説明

ダンパー及び建築物

【課題】下部材と上部材との間に設けられて、下部材と上部材との上下方向の相対移動を低減することが可能なダンパー及び建築物を提供する。
【解決手段】傾斜部材24は、下部材12と上部材16との間に斜めに配置され、傾斜部材24の上端部が上下移動したときに、傾斜部材24の下端部及び抵抗板26が横移動する。粘性層44は、抵抗板26の横移動に伴って生じるせん断変形によって粘性抵抗を抵抗板26に与える。よって、下部材12と上部材16との上下方向の相対移動を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部材と上部材との上下方向の相対移動を低減することができるダンパー、及びこのダンパーを有する建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
地震等により構造物に発生した変形をリンク機構によって増幅し、このリンク機構に接続されたダンパーのエネルギー吸収効率を向上させる減衰装置が提案されている。このような減衰装置は、構造物に発生する横方向の振動を低減するために用いられることが多い。
一方、構造物に発生する上下方向の振動を低減する技術も求められている。例えば、精密機器を製造する工場等の床スラブにおいては、上下方向の振動低減のニーズが高い。
【0003】
図19に示すように、引用文献1の減衰装置では、構造物の柱300に対して勾配をもって上下一対のブレース302が配置されている。上方のブレース302の上端部及び下方のブレース302の下端部が柱300に取り付けられ、上方のブレース302と下方のブレース302との交点にダンパー304が接続されている。ダンパー304は梁306に設置され、柱300と交差する方向に作動する。これによって、地震時や暴風時における柱300の伸縮振動に対して減衰効果を発揮することができる。
【0004】
しかし、引用文献1の減衰装置は、柱300にブレース302を取り付けると共にこの柱300に支持された梁306にダンパー304を設置して、柱300に発生する伸縮振動(上下方向の振動)を低減するものである。よって、このような構成ではない振動低減対象物に対して適用することができない。例えば、構造物基礎(下部材)と床スラブ(上部材)との上下方向の振動(相対移動)を低減することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−247174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は係る事実を考慮し、下部材と上部材との間に設けられて、下部材と上部材との上下方向の相対移動を低減することが可能なダンパー及び建築物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、上下方向に相対移動する下部材と上部材との間に設けられるダンパーにおいて、前記下部材と前記上部材との間に斜めに配置され上端部の上下移動を下端部の横移動に変える傾斜部材と、前記傾斜部材の下端部に設けられる抵抗板と、前記抵抗板の横移動に伴って生じるせん断変形によって粘性抵抗を前記抵抗板に与える粘性層と、を有する。
【0008】
請求項1に記載の発明では、上下方向に相対移動する下部材と上部材との間にダンパーが設けられている。ダンパーは、傾斜部材、抵抗板、及び粘性層を有している。
傾斜部材は、下部材と上部材との間に斜めに配置されることにより、上端部の上下移動を下端部の横移動に変える。すなわち、傾斜部材の上端部が上下移動したときに、傾斜部材の下端部が横移動する。
【0009】
抵抗板は、傾斜部材の下端部に設けられ、傾斜部材の上端部が上下移動したときに傾斜部材の下端部と共に横移動する。
粘性層は、抵抗板の横移動に伴ってせん断変形を生じ、このせん断変形によって抵抗板に粘性抵抗を与える。
【0010】
よって、下部材と上部材とが上下方向に相対移動すると、傾斜部材の上端部の上下移動が傾斜部材の下端部の横移動に変えられて抵抗板が横移動する。これにより、粘性層がせん断変形して抵抗板に粘性抵抗を与え、下部材と上部材との上下方向の相対移動を低減することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、水平面に対する前記傾斜部材の傾斜角度は45度よりも大きい。
【0012】
