説明

ダブルへテ口接合バイポーラトランジスタ

【課題】ブロッキング現象を解消し、さらにトランジスタ動作を高速化することが可能なダブルへテ口接合バイポーラトランジスタを提供すること。
【解決手段】n型のエミッタ層1、p型のベース層2およびn型のコレクタ層3を備え、ベース層2がエミッタ層1およびコレクタ層3とヘテロ接合されてなるダブルへテ口接合バイポーラトランジスタ100において、ベース層2が、コレクタ層3側から数えて2番目の第1のベース層21、および、第1のベース層21とコレクタ層3とに挟まれた第2のベース層22を含む複数の層を有し、第2のベース層22用の材料の電子親和力がコレクタ層3の形成に用いる材料の電子親和力よりも小さく、第2のベース層22用の材料のエネルギーバンドギャップが、第1のベース層21用およびコレクタ層3用の材料のエネルギーバンドギャップより狭い構成を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体を用いたダブルへテ口接合バイポーラトランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、へテ口接合バイポーラトランジスタ(Heterojunction Bipolar Transistor 以下、HBTという。)は、高速にトランジスタ動作できる素子として研究開発および実用化が進められている。高速性に優れたIII−V族化合物半導体のInP系材料を用いたHBTにおいてはコレクタ耐圧の低さが課題となっており、コレクタ耐圧を高くできるという観点から、ベースに用いる材料よりワイドバンドギャップのInPをコレクタに用いたダブルへテ口接合バイポーラトランジスタ(Double HBT 以下、DHBTという。)が注目され、開発が進められている。ここで、InP系のDHBTは、通常、ダブルヘテ口構造をとり、エミッタとコレクタにはInPが、ベースにはInPよりもエネルギーバンドギャップの小さいInGaAs等の化合物半導体が用いられる。
【0003】
図5(a)は、上記の構造のInP系のDHBTのエネルギーダイヤグラムを説明するための図である。上記の構造のInP系のDHBTには、図5(a)に示すように、ベース層2とコレクタ層3との間にエネルギーバンドギャップの不連続に起因するエネルギー障壁(以下、ブロッキング障壁という。)が発生する。そのため、ベース層2を経てコレクタ層3に電子を移動させようとしても上記のブロッキング障壁により阻止される現象(以下、ブロッキング現象という。)が生じ、係るブロッキング現象によりコレクタ電流密度を充分に上げることができないことがあった。
【0004】
従来、InP系のDHBTにおける上記のブロッキング現象を解消または緩和するための種々の技術が検討され、開示されてきた。具体的には、ベースコレクタ間に超格子構造の層を設け、電子のブロッキング現象を緩和すること、ベースコレクタ間にエネルギーバンドギャップがステップ状に変化する構造の層を設け、所謂、ステップグレイデッド(Step Graded)構造にすること等が開示されてきた。
【0005】
その後、所謂、タイプII−スタッグド(TypeII-stagged)といわれる半導体の組み合わせが発見され、タイプII−スタッグドを利用して上記のブロッキング現象を緩和または解消しようとする技術が開示された(例えば、特許文献1参照。)。ここで、タイプII−スタッグドとは、組み合わされた2つの半導体をそれぞれ第1の半導体および第2の半導体とし、第2の半導体の方が第1の半導体よりもエネルギーバンドギャップが小さいとすると、第1の半導体の電子親和力が第2の半導体の電子親和力より大きくなっているものをいう。
【0006】
図5(b)は、特許文献1に開示されたInP系のDHBTのエネルギーダイヤグラムを説明するための図である。図5(b)に示すDHBTは、ベースコレクタ間にコレクタとタイプII−スタッグドをなすGaAsSbを挿入したものである。ここで、ベースコレクタ間に挿入されたGaAsSbの厚さは2nm以下とされ、ベースとの接合領域にはエネルギーバンドギャップの不連続に起因する薄いブロッキング障壁が発生する。このようにGaAsSbを薄くすることによって、電子がベースとの接合領域に生じる薄いブロッキング障壁をトンネルしやすくすることができ、その結果、ブロッキング現象を解消または緩和できるとされるものである。
