説明

ダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプ

【課題】ダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプの燃料圧力の変動を減少させて燃料噴射量のばらつきを少なくし、またろう付け箇所を少なくする。
【解決手段】燃料噴射弁19が連結される複数のソケット16が底壁11aに設けられた下部ケース11と、その上側を液密に覆う上部ケース12により、ダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプを構成する。上部または下部ケースには、その長手方向に沿ってその壁部の一部を屈曲させて、互いに平行に対向する1対の側壁15aを有する溝部15を一体的に形成し、燃料デリバリパイプ内の燃料圧力を受けて撓む1対の側壁15aは、それらの高さがそれらの間の距離よりも大で、かつそれらの肉厚が上部または下部ケースのその他の部分よりも薄肉とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子制御燃料噴射式エンジンに燃料を供給するのに使用するダンパー機能を備えた燃料デリバリパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の燃料デリバリパイプには、下部ケースとその上側を液密に覆って同下部ケースとの間に内部空間を形成する上部ケースよりなり、下部ケースに設けた複数のソケットに多気筒エンジンに取り付けた複数の燃料噴射弁を液密に連結し、燃料ポンプから燃料供給管を介して燃料デリバリパイプの内部空間に供給された所定圧の燃料は、コントロールユニットにより各燃料噴射弁を開閉制御することにより、作動条件に応じた最適な量の燃料をエンジンに供給するようにしたものがある。このような燃料デリバリパイプでは、燃料噴射弁が開放されて燃料がエンジンに供給されるときに、燃料デリバリパイプ内部の燃料圧力が変動するので、燃料噴射量にばらつきを生じて空燃比が目標値から外れたり、燃料デリバリパイプに振動や異音を生じたりするという問題がある。
【0003】
このような問題を解決する手段としては、いくつかの構造が提案されている。例えば下記特許文献1では、燃料デリバリパイプ(フューエルデリバリパイプ)の本体部の横断面形状がZ形をなすように、それぞれ外側に向かって凸形状に膨出する2つの膨出部を形成し、燃料デリバリパイプの本体部の壁面のうち、インジェクタカップと対向する本体部の壁面部に、所定の範囲に亘って肉薄に偏肉する偏肉部を形成している。
【0004】
また下記特許文献2では、燃料デリバリパイプ(フューエルレール)はろう付けにより一体的に接合した下部ケースおよび上部ケースよりなり、下部ケースの底部には燃料噴射弁が連結される複数個のソケットを長手方向に所定の間隔で取り付け、上部ケースはその内部に金属製薄板からなる隔壁を液密にろう付け固着して空気室を気密に区画した2重構造としている。このようなろう付けによる燃料デリバリパイプの場合は、空気室を気密にしたまゝではろう付けの加熱及びその後の冷却により空気室内に閉じこめられた空気が膨張または収縮して金属製薄板を変形させて製品毎の圧力脈動緩和性能のばらつきを生じさせるおそれがある。そこでこの特許文献2では、上部ケースに空気室を外気に通じる空気穴を設け、ろう付け後にキャップ部材によりこの空気穴を密閉している。
【0005】
また下記特許文献3では、燃料デリバリパイプはろう付けにより一体的に接合した下部ケースおよび上部ケースよりなり、下部ケースの底壁には別体に形成された複数のソケットを長手方向に所定の間隔で取り付けるとともに、薄肉でハット形断面形状の隔壁部材を液密にろう付け固着して空気室を気密に区画した2重構造とし、下部ケースに形成した細い通気孔をろう付け後に加熱溶融して閉じている。この特許文献3の隔壁部材は、断面形状が横長の短冊形で内部空間の燃料圧力の変動に応じてその頂壁が撓むようにしたものと、断面形状が縦長の短冊形で内部空間の燃料圧力の変動に応じて両側の外周壁部が撓むようにしたもの2種類が開示されている。
【特許文献1】特許第4159833号公報(段落〔0025〕〜〔0026〕、図3〜図5)
