエーションであり得る(Wynne、Endocrinology 107:1278−1280、1980)。
【0060】
一般的に、11−ベータ側鎖置換、および特にその置換の大きさが、ステロイドの抗糖質コルチコイド活性の程度を決定するのに重要な役割を果たし得る。ステロイドバックボーンのA環における置換も、重要であり得る。17−ヒドロキシプロペニル側鎖は、一般的に17−プロピニル側鎖を含む化合物と比較して、抗糖質コルチコイド活性を減少させる。
【0061】
当該分野で公知であり、そして本発明の実施に適当である、さらなる糖質コルチコイド受容体アンタゴニストとしては、21−ヒドロキシ−6,19−オキシドプロゲステロン(Vicent、Mol.Pharm.52:749−753、1997を参照のこと)、Org31710(Mizutani、J.Steroid Biochem Mol
Biol 42(7):695−704、1992を参照のこと)、RU43044、RU40555(Kim、J.Steroid Biochem Mol Biol.67(3):213−22、1998を参照のこと)、RU28362、およびZK98299が挙げられる。
【0062】
(b.アンタゴニストとしての、非ステロイド性抗糖質コルチコイド)
非ステロイド性糖質コルチコイドアンタゴニストも、DS個人において認知低下を阻害または逆転させるために、本発明の方法において使用する。これらは、部分的にペプチド性の、偽ペプチド性の(pseudopeptidic)、および非ペプチド性の分子実体を含む、タンパク質の合成模倣物およびアナログを含む。例えば、本発明で有用なオリゴマーのペプチド模倣物としては、(アルファ−ベータ−不飽和)ペプチドスルホンアミド(peptidosulfonamides)、N−置換グリシン誘導体、オリゴカルバメート、オリゴ尿素ペプチド模倣物、ヒドラジノペプチド(hydrazinopeptides)、オリゴスルホン(oligosulfones)等が挙げられる(例えば、Amour、Int.J.Pept.Protein Res.43:297−304、1994;de Bont、Bioorganic&Midicinal Chem.4:667−672、1996を参照のこと)。合成分子の大きなライブラリーの作成および同時スクリーニングを、コンビナトリアルケミストリーにおける周知の技術を用いて行ない得、例えばvan Breemen、Anal Chem 69:2159−2164、1997;およびLam、Anticancer Drug Des 12:145−167、1997を参照のこと。GRに特異的なペプチド模倣物の設計を、コンビナトリアルケミストリー(コンビナトリアルライブラリー)スクリーニングアプローチと組み合せて、コンピュータープログラムを用いて設計し得る(Murray、J.of Computer−Aided Molec.Design 9:381−395、1995;Bohm、J.of Computer−Aided Molec.Design 10:265−272、1996)。そのような「合理的薬物設計」は、シクロアイソマー(cycloisomers)、レトロ‐インベルゾアイソマー(retro−inverso isomers)、レトロアイソマー(retro isomers)等を含む、ペプチド異性体およびコンフォマー(conformers)を開発するのを助け得る(Chorev、TibTech 13:438−445、1995において議論されたように)。
【0063】
非ステロイド性GRアンタゴニストの例としては、ケトコナゾール、クロトリマゾール;N−(トリフェニルメチル)イミダゾール;N−([2−フルオロ−9−フェニル]フルオレニル)イミダゾール;N−([2−ピリジル]ジフェニルメチル)イミダゾール;N−(2−[4,4’,4”−トリクロロトリチル]オキシエチル)モルホリン;1−(2[4,4’,4”−トリクロロトリチル]オキシエチル)−4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジンジマレアート;N−([4,4’,4”]−トリクロロトリチル)イミダゾール;9−(3−メルカプト−1,2,4−トリアゾリル)−9−フェニル−2,7−ジフルオロフルオレノン;1−(2−クロロトリチル)−3,5−ジメチルピラゾール;4−(モルホリノメチル)−A−(2−ピリジル)ベンズヒドロール;5−(5−メトキシ−2−(N−メチルカルバモイル)−フェニル)ジベンゾスベロール;N−(2−クロロトリチル)−L−プロリノールアセテート;1−(2−クロロトリチル)−2−メチルイミダゾール;1−(2−クロロトリチル)−1,2