【0007】
このほか、ベースをGaAsSbのみで形成することも行われているが次のような欠点がある。ベース抵抗値はトランジスタ動作の高速性を左右する重要な要素であり、GaAsSbの抵抗値はInGaAsの抵抗値より高いため、GaAsSbのみでベースを形成するのでは高性能が担保されにくくなるのである。そのためベースには、通常、InGaAsが用いられ、特許文献1に開示されたInP系のDHBTでも、ベースにInGaAsが用いられている。
【特許文献1】特開2003−86602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような従来のダブルへテ口接合バイポーラトランジスタでは、トランジスタ動作の高速化をさらに進めるべく、ベースコレクタ間の静電容量を低下させる方法も考えられているが、エッチングでベース電極近傍のコレクタ層を除去しようとしても、ベース層に対し、アンダーカットを入れることが難しく、ベース層およびコレクタ層の両方をエッチングして取り除くため、ベース電極と接するベース層の面積が減少してベース抵抗が上昇してしまい、トランジスタ動作の高速化が充分に図れないという問題もブロッキング現象の他にあった。
【0009】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、ブロッキング現象を解消し、さらにベース抵抗を上昇させずにベースコレクタ間の静電容量を低下させ、ベース内で電子を加速させることにより、トランジスタ動作を高速化することが可能なダブルへテ口接合バイポーラトランジスタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の点を考慮して、請求項1に係る発明は、導電型がn型のエミッタ層(1)、導電型がp型のベース層(2)、および、導電型がn型のコレクタ層(3)を備え、前記ベース層が前記エミッタ層および前記コレクタ層とヘテロ接合されてなるダブルへテ口接合バイポーラトランジスタ(100)において、前記ベース層が、少なくとも、前記エミッタ層側に形成された第1ベース層(21)と、前記第1のベース層より前記コレクタ層側に形成された第2のベース層(22)を含み、前記第2のベース層の形成に用いる材料の電子親和力が前記コレクタ層の形成に用いる材料の電子親和力よりも小さく、前記第2のベース層の形成に用いる材料のエネルギーバンドギャップが、前記第1のベース層の形成に用いる材料のエネルギーバンドギャップおよび前記コレクタ層の形成に用いる材料のエネルギーバンドギャップより狭い構成を有している。
【0011】
この構成により、ベース層が、ブロッキング現象を解消できる第2のベース層と第1のベース層とを含む複数の層に分けられ、電子が第1のベース層を通過して第2のベース層に入ったときに加速されるため、トランジスタ動作を高速化することが可能なダブルへテ口接合バイポーラトランジスタを実現することができる。
【0012】
また、請求項2に係る発明は、請求項1において、メサ型の素子構造を有し、前記第2のベース層が、所定のエッチング液に対して前記第1のベース層よりも速いエッチング速度でエッチングされる材料からなる構成を有している。
【0013】
この構成により、請求項1の効果に加え、ベース電極近傍の第2のベース層を除去し第1のベース層を残すことができるため、ベース電極とベース層の接触面積が減少することによる接触抵抗の増加がなく、かつベース層の一部を残しつつベース電極近傍のコレクタ層をエッチングして除去しやすくなり、ベースコレクタ間の静電容量の低減により、さらにトランジスタ動作を高速化することが可能なダブルへテ口接合バイポーラトランジスタを実現することができる。
【0014】
また、請求項3に係る発明は、請求項1において、前記第1のベース層がInGaAsからなり、前記第2のベース層がGaAsSbからなり、前記コレクタ層がInPを含む材料からなる構成を有している。
【0015】