【特許文献2】特許第4230100号公報(段落〔0011〕〜〔0013〕、図1及び図2)。
【特許文献3】特開2011−069302(段落〔0031〕、〔0039〕〜〔0042〕、図1〜図8)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、脈動圧の発生による圧力変動を受けたときの偏肉部の変位量が増加し、また本体部の断面積変化量の増加量が大きくなるので、脈動や振動の低減効果が高まる。しかしながらインジェクタカップと対向する本体部の壁面部を所定の範囲に亘って肉薄に偏肉する偏肉部は壁部の一部を肉薄にするだけであり、また圧力を受けて撓む部分の面積が増大することはないので、それによる脈動や振動の低減効果の増大は必ずしも充分ではない。また特許文献2では、上部ケースはその内部に金属製薄板からなる隔壁を液密にろう付け固着して空気室を気密に区画した2重構造とし、上部ケースに設けた空気穴をキャップ部材により密閉しており、特許文献1と同様、圧力を受けて撓む部分の面積が増大することはないので、それによる脈動や振動の低減効果の増大は必ずしも充分ではなく、これに加え部品点数及び加工工数が増大し、さらに金属製薄板の全周にわたりろう付けを行っており、ろう付け部分の長さが大となるのでろう付けの欠陥による不良品のおそれが増大するという問題がある。また特許文献3のうち隔壁部材の断面形状が縦長の短冊形で内部空間の燃料圧力の変動により両側の外周壁部が撓むようにしたものによれば、隔壁部材は薄肉であるのに加え両側の外周壁部により圧力を受けるようにしており圧力を受けて撓む部分の面積も増大するので、脈動や振動の低減効果を高めることができる。しかしながら、隔壁部材の全周にわたりろう付けを行っているので、長さが大となったろう付け部分の欠陥による不良品のおそれが増大するという問題を解決することはできない。
【0007】
本発明は燃料デリバリパイプの内部に加わる圧力に対する容積変動を増大させて燃料噴射弁の開閉に伴う燃料圧力の変動を大きく緩和させ、これにより燃料噴射量のばらつきを減少させて空燃比が目標値から外れることがないようにするとともに、燃料デリバリパイプに振動や異音が生じることをなくし、またろう付け箇所を少なくしてろう付けの欠陥による不良品を減少させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このために、請求項1に記載のダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプは、コントロールユニットにより制御されて開閉される燃料噴射弁が連結される複数のソケットが底壁に設けられた横長形状の下部ケースと、この下部ケースの上側を液密に覆って同下部ケースとの間に燃料ポンプから供給される所定圧の燃料が充満される内部空間を形成する上部ケースよりなり、燃料噴射弁の開閉による内部空間内の燃料圧力の変動に応じて下部ケースまたは上部ケースの壁面の少なくとも一部を撓ませて内部空間の容積を変動させることにより燃料圧力の変動を緩和させて燃料噴射量のばらつきを減少させるようにしたダンパー機能を備えた燃料デリバリパイプにおいて、下部ケースまたは上部ケースには、その長手方向に沿ってその壁部の一部を屈曲させて、互いに平行に対向する1対の側壁を有する溝部を一体的に形成し、内部空間内の燃料圧力を受けて撓む1対の側壁は、それらの高さがそれらの間の距離よりも大でかつそれらの肉厚が下部ケースまたは上部ケースのその他の部分よりも薄肉としたことを特徴とするものである。
【0009】
請求項1に記載のダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプにおいて、複数のソケットは下部ケースの底壁の一方の側縁側に片寄った位置に一体的に形成し、溝部は上部ケースの天井壁の一方の側縁とは反対側となる側縁側に片寄った位置に一体的に形成することが好ましい。
【0010】
請求項1に記載のダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプにおいて、下部ケースの底壁には、一方の側縁側に片寄った位置に複数のソケットを一体的に形成するとともに、他方の側縁側に片寄った位置に溝部を一体的に形成することが好ましい。