,4−トリアゾール;1,S−ビス(4,4’,4”−トリクロロトリチル)−1,2,4−トリアゾール−3−チオール;およびN−((2,6−ジクロロ−3−メチルフェニル)ジフェニル)メチルイミダゾール(米国特許第6,051,573号を参照のこと);米国特許第5,696,127号で開示されるGRアンタゴニスト化合物;Bradleyら、J.Med.Chem.45:2417−2424(2002)で開示される糖質コルチコイド受容体アンタゴニスト、例えば4a(S)−ベンジル−2(R)−クロロエチニル−1,2,3,4,4a,9,10,10a(R)−オクタヒドロ−フェナントレン−2,7−ジオール(「CP394531」)および4a(S)−ベンジル−2(R)−プロプ−1−イニル−1,2,3,4,4a,9,10,10a(R)−オクタヒドロ−フェナントレン−2,7−ジオール(「CP409069」);Hoybergら、Int’l J.of Neuro−psychopharmacology、5:Supp.1、S148(2002)において開示される化合物、(11b,17b)−11−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−17−ヒドロキシ−17−(1−プロピニル)エストラ−4,9−ジエン−3−オン(「ORG34517」);6−置換−1,2−ジヒドロ−N−保護−キノリンのような、ステロイド受容体に高度に親和性、高度に選択的なアンタゴニストである非ステロイド性化合物を記載するPCT国際公開番号第WO96/19458で開示された化合物;およびκオピオイド化合物ジノルフィン−1,13−ジアミド、U50,488(trans−(1R,2R)−3,4−ジクロロ−N−メチル−N−[2−(1−ピロリジニル)シクロヘキシル]ベンゼンアセタミド)、ブレマゾシンおよびエチルケトシクラゾシンのような、いくつかのκオピオイドリガンド;ならびにEvansら、Endocrin.141:2294−2300(2000)で開示されたような、非特異的オピオイド受容体リガンド、ナロキソンが挙げられる。
【0064】
(c.特異的糖質コルチコイド受容体アンタゴニストの同定)
本発明の方法において、DSを有する成人における認知低下を阻害または逆転させるためにあらゆる特異的GRアンタゴニストを使用し得るので、上記で記載した化合物および組成物に加えて、さらなる有用なGRアンタゴニストが、当業者によって決定され得る。様々なそのような慣用的、周知の方法を使用し得、そして科学文献および特許文献において記載されている。それらは、さらなるGRアンタゴニストの同定のためのインビトロおよびインビボアッセイを含む。少数の実例となる例を下記で記載する。
【0065】
本発明のGRアンタゴニストを同定するために使用し得る1つのアッセイは、Granner、Meth.Enzymol.15:633、1970の方法によって、チロシンアミノトランスフェラーゼ活性に対する推定GRアンタゴニストの効果を測定する。この分析は、ラット肝癌細胞(RHC)の培養物中の、肝酵素チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)の活性の測定値に基づく。TATは、チロシン代謝の最初の段階を触媒し、そして肝臓および肝癌細胞の両方において、糖質コルチコイド(コルチゾール)によって誘導される。この活性は、細胞抽出物において容易に測定される。TATは、チロシンのアミノ基を2−オキソグルタル酸に変換する。P−ヒドロキシフェニルピルベートも形成される。それはアルカリ溶液中で、より安定なp−ヒドロキシベンズアルデヒドに変換され得、そして331nmの吸収によって定量し得る。推定GRアンタゴニストを、インビボまたはエキソビボで肝臓全体に、または肝癌細胞または細胞抽出物に、コルチゾールと同時投与する。その投与が、コントロール(すなわちコルチゾールまたはGRアゴニストのみを加えた)と比較して、誘導されたTAT活性の量を減少させた場合、その化合物はGRアンタゴニストとして同定される(Shirwany、Biochem.Biophys.Acta 886:162−168、1986も参照のこと)。
【0066】