請求項2に記載の発明では、水平面に対する傾斜部材の傾斜角度が45度よりも大きいので、傾斜部材の上端部の上下方向の移動量よりも、傾斜部材の下端部の横方向の移動量が大きくなる。すなわち、傾斜部材の上端部の上下方向の移動量を増幅させて、傾斜部材の下端部の横方向の移動量に変換することができる。これによって、下部材と上部材との上下方向の相対移動を効果的に低減することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記下部材と前記上部材との横方向の相対移動に起因して生じる、水平面に対する前記傾斜部材の傾斜角度の変化を防ぐ角度変化防止手段を有する。
【0014】
請求項3に記載の発明では、ダンパーが角度変化防止手段を有している。角度変化防止手段は、下部材と上部材との横方向の相対移動に起因して生じる、水平面に対する傾斜部材の傾斜角度の変化を防ぐ。
【0015】
ここで、例えば、傾斜部材の上端部が上部材にピン連結されている場合、下部材と上部材とが横方向に相対移動すると、抵抗板は浮き上がってしまう。これにより粘性層にせん断変形を生じさせることができなくなると、抵抗板に粘性抵抗を与えられなくなる。すなわち、下部材と上部材とが、上下方向と横方向との両方に相対移動する場合、下部材と上部材との上下方向の相対移動を低減できなくなる。
【0016】
これに対して、請求項3のダンパーでは、下部材と上部材との横方向の相対移動に起因して生じる、水平面に対する傾斜部材の傾斜角度の変化を防ぐ角度変化防止手段を有しているので、抵抗板が浮き上がることがない。これによって、下部材と上部材とが、上下方向と横方向との両方に相対移動する場合においても、下部材と上部材との上下方向の相対移動を低減することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記角度変化防止手段は、前記傾斜部材の上端部に設けられ前記上部材の下面に接触した状態で滑り又は回転する連結部を有する。
【0018】
請求項4に記載の発明では、角度変化防止手段が連結部を有している。連結部は、傾斜部材の上端部に設けられ、上部材の下面に接触した状態で滑り又は回転する。
よって、上部材から傾斜部材の上端部に伝わる水平力を低減することができる。これによって、下部材と上部材との横方向の相対移動に起因して生じる、水平面に対する傾斜部材の傾斜角度の変化を防ぐことができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、前記角度変化防止手段は、前記上部材に設けられ横移動可能な移動部材と、前記移動部材に前記傾斜部材の上端部を回転可能に連結するピン部材と、を有する。
【0020】
請求項5に記載の発明では、角度変化防止手段が、移動部材及びピン部材を有している。移動部材は、上部材に横移動可能に設けられている。また、ピン部材は、移動部材に傾斜部材の上端部を回転可能に連結する。
【0021】
よって、移動部材を横移動可能とすることにより、上部材から傾斜部材の上端部に伝わる水平力を低減する。これにより、下部材と上部材との横方向の相対移動に起因して生じる、水平面に対する傾斜部材の傾斜角度の変化を防ぐことができる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、前記角度変化防止手段は、前記上部材と共に前記抵抗板を横移動させる連動手段を有する。
【0023】
請求項6に記載の発明では、角度変化防止手段が、連動手段を有している。連動手段は、上部材と共に抵抗板を横移動させる。
よって、連動手段により上部材と共に抵抗板を横移動させることにより、下部材と上部材との横方向の相対移動に起因して生じる、水平面に対する傾斜部材の傾斜角度の変化を防ぐことができる。
【0024】
請求項7に記載の発明は、前記傾斜部材と前記抵抗板とは、板材を折り曲げて一体に形成されている。
【0025】
請求項7に記載の発明では、傾斜部材と抵抗板とが板材を折り曲げて一体に形成されているので、曲げ加工のみによって傾斜部材と抵抗板とを一体に製作できる。これにより、製作作業の効率化が図れる。また、部品数を低減(例えば、傾斜部材の下端部に抵抗板を回転可能に連結するための連結ピン等が不要)できるので、低コスト化が図れる。
【0026】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7の何れか1項に記載のダンパーを有する建築物である。
【0027】
請求項8に記載の発明では、下部材と上部材との間に設けられて、下部材と上部材との上下方向の相対移動を低減することができるダンパーを有する建築物を構築することができる。
【0028】
請求項9に記載の発明は、前記ダンパーは、免震層に設けられている。