【0011】
請求項1に記載のダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプにおいて、下部ケースの底壁には、一方の側縁側に片寄った位置に予め別途成形した複数のソケットを液密に固着するとともに、他方の側縁側に片寄った位置に溝部を一体的に形成することが好ましい。
【0012】
請求項1に記載のダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプにおいて、複数のソケットは予め別途成形したものとして下部ケースの底壁の外側に液密に固着し、溝部は上部ケースの天井壁に一体的に形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、下部ケースまたは上部ケースには、その長手方向に沿ってその壁部の一部を屈曲させて、互いに平行に対向する1対の側壁を有する溝部を一体的に形成し、内部空間内の燃料圧力を受けて撓む1対の側壁は、それらの高さがそれらの間の距離よりも大でかつそれらの肉厚が下部ケースまたは上部ケースのその他の部分よりも薄肉としている。これにより内部空間内の燃料圧力を受けて撓む溝部の1対の側壁は、薄肉であるのに加え圧力を受けて撓む部分の面積も増大するので、燃料デリバリパイプ内の圧力変動に対する容積変動は従来に比して増大し、燃料噴射弁の開閉に伴う燃料圧力の変動を緩和する作用も増大する。これにより燃料噴射弁の開閉に伴う燃料圧力の変動による燃料噴射量のばらつきは減少されるので空燃比の変動も減少されて目標値から外れることはなくなり、燃料デリバリパイプに振動や異音を生じたりすることもなくなる。また溝部は下部ケースまたは上部ケースを屈曲させて一体的に形成されているので、ろう付けの欠陥による不良品のおそれもなくなる。
【0014】
複数のソケットは下部ケースの底壁の一方の側縁側に片寄った位置に一体的に形成し、溝部は上部ケースの天井壁の一方の側縁とは反対側となる側縁側に片寄った位置に一体的に形成した請求項2の発明によれば、局部的な深絞り加工による溝部の成形とソケットの成形を下部ケースと上部ケースとに分散したので、上部及び下部ケースの成形を何れも容易に行うことができる。
【0015】
下部ケースの底壁には、一方の側縁側に片寄った位置に複数のソケットを一体的に形成するとともに、他方の側縁側に片寄った位置に溝部を一体的に形成した請求項3の発明によれば、燃料デリバリパイプを取り付けた状態において溝部が表側から見えることがなくなるので外観が向上し、また溝部にほこりが溜まったり洗車の際に水が溜まったりするなどの問題もなくなる。
【0016】
前項の発明では溝部とソケットを何れも下部ケースに一体的に形成しているので加工がやや困難になるという難点がある。しかし下部ケースの底壁には、一方の側縁側に片寄った位置に予め別途成形した複数のソケットを液密に固着するとともに、他方の側縁側に片寄った位置に溝部を一体的に形成した請求項4の発明によれば、請求項3と同様、外観向上及びほこりや水溜まりの問題は解決されるのに加え、ソケットのためには下部ケースには取付用の穴を開けるだけでよいので下部ケースの成形が容易になる。
【0017】
複数のソケットは予め別途成形したものとして下部ケースの底壁の外側に液密に固着し、溝部は上部ケースの天井壁に一体的に形成した請求項5の発明によれば、ソケットは下部ケースの底壁の外側に配置されるとともに、溝部は下部ケースの底壁の内側に配置されてこの両者が空間的に干渉するおそれはないので、この両者の平面視における配置の自由度を高め、また燃料デリバリパイプの平面視における幅を減少させて燃料デリバリパイプをコンパクトにまとめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるダンパー機能を備えた燃料デリバリパイプの第1実施形態の平面図である。
【図2】図1の2−2断面図である。
【図3】図1の3−3断面図である。
【図4】第1実施形態の上部ケースの素材に薄肉の溝部を形成する方法の一例を示す説明図である。
【図5】図4に示す方法で成形した素材を用いた第1実施形態の上部ケースの成形方法の一例を示す説明図である。
【図6】第1実施形態の上部ケースの成形方法の他の例を示す説明図である。