TATアッセイに加えて、本発明の方法において利用される組成物を同定するために使用し得る、多くのアッセイのさらなる実例は、インビボの糖質コルチコイド活性に基づくアッセイである。例えば、糖質コルチコイドによって刺激された細胞における、推定GRアンタゴニストによる、3H−チミジンのDNAへの取り込みを阻害する能力を評価するアッセイを使用し得る。あるいは、推定GRアンタゴニストは、肝癌組織培養GRへの結合に関して、3H−デキサメタゾンと競合し得る(例えば、Choiら、Steroids 57:313−318、1992を参照のこと)。別の例として、推定GRアンタゴニストの、3H−デキサメタゾン−GR複合体の核結合をブロックする能力を使用し得る(Alexandrovaら、J.Steroid Biochem.Mol.Biol.41:723−725、1992)。推定GRアンタゴニストをさらに同定するために、受容体結合速度論の手段によって糖質コルチコイドアゴニストおよびアンタゴニストの間を区別し得る速度論アッセイも使用し得る(Jones、Biochem J.204:721−729、1982において記載されたように)。
【0067】
別の実例となる例において、Daune、Molec.Pharm.13:948−955、1977によって;および米国特許第4,386,085号において記載されたアッセイを、抗糖質コルチコイド活性を同定するために使用し得る。簡単には、副腎摘出ラットの胸腺細胞を、様々な濃度の試験化合物(推定GRアンタゴニスト)と共にデキサメタゾンを含む栄養培地でインキュベートする。3H−ウリジンを細胞培養に加え、それをさらにインキュベートし、そして放射性標識のポリヌクレオチドへの組込みの程度を測定する。糖質コルチコイドアゴニストは、組み込まれる3H−ウリジンの量を減少させる。従って、GRアンタゴニストはこの効果を妨害する。
【0068】
本発明の方法において利用し得るさらなる化合物、およびそのような化合物を同定および作製する方法に関して、米国特許第4,296,206(上記を参照のこと);4,386,085(上記を参照のこと);4,447,424;4,477,445;4,519,946;4,540,686;4,547,493;4,634,695;4,634,696;4,753,932;4,774,236;4,808,710;4,814,327;4,829,060;4,861,763;4,912,097;4,921,638;4,943,566;4,954,490;4,978,657;5,006,518;5,043,332;5,064,822;5,073,548;5,089,488;5,089,635;5,093,507;5,095,010;5,095,129;5,132,299;5,166,146;5,166,199;5,173,405;5,276,023;5,380,839;5,348,729;5,426,102;5,439,913;および5,616,458号;ならびに6−置換−1,2−ジヒドロN−1保護キノリンのような、ステロイド受容体の高度に親和性、高度に選択的な調節剤(アンタゴニスト)である、非ステロイド性化合物を記載するWO96/19458を参照のこと。
【0069】
MRと比較して、GRに関するアンタゴニストの特異性を、当業者に公知の様々なアッセイを用いて測定し得る。例えば、アンタゴニストのMRと比較してGRに結合する能力を測定することによって、特異的アンタゴニストを同定し得る(例えば、米国特許第5,606,021;5,696,127;5,215,916;5,071,773号を参照のこと)。そのような分析を、直接結合アッセイを用いて、または公知のアンタゴニストの存在下で精製GRまたはMRに対する競合的結合を評価することによって、実施し得る。例示的なアッセイにおいて、糖質コルチコイド受容体または鉱質コルチコイド受容体を高レベルで安定に発現する細胞(例えば米国特許第5,606,021号を参照のこと)を、精製受容体の供給源として使用する。次いで受容体に関するアンタゴニストの親和性を、直接測定する。MRと比較してGRに関して少なくとも100倍、多くの場合1000倍高い親和性を示すアンタゴニストを、次いで本発明の方法における使用のために選択する。
【0070】
GR特異的アンタゴニストはまた、GRによる活性を阻害するが、MRによる活性を阻害しない能力を有する化合物として定義され得る。そのようなGR特異的アンタゴニストを同定する1つの方法は、トランスフェクションアッセイを用いて、アンタゴニストの、リポーター構築物の活性化を阻害する能力を評価することである(例えば、Bocquelら、J.Steroid Biochem Molec.Biol.45:205−215、1993;米国特許第5,606,021;5,929,058号を参照のこと)。例示的なトランスフェクションアッセイにおいて、受容体をコードする発現プラスミド、および受容体特異的調節エレメントに連結したレポーター遺伝子を含むリポータープラスミドを、適切な受容体陰性宿主細胞にコトランスフェクトする。