この構成により、請求項1の効果に加え、例えば硫酸−過酸化水素水溶液系のエッチング液等を用いることによって、GaAsSbをInGaAsよりも速いエッチング速度でエッチングできるため、ベース電極近傍に第2のベース層が除去されたアンダーカットを形成でき、その結果、ベース電極近傍のコレクタ層を除去することが容易になり、ベースコレクタ間の静電容量を低下させてトランジスタ動作をさらに高速化することが可能なダブルへテ口接合バイポーラトランジスタを実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ベース層が、ブロッキング現象を解消できる第2のベース層と第1のベース層とを含む複数の層に分けられ、電子が第1のベース層を通過して第2のベース層に入ったときに加速されるため、トランジスタ動作を高速化することが可能なダブルへテ口接合バイポーラトランジスタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0018】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係るダブルへテ口接合バイポーラトランジスタ(Double Heterojunction Bipolar Transistor 以下、DHBTという。)100の構造の一例を示す断面図である。図1に示すDHBT100は、エミッタ層1、ベース層2、および、コレクタ層3を備え、メサ型構造を有する。エミッタ層1は、さらに、n−InGaAsからなるエミッタコンタクト層11、n−InPからなる高濃度エミッタ層12、および、n−InPからなる低濃度エミッタ層13によって構成される。ここで、エミッタコンタクト層11は、n電極であるエミッタ電極4とオーミック接触を得るために、不純物が高濃度にドープされた層である。
【0019】
また、ベース層2は、さらに、コレクタ層3側から数えて2番目の第1のベース層21、第1のベース層21とコレクタ層3とに挟まれた第2のベース層22によって構成される。コレクタ層3側に位置する第2のベース層22の形成に用いる材料の電子親和力は、コレクタ層3の形成に用いる材料の電子親和力より小さいものとする。また、第2のベース層22のエネルギーバンドギャップは、第1のベース層21のエネルギーバンドギャップよりも狭くなっている。
【0020】
なお、図1には、ベース層2が第1のベース層21および第2のベース層22の2層からなる構成例が示されているが、本発明は、必ずしもベース層2が2層からなる構成に限定されるものではなく、その他の半導体層を含むのでもよい。以下、説明の都合上、ベース層2は第1のベース層21および第2のベース層22からなるものとする。
【0021】
コレクタ層3は、さらに、不純物をドープしない(以下、アンドープという。)、または、低濃度にドープしたInPからなる低濃度コレクタ層31、および、n−InPからなるコレクタコンタクト層32によって構成される。ここで、コレクタコンタクト層32は、n電極であるコレクタ電極6とオーミック接触を得るために、不純物が高濃度にドープされた層である。上記の第2のベース層22には、低濃度コレクタ層31とタイプII−スタッグド(TypeII-stagged)をなす材料が用いられる。
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係るDHBT100の作成方法について、図面を用いて説明する。まず、図2(a)に示すように、SI(Semi-Insulate)−InPからなる半導体基板7の(100)面上に、n−InPからなるコレクタコンタクト層32、アンドープまたはn型不純物を低濃度にドープしたInPからなる低濃度コレクタ層31、p−GaAsSbからなる第2のベース層22、p−InGaAsからなる第1のベース層21、n−InPからなる低濃度エミッタ層13、n−InPからなる高濃度エミッタ層12、および、n−InGaAsからなるエミッタコンタクト層11を、この順番に堆積する。
【0023】
上記の各層11〜31およびコレクタコンタクト層32は、例えば、MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)等の技術を用いて堆積されるが、その他の技術を用いて形成するのでもよい。また、n型の不純物としては、例えば、Si、S等が用いられ、p型の不純物としては、例えば、C、Be等が用いられる。ただし、本発明の適用は、これらの元素に限定されるものではなく、他の元素であってもよい。なお、上記のコレクタコンタクト層32に関しても同様である。