【0029】
請求項9に記載の発明では、下部材と上部材との間の免震層に設けられて、下部材と上部材との上下方向の相対移動を低減することができるダンパーを有する建築物を構築することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は上記構成としたので、下部材と上部材との間に設けられて、下部材と上部材との上下方向の相対移動を低減することが可能なダンパー及び建築物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る建築物を示す立面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るダンパーを示す正面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る連結部を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るダンパーの作用を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係るダンパーの作用を示す線図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係るダンパーの変形例を示す斜視図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るダンパーの変形例を示す説明図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係るダンパーの変形例を示す説明図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係るダンパーを示す正面図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係るダンパーを示す説明図である。
【図11】図10のA−A矢視図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係るダンパーの変形例を示す説明図である。
【図13】図12のB−B矢視図である。
【図14】本発明の第3の実施形態に係るダンパーの変形例を示す正面図である。
【図15】本発明の第3の実施形態に係るダンパーの変形例を示す正面図である。
【図16】本発明の第3の実施形態に係るダンパーの変形例を示す説明図である。
【図17】本発明の実施形態に係るスペーサー部材の変形例を示す説明図である。
【図18】本発明の実施形態に係る建築物の変形例を示す立面図である。
【図19】従来の減衰装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図面を参照しながら、本発明のダンパー及び建築物を説明する。
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0033】
図1の立面図に示すように、第1の実施形態の建築物18では、地盤22上に設けられた下部材としての基礎12と、積層ゴム等の免震装置14を介して基礎12上に支持された上部材としての上部建物16との間の基礎免震層20に、ダンパー10が設けられている。基礎12と上部建物16とは、鉄筋コンクリートによって形成され、上下方向に相対移動する。
図2の正面図に示すように、ダンパー10は、棒状の傾斜部材24、板状の抵抗板26、及び粘性体28を有している。
【0034】
基礎12上には貯留槽30が設けられ、貯留槽30には粘性体28が貯えられている。貯留槽30の底部32の上面には、下面に車輪34が設けられた抵抗板26が載置されている。車輪34により、抵抗板26は貯留槽30の底部32に対して横方向に移動できる。また、車輪34がスペーサーの役割りを果たして、抵抗板26の下面と貯留槽30の底部32の上面との間には、粘性体28からなる粘性層44が形成されている。
【0035】
傾斜部材24は、基礎12と上部建物16との間に斜めに配置されている。傾斜部材24の下端部は、ピン36により抵抗板26の略中央で回転可能に固定されている。また、傾斜部材24の上端部には、連結部としての車輪40が設けられている。
【0036】
傾斜部材24の下端部には、付勢手段としての捩れコイルばね38が設けられており、水平面に対する傾斜部材24の傾斜角度θを大きくする向きに、傾斜部材24へ付勢力を付与する。そして、車輪40及び捩れコイルばね38により構成される角度変化防止手段42によって、車輪40は、上部建物16の下面に接触した状態で回転するので、上部建物16から傾斜部材24の上端部に伝わる水平力を低減することができる。