次いでトランスフェクトされた宿主細胞を、レポータープラスミドのホルモン応答性プロモーター/エンハンサーエレメントを活性化し得る、コルチゾールまたはそのアナログのようなホルモンの存在下および非存在下で培養する。次に、トランスフェクトおよび培養した宿主細胞を、リポーター遺伝子配列の産物の誘導(すなわち存在)に関してモニターする。最後に、ホルモン受容体タンパク質(発現プラスミド上の受容体DNA配列によってコードされ、そしてトランスフェクトおよび培養した宿主細胞において産生される)の発現および/またはステロイド結合能力を、アンタゴニストの存在下および非存在下でリポーター遺伝子の活性を決定することによって測定する。化合物のアンタゴニスト活性を、GRおよびMR受容体の公知のアンタゴニストと比較して決定し得る(例えば、米国特許第5,696,127号を参照のこと)。次いで有効性を、参照アンタゴニスト化合物と比較して各化合物で観察された最大応答パーセントとして報告する。GR特異的アンタゴニストは、MRと比較して、GRに対して少なくとも100倍、多くの場合1000倍またはそれより高い活性を示すと考えられる。
【0071】
(4.糖質コルチコイド受容体アンタゴニストを用いた、認知低下の阻害または逆転)
ミフェプリストンのような抗糖質コルチコイドを、DS患者において認知低下を阻害または逆転させるために、本発明の方法で使用される医薬品として処方する。コルチゾールまたはコルチゾールアナログのGRへの結合と関連する生物学的応答をブロックし得るあらゆる組成物または化合物を、本発明において医薬品として使用し得る。本発明の方法を実施するために、GRアンタゴニスト薬剤レジメおよび処方を決定する慣用的手段が、特許文献および科学的文献においてよく記載され、そしていくつかの実例となる例を下記で述べる。
【0072】
(a.医薬品組成物としての糖質コルチコイド受容体アンタゴニスト)
本発明の方法において使用されるGRアンタゴニストを、当該分野で公知のあらゆる手段によって、例えば非経口的に、局所的に、経口的に、またはエアロゾルによるまたは経皮的のような局所投与によって投与し得る。本発明の方法は、予防的および/または治療的治療を提供する。医薬品処方としてのGRアンタゴニストを、状態または疾患および精神病の程度、各患者の一般的な医学的状態、その結果としての好ましい投与方法等によって、様々な単位投与量形式で投与し得る。処方および投与に関する技術についての詳細は、科学文献および特許文献においてよく記載されており、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Co.、Easton PA(「Remington’s」)の最新版を参照のこと。本発明の方法の実施に適切な糖質コルチコイドブロッカーの治療的に有効な量は、典型的には1キログラムあたり約0.5から約25ミリグラム(mg/kg)の範囲である。当業者は、過度の実験なしに、その技術および本開示を考慮して、本発明の実施のために、特定の糖質コルチコイドブロッカー化合物の治療的に有効な量を決定し得る。例えば、特定の糖質コルチコイドブロッカーは、より高いまたはより低い投与量で、より有効であり得る。本明細書中で記載された方法を用いて患者を評価することによって、熟練した臨床医は、患者が治療に反応しているかどうか決定し得、そしてそれによってどのように投与量レベルを調整するか知っている。
【0073】
一般的に、糖質コルチコイドブロッカー化合物を、治療的薬剤の投与に関して当該分野で公知のあらゆる方法によって、医薬品組成物として投与し得る。組成物は、錠剤、丸剤、カプセル、半固体、粉末、徐放性処方、溶液、懸濁液、エリキシル、エアロゾル、またはあらゆる他の適当な組成物の形式を取り得、そして少なくとも1つの薬剤学的に許容できる賦形剤と組み合せて、少なくとも1つの本発明の化合物を含む。適切な賦形剤は、当業者に周知であり、そしてそれらおよび組成物を処方する方法は、Alfonso AR;Remington’s Pharmaceutical Sciences、第17版、Mack Publishing Company、Easton PA、1985のような標準的な参考書において見出し得る。特に注射可能溶液のための、適切な液体担体としては、水、水性生理食塩水溶液、水性デキストロース溶液、およびグリコールが挙げられる。
【0074】