【図7】本発明によるダンパー機能を備えた燃料デリバリパイプの第2実施形態の図2に相当する断面図である。
【図8】本発明によるダンパー機能を備えた燃料デリバリパイプの第3実施形態の図2に相当する断面図である。
【図9】本発明によるダンパー機能を備えた燃料デリバリパイプの第4実施形態の図2に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
先ず、図1〜図3により、本発明によるダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプの第1実施形態の説明をする。この第1実施形態の燃料デリバリパイプ10は、4個のソケット16が底壁11aに形成された下部ケース11と、その上側を液密に覆うようにろう付け固着された上部ケース12からなるものである。燃料デリバリパイプ10内には燃料ポンプから所定圧の燃料が供給され、Oリング19aを介して各ソケット16にそれぞれ連結される燃料噴射弁19は、コントロールユニット(図示省略)から与えられる制御入力により開閉されて、エンジンの各シリンダ内に燃料を噴射する。
【0020】
図1〜図3に示すように、下部ケース11は平坦な底壁11aと、その全周から上向きに折り曲げ形成されたフランジ部11bよりなる細長い箱状の板金部材で、図1に示す平面図に示すように、前側となる側縁の両端部付近には1対の凹部11cが形成されている。底壁11aには、その一方の側縁(図1において上側縁)に片寄った位置に沿って、それぞれ燃料噴射弁19を連結するための4個の円筒状のソケット16が一体的に深絞り形成されている。
【0021】
上部ケース12は天井壁12aと、その全周から下向きに折り曲げ形成された外周壁12bよりなる、下部ケース11よりも深い細長い箱状の板金部材で、下部ケース11の凹部11cと対応するその前側の側縁に凹部12cが形成されている。天井壁12aは、図2に示すように右側に進むほど高さが高くなる緩い3段の階段状で、中央部の長さが最も大となっている。この天井壁12aの両凹部12cの間となる長手方向中央部には、その長手方向に沿って、底壁11aのソケット16が設けられる側の側縁とは反対側となる側縁側に片寄った位置に、天井壁12aの一部を屈曲させた溝部15が一体的に形成されている。この溝部15は互いに平行に対向する1対の側壁15aを有しており、この両側壁15aは高さがそれらの間の距離よりも大であり、かつそれらの肉厚は上部ケース12のその他の部分の肉厚(例えば1.2〜1.6mm)よりも薄肉(例えば0.6〜0.8mm)となっている。
【0022】
下部ケース11と上部ケース12は、前者のフランジ部11bが後者の外周壁12bの内周面に重なるように嵌合され、ろう付けにより液密に一体的に結合されて、両ケース11,12の間に燃料ポンプから供給される所定圧の燃料が充満される内部空間Dを形成している。各ソケット16の内部はその頂面に形成された連通穴16aにより内部空間Dに連通されている。また上部ケース12の深さが大となる長手方向の端面には、燃料デリバリパイプ10と燃料ポンプを結ぶ燃料供給管(図示省略)を連結するための連結管17がろう付けにより液密に固着されている。左右の凹部11c付近となる下部ケース11の下面には、取付穴18aを設けたブラケット18がそれぞれ当接されてろう付け固着されている。
【0023】
次に上述したように、互いに平行に対向する1対の側壁15aを有し、それらの高さがそれらの間の距離よりも大で、かつそれらの肉厚が上部ケース12のその他の部分よりも薄肉である溝部15を天井壁12aに形成した上部ケース12の成形方法の一例を、図4及び図5により説明する。この成形方法では、図4(a) に示すように、平板状のブランクに予め下溝12Xaを深絞り形成した素材12Xを使用する。この下溝12Xaはブランクとほゞ同じ肉厚で、その内面の形状寸法は平面図では上部ケース12の溝部15とほゞ同じで、容積(=下溝12Xaの表面積×その肉厚)は成形後の溝部15の容積とほゞ同じあるいはそれよりわずかに小さく、従って肉厚が溝部15より厚い分だけ高さが低くなっている。パンチ20は溝部15の内面と同一形状の突出部21を有しており、ダイ22の孔部23は入口側となる下側の短い幅のしごき部23aとその裏側の長い逃げ部23bよりなるものである。しごき部23aの断面の形状寸法は溝部15の断面の外形の形状寸法と同じである。