なお、車輪40が上部建物16の下面に接触した状態で回転する構成になっていれば、捩れコイルばね38はなくてもよい。すなわち、捩れコイルばね38は、角度変化防止手段42の必須構成要素ではない。
【0037】
図2に示す状態(傾斜部材24が実線で描いた傾斜)のとき、水平面に対する傾斜部材24の傾斜角度θは45度よりも大きく(例えば、60度)なっている。
【0038】
次に、本発明の第1の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0039】
地震等により基礎12と上部建物16とが上下方向に相対移動して傾斜部材24の上端部が上下移動したときに、傾斜部材24の下端部が横移動する。そして、傾斜部材24の下端部に設けられた抵抗板26は、傾斜部材24の下端部と共に横移動する。このとき、粘性層44にせん断変形が生じ、このせん断変形によって粘性抵抗を抵抗板26に与える。これにより、基礎12と上部建物16との上下方向の相対移動を低減することができる。
【0040】
ここで、例えば、図3(a)に示すように、傾斜部材24の上端部が上部建物16の下面にピン連結されている場合、基礎12と上部建物16とが横方向に相対移動すると、抵抗板26は浮き上がってしまう。これにより粘性層44にせん断変形を生じさせることができなくなると、抵抗板26に粘性抵抗を与えられなくなる。すなわち、基礎12と上部建物16とが、上下方向と横方向との両方に相対移動する場合、基礎12と上部建物16との上下方向の相対移動を低減できなくなる。
【0041】
これに対して、ダンパー10では、基礎12と上部建物16との横方向の相対移動に起因して生じる、水平面に対する傾斜部材24の傾斜角度θの変化を防ぐ角度変化防止手段42を有しているので、抵抗板26が浮き上がることがない。
【0042】
具体的には、車輪40を上部建物16の下面に接触させた状態で回転させることにより、上部建物16から傾斜部材24の上端部に伝わる水平力を低減することができる。
【0043】
これによって、基礎12と上部建物16とが、上下方向と横方向との両方に相対移動する場合においても、基礎12と上部建物16との上下方向の相対移動を低減することができる。
【0044】
また、水平面に対する傾斜部材24の傾斜角度θが45度よりも大きいので、傾斜部材24の上端部の上下方向の移動量よりも、傾斜部材24の下端部の横方向の移動量が大きくなる。すなわち、傾斜部材24の上端部の上下方向の移動量を増幅させて、傾斜部材24の下端部の横方向の移動量に変換することができる。これによって、基礎12と上部建物16との上下方向の相対移動を効果的に低減することができる。
【0045】
このことを詳しく説明する。図4のモデル図に示すように、水平面に対して傾斜角度θだけ傾いている傾斜部材24を傾斜部材24Aとする。また、傾斜部材24Aの上端部が下方に距離δだけ移動すると共に、傾斜部材24Aの下端部が左方に距離xだけ移動した状態の傾斜部材24を傾斜部材24Bとする。
【0046】
さらに、傾斜部材24Aの鉛直高さをH、水平長さをL、傾斜部材24Aの上端部の鉛直移動率αをδ/H、傾斜部材24Bの下端部の水平移動率(以下、「増幅率」とする)βをx/δとすると、式(1)の関係が成り立つ。
【0047】
【数1】

【0048】
また、式(1)から式(2)を導くことができる。
【0049】
【数2】

【0050】
図5のグラフには、式(2)の値が示されている。横軸には鉛直移動率αが示され、縦軸には増幅率βが示されている。また、L/H=0.1、0.2、0.5、1.0、2.0としたときの値を、それぞれ値46、48、50、52、54とした。
【0051】
図5より、L/Hが1.0よりも大きいとき(傾斜角度θが45度よりも大きいとき)に、増幅率βが1よりも大きくなっていることがわかる。すなわち、水平面に対する傾斜部材24の傾斜角度θが45度よりも大きいときに、傾斜部材24の上端部の上下方向移動量を増幅させることができる。
【0052】
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。
【0053】
なお、第1の実施形態では、傾斜部材24を棒状の部材とした例を示したが、板状の部材としてもよい。
【0054】