本発明の水性懸濁液は、水性懸濁液の製造のために適切な賦形剤との混合物中にGRアンタゴニストを含む。そのような賦形剤は、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、およびアラビアゴムのような懸濁化剤、および天然に存在するホスファチド(例えばレシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸の縮合産物(例えばポリオキシエチレンステアラート)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールの縮合産物(例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールから得られた部分エステルの縮合産物(例えばポリオキシエチレンソルビトールモノオレアート)、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール無水物から得られた部分エステルの縮合産物(例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)のような分散剤または湿潤剤が挙げられる。水性懸濁液はまた、エチルまたはn−プロピルp−ヒドロキシベンゾアートのような1つまたはそれ以上の保存剤、1つまたはそれ以上の着色料、1つまたはそれ以上の香料、およびスクロース、アスパルテームまたはサッカリンのような1つまたはそれ以上の甘味料を含み得る。処方を、容量オスモル濃度に関して調整し得る。
【0075】
油性懸濁液を、GRアンタゴニストを、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、またはココナッツ油のような植物油、または液体パラフィンのような鉱油、またはこれらの混合物中に懸濁することによって処方し得る。油性懸濁液は、蜜蝋、硬質パラフィン(hard paraffin)、またはセチルアルコールのような濃化剤を含み得る。味の良い経口調製物を提供するために、グリセロール、ソルビトール、またはスクロースのような甘味料を加え得る。これらの処方を、アスコルビン酸のような抗酸化剤を加えることによって保存し得る。注射可能な油性ビヒクルの例としては、Minto、J.Pharmacol.Exp.Ther.281:93−102、1997を参照のこと。本発明の医薬品処方はまた、水中油型エマルションの形式であり得る。油性相は、上記で記載した植物油または鉱油、またはこれらの混合物であり得る。適当な乳化剤としては、アラビアゴムおよびトラガカントゴムのような天然に存在するゴム、ダイズレシチンのような天然に存在するリン脂質、ソルビタンモノオレイン酸のような脂肪酸およびヘキシトール無水物から得られたエステルまたは部分エステル、ならびにポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートのようなこれらの部分エステルとエチレンオキシドの縮合産物が挙げられる。エマルションはまた、シロップおよびエリキシルの処方物と同様に、甘味料および香料を含み得る。そのような処方はまた、粘滑剤、保存剤、または着色料を含み得る。
【0076】
糖質コルチコイドブロッカー医薬品処方物を、医薬品の製造に関して当該分野で公知のあらゆる方法によって調製し得る。そのような薬剤は、甘味料、香料、着色料、および保存料を含み得る。あらゆる糖質コルチコイドブロッカー処方物を、製造に適当な、非毒性の薬剤学的に許容できる賦形剤と混合し得る。
【0077】
典型的には、本発明の実施において使用するのに適当な糖質コルチコイドブロッカー化合物は、経口的に投与される。組成物中における本発明の化合物の量は、組成物の型、単位投与量の大きさ、賦形剤の種類、および当業者に周知の他の因子によって広く変化し得る。一般的に、最終組成物は重量の0.000001パーセント(%w)から10%w、好ましくは0.00001%wから1%wの糖質コルチコイドブロッカー化合物、残りは賦形剤または複数の賦形剤を含み得る。例えば、GRアンタゴニストのミフェプリストンは、約0.5から25mg/kgの間の範囲、より好ましくは約0.75から15mg/kgの間、最も好ましくは約10mg/kgの投与量で、錠剤形式で経口的に与えられる。
【0078】