【0024】
上記の各層11〜31およびコレクタコンタクト層32の厚さは、エミッタコンタクト層11側からそれぞれ、例えば、100nm、20nm、50nm、20nm、30nm、200nm、および、400nm程度である。また、上記の各層11〜22およびコレクタコンタクト層32中の不純物濃度は、エミッタコンタクト層11側からそれぞれ、例えば、3×1019cm−3、2×1019cm−3、3×1017cm−3、4×1019cm−3、4×1019cm−3および1×1019cm−3程度である。なお、本発明の適用は、上記の層厚および不純物濃度に限定されるものではなく、他の層厚および不純物濃度であってもよい。
【0025】
次に、上記の各半導体層を形成した後の処理について説明する。まず、フォトリソグラフィ技術等を用いて、エミッタ電極形成用の開口部を有するレジストパターン(以下、エミッタ電極用レジストパターンという。)を上記のエミッタコンタクト層11上に作成する。ここで、開口部は矩形をなし、この矩形の長手方向は[011]軸方向を向いているものとする。次に、エミッタ電極用レジストパターン上からn電極用の金属を蒸着等によって堆積し、堆積後、エミッタ電極用レジストパターン共々エミッタ電極用レジストパターン上の金属を除去し、開口部を介してエミッタコンタクト層11上に堆積したn電極を残す。これによって、図2(a)に示すようにエミッタ電極4が形成される。
【0026】
エミッタ電極4を形成した後、エッチング技術を用いて、エミッタコンタクト層11、高濃度エミッタ層12および低濃度エミッタ層13を除去し、図2(b)に示すように第1のベース層21を露出させる。ここでのエッチングには、エミッタ電極4をマスクとして用い、InGaAsの物質からなる層のエッチングには硫酸−過酸化水素水溶液系のエッチング液を用い、InP系の物質からなる層のエッチングには塩酸−燐酸水溶液系のエッチング液を用いる。
【0027】
エミッタ層1は、これらのエッチングにより、エミッタ電極4の周辺部分のエミッタコンタクト層11、高濃度エミッタ層12および低濃度エミッタ層13が除去されて、図2(b)に示すようにエミッタ電極4のオーバーハングが形成される。
【0028】
次に、フォトリソグラフィ技術等を用いて、ベース電極形成用の開口部を有するレジストパターン(以下、ベース電極用レジストパターンという。)を上記の第1のベース層21上に作成する。ここで、開口部はエミッタ電極4形成用の開口部と同様に矩形をなし、この矩形の長手方向は[011]軸方向を向いているものとする。次に、ベース電極用レジストパターンおよびエミッタ電極4上からp電極用の金属を蒸着等によって堆積し、堆積後、ベース電極用レジストパターン共々ベース電極用レジストパターン上の金属を除去し、開口部を介して第1のベース層21上に堆積したp電極を残す。これによって、図2(c)に示すように、オーバーハングを有するエミッタ電極4に対してセルフアラインされたベース電極5が形成される。
【0029】
次に、フォトリソグラフィ技術等を用いて、エミッタ層1を保護するためのレジスト膜を、エミッタ電極4およびベース電極5上に形成する。上記のレジスト膜を形成後、エッチング技術を用いて第1のベース層21および第2のベース層22を除去する。ここでのエッチングには、上記のレジスト膜、エミッタ電極4およびベース電極5をマスクとして用い、硫酸−過酸化水素水溶液系のエッチング液を用いる。硫酸−過酸化水素水溶液系のエッチング液に対して、GaAsSbはInGaAsよりもエッチング速度が速い。このエッチング工程では、第2のベース層22に対するエッチング速度が、第1のベース層21のエッチング速度より速いため、図3(d)に示すように、第1のベース層21の下にアンダーカットが形成される。
【0030】
第1のベース層21および第2のベース層22を除去した後、エッチング技術を用いて図3(e)に示すように低濃度コレクタ層31を除去し、コレクタコンタクト層32を露出させる。ここでのエッチングには、上記のレジスト膜、エミッタ電極4およびベース電極5をマスクとして用い、塩酸−燐酸水溶液系のエッチング液を用いる。ここで、ベース電極5の長手方向は[011]軸方向を向いているため、上記のレジスト膜、エミッタ電極4およびベース電極5をマスクとすることによって、低濃度コレクタ層31は、逆メサ形にエッチングされる。