また、第1の実施形態では、角度変化防止手段42によって抵抗板26の浮き上がりを防止する例を示したが、例えば、図6の斜視図に示すように、抵抗板26の上方に設けるローラ56等の部材によって抵抗板26の浮き上がりを規制するようにしてもよい。なお、説明の都合上、図6には傾斜部材24等が省略されている。
【0055】
また、第1の実施形態では、付勢手段を捩れコイルばね38とした例を示したが、付勢手段は、連結部としての車輪40を上部建物16の下面に押し当てる付勢力を傾斜部材24に付与させるものであればよく、例えば、斜めに配置されて傾斜部材24と抵抗板26とをつなぐ圧縮ばねを用いてもよい。
【0056】
また、連結部が上部建物16の下面の上下移動に追随できる構成であれば、付勢手段はなくてもよい。例えば図3(f)に示すように、角度変化防止手段64を移動部材66及びピン部材68を有する構成とすれば、付勢手段を設ける必要はない。
【0057】
角度変化防止手段64では、移動部材66に車輪74が設けられている。車輪74は、上部建物16に設けられた逆T字状の横断面を有する鋼製のレール70の鍔部72上を転動する。これにより、移動部材66は上部建物16に対して横移動する。
また、ピン部材68は、移動部材66に傾斜部材24の上端部を回転可能に連結している。
【0058】
よって、移動部材66と上部建物16とが横方向へ相対移動可能なので、上部建物16から傾斜部材24の上端部に伝わる水平力を低減することができる。これにより、基礎12と上部建物16との横方向の相対移動に起因して生じる、水平面に対する傾斜部材24の傾斜角度θの変化を防ぐことができる。
【0059】
また、第1の実施形態では、連結部を車輪40とした例を示したが、連結部は、上部建物16の下面に接触した状態で滑り又は回転すればよく、図3(b)〜(e)のようにしてもよい。図3(b)では、傾斜部材24の先端部が丸く形成されており、図3(c)では、傾斜部材24の先端部に円筒部材58が固定されており、図3(d)では、傾斜部材24の先端部に球部材60が固定されており、図3(e)では、傾斜部材24の先端部に球部材62が回転可能に設けられている。
【0060】
また、第3の実施形態で説明するダンパー10(図10(a)を参照のこと)等の場合には、基礎12と上部建物16との横方向の相対移動に起因して、水平面に対する傾斜部材24の傾斜角度θの変化が生じないので、図3(a)に示すように、傾斜部材24の上端部を上部建物16にピン連結してもよい。
【0061】
また、第1の実施形態では、貯留槽30に1つのダンパー10を配置した例を示したが、複数のダンパー10を設けてもよい。例えば、図7(a)、(b)の正面図に示すように、複数の抵抗板26が設けられた2つのダンパー76、78を貯留槽30に配置してもよい。図7(a)には、上部建物16が下方に移動する前の状態が示され、図7(b)には、上部建物16が下方に移動した状態が示されている。
【0062】
図7(a)に示すように、上下の抵抗板26の間に粘性層44が形成されるので、粘性層44のせん断変形による粘性抵抗を抵抗板26に効果的に与えることができる。
【0063】
また、第1の実施形態では、貯留槽30の底部32の上面と抵抗板26の下面との間に粘性層44を形成した例を示したが、図8(a)、(b)の正面図に示すように、貯留槽30の側壁内面84とこの側壁内面84に対向して配置される抵抗板86の側面90との間に粘性層92を形成するようにしてもよい。図8(a)には、上部建物16が下方に移動する前の状態が示され、図8(b)には、上部建物16が下方に移動した状態が示されている。
【0064】
図8(a)、(b)に示すダンパー94では、末端部が抵抗板26に回転可能に固定され抵抗板26から左右に張り出したリンクアーム88の先端部に、回転可能に抵抗板86が固定されている。貯留槽30の側壁内面84と抵抗板86の側面90とは略平行となっている。
【0065】
よって、抵抗板26が左右に移動するに伴って抵抗板86は上下に移動する。このとき、粘性層92がせん断変形し、せん断変形による粘性抵抗を抵抗板86に与えることができる。
【0066】
なお、抵抗板86が上下方向に移動する際にこの抵抗板86が貯留槽30の中心部側へ移動してしまわないように、抵抗板86が上下方向に移動するときの抵抗よりも抵抗板86が左右方向に受ける抵抗の方が大きくなるように設定する必要がある。
【0067】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0068】
第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