経口投与のための医薬品処方を、経口投与に適切な投与量で、当該分野で周知の薬剤学的に許容できる担体を用いて処方し得る。そのような担体は、医薬品処方を、患者による摂取に適切な、錠剤、丸剤、粉末、糖衣錠、カプセル、液体、ロゼンジ、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として単位投与量形式に処方することを可能にする。経口的使用のための医薬品調製物を、糖質コルチコイド阻害剤化合物と固体賦形剤の組み合せによって、錠剤または糖衣錠のコアを得るために、もし望ましいなら適切なさらなる化合物を加えた後に、必要に応じてできた混合物を粉砕して、そして顆粒の混合物を処理して、得ることができる。適切な固体賦形剤としては、炭水化物またはタンパク質充填剤であり、そしてラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールのような糖;トウモロコシ、コムギ、コメ、ジャガイモ、または他の植物由来のデンプン;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはナトリウムカルボキシメチルセルロースのようなセルロース;ならびにアラビアゴムおよびトラガカントゴムのようなゴム;ならびにゼラチンおよびコラーゲンのようなタンパク質が挙げられるがこれに限らない。もし望ましいなら、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸、またはアルギン酸ナトリウムのようなアルギン酸塩のような、崩壊剤または可溶化剤を加え得る。
【0079】
本発明のGRアンタゴニストをまた、薬剤の直腸投与のために、坐剤の形式で投与し得る。これらの処方を、通常の温度では固体であるが直腸温度では液体であり、そして従って直腸で溶解して薬剤を放出する、適切な非刺激性の賦形剤と薬剤を混合することによって調製し得る。そのような材料は、ココアバターおよびポリエチレングリコールである。
【0080】
本発明のGRアンタゴニストをまた、坐剤、吸入、粉末およびエアロゾル処方のような、鼻腔内、眼内、膣内、および直腸内経路で投与し得る(ステロイド吸入剤の例に関しては、Rohatagi、J.Clin.Pharmacol.35:1187−1193、1995;Tjwa、Ann.Allergy Asthma Immunol.75:107−111、1995を参照のこと)。
【0081】
本発明のGRアンタゴニストを、経皮的に、局所経路によって、塗布スティック、溶液、懸濁液、エマルジョン、ゲル、クリーム、軟膏、パスタ、ゼリー、塗布剤、粉末およびエアロゾルとして処方して送達し得る。
【0082】
本発明のGRアンタゴニストをまた、体内における遅延放出のためにマイクロスフィアとして送達し得る。例えば、マイクロスフィアを、ゆっくりと皮下で放出する、薬剤(例えばミフェプリストン)を含むマイクロスフィアの経皮的注射によって(Rao、J.Biomater Sci.Polym.Ed.7:623−645、1995を参照のこと);生分解性および注射可能なゲル処方として(例えば、Gao、Pharm.Res.12:857−863、1995を参照のこと);または経口投与のためのマイクロスフィアとして(例えば、Eyles、J.Pharm.Pharmacol.49:669−674、1997)送達し得る。皮内的および皮内経路はどちらも、数週間または数ヶ月の、一定した送達を可能にする。
【0083】
本発明のGRアンタゴニスト医薬品処方を、塩として提供し得、そして塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸等が挙げられるがこれに限らない、多くの酸を用いて形成し得る。塩は、対応する遊離塩基形式である水性または他のプロトン性溶媒中で、より可溶性である傾向がある。他の場合には、好ましい調製物は、使用の前に緩衝液と混合する、4.5から5.5のpH範囲で、1mM−50mMのヒスチジン、0.1%−2%のスクロース、2%−7%のマンニトール中における、凍結乾燥粉末であり得る。
【0084】
別の実施態様において、本発明のGRアンタゴニスト処方は、静脈内(IV)投与のような非経口投与に有用である。投与のための処方は、通常、薬剤学的に許容できる担体中に溶解したGRアンタゴニスト(例えばミフェプリストン)の溶液を含む。採用し得る許容できるビヒクルおよび溶媒は、水およびリンガー溶液、等張塩化ナトリウムを含む。それに加えて、滅菌固定油を、溶媒または懸濁媒体として通常は採用し得る。この目的のために、合成モノまたはジグリセリドを含むあらゆるブランドの固定油を採用し得る。それに加えて、オレイン酸のような脂肪酸を、同様に注射可能なものの調製に使用し得る。これらの溶液は、滅菌であり、そして一般的に望ましくないものを含まない。これらの処方を、通常の、周知の滅菌技術によって滅菌し得る。その処方は、生理学的状態に近づけるために必要な場合、pH調整剤および緩衝化剤、毒性調整剤、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム等のような、薬剤学的に許容できる補助物質を含み得る。これらの処方におけるGRアンタゴニストの濃度は、広く変化し得、そして選択された特定の投与方式および患者のニーズによって、主に液体容量、粘性、体重等に基づいて選択される。IV投与に関しては、処方は、滅菌注射可能水性または油性懸濁液のような、滅菌注射可能調製物であり得る。この懸濁液を、それらの適切な分散または湿潤剤および懸濁剤を用いて、公知の技術によって処方し得る。滅菌注射可能調製物はまた、1,3−ブタンジオールの溶液のような、非毒性の非経口的に許容できる希釈剤または溶媒中の、滅菌注射可能溶液または懸濁液であり得る。