【0024】
図4(b) に示すように、パンチ20の突出部21の先端部に下溝12Xaを挿入して素材12Xを支持し、パンチ20に向けてダイ22を下降させれば、図4(c) に示すように突出部21に支持された素材12Xの下溝12Xaの先端部は、ダイ22のしごき部23aによりしごかれて、しごき部23aを通過した部分は所定の薄肉となる。図4(d) に示すように、ダイ22の下降ストロークが完了すれば、下溝12Xaは全長にわたり薄肉化されて、溝部15が形成された素材12Xが得られる。
【0025】
このようにして溝部15が形成された素材12Xは、図5に示すダイ25、ノックアウト26、パンチ27及びブランクホルダ28よりなるプレス型により成形されて、上部ケース12となる。ダイ25の内周面25aは上部ケース12の外周壁12bの外面と同一あるいはそれよりわずかに大きい形状であり、パンチ27の外周面27aは上部ケース12の外周壁12bの内面と同一あるいはそれよりわずかに小さい形状である。ノックアウト26の外周面26aは多少のクリアランスをおいてダイ25の内周面25aより小であり、ブランクホルダ28の内周面28aは多少のクリアランスをおいてパンチ27の外周面27aより大である。ノックアウト26の突出部26c及びパンチ27の凹部27cの断面形状は、図4のパンチ20の突出部21及びダイ22のしごき部23aの断面形状とほゞ同じである。
【0026】
先ずノックアウト26を下降させ、パンチ27及びブランクホルダ28を上昇させた状態で、ダイ25の上に素材12Xを載せ、ノックアウト26を上昇させその突出部26cを溝部15内に挿入して素材12Xを位置決めしてから、ブランクホルダ28を下降させて、図5(a) に示すように、素材12Xの周辺部を適当なホルダ圧でダイ25とブランクホルダ28との間に保持する。この状態でパンチ27を下降させれば、先ず前述のように位置決めされた素材12Xに形成された薄肉の溝部15がパンチ27の凹部27c内に入り、パンチ27の先端の成形面27bが素材12Xに当接してこれを変形させた後、図5(b) に示すように、ノックアウト26の成形面26bとの間に挟んで上部ケース12の天井壁12aを成形する。その後は図5(c) に示すように、ノックアウト26はパンチ27とともに下降して、上部ケース12の外周壁12bを成形する。図5による成形完了後は、成形された素材12Xを取り出し、最後までダイ25とブランクホルダ28の間に挟まれていたフランジ部をトリミングにより除去すれば、上部ケース12の成形は完了する。
【0027】
図6は、前述のような溝部15を天井壁12aに形成した上部ケース12の成形方法の他の例を示す説明図である。この成形方法では、図6(a) に示すように、平板状のブランクの所定範囲を部分的にプレス加工するなどにより薄肉部12Yaを形成した素材12Yを使用する。この薄肉部12Yaは素材12Yの溝部15となる範囲を予想して薄肉化したもので、その容積は溝部15の容積(=溝部15の表面積×その肉厚)と同程度あるいはそれよりわずかに小さくする。
【0028】
この図6で示す溝部15を有する上部ケース12の成形方法で使用するダイ25、ノックアウト26、パンチ27及びブランクホルダ28よりなるプレス型は、図5において説明したものと実質的に同じものが使用できる。
【0029】
図5の場合と同様、先ずノックアウト26を下降させ、パンチ27及びブランクホルダ28を上昇させた状態で、ダイ25の上に素材12Yを載せ、薄肉部12Yaがノックアウト26の突出部26cと対応する位置となるように位置決めしてから、ブランクホルダ28を下降させて、素材12Yの周辺部を適当なホルダ圧でダイ25とブランクホルダ28との間に保持する。次いで図6(a) に示すように、パンチ27をその成形面27bの先端が薄肉部12Yaに当接する位置まで下降させ、ノックアウト26をその突出部26cの先端が薄肉部12Yaのすぐ下側に接近する位置まで上昇させる。
【0030】