【0031】
上記で低濃度コレクタ層31を除去した後、フォトリソグラフィ技術等を用いて、コレクタ電極形成用の開口部を有するレジストパターン(以下、コレクタ電極用レジストパターンという。)をコレクタコンタクト層32上に作成する。次に、コレクタ電極用レジストパターン上からn電極用の金属を蒸着等によって堆積し、堆積後、コレクタ電極用レジストパターン共々コレクタ電極用レジストパターン上の金属を除去し、開口部を介してコレクタコンタクト層32上に堆積したn電極を残す。これによって、図3(f)に示すようにコレクタ電極6が形成される。
【0032】
なお、上記では、形成しようとする素子を保護するためのパッシベーション膜等を設ける工程、界面の清浄化等の工程、電極形成後のシンターリング工程等については記載しなかったが、本発明の適用は、上記の工程以外にこのような工程を含むものに対しても適用される。また、エミッタ電極4、ベース電極5およびコレクタ電極6を複数の金属層で構成するのでもよい。さらに、本発明の適用は、低濃度エミッタ層13、第1のベース層21、第2のベース層22、低濃度コレクタ層31を半導体層として有するDHBTであれば、その他の構造を有するのでもよく、係る構造を有するものであれば、他の工程で作成されるのでもよい。
【0033】
次に、本発明の実施の形態に係るDHBT100の動作について説明する。図4は、DHBT100のエネルギーダイヤグラムを説明するための図である。図4(a)は、電圧を印加しないときのDHBT100のエネルギーダイヤグラムを示す図である。図4(a)に示すエネルギーダイヤグラムにおいて、第1のベース層21と第2のベース層22との間に生ずるスパイク(以下、ベース内スパイクという。)の厚さは、第1のベース層21および第2のベース層22中の不純物濃度が1019cm−3台と充分高いため、キャリアが容易にトンネルできる程度に薄くなっている。同様に、エミッタコンタクト層11と高濃度エミッタ層12との間に生ずるスパイクの厚さも、キャリアが容易にトンネルできる程度に薄くなっている。
【0034】
図4(b)は、エミッタ層1とベース層2との間に順バイアスとなるように電圧(以下、エミッタベース電圧という。)を印加し、ベース層2とコレクタ層3との間に逆バイアスとなるように電圧(以下、ベースコレクタ電圧という。)を印加して、トランジスタ動作させるときのDHBT100のエネルギーダイヤグラムを示す図である。
【0035】
まず、エミッタ層1とベース層2との間に順バイアスのエミッタベース電圧が印加されることによって、エミッタ層1内の電子がエミッタ層1から第1のベース層21に注入される。また、ベース電極5近傍の第2のベース層22の一部が上記で説明したように除去される(図3(d)参照)と共に、この除去された領域近傍の低濃度コレクタ層31も除去されている(図3(e)参照)ため、ベースコレクタ間の静電容量(以下、コレクタ容量という。)が減少し、トランジスタ動作を左右するベース抵抗とコレクタ容量との積を小さくすることができる。
【0036】
低濃度エミッタ層13から第1のベース層21内に注入された電子は、ベース内スパイクをトンネルして第2のベース層22に移動する。ここで、第2のベース層22のエネルギーバンドギャップは、第1のベース層21のエネルギーバンドギャップよりも狭くなっているため、ベース層2に注入された電子は、第2のベース層22に入ると加速され、低濃度コレクタ層31に移動していく。
【0037】
第2のベース層22で加速された電子は、低濃度コレクタ層31に入ると、ベース層2とコレクタ層3との間に逆バイアスとなるようにベースコレクタ電圧が印加されているため、低濃度コレクタ層31内の強い電界によって加速され、高速にコレクタコンタクト層32に向けてドリフトしていく。
【0038】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係るダブルへテ口接合バイポーラトランジスタは、ベース層が、ブロッキング現象を解消できる第2のベース層と第1のベース層とを含む複数の層に分けられ、電子が第1のベース層を通過して第2のベース層に入ったときに加速されるため、トランジスタ動作を高速化することができる。