図9の正面図に示すように、第2の実施形態のダンパー96では、傾斜部材としての傾斜部98と抵抗板としての抵抗部100とが、弾性を有する板材を折り曲げて一体に形成されている。
【0069】
傾斜部98の上端部102、抵抗部100の右端部104、及び傾斜部98と抵抗部100とをつなぐ折り曲げ部106は、外側に膨らんだ曲面を有しており、第1の実施形態で説明した連結部として上端部102が機能し、粘性層44を形成するスペーサーとして右端部104及び折り曲げ部106が機能する。
【0070】
また、折り曲げ部106には曲げ加工が施されているので、水平面に対する傾斜部98の傾斜角度θが小さく変化したときに元の傾斜角度θに戻ろうとする復元力が発生する。すなわち、折り曲げ部106は、第1の実施形態で説明した付勢手段として機能する。
【0071】
次に、本発明の第2の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0072】
第2の実施形態のダンパー96では、曲げ加工のみによって傾斜部98と抵抗部100とを一体に製作できる。これにより、製作作業の効率化が図れる。また、部品数を低減(例えば、傾斜部98の下端部に抵抗部100を回転可能に連結するための連結ピン等が不要)できるので、低コスト化が図れる。
【0073】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0074】
第3の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
図10(a)、及び図10(a)のA−A矢視図である図11に示すように、上部建物16の下面には、中空の円柱部材108が固定されている。円柱部材108の底部112の下面には、図3(a)と同様の方法で、傾斜部材24の上端部が回転可能に固定されている。
【0075】
貯留槽30の底部32の上面には、中空の円柱部材114が載置されている。円柱部材114の底部116の下面には車輪34が設けられており、これにより貯留槽30の底部32と円柱部材114との横方向の相対移動が可能となっている。
【0076】
円柱部材114の上部は開放されており、この開口部118に円柱部材108が上下方向に対して移動可能に挿入されている。この構成により、上部建物16と共に円柱部材114及び抵抗板26を横移動させることができる。すなわち、第3の実施形態では、角度変化防止手段が、円柱部材108、114によって構成される連動手段120となっている。
【0077】
円柱部材108の側壁や底部112には空気の流通が可能な貫通孔122が形成されており、これによって、円柱部材114に対して円柱部材108が上下移動した際に空気抵抗が生じることを防いでいる。空気抵抗が問題とならない場合には、貫通孔122は形成しなくてもよい。
【0078】
円柱部材114の底部116の上面には、下面に車輪34が設けられた抵抗板26が載置されている。車輪34により、抵抗板26は円柱部材114の底部116に対して横方向に移動できる。傾斜部材24の下端部は、ピン36により抵抗板26の略中央で回転可能に固定されている。
【0079】
貯留槽30及び円柱部材114には、粘性体28が貯えられている。そして、車輪34がスペーサーの役割りを果たして、抵抗板26の下面と円柱部材114の底部116の上面との間、及び円柱部材114の底部116の下面と貯留槽30の底部32の上面との間には、粘性体28からなる粘性層44が形成されている。
【0080】
次に、本発明の第3の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0081】
第3の実施形態では、図10(b)に示すように、基礎12と上部建物16とが横方向に相対移動した場合、連動手段120により上部建物16と共に抵抗板26を横移動させ、基礎12と上部建物16との横方向の相対移動に起因して生じる、水平面に対する傾斜部材24の傾斜角度θの変化を防ぐことができる。
【0082】
また、このとき、円柱部材114の底部116の下面と貯留槽30の底部32の上面との間に形成された粘性層44にせん断変形が生じ、粘性抵抗を円柱部材114の底部116に与えることができる。すなわち、基礎12と上部建物16との横方向の相対移動を低減することができる。
また、図10(c)に示すように、ダンパー10により、基礎12と上部建物16との上下方向の相対移動を低減することができる。
【0083】
以上、本発明の第3の実施形態について説明した。
【0084】