この状態でパンチ27、ダイ25及びブランクホルダ28を一体として下降させれば、先ず図6(b) に示すように、ノックアウト26の突出部26cが素材12Yの薄肉部12Yaをパンチ27の凹部27c内に押し込んで溝部15の成形を開始し、次いでパンチ27だけが下降して溝部15の成形を引き続き行うとともにその先端の成形面27bが素材12Yに当接してこれを変形させ、図6(c) に示すように、ノックアウト26の成形面26bとの間に挟んで溝部15を備えた上部ケース12の天井壁12aを成形する。その後は図6(d) に示すように、ノックアウト26はパンチ27とともに下降して、上部ケース12の外周壁12bを成形する。図6による成形完了後は、成形された素材12Yを取り出し、最後までダイ25とブランクホルダ28の間に挟まれていたフランジ部をトリミングにより除去すれば、上部ケース12の成形は完了する。
【0031】
以上に、溝部15を天井壁12aに形成した上部ケース12の成形方法の例を2つ示したが、このような上部ケース12の成形方法はこれに限られるものではなく、薄肉部12Yaを設けない一様な肉厚の平坦なブランクを、図5及び図6と同様なプレス型を用いて成形することも考えられる。その場合には、少ない力で溝部15の薄肉化を確実に行うために、パンチ27の凹部27cは図4のダイ22の孔部23に設けたのと同じようなしごき部23a及び逃げ部23bからなるものとすることが好ましく、また各型の間のクリアランスやブランクホルダ圧の調整なども必要となる。
【0032】
この種の燃料デリバリパイプを使用した電子制御燃料噴射式エンジンでは、燃料デリバリパイプには連結管17を介して燃料ポンプからの燃料が供給されており、コントロールユニット(図示省略)により各燃料噴射弁19を開閉制御することにより、作動条件に応じた最適な量の燃料をエンジンに供給している。燃料噴射弁が開放されて燃料がエンジンのシリンダ内に噴射されるときに燃料デリバリパイプ内の燃料圧は瞬間的に低下し、連結管17から供給される燃料により燃料圧が回復するには多少の時間を要するので、作動条件によっては次の燃料噴射弁19が開放されるまでの間に必ずしも完全には回復しない。このため場合によっては作動条件に応じた最適な量の燃料を必ずしもエンジンに供給することができず、燃料噴射量にばらつきを生じて空燃比が目標値から外れたり、燃料デリバリパイプに振動や異音を生じたりするという問題がある。
【0033】
しかしながら上述したダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプ10では、上部ケース12にその長手方向に沿ってその壁部の一部を屈曲させて、互いに平行に対向する1対の側壁15aを有する溝部15を一体的に形成し、内部空間D内の燃料圧力を受けて撓む1対の側壁15aは、それらの高さがそれらの間の距離よりも大でかつそれらの肉厚が下部ケース11または上部ケース12のその他の部分よりも薄肉としており、これにより燃料デリバリパイプ10内の燃料圧力を受けて撓む部分である溝部15の1対の側壁15aは、従来に比して薄肉であるのに加え、上部ケース12の壁部の溝部15が設けられる部分の面積に比して面積も増大するので、燃料デリバリパイプ10の圧力変動に対する容積変動は従来に比して増大し、燃料噴射弁の開閉に伴う燃料圧力の変動は緩和される。このように燃料圧力の変動は緩和され、これにより連結管17を通る燃料の流れも円滑になるので燃料噴射量のばらつきは減少され、空燃比が改善されて目標値から外れることはなくなり、燃料デリバリパイプに振動や異音を生じたりすることもなくなる。また溝部15は上部ケース12の天井壁12aを屈曲して一体的に形成され、ろう付けなどによる接合を必要としないので、ろう付けの欠陥による不良品のおそれもない。
【0034】
また上述した第1実施形態では、複数のソケット16は下部ケース11の底壁11aの一方の側縁側に片寄った位置に一体的に形成し、溝部15は上部ケース12の天井壁12aの一方の側縁とは反対側となる側縁側に片寄った位置に一体的に形成しており、局部的な深絞り加工を必要とする溝部15の成形とソケット16の成形を下部ケース11と上部ケース12とに分散したので、何れも比較的容易に成形することができる。
【0035】