【0085】
別の実施態様において、本発明のGRアンタゴニスト処方を、細胞膜に融合するか、またはエンドサイトーシスされるリポソームの使用によって、すなわちリポソームに結合したリガンド、またはオリゴヌクレオチドに直接結合したリガンドであって、エンドサイトーシスを引き起こす細胞の表面膜タンパク質受容体に結合するリガンドを採用することによって、送達し得る。リポソームを使用することによって、特にリポソーム表面が標的細胞に特異的なリガンドを有するか、または他の方法で特定の器官に選択的に向けられる場合、インビボでGRアンタゴニストの送達を標的細胞に集中させ得る。(例えば、Al−Muhammed、J.Microencapsul.13:293−306、1996;Chonn、Curr.Opin.Biotechnol.6:698−708、1995;Ostro、Am.J.Hosp.Pharm.46:1576−1587、1989を参照のこと。)
(b.糖質コルチコイド受容体アンタゴニストの投与レジメの決定)
本発明の方法は、DSを有する成人における認知低下を阻害または逆転させる。これを達成するために適当なGRアンタゴニストの量は、「治療的に有効な投与量」として定義される。投与スケジュールおよびこの使用のために有効な量、すなわち「投与レジメ」は、認知低下の重症度、患者の身体的状態、年齢等を含む、様々な因子に依存する。患者のための投与レジメを計算する場合、投与方式も考慮する。
【0086】
投与レジメはまた、当該分野で周知の薬物動態学的パラメーター、すなわちGRアンタゴニストの吸収速度、生物学的利用能、代謝、クリアランス等も考慮する(例えば、Hidalgo−Aragones、J.Steroid Biochem.Mol.Biol.58:611−617、1996;Groning、Pharmazie 51:337−341、1996;Fotherby、Contraception 54:59−69、1996;Johnson、J.Pharm.Sci.84:1144−1146、1995;Rohatagi、Pharmazie 50:610−613、1995;Brophy、Eur.J.Clin.Pharmacol.24:103−108、1983;最新のRemington’s、前出を参照のこと)。例えば、1つの研究において、ミフェプリストンの1日投与量の0.5%未満が尿中に排泄された;薬剤は循環アルブミンに大量に結合した(Kawai、前出、1989を参照のこと)。技術水準は、臨床医が個々の患者、GRアンタゴニスト、および治療する疾患または状態それぞれの投与レジメを決定することを可能にする。実例となる例として、ミフェプリストンに関して下記で提供するガイドラインを、本発明の方法を実施する場合に投与されるあらゆるGRアンタゴニストの投与レジメ、すなわち投与スケジュールおよび投与量レベルを決定するガイダンスとして使用し得る。
【0087】
GRアンタゴニスト処方の単一のまたは複数の投与を、患者によって必要とされるおよび許容される投与量および頻度によって、投与し得る。その処方は、DSを有する成人において認知低下を有効に阻害または逆転させるために、十分な量の活性薬剤、すなわちミフェプリストンを提供する。例えば、ミフェプリストンまたはORG34517のような抗糖質コルチコイドの経口投与に関して、典型的な好ましい医薬品処方は、1日あたり約5から15mg/kg患者体重、より好ましくは1日あたり約8から約12mg/kg患者体重の間、最も好ましくは1日あたり10mg/kg患者体重であるが、1日あたり約0.5から約25mg/kg体重の間の投与量を、本発明の実施において使用し得る。特に、経口的に、血流に、体腔へ、または器官の内腔への投与と対照的に、脳脊髄液(CSF)空間のような、解剖学的に隠れた部位へ薬剤を投与する場合には、より低い投与量を使用し得る。実質的により高い投与量を、局所投与において使用し得る。非経口的に投与可能なGRアンタゴニスト処方を調製する実際の方法は、当業者に公知または明らかであり、そしてRemington’s、前出のような出版物においてより詳細に記載されている。「Receptor Mediated Antisteroid Action」、Agarwalら編、De Gruyter、New York、1987におけるNiemanも参照のこと。