なお、第3の実施形態では、角度変化防止手段を、円柱部材108、114によって構成される連動手段120とした例を示したが、上部建物16と共に抵抗板26を横移動させることができればよい。
【0085】
例えば、図12(a)、及び図12(a)のB−B矢視図である図13に示すような連動手段126としてもよい。連動手段126は、抵抗板26の下方に配置された抵抗板130と、上部建物16の下面に上端部が固定された円柱状のせん断力伝達部材128とによって構成されている。せん断力伝達部材128は、抵抗板130に上下移動可能に貫通している。説明の都合上、図13では、傾斜部材24等を省略している。
【0086】
これにより、図12(b)に示すように、基礎12と上部建物16とが横方向に相対移動した場合、連動手段126により上部建物16と共に抵抗板130及び抵抗板26を横移動させ、基礎12と上部建物16との横方向の相対移動に起因して生じる、水平面に対する傾斜部材24の傾斜角度θの変化を防ぐことができる。
【0087】
また、このとき、抵抗板130の下面と貯留槽30の底部32の上面との間に形成された粘性層44にせん断変形が生じ、粘性抵抗を抵抗板130に与えることができる。すなわち、基礎12と上部建物16との横方向の相対移動を低減することができる。
【0088】
また、図12(c)に示すように、ダンパー10により、基礎12と上部建物16との上下方向の相対移動を低減することができる。
なお、せん断力伝達部材128の配置、数、及び形状は、適宜決めればよい。
【0089】
また、建築物の有する構造を利用して、上部材と抵抗板26とが横方向に相対移動しないようにしてもよい。例えば、図14、15の正面図のようにしてもよい。
図14に示すダンパー10は、下部材としての床スラブ132と、二重床構造を構成する上部材としての床ボード134との間に配置されている。傾斜部材24の上端部は、図3(a)と同様の方法で、床ボード134の下面に回転可能に固定されている。
床ボード134の横移動は壁136によって拘束されるので、床ボード134と抵抗板26とが横方向に相対移動することを防止できる。
【0090】
図15に示すダンパー10は、吊り天井構造を構成する下部材としての天井ボード138と、上部材としての床スラブ132との間に配置されている。傾斜部材24の上端部は、図3(a)と同様の方法で、床スラブ132の下面に回転可能に固定されている。
【0091】
天井ボード138の横移動は、床スラブ132と天井ボード138とをつなぎ、X字状に張られたブレース140によって拘束されるので、床スラブ132と抵抗板26とが横方向に相対移動することを防止できる。
【0092】
一般的な集合住宅では、63Hz帯域の振動が発生することが多いので、図14、15で示した構成でダンパー10を適用することにより、居住空間に発生する遮音性や微振動を低減する効果が期待できる。
【0093】
また、第3の実施形態の図10(a)で示した円柱部材114を上部建物16の下面に固定し、円柱部材114の底部116を図16(a)の正面図に示すような構成にしてもよい。
【0094】
図16(a)では、抵抗板142の縁部と円柱部材114の側壁下部内面との間に、板バネ144が設けられている。傾斜部材24の上端部は、図3(a)と同様の方法で、上部建16の下面に回転可能に固定されている。円柱部材114の側壁下部には粘性体28が流通する貫通孔146が形成されている。
【0095】
これにより、図12(b)に示すように、地震等により基礎12と上部建物16とが横方向に相対移動した場合、板バネ144を介して円柱部材114から抵抗板142に水平力が伝達され、上部建物16と共に抵抗板142、26が横移動する。これによって、基礎12と上部建物16との横方向の相対移動に起因して生じる、水平面に対する傾斜部材24の傾斜角度θの変化を防ぐことができる。
【0096】
また、このとき、抵抗板142の下面と貯留槽30の底部32の上面との間に形成された粘性層44にせん断変形が生じ、粘性抵抗を抵抗板142に与えることができる。すなわち、基礎12と上部建物16との横方向の相対移動を低減することができる。
【0097】
また、図16(c)に示すように、例えば、上部建物16が工場やコンサートホール等であって上下方向に振動する場合、ダンパー10により基礎12と上部建物16との上下方向の相対移動を低減することができる。
【0098】
以上、本発明の第1〜第3の実施形態について説明した。
【0099】