次に、図7により、本発明によるダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプの第2実施形態の説明をする。この第2実施形態は、第1実施形態においてダンパ機能を与える溝部を設ける位置を上部ケースから下部ケース11に移したものである。すなわち、この第2実施形態の燃料デリバリパイプ10Aの下部ケース11Aには、一方の側縁側に片寄った位置に複数のソケット16Aを一体的に形成するとともに、他方の側縁側に片寄った位置に溝部15Aを形成している。下部ケース11Aの底壁11Aaの両凹部11c(図1参照)の間となる位置には、その長手方向に沿って、かつ複数のソケット16が設けられる一方の側縁とは反対側となる側縁側に片寄った位置に、底壁11Aaの一部を屈曲させた溝部15Aが一体的に形成されており、この溝部15Aは互いに平行に対向する1対の側壁15Aaを有しており、この両側壁15Aaは高さがそれらの間の距離よりも大であり、かつそれらの肉厚は下部ケース11Aのその他の部分の肉厚よりも薄肉となっている。このような溝部15Aを備えた下部ケース11Aも、図4〜図6で説明したのと同様な方法で成形することができる。
【0036】
この第2実施形態のダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプ10Aも、第1実施形態と同様、内部空間D内の燃料圧力を受けて撓む部分である1対の側壁15Aaは、従来に比して薄肉であるのに加え、上部ケース12の壁部の溝部15が設けられる部分の面積に比して面積も増大するので、燃料デリバリパイプ10の圧力変動に対する容積変動は従来に比して増大し、燃料噴射弁の開閉に伴う燃料圧力の変動は緩和される。従って燃料噴射量のばらつきは減少され、空燃比の変動も減少されて目標値から外れることはなくなり、燃料デリバリパイプ10Aに振動や異音を生じたりすることもなくなる。また溝部15Aは下部ケース11Aの底壁11Aaを屈曲して一体的に形成され、ろう付けなどによる接合を必要としないので、ろう付けの欠陥による不良品のおそれもない。またこの第2実施形態は溝部15Aを下部ケース11Aの底壁11Aaに形成しており、燃料デリバリパイプを取り付けた状態において溝部15Aが表側から見えることがなくなるので外観が向上し、また溝部15Aにほこりが溜まったり洗車の際に水が溜まるなどの問題もなくなる。
【0037】
次に、図8により、本発明によるダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプの第3実施形態の説明をする。この第3実施形態は、第2実施形態では下部ケース11Aと一体形成されているソケット16を、予め別途成形されてろう付けなどにより液密に固着されるソケット16Aと置き換えたものである。この第3実施形態でも、第1及び第2実施形態と同様、燃料噴射弁の開閉に伴う燃料圧力の変動は緩和されるので、燃料噴射量のばらつきは減少され、空燃比が改善されて目標値から外れることはなくなり、燃料デリバリパイプ10Aに振動や異音を生じたりすることもない、ろう付けの欠陥による不良品のおそれもない、燃料デリバリパイプを取り付けた状態において溝部15Aが表側から見えることがなくなるので外観が向上し、溝部15Aにほこりが溜まったり洗車の際に水が溜まったりするなどの問題もないという各効果が得られる。なおこの第3実施形態では、下部ケース11Bに深絞りにより形成されるのは溝部15Bだけであり、ソケット16Aの位置には取付穴を設けるだけでよいので下部ケース11の成形が容易になる。
【0038】
次に、図9により、本発明によるダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプの第4実施形態の説明をする。この第4実施形態は、第1実施形態において下部ケース11Aと一体形成されたソケット16を、予め別途成形されてろう付けなどにより液密に固着されるソケット16Aにより置き換えたものである。このようにすれば前述した請求項1の各効果に加え、ソケット16は下部ケース11の底壁11aの外側に配置されるとともに、溝部15は下部ケース11の底壁11aの内側に配置されてこの両者が空間的に干渉するおそれはないので、この両者の平面視における配置の自由度を高めることができる。これにより溝部15を上部ケース12の凹部12cから外れた位置としてその長さを大きくし、側壁15aの面積を増大させて燃料噴射弁の開閉に伴う燃料圧力の変動を一層少なくすることも可能になる。また燃料デリバリパイプ10の平面視における幅を減少させて燃料デリバリパイプ10をコンパクトにまとめることもできる。