【0088】
本発明のGRアンタゴニストを含む医薬品を許容できる担体中で処方した後、それを適切な容器に入れて、そして指示された状態の治療のためにラベルし得る。GRアンタゴニストの投与に関して、そのようなラベルは、例えば投与の量、頻度および方法に関する指示を含む。1つの実施態様において、本発明は、DSを有する成人において認知低下を阻害または逆転させるキットを提供し、それはGRアンタゴニスト、およびGRアンタゴニストの適応症、投与量および投与スケジュールを教える指示資料を含む。
【実施例】
【0089】
以下の実施例は、請求項に記載される発明を限定するためではなく、説明するために提供される。
【0090】
(実施例1:ミフェプリストンによる、成人DS患者における認知低下の阻害または逆転)
以下の実施例は、本発明の方法をどのように実施するか示す。
患者の選択:
ダウン症候群と診断された成人(年齢18歳以上)。患者は、典型的にはその年齢に関して正常なコルチゾールレベルを有する。
ミフェプリストンの投与レジメおよび投与:
糖質コルチコイド受容体(GR)アンタゴニスト、ミフェプリストンを、本研究で使用する。毎日200mgの投与量で投与する。個人は、200mgのミフェプリストンを毎日6ヶ月間投与され、そして下記で記載するように評価される。もし必要なら投与量を調整し、そしてさらなる評価を治療中定期的に実施する。
【0091】
ミフェプリストン錠剤は、Shanghai HuaLian Pharmaceuticals Co.,Ltd.、Shanghai、Chinaのような、市販の供給源から入手可能である。
認知低下の評価:
認知低下の阻害または逆転におけるミフェプリストンの有効性を正確に記載し、そして評価するために、患者の認知機能を、本明細書中で記載されたような客観的および主観的基準によって決定し、そして基線、3ヶ月、および6ヶ月で測定する。
【0092】
(実施例2:コルチゾールレベルの測定)
実施例1の患者のコルチゾールレベルを測定するために、午後のコルチゾールテスト測定値を取り、そして基礎のコルチゾール尺度として使用する。コルチゾールレベルを0日目、薬物治療を受けて2週間後(14日目)、および6ヶ月まで各訪問時に、そしてその後定期的に取る。
【0093】
「Double Antibody Cortisol Kit」(Diagnostic Products Corporation、Los Angeles、CA)を使用して、血液コルチゾールレベルを測定する。このテストは、125I標識コルチゾールが、臨床試料からのコルチゾールと抗体部位に関して競合する、競合的ラジオイムノアッセイであり、そして本質的に製造会社によって供給される試薬を用いて、製造会社の指示によって実施する。簡単には、血液を静脈穿刺によって採取し、そして血清を細胞から分離する。試料を2から8℃で7日まで、または−20℃で凍結して2ヶ月まで保存する。アッセイの前に、おだやかに旋回またはさかさまにすることによって、試料を室温(15−28℃)にする。チューブあたり25マイクロリットルの血清で、二連で16本のチューブを調製する。コルチゾール濃度を、調製した検定チューブから計算する。正味のカウントは、平均CPMから平均非特異的CPMを引いた値に等しい。未知のもののコルチゾール濃度は、検定曲線から内挿によって推定される(Dudleyら、Clin.Chem.31:1264−1271、1985)、
本明細書中で記載された実施例および実施態様は、説明目的のためのみであり、そしてその様々な修飾または変更が当業者に示唆され、そして本出願および特許請求の意図および範囲に含まれることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダウン症候群を有する成人患者において認知低下を阻害または逆転させる方法

【公開番号】特開2009−102343(P2009−102343A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312752(P2008−312752)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【分割の表示】特願2003−524530(P2003−524530)の分割
【原出願日】平成14年8月27日(2002.8.27)
【出願人】(503345477)コーセプト セラピューティクス, インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】