なお、第1〜第3の実施形態では、スペーサー部材としての車輪34を、抵抗板26、86、130、142、及び底部116の下面に設けた例を示したが、スペーサー部材は、粘性層44、92を形成するスペースを確保することができ、かつ抵抗板26、86、130、142、及び底部116の横移動を可能とするものであればよい。
【0100】
例えば、スペーサー部材を転(ころ)としてもよいし、図17に示すように、抵抗板26、86(不図示)、130、142、及び底部116に固定されたブロック部材152としてもよい。図17では、皿ネジ154によってブロック部材152が抵抗板26、130、142、及び底部116に固定されている。ブロック部材152の配置や数は適宜決めればよい。
また、粘性層44、92の厚さは、抵抗板26、86、130、142、及び底部116が横移動したときに、粘性層44、92にせん断変形が生じる厚さであればよい。
【0101】
また、第1〜第3の実施形態では、基礎免震層20にダンパー10、76、78、94、96が設けられている例を示したが、図18の立面図に示すように、建築物148の中間免震層150に設けてもよい。
【0102】
また、第1〜第3の実施形態では、下部材を基礎12とし、上部材を上部建物16とした例を示したが、下部材と上部材との組み合わせは上下方向に相対移動するものであればどのような構造や規模であってもよい。例えば、下部構造物と上部構造物、基礎と床スラブ、床スラブと二重床を構成する床ボード、及び吊り天井を構成する天井ボードと床スラブとしてもよい。また、下部材を床とし、上部材を精密機器が載置される載置台とする防振台を構成してもよい。
【0103】
以上、本発明の第1〜第3の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1〜第3の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0104】
10、76、78、94、96 ダンパー
12 基礎(下部材)
16 上部建物(上部材)
18、148 建築物
20 基礎免震層(免震層)
24 傾斜部材
26 抵抗板
42、64 角度変化防止手段
44 粘性層
66 移動部材
68 ピン部材
98 傾斜部(傾斜部材)
100 抵抗部(抵抗部材)
120、126 連動手段
132 床スラブ(下部材、上部材)
134 床ボード(上部材)
138 天井ボード(下部材)
150 中間免震層(免震層)
θ 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に相対移動する下部材と上部材との間に設けられるダンパーにおいて、
前記下部材と前記上部材との間に斜めに配置され上端部の上下移動を下端部の横移動に変える傾斜部材と、
前記傾斜部材の下端部に設けられる抵抗板と、
前記抵抗板の横移動に伴って生じるせん断変形によって粘性抵抗を前記抵抗板に与える粘性層と、
を有するダンパー。
【請求項2】
水平面に対する前記傾斜部材の傾斜角度は45度よりも大きい請求項1に記載のダンパー。
【請求項3】
前記下部材と前記上部材との横方向の相対移動に起因して生じる、水平面に対する前記傾斜部材の傾斜角度の変化を防ぐ角度変化防止手段を有する請求項1又は2に記載のダンパー。
【請求項4】
前記角度変化防止手段は、前記傾斜部材の上端部に設けられ前記上部材の下面に接触した状態で滑り又は回転する連結部を有する請求項3に記載のダンパー。
【請求項5】
前記角度変化防止手段は、
前記上部材に設けられ横移動可能な移動部材と、
前記移動部材に前記傾斜部材の上端部を回転可能に連結するピン部材と、
を有する請求項3に記載のダンパー。
【請求項6】
前記角度変化防止手段は、前記上部材と共に前記抵抗板を横移動させる連動手段を有する請求項3に記載のダンパー。
【請求項7】
前記傾斜部材と前記抵抗板とは、板材を折り曲げて一体に形成されている請求項1〜6の何れか1項に記載のダンパー。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載のダンパーを有する建築物。
【請求項9】
前記ダンパーは、免震層に設けられている請求項8に記載の建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−47456(P2011−47456A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195783(P2009−195783)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】