【0039】
また、ベース電極近傍の第2のベース層を除去し第1のベース層を残すことができるため、ベース電極とベース層の接触面積が減少することによる接触抵抗の増加がなく、かつベース層の一部を残しつつベース電極近傍のコレクタ層をエッチングして除去しやすくなり、ベースコレクタ間の静電容量の低減により、さらにトランジスタ動作を高速化することができる。
【0040】
さらに、例えば硫酸−過酸化水素水溶液系のエッチング液等を用いることによって、GaAsSbをInGaAsよりも速いエッチング速度でエッチングできるため、ベース電極近傍に第1のベース層が除去されたアンダーカットを形成でき、その結果、ベース電極近傍のコレクタ層を除去することが容易になり、ベースコレクタ間の静電容量を低下させてトランジスタ動作をさらに高速化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係るダブルへテ口接合バイポーラトランジスタは、ブロッキング現象を解消し、さらにトランジスタ動作を高速化することができるという効果が有用なダブルへテ口接合バイポーラトランジスタ等の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態に係るダブルへテ口接合バイポーラトランジスタの構造の一例を示す断面図
【図2】ダブルへテ口接合バイポーラトランジスタ100の作成方法について説明するための説明図
【図3】ダブルへテ口接合バイポーラトランジスタ100の作成方法について説明するための説明図
【図4】ダブルへテ口接合バイポーラトランジスタ100のエネルギーダイヤグラムを説明するための説明図
【図5】従来のダブルへテ口接合バイポーラトランジスタのエネルギーダイヤグラムを説明するための説明図
【符号の説明】
【0043】
1 エミッタ層
2、2a ベース層
3 コレクタ層
4 エミッタ電極
5 ベース電極
6 コレクタ電極
7 半導体基板
11 エミッタコンタクト層
12 高濃度エミッタ層
13 低濃度エミッタ層
21 第1のベース層
22 第2のベース層
2b ベースコレクタ間に挿入された半導体層
31 低濃度コレクタ層
32 コレクタコンタクト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電型がn型のエミッタ層(1)、導電型がp型のベース層(2)、および、導電型がn型のコレクタ層(3)を備え、前記ベース層が前記エミッタ層および前記コレクタ層とヘテロ接合されてなるダブルへテ口接合バイポーラトランジスタ(100)において、
前記ベース層が、少なくとも、前記エミッタ層側に形成された第1のベース層(21)と、前記第1のベース層より前記コレクタ層側に形成された第2のベース層(22)を含み、
前記第2のベース層の形成に用いる材料の電子親和力が前記コレクタ層の形成に用いる材料の電子親和力よりも小さく、
前記第2のベース層の形成に用いる材料のエネルギーバンドギャップが、前記第1のベース層の形成に用いる材料のエネルギーバンドギャップおよび前記コレクタ層の形成に用いる材料のエネルギーバンドギャップより狭いことを特徴とするダブルへテ口接合バイポーラトランジスタ。
【請求項2】
メサ型の素子構造を有し、前記第2のベース層が、所定のエッチング液に対して前記第1のベース層よりも速いエッチング速度でエッチングされる材料からなることを特徴とする請求項1に記載のダブルへテ口接合バイポーラトランジスタ。
【請求項3】
前記第1のベース層がInGaAsからなり、前記第2のベース層がGaAsSbからなり、前記コレクタ層がInPを含む材料からなることを特徴とする請求項1に記載のダブルへテ口接合バイポーラトランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−128308(P2006−128308A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312723(P2004−312723)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】