【符号の説明】
【0039】
10,10A,10B,10C…燃料デリバリパイプ、11,11A,11B,11C…下部ケース、11a,11Aa,11Ba,11Ca…底壁、12,12A…上部ケース、12a,12Aa…天井壁、15,15A,15B…溝部、15a,15Aa,15Ba…側壁、16,16A…ソケット、19…燃料噴射弁、D…内部空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントロールユニットにより制御されて開閉される燃料噴射弁が連結される複数のソケットが底壁に設けられた横長形状の下部ケースと、この下部ケースの上側を液密に覆って同下部ケースとの間に燃料ポンプから供給される所定圧の燃料が充満される内部空間を形成する上部ケースよりなり、前記燃料噴射弁の開閉による前記内部空間内の燃料圧力の変動に応じて前記下部ケースまたは上部ケースの壁面の少なくとも一部を撓ませて前記内部空間の容積を変動させることにより燃料圧力の変動を緩和させて燃料噴射量のばらつきを減少させるようにしたダンパー機能を備えた燃料デリバリパイプにおいて、
前記下部ケースまたは上部ケースには、その長手方向に沿ってその壁部の一部を屈曲させて、互いに平行に対向する1対の側壁を有する溝部を一体的に形成し、前記内部空間内の燃料圧力を受けて撓む前記1対の側壁は、それらの高さがそれらの間の距離よりも大でかつそれらの肉厚が前記下部ケースまたは上部ケースのその他の部分よりも薄肉としたことを特徴とするダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプ。
【請求項2】
請求項1に記載のダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプにおいて、前記複数のソケットは前記下部ケースの底壁の一方の側縁側に片寄った位置に一体的に形成し、前記溝部は前記上部ケースの天井壁の前記一方の側縁とは反対側となる側縁側に片寄った位置に一体的に形成したことを特徴とするダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプ。
【請求項3】
請求項1に記載のダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプにおいて、前記下部ケースの底壁には、一方の側縁側に片寄った位置に前記複数のソケットを一体的に形成するとともに、他方の側縁側に片寄った位置に前記溝部を一体的に形成したことを特徴とするダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプ。
【請求項4】
請求項1に記載のダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプにおいて、前記下部ケースの底壁には、一方の側縁側に片寄った位置に予め別途成形した前記複数のソケットを液密に固着するとともに、他方の側縁側に片寄った位置に前記溝部を一体的に形成したことを特徴とするダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプ。
【請求項5】
請求項1に記載のダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプにおいて、前記複数のソケットは予め別途成形したものとして前記下部ケースの底壁の外側に液密に固着し、前記溝部は前記上部ケースの天井壁に一体的に形成したことを特徴とするダンパ機能を備えた燃料デリバリパイプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−24228(P2013−24228A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163205(P2011−163205)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000113942)マルヤス工業株式会社 (42)
【Fターム(参考)】